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JP4271963B2 - 円錐コロ軸受用保持器の製造方法 - Google Patents
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JP4271963B2 - 円錐コロ軸受用保持器の製造方法 - Google Patents

円錐コロ軸受用保持器の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、各種機械装置の回転機構部に設けられるころ軸受、例えば円錐ころ軸受等における複数のころを保持するためのころ軸受用保持器及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
円筒ころ、円錐ころ、針状ころ、球面ころ等を転動体として用いるころ軸受は、球軸受に比べて、負荷容量が大きく、剛性も高いので、大きい荷重の加わる回転支持部に好適に用いられる。中でも、円錐台形状のころを組み込んだ円錐ころ軸受は、ラジアル荷重とスラスト荷重との荷重を支持できる上、耐荷重も大きいため、自動車、鉄道車両、各種機械装置等における駆動装置、減速装置、車軸部分等に多く使用されている。
【0003】
図8に示すように、円錐ころ軸受(1)は、外周面にテーパ状の内輪軌道(2a)を設けた内輪(2)と、内周面にテーパ状の外輪軌道(3a)を設けた外輪(3)とが同軸芯上に配置されて、内輪軌道(2a)及び外輪軌道(3a)間に配置した複数の円錐ころ(4)が、両輪(2)(3)間に組み込まれた保持器(5)により転動自在に保持されている。
【0004】
図9に示すように、保持器(5)は、例えば上端側に設けられた大径の円環部(5a)と、下端側に設けられ、かつ大径円環部(5a)と同軸芯上に配置された小径の円環部(5b)と、両円環部(5a)(5b)間を連結し、周方向に所定の間隔おきに配置された複数の柱部(5c)とを一体に有する金属製プレス成形品をもって構成されている。そして保持器(5)には、上下両円環部(5a)(5b)と隣合う柱部(5c)とに囲まれた矩形状の複数のポケット孔(6)が周方向に所定の間隔おきに設けられ、ころ(6)が、各ポケット孔(6)にそれぞれ転動自在に収容されて保持されるよう構成されている。
【0005】
通常、このような金属製の円錐ころ軸受用保持器(5)は、金属板をプレス加工して得られるプレス成形品をもって構成されている。ちなみに、この保持器用プレス成形品の金属板素材としては、SPCC(JIS規格:冷延鋼板)、SPHC(JIS規格:熱延鋼板)、SPB1やSPB2(BAS規格(日本ベアリング工業界規格):低炭素鋼板)等の鋼板が用いられている。
【0006】
プレス加工によって、上記円錐ころ軸受用保持器(5)を製造する場合には、例えば下記特許文献1に示すように、鋼板素材を打ち抜いて得られたブランク品を、絞り加工等のプレス加工により、周壁にテーパを有する略筒状の絞り製品を得る。続いて、この絞り製品の周壁を、打ち抜いて、方形状のポケット孔(6)を形成するとともに、下壁を打ち抜いて小径円環部(5b)を形成し、更に上端縁部を切削加工して、平坦な大径円環部(5a)を形成するものである。その後、この中間製品に対し、プレス加工時のバリを除去するために、ブラスト加工やバレル加工を行って保持器(5)を得るものである。
【0007】
なお、バリ除去用のブラスト加工としては、鋳鉄を粉砕したグリッドを保持器全体に投射して、バリを除去するようにしたグリッドブラスト法や、鋼線を短く切断したショットを、保持器全体に投射するようにしたショットブラスト法等が採用されている。
【0008】
【特許文献1】
特開平8−326761号(第1欄37行−3欄1行、図5)
【0009】
【特許文献2】
特公昭48−7972号(特許請求の範囲、第1−2図)
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
