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JP6399974B2 - 保護リレー装置 - Google Patents
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Description

この発明は、送電線、配電線、および電力用機器などの電力システムを保護するための保護リレー装置に関する。
保護リレー装置では、定格周波数において定められた電気角に相当する一定周期時間ごとにサンプリングされた電流信号または電圧信号を用いて、種々の電気量を演算する。たとえば、非特許文献1(「保護リレーシステム工学」電気学会)の111頁には、サンプリング周期が電気角の30°に対応する場合において、3サンプリング周期前(すなわち、電気角で90°前)のデータを用いて、振幅値および位相差を演算するための演算式が示されている。
上記の演算式では、電力系統の周波数が定格周波数の場合には3サンプリング周期前のデータが、電気角で正しく90°前になる。しかしながら、周波数が定格周波数からずれた場合には、3サンプリング周期前のデータが、電気角で正しく90°前にならないために誤差が発生する。その結果、保護リレー特性に影響を与えることになる。そこで、電力系統の周波数が定格周波数から外れた場合でも正確な演算結果が得られるように演算式を修正する必要がある。
たとえば、特開平5−49151号公報(特許文献1)は、周波数ずれの影響を受けない振幅値演算方式を開示する。具体的には、入力電気量の所定時刻にサンプリングされたデジタル値Imと、このImを時系列的に挟み、かつ前後に同時刻ずつずれた2つのデジタル値Im-j,Im+jとからIm2−Im-j×Im+jの演算を行う。さらにその結果にIm2と{Im2−(Im-j+Im+j)2/4}との比に相当する補正値を乗算することによって、最終的な振幅値が算出される。
特開平5−49151号公報 特開平1−227613号公報
大浦好文監修、「保護リレーシステム工学」、初版、社団法人電気学会、2002年3月15日、p.111
上記の特開平5−49151号公報(特許文献1)に記載された周波数ずれの影響を受けない演算方法は、振幅値演算に特化されたものであるので、当然ながら、他のリレー演算には適用できないという問題がある。したがって、周波数ずれの影響を考慮しない従来リレー演算方法に比べて特段に複雑な計算を必要とすることなく、いかなる種類のリレー演算にも適用可能な方法が求められている。
この発明は、上記の問題点を考慮してなされたものであって、その目的は、どのような種類のリレー演算に対しても周波数ずれの影響を受けずにリレー演算を実行することが可能な保護リレー装置を提供することである。
この発明は、一局面において保護リレー装置であって、アナログ/デジタル変換部と、差分・加算演算部と、振幅値演算部と、位相遅れデータ算出部と、リレー演算部とを備える。アナログ/デジタル変換部は、電力系統において検出された交流電流または交流電圧を表す電気量を一定周期でサンプリングしてデジタル値に変換することによって、電気量の時系列データを生成する。差分・加算演算部は、電気量のサンプリングごとに、現時点の電気量のデジタル値と現時点からnサンプリング周期前(nは1以上の整数)の電気量のデジタル値との差分量および加算量を算出することによって、差分量および加算量の各々の時系列データを生成する。振幅値演算部は、電気量のサンプリングごとに、電気量の時系列データのうち現時点を含む複数のデータを用いて電気量の振幅値を演算し、差分量および加算量の各々の時系列データに対して電気量の振幅値演算と同一の演算を施すことによって差分量および加算量の各々の振幅値を演算する。位相遅れデータ算出部は、電気量のサンプリングごとに、現時点の電気量のデジタル値を第1の係数倍した値と、現時点から1サンプリング周期前の電気量のデジタル値を第2の係数倍した値との和を演算することによって、現時点の電気量から設定角度だけ位相を遅らせた電気量のデジタル値を算出する。上記の第1の係数および第2の係数は、現時点において算出された電気量、差分量、および加算量の各々の振幅値を用いて表される。リレー演算部は、上記の位相遅れデータ算出部で算出された位相を遅らせた電気量のデジタル値を用いてリレー演算を行う。
この発明によれば、正確に設定角度だけ位相を遅らせた電気量のデジタル値を算出してリレー演算に使用するので、周波数ずれの影響を受けずにリレー演算を実行することが可能になる。さらに設定角度は任意に設定することができるので、どのような種類のリレー演算に対しても適用することができる。
保護リレー装置と電力系統との接続について説明するための図である。 図1の保護リレー装置のハードウェア構成を示すブロック図である。 実施の形態1による保護リレー装置の機能的構成を示すブロック図である。 図3のデジタル入力処理部の動作を示すフローチャートである。 図4の各ステップでの計算に用いられるデータ間の関係を示すベクトル図である。 実施の形態2の保護リレー装置において、デジタル入力処理部での計算に用いられるデータ間の関係を示すベクトル図である。 実施の形態2の保護リレー装置において、デジタル入力処理部の動作を示すフローチャートである。 実施の形態3による保護リレー装置の機能的構成を示すブロック図である。 図8のデジタル入力処理部の動作を示すフローチャートである。 図9の各ステップでの計算に用いられるデータ間の関係を示すベクトル図である。
以下、各実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰返さない。
<実施の形態1>
図1は、保護リレー装置と電力系統との接続について説明するための図である。
図1に示すように、電力系統の送電線1には、電流変成器(CT:Current Transformer)2および電圧変成器3(VT:Voltage Transformer)が設置されている。送電線1は3相交流用のものであるが、図1では、簡略化して1本の線で示している。電流変成器2および電圧変成器3は、送電線1の各相ごとに設けられている。
保護リレー装置10は、電流変成器2および電圧変成器3と接続される。電流変成器2は、送電線1を流れる電流を保護リレー装置10への入力に適した大きさの電流に変換する。電流変成器2による変換後の電流は保護リレー装置10に入力される。同様に、電圧変成器3は、送電線1の電圧を保護リレー装置10への入力に適した大きさの電圧に変換する。電圧変成器3による変換後の電圧は保護リレー装置10に入力される。
[保護リレー装置のハードウェア構成]
図2は、図1の保護リレー装置のハードウェア構成を示すブロック図である。図2を参照して、保護リレー装置10は、補助変成器12_1,12_2,…を内蔵する入力変換ユニット11と、デジタルリレーユニット13とを含む。
