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JP6330236B2 - ヒトインスリン受容体を発現するトランスジェニックカイコ、該トランスジェニックカイコを用いた評価方法、スクリーニング方法及び薬剤製造方法 - Google Patents
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JP6330236B2 - ヒトインスリン受容体を発現するトランスジェニックカイコ、該トランスジェニックカイコを用いた評価方法、スクリーニング方法及び薬剤製造方法 - Google Patents

ヒトインスリン受容体を発現するトランスジェニックカイコ、該トランスジェニックカイコを用いた評価方法、スクリーニング方法及び薬剤製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、ヒトインスリン受容体を発現するトランスジェニックカイコ、該トランスジェニックカイコを用いた評価方法、スクリーニング方法、及び、薬剤製造方法に関するものである。
ヒトの疾患の発症及び重篤化の機構を理解することは、その疾患の予防、治療法を確立する上で重要である。しかしながら、ヒトの患者を用いて疾患に関する基礎研究や治療薬の開発を行うことは、倫理的な問題があり、一般的には困難であるとされている。
この問題を解決するために、様々なモデル動物を利用した前臨床試験が行われる。その際、ヒトとこれらのモデル動物間の解離が問題となるが、近年この点を解決するための手法として、ヒト化マウス(humanized mice)の作出方法が開発され、それを利用した疾患の理解や治療法の確立に関する研究が盛んに行われるようになった(非特許文献1)
ヒト化マウスを用いる研究手法には、(a)ヒトの遺伝子の導入、(b)ヒト細胞の導入、及び、(c)ヒトES細胞やヒトiPS細胞から作成された組織の導入等がある。近年、ヒトES細胞やヒトiPS細胞から様々な組織が作成され、それを移植したマウスを疾患の重篤化機構の解明やワクチン開発のためのモデル動物として利用する研究が活発に行われている(非特許文献2〜4)。
しかし、哺乳動物であるマウスを多数犠牲にする化合物のスクリーニングに対しては、コストや動物愛護の視点からの問題があり、ヒト化マウスを薬のシード化合物の探索研究に利用する際の障壁となっている。
発明者らは、動物倫理的な問題が軽減される無脊椎動物モデルとして、カイコガの幼虫(以下、「カイコ」と略記する)を用いたin vivoスクリーニング系の構築と創薬への応用を提案している。
カイコは、マウス等の哺乳動物と比べて飼育の費用がはるかに安く、また小さいスペースで飼育可能である。更に、カイコは動きが緩慢であり、かつ手で扱うのに十分な大きさを備えているため、通常の注射器を用いた定量的な薬液の投与が容易である。
本発明者らは、カイコにおいても哺乳動物と共通した薬物の代謝反応があること、及び、種々の化合物の毒性の指標であるLD50がカイコと哺乳動物でよく一致することを見出し、報告している(非特許文献5)。
更に、カイコ感染モデルや高血糖カイコモデル等の疾患モデルを確立し、抗生物質の治療効果の指標であるED50がカイコと哺乳動物でよく一致することを報告している(非特許文献6、7)。従って、カイコにおいて多くの薬物は、哺乳動物と略一致した体内動態を示すと考えられる。
また、カイコにおいては、外来遺伝子を導入し発現させるというトランスジェニック技術が確立されている(非特許文献8)。
上記技術を利用して、カイコの一部の生理機能をヒト化し、医薬品の評価に供することができると考えられるが、その具体的な例はこれまでに報告されていない。
一方、ペプチドホルモンであるインスリンは、肝臓や脂肪組織等に作用し、血糖降下作用を有する。糖尿病は、インスリンの不足によって血糖値が異常に高くなり、尿中に糖が排出される慢性の病気であり、生活習慣病の1つである。
発明者らは、カイコの餌にグルコースを添加するとカイコが高血糖になること、及び、その高血糖となったカイコに高濃度のヒトインスリンを投与すると、カイコの血糖値が低下することを見出している(特許文献1)。また、特許文献1ではヒトインスリンの処理によりカイコの脂肪体のAktのリン酸化が亢進すること、及び、PI3キナーゼの阻害剤であるWortmannin(ワートマニン)の処理により、このヒトインスリンによるAktのリン酸化が阻害されることも開示している。
しかしながら、その系では、ヒトの治療に用いられる濃度の100倍以上のヒトインスリンを投与する必要があり、更なる改良が求められていた。また、更に精度が高く優れた、血糖値を降下させる物質に関する評価方法や、該物質のスクリーニング方法が求められていた。
特開2009−058500号公報
Shultz LD,Ishikawa F,Greiner DL.Nat Rev Immunol.2007 Feb;7(2):118-30. Watanabe S,Terashima K,Ohta S,Horibata S,Yajima M,Shiozawa Y,Dewan MZ,Yu Z,Ito M,Morio T,Shimizu N,Honda M,Yamamoto N.Blood.2007 Jan 1;109(1):212-8. Kneteman NM,Weiner AJ,O'Connell J,Collett M,Gao T,Aukerman L,Kovelsky R,Ni ZJ,Zhu Q,Hashash A,Kline J,Hsi B,Schiller D,Douglas D,Tyrrell DL,Mercer DF.Hepatology.2006 Jun;43(6):1346-53. Guirado E,Amat I,Gil O,Diaz J,Arcos V,Caceres N,Ausina V,Cardona PJ.Microbes Infect.2006 Apr;8(5):1252-9. Hamamoto H,Tonoike A,Narushima K,Horie R,Sekimizu K.Comp Biochem Physiol C Toxicol Pharmacol.2009 Apr;149(3):334-9. Kaito C,Akimitsu N,Watanabe H,Sekimizu K.Microb Pathog.2002 Apr;32(4):183-90. Hamamoto H,Kurokawa K,Kaito C,Kamura K,Manitra Razanajatovo I,Kusuhara H,Santa T,Sekimizu K.Antimicrob Agents Chemother.2004 Mar;48(3):774-9. Tomita M,Munetsuna H,Sato T,Adachi T,Hino R,Hayashi M,Shimizu K,Nakamura N,Tamura T,Yoshizato K.Nat Biotechnol.2003 Jan;21(1):52-6.
