以下、本発明の実施形態を添付図面に基づき説明する。
I.基本構成
図1は、本実施形態に係る内燃機関の概略図である。図示されるように、内燃機関(エンジン)1は、シリンダブロック2に形成された燃焼室3の内部で燃料および空気の混合気を燃焼させ、燃焼室3内でピストンを往復移動させることにより動力を発生する。本実施形態の内燃機関1は自動車に搭載された多気筒内燃機関であり、より具体的には直列4気筒火花点火式内燃機関(ガソリンエンジン)である。内燃機関1は#1〜#4気筒を備える。但し内燃機関1の気筒数、形式等は特に限定されない。
図示しないが、内燃機関1のシリンダヘッドには吸気ポートを開閉する吸気弁と、排気ポートを開閉する排気弁とが気筒毎に配設されており、各吸気弁および各排気弁はカムシャフトによって開閉させられる。シリンダヘッドの頂部には、燃焼室3内の混合気に点火するための点火プラグ7が気筒毎に取り付けられている。
各気筒の吸気ポートは気筒毎の枝管4を介して吸気集合室であるサージタンク8に接続されている。サージタンク8の上流側には吸気管13が接続されており、吸気管13の上流端にはエアクリーナ9が設けられている。そして吸気管13には、上流側から順に、吸入空気量を検出するためのエアフローメータ5(吸入空気量検出装置)と、電子制御式のスロットルバルブ10とが組み込まれている。吸気ポート、枝管4、サージタンク8及び吸気管13により吸気通路が形成される。
吸気通路、特に吸気ポート内に燃料を噴射するインジェクタ(燃料噴射弁)12が気筒毎に配設されている。インジェクタ12から噴射された燃料は吸入空気と混合されて混合気をなし、この混合気が吸気弁の開弁時に燃焼室3に吸入され、ピストンで圧縮され、点火プラグ7で点火燃焼させられる。なおインジェクタは燃焼室3内に燃料を直接噴射するものであってもよい。
一方、各気筒の排気ポートは排気マニフォールド14に接続される。排気マニフォールド14は、その上流部をなす気筒毎の枝管14aと、その下流部をなす排気集合部14bとからなる。排気集合部14bの下流側には排気管6が接続されている。排気ポート、排気マニフォールド14及び排気管6により排気通路が形成される。
また、排気マニフォールド14の排気集合部14bから下流側の排気通路は、複数の気筒である#1〜#4気筒に共通の排気通路を形成する。
排気管6の上流側と下流側にはそれぞれ三元触媒からなる触媒、すなわち上流触媒11と下流触媒19が直列に取り付けられている。これら触媒11,19は酸素吸蔵能(O2ストレージ能)を有する。すなわち、触媒11,19は、排気ガスの空燃比がストイキ(理論空燃比、例えばA/F=14.5)より大きい(リーンな)ときに排気ガス中の過剰酸素を吸蔵し、NOxを還元する。また触媒11,19は、排気ガスの空燃比がストイキより小さい(リッチな)ときに吸蔵酸素を放出し、排気ガス中のHC,COを酸化する。
上流触媒11の上流側及び下流側にそれぞれ排気ガスの空燃比を検出するための第1及び第2の空燃比センサ、即ち触媒前センサ17及び触媒後センサ18が設置されている。これら触媒前センサ17及び触媒後センサ18は、上流触媒11の直前及び直後の位置に設置され、排気中の酸素濃度に基づいて空燃比を検出する。触媒前センサ17が本発明にいう「空燃比センサ」に該当する。
上述の点火プラグ7、スロットルバルブ10及びインジェクタ12等は、制御装置または制御ユニットとしての電子制御ユニット(以下ECUと称す)20に電気的に接続されている。ECU20は、何れも図示されないCPU、ROM、RAM、入出力ポート、および記憶装置等を含むものである。またECU20には、図示されるように、前述のエアフローメータ5、触媒前センサ17、触媒後センサ18のほか、内燃機関1のクランク角を検出するクランク角センサ16、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ15、その他の各種センサが図示されないA/D変換器等を介して電気的に接続されている。ECU20は、各種センサの検出値等に基づいて、所望のエンジン出力が得られるように、ROMに格納された各種プログラムに従い、点火プラグ7、スロットルバルブ10、インジェクタ12等を制御し、点火時期、燃料噴射量、燃料噴射時期、スロットル開度等を制御する。
スロットルバルブ10にはスロットル開度センサ(図示せず)が設けられ、スロットル開度センサからの信号がECU20に送られる。ECU20は、通常、アクセル開度に応じて定まる目標スロットル開度に、実際のスロットル開度が一致するよう、スロットル開度をフィードバック制御する。
ECU20は、エアフローメータ5からの信号に基づき、単位時間当たりの吸入空気の量である吸入空気量すなわち吸気流量を検出する。そしてECU20は、検出したアクセル開度、スロットル開度および吸入空気量の少なくとも一つに基づき、エンジン1の負荷を検出する。
ECU20は、クランク角センサ16からのクランクパルス信号に基づき、クランク角自体を検出すると共にエンジン1の回転数を検出する。ここで「回転数」とは単位時間当たりの回転数のことをいい、回転速度と同義である。本実施形態では1分間当たりの回転数rpmのことをいう。
触媒前センサ17は所謂広域A/Fセンサからなり、比較的広範囲に亘る空燃比を連続的に検出可能である。図2に触媒前センサ17の出力特性を示す。図示するように、触媒前センサ17は、排気空燃比に比例した大きさの電圧信号Vfを出力する。排気空燃比がストイキであるときの出力電圧はVreff(例えば約3.3V)である。
他方、触媒後センサ18は所謂O2センサもしくは酸素センサからなり、ストイキを境に出力値が急変するZ特性を持つ。図2に触媒後センサ18の出力特性を示す。図示するように、排気空燃比がストイキであるときの出力電圧、すなわちストイキ相当値はVrefr(例えば0.45V)である。触媒後センサ18の出力電圧は所定の範囲(例えば0〜1V)内で変化する。排気空燃比がストイキよりリーンのとき、触媒後センサの出力電圧はストイキ相当値Vrefrより低くなり、排気空燃比がストイキよりリッチのとき、触媒後センサの出力電圧はストイキ相当値Vrefrより高くなる。
上流触媒11及び下流触媒19は、それぞれに流入する排気ガスの空燃比A/Fがストイキ近傍のときに排気中の有害成分であるNOx,HCおよびCOを同時に浄化する。この三者を同時に高効率で浄化できる空燃比の幅(ウィンドウ)は比較的狭い。
そこで通常運転時、燃焼室3から排出され上流触媒11に供給される排気ガスの空燃比がストイキ近傍に制御されるように、空燃比フィードバック制御がECU20により実行される。この空燃比フィードバック制御は、触媒前センサ17によって検出された排気空燃比を所定の目標空燃比であるストイキに一致させるように混合気の空燃比、具体的には燃料噴射量を制御する空燃比メインフィードバック制御と、触媒後センサ18によって検出された排気空燃比をストイキに一致させるように混合気の空燃比、具体的には燃料噴射量を制御する空燃比サブフィードバック制御とからなる。
このような目標空燃比をストイキとする空燃比フィードバック制御をストイキ制御という。ストイキは基準空燃比をなす。
II.ばらつき異常検出の概要
さて、例えば全気筒のうちの一部の気筒、特に1気筒に故障が発生し、気筒間に空燃比のばらつき(インバランス:imbalance)が発生する場合がある。例えば、#1気筒のインジェクタ12が故障し、#1気筒の燃料噴射量が残部の#2〜#4気筒の燃料噴射量よりも多くなり、#1気筒の空燃比が#2〜#4気筒の空燃比より大きくリッチ側にずれる場合等である。このときでも前述のストイキ制御により比較的大きな補正量を与えれば、触媒前センサ17に供給されるトータルガスの空燃比、すなわち各気筒の空燃比の平均値をストイキに制御できる場合がある。しかし、気筒別に見ると、#1気筒がストイキより大きくリッチ、#2、#3及び#4気筒がストイキより若干リーンであり、全体のバランスとしてストイキとなっているに過ぎず、エミッション上好ましくないことは明らかである。そこで本実施形態では、かかる気筒間空燃比ばらつき異常を検出する装置が装備されている。
以下、本実施形態におけるばらつき異常検出の一態様を説明する。
図3に示すように、気筒間空燃比ばらつきが発生すると、排気空燃比の変動が大きくなる。(B)の空燃比線図a,b,cはそれぞればらつき無し、1気筒のみ20%のインバランス率でリッチずれ、及び1気筒のみ50%のインバランス率でリッチずれの場合の、触媒前センサ17による検出空燃比すなわち触媒前センサ出力A/Fを示す。見られるように、ばらつき度合いが大きくなるほど空燃比変動の振幅が大きくなる。
ここでインバランス率とは、気筒間空燃比のばらつき度合いに相関する一つのパラメータである。即ち、インバランス率とは、全気筒のうちある1気筒のみが残部気筒に対し空燃比ずれを起こしている場合に、その空燃比ずれを起こしている気筒(インバランス気筒)の空燃比がどれくらいの割合で、空燃比ずれを起こしていない気筒(バランス気筒)の空燃比からずれているかを示す値である。本実施形態の場合、インバランス率Bは次式(1)で表される。インバランス率Bが1から離れるほど、インバランス気筒のバランス気筒に対する空燃比ずれが大きく、空燃比ばらつき度合いは大きい。