上記保持器(5)を有する円錐ころ軸受(1)は、稼働回転時の振動による荷重が保持器(5)に加わるが、この荷重による応力は、保持器(5)におけるポケット孔(6)の隅角部(6a)に集中して発生する。そしてこの応力集中により、隅角部(6a)にその隅角部(6a)を拡径させるような引張力が繰り返し発生して、疲労破壊が発生する。これにより、例えば隅角部(6a)を起点とするクラックが発生したり、場合によっては、そのクラックが大きく成長して保持器自体を破損させてしまうという問題があった。特に鉄道車両用軸受の技術分野においては、高速化に伴う使用条件の過酷化、労働力削減に伴うメンテナンスの簡略化等により、耐疲労破壊性の向上による疲労寿命強度の向上が可及的に求められている。
【0011】
一方、この疲労破壊問題に対し、従来より、以下に示すような対策が検討されている。
【0012】
例えば鋼板素材として板厚の厚いものを使用して、保持器全体の肉厚を厚くすることにより、耐疲労破壊性の向上を図る技術が検討されている。しかしながら、肉厚を厚くすると、高重量化により、回転トルクが増大して、良好な回転特性を得ることができず、更にプレス加工も困難になり、製造コストも上昇するという問題が発生する。
【0013】
また鋼板素材として、高炭素鋼板等の強度の高い材料を使用する案も検討されているが、そうすると、プレス成形時にクラックが生じたり、製品として必要な寸法精度に絞り加工することができない等、加工上の問題が発生する。
【0014】
更に上記特許文献2に示すように、保持器に急速加熱焼き入れ等の熱処理を施し、保持器の強度を増大させる方法も開発されている。
【0015】
しかしながら、この方法においては、保持器の組付作業をスムーズに行えないという問題が発生する。すなわち、通常の軸受組立作業は、保持器をその柱部をあらかじめ外側に押し広げるように変形させておき、その状態で、保持器を内輪に嵌め込むとともに、保持器の各ポケット孔にころを収納した後、保持器の柱部を加締めて、保持器及びころの抜止めを図り、その後、外輪を嵌め込むようにして組み立てるようにしている。しかしながら、保持器が熱処理によって高強度に構成されていると、保持器の柱部を加締める際に、割れが生じて破損してしまう恐れがある。その上更に、保持器を熱処理した際に、真円度等の寸法精度が低下して、品質が低下する恐れも懸念される。
【0016】
上記以外にも、保持器のポケット孔における隅角部の曲率半径を大きくして、隅角部に応力が集中するのを防止する案も検討されているが、そうすると、隅角部の曲率半径に合わせて、円錐ころの角部を大きく面取りする必要があり、ころの保持器に対する有効接触面積が減少して、耐久寿命の低下等を来す恐れがある。
【0017】
この発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、寸法精度の低下等を防止して、高品質を得ることができ、更に軸受への組付作業を容易に行えるとともに、耐疲労破壊性の向上により、疲労寿命を向上できる上、低コストで簡単に製造できるころ軸受用保持器及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本第1発明は、軸受の内輪及び外輪間に沿って配置され、かつころを収容するための方形状の複数のポケット孔が周方向に間隔をおいて形成された環状のころ軸受用保持器であって、前記ポケット孔の隅角部に圧縮残留応力が付与されてなるものを要旨としている。
【0019】
本第1発明のころ軸受用保持器においては、ころ保持用ポケット孔の隅角部に圧縮残留応力を付与するものであるため、隅角部の耐疲労破壊性を向上させることができる。従って軸受組付状態において、稼働回転時の振動荷重による応力によって、ポケット孔の隅角部に引張力が繰り返し発生したとしても、隅角部にクラックが発生するのを有効に防止することができる。
【0020】
また本発明の保持器においては、鋼板素材として厚板のものを用いる必要がないため、軽量化を図ることができ、回転トルクを小さくできて、安定した回転性能を得ることができる。
【0021】
更に本発明の保持器においては、鋼板素材として高炭素鋼板等の強度の高い材料を用いる必要がないため、プレス加工も精度良く簡単に行うことができる。
【0022】
更に本発明の保持器においては、製造過程において熱処理を行う必要がないため、その熱処理に伴う寸法精度の低下や軸受組付時の割れ等を防止することができ、より高い品質を得ることができるとともに、軸受組立作業を、より確実に行うことができる。
【0023】
