JP5309697B2 - 高速重切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents
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Description
(a)下部層を、いずれも化学蒸着形成された0.1〜1μmの平均層厚を有するTiN層、TiCN層および同じく0.1〜1μmの平均層厚を有するTiCO層、TiCNO層からなるTi化合物層と、さらに、2.5〜15μmの平均層厚を有し、
組成式:(Ti1−XZrX)CN(ただし、原子比で、Xは0.02〜0.15)を満足する(Ti,Zr)CN層、
(b)上部層を、化学蒸着形成された1〜15μmの平均層厚を有するα型Al2O3層(以下、従来α型Al2O3層という)、
以上(a)、(b)からなる硬質被覆層を蒸着形成した被覆工具において、
上記(Ti,Zr)CN層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にTi、Zr、炭素、および窒素からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(NはNaCl型面心立方晶の結晶構造上2以上の偶数となる)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で現した場合、個々のΣN+1がΣN+1全体(ただし、頻度の関係で上限値を28とする)に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフにおいて、Σ3に最高ピークが存在し、かつ前記Σ3のΣN+1全体に占める分布割合が60〜80%である構成原子共有格子点分布グラフを示す(Ti,Zr)CN層(以下、従来(Ti,Zr)CN層という)、
で構成してなる被覆工具(以下、従来被覆工具という)が知られており、この被覆工具がすぐれた耐チッピング性を示すことが知られている。
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:6〜10%、CO2:10〜15%、HCl:3〜5%、H2S:0.05〜0.2%、H2:残り、
反応雰囲気温度:1020〜1050℃、
反応雰囲気圧力:3〜5kPa、
の条件(従来条件という)で蒸着形成するが、
例えば、上記従来被覆工具における従来(Ti,Zr)CN層に代えて、
(a)まず、
反応ガス組成:容量%で、TiCl4:0.5〜5%、ZrCl4:0.1〜0.4%、CH3CN:0.1〜0.4%、N2:10〜30%、H2:残り、
反応雰囲気温度:750〜850℃、
反応雰囲気圧力:4〜6kPa、
の条件(以下、初期形成条件という)で反応ガスを流しはじめてからの10〜60分間蒸着形成し、
(b)次いで、
反応ガス組成:容量%で、TiCl4:0.5〜5%、ZrCl4:0.5〜5%、CH3CN:0.5〜5%、N2:10〜30%、H2:残り、
反応雰囲気温度:870〜1000℃、
反応雰囲気圧力:6.5〜13kPa、
の条件、すなわち上記初期形成条件とは、反応雰囲気の温度と圧力、またZrCl4とCH3CNの含有量を変化させた条件で(Ti,Zr)CN層を蒸着形成し(以下、上記条件で形成された(Ti,Zr)CN層を、改質(Ti,Zr)CN層という)、次に、上記改質(Ti,Zr)CN層の上に、
(c)まず、
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:0.5〜2%、CO2:0.1〜2%、HCl:0.1〜1%、H2S:0.15〜0.4%、H2:残り、
反応雰囲気温度:930〜980℃、
反応雰囲気圧力:3〜5kPa、
の条件、すなわち、上記の従来条件に比して反応ガス組成では、AlCl3、CO2およびHClの含有割合を相対的に低く、H2Sの含有割合を相対的に高く、かつ、雰囲気温度を相対的に低くした条件(以下、初期形成条件という)で10〜60分間蒸着形成し、
(d)次いで、
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:6〜10%、CO2:10〜15%、HCl:3〜5%、H2S:0.05〜0.2%、H2:残り、
反応雰囲気温度:1020〜1050℃、
反応雰囲気圧力:3〜5kPa、
の条件、すなわち上記の従来条件と同条件で上部層を蒸着形成すると、この結果形成したα型Al2O3層(以下、「改質α型Al2O3層」という)からなる上部層は、α型Al2O3層本来の具備するすぐれた高温硬さおよび耐熱性に加えて、すぐれた高温強度を有し、さらに、下部層である改質(Ti,Zr)CN層、Ti化合物層との層間付着強度が一段と向上するため、上部層と下部層間での層間剥離の発生を防止し得るようになり、その結果、すぐれた耐チッピング性を具備するようになること。