A/Fbはバランス気筒の空燃比、A/Fibはインバランス気筒の空燃比である。インバランス率は一般的にはパーセンテージで表示され、この場合、インバランス率B(%)は次式(1)’で表される。インバランス率B(%)の絶対値が大きいほど、インバランス気筒のバランス気筒に対する空燃比ずれが大きく、空燃比ばらつき度合いは大きい。以下、特に言及しない限り、パーセンテージ表示のインバランス率を用いる。
図3から理解されるように、インバランス率B(%)の絶対値が大きいほど、すなわち空燃比ばらつき度合いが大きいほど、触媒前センサ17の出力変動が大きくなる。
よってこの特性を利用し、本実施形態では、触媒前センサ17の出力変動度合いに相関するパラメータである出力変動パラメータXを算出もしくは検出し、この算出された出力変動パラメータXに基づいてばらつき異常を検出する。
以下に出力変動パラメータXの算出方法を説明する。図4には、触媒前センサ出力のクランク角に対する推移を示す。なおクランク角をクランク位相または単に位相ともいう。触媒前センサ出力としては、触媒前センサ17の出力電圧Vfを空燃比A/Fに換算した値を用いる。但し触媒前センサ17の出力電圧Vfを直接用いることも可能である。
図示するように、触媒前センサ出力A/Fは、エンジンの1サイクル(=720°CA、1エンジンサイクルともいう)を1周期として周期的に変動する。すなわち触媒前センサ17の出力波形は、エンジンの1サイクルに等しい周期を有する周期的波形である。またストイキ制御の実行中であることから、触媒前センサ17の出力波形は、ストイキにほぼ等しい中心空燃比A/Fcを中心に変動する波形である。
図4に示すように、ECU20は、1エンジンサイクル内において、所定のサンプル周期τ毎に、触媒前センサ出力値A/Fを取得する。そして今回(n)のタイミングで取得した値A/Fnと、前回(n−1)のタイミングで取得した値A/Fn−1との差の絶対値(出力差という)ΔA/Fnを次式(2)により求める。この出力差ΔA/Fnは今回のタイミングにおける微分値あるいは傾きの絶対値と言い換えることができる。
最も単純には、この出力差ΔA/Fnが触媒前センサ出力の変動の大きさを表す。変動度合いが大きくなるほど空燃比線図の傾きが大きくなり、出力差ΔA/Fnが大きくなるからである。そこで所定の1タイミングにおける出力差ΔA/Fnの値を出力変動パラメータとすることができる。
但し、本実施形態では精度向上のため、複数の出力差ΔA/Fnの平均値を出力変動パラメータとする。本実施形態では、Mエンジンサイクルの間(Mは2以上の整数。例えばM=100)、出力差ΔA/Fnをサンプル周期τ毎に積算し、最終積算値をサンプル数で除して出力変動パラメータXを求める。触媒前センサ出力の変動度合いが大きくなるほど出力変動パラメータXは大きくなる。
なお、触媒前センサ出力の変動度合いに相関する如何なる値をも出力変動パラメータとすることができる。例えば、1エンジンサイクル内における触媒前センサ出力のリーン側(最大)ピークとリッチ側(最小)ピークの差(所謂ピークトゥピーク; peak to peak)、または2階微分値の最大ピークまたは最小ピークの絶対値に基づいて、出力変動パラメータを算出することもできる。触媒前センサ出力の変動度合いが大きいほど、触媒前センサ出力のリーン側およびリッチ側ピークの差は大きくなり、また2階微分値の最大ピークまたは最小ピークの絶対値も大きくなるからである。
図5には、インバランス率B(%)と出力変動パラメータXの関係を示す。図示されるように、インバランス率IBと出力変動パラメータXの間には強い相関関係があり、インバランス率Bの絶対値が増加するほど出力変動パラメータXも増加する傾向にある。
算出された出力変動パラメータXを、所定の判定値αと比較して、ばらつき異常の有無を判定することが可能である。例えば、算出された出力変動パラメータXが判定値α以上であればばらつき異常あり(異常)、算出された出力変動パラメータXが判定値αより小さければばらつき異常なし(正常)と判定することができる。なお後に説明するように、判定値αは排気エミッションに関するOBD(On-Board Diagnosis)規制値を考慮して設定される。
III.ずれ方向判別
ところで、空燃比ばらつきが発生している場合、その原因として、一部気筒(特に1気筒)の空燃比がストイキに対しリーン側にずれている場合とリッチ側にずれている場合とがあり、これらの場合を区別して判別できるのが望ましい。このような判別を「ずれ方向判別」という。
これに関し、特許文献1には、空燃比センサの出力波形における正の傾きと負の傾きを取得し、両者の大きさの大小を比較することにより、リーンずれが発生しているかリッチずれが発生しているかを判定することが開示されている。
しかし、本発明者らの研究結果によれば、必ずしも両者の大きさの大小比較のみではリーンずれとリッチずれを正確に判別できない場合があることが判明した。以下、この点について詳述する。
まず、本実施形態のずれ方向判別について説明する前に、かかる判別の基礎となるパラメータである「正傾き値」と「負傾き値」について述べる。
図4に示すように、1エンジンサイクル中における触媒前センサ17の出力波形において、触媒前センサ17の出力がリーン側(増大側)に変化するときの傾きγ+の大きさを表す値が正傾き値S+であり、触媒前センサ17の出力がリッチ側(減少側)に変化するときの傾きγ−の大きさを表す値が負傾き値S−である。
好ましくは、正傾き値S+は、正の値を有するサンプル周期τ間の触媒前センサ出力差(A/Fn−A/Fn−1)+を1エンジンサイクル内で積算した値、もしくはその値のMエンジンサイクル間の平均値である。同様に、負傾き値S−は、負の値を有するサンプル周期τ間の触媒前センサ出力差(A/Fn−A/Fn−1)−を1エンジンサイクル内で積算した値の絶対値、もしくはその絶対値のMエンジンサイクル間の平均値である。本実施形態ではMエンジンサイクル間の平均値を用い、この場合、正傾き値S+と負傾き値S−は次式で表される。
なお、(3)式において、右辺分母は、正の触媒前センサ出力差(A/Fn−A/Fn−1)+のMエンジンサイクル間での最終積算値もしくは合計値を表す。同様に、(4)式において、右辺分母は、負の触媒前センサ出力差(A/Fn−A/Fn−1)−のMエンジンサイクル間での最終積算値もしくは合計値の絶対値を表す。負傾き値S−が、傾きγ−の大きさを表す値であるため、絶対値で表現されている(つまり正の値として取り扱われている)点に注意されたい。
代替的に、正傾き値S+は、正の触媒前センサ出力差(A/Fn−A/Fn−1)+を1エンジンサイクル内で積算した値をサンプル数で除したサイクル内平均値、もしくはそのMエンジンサイクル間の平均値であってもよい。同様に、負傾き値S−は、負の触媒前センサ出力差(A/Fn−A/Fn−1)−を1エンジンサイクル内で積算した値をサンプル数で除したサイクル内平均値の絶対値、もしくはそのMエンジンサイクル間の平均値であってもよい。
あるいは、正傾き値S+は、正の触媒前センサ出力差(A/Fn−A/Fn−1)+の1エンジンサイクル内における最大値、もしくはそのMエンジンサイクル間の平均値であってもよい。同様に、負傾き値S−は、負の触媒前センサ出力差(A/Fn−A/Fn−1)−の1エンジンサイクル内における最小値の絶対値、もしくはそのMエンジンサイクル間の平均値であってもよい。この場合、サンプル周期τは比較的長くするのが好ましい。触媒前センサ出力の微視的な振動成分が最大値もしくは最小値に反映されないようにするためである。
さて、ずれ方向判別について、単純に正傾き値S+と負傾き値S−の大小を比較することにより、リーンずれが発生しているかリッチずれが発生しているかを判別することが考えられる。この判別方法を便宜上「通常方法」という。例えば、正傾き値S+が負傾き値S−より大きければリーンずれが発生していると判定し、負傾き値S−が正傾き値S+がより大きければリッチずれが発生していると判定する。しかし、この通常方法では必ずしも正確なずれ方向判別を行えない。その理由を以下に述べる。
図6には、リッチずれ発生時とリーンずれ発生時における理想的な触媒前センサ出力波形を示す。この図6に示すような状態を「理想状態」という。(A)はリッチずれ発生時、(B)はリーンずれ発生時を示す。
図示するように、リッチずれ発生時の波形とリーンずれ発生時の波形とは上下に対称であり、言い換えれば、後者は前者を上下反転したような波形を有する。リッチずれ発生時には、リッチずれが発生している1気筒からのリッチガスに起因して、負傾き値S−が正傾き値S+より大きくなる。逆に、リーンずれ発生時には、リーンずれが発生している1気筒からのリーンガスに起因して、正傾き値S+が負傾き値S−がより大きくなる。例えば、リッチずれ発生時には負傾き値S−が6、正傾き値S+が4という値を有し、リーンずれ発生時には正傾き値S+が6、負傾き値S−が4という値を有する。