本第1発明においては、前記圧縮残留応力が、表面深さ50〜200μmの範囲で、200〜600Mpaに設定されてなる構成を採用するのが好ましい。
【0024】
すなわちこの構成を採用する場合、耐疲労破壊性の向上を、より確実に図ることができる。
【0025】
本第1発明の保持器は、上記したように耐疲労破壊性に優れるものであるため、特に高速化や耐久性が強く求められる鉄道車両用の円錐ころ軸受に好適に採用することができる。
【0026】
すなわち本第1発明は、上記第1発明のころ軸受用保持器であって、軸心方向の一端側が、他端側に対し径寸法が大きい円錐ころ軸受用保持器として形成されてなる構成を採用するのが良い。
【0027】
一方、本第2発明は、上記第1発明のころ軸受用保持器を製造するための方法を特定するものである。
【0028】
すなわち本第2発明は、軸受の内輪及び外輪間に、周方向に間隔をおいて配置される複数のころを保持するためのころ軸受用保持器の製造方法であって、前記ころを収容するための方形状の複数のポケット孔が周方向に間隔をおいて形成された環状の中間製品を得る工程と、前記中間製品における前記ポケット孔の隅角部に圧縮残留応力を付与する工程とを含むものを要旨としている。
【0029】
この発明の製法においては、上記の作用効果を有する第1発明のころ軸受用保持器を確実に製造することができる。
【0030】
本第2発明は、上記第1発明と同様、前記圧縮残留応力を付与する工程において、表面深さ50〜200μmの範囲で、200〜600Mpaの圧縮残留応力を付与する構成を採用するのが好ましい。
【0031】
本第2発明においては、前記圧縮残留応力を、ショットピーニング加工により付与する構成を採用するのが良い。
【0032】
すなわちこの構成を採用する場合には、上記圧縮残留応力を、より確実に付与することができる。
【0033】
本第2発明においては、前記ショットピーニング加工において、投射速度を40〜80m/secに設定する構成を採用するのが望ましい。
【0034】
すなわちこの構成を採用する場合には、上記圧縮残留応力を、より一層確実に付与することができる。
【0035】
本第2発明においては、上記と同様、前記ころ軸受用保持器として、軸心方向の一端側が、他端側に対し径寸法が大きい円錐ころ軸受用保持器を製造する構成を採用するのが、より一層好ましい。
【0036】
なお本発明において、圧縮残留応力は、例えばX線残留応力測定法等によって測定することができる。
【0037】
【発明の実施の形態】
図1ないし図4はこの発明の実施形態である円錐ころ軸受用保持器(10)を示す図である。これらの図に示すように、この保持器(10)は、軸芯方向の一端側(上端側)及び他端側(下端側)に設けられた円環部(11)(12)と、両円環部(11)(12)を連結し、かつ周方向に沿って所定の間隔おきに並列状に配置された複数の柱部(15)とを一体に具備する鋼板製のプレス成形品をもって構成されている。上端の円環部(11)と下端の円環部(12)とは同軸芯上に配置されるとともに、上端の円環部(11)は下端の円環部(12)に対し径寸法が大きく形成されている。更にこの保持器(10)には、隣合う柱部(15)及び上下両円環部(11)(12)によって囲まれた方形状の複数のポケット孔(16)が周方向に所定間隔おきに設けられている。
【0038】
なお、この保持器(10)は、後に詳述するように、ポケット孔(16)における内周縁の隅角部(16a)に圧縮残留応力が付与されている。
【0039】
この保持器(10)を製造するには、まず鋼板素材を打ち抜いてブランク製品を得、そのブランク製品に絞り加工を施して、周壁にテーパを有する略筒状の絞り製品を得る。
【0040】
続いて、この絞り製品の周壁を、周方向に所定間隔おきに順次打ち抜いていき、方形状のポケット孔(16)を形成するとともに、下壁を打ち抜いて下端側の小径円環部(12)を形成する。更に上端縁部を切削加工して、上端側の平坦な大径円環部(11)を形成するものである。
【0041】
その後、この中間製品に対し、全域にブラスト加工等を施してプレス加工時のバリを除去する。
【0042】
こうしてバリを除去した中間製品において、各ポケット孔(16)における内周縁の隅角部(16a)に、ショットピーニング加工を施して圧縮残留応力を付与する。
【0043】