さらに、改質α型Al2O3層からなる上部層についても、上記と同様、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、図4(a),(b)に概略説明図で例示される通り、皮膜断面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面および(10−10)面の法線がなす傾斜角(図4(a)には前記結晶面の傾斜角が0度の場合、同(b)には傾斜角が45度の場合を示しているが、これらの角度を含めて前記結晶粒個々のすべての傾斜角)を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にAlおよび酸素からなる構成原子がそれぞれ存在するコランダム型六方最密晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、それぞれ隣接する結晶粒相互間で前記(0001)面の法線同士および(10−10)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を結晶粒界であると定義し、そして、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)間に構成原子を共有しない格子点が2個存在する構成原子共有格子点形態を有する結晶粒界であって、かつ、下部層との界面に臨んで存在する結晶粒界(以下、上部層Σ3対応粒界という)の数と位置を測定した時、
下部層と上部層との界面で、上部層との界面に臨んで存在する下部層Σ3対応粒界のうちの30〜70%の割合の下部層Σ3対応粒界に対して、上部層Σ3対応粒界が連続する結晶粒界として形成されている結晶粒界構造を有し(図5(a)参照)、上部層と下部層の層間付着強度が著しく向上すること。
したがって、上記改質(Ti,Zr)CN層上に直接上部層を蒸着形成するのではなく、改質(Ti,Zr)CN層表面に上記TiCN層、TiCO層、TiCNO層のいずれか一層以上からなるTi化合物層の薄層を蒸着形成し、この薄層を介して上部層を蒸着形成した場合であっても、下部層と上部層との界面で、上部層との界面に臨んで存在する下部層Σ3対応粒界のうちの30〜70%の割合の下部層Σ3対応粒界に対して、上部層Σ3対応粒界が連続する結晶粒界として形成される場合には、下部層と上部層の層間付着強度が向上するため下部層と上部層間での層間剥離の発生を防止し得るようになり、その結果、すぐれた耐チッピング性を発揮するようになること。
「(1) 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層以上からなり、化学蒸着形成されたTi化合物層と、2〜15μmの平均層厚を有し、化学蒸着形成された改質(Ti,Zr)CN層とからなる下部層、
(b)1〜15μmの平均層厚を有し、かつ化学蒸着形成された状態でα型の結晶構造を有する改質α型酸化アルミニウム層からなる上部層、
上記(a)、(b)からなる硬質被覆層を形成した表面被覆切削工具において、
上記(a)の下部層のうちの、改質(Ti,Zr)CN層は、
組成式:(Ti1−XZrX)CN
で表した場合に、0.002≦X≦0.015(但し、原子比)を満足し、また、
上記(a)の下部層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、皮膜断面研磨面の測定範囲内に存在する面心立方晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、NaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士および(011)面の法線同士の交わる角度を求め、前記(001)面の法線同士および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を結晶粒界であるとし、そして、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点が2個存在する構成原子共有格子点形態をΣ3で表し、上部層との界面に臨んで存在する下部層Σ3対応粒界の数と位置を測定し、
さらに、上記(b)の上部層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、皮膜断面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面および(10−10)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にAlおよび酸素からなる構成原子がそれぞれ存在するコランダム型六方最密晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(0001)面の法線同士および(10−10)面の法線同士の交わる角度を求め、前記(0001)面の法線同士および(10−10)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を結晶粒界であるとし、そして、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点が2個存在する構成原子共有格子点形態をΣ3で表し、下部層との界面に臨んで存在する上部層Σ3対応結晶粒界の数と位置を測定した場合に、
下部層と上部層との界面で、上部層との界面に臨んで存在する下部層Σ3対応粒界のうちの30〜70%の割合の下部層Σ3対応粒界に対して、上部層Σ3対応粒界が連続する結晶粒界として形成されていることを特徴とする表面被覆切削工具。