しかし、実際には、両波形が理想状態のようにならず、図7に示すような状態となることがある。この状態を「実際状態」という。
図示するように、リッチずれ発生時の波形とリーンずれ発生時の波形とは上下に対称とならず、上下反転したような格好ともならない。むしろ、理想状態と比較して、負傾き値S−はより大きくなり、正傾き値S+はより小さくなる傾向にある。例えば、リッチずれ発生時には負傾き値S−が7、正傾き値S+が3という値を有し、リーンずれ発生時には正傾き値S+が5、負傾き値S−が5という値を有する。
こうなる理由は、触媒前センサ17の特性上、その出力がリッチ側に変化するときの方がリーン側に変化するときより応答性が早いからである。また別の理由として、エンジン運転状態(例えば回転数、負荷、温度等)のばらつきが考えられる。
実際状態において、リッチずれ発生時には特に問題が生じない。なぜなら、負傾き値S−が正傾き値S+より大きいという特性が強調されるだけだからである。しかし、リーンずれ発生時には問題が生じる。なぜなら、正傾き値S+が負傾き値S−より大きいという特性が弱められるからである。現に上記例では、リーンずれ発生時の正傾き値S+と負傾き値S−の差(S+−S−)が、理想状態では2(=6−4)であったものが、実際状態では0(=5−5)に減少されている。
従って、エンジン運転状態のばらつき等を考慮すると、リーンずれ発生時であるにも拘わらず正傾き値S+が負傾き値S−より小さくなり、リッチずれ発生と誤判定してしまう可能性がある。
そこで本実施形態では、正確なずれ方向判別を行ってかかる誤判定を抑制すべく、以下に述べるようなパラメータに基づいてずれ方向判別を行うこととしている。
まず、本実施形態のパラメータは、正傾き値S+と負傾き値S−の差である傾き差ΔS、特に正傾き値S+から負傾き値S−を減じてなる傾き差ΔS=S+−S−を用いる。この傾き差ΔSとインバランス率B(%)との関係は図8に特性線aで示す通りである。
図示するように、インバランス率Bが0のとき空燃比ばらつきは発生しておらず、よってある1気筒の空燃比ずれも発生していない。インバランス率Bが0から大きくなるほど、ある1気筒のリッチずれ量が大きくなり、インバランス率Bが0から小さくなるほど、ある1気筒のリーンずれ量が大きくなる。
インバランス率Bが増加するにつれ、傾き差ΔSは小さくなる傾向にある。着目すべきは、B=0(空燃比ずれなし)のとき、特性線aがΔS=0の点ではなく、ΔS=ΔS1(<0)の点を通過することである。つまり、空燃比ずれが発生していなくても、傾き差ΔSは負のΔS1の値を取り、この点を起点としてリッチずれ量が大きくなればΔS1は減少し、リーンずれ量が大きくなればΔS1は増大する。
従って、リッチずれおよびリーンずれのいずれかが発生していると判定するための傾き差ΔSに関するしきい値ΔSsは、0ではなく、ΔS1に等しく設定するのが好ましい。こうすることにより、ずれ方向判別をより精度良く行うことが可能である。
但し、本実施形態ではずれ方向判別に上記しきい値ΔSsを用いない。ここでは参考までに上記しきい値ΔSsの性格について説明しているだけである。もっとも、傾き差ΔSがしきい値ΔSsより大きいときにはリーンずれが発生しており、傾き差ΔSがしきい値ΔSsより小さいときにリッチずれが発生していると判定することは可能である。
ここで、仮に上記の理想状態を仮定すると、理想状態における傾き差ΔSとインバランス率B(%)との関係は特性線bで示す通りとなる。この場合、特性線bは特性線aをΔS大側に平行移動した格好となり、特性線bはB=0、ΔS=0の点(原点)を通過する。よって傾き差ΔSが0より大きい正の値のとき、リーンずれが発生しており、傾き差ΔSが0より小さい負の値のとき、リッチずれが発生していると判定される。傾き差ΔSに関するしきい値は0である。傾き差ΔSを0と比較することと、正傾き値S+および負傾き値S−の大小を比較することとは同じである。このような判別方法が必ずしも最適ではないことは前述したとおりである。
これから分かるように、本実施形態は、傾き差ΔSに関するしきい値ΔSsを0ではなく、それより小さい負の値ΔS1に設定する点に特徴がある。傾き差ΔSにおける0からΔS1までの範囲cは、通常方法において、実際にはリーンずれが発生しているにも拘わらず、正傾き値S+が負傾き値S−より小さくなり、リッチずれ発生と誤判定してしまう領域に相当する。
なお、図中におけるB=0をほぼ中心としたインバランス率の所定範囲ΔBは、後述するばらつき異常検出の例において、空燃比ばらつき度合いが小さいためずれ方向判別を実行しない範囲を表す。実質的には、この範囲を除いた部分の特性線aが、ずれ方向判別に使用されることとなる。なお、範囲ΔB内の特性線aの傾きは範囲ΔB外の特性線aの傾きよりも小さくなる傾向にある。
特に、範囲ΔB外であっても、特性線aのうちリーンずれ側の一部dは、範囲c内に存する。従ってこの一部dにおいて上記の誤判定が発生する可能性がある。
変形例に関して、傾き差ΔSを、負傾き値S−から正傾き値S+を減じてなる差(ΔS=S−−S+)としてもよい。また傾き差ΔSの代わりに、正傾き値S+と負傾き値S−の比すなわち傾き比Srを用いてもよい。傾き比SrはS+/S−としても、S−/S+としてもよい。これらの変形を行った場合に、図8に示した特性がどのように変化するかは当業者にとって明らかであろう。例えば傾き比Sr=S+/S−を用いた場合、前述の負のしきい値ΔSs=ΔS1は、0より大きく1より小さいしきい値Srsに変更され、傾き比Srがしきい値Srsより小さいときリッチずれ発生、傾き比Srがしきい値Srsより大きいときリーンずれ発生と判定される。
次に、本実施形態のパラメータは、上記の傾き差ΔSを、触媒前センサ17の出力波形の最大振幅の大きさを表す振幅指標値で除した値からなる。この値を「判別指標値」と称し、符号Wで表す。判別指標値Wはまさに本実施形態のずれ方向判別において直接的に用いられるパラメータである。
傾き差ΔSを振幅指標値で除する理由は、傾き差ΔSを正規化するためである。すなわち、インバランス率Bが増加するほど、触媒前センサ17の出力波形の最大振幅が大きくなり(図3参照)、正傾き値S+および負傾き値S−のいずれも増加し、併せて傾き差ΔSも増加する。
例えば、あるインバランス率Bのとき正傾き値S+が6、負傾き値S−が4であったとする。そしてインバランス率Bの増加により、正傾き値S+および負傾き値S−のいずれもが50%増加し、正傾き値S+が9、負傾き値S−が6に変化したとする。すると、前者の傾き差ΔSは6−4=2であり、後者の傾き差ΔSは9−6=3であり、傾き差ΔSも50%増加する。
こうしたインバランス率Bの変化に対する傾き差ΔSの変化をできるだけ補償もしくはキャンセルするため、正規化を行う。これにより、詳しくは後述するが、ずれ方向判別の精度を一層向上し、より正確にずれ方向判別を行うことが可能となる。
ここで「振幅指標値」について説明する。図4に示すように、振幅指標値は、少なくとも1エンジンサイクル中における触媒前センサ17の出力波形において、その中心空燃比A/Fcに対する最大振幅の大きさに相関する値である。振幅指標値を符号Aで表す。ここでいう最大振幅の大きさとは、中心空燃比A/Fcに対するリーン側ピークPLまたはリッチ側ピークPLの変位量もしくは距離をいい、例えば、リーン側ピークPLの空燃比A/FPLと中心空燃比A/Fcの差(A/FPL−A/Fc)、またはリッチ側ピークPRの空燃比A/FPRと中心空燃比A/Fcの差(A/Fc−A/FPR)をいう。中心空燃比A/Fcは、センサ出力波形の移動平均値とすることができ、あるいは、ストイキ制御中に中心空燃比A/Fcがストイキ付近の値となることから、ストイキに等しい一定値もしくは固定値とすることができる。
好ましくは、振幅指標値Aは、正傾き値S+と負傾き値S−の和からなる。センサ出力波形の最大振幅が大きくなるほど、正傾き値S+と負傾き値S−も大きくなるため、本実施形態では当該和を振幅指標値Aとして用いる。なお当該和は、前式(3)、(4)から分かるようにMエンジンサイクル間の平均値であるが、1エンジンサイクル内の値としてもよい。本実施形態の振幅指標値Aは次式で表される。
従って、本実施形態の判別指標値Wは次式で表される。
代替的に、振幅指標値Aは、1エンジンサイクル内におけるリーン側ピークPLの空燃比A/FPLとリッチ側ピークPRの空燃比A/FPRの差ΔA/FPLR=A/FPL−A/FPR(所謂ピークトゥピーク)、もしくはそのMエンジンサイクル間の平均値からなってもよい。センサ出力波形の最大振幅が大きくなるほど差ΔA/FPLRも大きくなるからである。
あるいは、振幅指標値Aは、1エンジンサイクル内において中心空燃比A/Fcよりリーン側の波形が中心空燃比A/Fcとの間で囲む面積M1と、中心空燃比A/Fcよりリッチ側の波形が中心空燃比A/Fcとの間で囲む面積M2との和M=M1+M2、もしくはそのMエンジンサイクル間の平均値からなってもよい。センサ出力波形の最大振幅が大きくなるほど和Mも大きくなるからである。なお和Mは、触媒前センサ出力A/Fnと中心空燃比A/Fcの差ΔA/Fc=A/Fn−A/Fcの絶対値をサンプル周期τ毎に積算することにより算出することができる。
