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JP4599602B2 - 糖鎖構造を予測する方法 - Google Patents
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Description

本発明は、質量分析装置を用いた糖鎖構造の解析システムに関する。
プロテオームの特性決定はグリコシル化などの翻訳後修飾による非均一性のため、非常に困難なものとなっている。糖タンパク質上のオリゴ糖は、安定性、タンパク質コンホメーション、細胞内および細胞間シグナル伝達、ならびにその他の生体分子との結合親和性および特異性といった生物学的プロセスにおいて重要な役割を担っているため、オリゴ糖の構造解析は、糖タンパク質の機能を分子レベルで理解するために重要である。しかし糖鎖には、構造異性体、位置異性体、立体異性体および分枝の異性体など配列順序が同じでも構造が異なる複数の異性体が存在するため、DNAやタンパク質などのように単に配列を解析すれば構造が特定できるものと異なり、その解析は困難であった。さらに、これらの異性体は、生体内において異なる機能を有していると考えられており、糖鎖構造を解析する場合には、これら異性体を区別する手段が望まれていた。従来、糖鎖における異性体の解析は、NMRおよびGC−MSを利用したメチル化分析によって行われてきた。しかし、これらの方法はミリグラム単位の試料を必要とするという問題があった。
一方、質量分析はオリゴ糖を高感度かつハイスループットで解析するための強力な手段と考えることができる。非特許文献1には、質量分析装置内での糖鎖のフラグメント化のスペクトルから糖鎖構造を自動で推定する方法が報告されている。非特許文献2には、質量分析装置内での糖鎖のフラグメント化(ポストソース分解の場合)のスペクトルから糖鎖構造を自動で推定する方法が報告されている。非特許文献3には、これまでに報告されている糖鎖について、その質量分析装置内でのフラグメント化をすべて計算し(順列組み合わせのように)、被検糖鎖のフラグメント化パターンとのマッチングを行って糖鎖構造を推定する方法が報告されている。しかし、これらの方法では、同じ配列順序を持つ異性体同士の区別は不可能である。
Rapid Communication in Mass Spectrometry, 16, p1743, 2002, Automated structural assignment of derivatized complex N-linked oligosaccharides from tandem mass spectra. Analytical Chemistry, 71, p4764, 1999, An Automated Interpretation of MALDI/TOF Postsource Decay Spectra of Oligosacharides. 1. Automated Peak Assignment. Proteomics, 4, p1650, 2004, Development of a mass fingerprinting tool for automated interpretation of oligosaccharide fragmentation data.
本発明は、糖鎖標品を用いることなく、プロテオミクスで解析されているような1ピコモル程度の試料を用い、簡便に糖鎖の(異性体)構造を解析する方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、存在しうるあらゆるパターンの糖鎖を実際にフラグメント化することによりフラグメント化パターンを得てこれをデータとして蓄積し、蓄積されたフラグメント化パターンのデータと被検糖鎖のフラグメント化パターンとを比較して、糖鎖構造を予測する方法について特許出願した。当該方法では、あらゆるパターンの糖鎖について標品を用意し、実際にフラグメント化することによってフラグメント化パターンを得る必要があるが、あるゆる種類の糖鎖についてこのような標品を入手することには困難が伴う場合もある。
そこで本発明者らは、安定同位体を用いて部位特異的に糖鎖構造を標識した糖鎖を合成し、それらのフラグメント化パターンから、特定の結合の断片化のされやすさを数値化した。この数値のリストを用いて、各糖鎖がどのようなフラグメント化パターンを示すかを予測し、実測値と照合することによって、被検糖鎖の構造を判別できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)被検糖鎖をフラグメント化して被検糖鎖のフラグメント化パターンを得る段階と、
フラグメント化パターンのテンプレートに基づいて作成された糖鎖の予測フラグメント化パターンのデータと、被検糖鎖のフラグメント化パターンとを比較して、被検糖鎖の構造を予測する段階と、
を含む、糖鎖構造の解析方法。
(2)被検糖鎖の量が、0.01〜100ピコモルである、(1)に記載の方法。
(3)被検糖鎖をフラグメント化して被検糖鎖のフラグメント化パターンを得る段階は、質量分析装置においてフラグメント化された被検糖鎖を分析し、各フラグメントの質量およびシグナル強度を得る段階を含む、(1)または(2)に記載の方法。
(4)前記被検糖鎖の構造を予測する段階は、フラグメント化パターンにおけるフラグメントのシグナル強度比を比較することによって、糖鎖構造を予測する段階である、(3)に記載の方法。
