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JP5454375B2 - 音響処理装置 - Google Patents
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本発明は、相異なる方向からの到来音が強調された複数の音響信号を、無指向性の収音機器が生成した複数の音響信号に対する信号処理で生成する技術に関連する。
相異なる方向からの到来音が強調された複数の音響信号を生成する技術が従来から提案されている。例えば特許文献1には、無指向性の4個の収音機器を利用してステレオ形式の音響信号を生成する技術が開示されている。特許文献2には、単一指向性の3個の収音機器を利用してステレオ形式の音響信号を生成する技術が開示されている。また、独立成分分析(ICA:Independent Component Analysis)や計算論的聴覚情景分析(CASA:Computational Auditory Scene Analysis)等の公知の技術を利用した音源分離で複数の音響信号を生成することも可能である。
特開平7−075195号公報 特開平7−298387号公報
しかし、特許文献1や特許文献2の技術では、2系統の音響信号の生成に3個以上の収音機器が必要であるから、装置が大規模化するという問題がある。更に、特許文献2の技術では単一指向性の収音機器が必須であるから、単一指向性の収音機器の搭載が困難である環境(例えば、携帯型の電子機器に搭載するために無指向性の小型の収音機器を採択せざるを得ない場合)には特許文献2の技術を適用できない。また、独立成分分析や計算論的聴覚情景分析を利用した音源分離では、演算処理の複雑化により処理時間(レイテンシ)や消費電力が増大するという問題がある。以上の事情を考慮して、本発明は、少数の無指向性の収音機器を利用して簡便な処理で複数の音響信号を生成することを目的とする。
以上の課題を解決するために本発明が採用する手段を説明する。なお、本発明の理解を容易にするために、以下の説明では、本発明の各要素と後述の各実施形態の要素との対応を括弧書で付記するが、本発明の範囲を実施形態の構成に限定する趣旨ではない。
本発明の音響処理装置は、基準線を挟む各位置の収音機器が生成した第1音響信号と第2音響信号とのスペクトルの加算で和成分(例えば和成分M)を生成する和成分生成手段(例えば和成分生成部34)と、第1音響信号と第2音響信号とのスペクトルの減算で差成分(例えば差成分S)を生成する差成分生成手段(例えば差成分生成部36)と、和成分と差成分との加算で第1成分(例えば右成分R)を生成する第1合成手段(例えば第1合成部382)と、和成分と差成分との減算で第2成分(例えば左成分L)を生成する第2合成手段(例えば第2合成部384)と、基準線を挟んで第1側(例えば左方)からの到来音を強調するための第1処理係数列(例えば処理係数列GL)を和成分と第1成分との減算で生成する第1係数列生成手段(例えば係数列生成部42L)と、基準線を挟んで第1側とは反対の第2側(例えば右方)からの到来音を強調するための第2処理係数列(例えば処理係数列GR)を和成分と第2成分との減算で生成する第2係数列生成手段(例えば係数列生成部42R)と、基準線の方向からの到来音を強調するための第3処理係数列(例えば処理係数列GC)を和成分と差成分との減算で生成する第3係数列生成手段(例えば係数列生成部42C)とを具備する。
以上の構成においては、第1音響信号と第2音響信号とのスペクトルの減算で、基準線に交差する方向に指向する(すなわち基準線の方向に収音の死角が形成された)双指向性の差成分が生成されるから、基準線の第2側からの到来音を強調した第1成分が和成分と差成分との加算で生成され、基準線の第1側からの到来音を強調した第2成分が和成分と差成分との減算で生成される。したがって、和成分と第1成分との減算で生成される第1処理係数列は、基準線を挟んで第1側からの到来音を強調するように作用し、和成分と第2成分との減算で生成される第2処理係数列は、基準線を挟んで第2側からの到来音を強調するように作用する。以上に説明したように、本発明の音響処理装置においては、基準線の第1側からの到来音を強調する第1処理係数列と第2側からの到来音を強調する第2処理係数列と基準線の方向からの到来音を強調する第3処理系列とを、無指向性の2個の収音機器で生成された第1音響信号と第2音響信号とから生成することが可能である。すなわち、少数の無指向性の収音機器を利用して簡便な処理で複数の音響信号を生成できるという利点がある。なお、以上の説明のように本発明では原理的には収音機器の指向性は不要であるが、指向性(例えば単一指向性)の収音機器が生成した音響信号を処理することも可能である。
本発明の好適な態様に係る音響処理装置は、第1音響信号および第2音響信号の一方または双方もしくは第1音響信号と第2音響信号とを加算(加重和や平均を含む)した信号を被処理信号(例えば周波数スペクトルX)として当該被処理信号に第1処理係数列を作用させる第1指向性付与手段(例えば指向性付与部52L)と、被処理信号に第2処理係数列を作用させる第2指向性付与手段(例えば指向性付与部52R)と、被処理信号に第3処理係数列を作用させる第3指向性付与手段(例えば指向性付与部52C)とを具備する。以上の態様においては、第1音響信号および第2音響信号の少なくとも一方または両者の加算を被処理信号として各処理係数列が適用されるから、和成分生成手段や差成分生成手段や第1合成手段や第2合成手段による処理後の信号に対して各処理係数列を作用させる構成と比較して、各処理で顕在化する雑音成分の影響を低減することが可能である。例えば、差成分生成手段による減算に起因した低域成分の強度低下を補償する観点からは、差成分の低域成分を増幅する補正手段(例えば補正部364)を追加した構成が好適であるが、補正手段による低域成分の増幅で雑音成分も顕在化する。したがって、補正手段を具備する構成では、補正手段による処理を経ていない被処理信号に各処理係数列を作用させる形態が、雑音成分の影響の低減という観点からは格別に好適である。もっとも、雑音成分が問題とならない(例えば他の要素により雑音成分を低減する)のであれば、補正手段による補正後の音響信号を被処理信号として各処理係数列を作用させる構成(例えば後述の第2実施形態)も採用され得る。