本実施形態において、ショットピーニング加工は、金属製の小球(スチールボール)を加速して、保持器(10)の隅角部(16a)に打ち付ける操作であり、ショットのつち打ち作用によって、隅角部(16a)の表面に塑性変形を起こさせて、圧縮の残留応力を持った硬化表面層を形成するものである。
【0044】
また本実施形態において、後の実験例から明らかなように、上記圧縮残留応力は、表面深さが50〜200μmの範囲、特に下限が80μm以上で、200〜600MPa、特に上限が500MPa以下に設定するのが好ましい。すなわち圧縮残留応力が小さ過ぎる場合には、軸受使用時の衝撃荷重による保持器(10)の引張応力を緩和する効果が低くなり、十分な耐疲労破壊性を得ることが困難になる恐れがある。逆に、圧縮残留応力が大き過ぎる場合には、ショットピーニング加工による打痕が保持器表面に必要以上が形成されて、軸受使用時にころ(20)との接触摩擦抵抗が増大する等の不具合が発生する恐れがある。
【0045】
本実施形態において、ショットピーニング加工は、以下の諸条件で行うのが良い。スチールボールの大きさは、直径φが0.4〜0.6mmのもの、より好ましくは下限値が0.45mm以上、上限値が0.55mm以下のものを使用するのが良い。
【0046】
スチールボールの硬度(HRC)は、35〜60のもの、より好ましくは下限値が45以上、上限値が50以下のものを使用するのが良い。
【0047】
更にスチールボールの投射速度は、40〜80m/sec、より好ましくは、下限値を50m/sec以上、上限値を70m/sec以下に設定するのが良い。
【0048】
これらの条件を満たす場合には、上記した耐疲労破壊性の向上を、より確実に図ることができる。例えばスチールボールの投射速度が小さ過ぎる場合には、圧縮残留応力を十分に付与することができず、逆に大き過ぎる場合には、ショットピーニングによる打痕が保持器表面に必要以上形成されて、軸受使用時にころ(20)との接触摩擦抵抗が増大する等の不具合が発生する恐れがある。
【0049】
本実施形態においては、各ポケット孔(16)における4つの隅角部(16a)の全てに、ショットピーニング加工による圧縮残留応力を付与するものである。4つの隅角部全てにショットピーニング加工を行う方法としては、図2及び図3に示すように投射装置におけるワーク設置用回転台(51)上に、保持器(10)をその大径円環部(11)を上側にして設置する。更に同図実線に示すように、投射装置の投射口(52)を中心投射ライン(O)から一側方に、小径円環部(12)の半径(R2)分だけ位置をずらせて配置するとともに、図2に示すように投射口(52)を所定の水平角度(θ)を持たせて配置する。こうして、投射口(52)を、ポケット孔(16)における小径円環部(12)側の2つの隅角部(16a)のうち、回転台(51)の回転方向側の隅角部(小径一方側隅角部)に対向させて配置する。この状態で、回転台(51)と共に保持器(10)を回転させながら、投射口(52)からショット(S)を投射する。これにより、保持器(10)の各ポケット孔(16)における小径一方側隅角部(16a)の全てに圧縮残留応力を付与する。
【0050】
次に図2の想像線に示すように、投射装置の投射口(52)を中心投射ライン(O)から他側方に、小径円環部(12)の半径(R2)分だけ位置をずらせて配置して、投射口(52)を、ポケット孔(16)における小径円環部(12)側の2つの隅角部(16a)のうち、回転台(51)の回転方向に対し反対側の隅角部(小径他方側隅角部)に対向させて配置する。その状態で、保持器(10)を回転させながら、ショット(S)を投射することにより、保持器(10)の各ポケット孔(16)における小径他方側隅角部(16a)の全てに圧縮残留応力を付与する。
【0051】
次に図4の実線に示すように、保持器(10)を反転させて、保持器(10)をその小径円環部(12)を上側にして回転台(51)上に設置する。更に投射口(52)を中心投射ライン(O)から一側方に、上大径環部(11)の半径(R1)分だけ位置をずらせて配置して、投射口(52)を、ポケット孔(16)における大径円環部(11)側の2つの隅角部(16a)のうち、回転台(51)の回転方向側の隅角部(大径一方側隅角部)に対向させて配置する。その状態で、保持器(10)を回転させながら、ショット(S)を投射することにより、保持器(10)の各ポケット孔(16)における大径一方側隅角部(16a)の全てに圧縮残留応力を付与する。