(2) 下部層と上部層との界面から、少なくとも基体表面側に1μmまでの深さ領域にわたる下部層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、皮膜断面研磨面の測定範囲内に存在する面心立方晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、NaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士および(011)面の法線同士の交わる角度を求め、前記(001)面の法線同士および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を結晶粒界であるとし、そして、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(ただし、頻度の点からNの上限を28とする)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表し、個々のΣN+1がΣN+1全体に占める比率を求めた場合、上記領域におけるΣ3のΣN+1全体に占める比率は60%以上である請求項1に記載の表面被覆切削工具。
(3) 上部層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、皮膜断面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面および(10−10)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にAlおよび酸素からなる構成原子がそれぞれ存在するコランダム型六方最密晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(0001)面の法線同士および(10−10)面の法線同士の交わる角度を求め、前記(0001)面の法線同士および(10−10)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を結晶粒界であるとし、そして、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(ただし、Nはコランダム型六方最密晶の結晶構造上2以上の偶数となるが、分布頻度の点からNの上限を28とした場合、4、8、14、24および26の偶数は存在せず)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表し、個々のΣN+1がΣN+1全体に占める比率を求めた場合、上部層におけるΣ3のΣN+1全体に占める比率は60%以上である請求項1または2に記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層以上からなるTi化合物層は、工具基体と上部層である改質α型Al2O3層、さらに下部層の構成層の一つである改質(Ti,Zr)CN層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用をもつ。
上記の改質(Ti,Zr)CN層は、通常の化学蒸着装置で、例えば、
(a)まず、
反応ガス組成:容量%で、TiCl4:0.5〜5%、ZrCl4:0.1〜0.4%、CH3CN:0.1〜0.4%、N2:10〜30%、H2:残り、
反応雰囲気温度:750〜850℃、
反応雰囲気圧力:4〜6kPa、
の条件(以下、初期形成条件という)で反応ガスを流しはじめてからの10〜60分間蒸着形成し、
(b)次いで、
反応ガス組成:容量%で、TiCl4:0.5〜5%、ZrCl4:0.5〜5%、CH3CN:0.5〜5%、N2:10〜30%、H2:残り、
反応雰囲気温度:870〜1000℃、
反応雰囲気圧力:6.5〜13kPa、
の条件、すなわち上記初期形成条件とは、反応雰囲気の温度と圧力、またZrCl4とCH3CNの含有量を変化させた条件、で蒸着することによって形成することができる。
そして、このような条件で形成された改質(Ti,Zr)CN層は、
組成式:(Ti1−XZrX)CN
で表した場合に、0.002≦X≦0.015(但し、原子比)を満足する組成を有し、さらに、特定の構成原子共有格子点形態を示す下部層Σ3対応粒界が高い分布割合で形成される。
なお、Tiとの合量に占めるZrの含有割合X(但し、原子比)が0.002未満であると、上部層と下部層のΣ3対応粒界の連続割合が30%未満となり、一方、Xの値が0.015を超えると、下部層改質(Ti,Zr)CN層のΣ3対応粒界比率が60%未満となるから、Zrの含有割合は、0.002≦X≦0.015(但し、原子比)を満足するように定めなければならない。
なお、Σ3の比率は、化学蒸着時の反応ガス中のTiCl4、ZrCl4、CH3CN、Ar含有量、さらに雰囲気反応温度等を上記の通り調整することによって60%以上とすることができるが、鋼や鋳鉄などの高速重切削加工で、下部層自体にすぐれた高温強度を付与するためには、Σ3の比率は60%以上であることが望ましい。
また、改質(Ti,Zr)CN層とTi化合物層とから構成される下部層の合計平均層厚が3μm未満では、所定の耐摩耗性を確保することができず、一方、合計平均層が20μmを超えると、急激に耐チッピング性が低下することから、下部層の合計平均層厚を3〜20μmとすることが望ましい。
上部層の改質α型Al2O3層は、Ti化合物層、改質(Ti,Zr)CN層を下部層とし、この上に、
(a)まず、
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:0.5〜2%、CO2:0.1〜2%、HCl:0.1〜1%、H2S:0.15〜0.4%、H2:残り、
反応雰囲気温度:930〜980℃、
反応雰囲気圧力:3〜5kPa、
