図1は、本発明の一実施例としての駆動装置を搭載する電気自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例の電気自動車20は、図示するように、モータ32と、インバータ34と、バッテリ36と、昇圧コンバータ40と、電子制御ユニット50と、を備える。
モータ32は、同期発電電動機として構成されており、永久磁石が埋め込まれた回転子と、三相コイルが巻回された固定子と、を備える。このモータ32の回転子は、駆動輪22a,22bにデファレンシャルギヤ24を介して連結された駆動軸26に接続されている。
インバータ34は、モータ32に接続されると共に高電圧系電力ライン42を介して昇圧コンバータ40に接続されている。このインバータ34は、6つのトランジスタT11〜T16と、6つのダイオードD11〜D16と、を有する。トランジスタT11〜T16は、それぞれ高電圧系電力ライン42の正極母線と負極母線とに対してソース側とシンク側になるように2個ずつペアで配置されている。6つのダイオードD11〜D16は、それぞれトランジスタT11〜T16に逆方向に並列接続されている。トランジスタT11〜T16の対となるトランジスタ同士の接続点の各々には、モータ32の三相コイル(U相,V相,W相)の各々が接続されている。したがって、インバータ34に電圧が作用しているときに、電子制御ユニット50によって、対となるトランジスタT11〜T16のオン時間の割合が調節されることにより、三相コイルに回転磁界が形成され、モータ32が回転駆動される。高電圧系電力ライン42の正極母線と負極母線とには、平滑用のコンデンサ46が取り付けられている。
バッテリ36は、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池として構成されており、低電圧系電力ライン44を介して昇圧コンバータ40に接続されている。低電圧系電力ライン44の正極母線と負極母線とには、平滑用のコンデンサ48が取り付けられている。
昇圧コンバータ40は、インバータ34が接続された高電圧系電力ライン42とバッテリ36が接続された低電圧系電力ライン44とに接続されている。この昇圧コンバータ40は、2つのトランジスタT31,T32と、2つのダイオードD31,D32と、リアクトルLと、を有する。トランジスタT31は、高電圧系電力ライン42の正極母線に接続されている。トランジスタT32は、トランジスタT31と、高電圧系電力ライン42および低電圧系電力ライン44の負極母線と、に接続されている。2つのダイオードD31,D32は、それぞれ、トランジスタT31,T32に逆方向に並列接続されている。リアクトルLは、トランジスタT31,T32同士の接続点と、低電圧系電力ライン44の正極母線と、に接続されている。昇圧コンバータ40は、電子制御ユニット50によって、トランジスタT31,T32のオン時間の割合が調節されることにより、低電圧系電力ライン44の電力を昇圧して高電圧系電力ライン42に供給したり、高電圧系電力ライン42の電力を降圧して低電圧系電力ライン44に供給したりする。
電子制御ユニット50は、CPU52を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU52の他に、処理プログラムを記憶するROM54やデータを一時的に記憶するRAM56,入出力ポートを備える。電子制御ユニット50には、各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。電子制御ユニット50に入力される信号としては、例えば、モータ32の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ(例えばレゾルバ)32aからのモータ32の回転子の回転位置θmや、モータ32の各相に流れる電流を検出する電流センサ32u,32vからのモータ32に流れる相電流Iu,Ivを挙げることができる。また、バッテリ36の端子間に取り付けられた電圧センサ36aからの電圧Vbや、バッテリ36の出力端子に取り付けられた電流センサ36bからの電流Ibも挙げることができる。