このほか、振幅指標値Aは、正傾き値S+と負傾き値S−の単純平均値(S++S−)/2もしくは2乗平均値√(S+ 2+S− 2)、またはこれらのMエンジンサイクル間の平均値からなってもよい。
あるいは振幅指標値Aは次のような値もしくはそのMエンジンサイクル間の平均値からなってもよい。すなわち、図4に示すように、中心空燃比A/Fcに対しリーン側およびリッチ側に若干ずれたリーン側設定空燃比A/F1およびリッチ側設定空燃比A/F2を予め設定する。これら設定空燃比A/F1,A/F2は中心空燃比A/Fcに比較的近い値である。そして出力波形がリーン側設定空燃比A/F1よりリーン側となっている期間θ1、および出力波形がリッチ側設定空燃比A/F2よりリッチ側となっている期間θ2の少なくとも一方を算出する。この少なくとも一方に基づき振幅指標値Aを規定することができる。
例えばリーン側についてだけ述べると、図4に実線で示される最大振幅の大きい波形は期間θ11を有するが、図4に仮想線で示される最大振幅の小さい波形は期間θ12を有し、θ11>θ12である。よって当該期間θ1もセンサ出力波形の最大振幅の大きさに相関し、単独で振幅指標値Aとして用いることができる。
同様に、期間θ2を単独で振幅指標値Aとして用いることもできる。期間θ1と期間θ2を両方用いる場合、例えば、期間θ1と期間θ2の和、単純平均値もしくは2乗平均値を振幅指標値Aとして用いることができる。
さて、傾き差ΔSを振幅指標値Aで除して正規化した判別指標値Wと、インバランス率B(%)との関係は図9に特性線a,bで示す通りである。
図示例において、特性線a,bは不連続である。これは、上述の範囲ΔBにおけるデータを省略したからである。もっとも、当該範囲ΔB内のデータを含めて特性線を規定してもよい。
範囲ΔBよりもインバランス率Bが大きい領域、つまりリッチずれ側の領域では、特性線aで示すように、判別指標値Wは一定値となる傾向がある。また範囲ΔBよりもインバランス率Bが小さい領域、つまりリーンずれ側の領域では、特性線bで示すように、インバランス率Bが減少するにつれ判別指標値Wは曲線的に増加する傾向がある。特性線aと特性線bは縦軸方向にできるだけ離れている方が判別精度向上に有利である。
判別指標値Wに関する負の値W1は、図8に示した傾き差ΔSに関する負の値ΔS1に対応する。つまり、判別指標値Wにおける0からW1までの範囲cは、通常方法において、実際にはリーンずれが発生しているにも拘わらず、リッチずれ発生と誤判定してしまう領域に相当する。
しかし、図9に示す特性線a,bは、いずれも当該範囲c内に存さず、むしろ図8に示した特性線aに比べ、当該範囲cから離れるように位置されている。特に、図8に示した特性線aの一部dは同図の範囲c内に存していたが、図9に示す特性線bはいずれの部分においても同図の範囲c内に存しない。従って、ずれ方向判別の精度を一層向上し、上記のような誤判定を未然に回避することが可能である。
本実施形態では、判別指標値Wに基づき、最も大きい空燃比ずれを起こしている1つの気筒の空燃比ずれがリーンずれかリッチずれかを判別する(すなわちずれ方向判別を行う)。具体的には、判別指標値Wを所定のしきい値Wsと比較し、判別指標値Wがしきい値Wsより小さいときにはリッチずれが発生していると判定し、判別指標値Wがしきい値Wsより大きいときにはリーンずれが発生していると判定する。
かかる判別を精度良く行うため、しきい値Wsは、リッチ側特性線a上の最大値とリーン側特性線b上の最小値との間の中間値に設定するのが好ましい。言い換えればしきい値Wsは、リッチ側特性線aとリーン側特性線bの双方から最も離れた判別指標値Wの値に設定するのが好ましい。このため、図示するような特性に鑑み、本実施形態では範囲cを規定する負の値W1に等しくしきい値Wsを設定する。但し異なる値に設定することも可能である。
参考までに、正規化していない傾き差ΔSの特性線d,eを仮想線で示す。この特性線d,eは図8に示した特性線aに対応する(但しスケールは必ずしも合っていない)。
なお、以上ではリーンずれ発生時にリッチずれ発生と誤判定する例を挙げたが、逆の場合、すなわちリッチずれ発生時にリーンずれ発生と誤判定する場合も考えられる。その理由は、触媒前センサ17が上記と逆の特性(理想状態より正傾き値S+が大きくなり、負傾き値S−が小さくなる特性)を有することがあるかもしれないし、あるいはエンジン運転状態のばらつきによっては上記と逆の傾向が発生するかもしれないし、あるいは空燃比ずれ量が少ないときには上記と逆の傾向が発生するかもしれないからである。本実施形態は、このような場合にも対応可能であり、ずれ方向判別を正確に行って誤判定を抑制できる。
次に、本実施形態のより具体的なずれ方向判別処理を説明する。当該判別処理はECU20により、図10のフローチャートに表されるようなアルゴリズムに従って実行される。なお当該判別処理は、後述するばらつき異常検出処理の前提条件(図24のステップS301)が成立している場合に限って実行されるのが好ましい。
まずステップS101において、正傾き値S+と負傾き値S−が前式(3)、(4)により算出される。次いでステップS102において、判別指標値Wが前式(6)により算出される。
次にステップS103において、判別指標値Wがしきい値Wsと比較される。判別指標値Wがしきい値Wsより大きいときにはステップS104に進んで、最も大きい空燃比ずれを起こしている1つの気筒の空燃比ずれがリーンずれであると判定される。他方、判別指標値Wがしきい値Ws以下のときには、ステップS105に進んで、当該空燃比ずれがリッチずれであると判定される。なおここでは便宜上、W=Wsのときリッチずれと判定しているが、このときにはインバランス率Bが実質的に0であり、ずれ方向判別が行われることは実際上希であるため、特に問題とはならない。
ところで、本実施形態では判別指標値Wを算出するに当たり、傾き差ΔSを振幅指標値Aで除して正規化しているものの、エンジン運転状態のばらつき等により、必ずしも判別指標値Wが、予め定められた一定値としてのしきい値Wsと最適に適合しないことがある。よって、エンジン運転状態に応じて判別指標値Wまたはしきい値Wsを補正するのが好ましい。この補正は当然ながらECU20により行われる。
例えば、吸入空気量Gaに応じてしきい値Wsを補正する場合、図11に示すような所定のマップ(関数でもよい。以下同様)から、吸入空気量Ga(検出値)に対応した補正係数Kが求められ、この補正係数Kが基準しきい値Wsに乗じられて補正後のしきい値Ws’=K×Wsが求められる。そしてステップS103において、補正後のしきい値Ws’が判別指標値Wと比較される。
マップにおいて、吸入空気量Gaが増大すると補正係数Kは減少する傾向にある。吸入空気量Gaが増大すると傾き差ΔSが減少する傾向があるからである。そして所定の基準吸入空気量Ga1のとき、補正係数Kは1である。よってしきい値Wsは、吸入空気量Gaが増大するほど減少するように補正される。もっともこの補正の仕方は実機の傾向に合わせて最適に定めるのが好ましい。
このような補正を行うことにより、エンジン運転状態のばらつき等に対するロバスト性を向上し、判別精度を一層高めることができる。
なお、判別指標値Wを補正する場合には、同様の方法で、吸入空気量Gaが増大するほど判別指標値Wが増大するように、判別指標値Wを補正することができる。またエンジン運転状態を表すパラメータは吸入空気量Ga以外であってもよく、例えばエンジン回転数、エンジン水温等であってもよい。
図12および図13に検証結果を示す。図12は正規化前のパラメータである傾き差ΔSを用いた場合、図13は正規化後のパラメータである判別指標値Wを用いた場合を示す。なお図中、インバランス率B(%)が負のときに見られる各データのプロットaは、データのばらつき範囲の平均値を表し、横線bはデータのばらつき範囲の下限値を表す。上限値は省略する。ずれ方向判別を実行しないインバランス率Bの範囲ΔBは−8%<B<+6%の範囲である。
図12に示すように傾き差ΔSを用いた場合、インバランス率Bのマイナス側で最もプラス側に近いデータcの平均値と下限値の間のばらつき量は1である。またデータcの平均値と、インバランス率Bのプラス側で最もマイナス側に近いデータdの平均値との間の差は8である。従って、当該差に対するばらつき影響を示す値は1/8=0.125=12.5%である。
一方、図13に示すように判別指標値Wを用いた場合、インバランス率Bのマイナス側で最もプラス側に近いデータc’の平均値と下限値の間のばらつき量は0.0666である。またデータc’の平均値と、インバランス率Bのプラス側で最もマイナス側に近いデータd’の平均値との間の差は0.625である。従って、当該差に対するばらつき影響を示す値は0.0666/0.625=0.105=10.5%である。