本発明は、上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、コスト的に有利であり、倫理的な問題が少なく、ヒトの血糖値を降下させる薬剤に関する検討・評価が正確・適切にできるモデル動物・実験動物を提供することにある。
また、かかるモデル動物・実験動物を用いた、ヒトインスリン受容体に作用するアゴニスト又はアンタゴニストの薬効を評価する方法、及び、ヒトの血糖値を降下させる物質をスクリーニングする方法を提供することである。
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、GAL4/UAS発現システムを用いてヒトインスリン受容体を発現するトランスジェニックカイコを作製し、該トランスジェニックカイコにヒトインスリンを投与すると血糖値が低下すると共に脂肪体のAktのリン酸化が亢進されることを見出して本発明をするに至った。
すなわち、本発明は、ヒトインスリン受容体を発現したものであることを特徴とするトランスジェニックカイコを提供するものである。
また、本発明は、ヒトインスリン受容体に作用するアゴニスト又はアンタゴニストの薬効を評価する方法であって、
(A)上記トランスジェニックカイコに上記アゴニスト又はアンタゴニストを投与する工程、
(B)上記アゴニスト又はアンタゴニストが投与されたトランスジェニックカイコの脂肪体又は血液中の糖の濃度を測定する工程、
を有することを特徴とする方法を提供するものである。
また、本発明は、被検物質がヒトの血糖値を降下させる物質であるか否かを評価する方法であって、
(a)上記トランスジェニックカイコに被検物質を投与する工程、
(b)上記被検物質が投与されたトランスジェニックカイコの脂肪体中又は血液中の糖の濃度を測定する工程、
を有することを特徴とする方法を提供するものである。
また、本発明は、ヒトの血糖値を降下させる物質をスクリーニングする方法であって、
(a)上記トランスジェニックカイコに被検物質を投与する工程、
(b)上記被検物質が投与されたトランスジェニックカイコの脂肪体中又は血液中の糖の濃度を測定する工程、
(c)上記被検物質の中から、該トランスジェニックカイコの脂肪体中又は血液中の糖の濃度を低下させる物質を選択する工程、
を有することを特徴とする方法を提供するものである。
また、本発明は、ヒトの血糖値を降下させる薬剤を製造する方法であって、
(a)上記トランスジェニックカイコに被検物質を投与する工程、
(b)上記被検物質が投与されたトランスジェニックカイコの脂肪体中又は血液中の糖の濃度を測定する工程、
(c)上記被検物質の中から、該トランスジェニックカイコの脂肪体中又は血液中の糖の濃度を低下させる物質を選択する工程、
(d)上記工程(c)で選択された物質と製薬上許容される担体を混合する工程、
を有することを特徴とする方法を提供するものである。
本発明によれば、前記問題点や前記課題を解決し、コスト的に有利であり、倫理的な問題が少なく、飼育も容易であり、「ヒトの血糖値を降下させる薬剤に関する検討・評価」や「種々の薬理実験」等が、容易に、安価に、効率的に、正確・適切にできるモデル動物・実験動物を提供することができる。
また、本発明の上記モデル動物・実験動物を用いれば、容易に、安価に、効率的に、正確・適切に、ヒトインスリン受容体に作用するアゴニスト又はアンタゴニストの薬効を評価する方法、ヒトの血糖値を降下させる物質をスクリーニングする方法、該物質を製造する方法等を提供することができる。
カイコの餌にグルコースを添加して高血糖状態にしたカイコ(特許文献1参照)では、インスリン受容体のヒトインスリンに対する親和性が低い可能性があるが、その点も解決され、被検物質を大量に投与しなくても、容易に、安価に、効率的に、正確・適切に、該被検物質を検討・評価でき、上記した評価方法、スクリーニング方法等が可能になる。
(A)ヒトインスリン受容体発現用のコンストラクトを模式的に示した図である。 (B)カイコ眼でのUAS−Human insulin receptor(G)におけるGFP(緑色蛍光タンパク質)の発現と、Actin A3−GAL4(R)におけるDsRedの発現を確認した結果を示す写真である。 (C)トランスジェニックカイコ(G/R)におけるヒトインスリン受容体の発現確認を、ウエスタンブロット法を用いて行った結果を表す図である。「anti−Human insulin receptor」は、「抗ヒトインスリン受容体抗体」であり、「anti−Actin」は、「抗アクチン抗体」である。 (A)ヒトインスリン受容体を発現していないカイコ(−/R)とヒトインスリン受容体を発現しているカイコ(G/R)に、生理食塩水(0.9%NaCl)又はヒトインスリン(Human insulin、5μg/larva)を投与し、6時間後の血糖値をフェノール硫酸法で測定した結果を示すグラフである。縦軸:血糖値(Hemolymph sugar、mg/mL)(B)ヒトインスリン受容体を発現していないカイコ(−/R)とヒトインスリン受容体を発現しているカイコ(G/R)に、生理食塩水(0.9%NaCl)又は各種濃度のヒトインスリン(0.3125〜80μg/larva)を投与し、6時間後の血糖値をフェノール硫酸法で測定した結果を示すグラフである。縦軸:生理食塩水投与群の血糖値を1としたときの変動率(Relative change of hemolymph sugar) ヒトインスリン受容体を発現していないカイコ(−/R)とヒトインスリン受容体を発現しているカイコ(G/R)に、生理食塩水(0.9%NaCl)又はヒトインスリン(5μg/larva)を投与後、摘出した脂肪体のタンパク質を、ウエスタンブロット法を用いて解析した結果を示す図であり、及び、各脂肪体中のリン酸化したAkt量を比較した結果を示すグラフである。「−」:生理食塩水投与、「+」:ヒトインスリン投与、「anti−p−Akt」:抗リン酸化Akt抗体、「anti−Akt」:抗Akt抗体、グラフの横軸は、脂肪体中のAkt量に対するリン酸化したAkt量の割合(Relative Akt phosphorylation(p−Akt/total Akt)である。 ヒトインスリン受容体を発現しているカイコ(G/R)の脂肪体を摘出後、組織培養系に投入し、培養後の脂肪体タンパク質を、ウエスタンブロット法を用いて解析した結果を示す図、及び、各脂肪体中のリン酸化したAkt量を比較した結果を示すグラフである。「−」:投与せず、「+」:投与 (A)ヒトインスリン(Human insulin)とウシインスリン(Bovine insulin)の構造(アミノ酸配列)の比較をした図である。 (B)ヒトインスリン受容体を発現しているカイコ(G/R)に生理食塩水(0.9%NaCl)、ウシインスリン(5μg/larva)、又はヒトインスリン(5μg/larva)を投与し、6時間後の血糖値をフェノール硫酸法で測定した結果を示すグラフである。
