JP5633952B2 - D−プシコースを有効成分とするグルコキナーゼの核から細胞質への移行の促進剤 - Google Patents
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Description
肝臓は、血糖の恒常性の維持に重要な臓器である。肝糖代謝における解糖系の律速酵素の一つであるグルコキナーゼは、空腹時には細胞核内においてグルコキナーゼ調節タンパク質と結合して不活性型として存在し、細胞外のD-グルコース濃度の上昇、低濃度のD-フルクトースの存在により、グルコキナーゼ活性調節タンパク質から解離して核から細胞質へ移行し、D-グルコース代謝を促進する。グルコキナーゼの核 / 細胞質間の移行はホルモンによって調節されており、インスリンはグルコキナーゼを核から細胞質へ移行させ、グルカゴンは細胞質から核へ移行させる。
また、脳視床下部にもグルコキナーゼが存在し、グルコースセンサーとして機能していると考えられている。脳視床下部においてもグルコキナーゼ活性調節タンパク質が存在していること、グルコキナーゼが結合型と遊離型として存在することなどより、視床下部において希少糖によるグルコキナーゼの核から細胞質への移行によるグルコキナーゼ活性の増大、あるいは結合型グルコキナーゼから遊離型グルコキナーゼの増大によるグルコキナーゼ活性の増加が起こり、その変化が神経系を介して末梢組織に伝わり、末梢組織におけるグルコース利用の亢進や摂食が抑制されることになり、耐糖能異常、糖尿病、肥満症、メタボリックシンドロームの予防と治療に役立つことになる。
膵臓β細胞では、グルコキナーゼは核内ではなく、細胞質と一部インスリン分泌顆粒に存在しているので、膵臓β細胞でも希少糖によるグルコキナーゼ活性の増大によるインスリン分泌の上昇を介して耐糖能異常や糖尿病の予防及び治療に役立つことが期待できる。
グルコキナーゼ活性化剤は、インスリン分泌の増加と結び付けられる、β細胞と肝細胞におけるグルコース代謝速度を増加させる。そのような薬剤は2型糖尿病の治療に有用であろう。
グルコキナーゼ活性剤としては、グルコキナーゼをコードする遺伝子、D-グルコース、cAMP、レチノイン酸等(特許文献1)、置換フェニルアセトアミド(特許文献2)、ヘテロアリールカルバモイルベンゼン誘導体(特許文献3)、アミノベンズアミド誘導体((特許文献4)、ピリジン−2−カルボキサミド誘導体(特許文献5)が提示されている。
すなわち、本発明は、希少糖の中にグルコキナーゼの活性化物質を探索し、該活性化物質を有効成分とするグルコキナーゼ活性に関連する(=グルコキナーゼの核から細胞質への移行の促進に関連する)病状の処置(予防ないし治療)用組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、食品添加物、食品素材、飲食品、健康飲食品、医薬品、飼料の形態で飲食、あるいは経口投与するだけで、グルコキナーゼ活性に関連する病状の処置(予防ないし治療)することができる希少糖D-プシコースおよび/またはD-タガトースの使用技術を提供しようとするものである。
(1)D-プシコースを有効成分とするグルコキナーゼの核から細胞質への移行の促進剤。
なお、上記の「グルコキナーゼの核から細胞質への移行の促進剤」は、グルコキナーゼの核から細胞質への移行に限定することではなく、不活性型グルコキナーゼの活性型グルコキナーゼの増加を引き起こす化合物、すなわち、活性型グルコキナーゼ増加剤も含む。
細胞質のグルコキナーゼが、あるいは核から細胞質へ移行したグルコキナーゼが細胞質のタンパク質や細胞内小器官と相互作用する。たとえば、グルコキナーゼが解糖系の酵素の調節にかかわるフルクトース2,6−ビスリン酸合成分解酵素に結合すること、すなわち解糖系の調節に関与する可能性がある。またグルコキナーゼが他のタンパク質と結合してグルコキナーゼ活性が増加する可能性もある。それらからはグルコキナーゼがミトコンドリアに結合する可能性が示唆される。上記の中で、グルコキナーゼがミトコンドリアに存在するプロピオニルCoA カルボキシラーゼと結合するとグルコキナーゼ活性が増加することは特開2001−333778号公報に開示されているが、該公報ではD-プシコースや他の希少糖でこの効果がでるというような実験はされていない。本発明では実施例でこの可能性について裏付けている。
