JP4806510B2 - マラリア病の治療または予防用組成物、およびマラリア病の治療方法 - Google Patents
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Description
本発明は既知の抗生物質SF2487物質またはその塩を、有効成分として含有するマラリア病の治療または予防用組成物に関する。さらに、本発明は、抗生物質SF2487物質またはその塩を、マラリア原虫に感染されたヒト宿主に投与することから成る、マラリア病の治療方法、ならびにマラリア病の予防方法に関する。また、本発明は、抗マラリア薬の製造に抗生物質SF2487物質またはその塩を用いる使用に関する。
背景技術
1996年に発表されたWHOのWorld Health Reportによると、結核およびジフテリアと同様に、マラリアは既に克服されたと考えられていた感染症であるが、しかし、マラリアは流行の兆しが再び見えることから再興感染症(Reemerging Infections)に指定されている。1995年には世界で210万人がマラリアで死亡しており、またマラリア原虫の感染者は2億7千万人に達すると言われている。マラリア病の発生地域は、熱帯地方のみならず、地球温暖化によって、これまで希にしか確認されていなかった温帯地域にも拡大しつつある。近い将来、日本の本州でマラリアの流行も懸念されている。
ヒトに感染するマラリア原虫(malarial parasites)には、胞子虫類に属する熱帯熱マラリア原虫Plasmodium falciparum;三日熱マラリア原虫Plasmodium vivax;四日熱マラリア原虫Plasmodium malariae;および卵形マラリア原虫Plasmodium ovaleがある。さらに、サルに感染するマラリア原虫と、ネズミに感染するマラリア原虫もある。
これらのマラリア原虫は各種の抗マラリア薬に対し耐性を獲得し、撲滅が困難なものになっている。このような状況下において、マラリア病の撲滅に向けてワクチンの開発、媒介する蚊の生態生理の解明、マラリア原虫の生理機構の解明、マラリア原虫に対する人の免疫応答の解析、マラリアの病理病態解析、新規な抗マラリア薬の開発など、あらゆる方面から研究がなされている。特に、マラリアを根絶するのに有効である新規抗マラリア薬の開発が渇望されている。
マラリアの治療に現在使用されている薬剤としては、キニーネ、クロロキン、ピリメタミン、メフロキン、アルテミシニン等が知られているが、それら既知の抗マラリア薬は、その効果の信頼性、人に対する毒性、副作用の点から見ると、また耐性マラリア原虫の発生などから見ると、必ずしも満足できるマラリア治療薬ではない。
また、ポリエーテル系抗生物質であるモネンシン、ニゲリシン〔Life Sci.vol.59(20)309〜315頁(1996)〕およびサリノマイシン〔Zentralbl.Bakteriol.,Mikrobiol.Hyg.,Ser A 256(3),305〜313頁(1984)〕は、微生物の生産する抗マラリア活性を示す抗生物質として知られている。しかしながら、モネンシン、ニゲリシンおよびサリノマイシンは、いずれも経口投与で急性毒性が高く、さらにそれらの抗マラリア効果も安定せず且つ低いため、現在に至るまで実用されていない。
さらに、抗生物質SF2487物質は抗菌活性と抗インフルエンザウイルス活性をもち、日本特許第1725905号(特公平4−13353号公報)に記載されている既知のポリエーテル系抗生物質である。抗生物質SF2487物質およびそのナトリウム塩、カリウム塩、Ag塩は、「The Journal of Antibiotics」vol.XLIII、No.3、259〜266頁(1990年3月)にも、それの化学構造式および製造法と共に記載されている。
発明の開示
抗生物質SF2487物質は、その構造中に、酸性基としてテトロン酸部分を持つものであり、この点で酸性基としてカルボン酸を持つ上記のモネンシン、ニゲリシンおよびサリノマイシンとは化学構造が顕著に相違する。抗ウイルス活性および抗菌活性を有する抗生物質SF2487物質は、ポリエーテル系抗生物質の型の従来知られた抗マラリア薬とは異なる薬理機序を有すると本発明者は推察した。