本発明の好適な態様に係る音響処理装置は、第1指向性付与手段が生成する信号と第2指向性付与手段が生成する信号と第3指向性付与手段が生成する信号との何れかを選択する選択手段(例えば選択部54)を具備する。以上の態様においては、基準線の方向からの到来音と基準線の第1側からの到来音と基準線の第2側からの到来音とを相互に分離して選択的に利用(例えば再生)することが可能である。なお、以上の態様の具体例は、例えば第1実施形態や第3実施形態として後述される。
本発明の好適な態様に係る音響処理装置は、第1指向性付与手段が生成する信号と第2指向性付与手段が生成する信号と第3指向性付与手段が生成する信号との合成で複数の音響信号を生成する合成手段(例えば合成部64)を具備する。以上の態様においては、各指向性付与手段による処理後の信号の合成で複数の音響信号が生成される。したがって、例えば、第3指向性付与手段の出力信号を優先させることで基準線の方向の指向性が高い音響信号を生成し、または、第1指向性付与手段や第2指向性付与手段の出力信号を優先させることで基準線の両側からの音響(ステレオ感)が強調された音響信号を生成するといった多様な処理が可能である。なお、以上の態様の具体例は、例えば第5実施形態として後述される。
本発明の好適な態様に係る音響処理装置は、相異なる位置に配置された3個以上の収音機器から2個を選択する複数の組合せの各々について、当該組合せに係る2個の収音機器の各々が生成した音響信号を第1音響信号および第2音響信号として生成された処理係数列で処理された信号を、収音機器の相異なる組合せの間で合成する合成手段(例えば合成部62)を具備する。以上の態様においては、収音機器の相異なる組合せに対応する処理係数列で生成された信号が合成されるから、収音特性を多様に変化させることが可能である。なお、以上の態様の具体例は、例えば第4実施形態として後述される。
以上の各態様に係る音響処理装置は、音響信号の処理に専用されるDSP(Digital Signal Processor)などのハードウェア(電子回路)によって実現されるほか、CPU(Central Processing Unit)などの汎用の演算処理装置とプログラム(ソフトウェア)との協働によっても実現される。本発明のプログラムは、基準線を挟む各位置の収音機器が生成した第1音響信号と第2音響信号とのスペクトルの加算で和成分を生成する和成分生成処理と、第1音響信号と第2音響信号とのスペクトルの減算で差成分を生成する差成分生成処理と、和成分と差成分との加算で第1成分を生成する第1合成処理と、和成分と差成分との減算で第2成分を生成する第2合成処理と、基準線を挟んで第1側からの到来音を強調するための第1処理係数列を和成分と第1成分との減算で生成する第1係数列生成処理と、基準線を挟んで第1側とは反対の第2側からの到来音を強調するための第2処理係数列を和成分と第2成分との減算で生成する第2係数列生成処理と、基準線の方向からの到来音を強調するための第3処理係数列を和成分と差成分との減算で生成する第3係数列生成処理とをコンピュータに実行させる。以上のプログラムによれば、本発明の音響処理装置と同様の作用および効果が実現される。本発明のプログラムは、コンピュータが読取可能な記録媒体に格納された形態で利用者に提供されてコンピュータにインストールされるほか、通信網を介した配信の形態でサーバ装置から提供されてコンピュータにインストールされる。
第1実施形態に係る音響処理装置のブロック図である。 各収音機器の位置の説明図である。 和成分および差成分の指向特性の説明図である。 和成分と差成分との位相差の説明図である。 第2実施形態に係る音響処理装置のブロック図である。 第3実施形態に係る音響処理装置のブロック図である。 第4実施形態に係る音響処理装置のブロック図である。 第4実施形態における各収音機器の位置の説明図である。 収音機器の組合せに応じた収音特性の説明図である。 合成部による指向成分の合成の説明図である。 第4実施形態における収音の指向特性の説明図である。 合成部による他の処理の説明図である。 第5実施形態に係る音響処理装置のブロック図である。
<A:第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る音響処理装置100Aのブロック図である。図1に示すように、音響処理装置100Aには、2個の収音機器MIC(MIC1,MIC2)と2個の放音機器16(16R,16L)とが接続される。各収音機器MICは、収音感度が全方向にわたって略均等な無指向性のマイクロホンである。収音機器MIC1は、周囲の音響(音声や楽音)の波形を表す時間領域の音響信号x1を生成する。同様に、収音機器MIC2は音響信号x2を生成する。なお、音響信号x1や音響信号x2をデジタル信号に変換するA/D変換器の図示は便宜的に省略されている。
図2は、収音機器MIC1および収音機器MIC2の配置を説明するための模式図である。収音機器MIC1および収音機器MIC2は、所定の基準線DCを挟む各位置(具体的には基準線DCに関して線対称な各位置)に相互に間隔dをあけて配置される。間隔dは例えば1cm程度である。基準線DC上の基準点Qは、収音機器MIC1と収音機器MIC2との中点に相当する。基準点Qからみて基準線DCに沿う片方側を「前方」と表記するとともに反対側を「後方」と表記する。
図1の音響処理装置100Aは、音響信号x1および音響信号x2に対する信号処理で音響信号z1および音響信号z2を生成する。音響信号z1および音響信号z2は、特定の方向からの到来音を選択的に強調した信号(他方向からの到来音を抑圧した信号)である。具体的には、音響信号z1および音響信号z2においては、図2に示すように、基準点Qの前方および後方の範囲AC(center)からの到来音と、基準線DCの右方の範囲AR(right)からの到来音と、基準線DCの左方の範囲AL(left)からの到来音との何れかが選択的に強調される。
図1の放音機器16Rは受聴者の右方(例えば右前方)に設置され、放音機器16Lは受聴者の左方(例えば左前方)に配置される。放音機器16Rは音響信号z1に応じた音波を再生し、放音機器16Lは音響信号z2に応じた音波を再生する。なお、音響信号z1や音響信号z2をアナログ信号に変換するD/A変換器の図示は便宜的に省略されている。