以下、本発明について説明するが、本発明は、以下の具体的態様に限定されるものではなく、技術的思想の範囲内で任意に変形することができる。
[トランスジェニックカイコ]
本発明のトランスジェニックカイコは、ヒトインスリン受容体を発現したものであることを特徴とするトランスジェニックカイコである(以下、単に「トランスジェニックカイコ」と略記する場合がある)。
ヒトインスリン受容体は細胞外に存在し、インスリンと結合するαサブユニットと、膜貫通タンパク質で細胞内部分にチロシンキナーゼ活性をもつβサブユニットがS−S結合で結ばれている。αサブユニットにインスリンが結合すると、βサブユニットの細胞内部分に存在するチロシンが自己リン酸化され、活性が生じる。この活性化したチロシンキナーゼがインスリンの情報を細胞内へ伝達する。
ヒトインスリン受容体をコードする遺伝子(以下、単に「ヒトインスリン受容体遺伝子」と略記する場合がある)はすでに公知である。例えば、ヒトインスリン受容体遺伝子は、Ebinaらの文献(Ebina Y.et al.,1985,Cell 40(4),pp.747-758)及びGenbank Accession No.M10051等で公表されており、自体公知の方法により単離することができる。
本発明において、ヒトインスリン受容体をコードする遺伝子は、全長の一部分が欠損しているヒトインスリン受容体遺伝子を含み、ヒトインスリン受容体の機能を有していれば特に限定されない。例えば、GenBank Accession No.M10051で示される塩基配列等からなり、また、個体差に応じて、多型の範囲で1〜複数個の塩基が異なっているものも含まれる。
カイコ形質転換用ベクターに組み込むべきヒトインスリン受容体遺伝子は、その形態に特に制限はなく、例えば、公知の配列情報に基づいて適宜プライマーを設計し、ヒトのcDNAライブラリーから常法のPCRにより容易に増幅して得ることができる。
ヒトインスリン受容体をカイコに導入する手順としては、ヒトインスリン受容体遺伝子を組み込んだベクターをカイコに導入する方法等、公知の方法を用いることができる。ヒトインスリン受容体遺伝子を効率良く発現させるために、GAL4/UAS発現システム、すなわち、転写制御因子GAL4とその標的プロモーターであるUAS(Upstream activation sequence)とからなる遺伝子の発現制御下にあるのが好ましい。
より詳細には、ヒトインスリン受容体遺伝子は、標的プロモーターUASの下流に組み込むのが好ましい。例えば、この融合遺伝子を、GAL4を発現するカイコと交配することにより、GAL4/UAS発現システム等によりヒトインスリン受容体が発現するトランスジェニックカイコが作製できる。
このトランスジェニックカイコには、GAL4をコードする遺伝子と、UASの下流にヒトインスリン受容体遺伝子とが導入されている。
更には、細胞質アクチンタンパク質をコードする遺伝子のプロモーターの下流に、転写因子GAL4をコードする遺伝子を有するトランスジェニックカイコと、GAL4の標的プロモーターであるUASの下流に、ヒトインスリン受容体をコードする遺伝子を有するトランスジェニックカイコを交配させることにより作製されたトランスジェニックカイコは、細胞質アクチンタンパク質をコードする遺伝子のプロモーターにより、ヒトインスリン受容体をカイコの全身で発現させることができる。
本発明のトランスジェニックカイコは、以下の利点を有するものである。
(1)カイコ自体の入手が容易である。
(2)カイコを飼育する方法が既に確立されており、更に飼育に利便性がある。
(3)ヒト等の哺乳動物の内臓・器官と類似する性質が、これまでの研究で、ある程度分かっている。
(4)遺伝系統が確立されており、遺伝的均一性の維持ができている。
(5)比較的大型で、動きが緩慢であり、実質上無毛なので、定量的に注射できる等、薬物の投与が容易である。
(6)脂肪体を有しており、脂肪体を取り出して、含有する物質の定量が可能である。
(7)マウス、ラット等に比べると安価で、狭いスペースで多数この個体を飼育でき、倫理的な問題も少ないため、スクリーニング的な評価を行うことが容易である。
(8)被験物質が少量しかない場合でも評価を行うことができる。
(9)齢を揃える等、同じ状態の個体を揃えることが容易である。
(10)体液を採取して、糖、脂質、酵素等の成分を解析することが可能である。
本発明のトランスジェニックカイコの作製方法は、特に限定されないが、転写制御因子であるGAL4をコードする遺伝子と、その標的プロモーターであるUAS配列の下流にヒトインスリン受容体遺伝子を組み込んだ融合遺伝子とを導入する方法が好ましく、例えば、転写制御因子GAL4をコードする遺伝子が導入されたトランスジェニックカイコと、UASの下流にヒトインスリン受容体遺伝子が導入されたトランスジェニックカイコとを交配させる方法が好ましい。
更には、細胞質アクチンタンパク質をコードする遺伝子のプロモーターの下流に転写因子GAL4をコードする遺伝子を有するトランスジェニックカイコと、GAL4の標的プロモーターであるUASの下流に、ヒトインスリン受容体をコードする遺伝子(以下、「ヒトインスリン受容体遺伝子」と略記する場合がある)を有するトランスジェニックカイコを交配させる方法が好ましい。
GAL4/UAS発現システムを用いることにより、目的とする遺伝子の発現部位や時期、量を正確に制御できるという利点がある。
細胞質アクチンタンパク質をコードする遺伝子のプロモーターの下流に、転写因子GAL4をコードする遺伝子を有するトランスジェニックカイコは、例えば、細胞質アクチンタンパク質をコードする遺伝子のプロモーターの下流に転写因子GAL4をコードする遺伝子をカイコ卵に導入することにより得ることができる。細胞質アクチンタンパク質をコードする遺伝子のプロモーターとして、例えば、アクチン遺伝子のA3プロモーターを用いることができる。
