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JP5907997B2 - 超伝導加速空洞の純ニオブ製エンドグループ部品の製造方法 - Google Patents
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Description

本発明は、シンクロトロンやリニアック型等の(荷電)粒子の加速に用いられる超伝導加速空洞の純ニオブ製エンドグループ部品の製造方法に関するものである。
超伝導加速空洞は、高周波電界を利用して(荷電)粒子を光速近傍まで高効率で加速し、該粒子に衝突現象を生起させるために、特定周波数の高周波で金属製の空洞を共振させることを目的としたものであり、主としてシンクロトロンやリニアック型等の荷電粒子加速器に用いられている。
従来、超伝導加速空洞には、高周波を発生することによる発熱の影響を回避するため、熱伝導率が大きく、かつ電気抵抗が小さい金属材料(例えば銅)が使用されてきた。しかしながら、荷電粒子のさらなる高速化への要求に対処するため、加速電界を高められたことに伴い、発熱量の増加が著しく、銅材に依存した“常伝導”の超伝導加速空洞では、粒子加速性能上、限界があった。そこで、近年、これに替わる“超伝導”加速空洞が提案されるに至り、実用化が進められつつある。
そして、新たな超伝導加速空洞用の金属としては、次のような理由から、高純度ニオブが選択され、その素材製造技術および部品加工技術の開発が行われている。
(1)空洞部品は、超伝導線材とは異なり一種のマッシブな構造体であるため、単体純金属であることが望ましい。
(2)幾つかの候補金属の中で、ニオブの超伝導転移温度が9.2K(常圧下)で最も高い(超伝導状態では、電気抵抗がゼロになり、発熱や熱伝導は問題でなくなる)。
(3)高純度ニオブは、遷移金属に属し、溶融点から極低温までの広範な温度領域において体心立方格子を有し、相変態を生じない安定な材料である。
(4)高純度ニオブは、常温近傍では極めて軟質な材料で、強度が不足するため、加工難度が高く、また、体心立方結晶格子であるため、低温では加工硬化が激しく、脆性破壊を生じ易い特性を有するものの、加工が不可能とはいえない。
(5)高純度ニオブは、空気中では酸化被膜が形成され、耐食性および耐酸性を有するため、常温でのハンドリングがし易い。
以上の高純度ニオブの特性のうち、最も重要な特性は超伝導特性である、すなわち、加速空洞において、単位長さあたりの加速電圧を高く取れる可能性が大きいことである。上記超伝導性能を左右するのは、ニオブの純度・金属組織(結晶粒径および結晶集合組織)および表面性状である。
ここで、ニオブの純度については、複次電子ビーム溶解法によって、RRR(Residual Resistivity Ratio)値で300以上の純度のものが得られるようになってきている。
また、金属組織としては、基本的に、鋳造組織よりも加工・焼鈍後の組織のほうが望ましい。その理由は、前者の場合、アスペクト比が大きく粒界傾角が小さい金属組織を呈するため、金属学的に安定状態にあるとは言い難く、材料物性および加工性に難がある。これに対して、後者の場合、大傾角粒界からなる再結晶組織のマトリックスを有するため、金属学的に安定状態にあり、材料物性および加工性にとって有利であるといえるからである。また、加工・焼鈍後の組織は、素材の製造条件によって変化すること、逆にいえば、ある程度の制御が可能であることも重要な点である。
また、表面性状については、超伝導加速空洞に生じる電界が極表皮電流によることから重要となる。そのため、ニオブ加工品の表面には、化学研磨や電解研磨、あるいは、それらを組み合わせた処理が施される。
ところで、超伝導加速空洞は、図1および図2に示すように、「9連空洞」と呼ばれるセンター部分の9つのセルと、エンドグループ部品のHOM cup,Beam pipe,Port pipe,HOM antenna等から構成されている。上記HOM cupは、HOM antennaと一体に組込まれ、HOM couplerと称される。これら部品の目的は、一言でいうと、単位長さあたりの加速電圧を高めて、できるだけ高エネルギーにおいて粒子衝突を起こさせることである。なお、HOMとは、高調波モードのことであり、これはまた、粒子ビーム加速の邪魔をする共振抑制モードのことである。共振抑制モードと良く結合できるものがHOM Coupler(高調波結合器)である。
上記の超伝導加速空洞のエンドグループ部品のうち、絞り成形を主体としたプレス加工で製造できそうな部品に、例えば、円筒容器形状をしたHOM cupやシームレスパイプ形状をしたBeam pipeやPort pipe等がある。これらは、開発計画が進捗中の「国際リニアコライダー」においては、18000台以上の「9連空洞」の両エンドに設置される重要部品である。
しかし、これらエンドグループ部品の製造方法は、現在のところ工業的レベルで確立されていない。その最大の理由は、ニオブのシームレスパイプが製造されていないことからわかるように、ニオブの加工難度が高いためである。
なお、超伝導加速空洞のセンター部分については、特許文献1に、スライスしたNb板素材をプレス加工でハーフカップとし、これを電子ビーム溶接EBWで接合して製造する方法が開示されている。しかし、上記プレス加工は、室温での浅絞り法であり、エンドグループ部品の製造に適用できる技術ではない。
そのため、現在、これら部品の量産を意図した製造方法として、下記の3種類の方法が検討されている。
(1)ロッド素材から機械切削加工のみで製造する方法(以降、「全機械切削法」ともいう。)
(2)ロッド素材の後方押出し加工と、機械切削と、熱処理とを組み合わせて製造する方法(以降、「押出し−機械切削−熱処理法」ともいう。)
(3)板素材から、複数工程のプレス加工と、上記プレス工程間において複数回の熱処理を施して製造する方法(以降、「複数プレス加工−熱処理法」ともいう。)
しかし、上記(1)、(2)の製造方法は、加工素材が鋳造組織に近いものであるため、機械切削に高価なバイトを使用しても、粗大結晶粒に起因する摩擦溶着が生じ易く、バイトの寿命が短くなったり、切削に長時間を要したりするため、生産効率が劣り、製造コストが上昇するのを免れない。また、(2)の製造方法では、熱処理を要し、混粒組織となり易いという問題もある。さらに、(3)の製造方法は、板素材を用いているが、プレス工程および熱処理を複数回施す必要があるため、生産性の低下や製造コストの上昇を招くという問題がある。