入力変換ユニット11は、図1の電流変成器2から出力された各相の電流信号および図1の電圧変成器3から出力された各相の電圧信号が入力される入力部である。各補助変成器12は、電流変成器2および電圧変成器3からの電流信号および電圧信号をデジタルリレーユニット13での信号処理に適した電圧レベルの信号に変換する。
デジタルリレーユニット13は、アナログフィルタ(AF:Analog Filter)14_1,14_2,…と、サンプルホールド回路(S/F:Sample Hold Circuit)15_1,15_2,…と、マルチプレクサ(MPX:Multiplexer)16と、アナログデジタル(A/D:Analog to Digital)変換器17とを含む。デジタルリレーユニット13は、さらに、CPU(Central Processing Unit)18と、RAM(Random Access Memory)19と、ROM(Read Only Memory)20と、デジタル入力(D/I:Digital Input)回路21と、デジタル出力(D/O:Digital Output)回路22と、これらの各構成要素を接続するバス23とを含む。
各アナログフィルタ14は、A/D変換の際の折返し誤差を除去するために設けられたローパスフィルタである。各サンプルホールド回路15は、対応のアナログフィルタ14を通過した信号を所定のサンプリング周波数でサンプリングして保持する。マルチプレクサ16は、サンプルホールド回路15_1,15_2,…に保持された電圧信号を順次選択する。A/D変換器17は、マルチプレクサによって選択された信号をデジタル値に変換する。CPU18は、保護リレー装置10の全体の動作を制御する。RAM19およびROM20は、CPU18の主記憶として用いられる。ROM20は、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリーを用い、プログラムおよび/または使用者が系統に合わせてリレー特性を決定する設定値などを収納することができる。デジタル入力回路21およびデジタル出力回路22は、CPU18が保護リレー装置10の外部との間で通信を行う際のインターフェース回路である。
[保護リレー装置の機能的構成]
図3は、実施の形態1による保護リレー装置の機能的構成を示すブロック図である。保護リレー装置10は、機能的にみると、アナログ回路30と、A/D変換部31と、デジタル入力処理部32と、リレー演算部33と、デジタル出力部34とを含む。
アナログ回路30は、図2の入力変換ユニット11およびアナログフィルタ14などに対応するものである。具体的に、アナログ回路30は、電流変成器2および電圧変成器3と保護リレー装置10の内部回路とを絶縁するとともに、電流変成器2および電圧変成器3からそれぞれ入力された電流信号および電圧信号を保護リレー装置10の内部の内部信号に変換する。さらに、アナログ回路30は、アナログフィルタ14によって電流信号および/または電圧信号に含まれる高周波信号を除去する。
A/D変換部31は、図2のサンプルホールド回路15、マルチプレクサ16、およびA/D変換器17などに対応するものである。具体的に、A/D変換部31は、アナログ回路30によって処理された電流信号および電圧信号を、順番にデジタル変換する。デジタル変換された電流信号および電圧信号は、次段のデジタル入力処理部32に入力される。
デジタル入力処理部32およびリレー演算部33の機能は、ROM20に予め格納されたプログラムに従ってCPU18が動作することによって実現される。デジタル入力処理部32は、デジタル変換された電流信号および電圧信号を用いて、次段のリレー演算部33において各種の保護リレー演算をする際に使用するデータを生成する。この実施の形態の場合、デジタル入力処理部32は、データ蓄積部40と、差分・加算演算部41と、振幅値演算部42と、三角関数演算部43と、位相遅れデータ算出部44とを含む。これらの構成要素の具体的な演算処理については、次図4のフローチャートとともに説明する。
リレー演算部33は、デジタル入力処理部32から入力されたデータを用いて、各種のリレー演算を行う。たとえば、リレー演算部は、非特許文献1に記載されているような位相差演算および振幅値演算などを行う。リレー演算部33は、リレー演算結果に基づいて電力系統に故障が発生したか否かを判定する。リレー演算部33は、故障と判定すると、次段のデジタル出力部34(図2のデジタル出力回路22に対応する)を駆動することよって、リレー出力として開放信号を対応する適切な遮断器(図示せず)に出力する。この開放信号を受けて遮断器が動作することによって、検出された故障部位が電力系統から切り離される。
[デジタル入力処理部の動作]
図4は、図3のデジタル入力処理部の動作を示すフローチャートである。図3のデジタル入力処理部32は、デジタル変換された電流信号および電圧信号を用いて、リレー演算部33でのリレー演算に使用するデータを生成する。たとえば、デジタル入力処理部32は、振幅値演算および位相差演算に必要な90°の位相遅れのデータを生成する。この際、生成される90°遅れ位相データは、電力系統の周波数ずれの影響を考慮した値となっている点に特徴がある。以下、図3および図4を参照して具体的に説明する。以下では、電力系統において検出された交流電圧および交流電流を総称して電気量と称する。サンプリング周期ごとにサンプリングされデジタル化された電気量(電圧値Vmおよび/または電流値Im)を電気量のデジタル値と称する。
(1.サンプルデータの蓄積)
まず、データ蓄積部40(たとえば、図2のRAM19に対応する)は、A/D変換部31によってデジタル変換された電気量(電圧信号および/または電流信号)を一定時間分(すなわち、現時点よりnサンプリング周期前の電気量のデジタル値Vm-nから現時点の電気量のデジタル値Vmまで)蓄積する(図4のステップS100)。すなわち、データ蓄積部40は、電気量のデジタル値Vmの時系列データを生成する。このときのサンプリング周期は、電気角に換算して30°、22.5°または36°など任意の周期でよい。サンプル数nは、デジタル入力処理部32およびリレー演算部33での演算に必要なサンプル数に応じて決定される。現時点の最新の電気量のデジタル値は、最も古い電気量のデジタル値に上書きされる形で蓄積されるので、常に現在よりnサンプリング周期前までのn+1個のデータVm,Vm-1,…,Vnがデータ蓄積部40に蓄積される。
なお、図2のA/D変換器17は実際にはより短い周期(たとえば、電気角換算で3.75°)ごとにA/D変換を行っており、A/D変換後のデータを上記のサンプリング周期ごとに時間平均化したものがデジタル入力処理部32での演算に用いられる。
(2.差分量と加算量の計算)
次に、差分・加算演算部41は、電気量のサンプリングごとに、現時点の電気量のデジタル値Vmと2サンプリング周期前の電気量のデジタル値Vm-2の2点のデータを使って差分演算と加算演算とを行う。すなわち、差分・加算演算部41は、差分量Dmおよび加算量Smとして、
