以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
[1.円筒形スパッタリングターゲットの概要]
まず、第1及び第2の実施形態に係る円筒形スパッタリングターゲットの製造方法で製造される円筒形スパッタリングターゲットの構成について、図面を使用しながら説明する。図1は、第1及び第2の実施形態に係る円筒形スパッタリングターゲットの製造方法で製造される円筒形スパッタリングターゲットの概略断面図である。
図1に示すように、円筒形スパッタリングターゲット1は、円筒形のターゲット材10が円筒形のバッキングチューブ20の外周面に設置されたものであり、ターゲット材10とバッキングチューブ20とが接合層30を介して接合されている。本実施形態では、円筒形スパッタリングターゲット1は、ターゲット材10の内周面側に有する中空部にバッキングチューブ20を同軸に配置して、これらターゲット材10とバッキングチューブ20の中心軸が一致した状態で接合層を介して接合されたものとなっている。すなわち、円筒形スパッタリングターゲット1は、ターゲット材10の内周面とバッキングチューブ20の外周面とを接合層30を介して一体となるように接合されたものとなっている。
円筒形スパッタリングターゲット1のサイズは、材質や顧客の要望等に応じて適宜調整することができ、特に限定されるものではない。例えば、外径が100mm〜200mm、内径が80mm〜180mm、全長が50mm〜200mmの円筒形セラミックス焼結体をターゲット材10として用いた場合には、そのターゲット材10を単独で用いるとき、分割して用いるとき、あるいは複数で用いるとき等があり、その状況により円筒形スパッタリングターゲット1のサイズが適宜決定される。
ターゲット材10は、円筒形セラミックス焼結体からなり、当該円筒形セラミックス焼結体は、用途に応じて材料を適宜選択することができ、特に限定されることはない。例えば、インジウム(In)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、及びチタン(Ti)から選択される少なくとも1種を主成分とする酸化物等から構成される円筒形セラミックス焼結体を使用することができる。
特に、後述する低融点接合材と馴染みやすい酸化インジウムを主成分とする円筒形セラミックス焼結体、具体的には、スズを含有する酸化インジウム(ITO)、セリウム(Ce)を含有する酸化インジウム(ICO)、ガリウム(Ga)を含有する酸化インジウム(IGO)、ガリウム及び亜鉛を含有する酸化インジウム(IGZO)等から構成される円筒形セラミックス焼結体がターゲット材10として好適に利用される。
ターゲット材10の外径及び全長は、円筒形スパッタリングターゲットのサイズに応じて適宜調整することが可能である。ターゲット材10の内径は、ターゲット材10の内周面とバッキングチューブ20の外周面との間のクリアランスの幅及びバッキングチューブの外径に応じて適宜調整することが可能であり、これらは、特に限定されるものではない。また、ターゲット材10としては、1つの円筒形セラミックス焼結体から構成されるものだけでなく、複数の円筒形セラミックス焼結体を連結したものを使用することができる。円筒形セラミックス焼結体同士の連結方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。
ターゲット材10の内周面に対して、めっき処理等によりニッケルや銅からなる下地層を形成したり、超音波はんだごてを用いて、接合材を接合面になじませる濡らし作業を行ったりといった前処理を行なってもよい。
バッキングチューブ20は、その材質が円筒形スパッタリングターゲット1の使用時に、接合層30が劣化及び溶融しない十分な冷却効率を確保できる熱伝導性があり、スパッタリング時に、放電可能な電気伝導性、円筒形スパッタリングターゲット1の支持が可能な強度等を備えているものであればよい。バッキングチューブ20として、例えば、一般的なオーステナイト系ステンレス製、特にSUS304製のものに加えて、銅又は銅合金、チタン又はチタン合金、モリブデン又はモリブデン合金、アルミニウム又はアルミニウム合金等の各種材質を使用することができる。
また、バッキングチューブ20は、公知の表面処理を施すことができる。例えば、旋盤加工等で得られたバッキングチューブ20の表面をブラスト加工により、クリーニングすることが好ましい。このようにブラスト加工を行うことによって、旋盤加工で付着した異物、油分をクリーニングすると共に、比表面積増加による接合材の濡れ性が向上できる。
バッキングチューブ20の全長は、円筒形スパッタリングターゲット1のサイズに応じて適宜調整することが可能である。内径は、スパッタリング装置に応じて適宜調整することが可能であり、これらは特に限定されるものではない。また、バッキングチューブ20の外径は、下地層の厚さと共に、ターゲット材10とバッキングチューブ20との線膨張率の差を考慮して設定することが好ましい。
例えば、ターゲット材10として、20℃における線膨張率が7.2×10−6/℃のITOを使用し、バッキングチューブとして、20℃における線膨張率が17.3×10−6/℃であるSUS304を使用する場合には、ターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスの幅が、好ましくは0.3mm〜3.0mm、より好ましくは0.5mm〜1.0mmとなるように、バッキングチューブ20の外径を設定する。
ターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスの幅が0.3mm未満では、溶融した接合材をこの隙間に注入した場合に、バッキングチューブ20が熱膨張し、ターゲット材10が割れてしまう虞がある。一方、隙間の幅が3.0mmを超えると、ターゲット材10の中空部に、バッキングチューブ20を同軸に配置し、これらの中心軸が一致した状態で接合することが困難となる。
接合層30は、例えば、インジウムからなり、ターゲット材10とバッキングチューブ20とを接合する。接合層の役割は、放電により円筒形スパッタリングターゲット1上に発生した熱をバッキングチューブ20の内側を流れる冷却液で放熱するため、ターゲット材10とバッキングチューブ20との熱的な伝達を行うことにある。すなわち、接合層は、円筒形スパッタリングターゲット1を使用する際に、バッキングチューブ20と同様にして、熱伝導性、電気伝導性、接着強度等を備えていればよい。
次に、第1の実施形態に係る円筒形スパッタリングターゲットの製造方法について、図面を使用しながら説明する。
[2.円筒形スパッタリングターゲットの製造方法]
図2は、第1の実施形態に係る円筒形スパッタリングターゲットの製造方法の概略を示すフロー図である。図3(A)ないし(G)は、第1の実施形態に係る円筒形スパッタリングターゲットの製造方法の概略を模式的に示す断面図である。第1の実施形態に係る円筒形スパッタリングターゲットの製造方法は、円筒形セラミックス焼結体からなるターゲット材と円筒状のバッキングチューブとのクリアランスに接合材が充填される。そして、本実施形態は、図2に示すように、配置工程S1と傾斜工程S2と接合工程S3とを有する。以下、各工程S1〜S3について図面を使用しながら説明する。
[2−1.配置工程]
配置工程S1は、図3(A)に示すように、円筒形セラミックス焼結体からなるターゲット材10の中空部にバッキングチューブ20を同軸に配置する。そして、ターゲット材10の上端面11には、ダミーパイプ40が設けられる。このダミーパイプ40とターゲット材10とのクリアランスの上端部には、固定具50が取り付けられる。
(バッキングチューブとターゲット材の配置)
バッキングチューブ20を、ターゲット材10の中空部に同軸に、即ち、これらの中心軸が一致した状態で配置し、両者を接合することが重要となる。両者の中心軸がずれた状態で接合すると、得られる円筒形スパッタリングターゲットの外径の中心と内径の中心がずれてしまう。その結果、スパッタリング時の熱負荷により、円筒形スパッタリングターゲットが不均一に膨張し、ターゲット材に割れや剥離が生じるおそれがある。
まず、配置工程S1では、ターゲット材10の中空部にバッキングチューブ20を同軸に配置する。この位置に配置する方法としては、特に制限されることなく、公知の手段を用いることができる。例えば、X−Yステージを用いて位置決めをすることにより、ターゲット材10の中空部にバッキングチューブ20を同軸に配置することができる。詳細には、バッキングチューブ20は、X−Yステージによる位置決め可能な架台60に一方の端を固定して設置する。このバッキングチューブ20には、軸方向の端部を耐熱Oリング61によって封止し、その後、ターゲット材10の中空部にバッキングチューブ20を同軸に配置するとともに、この封止側が下方となるように、ターゲット材10とバッキングチューブ20を直立させて配置する。
後述する傾斜工程S2では、ターゲット材10とバッキングチューブ20を鉛直方向から所定の角度に傾斜させる際に、ターゲット材10とバッキングチューブ20との中心軸がずれるため、一定のクリアランスの幅を維持することができないおそれがある。これにより、傾斜工程S2においてクリアランスに充填した接合材の容量は、クリアランス内の各地点におけるバラつきが生じる。このため、本実施形態により作製されるスパッタリングターゲットは、スパッタリング時の熱負荷によって、バラつきがある接合層において局所的に熱がかかる。そのため、後述する接合工程S3においてクリアランスに接合材を充填する際、ターゲット材10とバッキングチューブ20を傾斜させたことにより、一定のクリアランスの幅を維持することができない場合には、ターゲット材10に割れや剥離等の不具合が生じる円筒形スパッタリングターゲットしか作製できない。
そこで、ターゲット材10とバッキングチューブ20を傾斜させても、一定のクリアランスを維持することが必要である。
配置工程S1では、図3(A)に示すように、円筒状のダミーパイプ40を用いて、少なくとも1つの固定具50をクリアランスに取り付けることにより、クリアランスを維持する。このダミーパイプ40は、ターゲット材10の上端面11にバッキングチューブ20と同軸上に設けられる。後述する接合工程S3では、ダミーパイプ40を設けたことにより、ターゲット材10及びバッキングチューブ20を傾斜させて接合材を充填した際に、ターゲット材10の上端面11よりも高い位置にあるダミーパイプ40の所定の高さまで接合材を充填することが可能となる。その結果、接合材の充填後にターゲット材10とバッキングチューブ20を直立させても、接合材の液面は、ターゲット材10の上端面と同じ高さとなる。すなわち、ターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスには、ターゲット材10の上端付近が未充填とならずに、接合材を充填することができる。
ダミーパイプ40には、Cu材やSUS材で作製し、前述した前処理等を行わない。これにより、接合工程S3において接合層を形成した後、ダミーパイプ40に接着した接合材は、容易に剥離させることができる。ダミーパイプ40は、ターゲット材10及びバッキングチューブ20を傾斜させて接合材を充填する際に、ターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスの上方の開口端まで接合材で充填されるよう、ターゲット材10の上端面よりも高い位置に接合材が充填されても、接合材が系外に漏れないよう堰止めする機能を有する。