(5)被検糖鎖をフラグメント化し、フラグメント化された前記被検糖鎖のフラグメント化パターンを測定する、フラグメント化パターン測定装置と、
フラグメント化パターンのテンプレートに基づいて作成された糖鎖の予測フラグメント化パターンのデータを記憶する、フラグメント化パターン記憶装置と、
前記フラグメント化パターン記憶装置に記憶されている予測フラグメント化パターンのデータと、前記フラグメント化パターン測定装置によって測定されたフラグメント化パターンとを比較する、マッチング装置と、
マッチング装置における比較に基づき予測された糖鎖構造を表示する、糖鎖構造表示装置と、
を有する、糖鎖構造解析装置。
(6)前記フラグメント化パターン測定装置は、質量分析装置である、(5)に記載の糖鎖構造解析装置。
(7)前記マッチング装置は、フラグメント化パターンにおけるフラグメントのシグナル強度比を比較する装置である、(6)に記載の糖鎖構造解析装置。
(8)フラグメント化パターン測定装置が、衝突誘起解離装置を含む、(5)〜(7)のいずれかに記載の糖鎖構造解析装置。
(9)糖鎖のフラグメント化パターンを予測する方法であって、
予測しようとする糖鎖と同一の基本構造を有する糖鎖のフラグメント化パターンのテンプレートを選択する段階と、
選択したテンプレートに基づいて、予測しようとする糖鎖のフラグメント化パターンを作成する段階と、
を含む、前記方法。
(10)フラグメント化パターンのテンプレートを記憶する、テンプレート記憶装置と、
前記テンプレート記憶装置に記憶されているテンプレートから、予測しようとする糖鎖と同一の基本構造を有する糖鎖のテンプレートを選択する、マッチング装置と、
マッチング装置で選択されたテンプレートに基づいて、糖鎖のフラグメント化パターンを作成する、フラグメント化パターン作成装置と、
得られたフラグメント化パターンを表示する、フラグメント化パターン表示装置と、
を有する、糖鎖のフラグメント化パターン予測装置。
本発明により、従来、用いられてきたNMRやGC−MSを利用したメチル化分析による糖鎖構造解析法に比べ極めて少量の試料で、迅速に糖鎖の構造を解析することが可能となる。また、予め様々な糖鎖の標品を入手してフラグメント化させて標品データを得ることなく、構造未知の糖鎖について構造解析することが可能となる。
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願第2005−115866号の明細書、請求の範囲および/または図面に記載された内容を包含する。
UDP−13−D−ガラクトースを示す。*は、13Cの位置を示す。 複合型N−結合型オリゴ糖のセット、ならびに相補的な位置に13−ガラクトースを有するそのアイソトポマーを示す。 特定のm/z値における同組成のフラグメントイオンのシグナル強度比を示す。フラグメントイオンの構造部分を、対応する親イオンにおいて網掛けを付すことにより示した。a)は、2本鎖N−結合型オリゴ糖のMS/MSの結果を示し、†は、脱水イオンを示す。 特定のm/z値における同組成のフラグメントイオンのシグナル強度比を示す。フラグメントイオンの構造部分を、対応する親イオンにおいて網掛けを付すことにより示した。b)は、2本鎖N−結合型オリゴ糖のMS/MSの結果におけるフラグメントイオンm/z 1443を親イオンとしたCIDスペクトル(MS3スペクトル)を示す。†は、脱水イオンを示す。 特定のm/z値における同組成のフラグメントイオンのシグナル強度比を示す。フラグメントイオンの構造部分を、対応する親イオンにおいて網掛けを付すことにより示した。c)は、3本鎖N−結合型オリゴ糖のMS/MSの結果を示す。†は、脱水イオンを示す。 特定のm/z値における同組成のフラグメントイオンのシグナル強度比を示す。フラグメントイオンの構造部分を、対応する親イオンにおいて網掛けを付すことにより示した。d)は、4本鎖N−結合型オリゴ糖のMS/MSの結果を示す。†は、脱水イオンを示す。 複合型N−結合型オリゴ糖のCIDスペクトルのフラグメント化パターンのテンプレートを示す。フラグメントイオンの構造と、そのシグナル強度比(%)を示す。a)は、2本鎖N−結合型オリゴ糖のフラグメント化パターンのテンプレートを示す。†は、脱水イオンを示す。×は、任意の糖残基を示す。 複合型N−結合型オリゴ糖のCIDスペクトルのフラグメント化パターンのテンプレートを示す。フラグメントイオンの構造と、そのシグナル強度比(%)を示す。b)は、3本鎖N−結合型オリゴ糖のフラグメント化パターンのテンプレートを示す。†は、脱水イオンを示す。×は、任意の糖残基を示す。 フラグメント化パターンのシミュレーションに使用した3種のオリゴ糖を示す。 シミュレーションした予測スペクトルと実測スペクトルとの比較を示す。a)がシミュレーションした予測スペクトルを示す。 シミュレーションした予測スペクトルと実測スペクトルとの比較を示す。b)が実測のスペクトルを示す。 本発明のフラグメント化パターン予測方法によって予測スペクトルを作成し、該予測スペクトルを記憶装置に保存した複合型N−結合型オリゴ糖のリストを示す。 本発明のフラグメント化パターン予測方法によって予測スペクトルを作成し、該予測スペクトルを記憶装置に保存した複合型N−結合型オリゴ糖のリストを示す。 本発明のフラグメント化パターン予測方法によって予測スペクトルを作成し、該予測スペクトルを記憶装置に保存した複合型N−結合型オリゴ糖のリストを示す。 