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JP4412658B2 - チオレドキシン高含有酵母およびその製造法 - Google Patents
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JP4412658B2 - チオレドキシン高含有酵母およびその製造法 - Google Patents

チオレドキシン高含有酵母およびその製造法 Download PDF

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Description

本発明は、新規な培養条件において酵母を培養することより、酵母細胞中のチオレドキシン含量を増加させることを特徴とする、チオレドキシン高含有酵母およびその製造法に関する。
チオレドキシン(以下、「TRX」という)とは、高度に保存されたC−X−Y−Cの活性中心(特に、X:Gly、Y:Pro)を持つ、約12kDaの電子伝達タンパク質であり、ほとんどの生物の細胞内に存在することが知られている(非特許文献1から4)。TRXは、他のタンパク質に存在するジスルフィド結合の酸化還元活性を有し、その酸化還元活性によりタンパク質の活性や機能、性質を調節する機能を有する。
様々なストレス、特に酸化ストレスは、脂質、遺伝子、タンパク質などの生体高分子に傷害を与え、細胞・組織に害を及ぼすが、それに伴いTRXの体内での濃度が変化することが知られている。すなわち体内でのTRX濃度の上昇により、各種ストレスにより生じたアレルギーの改善もしくは予防、粘膜の保護もしくは修復、皮膚の保護等がなされると考えられている。
TRXが有する酸化還元活性を応用した様々な技術がこれまでに開示されている。例えばTRXによる各種アレルゲンの中和(特許文献1)、TRXによる転写因子AP−1の活性化(特許文献2)、TRXによるアレルギー予防、皮質改善、粘膜障害保護(特許文献3)、炎症疾患の予防ないし治療(特許文献4)等が開示されている。
特表平10−510244号公報 特開平10−191977号公報 特開2000−103743号公報 特開2002−179588号公報 Laurent,T.C.,Moore,E.C.& Reichard,P.(1964)J.Biol.Chem.,239,3436−3444 Holmgren,A.(1989)Ann.Rev.Biochem.,54,237−271 Holmgren,A.(1989)J.Biol.Chem.,264,13963−13966 Buchanan,B.B.,Schurmann,P.,Decottignies,P.& Lozano,R.M.(1994)Arch.Biochem.Biophys.,314,257−260 Inoue,Y.,Trevanich,S.,Tsujimoto,Y.,Miki,T.,Miyabe,S.,Sugiyama,S.,Izawa,S.& Kimura,A.(1996)J.Sci.Food Agric.,71(3),297−300 Tran,L.T.,Inoue,Y.& Kimura,A.(1993)Biochim.Biophys.Acta.,1164(2),166−172 Izawa,S.,Maeda,K.,Sugiyama,K.,Mano,J.,Inoue,Y.& Kimura,A.(1999)J.Biol.Chem.,274,28459−28465 Kuge,S.&Jones,N.(1994)EMBO J.,13(3),655−664 Inoue,Y.&Kimura,A.(1996)J.Biol.Chem.,271(42),25958−25965 Inoue,Y.,Tsujimoto,Y.&Kimura,A.(1998)J.Biol.Chem.,273(5),2977−2983 Kuge,S.,Jones,N.&Nomoto,A.(1997)EMBO J.,16(7),1710−1720