そこで、背景技術の中で述べた視床下部と膵B細胞を中心に考えて上記の事について説明する。
細胞内小器官あるいは細胞内タンパク質とグルコキナーゼが相互作用してグルコキナーゼ活性が変化することや、細胞内小器官やグルコキナーゼと相互作用するタンパク質の機能が変化することで、細胞内の代謝や細胞の機能が調節される意味を含めて、上記の「グルコキナーゼの核から細胞質への移行の促進剤」は、グルコキナーゼの核から細胞質への移行に限定することではなく、不活性型グルコキナーゼの活性型グルコキナーゼの増加を引き起こす化合物、すなわち、活性型グルコキナーゼ増加剤も含むと、定義した。
図1に示すように、ヘキソキナーゼは,D-グルコースをD-グルコース6-リン酸に変換する酵素である。ヘキソキナーゼには4種類のアイソザイム(typeI、typeII、typeIII、typeIV)が存在し、ヘキソキナーゼtypeIVがグルコキナーゼである。グルコキナーゼは他のアイソザイム (ヘキソキナーゼ types I〜III) と異なりグルコースとの親和性が低く (Km;5〜10mM)、D-グルコース 6-リン酸によるフィードバック阻害を受けない。本酵素は、膵ランゲルハンス氏島、肝臓、脳、腸管に分布している。これらのことより、グルコキナーゼは生体内の血糖の恒常性に重要な役割を担っていると考えられている。
膵ランゲルハンス氏島β細胞のグルコキナーゼは、D-グルコース刺激によるインスリン分泌を調節しているグルコースセンサーであることが実証されている。
肝臓では、糖利用を促進して食後の血糖値の上昇を抑える働きをしている。
また、自律神経の中枢である視床下部の神経核や脳室壁の上衣細胞などにもグルコキナーゼが存在しているので、本酵素が脳実質内および脳脊髄液中のD-グルコース濃度を感知するグルコースセンサーとして機能していると考えられている。
低濃度のフルクトースは、肝臓におけるグルコースリン酸化を促進することが知られている。結果を図2に示した。
ラット初代培養肝細胞を0.5mM D-フルクトースの存在下と非存在下でグルコース濃度を変えてインキュベートした。フルクトースの存在により肝細胞のグルコースリン酸化は増加した(図2の左図)。次に、25mM D-グルコースの存在下でD-フルクトース濃度を変えてインキュベートした。D-フルクトース濃度が0.5mMまでは、D-フルクトース濃度の上昇とともにグルコースリン酸化は増加し、それ以上の濃度になると、逆にグルコースリン酸化は低下した(図2の右図)。これまでに報告されている結果と一致した。
低濃度のD-フルクトース(0.5mMまで)が存在すると肝臓におけるグルコース代謝の増加が認められる事実より、肝細胞内にはグルコキナーゼと結合してその活性を調節するグルコキナーゼ活性調節タンパク質の存在が明らかにされた。
図3は、グルコキナーゼ活性調節タンパク質によるグルコキナーゼ活性の調節機序をまとめたものである。グルコキナーゼ活性調節タンパク質はグルコキナーゼと結合してその活性を阻害する。グルコキナーゼとグルコキナーゼ活性調節タンパク質との親和性はD-フルクトース 6-リン酸によって増加し、D-フルクトース 1-リン酸や高濃度のグルコースによって低下する。このことから、グルコキナーゼはグルコキナーゼ活性調節タンパク質と結合しているときは不活性型となり、グルコキナーゼ活性調節タンパク質と解離すると活性型となる。
食後、肝細胞外のD-グルコース濃度が上昇すると、細胞内のグルコース濃度が上昇してグルコキナーゼとグルコキナーゼ活性調節タンパク質は解離してグルコキナーゼは不活性型から活性型となり、グルコースリン酸化が増加し、D-グルコース利用が増加する。また、細胞外に低濃度のD-フルクトースが存在すると、D-フルクトースはケトヘキソキナーゼによってD-フルクトース 1-リン酸へ変換される。生じたD-フルクトース 1-リン酸によってグルコキナーゼとグルコキナーゼ活性調節タンパク質が解離し、D-グルコースの場合と同様に、グルコキナーゼは不活性型から活性型になり、グルコースリン酸化が増加し、D-グルコース利用が増加する。
