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JP5142162B2 - リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法及びリチウムイオン二次電池用正極 - Google Patents
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JP5142162B2 - リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法及びリチウムイオン二次電池用正極 - Google Patents

リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法及びリチウムイオン二次電池用正極 Download PDF

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Description

本発明は、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法と、得られた正極活物質を含むリチウムイオン二次電池用正極に関する。
非水電解質二次電池の一種であるリチウムイオン二次電池は、充放電容量の大きな電池であり、主として携帯電子機器用の電池として用いられている。また、リチウムイオン二次電池は、電気自動車用の電池としても期待されている。
リチウムイオン二次電池の正極活物質としては、コバルトやニッケル等のレアメタルを含むものが一般的である。しかし、これらの金属は流通量が少なく高価であるため、近年では、これらのレアメタルに代わる物質を用いた正極活物質が求められている。
またリチウムイオン二次電池の正極活物質として、硫黄を用いる技術が知られている。硫黄を正極活物質として用いることで、リチウムイオン二次電池の充放電容量を大きくすることができる。例えば、硫黄を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池の充放電容量は、一般的な正極材料であるコバルト酸リチウム正極材料を用いたリチウムイオン二次電池の充放電容量の約6倍である。
しかし、正極活物質として単体硫黄を用いたリチウムイオン二次電池においては、放電時に硫黄とリチウムとの化合物が生成する。この硫黄とリチウムとの化合物は、リチウムイオン二次電池の非水系電解液(例えば、エチレンカーボネートやジメチルカーボネート等)に可溶である。このため、正極活物質として硫黄を用いたリチウムイオン二次電池は、充放電を繰り返すと、硫黄化合物の電解液への溶出により次第に劣化し、電池容量が低下するという問題があった。
そこで硫黄化合物の電解液への溶出を抑制するために、硫黄を含む正極活物質(以下、硫黄系正極活物質と呼ぶ)に、例えば炭素材料等の硫黄以外の材料を配合する技術が提案されている(例えば、特開2002−154815号公報参照)。
特開2002−154815号公報には、硫黄系正極活物質として、炭素と硫黄を主な構成要素とするポリ硫化カーボンを用いる技術が紹介されている。このポリ硫化カーボンは、直鎖状不飽和ポリマーに硫黄が付加されたものである。同公報によれば、この硫黄系正極活物質は、充放電の繰り返しに伴うリチウムイオン二次電池の充放電容量低下を抑制できるとされている。以下、充放電の繰り返しに伴って充放電容量が低下するリチウムイオン二次電池の特性を「サイクル特性」と呼ぶ。充放電容量の低下度合いが小さいリチウムイオン二次電池はサイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池であり、充放電容量の低下度合いの大きなリチウムイオン二次電池はサイクル特性に劣るリチウムイオン二次電池である。
しかし、特開2002−154815号公報に紹介されている硫黄系正極活物質によっても、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を充分に向上させることはできなかった。これは、放電時に硫黄とリチウムとが結合することにより、ポリ硫化カーボンに含まれる−CS−CS−結合や−S−S−結合が切断されて、ポリマーが切断されるためだと考えられている。
そこで本発明の発明者らは、ポリアクリロニトリルと硫黄との混合原料を熱処理して得られる硫黄系正極活物質を発明した(国際公開第2010/044437号参照)。この正極活物質を正極に用いたリチウムイオン二次電池の充放電容量は大きく、かつ、この正極活物質を正極に用いたリチウムイオン二次電池はサイクル特性に優れる。
その一方で、ポリアクリロニトリルは比較的高価な材料である。また、この正極活物質を正極に用いたリチウムイオン二次電池は、ポリアクリロニトリル原料粉末の品質(特に粒径)によって充放電容量、サイクル特性等の電池性能が大きく左右される。品質の一定なポリアクリロニトリルはさらに高価である。このため、国際公開第2010/044437号に開示されている硫黄系正極活物質によると、大きな充放電容量を持ち、かつサイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を、安価に提供し難いという問題があった。
特開2002−154815号公報 国際公開第2010/044437号
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、大きな充放電容量を有するリチウムイオン二次電池を提供できる硫黄系正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池用正極を提供することを目的とする。
本発明の発明者らは、鋭意研究の結果、硫黄系正極活物質の炭素材料として3環以上の六員環が縮合してなる多環芳香族炭化水素を用いることで、大きな充放電容量を発現できる硫黄系正極活物質を製造できることを見いだした。
