JP6399353B2 - 耐チッピング性、耐摩耗性にすぐれた表面被覆切削工具 - Google Patents
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Description
従来から、被覆工具としては、例えば、WC基超硬合金、TiCN基サーメット、cBN焼結体を工具基体とし、これに硬質被覆層を形成した被覆工具が知られており、切削性能の改善を目的として種々の提案がなされている。
そのため、前記特許文献3で提案されているように、硬質被覆層と工具基体間の密着性を改善した被覆工具が提案されたが、密着性は改善されるものの、高硬度合金鋼の高負荷切削においては密着層自体が破壊されてしまうために、結果的に、硬質被覆層全体としては欠損や剥離が生じ、工具寿命が短命であるという問題があった。
したがって、高硬度合金鋼の高負荷切削加工に供した場合であっても、耐チッピング性と耐摩耗性にすぐれ、長期にわたって安定した切削性能を発揮する被覆工具が求められている。
「(1) 工具基体の表面に、下地層と上部層からなり、全体平均層厚が1.5〜5μmの硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
(a)前記下地層は、
組成式:(AlxV1−x)Nで表したとき、0.70≦x≦0.95(但し、xは原子比)を満足する平均組成を有し、0.05〜1.0μmの平均層厚を有するウルツ鉱型六方晶構造のAlとVの複合窒化物層からなり、
(b)前記上部層は、
組成式:(AlyM1−y)Nで表したとき、0.45≦y<0.70(但し、yは原子比であり、かつ、Mは周期律表の4a、5a、6a族の元素、SiおよびBのうちから選ばれる1種または2種以上である)を満足する平均組成を有する立方晶構造のAlとMの複合窒化物層からなることを特徴とする表面被覆切削工具。
(2)前記下地層について、X線回折を行って測定した(110)面の回折ピーク強度をh(110)、また、(100)面の回折ピーク強度をh(100)としたとき、回折ピーク強度比h(110)/h(100)の値が0.2以上0.9以下であることを特徴とする前記(1)に記載の表面被覆切削工具。」
を特徴とするものである。
本発明の被覆工具の下地層を構成する六方晶構造の(AlxV1−x)N層は、Al成分の含有割合xが、V成分との合量に占める原子比で0.70未満であると、立方晶構造のAlとVの複合窒化物が形成されるようになるため、工具基体と下地層の密着強度が低下し、一方、xの値が0.95を超えると、下地層の硬度が不十分となり、硬質被覆層全体としての耐摩耗性が低下傾向を示すようになることから、(AlxV1−x)N層におけるAlのVとの合量に占める含有割合x(但し、原子比)は0.70以上0.95以下とする。
また、下地層の平均層厚が、0.05μm未満では、下地層としての密着強度向上効果が十分でなく、また、高付加切削時に硬質被覆層に加わる衝撃を緩和する作用(緩衝作用)が十分に発揮でないため上部層のチッピングを抑制できなくなる、一方、下地層の平均層厚が1.0μmを超えると、比較的低硬度である下地層が厚くなることによって、硬質被覆層全体としての耐摩耗性低下を招くようになることから、下地層の平均層厚は、0.05μm以上1.0μm以下と定めた。
なお、上記(AlxV1−x)N層の組成、平均層厚、また、後記する(AlyM1−y)N層の組成、平均層厚については、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy:SEM)、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)、エネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X−ray Spectroscopy:EDS)、オージェ電子分光法(Auger Electron Spectroscopy:AES)を用いた断面測定により、測定することができる。
本発明では、下地層についてX線回折を行い、(110)面の回折ピーク強度をh(110)、また、(100)面の回折ピーク強度をh(100)として求めたとき、h(110)/h(100)の値が0.2以上0.9以下であることが望ましい。
回折ピーク強度比h(110)/h(100)の値が0.2未満の場合には、下地層を設けたことによる密着強度向上効果が十分でなく、また、高付加切削時に硬質被覆層に加わる衝撃を緩和する作用(緩衝作用)が十分に発揮でないため上部層のチッピングを抑制できなくなる、一方、h(110)/h(100)の値が0.9を超えると、上部層との密着力が小さくなり、下地層と上部層との層界面で剥離が生じやすくなり、結果として被覆工具の耐摩耗性を低下させることになるからである。
したがって、下地層の回折ピーク強度比h(110)/h(100)の値は0.2以上0.9以下とすることが望ましい。
