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JP6544220B2 - 水素脆性評価装置および水素脆性評価方法 - Google Patents
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JP6544220B2 - 水素脆性評価装置および水素脆性評価方法 - Google Patents

水素脆性評価装置および水素脆性評価方法 Download PDF

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本発明は、水素脆性評価装置および水素脆性評価方法に関する。
高強度鋼、ニッケル合金またはチタン合金等の金属材料では、環境から侵入した水素により破壊が生じることが知られている(水素脆化)。このときの破壊形態は、結晶粒界での破壊となる場合が多い。また、介在物などの第2相と母相の境界(異相界面)が破壊起点になる場合も報告されている。したがって、耐水素脆化性を向上させるには、結晶粒界または異相界面の剥離強度に及ぼす水素の影響を評価する技術が必要とされている。なお、以下の説明において、結晶粒界(双晶界面、ランダム粒界等も含む。)および異相界面等の金属組織内に現れる境界面を総称して、「ミクロ組織界面」ということがある。
例えば、特許文献1には、粒界を含む柱状の支持梁部を備えた測定用試験片に荷重を加えて曲げ試験を行い、測定用試験片が破壊された時の荷重から破壊特性を算出する結晶粒界破壊特性の測定方法が開示されている。
特開2014−174036号公報
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、主にセラミックス試料を対象としたものであり、水素脆化性の評価については一切検討がなされていない。
本発明は、上記の問題を解決し、ミクロ組織界面の剥離強度に及ぼす水素の影響を評価することが可能な水素脆性評価装置および水素脆性評価方法を提供することを目的とする。
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、下記の水素脆性評価装置および水素脆性評価方法を要旨とする。
(1)固定端から自由端に向かって一方向に延びる微小片持ち梁が形成された試験片の水素脆化特性を評価する装置であって、
前記試験片は、前記微小片持ち梁の前記固定端と前記自由端との間を通るミクロ組織界面を1つのみ有し、
前記ミクロ組織界面が前記一方向に略垂直であり、
前記微小片持ち梁は、前記試験片の表面に形成された上面を有し、
前記微小片持ち梁を電解液に浸漬する電解液槽と、
前記電解液に浸漬される対極と、
前記試験片と前記対極との間に電位差を生じさせる外部電源と、
前記上面の前記ミクロ組織界面より自由端側に、前記上面と略垂直な方向に荷重を負荷する圧子と、
前記圧子の変位および荷重を測定する測定部と、
を備える、水素脆性評価装置。
(2)前記試験片が、前記微小片持ち梁の長さ方向中心点より固定端側に前記ミクロ組織界面を有する、上記(1)に記載の水素脆性評価装置。
(3)前記上面と前記ミクロ組織界面との交線に沿って、前記交線の一端から他端まで延びるように切欠きが形成されている、上記(1)または(2)に記載の水素脆性評価装置。
(4)前記上面が鏡面加工されている、上記(1)から(3)までのいずれかに記載の水素脆性評価装置。
(5)前記試験片に前記微小片持ち梁が複数形成され、
各微小片持ち梁を通る前記ミクロ組織界面が同一である、上記(1)から(4)までのいずれかに記載の水素脆性評価装置。
(6)前記圧子が球形圧子であり、前記球形圧子の先端の曲率半径が0.1〜100μmである、上記(1)から(5)までのいずれかに記載の水素脆性評価装置。
(7)前記電解液槽が、底部に貫通孔を有し、前記貫通孔の裏面を囲繞するシール材を介して、前記試験片の前記表面の上に載せられ、前記微小片持ち梁を電解液に浸漬する、上記(1)から(6)までのいずれかに記載の水素脆性評価装置。