従って、本発明者らは、試験管内で培養されてヒト赤血球に感染した熱帯熱マラリア原虫Plasmodium falciparumに抗生物質SF2487物質ナトリウム塩を作用させる試験を行って、これにより、このマラリア原虫の増殖を阻害する活性を抗生物質SF2487物質が有することを今回見出すことに成功した。さらに、ネズミマラリア原虫Plasmodium berghelに感染したネズミに抗生物質SF2487物質ナトリウム塩を腹腔内投与すると、ネズミ体内でネズミ赤血球に感染したネズミマラリア原虫の増殖を抗生物質SF2487物質ナトリウム塩が阻害する活性を有することも今回本発明者らは見出した。こうして、本発明者らは、抗生物質SF2487物質またはその塩が新しい抗マラリア薬として有用であると期待できることを知見した。これらの知見に基づいて、本発明は完成された。
従って、第1の本発明によると、次式(I)
で表わされる抗生物質SF2487物質またはその製薬学的に許容できる塩を有効成分として含有し、また有効成分のための薬学的許容できる固体または液体状の担体を含有することを特徴とする、マラリア疾患の治療または予防用組成物が提供される。
第1の本発明による組成物に有効成分として含有される既知の抗生物質SF2487物質は、融点250〜252℃(分解)をもつ無色結晶の形の酸性物質である。抗生物質SF2487物質は、アクチノマジュラsp.SF2487株の培養により製造できる。この抗生物質SF2487物質の製造法およびアクチノマジュラsp.SF2487株の菌学的性質は特公平4−13353号明細書および前記の「The Journal of Antibiotics」Vol.XLIII、No.3,259〜266頁(1990年3月)に詳しく記載される。抗生物質SF2487物質を生産する菌であるアクチノマジュラ(Actinomadura)sp.SF2487株は、日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6に在る独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターにブダペスト条約の規約下に2001年3月2日に移管寄託され、FERM BP−7474の受託番号で同研究所に寄託されている。なお、1986年11月29日の原寄託日に寄託されたアクチノマジュラsp.SF2487株は、FERM P−9063の原寄託番号を有したものである。
抗生物質SF2487物質は、酸性物質であり、その塩には、製薬学的に許容できる各種金属との塩、例えばアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩およびアンモニウム塩、ならびに有機塩基、例えばトリアルキルアミンとの塩(第4級アンモニウム塩)がある。ちなみに、抗生物質SF2487物質は、米国特許第4876273号明細書(1989年10月24日発行)に示される抗生物質A80577と同じ物質である。
第1の本発明によるマラリア疾患の治療または予防用組成物では、有効成分としての抗生物質SF2487物質またはその塩は、担体と混合されて調剤の形に製剤できる。抗生物質SF2487物質ナトリウム塩は、クロロホルム、酢酸エチル、ジメチルスルホキシドに可溶性であり、エタノールに僅溶性であり、水にほとんど不溶性である。本組成物に配合できる担体は、製剤学的に許容される液体状の担体、例えばグリセリン、オリーブ油、水、生理食塩水、エタノール、含水エタノールなど、あるいは固体担体、例えば乳糖、タルク、ペクチン、スターチ、結晶セルロースなどであることができる。配合される担体の種類および組成は、有効成分の投与経路や投与方法によって適宜選択する。
第1の本発明による組成物は、有効成分が固体担体と混合された場合に錠剤または散剤またはカプセル剤の形で製剤できる。錠剤に製剤する時には、ヒドロキシプロピルメチルセルロースのような結合剤、ステアリン酸Mgのような滑沢剤を配合できる。また、適当な液体担体に溶解または懸濁された場合には注射剤の形で製剤できる。抗生物質SF2487物質またはその製薬学的に許容できる塩は、経口的にも、あるいは例えば静脈内、皮下内、直腸内あるいは腹腔内注射により非経口的にも投与できる。経口または非経口投与用の製剤に含まれる抗生物質SF2487物質またはその塩の割合は、組成物の重量について例えば0.01〜90%、好ましくは0.1〜70%の範囲にあることができ、製剤中の残余の成分は担体および補助剤である。