GAL4をコードする遺伝子が導入されたトランスジェニックカイコは、例えばTomita M,Munetsuna H,Sato T,Adachi T,Hino R,Hayashi M,Shimizu K,Nakamura N,Tamura T,Yoshizato K.Nat Biotechnol.2003 Jan;21(1):52-6.(非特許文献8)に開示されているトランスジェニック技術により作製できる。
眼特異的に赤色蛍光タンパク質(DsRed)を発現するベクター(effector vector)中のActin(アクチン)のA3プロモーターをGAL4遺伝子の上流に組み込んだA3−GAL4(R)の作製方法は、例えば、Imamura M et al.,2003.Genetics 165:1329-1340やUchino K.et al.,2006 Journal of Insect Biotechnology and Sericology 75:89-97を参照することができる。A3プロモーターにより、GAL4をカイコの全身で発現させることができる。
GAL4の標的プロモーターであるUASの下流に、ヒトインスリン受容体遺伝子を有するトランスジェニックカイコは、例えば、UASプロモーターの下流にヒトインスリン受容体遺伝子を組み込んだベクターを、カイコ卵にマイクロインジェクションにより導入することにより得ることができる。ベクターとして、piggyBac等のトランスポゾンを用いることが好ましい。
遺伝子の発現を確認するために、GFP、DsRed等の蛍光タンパク質をコードする遺伝子と同時に組み込んでもよい。蛍光タンパク質を用いることにより、蛍光顕微鏡で観察することにより目的遺伝子の発現確認を容易にすることができる。また、複数の蛍光タンパク質を同時に用いることができる。
例えば、3×P3プロモーターの下流に緑色蛍光タンパク質であるGFPをコードする遺伝子が組み込まれたベクター中のUASプロモーターの下流にヒトインスリン受容体遺伝子を組み込んだベクターをカイコに導入する。3×P3プロモーターは複眼や神経系で機能する。また、3×P3プロモーターの下流に赤色蛍光タンパク質であるDsRedを発現するベクター中のアクチン(Actin)のA3プロモーターをGAL4遺伝子の上流に組み込んだベクターを別のカイコに導入する。これらのカイコを交配し、蛍光顕微鏡により、カイコの眼でGFP及びDsRedの両者の発現が確認できれば、GAL4遺伝子及びヒトインスリン受容体遺伝子の両方の遺伝子座を有するカイコを選抜することができる。
[トランスジェニックカイコを用いる薬効評価方法]
上記により得られた本発明のトランスジェニックカイコを用い、ヒトインスリン受容体に作用するアゴニスト又はアンタゴニストの薬効を評価する方法であって、
(A)トランスジェニックカイコに上記アゴニスト又はアンタゴニストを投与する工程、
(B)上記アゴニスト又はアンタゴニストが投与されたトランスジェニックカイコの脂肪体又は血液中の糖の濃度を測定する工程、
を有することを特徴とする方法を提供することができる。
上記薬効評価方法は、必要に応じて更にその他の工程を含んでいてもよい。以下、工程(A)、(B)について順に説明する。
<工程(A)>
工程(A)においては、まず、本発明のトランスジェニックカイコにヒトインスリン受容体に作用するアゴニスト又はアンタゴニストを投与する。
ヒトインスリン受容体に作用するアゴニスト(以下、単に「アゴニスト」と略記する場合がある)とは、ヒトインスリン受容体と結合してその情報を細胞の内部に伝達する情報物質のことである。ヒトインスリン受容体に作用するアンタゴニスト(以下、単に「アンタゴニスト」と略記する場合がある)とは、ヒトインスリン受容体には結合するが、その情報をできない(アゴニストとヒトインスリン受容体との結合を阻害する)物質のことである。
ヒトインスリン受容体に作用するアゴニストの例として、ウシインスリンが挙げられる。
上記アゴニスト又はアンタゴニストの投与の方法としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。具体的には、例えば、血液中への注射、飼料(餌)への添加等による経口摂取、腸内への注入等が挙げられる。簡便である点、ヒトの臨床との対応という点で、腸管内部への注射、経口摂取が好ましい。
被検物質の投与量としては特に制限はなく、投与する物質、投与方法等に応じて適宜選択することができる。また、ヒトでの体重当たりの投与量を、投与するトランスジェニックカイコの重さに換算して投与することも好ましい。また、その換算値に所定の倍率を乗じた量を投与することも好ましい。また、アゴニスト又はアンタゴニストは、生理食塩水、水等で希釈して投与させることも好ましい。
投与期間は、特に限定はないが、1回に全量投与、あるいは継続的な投与が簡便性の点で好ましい。
<工程(B)>
工程(B)では、上記工程(a)で得られた「アゴニスト又はアンタゴニストが投与されたトランスジェニックカイコ」の脂肪体又は血液中の糖の濃度を測定する。測定試料の採取方法は脂肪体に関しては、解剖して採取することが好ましく、血液に関しては、切り傷を付けてそこから採取する方法が好ましい。
糖の濃度の測定方法としては、糖の定量方法は特に限定はないが、例えば、全ての糖類の定量にはフェノール硫酸法、アンスロン硫酸法、カルバゾール硫酸法等;グルコースの定量にはグルコースオキシダーゼ法等が挙げられる。脂肪体中又は血液中の糖の濃度の測定をする時期については特に限定はなく、例えば、アゴニスト又はアンタゴニストが投与された時点から1分〜1日が好ましく、30分〜10時間が特に好ましい。
糖の濃度の測定に際しては、アゴニスト又はアンタゴニストを投与していない、「同様に脂肪体中又は血液中の糖濃度を上昇させたトランスジェニックカイコ」を対照として用いることが好ましい。対照には、例えば、生理食塩水を同量だけを投与することが好ましい。対照に比較して、アゴニスト又はアンタゴニストを投与したもので、糖の濃度がどれくらい変化したかによって、アゴニスト又はアンタゴニストの薬効を評価する。
[トランスジェニックカイコを用いる血糖降下物質の評価方法]
上記により得られた本発明のトランスジェニックカイコを用い、被検物質がヒトの血糖値を降下させる物質であるか否かを評価する方法であって、
(a)トランスジェニックカイコに上記被検物質を投与する工程、