(8)前記試験片の温度を調整する温度調整部をさらに備える、上記(1)から(7)までのいずれかに記載の水素脆性評価装置。
(9)試験片の水素脆化特性を評価する方法であって、
(a)固定端から自由端に向かって一方向に延び、前記試験片の表面に形成された上面を有する微小片持ち梁を、前記試験片が有するミクロ組織界面が前記固定端と前記自由端との間を1つのみ通り、かつ、前記ミクロ組織界面が前記一方向に略垂直となるように形成する工程と、
(b)前記微小片持ち梁を電解液に浸漬する工程と、
(c)前記試験片と、前記試験片と電気的に接続された対極との間に電位差を生じさせて、前記微小片持ち梁に電気化学的に水素を導入する工程と、
(d)圧子を用いて、前記上面の前記ミクロ組織界面より自由端側に、前記上面と略垂直な方向に荷重を負荷する工程と、
(e)前記圧子の変位および荷重を測定する工程と、
を備える、水素脆性評価方法。
(10)前記(a)の工程において、前記微小片持ち梁を形成する前に前記試験片の前記表面に対して鏡面加工を施す、上記(9)に記載の水素脆性評価方法。
(11)前記(a)の工程において、前記上面と前記ミクロ組織界面との交線に沿って、前記交線の一端から他端まで延びるように切欠きを形成する、上記(9)または(10)に記載の水素脆性評価方法。
(12)前記(a)の工程において、前記試験片に複数の前記微小片持ち梁を、各微小片持ち梁を通る前記ミクロ組織界面が同一となるように形成する、上記(9)から(11)までのいずれかに記載の水素脆性評価方法。
(13)前記複数の微小片持ち梁のうちの一の微小片持ち梁について、前記(a)〜(e)の工程を経て測定された変位および荷重と、
前記複数の微小片持ち梁のうちの他の微小片持ち梁について、前記(a)、(d)および(e)の工程によって測定された変位および荷重とを比較して、
試験片の水素脆化特性を評価する、上記(12)に記載の水素脆性評価方法。
(14)前記複数の微小片持ち梁のうちの一の微小片持ち梁について、前記(a)〜(e)の工程によって測定された変位および荷重と、
前記複数の微小片持ち梁のうちの他の微小片持ち梁について、前記(a)、(b)、(d)および(e)の工程によって測定された変位および荷重とを比較して、
試験片の水素脆化特性を評価する、上記(12)または(13)に記載の水素脆性評価方法。
(15)前記圧子の前記変位を制御することによって、試験片の水素脆化特性を評価する、上記(9)から(14)までのいずれかに記載の水素脆性評価方法。
(16)前記圧子の前記荷重を制御することによって、試験片の水素脆化特性を評価する、上記(9)から(14)までのいずれかに記載の水素脆性評価方法。
本発明によれば、結晶粒界または異相界面等の境界面における剥離強度に及ぼす水素の影響を定量的に評価することが可能となる。
本発明の一実施形態に係る水素脆性評価装置の一例を模式的に示した図である。 微小片持ち梁の形状を模式的に示した図である。 荷重および変位の時間変化を示す図である。 実施例において、試験片の表面に加工した微小片持ち梁の寸法を説明するための図である。 微小片持ち梁の曲げ試験における各変数の定義を説明するための図である。 水素導入下で測定されたNi−Cr合金の荷重−圧子変位曲線を示した図である。 実施例において、試験片の表面に加工した微小片持ち梁の寸法を説明するための図である。 水素導入下で測定されたSCM435鋼およびNi−Cr合金の荷重と剥離時間との関係を示した図である。
添付した図面を参照して、本発明の一実施形態に係る水素脆性評価装置およびそれを用いた評価方法について、詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る水素脆性評価装置100の一例を模式的に示した図である。また、図2に微小片持ち梁10の形状を模式的に示す。本発明の一実施形態に係る水素脆性評価装置100は、固定端10aから自由端10bに向かって一方向(図2中におけるA方向)に延びる微小片持ち梁10が形成された試験片1の水素脆化特性を評価する装置である。微小片持ち梁10は試験片1の表面1aに形成された上面10cを有する。試験片1の材質については特に制限は設けず、例えば、鋼材、合金材等を用いることができる。
