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JP5017124B2 - アスタキサンチン抽出用酵母、その生産方法及びそれを用いた色調改善剤、並びにアスタキサンチンの製造方法 - Google Patents
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JP5017124B2 - アスタキサンチン抽出用酵母、その生産方法及びそれを用いた色調改善剤、並びにアスタキサンチンの製造方法 - Google Patents

アスタキサンチン抽出用酵母、その生産方法及びそれを用いた色調改善剤、並びにアスタキサンチンの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、抽出すべき脂溶性成分を有する脂溶性成分抽出用酵母、その生産方法及びそれを用いた色調改善剤、並びに脂溶性成分の製造方法に関する。
各種の化学成分を化学合成によらず製造する方法として、酵母を用いる方法が知られている。酵母の中には、脂溶性成分などの化学成分を産生し、細胞内にその化学成分を蓄積するものがある。例えば、キサントフィロマイセス・デンドロウス(Xanthophyllomyces dendrorhous)は、脂溶性成分であるアスタキサンチンを産生し、細胞内にアスタキサンチンを蓄積する。このアスタキサンチンは、ビタミンEの500倍ともいわれる強い抗酸化能力を持つことが知られている。
しかし、酵母は一般的にその細胞壁が固いため、細胞内に蓄積された細胞内成分を抽出することは困難である。酵母の中でも上記のキサントフィロマイセス・デンドロウスは特に強固な細胞壁をもっている。そのため、キサントフィロマイセス・デンドロウスの細胞内成分に含まれるアスタキサンチンの抽出は非常に困難である。
このような酵母の細胞内成分を抽出するため、物理的、化学的、あるいは生物学的手法により酵母自体又は酵母の細胞壁を処理する方法が知られている。
物理的処理法としては、ロールミル、フレンチプレス、ホモジナイザー、ビーズミル、超音波などを用いて酵母自体を粉砕する方法が知られている。例えば、特許文献1には、ロールミルを用いてファフィア・ロドチーマ(Paffiarhodozyma、キサントフィロマイセス・デンドロウスの無性世代名)の乾燥菌体を加圧処理する方法が記載されている。
一方、化学的処理法としては、酸又はアルカリを用いて酵母の細胞壁を破壊又は脆弱化する方法が知られている。例えば、特許文献2には、ファフィア・ロドチーマの細胞内のアスタキサンチンを利用するため、酸を用いて、約80℃の加温下で化学的処理を行うことが記載されている。また、特許文献3には、ファフィア・ロドチーマ酵母菌体の培養過程において、栄養源が制限された条件下で増殖制限期を経た後に、酸及び/又はアルカリを用いて化学的処理を行うことが記載されている。
また、生物学的処理法としては、細胞溶解酵素を用いる方法が知られている。例えば、特許文献4には、ファフィア・ロドチーマの細胞壁を溶解することのできる酵素を用いて、細胞壁を溶解し、細胞内に存在するアスタキサンチンを抽出する方法が記載されている。
特開平8−257号公報 特開平6−7153号公報 特開平8−228765号公報 特開平8−259号公報
しかし、上述した特許文献1に記載のロールミルを用いた物理的処理法では、数十から数百気圧での高圧処理が必要であり、実用性に欠けるものであった。その他の物理的処理法においては、例えば、フレンチプレスによる処理は数百から数千気圧での加圧処理を要する。また、ホモジナイザー、ビーズミル、超音波などによる処理は長時間を要する。物理的処理法はこれらの欠点を有するため、いずれも商業上の適用は困難であった。
また、特許文献2及び3に記載の化学的処理法においては、酸・アルカリの添加に伴い、その中和処理が必要である。また、化学的処理に使用する酸・アルカリの洗い出しや中和処理によっては生じる塩類の洗い出し等の工程も必要となり、煩雑な操作が必要であった。更に、化学的処理時に熱を加える場合は、加熱のためのエネルギー、設備等も必要となり商業的に実用し得るものではなかった。このような化学的処理法は、分析のために細胞内成分に含まれる脂溶性成分を全量抽出する場合に用いられるに限られていた。
また、特許文献4に記載の生物学的処理法では、細胞壁を溶解するための酵素を製造する装置及び工程が別途必要であり、これも商業上の適用は困難であった。