の条件、すなわち、従来条件に比して反応ガス組成では、AlCl3、CO2、およびHClの含有割合を相対的に低く、H2Sの含有割合を相対的に高く、かつ、雰囲気温度を相対的に低くした条件(初期形成条件)で10〜60分間蒸着形成し、
(b)次いで、
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:6〜10%、CO2:10〜15%、HCl:3〜5%、H2S:0.05〜0.2%、H2:残り、
反応雰囲気温度:1020〜1050℃、
反応雰囲気圧力:3〜5kPa、
の条件で蒸着することにより形成することができ、この改質α型Al2O3層は、α型Al2O3層本来の具備するすぐれた高温硬さおよび耐熱性に加えて、すぐれた高温強度を有し、さらに、層間付着強度が一段と向上し、その結果、すぐれた耐チッピング性を具備するようになる。
そして、電界放出型走査電子顕微鏡を用いた測定によれば、上部層と下部層間での層間付着強度の向上は、上部層(改質α型Al2O3層)と下部層との界面で形成されるΣ3対応粒界の結晶粒界構造の連続性によってもたらされ、上部層Σ3対応粒界が、上部層との界面に臨んで存在する下部層Σ3対応粒界のうちの30〜70%の割合の下部層Σ3対応粒界と連続する結晶粒界を形成していない場合には、層間付着強度の向上を確保することができず(30%未満の場合)、あるいは、下部層と上部層のそれぞれの層における残留応力のギャップが大きくなりすぎて、層間付着強度が低下傾向を示す(70%を超える場合)ようになる。
次に、改質α型Al2O3層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、図4(a),(b)に概略説明図で例示される通り、皮膜断面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面および(10−10)面の法線がなす傾斜角(図4(a)には前記結晶面の傾斜角が0度の場合、同(b)には傾斜角が45度の場合を示しているが、これらの角度を含めて前記結晶粒個々のすべての傾斜角)を測定し、この場合前記結晶粒は、上記の通り格子点にAlおよび酸素からなる構成原子がそれぞれ存在するコランダム型六方最密晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、前記(0001)面の法線同士および(10−10)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を結晶粒界であると定義し、相互に隣接する結晶粒界で、構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を求め、構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点が2個存在する構成原子共有格子点形態をΣ3で表した場合、改質α型Al2O3層に形成されているΣ3の構成原子共有格子点形態を有する結晶粒界であって、かつ、下部層との界面に臨んで存在する結晶粒界(上部層Σ3対応粒界)の数と位置を求める。
そして、前記下部層について特定した前記下部層Σ3対応粒界の位置と、改質α型Al2O3層について求めた上部層Σ3対応粒界の位置とをつき合わせ、上部層と下部層の界面で、上部層との界面に臨んで存在する下部層Σ3対応粒界のうちの30〜70%が、上部層Σ3対応粒界と連続する結晶粒界を形成している結晶粒界構造を備える場合(図5(a)参照)には、上部層はすぐれた高温硬さと耐熱性を有するばかりか、上部層(改質α型Al2O3層)と下部層との層間付着強度が著しく向上する。
しかし、上部層Σ3対応粒界と連続して形成されている下部層Σ3対応粒界が、全下部層Σ3対応粒界のうちの30%未満にすぎないような場合(図5(b)参照)、あるいは、70%を超えるような場合には、下部層と上部層での結晶粒界の連続性が少ないため、層間付着強度の向上を確保することができず、あるいは、下部層と上部層での結晶粒界の連続性が多すぎるために下部層と上部層のそれぞれの層における残留応力のギャップが大きくなりすぎて、層間付着強度が低下傾向を示すようになるため、上部層との界面に臨んで存在する下部層Σ3対応粒界のうちの30〜70%が、上部層Σ3対応粒界と連続する結晶粒界を形成していることが必要である。
すなわち、上記構成原子共有格子点分布グラフは、上部層に隣接して存在する改質(Ti,Zr)CN層、従来(Ti,Zr)CN層、Ti化合物層と、改質α型Al2O3層および従来α型Al2O3層の皮膜断面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記断面研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記断面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、前記断面研磨面の法線に対して、前記改質(Ti,Zr)CN層、従来(Ti,Zr)CN層、Ti化合物層については結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面、前記改質α型Al2O3層および従来α型Al2O3層については、結晶粒の結晶面である(0001)面および(10−10)面の法線がなす傾斜角をそれぞれ測定し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(この場合、前記改質(Ti,Zr)CN層、従来(Ti,Zr)CN層、Ti化合物層に関しては、NはNaCl型面心立方晶の結晶構造上2以上の偶数となり、一方前記改質α型Al2O3層および従来α型Al2O3層については、Nはコランダム型六方最密晶の結晶構造上2以上の偶数となるが、分布頻度の点からNの上限を28とした場合、4、8、14、24、および26の偶数は存在しないことになる)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表した場合、個々のΣN+1がΣN+1全体に占める比率を求めることにより作成した。これらの値を、表8、9に示す。
