JP6330236B2 - ヒトインスリン受容体を発現するトランスジェニックカイコ、該トランスジェニックカイコを用いた評価方法、スクリーニング方法及び薬剤製造方法 - Google Patents
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Description
この問題を解決するために、様々なモデル動物を利用した前臨床試験が行われる。その際、ヒトとこれらのモデル動物間の解離が問題となるが、近年この点を解決するための手法として、ヒト化マウス(humanized mice)の作出方法が開発され、それを利用した疾患の理解や治療法の確立に関する研究が盛んに行われるようになった(非特許文献1)
カイコは、マウス等の哺乳動物と比べて飼育の費用がはるかに安く、また小さいスペースで飼育可能である。更に、カイコは動きが緩慢であり、かつ手で扱うのに十分な大きさを備えているため、通常の注射器を用いた定量的な薬液の投与が容易である。
本発明者らは、カイコにおいても哺乳動物と共通した薬物の代謝反応があること、及び、種々の化合物の毒性の指標であるLD50がカイコと哺乳動物でよく一致することを見出し、報告している(非特許文献5)。
更に、カイコ感染モデルや高血糖カイコモデル等の疾患モデルを確立し、抗生物質の治療効果の指標であるED50がカイコと哺乳動物でよく一致することを報告している(非特許文献6、7)。従って、カイコにおいて多くの薬物は、哺乳動物と略一致した体内動態を示すと考えられる。
上記技術を利用して、カイコの一部の生理機能をヒト化し、医薬品の評価に供することができると考えられるが、その具体的な例はこれまでに報告されていない。
また、かかるモデル動物・実験動物を用いた、ヒトインスリン受容体に作用するアゴニスト又はアンタゴニストの薬効を評価する方法、及び、ヒトの血糖値を降下させる物質をスクリーニングする方法を提供することである。
(A)上記トランスジェニックカイコに上記アゴニスト又はアンタゴニストを投与する工程、
(B)上記アゴニスト又はアンタゴニストが投与されたトランスジェニックカイコの脂肪体又は血液中の糖の濃度を測定する工程、
を有することを特徴とする方法を提供するものである。
(a)上記トランスジェニックカイコに被検物質を投与する工程、
(b)上記被検物質が投与されたトランスジェニックカイコの脂肪体中又は血液中の糖の濃度を測定する工程、
を有することを特徴とする方法を提供するものである。
(a)上記トランスジェニックカイコに被検物質を投与する工程、
(b)上記被検物質が投与されたトランスジェニックカイコの脂肪体中又は血液中の糖の濃度を測定する工程、
(c)上記被検物質の中から、該トランスジェニックカイコの脂肪体中又は血液中の糖の濃度を低下させる物質を選択する工程、
を有することを特徴とする方法を提供するものである。
(a)上記トランスジェニックカイコに被検物質を投与する工程、
(b)上記被検物質が投与されたトランスジェニックカイコの脂肪体中又は血液中の糖の濃度を測定する工程、
(c)上記被検物質の中から、該トランスジェニックカイコの脂肪体中又は血液中の糖の濃度を低下させる物質を選択する工程、
(d)上記工程(c)で選択された物質と製薬上許容される担体を混合する工程、
を有することを特徴とする方法を提供するものである。
カイコの餌にグルコースを添加して高血糖状態にしたカイコ(特許文献1参照)では、インスリン受容体のヒトインスリンに対する親和性が低い可能性があるが、その点も解決され、被検物質を大量に投与しなくても、容易に、安価に、効率的に、正確・適切に、該被検物質を検討・評価でき、上記した評価方法、スクリーニング方法等が可能になる。
本発明のトランスジェニックカイコは、ヒトインスリン受容体を発現したものであることを特徴とするトランスジェニックカイコである(以下、単に「トランスジェニックカイコ」と略記する場合がある)。
本発明において、ヒトインスリン受容体をコードする遺伝子は、全長の一部分が欠損しているヒトインスリン受容体遺伝子を含み、ヒトインスリン受容体の機能を有していれば特に限定されない。例えば、GenBank Accession No.M10051で示される塩基配列等からなり、また、個体差に応じて、多型の範囲で1〜複数個の塩基が異なっているものも含まれる。