図1に示すように、音響処理装置100Aは、演算処理装置22と記憶装置24とを具備する。記憶装置24は、演算処理装置22が実行するプログラムPGMや演算処理装置22が使用する各種の情報を記憶する。半導体記録媒体や磁気記録媒体等の公知の記録媒体や複数種の記録媒体の組合せが記憶装置24として任意に採用される。演算処理装置22は、記憶装置24に格納されたプログラムPGMを実行することで、音響信号x1および音響信号x2から音響信号z1および音響信号z2を生成するための複数の機能(周波数分析部32,和成分生成部34,差成分生成部36,第1合成部382,第2合成部384,係数列生成部42C〜42L,信号処理部50,選択部54,波形合成部56)を実現する。なお、演算処理装置22の各機能を複数の集積回路に分散した構成や、専用の電子回路(DSP)が各機能を実現する構成も採用され得る。
周波数分析部32は、音響信号x1の周波数スペクトル(複素スペクトル)X1と音響信号x2の周波数スペクトル(複素スペクトル)X2とを時間軸上の単位期間(フレーム)毎に順次に生成する。周波数スペクトルX1および周波数スペクトルX2の生成には、短時間フーリエ変換等の公知の周波数分析が任意に採用される。周波数スペクトルX1は、相異なる周波数に対応するK個の成分値X1[1]〜X1[K]の系列である。同様に、周波数スペクトルX2はK個の成分値X2[1]〜X2[K]で表現される。
和成分生成部34は、音響信号x1の周波数スペクトルX1と音響信号x2の周波数スペクトルX2との加算を含む演算で単位期間毎に順次に和成分Mを生成する。和成分Mは、相異なる周波数に対応するK個の成分値M[1]〜M[K]の系列である。図1に示すように、和成分生成部34は、加算部342と補正部344とを含んで構成される。加算部342は、周波数スペクトルX1と周波数スペクトルX2との加算で和成分M0を生成する。和成分M0は、K個の成分値M0[1]〜M0[K]の系列(M0[k]=X1[k]+X2[k])である。
ところで、収音機器MIC1および収音機器MIC2に対する到来音は、到来方向に応じた時間差(位相差)で収音機器MIC1および収音機器MIC2の各々に到達する。したがって、音響信号x1のうち特定の方向からの到来音の成分と音響信号x2における当該成分との間には位相差がある。到来音のうち周波数が低い成分(低域成分)ほど音響信号x1と音響信号x2との間の位相差は小さいから、到来音の低域成分ほど加算部342による加算で強度が増加する。補正部344は、以上に説明した強度の不均衡(低域成分ほど強度が増加する傾向)が抑制されるように和成分M0を補正することで和成分Mを生成する。具体的には、補正部344は、以下の数式(1)で定義される関数HM(ω)を和成分M0に乗算する。
Figure 0005454375

数式(1)の記号jは虚数単位を意味し、記号ωは角周波数を意味する。また、記号τは、図1に示すように、基準線DCに対して角度θをなす方向からの到来音(速度c)が収音機器MIC1および収音機器MIC2の各々に到来する時間差(τ=d・sinθ/c)を意味する。角度θは、例えば、収音機器MIC1と収音機器MIC2とを通過する直線(エンドファイア方向)が基準線DCに対してなす角度(θ=±π/2)に設定される。数式(1)から理解されるように、周波数が低いほど関数HM(ω)は小さい数値に設定される。したがって、加算部342による加算に起因した強度の不均衡が補償される。なお、角度θの選定の方法は任意である。例えば利用者からの指示に応じて角度θを可変に設定する構成も採用され得る。
以上のように、和成分Mは、周波数スペクトルX1と周波数スペクトルX2との加算で生成されるから、図3に示すように、基準点Qに位置する仮想的な全指向性(略無指向性)の収音機器が生成する音響信号の周波数スペクトルと同視され得る。
図1の差成分生成部36は、音響信号x1の周波数スペクトルX1と音響信号x2の周波数スペクトルX2との減算を含む演算で単位期間毎に順次に差成分Sを生成する。差成分Sは、相異なる周波数に対応するK個の成分値S[1]〜S[K]の系列である。図1に示すように、差成分生成部36は、減算部362と補正部364とを含んで構成される。減算部362は、周波数スペクトルX1から周波数スペクトルX2を減算することで差成分S0(S0[1]〜S0[K])を生成する(S0[k]=X1[k]−X2[k])。
ところで、図4から理解されるように、周波数スペクトルX1と周波数スペクトルX2との加算に相当する和成分M0(M)と、両者間の減算で生成される差成分S0とでは、複素平面に規定されるベクトルが相互に直交する。また、前述のように到来音の低域成分ほど音響信号x1と音響信号x2との間の位相差は小さいから、到来音の低域成分ほど減算部362による減算で強度が減少する。補正部364は、以上に説明した和成分M0との位相差と強度の不均衡(低域成分ほど強度が減衰する傾向)とが抑制されるように差成分S0を補正することで差成分Sを生成する。具体的には、補正部364は、以下の数式(2)で定義される関数HS(ω)を差成分S0に乗算する。
Figure 0005454375
数式(2)の前半部(e-jπ/2)は、差成分S0の位相の補正(和成分M0に位相を合致させる処理)を意味する。また、数式(2)の後半部(|1/(1−e-jωτ)|)から理解されるように、周波数が低いほど関数HS(ω)は大きい数値に設定される。したがって、減算部362による減算に起因した和成分M0との位相差と強度の不均衡とが補償される。なお、差成分S0の位相の補正に代えて和成分M0の位相を補正する(差成分S0に位相を合致させる)構成も採用され得る。
基準線DCの方向(前方または後方)からの到来音は、収音機器MIC1および収音機器MIC2に略同位相で到達するから、周波数スペクトルX1から周波数スペクトルX2を減算した差成分Sにおいては、基準線DCの方向からの到来音が他方向からの到来音と比較して抑圧される。すなわち、基準線DCの方向に収音の死角が形成される。したがって、差成分生成部36が生成する差成分Sは、図3に示すように、基準線DCの右方(範囲AR)および左方(範囲AL)からの到来音を強調した双指向性の信号となる。なお、本実施形態の例示では周波数スペクトルX1を被減数として周波数スペクトルX2が減算されるから、差成分Sにおいては、基準線DCの右方(範囲AR)からの到来音に対応する成分が和成分Mと同極性(例えば正極性)となり、基準線DCの左方(範囲AL)からの到来音に対応する成分が和成分Mとは逆極性(負極性)となる。
図1の第1合成部382は、和成分生成部34が生成した和成分Mと差成分生成部36が生成した差成分Sとの加算で右成分Rを生成する。右成分Rは、K個の成分値R[1]〜R[K]で表現される(R[k]=M[k]+S[k])。他方、第2合成部384は、和成分Mから差成分Sを減算することで左成分Lを生成する。左成分Lは、K個の成分値L[1]〜L[K]で表現される(L[k]=M[k]−S[k])。
