JP4540872B2 - 乾燥による皮膚傷害の抑制剤もしくは修復剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、化粧料および皮膚科用調製剤に関し、より具体的には乾燥による皮膚傷害の抑制もしくは修復のための化粧料および調製剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
角層水分量の保持に天然保湿因子(NMF)が重要な働きをしている(Blank I.H. J.I.Dermatol., 18, 433(1952), Blank I.H. J.I.Dermatol., 21, 259(1953))。NMFの主成分であるアミノ酸は、ケラトヒアリン顆粒に由来するフィラグリンタンパクの分解によって産生されることが報告されている(Scott I.R. et al. Biochem Biophys. Acta., 719, 110−117(1982), Horii I. et al., J. Dermatol., 10, 25−33(1983))。フィラグリンは317個のアミノ酸からなるタンパク質である。NMFの主成分であるアミノ酸がフィラグリンに由来することが明らかになって以来、乾燥肌を呈する病態とフィラグリンの関連性についての研究が進められている。近年、老人性乾皮症、アトピー性疾患などの乾燥肌において角層中のアミノ酸が減少していること(Horii I. et al., Br. J. Dermatol., 121,587−592(1989), Tanaka M. et al., Br. J. Dermatol., 139,618−621(1998))、およびフィラグリンの発現が減少していること(Tezuka T. et al., Dermatology, 188, 21−24(1994), Seguchi T, et al., Arch. Dermatol. Res. 288,442−446,(1996))が明らかになってきている。また、乾燥環境によって肌荒れ等の皮膚トラブルを生じることは良く知られている。
【0003】
このような背景からか、FR2 777 185−A1には、保水能の調節に有利に作用するためのフィラグリン合成を刺激する物質を他の活性物質と組み合わせたシワの処置用組成物が提案されている。しかし、フィラグリン合成を刺激する物質が、具体的に如何なる物質であるかについては記載がない。また、特開2000−26272号公報には、白色ルピン[またはシロバナルピナス(Lupinus albus)]の種子の粉末に由来するタンパク質分解処理物がヒトのケラチノサイトのフィラグリンのmRNAを増加させ、角層の厚みを増加する作用がある旨の記載がある。さらに、WO99/47117には、ビタミンB3化合物を含む組成物が保湿剤として作用し、そしてフィラグリン、ケラチンおよびインボクリンより選ばれる皮膚タンパク質のレベルを増加させ、水分の角質層への吸着もしくは吸収能を高めることが記載されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上述のように、フィラグリンの産生量を上昇させ、角質層の厚みを増加させるとか、または角質層への水分の吸収能を高める物質が提案されている。しかし、フィラグリンの産生に関与し、しかも健康な皮膚状態を維持するとの、より広範な観点から有効性が認められる物質または化合物の提供は依然として望まれるであろう。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、ヒトケラチノサイトにおいて、乾燥と角層水分量に関与する因子について検討した結果、フィラグリンタンパク質のレベルと該遺伝子の発現が乾燥により低下することを見い出した。
【0006】
さらに、特定の培養ヒトケラチノサイトを気相暴露した場合に、フィラグリン遺伝子の発現量が有意に低下し、この現象が上記乾燥による皮膚傷害と相関性を有することを見出した。他方、該培養ヒトケラチノサイトを用いる培養系で、気相暴露によるフィラグリン遺伝子の発現量の低下を防止しうる特定の物質、エクトインが、現実に、上記乾燥による皮膚傷害を抑制ないしは修復しうることを見出した。
【0007】
本発明はかかる知見に基づくものである。
【0008】
したがって、本発明によれば、エクトインを有効成分とするフィラグリン遺伝子の発現の低下を抑制もしくは修復するための調製剤が提供される。
【0009】
【発明の好適な態様の説明】