上述のようなTRXの性質を利用し、機能性食品素材としてTRXを利用することが可能であると考えられる。ところが、TRXを産業的なスケールで大量に製造する場合には、克服しなければならない課題が存在する。すなわち、遺伝子組換え体を用いたTRXは食品には使用することはできないため、遺伝子非組換え体からのTRX抽出を行わなければならない。しかしながら食品に酵母細胞中にTRXは通常酵母菌体g当たり10〜100μg程度しか含有されておらず、例えば1mgのTRXを精製するためには、精製効率を100%と仮定しても少なくとも1〜10kgの酵母菌体を必要とする。酵母抽出物からのTRXを容易かつ効率的に回収・精製するためには酵母細胞中のTRX含有量を高める必要がある。また、酵母自体を摂取する場合もTRXを高濃度で含有するものを利用するのが好ましい。したがって、本発明の目的の1つは、酵母細胞中のTRX含有量を高めることを可能にするような、酵母の新規培養方法を確立し、該方法によって製造されるチオレドキシン高含有酵母を提供することである。
本発明者らは、鋭意研究の結果、酵母を培養する際、培地中に茶成分を添加して負荷培養を行うことにより、酵母細胞中のチオレドキシン(TRX)の含有量を増加させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。以下、本発明を詳細に説明する。
(1)TRX高含有酵母の製造方法
本発明によれば、酵母の培養においてストレス負荷を行うことを含む、TRX高含有酵母の製造方法が提供される。本明細書において「ストレス負荷」とは、酵母に対して生理学的条件とは異なる生物学的刺激、生化学的刺激、化学的刺激、物理的刺激等を与えることをいう。本発明のTRX高含有酵母の製造方法は、ストレス負荷によってTRX遺伝子発現に関与する転写因子を活性化することによって、TRXの発見を促進されるという発見に基づく。ここで、TRX遺伝子発現に関与する転写因子は、限定されないが、好ましくはYap1、Skn7を含む。後述の実施例7に記載するように、Yap1は、通常、細胞質と核との間をシャトルしているが、ストレス負荷によって核に局在し、TRX遺伝子発現の活性を促進しているものと考えられる。Skn7は、通常、核内に局在している。
本発明の一態様として、本発明のTRX高含有酵母の製造方法では、ストレス負荷を与える時期は、酵母の培養開始と同時、対数増殖期、定常期のいずれであってもよい。後述する実施例6に記載するように、前記のいずれの時期においてもストレス負荷を与えてもTRXの高発現が観察されるが、定常期においてストレス負荷を与えた場合において、より高い発現が得られた。本明細書において、対数期とは、好ましくは、OD610=0.1ないし4.0、より好ましくは、OD610=0.5ないし2.0の範囲を意味する。定常期とは、OD610が、15ないし40の範囲で実質的に変化しなくなった状態を意味し、例えば、20ないし40時間培養、より好ましくは24ないし36時間培養を行った時の状態のことを指す。
本発明の一態様としては、ストレス負荷は、培地中に茶成分を添加することであってよい。本発明の製造方法に使用する茶成分は、限定されないが、茶抽出物、カテキン類、これらの混合物が例示される。茶抽出物としては、その原料として、緑茶、ウーロン茶、番茶、玄米茶などの使用が例示されるが、菌体内TRX含量を増加させる効果とこのような菌体を工業的に製造するコストとを考慮すると、茶抽出物としては緑茶抽出物を用いることが好ましい。「緑茶抽出物」には、カテキン類(例えば、カテキン、エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、没食子酸エピカテキン、没食子酸エピガロカテキン)などの成分が含まれる。本発明の製造方法においては、後述する実施例に記載するように、緑茶ポリフェノール(カテキン類)を緑茶から抽出・精製した市販のサンフェノンBG(太陽化学株式会社製)を使用することもできる。
本発明においては、前記茶成分を培地に添加してTRX高含有酵母を製造することができる。茶成分を培地に添加する場合、茶成分の最終濃度は、好ましくは0.01−5.0%、より好ましくは0.03−4.0%、さらにより好ましくは0.1−3.0%、最も好ましくは1.0−2.0%である。また、茶成分の添加後、酵母を培養する時間は、好ましくは0.5−2.0時間、より好ましくは1.0−1.5時間である。