差成分Sのうち基準線DCの右方からの到来音に対応する成分は和成分Mと同極性であり、基準線DCの左方からの到来音に対応する成分は和成分Mとは逆極性である。したがって、和成分Mと差成分Sとの加算で生成される右成分Rにおいては、基準線DCに対する右方(範囲AR)からの到来音が他方向からの到来音と比較して強調され、和成分Mと差成分Sとの減算で生成される左成分Lにおいては、基準線DCに対する左方(範囲AL)からの到来音が他方向からの到来音と比較して強調される。以上の説明から理解されるように、和成分Mは、MS(Mid-Side)方式の収音技術におけるMマイク(単一指向性)の収音信号として代用され、差成分Sは、Sマイク(双指向性)の収音信号として代用される。
図1の係数列生成部42Cは、基準線DCの方向(範囲AC)からの到来音を強調するための処理係数列GCを生成する。処理係数列GCは、相異なる周波数に対応するK個の係数値gC[1]〜gC[K]の系列である。同様に、係数列生成部42Rは、基準線DCの右方(範囲AR)からの到来音を強調するための処理係数列GR(係数値gR[1]〜gR[K]の系列)を生成し、係数列生成部42Lは、基準線DCの左方(範囲AL)からの到来音を強調するための処理係数列GL(係数値gL[1]〜gL[K]の系列)を生成する。なお、以下の説明では、強調の対象となる方向(範囲)を識別するための符号(C,L,R)を記号Vで一般化する場合がある(V=C,R,L)。例えば、係数列生成部42Vに関する説明は、係数列生成部42Cと係数列生成部42Rと係数列生成部42Lとの各々に同様に適用される。
各係数列生成部42Vは、以下の数式(3)の演算で処理係数列GV(GC,GR,GL)の各係数値gV[k](gC[k],gR[k],gL[k])を算定する。和成分Mの振幅|M[k]|での除算を数式(3)が含むのは、係数値gV[k]を1以下の数値(0≦gV[k]≦1)に正規化するためである。
Figure 0005454375
係数列生成部42Cは、以下の数式(4C_a)および数式(4C_b)の演算で数式(3)の強度(パワー)PC[k]を算定する。
Figure 0005454375

数式(4C_a)から理解されるように、数式(3)の強度PC[k]の数値は、差成分Sの強度(パワー)|S[k]|2と所定の係数αCとの乗算値を和成分Mの強度|M[k]|2から減算した数値に設定される(スペクトル減算)。ただし、数式(4C_a)の数値がゼロ以下となる周波数での強度PC[k]は所定値(具体的には和成分Mの強度|M[k]|2と所定の係数βCとの乗算値)に設定される(フロアリング処理)。
差成分Sは基準線DCに対する右方および左方からの到来音を強調した成分であるから、数式(4C_a)および数式(4C_b)で算定される強度PC[1]〜PC[K]の系列は、和成分Mのうち右方および左方からの到来音を抑圧したパワースペクトルに相当する。したがって、処理係数列GCの係数値gC[1]〜gC[K]は、基準線DCの方向(基準点Qの前方または後方)からの到来音の強度が大きい周波数の係数値gC[k]ほど1に近い数値となり、基準線DCの方向からの到来音の強度が小さい周波数の係数値gC[k]ほどゼロに近い数値となる。
係数列生成部42Rは、以下の数式(4R_a)および数式(4R_b)の演算で数式(3)の強度PR[k]を算定する。
Figure 0005454375

すなわち、係数列生成部42Rは、左成分Lの強度|L[k]|2と係数αRとの乗算値を和成分Mの強度|M[k]|2から減算することで強度PR[k]を算定するスペクトル減算(数式(4R_a))と、数式(4R_a)の数値がゼロ以下となる周波数の強度PR[k]を所定値(βR|M[k]|2)に設定するフロアリング処理とを実行する。左成分Lは基準線DCの左方からの到来音を強調した成分であるから、数式(4R_a)および数式(4R_b)で算定される強度PR[1]〜PR[K]の系列は、和成分Mのうち左方からの到来音を抑圧(右方からの到来音を強調)したパワースペクトルに相当する。したがって、係数列生成部42Rが数式(3)で生成する処理係数列GRの係数値gR[1]〜gR[K]は、基準線DCの右方からの到来音の強度(振幅)が大きい周波数の係数値gR[k]ほど1に近い数値となり、基準線DCの右方からの到来音の強度が小さい周波数の係数値gR[k]ほどゼロに近い数値となる。
係数列生成部42Rと同様に、係数列生成部42Lは、以下の数式(4L_a)および数式(4L_b)の演算で数式(3)の強度PL[k]を算定する。
Figure 0005454375
すなわち、係数列生成部42Lは、右成分Rの強度|R[k]|2と係数αLとの乗算値を和成分Mの強度|M[k]|2から減算することで強度PL[k]を算定するスペクトル減算(数式(4L_a))と、数式(4L_a)の数値がゼロ以下となる周波数の強度PL[k]を所定値(βL|M[k]|2)に設定するフロアリング処理とを実行する。右成分Rは基準線DCの右方からの到来音を強調した成分であるから、数式(4L_a)および数式(4L_b)で算定される強度PL[1]〜PL[K]の系列は、和成分Mのうち右方からの到来音を抑圧(左方からの到来音を強調)したパワースペクトルに相当する。したがって、係数列生成部42Lが数式(3)で生成する処理係数列GLの係数値gL[1]〜gL[K]は、基準線DCの左方からの到来音の強度(振幅)が大きい周波数の係数値gL[k]ほど1に近い数値となり、基準線DCの左方からの到来音の強度が小さい周波数の係数値gL[k]ほどゼロに近い数値となる。
なお、係数列生成部42Vが強度PV[k]の算定に適用する係数αV(αC,αR,αL)および係数βV(βC,βR,βL)は適切な数値に設定される。また、フロアリング処理で設定される強度PV[k]の数値は、前述の例示(βV|M[k]|2)に限定されず、例えば和成分Mとは無関係の所定値(例えばゼロ)に設定され得る。
図1の信号処理部50は、音響信号x1の周波数スペクトルX1と音響信号x2の周波数スペクトルX2とに各処理係数列GV(GC,GR,GL)を作用させる。すなわち、信号処理部50は、音響信号x1および音響信号x2に指向性を付与する(特定の方向からの到来音を強調する)。図1に示すように、信号処理部50は、指向性付与部52Cと指向性付与部52Rと指向性付与部52Lとを含んで構成される。