すなわち本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法の特徴は、3環以上の六員環が縮合してなる多環芳香族炭化水素から選ばれる少なくとも一種の選択多環芳香族炭化水素と、ポリアクリロニトリル粉末と、硫黄粉末とを含む原料を混合して混合原料とする混合工程と、混合原料を加熱する熱処理工程と、を行い、
選択多環芳香族炭化水素由来の第一の炭素骨格と第一の炭素骨格と結合した硫黄(S)とからなる第一硫黄系正極活物質と、ポリアクリロニ トリル由来の第二の炭素骨格と第二の炭素骨格と結合した硫黄(S)とからなる第二硫黄系正極活物質と、を含む硫黄系正極活物質を製造することにある。
そして上記製造方法によって製造される硫黄系正極活物質を含む本発明のリチウムイオン二次電池用正極の特徴は、3環以上の六員環が縮合してなる多環芳香族炭化水素から選ばれる少なくとも一種の選択多環芳香族炭化水素と、ポリアクリロニトリル粉末と、硫黄粉末とを含む原料を混合して混合原料とする混合工程と、該混合原料を加熱する熱処理工程と、を行うことにより製造された、
選択多環芳香族炭化水素由来の第一の炭素骨格と第一の炭素骨格と結合した硫黄(S)とからなる第一硫黄系正極活物質と、ポリアクリロニトリル由来の第二の炭素骨格と第二の炭素骨格と結合した硫黄(S)とからなる第二硫黄系正極活物質と、を含むことにある。
本発明の硫黄系正極活物質の製造方法によると、高い充放電容量をもつリチウムイオン二次電池を提供する硫黄系正極活物質を製造することができる。また、本発明のリチウムイオン二次電池用正極によると、高い充放電容量をもつリチウムイオン二次電池を提供することができ、第二硫黄系正極活物質をさらに含むことでサイクル特性を向上させることができる。
参考例の硫黄系正極活物質の製造方法で用いた反応装置を模式的に表す説明図である。 参考例1の硫黄系正極活物質をX線回折した結果を表すグラフである。 実施例1の硫黄系正極活物質をX線回折した結果を表すグラフである。 比較例1の硫黄系正極活物質をX線回折した結果を表すグラフである。 参考例1の硫黄系正極活物質をラマンスペクトル分析した結果を表すグラフである。 実施例1の硫黄系正極活物質をラマンスペクトル分析した結果を表すグラフである。 比較例1の硫黄系正極活物質をラマンスペクトル分析した結果を表すグラフである。 参考例1の硫黄系正極活物質をFT−IRスペクトル分析した結果を表すグラフである。 実施例1の硫黄系正極活物質をFT−IRスペクトル分析した結果を表すグラフである。 比較例1の硫黄系正極活物質をFT−IRスペクトル分析した結果を表すグラフである。 アントラセンをFT−IRスペクトル分析した結果を表すグラフである。 参考例1のリチウムイオン二次電池のサイクル試験の結果を表すグラフである。 実施例1のリチウムイオン二次電池の充放電曲線を表すグラフである。 実施例1のリチウムイオン二次電池のサイクル試験の結果を表すグラフである。 参考例2のリチウムイオン二次電池の充放電曲線を表すグラフである。 参考例2のリチウムイオン二次電池のサイクル試験の結果を表すグラフである。 実施例2のリチウムイオン二次電池の充放電曲線を表すグラフである。 実施例2のリチウムイオン二次電池のサイクル試験の結果を表すグラフである。 比較例1のリチウムイオン二次電池の充放電曲線を表すグラフである。 比較例1のリチウムイオン二次電池のサイクル試験の結果を表すグラフである。
(硫黄系正極活物質の製造方法)
本発明においては、第一硫黄系正極活物質の原料として、3環以上の六員環が縮合した多環芳香族炭化水素の少なくとも一種と硫黄とを用いる。多環芳香族炭化水素(Polycyclic aromatic hydrocarbon、PAH)は、ヘテロ原子や置換基を含まない芳香環が縮合した炭化水素の総称であり、四員環、五員環、六員環、そして七員環からなるものがあるが、このうち、本発明では、ベンゼン環の構造である六員環が直鎖に3環以上連なった構造をもつアセン類、および、3環以上の六員環が直鎖でなく折れ曲がった構造をもつ化合物などのうち少なくとも一種と硫黄とを用いることが好ましい。
複数の芳香環が辺を共有しながら直鎖状に連なった多環芳香族炭化水素であるアセン類としては、2環のナフタレン、3環のアントラセン、4環のテトラセン、5環のペンタセン、6環のヘキサセン、7環のヘプタセン、8環のオクタセン、9環のノナセン、及び10環以上の芳香環が連なったものがあり、これらの群から選ばれる少なくとも一種を用いることができる。中でも安定性が高い3環〜6環のものが望ましい。
また、3環以上の六員環が直鎖でなく折れ曲がった構造をもつ多環芳香族炭化水素としては、フェナントレン、ベンゾピレン、クリセン、ピレン、ピセン、ペリレン、トリフェニレン、コロネン、及びこれらより多くの環以上の芳香環が連なったものがあり、これらの群から選ばれる少なくとも一種を用いることができる。またこのような多環芳香族炭化水素を含む例えば、石油ピッチ、石炭ピッチなどを用いてもよい。
先ず第一硫黄系正極活物質の製造方法について説明する。この製造方法は、3環以上の六員環が縮合してなる多環芳香族炭化水素から選ばれる少なくとも一種の選択多環芳香族炭化水素と硫黄粉末とを含む原料を混合して混合原料とする混合工程と、混合原料を加熱する熱処理工程と、を行う。混合工程は、選択多環芳香族炭化水素を粉砕し硫黄粉末と混合してもよいし、選択多環芳香族炭化水素を溶媒に溶解した溶液と硫黄粉末を混合してもよい。混合手段は、ミキサー、各種ミルなどを用いることができる。
熱処理工程では、選択多環芳香族炭化水素と硫黄とを反応させる。この反応は、選択多環芳香族炭化水素の量に対して硫黄の量を過大として反応させ、硫黄を高濃度で含む正極活物質とすることが望ましい。この熱処理工程の温度は、選択多環芳香族炭化水素の少なくとも一部と硫黄の少なくとも一部とが液体となる条件で行うことが望ましい。このようにすることで、選択多環芳香族炭化水素と硫黄との接触面積を充分に大きくでき、硫黄を充分に含みかつ硫黄の脱離が抑制された硫黄系正極活物質を得ることができる。