さらに、コンデンサ46の端子間に取り付けられた電圧センサ46aからのコンデンサ46(高電圧系電力ライン42)の電圧VHや、コンデンサ48の端子間に取り付けられた電圧センサ48aからのコンデンサ48(低電圧系電力ライン44)の電圧VLも挙げることができる。加えて、イグニッションスイッチ60からのイグニッション信号や、シフトレバー61の操作位置を検出するシフトポジションセンサ62からのシフトポジションSPも挙げることができる。また、アクセルペダル63の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ64からのアクセル開度Accや、ブレーキペダル65の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ66からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ68からの車速Vも挙げることができる。電子制御ユニット50からは、各種制御信号が出力ポートを介して出力されている。電子制御ユニット50から出力される信号としては、例えば、インバータ34のトランジスタT11〜T16へのスイッチング制御信号や、昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32へのスイッチング制御信号を挙げることができる。電子制御ユニット50は、回転位置検出センサ32aからのモータ32の回転子の回転位置θmに基づいてモータ32の電気角θeや回転数Nmを演算している。また、電子制御ユニット50は、電流センサ36bからのバッテリ36の電流Ibの積算値に基づいてバッテリ36の蓄電割合SOCを演算している。ここで、蓄電割合SOCは、バッテリ36の全容量に対するバッテリ36から放電可能な電力の容量の割合である。
こうして構成された実施例の電気自動車20では、電子制御ユニット50は、以下の走行制御を行なう。走行制御では、アクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸26に要求される要求トルクTd*を設定し、設定した要求トルクTd*をモータ32のトルク指令Tm*に設定し、モータ32がトルク指令Tm*で駆動されるようにインバータ34のトランジスタT11〜T16のスイッチング制御を行なう。また、モータ32をトルク指令Tm*で駆動できるように高電圧系電力ライン42の目標電圧VH*を設定し、高電圧系電力ライン42の電圧VHが目標電圧VH*となるように昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32のスイッチング制御を行なう。
ここで、インバータ34の制御について説明する。実施例では、インバータ34の制御として、正弦波PWM(パルス幅変調)制御,過変調PWM制御,矩形波制御の何れかを切り替えて実行するものとした。正弦波PWM制御は、擬似的な三相交流電圧がモータ32に印加(供給)されるようにインバータ34を制御する制御であり、過変調制御は、過変調電圧がモータ32に印加されるようにインバータ34を制御する制御であり、矩形波制御は、矩形波電圧がモータ32に印加されるようにインバータ34を制御する制御である。正弦波PWM制御を実行する場合、正弦波電圧に基づくパルス幅変調電圧を擬似的な三相交流電圧とするときには、変調率Rmは値0〜略0.61となり、正弦波電圧に3n次(例えば3次)高調波電圧を重畳して得られる重畳後電圧に基づくパルス幅変調電圧を擬似的な三相交流電圧とするときには、変調率Rmは値0〜略0.71となる。変調率Rmは、インバータ34の入力電圧(高電圧系電力ライン42の電圧VH)に対する出力電圧(モータ32の印加電圧)の実効値の割合である。実施例では、正弦波PWM制御を実行できる変調率Rmの領域を大きくするために、重畳後電圧に基づくパルス幅変調電圧を擬似的な三相交流電圧とするものとした。また、過変調PWM制御を実行する場合、変調率Rmは略0.71〜略0.78となる。さらに、矩形波制御を実行する場合、変調率Rmは略0.78となる。実施例では、これらを踏まえて、変調率Rmに基づいて、インバータ34の制御として正弦波PWM制御,過変調PWM制御,矩形波制御の何れかを実行するものとした。具体的には、正弦波PWM制御の実行中に変調率Rmが略0.71に至ると過変調PWM制御に切り替え、過変調PWM制御の実行中に変調率Rmが略0.71よりも小さくなると正弦波PWM制御に切り替える。また、過変調PWM制御の実行中に変調率Rmが略0.78に至ると矩形波PWM制御に切り替え、矩形波制御の実行中に変調率Rmが略0.78よりも小さくなると過変調PWM制御に切り替えるものとした。