図1に示すように、水素脆性評価装置100は、電解液槽2と対極3と外部電源4と圧子5と測定部6とを備える。すなわち、本発明の一実施形態に係る評価方法では、上述の上面10cを有する微小片持ち梁10を形成した後(工程a)、微小片持ち梁10を電解液槽2内の電解液20に浸漬し(工程b)、外部電源4を用いて試験片1と対極3との間に電位差を生じさせて、微小片持ち梁10に電気化学的に水素を導入した状態において(工程c)、上面10cに対して、圧子5で上面10cと略垂直な方向に荷重を負荷し(工程d)、圧子5の変位および荷重を測定部6によって測定することで(工程e)、試験片の水素脆化特性を評価することが可能である。各構成要素について以下に詳しく説明する。
図2に示すように、微小片持ち梁10は、試験片1が有するミクロ組織界面1bが、固定端10aと自由端10bとの間を1つのみ通り、かつ、ミクロ組織界面1bがA方向に略垂直となるように形成されている。試験片1が有するミクロ組織界面1bは、微小片持ち梁10の長さ方向中心点より固定端10a側に存在することが好ましく、固定端部に存在することがより好ましい。
ここで、本発明における「ミクロ組織界面」とは、鋼材または合金材等の金属組織内に現れる不連続面を意味し、例えば、結晶粒界(双晶界面、ランダム界面等を含む。)、異相界面等が含まれる。
微小片持ち梁10を形成する方法について特に制限はないが、例えば、レーザー加工、集束イオンビーム(FIB)加工等を用いることができる。また、微小片持ち梁10の断面形状についても特に制限は設けないが、上記の方法を用いて形成する場合、図2に示すように、下に凸の三角形にすると、加工時間を短縮できるため好ましい。
さらに、微小片持ち梁10の寸法についても制限は設けない。上述のように、微小片持ち梁10の固定端10aと自由端10bとの間を通るミクロ組織界面1bが1つのみとなる必要があるため、試験片1の結晶粒径または介在物等の第2相の大きさに応じた寸法とすることが好ましい。
曲げ試験の際にミクロ組織界面1bでの剥離が生じやすくなるように、上面10cとミクロ組織界面1bとの交線に沿って、交線の一端から他端まで延びるように切欠き10eが形成されていてもよい。切欠き10eを形成する方法についても特に制限はなく、例えば、レーザー加工、FIB加工等を用いることができる。
また、上面10cは、鏡面加工されていることが好ましい。上面10cに凹凸があると凹凸が割れ発生の起点になり、ミクロ組織界面1bの剥離強度を評価できないことがあるためである。試験片1の表面1aを鏡面加工した上で微小片持ち梁10を形成することによって、上面10cを鏡面加工された面とすることができる。なお、鏡面加工する方法については特に制限はなく、アルミナ砥粒等を用いて研磨してもよいし、さらに電解研磨等を行ってもよい。
電解液槽2は、微小片持ち梁10を電解液20に浸漬し、微小片持ち梁10に電気化学的に水素を導入するためのものである。電解液槽2の構造について特に制限はないが、図1に示すように、底部に貫通孔2aを有し、貫通孔2aの裏面を囲繞するシール材2bを介して、試験片1の表面1aの上に載せられ、微小片持ち梁10を電解液20に浸漬する構成とすることができる。
対極3は、電解液20に浸漬され、試験片1と電気的に接続されている。そして、外部電源4を用いて試験片1と対極3との間に電位差を生じさせ、試験片1を対極3に対して負電位にすることによって、微小片持ち梁10に電気化学的に水素を導入する。対極3の材質について特に制限はないが、例えば白金を用いることができる。
図1に示すように、必要に応じて、参照極7を対極3とともに電解液20に浸漬させてもよい。対極3のみでは電流制御でしか微小片持ち梁10に水素を導入できないが、参照極7を用いることによって、電位制御でも水素を導入することが可能となる。なお、水素を導入するタイミングについては特に制限はない。例えば、曲げ試験を行う前から水素を導入しておいてもよいし、微小片持ち梁に荷重を負荷しておき、その後、水素を導入してもよい。