熱処理工程では、あまり高温にすると硫黄が気化するため反応系内の硫黄濃度が低くなる場合がある。そのような場合には、硫黄を還流しながら反応させることが望ましい。このようにすることで、硫黄を充分に含む硫黄系正極活物質を得やすくなる。熱処理工程において硫黄を還流する場合、選択多環芳香族炭化水素の融点以上で、硫黄が気化する温度以上の温度とすれば良い。ここで言う気化とは、硫黄が液体または固体から気体に相変化することを指し、沸騰、蒸発、昇華の何れによっても良い。参考までに、α硫黄(斜方硫黄、常温付近で最も安定な構造である)の融点は112.8℃、β硫黄(単斜硫黄)の融点は119.6℃、γ硫黄(単斜硫黄)の融点は106.8℃である。硫黄の沸点は444.7℃である。ところで、硫黄の蒸気圧は高いため、混合原料の温度が150℃以上になると、硫黄の蒸気の発生が目視でも確認できる。したがって、混合原料の温度が150℃以上であれば硫黄の還流は可能である。なお、熱処理工程において硫黄を還流する場合には、既知構造の還流装置を用いて硫黄を還流すれば良い。
ここで、熱処理工程を如何なる雰囲気で行うかについては特に問わないが、選択多環芳香族炭化水素と硫黄との結合を妨げない雰囲気(例えば、水素を含有しない雰囲気、非酸化性雰囲気)下で行うのが好ましい。例えば、雰囲気中に水素が存在すると、反応系中の硫黄が水素と反応して硫化水素となるため、反応系中の硫黄が失われる場合があるからである。また、ここでいう非酸化性雰囲気とは、酸化反応が進行しない程度の低酸素濃度とした減圧状態、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気、硫黄ガス雰囲気等を含む。
混合原料における選択多環芳香族炭化水素および硫黄の形状、粒径等は特に問わない。熱処理工程において選択多環芳香族炭化水素と硫黄とが液体状で接触するのが好ましいため、選択多環芳香族炭化水素や硫黄の粒径が不均一であったり大きかったりする場合にも、選択多環芳香族炭化水素と硫黄とが液体状で接触する条件とすれば、選択多環芳香族炭化水素と硫黄とが充分接触するためである。また、混合原料中の選択多環芳香族炭化水素と硫黄とは、均一に分散しているのが好ましいが、不均一であっても良い。
熱処理工程における混合原料の加熱時間は、加熱温度に応じて適宜設定すれば良く、特に限定しない。上述した好ましい温度で混合原料を加熱する場合には、10分〜10時間程度加熱するのが好ましく、30分〜6時間加熱するのがより好ましい。
第一硫黄系正極活物質の製造方法において、混合原料中の選択多環芳香族炭化水素と硫黄との配合比にも好ましい範囲が存在する。選択多環芳香族炭化水素に対する硫黄の配合量が過小であると選択多環芳香族炭化水素に充分量の硫黄を取り込めず、選択多環芳香族炭化水素に対する硫黄の配合量が過大であると、第一硫黄系正極活物質中に遊離の硫黄(単体硫黄)が多く残存して、リチウムイオン二次電池内の特に電解液を汚染するためである。混合原料中の選択多環芳香族炭化水素と硫黄との配合比は、質量比で選択多環芳香族炭化水素:硫黄が1:0.5〜1:10であるのが好ましく、1:1〜1:7であるのがより好ましく、1:2〜1:5であるのが特に好ましい。
なお、選択多環芳香族炭化水素に対する硫黄の配合量を過大とすれば、熱処理工程において選択多環芳香族炭化水素に充分な量の硫黄を容易に取り込むことができる。そして選択多環芳香族炭化水素に対して硫黄を必要以上の量で配合したとしても、熱処理工程後の被処理体から過剰の単体硫黄を除去する単体硫黄除去工程を行うことで、上述した単体硫黄による悪影響を抑制できる。詳しくは、混合原料中の選択多環芳香族炭化水素と硫黄との配合比を、質量比で1:2〜1:10とする場合、熱処理工程後の被処理体を、減圧しつつ200℃〜250℃で加熱する(単体硫黄除去工程)ことで、選択多環芳香族炭化水素に充分な量の硫黄を取り込みつつ、残存する単体硫黄による悪影響を抑制できる。熱処理工程後の被処理体に単体硫黄除去工程を施さない場合には、この被処理体をそのまま硫黄系正極活物質として用いれば良い。また、熱処理工程後の被処理体に単体硫黄除去工程を施す場合には、単体硫黄除去工程後の被処理体を硫黄系正極活物質として用いれば良い。
混合原料は、選択多環芳香族炭化水素および硫黄のみで構成しても良いし、正極活物質に配合可能な一般的な材料(導電助剤等)を配合しても良い。
上記製造方法によると、正極活物質の材料としてコバルト等のレアメタルを配合するかわりに選択多環芳香族炭化水素と硫黄とが反応してなる物質を配合したことで、リチウムイオン二次電池の充放電容量を向上させる第一硫黄系正極活物質を容易に製造することができる。
第一硫黄系正極活物質は、例えば、出発物質である選択多環芳香族炭化水素としてペンタセンを選択した場合には、化1式で示されるようなヘキサチアペンタセン類似の構造となっていると考えられるが、その構造は明らかではない。また、選択多環芳香族炭化水素としてアントラセンを用いた硫黄正極活物質は、FT−IRスペクトルにおいて、1056cm-1付近と、840cm-1付近と、にそれぞれピークが存在し、アントラセンのFT−IRスペクトルとは全く異なっているので、FT−IRスペクトルで同定することが可能である。
Figure 0005142162
第一硫黄系正極活物質を元素分析すると、硫黄(S)と炭素(C)とが大部分を占め、少量の酸素および水素が検出される。硫黄(S)と炭素(C)の組成比は、原子比(S/C)で1/5以上の範囲で含まれていることが望ましい。この範囲より硫黄が少ないと、リチウムイオン二次電池用正極に用いた時に充放電特性が低下する場合がある。
本発明のリチウムイオン二次電池用正極は、ポリアクリロニトリル由来の第二の炭素骨格と、第二の炭素骨格と結合した硫黄(S)とからなる第二硫黄系正極活物質をさらに含む。この第二硫黄系正極活物質をさらに含むことで、サイクル特性がさらに向上するようになる。その理由は明らかではないが、ポリアクリロニトリルと硫黄との結合力が大きいので硫黄が固定化されるためと考えられている。