次に、こうして構成された実施例の電気自動車20の動作、インバータ34の制御として正弦波PWM制御や過変調PWM制御を実行する際におけるトランジスタT11〜T16のPWM信号を生成する処理について説明する。図2は、実施例の電子制御ユニット50により実行されるPWM信号生成ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、繰り返し実行される。
PWM信号生成ルーチンが実行されると、電子制御ユニット50のCPU52は、まず、モータ32の相電流Iu,Ivや電気角θe,回転数Nm,トルク指令Tm*,バッテリ36の電圧Vbや電流Ib,高電圧系電力ライン42(コンデンサ46)の電圧VHなどのデータを入力する(ステップS100)。ここで、モータ32の相電流Iu,Ivは、電流センサ32u,32vによって検出された値を入力するものとした。モータ32の電気角θeや回転数Nmは、回転位置検出センサ32aによって検出されたモータ32の回転子の回転位置θmに基づいて演算された値を入力するものとした。モータ32のトルク指令Tm*は、上述の走行制御によって設定された値を入力するものとした。バッテリ36の電圧Vb,電流Ibは、それぞれ電圧センサ36a,電流センサ36bによって検出された値を入力するものとした。高電圧系電力ライン42(コンデンサ46)の電圧VHは、電圧センサ46aによって検出された値を入力するものとした。
こうしてデータを入力すると、モータ32の各相(U相,V相,W相)に流れる電流の総和が値0であるとして、モータ32の電気角θeを用いて、U相,V相の相電流Iu,Ivをd軸,q軸の電流Id,Iqに座標変換(3相−2相変換)する(ステップS110)。続いて、後述の図3の実効値進角値設定処理により、モータ32に供給する電流の実効値およびq軸に対する進角値である電流実効値Irおよび電流進角値θiを設定し(ステップS120)、設定した電流実効値Irおよび電流進角値θiに基づいてd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を設定する(ステップS130)。ここで、電流実効値Irは、d軸の電流指令Id*の二乗とq軸の電流指令Iq*の二乗との和の平方根として得られるものに相当し、電流進角値θiは、d−q座標系におけるd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*に基づく電流ベクトルのq軸に対する角度(進角値)として得られるものに相当する。したがって、電流実効値Irおよび電流進角値θiに基づいてd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を設定することができる。
次に、d軸,q軸の電流指令Id*,Iq*とd軸,q軸の電流Id,Iqとの差分ΔId,ΔIqとに基づくフィードバック項と、各軸相互に干渉する項をキャンセルするためのフィードフォワード項と、の和としてd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*を計算する(ステップS140)。続いて、d軸の電圧指令Vd*の二乗とq軸の電圧指令Vq*の二乗との和の平方根として計算される電圧指令絶対値Vdqを高電圧系電力ライン42の電圧VHで除して、電圧の変調率Rmを計算する(ステップS150)。そして、モータ32の電気角θeを用いてd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*を各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に座標変換(2相−3相変換)し(ステップS160)、この電圧指令Vu*,Vv*,Vwと搬送波電圧との比較によってトランジスタT11〜T16のPWM信号を生成して(ステップS170)、本ルーチンを終了する。こうしてトランジスタT11〜T16のPWM信号を生成すると、このPWM信号を用いてトランジスタT11〜T16のスイッチング制御を行なう。