そこで本発明は、脆弱化した細胞壁を有し、酵母の細胞内成分に含まれる脂溶性成分を効率的に抽出し得る脂溶性成分抽出用酵母及びその生産方法を提供することを目的とする。また、本発明は、脂溶性成分の製造方法及び脂溶性成分抽出用酵母を用いた色調改善剤を提供することを目的とする。
本発明による脂溶性成分抽出用酵母の生産方法は、抽出すべき脂溶性成分を有する酵母を、増殖にしたがって培地のpHが低下して当該培地のpHが4未満となるまで増殖させる増殖工程を備え、上記脂溶性成分はアスタキサンチンである。
酵母などの微生物を増殖させる場合、培地のpHを一定に維持調整し、増殖可能pH領域内で酵母を増殖させることが求められる。従って、増殖時のpHは一定に制御することが常識とされ、特に生育環境が劣悪な酸性側に培地のpHを偏らせることは避けるべきとされていた。しかしながら、本発明者らは、従来の常識に反して培地のpHを増殖にしたがって培地のpHを下げること、そして培地のpHを増殖可能pH領域の下限未満(pH4未満)に至らせることにより、酵母が有する脂溶性成分を効率的に取出すことができることを見出した。このような生産方法によれば、脆弱化した細胞壁を有する脂溶性成分抽出用酵母を生産することができる。そして、このような脂溶性成分抽出用酵母に対しては、従来から行われているような細胞壁を破壊又は脆弱化する処理を施さずとも、通常の抽出工程により、細胞内成分に含まれる脂溶性成分を抽出することができる。
上記の増殖工程において、増殖にしたがって代謝された栄養分から酸性基が生じることにより培地のpHが低下することが好ましい。即ち、好適には酵母が栄養分を代謝し、この代謝によって酸性基が生じ、培地のpHを徐々に低下させる。この場合、増殖工程において、培地のpH低下のためのpH調整操作を必ずしも外部から行う必要はない。
酵母の増殖にしたがって代謝された栄養分から生じる酸性基が、SO 2−、HSO 、NO 、PO 3−、HPO 2−、HPO 、PO 及びClからなる群より選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。このような酸性基を生じる栄養分としては、アンモニア塩である硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸アンモニウム及び塩化アンモニウムがある。これらは酵母の栄養となる窒素元素を含有するため、窒素源としての役割がある。なお、これらのアンモニア塩から生じ得る酸性基は、硫酸アンモニウムからはSO 2−及びHSO 、硝酸アンモニウムからはNO 、リン酸アンモニウムからはPO 3−、HPO 2−、HPO 及びPO 、塩化アンモニウムからはClである。
本発明の脂溶性成分抽出用酵母の生産方法においては、キサントフィロマイセス・デンドロウスを用いることができる。この場合、酵母の細胞内に脂溶性成分であるアスタキサンチンを含有し、細胞壁が脆弱化した脂溶性成分抽出用のキサントフィロマイセス・デンドロウスを得ることができる。
上記の脂溶性成分抽出用のキサントフィロマイセス・デンドロウスからはアスタキサンチンを抽出することができる。赤色カロチノイドの一種であるアスタキサンチンは、赤色色素として養殖魚、鶏卵卵黄等の色調改善剤として使用されている。また、アスタキサンチンは、強力な抗酸化作用を有することから医薬活性成分としての用途などが検討されており、その用途は多岐にわたる。なお、脂溶性成分抽出用酵母が有する脂溶性成分はアスタキサンチンに限られるものではない。
本発明は、また、上記の生産方法により得られる脂溶性成分抽出用酵母を提供する。上記本発明の生産方法により得られる脂溶性成分抽出用酵母は、脆弱化した細胞壁を有している。従って、従来から行われているような細胞壁を破壊又は脆弱化する処理を施さずとも、通常の抽出工程により、細胞内成分に含まれる脂溶性成分を抽出することができる。
本発明の脂溶性成分の製造方法は、脂溶性成分抽出用酵母から脂溶性成分を抽出する抽出工程を備える。本発明の脂溶性成分の製造方法によれば、脆弱化した細胞壁を有する脂溶性成分抽出用酵母に対して、従来から行われているような細胞壁を破壊又は脆弱化する処理を施さずとも、その後の抽出工程により、細胞内成分に含まれる脂溶性成分を抽出し、製造することができる。
本発明は、また、上記の脂溶性成分抽出用酵母を含む色調改善剤を提供する。この色調改善剤は、例えば、養殖魚、養鶏等の飼料に配合して用いることができる。上述の通り、脂溶性成分抽出用酵母の細胞壁は脆弱化している。そのため、脂溶性成分抽出用酵母、特に脂溶性成分としてアスタキサンチンを含有する脂溶性成分抽出用酵母を含む色調改善剤を飼料と共に養殖魚等に摂取させると、養殖魚等の体内に効率的に吸収され、肉色や体色、卵黄の色調を改善することができる。
