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JP6838508B2 - 真空浸炭用鋼及び浸炭部品 - Google Patents
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JP6838508B2 - 真空浸炭用鋼及び浸炭部品 - Google Patents

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Description

本発明は、真空浸炭用鋼及び真空浸炭用鋼を用いて製造される浸炭部品に関する。
従来、歯車、ベルト式無段変速機(CVT)用プーリーなどの機械部品には、浸炭処理が施された浸炭部品が利用されている。近年、上述の機械部品では、小型化及び軽量化が求められている。したがって、これらの機械部品として利用される浸炭部品では、小型化及び軽量化が可能となるように、さらなる疲労強度の向上が求められている。
浸炭処理として、従来はガス浸炭処理が多く利用されていた。しかしながら、最近では、真空浸炭処理が利用されるようになってきている。真空浸炭処理に関する技術は、国際公開第2009/131202号(特許文献1)、特許第5301728号公報(特許文献2)、特許第4254816号公報(特許文献3)、及び、特開2016−191151号(特許文献4)に開示されている。
真空浸炭処理は、ガス浸炭処理と比較して、次の効果を有する。真空浸炭処理では、浸炭温度を高くすることができる。そのため、短時間で所望の炭素濃度を有する浸炭部品が得られる。さらに、真空浸炭処理は真空での処理であるため、浸炭処理に伴う粒界酸化が抑制される。そのため、曲げ疲労強度の高い浸炭部品を製造しやすい。真空浸炭処理ではさらに、炭素収率が高い。そのため、二酸化炭素の排出量を抑えることができる。
真空浸炭処理は上述の効果を有するものの、次の問題を有する。真空浸炭処理により製造された浸炭部品では、エッジ部の炭素濃度が、平坦部と比較して高くなりやすい。そのため、エッジ部では、炭素濃度が必要以上に高くなる過剰浸炭が発生しやすい。過剰浸炭された部分の焼入れ組織には、粗大なセメンタイトが発生しやすい。粗大なセメンタイトは、曲げ疲労強度を低下する。過剰浸炭された部分の焼入れ組織にはさらに、残留オーステナイトが残存しやすくなる。残留オーステナイトは、硬さを低下したり、鋼材を脆くしたりする。したがって、真空浸炭処理により製造された浸炭部品では、曲げ疲労強度が不十分となる場合がある。特に、歯車、CVT用プーリー等、多数のエッジ部を含む浸炭部品の場合、エッジ部において、過剰浸炭に起因して曲げ疲労強度が低下する場合がある。
真空浸炭処理を施した浸炭部品におけるエッジ部の過剰浸炭の問題を解決すべく、従来、種々の対策が提案されている。
たとえば、浸炭部品の表層における炭素濃度が低くなる条件で、真空浸炭処理を行なう方法がある。具体的には、特許文献1には、減圧浸炭工程を、炭素の拡散速度が速い歯形部の歯面または歯底の表面浸炭濃度が0.65±0.1質量%の範囲内となる条件で行う鋼部材の製造方法が記載されている。
また、真空浸炭処理される鋼材の化学組成において、Si濃度を高くしたり、Cr濃度を低くしたりすることが提案されている。鋼材に含まれるCr濃度を低くすれば、真空浸炭処理によって生じる粗大セメンタイトの析出が抑制される。そのため、曲げ疲労強度の低下が抑制される。具体的には、特許文献2には、浸炭処理される鋼部材として、Si:0.35〜3.0%、Mn:0.1〜3.0%、Cr:0.2%未満、Mo:0.1%以下とした化学組成が記載されている。また、特許文献3には、浸炭処理される鋼部材として、Si:0.5〜3.0%、Mn:0.3〜3.0%、Cu:0.01〜1.00%、Ni:0.01〜3.00%、Cr:0.3〜1.0%、[Si%]+[Ni%]+[Cu%]−[Cr%]>0.5とした化学組成が記載されている。
特許文献4では、化学組成を調整することにより、エッジ部の過剰浸炭を抑制できる浸炭部品を提案する。この文献に開示された浸炭部品は、芯部が、質量%で、C:0.10〜0.30%、Si:0.16〜1.40%、Mn:1.40〜3.00%、P:0.030%以下、S:0.060%以下、Cr:0.01〜0.29%、Al:0.010〜0.300%、及び、N:0.003〜0.030%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、表面が平坦部とエッジ部とを有し、平坦部の表面から深さ0.05mmの位置までの平坦部表層領域の炭素濃度が0.70%以上0.89%以下であり、エッジ部の表面から深さ0.05mmの位置までのエッジ部表層領域の炭素濃度が1.20%以下であり、粒界酸化層深さが1μm以下であり、芯部のビッカース硬さが260以上であることを特徴とする。
国際公開第2009/131202号 特許第5301728号公報 特許第4254816号公報 特開2016−191151号公報
上述のとおり、エッジ部の過剰浸炭を抑制する提案は複数されている。ところで、上記特許文献を含む従前の技術では、浸炭部品において、頂角が90°以上のエッジ部を想定している。しかしながら、上述の機械部品の中には、頂角が90°未満(つまり鋭角)のエッジ部も存在する場合がある。たとえば、はすば歯車や、ハイポイドギア、ベベルギア等、歯筋が回転軸に対してねじれている歯車では、鋭角のエッジ部が存在する。さらに、CVT用プーリーのねじ山やモジュールの小さなインボリュートスプラインにおいても、鋭角のエッジ部が存在する。このような鋭角なエッジ部では、90°以上の頂角のエッジ部と比較して、過剰浸炭が発生しやすい。上述の文献では、鋭角なエッジ部での過剰浸炭の抑制については検討されていない。