イギリスのAgiusらは、グルコキナーゼが肝細胞内の細胞骨格タンパク質と結合していることを見出した。細胞外のグルコース濃度の増加や低濃度D-フルクトースの存在で、細胞骨格タンパク質から解離することを見出した。
本発明者らは、グルコキナーゼの肝細胞内分布を抗グルコキナーゼ抗体を用いた蛍光抗体法で調べ、グルコキナーゼは主に細胞核内に存在していることを見出した。また、ラットにD-グルコースを経口投与するとグルコキナーゼは核から細胞質へ移行することを見出した。
図4は、初代培養肝細胞を5mM D-グルコース、25mM D-グルコース、5mM D-グルコース+0.5mM D-フルクトース、あるいは25mM D-グルコース+0.5mM D-フルクトース存在下で37℃、30分間インキュベートし、肝細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、蛍光抗体法でグルコキナーゼの分布を調べた結果である。緑色蛍光はグルコキナーゼの分布を示している。5mM D-グルコースでは、グルコキナーゼは主に細胞核内に存在した。25mM D-グルコースとのインキュベーションにより、核のグルコキナーゼは低下し、細胞質のグルコキナーゼは増加した。0.5mM D-フルクトースが存在すると、D-フルクトースが存在しない場合と比べて、グルコキナーゼの核から細胞質への移行は増加した。
グルコキナーゼ活性調節タンパク質についても抗グルコキナーゼ活性調節タンパク質を用いて蛍光抗体法で肝細胞内分布を調べたところ、グルコキナーゼ活性調節タンパク質も核内に存在していることを見出した。
本発明者らは、これらの結果から、“グルコキナーゼの核 / 細胞質間の移行による肝糖代謝機構”の存在”を提唱した。その後の研究により、それを確実なものにした。“グルコキナーゼの核 / 細胞質間の移行による肝糖代謝機構”について、グルコキナーゼは、通常の血糖値においては核内でグルコキナーゼ活性調節タンパク質と結合して、不活性型として存在している。グルコキナーゼは食後の血糖上昇あるいはD-フルクトースの存在によりグルコキナーゼ活性調節タンパク質から解離して活性型となり、核から細胞質へ移行してD-グルコース代謝を促進し、その後血糖値が低下してくると核に戻り、グルコキナーゼ活性調節タンパク質と結合して不活性型となる調節機序である(図5)。
2型糖尿病患者では、肝糖利用の低下と肝糖新生の亢進が認められていることから、2型糖尿病患者ではグルコキナーゼの核から細胞質への移行が低下していることが考えられた。そこで、2型糖尿病モデル動物のGoto-KakizakiラットにD-グルコースあるいはD-フルクトース経口投与時の肝グルコキナーゼの核から細胞質への移行を調べた。Goto-Kakizakiラットに、体重1kgあたり2gグルコース、あるいは2gD-グルコース+0.2gD-フルクトースとなるように経口投与し、負荷30分後の肝細胞内のグルコキナーゼの分布を調べた。(図6)Goto-Kakizakiラットでは、グルコキナーゼの核から細胞質への移行は不全であった。この結果より、グルコキナーゼの核から細胞質への移行の不全が2型糖尿病患者の肝糖利用の低下と肝糖産生の亢進にかかわっている可能性が示唆された。
低濃度D-フルクトースによる血糖上昇抑制作用について調べた。2型糖尿病モデル動物のGoto-Kakizakiラットに、体重1kgあたり2g D-グルコース、あるいは2gD-グルコース+0.2gD-フルクトースとなるように経口投与し、肝細胞内グルコキナーゼの核から細胞質への移行の変化と、門脈と尾静脈の血糖値の変化を調べた。D-グルコースの経口投与によりグルコキナーゼは核から細胞質へ移行した。D-フルクトース添加により、グルコキナーゼの核から細胞質への移行はD-グルコース単独投与時と比較して有意な増加を示した(図7)。