本発明においては、酵母の培養に用いる培地、及び流加培養に用いる流加液は、限定されないが、当業者であれば目的に応じて公知のものの中から適宜選択して使用ことができる。好ましくはH培地、SD培地、YPD培地、廃糖蜜、より好ましくはH培地、SD培地、最も好ましくはH培地である。なお、これらの培地には炭素源、窒素源等を適宜含んでいてもよい。ここで、本明細書において使用する「H培地」とは、1% グルコース、0.2% 酵母エキス、0.5% ペプトン、0.03% K2HPO4、0.03% KH2PO4、0.01% MgCl2を含む酵母用培地をいう。「SD培地」とは、2% グルコース、1% ペプトンを含む酵母用培地をいう。「YPD培地」とは、2% グルコース、1% 酵母エキス、2% ペプトンを含む酵母用培地をいう。また、前記培地を寒天培地として使用する場合には、さらに2%の寒天を添加することによって調製することができる。さらに、本発明のTRX高含有酵母の培養では、培地のpHは重要である。pHは、好ましくは7.0〜9.0、より好ましくは7.0〜8.0、さらに好ましくは7.4〜7.8、最も好ましくは7.6に調製される。また、市販のサンフェノンBGを培地に添加する場合、培地のpHが若干低下するため、例えば、1N 水酸化ナトリウム水溶液でpHを調整することができる。
本発明の一態様において、TRX高含有酵母は、酵母の培養において緑茶抽出物によるストレス負荷を行った後、ストレス負荷を除去した培養条件下で所定時間さらに培養することによって製造することができる。
酵母の培養方法は、限定されないが、バッチ培養、流加連続培養、流加バッチ培養などが例示され、当業者であれば適宜選択することができる。また、培養は、ジャーファーメンター(小松川化工機(株)等)を用いて好適に行うことができる。ジャーファーメンターを使用する場合の培養条件は、特に制限はなく、当業者であれば適宜決定することができ、例えば、培養温度としては28〜33℃程度、培養時間としては1〜120時間程度、pHとしては6〜9程度、通気量としては0〜5vvm程度、攪拌速度としては100〜700rpm程度の範囲内で調整することができる。
本発明の製造方法は、ストレス負荷によって転写因子を活性化させ、TRX遺伝子発現を促進させることに基づくが、このような転写因子の利用は外因性TRX遺伝子、内因性TRX遺伝子のいずれであってもよい。ただし、外来性TRX遺伝子を導入した組換え体を食品に用いることはできないため、内因性TRX遺伝子が好ましい。ここで、「内因性TRX遺伝子」とは、酵母が本来、染色体中に遺伝子として有しているTRXの遺伝子であって、遺伝子工学的手法によって酵母に外来遺伝子として導入する外因性TRX遺伝子は含まない。TRX遺伝子には、限定されないが、GenBankの登録番号AAA85584として開示される104個のアミノ酸残基からなるTRX2をコードする遺伝子が例示される。こうした天然のTRXの中には、それを生産する生物種の品種の違いや、生態系の違いによる遺伝子の変異、あるいはよく似たアイソザイムの存在などに起因して1から複数個のアミノ酸変異を有する変異タンパク質が存在することは周知である。また、TRX遺伝子のアリルを含んでもよい。
本発明の一態様として、ストレス負荷によってTRX含有量は、ストレス負荷がない場合と比較して、有意に増加する。より具体的には、後述の実施例3では、遺伝子組換え体を用いた場合に、TRXプロモーターの活性が少なくとも約6.5倍増加した。また、実施例8では、実用菌体を用いた場合に、湿菌体1g当たりのTRX含有量が少なくとも約1.2倍、最大約1.6倍増加した。よって、本発明のチオレドキシン高含有酵母の製造方法により、ストレス負荷によってTRX含有量は、ストレス負荷がない場合と比較して好ましくは6.5倍以上、より好ましくは5倍以上、さらに好ましくは2倍以上、さらにより好ましくは1.6倍以上、最も好ましくは1.2倍以上増加する。
(2)TRX高含有酵母