本発明の調製剤の有効成分であるエクトインは、下記式:
【0010】
【化1】
【0011】
で表され、ある種の細菌が浸透圧を調節するために蓄積する化合物として既知のものである。本発明の目的に沿う限り、エクトインは起源、製造法または純度を問うことなく使用できる。
【0012】
本発明の調製剤には、上記エクトインの他に、化粧料および/または皮膚科用製剤に使用される有効成分または賦形剤を含めてもよい。本発明の目的に沿う、他の有効成分としては、エクトイン以外のベタイン類やポリオール類が挙げられる。かようなベタイン類は、エクトインに対して悪影響を及ぼさない限り、如何なる化合物であってもよく、ベタイン(また、グリシンベタインとも称されている)およびその誘導体、ならびに対応するスルテイン(ベタインのカルボキシルがスルホにいれ替わっている)の双性イオン化合物を挙げることができる。かような誘導体の代表的なものとしてはベタインのN−メチル基の1ないし3個が他の分枝していてもよい飽和もしくは不飽和炭化水素鎖または下記式で示されるアミド結合で中断された該炭化水素鎖(式中、mおよびnは独立して1〜30の整数である)
【0013】
【化2】
【0014】
で入れ替わっているか、または、第四級アンモニウム基とカルボキシル基もしくはスルホ基との間の炭化水素鎖の長さが変動(例えば、炭素原子数2〜6)しているか、あるいはベタイン残基をペンダント基として複数有する重合体が挙げられる。限定されるものでないが、このような誘導体の具体例としては、上記したものの他、γ−ブチロベタイン、デシルベタイン、ラウリルベタイン、ミリスチルベタイン、セチルベタイン、ステアリルベタイン、ベヘニルベタイン、ラウラミドプロピルベタイン、オレアミドプロピルベタイン、パルミタミドプロピルベタイン、γ−ブチロベタイン、ラウリルスルタイン、ココースルタイン、ポリ(メタクリロイルオキシエチルベタイン)、ポリ(メタクリロイルオキシエチルベタインーコ−2−ヒドロキシエチルメタクリル酸)等を挙げることができる。
【0015】
他方、ポリオール類は、1分子当たり2個以上の水酸基を有する化合物およびそれらの誘導体、例えば、ポリオールのエチレンオキシド付加物等を挙げることができる。かかるポリオールの具体的なものとしては、グリセリン、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ジグリセリン、エリスリト−ル、グルコン酸、1,2,6−ヘキサントリオール、イノシトール、ラクチトール、マルチトール、マンニトール、キシリトール等を挙げることができる。
【0016】
本発明の調製剤では、エクトインを、調製剤の総重量あたり、0.0001〜20重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%とすることができる。いずれにしても、それぞれ特有の使用態様について後述する試験方法または評価方法に従って得られる結果をもとに、さらには試験的にボランティア等で実使用した結果等を勘案すれば、皮膚科学分野の専門家は上記有効成分が効能を発揮するのに最適の使用量を容易に決定できるであろう。
【0017】
本発明の調製剤は、化粧料、医薬品、医薬部外品、外皮に適用されるものをさし、従ってその剤型も水溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、ゲル系、軟膏系、クリーム、水−油2層系、水−油−粉末3層系など、幅広い形態をとり得る。すなわち基礎化粧品であれば、洗顔料、化粧水、乳液、クリーム、ジェル、エッセンス(美容液)、パック、マスクなどの形態に、上記の多様な剤型において広く適用可能である。メーキャップ化粧品であれば、ファンデーション 等の形態に広く適用可能である。さらに、医薬品または医薬部外品であれば、各種の軟膏等の形態に広く適用可能である。そして、これらの剤型および形態に本発明皮膚外用剤のとり得る形態が限定されるものでは無い。
【0018】
調製剤を製造するのに用いる成分は、これらの剤型および形態に応じて、選ぶことができ、そしてかような成分もしくは添加剤としては、液体油脂、固体油脂、ロウ類、エステル油、炭化水素油、シリコーン樹脂、シリコーン、陰イオン性界面活性剤、アニオン系界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、低級アルコール、ステロール類、水溶性高分子、金属イオン封鎖剤、中和剤、pH調整剤、抗菌剤、香料、色素等を挙げることができる。
【0019】