より詳細には、ヒトインスリン受容体遺伝子は、標的プロモーターUASの下流に組み込むのが好ましい。例えば、この融合遺伝子を、GAL4を発現するカイコと交配することにより、GAL4/UAS発現システム等によりヒトインスリン受容体が発現するトランスジェニックカイコが作製できる。
このトランスジェニックカイコには、GAL4をコードする遺伝子と、UASの下流にヒトインスリン受容体遺伝子とが導入されている。
(1)カイコ自体の入手が容易である。
(2)カイコを飼育する方法が既に確立されており、更に飼育に利便性がある。
(3)ヒト等の哺乳動物の内臓・器官と類似する性質が、これまでの研究で、ある程度分かっている。
(4)遺伝系統が確立されており、遺伝的均一性の維持ができている。
(5)比較的大型で、動きが緩慢であり、実質上無毛なので、定量的に注射できる等、薬物の投与が容易である。
(6)脂肪体を有しており、脂肪体を取り出して、含有する物質の定量が可能である。
(7)マウス、ラット等に比べると安価で、狭いスペースで多数この個体を飼育でき、倫理的な問題も少ないため、スクリーニング的な評価を行うことが容易である。
(8)被験物質が少量しかない場合でも評価を行うことができる。
(9)齢を揃える等、同じ状態の個体を揃えることが容易である。
(10)体液を採取して、糖、脂質、酵素等の成分を解析することが可能である。
更には、細胞質アクチンタンパク質をコードする遺伝子のプロモーターの下流に転写因子GAL4をコードする遺伝子を有するトランスジェニックカイコと、GAL4の標的プロモーターであるUASの下流に、ヒトインスリン受容体をコードする遺伝子(以下、「ヒトインスリン受容体遺伝子」と略記する場合がある)を有するトランスジェニックカイコを交配させる方法が好ましい。
GAL4/UAS発現システムを用いることにより、目的とする遺伝子の発現部位や時期、量を正確に制御できるという利点がある。
眼特異的に赤色蛍光タンパク質(DsRed)を発現するベクター(effector vector)中のActin(アクチン)のA3プロモーターをGAL4遺伝子の上流に組み込んだA3−GAL4(R)の作製方法は、例えば、Imamura M et al.,2003.Genetics 165:1329-1340やUchino K.et al.,2006 Journal of Insect Biotechnology and Sericology 75:89-97を参照することができる。A3プロモーターにより、GAL4をカイコの全身で発現させることができる。
例えば、3×P3プロモーターの下流に緑色蛍光タンパク質であるGFPをコードする遺伝子が組み込まれたベクター中のUASプロモーターの下流にヒトインスリン受容体遺伝子を組み込んだベクターをカイコに導入する。3×P3プロモーターは複眼や神経系で機能する。また、3×P3プロモーターの下流に赤色蛍光タンパク質であるDsRedを発現するベクター中のアクチン(Actin)のA3プロモーターをGAL4遺伝子の上流に組み込んだベクターを別のカイコに導入する。これらのカイコを交配し、蛍光顕微鏡により、カイコの眼でGFP及びDsRedの両者の発現が確認できれば、GAL4遺伝子及びヒトインスリン受容体遺伝子の両方の遺伝子座を有するカイコを選抜することができる。
上記により得られた本発明のトランスジェニックカイコを用い、ヒトインスリン受容体に作用するアゴニスト又はアンタゴニストの薬効を評価する方法であって、
(A)トランスジェニックカイコに上記アゴニスト又はアンタゴニストを投与する工程、
(B)上記アゴニスト又はアンタゴニストが投与されたトランスジェニックカイコの脂肪体又は血液中の糖の濃度を測定する工程、
を有することを特徴とする方法を提供することができる。
工程(A)においては、まず、本発明のトランスジェニックカイコにヒトインスリン受容体に作用するアゴニスト又はアンタゴニストを投与する。