本発明のフラグメント化パターン予測方法によって予測スペクトルを作成し、該予測スペクトルを記憶装置に保存した複合型N−結合型オリゴ糖のリストを示す。 本発明のフラグメント化パターン予測方法によって予測スペクトルを作成し、該予測スペクトルを記憶装置に保存した複合型N−結合型オリゴ糖のリストを示す。 本発明のフラグメント化パターン予測方法によって予測スペクトルを作成し、該予測スペクトルを記憶装置に保存した複合型N−結合型オリゴ糖のリストを示す。 実施例3で使用した被検糖鎖の構造を示す。 MALDI−QIT−TOF−MSにて得られた被検糖鎖の実測CIDスペクトルを示す。 被検糖鎖の実測CIDスペクトルと記憶装置に記憶されている予測スペクトルとのマッチングの計算結果を示す。 記憶装置に保存されている複合型N−結合型オリゴ糖N−12の予測スペクトルを示す。 本発明の実施形態を示す。 本発明の実施形態を示す。
I.糖鎖構造解析方法および糖鎖構造解析装置
本発明の糖鎖構造解析方法は、
被検糖鎖をフラグメント化して被検糖鎖のフラグメント化パターンを得る段階と、
フラグメント化パターンのテンプレートに基づいて作成された糖鎖の予測フラグメント化パターンのデータと、被検糖鎖のフラグメント化パターンとを比較して、被検糖鎖の構造を予測する段階と、
を含む。
本発明において解析の対象となる被検糖鎖は、特に限定されないが、好ましくは糖タンパク質の糖鎖である。糖タンパク質の糖鎖としては、ポリペプチドのアスパラギン残基に結合したN−結合型(Asn型とも称される)と、セリンやトレオニン残基に結合したO−結合型(ムチン型とも称される)が挙げられる。本発明はN−結合型糖鎖の解析に好適に用いられる。
N−結合型糖鎖には、Manα1→6(Manα1→3)Manβ1→4GlcNAcβ1→4GlcNAcという分岐5糖が共通の母核として含まれている。N−結合型糖鎖はさらに、この5糖母核の外側に結合する糖鎖の構造によって、5糖母核にさらにα−マンノシル残基のみが結合した高マンノース型、5糖母核の2つのα−マンノシル残基にN−アセチルグルコサミンに始まる側鎖が1〜5本結合している複合型、ならびに5糖母核のManα1→3側に複合型と同じような側鎖がつき、Manα1→6側には1〜2個のα−マンノシル残基がついた高マンノース型と複合型の混成体の構造を有する混成型の3つのグループに分類される。複合型糖鎖と混成型糖鎖には、さらに根のN−アセチルグルコサミン残基のC−6位に結合したα−フコシル残基の有無と、5糖母核のβ−マンノシル残基のC−4位に結合したN−アセチルグルコサミン残基の有無によって構造の多様性がある。本発明は特に複合型N−結合型糖鎖、好ましくは複合型N−結合型オリゴ糖の解析に好適に用いられる。
本発明によって好適に解析できる糖鎖の分子量は、通常、300〜6000、好ましくは900〜5000、より好ましくは1200〜4000である。
本発明の糖鎖構造解析方法は、被検糖鎖をフラグメント化して被検糖鎖のフラグメント化パターンを得る段階を含む。フラグメント化パターンとは、被検糖鎖から生じたフラグメントの種類およびその量または比率からなる。本発明の方法において、被検糖鎖をフラグメント化して被検糖鎖のフラグメント化パターンを得る段階は、好ましくは、質量分析装置においてフラグメント化された前記被検糖鎖を分析し、各フラグメントの質量およびシグナル強度を得る段階を含む。
質量分析装置としては、糖鎖のフラグメントを質量分析できるものであれば特に制限されず、当技術分野で通常用いられるものを使用できるが、通常、電気的相互作用を利用して分子のイオンを質量の違いによって分析する手法を使用する。このような質量分析方法は、イオンの生成・分離・検出の3つの工程を含む。好ましくは、イオンの生成、イオンの選択、断片化、分離および検出の5つの工程を含むタンデム型質量分析装置(MS/MS)を用いる。タンデム型質量分析装置を用いることにより、迅速に構造解析を実施できる。
質量分析する際に使用できるイオン化法の様式としては、マトリックス補助レーザ脱離(MALDI)法、電子衝撃イオン化(EI)法、エレクトロスプレーイオン化(ESI)法、ソニックスプレーイオン化法(SSI)法、光イオン化法、放射性同位体から放射されるLETの大きなαまたはβ線を使用するイオン化法、2次イオン化法、高速原子衝突イオン化(FAB)法、電界電離イオン化法、表面電離イオン化法、化学イオン化(CI)法、フィールドイオン化(FI)法、フィールド脱着イオン化(FD)法、火花放電によるイオン化法等が挙げられ、好ましくはソニックスプレーイオン化法(SSI)法、エレクトロスプレーイオン化(ESI)またはマトリックス補助レーザ脱離(MALDI)法、より好ましくはマトリックス補助レーザ脱離(MALDI)法である。また、分離様式としては、飛行時間型(TOF)、単一または多重四重極型、単一または多重磁気セクター型、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)型、イオン捕獲型、高周波型ならびにイオン捕獲/飛行時間型等が挙げられ、飛行時間(TOF)型を用いるものが好ましい。
フラグメント化は、当技術分野で通常用いられる方法によって実施することができる。例えば、衝突誘起解離法(CID)、赤外多光子吸収解離法(IRMPD)、ポストソース分解法(PSD)、表面誘起解離法(SID)等が挙げられる、好ましくは衝突誘起解離法を用いる。衝突誘起解離法は、イオンの選択および断片化の二つの工程を含み、イオン捕獲型、多重四重極型、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)型、高周波型ならびにイオン捕獲/飛行時間型、レフレクトロン飛行時間型、多重飛行時間型、ならびに多重磁気セクター型の質量分析装置を用いて実施することができる。好ましくは、イオン捕獲/飛行時間型を用いる。