門脈血糖値は糖負荷によって上昇した(図8)。D-フルクトース負荷による差異は認められなかったが、尾静脈血糖値ではD-グルコース単独投与時と比較してD-フルクトース添加による有意な血糖上昇抑制が認められた。D-フルクトースによる尾静脈血糖値の上昇抑制は、グルコキナーゼの核から細胞質への移行がD-グルコース単独投与時よりも増加したことによるものと考えられた。
少量のD-フルクトースをラットや2型糖尿病患者に投与すると血糖値の上昇が抑えられる(図9)。それは、肝グルコキナーゼの核から細胞質への移行が起こり、肝糖利用が促進したことによるものと考えられている。このことから、糖尿病患者の甘味料としてD-フルクトースを用いることが考えられるが、D-フルクトースの大量摂取は血中脂質や尿酸の上昇、肝脂質の蓄積を招く可能性がある。そこで、希少糖がD-フルクトースと同様な作用を有するかどうかは興味あるところである。
D-ケトースを添加した5 mMあるいは15mMグルコース含有MEM培地中で肝細胞をインキュベートし、グルコキナーゼの核から細胞質への移行を調べた。結果を図10に示した。
5mMあるいは15mMのD-グルコース存在下において、D-フルクトース添加によりグルコキナーゼは核から細胞質へ移行した。しかしD-フルクトースを1mM以上添加するとグルコキナーゼの核から細胞質への移行は徐々に減弱した。D-プシコースを添加すると、いずれのD-グルコース濃度においても、グルコキナーゼは核から細胞質へ移行した。また、D-タガトースを1mMまで添加した場合、いずれのD-グルコース濃度においてもグルコキナーゼは核から細胞質へ移行した。D-タガトース濃度が10mM以上になるとグルコキナーゼの核から細胞質への移行は認められなくなった。D-ソルボースは、いずれの濃度においてもグルコキナーゼの移行にほとんど影響を与えなかった。
L-ケトースを添加した5mMあるいは15mM D-グルコース含有MEM培地中で肝細胞をインキュベートし、グルコキナーゼの核から細胞質への移行を調べた。結果を図11に示した。
L-フルクトースを添加すると、5mMあるいは15mMのD-グルコース存在下において、グルコキナーゼは核から細胞質へ移行した。しかし、L-フルクトースを20mM以上添加するとグルコキナーゼの核から細胞質への移行は減少した。L-プシコースを添加すると、5mMあるいは15mMのD-グルコース存在下において、グルコキナーゼは核から細胞質に移行した。L-タガトースは、グルコキナーゼの移行に影響を与えないことが分かった。L-ソルボースを添加した場合、L-ソルボース濃度の上昇により、グルコキナーゼは核から細胞質へ移行した。
5mMあるいは20mMのD-ケトースを添加した15mMグルコース含有MEM培地中で肝細胞をインキュベートし、MEM培地中の乳酸量の時間経過を調べた。対照としてDMSOを添加した。結果を図12に示した。
D-ケトースをそれぞれ0.5mM添加したところ、乳酸生成は、D-フルクトース、D-プシコースの添加によって増加した。
図10に示すとおり、D-プシコースは、グルコキナーゼの核から細胞質への移行の促進作用を持つ。それによる血糖上昇抑制が期待できる。また、低濃度のD-タガトースによっても同様のことが考えられる。
アリトールからL-プシコースを製造するのに使用される細菌はグルコノバクター属に属し、アリトールからL-プシコース産生能を有する細菌である。その一例としては、グルコノバクター・フラテウリ IFO3254又は、これの変異株などが有利に利用できる。通常、これら細菌をグリセロ−ル、D-マンニトール、D-フルクトース、L-ソルボースあるいはキシリトール等の炭素源を含有する栄養培地で培養し、望ましくは、振盪、通気撹拌などの好気的条件下で培養し、培養中に、又は得られた細菌(生菌体)を用いて、水溶液中のアリトールをL-プシコースに変換させて、生成するL-プシコースを採取すればよい。