このように、判別指標値Wを用いた場合(正規化後)には、傾き差ΔSを用いた場合(正規化前)よりも、ばらつき影響を2%削減でき、ロバスト性を向上すると共に判別精度を高められることが確認できた。
IV.異常気筒特定
ところで、上記のずれ方向判別は、最も大きい空燃比ずれを起こしている1つの気筒(以下、便宜上「異常気筒」という)がどの気筒であるかを特定するのに非常に有効である。そこで以下においては、上記のずれ方向判別を利用した異常気筒特定方法を説明する。
ばらつき異常検出装置において、ばらつき異常の原因となり得るような異常気筒を特定できるのが望ましい。例えば、異常気筒の情報をその後の修理等に利用できるし、あるいは、異常気筒に対して何等かの制御を行うことによりエミッション抑制等を図れるからである。
この異常気筒の特定に関して、図4に示したような触媒前センサ出力波形のピークに対応したクランク角(「ピーク位相」という)に基づいて、異常気筒を特定する方法が考えられる。
しかし、ピーク位相に基づく方法だと、ピーク位相にリーン側ピーク位相とリッチ側ピーク位相の2つがあるため、2つの気筒を特定せざるを得ず、1つの異常気筒を特定するのが困難である。
そこで本実施形態では、1つの異常気筒を特定するため、ピーク位相に基づく方法に改良を加える。以下に本実施形態の特定方法を説明するが、その前にまず、理解容易のため、ピーク位相に基づく比較例の特定方法を説明する。
図4に示すように、エンジンは0°CAから720°CAまでの1サイクルを有する。本実施形態の場合、0°CAの時に#1気筒の圧縮上死点(圧縮TDC)、180°CAの時に#3気筒の圧縮上死点、360°CAの時に#4気筒の圧縮上死点、540°CAの時に#2気筒の圧縮上死点となっている。つまり点火順序は#1,#3,#4,#2気筒の順である。
この場合、0〜180°CAの間が#2気筒の排気行程、180〜360°CAの間が#1気筒の排気行程、360〜540°CAの間が#3気筒の排気行程、540〜720°CAの間が#4気筒の排気行程となる。
燃焼室3から排出された排ガスが触媒前センサ17に実際に検出されるようになるまでに、輸送遅れや応答遅れ等に起因する時間的な遅れが存在する。この遅れ時間をTdとする。図示例では便宜上、Td=360°CAとしているが、遅れ時間Tdの長さはエンジン個体やエンジン運転状態等に応じて様々に変化する。
Td=360°CAの場合、各クランク角において触媒前センサ17に検出されている排ガスの出所気筒は図示の通りとなる。例えば0〜180°CAのクランク角期間では、出所気筒は#3であり、#3気筒から排出された排ガスが触媒前センサ17によって検出されている。
ところで、図示例の触媒前センサ出力波形において、リーン側ピーク位相θPLでの出所気筒は#2であり、リッチ側ピーク位相θPRでの出所気筒は#3である。リーン側ピーク位相θPLとリッチ側ピーク位相θPRの間隔は概ね1/2エンジンサイクル(=360°CA)である。従って比較例の方法では、#2および#3気筒の2つの気筒が、空燃比ずれを起こしていると推定される2つの気筒として特定される。以下、これら2つの気筒を便宜上「推定異常気筒」という。特に、#2気筒が空燃比のリーンずれを起こしているか、または#3気筒が空燃比のリッチずれを起こしている可能性が高い。よって#2気筒が、空燃比のリーンずれを起こしていると推定されるリーン推定異常気筒として特定され、#3気筒が、空燃比のリッチずれを起こしていると推定されるリッチ推定異常気筒として特定される。このように、ここではセンサ出力波形の2つのピークに対応させて2つの気筒が推定異常気筒として特定される。
しかし、この比較例の方法だと次のような問題がある。すなわち、リーン推定異常気筒とリッチ推定異常気筒という、異常気筒の候補となる2つの推定異常気筒が特定されるものの、それ以上の特定、限定もしくは絞り込みは困難である。前述したように、触媒前センサ17の出力波形はエンジンの1サイクルに等しい周期を有することから、一方のリーン推定異常気筒と他方のリッチ推定異常気筒とは、エンジンの1/2サイクル(=360°CA)だけ燃焼間隔もしくは圧縮上死点間隔が離れた対向気筒をなす傾向にある。すると、上述したように、リーン推定異常気筒としての#2気筒(以下、「#2リーン」などとも称する)と、リッチ推定異常気筒としての#3気筒(#3リッチ)との区別が行えず、これらのうちいずれが異常気筒であるかを特定することが困難である。このほか、特定困難な推定異常気筒の組み合わせとして、#1リッチと#4リーンの組み合わせ、#2リッチと#3リーンの組み合わせ、および#1リーンと#4リッチの組み合わせがある。これら4パターンのうちいずれか1パターンまでは特定することができるが、その1パターンの中からいずれか一方の気筒を特定するのは困難である。
しかし、上述した本実施形態のずれ方向判別を利用すると、1パターンの中からいずれか一方の気筒を特定することが可能となる。すなわち、ずれ方向判別により、異常気筒の空燃比ずれがリーンずれかリッチずれかが分かるので、この結果を利用してリーン推定異常気筒とリッチ推定異常気筒の一方に絞り込むことができる。ずれ方向判別の結果がリーンずれのときには、リーン推定異常気筒を異常気筒と特定し、ずれ方向判別の結果がリッチずれのときには、リッチ推定異常気筒を異常気筒と特定する。このように、ずれ方向判別を利用して異常気筒を好適に特定することが可能である。
なお、一方の推定異常気筒が異常気筒と特定された場合、他方の推定異常気筒は異常気筒でないことが間接的に特定されることとなる。
異常気筒における空燃比ずれには、比較的重度の空燃比ずれの他、比較的軽度の空燃比ずれも含まれる。比較的重度の空燃比ずれが起きている場合には、ばらつき異常検出においてばらつき異常ありと判定するのが望ましい。一方、比較的軽度の空燃比ずれしか起きていない場合には、OBD規制値との関係で、必ずしもばらつき異常ありと判定する必要はない場合がある。この場合、異常気筒は必ずしも異常でないが、「異常気筒」という用語がここで便宜上用いられている用語である点に留意されたい。
ここで、本実施形態の異常気筒特定方法をV型6気筒エンジンに適用した変形例を説明する。エンジンの構成は図14に示す通りである。エンジン1は第1バンク(例えば右バンク)B1と第2バンク(例えば左バンク)B2を有し、第1バンクB1には#1,#3,#5気筒が設けられ、第2バンクB2には#2,#4,#6気筒が設けられている。各バンク毎に排気マニフォールド14、排気管6、上流触媒11、触媒前センサ17および触媒後センサ18が設けられ、各バンクの排気管6は図外の下流側で集合され、この集合位置の下流側に各バンクに共通の下流触媒19が設けられている。図示省略するが、その他の構成は図1に示した直列4気筒エンジンと同じであり、詳細な説明は割愛する。このV6エンジン1では、第1バンクB1側において、#1,#3,#5の3つの気筒に共通の排気通路に空燃比センサすなわち触媒前センサ17が設置され、同様に、第2バンクB2側において、#2,#4,#6の3つの気筒に共通の排気通路に空燃比センサすなわち触媒前センサ17が設置されている。
このエンジンでは、各バンク毎に独立して、前述の空燃比制御、ばらつき異常検出および異常気筒特定処理が行われる。すなわち、各バンク毎に、前述の4気筒エンジンと同様の制御や処理が行われる。従って、例えば第1バンクB1側について言えば、#1,#3,#5の3つの気筒があたかも1つの3気筒エンジンを構成するように扱われ、この3気筒エンジンに対し、前述の4気筒エンジンと同様の制御や処理が行われる。第2バンクB2側についても同様である。
この場合、例えば第1バンクB1側について、点火順序は#1,#3,#5気筒の順であり、#1,#3,#5気筒の燃焼間隔もしくは圧縮上死点間隔は240°CAである。よってこれら#1,#3,#5気筒は、どのような組み合わせにおいても対向気筒を構成しない。
また、触媒前センサ17の出力波形は図15に示す通りである。出力波形は前記同様、1エンジンサイクルに等しい周期を有する周期的波形であるが、そのリーン側ピーク位相とリッチ側ピーク位相の間隔は概ね360°CAではなく、概ね240°CAまたは480°CAである。つまり出力波形はあるクランク角を境に対称とならない。図示するように、下記の6パターンの出力波形のうちいずれか1つが出現し得る。
(1)#1出所気筒の位相区間にリッチ側ピーク位相θpR1が存在し、#3出所気筒の位相区間にリーン側ピーク位相θpL3が存在する波形a(#1リッチと#3リーンのパターン)。
(2)#1出所気筒の位相区間にリッチ側ピーク位相θpR1が存在し、#5出所気筒の位相区間にリーン側ピーク位相θpL5が存在する波形b(#1リッチと#5リーンのパターン)。
(3)#3出所気筒の位相区間にリッチ側ピーク位相θpR3が存在し、#1出所気筒の位相区間にリーン側ピーク位相θpL1が存在する波形c(#3リッチと#1リーンのパターン)。
(4)#3出所気筒の位相区間にリッチ側ピーク位相θpR3が存在し、#5出所気筒の位相区間にリーン側ピーク位相θpL5が存在する波形d(#3リッチと#5リーンのパターン)。