各指向性付与部52V(52C,52R,52L)は、係数列生成部42Vが生成した処理係数列GV(係数値gV[1]〜gV[K])を周波数スペクトルX1および周波数スペクトルX2の各々に作用させる(具体的には乗算する)ことで単位期間毎に指向成分Y1Vと指向成分Y2Vとを順次に生成する。指向成分Y1Vは、K個の成分値Y1V[1]〜Y1V[K]の系列で表現される周波数スペクトル(複素スペクトル)である。同様に、指向成分Y2Vは、K個の成分値Y2V[1]〜Y2V[K]の系列で表現される周波数スペクトルである。
具体的には、指向性付与部52Cは、以下の数式(5C)の演算で指向成分Y1C(成分値Y1C[k])および指向成分Y2C(成分値Y2C[k])を算定する。
Figure 0005454375

前述のように、処理係数列GCの係数値gC[1]〜gC[K]は、基準線DCの方向(前方または後方)からの到来音の強度が大きい周波数の係数値gC[k]ほど1に近い数値に設定される。したがって、音響信号x1のうち基準線DCの方向からの到来音を強調した指向成分Y1Cと音響信号x2のうち基準線DCの方向からの到来音を強調した指向成分Y2Cとが数式(5C)の演算で生成される。
また、指向性付与部52Rは、以下の数式(5R)の演算で指向成分Y1Rおよび指向成分Y2Rを算定する。処理係数列GRの係数値gR[1]〜gR[K]は、基準線DCの右方からの到来音の強度が大きい周波数の係数値gR[k]ほど1に近い数値に設定されるから、数式(5R)で生成される指向成分Y1Rは、音響信号x1のうち右方からの到来音を強調した周波数スペクトルとなる。他方、指向成分Y2Rの成分値Y2R[1]〜Y2R[K]はゼロ(消音)に設定される。
Figure 0005454375
指向性付与部52Rと同様に、指向性付与部52Lは、以下の数式(5L)の演算で指向成分Y1Lおよび指向成分Y2Lを算定する。処理係数列GLの係数値gL[1]〜gL[K]は、基準線DCの左方からの到来音の強度が大きい周波数の係数値gL[k]ほど1に近い数値に設定されるから、数式(5L)で生成される指向成分Y2Lは、音響信号x2のうち左方からの到来音を強調した周波数スペクトルとなる。他方、指向成分Y1Lの成分値Y1L[1]〜Y1L[K]はゼロに設定される。
Figure 0005454375
図1の選択部54は、指向性付与部52Cが生成した指向成分Y1Cおよび指向成分Y2Cの組と、指向性付与部52Rが生成した指向成分Y1Rおよび指向成分Y2Rの組と、指向性付与部52Lが生成した指向成分Y1Lおよび指向成分Y2Lの組との何れかを選択する。選択部54による選択の対象は、例えば操作子(図示略)に対する利用者からの操作に応じて可変に設定される。選択部54が選択した指向成分Y1V(Y1C,Y1R,Y1L)は周波数スペクトルZ1として波形合成部56に供給され、選択部54が選択した指向成分Y2V(Y2C,Y2R,Y2L)は周波数スペクトルZ2として波形合成部56に供給される。
図1の波形合成部56は、選択部54から供給される周波数スペクトルZ1および周波数スペクトルZ2から時間領域の音響信号z1および音響信号z2を生成する。具体的には、波形合成部56は、単位期間毎の周波数スペクトルZ1を逆フーリエ変換で時間領域の信号に変換するとともに前後の単位期間について相互に連結することで音響信号z1を生成する。同様に、波形合成部56は、各周波数スペクトルZ2から音響信号z2を生成する。音響信号z1は放音機器16Rから再生され、音響信号z2は放音機器16Rから再生される。
選択部54が指向成分Y1Cおよび指向成分Y2Cを選択した場合、基準線DCの方向(範囲AC)からの到来音を強調した再生音が放音機器16Rおよび放音機器16Lの双方から放音される。他方、選択部54が指向成分Y1Rおよび指向成分Y2Rを選択した場合、基準線DCの右方(範囲AR)からの到来音を強調した再生音が放音機器16Rから放音され、放音機器16Lは無音(Y2R=0)に設定される。また、選択部54が指向成分Y1Lおよび指向成分Y2Lを選択した場合、基準線DCの左方(範囲AL)からの到来音を強調した再生音が放音機器16Lから放音され、放音機器16Rは無音(Y1L=0)に設定される。すなわち、基準点Qに対する方向に応じて到来音を分離(音源分離)した各音響が選択的に再生される。なお、数式(5C)が係数(1/2)1/2での除算を含むのは、基準線DCの方向からの到来音を強調する場合(放音機器16Rおよび放音機器16Lの双方が放音する場合)と、基準線DCの片側からの到来音を強調する場合(放音機器16Rおよび放音機器16Lの片方のみが放音する場合)とで、受聴者が知覚する音量の差異を低減するためである。
以上に説明した第1実施形態によれば、2個の収音機器MIC(MIC1,MIC2)が生成した音響信号x1および音響信号x2に対する信号処理で3方向の音源分離が実現されるから、例えば4個の収音機器が必要な特許文献1の技術や3個の収音機器が必要な特許文献2の技術と比較して音響処理装置100Aを小型化することが可能である。しかも、無指向性の収音機器MIC(MIC1,MIC2)を利用できるから、単一指向性の収音機器が必要な特許文献2の技術と比較すると、音響処理装置100Aの実現に必要な費用を削減できるという利点や、単一指向性の収音機器の搭載が困難な場合(例えば携帯型の電子機器に搭載するために無指向性の小型の収音機器MICを採択せざるを得ない場合)にも有効に適用できるという利点がある。また、独立成分分析(ICA)や計算論的聴覚情景分析(CASA)を利用した音源分離と比較して非常に簡便な処理で音源分離後の音響信号z1および音響信号z2が生成される。したがって、処理時間(レイテンシ)や消費電力が削減されるという利点がある。なお、音響の調波構造を利用する計算論的聴覚情景分析では音源分離の対象が調波構造を持つ音響信号に制約されるが、第1実施形態では音響の調波構造が前提とならないから、音響信号x1および音響信号x2の調波構造の有無に関わらず処理できるという利点もある。
<B:第2実施形態>
本発明の第2実施形態を説明する。なお、以下の各例示において作用や機能が第1実施形態と同等である要素については、以上の説明で参照した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