次に、図3の実効値進角値設定処理(図2のPWM信号生成ルーチンのステップS120の処理)について説明する。この実効値進角値設定処理では、電子制御ユニット50のCPU52は、まず、モータ32のトルク指令Tm*に基づいて電流実効値Irが最小となるように電流実効値Irおよび電流進角値θiの基本値としてのベース実効値Irtmpおよびベース進角値θitmpを設定する(ステップS200)。ここで、ベース実効値Irtmpおよびベース進角値θitmpは、実施例では、モータ32のトルク指令Tm*とベース実効値Irtmpとベース進角値θitmpとの関係(具体的には、トルク指令Tm*のトルクをモータ32から出力する際の電流実効値Ir(ベース実効値Irtmp)が最小となる関係)を予め定めてマップ(電流最小ライン)としてROM54に記憶しておき、トルク指令Tm*が与えられると、このマップ(電流最小ライン)から対応するベース実効値Irtmpおよびベース進角値θitmpを導出して設定するものとした。電流最小ラインの一例を図4に示す。
続いて、バッテリ36の電圧Vbと電流Ibとの積としてバッテリ36の電力Pbを計算し(ステップS210)、モータ32のd軸,q軸の電流Id,Iqに基づいてモータ32の出力トルクTmを推定し(ステップS220)、推定したモータ32の出力トルクTmと回転数Nmとの積としてモータ32の出力パワーPmを計算する(ステップS230)。ここで、モータ32の出力トルクTmは、d軸,q軸の電流Id,Iqとモータ32の出力トルクTmとの関係を予め定めてマップとして記憶しておき、d軸,q軸の電流Id,Iqが与えられると、このマップから対応するモータ32の出力トルクTmを導出して推定するものとした。
そして、バッテリ36の電力Pbからモータ32の出力パワーPmを減じて、モータ32やインバータ34,昇圧コンバータ40を有する駆動装置全体の損失Lossを計算する(ステップS240)。ここで、駆動装置全体の損失Lossには、モータ32やインバータ34,昇降圧コンバータ40の損失が含まれる。
こうして駆動装置全体の損失Lossを計算すると、前回の駆動装置全体の損失(前回Loss)から今回の駆動装置全体の損失(今回Loss)を減じて、損失差分ΔLossを計算する(ステップS250)。ここで、前回の駆動装置全体の損失(前回Loss)は、前々回の電流実効値(前々回Ir)および電流進角値(前々回θi)に基づいてインバータ34を制御したときの駆動装置全体の損失に相当し、今回の駆動装置全体の損失(今回Loss)は、前回の電流実効値(前回Ir)および電流進角値(前回θi)に基づいてインバータ34を制御したときの駆動装置全体の損失に相当する。
続いて、前々回の電流進角値(前々回θi)と前回の電流進角値(前回θi)とを比較し(ステップS260)、前々回の電流進角値(前々回θi)と前回の電流進角値(前回θi)との大小関係と損失差分ΔLossとに基づいて、進角値補正量θicoの仮の値としての仮進角値補正量θicotmpを計算する(ステップS270,S280)。ここで、仮進角値補正量θicotmpには、前々回の電流進角値(前々回θi)と前回の電流進角値(前回θi)との大小関係に拘わらずに正の値が設定される。
図5は、前々回の電流進角値(前々回θi)および前回の駆動装置全体の損失(前回Loss)の組み合わせの点Aと、前回の電流進角値(前回θi)および今回の駆動装置全体の損失(今回Loss)の組み合わせの点Bと、の関係の一例を示す説明図である。図5(a)は、前々回の電流進角値(前々回θi)が前回の電流進角値(前回θi)よりも小さく且つ損失差分ΔLoss(=前回Loss−今回Loss)が正の場合を示す。図5(b)は、前々回の電流進角値(前々回θi)が前回の電流進角値(前回θi)よりも小さく且つ損失差分ΔLossが負の場合を示す。図5(c)は、前々回の電流進角値(前々回θi)が前回の電流進角値(前回θi)よりも大きく且つ損失差分ΔLossが負の場合を示す。図5(d)は、前々回の電流進角値(前々回θi)が前回の電流進角値(前回θi)よりも大きく且つ損失差分ΔLossが正の場合を示す。なお、実施例では、説明の容易のために、前回の電流進角値(θi)と前々回の電流進角値(前々回θi)とが異なると共に損失差分ΔLossが値0でない(点Aと点Bとが異なる)ものとした。また、図5(a)〜(d)では、参考のために、ベース進角値θitmpを図示した。