本発明によれば、上述した製造方法によって製造されるTRX高含有酵母が提供される。本発明の製造方法に使用される酵母は、限定されないが、機能性食品素材として利用することを考慮して、安全性確認が容易な天然供給源から得られる食用酵母が好ましい。食用酵母には、サッカロミセス(Saccharomyces)属、トルロプシス(Torulopsis)属、ミコトルラ(Mycotorula)属、トルラスポラ(Torulaspora)属、キャンディダ(Candida)属、ロードトルラ(Rhodotorula)属、ピキア(Pichia)属の菌体が例示される。本発明のTRX高含有酵母の製造に使用される酵母は、サッカロミセス属由来の酵母(Saccharomyces cerevisiae)が好ましい。サッカロミセス属由来の酵母としては、好ましくはパン酵母、ビール酵母、ワイン酵母、清酒酵母、味噌醤油酵母、より好ましくはパン酵母である。
本発明のTRX高含有酵母のTRX含有量は、好ましくは120μg以上、より好ましくは130μg以上、さらにより好ましくは140μg以上、最も好ましくは180μg/g湿菌体以上、200μg/g湿菌体以下である。
本発明のTRX高含有酵母は、食品用途に使用する場合、生菌のままの形態でも良いが、菌体の破砕物を調製して使用することができる。菌体の破砕の方法は、顕微鏡観察下で未破砕菌体がなくなる程度の破砕度合いであれば特に制限はなく、当業者であれば、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、ダイノミル等の物理的破砕処理であってもよく、または化学的破砕処理であってもよい。なお、TRX高含有酵母を破砕物の形態で用いる場合、その破砕物は、破砕したままで乾燥させない液状物であってもよく、または破砕後に乾燥させた乾燥物であってもよい。
本発明のTRX高含有酵母またはその破砕物は、食品または飲料に含有させ、使用することができる。その使用の態様は、限定されないが、当業者であれば目的に応じて適宜選択することができる。例えば、パン、ビスケットやクラッカー等の製菓、流動食、水産・食肉加工品、麺類、調味料、ジュース等の飲料、または各種健康食品・飲料等に所定量の前記酵母または破砕物を添加することができる。
(3)スケールアップにおけるTRX高含有酵母の製造
本発明によれば、酵母によるTRXを産業的スケールにおいて容易にかつ大量に製造することができる。実験室レベルでの小スケールから工業的に製造可能な大スケールへのスケールアップについては、限定されないが、当業者であれば公知の方法により行うことができる。より具体的には、後述する実施例8に記載したように、ストレス負荷としてサンフェノンを2.0%添加した場合には、実用菌体のTRX含有量は197μg/g湿菌体であり、サンフェノン無添加の場合(126μg/g湿菌体)と比べて約1.6倍増加させることができる。
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
実施例1 酵母の培養とTRXの発現
実施例においては、実験室レベルにおいて、TRX2の発現条件を検討する目的で、TRX2−lacZレポーター遺伝子を導入したYPH250株(以下、「組換えYPH250株」という)を調製した。
具体的には、先ず、TRX2−lacZレポーター遺伝子を含むプラスミドは、Kuge,S.&Jones,N.(1994)EMBO J.,13(3),655−664(非特許文献8)に記載の方法を用いて作成された。当該プラスミドは、TRX遺伝子の上流に存在するTRXプロモーターと、lacZのORFを組み合わせた構成となっている。当該構成により、カテキンの添加によるTRXプロモーターの活性化をその下流のlacZ遺伝子の発現に置き換えてレポーターアッセイすることができる。
次いで、TRX2−lacZレポーター遺伝子を含むプラスミドのYPH250株への導入を公知のエレクトロポレーション法を用いて行った。エレクトロポレーションは、例えば、Inoue,Y.&Kimura,A.(1996)J.Biol.Chem.,271(42),25958−25965(非特許文献9)、又はInoue,Y.,Tsujimoto,Y.&Kimura,A.(1998)J.Biol.Chem.,273(5),2977−2983(非特許文献10)に記載の方法を用いて行うことができる。具体的には、Bio−Rad社製、MicroPulserを使用し、酵母への遺伝子導入として一般的な条件(1.5kV、200Ω、25μF)を採用した。