(b)上記被検物質が投与されたトランスジェニックカイコの脂肪体中又は血液中の糖の濃度を測定する工程、
を有することを特徴とする方法を提供することができる。
上記評価方法は、必要に応じて更にその他の工程を含んでいてもよい。以下、工程(a)、(b)について順に説明する。
<工程(a)>
工程(a)では、本発明のトランスジェニックカイコに対して被検物質を投与する。
被検物質を投与する方法としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。具体的には、例えば、血液中への注射、飼料(餌)への添加等による経口摂取、腸内への注入等が挙げられる。簡便である点、ヒトの臨床との対応という点で、腸管内部への注射、経口摂取が好ましい。
被検物質の投与量としては特に制限はなく、投与する物質、投与方法等に応じて適宜選択することができる。また、ヒトでの体重当たりの投与量を、投与するトランスジェニックカイコの重さに換算して投与することも好ましい。また、その換算値に所定の倍率を乗じた量を投与することも好ましい。また、被検物質は、生理食塩水、水等で希釈して投与させることも好ましい。
投与期間は、特に限定はないが、1回に全量投与、あるいは継続的な投与が簡便性の点で好ましい。
<工程(b)>
工程(b)では、上記工程(a)で、被検物質が投与されたトランスジェニックカイコの脂肪体中又は血液中の糖の濃度を測定する。測定試料の採取方法は脂肪体に関しては、解剖して採取することが好ましく、血液に関しては、切り傷を付けてそこから採取する方法が好ましい。
糖の濃度の測定方法としては、糖の定量方法は特に限定はないが、例えば、全ての糖類の定量にはフェノール硫酸法、アンスロン硫酸法、カルバゾール硫酸法等;グルコースの定量にはグルコースオキシダーゼ法等が挙げられる。脂肪体中又は血液中の糖の濃度の測定をする時期については特に限定はなく、工程(a)において被検物質が投与された直後から、被検物質による糖の濃度の減少の効果が見られなくなるまでの期間から選択すればよい。具体的には、例えば、被検物質が投与された時点から1分〜1日が好ましく、30分〜10時間が特に好ましい。
糖の濃度の測定に際しては、被検物質を投与していない、「同様に脂肪体中又は血液中の糖濃度を上昇させたトランスジェニックカイコ」を対照として用いることが好ましい。対照には、例えば、生理食塩水を同量だけを投与することが好ましい。対照に比較して、被検物質を投与したもので、糖の濃度がどれくらい減少していたかによって、被検物質を評価する。
[トランスジェニックカイコを用いるスクリーニング方法]
上記により得られた本発明のトランスジェニックカイコを用い、ヒトの血糖値を降下させる物質をスクリーニングする方法であって、
(a)上記トランスジェニックカイコに被検物質を投与する工程、
(b)上記被検物質が投与されたトランスジェニックカイコの脂肪体中又は血液中の糖の濃度を測定する工程、
(c)上記被検物質の中から、該トランスジェニックカイコの脂肪体中又は血液中の糖の濃度を低下させる物質を選択する工程、
を有することを特徴とする方法を提供することができる。
上記スクリーニング方法は、必要に応じて更にその他の工程を含んでいてもよい。工程(a)及び(b)については、上記評価方法と同様である。
<工程(c)>
工程(c)において、上記工程(a)及び(b)によって使用された被検物質の中から、該トランスジェニックカイコの脂肪体中又は血液中の糖の濃度を低下させる物質を選択する。対照に比較して、被検物質を投与したもので、糖の濃度がどれくらいまでに減少した場合に有意差と判定してその被検物質を選択するかについては、用いたトランスジェニックカイコの数にも依存し特に限定はないが、通常、対照の糖の濃度の95%以下〜80%以下である。
1条件に用いるトランスジェニックカイコの数については特に限定はないが、1個〜200個が好ましく、2個〜50個が好ましく、3個〜10個が特に好ましい。この範囲であると、薬学的にも統計学的にも正しい選択が可能である。
上記スクリーニング方法によって、コスト的に有利に、倫理的にも問題がない方法で、糖尿病治療薬等の「ヒトの血糖値を降下させる物質」のスクリーニングが可能である。
培養細胞系を用いた方法は、ヒトの血糖値を降下させる物質の開発手法として一般的に行われている。
しかしながら、一般に、培養細胞系で効果を示す殆どの物質は、動物個体では血糖降下作用を示さない。その理由は、培養細胞系では、動物個体内における薬物動態を反映できないためである。
そのため、前記方法には、培養細胞系ではなく、動物個体を用いることが必須である。
本発明の方法(薬効を評価する方法、被検物質がヒトの血糖値を降下させる物質や薬剤であるか否かを評価する方法、該物質・薬剤をスクリーニングする方法、該薬剤を製造する方法)は、カイコを用いて行うことに特徴があり、それによって前記顕著な効果を奏するものである。
本発明の方法は、動物個体として、ヒトに近い哺乳動物等ではなく、カイコを用いた場合であっても、上記方法が可能である、すなわち「ヒトの血糖値を降下させる物質」の評価やスクリーニング等が可能であることを見出してなされたものである。
従って、ヒトインスリン受容体を発現したトランスジェニックマウス等の哺乳類に属する実験動物・動物個体、又は、脊椎動物等のヒトに近い実験動物・動物個体で、上記方法が可能であったとしても、それをカイコに転用して、本発明の方法を見出すことはできない。
[トランスジェニックカイコを用いる薬剤製造方法]
上記により得られた本発明のトランスジェニックカイコを用い、ヒトの血糖値を降下させる薬剤を製造する方法であって、
(a)上記トランスジェニックカイコに被検物質を投与する工程、
(b)上記被検物質が投与されたトランスジェニックカイコの脂肪体中又は血液中の糖の濃度を測定する工程、
(c)上記被検物質の中から、該トランスジェニックカイコの脂肪体中又は血液中の糖の濃度を低下させる物質を選択する工程、
(d)上記工程(c)で選択された物質と製薬上許容される担体を混合する工程、
を有することを特徴とする方法を提供することができる。
上記薬剤製造方法は、必要に応じて更にその他の工程を含んでいてもよい。工程(a)、(b)及び(c)については、上記スクリーニング方法と同様である。
<工程(d)>
工程(d)は、上記工程(c)で選択された物質と製薬上許容される担体とを混合する工程である。