得られたL-プシコース水溶液は、必要により、例えば、硫安塩析、水酸化亜鉛吸着などによる除蛋白、活性炭吸着による脱色、H型、OH型イオン交換樹脂による脱塩などの方法で精製し、濃縮してシロップ状のL-プシコース製品を採取することができる。更にイオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーで分画、精製、濃縮することにより、99%以上の高純度の標品も容易に得ることができる。
本発明が対象とする組成物は、食品添加物、食品、保健用食品、患者用食品、食品素材、保健用食品素材、患者用食品素材、食品添加物、保健用食品添加物、患者用食品添加物、飲料、保健用飲料、患者用飲料、飲料水、保健用飲料水、患者用飲料水、薬剤、製剤原料、飼料、患畜および患獣用飼料であり、D-プシコースおよび/またはD-タガトースを配合した組成物が有効成分として含有されていることを特徴とする。
最近、グルコキナーゼ活性を増加し、血糖降下作用を有するグルコキナーゼ活性化剤が報告されている。また希少糖の大量生産方法が開発され、その機能に注目が集まっている。
本研究では、肝グルコキナーゼの核から細胞質への移行促進による糖尿病治療薬の開発を目的にインスリンとグルカゴンによる肝グルコキナーゼの核 / 細胞質間移行のシグナル伝達系について調べた。また、D-フルクトースに代わる糖を探索する目的で、ケトースによるグルコキナーゼの核 / 細胞質間移行に及ぼす影響を調べた。
1.ホルモンによる肝グルコキナーゼの細胞内移行
Wistar系ラット(雄性、5−8週令)を用いた。ラット初代培養肝細胞をホルモン及び各種化合物を添加した25mM D-グルコース含有MEM培地中で一定時間インキュベートした。肝細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、抗グルコキナーゼ抗体を用いた蛍光抗体法で染色した。共焦点レーザー顕微鏡で取得した蛍光画像をNIH Imageで解析して核と細胞質の蛍光強度を算出し、核と細胞質のグルコキナーゼ量とした。
2.ケトースによる肝グルコキナーゼの細胞内移行
ラット初代培養肝細胞をケトース添加5mMあるいは15mM D-グルコース含有MEM培地中で一定時間インキュベートした。前述と同様の方法で、細胞内の核と細胞質のグルコキナーゼ量を求めた。
1.ホルモンによるラット肝グルコキナーゼの細胞内移行の調節
インスリン存在下でLY-294002を作用させたところ、インスリンによる細胞質のグルコキナーゼの増加は低下した。インスリン存在下でPD-98059あるいはラパマイシンを作用させたところ、いずれの場合もそのような変化はみられなかった。フォルスコリン、Bt2cAMP、IBMXを作用させたところ、いずれの場合もグルカゴン添加時と同様に細胞質のグルコキナーゼは低下した。グルカゴン存在下でKT-5720を作用させると、グルカゴンによる細胞質のグルコキナーゼの低下はほとんどみられなくなった。インスリンによるグルコキナーゼの核から細胞質への移行は、PI3キナーゼを介し、グルカゴンによるグルコキナーゼの細胞質から核への移行は、cAMP依存性キナーゼを介しているものと考えられる。
2.グルコースによるグルコキナーゼの核から細胞質への移行の促進
培養肝細胞をグルコキナーゼの核から細胞質への移行促進作用のある5mMあるいは25mM D-グルコース含有MEM培地でインキュベートすると、グルコキナーゼの核から細胞質への移行、グリコーゲン合成、および乳酸生成は増加した。グルコースにより、グルコキナーゼの核から細胞質への移行が起こり、細胞質のグルコキナーゼ活性が上昇して肝糖代謝を促進するものと考えられる。(図2,図4,図6のグルコース投与の図)少量のD-フルクトースは、グルコキナーゼの核から細胞質への移行を促進することが判明した。(図4,図6,図7,図8)
3.ケトースによるグルコキナーゼの核から細胞質への移行促進