【0052】
そして最後に図4の想像線に示すように、投射口(52)を中心投射ライン(O)から他側方に、大径円環部(11)の半径(R1)分だけ位置をずらせて配置して、投射口(52)を、ポケット孔(16)における大径円環部(11)側の2つの隅角部(16a)のうち、回転台(51)の回転方向に対し反対側の隅角部(大径他方側隅角部)に対向させて配置する。その状態で、保持器(10)を回転させながら、ショット(S)を投射することにより、保持器(10)の各ポケット孔(16)における大径他方側隅角部(16a)の全てに圧縮残留応力を付与する。
【0053】
このようにして、保持器(10)の各ポケット孔(16)における4つの隅角部(16a)の全てに均等にバランス良く圧縮残留応力を確実に付与するものである。
【0054】
こうして形成された本実施形態の保持器(10)は、上記従来技術と同様に、軸受に組み付けられるものである。
【0055】
すなわち、保持器(10)を内輪に嵌め込むとともに、各ポケット孔(16)にころ(20)を収納した後、保持器(10)の柱部(15)を加締めて、保持器(10)及びころ(20)の抜止めを図り、その状態で、外輪を嵌め込むようにして組み立てるものである。
【0056】
以上のように、本実施形態の保持器(10)によれば、各ポケット孔(16)の隅角部(16a)に圧縮残留応力が付与されるものであるため、その隅角部(16a)、ひいては保持器全体の耐疲労破壊性を向上させることができる。このため、この保持器(10)が組み込まれた軸受において、稼働回転時の振動荷重による応力によって、保持器(10)におけるポケット孔(16)の隅角部(16a)に引張力及び圧縮力が繰り返し発生したとしても、隅角部(16a)にクラックが発生するのを防止できて、保持器自体の破損を防止でき、疲労寿命強度を向上させることができる。
【0057】
また本実施形態の保持器(10)は、鋼板素材として厚板のものを用いるものではないため、軽量化を図ることができ、回転トルクを小さくできて、安定した回転性能を得ることができる。
【0058】
更に鋼板素材として高炭素鋼板等の強度の高い材料を用いるものではないため、プレス加工を精度良く簡単に行うことができ、製造効率を向上させることができ、コストの削減を図ることができる。
【0059】
更に製造過程において熱処理を行うものではないため、その熱処理に伴う寸法精度の低下や軸受組付時の割れ等を防止することができ、より高い品質を得ることができるとともに、軸受組立作業を、より確実に行うことができる。
【0060】
しかも、ポケット孔(16)における隅角部(16a)の曲率半径を大きくする必要もないので、円錐ころ(20)の保持器(10)に対する有効接触面積を十分に確保することができ、より一層耐久寿命を向上させることができ、回転特性を向上できて、より一層高い品質を得ることができる。
【0061】
なお、上記実施形態においては、保持器(10)のポケット孔(16)における隅角部(16a)のみに、圧縮残留応力を付与するように構成しているが、本発明はそれだけに限られず、隅角部以外の部分にも圧縮残留応力を付与しても良い。
【0062】
更に上記実施形態においては、各ポケット孔(16)の全ての隅角部(16a)に圧縮圧縮応力を付与するようにしているが、本発明はそれだけに限られず、1以上の隅角部に圧縮残留応力を付与すれば良く、例えば小径円環部(12)側の2つの隅角部のみに、圧縮残留応力を付与するようにしても良い。
【0063】
【実施例】
<実施例>
上記実施形態の製法に準拠して、外径φ194mm、高さ66mm、板厚5.5mmの円錐ころ軸受用保持器(10)を作製した。
【0064】
なお、ショットピーニング加工においては、直径φが0.5mm、硬度がHRC45〜50のスチールボールを、60m/secの投射速度で投射して、各ポケット孔(16)の全ての隅角部(16a)に圧縮残留応力を付与した。
【0065】
こうして得られた実施例の保持器(10)のポケット孔(16)における隅角部(16a)の圧縮残留応力を測定した。この測定は、表面を削りながら、表面深さに対する応力分布を測定した。すなわち電解研磨により、約25〜30μmずつ表面を削りながら、その都度、X線残留応力測定装置により応力を測定した。その結果を下表1に示す。なお同表中の「−(マイナス)」は、圧縮方向であることを示す(以下の表2、図5においても同じ)。