発明者は、かつて、室温近傍におけるオーステナイト(γ)系のステンレス鋼等の金属材料における加工誘起マルテンサイト変態の温度依存性、具体的には、加工過程における強度および伸び特性の温度依存性に着目し、材料の絞り成形性を向上する「温間加工法」を開発した。この技術は、端的にいえば、絞り成形過程において、フランジ部位を加温して変態による加工硬化を減殺し、フランジ変形抵抗を低減すると同時に、破断危険部位のポンチ肩部近傍を冷却して変態による加工硬化を促進せしめ、ポンチ肩部破断抵抗を増大し、さらに、両者のバランスの適正化を図ることによって、絞り成形性を向上するという技術思想に基くものである(図3、特許文献2〜7および非特許文献1〜6参照)。
特開2010−040423号公報 特開昭54−142462号公報 特開昭54−142168号公報 特開昭62−176617号公報 特開平11−309518号公報 特開平11−309519号公報 特開2003−088922号公報
野原清彦、小野寛:「ステンレス鋼における加工誘起変態」塑性と加工、vol.18(1977)No.202,p.938 野原清彦、小野寛:「ステンレス薄鋼板の温間プレス加工法」川崎製鉄技報、vol.17(1985)No.3,p.315 K.Nohara,Y.Watanabe,and K.Yamahata:「Warm Press Forming of Stainless Steel Sheets」,Proc.1st.Int.Conf.on New Manufacturing Tech.(1990) 野原清彦:「ステンレス鋼とプレス加工」、プレス技術、41(2003),No.1,p.18 花木香司、加藤健三:「深絞り加工における速度効果」,ISIJ(1987),p.761 氏原新、広瀬洋三:「行程可変しわ押え方法」、塑性と加工、33(1992),p.373
しかし、純ニオブは、上記オーステナイト系ステンレス鋼のような加工誘起マルテンサイト変態が生じないため、上記技術をそのまま本発明に適用することはできない。
また、ニオブは、希少金属の典型というべき高価格の材料であるので、超伝導特性を維持しつつ、素材使用量を削減し、コスト低減を計ることができる製造方法、さらには、素材と加工方法とは切り離し難い関係を有するため、素材特性を考慮した製造方法の確立が必要とされている。
本発明は、従来技術が抱える上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、(荷電)粒子の加速に用いられる超伝導加速空洞の純ニオブ製エンドグループ部品のうち、絞り変形様式が主体となる部品を製造するのに適した、素材特性を考慮した新たな製造方法を提案することにある。
上記課題を解決するために開発した本発明は、
(1)
純ニオブ板素材から、主として平底円筒絞りからなるプレス加工で製造する、荷電粒子の加速に用いられる超伝導加速空洞のエンドグループ部品の製造方法であって、
上記純ニオブ板素材を、
塑性歪比の実測値と、下記(9)のべき乗仮説式
θ=D(r45/rθ ・・・(9)
ここで、Dθ:圧延方向から角度θ方向のブランク径
:圧延方向から45°方向のブランク径
θ:圧延方向から角度θ方向の塑性歪比r
J:定数(1/10〜1/13)
から決められる非真円異形ブランクとすることを特徴とするエンドグループ部品の製造方法。
(2)
上記プレス加工において、スライドの速度および/またはモーションの制御と、金型の温度および/または分布・勾配の制御を同時に行うことを特徴とする(1)に記載のエンドグループ部品の製造方法。
(3)
上記プレス加工において、上記非真円異形ブランクのフランジ面積、板厚および材質の変化に応じて、しわ押え荷重を動的に制御することを特徴とする(1)または(2)に記載のエンドグループ部品の製造方法。
(4)
上記プレス加工の潤滑剤として、−50〜+300℃間における固形被膜の潤滑性能の温度変化が±10%以内の水溶性固形被膜型潤滑剤を用いることを特徴とする(1)(3)のいずれかに記載のエンドグループ部品の製造方法。
(5)
上記プレス加工後、リストライク加工を施すことを特徴とする請求項(1)(4)のいずれかに記載のエンドグループ部品の製造方法。
(6)
上記プレス加工またはリストライク加工後、トリミング加工、底面突起出し加工およびバーリング加工のいずれか1以上の加工を施すことを特徴とする(1)(5)のいずれかに記載のエンドグループ部品の製造方法。
(7)
上記プレス加工を、スライドの速度および/またはモーションの制御が可能なサーボ機構と、しわ押え荷重を動的に制御する動的しわ押え制御装置とを備えるプレス機と、被加工材の温度および/または分布・勾配制御が可能な温度制御装置および金型とを用いて行うことを特徴とする(1)(6)のいずれかに記載のエンドグループ部品の製造方法。
である。
本発明によれば、純ニオブ板素材を出発材料とし、機械切削や熱処理等を基本的に使用することなく、プレス加工のみにて、超伝導加速空洞のエンドグループ部品を製造することができるので、高価な純ニオブ素材の使用量を削減し、材料コストの大幅な低減を図ることができる。さらに、本発明によれば、加工工数を削減し、製造工程を簡略化し、かつ、製造時間の短縮が図れるので、量産化が可能となるとともに、製造コストの大幅な低減が期待できる。