本発明によれば、脆弱化した細胞壁を有し、酵母の細胞内成分に含まれる脂溶性成分を効率的に抽出し得る脂溶性成分抽出用酵母及びその生産方法が提供される。また、本発明によれば、脂溶性成分の製造方法及び脂溶性成分抽出用酵母を用いた色調改善剤が提供される。
実施例1の本培養中における培地液のpH及び培地液の酵母濃度の経時的変化を表すグラフである。 比較例4の本培養中における培地液のpH及び培地液の酵母濃度の経時的変化を表すグラフである。 実施例8の本培養中における培地液のpH及び培地液の酵母濃度の経時的変化を表すグラフである。 比較例5の本培養中における培地液のpH及び培地液の酵母濃度の経時的変化を表すグラフである。
以下、本発明の実施形態について詳しく説明する。
まず、本発明の脂溶性成分抽出用酵母の生産方法について説明する。本発明の脂溶性成分抽出用酵母の生産方法は、抽出すべき脂溶性成分を有する酵母を、増殖にしたがって培地のpHが低下するように、増殖可能pH領域の下限未満まで増殖させる増殖工程(以下、単に「増殖工程」という)を備えることを特徴とする。
増殖工程で増殖させる酵母としては、細胞内成分に脂溶性成分を含む酵母を用いる。例えば、キサントフィロマイセス・デンドロウス、サッカロミセス属、キャンディダ属等が挙げられる。また、これらの酵母は、脂溶性成分の生産量増大のために種々の変異誘導が施されたものであってもよい。例えば、キサントフィロマイセス・デンドロウスであって、特表平6−506122号公報等に記載の方法により変異誘導が施された高生産性変異株を用いてもよい。
増殖工程により酵母を増殖させるにあたり、酵母を培養する方法としては回分法、半回分法、流加培養法、連続培養法などが適用できる。これらの培養方法及び培養条件は、酵母の菌株の種類、培地などにより、適した方法を任意に選択できる。
増殖にしたがって培地のpHを低下させる方法は、外部から酸を少量ずつ添加してpHを低下させる方法、及び、酵母の代謝に起因した自発的なpH低下方法がある。自発的なpH低下方法としては、酵母の代謝によって生じる酸によりpHを自発的に低下させる方法、代謝された栄養分から酸性基が生じることによりpHを自発的に低下させる方法などがある。これらの方法のうち、代謝された栄養分から酸性基が生じることによりpHを自発的に低下させる方法が好ましい。この方法はより具体的には、酵母の栄養分となる培地中の成分が酵母に代謝され、この成分中の酸性基が培地中に遊離されることにより、培地のpHを低下するものである。この方法によれば、酵母の代謝にしたがい培地のpHを増殖可能pH領域の下限未満まで十分に低下させることができる。なお、酵母の代謝に起因した自発的なpH低下方法による場合は、酵母の代謝を十分に促進するため、増殖工程は好気条件とすることが好ましい。
代謝されることにより酸性基が生じる栄養分として、酵母の栄養となる窒素元素を含有し、代謝されると酸性基を生じるアンモニア塩が好ましい。アンモニア塩としては、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどが好ましい。これらのアンモニア塩から生じ得る酸性基は、硫酸アンモニウムからはSO 2−及びHSO 、硝酸アンモニウムからはNO 、リン酸アンモニウムからはPO 3−、HPO 2−、HPO 及びPO 、塩化アンモニウムからはClである。
培地のpHを十分に低下させるためには、栄養分が代謝されることで生じる酸性基は、培地溶液中での解離度が高いものが好ましい。上記の酸性基のうち、栄養分が代謝されることで生じる酸性基として好適なものは、SO 2−、NO 、Clであり、より好適なものは、SO 2−、NO である。
ここで、増殖工程に用いる培地としては、モルトエキス希釈液を含有する培地、グルコース、酵母エキスを含有する合成培地、これらの培地に各種の添加剤を用いた培地などを使用することができる。増殖にしたがって培地のpHを自発的に低下させる場合には、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどのアンモニア塩が培地に添加されていることが好ましく、硫酸アンモニウムが添加されていることがより好ましい。