もし、ダミーパイプを利用しない場合には、ターゲット材及びバッキングチューブを傾斜させて接合材を充填した後、ターゲット材及びバッキングチューブを直立させた際、接合材がターゲット材の上端付近においてわずかに充填されていないこととなる。したがって、このような不具合が生じないよう、図3(A)に示すように、ターゲット材10の上端面11にはダミーパイプ40が設置される。
また、バッキングチューブ20の上端面21には、必要に応じて、図4に示すように、ダミーパイプ40と同様の理由により円筒状のダミーチューブ70を設置してもよい。すなわち、ターゲット材10の上端面11にはダミーパイプ40がさらに設けられ、バッキングチューブ20の上端面21にはダミーパイプ40と同軸上に円筒状のダミーチューブ70がさらに設けられ、後述する傾斜工程S2においてターゲット材10とバッキングチューブ20を鉛直方向から所定の角度に傾斜させた際に、ダミーパイプ40とダミーチューブ70とのクリアランスの傾斜方向上側に少なくとも1つの固定具を取り付けることにより、クリアランスを維持する。なお、ダミーパイプ40及びダミーチューブ70の長さは、傾斜する角度に応じて接合材を充填することが可能な長さに適宜設定する。
また、ダミーパイプ40の外径及び内径は、ターゲット材10と略同一とし、ダミーチューブ70の外径及び内径は、バッキングチューブ20と略同一に設定する。また、ターゲット材10とダミーパイプ40とのつなぎ目周辺の外周を耐熱テープ等巻き、或いはバッキングチューブ20とダミーチューブ70とのつなぎ目周辺の内周及び外周を耐熱テープ等で巻くことでそれぞれの位置合わせを行う。なお、バッキングチューブ20を軸として複数のターゲット材が配置している場合も、同様の方法で位置合わせを行える。
図3(A)に示すように、固定具50は、傾斜工程S2においてターゲット材10とバッキングチューブ20を鉛直方向から所定の角度に傾斜させた際に、ダミーパイプ40とバッキングチューブ20とのクリアランスに少なくとも1つ取り付けられる。例えば、図5(A)に示すように、固定具50は、ダミーパイプ40とバッキングチューブ20とのクリアランスの傾斜方向上側に取り付けられてもよい。なお、傾斜方向上側は、ターゲット材10とバッキングチューブ20を鉛直方向から所定の角度に傾斜させた際におけるダミーパイプ40とバッキングチューブ20とのクリアランスのうち最も高い位置となる。
これにより、ターゲット材10とバッキングチューブ20とを鉛直方向から所定の角度に傾斜させても、ターゲット材10とバッキングチューブ20との中心軸が一致しているので、クリアランスの幅を維持することができる。この結果、スパッタリング時の熱負荷によって、ターゲット材10に割れや剥離等の不具合が生じることのない円筒形スパッタリングターゲットを得ることができる。
さらに、配置工程S1では、ダミーパイプ40とバッキングチューブ20とのクリアランスに複数の固定具を所定の間隔で取り付けることがより好ましい。詳細には、ダミーパイプ40とバッキングチューブ20とのクリアランスの上端部に固定具を2ヶ所取り付ける場合、固定具は、クリアランスの傾斜方向上側と、この傾斜方向上側より所定の等間隔で離れた上端付近位置にそれぞれ取り付けられる。例えば、図5(B)に示すように、固定具51a,51bは、矢印Aの方向に傾斜させた際に、クリアランスの傾斜方向上側とクリアランスの傾斜方向下側にそれぞれ取り付けられてもよい。また、図5(C)に示すように、矢印Aの方向に傾斜させた際に、固定具52a,52bは、クリアランスの傾斜方向上側近辺に2ヶ所取付けてもよい。クリアランスの傾斜方向上側近辺となる位置とは、クリアランスの最上部位置を基準として左右±60°内の範囲を指す。例えば、図5(C)は、クリアランスの傾斜方向上側から右回り45°及び左回り45°ずらした位置にそれぞれ取り付けられてもよい。なお、傾斜方向下側は、ターゲット材10とバッキングチューブ20を鉛直方向から所定の角度に傾斜させた際におけるダミーパイプ40とバッキングチューブ20とのクリアランスのうち最も低い位置となる。
さらに、固定具を3ヶ所以上取り付ける場合、固定具は、円周方向均等に取り付けられる。例えば、図5(D)に示すように、固定具53aは、矢印Aの方向に傾斜させた際に、クリアランスの傾斜方向上側に取り付けられ、さらに2つの固定具53b,53cは、この位置から右回り90°及び左回り90°ずらした位置にそれぞれ取り付けてもよい。また、図5(E)に示すように、固定具54aは、矢印Aの方向に傾斜させた際に、クリアランスの傾斜方向上側に取り付けられ、さらに2つの固定具54b,54cは、この位置から右回り120°及び左回り120°ずらした位置にそれぞれ取り付けてもよい。さらに、図5(F)に示すように、固定具55a,55bは、矢印Aの方向に傾斜させた際に、クリアランスの傾斜方向上側と傾斜方向下側とにそれぞれ取り付けられ、さらに固定具55c,55dは、この傾斜方向上側から右回り90°及び左回り90°ずらした位置にそれぞれ取り付けられてもよい。また、図示していないが、図5(C)のクリアランスの傾斜方向上側近辺に2ヶ所取付けて、さらにクリアランスの傾斜方向下側にも固定具を均等に取付けてもよい。
