JP5532745B2 - 磁気異方性磁石及びその製造方法 - Google Patents
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Description
保磁力は、磁化をゼロにするために必要な磁界の大きさのことである。一般に、この保磁力が大きいと耐熱性に優れることが知られている。
残留磁束密度は、磁石材料において最大の磁束密度の大きさ(磁界の強さの程度)を示すものである。この残留磁束密度が大きい(高い)場合、発電機などの装置の小型化及び磁石のコスト低減が図れるため、大変有利となる。
このため、希土類磁石として、残留磁束密度が高いNd(ネオジウム)−Fe(鉄)−B(ボロン)磁石が最も多く使用されている。
このため、特許文献1に記載された磁石合金は、特に磁束密度を高めることで最大エネルギー積((BH)max)が向上しているものの、十分な保磁力が得られていないという問題があった。また、特許文献2及び3に記載された磁石は、高い保磁力が得られているが、必ずしも十分な残留磁束密度が得られていないという問題があった。
(1)前記磁気異方性磁石は、Pr:12.5〜15.0原子%、B:4.5〜6.5原子%、及びGa:0.1〜0.7原子%を含み、残部がT及び不可避的不純物からなるPr−T−B−Ga系の成分組成を有する。
但し、Tは、Fe又はFeの一部をCoで置換したものである。
(2)前記磁気異方性磁石は、残留磁束密度(Br)/飽和磁束密度(Js)で規定される磁気配向度が0.92以上である。
(3)前記磁気異方性磁石は、結晶粒径が1μm以下である。
(4)前記磁気異方性磁石は、保磁力が1600kA/m以上、かつ、残留磁束密度が1.20T以上であり、熱間塑性加工が施されている。
また、前記磁気異方性磁石は、前記Pr(及び、必要に応じて添加されるNd)の一部が、Dy及びTbからなる群から選ばれる少なくとも1種で置換されていても良い。
さらに、前記磁気異方性磁石は、Cu及びAlからなる群から選ばれる少なくとも1種をさらに含んでいても良い。
本発明に係る磁気異方性磁石の製造方法は、
本発明に係る磁気異方性磁石となるように配合された成分組成の合金溶湯を急冷し、急冷により得られた薄帯を粉砕する溶解・急冷・粉砕工程と、
粉砕により得られた合金粉末を冷間成形する冷間成形工程と、
前記冷間成形工程で得られた冷間成形体を500℃以上850℃以下の温度で予備加熱する予備加熱工程と、
前記予備加熱された冷間成形体を熱間成形する熱間成形工程と、
前記熱間成形工程で得られた熱間成形体に対して熱間塑性加工を施す熱間塑性加工工程
を備え
前記磁気異方性磁石は、磁気配向度が0.92以上、かつ、結晶粒径が1μm以下であり、保磁力が1600kA/m以上、かつ、残留磁束密度が1.2T以上である。
冷間成形体に対して予備加熱+熱間成形を行うと、粒界相が液状化して磁石素材が緻密化すると同時に、液状化した粒界相が結晶粒の周囲を取り囲む。この時、結晶粒の磁化容易軸は、ランダムな方向を向いたままである。次いで、得られた熱間成形体に対して熱間塑性加工を行うと、結晶粒が加圧方向に圧縮されて塑性変形すると同時に、各結晶粒の磁化容易軸が加圧方向に配向する。その結果、残留磁束密度(Br)/飽和磁束密度(Js)で規定される磁気配向度が0.92以上となる。また、製造条件を最適化すると、磁気配向度は0.95以上となる。
本発明においては、磁化容易軸が一定の方向へ向きやすくなる結果、残留磁束密度を高めることができる。これは、磁気異方性磁石素材の主成分としてPrを用いると粒界相の融点が比較的低くなり、結晶粒をスムーズに回転させることができるからだと考えられる。つまり、本発明は、Pr自体の元素特性と熱間塑性加工時におけるPr独自の配向機構の作用により、残留磁束密度を低下させることなく、保磁力の向上を図ることができる。
[1. 磁気異方性磁石素材]
本発明に係る磁気異方性磁石素材は、以下のような構成を備えている。
[1.1 成分組成]