超伝導加速空洞ユニットの外観写真である。 超伝導加速空洞ユニットのエンドグループ部品の外観写真である。 温間加工法の基本現象である、オーステナイト系ステンレス鋼の単軸引張試験における加工誘起マルテンサイト量および引張特性の温度依存性を示すグラフである。 加工温度によるフランジ変形抵抗およびポンチ肩部近傍破断抵抗の変化で決まる限界絞りの向上度を、オーステナイト系ステンレス鋼と純ニオブとで比較して示した図である。 スライド停止時間が被加工材の円筒側壁部の温度/分布・勾配に及ぼす影響を定性的に説明する図である。 真円ブランクと本発明の非真円ブランクとを比較して示した図である。 使用可能高さに及ぼす加工法、ブランク形状・寸法の影響を定性的に説明する図である。 超伝導加速空洞のエンドグループ部品の1つであるHOM cupの設計図面である。 本発明のプレス加工に用いるサーボプレス機および温度制御装置の外観写真である。 同一絞り比における平底円筒絞りの破断危険部位であるポンチ肩部近傍の表面変形性状に及ぼす加工法の影響を示す写真である。 加工法が成形品の成形高さ、耳の発生状況に及ぼす影響を示す写真である。 加工温度、しわ押え圧、ブランク形状・寸法が、フランジ部荷重Fおよびポンチ肩部荷重Fに及ぼす影響、即ち、絞り性に及ぼす影響を定性的に説明する図である。 ブランク形状が絞り成形品の耳の発生状況に及ぼす影響を示す写真である。 円ブランクの絞り成形品に発生した遅れ破壊の写真である。 リストライク加工後の真円度および円筒度の測定結果を示す図である。 二次加工で、底面肉寄せ突起出し加工を行った結果を示す図である。 二次加工で、偏芯穴あけとバーリング加工を行った結果を示す図である。
先述したように、本発明において解決すべき課題の第一は、超伝導加速空洞エンドグループの中核をなす絞り成形主体の部品を製造する方法として、従来の、ロッド素材から機械切削加工する方法(全機械切削法)や、ロッド素材の後方押出し加工と機械切削加工と熱処理を組み合わせた加工法(押出し−機械切削−熱処理法)、あるいは、板材への複数回のプレス加工と複数回の熱処理を組み合わせた加工法(複数プレス加工−熱処理法)に替わる新たな加工法を提案することである。上記課題を解決するために開発した本発明の第1発明は、純ニオブ板素材から、主として平底円筒絞りからなるプレス加工で、円筒形状のエンドグループ部品を製造する方法である。
また、上記第1発明を実現するための基本的な技術思想は、上記第1発明のプレス加工において、スライドの速度および/またはモーションの制御と、金型の温度および/または分布・勾配の制御を同時に行うことにある(第2発明)。なお、以降、上記スライドの速度および/またはモーションの制御を「速度/モーション制御」、金型の温度および/または分布・勾配の制御を「温度/分布・勾配制御」とも称する。
以下、この第2発明について説明する。
先述したように、オーステナイト系ステンレス鋼等、深絞り成形が難しい材料を加工する方法の一つに、絞り成形において、フランジ部位を加温して加工誘起マルテンサイト変態による加工硬化を減殺してフランジ変形抵抗を低減すると同時に、破断危険部位のポンチ肩部近傍を冷却して加工誘起マルテンサイト変態による加工硬化を促進せしめることによって、絞り成形性を向上する温間加工法がある。しかし、純ニオブに関しては、加工誘起マルテンサイト変態が生じないため、上記技術をそのまま本発明に適用することはできない。
一般に、室温(RT)における被加工材の絞り性は、下記(1)式で定義される限界絞り比LDRで評価する。
[LDR]≡(D/Dma× ・・・(1)
(ただし、D:円ブランク径,D:ポンチ径)
なお、平頭ポンチの場合は、下記(2)式で表わされる。
[LDR]={√(1+R)/2}・{(1+R)/√(1+2R)} ・・・(2)
ここに、Rは下記(3)式;
R=(r+r90+2r45)/4) ・・・(3)
(ただし、0,45,90は圧延方向を0とした角度θ)
で求められる塑性歪比r値の平均値であり、上記r値は、下記式で定義される。
r≡ε/ε
(ε:真歪ε=ln(1+λ)、λ:慣用歪、w,t:単軸引張試験片の幅と厚み)
また、nは、加工硬化指数であり、下記σ−εべき乗関係式の指数である。
σ=Cε ・・・(4)
(ただし、σ:真応力(=s(1+λ)、s:慣用応力、C:定数)
他方、純ニオブのごとき単一相からなる多結晶金属材料の加工変形時の真応力σは、上記(4)式に従うと同時に、以下のように、変形温度Tと歪速度(dε/dt)(ただし、ここのtは時間である)に依存する。
lnσ=A+(Q/kT) ・・・(5)
σ=K(dε/dt) ・・・(6)
ここに、A,Kおよびmは定数、Qは活性化エネルギー、kはボルツマン定数である。
発明者らは、純ニオブの加工変形挙動を調べたところ(4),(5),(6)式が、現に成り立つことを確認している。
そこで、純ニオブ材は、オーステナイト系ステンレス鋼とは、変形機構が相違するため、軽微な効果しか得られないかもしれないが、室温における絞り成形よりも加工性を向上する手段として温間加工法の応用を検討した。そして、両材料の板素材を、プレス加工で平底円筒絞り成形を行うに際して、フランジ部温度T:100℃、ポンチ肩部温度T:5℃とする温間加工法を適用した実験結果を、わかりやすく定性的に示したものが図4であり、絞り比[DR]≡D/Dを横軸にとり、フランジ部荷重Fおよびポンチ肩部荷重Fを縦軸にとって、フランジ部温度Tおよびポンチ肩部温度Tをパラメーターとして示したものである。
図4から、定性的傾向としては、温間加工には、純ニオブ材においても、オーステナイト系ステンレス鋼の変態誘起塑性に類似した効果があることがわかる。しかし、エンドグループ部品を、主として平底円筒絞りなるプレス加工で製造するという本発明の目的を達成するためには、従来の温間加工法だけでは不十分である。
なお、上記絞り成形における破断危険部位として、ポンチ肩部近傍を重視しているのは、この部位が円筒絞り成形に際して、平面歪変形領域になることから、破断が生じやすい部分となるからである。このことは、成形限界線図(歪比(ε/ε)が一定で進行する単純変形経路で破断に至った点を結んでグラフ化したもの)からも、一般的にいえることである。
また、この平面歪変形状態における臨界破断応力σcrは、下記(7)式で表される。これから、絞り成形性に及ぼす素材のr値の影響が大きく、r値の小さい純ニオブ材の加工難度が高いことが示唆される。
σcr=(2/√3)1+n・[{(1+R)/2}/{√1+2R/3}]1+n・σ(t/t) ・・・(7)
(σは引張最大真応力,tおよびtはそれぞれ加工前後の板厚)
そこで、発明者らは、温間加工法をよりどころとするが、純ニオブ材の加工性にとって不都合な特性である、軟質で低強度、低加工硬化性、低r値およびr値の面内異方性が大きいこと等を踏まえ、大幅な加工性の向上を目指して鋭意研究を重ねた。