ヒトインスリン受容体に作用するアゴニスト(以下、単に「アゴニスト」と略記する場合がある)とは、ヒトインスリン受容体と結合してその情報を細胞の内部に伝達する情報物質のことである。ヒトインスリン受容体に作用するアンタゴニスト(以下、単に「アンタゴニスト」と略記する場合がある)とは、ヒトインスリン受容体には結合するが、その情報をできない(アゴニストとヒトインスリン受容体との結合を阻害する)物質のことである。
ヒトインスリン受容体に作用するアゴニストの例として、ウシインスリンが挙げられる。
投与期間は、特に限定はないが、1回に全量投与、あるいは継続的な投与が簡便性の点で好ましい。
工程(B)では、上記工程(a)で得られた「アゴニスト又はアンタゴニストが投与されたトランスジェニックカイコ」の脂肪体又は血液中の糖の濃度を測定する。測定試料の採取方法は脂肪体に関しては、解剖して採取することが好ましく、血液に関しては、切り傷を付けてそこから採取する方法が好ましい。
上記により得られた本発明のトランスジェニックカイコを用い、被検物質がヒトの血糖値を降下させる物質であるか否かを評価する方法であって、
(a)トランスジェニックカイコに上記被検物質を投与する工程、
(b)上記被検物質が投与されたトランスジェニックカイコの脂肪体中又は血液中の糖の濃度を測定する工程、
を有することを特徴とする方法を提供することができる。
工程(a)では、本発明のトランスジェニックカイコに対して被検物質を投与する。
投与期間は、特に限定はないが、1回に全量投与、あるいは継続的な投与が簡便性の点で好ましい。
工程(b)では、上記工程(a)で、被検物質が投与されたトランスジェニックカイコの脂肪体中又は血液中の糖の濃度を測定する。測定試料の採取方法は脂肪体に関しては、解剖して採取することが好ましく、血液に関しては、切り傷を付けてそこから採取する方法が好ましい。
上記により得られた本発明のトランスジェニックカイコを用い、ヒトの血糖値を降下させる物質をスクリーニングする方法であって、
(a)上記トランスジェニックカイコに被検物質を投与する工程、
(b)上記被検物質が投与されたトランスジェニックカイコの脂肪体中又は血液中の糖の濃度を測定する工程、
(c)上記被検物質の中から、該トランスジェニックカイコの脂肪体中又は血液中の糖の濃度を低下させる物質を選択する工程、
を有することを特徴とする方法を提供することができる。
工程(c)において、上記工程(a)及び(b)によって使用された被検物質の中から、該トランスジェニックカイコの脂肪体中又は血液中の糖の濃度を低下させる物質を選択する。対照に比較して、被検物質を投与したもので、糖の濃度がどれくらいまでに減少した場合に有意差と判定してその被検物質を選択するかについては、用いたトランスジェニックカイコの数にも依存し特に限定はないが、通常、対照の糖の濃度の95%以下〜80%以下である。
しかしながら、一般に、培養細胞系で効果を示す殆どの物質は、動物個体では血糖降下作用を示さない。その理由は、培養細胞系では、動物個体内における薬物動態を反映できないためである。
そのため、前記方法には、培養細胞系ではなく、動物個体を用いることが必須である。
本発明の方法は、動物個体として、ヒトに近い哺乳動物等ではなく、カイコを用いた場合であっても、上記方法が可能である、すなわち「ヒトの血糖値を降下させる物質」の評価やスクリーニング等が可能であることを見出してなされたものである。
従って、ヒトインスリン受容体を発現したトランスジェニックマウス等の哺乳類に属する実験動物・動物個体、又は、脊椎動物等のヒトに近い実験動物・動物個体で、上記方法が可能であったとしても、それをカイコに転用して、本発明の方法を見出すことはできない。
上記により得られた本発明のトランスジェニックカイコを用い、ヒトの血糖値を降下させる薬剤を製造する方法であって、
(a)上記トランスジェニックカイコに被検物質を投与する工程、
(b)上記被検物質が投与されたトランスジェニックカイコの脂肪体中又は血液中の糖の濃度を測定する工程、
(c)上記被検物質の中から、該トランスジェニックカイコの脂肪体中又は血液中の糖の濃度を低下させる物質を選択する工程、