組換えYPH250株の培養には、プラスミドの脱落を防ぐためウラシルを含まないSD最少培地(2% グルコース、0.67% Yeast nitrogen base w/o amino acids)、pH5.5)に20μg/mlとなるようにL−Trp、L−His、L−Leu、L−Lys、およびアデニンを加えたもの、また必要に応じてYPD培地(2% グルコース、1% 酵母エキス、2% ペプトン)、およびH培地(1% グルコース、0.2% 酵母エキス、0.5% ペプトン、0.03% K2HPO4、0.03% KH2PO4、0.01% MgCl2)(非特許文献6)を用いた。なお、pHの調整にはNaOHを用いた。
ストレス負荷となる物質として、食品添加物として使用が認可されている物質である転写因子Yap1の活性化を促すような物質の探索を行い、その結果、緑茶抽出物に着目した。その根拠は、発明者らは以前、大腸菌を使った実験で、カテキンやエピガロカテキンガレートなどの緑茶成分中のポリフェノール類が、一般に知られているように活性酸素を消去するのではなく、銅イオンの存在下ではむしろ逆効果を示すことを見出したことに基づいている(非特許文献5)。使用した緑茶抽出物は、市販のサンフェノンBG(太陽化学株式会社製)である。また、カテキン、エピガロカテキンガレート、および没食子酸は和研薬株式会社から購入した。
本試験例においては、S.cerevisiae YPH250株(MATa trp1−Δ1 his3−Δ200 leu2−Δ1 lys2−801 ade2−101 ura3−52)(ATCC No.204676)をYeast Genetic Stock Centerより取り寄せ、植え継いだものを使用した。
28℃において、プラスミドの脱落を防ぐ目的でSD培地においてOD610=1になるまで振とう培養した後、培養液50mlを遠心チューブに移して集菌し、上清を取り除き、予めpH調整をした各種培地(50ml)に上記菌体を懸濁した。その後、サンフェノン粉末、あるいは予め水で溶解しておいたサンフェノンを最終濃度で0.1%になるように添加した後、200ml容三角フラスコに移して更に28℃で90分間振とう培養を行った。なお、サンフェノンを水に溶解させるとpHが若干低下することから、培地のpHを調整することにした。
培養後、50mlの培養液を遠心して集菌し、0.85% NaCl溶液で菌体を2〜3回洗浄した。その後、1.5ml容エッペンドルフチューブに菌体を移し、菌体とほぼ等量のガラスビーズを加え、さらに250〜300μlの10mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)を加えた。これをFast Prep(Qbiogen社)で30秒激しく振とうして菌体を破砕した。遠心(14000rpm、4℃、10分)し、その上清(無細胞抽出液)を酵素として用いた。β−ガラクトシダーゼ活性の測定は常法に従い行った。比活性は1000×A420/時間(h)/mgタンパク質で標記した。
上記の無細胞抽出液の調製法のうち、菌体を破砕する緩衝液として10mM Tris−HCl緩衝液(pH7.0)を用いて無細胞抽出液を得た。タンパク質濃度を定量した後、常法に従いSDS−PAGE(ゲル濃度15%)を行った。各レーンには50μg程度のタンパク質がロードされるようにアプライ量を調整した。常法に従ってPVDF膜にブロットし、1次抗体として大腸菌で発現、精製したTRX2を用いて免疫したウサギの抗血清(非特許文献7)を用いた。2次抗体はHRPをコンジュゲートした抗ウサギIgG抗体を用い、4−クロロ−1−ナフトールとH22で発色させてTRXのバンドを確認した。用いた抗体はTRX1とTRX2を区別することはできないことを確認している。
実施例2 培地のpH変化によるTRXの発現への影響