試験片1、対極3および参照極7はそれぞれ導線40を介して外部電源4に接続されている。水素の導入を電位制御で行う場合には、外部電源4にポテンショスタットを用いる。一方、水素の導入を電流制御で行う場合には、外部電源4にガルバノスタットを用い、参照極7は省略する。
そして、圧子5を用いて微小片持ち梁10の上面10cに対して、上面10cと略垂直な方向に荷重を負荷することによって、曲げ試験を実施する。ミクロ組織界面1bにおける剥離強度を評価することを目的としているため、上面10cのミクロ組織界面1bより自由端10b側に荷重を負荷する必要がある。
圧子5の先端形状について特に制限はないが、例えば、先端の曲率半径が0.1〜100μmである球形圧子を用いることが好ましい。先端の曲率半径が0.1μm未満であると表面1aの圧子接触部が局所的に塑性変形してしまい、精確に微小片持ち梁10のたわみ量を得られないおそれがあり、100μmを超えると表面1aの意図した位置に精度よく圧子5を押込めないおそれがあるためである。また、圧子5の材質についても特に制限はなく、例えば、ダイヤモンド製またはセラミックス製の圧子を用いることができる。
曲げ試験の際の圧子5の変位および荷重は、測定部6によって測定される。そして、得られた荷重−圧子変位曲線に基づき、ミクロ組織界面1bの剥離強度に及ぼす水素の影響を評価する。曲げ試験は、圧子の変位を制御することによって行ってもよいし、荷重を制御することによって行ってもよい。
具体的には、変位制御を採用する場合、例えば、荷重を測定しながら所定の速度で圧子を変位させ、荷重に急激または不連続な低下が生じた時点で、ミクロ組織界面で剥離が発生したと判断することができる。また、荷重制御を採用する場合、例えば、図3に示すように一定値の荷重を負荷した状態で圧子の変位を測定し、変位に急激または不連続な増加が生じた時点で、ミクロ組織界面で剥離が発生したと判断することができる。
なお、本発明の一実施形態に係る装置は、試験片1の温度を調整する図示しない温度調整部をさらに備えていてもよい。温度調整部を備えることによって、全ての実験において温度を同一として、実験条件を揃えたり、または、温度を変えて種々の実験を繰り返すことによって、ミクロ組織界面1bの剥離強度に及ぼす温度の影響を評価したりすることが可能となる。
試験片1の表面1aには、微小片持ち梁10が複数形成されていてもよい。複数の微小片持ち梁10について上記の曲げ試験を実施することによって、例えば、同一の実験を複数回実施した場合における結果のばらつきを調査して分析精度の検証を行ったり、または、異なる環境下での試験結果を比較することで、水素の影響をより詳細に評価したりすることが可能となる。ただし、複数の微小片持ち梁10を形成する場合には、実験条件を統一するため、各微小片持ち梁10を通るミクロ組織界面1bが同一の境界面となるようにする必要がある。
例えば、上記のように複数の微小片持ち梁を形成した場合においては、そのうちの1つの微小片持ち梁については、電解液に浸漬し水素を導入した状態(上記の工程a〜eを経た状態)で曲げ試験を実施し、他の微小片持ち梁については、大気中(上記の工程a、dおよびeを経た状態)または電解液に浸漬するだけで水素を導入しない状態(上記の工程a、b、dおよびeを経た状態)で曲げ試験を実施し、それぞれの試験で測定された変位および荷重を比較することによって試験片の水素脆化特性をより詳細に評価することが可能となる。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1の化学組成を有するJIS SCM435鋼の旧オーステナイト(γ)粒界、ならびにJIS SUS316L鋼およびNi−Cr合金の双晶界面について、剥離強度に及ぼす水素の影響を評価した。SCM435鋼は旧γ粒径が40μmで引張強度が1488MPaのものを、SUS316L鋼は粒径が20μmで引張強度が595MPaのものを、そして、Ni−Cr合金は粒径が50μmで引張強度が600MPaのものを用いた。各試験片の測定面は、アルミナ砥粒で鏡面研磨後、さらに電解研磨で平坦化した。