(5)#5出所気筒の位相区間にリッチ側ピーク位相θpR5が存在し、#1出所気筒の位相区間にリーン側ピーク位相θpL1が存在する波形e(#5リッチと#1リーンのパターン)。
(6)#5出所気筒の位相区間にリッチ側ピーク位相θpR5が存在し、#3出所気筒の位相区間にリーン側ピーク位相θpL3が存在する波形f(#5リッチと#3リーンのパターン)。
この場合、比較例の方法により2つの推定異常気筒を特定することが可能である。例えば、波形aが出現し、リッチ推定異常気筒として#1気筒(#1リッチ)が特定され、リーン推定異常気筒として#3気筒(#3リーン)が特定されたとする。
この後、ずれ方向判別が行われ、リーンずれかリッチずれかが判定される。リーンずれと判定されたときには#3気筒が異常気筒と特定され、リッチずれと判定されたときには#1気筒が異常気筒と特定される。
次に、本実施形態のより具体的な異常気筒特定処理を説明する。当該特定処理はECU20により、図16のフローチャートに表されるようなアルゴリズムに従って実行される。なお当該特定処理は、後述するばらつき異常検出処理の前提条件(図24のステップS301)が成立している場合に限って実行されるのが好ましい。理解容易のため、図4も適宜参照されたい。
まずステップS201において、図4に示したような少なくとも1エンジンサイクル中の触媒前センサ17の出力波形(センサ出力波形という)に基づき、2つの推定異常気筒#i,#jが特定される(i,j=1,2,3,4、i≠j)。
具体的には、ECU20は、図4に示すようなクランク角と出所気筒の関係、すなわちあるクランク角の時に触媒前センサ17に検出されている排ガスがどの気筒に由来するものであるかを、常時演算している。この際、エンジン運転状態(例えば回転数と負荷)に基づいて遅れ時間Tdを算出し、この遅れ時間Tdに基づいてあるクランク角の時点での出所気筒を決定してもよい。例えば現時点より遅れ時間Tdだけ前の時点で排気行程にある気筒を出所気筒と決定してもよい。あるいは代替的に、4つの出所気筒にそれぞれ対応する1エンジンサイクル内の4つの位相区間を、エンジン運転状態に基づいて、エンジンサイクル毎に定めてもよい。例えば図4に示されるような、#3出所気筒に対応する0〜180°CAの位相区間は、そのような4つの位相区間のうちの一つである。この場合、あるクランク角の時点がどの位相区間に属するかによって出所気筒を決定することができる。
そしてECU20は、センサ出力波形からリーン側ピーク位相θpLとリッチ側ピーク位相θpRを求め、リーン側ピーク位相θpLに対応した出所気筒をリーン推定異常気筒#iとして特定し、リッチ側ピーク位相θpRに対応した出所気筒をリッチ推定異常気筒#jとして特定する。
次に、ステップS202において、図10のフローチャートに示されるような手順に従って、ずれ方向判別が実行される。これによりリーンずれが発生しているか、リッチずれが発生しているかが判定されることになる。
最後に、ステップS203において、ずれ方向判別の結果に基づき異常気筒が特定される。すなわち、ECU20は、ずれ方向判別においてリーンずれ発生と判定したときには、リーン推定異常気筒#iを異常気筒と特定し、ずれ方向判別においてリッチずれ発生と判定したときには、リッチ推定異常気筒#jを異常気筒と特定する。この異常気筒に関する情報(異常気筒番号とずれ方向に関する情報)はECU20のメモリ(RAM等)に保存され、後の修理等に利用される。
上記の例では推定異常気筒特定、ずれ方向判別の順で処理を行ったが、この順序は逆でも構わない。
本実施形態の異常気筒特定処理および方法は、ばらつき異常検出において様々な用途、段階および方法で使用もしくは適用されることができる。最も一般的には、出力変動パラメータXと判定値αとの比較によりばらつき異常が検出されたとき(ばらつき異常ありと判定されたとき)、ばらつき異常の原因となっている異常気筒を特定するために使用される。この他、下記のような好適な適用例もある。
V.ばらつき異常検出の好適例
一般に、エンジンに実際に設置されている空燃比センサの出力特性(ゲイン、応答性等)は、その製造ばらつき等に起因して、公差上限品と公差下限品との間でばらつく。よって、同一の空燃比ばらつき度合い、すなわちインバランス率Bに対応する出力変動パラメータXの算出値も、触媒前センサ17に応じてばらつく。
一方、異常と検出しなければならないインバランス率Bの要求値が法規上定められている場合があり、この場合、当該要求値を考慮して前記判定値αが定められる。
ところが、触媒前センサ17のばらつきに起因して、必ずしも全ての触媒前センサ17で前記要求値を満足できる訳ではないことが判明した。すなわち、公差上限品では、出力変動パラメータXが要求値相当未満のときに異常と検出できるものの、公差下限品では出力変動パラメータXが要求値相当を超えないと異常と検出できないことがあることが判明した。以下、この点についてより具体的に説明する。
図17は、インバランス率Bの要求値について説明するためのグラフである。横軸はインバランス率B(%)を示し、縦軸は特定のエミッション成分、ここではNOxの排出量Mを示す。M1はNOx排出量に関して法規上定められたエミッション規制値であり、M2は法規上定められたOBD規制値である。OBD規制値M2は例えばエミッション規制値M1の1.5倍に定められる。
図示するように、インバランス率B(%)が0に対し増加するほど、すなわちリッチ側の空燃比ずれ(リッチ側インバランス)を起こしている1気筒の空燃比ずれ量が増加するほど、NOx排出量Mは増加する。そしてOBD規制値M2に対応するインバランス率Bz(%)が前記要求値である。この要求値を検出要求インバランス率と称する。
実際のインバランス率B(%)が検出要求インバランス率Bz(%)を超えているときには、必ず異常と検出しなければならない。そうしなければNOx排出量MがOBD規制値M2を超えてしまうからである。言い換えれば、検出要求インバランス率Bz(%)は、異常と検出しなければならないインバランス率B(%)の下限値を意味する。
検出要求インバランス率Bz(%)の値は、車種やエンジン1によって異なるが、例えば40〜60(%)の範囲内の値をとる。
図18は、触媒前センサ17が公差上限品および公差下限品であるときの、インバランス率B(%)と出力変動パラメータXの間の関係を表す特性もしくは特性線をそれぞれ示す。図中、LXHは公差上限品であるときの特性もしくは特性線、LXLは公差下限品であるときの特性もしくは特性線を示す。周知のように、公差上限品とは公差範囲内で応答が最も早いものをいい、公差下限品とは公差範囲内で応答が最も遅いものをいう。なお本実施形態は、実際にエンジン1に設置されている触媒前センサ17は公差範囲内の正常なセンサであることを前提とする。
図18に示すように、インバランス率B(%)と出力変動パラメータXとの間には線形且つ一次比例的な関係もしくは特性が存在する。但しこの関係は触媒前センサ17の出力特性(以下、単にセンサ出力特性ともいう)に応じて変化し、例えば公差上限品の特性線LXHの傾きは公差下限品の特性線LXLの傾きより大きくなる。実際に設置されているセンサに応じて、特性線の傾きがLXHとLXLとの間で変化することとなる。
ここで、比較例としての判定値αの設定方法もしくは適合方法を述べる。図18に示すように、まず、センサ出力特性に因らず異常と検出するのが不適切な(異常と検出したくない)インバランス率B(%)の範囲aを決定する。図示例ではこれを10(%)以下とする。この範囲aは、確実な正常状態におけるインバランス率B(%)のばらつき範囲に相当する。この範囲aの上限値を規定するインバランス率BL(-=10(%))を下限目標インバランス率と称す。なおこの範囲aが図9等に示したずれ方向判別を実行しない範囲ΔBに相当する。
次に、公差上限品の特性線LXH上において、下限目標インバランス率BL(%)に対応する出力変動パラメータXの値を求め、これを判定値αとして決定する。公差上限品の特性線LXH上における値とする理由は、公差上限品が最も異常側の出力変動パラメータXの値をもたらすからである。
一方、公差下限品の特性線LXL上において、判定値αに対応するインバランス率は50(%)である。つまりこの異常検出装置は、実際のインバランス率が50(%)を超えなければ、センサ出力特性に因らず正確に異常と検出することができない。言い換えれば、実際に設置された触媒前センサ17が公差下限品であるときに、実際のインバランス率が50(%)を超えていなければ、正確に異常と検出することができない。公差下限品のときに正確に異常と検出できるインバランス率の実力は50(%)である。このような正確に異常と検出できるインバランス率の範囲をcで示す。また公差下限品の特性線LXL上において判定値αに対応するインバランス率By(=50(%))を下限品検出可能インバランス率と称す。
範囲aと範囲cの間の範囲bは、実際に設置されている触媒前センサ17が公差上限品であるときには異常と検出してもよい範囲である。