この第二硫黄系正極活物質をさらに含む本発明に係る硫黄系正極活物質を製造するには、3環以上の六員環が縮合してなる多環芳香族炭化水素から選ばれる少なくとも一種の選択多環芳香族炭化水素と硫黄との反応により形成された第一の硫黄系正極活物質と第二硫黄系正極活物質とを物理的に混合することが考えられる。しかし安定性が懸念される場合があるため、安定性を高めるためには、3環以上の六員環が縮合してなる多環芳香族炭化水素から選ばれる少なくとも一種の選択多環芳香族炭化水素と、ポリアクリロニトリル粉末と、硫黄粉末とを含む原料を混合して混合原料とする混合工程と、この混合原料を加熱する熱処理工程と、を行うことが望ましい。ポリアクリロニトリル粉末としては、重量平均分子量が10,000〜300,000程度の範囲内にあるものが好ましい。また、ポリアクリロニトリルの粒径については、電子顕微鏡によって観察した際に、0.5〜50μm程度の範囲内にあるものが好ましく、1〜10μm程度の範囲内にあるものがより好ましい。
混合原料中の選択多環芳香族炭化水素とポリアクリロニトリルとの合計量と、硫黄との配合比は、質量比で1:0.5〜1:10とすることができる。選択多環芳香族炭化水素とポリアクリロニトリルとの合計量に対する硫黄の配合量が過小であると選択多環芳香族炭化水素及びポリアクリロニトリルに充分量の硫黄を取り込めず、選択多環芳香族炭化水素とポリアクリロニトリルとの合計量に対する硫黄の配合量が過大であると、硫黄系正極活物質中に遊離の硫黄(単体硫黄)が多く残存して、リチウムイオン二次電池内の特に電解液を汚染するためである。混合原料中の選択多環芳香族炭化水素とポリアクリロニトリルとの合計量に対する硫黄の配合比は、質量比で1:0.5〜1:10であるのが好ましく、1:1〜1:7であるのがより好ましく、1:2〜1:5であるのが特に好ましい。
混合原料中にさらにポリアクリロニトリル粉末を含む場合の熱処理工程は、前述した選択多環芳香族炭化水素と硫黄とを反応させる製造方法と同様に行うことができる。
第二硫黄系正極活物質の混合量は、特に限定的ではないが、正極活物質全体に0〜80質量%程度とすることが好ましく、5〜60質量%程度とすることがより好ましく、10〜40質量%程度とすることが更に好ましい。換言すると、混合原料中の多環芳香族炭化水素とポリアクリロニトリルとの配合比は、質量比で90:10〜60:40であることが好ましい。
(リチウムイオン二次電池用正極)
本発明のリチウムイオン二次電池用正極は、上述した第一硫黄系正極活物質と第二硫黄系正極活物質とを含む本発明に係る硫黄系正極活物質を含む。このリチウムイオン二次電池用正極は、正極活物質以外は、一般的なリチウムイオン二次電池用正極と同様の構造にできる。例えば、本発明のリチウムイオン二次電池用正極は、硫黄系正極活物質、導電助剤、バインダ、および溶媒を混合した正極材料を、集電体に塗布することによって製作できる。
導電助剤としては、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)、炭素粉末、カーボンブラック(CB)、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、黒鉛、アルミニウムやチタンなどの正極電位において安定な金属の微粉末等が例示される。
バインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PolyVinylidene DiFluoride:PVDF)、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、メタクリル樹脂(PMA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、変性ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が例示される。
溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアルデヒド、アルコール、水等が例示される。これら導電助剤、バインダおよび溶媒は、それぞれ複数種を混合して用いても良い。これらの材料の配合量は特に問わないが、例えば、硫黄系正極活物質100質量部に対して、導電助剤20〜100質量部程度、バインダ10〜20質量部程度を配合するのが好ましい。また、その他の方法として、本発明の硫黄系正極活物質と上述した導電助剤およびバインダとの混合原料を乳鉢やプレス機などで混練しかつフィルム状にし、フィルム状の混合原料をプレス機等で集電体に圧着することで、本発明のリチウムイオン二次電池用正極を製造することもできる。
集電体としては、リチウムイオン二次電池用正極に一般に用いられるものを使用すれば良い。例えば、集電体としては、アルミニウム箔、アルミニウムメッシュ、パンチングアルミニウムシート、アルミニウムエキスパンドシート、ステンレススチール箔、ステンレススチールメッシュ、パンチングステンレススチールシート、ステンレススチールエキスパンドシート、発泡ニッケル、ニッケル不織布、銅箔、銅メッシュ、パンチング銅シート、銅エキスパンドシート、チタン箔、チタンメッシュ、カーボン不織布、カーボン織布等が例示される。このうち黒鉛化度の高いカーボンから成るカーボン不織布/織布集電体は、水素を含まず、硫黄との反応性が低いために、硫黄系正極活物質用の集電体として好適である。黒鉛化度の高い炭素繊維の原料としては、カーボン繊維の材料となる各種のピッチ(すなわち、石油、石炭、コールタールなどの副生成物)やポリアクリロニトリル繊維(PAN)等を用いることができる。
本発明のリチウムイオン二次電池用正極は、正極活物質として、上述した本発明の硫黄系正極活物質を含む。したがって本発明のリチウムイオン二次電池用正極を用いたリチウムイオン二次電池は、充放電容量が大きくサイクル特性に優れ、かつ安価に製造できる。
(リチウムイオン二次電池)
以下、本発明の硫黄系正極活物質を正極に用いたリチウムイオン二次電池の構成について説明する。以下、本発明の硫黄系正極活物質を正極に用いたリチウムイオン二次電池を単にリチウムイオン二次電池用と略する。なお、正極に関しては、上述したとおりである。
(負極)