抽出すべき脂溶性成分を有する酵母の増殖可能pH領域は、通常、pH値が異なる複数の培地を用意し、これらの培地のpH値を維持しながら酵母を増殖させ、それぞれのpH値の培地における酵母の増殖率から決めることができる。このようにして決められた酵母の増殖可能pH領域は、酵母の種類によっても異なるが、その範囲は、通常、4〜9である。即ち、増殖可能pH領域の下限未満、例えば、4未満である培地で酵母を増殖させることは困難である。しかし、本発明においては、酵母の増殖可能pH領域の下限未満に至らせることにより、細胞壁が脆弱化した脂溶性成分抽出用酵母を生産することができる。
脂溶性成分抽出用酵母から抽出される脂溶性成分は、アスタキサンチン等のカロチノイド類、ビタミンA、D、E等の脂溶性ビタミン、ステロール類、テルペン類、脂溶性アミノ酸、脂溶性タンパク質等である。これらの脂溶性成分のうち、赤色カロチノイドの一種であるアスタキサンチンは、赤色色素として養殖魚、鶏卵卵黄等の色調改善剤として使用されている。また、アスタキサンチンは強力な抗酸化作用を有することから、医薬活性成分としての用途などが検討されている。アスタキサンチンは、脂溶性成分抽出用酵母として上記方法により生産されたキサントフィロマイセス・デンドロウスから抽出することができる。
なお、アスタキサンチンは、自然界に広く分布し、甲殻類の殻や卵、鮭の肉、キンメダイの表皮などに含まれており、これらの肉色や体色の発現に関わっている。アスタキサンチンを産生する微生物としては、キサントフィロマイセス・デンドロウス以外に、藻の一種であるヘマトコッカス・プルビアリスが知られている。
本発明の脂溶性成分抽出用酵母の生産方法によれば、脆弱化した細胞壁を有する脂溶性成分抽出用酵母を生産することができる。
なお、本発明の脂溶性成分抽出用酵母の生産方法においては、培地のpHを増殖可能pH領域の下限未満まで低下させて脂溶性成分抽出用酵母の生産を終了させればよい。即ち、必ずしも酵母を増殖させる全工程にわたり、増殖にしたがって培地のpHが低下するように酵母を増殖させる必要はない。酵母を増殖させる初期工程においては従来公知の増殖方法を用い、増殖の後期工程において、増殖工程を実施してもよい。例えば、従来公知の培地にて、常法の培養スケールアップ手段を用いて種培養から通気攪拌培養へ移行し、その後、本培養で増殖工程を備える生産方法を行うこともできる。
また、増殖工程の過程にあっては、常に酵母が増殖している必要はない。増殖工程には、酵母の保存などを目的として、増殖のための栄養分が制限された条件下で、酵母が増殖しない培養工程が含まれていてもよい。なお、増殖工程終了後にこのような酵母が増殖しない培養工程が含まれていてもよい。
増殖工程を経て増殖された脂溶性成分抽出用酵母は、遠心分離機等を用いて集菌される。集菌されたスラリー状の脂溶性成分抽出用酵母に対し、必要に応じて1回又は2回以上の水洗浄処理をして、酵母菌体スラリーを得ることが好ましい。また、使用目的にあわせて乾燥処理をしてもよく、これにより湿酵母菌体又は乾燥酵母菌体を得ることもできる。
このようにして得られた脂溶性成分抽出用酵母は、細胞壁が脆弱化している。そのため、従来から行われているような細胞壁を破壊又は脆弱化する処理を施さずとも、通常の抽出工程により、細胞内成分に含まれる脂溶性成分を抽出することができる。
本発明の脂溶性成分抽出用酵母は、脂溶性成分としてアスタキサンチンを含む脂溶性成分抽出用のキサントフィロマイセス・デンドロウスが好ましい。この脂溶性成分抽出用のキサントフィロマイセス・デンドロウスは、細胞壁が脆弱化しているため、アスタキサンチンが効率的に抽出されるのみならず、その特徴から様々な用途に使用することができる。例えば、色調改善剤、栄養補助剤、皮膚外用剤、免疫増強剤、眼疾患改善剤などとして用いることができる。脂溶性成分抽出用のキサントフィロマイセス・デンドロウスは、その細胞壁が脆弱化しているため、キサントフィロマイセス・デンドロウスを飼料、食品などと共に摂取することにより、アスタキサンチンを効率的に体内に吸収することができる。従って、アスタキサンチンが有する肉色や体色、卵黄の色調改善作用、抗酸化作用などを十分に利用することができる。
次に、本発明の脂溶性成分の製造方法について説明する。本発明の脂溶性成分の製造方法は、上述した脂溶性成分抽出用酵母から脂溶性成分を抽出する抽出工程を備える。
上述した脂溶性成分抽出用酵母は細胞壁が脆弱化している。そのため、従来から行われているような細胞壁を破壊又は脆弱化する処理を施さずとも、その後の抽出工程により、細胞内成分に含まれる脂溶性成分を抽出し、製造することができる。
脂溶性成分の抽出工程では、酵母菌体スラリー又は湿酵母菌体の状態である脂溶性成分抽出用酵母に対して、有機溶媒を用いて脂溶性成分を抽出する。有機溶媒としては、アセトン、エタノール、ヘキサン、クロロホルムなど、又はこれらを混合して使用することができる。有機溶媒に抽出された脂溶性成分は、エバポレータなどを用いて有機溶媒を蒸発させることにより回収することができる。