本発明に係る磁気異方性磁石素材は、Pr−T−B−Ga系の成分組成を有する。すなわち、本発明に係る磁気異方性磁石素材は、所定量のPr、B及びGaを含み、残部がT及び不可避不純物からなる。各元素の範囲及び限定理由は、以下の通りである。
(1) Pr:12.5〜15.0原子%
Prの含有量が少ないと、保磁力(iHc)が極端に低下する。また、熱間塑性加工を施す際に、被加工材の十分な流動性が得られないために、塑性加工が困難となる、さらに、Pr含有量が少ないと、後述する磁気配向度(Br/Js)が低下する。従って、Pr含有量は、12.5原子%以上である必要がある。Pr含有量は、さらに好ましくは、13.0原子%、さらに好ましくは、13.5原子%以上である。
一方、Pr含有量が過剰になると、残留磁束密度(Br)が極端に低下する。また、熱間塑性加工を施す際に、金型への焼付きが発生しやすくなる。さらに、Pr含有量が過剰になると、磁気配向度(Br/Js)が低下する。従って、Pr含有量は、15.0原子%以下とする必要がある。Pr含有量は、さらに好ましくは、14.5原子%以下、さらに好ましくは、14.0原子%以下である。
B含有量が少ないと、磁気異方性磁石素材中の結晶粒が粗大化し、良好な結晶粒の配向状態が得られない。従って、B含有量は、4.5原子%以上である必要がある。残留磁束密度を低下させることなく、保磁力を向上させるためには、B含有量は、5.0原子%以上が好ましい。
一方、B含有量が過剰になると、粒界相量が少なくなり、結晶粒界に硬くて脆いPrFeB4などのBリッチ相が形成され、配向が不完全な結晶粒の状態が形成されやすくなる。従って、B含有量は、6.5原子%以下である必要がある。残留磁束密度を低下させることなく、保磁力を向上させるためには、B含有量は、6.0原子%以下が好ましい。
Ga含有量が少ないと、保磁力(iHc)が低下する。従って、Ga含有量は、0.1原子%以上である必要がある。Ga含有量は、さらに好ましくは、0.15原子%以上、さらに好ましくは、0.2原子%以上である。保磁力を向上させるためには、Ga含有量は、0.4原子%以上が好ましい。
一方、Ga含有量が過剰になると、保磁力(iHc)がかえって低下する。また、Gaは高価であるので、Gaの必要以上の添加は、高コスト化を招く。従って、Ga含有量は、0.7原子%以下である必要がある。保磁力を向上させるためには、Ga含有量は、0.5原子%以下が好ましい。
Pr、B及びGa以外の残部は、T及び不可避不純物からなる。
Tは、Feのみからなるものでも良く、あるいは、Feの一部がCoで置換されているものでも良い。
Feの一部をCoで置換すると、耐食性と熱安定性が向上する。しかしながら、CoによるFeの置換量が過剰になると、飽和磁束密度と保磁力が低下する。従って、磁気異方性磁石素材中の全元素量に対するCo含有量は、6.0原子%以下が好ましい。
(1) Nd
Prの一部は、Ndに置換されていても良い。この場合、高温特性が要求される用途で使用されると好ましいからである。しかしながら、Ndの含有量が過剰になると、保磁力が低下する。従って、Ndを含む場合、PrとNdの総量が12.5〜15.0原子%であることに加えて、Prの含有量が全希土類元素の50原子%以上となるように、Prの一部をNdで置換するのが好ましい。
具体的には、磁気異方性磁石素材中の全元素量に対するNdの含有量は、6.0原子%以下が好ましい。Nd含有量は、さらに好ましくは、5.0原子%以下、さらに好ましくは、4.0原子%以下、さらに好ましくは、2.0原子%以下である。
Prの一部は、Dy及びTbからなる群から選ばれる少なくとも1種で置換されていても良い。また、PrとNdの双方を含む場合、Pr及び/又はNdの一部がDy及びTbからなる群から選ばれる少なくとも1種で置換されていても良い。
Pr(及びNd)の一部を、Dy及び/又はTbで置換すると、磁気異方性が大きくなり、高保磁力化を図ることができる。そのため、Dy及び/又はTbを含む磁気異方性磁石素材は、高温で使用される磁石材料として好適である。