ステップS260で前々回の電流進角値(前々回θi)が前回の電流進角値(前回θi)よりも小さい場合(図5(a),図5(b)の場合)には、次式(1)に示すように、損失差分ΔLossに正のゲインk1を乗じたもの(ΔLoss・k1)を前回の仮進角値補正量(前回θicotmp)に加えて今回の仮進角値補正量θicotmpを計算する(ステップS270)。したがって、損失差分ΔLossが正の場合(図5(a)の場合)には、今回の仮進角値補正量θicotmpは前回の仮進角値補正量(前回θicotmp)よりも大きい値となり、損失差分ΔLossが負の場合(図5(b)の場合)には、今回の仮進角値補正量θicotmpは前回の仮進角値補正量(前回θicotmp)よりも小さい値となる。
θicotmp=前回θicotmp+ΔLoss・k1 (1)
ステップS260で前々回の電流進角値(前々回θi)が前回の電流進角値(前回θi)よりも大きい場合(図5(c),図5(d)の場合)には、次式(2)に示すように、損失差分ΔLossに正のゲインk1を乗じたもの(ΔLoss・k1)を前回の仮進角値補正量(前回θicotmp)から減じて今回の仮進角値補正量θicotmpを計算する(ステップS280)。したがって、損失差分ΔLossが負の場合(図5(c)の場合)には、今回の仮進角値補正量θicotmpは前回の仮進角値補正量(前回θicotmp)よりも大きい値となり、損失差分ΔLossが正の場合(図5(d)の場合)には、今回の仮進角値補正量θicotmpは前回の仮進角値補正量(前回θicotmp)よりも小さい値となる。
θicotmp=前回θicotmp-ΔLoss・k1 (2)
次に、前回の変調率Rmに基づいて補正係数kθを設定する(ステップS290)。ここで、補正係数kθは、実施例では、変調率Rmと補正係数kθとの関係を予め定めて補正係数設定用マップとして記憶しておき、変調率Rmが与えられると、このマップから対応する補正係数kθを導出して設定するものとした。補正係数設定用マップの一例を図6に示す。補正係数kθは、図示するように、変調率Rmが大きいときは小さいときよりも小さくなるように設定するものとした。具体的には、補正係数kθは、変調率Rmが所定値Rm1以下の領域では値1を設定し、変調率Rmが所定値Rm1よりも大きく所定値Rm2(>Rm1)の領域では変調率Rmの増加に従って値1から値0に向けて小さくなるように設定し、変調率Rmが所定値Rm2以上の領域では値0を設定するものとした。所定値Rm1としては、例えば、0.55や0.60,0.65などを用いることができる。所定値Rm2としては、略0.78やそれよりも若干小さい値などを用いることができる。このように変調率Rmを設定する理由については後述する。
こうして補正係数kθを設定すると、設定した補正係数kθを仮進角値補値θicotmpに乗じて進角値補正量θicoを計算し(ステップS300)、計算した進角値補正量θicoをベース進角値θitmpに加えて電流進角値θiを計算する(ステップS310)。上述したように、図5(a)および図5(c)の場合には、今回の進角値補正量θicoが前回の進角値補正量(前回θico)よりも大きい値になるから、ベース進角値θitmpが一定であれば、今回の電流進角値θiは前回の電流進角値(前回θi)よりも進角側(図5(a)および図5(c)において点Bよりも進角側、即ち、駆動装置全体の損失Lossがより小さくなる側)となる。一方、図5(b)および図5(d)の場合には、今回の進角値補正量θicoが前回の進角値補正量(前回θico)よりも小さい値になるから、ベース進角値θitmpが一定であれば、今回の電流進角値θiは前回の電流進角値(前回θi)よりも遅角側(図5(b)および図5(d)において点Bよりも遅角側、即ち、駆動装置全体の損失Lossがより小さくなる側)となる。このようにして、図5(a)〜図5(d)の何れの場合でも、補正係数kθが正の値(進角値補正量θicoが正の値)であれば、ベース進角値θitmpよりも駆動装置全体の損失Lossがより小さくなるように電流進角値θiを設定することになる。一方、補正係数kθ(進角値補正量θico)が値0であれば、ベース進角値θitmpをそのまま電流進角値θiに設定することになる。