本発明の、評価する方法、スクリーニングする方法によって見出された「ヒトの血糖値を降下させる物質」は、それを含有させて薬剤が製造される。該薬剤の剤型については特に限定はないが、経口投与のための製剤としては、錠剤、丸剤、顆粒剤、カプセル剤、散剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤、舌下剤等が挙げられ、また、非経口投与のための製剤としては、注射剤、経皮吸収剤、吸入剤、坐剤等が挙げられる。
製剤化に際しては、製薬上許容される担体を混合することが可能である。担体の種類及び組成は、投与経路や投与方法によって適宜決定することができる。例えば、液状担体としては、水、アルコール、食用油等を用いることができる。固体担体としては、リジン等のアミノ酸類、シクロデキストリン等の多糖類、ステアリン酸マグネシウム等の有機酸塩類、ヒドロキシルプロピルセルロース等のセルロース誘導体等を用いることができる。
上記工程(c)で選択された物質には、更に、等張化剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、溶解補助剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、希釈剤、緩衝剤、着色剤、着香剤等の各種医薬用添加剤を配合することができる。注射剤の場合には適当な担体と共に滅菌処理を行なって薬剤とする。
[作用]
本発明において、糖の濃度を低下させる物質が、ヒト等の哺乳類と共通していることによって、ヒトの血糖値を降下させる物質が、評価、スクリーニングできる作用・原理は明らかではなく、また、本発明は、かかる作用・原理の範囲に限定されるわけではないが、以下のことが考えられる。
すなわち、カイコは血糖値の恒常性を維持する機構を有しており、筋肉及びヒトの肝臓に相当する脂肪体に糖を貯蔵でき、また、インスリン様ペプチドホルモンであるボンビキシンを有しており、ボンビキシンの下流には、ヒトの場合と同様なMAPKシグナル伝達経路を含むインスリンシグナル伝達経路が存在する。また、組み換え型ヒトインスリンがPI3キナーゼの活性化を介して、カイコの脂肪体の糖の取り込みを亢進させる作用を有する。すなわち、カイコにはヒトの血糖調節機構と同様な機構があるために、本発明の前記効果が表れたと考えられる。
以下、実施例及び試験例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例等の具体的範囲に限定されるものではない。
<ヒトインスリン受容体のクローニング>
ヒトインスリン受容体の全長cDNAを含むベクターDNAであるpCR−XL−TOPO(Open Biosystems社、フナコシIMAGEクローンより購入)に対して制限酵素XbaIの切断配列をもつプライマーセット(forward primer;5’-tctagaatgggcaccgggggccggcggggg-3’(配列番号1)、reverse primer;5’-tctagattaggaaggattggaccgaggcaa-3’(配列番号2))を用いてPCR反応を行い、XbaI切断部位を末端にもつヒトインスリン受容体遺伝子配列を作製した。
このPCR産物を、マルチクローニングサイトを有するベクターDNAであるpZErO−2(Invitrogen社)に対してライゲーションし、ヒトインスリン受容体遺伝子配列を有するベクターを作製した。コンピテント大腸菌にトランスフォーメーションして、プレート上で一晩・37℃で培養後、薬剤耐性及びアガロースゲル電気泳動の泳動像を指標として増幅させた挿入配列をもつベクターpZErO−2−hIRを取得した。そして、挿入されたヒトインスリン受容体遺伝子配列を含む部位の配列を、各種プライマー(配列番号3〜12)を用いて解析した。
一方、upstream activating sequence(uas)遺伝子とgfp遺伝子が組み込まれたベクターpBacMCS[UAS−SV40、3xP3−egfp]を制限酵素BlnI(Takara,Japan)で消化した後、脱リン酸化処理を実施した。同時に、上記で作出したヒトインスリン受容体遺伝子配列を含むベクターpZErO−2−hIRを制限酵素XbaI(Takara,Japan)で消化した。
BlnI消化済pBacMCS[UAS−SV40、3xP3−egfp]とXbaI消化済ヒトインスリン受容体遺伝子配列をライゲーションした後、コンピテント大腸菌にトランスフォーメーションした。プレート上で一晩・37℃で培養後、薬剤耐性及びアガロースゲル電気泳動の泳動像を指標として目的のベクターpBac−UAS−hIR.SV40−3xP3GFPを作出した。
なお、当該ベクターのヒトインスリン受容体遺伝子を含む部位の配列を上記と同様に解析し、正しい配列を有する完全長ヒトインスリン受容体遺伝子が組み込まれていることを確認した。
<トランスジェニックカイコの作製>
カイコ(pnd−w1)の卵に対して、上記で作製したベクターpBac−UAS−hIR.SV40−3xP3GFPをマイクロインジェクトして、UASプロモーターに応答してヒトインスリン受容体を発現するカイコ(UAS−hIR (G))を構築した。このベクターは、カイコの複眼において特異的に発現する遺伝子のプロモーター配列3xP3の下流にgfp遺伝子を組み込んでいることから、蛍光顕微鏡下において複眼にGFPの発現を認めたカイコを遺伝子導入カイコとして選別した。
このカイコと、Actin遺伝子のA3プロモーターの下流にGAL4遺伝子、複眼特異的に発現を誘導するプロモーターの下流にDsRed遺伝子を組み込んだベクターpBac−A3−GAL4−3xP3−DsRed(図1A)を有するカイコ(A3−GAL4(R))(Osanai-Futahashi M.et al,Nature Commun.2012;3:1295)を交配させた。
複眼においてGFP、及びRFPの両者を発現するトランスジェニックカイコ(G/R)を蛍光顕微鏡下で選別し、ヒトインスリン受容体発現カイコを作出した。なお、当該カイコの脂肪体中においてヒトインスリン受容体が発現していることは、抗ヒトインスリン受容体抗体(Calbiochem,La Jolla,CA)を用いたウエスタンブロット解析により確認した。
<血糖降下実験>