(d)上記工程(c)で選択された物質と製薬上許容される担体を混合する工程、
を有することを特徴とする方法を提供することができる。
工程(d)は、上記工程(c)で選択された物質と製薬上許容される担体とを混合する工程である。
本発明において、糖の濃度を低下させる物質が、ヒト等の哺乳類と共通していることによって、ヒトの血糖値を降下させる物質が、評価、スクリーニングできる作用・原理は明らかではなく、また、本発明は、かかる作用・原理の範囲に限定されるわけではないが、以下のことが考えられる。
すなわち、カイコは血糖値の恒常性を維持する機構を有しており、筋肉及びヒトの肝臓に相当する脂肪体に糖を貯蔵でき、また、インスリン様ペプチドホルモンであるボンビキシンを有しており、ボンビキシンの下流には、ヒトの場合と同様なMAPKシグナル伝達経路を含むインスリンシグナル伝達経路が存在する。また、組み換え型ヒトインスリンがPI3キナーゼの活性化を介して、カイコの脂肪体の糖の取り込みを亢進させる作用を有する。すなわち、カイコにはヒトの血糖調節機構と同様な機構があるために、本発明の前記効果が表れたと考えられる。
ヒトインスリン受容体の全長cDNAを含むベクターDNAであるpCR−XL−TOPO(Open Biosystems社、フナコシIMAGEクローンより購入)に対して制限酵素XbaIの切断配列をもつプライマーセット(forward primer;5’-tctagaatgggcaccgggggccggcggggg-3’(配列番号1)、reverse primer;5’-tctagattaggaaggattggaccgaggcaa-3’(配列番号2))を用いてPCR反応を行い、XbaI切断部位を末端にもつヒトインスリン受容体遺伝子配列を作製した。
BlnI消化済pBacMCS[UAS−SV40、3xP3−egfp]とXbaI消化済ヒトインスリン受容体遺伝子配列をライゲーションした後、コンピテント大腸菌にトランスフォーメーションした。プレート上で一晩・37℃で培養後、薬剤耐性及びアガロースゲル電気泳動の泳動像を指標として目的のベクターpBac−UAS−hIR.SV40−3xP3GFPを作出した。
なお、当該ベクターのヒトインスリン受容体遺伝子を含む部位の配列を上記と同様に解析し、正しい配列を有する完全長ヒトインスリン受容体遺伝子が組み込まれていることを確認した。
カイコ(pnd−w1)の卵に対して、上記で作製したベクターpBac−UAS−hIR.SV40−3xP3GFPをマイクロインジェクトして、UASプロモーターに応答してヒトインスリン受容体を発現するカイコ(UAS−hIR (G))を構築した。このベクターは、カイコの複眼において特異的に発現する遺伝子のプロモーター配列3xP3の下流にgfp遺伝子を組み込んでいることから、蛍光顕微鏡下において複眼にGFPの発現を認めたカイコを遺伝子導入カイコとして選別した。
このカイコと、Actin遺伝子のA3プロモーターの下流にGAL4遺伝子、複眼特異的に発現を誘導するプロモーターの下流にDsRed遺伝子を組み込んだベクターpBac−A3−GAL4−3xP3−DsRed(図1A)を有するカイコ(A3−GAL4(R))(Osanai-Futahashi M.et al,Nature Commun.2012;3:1295)を交配させた。
体液(20μL)は第一腹肢(first proleg)にはさみでつけた切り傷から採取し、タンパク質を沈殿させるために9倍量の0.6N過塩素酸と混合した。3,000rpmで10分間遠心分離し、上清を体液抽出液(hemolymph extract)とした。カイコ血液中の総糖量はフェノール硫酸法(Hodge et al)により定量した。蒸留水で適当な濃度に希釈した体液抽出液100μLと5%(w/v)フェノール水溶液100μLを混合し、濃硫酸500μLを加えて激しく撹拌し、室温で20分間静置した後、490nmにおける吸光度を測定した。グルコース水溶液を標準糖溶液とした。