SF2487物質の投与量は、種々の状況を勘案して、連続的または間欠的に投与したときに総投与量が一定量を超えないように定められ、通常では成人1人1日当たり0.1〜1,000mg/kg、好ましくは0.5〜500mg/kgの程度である。具体的な投与量は、投与方法、患者または被処理宿主の状況、例えば年齢、体重、性別、感受性、食餌、投与時間、併用する薬剤、患者またはそのマラリア病の程度に応じて変化することは言うまでもない。また一定の条件のもとにおけるSF2487物質の投与の適量と投与回数は、上記指針をもとに専門医による予備的な適量決定試験によって決定することができる。
さらに、第2の本発明においては、マラリア原虫に感染されてマラリアの病気症状を有するヒト宿主に、次式(I)
で表される抗生物質SF2487物質またはその製薬学的に許容できる塩を、宿主内の赤血球にいるマラリア原虫の増殖を阻止するのに十分な量で経口的または非経口的に投与することから成る、マラリア疾患の治療方法が提供される。
第2の本発明によるマラリア疾患治療方法において、抗生物質SF2487物質またはそのナトリウム塩またはカリウム塩を、ヒト宿主に0.1〜1000mg/kgの投与量、好ましくは0.5〜500mg/kgの投与量で経口的にあるいは静脈内、皮下内または直腸内に投与することが好ましい。
さらに、第3の本発明において、マラリア原虫に感染されたがマラリアの病気症状を未だ示していないヒト宿主に、次式(I)
で表される抗生物質SF2487物質またはその製薬学的に許容できる塩を、宿主内でのマラリア原虫の増殖を阻止するのに十分な量で経口的または非経口的に投与することから成る、マラリア疾患の予防方法が提供される。
また第3の本発明によるマラリア疾患の予防方法においては、抗生物質SF2487物質またはそのナトリウム塩またはカリウム塩を、ヒト宿主に0.1〜1000mg/kgの投与量、好ましくは0.5〜500mg/kgの投与量で経口的に、あるいは静脈内、皮下内または直腸内に投与することが好ましい。
さらにまた、第4の本発明においては、抗マラリア薬の製造のために、次式(I)
で表わされる抗生物質SF2487物質またはその製薬学的に許容できる塩を用いる使用が提供される。抗マラリア薬の製造に式(I)の抗生物質SF2487物質のナトリウム塩を用いる使用が好ましい。
発明を実施するための最良の形態
次の第1の本発明による組成物の製剤の例を次の実施例1〜2で示す。
実施例1 錠剤
下記の原料成分を適当な割合で混合して、その混合物を常法の打錠法で成形した。1錠あたり280mgの重さの錠剤を得た。錠剤の1錠あたりの組成は、下記のとおりのものとした。
実施例2 錠剤
下記の原料成分を適当な割合で混合して、その混合物を打錠法で成形した。1錠あたり300mgの重さの錠剤を得た。錠剤の1錠あたりの組成は、下記のとおりのものとした。
次に、本発明で有効成分として用いる抗生物質SF2487物質が抗マラリア活性を示すことを試験例1〜2で例証する。
試験例1 マラリア原虫阻害活性のin vitro試験
本試験では、抗生物質SF2487物質(ナトリウム塩)および供試の比較化合物(キニーネ、クロロキン、ピリメタミン、メフロキン等)の各々のマラリア原虫阻害活性の測定試験、および哺乳動物の培養細胞における供試の各化合物の細胞毒性の測定試験を、平行して実施した。さらに、供試の各化合物のマラリア原虫阻害活性と細胞毒性との比から、それら供試の各化合物が抗マラリア薬として有用性をもつかを判定した。
1.熱帯熱マラリア原虫の培養物の調製
本試験には、熱帯熱マラリア原虫Plasmodium falciparu mのFCR−3株(ATCC30932)とHonduras−1株(ATCC30950)との2種類を被検マラリア原虫として用いて培養した。マラリア原虫の培養用の培地は、濾過滅菌したPRMI 1640培地を、pHを7.4に調整後、赤血球を含む人血清を10%(重量)の濃度となるように添加して調製されたものである。培地のヘマトクリット値(赤血球浮遊液中に占める赤血球の体積の割合)が、5%になるように調整してから、その培地を24穴培養プレートの各ウエルに入れた。各ウエル中の培地に、熱帯熱マラリア原虫を接種した。各ウエル毎に、培地内でマラリア原虫による初期の赤血球の感染率は培養開始時で0.1%に調整した。その後に赤血球と共にマラリア原虫の培養を行った。この培養は、酸素5.0%、炭酸ガス5.0%、窒素90%よりなる雰囲気下で、36.5℃の温度で行った。