このように、図5(B)〜(F)に示す固定具の配置により、ターゲット材10とバッキングチューブ20を鉛直方向から所定の角度に傾斜させても、ターゲット材10とバッキングチューブ20との中心軸が一致しているので、クリアランスの幅をより確実に維持することができる。なお、図5(B)〜(F)に示す固定具の配置は例示にすぎず、一定のクリアランスを維持することができれば、これらに限定されない。また、図5(A)〜(F)に示す固定具の配置は、ダミーパイプ40とダミーチューブ70とのクリアランスを維持するために用いてもよい。
また、複数の固定具は、ターゲット材10とバッキングチューブ20との傾斜方向に対して線対称となるように、ダミーパイプ40とバッキングチューブ20とのクリアランスあるいはダミーパイプ40とダミーチューブ70とのクリアランスにそれぞれ取り付けることにより、ターゲット材10及びバッキングチューブ20を傾斜させても、ターゲット材10とバッキングチューブ20との中心軸が一致したままである。その結果、ターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスは、一定に維持されることができる。
固定具としては、例えばクリアランスの厚さと同等のスペーサーやくさびを用いることができる。スペーサーは、耐熱性を有する材料であればよく、例えば、テフロン等が挙げられる。なお、固定具が、ダミーパイプとバッキングチューブとのクリアランス、または、ダミーパイプとダミーチューブとのクリアランスに設置されるため、後述する接合工程S3後、ダミーパイプを除去すると同時に固定具を除去する。このため、バッキングチューブとターゲット材とのクリアランスには固定具が残らず、このクリアランスには接合材のみが充填される。
[2−2.傾斜工程]
傾斜工程S2は、図3(B)に示すように、ターゲット材10とバッキングチューブ20を鉛直方向から所定の角度に傾斜させる。これにより、固定具50がバッキングチューブ20とダミーパイプ40とのクリアランスの傾斜方向上側に取り付けられるので、ターゲット材10とバッキングチューブ20との中心軸が一致したままである。そのため、ターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスが維持される。
ここで、所定の角度とは、5°以上45°以下である。すなわち、円筒形スパッタリングターゲットの製造方法では、ターゲット材とバッキングチューブとの間のクリアランスの軸方向一端部を、Oリング等の公知の封止手段により封止する。そして、この封止側が下方となるように、ターゲット材とバッキングチューブとを直立させ、鉛直方向から5°以上45°以下に傾斜させる。
図6は、従来の円筒形スパッタリングターゲットの製造方法における接合材の充填を模式的に示す断面図である。図6に示すように、鉛直方向から傾斜された角度が5°未満の場合には、ターゲット材110とバッキングチューブ120とをほぼ直立させたまま、上方から下方に接合材131を充填した際に、充填される接合材131の液面が矢印方向に互いに衝突し、接合材131のない空隙部分140を生成しやすくなる。
一方、鉛直方向から傾斜された角度が45°を超える場合には、充填される接合材の自重でクリアランス内に存在する空隙をつぶす効果が低く、作製された円筒形スパッタリングターゲットは接合材のない空隙部分を生成しやすくなる。
このように、ターゲット材とバッキングチューブとの間のクリアランスに液体の接合材を充填する際に、ターゲット材とバッキングチューブを鉛直方向から5°以上45°以下に傾斜させることで、クリアランスに存在する空気が効果的に抜け、ターゲット材と接合材、接合材とバッキングチューブに空隙が生成されない。その結果、スパッタリング時の熱負荷によって、ターゲット材に割れや剥離等の不具合が生じることのない円筒形スパッタリングターゲットが得られる。
さらに、傾斜工程S2では、所定の角度として5°以上45°以下のうち、特に22.5°であることが好ましい。このような角度22.5°に傾けることにより、ターゲット材とバッキングチューブとのクリアランスに形成される接合層を介して接合率が非常に高い数値となるので、スパッタリング時の熱負荷によって、ターゲット材に割れや剥離等の不具合が生じることのない円筒形スパッタリングターゲットをより確実に得ることができる。
[2−3.接合工程]
接合工程S3は、図3(C)〜(G)に示すように、ターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスに接合材31を充填し、ターゲット材10とバッキングチューブ20とを直立させて放冷させることにより接合材31を冷却し、ターゲット材10とバッキングチューブ20とを接合する。
詳しくは、接合工程S3では、配置工程S1において接合層を形成するため、ターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスの両端開口部の下端側は、耐熱Oリング61等の封止手段を用いて封止されている。ターゲット材10とバッキングチューブ20は、これらの間に流し込まれる接合材31の融点以上にバンドヒータ(不図示)等で加熱される。
図3(C)に示すように、ターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスの両端開口部のうち、封止されていない上端側から溶融状態にある接合材31を流し込む。充填された液体の接合材31がターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスの最下部より充填される。したがって、ターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスでは、充填された液体の接合材31により耐熱Oリング61と接するクリアランスの最下部に存在している空気が押し出せることで、この空気が接合材31を流し込んだクリアンスの下部に存在しないことになる。