酵母を培養する際の培地のpH変化によるTRXの発現への影響を検討した。実施例1と同様に、TRX2−lacZを持つ株をSD培地でOD610=1まで培養した後、pHを6.5から8.0まで変化させたH培地に菌体を懸濁した。そこへ0.1%となるようサンフェノンを添加し、28℃で90分培養し、TRX2−lacZに起因するβ−ガラクトシダーゼ活性を測定した。酸性側ではβ−ガラクトシダーゼ活性の誘導はほとんど観察されなかった(データ示さず)が、pH7以上ではpHの上昇とともにβ−ガラクトシダーゼ活性が誘導され、pH7.6のとき最大(約112U/mgタンパク質)となり、サンフェノンを添加しない場合と比較して約6.5倍増加した(図1)。また、サンフェノンを添加せずに、pHをアルカリ側に調整するのみではTRX2−lacZの発現は観察されなかった。さらに、TRXレベルを抗TRX2抗体を用いたウエスタンブロッティングにより検討した結果、β−ガラクトシダーゼ活性の検出と同様に、TRXタンパクの発現を確認できた(図2)。したがって、TRX2−lacZレポーター遺伝子を発現させる培養条件で得られる結果は、TRXの発現の結果に反映されると言える。
実施例3 サンフェノンの添加濃度および添加時間によるTRXの発現への影響
SD培地でOD610=1まで培養した菌体をpH7.6に調整したH培地に懸濁し、各濃度のサンフェノンを添加して28℃で90分培養した。TRX2−lacZの発現は、添加したサンフェノンの濃度が0.1%(最終濃度)のときにで最大となった(図3)。なお、それよりも高濃度のサンフェノンを加えても誘導効果はみられす、また沈殿のようなものが析出した(データ示さず)。したがって、以下の実施例では、サンフェノンの濃度を0.1%として使用した。
さらに、サンフェノンの添加時間を検討する目的で、上記で調製した菌体をH培地に懸濁し、最終濃度が0.1%となるようにサンフェノンを添加して、28℃で45分、60分、および90分間培養した。その結果、TRX2−lacZの発現は60分でほぼ最大に達した(図4)。
実施例4 培地の種類によるTRXの発現への影響
SD培地でOD610=1まで培養した菌体を、pH7.6に調整したH培地、YPD培地、およびSD培地のそれぞれに懸濁した。各培地に最終濃度が0.1%となるようサンフェノンBGを添加して28℃で45分および90分培養した。その結果、H培地を用いた時に最大の誘導効果がみられ、YPD培地ではほとんど誘導は観察されなかった(表1、図5)。そこで、以下の実施例では、H培地を用いた。
単位:β−ガラクトシダーゼ(U/mg)
実施例5 H培地中のリン酸塩濃度によるTRXの発現への影響
H培地には、SD培地、YPD培地とは異なり、0.03% K2HPO4および0.03% KH2PO4としてリン酸塩が含まれている。そこで、リン酸塩の影響を調べるため、リン酸カリウム緩衝液として最終濃度が0mM、1mM、10mM、100mMとなるようにH培地(pHは7.6に調整)を調製し使用した。SD培地でOD610=1まで培養した菌体を各H培地に懸濁し、最終濃度が0.1%となるようにサンフェノンを添加して90分培養した。その結果、リン酸塩を全く含まない培地においてもβ−ガラクトシダーゼ活性(約85U/mgタンパク質)があり、TRX2−lacZの発現誘導には、培地中のリン酸カリウムの影響は少ないと考えられる(図6)。
実施例6 異なる添加時期によるTRXの発現への影響
サンフェノンの培地への添加時期がTRXの発現に影響を及ぼすかについて検討した。TRX2−lacZレポーター遺伝子をもつ株をSD培地で培養し、H培地で対数期(OD610=1)、および定常期(24時間培養)まで培養した。それぞれの菌体培養液にNaOHを滴下してpHを7.6に調整した後、最終濃度が0.1%になるようにサンフェノンを添加した。その後、さらに90分間培養した。その結果、定常期の細胞の方がより誘導がかかる結果となった(表2、図7)。
単位:β−ガラクトシダーゼ(U/mg)
実施例7 TRX2遺伝子の発現制御
一般に、TRX2遺伝子の発現は、Yap1とSkn7という2つの転写因子により制御されていることが知られている。Skn7は常に核に局在するが、Yap1は細胞質と核をシャトルしている。そこで、GFPタグを付加したYap1を用いて、カテキン、エピガロカテキンガレート、没食子酸、ならびにサンフェノン処理によるYap1の局在性を蛍光顕微鏡で観察した。
具体的には、Yap1タンパク質のN末端側にGFPタンパク質を融合させた融合タンパク質「GFP−Yap1」を利用した。GFP−Yap1タンパク質発現のためのプラスミドとしては、Kuge,S.,Jones,N.&Nomoto,A.(1997)EMBO J.,16(7),1710−1720(非特許文献11)に記載の方法に従って構築したプラスミド「pRS cp−GFP HA YAP1」を用いた。上記プラスミドの宿主細胞への導入方法は、実施例1に記載のTRX2−lacZレポーター遺伝子を含むプラスミドの導入方法と同様に行った。