Dm=−(Vm−Vm-2) …(1)
Sm=Vm+Vm-2 …(2)
を演算する(ステップS110)。データ蓄積部40は、上記の差分量Dmおよび加算量Smを、後続する演算に必要な時間分だけ蓄積する(ステップS120)。すなわち、データ蓄積部40は、差分量Dmおよび加算量Smの各々の時系列データを生成する。
(3.振幅値の演算)
次に、振幅値演算部42は、電気量のサンプリングごとに、電気量の時系列データのうち現時点を含む複数の時点における電気量のデジタル値Vmを用いて電気量の振幅値AVmを演算する。さらに、振幅値演算部42は、差分量Dmおよび加算量Smの各々の時系列データに対して、上記の電気量の振幅値演算と同一の演算を施すことによって、差分量Dmの振幅値ADmおよび加算量Smの振幅値ASmを計算する(ステップS130)。ここで、差分量Dmの振幅値ADmおよび加算量Smの振幅値ASmとは、差分量Dmおよび加算量Smの各時系列データを交流信号のサンプリングデータとしてみたときの交流信号の振幅値を意味している。
上記の振幅値演算には、歪みのない交流入力であれば、サンプリング時刻の位相角に関係なく振幅値が一定になる演算方式を採用する。たとえば、特開平1−227613号公報(特許文献2)に記載の方法を用いる。この文献は、ある所定時刻の電気量のデジタル値Vm、そのxサンプリング周期前の電気量のデジタル値値Vm-x、yサンプリング周期前の電気量のデジタル値Vm-y、およびzサンプリング周期前の電気量のデジタル値Vm-zを用いて(ただし、z=x+y)、電気量のデジタル値Vm-xと電気量のデジタル値Vm-yとの積と、電気量のデジタル値Vmと電気量のデジタル値Vm-zとの積との差に基づいて電気量の振幅値演算を行う方法を開示する。具体的には、上記の差の絶対値の平方根が算出される。
以下、振幅値演算部42は、上記の特開平1−227613号公報(特許文献2)に記載の演算式のうち、x=y=1、z=2の場合の演算式を用いて振幅値演算を行うものとする(x,y,zの値に上記の値には限られない)。この場合、振幅値AVm、振幅値ADm、および振幅値ASmは、
AVm=K*√(|Vm-1*Vm-1−Vm*Vm-2|) …(3)
ADm=K*√(|Dm-1*Dm-1−Dm*Dm-2|) …(4)
ASm=K*√(|Sm-1*Sm-1−Sm*Sm-2|) …(5)
のように表される。ここで、√(A)はAの平方根を表し、|A|はAの絶対値を表す。乗算記号として「*」を用いている。係数Kは、周波数に依存するものであるが、上式(3),(4),(5)で共通する値である。したがって、上式(3),(4),(5)のうち、いずれか2式の比をとることによって係数Kを消去できる。図4のフローチャートでは簡単のために、係数Kの記載を省略している。
(4.電気角θの三角関数の計算)
次に、三角関数演算部43は、サンプリング周期に対応する電気角θ(1サンプリング周期当たりの角度変位θ)の三角関数を計算する(ステップS140)。具体的に、三角関数演算部43は、
cosθ=ASm/(2*AVm) …(6)
sinθ=ADm/(2*AVm) …(7)
tanθ=ADm/ASm …(8)
に従って、電気角θの余弦、正弦、正接を演算する。上式に従って、電気角θの三角関数が得られる理由については、図5を参照して後述する。
(5.周波数のずれを考慮した位相遅れデータの算出)
次に、位相遅れデータ算出部44は、現在の電気量のデジタル値Vmから所望の角度φだけ位相遅れの値Vm∠(−φ)を算出する(ステップS150)。たとえば、位相遅れデータ算出部44は、現在の電気量のデジタル値Vmから90°位相が遅れた値Vm∠(−90°)を、
Vm∠(-90°)=Vm-1/sinθ−Vm/tanθ …(9)
に従って算出する。上式(9)に式(7)および(8)を代入することによって、90°位相遅れデータVm∠(−90°)は、
Vm∠(-90°)=Vm-1*2*AVm/ADm−Vm*ASm/ADm …(10)
と表される。
上式(9)を用いて90°位相が遅れた値を算出できる理由については、図5を参照して後述する。さらに、任意の角度φだけ位相が遅れたデータの算出方法についても、図5を参照して後述する。
ここで、たとえば、サンプリング周期に対応する電気角が30°であるとすると、定格周波数の場合には正確に30°になる。しかしながら、周波数が定格より外れると、サンプリング周期に対応する電気角は正確に30°にならず、周波数に依存した角度になる。このため、たとえば、位相差演算に必要な90°の位相遅れデータを単純に3サンプリング周期前の値Vm-3を用いると、周波数が定格からずれている場合には90°の位相遅れにはならず誤差が生じる。これに対して、上式(9)または(10)に従って算出した90°位相遅れデータを用いることによって、周波数変動の影響を受けずに、現時点から正確に90°位相遅れのデータが得られる。
[ベクトル図を用いた説明]
図5は、図4の各ステップでの計算に用いられるデータ間の関係を示すベクトル図である。以下では、電圧ベクトルについて説明するが、電流ベクトルについても同じ関係が成り立つ。以下の説明では、簡単のために、電気量Vm、差分量Dm、および加算量Smの各々の瞬時値とベクトルとで同じ参照符号を用いている。
図5(A)のベクトル図は、現時点の電圧ベクトルVmと、1サンプリング周期前の電圧ベクトルVm-1と、2サンプリング周期前の電圧ベクトルVm-2との関係を示す。1サンプリング周期ごとに、電圧ベクトルは1サンプリング周期に対応する角度θだけ変位する。図5(A)では、さらに、差分ベクトルDm=−(Vm−Vm-2)が示されている。図5(A)から、差分ベクトルDmの振幅値ADmと電圧ベクトルVmの振幅値AVmとの関係は、
ADm=2*AVm*sinθ …(11)
と表される。
図5(B)のベクトル図は、電圧ベクトルVm,Vm-1,Vm-2と加算ベクトルSm=Vm+Vm-2との関係を示す。図5(B)から、加算ベクトルSmの振幅値ASmと電圧ベクトルVmの振幅値AVmとの関係は、
ASm=2*AVm*cosθ …(12)
によって表される。式(11)および(12)から、前述の式(6),(7),(8)に示す電気角θの三角関数が導かれる。
図5(C)のベクトル図は、電圧ベクトルVmと電圧ベクトルVm-1との線形和(一次結合)によって、90°の位相遅れベクトルVm∠(−90°)を構成する方法を説明するためのものである。図5(C)に示すように、スカラーk1,k2を用いて90°の位相遅れのベクトルVm∠(−90°)は、
Vm∠(-90°)=k2*Vm-1−k1*Vm …(13)
と表すことができる。
ここで、ベクトルk2*Vm-1、ベクトルk1*Vm、およびベクトルVm∠(−90°)で構成される三角形の一辺は、それぞれ、k2*AVm-1、k1*AVm、およびAVmの大きさを有し、AVm=AVm-1なので、各辺の長さの比は、k2:k1:1で表される。したがって、正弦定理により、