その結果、純ニオブ板素材の温度については、純ニオブ材の塑性変形による強度変化が小さいことを確認するとともに、100℃≦T≦200℃、−50℃≦T≦0℃とし、かつ、100℃≦ΔT≡T−T≦200℃の各条件を同時に満たすことが必要十分条件であるという結論を得た。なお、加熱温度が200℃を超えると、ニオブの表面酸化が懸念され、また−50℃を下回ると、固形被膜型の潤滑剤の性能が劣化する。また、ΔTが上記範囲を外れると、被加工材のフランジ変形応力とポンチ肩部破断抵抗のバランスが崩れ、加工性が低下する。
次いで、第2発明におけるスライドの「速度/モーション制御」を、上記の「温度/分布・勾配制御」と同時に実施した結果、両者の融合を図ることが、上記本発明の目標達成に極めて重要であることを知見した。この場合、二つの効果があり、「速度/モーション制御」のスライド停止により、被加工材のフランジ部からポンチ肩部近傍までの温度/分布・勾配が適正化されるという効果と、「速度/モーション制御」の加工速度の高速化により、動摩擦の低下と、(6)式のσ、つまり(7)式のσを介して臨界破断応力σ の増大をもたらすという効果の観点である。
一番目の効果については、図5の定性図が理解を容易にする。即ち、ブランクの位置決め時には、ブランクは室温の状態にあるが、スライドの低速移動でポンチおよびダイスがブランクに接触し、適宜の浅絞り状態時にスライドを停止することによって、フランジからポンチ肩部までの温度/分布・勾配が、停止時間tの間の熱伝導により図示のように絞り加工にとって適正状態になる。そして、二番目の視点である加工速度の高速化の効果は、上述のごとく、適正温度/分布・勾配状態にした後、直ちに高速加工状態にして加工を短時間で完了し、絞り抜くことを可能にすることである。その理由は、ポンチ肩部近傍応力が増大すること、フランジ部の動摩擦係数が減少すること、そして、フランジ部の好ましくない応力の増加は、後述するしわ押え荷重の動的制御によって緩和すること等の総合的な効果によるものである。
なお、上記速度/モーション制御と温度/分布・勾配制御を組み合わせることによりプレス加工性(絞り成形性)を大幅に向上した本発明のプレス加工方法を、従来の室温加工法や温間加工法等と対比して、以降、「融合プレス加工法」と称する。
次に、第3発明、すなわち、上記融合プレス加工法において、純ニオブ板素材のフランジ面積、板厚および材質の変化に応じて、しわ押え荷重を動的に制御する加工法について説明する。
周知のごとく、しわ押え荷重は、プレス加工におけるしわを防止するため、材料が破壊を生じない範囲に設定し、加工終了(絞り抜け)まで、当初負荷した一定荷重に保持するのが普通である。そうした中で、絞りの進行に伴うフランジ面積の変化や、素材板厚の変化、成形荷重の変化を考慮しながら、加工行程中にしわ押え力を動的に変化する「可変しわ押え方式」が提案されている。この方法は、素材のr値とその異方性による微視的な方位変動と、力学的な縮みフランジ変形による巨視的な板厚の増大という、いずれも、絞り性を阻害する要因を緩和する効果があるので、絞り性の向上が期待される。
前述した本発明の第2発明は、意識的な加工速度と加工温度分布の融合により、特に加工過程の途中で高速化して平面歪臨界破断応力σcrを高めることによって、加工性の向上を意図するものである((6)、(7)式)が、本発明の第3発明は、上記加工速度増大による材料硬化効果に加えてさらに、フランジの変形抵抗の変化(加工速度の高速化による潤滑状態の変化に加えて、フランジの面積変化、材料の板厚変化、材質硬化等に依存)を考慮する。すなわち、しわ押え荷重(応力)の低減効果と、速度増大効果の双方を考慮したフランジ変形抵抗応力σの平面歪臨界破断応力σcrに対するバランスを考慮する。従って、本発明の第3発明は、適正なある温度/分布・勾配をもった被加工材の成形を、しわ押え荷重に関し、加工工程中のフランジ面積、材料板厚、材料硬化の3点(詳しくは、温度制御を加えて4点)からフランジの変形抵抗の制御を行うものであり、これを新たに「動的しわ押え荷重制御」と称する。
上述したように、本発明の第3発明の加工方法では、加工速度の高速化と同時に、フランジ変形抵抗応力σを低減するが、その条件は、被加工材に適正な温度/分布・勾配を付与した後、加工速度をN倍に上げる場合には、上記σを10/N倍程度に低減するのが好ましい。また、そのためには、加工速度の高速化は10倍超えとする必要がある。好ましくは20倍以上、より好ましくは30倍以上である。ここで、上記加工速度の高速化におけるN倍とは、従来の油圧プレス加工(油圧制御により低速化し、難加工材にある程度対処している)の一般的な速度(約5mm/sec)に対する速度の倍率と定義する。これは、温度制御とともに高速化による絞り成形性の向上と生産性・コスト低減を狙いとしている。
次に、上述した本発明の融合プレス加工法による成形性の改善に続いて、第発明の異方性を改善した加工法について説明する。
発明者らの調査・研究によれば、異方性の改善が、成形性の向上にも寄与することが明らかとなっている。絞り成形における異方性は、主として素材の面内異方性に起因する。素材の面内異方性を表わす定量値としては、既述のr値の平均値Rおよび下記(8)式で表される面内異方性の大きさ|Δr|がある。
|Δr|≡|{(r+r90)/2}−r45| ・・・(8)
ニオブの結晶格子は、SPC等の普通鋼材と同じ体心立方格子(BCC)である。しかし、ニオブは、絞り成形性への関与が大きい塑性歪比r値、および、その平均値Rが小さい反面、面内異方性の大きさ|Δr|が大きいという特徴がある。このことは、ニオブ材の絞り性が劣ること、加工後の成形体の異方性が大きい、すなわち、円筒縁部の凹凸(これを、一般に「耳」という)が大きいことを示唆する。耳が大きいことは、凸耳高さが同じであっても、凹耳高さが低い、すなわち、有効に使用できる絞り高さが小さいことを意味する。
たとえば、普通鋼板SPCの場合、R≒2.0,Δr≒0.5程度であるのに対して、純ニオブ材の場合は、R≒1.0,Δr≒1.0程度で、それぞれ1/2,2倍程度と、大きな違いがある。したがって、純ニオブ材は、絞り性および面内異方性の面から見れば、一般的な普通鋼薄板より大きく劣り、加工難易度の高い材料(難加工材)であるといえる。これは、純ニオブ材の製造条件にも起因する結晶集合組織に関連すると考えられるが、本発明では、素材そのものの物性の改善には関知せず、即ち、現状の素材の物性を前提とし、新たなプレス加工方法を開発することによって、成形性と異方性を改善することを主眼としている。