各ウエル内の培地は毎日交換し、マラリア原虫による赤血球の感染率が4%になった時期に、別の培養プレートへマラリア原虫の植継ぎを行った。このようにして、熱帯熱マラリア原虫の培養物を調製した。
なお、前記したマラリア原虫による赤血球の感染率は、各ウエルから取出したサンプルに含まれた赤血球の薄層塗末標本を作成し、ギムザ染色或いはDiff−Qick染色を行った後に、顕微鏡(油浸、1,000×)下で、マラリア原虫で感染された赤血球の個数を計測して、そして下記の計算式で算出された。
前記で調製されたマラリア原虫培養物から、マラリア原虫感染赤血球を遠心で集め、集めた赤血球を血清を含むPRMI 1640培地で洗浄した後、さらにマラリア原虫非感染赤血球を加えた。これにより、マラリア原虫による初期感染率を0.3%に調整された赤血球を含むマラリア原虫培養液を用意した。この時の培養液のヘマトクリット値は3%である。
他方、実験に用いる供試化合物は滅菌水、ジメチルホルムアミド(DMF)、あるいはジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した溶液としてあらかじめ調製した。
2.マラリア原虫の増殖を阻害する供試化合物の活性の測定試験
(i)24穴培養プレートの各ウエルに、前記したマラリア原虫培養用の培地を入れておき、次に処理区では、該培地を収容した各ウエルに、前記のように調製された供試化合物の溶液を5〜10μlずつ加えた。培養プレートの各ウエル内に入れた培地に添加された供試化合物の濃度は、種々の値に調整された。試験は、duplicateあるいはtriplicateで行った。他方、対照区(無処理)のウエルでは、供試化合物を加えずに、滅菌水、DMF、あるいはDMSOを10μlずつウエルに加えた。
次に、前記のとおりあらかじめ用意しておいた前記の熱帯熱マラリア原虫培養液(赤血球の初期感染率0.3%であるもの)を各ウエルに990〜995μlずつピペットで加えた。静かにピペッティングを行って、各ウエル内で、培地中に一様にマラリア原虫感染赤血球および非感染赤血球を懸濁させた。
(ii)上記のようにして熱帯熱マラリア原虫培養液を添加されて且つ供試化合物を添加された、または添加されてない培地を収容する各ウエル(処理区のウエル、および無処理区のウエル)をもつ24穴培養プレートを、酸素5.0%、炭酸ガス5.0%、窒素90%よりなる雰囲気下でインキュベーターに入れて、36.5℃で72時間マラリア原虫を培養した。その後、処理区および対照区(無処理)のそれぞれのウエルから、その中の培養物のサンプルを取出して薄層塗末標本を作成した。
これら作成された標本中の赤血球を染色した後、顕微鏡下でマラリア原虫感染赤血球を観察して計数した。SF2487物質(Na塩)または比較の供試化合物を加えた処理区における赤血球のマラリア原虫感染率、ならびに対照区(無処理、コントロール)における赤血球のマラリア原虫感染率を前出の計算式により算出する。
上記のようにして算出されたマラリア原虫による赤血球の感染率から、下記の計算式によって定義されるマラリア原虫増殖率を算出する。
マラリア原虫増殖率(%)を算定するのに用いる上記の計算式において、aはマラリア原虫培養試験の開始時点での、すなわちマラリア原虫培養液を各ウエル中の培地に添加した時点での培地内のマラリア原虫による赤血球感染率(%)(すなわち接種したマラリア原虫培養液の初期感染率0.3%と同じ)を意味し、またbは添加された供試化合物を含む培地を有する処理区のウエルで72時間マラリア原虫の培養を供試化合物の存在下に行った後におけるマラリア原虫による赤血球感染率(%)を意味し、またcは溶媒のみを添加されたが供試化合物を添加されなかった培地を有する対照区(無処理)のウエルで72時間マラリア原虫の培養と増殖を供試化合物の非存在下で行った後におけるマラリア原虫による赤血球感染率(%)を意味する。従って、(c−a)の値は、供試化合物の非存在下で培養されたマラリア原虫の増殖の程度を示し、また(b−a)の値は供試化合物の存在下で培養されたマラリア原虫の増殖の程度を示す。
上記の試験において本発明により用いた抗生物質SF2487物質(Na塩)と、比較の供試化合物(従来の抗マラリア薬)の一例としてのクロロキンとについてマラリア原虫増殖率(%)の測定結果を、次の表1に示す。