なお、上部層が立方晶構造であることは、下部層の影響を除去するため薄膜X線回折法により確認し、一方、下部層が六方晶であることは、上部層を集束イオンビーム(Focused Ion Beam:FIB)法などの手法で加工・除去したのち、X線回折を行うことによって確認することができる。
本発明の上部層は、組成式:(AlyM1−y)Nで表したとき、0.45≦y<0.70(但し、yは原子比であり、かつ、Mは周期律表の4a、5a、6a族の元素、SiおよびBのうちから選ばれる1種または2種以上である)を満足する平均組成を有する立方晶構造のAlとMの複合窒化物層からなる。
AlとMの複合窒化物をより具体的に言えば、AlとTi、AlとCr、AlとTiとSi、AlとCrとSi、AlとCrとB、AlとZr、AlとNbの組合せからなる立方晶構造の各種複合窒化物を挙げることができ、また、立方晶構造のAlとVの複合窒化物を用いることができる。
上部層の組成式:(AlyM1−y)Nにおいて、Al成分の含有割合yが、M成分との合量に占める原子比で0.45未満であると、硬質被覆層の硬度や耐酸化性が小さいため、十分な耐摩耗性をえることができず、一方、yの値が0.70以上になると六方晶構造の結晶粒が形成されるようになるため、硬度が低下し十分な耐摩耗性が得られない。
したがって、本発明の上部層におけるAl成分の含有割合y(但し、原子比)は、0.45以上0.70未満とする。
本発明の被覆工具では、硬質被覆層の全体平均層厚が1.5μm未満であると、長期の使用にわたって十分な耐摩耗性を発揮することができず、一方、全体平均層厚が5.0μmを超えると、チッピング発生を抑制し難くなるので、硬質被覆層の全体平均層厚は1.5μm以上5.0μm以下と定めた。
特に、前記下地層を成膜するにあたり、ターゲット表面に印加する磁束密度を調整することで、下地層の回折ピーク強度h(110)、h(100)の大きさを制御し、回折ピーク強度比h(110)/h(100)を所定の値とした場合には、高硬度合金鋼等の高切り込み、高送りの高負荷切削加工において、より一段とすぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮する。
なお、具体的な説明としては、工具基体として超硬合金を用いた被覆工具について説明するが、TiCN基サーメットあるいはcBN焼結体を工具基体とする被覆工具についても同様である。
(b)まず、装置内を排気して0.1Pa以下の真空に保持しながら、ヒータで装置内を500℃に加熱した後、回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ、前述のTiカソード電極とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、それによって、工具基体表面をボンバード洗浄し、
(c)ついで、装置内に導入する反応ガスとしての窒素ガスの流量を調整して4〜10Paの反応雰囲気とすると共に、回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−50Vの直流バイアス電圧を印加し、Al−V合金ターゲットの表面に、その背面に配置した磁力発生源から表2に示すターゲット表面最大磁束密度になるように種々の磁束密度を印加して、Al−V合金ターゲットとアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させて所定の目標層厚、目標組成の(AlxV1−x)N層からなる硬質被覆層の下地層を蒸着形成した。
(d)ついで、装置内に導入する反応ガスとしての窒素ガスの流量を調整して4〜10Paの反応雰囲気とすると共に、回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−50Vの直流バイアス電圧を印加し、Al−M合金ターゲットとアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させて所定の目標層厚、目標組成の(AlyM1−y)N層からなる硬質被覆層の上部層を蒸着形成した。
上記工程(a)〜(d)により、表2に示す本発明表面被覆切削工具としての本発明表面被覆超硬製エンドミル(以下、本発明被覆工具と云う)1〜12を製造した。
なお、本発明被覆工具1〜2については、下地層の形成にあたり、Al−V合金ターゲットへの磁束密度印加を行わなかった。
ついで、装置内に導入する反応ガスとしての窒素ガスの流量を調整して4〜10Paの反応雰囲気とすると共に、回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−50Vの直流バイアス電圧を印加し、Al−M合金ターゲットとアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させて所定の目標層厚、目標組成の(AlyM1−y)N層からなる硬質被覆層の上部層を蒸着形成することにより、表3に示す比較例被覆工具7〜12をそれぞれ製造した。