負極材料としては、公知の金属リチウム、黒鉛などの炭素系材料、シリコン薄膜などのシリコン系材料、銅−錫やコバルト−錫などの合金系材料を使用できる。負極材料として、リチウムを含まない材料、例えば、上記した負極材料の内で、炭素系材料、シリコン系材料、合金系材料等を用いる場合には、デンドライトの発生による正負極間の短絡を生じ難い点で有利である。ただし、これらのリチウムを含まない負極材料を本発明の正極と組み合わせて用いる場合には、正極および負極が何れもリチウムを含まない。このため、負極および正極の何れか一方、または両方にあらかじめリチウムを挿入するリチウムプリドープ処理が必要となる。リチウムのプリドープ法としては公知の方法に従えば良い。例えば、負極にリチウムをドープする場合には、対極に金属リチウムを用いて半電池を組み、電気化学的にリチウムをドープする電解ドープ法によってリチウムを挿入する方法や、金属リチウム箔を電極に貼り付けたあと電解液の中に放置し電極へのリチウムの拡散を利用してドープする貼り付けプリドープ法によりリチウムを挿入する方法が挙げられる。また、正極にリチウムをプリドープする場合にも、上記した電解ドープ法を利用することが出来る。
リチウムを含まない負極材料としては、特に、高容量の負極材料であるシリコン系材料が好ましく、その中でも電極厚さが薄くて体積当りの容量で有利となる薄膜シリコンがより好ましい。
(電解質)
リチウムイオン二次電池に用いる電解質としては、有機溶媒に電解質であるアルカリ金属塩を溶解させたものを用いることができる。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルエーテル、γ−ブチロラクトン、アセトニトリル等の非水系溶媒から選ばれる少なくとも一種を用いるのが好ましい。電解質としては、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiI、LiClO4等を用いることができる。電解質の濃度は、0.5mol/l〜1.7mol/l程度であれば良い。なお、電解質は液状に限定されない。例えば、リチウムイオン二次電池がリチウムポリマー二次電池である場合、電解質は固体状(例えば、高分子ゲル状)をなす。
(その他)
リチウムイオン二次電池は、上述した負極、正極、電解質以外にも、セパレータ等の部材を備えても良い。セパレータは、正極と負極との間に介在し、正極と負極との間のイオンの移動を許容するとともに、正極と負極との内部短絡を防止する。リチウムイオン二次電池が密閉型であれば、セパレータには電解液を保持する機能も求められる。セパレータとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、アラミド、ポリイミド、セルロース、ガラス等を材料とする薄肉かつ微多孔性または不織布状の膜を用いるのが好ましい。リチウムイオン二次電池の形状は特に限定されず、円筒型、積層型、コイン型等、種々の形状にできる。
以下、本発明のリチウムイオン二次電池用正極を具体的に説明する。
参考例1
〈硫黄系正極活物質の製造〉
〔1〕混合工程
アントラセン粉末に平均粒径50μmの硫黄粉末を混合し、混合原料を調製した。混合原料中におけるアントラセンと硫黄との配合比率は、重量比で硫黄5質量部に対してアントラセンが1質量部となるようにした。
〔2〕装置
図1に示すように、反応装置1は、反応容器2、蓋3、熱電対4、アルミナ保護管40、2つのアルミナ管(ガス導入管5、ガス排出管6)、アルゴンガス配管50、アルゴンガスを収容したガスタンク51、トラップ配管60、水酸化ナトリウム水溶液61を収容したトラップ槽62、電気炉7、電気炉に接続されている温度コントローラ70を有する。
反応容器2としては、有底筒状をなすガラス管(石英ガラス製)を用いた。後述する熱処理工程において、反応容器2には混合原料9を収容した。反応容器2の開口部は、3つの貫通孔を持つガラス製の蓋3で閉じた。貫通孔の1つには、熱電対4を収容したアルミナ保護管40(アルミナSSA-S、株式会社ニッカトー製)を取り付けた。貫通孔の他の1つには、ガス導入管5(アルミナSSA-S、株式会社ニッカトー製)を取り付けた。貫通孔の残りの1つには、ガス排出管6(アルミナSSA-S、株式会社ニッカトー製)を取り付けた。なお、反応容器2は、外径60mm、内径50mm、長さ300mmであった。アルミナ保護管40は、外径4mm、内径2mm、長さ250mmであった。ガス導入管5およびガス排出管6は、外径6mm、内径4mm、長さ150mmであった。ガス導入管5およびガス排出管6の先端は、蓋3の外部(反応容器2内)に露出した。この露出した部分の長さは3mmであった。ガス導入管5およびガス排出管6の先端は、後述する熱処理工程においてほぼ100℃以下となる。このため、熱処理工程において生じる硫黄蒸気は、ガス導入管5およびガス排出管6から流出せず、反応容器2に戻される(還流する)。
アルミナ保護管40に入れた熱電対4の先端は、間接的に反応容器2中の混合原料9の温度を測定した。熱電対4で測定した温度は、電気炉7の温度コントローラ70にフィードバックした。
ガス導入管5にはアルゴンガス配管50を接続した。アルゴンガス配管50はアルゴンガスを収容したガスタンク51に接続した。ガス排出管6にはトラップ配管60の一端を接続した。トラップ配管60の他端は、トラップ槽62中の水酸化ナトリウム水溶液61に挿入した。なお、トラップ配管60およびトラップ槽62は、後述する熱処理工程で生じる硫化水素ガスのトラップである。
〔3〕熱処理工程
混合原料9を収容した反応容器2を、電気炉7(ルツボ炉、開口幅φ80mm、加熱高さ100mm)に収容した。このとき、ガス導入管5を介して反応容器2の内部にアルゴンを導入した。このときのアルゴンガスの流速は100ml/分であった。アルゴンガスの導入開始10分後に、アルゴンガスの導入を継続しつつ反応容器2中の混合原料9の加熱を開始した。このときの昇温速度は5℃/分であった。混合原料9が100℃になった時点で、混合原料9の加熱を継続しつつアルゴンガスの導入を停止した。混合原料9が約200℃になるとガスが発生した。混合原料9が360℃になった時点で加熱を停止した。加熱停止後、混合原料9の温度は400℃にまで上昇し、その後低下した。したがって、この熱処理工程において、混合原料9は400℃にまで加熱された。その後、混合原料9を自然冷却し、混合原料9が室温(約25℃)にまで冷却された時点で反応容器2から生成物(すなわち、熱処理工程後の被処理体)を取り出した。なお、このときの加熱時間は400℃で約5分であり、硫黄は還流された。