なお、ダミーパイプ40とバッキングチューブ20とのクリアランスには、上方に広がる漏斗状の充填治具(不図示)を差し込むよう、ダミーパイプ40の上端部付近に取り付けてもよい。これは、クリアランスの幅が狭く、この充填治具を使用することで容易に接合材31を充填することができる。なお、ダミーチューブ70を使用している場合には、充填治具をダミーパイプ40とダミーチューブ70とのクリアランスに差し込むよう、ダミーパイプ40の上端部付近に取り付けてもよい。
次いで、図3(D)に示すように、クリアランス内には、溶融した接合材31を上方からさらに流し込み、接合材31の充填を継続すると、ターゲット材10とバッキングチューブ20のクリアランスの下部に空気を滞留させることなく、接合材31の液面が上昇しクリアランスに存在する順次空気を押し出されていく。
次いで、図3(E)に示すように、ターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスには接合材31の未充填をなくすため、傾斜方向下側にあるダミーパイプ40の所定の位置まで、バッキングチューブ20とダミーパイプ40とのクリアランスから接合材31の充填を継続する。そして、ダミーパイプ40の所定の位置まで接合材31の充填されたことを目視で確認した後、接合材31の流し込みを停止する。
ターゲット材及びバッキングチューブは、予め、その表面温度が接合材の融点以上、好ましくは融点より10℃〜30℃高い温度となるように加熱しておくことが必要である。ターゲット材及びバッキングチューブの表面温度が接合材の融点以下では、接合材がターゲット材またはバッキングチューブに接触すると同時に硬化し、十分な量の接合材を流し込むことが困難となる。
接合層には、上述のバッキングチューブと同様にして、熱伝導性、電気伝導性、接着強度等の特性を持たせるためには、接合層の形成に用いる接合材を選定する必要がある。例えば、インジウムを主成分とする接合材は、スズを主成分とする接合材に比べて凝固時の硬度が低い。そのため、インジウムを主成分とする接合材を用いて接合層を形成する場合には、溶融した接合材を注入してから固化するまでの過程において、ターゲット材の割れ等の不具合を効果的に防止することができる。
また、インジウムを主成分とする接合材を用いて接合層を形成する場合には、インジウムを50質量%以上、好ましくは70質量%〜100質量%、より好ましくは80質量%〜100質量%含有するものを使用する必要がある。特に、インジウムを80質量%以上、好ましくは90質量%〜100質量%含有する低融点接合材を接合材として用いることが好ましい。このような低融点接合材であれば、原子又は分子間の結合が弱いため軟らかく、冷却固化後の硬度が適切な範囲にあるため、作業性に優れている。また、低融点接合材は、作業性に優れるだけでなく、溶融時の流動性が高いため、巣(鬆)やひけが極めて少ない、均一な接合層を容易に形成することができる。
例えば、インジウムの含有量が100質量%であるインジウム金属を接合材として用いた場合には、インジウム金属の熱伝導率が81.6W/m・kと熱伝導性に優れることから好ましい。また、インジウム金属は、液化して固化することによりターゲット材とバッキングチューブとを接合させる際に、これらを密着性よく接合できることから好ましい。
一方、インジウムの含有量が50質量%未満では、バッキングチューブ側との濡れ性が低いため、そのような接合材を加熱して溶融した接合材をターゲット材の内周面とバッキングチューブの外周面との間の空隙部に、高い充填性をもって隙間なく注入することができない。
また、接合材としては、上述したインジウム系低融点接合材の他に、インジウム粉末を含有する樹脂ペースト、導電性樹脂等を用いることができるが、導電性や展延性の観点から、インジウム系低融点接合材が好ましく、融点が130℃〜160℃のインジウム系低融点接合材がより好ましい。なお、インジウム以外の成分については、特に制限されることはなく、例えば、スズ、アンチモン(Sb)、亜鉛等を必要に応じて含有させることができる。インジウム以外の成分の含有量は、50質量%未満であり、30質量%未満が好ましく、20質量%未満がより好ましい。
次いで、接合工程S3では、図3(F)に示すように、鉛直方向から5°以上45°以下に傾斜させていたターゲット材10及びバッキングチューブ20を直立させた後、ターゲット材10及びバッキングチューブ20の表面に熱をかけるのを停止し、室温(20℃)まで放冷する。そして、接合工程S3では、ターゲット材10とバッキングチューブ20を直立させて放冷することにより、充填した接合材31が固化することで接合層を形成する。
次いで、図3(G)に示すように、ターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスに充填された接合材31が完全に固化して、接合層30が形成されたことを目視で確認した後、配置工程S1で使用したダミーパイプ40、固定具50、架台60、耐熱Oリング61等をそれぞれ取り除く。このように、円筒形スパッタリングターゲット1を作製する。
[2−4.第2の実施形態]
次に、第2の実施形態に係る円筒形スパッタリングターゲットの製造方法について、図面を使用しながら説明する。なお、上述した第1の実施形態と重複する説明を割愛する。