上記のようなイオン化法と分離様式、断片化様式、ならびに電気的記録または写真記録などの検出様式とを組み合わせることにより質量分析を実施することができる。好ましくは、MALDI−QIT−TOF型を用いる。MALDI−QIT−TOF型質量分析装置を用いることにより、非常に少量の試料で分析が可能である。
この装置は、イオン化にMALDI法を用いているため、断片化パターンが単純な1価のイオンが生成しやすいこと、多少の不純物があっても効率的にイオン化できること、断片化様式として四重極イオントラップ(QIT)を用いているため、イオン選択の幅を精密にコントロールできること、CIDのエネルギーをコントロールしやすいこと、さらにイオンの分離様式としてTOF法を用いているため分離の質量分解能が高いこと等において、本発明の実施に有利である。
質量分析装置によって得られるスペクトルに表れる各フラグメントイオンのシグナル強度比を、各フラグメントごとにそれぞれ数値化することにより、フラグメント化パターンを得ることができる。シグナル強度比の数値化方法は、各シグナルの強度の比率を表す限り特に限定されないが、例えば、全シグナル強度の合計に対する相対%、または特定のシグナル強度、好ましくは最大シグナル強度に対する相対%として、数値化することができる。すなわち、質量分析におけるフラグメント化パターンは、被検糖鎖をフラグメント化することによって得られるフラグメントの質量(より詳しくはm/z値)とそのシグナル強度比からなる。フラグメント化パターンは、好ましくはグラフによって表される質量分析スペクトルである。本発明において得られる被検糖鎖のフラグメント化パターンの一例を図6bに示す。
本発明の方法は、さらに、フラグメント化パターンのテンプレートに基づいて作成された糖鎖の予測フラグメント化パターンのデータと、被検糖鎖のフラグメント化パターンとを比較して、被検糖鎖の構造を予測する段階を含む。
糖鎖の予測フラグメント化パターンは、存在しうるあらゆる糖鎖について、フラグメント化パターンのテンプレートに基づいて予め作成し、データとして蓄積する。ここで予測フラグメント化パターンとは、糖鎖の標品を実際にフラグメント化して得られる実測フラグメント化パターンとは異なり、フラグメント化パターンのテンプレートに基づいてシミュレーションすることにより予測・作成されるフラグメント化パターンを意味する。予想フラグメント化パターンの一例を図6aに示す。フラグメント化パターンのテンプレートに基づいて糖鎖の予測フラグメント化パターンを作成する方法については、後記の「II.フラグメントパターンの予測方法およびフラグメント化パターン予測装置」の項に記載する。
例えば、糖タンパク質の糖鎖については、少なくともN−結合型およびO−結合型に見られる基本構造ごとに予測フラグメント化パターンのデータを作成する。より具体的には、複合型N−結合型糖鎖については、1本鎖〜5本鎖の分岐構造が存在するが、少なくとも各分岐構造ごとに予め予測フラグメント化パターンのデータを作成する。そして、作成された予測フラグメント化パターンのデータと、被検糖鎖を実際にフラグメント化して得られるフラグメント化パターンとの比較を行うことにより、糖鎖構造を解析することができる。
本発明者らは、複合型N−結合型糖鎖のフラグメント化パターンにおける主な相違は、分岐部位のGlcNAcのグリコシド結合、すなわち、5糖母核の2つのα−マンノシル残基と側鎖GlcNAc残基との結合の解離の傾向の相違から生じるものであることを見いだした。従って、少なくとも分岐部位のGlcNAcのグリコシド結合の種類ごとに予測フラグメント化パターンを作成することが好ましい。5糖母核周辺の構造ごとに一定の予測フラグメント化パターンが得られれば、さらなる伸長または末端枝分かれを有する構造については、自動的に予測フラグメント化パターンを作成しデータとして蓄積することができる。そして、最も好ましくは、同定されているすべての糖鎖について予測フラグメント化パターンを作成しデータとして蓄積する。
予測フラグメント化パターンと被検糖鎖のフラグメント化パターンの比較は、主に、5糖母核の2つのα−マンノシル残基と側鎖GlcNAc残基との結合の解離によって生じるフラグメントおよびそのシグナル強度比を比較することによって実施することができる。
また、本発明者らは、Manα1→6分岐側のGalβ1→4GlcNAc残基が解離したフラグメントイオンに由来するシグナル強度比が、Manα1→3分岐側の該Galβ1→4GlcNAc残基が解離したフラグメントイオンに由来するシグナル強度比よりも大きくなることを見いだした(図2および3)。従って、Manα1→6分岐側のGalβ1→4GlcNAc残基が解離したフラグメントイオンに由来するシグナル強度比、およびManα1→3分岐側のGalβ1→4GlcNAc残基が解離したフラグメントイオンに由来するシグナル強度比における一致点または相違点に基づいて、比較を行うことができる。
そして、蓄積された予測フラグメント化パターンのデータの中から被検糖鎖のフラグメント化パターンと一致するまたは類似するフラグメント化パターンを選択し、該フラグメント化パターンのもととなった糖鎖の構造を被検糖鎖の構造として予測することにより、糖鎖の異性体構造を解析することができる。