1/sinθ=k1/sin(90°−θ)=k2/sin90° …(14)
が成り立つ。すわなち、
1/sinθ=k1/cosθ=k2 …(15)
が成立する。これより、係数k1,k2は、
k1=cosθ/sinθ=1/tanθ …(16)
k2=1/sinθ …(17)
と与えられる。上式(16),(17)を式(13)に代入することによって、前述の式(9)が導かれる。上記の計算過程から明らかなように、位相遅れベクトルVm∠(−90°)は、周波数変動の影響を受けない。
[任意の位相φだけ遅れたベクトルVm∠(−φ)の計算方法]
図5(D)のベクトル図は、電圧ベクトルVmと電圧ベクトルVm-1との線形和(一次結合)によって、電圧ベクトルVmから位相φだけ遅れたベクトルVm∠(−φ)を構成する方法を示している。図5(D)に示すように、スカラーk3,k4を用いて、遅れ位相φのベクトルVm∠(−φ)は、
Vm∠(-φ)=k4*Vm-1−k3*Vm …(18)
と表すことができる。
ここで、ベクトルk4*Vm-1、ベクトルk3*Vm、およびベクトルVm∠(−φ)で構成される三角形の一辺は、それぞれ、k4*AVm-1、k3*AVm、およびAVmの大きさを有し、AVm=AVm-1なので、各辺の長さの比は、k4:k3:1で表される。したがって、正弦定理により、
1/sinθ=k3/sin(φ−θ)=k4/sin(180°−φ) …(19)
が成り立つ。これより、係数k3,k4は、
k3=sin(φ−θ)/sinθ=(sinφ*cosθ−cosφ*sinθ)/sinθ
=sinφ/tanθ−cosφ …(20)
k4=sinφ/sinθ …(21)
となる。
上式(20),(21)を式(18)に代入することによって、
Vm∠(-φ)=Vm-1*sinφ/sinθ−Vm*(sinφ/tanθ−cosφ) …(22)
が得られる。さらに、上式(22)に式(7),(8)を代入することによって、
Vm∠(-φ)=Vm-1*sinφ*2AVm/ADm−Vm*(sinφ*ASm/ADm−cosφ) …(23)
が得られる。このように、ベクトルVmを任意の角度に位相シフトする演算が可能となる。
[効果]
上記のとおり、実施の形態1によれば、入力データが定格周波数から外れても正確に現時点より90°遅れ位相のベクトルの瞬時値を演算することができる。この正確な90°遅れ位相のベクトルの瞬時値を用いることによって、周波数ずれに影響のない位相差演算や振幅値演算結果を得ることができる。さらに、同様の演算方法により現時点より任意の位相角φだけ遅れたベクトルの瞬時値を求めることができ、リレー演算に供することができる。
さらに、上記の演算は、サンプリング周期(電気角θ)に関わらず演算できる。したがって、サンプリング周期が標準的な30°電気角の場合だけでなく、22.5°(定格周波数の16倍のサンプリング周波数)または36°(定格周波数の10倍のサンプリング周波数)などのサンプリング周期を適用する保護リレーでも同様の演算で振幅値演算および位相差演算を行うことができる。これにより、サンプリング周期に応じて演算アルゴリズムを変更する必要がないという利点がある。
<実施の形態2>
実施の形態1では、現時点の電流または電圧ベクトルと2サンプリング周期前の電流または電圧ベクトルとを用いて、現時点より90°位相遅れ又は任意の角度φだけ位相遅れの電流または電圧ベクトルを求める方法について説明した。実施の形態2では、現時点の電流または電圧ベクトルと1サンプリング周期前の電流または電圧ベクトルとを用いて、サンプリング周波数に依存しないで、90°位相遅れおよび任意の位相角φだけ位相遅れの電流または電圧ベクトルを求めることができる演算式を提供する。
[90°位相遅れデータの演算式]
図6は、実施の形態2の保護リレー装置において、デジタル入力処理部での計算に用いられるデータ間の関係を示すベクトル図である。以下では、電圧ベクトルについて説明するが、電流ベクトルについても同じ関係が成り立つ。
図6(A)のベクトル図は、現時点の電圧ベクトルVmと、1サンプリング周期前の電圧ベクトルVm-1と、差分ベクトルEm=−(Vm−Vm-1)との関係を示すものである。図6(A)から、差分ベクトルEmの振幅値AEmと電圧ベクトルVmの振幅値AVmとの関係は、
AEm=2*AVm*sin(θ/2) …(24)
によって表される。
図6(B)のベクトル図は、現時点の電圧ベクトルVmと、1サンプリング周期前の電圧ベクトルVm-1と、加算ベクトルTm=Vm+Vm-1との関係を示すものである。図6(B)から、加算ベクトルTmの振幅値ATmと電圧ベクトルVmの振幅値AVmとの関係は、
ATm=2*AVm*cos(θ/2) …(25)
によって表される。ここで、現時点の電圧ベクトルVmと、1サンプリング周期前の電圧ベクトルVm-1との間の電気角をθとしている。
上式(24),(25)から、
cos(θ/2)=ATm/(2*AVm) …(26)
sin(θ/2)=AEm/(2*AVm) …(27)
が得られる。さらに、上式(26),(27)と三角関数の倍角公式を用いることによって、
sinθ=2*sin(θ/2)*cos(θ/2)=2*(AEm/2*AVm))*(ATm/(2*AVm)
=AEm*ATm/(2*AVm*AVm) …(28)
cosθ=2*((cos(θ/2))2−1)=2*(ATm/2*AVm)*(ATm/(2*AVm)−1
=ATm*ATm/(2*AVm*AVm)−1 …(29)
tanθ=(AEm*ATm/(2*AVm*AVm))/(ATm*ATm/(2*AVm*AVm)−1)
=AEm*ATm/(ATm*ATm−2*AVm*AVm) …(30)
が得られる。
前述の図5(C)のベクトル図を参照して説明したように、現時点の電圧ベクトルVmから90°位相遅れの電圧ベクトルVm∠(−90°)は、前述の式(9)で表わされる。したがって、式(9)に上記の式(28),(30)を代入することによって、90°位相遅れの電圧ベクトルVm∠(−90°)は、
Vm∠(-90°)=Vm-1/sinθ−Vm/tanθ
=Vm-1*2*AVm*AVm/(AEm*ATm)−Vm*(ATm*ATm−2*AVm*AVm)/(AEm*ATm) …(31)
と演算できる。
図7は、実施の形態2の保護リレー装置において、デジタル入力処理部の動作を示すフローチャートである。以下、図3および図7を参照して、上記の演算方法を総括する。
まず、データ蓄積部40は、A/D変換部31によってデジタル変換された電気量(電圧信号および/または電流信号)を一定時間分(すなわち、現時点よりnサンプリング周期前の電気量のデジタル値Vm-nから現時点の電気量のデジタル値Vmまで)蓄積する(図7のステップS200)。すなわち、データ蓄積部40は、電気量のデジタル値Vmの時系列データを生成する。