高保磁力化を図るためには、Pr(及びNd)、Dy及びTbの総量が12.5〜15.0原子%であることに加えて、磁気異方性磁石素材中の全元素量に対するDy及びTbの含有量は、それぞれ、1.0原子%以上が好ましい。
一方、Dy及び/又はTbの置換量が過剰になると、残留磁束密度が低下する。従って、Pr(及びNd)、Dy及びTbの総量が12.5〜15.0原子%であることに加えて、磁気異方性磁石素材中の全元素量に対するDy及びTbの含有量は、それぞれ、2.0原子%以下が好ましい。
Ndで置換することに加えて、又はこれに代えて、Dy及び/又はTbで置換する場合においても、Prの総量は、全希土類元素の50原子%以上が好ましい。
Pr(及びNd)の一部をDy及びTbのいずれか1種以上で置換することに代えて、又はこれに加えて、磁気異方性磁石素材は、Cu及びAlからなる群から選ばれる少なくとも1種をさらに含んでいても良い。
所定の組成を有する磁気異方性磁石素材中にCu及び/又はAlを添加すると、保磁力が向上する。これは、Cu及び/又はAlを添加することによって粒界相が低融点化し、主相の周囲に粒界相が均一に形成されるため、及び、これによって外部からの磁界を受けにくくなるため、と考えられる。Cu及びAlの含有量が微量である場合、これらの添加で主相の磁気特性が損なわれることがない。
一方、Cu及びAlの含有量が過剰になると、残留磁束密度が低下する。従って、Cuを単独で添加する場合、Cuの含有量は、1.0原子%以下が好ましく、さらに好ましくは、0.5原子%以下である。同様に、Alを単独で添加する場合、Alの含有量は、1.0原子%以下が好ましく、さらに好ましくは、0.5原子%以下である。
さらに、Cu及びAlを同時に添加する場合、Cu及びAlの合計の含有量は、2.0原子%以下が好ましく、さらに好ましくは、1.5原子%以下である。
本発明に係る磁気異方性磁石素材は、上述のような成分組成の合金溶湯を急冷し、急冷により得られた薄帯を粉砕し、粉砕により得られた合金粉末を冷間成形し、冷間成形体を予備加熱し、予備加熱した冷間成形体を熱間成形し、この熱間成形体に対して熱間塑性加工を施すことにより得られる。その結果、磁気異方性磁石素材は、主相(R2T14B相(Rは、希土類元素))からなる結晶粒と、それを取り囲んで配置される粒界相とを備えた多結晶体となる。
成分組成及び後述する製造条件を最適化すると、保磁力を高く維持したまま、残留磁束密度を向上させることができる。これは、結晶粒の粗大化、及び酸素含有量の増大を生じさせることなく、磁化容易軸の配向度が向上するためと考えられる。
ここで、「結晶粒径」とは、
(a)結晶のab面(加圧方向に対して平行な面。例えば、押出し成形された円筒状磁石の場合、縦断面)を撮影し、
(b)撮影された画像の上に圧縮方向に対して垂直方向に、総数100個の結晶粒を横切るように1本又は複数本の直線を引き、
(c)100個の結晶粒を横切る直線の総長さを100で割る、
ことにより得られる値をいう。
磁気配向度とは、残留磁束密度(Br)/飽和磁束密度(Js)で規定される値をいう。また、飽和磁束密度(Js)とは、磁性体の自発磁化の強さ、言い換えれば、磁性体に外部から磁場を加えていったときに、磁化が増えなくなったときの値をいう。
R2Fe14B結晶(Rは、希土類元素)の磁化容易軸(c軸)が完全に配向した試料では、一旦飽和磁束密度Jsまで磁化した後に外部磁界を取り去っても、残留磁束密度Brは、ほぼJsと同じになることが予測される。すなわち、完全に配向した試料は、磁気配向度が1となる。
一方、磁化容易軸がある角度に傾いた試料では、完全配向した試料と同じ飽和磁束密度を有していても、外部磁界を減じる過程で相当量の磁化容易軸の回転が起こって磁化の低下を招く。その結果として、Js>Brとなる。
本発明に係る磁気異方性磁石素材は、成分組成及び製造条件を最適化すると、その保磁力(iHc)は、1600kA/m以上となる。また、成分組成及び製造条件をさらに最適化すると、保磁力(iHc)は、1700kA/m以上、1800kA/m以上、1900kA/m以上、あるいは、2000kA/m以上となる。
また、本発明に係る磁気異方性磁石素材は、成分組成及び製造条件を最適化すると、残留磁束密度(Br)は、1.20T以上となる。