本発明により、同じ組成またはシーケンスを有する糖鎖の異性体構造を識別することができる。特に構造異性体を識別することができる。より詳しくは、複合型N−結合型糖鎖の分岐構造の識別において有利である。
本発明において用いる被検糖鎖の量は、通常0.01〜100ピコモル、好ましくは
0.1〜20ピコモル、さらに好ましく0.5〜2ピコモルである。本発明の方法によれば、従来の方法に比べて10万分の1以下という非常に少量の試料で、糖鎖の構造解析を実施でき非常に有利である。
本発明はまた、本発明の方法を実施するための糖鎖構造解析装置に関する。
一実施形態において本発明の糖鎖構造解析装置は、
フラグメント化パターンのテンプレートに基づいて作成された糖鎖の予測フラグメント化パターンのデータを記憶する、フラグメント化パターン記憶装置と、
前記フラグメント化パターン記憶装置に記憶されている予測フラグメント化パターンのデータと、前記フラグメント化パターン測定装置によって測定されたフラグメント化パターンとを比較する、マッチング装置と、
マッチング装置における比較に基づき予測された糖鎖構造を表示する、糖鎖構造表示装置と、
を有する。
本発明の糖鎖構造解析装置において、フラグメント化パターン測定装置は、好ましくは質量分析装置であり、質量分析装置については上記の糖鎖構造解析方法について記載したとおりである。フラグメント化パターン測定装置は、糖鎖をフラグメント化する装置を含む。糖鎖をフラグメント化する装置についても糖鎖構造解析方法について記載したフラグメント化の方法と同様であり、特に制限されないが、好ましくは、衝突誘起解離装置である。衝突誘起解離法は、イオンの選択および断片化の二つの工程を含み、イオン捕獲型、多重四重極型、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)型、高周波型およびイオン捕獲/飛行時間型、レフレクトロン飛行時間型、多重飛行時間型、ならびに多重磁気セクター型の質量分析装置を用いて実施することができる。好ましくは、イオン捕獲/飛行時間型を用いる。
フラグメント化パターン記憶装置は、あらゆるパターンの糖鎖に対する予測フラグメント化パターンを記憶する装置であり、当技術分野において通常用いられるものを使用できるが、例えば、ハードディスクおよびメモリなどが挙げられる。該記憶装置は、好ましくは同定されているすべての糖鎖に対する予測フラグメント化パターンを記憶する。
マッチング装置は、フラグメント化パターン記憶装置中の予測フラグメント化パターンのデータと被検糖鎖のフラグメント化パターンとを比較して、被検糖鎖と一致するまたは類似する予測フラグメント化パターンを選択する装置であり、ソフトウェア上で比較および選択を行う。複合型N−結合型糖鎖の場合は、5糖母核の2つのα−マンノシル残基と側鎖GlcNAc残基との結合の解離によって生じるフラグメントおよびそのシグナル強度比に基づいて比較を行う。
糖鎖構造表示装置は、該選択された予測フラグメント化パターンのもととなった糖鎖の構造を被検糖鎖の構造として予測し、その糖鎖構造を表示する装置であり、例えば、ディスプレイが挙げられる。
II.フラグメント化パターンの予測方法およびフラグメント化パターンの予測装置
本発明はまた、任意の糖鎖のフラグメント化パターンを予測する方法、すなわち糖鎖の予測フラグメント化パターンを作成する方法に関する。本発明のフラグメント化パターンの予測方法は、
予測しようとする糖鎖と同一の基本構造を有する糖鎖のフラグメント化パターンのテンプレートを選択する段階と、
選択したテンプレートに基づいて、予測しようとする糖鎖のフラグメント化パターンを予測する段階と、
を含む。
糖鎖のフラグメント化パターンのテンプレートは、糖鎖の基本構造ごとに安定同位体を用いて部位特異的に糖鎖構造を標識した糖鎖を合成し、当該糖鎖をフラグメント化し、得られるフラグメントの種類および各フラグメントの比率を得ることにより作成する。各フラグメントの比率は、質量分析における各フラグメントの相対的なシグナル強度比として表すことができる。好ましくは、フラグメント化パターンのテンプレートは、糖鎖のフラグメント化によって得られるフラグメントの種類、好ましくはフラグメントの構造と、その質量分析におけるシグナル強度比を含む。シグナル強度比は、例えば、全シグナル強度の合計に対する相対%、または特定のシグナル強度、好ましくは最大シグナル強度に対する相対%として表すことができるが、これに限定されるものではない。糖鎖の基本構造、質量分析およびシグナル強度比については、上記と同様である。
例えば、糖タンパク質の糖鎖については、N−結合型およびO−結合型に見られる基本構造ごとにフラグメント化パターンのテンプレートを作成する。より具体的には、複合型N−結合型糖鎖については、1本鎖〜5本鎖の分岐構造が存在するが、これを基本構造として、各分岐構造ごとに予めフラグメント化パターンのテンプレートを作成する。また、分岐部位のGlcNAcのグリコシド結合の種類ごとにフラグメント化パターンのテンプレートを作成することが好ましい。5糖母核周辺の構造ごとに一定のフラグメント化パターンのテンプレートが得られれば、さらなる伸長または末端枝分かれを有する構造については、自動的にフラグメント化パターンを作成しデータとして蓄積することができる。
複合型N−結合型糖鎖の2本鎖のフラグメント化パターンのテンプレートの一例を図4aに、3本鎖のフラグメント化パターンのテンプレートの一例を図4bに示す。