次に、差分・加算演算部41は、電気量のサンプリングごとに、現時点の電気量のデジタル値Vmと1サンプリング周期前の電気量のデジタル値Vm-1の2点のデータを使って差分演算と加算演算とを行う(ステップS210)。差分量Emおよび加算量Tmは、
Em=−(Vm−Vm-1) …(32)
Tm=Vm+Vm-1 …(33)
と表わされる。データ蓄積部40は、差分量Emおよび加算量Tmを、後続する演算に必要な時間分だけ蓄積する(ステップS220)。すなわち、データ蓄積部40は、差分量Emおよび加算量Tmの各々の時系列データを生成する。
次に、振幅値演算部42は、電気量のサンプリングごとに、電気量の時系列データのうち現時点を含む複数の時点における電気量のデジタル値Vmを用いて電気量の振幅値AVmを演算する。さらに、振幅値演算部42は、差分量Dmおよび加算量Smの各々の時系列データに対して、上記の電気量の振幅値演算と同一の演算を施すことによって、差分量Emの振幅値AEm、および加算量Tmの振幅値ATmを計算する(ステップS230)。振幅値演算には、歪みのない交流入力であれば、サンプリング時刻の位相角に関係なく振幅値が一定になる演算方式を採用する。具体的には、特開平1−227613号公報(特許文献2)に記載の方法を用い、たとえば、式(3)〜(5)で説明したものと同様の計算を行う。
次に、三角関数演算部43は、サンプリング周期に対応する電気角θ(1サンプリング当たりの角度変位θ)の三角関数を演算する(ステップS240)。三角関数の演算式は、上式(28)〜(30)に示されている。
次に、位相遅れデータ算出部44は、上式(31)に従って、現在の電気量のデジタル値Vmから90°だけ位相遅れの値Vm∠(−90°)を算出する(ステップS250)。
[任意の位相角φだけ遅れたデータの演算式]
現在の電圧ベクトルVmから角度φだけ位相が遅れた電圧ベクトルVm∠(−φ)は、前述の式(22)で与えられる。式(22)に上記の式(28),(30)を代入することによって、角度φだけ位相の遅れた電圧ベクトルルVm∠(−φ)は、
Vm∠(-φ)=Vm-1*sinφ/sinθ−Vm*(sinφ/tanθ-cosφ)
=Vm-1*sinφ*2*AVm*AVm/(AEm*ATm)
−Vm*(sinφ*(ATm*ATm−2*AVm*AVm)/(AEm*ATm)−cosφ) …(34)
と演算できる。
以上のように、実施の形態2では、現時点の電流または電圧ベクトルと1サンプリング周期前の電流または電圧ベクトルとを用いて、サンプリング周波数に依存しないで、現時点よりも90°遅れの電流または電圧ベクトルおよび任意の位相角φだけ位相の遅れた電流または電圧ベクトルを生成する演算式が提供される。この演算式は、実施の形態1の場合と同様に周波数変動の影響を受けないものであるとともに、実施の形態1の場合に比べて応答性が高いものとなっている。
<実施の形態1,2の変形例>
実施の形態1では、現時点の電気量のデジタル値と2サンプリング周期前の値との差分量と加算量を用いて周波数変動に依存しない位相遅れデータを演算する方法を示し、実施の形態2では、現時点の電気量のデジタル値と1サンプリング周期前の値との差分量と加算量とを用いて周波数変動に依存しない位相遅れデータを演算する方法を示した。同様の考え方を用いることによって、現時点の電気量のデジタル値とnサンプリング周期前(nは1以上の整数)の値との差分量と加算量とを用いて周波数変動に依存しないような位相遅れデータを算出することができる。ただし、nサンプリング周期前の位相は、現時点よりも180°未満であるのが望ましいので、サンプリング周期に対応する電気角をθとし、周波数の変動を10%とすると、上記のnは、n*θ≦160°(≒180°*90%)の関係を満たす必要がある。ただし、nが大きくなるほど応答性が悪くなることになるので、実用上はn=1またはn=2が望ましい。
<実施の形態3>
たとえば、変化幅検出リレー演算などでは、現時点の電気量のデジタル値と数サイクル前の電気量のデジタル値(例えば2サイクル前の電気量のデジタル値)と差分をとり、その差分量が変化したか否かを判定することによって、電流または電圧の変化を検出する。このようなリレーでは、周波数が定格周波数の場合で、電力系統に変化がない場合では、現時点の電気量のデジタル値とpサイクル前(pは1以上の整数)の電気量のデジタル値との差分は0であるが、周波数が定格より外れると差分結果に周波数ずれに伴う誤差が生じて、誤検出の要因となる。
実施の形態3では、周波数が定格周波数から外れているために、たとえば、2サイクル前の電気量のデジタル値に生じる位相ずれを補正することができる演算方法を提供する。以下、図面を参照して詳しく説明する。
[デジタル入出力部の構成および動作]
図8は、実施の形態3による保護リレー装置の機能的構成を示すブロック図である。図8の保護リレー装置10は、デジタル入力処理部32が、位相ずれ補正部45をさらに含む点で図3の保護リレー装置10と異なる。2サイクル前(一般的にはpサイクル前)から現時点までの位相ずれ量をαとすると、位相ずれ補正部45は、現時点から2サイクル前の電気量(電圧信号および/または電流信号)のデジタル値Vm-2cについて、位相ずれ角αを補正した値Vm-2c∠(α)を算出する。具体的な算出方法は、図9のフローチャートを参照して後述する。上記の表記において、たとえば、サンプリング周期に対応する電気角θを30°とした場合、1サイクルでのサンプリング数を表すcは、c=12であり、電気角θを22.5°とした場合、c=16である。1サイクルは電気角で360°に対応する。
さらに、図8の保護リレー装置10では、差分・加算演算部41の演算内容および位相遅れデータ算出部44の演算内容おいて異なる点がある。これらの異なる点については、図9のフローチャートを参照して後述する。図8のその他の点は図3とほぼ同じであるので、同一または相当する部分については同一の参照符号を付して説明を繰返さない。
図9は、図8のデジタル入力処理部の動作を示すフローチャートである。以下、図8および図9を参照して、周波数ずれに起因して数サイクル前の電気量のデジタル値に位相ずれが生じた場合の位相の補正方法について説明する。以下では、2サイクル前の電気量のデジタル値Vm-2cの補正方法について説明するが、2サイクル前の電気量のデジタル値Vm-2cの位相ずれの補正に限らず、一般にpサイクル前(pは1以上の整数)の電気量のデジタル値Vm-pcの位相ずれの補正にも適用可能である。
(1.電気量のデジタル値の蓄積)
まず、データ蓄積部40は、A/D変換部31によってデジタル変換された電気量(電圧信号および/または電流信号)を一定時間分(現時点よりnサンプリング周期前の電気量のデジタル値Vm-nから現時点の電気量のデジタル値Vmまで)蓄積する(図9のステップS300)。すなわち、データ蓄積部40は、電気量のデジタル値Vmの時系列データを生成する。サンプル数nは、デジタル入力処理部32およびリレー演算部33での演算に必要なサンプル数に応じて決定される。