体液(20μL)は第一腹肢(first proleg)にはさみでつけた切り傷から採取し、タンパク質を沈殿させるために9倍量の0.6N過塩素酸と混合した。3,000rpmで10分間遠心分離し、上清を体液抽出液(hemolymph extract)とした。カイコ血液中の総糖量はフェノール硫酸法(Hodge et al)により定量した。蒸留水で適当な濃度に希釈した体液抽出液100μLと5%(w/v)フェノール水溶液100μLを混合し、濃硫酸500μLを加えて激しく撹拌し、室温で20分間静置した後、490nmにおける吸光度を測定した。グルコース水溶液を標準糖溶液とした。
<ウエスタンブロット>
カイコから摘出した脂肪体を、Insect saline(10mM Tris/HCl pH7.9、130mM NaCl、5mM KCl、1mM CaCl)で洗浄した後、ペニシリン、ストレプトマイシンを添加したGrace’s medium 200μL中で27℃において馴染ませた。ワートマニン(wortmannin)を用いた実験においては、同時に培地中にワートマニンを加えた。
30分間の前培養の後、培地にインスリン(3mg/mL)を50μL添加し、27℃で2時間培養した。
脂肪体をInsect salineで洗浄した後、NP−40 lysis buffer(10mM Tris/HCl(pH=7.5)、150mM NaCl、0.5mM EDTA、1mM DTT、1% NP−40、10mM NaF、1mM NaVO)250μLの溶液と混合し、20秒間、超音波処理した。その後、TCA沈殿を行い、タンパク質をSDS電気泳動し、PVDFメンブレンに移行させた。
抗Akt抗体及び抗リン酸化Akt抗体を用いてウエスタンブロットを行い、脂肪体のリン酸化Akt量(リン酸化Akt量/全Akt量)を測定した。
実施例1
上述に示した非特許文献8(Tomita M,Munetsuna H,Sato T,Adachi T,Hino R,Hayashi M,Shimizu K,Nakamura N,Tamura T,Yoshizato K.Nat Biotechnol.2003 Jan;21(1):52-6.)に示されている、GAL4/Upsream activating sequence(UAS)systemを用いてカイコに遺伝子を導入させる(トランスジェニック)技術を利用し、ヒトインスリン受容体を発現するカイコの系統の樹立を行った。
複眼において特異的に発現するプロモーター配列(3×P3プロモーター)の下流に緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子が組み込まれたベクター(effector vector)中のUASプロモーターの下流にヒトインスリン受容体遺伝子を組み込んだUAS−Human insulin receptor(G)を構築し、複眼においてGFPを発現するカイコの系統を選別した(図1A、B)。
次に、上記の複眼でGFPを発現するカイコと、複眼特異的に赤色蛍光タンパク質(DsRed)を発現するベクター(effector vector)中のActin(アクチン)遺伝子のA3プロモーターをGAL4遺伝子の上流に組み込んだA3−GAL4(R)(図1A)を有する系統のカイコと交配させた。A3−GAL4(R)の作製方法は、例えば、Imamura M et al.,2003.Genetics 165:1329-1340やUchino K.et al.,2006 Journal of Insect Biotechnology and Sericology 75:89-97を参照することができる。
複眼において、GFP、及びRFPの両者を発現するトランスジェニックカイコ(G/R)の脂肪体中においてヒトインスリン受容体が発現していることを、抗インスリン受容体によるウエスタンブロット解析により確認した(図1C)。
UAS−Human insulin receptor(G)及びA3−GAL4(R)の両方、又はどちらか一方を欠失したカイコ((−/−)、(G/−)、(−/R))では、ヒトインスリン受容体の発現は検出されなかった。
試験例1
カイコで発現させたヒトインスリン受容体が機能しているかを確認するため、ヒトインスリンの投与による血糖値の低下がみられるかを検討した。
ヒトインスリン受容体を発現しているカイコ(G/R)にヒトインスリン(5μg/larva)を投与するとカイコの血糖値が低下した(図2A)。一方、ヒトインスリン受容体が発現していないカイコ(−/R)に同量のインスリンを投与してもカイコの血糖値の低下はみられなかった。以上の結果は、トランスジェニックカイコで発現させたヒトインスリン受容体が機能し、投与したヒトインスリンによりインスリン経路が活性化されたことを示唆する。
次に、この系での血糖降下作用について、ヒトインスリンの容量依存性を検討した。ヒトインスリン受容体を発現しているカイコ(G/R)にヒトインスリン5、20、80μg/larvaを投与した場合、何れの容量においてもカイコの血糖値が低下した(図2B)。一方、ヒトインスリン0.5、2μg/larvaを投与した場合には、カイコの血糖値の低下はみられなかった。更に、ヒトインスリン受容体が発現していないカイコ(−/R)にヒトインスリン5、20、80μg/larvaを投与してもカイコの血糖値の低下は見られなかった。
以上の結果は、カイコにヒトインスリン受容体を発現させることにより、ヒトインスリンに対する応答性が増大したことを示唆している。また、作出したトランスジェニックカイコにおいて血糖降下作用を引き起こすのに必要なヒトインスリン量は、8μg/larvaであることも分った。
試験例2
ヒトインスリン受容体を発現しているカイコにヒトインスリンを作用させたとき、カイコ体内の臓器の細胞においてインスリンシグナル伝達経路が活性化するかを検討した。
ヒトインスリン受容体を発現しているカイコ(G/R)にヒトインスリンを投与すると、カイコの体内の脂肪体細胞においてAktのリン酸化が亢進していることが判明した(図3)。
一方、ヒトインスリン受容体が発現していないカイコ(−/R)にヒトインスリンを投与しても、脂肪体細胞でのAktのリン酸化の亢進はみられなかった。
以上の結果は、ヒトインスリン受容体の発現に依存したカイコの脂肪体におけるヒトインスリン経路の活性化が起きたことを示唆している。
試験例3
インスリンシグナル伝達経路において、PI3キナーゼ(PI3 kinase)は、Aktの上流因子として働く鍵因子であることが知られている。そこで、ヒトインスリン受容体を発現しているカイコ(G/R)の脂肪体細胞におけるヒトインスリンによるAktのリン酸化の亢進が、PI3キナーゼを介しているかを検討した。