そして、予め作成されたフラグメント化パターンのテンプレートの中から、予測しようとする糖鎖と同一の基本構造を有する糖鎖のフラグメント化パターンのテンプレートを選択する。例えば、複合型N−結合型糖鎖については、同じ分岐構造を有する糖鎖のフラグメント化パターンのテンプレートを選択する。続いて、選択したテンプレートに基づいて、予測しようとする糖鎖のフラグメント化パターンを予測する。具体的には、テンプレートのもととなった糖鎖の構造と予測しようとする糖鎖の構造とを比較し、両者の一致点および相違点にもとづき、テンプレートのもととなった糖鎖の構造上のフラグメントの構造とそのシグナル強度比から、フラグメント化パターンを予測することができる。
こうしてテンプレートに基づいて予測することにより作成された糖鎖のフラグメント化パターンは、上記のIの糖鎖構造の解析方法および糖鎖構造解析装置における予測フラグメント化パターンのデータとして使用される。
本発明はまた、上記フラグメント化パターンを予測する方法を実施するための装置、すなわち予測フラグメント化パターン作成装置に関する。本発明の糖鎖のフラグメント化パターン予測装置は、
フラグメント化パターンのテンプレートを記憶する、テンプレート記憶装置と、
前記テンプレート記憶装置に記憶されているテンプレートから、予測しようとする糖鎖と同一の基本構造を有する糖鎖のテンプレートを選択する、マッチング装置と、
マッチング装置で選択されたテンプレートに基づいて、糖鎖のフラグメント化パターンを作成する、フラグメント化パターン作成装置と、
得られたフラグメント化パターンを表示する、フラグメント化パターン表示装置と、
を有する。
テンプレート記憶装置は、予め作成された複数のフラグメント化パターンのテンプレートを記憶する装置であり、当技術分野において通常用いられるものを使用できるが、例えば、ハードディスクおよびメモリなどが挙げられる。
マッチング装置は、予測しようとする糖鎖の基本構造と、テンプレート記憶装置に記憶されたフラグメント化パターンのテンプレートのもととなる糖鎖の基本構造とを比較し、同じ基本構造を有する糖鎖のテンプレートを選択する装置であり、ソフトウェア上で比較および選択を行う。例えば、複合型N−結合型糖鎖のフラグメント化パターンを予測する場合、基本構造の比較は、分岐構造を比較することによって行い、同一の分岐構造を有するものを選択する。
フラグメント化パターン作成装置は、マッチング装置で選択されたテンプレートのもととなった糖鎖の構造と予測しようとする糖鎖の構造とを比較し、両者の一致点および相違点にもとづき、テンプレートのもととなった糖鎖構造上のフラグメントの構造とそのシグナル強度比から予測フラグメント化パターンを作成する装置であり、フラグメント化パターンの作成をソフトウェア上で行う。
フラグメント化パターン表示装置は、フラグメント化パターン作成装置で作成されたフラグメント化パターン、すなわち予測フラグメント化パターンを表示する装置であり、当技術分野において通常用いられるものを使用できるが、例えば、ディスプレイなどが挙げられる。
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明の範囲は実施例の範囲に限定されるものではない。
(実施例1)
安定同位体で標識した糖供与体(UDP−13−D−ガラクトース)を合成した(B. Lou, G. V. Reddy, H. Wang, and S. Hanessian, in Preparative Carbohydrate Chemistry (Ed.: S. Hanessian), Dekker, New York, 1996, pp. 389-412、S. Hannesian, P-P. Lu, and H. Ishida, J. Am. Chem. Soc. 1998, 120, 13296-13300.)。この糖供与体を用いて(図1)、酵素的に部位特異的に同位体標識された2本鎖、3本鎖、4本鎖のN−結合型オリゴ糖を、β4−ガラクトシルトランスフェラーゼIを用いて酵素的に合成した(図2)。これらの糖鎖は、13−ガラクトース残基を相補的な位置に有する。グリコシルトランスフェラーゼは高度の基質特異性および構造特異性を有し、Gal残基をGlcNAcに転移させてGalβ1→4GlcNAc構造を選択的かつ定量的に生成する。
Figure 0004599602
[M+Na]イオンをCIDスペクトルのための親イオンとして使用した。質量分析は、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化 四重極イオントラップ飛行時間型質量分析(MALDI−QIT−TOF MS)によって行った。親イオンがほぼ消失するCIDエネルギーで得られたフラグメント化パターンは、再現性のあるものであった。図3aに、1aの2本鎖N−結合型オリゴ糖のCIDスペクトルにおける各フラグメントイオンに由来するシグナル強度を示す。これは1bおよび1cのCIDスペクトルにおける対応するフラグメントに由来するシグナル強度比に基づくものである。3つのシグナルのすべてにおいて、Manα1→6分岐側のGalβ1→4GlcNAc残基が解離したフラグメントイオンが、その他の同じ組成のフラグメントイオンよりもそのシグナル強度比が上回っていた。さらに、同様のことが、フラグメントイオンm/z 1443を親イオンとしたCIDスペクトル(MS3スペクトル)においても観察された(図3b)。さらに、1bおよび1cは、解離の傾向がほぼ同様であった。これは、13Cアイソトープがフラグメント化に影響を及ぼしていないことを示している。