表1の結果から、供試化合物の非存在下でマラリア原虫の培養を行った場合の対照区(無処理)について得られたマラリア原虫の増殖率を100%とみなした上での、対照区に比べてマラリア原虫の増殖を50%阻害して処理区においてマラリア原虫増殖率を50%にまで低下できるSF2487物質Na塩の濃度(50%阻害濃度、EC50)は、2×10−9モルであることが認められる。
3.マウス乳癌由来FM3A細胞のF28−7株細胞に対する供試化合物の細胞毒性の測定
マウス乳癌由来のFM3A細胞の野生株であるマウス乳癌F28−7株の細胞を供試細胞として用いた。F28−7株細胞の培養用の培地は、ES培地に非働化した胎児牛血清を2%となるように添加して調製されたものである。この培地中でCO25%を含む空気の下で37℃で供試のF28−7株細胞を培養した。この条件下でのマウス乳癌由来のF28−7株細胞の倍加時間は約12時間であった。
前培養を行った後に、対数増殖期に入った供試のF28−7株細胞を、5×104cells/mlの濃度になるように細胞培養液を培地で希釈した。これによって、培養されたF28−7株細胞の浮遊液を用意した。
供試化合物の溶液としては、マラリア原虫の増殖阻害活性の測定試験にあたり調製した供試化合物溶液と同じものを用いる。
24穴培養プレートの各ウエルに、前記したF28−7株細胞の培養用の培地を入れて置いた。次に、処理区では、その24穴培養プレートの各ウエル内の培地に供試化合物溶液を5〜10μlずつ加えて、各ウエル内の培地に添加された供試化合物の最終濃度が1×10−4〜1×10−6Mとなるように調整した。 試験はduplicateあるいはtriplicateで行った。他方、対照区(無処理、コントロール)のウエルには、滅菌水、DMF、あるいはDMSOのみを10μl加えたが供試化合物を加えなかった。次に、上記で用意しておいたF28−7株細胞浮遊液を990〜995μlずつ各ウエルにピペットで加え、静かにピペッティングを行って、各ウエル内で培地に一様に細胞を懸濁させた。その後、前記の培養条件下でF28−7株細胞を48時間培養した。その後、処理区および対照区(無処理)のそれぞれのウエルについてF28−7株細胞の細胞数をcell counter(CC−108,Toa Medical Electronics)で計数した。
F28−7株細胞の増殖に対する供試化合物の阻害活性は、添加された供試化合物の存在下で培養をされたウエル内の細胞培養液におけるF28−7株細胞の数と、供試化合物の非存在下で培養をされた対照区とのF28−7株細胞の数から、次の計算式で定義されるF28−7株細胞の増殖率(%)から判定された。このように判定された細胞増殖率(%)より供試化合物の細胞毒性を評価する。
但し、上記の計算式において、Aは培養開始時点での処理区および対照区の各ウエルにおけるF28−7株細胞の個数を示し、Bは供試化合物を添加されずに培養を行った対照区(無処理)のウエルにおける48時間培養後のF28−7株細胞の個数を示し、またCは添加された供試化合物の存在下に培養を行った処理区のウエルにおける48時間培養後のF28−7株細胞の個数を示す。従って、(B−A)の値は、供試化合物の非存在下で培養されたF28−7株細胞の増殖の程度を表し、また(C−A)の値は供試化合物の存在下で培養されたF28−7株細胞の増殖の程度を表す。このように測定された細胞増殖率(%)を、供試のSF2487物質とクロロキン(比較)の場合について、次の表2に示す。
表2の結果から、供試化合物の非存在下でF28−7株細胞の培養を行った場合の対照区(無処理)について得られたF28−7株細胞の増殖率を100%とみなした上での、対照区に比べてF28−7株細胞の増殖を50%阻害して処理区においてF28−7株細胞の増殖率を50%にまで低下できるSF2487物質Na塩の濃度(50%阻害濃度、EC50)は、1.6×10−6モルであることが認められる。
4.供試化合物の抗マラリア医薬として実用上の利用可能性の判定
一般的には、一つの化合物がマラリア原虫の増殖に高い阻害活性を示す場合にも、その化合物がヒト細胞(例えば、ヒト細胞の一例である前記の乳癌細胞)に対して高い細胞毒性を有するならば、その化合物を抗マラリア医薬として実際にヒトに投与することが制限されるか、もしくはその化合物の投与量が低く制限される必要があって、従ってその化合物の抗マラリア医薬として実用上の利用可能性が低いことになる。