図7は、(A)ないし(G)は、第2の実施形態に係る円筒形スパッタリングターゲットの製造方法の概略を模式的に示す断面図である。配置工程S1では、図7(A)に示すように、バッキングチューブ20は架台60に固定し、クリアランスの下方の開口端を封止するために耐熱Oリング61を取り付けて、ターゲット材10とバッキングチューブ20とが同軸になるよう架台に固定する。ターゲット材10の上端面11には、ダミーパイプ40をさらに設ける。架台60の一端部には、支柱80を鉛直方向に設置する。この支柱80には、第1の押さえ機構90aと第2の押さえ機構90bとをそれぞれ取り付ける。
第1の押さえ機構90aは、支柱80から水平方向に延在される第1のアーム部91aとその第1のアーム部91aの先端部の下方側に第1の押さえ部92aが設けられる。また、第2の押さえ機構90bは、支柱80から水平方向に延在される第2のアーム部91bとその第1のアーム部91bの先端部の下方側に第2の押さえ部92bが設けられる。第1及び第2の押さえ機構90a,90bは、支柱80よりネジやばね等でダミーパイプ40及びバッキングチューブ20を鉛直下方に押圧することによりターゲット材10及びバッキングチューブ20を固定するという機能を有する。
後述する傾斜工程S2において、ダミーパイプ40の上端面41は第1の押さえ機構90aにより第1の押さえ部92aを介して鉛直方向に押圧され、かつバッキングチューブ20の上端面21は第2の押さえ機構90bにより第2の押さえ部92bを介して鉛直方向に押圧されることで、ターゲット材10とバッキングチューブ20を所定の角度に傾斜させても、クリアランスの幅を維持することができる。第2の実施形態では、第1の実施形態で上述した固定具及びダミーパイプを使用した場合に比べ、接合工程S3で接合材の流し込みがより容易になる。
また、図8に示すように、ダミーパイプ40とバッキングチューブ20との高さ位置を調節するため、バッキングチューブ20の上端面21にダミーチューブ70を配置してもよい。すなわち、第1の押さえ機構90aは、ダミーパイプ40の上端面41を第1の押さえ部92aを介して押圧し、第2の押さえ機構90bは、ダミーチューブ70の上端面71を第2の押さえ部92bを介して押圧する。これにより、ターゲット材10とバッキングチューブ20を所定の角度に傾斜させても、クリアランスの幅を維持することができる。
さらに、クリアランスをより確実に維持するため、固定具を併用してもよい。つまり、ターゲット材10とバッキングチューブ20を配置した際に、ダミーパイプ40とバッキングチューブ20とのクリアランスまたはダミーパイプ40とダミーチューブ70とのクリアランスに固定具を使用し、クリアランスを維持し、その後ダミーパイプ40とバッキングチューブ20またはダミーチューブ70を鉛直方向に押さえ付けてもよい。これにより、ターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスを維持することが容易になり、かつ接合工程S3でも接合材の流し込みがさらに簡易かつ効率的となる。
傾斜工程S2では、図7(B)に示すように、ターゲット材10とバッキングチューブ20とを鉛直方向から所定の角度となるように傾斜させる。第1及び第2の押さえ機構90a,90bにより、ターゲット材10とバッキングチューブ20とを傾斜させても位置ずれを起こすことなく、ターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスが維持される。
接合工程S3では、図7(C)に示すように、ターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスには、上方から溶融した接合材31を流し込み、充填された液体の接合材31がターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスの最下部より充填される。したがって、クリアランス内は、充填された液体の接合材31により耐熱Oリング61と接するクリアランスの最下部に存在している空気が押し出せることで、この空気が接合材31で充填されたクリアランスの下部に存在しないことになる。
次いで、図7(D)に示すように、上方からターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスに溶融した接合材31をさらに流し込み接合材31の充填を継続すると、ターゲット材10とバッキングチューブ20のクリアランスの下部に空気を滞留させることなく、接合材31の液面が上昇しクリアランスに存在する順次空気を押し出されていく。
次いで、図7(E)に示すように、ターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランス内には接合材31の未充填をなくすため、傾斜方向下側にあるダミーパイプ40の所定の位置まで、クリアランスから接合材31の充填を継続する。そして、ダミーパイプ40の所定の位置まで接合材31の充填されたことを目視で確認した後、接合材31の流し込みを停止する。
次いで、図7(F)に示すように、ターゲット材10とバッキングチューブ20とは、直立させて、放冷させる。これにより、クリアランスには、充填した接合材31が固化することで、接合層が形成される。
最後に、図7(G)に示すように、ターゲット材10とバッキングチューブ20とのクリアランスに接合層30が形成されたことを目視で確認した後、配置工程S1で使用したダミーパイプ40、架台60、耐熱Oリング61、支柱80、第1及び第2のアーム部91a,91b、第1及び第2の押さえ部92a,92b等をそれぞれ取り除く。このように、円筒形スパッタリングターゲット1を作製する。
[2−5.まとめ]