ヒトインスリン受容体を発現しているカイコ(G/R)から摘出した脂肪体におけるヒトインスリンの添加によるAktのリン酸化の亢進は、PI3キナーゼの阻害剤でワートマニンの前処理により抑制された(図4)。
以上の結果は、ヒトインスリン受容体を発現しているカイコ(G/R)の脂肪体におけるヒトインスリンによるAktのリン酸化の亢進は、PI3キナーゼを介することを示唆している。すなわち、ヒトインスリン受容体を発現しているカイコ(G/R)の脂肪体において、ヒトインスリンの投与により、哺乳動物で明らかにされているPI3キナーゼ/Aktを介するインスリンシグナル伝達経路が活性化していると考えられる。
試験例4
ウシインスリンは、ヒトインスリンと3つのアミノ酸残基が異なっているが、ヒトインスリン受容体に対する両者の親和性には差がないことが報告されている(図5A中四角、Kotzke G et al.,Dibetologia,1995,38,757-63)。更に、ウシインスリンは、体内での安定性が低いのでヒトインスリンに比べてヒトに投与したときの血糖降下作用が弱いことが知られている(Nosadini R et al.,Diabetes,1981,30,650-5)。
そこで、本発明であるヒトインスリン受容体が発現しているカイコを用いて、個体におけるウシインスリンとヒトインスリンの血糖降下作用の差を評価できるかを検討した。
ヒトインスリン受容体を発現しているカイコ(G/R)にウシインスリン、ヒトインスリン(5μg/larva)を投与すると、何れの場合においてもカイコの血糖値が低下した(図5B)。しかし、その作用はウシインスリン投与群の方が、ヒトインスリンよりも弱いことが判明した。
以上の結果は、ヒトインスリン受容体を発現しているカイコを用いて、ヒトインスリン受容体に作用するアゴニストの個体レベルでの薬効を評価できることを示唆する。
また、血糖降下薬であるインスリンを投与することにより、本発明のトランスジェニックカイコの血糖値が低下することが明らかになった。このことから、本発明のトランスジェニックカイコを用いて血糖値を降下させる可能性がある薬剤の評価・スクリーニング方法を提供できることが示唆される。
培養細胞系を用いて血糖降下薬の候補となる化合物をスクリーニングする方法は、糖尿病治療薬の開発手法として一般的に行われている。しかしながら、一般に培養細胞系で効果を示す殆どの化合物は、動物個体では血糖降下作用を示さない。その理由は、培養細胞系では、個体における薬物動態を反映できないためである。そのため、動物個体を用いた評価系は必須である。
しかし、マウス、ラット等の哺乳類の個体を用いた場合、多くの化合物をスクリーニングするときに、飼育スペース、飼育費用、動物愛護等の観点からの問題がある。カイコは、哺乳類を用いた場合と比べ、これらの問題を抑えることが可能である。よって、カイコ個体を用いた、血糖値を降下させる物質の評価系・スクリーニング系は有用であると考えられる。
本発明の、ヒトインスリン受容体を発現したものであることを特徴とするトランスジェニックカイコを利用して、前記方法が可能であるのみならず、インスリン受容体を介した血糖降下作用の理解や、インスリン受容体を標的とする医薬品開発の知見を得ることも可能であるため、医薬開発分野等に広く利用されるものである。

Claims (3)

  1. ヒトインスリン受容体に作用するアゴニスト又はアンタゴニストの薬効を評価する方法であって、
    (A)トランスジェニックカイコに上記アゴニスト又はアンタゴニストを投与する工程、及び、
    (B)上記アゴニスト又はアンタゴニストが投与されたトランスジェニックカイコの脂肪体又は血液中の糖の濃度を測定する工程、
    を有し、
    該トランスジェニックカイコはヒトインスリン受容体を発現したカイコ又は以下の(1)及び(2)に記載のトランスジェニックカイコを交配させることにより作製されたカイコであることを特徴とする方法。
    (1)細胞質アクチンタンパク質をコードする遺伝子のプロモーターの下流に、転写因子GAL4をコードする遺伝子を有するトランスジェニックカイコ
    (2)GAL4の標的プロモーターであるUASの下流に、ヒトインスリン受容体をコードする遺伝子を有するトランスジェニックカイコ
  2. 被検物質がヒトの血糖値を降下させる物質であるか否かを評価する方法であって、
    (a)トランスジェニックカイコに被検物質を投与する工程、
    (b)上記被検物質が投与されたトランスジェニックカイコの脂肪体中又は血液中の糖の濃度を測定する工程、
    を有し、
    該トランスジェニックカイコはヒトインスリン受容体を発現したカイコ又は以下の(1)及び(2)に記載のトランスジェニックカイコを交配させることにより作製されたカイコであることを特徴とする方法。
    (1)細胞質アクチンタンパク質をコードする遺伝子のプロモーターの下流に、転写因子GAL4をコードする遺伝子を有するトランスジェニックカイコ
    (2)GAL4の標的プロモーターであるUASの下流に、ヒトインスリン受容体をコードする遺伝子を有するトランスジェニックカイコ
  3. ヒトの血糖値を降下させる物質をスクリーニングする方法であって、
    (a)トランスジェニックカイコに被検物質を投与する工程、
    (b)上記被検物質が投与されたトランスジェニックカイコの脂肪体中又は血液中の糖の濃度を測定する工程、
    (c)上記被検物質の中から、該トランスジェニックカイコの脂肪体中又は血液中の糖の濃度を低下させる物質を選択する工程、
    を有し、
    該トランスジェニックカイコはヒトインスリン受容体を発現したカイコ又は以下の(1)及び(2)に記載のトランスジェニックカイコを交配させることにより作製されたカイコであることを特徴とする方法。
    (1)細胞質アクチンタンパク質をコードする遺伝子のプロモーターの下流に、転写因子GAL4をコードする遺伝子を有するトランスジェニックカイコ
    (2)GAL4の標的プロモーターであるUASの下流に、ヒトインスリン受容体をコードする遺伝子を有するトランスジェニックカイコ
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