〔4〕単体硫黄除去工程
熱処理工程後の被処理体に残存する単体硫黄(遊離の硫黄)を除去するために、以下の工程をおこなった。
熱処理工程後の被処理体を乳鉢で粉砕した。粉砕物2gをガラスチューブオーブンに入れ、真空吸引しつつ200℃で3時間加熱した。このときの昇温温度は10℃/分であった。この工程により、熱処理工程後の被処理体に残存する単体硫黄が蒸発・除去され、単体硫黄を含まない(または、ほぼ含まない)参考例1の第一硫黄系正極活物質を得た。
〈リチウムイオン二次電池の製作〉
〔1〕正極
参考例1の第一硫黄系正極活物質3mgとアセチレンブラック2.7mgとポリテトラフルオロエチレン(PTFE)0.3mgとの混合物を、ヘキサンを適量加えつつ、メノウ製乳鉢でフィルム状になるまで混練し、フィルム状の正極材料を得た。この正極材料全量を、φ14mmの円形に打ち抜いたアルミニウムメッシュ(#100メッシュ)の上に置き、卓上プレス機で圧着し、100℃で3時間乾燥した。この工程で、参考例1のリチウムイオン二次電池用正極を得た。
〔2〕負極
負極としては、厚さ0.5mmの金属リチウム箔(本城金属社製)をφ14mmに打ち抜いたものを用いた。
〔3〕電解液
電解液としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを混合した混合溶媒に、LiPF6を溶解した非水電解質を用いた。エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとは体積比1:1で混合した。電解液中のLiPF6の濃度は、1.0mol/lであった。
〔4〕電池
〔1〕、〔2〕で得られた正極および負極を用いて、コイン電池を製作した。詳しくは、ドライルーム内で、厚さ25μmのポリプロピレン微孔質膜からなるセパレータ(「Celgard2400」Celgard社製)と、厚さ500μmのガラス不織布フィルタと、を正極と負極との間に挟装して、電極体電池とした。この電極体電池を、ステンレス容器からなる電池ケース(CR2032型コイン電池用部材、宝泉株式会社製)に収容した。電池ケースには〔3〕で得られた電解液を注入した。電池ケースをカシメ機で密閉して、参考例1のリチウムイオン二次電池を得た。
実施例1
参考例1と同様のアントラセン粉末と、平均粒径50μmの硫黄粉末と、平均粒径1μmのポリアクリロニトリル粉末(ポリサイエンス社製)とを混合して混合原料を調製した。混合原料中における配合比率は、固形分の重量比で硫黄5質量部に対してポリアクリロニトリルが1質量部、アントラセンが1質量部となるようにした。
この混合原料を用い、参考例1と同様の装置を用いて参考例1と同様に熱処理工程を行い、その後、参考例1と同様に単体硫黄除去工程を行って、実施例1の硫黄系正極活物質を得た。
そして実施例1の硫黄系正極活物質を用い、参考例1と同様にして実施例1のリチウムイオン二次電池用正極を形成し、参考例1と同様にして実施例1のリチウムイオン二次電池を得た。
参考例2
石炭ピッチ粉末(等方性ピッチ、CAS番号65996-93-2)1質量部と硫黄粉末5質量部とを乳鉢で混合・粉砕して、混合原料を調製した。この混合原料を用い、参考例1と同様の装置を用いて参考例1と同様に熱処理工程を行い、その後、参考例1と同様に単体硫黄除去工程を行って、参考例2の硫黄系正極活物質を得た。
そして参考例2の硫黄系正極活物質を用い、参考例1と同様にして参考例2のリチウムイオン二次電池用正極を形成し、参考例1と同様にして参考例2のリチウムイオン二次電池を得た。
実施例2
石炭ピッチ粉末(等方性ピッチ、CAS番号65996-93-2)と、平均粒径50μmの硫黄粉末と、平均粒径1μmのポリアクリロニトリル粉末(ポリサイエンス社製)とを混合して混合原料を調製した。混合原料中における配合比率は、固形分の重量比で硫黄5質量部に対してポリアクリロニトリルが1質量部、石炭ピッチ粉末が1質量部となるようにした。
この混合原料を用い、参考例1と同様の装置を用いて参考例1と同様に熱処理工程を行い、その後、参考例1と同様に単体硫黄除去工程を行って、実施例2の硫黄系正極活物質を得た。
そして実施例2の硫黄系正極活物質を用い、参考例1と同様にして実施例2のリチウムイオン二次電池用正極を形成し、参考例1と同様にして実施例2のリチウムイオン二次電池を得た。
(比較例1)
参考例1と同様の平均粒径50μmの硫黄粉末を25.008gと、実施例1と同様のポリアクリロニトリル粉末を5.061gと、を乳鉢で混合し、混合原料を調製した。
この混合原料を用い、参考例1と同様の装置を用いて参考例1と同様に熱処理工程を行い、その後、熱処理温度を250℃としたこと以外は参考例1と同様にして単体硫黄除去工程を行って、比較例1の硫黄系正極活物質を得た。
そして比較例1の硫黄系正極活物質を用い、参考例1と同様にして比較例1のリチウムイオン二次電池用正極を形成し、参考例1と同様にして比較例1のリチウムイオン二次電池を得た。
<元素分析>
参考例1及び実施例1の各硫黄系正極活物質について元素分析を行った。結果を表1に示す。
Figure 0005142162
<X線回折による硫黄系正極活物質の分析>
参考例1、実施例1、比較例1の各硫黄系正極活物質についてX線回折分析を行った。装置として粉末X線回折装置(MAC Science社製、M06XCE)を用いた。測定条件は、CuKα線、電圧:40kV、電流:100mA、スキャン速度:4°/分、サンプリング:0.02°、積算回数:1回、回折角(2θ):10°〜60°であった。得られた回折パターンを図2〜4にそれぞれ示す。