図19は、図18に示した比較例において、検出要求インバランス率Bz(%)が60(%)の場合を示す。この場合、検出要求インバランス率Bz(%)が下限品検出可能インバランス率By(%)より大きいので、比較例による異常検出装置でも問題なく、システム上成立する。
一方、図20は、図18に示した比較例において、検出要求インバランス率Bz(%)が40(%)の場合を示す。この場合だと、検出要求インバランス率Bz(%)が下限品検出可能インバランス率By(%)より小さいので、実際に設置されている触媒前センサ17が公差下限品であるときに正確に異常と検出できないことがある。すなわち、Bz(%)からBy(%)までの範囲dでは、本来異常と検出しなければならないのに、実際の出力変動パラメータXの値が判定値αを超えないために正常と誤検出してしまう。よって比較例による異常検出装置では問題があり、システム上も成立しない。
この図20の場合に次のような対策が考えられる。すなわち、図21に示すように、まず検出要求インバランス率Bz=40(%)に対し所定のマージンだけ小さい上限目標インバランス率BH(%)を定める。図示例ではこれを35(%)とし、マージンを5(%)としている。
そして、公差下限品の特性線LXL上において、上限目標インバランス率BH(%)に対応する出力変動パラメータXの値を求め、これを判定値α’とする。つまり公差下限品の特性線LXLに基づいて判定値をより小さい値α’に変更する。こうすれば、実際に設置されている触媒前センサ17が公差下限品のとき、実際のインバランス率が検出要求インバランス率Bz(%)に達する前に確実に異常と検出できる。また上記のような誤検出を未然に防止できる。
しかし、こうすると、実際に設置されている触媒前センサ17が公差上限品のとき、実際のインバランス率が下限目標インバランス率BL(=10(%))より小さいのに異常と検出してしまうことがある。図示例では、6〜10(%)の間の範囲eにおいて異常と検出してしまう。つまり下限目標インバランス率BLが実質的に低下してしまう。すると、本来異常と検出するのが不適切な範囲a内で異常と検出してしまい、上記の前提に反する。
このように、公差上限品の特性線LXHと公差下限品の特性線LXLとの二本の特性線のみに基づいて単一の判定値を定めようとしても、検出要求インバランス率Bz(%)が下限品検出可能インバランス率By(%)より小さい場合には、それを適切に定めるのが困難である。
そこで、本実施形態では、これら特性線以外の別の特性線に基づいて別の判定値を付加的に定め、これら判定値に基づいてばらつき異常を検出する。そしてこれにより、センサ出力特性に因らず、特に公差下限品の触媒前センサ17が実際に設置されている場合でも、好適且つ的確にばらつき異常を検出することを可能としている。
以下に、本実施形態におけるばらつき異常検出方法を詳細に説明する。まず本実施形態のばらつき異常検出は、概してECU20が次のステップ(A)〜(E)を実行することにより実行される。
(A)出力変動パラメータXを算出するステップ。
(B)算出された出力変動パラメータXが、所定の一次判定上限値α1Hおよび一次判定下限値α1Lの間の値であるか否かを判定するステップ。
(C)算出された出力変動パラメータXが一次判定上限値α1Hおよび一次判定下限値α1Lの間の値であると判定されたとき、最も大きい空燃比ずれを起こしている1気筒(前述の異常気筒)に対し、その空燃比ずれを減少するような強制アクティブ制御を実行するステップ。
(D)強制アクティブ制御の実行中に出力変動パラメータXを算出するステップ。
(E)強制アクティブ制御の実行中に算出された出力変動パラメータXを、所定の二次判定値α2と比較して、ばらつき異常の有無を判定するステップ。
ここで、一次判定上限値α1H、一次判定下限値α1Lおよび二次判定値α2の設定方法を図22を参照して説明する。この設定は適合段階においてなされ、設定された各判定値はECU20に予め記憶される。
図22は、インバランス率B(%)と出力変動パラメータXの間の関係を表す各特性もしくは特性線を示す。特に横軸のインバランス率B(%)は、成行状態、すなわち通常制御としてのストイキ制御が実行されている状態でのインバランス率B(%)をいい、強制アクティブ制御が実行されていないときのインバランス率B(%)をいう。なお強制アクティブ制御が実行されているときには、ベースとなるストイキ制御が実行されている上でさらに強制アクティブ制御が実行される。
前記同様、LXHは触媒前センサ17が公差上限品であるときの特性線、LXLは触媒前センサ17が公差下限品であるときの特性線であり、これらはいずれも強制アクティブ制御が実行されてないときの特性線である。
LXHAは、触媒前センサ17が公差上限品であり、且つ強制アクティブ制御が実行されているときの特性線である。またLXLAは、触媒前センサ17が公差下限品であり、且つ強制アクティブ制御が実行されているときの特性線である。なお詳しくは後述するが、図示例は、所定の強制アクティブ制御量Bfで強制アクティブ制御が実行されたときの特性線を示す。
図から理解されるように、強制アクティブ制御が実行されると各特性線LXH,LXLは出力変動パラメータXの減少側(ばらつき小側)にシフトし、また両特性線LXH,LXLの特性差は小さくなる。強制アクティブ制御は、最も大きい空燃比ずれを起こしている1気筒の空燃比ずれを減少するような制御だからである。
(1)まず前記同様、センサ出力特性に因らず異常と検出するのが不適切な(異常と検出したくない)インバランス率B(%)の範囲aを決定する。図示例ではこれを20(%)以下とする。すなわち、この範囲aの上限値を規定する下限目標インバランス率BLは20(%)である。
(2)次に、公差上限品の特性線LXH上において、下限目標インバランス率BL(%)に対応する出力変動パラメータXの値を求め、これを一次判定上限値α1Hとして決定する。図示例ではα1H=約0.19である。
(3)次に、公差上限品且つ強制アクティブ制御実行時の特性線LXHA上において、下限目標インバランス率BL(%)に対応する出力変動パラメータXの値を求め、これを二次判定値α2として決定する。図示例ではα2=約0.1である。
(4)次に、公差下限品且つ強制アクティブ制御実行時の特性線LXLA上において、二次判定値α2に対応するインバランス率の値B1(%)を求める。そしてこの値B1(%)が、検出要求インバランス率Bz(%)以下か否かを確認する。図示例ではB1=約35(%)、Bz=40(%)なので、B1(%)がBz(%)より小さい。よってこのB1(%)を上限目標インバランス率BH(%)として決定する。
(5)最後に、公差下限品の特性線LXL上において、上限目標インバランス率BH(%)に対応する出力変動パラメータXの値を求め、これを一次判定下限値α1Lとして決定する。図示例ではα1L=約0.14である。
図示例において、検出要求インバランス率Bz(=40%)が下限品検出可能インバランス率By(=約48%)より小さいので、前述したように、一次判定上限値α1Hだけだと、実際に公差下限品が設置されているときに範囲d内で正常と誤検出してしまう。
しかし、本実施形態では、まず、実際に算出された出力変動パラメータXが一次判定上限値α1Hおよび一次判定下限値α1Lの間の値であるか否か、すなわち、実際に公差下限品が設置されているときに正常と誤検出する可能性があるグレーゾーンにあるか否かを判定する。そして判定がイエスの場合、強制アクティブ制御を実行し、その実行中に算出された出力変動パラメータXを二次判定値α2と比較してばらつき異常の有無を判定する。つまり、実際に算出された出力変動パラメータXがグレーゾーンにある場合、強制アクティブ制御を実行して特性線をより特性差の小さいLXHA,LXLAに変更し、検出要求インバランス率Bzより小さい上限目標インバランス率BHを確保した上で、ばらつき異常の有無を判定する。
結果的に、強制アクティブ制御の実行によって範囲d内の値は範囲d’内の値にシフトし、これが二次判定値α2より大きいことから、ばらつき異常有りと判定することができる。これによって誤検出を回避し、公差下限品の触媒前センサ17が実際に設置されている場合においても、好適且つ的確にばらつき異常を検出することができる。
また本実施形態によれば、成行状態においてBz〜Byの範囲にまで至らないBH〜Bzの範囲内のばらつき異常も好適且つ的確に検出できる。従って、実際のインバランス率B(%)が検出要求インバランス率Bz(%)を超えているときには必ず異常と検出しなければならないという法規上の要件も十分満足することができる。
上記において、B1(%)が検出要求インバランス率Bz(%)以下か否かを確認する理由は次の通りである。強制アクティブ制御実行時の特性線LXHA,LXLAは、どの程度の量の強制アクティブ制御を実行するか、言い換えれば強制アクティブ制御量をどのような値に設定するかによって変化する。よって場合によってはB1(%)が検出要求インバランス率Bz(%)より大きくなることもあり得る。しかしこうなるとシステム上成立しない。よってB1(%)が検出要求インバランス率Bz(%)以下の場合に限って、B1(%)を上限目標インバランス率BH(%)として決定する。逆にB1(%)が検出要求インバランス率Bz(%)より大きければ、強制アクティブ制御量を変更する等、適合作業をやり直すことになる。