(2.差分量と加算量の計算)
次に、差分・加算演算部41は、電気量のサンプリングごとに、現時点の電気量のデジタル値Vmと、位相補正する2サイクル前の2倍である4サイクル前(一般に、2pサイクル前)の電気量のデジタル値Vm-4cの2点のデータを使って差分演算と加算演算とを行う。すなわち、差分・加算演算部41は、差分量Gmおよび加算量Wmとして、
Gm=−(Vm−Vm-4c) …(35)
Wm=Vm+Vm-4c …(36)
を演算する(ステップS310)。さらに、差分・加算演算部41は、現時点の電気量のデジタル値Vmと2サンプリング周期前の値Vm-2との差分量Dmとして、
Dm=−(Vm−Vm-2) …(37)
を演算する。データ蓄積部40は、上記の差分量Dmおよび差分量Gmおよび加算量Wmを、後続する演算に必要な時間分だけ蓄積する(ステップS320)。すなわち、データ蓄積部40は、差分量Dm、差分量Gm、および加算量Wmの各々の時系列データを生成する。
(3.振幅値の演算)
次に、振幅値演算部42は、電気量のサンプリングごとに、電気量の時系列データのうち現時点を含む複数の時点における電気量のデジタル値Vmを用いて電気量の振幅値AVmを演算する。さらに、振幅値演算部42は、差分量Dm、差分量Gm、および加算量Wmの各々の時系列データに対して、上記の電気量の振幅値演算と同一の演算を施すことによって、差分量Dmの振幅値ADm、差分量Gmの振幅値AGm、および加算量Wmの振幅値AWmを計算する(ステップS330)。ここで、振幅値演算には、歪みのない交流入力であれば、サンプリング時刻の位相角に関係なく振幅値が一定になる演算方式を採用する。たとえば、特開平1−227613号公報(特許文献2)に記載の方法を用いる。前述の式(3)〜(5)と同じ演算式を用いると、
AVm=K*√(|Vm-1*Vm-1−Vm*Vm-2|) …(38)
ADm=K*√(|Dm-1*Dm-1−Dm*Dm-2|) …(39)
AGm=K*√(|Gm-1*Gm-1−Gm*Gm-2|) …(40)
AWm=K*√(|Wm-1*Wm-1−Wm*Wm-2|) …(41)
と表される。データ蓄積部40は、これらの振幅値についても後続する演算に必要な分だけ蓄積する。
(4.電流または電圧の急変の検出)
次に、振幅値演算部42は、電力系統に故障が発生することにより電力系統の電流または電圧が急変したか否かを判定する(ステップS340)。電流または電圧が急変すると入力された電気量の位相および振幅が急変するため、ステップS330で演算した各振幅値は以前の値と違う値になる。したがって、振幅値演算部42は、現時点の振幅値と1〜2サイクル前の振幅値との差の絶対値が判定値以上であるか否か、すなわち、
|AVm−AVm-j|>M1 …(42)
|ADm−ADm-j|>M2 …(43)
|AGm−AGm-j|>M3 …(44)
|AWm−AWm-j|>M4 …(45)
のいずれかが成立することを判定する。ここで、m−jは、現時点よりjサイクル前の電気量のデジタル値であることを示し、jとして一般的には1サイクル〜2サイクル程度の値が選択される。判定値M1,M2,M3,M4は、一般的には電流定格または電圧定格の数%程度の変化を検出できる値に設定される。なお、実際には、上記4式すべてを判定する必要はなく、このうちのいずれか1つによる判定でも構わない。
振幅値演算部42は、上記の式(42)〜(45)のいずれかが成立した場合には、次の角度計算をするステップS350を実行せずに、処理をその次のステップS360に進める。電流または電圧の急変を検出した場合に、次ステップの角度計算を実行しない理由は次のとおりである。第1に、電気量(電流および/または電圧)の急変時には、電気量の振幅値および位相なども急変するために周波数変動に起因した位相シフト量αを正しく評価できないためである。第2に、周波数の変動がたとえあったとしても発電機の慣性により比較的ゆっくりとした変化となるので、急変検出前の電気量のデジタル値、角度θ、および位相シフト量αを使った計算を行っても実用上問題ないためである。
(5.位相シフト量αおよび電気角θの三角関数の計算)
次に、三角関数演算部43は、ステップS330で計算した電気量のデジタル値Vmの振幅値AVm、差分量Dmの振幅値ADm、差分量Gmの振幅値AGm、および加算量Wmの振幅値AWmを用いて、2サイクル間での電気量のデジタル値Vmの位相シフト量を示す電気角αの三角関数を演算する(ステップS350)。具体的に、三角関数演算部43は、
cosα=AWm/(2*AVm-2c) …(46)
sinα=AGm/(2*AVm-2c) …(47)
に従って、位相シフト用αに余弦及び正弦を算出する。さらに、三角関数演算部43は、1サンプリング周期に対応する電気角θの正弦を、
sinθ=ADm+1-2c/(2*AVm-2c) …(49)
に従って算出する。ここで、位相シフト量αは、入力データの周波数に依存する。上式では、2サイクル前の電気量の振幅値AVm-2cを演算に用いたが、電気量(電流または電圧)が急変状態でない場合、すなわち、AVm-2c=AVmがほぼ成立している状態を仮定しているので、現時点の電気量の振幅値AVmを演算に用いても特に問題はない。
(6.90°位相遅れデータの算出)
次に、位相遅れデータ算出部44は、電気量のサンプリングごとに、現時点より2サイクル前の電気量のデジタル値Vm-2cと、それより1サンプリング周期後の電気量のデジタル値Vm+1-2cとを用いて、現時点より2サイクル前の電気量のデジタル値Vm-2cよりも90°位相の遅れた値Vm-2c∠(−90°)を算出する(ステップS360)。具体的に、位相遅れデータ算出部44は、
Vm-2c∠(-90°)=Dm+1-2c/(2*sinθ) …(50)
に従って90°位相の遅れた値Vm-2c∠(−90°)を算出する。
(7.位相ずれαの補正)
次に、位相ずれ補正部45は、定格周波数時に2サイクル前に相当する電気量のデジタル値Vm-2cを、位相シフト量αだけ位相を戻した値Vm-2c∠(α)を演算する(ステップS370)。具体的には、図10で説明するように、Vm-2c∠(α)とVm-2c∠(-90°)との関係より、
Vm-2c∠(α)=Vm-2c*cosα−Vm-2c∠(-90°)*sinα …(51)
が成り立つ。
[ベクトル図を用いた説明]
図10は、図9の各ステップでの計算に用いられるデータ間の関係を示すベクトル図である。以下では、電圧ベクトルVmについて説明するが電流ベクトルImについても同じである。以下の説明では、簡単のために、電気量Vm、差分量Dm、差分量Gm、および加算量Wmの各々の瞬時値とベクトルとで同じ参照符号を用いている。
図10(A)のベクトル図は、現時点の電圧ベクトルVmと、2サイクルの前の電圧ベクトルVm-2cと、4サイクル前の電圧ベクトルVm-4cとの関係を示す。定格周波数からの周波数ずれに起因して2サイクルごとにαだけ位相がシフトしている。図10(A)では、さらに、差分ベクトルGm=−(Vm−Vm-4c)が示されている。図10(A)から、差分ベクトルGmの振幅値AGmと電圧ベクトルVm-2cの振幅値AVm-2cとの関係は、