図5は、第2実施形態の音響処理装置100Bのブロック図である。第1実施形態の音響処理装置100Aでは音響信号x1の周波数スペクトルX1と音響信号x2の周波数スペクトルX2とが信号処理部50に供給される。他方、第2実施形態の音響処理装置100Bでは、図5に示すように、第1合成部382が生成した右成分Rと第2合成部384が生成した左成分Lとが信号処理部50で処理される。すなわち、指向性部付与部52V(52C,52R,52L)は、処理係数列GVを右成分Rに作用させることで指向成分Y1V(Y1C,Y1R,Y1L)を生成し、処理係数列GVを左成分Lに作用させることで指向成分Y2V(Y2C,Y2R,Y2L)を生成する。すなわち、数式(5C)〜(5L)における成分値X1[k]が右方向Rの成分値R[k]に置換され、数式(5C)〜(5L)における成分値X2[k]が左成分Lの成分値L[k]に置換される。第2実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。
なお、数式(2)の関数HS(ω)(数式(2))を適用した補正で補正部364が差成分S0の低域成分を増幅させると、差成分S0に含まれる雑音成分(例えば各収音機器MICで振動板の振動を電気信号に変化するときに発生する雑音)も増幅される。右成分Rおよび左成分Lは、差成分Sを利用して生成されるから、関数HS(ω)による補正で増幅された差成分Sの雑音成分を含む。したがって、右成分Rおよび左成分Lに対する信号処理で音響信号z1と音響信号z2とを生成する第2実施形態では、補正部364による補正で増幅された雑音成分が音響信号z1および音響信号z2に現れる可能性がある。第1実施形態においては、補正部364による補正の実行前(雑音成分の増幅前)の音響信号x1および音響信号x2に対する信号処理で音響信号z1および音響信号z2が生成されるから、第2実施形態と比較して雑音成分が少ない高品質な再生音を生成できるという利点がある。
<C:第3実施形態>
図6は、第3実施形態に係る音響処理装置100Cのブロック図である。第1実施形態の音響処理装置100Aでは周波数スペクトルX1および周波数スペクトルX2の2系統が信号処理部50で処理されるのに対し、第3実施形態の音響処理装置100Cの信号処理部50は、図6に示すように1系統の周波数スペクトルX(K個の成分値X[1]〜X[K]の系列)を処理する。周波数スペクトルXは、例えば周波数分析部32が生成した周波数スペクトルX1および周波数スペクトルX2の一方である。ただし、周波数スペクトルX1と周波数スペクトルX2との加算や平均(あるいは音響信号x1と音響信号x2との加算や平均の周波数スペクトル)を周波数スペクトルXとした構成も採用され得る。
信号処理部50の各指向性付与部52V(52C,52R,52L)は、係数列生成部42Vが生成した処理係数列GVを周波数スペクトルXに作用させることで1系統の指向成分YV(YC,YR,YL)を生成する。指向成分YC(YC[k]=gC[k]・X[k])は、基準線DCの方向からの到来音を強調した周波数スペクトルである。また、指向成分YR(YR[k]=gR[k]・X[k])においては基準線DCの右方(範囲AR)からの到来音が強調され、指向成分YL(YL[k]=gL[k]・X[k])においては基準線DCの左方(範囲AL)からの到来音が強調される。
選択部54は、指向性付与部52Cが生成した指向成分YCと指向性付与部52Rが生成した指向成分YRと指向性付与部52Lが生成した指向成分YLとの何れかを周波数スペクトルZとして選択する。波形合成部56が周波数スペクトルZから生成した時間領域の音響信号zが1個の放音機器16から再生される。第3実施形態においても、無指向性の2個の収音機器MIC(MIC1,MIC2)を利用して3系統の音源分離が実行されるから、第1実施形態と同様の効果が実現される。
<D:第4実施形態>
図7は、第4実施形態に係る音響処理装置100Dのブロック図である。図7に示すように、第4実施形態の音響処理装置100Dには3個の収音機器MIC(MIC1,MIC2,MIC3)が接続される。図8に示すように、3個の収音機器MIC(MIC1,MIC2,MIC3)は、各辺が長さdの正三角形の各頂点の位置に配置される。収音機器MIC1は音響信号x1を生成し、収音機器MIC2は音響信号x2を生成し、収音機器MIC3は音響信号x3を生成する。
第4実施形態では、3個の収音機器MIC(MIC1,MIC2,MIC3)から2個を選択する全通り(3通り)の組合せの各々について、その組合せの各収音機器MICが生成した2系統の音響信号xを対象として第3実施形態と同様の信号処理が実行される。以下の説明では、収音機器MICi(i=1,2,3)と収音機器MICj(j=1,2,3、i≠j)との組合せ(音響信号xiと音響信号xjとの組合せ)に関連する要素には添字「ij」を付加する。
図8に示すように、収音機器MICiと収音機器MICjとは基準線DCijに関して線対称な位置に設置される。以下の説明では便宜的に、収音機器MICiと収音機器MICjとの組合せについて、両者間の基準点(中点)Qijからみて基準線DCijに沿う片方側(残りの収音機器MICとは反対側)を「前方」と表記するとともに反対側を「後方」と表記する。すなわち、基準点Qijに対する方向(前方,後方,右方,左方)の表記を収音機器MICiと収音機器MICjとの組合せ毎に個別に規定する。
図7の音響処理装置100Dは、3個の信号分離部Uij(U12,U23,U31)と合成部62および波形合成部56とを含んで構成される。各信号分離部Uijは、第3実施形態の音響処理装置100C(図6)から選択部54と波形合成部56とを省略した構成であり、周波数分析部32と和成分生成部34と差成分生成部36と3個の係数列生成部42C〜42Lと信号処理部50とを具備する。信号分離部Uijの各要素は、音響信号xiおよび音響信号xjを対象として第3実施形態と同様の処理を実行する。
信号処理部50の各指向性付与部52V(52C,52R,52L)は、第3実施形態と同様に、係数列生成部42Vが生成した処理係数列GVを周波数スペクトルX(例えば音響信号xiまたは音響信号xjや両者の加算または平均)に作用させることで指向成分YVij(YCij,YRij,YLij)を生成する。具体的には、信号分離部U12は、図9の部分(A)の指向特性が付与された3系統の指向成分YV12(YC12,YR12,YL12)を生成する。同様に、信号分離部U23は、図9の部分(B)の指向成分YV23(YC23,YR23,YL23)を生成し、信号分離部U31は、図9の部分(C)の指向成分YV31(YC31,YR31,YL31)を生成する。図9から理解されるように、各指向成分YCijは、基準線DCijの方向(前方および後方)からの到来音を強調した信号である。また、指向成分YRijにおいては基準線DCijの右方からの到来音が強調され、指向成分YLijにおいては基準線DCijの左方からの到来音が強調される。