絞り成形における異方性対策として既知のものに、「しわ押え分割方式」がある。これは、しわ押え板を分割して、フランジ各部位のしわ押え力を独立して制御するものであり、面内異方性が大きくて、一体のしわ押え板では、しわ押え圧力が不均一になる場合の対応策である。しかしながら、しわ押え力の不均一をもたらすr値の、圧延方向からの角度θ依存性は、連続的かつ微妙に変化することから、しわ押さえ板を適正に分割して制御するのは難しい。特に、同一チャージで製造された材料でも、各材料間でr値−θ関係が微妙に異なるのが普通であるので、上記しわ押え分割方式を量産化に適用するには、多大な手間とコストがかかることになる。
そこで、超伝導加速空洞のエンドグループ部品の円筒絞り部品における、異方性に起因した耳の大きさを軽減する対策として開発したのが、本発明の第発明で提案する「異形ブランク(円筒絞りの場合、非真円ブランク)」である。
通常、円筒絞りのブランク(素板)には、真円形状のものが用いられる。素材が等方性であれば、耳の問題は生じないからである。しかし、現実の純ニオブ材の塑性歪比r値には、普通鋼板と比較して、強い圧延方向からの方向(θ)依存性があり、面内異方性が大きい。面内異方性を有する素材を絞り成形した場合には、r値の大きい方向では板厚の変化が小さく、小さい方向では大きい。そのため、円筒絞りの場合には、円周方向と板厚方向に縮みフランジ変形が、半径方向では伸びフランジ変形が生じるため、r値が大きい方向では板厚増加が起こり、材料が半径方向に逃げて凸耳となり、逆に、r値が小さい方向では板厚増加が小さいので、材料が半径方向に逃げる量が少なく凹耳となる。
したがって、斯かる変形を予め考慮に入れて、円ブランクを異形化すれば、成形後の耳の発生を低減できると考えられる。そこで、本発明では、純ニオブ板素材のブランクを、塑性歪比の実測値と、下記(9)式のべき乗仮説式;
θ=D(r45/rθ ・・・(9)
ここで、Dθ:圧延方向から角度θ方向のブランク径
:圧延方向から45°方向のブランク径
θ:圧延方向から角度θ方向の塑性歪比r
J:定数
から決められる形状・寸法の異形ブランクとする。
ここで、上記(9)式は、先述した異方性による耳発生のメカニズムから、圧延方向から角度θ方向のブランク径Dθは、基準となる圧延方向からの角度θが45°方向のr値(r45)と、任意のθ方向のr値(rθ)の比のべき乗で示されると考えたことに基づくものである。
また、上記定数Jは、被加工材が有する異方性によって定まる定数であり、被加工材の種類や製造履歴等によって変動するが、純ニオブ板素材の場合、一般に、1/10〜1/13の範囲内にある。なお、後述するように、本発明の実施例に用いた純ニオブ板素材では、凸耳高さと凹耳高さの差ΔE≒0になる定数Jは(1/11.5)である。
以下に、上記異形ブランクの形状・寸法を求める方法について一例を示す。
・ステップ1:素材ごとまたは素材ロットごとに、rθ(圧延方向を0°として、それから角度θをなす方向のr値)を、例えば15°おきに実測する(r値の測定方法は、JIS Z2254に記載の方法を用いることができる。)。
・ステップ2:上記r値の信頼性を検証(再現性の確認や、θ間隔の適正化等)した上で、最小二乗法の適用によるデータの確認後、3次Bスプライン補間法によってθ−rθ関係を規定する。
・ステップ3:ニオブは、体心立方金属であることから、r45が最小値となるので、円ブランク径D=D45となるよう基準決めを行い、θ方向のブランク径Dθを求めるため、前述した(9)式(べき乗仮説式)を導入し、上記J値とrθの実測値から、異形ブランクの形状・寸法を算出する(上述のように、θ=45°のときのDθ=Dを基準とする)。
このようにして求めた異形ブランクの例を、従来の真円ブランクとともに図6に示す。このような異形ブランクからの絞り成形においては、真円ブランクにおける「四つ耳」が分断・等方化するとともに、特にフランジ変形抵抗応力σの周方向均一化により、成形性も向上する。さらに、引張残留応力とノッチ効果のために、深絞り品の口縁部で起こりやすい遅れ破壊の回避にも有効である。
図7は、ブランク形状・寸法が、平底円筒絞り成形における凹耳部の成形高さ、すなわち、有効に使用可能な成形高さ(使用可能高さ)に及ぼす影響を、本発明のプレス加工法と従来の室温加工法とを対比し、超伝導加速空洞のエンドグループ部品のHOM cupやビームパイプを得るために必要な目標成形高さ領域等とともに、示したものである。なお、上記2つの加工法は、いずれも単一工程のプレス加工によるものである。
この図から、従来の室温加工法では、HOM cupやBeam pipeを得るために必要な目標成形高さを得ることは全く不可能である。また、速度/モーション制御、温度/分布・勾配制御および動的しわ押え荷重制御を行う本発明の第3発明に係るプレス加工方法を用いた場合には、円ブランクにおいても著しい成形性の向上が認められるものの、純ニオブ材の低r値と大きな異方性に起因して、凹耳部の成形高さが僅かに目標成形高さに届いていない。これに対して、r値の実測値と(9)式のべき乗仮説式から求めた異形ブランクを適用した第発明のプレス加工法を用いた場合には、異方性問題に対して十分な効果が得られ、熱処理等の処理を必要とすることなく、目標成形高さを達成できていることがわかる。
なお、本発明における上述した融合プレス加工法においては、潤滑剤として、−50〜+300℃間における固形被膜の潤滑性能の温度変化が±10%以内の水溶性固形被膜型潤滑剤を用いることが好ましい(第発明)。ここで、温度範囲を−50〜+300℃の範囲とした理由は、本発明の融合プレス加工法においては、上記温度範囲で金型温度を制御するからである。上記水溶性乾燥固体被膜潤滑剤としては、例えば、特許文献2に開示の潤滑剤は、40℃における動粘度が1.83mm/secで、室温〜800℃近傍まで、上記固形被膜の潤滑性能が殆ど変化しないので、好ましく用いることができる。なお、テフロン(登録商標)等の有機化合物薄体も広い温度範囲で良好な潤滑性能を示す潤滑物質であるが、価格面とハンドリング面に難がある。