以上で説明した通り、第1及び第2の実施形態に係る円筒形スパッタリングターゲットの製造方法は、ターゲット材の中空部にバッキングチューブを同軸に配置する配置工程と、ターゲット材とバッキングチューブを鉛直方向から所定の角度に傾斜させる傾斜工程と、ターゲット材とバッキングチューブとのクリアランスに接合材を充填し、ターゲット材とバッキングチューブとを直立させて放冷させることにより接合材を冷却し、ターゲット材とバッキングチューブとを接合する接合工程とを有する。そして、傾斜工程では、所定の角度が5°以上45°以下であることを特徴とするものである。
その結果、円筒形スパッタリングターゲットの作製時に高い接合率及び接合強度を有する接合層30を形成することができる。そして、円筒形スパッタリングターゲットの製造方法では、スパッタリング時に割れ、欠け、剥離等の不具合が発生しない円筒形スパッタリングターゲット1を得ることができる。また、円筒形スパッタリングターゲットの製造方法では、このような円筒形スパッタリングターゲットを、工業規模の生産において、容易に得ることができるので、その工業的意義は極めて大きい。
[3.実施例]
以下、実施例及び比較例を用いて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例及び比較例に限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1では、外径100mm、内径81mm、全長200mmのITO製の円筒形セラミックス焼結体を5つ用意した。次に、全ての円筒形セラミックス焼結体について、接合面となる内周面以外の部分に余分な接合材が付着することを防止するため、耐熱性のマスキングテープでマスキングを行った。その後、全ての円筒形セラミックス焼結体について、接合面となる内周面をインジウムで濡らすと共に、全長が1002mmとなるように、5個の円筒形セラミックス焼結体を厚み0.5mmのシリコンパッキンで挟んで一定間隔で配列し、外周面を耐熱テープで固定することにより、ターゲット材を得た。
次に、実施例1では、外径80mm、内径70mm、全長1100mmのSUS304製の旋盤加工で得られた円筒形バッキングチューブを用意した。この円筒形バッキングチューブのうち、接合面以外の部分については、余分な接合材が付着することを防止するため、耐熱テープでマスキングを行った。その後、投射材としてガラスビーズ♯80を使用し、円筒形バッキングチューブについて、ブラスト加工を行った。
その後、超音波ハンダ付け装置(会社名:黒田テクノ株式会社、製品名:サンボンダ(登録商標)USM−528)を使用し、インジウム系低融点半田を用いた公知の濡らし作業を行った。
次に、実施例1では、X−Yステージによる位置決め及びクリアランスを維持するシクネスゲージの使用により、円筒形バッキングチューブをターゲット材の中空部に同軸に配置すると共に、クリアランスの軸方向一端部を耐熱Oリングによって封止し、この封止側が下方となるように、ターゲット材と円筒形バッキングチューブとを直立させた。
次に、ターゲット材の上端面には、ターゲット材と内径及び外径が同じで長さが140mmのダミーパイプ(SUS製)を設置した。ターゲット材とダミーパイプとの外周面のつなぎ目を耐熱テープで巻き同一の位置に配置した。また、バッキングチューブの上には、バッキングチューブと内径及び外径が同じで長さが140mmのダミーチューブ(SUS製)を設置した。バッキングチューブとダミーチューブとの内周面及び外周面のつなぎ目をそれぞれ耐熱テープで巻き同一の位置に配置した。また、ターゲット材とバッキングチューブとを傾斜させた際に、ダミーチューブとダミーパイプとのクリアランスの傾斜方向上側となる位置に固定具を取り付けた。また、ダミーパイプの上面には上方に広がる漏斗状の充填治具を設置した。なお、ターゲット材とバッキングチューブのクリアランスは、0.5mmであった。
続いて、実施例1では、ターゲット材の外周面にバンドヒータを取り付け、設定温度を180℃として加熱した。また、インジウム系低融点半田を用意し、これをバンドヒータにより190℃まで加熱して溶融した。
実施例1では、バンドヒータが設定温度に達したことを確認した後、ターゲット材とバッキングチューブを鉛直方向から5°傾け、上方のクリアランスの開口側から溶融した接合材を注入し、下端側から徐々に接合材が充填された。所定量(1017g)の接合材を注入された際に、傾斜方向下側のダミーパイプの所定の高さまで接合材が充填され、かつ傾斜方向上側のターゲット材の上端面が接合材の液面と同じ高さであることを確認した後、鉛直方向から5°の傾きを0°に戻し、バンドヒータのスイッチを切り、室温(20℃)まで放冷した。接合材が完全に固化して接合層が形成されたことを確認した後、ダミーパイプ、固定具、ダミーチューブ、充填治具、マスキングテープ、耐熱Oリングを取り除き、円筒形スパッタリングターゲットを得た。
実施例1では、得られた円筒形スパッタリングターゲットに対して、超音波探傷装置(会社名:株式会社KJTD、製品名:SDS−WIN)を用いて、接合材の充填量を測定し、この測定値より、ターゲット材と円筒形バッキングチューブとの接合率を評価した。具体的には、これらの接合率が95.0%以上のものを「優(◎)」、90.0%以上95.0%未満のものを「良(○)」、90.0%未満のもの、又は、ターゲット材が円筒形バッキングチューブから脱落し、接合率を評価できなかったものを「不良(×)」として評価した。
実施例1では、得られた円筒形スパッタリングターゲットの接合率を、上記方法により評価した結果、何れも優れたものであることが確認された。また、円筒形スパッタリングターゲットをマグネトロン型回転カソードスパッタリング装置に取り付け、0.6Paのアルゴン雰囲気中、出力300Wで放電試験を実施したところ、スパッタリング中に、ターゲット材に割れや欠け等が生じることはなかった。