本発明に係る磁気異方性磁石素材の製造方法は、溶解・急冷・粉砕工程と、冷間成形工程と、予備加熱工程と、熱間成形工程と、熱間塑性加工工程とを備えている。
溶解・急冷・粉砕工程は、所定の組成を有する合金を溶解し、溶湯を急冷して薄帯とし、得られた薄帯を粉砕する工程である。
原料の溶解方法は、特に限定されるものではく、成分が均一で、かつ急冷凝固が可能な程度の流動性を持つ溶湯が得られる方法であれば良い。本発明に係る磁気異方性磁石素材の場合、溶湯の温度は、1000℃以上が好ましい。
溶湯の急冷は、一般に、抜熱性の高い回転ロール(銅ロール)に溶湯を滴下することにより行う。溶湯の冷却速度は、回転ロールの周速度及び溶湯の滴下量により制御することができる。周速度は、通常、10〜30m/秒程度である。
急冷により得られた薄帯を粉砕すると、約20nmの微結晶粒から構成されるフレーク状の合金粉末が得られる。
冷間成形工程は、急冷・粉砕により得られる合金粉末を冷間成形する工程である。
冷間成形は、室温において合金粉末を型に充填し、パンチで加圧することにより行う。
一般に、成形圧力が大きくなるほど、高密度の冷間成形体が得られる。一方、成形圧力がある値以上になると、冷間成形体の密度が飽和するので、必要以上の加圧には実益がない。成形圧力は、組成、粉末の大きさ等によって適宜選択するのが好ましい。
加圧時間は、冷間成形体の密度が飽和する時間以上であれば良い。通常、1〜5秒間である。
予備加熱工程は、冷間成形工程で得られた冷間成形体を500℃以上850℃以下の温度で予備加熱する工程である。
予備加熱と後述する熱間成形とを組み合わせると、冷間成形体の加熱及び加圧を連続的に行うことができるので、工業的な量産方法として好適である。また、予備加熱の条件を最適化して熱間成形すると、結晶組織が均一かつ微細な成形体ができる。この成形体を熱間塑性加工すると、磁気配向度がさらに向上するという利点もある。
なお、熱間成形時における成形体の割れの発生を避けるために、型内に成形体を挿入した後、成形体が所定の温度に達するまで保持するのは、生産効率の低下を招く。
一方、予備加熱温度が高すぎると、結晶粒が粗大化する。また、大気中で予備加熱を行う場合、予備加熱温度が高くなるほど、材料が酸化し、酸素含有量が増大する。従って、予備加熱温度は、850℃以下が好ましい。予備加熱温度は、さらに好ましくは、800℃以下、さらに好ましくは、780℃以下である。
予備加熱時の雰囲気は、不活性雰囲気、酸化雰囲気、還元雰囲気のいずれであっても良い。しかしながら、酸素含有量の増加は、磁気特性の低下を招く。従って、予備加熱時のの雰囲気は、不活性雰囲気又は還元雰囲気が好ましい。
熱間成形工程は、予備加熱された冷間成形体を熱間において加圧し、磁石素材を緻密化させる工程である。
本発明において、「熱間成形」とは、型内において加熱された冷間成形体をパンチで加圧する、いわゆるホットプレス法をいう。ホットプレス法を用いて冷間成形体を熱間において加圧すると、冷間成形体に残存する気孔が消滅し、緻密化させることができる。
ホットプレス法を用いて熱間成形を行う方法としては、具体的には、
(1)型内に冷間成形体を挿入し、冷間成形体及び型の温度が所定の温度に達する前若しくは後、又は昇温の過程で、冷間成形体に所定の圧力を所定時間かける第1の方法、
(2)冷間成形体を予備加熱し、予備加熱された冷間成形体を所定の温度に加熱された型内に挿入し、冷間成形体に所定の圧力を所定時間かける第2の方法、
などがある。
本発明においては、第2の方法を用いる。
一般に、ホットプレス温度が低すぎると、粒界相の液状化が不十分となる。その結果、緻密化が不十分となり、あるいは熱間成形後の成形体に割れが発生する場合がある。従って、ホットプレス温度は、750℃以上が好ましい。
一方、ホットプレス温度が高すぎると、結晶粒が粗大化し、磁気特性の低下を招く。従って、ホットプレス温度は、850℃以下が好ましい。