次に、本発明の色調改善剤について説明する。本発明の色調改善剤は、脂溶性成分抽出用酵母を含む。上述の通り、脂溶性成分抽出用酵母の細胞壁は脆弱化している。そのため、養殖魚、養鶏等に脂溶性成分抽出用酵母を含む色調改善剤を飼料と共に摂取させると、養殖魚等の体内に効率的に吸収され、肉色や体色、卵黄の色調を改善することができる。
色調改善剤は、脂溶性成分抽出用酵母のみからなるものであってもよいが、脂溶性成分抽出用酵母と、食物繊維、各種オリゴ糖、多糖類などの配合剤とからなるものであってもよい。また、色調改善作用のみならず、栄養補助剤の機能を同時に持たせるために、さらにビタミン、ミネラルなどが含まれていてもよい。
以下、実施例を挙げて本発明について更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例においては、培地液のpH値4を酵母の増殖可能pH領域の下限とした。
(実施例1)
<キサントフィロマイセス・デンドロウスの培養>
傾斜培地に保存されたキサントフィロマイセス・デンドロウスの菌株、ATCC24202株をスケールアップするため、本培養に先立ち、糖濃度6質量%のモルトエキス希釈液の培地でATCC24202株の前培養を行った。即ち、傾斜培地から菌株を植菌し、温度20℃で48時間培養し、前培養液を得た。
本培養の培地として、糖濃度6質量%のモルトエキス希釈液に対して硫酸アンモニウムが0.3質量%添加された培地液90mlを三角フラスコ(内容積:500ml)内に用意した。前培養で得た培養液10mlを本培養の培地液に接種した。本培養では、回転速度180rpm、温度20℃の条件で144時間振盪培養した。
<アスタキサンチンの抽出>
本培養終了後、培地液100mlを遠心分離装置にかけ、培地液に含まれるキサントフィロマイセス・デンドロウスの酵母菌体(以下、「酵母菌体」という)を回収した。回収した酵母菌体を水で2回洗浄し、アスタキサンチンを抽出するためのスラリー状の酵母菌体を得た。
三角フラスコに上記スラリー状の酵母菌体100mgを入れ、さらにアセトン8mlを添加した。そして、この三角フラスコを温度5℃の冷暗所に3時間安置し、酵母菌体の細胞成分に含まれるアスタキサンチンをアセトンに抽出した。
<アスタキサンチン抽出量測定>
冷暗所に3時間安置した後、アセトンの液面に浮遊しているアスタキサンチンの質量を吸光光度計を用いて測定した。このように測定されたアスタキサンチンの質量を抽出に用いたキサントフィロマイセス・デンドロウスの乾燥酵母菌体(以下、「乾燥酵母菌体」という)の質量で除した値、即ち、乾燥酵母菌体の単位質量あたりのアスタキサン抽出質量をアスタキサンチン抽出量(μg/g)とした。なお、乾燥酵母菌体の質量は、本培養終了時の培地液の酵母菌体濃度測定結果から算出した。培地液の酵母菌体濃度測定について、以下に説明する。
<培地液の酵母菌体濃度測定>
本培養において、本培養開始直後、本培養開始後24時間、48時間、72時間、96時間、120時間及び144時間に培地液の酵母菌体濃度測定を行った。単位体積あたりの培地液に含まれる乾燥酵母菌体の質量を培地液の酵母菌体濃度(g/l)とした。
本培養中の上記時間において、酵母菌体を含有する培地液30mlを採取した。採取した培地液を遠心分離装置にかけ、培地液に含まれる酵母菌体を回収した。回収した酵母菌体を温度105℃の恒温槽に24時間入れて乾燥させた。このようにして得られた乾燥酵母菌体の質量を測定し、この値を採取した培地液の体積で除して培地液の酵母菌体濃度を算出した。
<培地液のpH測定>
また、本培養において、本培養開始直後、本培養開始後24時間、48時間、72時間、96時間、120時間及び144時間に培地液のpH測定を行った。培地液のpHは、ガラス電極式水素イオン濃度計を用いて測定した。
(比較例1)
本培養において、培地液のpHが4.5に維持されるように、培地液に対してアンモニア水を徐々に添加したこと以外は実施例1と同様にして、酵母菌体の培養、アスタキサンチンの抽出、及びアスタキサンチン抽出量測定を行った。
(比較例2)
本培養の培地として、糖濃度6質量%のモルトエキス希釈液を用い、培地液に硫酸アンモニウムが添加されていないこと以外は実施例1と同様にして、酵母菌体の培養、アスタキサンチンの抽出、及びアスタキサンチン抽出量測定を行った。
(比較例3)