以上に述べた調製剤は、直接ボランティアに適用して効能を確認することができるが、それに先立って、もう一つの態様の本発明である、乾燥による皮膚傷害を抑制するか否かについての物質の評価方法によって確認することもできる。
【0020】
かかる評価方法で用いるヒトケラチノサイトは、被験物の存在下と不存在下で、それぞれ培養することにより、フィラグリンタンパク質の量および遺伝子発現量の変動が有意に識別できるものであれば、いかなる細胞であってもよい。しかし、好適にはヒト包皮由来の正常細胞とフィーダーレイヤー(支持細胞)としてマウス由来の3T3細胞(ATCC CRL−1658)からなる培養細胞系を都合よく用いることができる。これらの細胞系は例えば、Rheinwald et al., Cell 6, 331−344(1975)に記載の方法に従って、3T3細胞を適当なシャーレにて培養し、マイトマイシンC処理を行ない、こうして支持細胞層を形成した後に、該層上にヒト正常ケラチノサイトを播種し、例えば、95%空気−5%炭素ガス環境下で、37℃にてコンフルエントになるまで培養することで、作成できる。
【0021】
通常、調製剤の不存在下で培養する系(対照)は、調製剤の存在下で培養する(評価系)と平行して処理されるのが好ましい。
【0022】
【実施例】
以下、具体例を挙げて本発明をさらに説明するが、これらの例は本発明を限定することを意図するものでは無い。説明中に用いるパーセンテージは、特記しない限り重量基準である。
フィラグリン遺伝子発現量の測定試験:
(1)培養細胞
ヒト包皮由来の正常ケラチノサイトとマウス由来の3T3細胞を用いた。
(2)培養細胞用培地
培地はDMEM−Ham'sF12(3:1)に、ヒドロコルチゾン、コレラエンテロトキシン、上皮増殖因子、インスリンおよび10%FBSを含む。
(3)培養
Rheinwald et al., Cell 6, 331−344(1975)の方法に従って培養する。
【0023】
概要を以下に示す。3T3細胞をマイトマイシンCによって処理し、フィーダーレイヤー(支持細胞)として使用した。ヒト正常ケラチノサイト1×105個細胞をマイトマイシンCで処理した3T3細胞上に播種し、95%空気−5%炭素ガス環境下で、37℃にてコンフルエントになるまで培養した。次いで、培養上清を除去することにより気相暴露を行なった。なお、各試料は気相暴露30分前に添加し、37℃にて培養を行なった。試料を添加しないものを対照とした。気相暴露は37℃にて0−10時間行なった。
(4)フィラグリンタンパク質量の測定
上記培養系に、試料を添加後、一定時間気相暴露した細胞からタンパク質を抽出した。常法に従いウエスタンブロッティングにてフィラグリンタンパク質またはフィラグリンタンパク質前駆体(プロフィラグリン)を定量した。概要を以下に示す。抽出したタンパク質をSDS−PAGEで泳動させた後に、PDVF膜に転写し、一次抗体としてフィラグリンに特異的なマウスモノクローナル抗体(anti-HUMAN Filaggrin MAb)を用いて抗原−抗体反応を行なった。その後、二次抗体に Horseradish peroxidase か Alkaline phosphatase で標識した抗体を用いて抗原−抗体反応を行なった。反応後、標識酵素に対応する色素原基質を用いて酵素反応を行う発色法または化学発色法を用いて、測定を行なった。バンドの定量はNIHイメージ(解析プログラム)を用いて行なった。
(5)フィラグリン遺伝子発現量の測定
上記培養系に、各被験物を添加後、一定時間気相暴露した細胞からAGPC法を用いてRNAを抽出した。これらのRNAに対して下記のようにRT−PCRを行なった。フィラグリンに特異的なプライマーを McKinley-Grant L.J. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 86,4848−4852(1989)が報告しているフィラグリンの塩基配列に基づき作成した。RT−PCRは、mRNAを一度逆転写酵素でcDNAにし、それを鋳型にして、上記プライマーを用いてポリメラーゼ反応(公知の反応)を行ない、フィラグリンのmRNAを測定した。PCR産物はアガロ-スゲルにて電気泳動し、電気泳動後のゲルをエチジウムブロマイド溶液に浸漬したのちに、DNAを測定した。DNAバンドの定量はNIHイメージ(解析プログラム)を用いて行なった。補正はアルデヒドグリセル−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(G3PDH)を用いて行なった。