また、上部層の結晶構造は下地層の影響を除去するため薄膜X線回折法により確認することができ、一方、下地層の結晶構造は、上部層を集束イオンビーム(Focused Ion Beam:FIB)法などの手法で加工・除去したのち、X線回折を行うことによって確認した。
表2、表3に、その値を示す。
≪切削条件A≫
被削材:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法のJIS・SKD61(HRC52)の板材、
切削速度: 300 m/min.、
切り込み: ae0.3mm,ap2.0mm、
テーブル送り: 1700 mm/min.、
の条件での焼入れ鋼の乾式高速高切り込み・高送り側面切削加工試験(なお、通常の切り込みはae0.15mm,ap1.0mm、送りは1000mm/min)。
≪切削条件B≫
被削材:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法のJIS・SKD11(HRC60)の板材、
切削速度: 100 m/min.、
溝深さ(切り込み): ae0.2mm,ap2mm、
テーブル送り: 540 mm/min.、
の条件での合金工具鋼の乾式高速高切り込み・高送り側面切削加工試験(なお、通常の切り込みはae0.1mm,ap1.5mm、送りは350mm/min)。
上記のいずれの側面切削加工試験でも、切刃部の外周刃の逃げ面摩耗幅が使用寿命の目安とされる0.1mmに至るまでの切削長を測定し、チッピングの有無を確認した。
表4、表5に、その測定結果を示す。
ただし、表6に示すように、本発明被覆工具13では、M成分としてTi及びSiを、本発明被覆工具14では、M成分としてCr及びSiを、また、本発明被覆工具15では、M成分としてTi及びBを使用した。
また、比較のため、実施例1で作製したWC基超硬合金製の工具基体(エンドミル)5に対して、比較例被覆工具1〜6と同様な方法により、目標層厚、目標組成の(AlyM1−y)N層からなる硬質被覆層を蒸着形成することにより、表6に示す比較例表面被覆切削工具としての比較例被覆超硬製エンドミル(以下、比較例工具と云う)13を製造した。
さらに比較のために、実施例1で作製したWC基超硬合金製の工具基体(エンドミル)6,7に対して、比較例被覆工具7〜12と同様な方法により、目標層厚、目標組成の(AlxV1−x)N層からなる硬質被覆層の下地層と、目標層厚、目標組成の(AlyM1−y)N層からなる硬質被覆層の上部層を蒸着形成することにより、表6に示す比較例工具14,15を製造した。
なお、表6に示すように、比較例被覆工具13では、M成分としてTi及びSiを、比較例被覆工具14では、M成分としてCr及びSiを、また、比較例被覆工具15では、M成分としてTi及びBを使用した。
表6にその値を示す。
表6に、その測定結果を示す。
特に、下地層のh(110)/h(100)を0.2以上0.9以下とした本発明被覆工具3〜15においては、より一段と耐チッピング性、耐摩耗性にすぐれることは明らかである。
これに対して、下地層を形成しなかった比較例被覆工具1〜6,13においては、チッピング発生を原因として、短時間で寿命となり、また、下地層を形成したものであっても、xの値、yの値あるいは、下地層の層厚が本発明範囲外である比較例被覆工具7〜12,14,15においては、本発明被覆工具1〜15に比して、耐チッピング性、耐摩耗性はいずれも劣るものであった。
Claims (2)
- 工具基体の表面に、下地層と上部層からなり、全体平均層厚が1.5〜5μmの硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
(a)前記下地層は、
組成式:(AlxV1−x)Nで表したとき、0.70≦x≦0.95(但し、xは原子比)を満足する平均組成を有し、0.05〜1.0μmの平均層厚を有するウルツ鉱型六方晶構造のAlとVの複合窒化物層からなり、
(b)前記上部層は、
組成式:(AlyM1−y)Nで表したとき、0.45≦y<0.70(但し、yは原子比であり、かつ、Mは周期律表の4a、5a、6a族の元素、SiおよびBのうちから選ばれる1種または2種以上である)を満足する平均組成を有する立方晶構造のAlとMの複合窒化物層からなることを特徴とする表面被覆切削工具。 - 前記下地層について、X線回折を行って測定した(110)面の回折ピーク強度をh(110)、また、(100)面の回折ピーク強度をh(100)としたとき、回折ピーク強度比h(110)/h(100)の値が0.2以上0.9以下であることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
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