酵母菌体からのアスタキサンチンの抽出に酸による細胞壁破壊処理を施した。即ち、本培養において、比較例1と同様に培地液のpHが4.5に維持されるように、培地液に対してアンモニア水を徐々に添加して、酵母菌体を培養した。このようにして得られたスラリー状の酵母菌体を三角フラスコに入れ、濃度が1Nとなるように希硫酸を添加した。この三角フラスコを沸騰水浴中に浸し、5分間煮沸した後急冷した。このように細胞壁破壊処理を施した酵母菌体を遠心分離装置を用いて回収した。回収した酵母菌体を水で2回洗浄し、アスタキサンチンを抽出するためのスラリー状の酵母菌体を得た。スラリー状の酵母菌体を得た後は、実施例1と同様にして、アスタキサンチンの抽出、及び、アスタキサンチン抽出量測定を行った。
(比較例4)
本培養の途中に培地液に対して乳酸を添加して、培地液のpHを急激に低下させ、培養終了時のpHを増殖可能pH領域の下限未満とした。即ち、本培養開始後48時間から乳酸添加による培地液のpH調整を開始し、培地液のpHを2.2に維持した。そして、乳酸添加開始後32時間で本培養を終了した。
比較例4はさらに以下の点で実施例1と異なる。即ち、本培養の培地として、糖濃度6質量%のモルトエキス希釈液に対して硫酸アンモニウムが0.3質量%、及び炭酸カルシウムが1000ppm添加された培地液を用いた。なお炭酸カルシウムは、酵母菌体の増殖による培地液のpH低下速度を緩和し、酵母菌体が増殖する期間を確保するために添加した。このような条件での本培養を行った後、実施例1と同様にして、アスタキサンチンの抽出、及び、アスタキサンチン抽出量測定を行った。
実施例1及び比較例1〜4におけるアスタキサンチン抽出量測定結果を表1に示す。表1には、本培養開始時及び本培養終了時における培地液のpH及び培地液の酵母菌体濃度をあわせて示した。
Figure 0005017124
実施例1の本培養中における培地液のpH及び培地液の酵母濃度の経時的変化を表すグラフを図1に示す。培地液の酵母濃度の上昇は酵母菌体が増殖していることを示す。図1では本培養開始から48時間において、急激に酵母菌体が増殖している。酵母菌体の増殖にしたがって培地液のpHが2.5程度まで低下している。この値は、酵母の増殖可能pH領域の下限である4を大きく下回っている。従って、本培養開始から48時間以上経過した段階では、酵母菌体の増殖が抑制され、培地液のpH低下も抑制されている。
一方、比較例1では、本培養中において、培地液のpHが増殖可能pH領域内である4.5に維持されている。表1に示すように、比較例1においても本培養開始時と本培養終了時の培地の酵母菌体濃度を比較すると、酵母菌体は増殖していることが分かる。しかし、酵母菌体の増殖にしたがって培地液のpHが低下していないため、アスタキサンチンの抽出量は実施例1と比べて低い。
また、比較例2では、培地液のpHを一定に調整しているわけではないが、培地液に硫酸アンモニウムが含まれていないため、酵母菌体の増殖にしたがって代謝される酸性基の量が十分でない。このため、本培養終了時の培地液のpHが十分に低下せず、増殖可能pH領域内である4.0に留まっている。
一方、比較例3では、比較例1と同様に行った本培養後において、酸を用いて酵母菌体の細胞壁破壊処理を施しているため、アスタキサンチン抽出量が比較的高い。このような酸を用いる細胞壁破壊処理は、分析のために細胞成分に含まれる全アスタキサンチンを抽出する場合に行うのが一般的であり、細胞壁破壊処理は、工業的に見合うものではない。比較例3では、アスタキサンチン抽出工程の前工程において、酸による細胞壁破壊処理工程、アルカリによる中和工程及び中和で発生した塩の洗浄工程などが必要であり、効率的にアスタキサンチンを抽出することができなかった。
また、比較例4の本培養中における培地液のpH及び培地液の酵母濃度の経時的変化を表すグラフを図2に示す。図2では、図1と同様に本培養開始から48時間の間において、急激に酵母菌体が増殖している。酵母菌体の増殖にしたがって培地液のpHが4.4程度まで低下している。この値は、酵母の増殖可能pH領域内であり、実施例1の同じ時間でのpH2.5と比較すると高い。これは、培地液に添加された炭酸カルシウムの影響と考えられる。増殖可能pH領域内から乳酸を用いて外部から急激に培地液のpHを低下させたのでは、実施例1のような高いアスタキサンチン抽出量は得られないことがわかる。
なお、アスタキサンチン抽出量は培養バッチによって微妙に異なるため、上記実施例1及び比較例1、3と同様な本培養及び各種測定をさらにそれぞれ2回行ったが、いずれも実施例1及び比較例1、3と同様な結果となった。