次に、上部層との界面に臨んで存在する下部層Σ3対応粒界の数と位置については、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士および(011)面の法線同士の交わる角度を求め、この測定傾斜角に基づいて、前記(001)面の法線同士および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を結晶粒界であるとして、上部層との界面に臨んで存在する全ての下部層Σ3対応粒界の数と位置を求めた。
また、上部層Σ3対応粒界の数および位置については、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(0001)面の法線同士および(10−10)面の法線同士の交わる角度を求め、この測定傾斜角に基づいて、前記(0001)面の法線同士および(10−10)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を結晶粒界であるとして、下部層との界面に臨んで存在する全ての上部層Σ3対応粒界の数と位置を求めた。
そして、上記の通り求めた上部層との界面に臨んで存在する下部層Σ3対応粒界について、下部層との界面に臨んで存在する上部層Σ3対応粒界の位置と対応させ、上部層と下部層との界面において、上部層Σ3対応粒界と連続した結晶粒界を形成している下部層Σ3対応粒界の、全ての下部層Σ3対応粒界に占める割合を求めた。この値を表8、9に、Σ3対応粒界連続割合(%)として示す。
なお、下部層のΣ3比率は、下部層と上部層との界面から、基体表面側に1μmまでの深さ領域にわたって求めたΣ3の比率の平均値であり、上部層のΣ3比率は、上部層全体にわたって求めたΣ3の比率の平均値である。
一方、同じく表8、9に示されるように、上部層Σ3対応粒界と連続した結晶粒界を形成している下部層Σ3対応粒界の、全ての下部層Σ3対応粒界に占める割合をあらわすΣ3対応粒界連続割合については、本発明被覆工具においては、30〜70%の範囲を示しており、その結果、すぐれた層間付着強度を有するのに対して、従来被覆工具においては、その値が30%未満の値となっているため層間付着強度が不満足なものとなっている。
被削材:JIS・SS400の丸棒、
切削速度: 480 m/min、
切り込み: 4 mm、
送り: 0.9 mm/rev、
切削時間: 10 分、
の条件(切削条件A)での軟鋼の乾式高速連続高切込み・高送り切削試験(通常の切削速度、切り込みおよび送りは、それぞれ、300m/min、1.5mm、0.3mm/rev)、
被削材:JIS・SCr420Hの丸棒、
切削速度: 450 m/min、
切り込み: 1.5 mm、
送り: 0.7 mm/rev、
切削時間: 10 分、
の条件(切削条件B)での合金鋼の乾式高速連続高送り切削試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、280m/min、0.25mm/rev)、
被削材:JIS・FC250の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 400 m/min、
切り込み: 1.5 mm、
送り: 0.7 mm/rev、
切削時間: 10 分、
の条件(切削条件C)での鋳鉄の湿式高速断続高送り切削試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、230m/min、0.3mm/rev)、
を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
この測定結果を表10に示した。
しかるに、硬質被覆層の下部層が従来(Ti,Zr)CN層、Ti化合物層で、また、上部層が従来α型Al2O3層で構成された従来被覆工具1〜13においては、上部層と下部層の層間付着強度が不十分なため、高速重切削加工でかかる高温下での高負荷により、硬質被覆層に剥離、チッピング等が発生し、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
Claims (3)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層以上からなり、化学蒸着形成されたTi化合物層と、2〜15μmの平均層厚を有し、化学蒸着形成された改質(Ti,Zr)CN層とからなる下部層、
(b)1〜15μmの平均層厚を有し、かつ化学蒸着形成された状態でα型の結晶構造を有する改質α型酸化アルミニウム層からなる上部層、
上記(a)、(b)からなる硬質被覆層を形成した表面被覆切削工具において、
上記(a)の下部層のうちの、改質(Ti,Zr)CN層は、
組成式:(Ti1−XZrX)CN
で表した場合に、0.002≦X≦0.015(但し、原子比)を満足し、また、