以上、超伝導加速空洞のエンドグループ部品のプレス加工法(絞り成形)法について説明してきたが、上記成形品を最終製品とするためには、上記成形品が所定の使用可能高さを有することに加えて、形状凍結性および寸法精度(板厚精度、内径精度、真円度、円筒度等)が所定の範囲内であることが必要である。
そこで、本発明における第発明は、上記融合プレス加工を施した成形体に、形状・寸法精度の観点から、リストライク加工を施す。なお、プレス加工後、リストライク加工を施すことは、従来から一般に行われているが、本発明のプレス加工法による絞り成形体は、歪の均一化と転位密度の低下によって、リストライクや二次加工における変形の余裕度が著しく増加した状態にあることが特徴である。
そこで、本発明の融合プレス加工法で得たエンドグループ部品に対して、室温で5mm/secの速度でリストライク加工を施したところ、形状・寸法精度とも設計上の許容範囲内に収めることができた。
具体的には、図8は、超伝導加速空洞のエンドグループ部品の一つであるHOM cupの設計図であり、成形体全体の板厚は2.5±0.5mm、内径精度は42±0.1mm、真円度は0.2mm、円筒度は0.1mmと規定されている。この基準は、単一工程のプレス加工で深絞り成形する本発明の融合プレス加工には、従来の複数プレス加工−熱処理法等と比較して、形状凍結性に難があることが懸念された。しかし、本発明にプレス加工品は、リストライク加工によって、すべて公差内に収めることができた。これは、主として、金型の温度/分布・勾配制御がプラスに作用したものと解釈している。つまり、材料変形の観点から考えると、金型の温度/分布・勾配制御によって、被加工材の温度分布および温度勾配を適正化した本発明の成形品は、比較的均一な歪状態にあり、その後の加工に対する変形余裕度が残されているため、良好な形状・寸法精度が得られたものと推察している。
次に、本発明の第発明は、前述したプレス加工後またはリストライク加工後、トリミング加工、平底底面中央部の突起出し加工およびバーリング加工のいずれか1以上の二次加工を施す加工方法である。なお、本発明においては、前述したプレス加工またはその後のリストライク加工までを「一次加工」といい、その加工品を「一次加工品」ということとする。
本発明が加工対象とする図8に示したHOM cupの場合、リストライク後の一次加工品に、二次加工として、平底底面中央部の突起出し加工、および、偏芯穴あけとバーリング加工を施すことが必要である。
この点においても、従来の全機械切削法や、押出し−機械切削−熱処理法、複数プレス加工−熱処理法等で製造した加工品と比較すると、本発明の一次加工品の歪状態は、二次加工にとって厳しいことが予想された。しかし、本発明の方法でプレス加工後、リストライク加工を施した一次加工品に、上記の二次加工を施したところ、熱処理等の特別の処理を施すことなく、図8の図面で指定された最終製品の形状・寸法に加工することができた。この理由は、本発明の一次加工品における絞り抜け時の被加工材の温度状態(図5を参照)を考えると、側壁部分は室温以上の温度/分布・勾配で加工がなされていること、底面中央部付近は低温加工されているが、応力、歪状態が比較的軽度であり、素材が元来軟質であることから、本発明の一次加工品には、変形の余裕度がかなり残されているためと推察している。
次に、本発明の第発明について説明する。
上記に説明した本発明の融合プレス加工を実施するためには、主として単一工程の絞り成形からなるプレス加工を、スライドの速度および/またはモーションの制御が可能なサーボ機構と、金型の温度/分布・勾配制御が可能な温度制御装置(加熱および冷却の2系統)を備えたプレス機を用いて行うことが必要である。一例として、上記サーボプレス機の外観を図9に示す。
さらに、上記サーボプレス機は、上記のサーボ機構や温度制御装置に加えて、しわ押え荷重の動的制御が可能なサーボダイクッション装置や金型を備えたものであることが好ましい。なお、サーボプレス機がない場合には、サーボ機構を付設すればよい。
以上説明したように、本発明の融合プレス加工法によれば、従来、純ニオブ材が難加工材であるがために、全機械切削法や、押出し−機械切削−熱処理法あるいは複数プレス加工−熱処理法等で製造していた超伝導加速器のエンドグループ部品を、純ニオブ板素材から、主として絞り成形からなる単一工程のプレス加工で製造することが可能となる。
さらに、上記プレス加工後に行うリストライク加工や、さらにその後に行う偏芯穴あけやトリミング加工、バーリング加工、底面突起出し加工等の二次加工についても、従来の機械切削や溶接等によらずに加工することができる。本発明のプレス加工品が、リストライク性や二次加工性にも優れる理由は、プレス加工後の変形組織や変形状態が均一であることによるものである。
したがって、本発明によれば、純ニオブ板素材を出発材料とし、終始一貫してプレス加工で、超伝導加速空洞のエンドグループ部品を製造することができる。その主な工程をまとめて示すと、「プレス加工による深絞り成形」 → 「形状寸法精度出しのためのリストライク加工」(以上、「一次加工」) → 「二次加工」のようになる。
なお、上記説明では、超伝導加速空洞エンドグループ部品のうちのHOM cupの製造方法について述べてきたが、本発明の加工方法は、Beam pipeやPort pipeへの適用も十分に可能である。
超伝導加速空洞のエンドグループ部品の一次加工に、本発明の融合プレス加工法を適用した実施例について説明する。
図10は、図9に示したサーボプレス機を用いて(以降、同様)、板厚2.8mmの純ニオブ材で、D:76mmの円形ブランクを、D:42mmの平底円筒ポンチで絞り成形した結果を示したものであり、図10(a)は、室温で加工速度V:5mm/minにて成形した結果、ポンチ肩部近傍部にネッキングが生じて破断寸前の状態にあり、この後、数mm足らずのストロークの進行により破断した加工例である。また、図10(b)は、上記と同じ円形ブランクの純ニオブ材を、T:120℃,T:−20℃に温度制御し、ポンチが被加工材に接触後、さらに、加工速度V:5mm/secで約10mm(以降、この加工量を「h」とする)加工し、被加工材の温度分布と温度勾配を適正化するために5sec間ストロークを停止し(以降、この停止時間を「t」と表す)、その後、V:5mm/minで成形を進め、上記室温での絞り成形と同じ絞り高さのところで加工を停止した加工例である。この例では、ポンチ肩部近傍には、ネッキングは全く生じておらず、その後のストロークの進行により絞り抜けた(凹耳の絞り高さは27mm)。この結果から、室温かつ一定速度で加工する従来の加工法と、金型の温度/分布・勾配制御とスライドの速度/モーション制御を行う本発明の融合プレス加工法とでは、加工性に明確な差が認められる。