【0066】
【表1】
Figure 0004271963
【0067】
<比較例>
ショットピーニング加工を行わないこと以外は、上記の実施例と同様に、円錐ころ軸受用保持器を作製し、同様に圧縮残留応力を測定した。その結果を下表2に示す。
【0068】
【表2】
Figure 0004271963
【0069】
上記実施例及び比較例における圧縮残留応力の測定値をグラフ化したものを図5に示す。同グラフから明らかなように、本発明に関連した実施例の保持器では、表面深さが0〜200μmの範囲で、200〜600MPa、特に上限が500MPa以下の応力を有しているのに対し、比較例の保持器では、表面深さが約50μm以下の部分に応力が集中しており、約50μm以上、特に80μm以上の部分では応力がほとんど発生していないのが判る。
【0070】
<落下衝撃による歪み試験>
上記実施例及び比較例の保持器をそれぞれ用いて、外径φ220mm、内径φ120mm、高さ155mm、重量約25kgの複列型円錐ころ軸受(P1)をそれぞれ組み立てた。
【0071】
更に各軸受を図6に示す装置を用いて落下試験をそれぞれ行った。この装置は、基台(60)に、ワーク設置用の昇降体(61)がガイド柱(62)を介して昇降自在に設けられるものであり、図示しない駆動手段によって、昇降体(61)を所定高さまで上昇させた後、昇降体(61)を自重によって基台(60)に落下衝突させ得るよう構成されている。
【0072】
そして、この装置の昇降体(61)に、軸受(P1)をその軸芯を水平方向と平行に配置した状態で固定し、落下距離80mmで毎分55回のサイクルで、昇降体(61)及び軸受(P1)を基台(60)上に繰り返し落下させた。
【0073】
なお、この落下衝撃試験を行うに際しては、図7に示すように、各軸受(P1)の保持器(10)の最上端部(上側)において、大径円環部(11)におけるポケット孔(16)の中央位置(大径円環部中央位置:LC)と、大径円環部(11)におけるポケット孔(16)の隅角部(大径円環部隅位置:LR)と、小径円環部(12)におけるポケット孔(16)の中央位置(小径円環部中央位置:SC)と、小径円環部(12)におけるポケット孔(16)の隅角部(小径円環部隅位置:SR)とに歪みゲージ(65)をそれぞれ貼り付けるとともに、保持器(10)の最下端部(下側)において、大径円環部(11)におけるポケット孔(16)の中央位置(大径円環部中央位置:LC)と、大径円環部(11)におけるポケット孔(16)の隅角部(大径円環部隅位置:LR)と、小径円環部(12)におけるポケット孔(16)の中央位置(小径円環部中央位置:SC)と、小径円環部(11)におけるポケット孔(16)の隅角部(小径円環部隅位置:SR)とに歪みゲージ(65)をそれぞれ貼り付けて、各位置の歪みを測定した。
【0074】
また、歪みを測定するに際しては、落下衝撃後に最初に立ち上がる歪みピーク値を測定した。更にそれらの歪みピーク値に基づいて、実施例軸受の歪みピーク値における比較例軸受の歪みピーク値に対する減少率を求めた。その結果を下表3に示す。
【0075】
【表3】
Figure 0004271963
【0076】
表3から明らかなように、実施例軸受の歪み減少率は、比較例のものと比較して、全て減少しており、耐落下衝撃性(耐破壊性)に優れているのが判る。例えば、実施例では、最上端部での減少率を平均すると27%となり、最下端部においても10%となり、圧縮残留応力による耐破壊性の向上が認められる。
【0077】
<落下衝撃による耐久疲労試験>
上記実施例の軸受及び比較例の軸受を、上記歪み試験と同様の条件で、落下衝撃試験をそれぞれ行い、各軸受において、落下回数と割れ発生の有無との関係を測定観察した。なおこの試験は、実施例の軸受及び比較例の軸受を2つずつ準備して、それぞれサンプル1、2とし、実施例と比較例とでそれぞれ2回ずつ実施した。その結果を下表4に示す。
【0078】
【表4】
Figure 0004271963
【0079】
表4に示すように、比較例の軸受は、サンプル1では、落下回数が49.5万回で割れが発生し、サンプル2では45万回で割れが発生した。なお、この割れは、いずれも保持器の小径円環部における隅角部の位置で発生していた。