D-フルクトース、D-プシコース、あるいはD-タガトースをそれぞれ添加すると、5mMあるいは15mMのD-グルコース存在下において、グルコキナーゼは核から細胞質へ移行した。D-タガトースを10mM以上添加した場合はグルコキナーゼの移行に変化はみられなかった。D-ソルボースは、いずれの濃度においてもグルコキナーゼの移行に影響を与えなかった。D-プシコースは、高濃度においてもグルコキナーゼの核から細胞質への移行促進作用を示した。(図11)
1.インスリンによるグルコキナーゼの核から細胞質の移行は、PI3キナーゼを介して起こり、グルカゴンによるグルコキナーゼの細胞質から核への移行は、cAMP-Aキナーゼを介して起こる。
2.グルコキナーゼと初代培養肝細胞をインキュベートすると、グルコキナーゼの核から細胞質への移行が起こり、グリコーゲン量と乳酸生成が増加する。
3.プシコースと低濃度のタガトースにより、グルコキナーゼの核から細胞質への移行が起こる。
図14はそのプロトコールを示している。一晩絶食したWistar系雄性ラットに、2g/kgのD-グルコース、D-プシコース、D-フルクトース、D-プシコースとD-フルクトースの1:3の混合物を経口投与した。30分後に麻酔下に、4%パラフォルムアルデヒドによりかん流固定後、すぐ肝臓を摘出し、凍結切片を作製した。抗グルコキナーゼ抗体を用いて蛍光抗体法でグルコキナーゼの核と細胞質の分布を解析した。同時に尾静脈と門脈から血液を採血し血糖値の測定を行った。
図15にその結果を示す。
対象(一晩絶食)ではほとんどのグルコキナーゼが肝細胞の核内に存在している。
D-プシコースを投与すると図の右側の肝臓細胞においてはグルコキナーゼの核から細胞質への移行が見られている。D-フルクトースにおいては、D-プシコースより強い移行が認められた。D-フルクトースとD-プシコースの混合物でも十分なグルコキナーゼの核から細胞質への移行が観察された。
1.培養細胞で認められた、グルコキナーゼの核から細胞質への移行現象が、動物への投与実験にても確認された。
2.ラットを用いた実験で、D-フルクトースによりグルコキナーゼの核から細胞質への移行が起こることが判った。
3.D-プシコースにおいても、またD-フルクトースとD-プシコースの混合物でも移行が認められた。
図16はそのプロトコールを示している。一晩絶食したWistar系雄性ラットに、2g/kgのD-グルコースを経口投与する。同時に0.2g/kgのD-プシコース、D-フルクトース、D-プシコースとD-フルクトースの1:3の混合物を経口投与した。30分後に麻酔下に、4%パラフォルムアルデヒドによりかん流固定後、すぐ肝臓を摘出し、凍結切片を作製した。抗グルコキナーゼ抗体を用いて蛍光抗体法でグルコキナーゼの核と細胞質の分布を解析した。同時に尾静脈と門脈から血液を採血し血糖値の測定を行った。
図17にその結果を示す。
対象(最下段Fasted)ではほとんどのグルコキナーゼが肝細胞の核内に存在していた。
2g/kgのD-グルコースの経口投与(最上段)ではグルコキナーゼの核から細胞質への移行が少し起こっていた(特に右側の細胞群に多く認められる)。
これに0.2g/kgのD-フルクトースを同時経口投与したものでは(上から2段目)、ほとんどのグルコキナーゼが細胞質へ移行していた。0.2g/kgのD-プシコースを同時経口投与したものでは(上から3段目)、D-フルクトースよりは弱いが、明瞭にグルコキナーゼが細胞質へ移行していた(特に右側の細胞群に多く認められる)。D-フルクトースとD-プシコースの混合物では(上から4段目)、D-フルクトース単独のものよりも強く、グルコキナーゼの核から細胞質への移行が起こっていた。今後は細胞実験で認められた、D-タガトースによる細胞質への移行が起こるかどうかを解析する。
1.ラットを用いた実験で、D-グルコースとともにD-フルクトースやD-プシコースを同時に投与することによりグルコキナーゼの核から細胞質への移行が促進されることが判った。
2.D-フルクトースとD-プシコースの混合物が最も強く、次いでD-フルクトース、D-プシコースの順に強かった。D-プシコースのみでも明瞭な移行が認められた。