本試験例で用いた供試化合物の抗マラリア医薬として実用上の利用可能性がマラリア原虫阻害活性をヒト細胞に対する細胞毒性の間のバランスについて下記の計算式で算定された供試化合物の選択毒性値を参照して判定された。
まず、マラリア原虫の培養用培地に供試化合物を添加していないでマラリア原虫を培養した場合の対照区(無処理、コントロール)におけるマラリア原虫感染率を測定した。その測定値を100%とみなした基準にて、マラリア原虫の培養用培地への供試化合物の添加をして供試化合物の存在下にマラリア原虫を培養した時に、対照区におけるマラリア原虫の増殖率を50%阻害できる供試化合物濃度(モル濃度で表示する)を算定し、50%阻害できた濃度を、マラリア原虫に対する供試化合物のEC50値であるとする。次に、F28−7株細胞の培地に供試化合物を添加していないで該細胞を培養した場合の対照区(コントロール)におけるF28−7株細胞の増殖率を100%とみなした基準にて、培地への供試化合物の添加を供試化合物の存在下にF28−7株細胞を培養した時に、対照区におけるF28−7株細胞の増殖を50%阻害できる供試化合物濃度(モル濃度で表示する)を算定し、その50%阻害できた濃度をF28−7株細胞に対する供試化合物のEC50値であるとする。このように判定された2つのEC50値を用いて、下記の計算式より定義される供試化合物の選択毒性値を判定する。
以下の表3に、既存の抗マラリア剤および抗生物質SF2487物質について測定されたEC50値および判定された選択毒性値の結果を示す。
試験例2 抗マラリア原虫活性のin vivo試験
1.使用マウスおよびマラリア原虫
被検マウスとしては、ICR系の体重26〜31g、5週令の雄を1群5匹で用いた。感染実験にはネズミマラリア原虫(Plasmodium berghei)NK65株を用いた。本マラリア原虫は、マウスに感染すると、急激に増殖し、感染マウスをことごとく死亡させる猛毒株として知られている。
2.試験方法
ネズミマラリア原虫(Plasmodium berghei)NK65株に感染したICRマウスの心臓から採血し、採血された血液試料での赤血球に対するネズミマラリア原虫の感染率を試験例1に示した計算式に準じて測定および算定した。次いで採血した血液試料の赤血球浮遊液の1mlあたり1×106匹のマラリア原虫となるように血清で希釈して調整し、そのマラリア原虫に感染された赤血球浮遊液を非感染マウスの尾静脈に0.2ml注射してマラリア原虫を接種した。
このようにマラリア原虫で感染された赤血球を含む血球浮遊液の静脈注射により行われたマラリア原虫接種の時を0日として、接種からそれぞれ2時間後と1日後に、DMSO(100μl)に溶解させた供試化合物を種々の投与量で腹腔内に投与した。4日目に、マウス尾部静脈より血液を採取し、血液の塗抹標本を作成し、顕微鏡下で赤血球を観察した。無処理区と処理区とにおけるネズミの血液のそれぞれのマラリア原虫による赤血球感染率を測定した。これらの試験結果から、5mg/kgの投与量で静注投与された抗生物質SF2487物質(Na塩)は、80%のマラリア原虫増殖阻止率を与えることが認められた。ここで言うマラリア原虫増殖阻止率(%)とは次の計算式により算定されたものである。
但し、Aは無処理区におけるマラリア原虫による赤血球感染率(%)を示し、またBは処理区におけるマラリア原虫による赤血球感染率(%)を示す。
試験例3 急性毒性
ICR系マウス(5週令、1群3匹)に、SF2487物質(Na塩)を、10%DMSOを含む生理食塩水にとかした溶液として、種々な投与量でSF2487物質を腹腔内投与した。投与後14日目には、25mg/kgのSF2487物質(Na塩)の投与群では3匹中1匹が死亡し、また12.5mg/kgのSF2487物質(Na塩)投与群では、3匹の全例が生存した。腹腔内投与試験ではSF2487物質(Na塩)のLD50値は、25mg/kgまたはそれ以上であると判定された。
産業上の利用可能性
本発明によれば、抗生物質SF2487物質またはその塩はマラリア原虫の増殖を阻害する活性を有することが認められ、そしてマラリア疾患の治療または予防薬として有用である。
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