AGm=2*AVm-2c*sinα …(52)
によって表される。
図10(B)のベクトル図は、電圧ベクトルVm,Vm-2c,Vm-4cと加算ベクトルWm=Vm+Vm-4cとの関係を示す。図10(B)から、加算ベクトルWmの振幅値AWmと電圧ベクトルVmの振幅値AVmとの関係は、
AWm=2*AVm-2c*cosα …(53)
によって表される。
図10(C)のベクトル図は、現時点から2サイクル前の電圧ベクトルVm-2cと、この電圧ベクトルよりも1サンプリング周期前のベクトルVm-1-2cと、1サンプリング周期後のベクトルVm+1-2cとの関係を示す。1サンプリング周期ごとに、電圧ベクトルは角度θだけ変位する。図10(C)では、さらに、差分ベクトルDm+1-2c=−(Vm+1-2c−Vm-1-2c)が示されている。差分ベクトルDm+1-2cは、現時点よりも2サイクル前の電気量のデジタル値Vm-2cについて、1サンプリング周期前の電圧ベクトルVm-1-2cと1サンプリング周期後の電圧ベクトルVm+1-2cとの差である。図5(c)から、差分ベクトルDm-2cの振幅値ADm-2cは、電圧ベクトルVm+1-2cの振幅値AVm+1-2cの2*sinθ倍となるので、
ADm+1-2c=2*AVm-2c*sinθ …(54)
の関係が成り立つ。さらに、上式(54)を用いることにより、電圧ベクトルVm-2cよりも90°位相が遅れたベクトルVm-2c∠(−90°)は、
Vm-2c∠(-90°)=Dm+1-2c/(2*sinθ)=Dm+1-2c*(AVm-2c/ADm+1-2c) …(55)
で与えられる。式(52)〜(54)から前述の三角関数の式(46)〜(49)が得られる。
図10(D)のベクトル図は、現時点よりも2サイクル前の電圧ベクトルVm-2cを角度αだけ位相シフトした電圧ベクトルVm-2c∠αを、電圧ベクトルVm-2cと、電圧ベクトルVm-2cから90°位相が遅れた電圧ベクトルVm-2c∠(−90°)との線形和(一次結合)によって構成する方法を示すものである。具体的には、図10(D)から、
Vm-2c∠(α)=Vm-2c*cosα−Vm-2c∠(-90°)*sinα …(56)
が成り立つ。上式(56)に式(46),(47)を代入することによって、角度αだけ位相シフトしたベクトルVm-2c∠(α)は、
Vm-2c∠(α)=Vm-2c*AWm-2c/(2*AVm-2c)
−Dm+1-2c*(AVm-2c/ADm+1-2c)*AGm/(2*AVm-2c) …(57)
で演算できる。
このようにして、周波数が定格周波数よりずれることによって生じる電気量の位相シフトαを補正することができる。周波数が定格周波数よりずれていても、現時点の電気量のデジタル値Vmよりも2サイクル前の電気量のデジタル値Vm-2cを、周波数ずれによる位相ずれが補正された状態で得ることができる。
[効果]
このように、入力データが定格周波数より外れたために現時点の電気量のデジタル値と現時点よりpサイクル前(pは1以上の整数)の電気量のデジタル値との間に位相ずれ角αが生じたとしても以下のように簡単に補正できる。すなわち、2×pサイクル前の電気量のデジタル値と現時点の電気量のデジタル値との差分量および加算量を計算し、この差分量および加算量に基づいて位相ずれ角αの正弦と余弦とを求める。さらに、pサイクル前を基準にしてそれよりも1サンプリング周期前の電気量のデジタル値と1サンプリング周期後の電気量のデジタル値とから、2サイクル前の電気量のデジタル値から90°位相を遅らせた電気量のデジタル値を求める。これらの計算結果から位相ずれを補正することができる。したがって、周波数が定格より外れて場合でも現時点とpサイクル前との変化分を正確に判定できるようになる。
[変形例]
実施の形態3では、現時点の電気量のデジタル値と現時点から2×pサイクル前(たとえば、p=2)の電気量のデジタル値とを用いて、現時点からpサイクル前の電気量のデジタル値における位相ずれ角αに起因した誤差を補正する手段を示した。これに対して、変化幅検出に使用する現時点の電気量のデジタル値と現時点からpサイクル前の電気量のデジタル値との2点を使ってpサイクル前の電気量のデジタル値における位相ずれ角αに起因した誤差を補正するようにしてもよい。この場合、実施の形態2と同様に、位相ずれ角αの1/2である角度α/2の三角関数を最初に求め、三角関数の倍角公式を使って位相のずれ角αの三角関数を求めるようにする。
さらに、実施の形態3では、pサイクル前(たとえば、p=2)の電気量のデジタル値について位相を90°遅れさせた値を算出する際に、pサイクル前の電気量のデジタル値よりも1サンプリング周期前と1サンプリング周期後の電気量のデジタル値を用いて差分量Dm+1-pcを計算し、この差分量Dm+1-pcを用いて90°位相遅れの値を算出した。これに代えて、実施の形態1,2に示した方法に従って、pサイクル前の電気量のデジタル値Vm-pcとさらにそれより1サンプリング周期前の電気量のデジタル値Vm-1-pcとの線形和(一次結合)によって90°位相遅れした値を求めてもよい。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 送電線、2 電流変成器、3 電圧変成器、10 保護リレー装置、18 CPU、31 A/D変換部、32 デジタル入力処理部、33 リレー演算部、34 デジタル出力部、40 データ蓄積部、41 加算演算部、42 振幅値演算部、43 三角関数演算部、44 位相遅れデータ算出部、45 位相ずれ補正部。

Claims (9)

  1. 電力系統において検出された交流電流または交流電圧を表す電気量を一定周期でサンプリングしてデジタル値に変換することによって、前記電気量の時系列データを生成するアナログ/デジタル変換部と、
    前記電気量のサンプリングごとに、現時点の前記電気量のデジタル値と現時点からnサンプリング周期前(nは1以上の整数)の前記電気量のデジタル値との差分量および加算量を算出することによって、前記差分量および加算量の各々の時系列データを生成する差分・加算演算部と、
    前記電気量のサンプリングごとに、前記電気量の時系列データのうち現時点を含む複数のデータを用いて前記電気量の振幅値を演算し、前記差分量および加算量の各々の時系列データに対して前記電気量の振幅値演算と同一の演算を施すことによって前記差分量および加算量の各々の振幅値を演算する振幅値演算部と、
    前記電気量のサンプリングごとに、現時点の前記電気量のデジタル値を第1の係数倍した値と、現時点から1サンプリング周期前の前記電気量のデジタル値を第2の係数倍した値との和を演算することによって、現時点の前記電気量から設定角度だけ位相を遅らせた前記電気量のデジタル値を算出する位相遅れデータ算出部とを備え、