【0080】
これに対し、実施例の軸受は、サンプル1、2共に、落下回数が70万回に達しても割れが発生することはなく、70万回で試験を打ち切った。
【0081】
以上の結果より、本発明に関連した実施例の軸受用保持器は、従来品に関連した比較例の軸受用保持器に対し、落下衝撃に対する耐久性(耐疲労破壊性)に優れ、疲労寿命強度を向上させることができる。
【0082】
【発明の効果】
本第1発明のころ軸受用保持器によれば、ころ保持用ポケット孔の隅角部に圧縮残留応力を付与するものであるため、隅角部の耐疲労破壊性を向上させることができる。従って軸受組付状態において、稼働回転時の振動荷重による応力によって、ポケット孔の隅角部に引張力が繰り返し発生したとしても、隅角部にクラックが発生するのを防止できて、保持器自体の破損を防止でき、疲労寿命強度を向上させることができる。また本発明の保持器は、厚板や高強度の素材を用いる必要もないので、軽量化及び加工寸法精度の向上等を図ることができ、高い品質を得ることができるとともに、生産効率の向上及びコストの削減を図ることができる。更に製造過程において熱処理を行うものではないため、熱処理に伴う寸法精度の低下や軸受組付時の割れ等を防止することができ、より高い品質を得ることができるとともに、軸受組立作業を、より確実に行うことができるという利点がある。
【0083】
本第2発明は、上記第1発明のころ軸受用保持器における製造方法を特定するものであるため、上記同様の効果を有する保持器を確実に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施形態である円錐ころ軸受用保持器の一側部を示す図であって、同図(a)は断面図、同図(b)は平面図である。
【図2】実施形態の保持器を示す平面図である。
【図3】実施形態の保持器におけるショットピーニング加工を施す状態での側面図である。
【図4】実施形態の保持器を示す底面図である。
【図5】実施形態の保持器におけるポケット孔隅角部の表面深さと応力との関係を示すグラフである。
【図6】実施例の保持器が設置された落下衝撃試験装置を模式的に示す正面図である。
【図7】実施例の保持器におけるポケット孔周辺を拡大して示す側面図である。
【図8】従来における円錐ころ軸受の一側部を示す断面図である。
【図9】従来の円錐ころ軸受用保持器を示す斜視図である。
【符号の説明】
10…保持器
16…ポケット孔
16a…隅角部
20…ころ

Claims (3)

  1. 軸受の内輪及び外輪間に、周方向に間隔をおいて配置される複数のころを保持し、かつ軸心方向の一端側が、他端側に対し径寸法が大きい円錐ころ軸受用保持器の製造方法であって、
    前記ころを収容するための方形状の複数のポケット孔が周方向に間隔をおいて形成された環状の中間製品を得る工程と、
    前記中間製品における前記ポケット孔の隅角部に圧縮残留応力をショットピーニング加工により付与する工程とを含み、
    前記ショットピーニング加工においては、
    ワーク設置用回転台上に、保持器をその大径円環部を上側にして設置し、投射装置の投射口を、所定の水平角度を持たせてポケット孔における小径円環部側の隅角部に対向させて配置し、前記回転台と共に保持器を回転させながら、投射口からショットを投射することにより、保持器の各ポケット孔における小径円環部側の隅角部に圧縮残留応力を付与する一方、
    保持器をその小径円環部を上側にして前記回転台上に設置し、前記投射口を、所定の水平角度を持たせてポケット孔における大径円環部側の隅角部に対向させて配置し、保持器を回転させながら、前記投射口からショットを投射することにより、保持器の各ポケット孔における大径円環部側の隅角部に圧縮残留応力を付与するようにした円錐ころ軸受用保持器の製造方法。
  2. 前記圧縮残留応力を付与する工程において、表面深さ50〜200μmの範囲で、200〜600Mpaの圧縮残留応力を付与するものとした請求項記載の円錐ころ軸受用保持器の製造方法。
  3. 前記ショットピーニング加工において、投射速度を40〜80m/secに設定するものとした請求項1又は2に記載の円錐ころ軸受用保持器の製造方法。
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