なお、ここでは上限目標インバランス率BH(%)を検出要求インバランス率Bz(%)より小さい値に設定したが、検出要求インバランス率Bz(%)に等しい値に設定してもよい。
なお、出力変動パラメータXを「第1パラメータ」、インバランス率B(%)を「第2パラメータ」、特性線LXLAを「第1特性線」、上限目標インバランス率BH(%)を「第2パラメータの上限目標値」、特性線LXLを「第2特性線」、特性線LXHを「第3特性線」、下限目標インバランス率BL(%)を「第2パラメータの下限目標値」と称することができる。
次に、前記ステップ(C)で実行される強制アクティブ制御について説明する。強制アクティブ制御は、最も大きい空燃比ずれを起こしている1気筒(異常気筒)の空燃比ずれを減少するような制御、所謂逆アクティブ制御である。
図23は、強制アクティブ制御を実行していないとき(実行前)と実行したとき(実行後)とで、インバランス率を比較するための表である。ここで(A)、(B)に示される燃料量と空燃比の値は全て、ストイキ制御の結果、トータルガスの空燃比がストイキ(14.5)に収束した後の値である。
図23(A)は、成行状態においてインバランスがあり且つ強制アクティブ制御実行前の状態を示す。図から分かるように、燃料量は全気筒共に1であるが、#1気筒の空気系異常に起因して空気量に違いが生じており、#1気筒のみ13、他の気筒は15となっている。よって空燃比も#1気筒のみ13、他の気筒は15となっている。よってインバランス率は15/13=1.15=15%である。#1気筒に空燃比のリッチずれが生じている。
なおこの状態は、例えば#1気筒において気筒別吸気通路(枝管4、吸気ポート)にデポジット等による詰まりが生じたり、吸気弁の開弁不良が生じたりしたときなどに起こり得る。
図23(B)は、図23(A)の状態から強制アクティブ制御を実行したときの状態を示す。このとき、#1気筒のリッチずれを減少するよう、#1気筒のみの燃料量が強制的に減量される。こうした減量とストイキ制御の結果、燃料量は#1気筒のみ0.91、他の気筒は1.03となり、空燃比は#1気筒のみ14.28、他の気筒は14.56となる。よってインバランス率は14.56/14.28=1.02=2%となる。
燃料量に着目すると、燃料量のインバランス率は1.03/0.91=1.13=13%である。これに対し図23(A)に示した強制アクティブ制御実行前だと、燃料量のインバランス率は1/1=1=0%である。強制アクティブ制御の実行により、燃料量のインバランス率で13%分だけ、リッチずれを起こしている#1気筒の燃料量が強制的に減量されたこととなる。
そこでこの燃料量のインバランス率=13%を、本実施形態における強制アクティブ制御による空燃比ずれの減少量、すなわち強制アクティブ制御量Bfとする。つまりある1気筒にリッチずれが生じている場合、その1気筒のみに対し、燃料量のインバランス率で13%分だけ、燃料量の強制減量がなされる。なお13%という値は例示であり適宜変更可能である。
かかる強制アクティブ制御量Bfは一定値として予めECU20に記憶される。また、図22に示した強制アクティブ制御実行時の特性線LXHA,LXLAは、同一の強制アクティブ制御量Bfで強制アクティブ制御を実行したときの特性線である。
ところで、強制アクティブ制御を実行するには、全気筒のうち最も大きい空燃比ずれを起こしている1気筒、すなわち異常気筒を特定する必要がある。そこで上述した本実施形態の異常気筒特定処理および方法が、ここで好適に使用される。
以下、本実施形態のばらつき異常検出処理について説明する。当該検出処理はECU20により、図24のフローチャートに表されるようなアルゴリズムに従って実行される。
まずステップS301において、ばらつき異常検出を実行するのに適した所定の前提条件が成立したか否かが判断される。例えば次の各条件が成立した場合に前提条件が成立する。
(1)エンジンの暖機が終了している。
(2)触媒前センサ17および触媒後センサ18が活性化している。
(3)上流触媒11および下流触媒19が活性化している。
(4)エンジンの回転数Neと負荷KLが所定範囲内にある。例えば回転数Neが1200〜2000(rpm)の範囲内にあり、且つ負荷KLが40〜60(%)の範囲内にある。
(5)ストイキ制御中である。
なお前提条件については他の例も可能である。例えば、(6)エンジンが定常運転中である、という条件を加えてもよい。
前提条件が成立してなければ待機し、前提条件が成立したならばステップS302に進む。なおここでは、S302以降の各ステップは前提条件が成立している場合に限って実行されるものとする。
ステップS302では、強制アクティブ制御を実行していないときの成行状態での出力変動パラメータX1の値が算出される。
ステップS303においては、算出された出力変動パラメータX1の値が一次判定上限値α1Hおよび一次判定下限値α1Lの間の値であるか否か、すなわちα1L<X1≦α1Hの範囲内にあるか否かが判断される。このような判断もしくは判定を一次判定という。
α1L<X1≦α1Hの範囲内にある場合、いずれかの1気筒で上記のグレーゾーンにあるような比較的軽度の空燃比ずれが起きていると予想される。従ってこの場合、ステップS304において、強制アクティブ制御の対象気筒である異常気筒が特定される。このとき、上述した本実施形態の異常気筒特定処理および方法が好適に適用される。異常気筒の特定は図16に示したような特定処理に従って実行される。
次に、ステップS305において、強制アクティブ制御が実行される。すなわち異常気筒に対して、その空燃比ずれを減少するよう、燃料噴射量が所定量減量または増量される。
ステップS306において、強制アクティブ制御の実行中における出力変動パラメータX2の値が算出される。
ステップS307においては、算出された出力変動パラメータX2の値が二次判定値α2と比較され、その大小が判断される。このような判断もしくは判定を二次判定という。
出力変動パラメータX2の値が二次判定値α2以下の場合、ステップS308においてばらつき異常なし、すなわち正常と判定される。ステップS304で特定された異常気筒は、最終的に異常でないことが確定する。
他方、出力変動パラメータX2の値が二次判定値α2より大きい場合、ステップS309においてばらつき異常あり、すなわち異常と判定される。ステップS304で特定された異常気筒は、最終的に異常であることが確定する。このときにはチェックランプ等の警告装置が起動され、異常の事実がユーザに知らされ、ユーザに対し修理が促される。また異常気筒に関する情報がECU20に記憶される。
ところで、ステップS303において、成行状態の出力変動パラメータX1の値がα1L<X1≦α1Hの範囲内にない場合、明らかな正常状態または異常状態であることが予想される。従ってこの場合、ステップS310において、出力変動パラメータX1の値が一次判定下限値α1Lと比較され、正常または異常が直接判定される。
すなわち、出力変動パラメータX1の値が一次判定下限値α1L以下の場合、ステップS310においてばらつき異常なし、すなわち正常と判定される。
他方、出力変動パラメータX1の値が一次判定下限値α1Lより大きい場合、これは、出力変動パラメータX1の値が一次判定上限値α1Hより大きいことを意味するから、ステップS312においてばらつき異常あり、すなわち異常と判定される。この場合、いずれかの1気筒で比較的重度の空燃比ずれが起きていると予想される。
なお、正常または異常を直接判定する際の判定方法は、ここで述べたような一次判定下限値α1Lのみと比較する方法のほか、一次判定上限値α1Hのみと比較する方法、一次判定下限値α1Lおよび一次判定上限値α1Hの両方と比較する方法等が可能である。
このように本実施形態では、ECU20が次のステップ(F)をも実行する。
(F)ステップ(B)において出力変動パラメータX1が一次判定上限値α1Hおよび一次判定下限値α1Lの間の値でないと判定されたとき、当該出力変動パラメータX1を一次判定上限値α1Hおよび一次判定下限値α1Lの少なくとも一方と比較して、ばらつき異常の有無を判定するステップ。
以上、本発明の好適な実施形態を詳細に述べたが、本発明の実施形態は他にも様々なものが考えられる。例えば上記の数値は例示であり、種々の変更が可能である。また上記の説明において、リッチ側とリーン側の一方についてしか説明していない箇所がある場合、一方への説明が他方へも適用可能であることが、当業者によって容易に理解されるであろう。
センサ出力波形から2つの推定異常気筒を特定するとき、必ずしも、2つのピーク位相θpL,θpRに基づいて特定しなくてもよい。他にも様々な特定方法が考えられる。リーン側とリッチ側で同様の処理を行う場合、その順番は任意である。
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。