また、図11(a)は、板厚2.8mmの純ニオブ材で、種々の径の円形ブランクを、D:42mmの平底円筒ポンチを用いて、室温で加工速度V:5mm/secで絞り成形したときの、絞り抜け限界品(D:75mm)を示したものである。また、図11(b)は、板厚2.8mmの純ニオブ材で、D:100mmの円ブランクを、D:42mmの平底円筒ポンチを用いて、T:120℃,T:−20℃に温度制御した条件で、h:10mmまでV:5mm/secで加工した後、t:5sec間停止し(V:0)、その後、V:100mm/sec、しわ押え応力をそれまでの約1/4に低減して、すなわち、高速化によるフランジの変形応力σの増加を、高速化による動摩擦係数の低下と、しわ押え力(応力)の低減によって抑制し、高速化によるポンチ肩部の破断応力σの増大効果を生かして、σとσのバランスを適正化して、絞り抜いた本発明の融合プレス加工品の例である。また、図11(c)は、図11(b)と基本的に同じ条件であるが、ブランクを、D45:110mmかつDθ=D(r45/rθ(J:1/11.5、D:110mm)の異形ブランクとした本発明の融合プレス加工品の例である。
上記図11(a)〜図11(c)に示した3つの加工例における有効に使用可能な凹耳部の成形高さ(使用可能高さ)について、室温加工品である図11(a)を基準にしてみると、室温加工品と本発明の融合プレス加工品とでは、ブランク形状が円形、異形を問わずに大きな差があり、後者の方が格段に優れている。加えて、耳の大きさや凹耳成形高さは、ブランクの形状・寸法によっても大きく変化し、異形ブランクの方が優れている。
ここで、プレス加工における各要因の成形性に及ぼす効果を半定量的にまとめたのが図12である。この図から、純ニオブ材では、温間加工法として知られているTおよびT の温度制御によっても、図7にも示したようにある程度の効果が認められるが、それのみではエンドグループ部品のプレス加工による製造は不可能であり、さらに、サーボ機構を用いたスライドの速度/モーション制御による被加工材の温度分布と温度勾配の適正化が必要である。また、加工速度自体の高速化や、それに連動したフランジ変形抵抗の増大を動的しわ押え荷重の低減によって緩和することも重要である。さらに上記に加えて、凹耳部の成形高さの向上や、異方性低減、絞り性向上を可能にするためには、面内異方性を考慮し、塑性歪比の方位依存性に基づくべき乗仮説式を用いたブランク形状の適正化、具体的には、本発明の加工対象は平底円筒であり、そのブランクには、通常、円形を使用するので、非真円異形ブランク化することが有効であることがわかる。これを本発明では、単に異形化(異形ブランク)と称する。
純ニオブ板素材の面内異方性とブランク形状・寸法が、絞り成形性に及ぼす影響を調査した実施例について説明する。
図13に示した3個の平底円筒状の絞り成形品は、絞り高さが同じであるにも拘らず、口縁部の凹凸状況、即ち、耳の大きさが異なっている。これらはいずれも、ブランク形状・寸法を除いて、実施例1の図11(c)と同じ、本発明の融合プレス加工法で絞り成形したものである。ただし、前述した(9)式におけるパラメーターJについては、図13(a)のブランクはJ:0(真円)、図13(b)はJ:1/6、図13(c)はJ:1/11.5とした(ただし、D45=Dはすべて同じ)。
上記の図13の結果と、J値をもう少し細かく変化して別途行った実験結果と合わせてみると、凸耳と凹耳の高さの差(ΔE)とJとの間には、下に凸の負の相関が認められ、耳が等方性に最も近くなる、即ち、ΔE≒0となるのは、J:1/11.5のときであった。そこで、以降の実施例の本発明例に用いるブランクは、原則として、このJ値を用いて求めた異形ブランクとした。
面内異方性を支配するr値は、材料の結晶集合組織によって決まり、圧延方向に対する角度θに依存して変化する。そのため、巨視的な絞り成形の場合、フランジの円周方向、板厚方向、半径方向におけるそれぞれの変形状態は、ブランク内の位置によって変化し、その程度がブランク形状寸法に依存するということである。
また、図14は、図13(a)と同様、真円ブランクを深絞り成形したことによって大きな四つ耳を発生した平底円筒成形体の凹耳部に、加工から数日後、遅れ破壊(置割れ、縦割れ)が発生した加工品を示したものである。
上記凹部分は、圧延方向からθ:45°方向に相当し、半径方向の引張歪が小さく、凸部に比べて引張残留応力が大きいことと、形状的なノッチ効果が作用して亀裂発生に至ったものと考えている。したがって、純ニオブ材の成形にあたっては、遅れ破壊を防止するためにも異方性に起因した耳の発生を抑制することが重要であり、そのためには、r値の分布を考慮した異形ブランクを採用することが好ましい。
上記の実施例から、異形ブランクを使用することによる効果には、以下の点にあるといえる。
(1)耳の低減(等方化)による円筒絞り成形品の使用可能高さが向上する。
(2)同じ面積の円ブランクに比べて絞り性が向上する(図7参照)。
(3)所定の使用可能高さを得るのに必要な素材量を削減できるので、高価な純ニオブ素材の材料費を削減できる(大略10%程度)。
(4)円筒絞り成形品の口縁部における遅れ破壊を防止できる。
図8に、一例としてHOM cupの設計図面を示したように、超伝導加速空洞のエンドグループ部品の形状・寸法精度については、加速器の性能を考慮し、厳しい要求がなされている。そのため、本発明の融合プレス加工法によって得られた成形体は、さらに、形状凍結性と寸法精度を向上するため、リストライク加工を施すことが必要となる。