カイコから摘出した脂肪体を、Insect saline(10mM Tris/HCl pH7.9、130mM NaCl、5mM KCl、1mM CaCl2)で洗浄した後、ペニシリン、ストレプトマイシンを添加したGrace’s medium 200μL中で27℃において馴染ませた。ワートマニン(wortmannin)を用いた実験においては、同時に培地中にワートマニンを加えた。
30分間の前培養の後、培地にインスリン(3mg/mL)を50μL添加し、27℃で2時間培養した。
抗Akt抗体及び抗リン酸化Akt抗体を用いてウエスタンブロットを行い、脂肪体のリン酸化Akt量(リン酸化Akt量/全Akt量)を測定した。
上述に示した非特許文献8(Tomita M,Munetsuna H,Sato T,Adachi T,Hino R,Hayashi M,Shimizu K,Nakamura N,Tamura T,Yoshizato K.Nat Biotechnol.2003 Jan;21(1):52-6.)に示されている、GAL4/Upsream activating sequence(UAS)systemを用いてカイコに遺伝子を導入させる(トランスジェニック)技術を利用し、ヒトインスリン受容体を発現するカイコの系統の樹立を行った。
複眼において特異的に発現するプロモーター配列(3×P3プロモーター)の下流に緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子が組み込まれたベクター(effector vector)中のUASプロモーターの下流にヒトインスリン受容体遺伝子を組み込んだUAS−Human insulin receptor(G)を構築し、複眼においてGFPを発現するカイコの系統を選別した(図1A、B)。
UAS−Human insulin receptor(G)及びA3−GAL4(R)の両方、又はどちらか一方を欠失したカイコ((−/−)、(G/−)、(−/R))では、ヒトインスリン受容体の発現は検出されなかった。
カイコで発現させたヒトインスリン受容体が機能しているかを確認するため、ヒトインスリンの投与による血糖値の低下がみられるかを検討した。
ヒトインスリン受容体を発現しているカイコ(G/R)にヒトインスリン(5μg/larva)を投与するとカイコの血糖値が低下した(図2A)。一方、ヒトインスリン受容体が発現していないカイコ(−/R)に同量のインスリンを投与してもカイコの血糖値の低下はみられなかった。以上の結果は、トランスジェニックカイコで発現させたヒトインスリン受容体が機能し、投与したヒトインスリンによりインスリン経路が活性化されたことを示唆する。
ヒトインスリン受容体を発現しているカイコにヒトインスリンを作用させたとき、カイコ体内の臓器の細胞においてインスリンシグナル伝達経路が活性化するかを検討した。
ヒトインスリン受容体を発現しているカイコ(G/R)にヒトインスリンを投与すると、カイコの体内の脂肪体細胞においてAktのリン酸化が亢進していることが判明した(図3)。
一方、ヒトインスリン受容体が発現していないカイコ(−/R)にヒトインスリンを投与しても、脂肪体細胞でのAktのリン酸化の亢進はみられなかった。
以上の結果は、ヒトインスリン受容体の発現に依存したカイコの脂肪体におけるヒトインスリン経路の活性化が起きたことを示唆している。
インスリンシグナル伝達経路において、PI3キナーゼ(PI3 kinase)は、Aktの上流因子として働く鍵因子であることが知られている。そこで、ヒトインスリン受容体を発現しているカイコ(G/R)の脂肪体細胞におけるヒトインスリンによるAktのリン酸化の亢進が、PI3キナーゼを介しているかを検討した。
ヒトインスリン受容体を発現しているカイコ(G/R)から摘出した脂肪体におけるヒトインスリンの添加によるAktのリン酸化の亢進は、PI3キナーゼの阻害剤でワートマニンの前処理により抑制された(図4)。
以上の結果は、ヒトインスリン受容体を発現しているカイコ(G/R)の脂肪体におけるヒトインスリンによるAktのリン酸化の亢進は、PI3キナーゼを介することを示唆している。すなわち、ヒトインスリン受容体を発現しているカイコ(G/R)の脂肪体において、ヒトインスリンの投与により、哺乳動物で明らかにされているPI3キナーゼ/Aktを介するインスリンシグナル伝達経路が活性化していると考えられる。