(6)結果
(6−1)ヒトケラチノサイトを気相暴露したときのフィラグリンタンパク質量の経時的な変動を図1に示す。図より、乾燥によりヒトケラチノサイトのフィラグリンタンパク質は有意に低下することが明らかである。
(6−2)上記気相暴露によりヒトケラチノサイトのフィラグリン遺伝子発現量の経時的な変動を図2に示す。図より、乾燥によりヒトケラチノサイトのフィラグリン遺伝子発現は有意に低下することが明らかである。また、その低下は比較的短時間のうちに生じている。
(6−3)ヒトケラチノサイトにおける気相暴露(乾燥刺激)によるフィラグリンタンパク質量への傷害を抑制する作用を、培養系へ添加する試料としてエクトインを用いた場合と未使用の場合によるフィラグリンタンパク質量で評価した。結果を図3に示す。
(6−4)ヒトケラチノサイトにおける気相暴露(乾燥刺激)によるフィラグリン遺伝子発現を低下させる傷害を抑制する作用を、培養系へのエクトインの添加の有無によるフィラグリン遺伝子発現量で評価した。結果を図4に示す。
【0024】
これらの図から、本発明に従う調製剤は、ヒトケラチノサイトが乾燥によりうける角層水分量の低下を、角層水分を保持するために必須なアミノ酸の原材料となるフィラグリンのタンパク質量と遺伝子発現の低下を有意に抑制できることが確認される。こうして、本発明の調製剤を皮膚に施用した場合には、仮りに乾燥環境下であっても健康な肌状態が保持される。
【0025】
以下、本発明に従う調製剤の処方例を示す。
処方例1
ベヘニルアルコール 1.0%
ステアリルアルコール 2.0%
スクワラン 10.0%
テトラオクタン酸ペンタエリスチル 5.0%
ラノリン 5.0%
パラベン 0.3%
ポリオキシエチレンベヘニルアルコール 1.0%
グリセリン 10.0%
エクトイン 0.1%
アセチルヒアルロン酸ナトリウム 0.1%
精製水 残部
処方例2
流動パラフィン 10.0%
オクタメチルシクロテトラシロキサン 5.0%
1,3−ブチルグリコール 10.0%
グリセリン 3.0%
アスコルビン酸誘導体 3.0%
エクトイン 0.5%
カルボキシルビニルポリマー 0.15%
キサンタンガム 0.25%
ステアリン酸 1.5%
セチルアルコール 0.5%
ポリオキシエチレン(10)モノオレイン酸エステル 1.0%
ステアリン酸モノグリセリド 1.0%
エタノール 3.0%
香料 適量
精製水 残部
処方例3
セトステアリルアルコール 3.5%
スクワラン 20.0%
ミツロウ 3.0%
ラノリン 5.0%
パラベン 0.3%
ポリオキシエチレン(20)ソノビタンモノパルミチン酸エステル 2.0%
ステアリン酸モノグリセリド 2.0%
エクトイン 0.2%
ビタミンA 2.0%
香料 適量
精製水 残部
処方例4
タルク 3.0%
二酸化チタン 5.0%
ベンガラ 0.5%
黄酸化鉄 1.4%
黒酸化鉄 1.0%
モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン 0.9%
トリエタノールアミン 1.0%
プロピレングリコール 5.0%
エクトイン 0.5%
ステアリン酸 2.2%
イソヘキサデシルアルコール 7.0%
ステアリン酸モノグリセリド 2.0%
ラノリン 2.0%
パラフィン 8.0%
パラベン 適量
香料 適量
【図面の簡単な説明】
【図1】培養ヒトケラチノサイトの乾燥(気相暴露)によるフィラグリンタンパク質レベルの経時的変化を示すグラフである。試行n=4〜5における平均±SEM値で表示している。なお**はp<0.01を意味する。
【図2】培養ヒトケラチノサイトの乾燥(気相暴露)によるフィラグリン遺伝子の経時的な発現レベルの変化を示すグラフである。試行n=4〜6における、平均±SEM値で表示している。なお、**はp<0.01を、*はp<0.05を意味する。
【図3】培養ヒトケラチノサイトの乾燥によるフィラグリン遺伝子発現低下に対するエクトインの効果を示すグラフである。試行n=3における、平均±SEM値により表示している。なお、**はp<0.01である。
Claims (2)
- エクトインを有効成分とする、皮膚の乾燥によりもたらされるフィラグリン遺伝子の発現の低下を抑制もしくは修復するための調製剤。
- フィラグリン遺伝子の発現がヒトケラチノサイトにおける事象である請求項1記載の調製剤。
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