Figure 0006544220
電子線後方散乱回折およびFIB装置を用いて、試験片の表面と垂直に交差する旧γ粒界・双晶界面を探した。そして、それぞれの試験片について、FIB装置を用いて、同一の旧γ粒界・双晶界面のみが含まれるように複数の微小片持ち梁を加工した。加工した微小片持ち梁の寸法を図4に示す。微小片持ち梁の自由端から固定端までの長さは4.9μmとし、微小片持ち梁の断面形状は底辺2.5μm、高さ1.25μmの直角三角形とした。また、旧γ粒界・双晶界面と微小片持ち梁の固定端との距離は0.9μmとし、微小片持ち梁への切欠きの付与はなしとした。
試験片への水素の導入は電解液に白金の対極を浸漬することで行った。電流密度は5.1A/mとし、試験前に20分間、水素を事前導入した。また、圧子には、先端の曲率半径が1μmのダイヤモンド製の球形圧子を用いた。微小片持ち梁の先端から1μmの梁の中央部に、33nm/sの速度で、変位制御で、最大変位2μmまで圧子を押込み、押込み荷重と圧子変位の関係を測定した。曲げ試験はそれぞれの試験片において、大気雰囲気および水素導入下で実施した。
表2に曲げ試験によるき裂発生の有無を示す。SCM435鋼では、大気雰囲気で曲げを付与した場合には、最大変位までき裂の発生は認められず、水素導入下で曲げを付与した場合には、弾性領域で旧γ粒界にき裂が発生した。一方、SUS316L鋼およびNi−Cr合金では、大気雰囲気および水素導入下の双方において最大変位までき裂の発生は認められなかった。このように、SCM435鋼の旧γ粒界は、水素により剥離強度が低下することが判明した。また、SUS316L鋼およびNi−Cr合金の双晶界面は、水素導入下でも十分に高い剥離強度を有することが判明した。
Figure 0006544220
続いて、上記のNi−Cr合金を用いて、水素導入下での荷重−圧子変位曲線が精確に測定されているか検討するため、ヤング率を計算し確認を行った。さらに、曲げ試験時に双晶界面に働く最大応力を計算し、双晶界面の剥離強度を調査した。ここで、図5を参照して、微小片持ち梁のたわみ量δ、ヤング率Eおよび荷重Wには、下記(i)式で示される関係がある。
Figure 0006544220
上記(i)式において、Lは圧子の押込み位置から微小片持ち梁の固定端までの距離であり、Iは微小片持ち梁の断面2次モーメントである。Iは、底辺a、高さbの三角形状の断面では、下記(ii)式で与えられる。
Figure 0006544220
また、微小片持ち梁内の双晶界面に働く引張応力は、梁の表面で最大となり、この最大応力σmaxは、下記(iii)式で与えられる。
Figure 0006544220
なお、上記(iii)式において、L’は圧子の押込み位置から双晶界面までの距離である。
図6に、水素導入下で測定されたNi−Cr合金の荷重−圧子変位曲線を示す。荷重が200μN未満では弾性変形となり、荷重は圧子変位に対して線形的に変化していることが分かる。
荷重−圧子変位曲線の弾性領域の勾配(1730μN/μm)、および片持ち梁の形状(a=2.5μm、b=1.25μm、L=3.9μm、L´=3μm)より、ヤング率の値は252GPaと計算された。これは、既知のNiのヤング率(200GPa)とCrのヤング率(279GPa)に近い値であり、水素下において精確に荷重−圧子変位曲線が得られていることが確認された。
さらに、曲げ試験時の弾性限界の荷重(200μN)から、曲げ試験中に双晶界面に働く最大応力は、1843MPa以上と計算された。水素下のNi−Cr合金の双晶界面の剥離強度は1843MPa以上であり、双晶界面が剥離するより先に結晶粒内の塑性変形が生じることが判明した。