顕微鏡観察の結果、いずれの薬剤によってもYap1の核局在が観察されたことから(図8)、サンフェノンによるTRXの誘導は、緑茶抽出物中の主な成分であるカテキンやエピガロカテキンガレートによるものと考えられた。
実施例8 工業レベルにおける実用菌株を用いたTRXの誘導発現
以上の実験室レベルによる試験により、緑茶成分がTRX誘導物質であることが示唆された。しかし、この緑茶成分を工業レベルで用いるためには、YPH250株ではなく、実用菌株に対してもTRXを誘導可能である必要がある。さらに、酵母濃度が高くてもTRX誘導効果を示すことが重要である。そこで、本実施例では実用菌株においてもこのサンフェノンを用いることでTRX誘導発現が可能かを検討するため、実用パン酵母であるO−102(受託番号:FERM P−18569)を用いて以下の検討を行った。
O−102をSD培地(16φ試験管5ml)に1白金耳植菌し、30℃、2日間培養後、H培地(坂口フラスコ100mL)にOD610≒0.05となるように植菌した。30℃で14時間培養(OD610≒4.5)後、緑茶成分サンフェノンを終濃度0.05、0.1、0.5、1.0、2.0、3.0、4.0%となるように添加し、次いで5N NaOHを用いてpH7.6となるように調整をした。その後、30℃で90分間振握培養を行った。また、サンフェノン無添加でpH7.6に調整したものと、pH無調整のものをコントロ一ルとした。培養液を集菌・洗浄し、適量のMilliQ水に懸濁した。各サンプルの湿菌体量を測定後、湿菌体300mgとなるように懸濁液を2ml容エッペンドルフチューブに分取し、遠心分離(8400g、2分)し、集菌後、得られた菌体からタンパク質を抽出した。タンパク質抽出は、湿菌体300mgに900μlのYeast Protein Extraction Reagent(PIERCE社)(以下、YPER)を添加し、懸濁後20分間室温放置することにより行った。更に抽出液を遠心分離(35000g、15分、4℃)することにより水溶性画分を分取し、65℃にて10分間の熱処理を行ったものをTRX濃度測定用サンプルとして得た。
なお、試料中のTRX濃度の測定は、以下の手順により行った。
1) R1(300μL)と試料(20μL)を混合
2) 25℃で5分間予備加熱
3) R2(6μL)を添加し、混合
4) 25℃で1分間インキュベートし、その間におけるAbs340の減少を測定
(ここで、R1とは、0.1M Tris−HCl(pH7.0)、2mM EDTA、0.8mg/mL インシュリン、0.16mM NADPH溶液のことを指す。またR2とは、0.3U/mL NTR(NADP依存チオレドキシンレダクターゼ)、0.1M Tris−HCl(pH7.0)溶液をいう。)
菌体内TRX含有量の測定結果を表1に示す。
コントロールのTRX含有量はpH調整の有無によらずほぼ同等であり、サンフェノン無添加ではpHを7.6に調整しても菌体内TRX含有量に影響しなかった。また、サンフェノン濃度が0.5%までは、菌体内TRX含有量はコントロールとほぼ同等の値を示した。これに対して、サンフェノン濃度を1.0%、2.0%に上昇させることにより、コントロールと比較し菌体内TRX含有量がそれぞれ約1.2倍、約1.6倍に増加した(表1及び図9)。これらの結果により、実用菌株においても緑茶抽出物によりTRXの誘導発現が可能であることが明らかとなった。
本発明により、食品素材等として好適なTRX高含有酵母及びTRX高含有酵母の破砕物、該TRX高含有酵母の製造方法を提供することができる。また、本発明のTRX高含有酵母は、遺伝子組換えに依らずに製造することが可能であるため、食品として応用するに際して安全性が高く、好適である。