図7の合成部62は、3個の信号分離部Uijが並列に生成した9系統の指向成分YVijの選択および合成で周波数スペクトルZ(Za〜Zf)を生成する。第3実施形態と同様に、波形合成部56が周波数スペクトルZから生成した時間領域の音響信号zが1個の放音機器16から再生される。
合成部62の具体的な動作を以下に説明する。合成部62は、以下の数式(6a)の演算で周波数スペクトルZa(振幅|Za[k]|)を生成する。数式(6a)の演算子max(a,b)は、数値aおよび数値bの最大値を意味する。
Figure 0005454375

すなわち、周波数スペクトルZaの振幅|Za[k]|は、指向成分YC12の振幅|YC12[k]|と指向成分YR23の振幅|YR23[k]|との差分値に設定される。ただし、振幅|YC12[k]|と振幅|YR23[k]|との差分値が負数となる周波数の振幅|Za[k]|はゼロに設定される。
図10は、指向成分YC12と指向成分YR23とを抽出した模式図である。図10に示すように、指向成分YC12のうち後方からの到来音は指向成分YR23の成分と概ね重複するから、指向成分YC12から指向成分YR23を減算すると、指向成分YC12のうち基準線DC12に沿う後方からの到来音は抑圧される。したがって、数式(6a)で生成される周波数スペクトルZaは、図11に示すように、指向成分YC12のうち基準線DC12に沿う前方からの到来音のみを強調した信号となる。
数式(6a)と同様に、9系統の指向成分YVijから選択された2系統の指向成分YVijの差分を算定することで、合成部62は、図11のように相異なる方向からの到来音を強調した周波数スペクトルZb〜Zfを生成する。すなわち、第4実施形態における収音の方向は、合成部62による処理に応じて、6種類の方向(3種類の基準線DCijの各々の前方および後方)の各々に可変に制御される。周波数スペクトルZb〜Zfの算定には、例えば数式(6a)と同様の数式(6b)〜(6f)が利用される。
Figure 0005454375
第4実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。また、第4実施形態においては、収音機器MICの組合せ毎に生成された指向成分YVijを適宜に合成することで、収音方向を多様に変化させることが可能である。したがって、例えば第4実施形態の音響処理装置100Dを可搬型の音声記録装置(ICレコーダ)に搭載すれば、相異なる方向(6方向)に位置する発話者(例えば会議の参加者)毎に発声音を分離することが可能である。また、例えば動画像と音声とを収録する撮像装置(ビデオカメラ)に第4実施形態の音響処理装置100Dを搭載すれば、相異なる方向からの複数の到来音の収音(サラウンド収音)が可能である。第4実施形態の各収音機器MICの間隔dは1cm程度であるから、小型の音声記録装置や撮像装置にも容易に搭載され得る。
なお、合成部62による合成の方法は以上の例示に限定されない。例えば、図12の部分(A)に示すように、指向成分YL12と指向成分YR23とを加算することで、基準線DC12に対して左後方(網掛部)からの到来音を強調した収音が実現される。また、図12の部分(B)に示すように、指向成分YL23と指向成分YR12とを加算することで、基準線DC12に対して右前方(網掛部)からの到来音を強調した収音が実現される。
<E:第5実施形態>
図13は、第5実施形態に係る音響処理装置100Eのブロック図である。図13に示すように、第5実施形態の音響処理装置100Eは、第1実施形態の音響処理装置100Aの選択部54を合成部64に置換した構成である。合成部64は、各指向性付与部52Vが生成した指向成分Y1V(Y1
C,Y1R,Y1L)と指向成分Y2V(Y2C,Y2R,Y2L)との合成で周波数スペクトルZ1および周波数スペクトルZ2を生成する。
合成部64は、以下の数式(7R)に示すように、指向性付与部52Cが生成する指向成分Y1Cと指向性付与部52Rが生成する指向成分Y1Rとの加重和を周波数スペクトルZ1として算定する。また、合成部64は、以下の数式(7L)に示すように、指向性付与部52Cが生成する指向成分Y2Cと指向性付与部52が生成する指向成分Y2Lとの加重和を周波数スペクトルZ2として算定する。数式(7R)および数式(7L)の記号γCおよび記号γRLは加重値である。加重値γCおよび加重値γRLは、例えば操作子(図示略)に対する利用者からの操作に応じて可変に設定される。周波数スペクトルZ1を変換した音響信号z1が放音機器16Rから再生され、周波数スペクトルZ2を変換した音響信号z2が放音機器16Lから再生される。
Figure 0005454375
第1実施形態にて前述したように、指向成分Y1Cおよび指向成分Y2Cにおいては基準線DCの方向(範囲AC)からの到来音が強調される。また、指向成分Y1Rにおいては基準線DCの右方からの到来音が強調され、指向成分Y2Lにおいては基準線DCの左方からの到来音が強調される。したがって、数式(7R)および数式(7L)における加重値γCが加重値γRLに対して大きい数値に設定されるほど、各放音機器16からの再生音において基準線DCの方向からの到来音(前方に対する指向性)が強調され、加重値γRLが加重値γCに対して大きい数値に設定されるほど、各放音機器16からの再生音において左右方向からの到来音(ステレオ感)が強調される。
第5実施形態においては、無指向性の2個の収音機器MIC(MIC1,MIC2)が生成した音響信号x1および音響信号x2の信号処理でステレオ形式の音響信号z1および音響信号z2が生成される。したがって、第1実施形態と同様に、無指向性の収音機器MICを利用しながら収音機器MICの個数を削減することが可能である。また、独立成分分析(ICA)や計算論的聴覚情景分析(CASA)を利用した音源分離と比較して非常に簡便な処理で音源分離後の音響信号z1および音響信号z2が生成されるという利点もある。
なお、第5実施形態は、例えば動画像と音声とを収録する撮像装置(ビデオカメラ)の収音特性を可変に制御する音声ズーム処理に好適に採用され得る。すなわち、合成部64は、撮像装置のズームレンズの焦点距離(撮影倍率)に応じて加重値γCおよび加重値γRLを可変に設定する。具体的には、合成部64は、焦点距離が望遠端に接近する(すなわち撮影範囲が狭い)ほど、基準線DCの方向からの到来音が強調されるように加重値γCを加重値γRLに対して増加させる。また、合成部64は、焦点距離が広角端に接近する(すなわち撮影範囲が広い)ほど、左右方向からの到来音が強調される(ステレオ感が増加する)ように加重値γRLを加重値γCに対して増加させる。