(実施例2)
本培養の培地として、糖濃度6質量%のモルトエキス希釈液に対して硫酸アンモニウムの代わりに硝酸アンモニウム0.3質量%が添加された培地液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、酵母菌体の培養、アスタキサンチンの抽出、及びアスタキサンチン抽出量測定を行った。
(実施例3)
本培養の培地として、糖濃度6質量%のモルトエキス希釈液に対して硫酸アンモニウムの代わりに塩化アンモニウム0.3質量%が添加された培地液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、酵母菌体の培養、アスタキサンチンの抽出、及びアスタキサンチン抽出量測定を行った。
(実施例4)
本培養の培地として、糖濃度6質量%のモルトエキス希釈液に対して硫酸アンモニウムの代わりにリン酸アンモニウム0.3質量%が添加された培地液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、酵母菌体の培養、アスタキサンチンの抽出、及びアスタキサンチン抽出量測定を行った。
実施例2〜4におけるアスタキサンチン抽出量測定結果を表2に示す。表2には、本培養開始時及び本培養終了時における培地液のpH及び培地液の酵母菌体濃度をあわせて示した。
Figure 0005017124
表2に示すように、実施例2及び3におけるアスタキサンチン抽出量は300μg/g以上であり、高い抽出量を示した。一方、培地液に含まれるアンモニア塩がリン酸アンモニウムである実施例4のアスタキサンチン抽出量は、培地液にアンモニア塩を含まない培地液を用いた比較例2と比べると高いが、その値は100μg/g程度に留まっている。この理由は、リン酸アンモニウムが代謝されることにより生じる酸性基、PO 3−、HPO 2−、HPO 及びPO の培地液中の解離度が比較的低いため、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどのアンモニア塩を添加した場合と比較すると培地液のpHが十分に低下しないためと考えられる。しかし、リン酸アンモニウムに含まれるリンが酵母菌体の増殖に好影響を与え、本培養終了時の培地液の酵母菌体濃度は17.2g/lと高かった。従って、培地液にリン酸アンモニウムを添加する場合は、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどのアンモニア塩と併用することが好ましいと考えられる。このようにすると、実施例4と同様な本培養方法であっても酵母菌体濃度及びアスタキサンチン抽出量の両方を高水準とすることが期待できる。
(実施例5)
本培養の培地として、硫酸アンモニウムが0.3質量%添加された糖濃度6質量%のモルトエキス希釈液の代わりに合成培地を用いたこと以外は実施例1と同様にして、酵母菌体の培養、アスタキサンチンの抽出、及びアスタキサンチン抽出量測定を行った。なお、合成培地の組成は表3の通りとした。
Figure 0005017124
(実施例6)
キサントフィロマイセス・デンドロウスの菌株をATCC24202株の代わりにアスタキサンチン高生産性付与変異株を用いたこと以外は実施例1と同様にして、酵母菌体の培養、アスタキサンチンの抽出、及びアスタキサンチン抽出量測定を行った。
実施例5及び6におけるアスタキサンチン抽出量測定結果を表4に示す。表4には、本培養開始時及び本培養終了時における培地液のpH及び培地液の酵母菌体濃度をあわせて示した。
Figure 0005017124
(実施例7)
本培養を通気攪拌培養が可能な培養装置を用いて行うため、傾斜培地に保存されたキサントフィロマイセス・デンドロウスの菌株、ATCC24202株を2段階でスケールアップした。傾斜培地から糖濃度6質量%のモルトエキス希釈液の培地に植菌後、温度20℃で48時間培養し、第1の前培養を行った。
第2の前培養の培地として、糖濃度6質量%のモルトエキス希釈液の培地液90mlを500mlの三角フラスコ内に用意した。このような三角フラスコを2つ用意した。それぞれの三角フラスコ内の培地液に対して、第1の前培養で得た培養液10mlを接種した。第2の前培養では、回転速度180rpm、温度20℃の条件で48時間振盪培養した。
本培養の培地として、糖濃度6質量%のモルトエキス希釈液に対して硫酸アンモニウムが0.3質量%添加された培地液1.8リットルを培養装置の培養槽(内容積:5リットル)内に用意した。この培養装置は温度制御装置及び通気攪拌装置を有している。第2の前培養で得た培養液180mlを培養装置内の培養液に添加し、温度20℃の条件で144時間通気攪拌培養した。
