JP4999607B2 - 漆塗装物の補修剤 - Google Patents
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Description
しかし、建築材料分野への漆の利用を考えたとき、いくつかの解決すべき課題がある。その中の一つとして、メンテナンスが容易ではないことが挙げられる。例えば、漆を塗装した建築内装部材に不慮の事故により傷を付け、その塗装も傷つけてしまうことも起こり得るが、そのような場合、漆に関して熟練した技術を有しない一般人が、自ら高価でかぶれ易い漆を用いて損傷部を補修するのは極めて困難である。また、実際の補修作業は補修部分とその周辺部(非損傷部)との調和を図る取る必要があるが、サンドペーパーなどで周辺を削りながら微妙な色の具合を調整することも困難である。つまり、漆を塗装した建築部材の現場補修方法は、結局、漆塗り職人が現場に赴く以外に方法がないが、ちょっとした小さな補修などの場合に、職人が赴くことは現実問題として不可能である。
このように、漆の建築塗装分野への利用を促進するには、このメンテナンスの問題を解決する必要があり、その解決は、建築塗装分野のみならず他の用途への展開を考えた場合にも有益である。
また、本発明の目的は、補修した部位の色彩が他の部位の色彩と調和し補修した部位が目立たない、補修された漆塗装物を提供することにある。
本発明は、このような知見に基づき、さらに検討を重ねて完成されたものである。
尚、予め漆調に調整された合成樹脂塗料を用いることは、自然素材である漆を活用しようとする本発明の趣旨にそぐわない。
本発明の補修された漆塗装物は、補修した部位の色彩が他の部位の色彩と調和し補修した部位が目立たない。
尚、本発明においては、染料や顔料、特に合成染料や合成顔料を用いる必要はないが、それらを用いることを排除するものではない。但し、染料や顔料を用いる場合は、自然素材からなる染料や顔料を用いることが好ましい。
また、本発明(第1,第2発明)の他の効果としては、次のような効果の一又は二以上も奏され得る。即ち、色合いが他の部位と調和する。発色に時間がかかる柿渋と異なり短時間で色合いが決定される。漆と異なり常温、常湿で硬化する。漆のようにかぶれない。漆より安価である。漆より塗布が簡便である。漆と同様に天然物である。合成樹脂塗料と異なり有機溶剤を含まない。合成樹脂塗料と異なり、木目を塗りつぶさないので色調のみならず木面の雰囲気も調和が取れている。
第1発明の漆塗装物の補修剤は、柿渋と、塩基性の水溶性化合物又はその水溶液とからなる。
本発明で用いる塩基性の水溶性化合物は、その水溶液が塩基性を示すものであり、水溶液が塩基性を示すものである限り特に制限なく用いることができる。そのような、塩基性の水溶性化合物の例としては、水酸化ナトリウムに代表されるアルカリ金属の水酸化物と弱酸との塩、水酸化カルシウムに代表されるアルカリ土類金属の水酸化物と弱酸の塩、アミン(アンモニア等)と弱酸の塩等を例示することができる。塩基性の水溶性化合物としては、弱酸とアルカリ金属の塩、弱酸とアルカリ土類金属の塩、又は、弱酸とアミンの塩が好ましい。塩基性の水溶性化合物は、一種を単独で又は2以上を組み合わせて用いることができる。
このような観点から、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アジピン酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等の弱酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩(但し、水溶液がアルカリ性を示すものに限る)が好ましく、弱酸がカルボン酸又はリン酸である金属塩がより好ましく、特に安全性や価格の観点から酢酸ナトリウムを用いることが好ましい。
好ましく用いられる柿渋の一例としては、品種は天王柿で、発酵年数が半年、タンニン含有量が5%で、酸性度が3〜4のものを挙げることができる。柿渋は、例えば、タンニンの含有割合が0.5〜10重量%、特に1〜5重量%となるように調整して用いることが好ましい。
本発明の塗装物の補修剤の好ましい流通(販売)形態としては、柿渋を収容した第1の容器と塩基性の水溶性化合物(粉体でも水溶液でも良い)を収容した第2の容器とをセットにして流通(販売)したり、柿渋を収容した第1の収容部と塩基性の水溶性化合物(粉体でも水溶液でも良い)を収容した第2の収容部を有する複合容器を流通(販売)したりすることが考えられる。
漆塗装物の塗膜の形成に用いられる漆としては、漆科植物から得られる生漆、生漆をクロメ(加熱脱水)処理して得られる精製漆などがある。
第3発明の補修された漆塗装物は、例えば、漆塗装物の塗膜損傷部分に補修剤を塗布した後、乾燥させて得られる。乾燥方法としては、木材の塗装等において公知の各種の乾燥方法を特に制限なく用いることができ、例えば、自然乾燥、熱風乾燥等が挙げられる。