<F:変形例>
以上の各形態は多様に変形され得る。具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は適宜に併合され得る。
(1)変形例1
第1実施形態から第3実施形態では、選択部54による選択の対象(すなわち収音方向)を利用者からの指示に応じて可変に制御したが、複数の指向成分Yの各々の強度に応じて選択部54が指向成分Yを選択する構成も採用され得る。例えば、複数の指向成分Yのうち強度が高い指向成分Yを選択部54が選択すれば、発音源の方向を事前に知得せずに発音源からの到来音を抽出するブラインド音源分離が実現される。なお、複数の発音源が同方向に位置する場合には音響信号zに各発音源からの到来音が混在するが、周波数や音量の相違に応じて分離することが可能である。
(2)変形例2
第1実施形態から第3実施形態では、選択部54の後段に波形合成部56を設置したが、選択部54と波形合成部56との先後を逆転させた構成(すなわち、波形合成部56が各指向成分Yから生成した複数の時間領域の音響信号zを選択部54が選択する構成)も採用され得る。同様に、第4実施形態や第5実施形態における合成部(62,64)と波形合成部56との先後を逆転させた構成(すなわち、波形合成部56が各指向成分Yから生成した複数の時間領域の音響信号zを合成部62または合成部64が合成する構成)も採用され得る。
(3)変形例3
第1実施形態から第5実施形態は適宜に併合され得る。例えば、第3実施形態から第5実施形態において、第1合成部382が生成した右成分Rと第2合成部384が生成した左成分Lとを信号処理部50に供給する第2実施形態の構成を採用することが可能である。
(4)変形例4
第4実施形態においては3個の収音機器MICを利用した場合を例示したが、収音機器MICの個数は任意である。例えば、4個以上の収音機器MICを利用した構成も採用され得る。音響処理装置100Dは、4個の収音機器MICから2個を選択する組合せ毎に指向成分YVij(YCij,YRij,YLij)を生成する。なお、以上の各形態では複数の収音機器MICを直線状または平面状に配置した場合を例示したが、4個以上の収音機器MICを立体的に配置した構成も採用され得る。また、合成部62が選択する各指向成分YVijについて、当該指向成分YVijに対応する処理係数列GVの生成に適用される係数αVを可変に制御することで、収音の指向範囲の広狭を可変に制御することも可能である。
(5)変形例5
以上の各形態で説明した処理を、所定の周波数帯域内の成分のみに限定的に適用する構成も採用され得る。また、各音響信号xを複数の周波数帯域に分割し、以上の各形態での処理を周波数帯域毎に並列に実行してから合成する構成も採用され得る。
(6)変形例6
以上の各形態では無指向性の収音機器MICを利用したが、指向性(例えば単一指向性や双指向性)の収音機器MICを利用した構成にも本発明は適用され得る。例えば単一指向性の2個の収音機器MICの各々が生成した音響信号の周波数スペクトルを和成分Mおよび差成分Sとした構成(したがって和成分生成部34や差成分生成部36は省略される)が採用される。また、第4実施形態のように3個以上の収音機器MICを利用する構成では、全部の収音機器MICを指向性とするほか、無指向性の収音機器MICと指向性(例えば単一指向性)の収音機器MICとを併用することも可能である。
100A,100B,100C,100D,100E……音響処理装置、MIC(MIC1,MIC2,MIC3)……収音機器、16R,16L……放音機器、22……演算処理装置、24……記憶装置、32……周波数分析部、34……和成分生成部、36……差成分生成部、382……第1合成部、384……第2合成部、42V(42C,42R,42L)……係数列生成部、50……信号処理部、52V(52C,52R,52L)……指向性付与部、54……選択部、56……波形合成部、62,64……合成部、Uij(U12,U23,U31)……信号分離部。

Claims (5)

  1. 基準線を挟む各位置の収音機器が生成した第1音響信号と第2音響信号とを処理する装置であって、
    前記第1音響信号と前記第2音響信号とのスペクトルの加算で和成分を生成する和成分生成手段と、
    前記第1音響信号と前記第2音響信号とのスペクトルの減算で差成分を生成する差成分生成手段と、
    前記和成分と差成分との加算で第1成分を生成する第1合成手段と、
    前記和成分と差成分との減算で第2成分を生成する第2合成手段と、
    前記基準線を挟んで第1側からの到来音を強調するための第1処理係数列を前記和成分と前記第1成分との減算で生成する第1係数列生成手段と、
    前記基準線を挟んで前記第1側とは反対の第2側からの到来音を強調するための第2処理係数列を前記和成分と前記第2成分との減算で生成する第2係数列生成手段と、
    前記基準線の方向からの到来音を強調するための第3処理係数列を前記和成分と前記差成分との減算で生成する第3係数列生成手段と
    を具備する音響処理装置。
  2. 前記第1音響信号および前記第2音響信号の一方または双方もしくは前記第1音響信号と前記第2音響信号とを加算した信号を被処理信号として当該被処理信号に前記第1処理係数列を作用させる第1指向性付与手段と、
    前記被処理信号に前記第2処理係数列を作用させる第2指向性付与手段と、
    前記被処理信号に前記第3処理係数列を作用させる第3指向性付与手段と
    を具備する請求項1の音響処理装置。
  3. 前記第1指向性付与手段が生成する信号と前記第2指向性付与手段が生成する信号と前記第3指向性付与手段が生成する信号との何れかを選択する選択手段
    を具備する請求項2の音響処理装置。
  4. 前記第1指向性付与手段が生成する信号と前記第2指向性付与手段が生成する信号と前記第3指向性付与手段が生成する信号との合成で複数の音響信号を生成する合成手段
    を具備する請求項2の音響処理装置。
  5. 相異なる位置に配置された3個以上の収音機器から2個を選択する複数の組合せの各々について、当該組合せに係る2個の収音機器の各々が生成した音響信号を前記第1音響信号および前記第2音響信号として生成された処理係数列で処理された信号を、前記収音機器の相異なる組合せの間で合成する合成手段
    を具備する請求項1の音響処理装置。
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