一般に、加圧時間が長くなるほど、成形体の緻密化が進行する。一方、必要以上の保持は、結晶粒が粗大化し、磁気特性の低下を招く。加圧時間は、組成、粉末の大きさ、温度条件等に応じて適宜選択するのが好ましい。
ホットプレス時の雰囲気は、不活性雰囲気、酸化雰囲気、還元雰囲気のいずれであっても良い。しかしながら、酸素含有量の増加は、磁気特性の低下を招く。従って、ホットプレス時の雰囲気は、不活性雰囲気又は還元雰囲気が好ましい。
熱間塑性加工工程は、緻密化された熱間成形体を所定の形状に塑性変形させる工程である。
熱間塑性加工方法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて種々の方法を用いることができる。
熱間塑性加工方法としては、具体的には、
(1)熱間押出し加工(後方押出し加工及び前方押出し加工を含む)、
(2)熱間据え込み加工、
などがある。熱間塑性加工方法は、工業的な生産性の観点から、熱間押出し加工が特に好適である。
一方、加工温度が高すぎると、結晶粒が粗大化し、磁気特性の低下を招く。従って、加工温度は、850℃以下が好ましい。
熱間塑性加工時の雰囲気は、不活性雰囲気、酸化雰囲気、還元雰囲気のいずれであっても良い。しかしながら、酸素含有量の増加は、磁気特性の低下を招く。従って、熱間塑性加工時の雰囲気は、不活性雰囲気又は還元雰囲気が好ましい。
熱間塑性加工後、必要に応じて後加工を施すと、所望の成分組成及び形状を有する磁石素材が得られる。
急冷凝固・粉砕した合金粉末を冷間成形し、冷間成形体を予備加熱+熱間成形すると、緻密な熱間成形体が得られる。図6は、熱間成形体の内部の状態を示す模式図である。図6によく示されるように、熱間成形体の内部は、結晶粒51と粒界相52からなる。熱間成形時に成形体の温度が約600〜700℃を超えると、粒界相52が液状化しはじめる。そして、加熱温度が約700〜800℃を超えると、結晶粒51は、液状化した粒界相52に囲まれた状態となる。
この時、結晶粒51は、黒塗り矢印Aに示す方向へ回転可能な状態となる。しかしながら、熱間加工時においては圧縮変形量が少ないために、各結晶粒51中に存在する磁化容易軸53(白抜き矢印)は、磁化の方向(すなわち、N極、S極の方向)がバラバラの状態(等方化状態)のままであり、通常、磁化容易軸53がある方向に揃った状態(異方化状態)になることはない。
熱間成形体を加熱すると、粒界相が液状化し、結晶粒が回転可能な状態となる。このような状態で熱間塑性加工を行うと、結晶粒が加圧方向に圧縮されて塑性変形すると同時に、磁化容易軸が加圧方向に配向する。
熱間後方押出し加工により円筒状成形体を製造する場合、パンチは軸方向に挿入されるが、材料の加圧方向は、ラジアル方向となる。そのため、後方押出しに伴い、液状化した粒界相52に囲まれた結晶粒51は、ラジアル方向に圧縮される。また、これと同時に、磁化容易軸53がラジアル方向に揃うように回転する。その結果、図7に示すように、磁化容易軸53がラジアル方向に揃った円筒状成形体が得られる。
つまり、本発明に係る磁気異方性磁石素材は、Pr自体の元素の特性と熱間塑性加工時におけるPr独自の配向機構により、残留磁束密度を低下させることなく、保磁力を向上させることが可能となった。
これは、
(1)所定の温度で予備加熱することによって、冷間成形体が金型の温度に近い温度まで均一に加熱され、熱間成形中における磁石素材の温度分布が一様になり、熱間成形時間が短縮化される。これにより、均一な微細組織を有する熱間成形体ができるため、及び、
(2)結晶粒が微細化かつ均一化した熱間成形体を熱間塑性加工することによって、結晶粒が微細化したままR2Fe14Bのc軸(磁化容易軸)が加圧方向に配向しやすくなったため、
と考えられる。
[1. 試料の作製]
所定の組成を有する合金溶湯を急冷した。得られた薄帯を粉砕して合金粉末を得た。合金粉末を冷間成形し、冷間成形体を熱間成形した。さらに、この熱間成形体に対して熱間塑性加工を施し、磁気異方性磁石素材を得た。
合金組成は、PrxFe94.05-xB5.5Ga0.45(x=12.0、12.5、13.0、13.5、14.0、14.5、15.0、15.5、16.0。不可避不純物を含む。)とした。