ウシインスリンは、ヒトインスリンと3つのアミノ酸残基が異なっているが、ヒトインスリン受容体に対する両者の親和性には差がないことが報告されている(図5A中四角、Kotzke G et al.,Dibetologia,1995,38,757-63)。更に、ウシインスリンは、体内での安定性が低いのでヒトインスリンに比べてヒトに投与したときの血糖降下作用が弱いことが知られている(Nosadini R et al.,Diabetes,1981,30,650-5)。
そこで、本発明であるヒトインスリン受容体が発現しているカイコを用いて、個体におけるウシインスリンとヒトインスリンの血糖降下作用の差を評価できるかを検討した。
以上の結果は、ヒトインスリン受容体を発現しているカイコを用いて、ヒトインスリン受容体に作用するアゴニストの個体レベルでの薬効を評価できることを示唆する。
しかし、マウス、ラット等の哺乳類の個体を用いた場合、多くの化合物をスクリーニングするときに、飼育スペース、飼育費用、動物愛護等の観点からの問題がある。カイコは、哺乳類を用いた場合と比べ、これらの問題を抑えることが可能である。よって、カイコ個体を用いた、血糖値を降下させる物質の評価系・スクリーニング系は有用であると考えられる。
Claims (3)
- ヒトインスリン受容体に作用するアゴニスト又はアンタゴニストの薬効を評価する方法であって、
(A)トランスジェニックカイコに上記アゴニスト又はアンタゴニストを投与する工程、及び、
(B)上記アゴニスト又はアンタゴニストが投与されたトランスジェニックカイコの脂肪体又は血液中の糖の濃度を測定する工程、
を有し、
該トランスジェニックカイコはヒトインスリン受容体を発現したカイコ又は以下の(1)及び(2)に記載のトランスジェニックカイコを交配させることにより作製されたカイコであることを特徴とする方法。
(1)細胞質アクチンタンパク質をコードする遺伝子のプロモーターの下流に、転写因子GAL4をコードする遺伝子を有するトランスジェニックカイコ
(2)GAL4の標的プロモーターであるUASの下流に、ヒトインスリン受容体をコードする遺伝子を有するトランスジェニックカイコ - 被検物質がヒトの血糖値を降下させる物質であるか否かを評価する方法であって、
(a)トランスジェニックカイコに被検物質を投与する工程、
(b)上記被検物質が投与されたトランスジェニックカイコの脂肪体中又は血液中の糖の濃度を測定する工程、
を有し、
該トランスジェニックカイコはヒトインスリン受容体を発現したカイコ又は以下の(1)及び(2)に記載のトランスジェニックカイコを交配させることにより作製されたカイコであることを特徴とする方法。
(1)細胞質アクチンタンパク質をコードする遺伝子のプロモーターの下流に、転写因子GAL4をコードする遺伝子を有するトランスジェニックカイコ
(2)GAL4の標的プロモーターであるUASの下流に、ヒトインスリン受容体をコードする遺伝子を有するトランスジェニックカイコ - ヒトの血糖値を降下させる物質をスクリーニングする方法であって、
(a)トランスジェニックカイコに被検物質を投与する工程、
(b)上記被検物質が投与されたトランスジェニックカイコの脂肪体中又は血液中の糖の濃度を測定する工程、
(c)上記被検物質の中から、該トランスジェニックカイコの脂肪体中又は血液中の糖の濃度を低下させる物質を選択する工程、
を有し、
該トランスジェニックカイコはヒトインスリン受容体を発現したカイコ又は以下の(1)及び(2)に記載のトランスジェニックカイコを交配させることにより作製されたカイコであることを特徴とする方法。
(1)細胞質アクチンタンパク質をコードする遺伝子のプロモーターの下流に、転写因子GAL4をコードする遺伝子を有するトランスジェニックカイコ
(2)GAL4の標的プロモーターであるUASの下流に、ヒトインスリン受容体をコードする遺伝子を有するトランスジェニックカイコ
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