    前記第1の係数および前記第2の係数は、現時点において算出された前記電気量、前記差分量、および前記加算量の各々の振幅値を用いて表され、
    さらに、前記位相を遅らせた前記電気量のデジタル値を用いてリレー演算を行うリレー演算部を備える、保護リレー装置。
  2. 前記nは、1または2である、請求項1に記載の保護リレー装置。
  3. 前記振幅値演算部は、前記電気量のデジタル値、前記差分量、および前記加算量の各々について、現時点の値である第1の値、現時点よりもxサンプリング周期前の値である第2の値、現時点よりもyサンプリング周期前の値である第3の値、および現時点よりもzサンプリング周期前(ただし、z=x+y)の値である第4の値を用い、前記第2の値と前記第3の値の積と、前記第1の値と前記第4の値との積との差に基づいて各々の振幅値を算出する、請求項1または2に記載の保護リレー装置。
  4. 前記nは2であり、
    1サンプリング周期に相当する電気角をθとし、現時点において算出された前記電気量、前記差分量、および前記加算量の各々の振幅値をそれぞれAVm、ADm、ASmとしたとき、電気角θの正弦sinθ、余弦cosθ、および正接tanθは、
    sinθ=A m/(2*AVm) …(A1)
    cosθ=A m/(2*AVm) …(A2)
    tanθ=ADm/ASm …(A3)
    によって表され、
    前記設定角度をφとしたとき、設定角度φの正弦sinφおよび余弦cosφを用いて、前記第1の係数は、−(sinφ/tanθ−cosφ)であり、前記第2の係数は、sinφ/sinθである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の保護リレー装置。
  5. 前記nは1であり、
    1サンプリング周期に相当する電気角をθとし、現時点において算出された前記電気量、前記差分量、および前記加算量の各々の振幅値をそれぞれAVm、AEm、ATmとしたとき、電気角θの正弦sinθ、余弦cosθ、および正接tanθは、
    sinθ=AEm*ATm/(2*AVm*AVm) …(A4)
    cosθ=ATm*ATm/(2*AVm*AVm)−1 …(A5)
    tanθ=AEm*ATm/(ATm*ATm−2*AVm*AVm) …(A6)
    によって表され、
    前記設定角度をφとしたとき、設定角度φの正弦sinφおよび余弦cosφを用いて、前記第1の係数は、−(sinφ/tanθ−cosφ)であり、前記第2の係数は、sinφ/sinθである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の保護リレー装置。
  6. 電力系統において検出された交流電流または交流電圧を表す電気量を一定周期でサンプリングしてデジタル値に変換することによって、前記電気量の時系列データを生成するアナログ/デジタル変換部と、
    前記電気量のサンプリングごとに、現時点の前記電気量のデジタル値と現時点からpサイクル前または2*pサイクル前(pは1以上の整数)の前記電気量のデジタル値との差分量および加算量を、第1の差分量および第1の加算量として算出することによって、前記第1の差分量および第1の加算量の各々の時系列データを生成する差分・加算演算部と、
    前記電気量のサンプリングごとに、前記電気量の時系列データのうち現時点を含む複数のデータを用いて前記電気量の振幅値を演算し、前記第1の差分量および第1の加算量の各々の時系列データに対して前記電気量の振幅値演算と同一の演算を施すことによって前記第1の差分量および第1の加算量の各々の振幅値を演算する振幅値演算部と、
    前記電気量のサンプリングごとに、現時点からpサイクル前の前記電気量のデジタル値を第1の係数倍した値と、現時点からpサイクル前の前記電気量について90°位相を遅らせたもののデジタル値を第2の係数倍した値との和を演算することによって、現時点からpサイクル前の前記電気量のデジタル値について位相ずれに起因した誤差を補正する位相ずれ補正部とを備え、
    前記第1の係数および前記第2の係数は、前記電気量の振幅値と、現時点において算出された前記第1の差分量および前記第1の加算量の各々の振幅値とを用いて表され、
    さらに、前記位相ずれに起因した誤差が補正された前記電気量のデジタル値を用いてリレー演算を行うリレー演算部を備える、保護リレー装置。
  7. 前記差分・加算演算部は、前記電気量のサンプリングごとに、現時点の前記電気量のデジタル値と現時点から2サンプリング周期前の前記電気量のデジタル値との差分量を第2の差分量として算出することによって、前記第2の差分量の時系列データをさらに生成し、
    前記振幅値演算部は、前記電気量のサンプリングごとに、前記第2の差分量の時系列データに対して前記電気量の振幅値演算と同一の演算を施すことによって前記第2の差分量の振幅値をさらに演算し、
    前記保護リレー装置は、さらに、
    前記電気量のサンプリングごとに、現時点からpサイクル前の時点の1サンプリング周期後において算出された前記第2の差分量に第3の係数を乗算することによって、現時点からpサイクル前の電気量について90°位相を遅らせたもののデジタル値を算出する位相遅れデータ算出部を備え、
    前記第3の係数は、前記電気量の振幅値と、現時点からpサイクル前の時点から1サンプリング周期後に算出された前記第2の差分量の振幅値とを用いて算出される、請求項6に記載の保護リレー装置。
  8. 1サンプリング周期に相当する電気角をθとし、現時点からpサイクル前に算出された前記電気量の振幅値をAVm-pcとし、現時点からpサイクル前の時点から1サンプリング周期後に算出された前記第2の差分量の振幅値をADm+1-pcとすると、電気角θの正弦sinθは、
    sinθ=ADm+1-pc/(2*AVm-pc) …(A7)
    によって表され、
    前記第3の係数は、1/(2*sinθ)である、請求項7に記載の保護リレー装置。
  9. 現時点の電気量と現時点からpサイクル前の電気量との位相ずれ角をαとし、現時点からpサイクル前に算出された前記電気量の振幅値をAVm-pcとし、現時点において算出された前記第1の差分量および前記第1の加算量の各々の振幅値をそれぞれAGmおよびAWmとすると、位相ずれ角αの正弦sinαおよび余弦cosαは、
    sinα=AGm/(2*AVm-pc) …(A8)
    cosα=AWm/(2*AVm-pc) …(A9)
    によって表され、
    前記第1の係数はcosαであり、前記第2の係数は−sinαである、請求項6〜8のいずれか1項に記載の保護リレー装置。
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