比較例1の硫黄系正極活物質は、図4から明らかなように、回折角(2θ)が20°〜30°の範囲では、2θ=25°付近にピーク位置を有するブロードな回折ピークだけが観察され、硫黄単体の存在を示すシャープなピーク(2θ=22°付近)は観察されなかった。また、参考例1および実施例1の硫黄系正極活物質は、図2,3から明らかなように、2θ=25.3°付近と2θ=28.4°に二つのピークが観察されるが、硫黄単体の存在を示すシャープなピーク(2θ=22°付近)は観察されなかった。なお実施例1の硫黄系正極活物質のピークは参考例1の硫黄系正極活物質のピークより強度が小さくなっている。これは、比較例1の硫黄系正極活物質のピークがブロードであることから、比較例1の出発物質であるポリアクリロニトリル由来の第二硫黄系正極活物質のピークの影響を受けたものと考えられる。
<ラマンスペクトル分析による硫黄系正極活物質の分析>
参考例1、実施例1、比較例1の各硫黄系正極活物質についてラマンスペクトル分析を行った。分析装置には日本分光株式会社製の「RMP-320」(励起波長λ=532nm、グレーチング:1800gr/mm、分解能:3cm-1)を用いた。得られたラマンスペクトルを図5〜7にそれぞれ示す。図5〜7における横軸はラマンシフト(cm-1)であり、縦軸は相対強度である。
参考例1の硫黄系正極活物質は、図5に示されるように、主ピークが1537cm-1付近に存在し、1361cm-1付近にもピークが存在する。
実施例1の硫黄系正極活物質は、図6に示されるように、1534cm-1付近と1347cm-1付近に主ピークが存在した。
比較例1の硫黄系正極活物質は、図7に示されるように、1328cm-1付近に主ピークが存在し、1558cm-1付近、946cm-1付近、479cm-1付近、379cm-1付近、317cm-1付近にピークが存在した。
なお単体硫黄(S8硫黄)のピークは500〜550cm-1付近に存在し、非常に強いピークであることが知られている。図5〜7には、このS8硫黄のピークは認められなかった。この結果から、参考例1、実施例1、比較例1の各硫黄系正極活物質に硫黄はS8硫黄としては存在していないと考えられる。このため、硫黄系正極活物質の硫黄は、C−S結合等の結合をした状態で存在するか、または、ラマンスペクトルで検出できない非晶質の状態で存在すると考えられる。
<FT−IRスペクトル分析>
参考例1、実施例1、比較例1の各硫黄系正極活物質についてFT−IRスペクトル分析を行った。分析装置には島津社製の「IRAffinity-1」を用い、測定条件は、拡散反射法を用いて、分解能:4cm-1、積算回数:100回、測定範囲:400cm-1〜4000cm-1とした。得られたスペクトルを図8〜10にそれぞれ示す。
参考例1の硫黄系正極活物質は、図8に示されるように、1056cm-1付近と、840cm-1付近にそれぞれ特有のピークが存在した。また、1501cm-1付近と、1465cm-1付近と、1409cm-1付近と、1334cm-1付近と、1308cm-1付近と、1222cm-1付近と、1148cm-1付近と、752cm-1と、665cm-1付近にそれぞれピークが存在した。
実施例1の硫黄系正極活物質は、図9に示されるように、1057cm-1付近と、840cm-1付近にそれぞれ特有のピークが存在した。また、1361cm-1付近と、1248cm-1付近と、1164cm-1付近と、1024cm-1付近と、988cm-1付近と、942cm-1付近と、802cm-1付近と、749cm-1と、666cm-1付近と、633cm-1付近と、585cm-1付近と、512cm-1付近にそれぞれピークが存在した。
比較例1の硫黄系正極活物質は、図10に示されるように、1270cm-1付近と、1167cm-1付近と、1022cm-1付近と、990cm-1付近と、941cm-1付近と、803cm-1付近と、746cm-1付近と、675cm-1付近と、633cm-1付近と、587cm-1と、516cm-1付近にそれぞれピークが存在した。
このように、参考例1と実施例1の硫黄系正極活物質は、FT−IRスペクトルにおいてそれぞれ異なるピーク位置を示し、また比較例1の硫黄系正極活物質のFT−IRスペクトルとも異なっている。そして参考例1と実施例1の硫黄系正極活物質のFT−IRスペクトルは、共に1056cm-1〜1057cm-1付近と、840cm-1付近と、にピークをもち、このピークは比較例1のスペクトルには存在せず、図11に示すアントラセンのFT−IRスペクトルにも存在しないので、アントラセン由来の炭素骨格と硫黄との結合に起因するピークと考えられる。なお図11に示すのは、試薬のアントラセンを355℃で熱処理したもののFT−IRスペクトルであるが、熱処理前のアントラセンも全く同じFT−IRスペクトルであった。
<充放電容量・サイクル特性測定試験>
参考例1〜2、実施例1〜2、比較例1の各リチウムイオン二次電池の充放電容量とサイクル特性を測定した。参考例1のリチウムイオン二次電池については、放電レート0.1C、30℃で55サイクルの充放電をおこない、そのときの容量と充放電効率の変化を図12に示す。詳しくは、まず0.1Cで1.0VまでCC放電(低電流放電)を行い、それ以降のサイクルは0.1Cで3.0VまでCC充電を行った後に0.1Cで1.0VまでCC放電を行う充放電を、繰り返した。
実施例1のリチウムイオン二次電池については、正極活物質の1gあたり50mAに相当する電流値で充放電を行った。このときの放電終止電圧は1.0V、充電終止電圧は3.0Vであった。充放電を45回繰り返したときの充放電曲線を図13に示す。また参考例1と同様のサイクル試験をおこなったときのサイクル特性を図14に示す。
参考例2のリチウムイオン二次電池については、正極活物質の1gあたり50mAに相当する電流値で充放電を行った。このときの放電終止電圧は1.0V、充電終止電圧は3.0Vであった。充放電を11回繰り返したときの充放電曲線を図15に示す。また参考例1と同様のサイクル試験をおこなったときのサイクル特性を図16に示す。
実施例2のリチウムイオン二次電池については、正極活物質の1gあたり50mAに相当する電流値で充放電を行った。このときの放電終止電圧は1.0V、充電終止電圧は3.0Vであった。充放電を52回繰り返したときの充放電曲線を図17に示す。また参考例1と同様のサイクル試験をおこなったときのサイクル特性を図18に示す。