実施例1と同様に、表1の化学組成を有するJIS SCM435鋼の旧オーステナイト(γ)粒界およびNi−Cr合金の双晶界面について、剥離強度に及ぼす水素の影響を評価した。SCM435鋼は旧γ粒径が40μmで引張強度が1488MPaのものを、Ni−Cr合金は粒径が50μmで引張強度が600MPaのものを用いた。各試験片の測定面は、アルミナ砥粒で鏡面研磨後、さらに電解研磨で平坦化した。
そして、試験片の表面と垂直に交差する旧γ粒界・双晶界面を探した後、それぞれの試験片について、FIB装置を用いて、同一の旧γ粒界・双晶界面のみが含まれるように複数の微小片持ち梁を加工した。加工した微小片持ち梁の寸法を図7に示す。微小片持ち梁の自由端から固定端までの長さは15μmとし、微小片持ち梁の断面形状は底辺4μm、高さ2μmの直角三角形とした。また、旧γ粒界・双晶界面と微小片持ち梁の固定端との距離は2μmとした。そして、微小片持ち梁の上面とミクロ組織界面との交線に沿って、交線の一端から他端まで延びるように、幅が約100nm、深さが約150nmの矩形状の切欠きを形成した。微小片持ち梁は同一のミクロ組織界面に複数加工した。
試験片への水素の導入は電解液に白金の対極を浸漬することで行った。電解液にはホウ酸緩衝液(pH:8.6)を用い、電流密度は5.1A/mとした。また、圧子には、先端の曲率半径が1μmのダイヤモンド製の球形圧子を用いた。微小片持ち梁の先端から3μmの梁の中央部に、荷重制御で圧子を押込み、押込み荷重と圧子変位の関係を測定した。押込み荷重は、それぞれ微小片持ち梁の弾性限界の30%、60%および90%の一定値とし、最長2時間保持した。曲げ試験はそれぞれの試験片において、大気雰囲気および水素導入下で実施した。水素の導入は曲げ試験の20分前より開始した。
図8に水素導入下で測定されたSCM435鋼およびNi−Cr合金の荷重と剥離時間との関係を示す。なお、剥離時間とは、荷重の保持開始からミクロ組織界面の剥離が生じるまでの経過時間である(図5においてΔtで示す。)。Ni−Cr合金の双晶界面では、いずれの荷重においても、荷重負荷から2時間以内に剥離は認められなかった。一方、SCM435鋼の旧γ粒界では、降伏荷重の60%と90%の荷重において剥離が認められた。また、図示してはいないが、大気中では、Ni−Cr合金の双晶界面もSCM435鋼の旧γ粒界も、2時間以内に剥離は認められなかった。水素脆化の1つの発生形態に、水素を導入した金属材料に静的な弾性荷重を負荷したとき、一定時間経過した後に突然破壊が生じる現象(遅れ破壊)がある。測定された剥離時間より、Ni−Cr合金の双晶界面は、遅れ破壊への寄与は低く、SCM435鋼の旧γ粒界は遅れ破壊への寄与が高いことが判明した。本発明によりミクロ組織界面の剥離に至るまでの経過時間を測定でき、本発明が耐水素脆化性(耐遅れ破壊性)の評価に役立つことが示された。
本発明によれば、結晶粒界または異相界面等の境界面における剥離強度に及ぼす水素の影響を定量的に評価することが可能となる。
1.試験片
1a.表面
1b.ミクロ組織界面
2.電解液槽
2a.貫通孔
2b.シール材
3.対極
4.外部電源
5.圧子
6.測定部
7.参照極
10.微小片持ち梁
10a.固定端
10b.自由端
10c.上面
10e.切欠き
20.電解液
40.導線
100.水素脆性評価装置

Claims (16)

  1. 固定端から自由端に向かって一方向に延びる微小片持ち梁が形成された試験片の水素脆化特性を評価する装置であって、
    前記試験片は、前記微小片持ち梁の前記固定端と前記自由端との間を通るミクロ組織界面を1つのみ有し、
    前記ミクロ組織界面が前記一方向に略垂直であり、
    前記微小片持ち梁は、前記試験片の表面に形成された上面を有し、
    前記微小片持ち梁を電解液に浸漬する電解液槽と、
    前記電解液に浸漬される対極と、
    前記試験片と前記対極との間に電位差を生じさせる外部電源と、
    前記上面の前記ミクロ組織界面より自由端側に、前記上面と略垂直な方向に荷重を負荷する圧子と、
    前記圧子の変位および荷重を測定する測定部と、
    を備える、水素脆性評価装置。