図1は、TRX2−lacZの発現における培地のpHによる影響を検討した結果を示す。TRX2−lacZを持つ株をSD培地でOD610=1まで培養した後、pHを7.0から8.0まで変化させたH培地に菌体を懸濁した。緑茶抽出物として0.1%となるようサンフェノンを添加し、28℃で90分培養後、TRX2−lacZに起因するβ−ガラクトシダーゼ活性を測定した。 図2は、pHを7.0から8.0まで変化させたH培地に懸濁した菌体におけるTRX発現を抗TRX2抗体を用いてウエスタンブロッティングにより確認した結果を示す。 図3は、TRX2−lacZの発現における添加する緑茶抽出物濃度の影響を検討した結果を示す。SD培地でOD610=1まで培養した菌体をpH7.6に調整したH培地に懸濁し、各濃度のサンフェノンを添加して28℃で90分培養後、TRX2−lacZに起因するβ−ガラクトシダーゼ活性を測定した。 図4は、TRX2−lacZの発現におけるサンフェノンの添加時間の影響を検討した結果を示す。SD培地でOD610=1まで培養した菌体をpH7.6に調整したH培地に懸濁させた。最終濃度が0.1%となるようにサンフェノンBGを添加し、28℃で所定時間培養後、TRX2−lacZに起因するβ−ガラクトシダーゼ活性を測定した。 図5は、TRX2−lacZの発現における各種培地による影響を検討した結果を示す。SD培地でOD610=1まで培養した菌体をpH7.6に調整したH培地、YPD培地、およびSD培地にそれぞれ懸濁させた。最終濃度が0.1%となるようにサンフェノンBGを添加し、28℃で45分又は90分培養後、TRX2−lacZに起因するβ−ガラクトシダーゼ活性を測定した。 図6は、TRX2−lacZの発現におけるリン酸塩による影響を検討した結果を示す。SD培地でOD610=1まで培養した菌体を、H培地中のリン酸イオンが所定濃度になるように調製(pH7.6)した培地に懸濁させた。最終濃度が0.1%となるようにサンフェノンBGを添加し、28℃で90分培養後、TRX2−lacZに起因するβ−ガラクトシダーゼ活性を測定した。 図7は、TRX2−lacZの発現におけるサンフェノンの添加時期による影響を検討した結果を示す。TRX2−lacZレポーター遺伝子をもつ株をSD培地で培養し、H培地で対数期(OD610=1)、および定常期(24時間培養)まで培養した。それぞれの菌体培養液にNaOHを滴下してpHを7.6に調整した後、最終濃度が0.1%になるようにサンフェノンを添加した。その後、さらに90分間培養し、TRX2−lacZに起因するβ−ガラクトシダーゼ活性を測定した。 図8は、緑茶抽出物、カテキン類の添加によるYap1の活性化を蛍光顕微鏡によって観察した結果を示す。 図9は、実用菌体のTRX含有量におけるサンフェノンの濃度による影響を示す結果である。

Claims (10)

  1. 酵母の培養においてストレス負荷を行うことを含み、そして、酵母を培養するための培地がH培地であり、培地のpHが7.4〜8.0であることを特徴とする、チオレドキシン高含有酵母の製造方法。
  2. ストレス負荷によってチオレドキシンの転写因子を活性化することを含む、請求項1に記載のチオレドキシン高含有酵母の製造方法。
  3. 酵母の培養開始と同時、対数増殖期、または定常期にストレス負荷を与える、請求項1または2に記載のチオレドキシン高含有酵母の製造方法。
  4. ストレス負荷が培地中に茶成分を添加することである、請求項3に記載のチオレドキシン高含有酵母の製造方法。
  5. 茶成分が0.03−4.0%の割合で添加される、請求項4に記載のチオレドキシン高含有酵母の製造方法。
  6. 茶成分が茶抽出物、カテキン類、またはこれらの混合物である、請求項4または5に記載のチオレドキシン高含有酵母の製造方法。
  7. 培地のpHが7.6であることを特徴とする、請求項1ないし6のいずれか1項に記載のチオレドキシン高含有酵母の製造方法。
  8. 酵母が食用酵母であることを特徴とする、請求項1ないし7のいずれか1項に記載のチオレドキシン高含有酵母の製造方法。
  9. チオレドキシンが内因性チオレドキシン遺伝子から発現される、請求項1ないし8のいずれか1項に記載のチオレドキシン高含有酵母の製造方法。
  10. 湿菌体1g当たりのチオレドキシン含有量をストレス負荷を加えない場合と比較して、少なくとも1.2倍増加させる、請求項1ないし9のいずれか1項に記載のチオレドキシン高含有酵母の製造方法。
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