比較例1のリチウムイオン二次電池については、正極活物質の1gあたり50mAに相当する電流値で充放電を行った。このときの放電終止電圧は1.0V、充電終止電圧は3.0Vであった。充放電を30回繰り返したときの充放電曲線を図17に示す。また参考例1と同様のサイクル試験をおこなったときのサイクル特性を図18に示す。
参考例1のリチウムイオン二次電池は、図12に示されるように比較例1と同等の初期容量(1回目充放電)を示した。しかし、2回目の充放電以降に急速に容量低下が生じた。一方、実施例1のリチウムイオン二次電池は、図13、図14に示されるように初期容量も大きく、かつ、2回目の充放電以降にも容量低下が少なかった。この結果から、第二硫黄系正極活物質をさらに含むことにより、リチウムイオン二次電池の充放電容量およびサイクル特性を向上させ得ることがわかる。また実施例1のリチウムイオン二次電池は、比較例1のリチウムイオン二次電池に対して同等の充放電特性を示していることもわかる。
さらに参考例2のリチウムイオン二次電池は、図15、図16に示されるように初期容量も大きく、かつ、2回目の充放電以降にも容量低下が少なかった。すなわち本参考例の正極活物質は、石炭ピッチ中に含まれる多環芳香族炭化水素由来の炭素骨格を有しているため、このような特性が発現されたと考えられる。
そして実施例2のリチウムイオン二次電池は、参考例2に比べて充放電容量が大きくサイクル特性も優れているが、この効果は、第二硫黄系正極活物質をさらに含むことによるものであることが明らかである。
1:反応装置 2:反応容器 3:蓋 4:熱電対
5:ガス導入管 6:ガス排出管 7:電気炉

Claims (13)

  1. 3環以上の六員環が縮合してなる多環芳香族炭化水素から選ばれる少なくとも一種の選択多環芳香族炭化水素と、ポリアクリロニトリル粉末と、硫黄粉末とを含む原料を混合して混合原料とする混合工程と、該混合原料を加熱する熱処理工程と、を行うことにより製造された、
    前記選択多環芳香族炭化水素由来の第一の炭素骨格と該第一の炭素骨格と結合した硫黄(S)とからなる第一硫黄系正極活物質と、ポリアクリロニトリル由来の第二の炭素骨格と該第二の炭素骨格と結合した硫黄(S)とからなる第二硫黄系正極活物質と、を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極。
  2. 前記熱処理工程における加熱温度は250℃〜500℃である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
  3. 前記熱処理工程において、前記硫黄を還流する請求項1又は請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
  4. 前記混合原料中の前記選択多環芳香族炭化水素と前記ポリアクリロニトリルとの配合比は、質量比で90:10〜60:40である請求項1〜請求項3の何れか一つに記載のリチウムイオン二次電池用正極。
  5. 前記混合原料中の前記選択多環芳香族炭化水素と前記ポリアクリロニトリルとの合計量と前記硫黄との配合比は、質量比で1:0.5〜1:10である請求項1〜請求項4の何れか一つに記載のリチウムイオン二次電池用正極。
  6. 前記混合原料中の前記選択多環芳香族炭化水素と前記ポリアクリロニトリルとの合計量と前記硫黄との配合比は、質量比で1:2〜1:10であり、
    前記熱処理工程後の前記混合原料を、減圧しつつ200℃〜250℃で加熱する単体硫黄除去工程を含む請求項1〜請求項5の何れか一つに記載のリチウムイオン二次電池用正極。
  7. 前記選択多環芳香族炭化水素はアントラセンであり、FT−IRスペクトルにおいて、1057cm-1付近と、840cm-1付近と、にそれぞれピークが存在する請求項1〜請求項6の何れか一つに記載のリチウムイオン二次電池用正極。
  8. 3環以上の六員環が縮合してなる多環芳香族炭化水素から選ばれる少なくとも一種の選択多環芳香族炭化水素と、ポリアクリロニトリル粉末と、 硫黄粉末とを含む原料を混合して混合原料とする混合工程と、該混合原料を加熱する熱処理工程と、を行い、
    前記選択多環芳香族炭化水素由来の第一の炭素骨格と該第一の炭素骨格と結合した硫黄(S)とからなる第一硫黄系正極活物質と、ポリアクリロニトリル由来の第二の炭素骨格と該第二の炭素骨格と結合した硫黄(S)とからなる第二硫黄系正極活物質と、を含む硫黄系正極活物質を製造することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
  9. 前記熱処理工程における加熱温度は250℃〜500℃である請求項8に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
  10. 前記熱処理工程において、前記硫黄を還流する請求項8又は請求項9に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
  11. 前記混合原料中の前記選択多環芳香族炭化水素と前記ポリアクリロニトリルとの配合比は、質量比で90:10〜60:40である請求項8〜請求項10の何れか一つに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
  12. 前記混合原料中の前記選択多環芳香族炭化水素と前記ポリアクリロニトリルとの合計量と前記硫黄との配合比は、質量比で1:0.5〜1:10である請求項8〜請求項11の何れか一つに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
  13. 前記混合原料中の前記選択多環芳香族炭化水素と前記ポリアクリロニトリルとの合計量と前記硫黄との配合比は、質量比で1:2〜1:10であり、
    前記熱処理工程後の前記混合原料を、減圧しつつ200℃〜250℃で加熱する単体硫黄除去工程を含む請求項8〜請求項12の何れか一つに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
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