なお、本発明における柿渋や塩基性の水溶性化合物、それらの混合物は、本発明の効果を妨げないことを限度として、pH調整剤や緩衝剤、乾燥を促進させるアルコール、塗膜性能を高める無機充填剤等の他の添加剤を含んでいても良い。
スギ材及びヒノキ材のそれぞれに、市販の生漆とテレピン油とを1:1(重量比)で混合したものを下塗りした後、ウエスで拭き取った。それらのサンプルを恒温恒温槽内に収容して25℃、相対湿度85%の条件で硬化させた。
次に、それらのサンプルに、生漆を希釈せずにそのままウエスで塗り込み、余分な漆液を別のウエスで十分に拭き取った。それらのサンプルを、恒温恒温槽内に再び収容して25℃、相対湿度85%の条件で硬化させ、後述する試験に用いる漆塗装物(漆塗装サンプル板)を得た。
尚、材の表面の一部には予めビニルテープを貼り付けておき、その部分に漆液が塗装されないようにした。漆が乾燥後、ビニルテープを剥がし、漆が付着していない部分を漆塗装物の塗膜損傷部位に見立てて、次の補修試験においては、この部位に補修剤を塗布した。
市販の柿渋((株)トミヤマ製,液状)を用いて、以下の試験を行った。
前記市販の柿渋は、タンニンを5重量%程度含む液状のもので、以下の実施例においては、それを希釈せずに柿渋液として用いた。
柿渋液100gに対して、酢酸ナトリウム(固体)を0g、1.5g又は3g添加し、それぞれ充分に混ざり合うまで攪拌した。得られた混合液を、酢酸ナトリウムの添加量が少ない順に補修液1,2,3とした。補修液1は、何も添加していない柿渋そのものである。
次に、補修液1、2、3を、上記の漆塗装サンプル板(スギ及びヒノキ材)における塗膜損傷部位に見立てた部位に塗布し、自然乾燥させた。この塗布及び乾燥の操作を3回繰返して、各補修液に対応する補修したサンプル板(補修サンプル板)を得た。
図1及び図2に、補修剤の塗布完了後72時間経過した時点の色彩(L*,a*)を示した。図1は、スギ材を用いた補修サンプル板についての結果であり、図2は、ヒノキ材を用いた補修サンプル板についての結果である。
また、図1及び図2中、「○漆塗装部」は、漆塗装サンプル板における漆塗膜を形成した部分(非塗膜損傷部位)の測定結果であり、「□補修剤1−3回塗り」は、上記の通り、漆塗装サンプル板の塗膜損傷部位に補修剤を3回繰り返して塗布した場合の補修部分の測定結果である。また、「◇補修剤1−1回塗り」及び「△補修剤1−2回塗り」は、漆塗装サンプル板の塗膜損傷部位に補修剤を塗布する回数を1回及び2回に代えた場合の測定結果である。
他方、本発明により補修した場合(実施例1,実施例2)は、補修した部位と補修していない部位とで色彩が近似しており、補修した部位と補修していない部位の色彩が調和していることが判る。また、本発明により補修した場合、補修した部位の木目が塗りつぶされることもなく、その点においても、非補修部位(非損傷部位)との間の調和性に優れている。尚、実施例1,実施例2の補修サンプル板の補修部位の色彩を、補修剤の塗布完了後72時間経過した時点に加えて、補修剤の塗布完了後168時間経過した時点においても測定したが、その数値は、72時間後の数値とほぼ同じであり、72時間後の時点で既に色彩の変化がほぼ完了していたことが判る。
スギ材を用い、上記と同様にして、試験に用いる漆塗装物(漆塗装サンプル板)を得た。また、この漆塗装サンプル板の塗膜損傷部分に、下記補修液4〜7を塗布するとともに、それぞれ、補修剤の塗布の回数を2回にした。それ以外は、評価試験1と同様にして、評価試験を行った。
補修液4:柿渋のみ
補修液5:柿渋と酢酸アンモニウム(中性の水溶性化合物)との混合液
補修液6:柿渋と酢酸ナトリウムとの混合液
補修液7:柿渋と炭酸ナトリウムとの混合液
補修液8:柿渋と水酸化ナトリウムの混合液
補修液5〜8における、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、炭酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムの添加量は、柿渋の重量に対してそれぞれ1.5重量%とした。
Claims (6)
- 柿渋と、塩基性の水溶性化合物又はその水溶液とからなる、漆塗装物の補修剤。
- 前記水溶性化合物が、弱酸とアルカリ金属との塩、弱酸とアルカリ土類金属の塩及び、弱酸とアミンの塩からなる群から選択される一種以上であることを特徴とする請求項1記載の漆塗装物の補修剤。
- 前記水溶性化合物が、酢酸ナトリウムであることを特徴とする請求項2記載の漆塗装物の補修剤。
- 使用前は、前記柿渋と前記水溶性化合物又はその水溶液とが非接触状態であり、使用時に混合されて使用されるものである、請求項1〜3の何れかに記載の漆塗装物の補修剤。
- 柿渋と塩基性の水溶性化合物又はその水溶液との混合物を漆塗装物の塗膜損傷部位に塗装することを特徴とする漆塗装物の補修方法。
- 請求項1〜4の何れかに記載の補修剤を用いて漆塗装物の塗膜損傷部位を補修して得られる、補修された漆塗装物。
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