また、予備加熱条件及び熱間成形条件は、
(1)750℃×10minで予備加熱+815℃(金型温度)でホットプレス(予備加熱有り)、又は、
(2)850℃(金型温度)でホットプレス(予備加熱無し)
とした。
[2.1 磁気特性]
磁気異方性磁石素材を着磁し、その磁気特性を直流BHトレーサにより測定した。
[2.2 磁気配向度]
磁気異方性磁石素材を着磁し、その磁気配向度をパルス式高磁界測定器(磁場:3988kA/m)により測定した。
図1に、Prの含有量と保磁力(iHc)との関係、及びPrの含有量と残留磁束密度(Br)との関係を示す。
図1より、
(1)予備加熱がない場合において、Prの含有量が13原子%未満であるときには、保磁力(iHc)が極端に低下し、塑性加工も困難となる、
(2)予備加熱がない場合において、Prの含有量が15原子%を超えるときには、残留磁束密度(Br)が極端に低下し、金型への焼付きも発生しやすくなる、
(3)予備加熱がある場合において、Prの含有量が12.5原子%以上であるときには、予備加熱なしに比べて保磁力(iHc)が高く、塑性加工も可能となる、
(4)予備加熱を行うと、予備加熱なしに比べて残留磁束密度(Br)が向上する、
ことがわかる。
図2より、
(1)予備加熱がない場合において、保磁力と残留磁束密度の両方が共に優れるPr含有量は、13.0〜14.5原子%、さらに好ましくは13.5〜14.0原子%である、
(2)予備加熱を行うと、保磁力と残留磁束密度の両方がともに優れるPr含有量の範囲が12.5〜15.0原子%に拡大する、
ことがわかる。
図3より、
(1)予備加熱がない場合において、Pr含有量が13原子%未満であるとき、及び15原子%を超えるときのいずれも、磁気配向度が低下する、
(2)予備加熱がある場合において、Pr含有量が12.5〜15原子%の範囲で0.92以上の磁気配向度が得られる、
ことがわかる。
[1. 試料の作製]
合金組成を、Pr13.09Fe81.51-yB5.4Gay(y=0、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8。不可避不純物を含む。)とした以外は、実施例1.1と同様にして、磁気異方性磁石素材を作製した。
[2. 試験方法]
磁気異方性磁石素材を着磁し、その磁気特性を直流BHトレーサにより測定した。
図4に、Ga含有量と保磁力(iHc)との関係を示す。
図4より、
(1)Ga含有量が0.1原子%未満になると、保磁力(iHc)が極端に低下する、
(2)Ga含有量が0.7原子%を超えると、保磁力(iHc)が低下する、
(3)高い保磁力を得るためには、Ga含有量は、0.2〜0.7原子%が好ましく、0.4〜0.5原子%がさらに好ましい、
(4)予備加熱を行うと、予備加熱を行わない場合に比べて高い保磁力が得られる、
ことがわかる。
[1. 試料の作製]
表1に示す合金組成(実施例2.1〜2.21、比較例2.1〜2.5)について、以下に示す製造方法で磁気異方性磁石素材を作製した。図5に、磁気異方性磁石素材の製造方法の各工程を示す。
合金原料を各種所定量配合し、1000℃以上で溶解した。その溶湯11をオリフィス12から抜熱性の高い回転ロール13に滴下して急冷し、薄帯14を製造した。回転ロール13の周速度は、18〜20m/秒とした。この薄帯14を粉砕し、0.02μm(20nm)の微結晶粒からなるフレーク状の合金粉末10を得た。
[1.2 冷間成形工程]
56gの合金粉末10をコールドプレス機21にセットした。5.1t/cm2(5.0×102MPa)程度の圧力を1秒から5秒間かけて円柱状に成形加工し、冷間成形体20(外径:22.8mm、高さ30mmの円柱状成形体)を得た。
冷間成形体20を、アルゴン雰囲気中において、750℃×10min予備加熱した。次いで、予備加熱された冷間成形体20をホットプレス機31にセットした。これをアルゴン雰囲気中で815℃(金型温度)の条件下で4t/cm2(3.92MPa)程度の圧力を約20秒間かけて円柱状に成形加工し、熱間成形体30(外径22.8mm、高さ20mmの円柱状成形体)を得た。