本培養を終了した後は、実施例1と同様にして、アスタキサンチンの抽出、及びアスタキサンチン抽出量測定を行った。
(実施例8)
本培養において、培地液の糖濃度が3%を切るまで培地液のpHが4.5となるように調整した。培地液のpHを4.5に調整するため、培地液に対して、アンモニア水を徐々に添加した。本培養開始から48時間後に培地液の糖濃度が3%を下回った。その後は、培地液のpH調整は行わなかった。このような培地液のpH調整を本培養にて実施したこと以外は、実施例7と同様にして酵母菌体の培養を行った。本培養の終了後、実施例1と同様にして、アスタキサンチンの抽出、及びアスタキサンチン抽出量測定を行った。なお、培地液の糖濃度測定は、HPLCを用いて行った。
(比較例5)
本培養において、培地液のpHが4.5となるように、培地液に対してアンモニア水を徐々に添加したこと以外は、実施例7と同様にして酵母菌体の培養を行った。本培養の終了後、実施例1と同様にして、アスタキサンチンの抽出、及びアスタキサンチン抽出量測定を行った。
実施例7、8及び比較例5におけるアスタキサンチン抽出量測定結果を表5に示す。表5には、本培養開始時及び本培養終了時における培地液のpH及び培地液の酵母菌体濃度をあわせて示した。
Figure 0005017124
実施例8の本培養中における培地液のpH及び培地液の酵母濃度の経時的変化を表すグラフを図3に示す。また、比較例5の本培養中における培地液のpH及び培地液の酵母濃度の経時的変化を表すグラフを図4に示す。
実施例8では、図3に示す通り、培地液のpHが調整させている本培養開始から48時間において、酵母菌体が順調に増殖している。培地液のpH調整をしなくなった後、さらに48時間程度、酵母菌体は増殖を続け、増殖にしたがって培地液のpHが低下し、その値は2.5程度まで低下している。この値は、酵母の増殖可能pH領域の下限である4を大きく下回っている。
実施例7と実施例8のアスタキサンチン抽出量を比較すると、実施例8の方が高かった。この理由は、実施例8では本培養の前段階において培地液のpHを酵母の増殖可能pH領域内にすることによって、十分に酵母菌体を増殖させることができたためと考えられる。
一方、本培養中において、培地液のpHが増殖可能pH領域内であるである4.5に維持されている比較例5では、図4に示すように、本培養開始から120時間において、酵母菌体は増殖している。しかし、酵母菌体の増殖にしたがって培地液のpHが低下していないため、アスタキサンチンの抽出量は実施例7及び8と比べて低かった。
本発明によれば、脆弱化した細胞壁を有し、酵母の細胞内成分に含まれる脂溶性成分を効率的に抽出し得る脂溶性成分抽出用酵母及びその生産方法が提供される。また、本発明によれば、脂溶性成分の製造方法及び脂溶性成分抽出用酵母を用いた色調改善剤が提供される。

Claims (8)

  1. 抽出すべきアスタキサンチンを有する酵母を、増殖にしたがって培地のpHが低下して当該培地のpHが4未満となるまで増殖させる増殖工程を備える、アスタキサンチン抽出用酵母の生産方法。
  2. 前記増殖工程において、増殖にしたがって代謝された栄養分から酸性基が生じることにより培地のpHが低下する請求項1に記載のアスタキサンチン抽出用酵母の生産方法。
  3. 前記酸性基がSO 2−、HSO 、NO 、PO 3−、HPO 2−、HPO 、PO 及びClからなる群より選ばれる少なくとも1つである請求項2に記載のアスタキサンチン抽出用酵母の生産方法。
  4. 前記酵母がキサントフィロマイセス・デンドロウス(Xanthophyllomyces dendrorhous)である請求項1〜3のいずれか一項に記載のアスタキサンチン抽出用酵母の生産方法。
  5. 前記培地がモルトエキス希釈液を含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のアスタキサンチン抽出用酵母の生産方法。
  6. 請求項1〜5のいずれか一項に記載の生産方法により生産されるアスタキサンチン抽出用酵母。
  7. 請求項1〜5のいずれか一項に記載の生産方法により生産されるアスタキサンチン抽出用酵母からアスタキサンチンを抽出する抽出工程を備えるアスタキサンチンの製造方法。
  8. 請求項6に記載のアスタキサンチン抽出用酵母を含む色調改善剤。
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