図15は、板厚2.8mmの純ニオブ材で、J:1/11.5とした異形のブランクを、本発明の融合プレス加工法で絞り成形して得た平底円筒形状の成形体に、リストライク加工を施した後、図示した円筒の高さ位置における各方位の内径を測定し、真円度(仕様:0.2mm以内)および円筒度(仕様:0.1mm以内)を調べた結果を示したものである。なお、上記真円度とは、同一高さ位置の各半径方向における直径差の1/2、また、上記円筒度とは、同一半径方向の各高さ位置における直径差の1/2、と定義している。因みに、各部位における板厚精度の仕様は2.5±0.5mm、内径精度は42±0.1mmであり、いずれも十分に満足していることを確認している。
図15に示した合計16点の真円度および円筒度の測定結果をみると、いずれも上記仕様値を十分に満たしている。上記のような良好な形状・寸法精度が得られた理由は、本発明のプレス加工によって得られた絞り成形体は、加工後の熱処理なしでも、相応の変形余裕度を有しているからであると推察される。
次に、本発明の融合プレス加工法で、異形ブランクを平底円筒絞り成形し、リストライク加工を施したHOM cupの一次加工品に、さらに、二次加工を施した実施例について説明する。
図8に示したHOM cupの設計図面に記された部品とするためには、上記絞り成形とリストライク加工後の一次加工品に、いわゆる補足的な二次加工を施すことが必要である。それによって、HOM cupが、超伝導加速空洞の超伝導特性を機能的に発揮するからである。具体的には、図1および図2に示したように、電子ビーム溶接EBWによってHOM antennaと一体化して、HOM couplerに組み立て、ポートパイプやビームパイプ等のエンド部品とともに空洞機能を発揮する。上記二次加工には、円筒平底面の突起出し加工、偏芯穴あけやバーリング加工がある。
図16は、上記リストライク加工後のHOM cup(一次加工品)の底面に、約10φ×6mm高さの突起出し加工を施した結果を示したものである。この突起部分は、従来、機械切削するか、もしくは、押出し−機械切削−熱処理法や複数プレス加工−熱処理法の場合には、別途機械切削して準備した突起品を電子ビーム溶接EBWで溶接すること等で付与していた。
しかし、本発明の一次加工品は、HOM cupの底面に、肉寄せのための予備成形を挟んで突起出しプレス加工することで、容易に突起出しを行うことができた。
また、図17(a)は、上記突起出し加工を施したHOM cupに、偏芯穴あけとバーリング加工を施した結果を示す。上記バーリング加工は、図示した如く、円筒中心軸から偏芯した位置に穴あけした後、高圧ポンプによるピストンの推力で偏芯バーリングを行った。ただし、最終の仕上げ段差付けは、機械切削で行った。
伸びフランジ性(バーリング加工の主体となる変形様式)には、絞り成形後においても異方性が存在するので、穴位置が偏芯していることを考慮すると、この加工は容易とはいえない。しかし、穴形状や穴周辺の側壁の肉厚を適正化し、バーリング加工温度を100℃程度に高めることで、図8に示した所定の要求を満たす寸法に加工することができた。これも、本発明の融合プレス加工品の伸びフランジ性が、加工後の熱処理なしでも、従来の加工品に比べて、変形余裕度を有しているからである。なお、図17(b)は、上記機械切削加工後に、カラーチェックで、バーリングによる微小亀裂の発生有無を検査した結果を示したもので、亀裂発生がないことが確認された。
以上の結果から、本発明の融合プレス法を用いることにより、熱処理等、特別な処理を必要とすることなく、HOM cupのほぼ全ての製造工程を、プレス加工で行うことが可能であることがわかる。
本発明の技術は、難加工材の深絞り成形性に優れているので、例えば、深絞り成形後に、口縁部と底部をトリミングして所要長さのシームレスパイプを製造する方法等としても用いることができる。

Claims (7)

  1. 純ニオブ板素材から、主として平底円筒絞りからなるプレス加工で製造する、荷電粒子の加速に用いられる超伝導加速空洞のエンドグループ部品の製造方法であって、
    上記純ニオブ板素材を、
    塑性歪比の実測値と、下記(9)のべき乗仮説式
    θ=D(r45/rθ ・・・(9)
    ここで、Dθ:圧延方向から角度θ方向のブランク径
    :圧延方向から45°方向のブランク径
    θ:圧延方向から角度θ方向の塑性歪比r
    J:定数(1/10〜1/13)
    から決められる非真円異形ブランクとすることを特徴とするエンドグループ部品の製造方法。
  2. 上記プレス加工において、スライドの速度および/またはモーションの制御と、金型の温度および/または分布・勾配の制御を同時に行うことを特徴とする請求項1に記載のエンドグループ部品の製造方法。
  3. 上記プレス加工において、上記非真円異形ブランクのフランジ面積、板厚および材質の変化に応じて、しわ押え荷重を動的に制御することを特徴とする請求項1または2に記載のエンドグループ部品の製造方法。
  4. 上記プレス加工の潤滑剤として、−50〜+300℃間における固形被膜の潤滑性能の温度変化が±10%以内の水溶性固形被膜型潤滑剤を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のエンドグループ部品の製造方法。
  5. 上記プレス加工後、リストライク加工を施すことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のエンドグループ部品の製造方法。
  6. 上記プレス加工またはリストライク加工後、トリミング加工、底面突起出し加工およびバーリング加工のいずれか1以上の加工を施すことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のエンドグループ部品の製造方法。
  7. 上記プレス加工を、スライドの速度および/またはモーションの制御が可能なサーボ機構と、しわ押え荷重を動的に制御する動的しわ押え制御装置とを備えるプレス機と、被加工材の温度および/または分布・勾配制御が可能な温度制御装置および金型とを用いて行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のエンドグループ部品の製造方法。
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