[1.4 後方押出し加工]
熱間成形体30を後方押出し装置41にセットし、大気中で860℃(金型温度)の条件下で後方押出しを行い、磁気異方性磁石素材40(外径22.8mm、内径18.8mm、高さ40mmの円筒状成形体)を得た。
熱間成形体30を金型43に挿入し、熱間成形体30よりも径が小さいパンチ42で後方(図5では上方向)に押し出すと、熱間成形体30が、パンチ42と金型43との間の溝に、パンチ42の進行方向と逆方向に押し出される。その結果、有底の円筒状成形体40が得られる。
得られた円筒状成形体40の底部分を切り落とした後、ラジアル方向に着磁してリング状磁石を得た。
[2.1 組成分析]
合金粉末の組成をICP分析により測定した。
[2.2 磁気配向度]
得られたリング状磁石の磁気配向度Br/Jsを、パルス式高磁界測定器(磁場:3988kA/m)を用いて測定した。この測定は、着磁したリング状磁石の側面から切り取った直径約5mmの円盤状の試験片を用いて行った。
[2.3 磁気特性]
得られたリング状磁石の保磁力(iHc)と残留磁束密度(Br)を直流BHトレーサにより測定した。この測定は、磁気配向度の測定と同様に、着磁したリング状磁石の側面から切り取った直径約5mmの円盤状の試験片を用いて行った。
表1に、これらの測定結果を示す。
表1に良く示されるように、実施例2.1〜2.21の磁気配向度Br/Jsは、いずれも0.92以上の高い数値となっているのに対し、比較例2.1〜2.5の磁気配向度Br/Jsは、いずれも0.92を下回っている。また、実施例2.1〜2.21の残留磁束密度(Br)は、比較例2.1〜2.5の残留磁束密度(Br)と比べると、同等若しくはそれ以上の数値となっている。
これは、熱間塑性加工時におけるPr独自の配向機構及び適切な予備加熱により、磁気配向度が向上したためと推定される。
この結果から、高温環境下で使用される自動車用モータ等、耐熱性の要求が更に高い用途には、Dy又はTbの置換量が1原子%以上のものを用いればよいことがわかる。ただし、必要以上に置換すると、熱間塑性加工時の磁気配向度に悪影響を及ぼすことが考えられる。そのため、置換量は2.0原子%以下とする方が良い。
よって、保磁力が使用上、特に要求される場合には、Dy又はTbの置換量は、1.0〜2.0原子%とすることが望ましい。
この結果から、CuとAlの添加による高保磁力化が確認できた。
以上の結果から、実施例2.1〜2.21に係る磁気異方性磁石素材により、残留磁束密度を低下させることなく、保磁力の向上を図ることが確認できた。また、本発明に係る磁気異方性磁石素材は、特に、高い磁力と耐熱性が要求されるモータ用途として期待できる点が確認できた。
[1. 試料の作製]
急冷凝固・粉砕法により、Pr系(実施例3.1〜3.9、比較例3.10〜3.15)及びNd系(比較例3.1〜3.9)の合金粉末を作製した。Pr系合金粉末の組成は、12.85Pr−5.36B−0.42Ga−bal.Fe(原子%)とした。また、Nd系合金粉末の組成は、12.87Nd−5.38B−0.44Ga−bal.Fe(原子%)とした。
この合金粉末を用いて冷間成形、熱間成形、及び熱間塑性加工を行い、円筒状成形体を得た。熱間成形は、冷間成形体をAr雰囲気中において500〜820℃で予備加熱し、予備加熱された成形体を815〜850℃に加熱された型内で加圧することにより行った。但し、比較例3.10〜3.15については、予備加熱を行わなかった。冷間成形及び熱間塑性加工の条件は、実施例2.1〜2.21と同様とした。
得られた円筒状成形体の底部分を切り落とした後、ラジアル方向に着磁してリング状磁石を得た。
実施例2.1〜2.21と同様の手順に従い、磁気特性及び磁気配向度を測定した。
表2に、その結果を示す。なお、表2には、予備加熱条件及び熱間成形条件も併せて示した。
なお、表2における成形体の特性評価は、下記基準にて行った。
◎=押出加工時間が15秒以下
○=押出加工時間が16〜20秒
△=押出加工時間が21秒以上