  2. 前記試験片が、前記微小片持ち梁の長さ方向中心点より固定端側に前記ミクロ組織界面を有する、請求項1に記載の水素脆性評価装置。
  3. 前記上面と前記ミクロ組織界面との交線に沿って、前記交線の一端から他端まで延びるように切欠きが形成されている、請求項1または請求項2に記載の水素脆性評価装置。
  4. 前記上面が鏡面加工されている、請求項1から請求項3までのいずれかに記載の水素脆性評価装置。
  5. 前記試験片に前記微小片持ち梁が複数形成され、
    各微小片持ち梁を通る前記ミクロ組織界面が同一である、請求項1から請求項4までのいずれかに記載の水素脆性評価装置。
  6. 前記圧子が球形圧子であり、前記球形圧子の先端の曲率半径が0.1〜100μmである、請求項1から請求項5までのいずれかに記載の水素脆性評価装置。
  7. 前記電解液槽が、底部に貫通孔を有し、前記貫通孔の裏面を囲繞するシール材を介して、前記試験片の前記表面の上に載せられ、前記微小片持ち梁を電解液に浸漬する、請求項1から請求項6までのいずれかに記載の水素脆性評価装置。
  8. 前記試験片の温度を調整する温度調整部をさらに備える、請求項1から請求項7までのいずれかに記載の水素脆性評価装置。
  9. 試験片の水素脆化特性を評価する方法であって、
    (a)固定端から自由端に向かって一方向に延び、前記試験片の表面に形成された上面を有する微小片持ち梁を、前記試験片が有するミクロ組織界面が前記固定端と前記自由端との間を1つのみ通り、かつ、前記ミクロ組織界面が前記一方向に略垂直となるように形成する工程と、
    (b)前記微小片持ち梁を電解液に浸漬する工程と、
    (c)前記試験片と、前記試験片と電気的に接続された対極との間に電位差を生じさせて、前記微小片持ち梁に電気化学的に水素を導入する工程と、
    (d)圧子を用いて、前記上面の前記ミクロ組織界面より自由端側に、前記上面と略垂直な方向に荷重を負荷する工程と、
    (e)前記圧子の変位および荷重を測定する工程と、
    を備える、水素脆性評価方法。
  10. 前記(a)の工程において、前記微小片持ち梁を形成する前に前記試験片の前記表面に対して鏡面加工を施す、請求項9に記載の水素脆性評価方法。
  11. 前記(a)の工程において、前記上面と前記ミクロ組織界面との交線に沿って、前記交線の一端から他端まで延びるように切欠きを形成する、請求項9または請求項10に記載の水素脆性評価方法。
  12. 前記(a)の工程において、前記試験片に複数の前記微小片持ち梁を、各微小片持ち梁を通る前記ミクロ組織界面が同一となるように形成する、請求項9から請求項11までのいずれかに記載の水素脆性評価方法。
  13. 前記複数の微小片持ち梁のうちの一の微小片持ち梁について、前記(a)〜(e)の工程を経て測定された変位および荷重と、
    前記複数の微小片持ち梁のうちの他の微小片持ち梁について、前記(a)、(d)および(e)の工程によって測定された変位および荷重とを比較して、
    試験片の水素脆化特性を評価する、請求項12に記載の水素脆性評価方法。
  14. 前記複数の微小片持ち梁のうちの一の微小片持ち梁について、前記(a)〜(e)の工程によって測定された変位および荷重と、
    前記複数の微小片持ち梁のうちの他の微小片持ち梁について、前記(a)、(b)、(d)および(e)の工程によって測定された変位および荷重とを比較して、
    試験片の水素脆化特性を評価する、請求項12または請求項13に記載の水素脆性評価方法。
  15. 前記圧子の前記変位を制御することによって、試験片の水素脆化特性を評価する、請求項9から請求項14までのいずれかに記載の水素脆性評価方法。
  16. 前記圧子の前記荷重を制御することによって、試験片の水素脆化特性を評価する、請求項9から請求項14までのいずれかに記載の水素脆性評価方法。
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