3.D-フルクトースとD-プシコースの混合物、あるいはD-プシコースのみを食事と一緒に摂取することにより、グルコキナーゼの核から細胞質への移行を促進し、図1,図5に述べた機構により、グリコーゲンの合成を促進することにより、血中のD-グルコースが細胞内に移行し、血糖値が下がることが期待できる結果となった。
[実験方法]
図18は、そのプロトコールを示している。一晩絶食したGoto-Kakizaki雄性ラットに、2g/kgのD-グルコースを経口投与する。同時に0.2g/kgのD-プシコースを経口投与した。30分と60分後に麻酔下に、4%パラフォルムアルデヒドにより肝臓をかん流固定し、肝臓を摘出して凍結切片を作製した。抗グルコキナーゼ抗体を用いて蛍光抗体法で肝グルコキナーゼの核と細胞質の分布を解析した。同時に尾静脈と門脈から血液を採血し、血糖値とインスリン濃度の測定を行った。尚、肝臓は門脈領域と中心静脈領域とに分かれ、グルコキナーゼは中心静脈領域の方が門脈領域より1.3倍から1.5倍活性が高いことが知られているので、中心静脈領域と門脈領域のグルコキナーゼの核と細胞質の分布を解析した。
1. 図19に、D-グルコース単独あるいはD-グルコースとD-プシコースを同時に経口投与し、投与30分と60分後の肝臓を、蛍光抗体法でグルコキナーゼの分布を調べた結果を示す。
24時間絶食したGoto-Kakizakiラットでは、グルコキナーゼに特異的な蛍光は主に核内に見られた。D-グルコースの経口投与により、いずれ時間においても核内の蛍光は低下し、逆に細胞質の蛍光は増加した。D-プシコースの同時投与により、D-グルコース単独投与時と比べて、有意に核内の蛍光は低下し、細胞質の蛍光は増加した。この変化は門脈領域と中心静脈領域の両領域で認められた。
2. 図20に、図19の画像の核と細胞質の蛍光強度を解析した結果を示す。
中心静脈領域と門脈領域において、D-グルコースの経口投与により、細胞質のグルコキナーゼ量は24時間絶食時より有意に増加した。D-プシコースの同時投与によって細胞質のグルコキナーゼ量はさらに増加した。本実験条件下において、核と細胞質を合わせたグルコキナーゼ量に変化は認められなかった。これらの結果は、in vivoにおいてD-プシコースによってグルコキナーゼの核から細胞質への移行が起こり、活性型のグルコキナーゼが増加し、肝糖利用の促進が起こっていることを示している。
3. 図21に、尾静脈と門脈内の血糖値の変化の結果を示す。
D-プシコースとD-グルコースの同時投与30分後と60分後における尾静脈と門脈内のグルコース濃度は、D-グルコース単独投与群の場合より有意な低値を示した。
この結果は、D-プシコースによるグルコキナーゼの核から細胞質への移行により活性型のグルコキナーゼが増加し、肝糖利用が促進され、血糖値の上昇の抑制が起こったことを示している。
4. 図22に、糖負荷による尾静脈と門脈内のインスリン濃度の変化の結果を示す。
D-プシコースとD-グルコースの同時投与30分後と60分後における尾静脈と門脈内のインスリン濃度は、D-グルコース単独投与群の場合より有意な低値を示した。
この結果は、D-プシコースによるグルコキナーゼの核から細胞質への移行により、肝糖利用が促進して血糖値の上昇が抑制され、膵臓B細胞からのインスリン分泌の抑制が起こったことを示している。インスリン分泌の抑制は、膵B細胞の温存をもたらすものと考えられる。
以上の結果より、D-プシコースは、血糖値の上昇抑制とインスリン濃度の上昇の抑制により2型糖尿病患者、IGT(Impaired Glucose Tolerance耐糖能異常者、糖尿病予備群)患者、あるいはメタボリックシンドローム患者の病態の改善作用を有するものと考えられる。D-タガトースもD-プシコースと同様な作用を有するものと考えられる。
2型糖尿病モデル動物のGoto-KakizakiラットにD-グルコース投与時にD-プシコースを同時に経口投与すると、D-グルコース単独の場合より肝グルコキナーゼの核から細胞質へ移行し、肝糖利用を促進して血糖値の上昇とインスリン濃度の上昇が低下する。
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