表2より、以下のことがわかる。
(1)Pr系磁石では、予備加熱温度750℃、金型温度815℃の時に最大エネルギー積(BH)maxが最大となり、磁気配向度が0.95を超える。また、極めて良好な成形性が得られる。
(2)Nd系磁石の磁気配向度は0.90未満である。成形性は、比較的良好であるが、予備加熱有りのPr系磁石には及ばない。
(3)Pr系磁石であっても、予備加熱を行わないと、熱間成形の成形性が低下して均一な微細組織を有する成形体が得られないため、熱間塑性加工時の押出に時間がかかる。この結果、結晶粒の粗大化により保磁力が低下すると共に配向しにくくなるため残留磁束密度も低下する。言い換えれば、予備加熱を行った場合には、熱間加工及び熱間塑性加工をスムーズに行うことができ、良好な磁気特性を持つ磁石素材を得ることができる。また、Pr系磁石において、予備加熱温度が高すぎると最大エネルギー積が低下するのは、結晶粒の粗大化による保磁力の低下と結晶が配向しにくくなることによる残留磁束密度の低下が原因だと考えられる。
(5)Pd系磁石及びNd系磁石ともに、予備加熱温度が500℃未満である場合、粒界相が液状化しないために熱間成形後のワークに割れが生じ、磁石成形が困難となる場合が多かった。
以上の結果から、Nd系磁石に比べて粒界相融点の低いPr系磁石では、磁石成形が可能であり、かつ磁気特性の低下が小さい適切な予備加熱温度を持つことがわかった。
20 冷間成形体
30 熱間成形体
40 円筒成形体(磁気異方性磁石素材)
51 結晶粒
52 粒界相
53 磁化容易軸
Claims (7)
- 以下の構成を備えた磁気異方性磁石。
(1)前記磁気異方性磁石は、Pr:12.5〜15.0原子%、B:4.5〜6.5原子%、及びGa:0.1〜0.7原子%を含み、残部がT及び不可避的不純物からなるPr−T−B−Ga系の成分組成を有する。
但し、Tは、Fe又はFeの一部をCoで置換したものである。
(2)前記磁気異方性磁石は、残留磁束密度(Br)/飽和磁束密度(Js)で規定される磁気配向度が0.92以上である。
(3)前記磁気異方性磁石は、結晶粒径が1μm以下である。
(4)前記磁気異方性磁石は、保磁力が1600kA/m以上、かつ、残留磁束密度が1.20T以上であり、熱間塑性加工が施されている。 - 前記Prの一部が、Ndで置換されている請求項1に記載の磁気異方性磁石。
但し、前記Prは、全希土類元素の50原子%以上である。 - 前記Pr及び/又は前記Ndの一部が、Dy及びTbからなる群から選ばれる少なくとも1種で置換され、
Dy及びTbの含有量は、それぞれ、2.0原子%以下である請求項1又は2に記載の磁気異方性磁石。 - Cu及びAlからなる群から選ばれる少なくとも1種をさらに含み、
Cu及びAlの含有量は、それぞれ、1.0原子%以下である請求項1から3までのいずれかに記載の磁気異方性磁石。 - 請求項1から4までのいずれかに記載の磁気異方性磁石となるように配合された成分組成の合金溶湯を急冷し、急冷により得られた薄帯を粉砕する溶解・急冷・粉砕工程と、
粉砕により得られた合金粉末を冷間成形する冷間成形工程と、
前記冷間成形工程で得られた冷間成形体を500℃以上850℃以下の温度で予備加熱する予備加熱工程と、
前記予備加熱された冷間成形体を熱間成形する熱間成形工程と、
前記熱間成形工程で得られた熱間成形体に対して熱間塑性加工を施す熱間塑性加工工程と
を備え
前記磁気異方性磁石は、磁気配向度が0.92以上、かつ、結晶粒径が1μm以下であり、保磁力が1600kA/m以上、かつ、残留磁束密度が1.2T以上である
磁気異方性磁石の製造方法。 - 前記熱間成形工程は、前記冷間成形体を所定の温度に加熱された型に挿入し、所定の圧力をかけるものである請求項5に記載の磁気異方性磁石の製造方法。
- 前記予備加熱工程において、前記冷間成形体を500℃以上750℃以下の温度で予備加熱するものである請求項5又は6に記載の磁気異方性磁石の製造方法。
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