次に、次式(3)に示すように、モータ32のトルク指令Tm*から出力トルクTmを減じた値(Tm*−Tm)に正のゲインk2を乗じたものを前回の実効値補正量(前回Irco)に加えて今回の実効値補正量Ircoを計算し(ステップS320)、計算した実効値補正量Ircoをベース実効値Irtmpに加えて電流実効値Irを計算して(ステップS330)、本ルーチンを終了する。ここで、実効値補正量Ircoには、値(Tm*−Tm)に拘わらずに正の値が設定される。そして、値(Tm*−Tm)が正の場合には、今回の実効値補正量Ircoが前回の実効値補正量(前回Irco)よりも大きくなって今回の電流実効値Irが前回の電流実効値(前回Ir)よりも大きくなり、値(Tm*−Tm)が負の場合には、今回の実効値補正量Ircoが前回の実効値補正量(前回Irco)よりも小さくなって今回の電流実効値Irが前回の電流実効値(前回Ir)よりも大きくなる。このようにして、値(Tm*−Tm)が小さくなるように電流実効値Irを設定することになる。
Irco=前回Irco+(Tm*-Tm)・k2 (3)
このように、インバータ34の制御としてPWM制御を実行する際には、補正係数kθ(進角値補正量θico)が正の値であればベース進角値θitmpよりも駆動装置全体の損失Lossが小さくなるように電流進角値θiを設定すると共に値(Tm*−Tm)が小さくなるように電流実効値Irを設定するから、ベース実効値Irtmpおよびベース進角値θitmpをそのまま電流実効値Irおよび電流進角値θiに設定するものに比して駆動装置全体の損失Lossを小さくすることができると共に、モータ32のトルク指令Tm*と出力トルクTmとの差分を小さくすることができる。
しかも、変調率Rmが大きいときには小さいときに比して小さくなるように設定される補正係数kθと仮進角値補正量θicotmpとの積として得られる進角値補正量θicoをベース進角値θitmpに加えて電流進角値θiを設定するから、変調率Rmが大きいときには小さいときに比して、電流進角値θiのベース進角値θitmpに対する進角の程度(弱め界磁の程度)を抑制することができる。これにより、変調率Rmが大きいとき(特に、略0.78やそれよりも若干小さいとき)に、d軸の電流Idの絶対値が大きくなるのを抑制し、永久磁石による固定子鎖交磁束が小さくなるのを抑制し、変調率Rmが小さくなるのを抑制することができる。この結果、モータ32の駆動領域(回転数Nm,出力トルクTm)全体で見たときに、正弦波PWM制御や過変調PWM制御の領域が大きくなると共に矩形波制御の領域が小さくなるのを抑制することができる。一般に、矩形波制御を行なうときには正弦波PWM制御や過変調PWM制御を行なうときよりも効率が良好になることから、モータ32の駆動領域全体で見たときに矩形波制御の領域が小さくなるのを抑制することにより、モータ32の駆動領域全体で見たときの効率が低くなるのを抑制することができる。さらに、変調率Rmが所定値Rm2(略0.78やそれよりも若干小さい値など)以上のときには、補正係数kθ(進角値補正量θico)を値0とするから、モータ32の駆動領域全体で見たときに、矩形波制御の領域が小さくなるのをより十分に抑制する(変調率Rmに拘わらずにベース進角値θitmpを電流進角値θiに設定するものと略変わらないようにする)ことができる。
以上説明した実施例の電気自動車20に搭載される駆動装置では、インバータ34の制御として正弦波PWM制御や過変調PWM制御を実行する際には、モータ32のトルク指令Tm*に基づいてモータ32に供給する電流実効値Irおよび電流進角値θiを設定してインバータ34を制御する。こうした制御を行なうものにおいて、インバータ34の制御としてPWM制御を実行する際には、ベース進角値θitmpよりも駆動装置全体の損失Lossが小さくなるように設定される仮進角値補正量θicotmpに基づく進角値補正量θicoを用いてベース進角値θitmpを補正して電流進角値θiを計算し、モータ32のトルク指令Tm*と出力トルクTmとの差分が小さくなるように設定される実効値補正量Ircoを用いてベース実効値Irtmpを補正して電流実効値Irを計算する。