従って、同じ組成のフラグメントイオンのシグナル強度比は、識別可能なガラクトース(13または13)を分岐構造の相補的な位置に有するオリゴ糖のセットから得られるシグナル強度比に基づいて測定できることが示された。
3本鎖および4本鎖のN−結合型オリゴ糖の解離の傾向を分析するため、2a〜3e(図2)についてCIDによる実験を実施した。図3cおよび3dに、2aおよび3aのGlcNAcβ1→2結合の解離によって生成されるシグナルに対する、それぞれのフラグメントイオンのシグナル強度比をまとめた。解離の傾向は、N−結合型オリゴ糖の分岐のタイプによって異なっていた。これは、マンノースコアの還元部位の構造とはほぼ無関係であった。これらの結果は、フラグメント化パターンにおける主な相違は、分岐部位のGlcNAcのグリコシド結合の解離の傾向の相違から生じるものであることを示している。
1a、2aおよび3aの構造が、複合型N−結合型オリゴ糖の基本構造となりうると考えられる。N−結合型オリゴ糖の多様性は、通常、これらの基本構造における非還元末端の伸長によって生じることから、これら基本構造に対するフラグメント化パターンのテンプレートのデータは、N−結合型オリゴ糖の任意の構造に対するフラグメント化パターンを予測するために有用である。
(実施例2)
これを実証するため、N−結合型オリゴ糖の基本構造に対するフラグメント化パターンのテンプレートを作成した(図4)。当該テンプレートは、各フラグメントイオンの正確な帰属からなり、分岐トポロジーおよび上記の安定同位体を用いた実験データから算出された全シグナル強度の合計に対する各フラグメントイオンに由来するシグナル強度比(%)を含む。
これらのテンプレートを用いて、3種の異性体についてCIDスペクトル、すなわちフラグメント化パターンの予測を実施した(図5)。これらは同一の組成を有するオリゴ糖であるが、異なるトポロジーを有する。4bおよび4cは、以下のように合成した。
Figure 0004599602
PA(ピリジルアミノ)標識したモノシアロ2本鎖N−結合型オリゴ糖(タカラバイオ)を、β3−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ2を用いて、UDP−D−GlcNAcでN−アセチルグルコサミニル化した。生成物をHPLCで単離した後、β4−ガラクトシルトランスフェラーゼIを用いて、非還元末端GlcNc残基にガラクトースを付加した。最後に、ノイラミニダーゼ処理によりNeu5Ac残基を除去し、HPLCで精製することにより4bおよび4cを得た。
これら3種の異性体から仮想的に得られるフラグメントイオンに対し、対応する基本構造のテンプレートに基づき、シグナル強度比を割り当てた。予測したCIDスペクトルにおいて、仮想のフラグメントイオンのm/z値とそのシグナル強度比(%)をプロットした。同じm/z値を有するフラグメントイオンについては、シグナル強度比の合計によって表した。予測したスペクトルには、3種の異性体間で、m/z 1376と1741およびそれらの脱水イオンのシグナルの強度比において、有意な差が表れた(図6a)。すなわち、m/z 1376およびその脱水イオンのシグナル強度の和と、m/z 1741およびその脱水イオンのシグナル強度の和の比は、4aの場合は0.17であり、4bの場合は0.57であり、4cの場合は1.82であり、3種の予測スペクトルの間で最も大きな相違点がみられた。
この相違が実測スペクトル、すなわち実測フラグメント化パターンにも反映されることを確認するために、酵素的に合成したこれら3種の異性体に関してMALDI−QIT−TOF−MSを実施した。図6bに示すとおり、実測のスペクトルにおいてもシミュレーションしたスペクトルと同様のフラグメント化パターンが得られた。特にシミュレーションにおいて予測された異性体間の相違点において同様のパターンが得られた。以上の結果から、本発明により、N−結合型オリゴ糖のフラグメント化パターンの予測が可能であることが実証された。
上記実験において試料量はすべて1ピコモルであり、本発明により非常に少量の試料で糖鎖の構造を解析できることが示された。
(実施例3)
装置内に記憶された多数の糖鎖に対する予測フラグメント化パターンを用いた糖鎖構造解析を実証するため、まず、図7に示した各糖鎖構造から仮想的に得られるフラグメントイオンに対し、対応する基本構造のテンプレートに基づきシグナル強度比を割り当て、仮想のフラグメントイオンのm/z値とそのシグナル強度比(%)をプロットすることにより各糖鎖構造に対する予測スペクトル、すなわち予測フラグメント化パターンを作成した。作成した予測スペクトルのすべてを記憶装置に保存した。文献(Sato,T.et al,J.Biol.Chem.,2003,278,p47534)の方法にて調製した被検糖鎖(図8)をMALDI−QIT−TOF−MSにて分析し、この糖鎖の実測フラグメントスペクトル(実測フラグメント化パターン)を得た(図9)。保存されている予測スペクトルの中に、この被検糖鎖と同じ分子量(m/z1928)のイオンを親イオンとする予測スペクトルは4種(N−11、N−12、N−29、N−30)見出された。これら4種の予測スペクトルについて、被検糖鎖の実測スペクトルとのフラグメント化パターンマッチングを次に示す方法で行なった。
(1)被検糖鎖の実測スペクトルについて、各フラグメントイオンのモノアイソトピックピークのm/z値の整数部分をそのフラグメントイオンのm/z値とし、全てのアイソトピックピークの相対強度の合計をそのフラグメントイオンの相対強度とする。