上記(a)の下部層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、皮膜断面研磨面の測定範囲内に存在する面心立方晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、NaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士および(011)面の法線同士の交わる角度を求め、前記(001)面の法線同士および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を結晶粒界であるとし、そして、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点が2個存在する構成原子共有格子点形態をΣ3で表し、上部層との界面に臨んで存在する下部層Σ3対応粒界の数と位置を測定し、
さらに、上記(b)の上部層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、皮膜断面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面および(10−10)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にAlおよび酸素からなる構成原子がそれぞれ存在するコランダム型六方最密晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(0001)面の法線同士および(10−10)面の法線同士の交わる角度を求め、前記(0001)面の法線同士および(10−10)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を結晶粒界であるとし、そして、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点が2個存在する構成原子共有格子点形態をΣ3で表し、下部層との界面に臨んで存在する上部層Σ3対応結晶粒界の数と位置を測定した場合に、
下部層と上部層との界面で、上部層との界面に臨んで存在する下部層Σ3対応粒界のうちの30〜70%の割合の下部層Σ3対応粒界に対して、上部層Σ3対応粒界が連続する結晶粒界として形成されていることを特徴とする表面被覆切削工具。 - 下部層と上部層との界面から、少なくとも基体表面側に1μmまでの深さ領域にわたる下部層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、皮膜断面研磨面の測定範囲内に存在する面心立方晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、NaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(001)面の法線同士および(011)面の法線同士の交わる角度を求め、前記(001)面の法線同士および(011)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を結晶粒界であるとし、そして、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(ただし、頻度の点からNの上限を28とする)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表し、個々のΣN+1がΣN+1全体に占める比率を求めた場合、上記領域におけるΣ3のΣN+1全体に占める比率は60%以上である請求項1に記載の表面被覆切削工具。
- 上部層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、皮膜断面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、前記断面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面および(10−10)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にAlおよび酸素からなる構成原子がそれぞれ存在するコランダム型六方最密晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、それぞれ隣接する結晶粒相互間の界面における(0001)面の法線同士および(10−10)面の法線同士の交わる角度を求め、前記(0001)面の法線同士および(10−10)面の法線同士の交わる角度が2度以上の場合を結晶粒界であるとし、そして、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(ただし、Nはコランダム型六方最密晶の結晶構造上2以上の偶数となるが、分布頻度の点からNの上限を28とした場合、4、8、14、24および26の偶数は存在せず)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表し、個々のΣN+1がΣN+1全体に占める比率を求めた場合、上部層におけるΣ3のΣN+1全体に占める比率は60%以上である請求項1または2に記載の表面被覆切削工具。
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