これにより、ベース実効値Irtmpおよびベース進角値θitmpをそのまま電流実効値Irおよび電流進角値θiに設定するものに比して駆動装置全体の損失Lossを小さくすることができると共に、モータ32のトルク指令Tm*と出力トルクTmとの差分を小さくすることができる。しかも、変調率Rmが大きいときには小さいときに比して小さくなるように設定される補正係数kθと仮進角値補正量θicotmpとの積として得られる進角値補正量θicoをベース進角値θitmpに加えて電流進角値θiを設定する。これにより、モータ32の駆動領域(回転数Nm,出力トルクTm)全体で見たときに、正弦波PWM制御や過変調PWM制御の領域が大きくなると共に矩形波制御の領域が小さくなるのを抑制することができ、モータ32の駆動領域全体で見たときの効率が低くなるのを抑制することができる。以上のことから、インバータ34の制御としてPWM制御を実行する際の駆動装置全体の損失を低減することができると共にモータ32の駆動領域全体で見たときの効率が低くなるのを抑制することができる。
実施例の電気自動車20に搭載される駆動装置では、補正係数kθは、図6に示したように、変調率Rmが所定値Rm1以下の領域では値1を設定し、変調率Rmが所定値Rm1よりも大きく所定値Rm2の領域では変調率Rmの増加に従って値1から値0に向けて小さくなるように設定し、変調率Rmが所定値Rm2以上の領域では値0を設定するものとした。しかし、補正係数kθは、変調率Rmが大きいときは小さいときよりも小さくなるように設定するものであればよく、変調率Rmが所定値Rm2のときでも、値1よりも小さく値0よりも大きい正の値を設定するものとしてもよい。
実施例の電気自動車20に搭載される駆動装置では、前々回の電流進角値(前々回θi)と前回の電流進角値(前回θi)との大小関係と損失差分ΔLossとに基づいて仮進角値補正量θicotmpを設定すると共に、モータ32のトルク指令Tm*および出力トルクTmに基づいて実効値補正量Ircoを設定するものとした。しかし、図7のマップとモータ32の回転数Nmおよび出力トルクTmと高電圧系電力ライン42の電圧VHとに基づいて仮進角値補正量θicotmpおよび実効値補正量Ircoを設定するものとしてもよい。ここで、図7のマップは、モータ32の回転数Nmおよび出力トルクTmと高電圧系電力ライン42の電圧VHと仮進角値補正量θicotmpおよび実効値補正量Ircoとの関係の一例を示すマップである。この図7のマップでは、仮進角値補正量θicotmpは、モータ32の回転数Nmおよび出力トルクTmと高電圧系電力ライン42の電圧VHとに基づいて駆動装置全体の損失Lossが最小またはその付近となるように予め実験や解析によって定められる。また、実効値補正量Ircoは、モータ32の回転数Nmおよび出力トルクTmと高電圧系電力ライン42の電圧VHとに基づいてトルク指令Tm*と出力トルクTmとの差が打ち消されるまたは十分に小さくなるように予め実験や解析によって定められる。
この変形例では、モータ32の回転数Nmおよび出力トルクTmと高電圧系電力ライン42の電圧VHとに基づいて仮進角値補正量θicotmpおよび実効値補正量Ircoを設定するものとしたが、モータ32の回転数Nmおよび出力トルクTmと高電圧系電力ライン42の電圧VHと搬送波電圧の周波数(キャリア周波数)とに基づいて仮進角値補正量θicotmpおよび実効値補正量Ircoを設定するものとしてもよい。
実施例の電気自動車20に搭載される駆動装置では、バッテリ36とインバータ34との間に昇圧コンバータ40を設けるものとしたが、この昇圧コンバータ40を設けないものとしてもよい。
実施例では、走行用のモータ32を備える電気自動車20に搭載される駆動装置の構成としたが、走行用のモータの他にエンジンも備えるハイブリッド自動車に搭載される駆動装置の構成としてもよいし、建設設備などの移動しない設備に搭載される駆動装置の構成としてもよい。
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、モータ32が「モータ」に相当し、インバータ34が「インバータ」に相当し、電子制御ユニット50が「制御装置」に相当する。
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。