(2)予測スペクトルのn本のピーク(P1、P2、・・・Pn)の相対強度がxi(i=1〜n)のとき、以下のようにスペクトルのベクトルXを作成する。
X=(x1、x2、・・・xn)
(3)被検糖鎖の実測スペクトルについて、予測スペクトルのピークPiに相当するm/z値を持つピークを決定し、そのピークの相対強度からスペクトルのベクトルYを作成する。
Y=(y1、y2、・・・yn)
(4)以下のように、2つのベクトルXとYのユークリッド距離からスペクトル間の相違度D1を求める。
D1=Σ(i=1〜n)(xi−yi)
ここで算出される値D1は、両スペクトルが全く同一の場合には0(ゼロ)であり、両スペクトルの差が大きくなるほど値が大きくなるため「相違度」と表現しているが、当然、両スペクトルの類似度の尺度となるものである。
(5)上記のように算出した相違度D1では、予測スペクトルに存在しないピークが実測スペクトルに多く含まれている場合でも低い相違度を与えるので、実測スペクトルと予測スペクトルのベクトル算出方法を入れ替えて相違度D2を再計算する。つまり、実測スペクトルから上記ベクトルX、予測スペクトルから上記ベクトルYを算出し、相違度D2を求める。図10に被検糖鎖の実測スペクトルとのフラグメント化パターンマッチングの結果を示す。D1+D2の値から4種の予測スペクトルの中で最も小さな値を持つものはN−12の予測スペクトルである。N−12の予測スペクトルを図11に示す。N−12の糖鎖構造は、被検糖鎖の構造と同じであり、記憶された多数の予測スペクトルを用いて実測スペクトルとマッチングすることにより糖鎖の構造を正しく解析できることが実証された。
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。

Claims (10)

  1. 被検糖鎖をフラグメント化して被検糖鎖の各フラグメントイオンのシグナル強度比をフラグメントごとにそれぞれ数値化することによって得られるフラグメント化パターンを得る段階と、
    フラグメント化パターンのテンプレートに基づいて作成された糖鎖の予測フラグメント化パターンのデータと、被検糖鎖のフラグメント化パターンとを比較して、被検糖鎖の構造を予測する段階と、
    を含む、糖鎖構造の解析方法。
  2. 被検糖鎖の量が、0.01〜100ピコモルである、請求項1に記載の方法。
  3. 被検糖鎖をフラグメント化して被検糖鎖のフラグメント化パターンを得る段階は、質量分析装置においてフラグメント化された被検糖鎖を分析し、各フラグメントの質量およびシグナル強度を得る段階を含む、請求項1または2に記載の方法。
  4. 前記被検糖鎖の構造を予測する段階は、フラグメント化パターンにおけるフラグメントのシグナル強度比を比較することによって、糖鎖構造を予測する段階である、請求項3に記載の方法。
  5. 被検糖鎖をフラグメント化し、フラグメント化された前記被検糖鎖の各フラグメントイオンのシグナル強度比をフラグメントごとにそれぞれ数値化することによって得られるフラグメント化パターンを測定する、フラグメント化パターン測定装置と、
    フラグメント化パターンのテンプレートに基づいて作成された糖鎖の予測フラグメント化パターンのデータを記憶する、フラグメント化パターン記憶装置と、
    前記フラグメント化パターン記憶装置に記憶されている予測フラグメント化パターンのデータと、前記フラグメント化パターン測定装置によって測定されたフラグメント化パターンとを比較する、マッチング装置と、
    マッチング装置における比較に基づき予測された糖鎖構造を表示する、糖鎖構造表示装置と、
    を有する、糖鎖構造解析装置。
  6. 前記フラグメント化パターン測定装置は、質量分析装置である、請求項5に記載の糖鎖構造解析装置。
  7. 前記マッチング装置は、フラグメント化パターンにおけるフラグメントのシグナル強度比を比較する装置である、請求項6に記載の糖鎖構造解析装置。
  8. フラグメント化パターン測定装置が、衝突誘起解離装置を含む、請求項5〜7のいずれか1項に記載の糖鎖構造解析装置。
  9. 糖鎖をフラグメント化して、各フラグメントイオンのシグナル強度比をフラグメントごとにそれぞれ数値化することによって得られるフラグメント化パターンを予測する方法であって、
    予測しようとする糖鎖と同一の基本構造を有する糖鎖のフラグメント化パターンのテンプレートを選択する段階と、
    選択したテンプレートに基づいて、予測しようとする糖鎖のフラグメント化パターンを作成する段階と、
    を含む、前記方法。
  10. 糖鎖をフラグメント化して、各フラグメントイオンのシグナル強度比をフラグメントごとにそれぞれ数値化することによって得られるフラグメント化パターンのテンプレートを記憶する、テンプレート記憶装置と、
    前記テンプレート記憶装置に記憶されているテンプレートから、予測しようとする糖鎖と同一の基本構造を有する糖鎖のテンプレートを選択する、マッチング装置と、
    マッチング装置で選択されたテンプレートに基づいて、糖鎖のフラグメント化パターンを作成する、フラグメント化パターン作成装置と、
    得られたフラグメント化パターンを表示する、フラグメント化パターン表示装置と、
    を有する、糖鎖のフラグメント化パターン予測装置。
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