実施例1では、これらの結果を表1にまとめた。なお、表1中の「放電試験」には、放電試験後の円筒形スパッタリングターゲットの割れ、欠け、剥離等の不具合が生じたか否かの結果を、「有り」又は「無し」で示した。
(実施例2〜実施例3及び比較例1〜比較例2)
実施例2〜実施例3及び比較例1〜比較例2では、下記の表1に示すように、ターゲット材とバッキングチューブを鉛直方向から傾けた角度をそれぞれ変更し、下方のクリアランスの開口側から、溶融した接合材を注入したこと以外は実施例1と同様にして、円筒形スパッタリングターゲットを作製した。また、円筒形スパッタリングターゲットの接合率、及び放電試験の結果を表1にまとめた。
(実施例4)
実施例4では、図7(A)に示す配置にするため、実施例1と同様にターゲット材とバッキングチューブとを用意した。次いで、Oリングでターゲット材とバッキングチューブとのクリアランスの下端側を封止して、このターゲット材とバッキングチューブとを架台にそれぞれ固定した。ターゲット材の上端面にはダミーパイプを設け、ターゲット材とダミーパイプとの外周面のつなぎ目を耐熱テープで巻き同一の位置に配置した。架台の一端部には、支柱を鉛直方向に設置した。この支柱から押さえ機構に備わるアーム部を水平方向に2本取り付けた。次いで、ターゲット材とバッキングチューブとのクリアランスが維持されるようダミーパイプの上端面を第1の押さえ機構で押圧し、かつバッキングチューブの上端面を第2の押さえ機構で押圧した。
実施例4では、実施例1と同様に、ターゲット材及びダミーパイプの外周面にバンドヒータを取り付け、設定温度を180℃として加熱した。また、インジウム系低融点半田を用意し、これをバンドヒータにより190℃まで加熱して溶融した。
実施例4では、バンドヒータが設定温度に達したことを確認した後、ターゲット材とバッキングチューブを鉛直方向から22.5°傾け、漏斗状の充填治具をクリアランスに取り付けた。そして、上方のクリアランスの開口側から溶融した接合材を注入し、ターゲット材の下端側から徐々に接合材が充填された。所定量(1017g)の接合材を注入された際に、接合材が傾斜側の反対側のターゲット材の上端面より接合材の液面が高い位置にあることを確認した後、鉛直方向から22.5°の傾きを0°に戻し、バンドヒータのスイッチを切り、室温(20℃)まで放冷した。接合材が完全に固化して接合層が形成されたことを確認した後、ダミーパイプ、第1及び第2の押さえ機構、充填治具、耐熱Oリングを取り除き、円筒形スパッタリングターゲットを得た。
実施例4では、実施例1と同様に、接合率と放電試験を評価した結果、接合率95%以上であり、放電試験でも異常が確認されなかったので、接合率及び放電試験ともに良好であった。
(実施例による考察)
表1に示す結果から、実施例1〜実施例4では、5°以上45°以下に傾斜しながら接合材を充填することで、ターゲット材とバッキングチューブとの間に良好な接着力、即ち、高い接合力及び接合強度が得られた。そして、実施例1〜実施例4では、各実施例で得られた円筒形スパッタリングターゲットを用いて放電試験を実施したところ、ターゲット材に割れ、欠け、剥離等の不具合が発生しなかった。特に、実施例2及び実施例4では、傾斜角度を22.5°としたことで、実施例1と比べてより高い接合率を有する円筒形スパッタリングターゲットが得られた。
一方、比較例1では、ターゲット材及びバッキングチューブを傾斜させることを行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、円筒形スパッタリングターゲットを作製した。表1に示す結果から、比較例1では、接合材を充填する際に、ターゲット材及びバッキングチューブを傾斜させることによりクリアランスに存在する空気を抜くといった、脱気効果が得られず、接合率が低く熱伝導が得られなかった。このため、比較例1では、放電試験中に、ターゲット材に割れ、欠けが入ったので、放電試験を行うことができなかった。
比較例2では、傾斜角を60°にしたこと以外は実施例1と同様にして、円筒形スパッタリングターゲットを作製した。表1に示す結果から、比較例2では、接合材を充填する際に、ターゲット材及びバッキングチューブを倒しすぎたことで脱気効果が得られず、接合率が低く熱伝導が得られなかった。このため、比較例2では、放電試験中に、ターゲット材に割れ、欠けが入ったので、放電試験を行うことができなかった。
実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例2より得られた表1に示す結果から、鉛直方向から5°以上45°以下に傾斜させることでクリアランスに存在する空気が効果的に抜け、ターゲットと接合材、接合材とバッキングチューブに空隙を生成させず、ターゲット材とバッキングチューブとの接合率及び接合強度を向上することができた。
したがって、実施例1〜実施例4におけるスパッタリングターゲットの製造方法では、スパッタリング時の熱負荷によって、ターゲット材に割れや剥離が生じることがない円筒形スパッタリングターゲットが得られることを確認した。この理由としては、ターゲット材とバッキングチューブのクリアランスの幅が0.5mmと狭くても、ターゲット材とバッキングチューブを所望とする角度に傾斜させることで、クリアランスに接合材を充填したことにより、空気を下部に滞留させることなく接合材の液面が上昇し順次、クリアランスに存在する空気を効果的に押し出せたと推察される。