鋭角のエッジ部での過剰浸炭を抑制するために、真空浸炭処理時において、浸炭部品の表層の炭素濃度が低くなるように調整することが考えられる。しかしながらこの場合、浸炭部品のエッジ部以外の部分(平坦部)において炭素濃度が不足する。この場合、浸炭部品の表面硬さが低下し、曲げ疲労強度が低下する。
さらに、上述の機械部品の用途では、曲げ疲労特性のうち、特に、応力負荷繰り返し回数が1×104回での破断強度である、低サイクル曲げ疲労強度の向上が求められる。このような低サイクル曲げ疲労強度を高めるには、浸炭部品の表層の硬さだけでなく、芯部の硬さも高い方が好ましい。
本発明の目的は、鋭角のエッジ部を有する浸炭部品を製造した場合にも、過剰浸炭を抑制でき、かつ、芯部の硬さが高い真空浸炭用鋼及び浸炭部品を提供することである。
本発明の実施の形態による真空浸炭用鋼は、化学組成が、質量%で、C:0.10〜0.30%、Si:1.41〜2.50%、Mn:1.40〜3.00%、P:0.030%以下、S:0.060%以下、Cr:0.01〜0.59%、Al:0.010〜0.100%、N:0.003〜0.030%、Mo:0〜0.20%、Cu:0〜0.20%、Ni:0〜0.40%、Nb:0〜0.10%、Ti:0〜0.100%、及び、B:0〜0.0030%を含有し、残部がFe及び不純物からなり、式(1)で定義されるfn1が0.90以上であり、式(2)で定義されるfn2が0.50以下である。
fn1=Si−Cr (1)
fn2=Si−0.8×Mn (2)
ここで、式(1)及び式(2)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
本実施形態による浸炭部品は、平坦部及びエッジ部とを含む表面と、表面から深さ2.0mm以上の領域であって、上述の化学組成を有する芯部とを備える。平坦部から深さ0.05mmの位置までの平坦部表層領域の炭素濃度CP1が0.70〜0.89%であり、エッジ部から深さ0.05mmの位置までのエッジ部表層領域の炭素濃度CP2が、炭素濃度CP1よりも高く1.20%以下であり、芯部のビッカース硬さはHV260〜500である。
本実施形態の真空浸炭用鋼は、浸炭部品を製造したとき、鋭角なエッジ部での過剰浸炭を抑制でき、芯部の硬さも高めることができる。本実施形態の浸炭部品は、鋭角なエッジ部でも過剰浸炭が抑制され、優れた芯部硬さを有する。
図1は、本実施形態による浸炭部品の斜視図である。 図2は、図1中の断面CSの模式図である。 図3は、図1と異なる他の浸炭部品の正面図及び側面図である。 図4は、低サイクル曲げ疲労強度と浸炭部品のエッジ部表層領域での炭素濃度との関係を示す図である。 図5は、鋭角なエッジ部での炭素濃度と、fn1との関係を示す図である。 図6は、芯部硬さとfn2との関係を示す図である。 図7は図1及び図3と異なる他の浸炭部品の一例を示す斜視図である。 図8は、図1に示す断面CSのコーナの点Pc周辺の拡大図である。
以下、本実施形態による真空浸炭用鋼及び浸炭部品について説明する。
真空浸炭処理により製造される浸炭部品は、表面と、芯部とを含む。本明細書において、芯部は、浸炭部品の表面からの深さが2.0mm以上の領域と定義する。ここでいう表面からの深さとは、表面からの最短深さを意味し、より具体的には、表面から垂直方向の深さを意味する。
図1は、本実施形態による浸炭部品の一例を示した斜視図である。図1に示す浸炭部品100は、一例として4点曲げ疲労試験片を想定している。浸炭部品100は、全体が四角柱状であり、長さ方向の中央に切欠き部が形成されている。
浸炭部品100の表面は、エッジ部4と平坦部3とを含む。ここで、浸炭部品100の長手方向に平行であって、切欠き部の長手方向と直交する側面における切欠き部の辺2に注目する。辺2上における任意の位置に存在する点を、点Pcと定義する。そして、図1に示すように、点Pcにおける辺2と垂直な断面CSを想定する。
図2は、図1中の断面CSの模式図である。図2を参照して、断面CSにおいて、浸炭部品100の表面の任意の点XPから、表面から垂直方向に1.0mmの深さの仮想点Pを想定する。仮想点Pの集合体15を図2の破線で示す。仮想点Pを中心とする半径1.0mmの仮想球を想定し、この仮想球が浸炭部品100の表面と接する(1点で交わる)場合、仮想点PはP1とする。P1を中心とする仮想球と浸炭部品100の表面との接点をXP1とする。浸炭部品100の表面のうち、点XP1で構成される領域を平坦部3と定義する。
さらに、浸炭部品100の表面のうち、平坦部3以外の部分、図2では、点XP1以外の表面部分をエッジ部4と定義する。
このような平坦部3とエッジ部4とを含む表面を有する浸炭部品100において、表層の硬さと曲げ疲労強度、芯部硬さと曲げ疲労強度とは、それぞれ相関関係があることは知られている。さらに、表層の硬さと、表層の炭素濃度とが相関関係があることも知られている。
ところで、浸炭部品では、図3に示すように、頂角が鋭角となるエッジ部4を含むものもある。図3では、エッジ部4の頂角は40°である。
図1を参照して、浸炭部品100の表面上における任意の位置に存在する点をPと定義する。点Pを中心とする半径1.0mmの仮想球を想定し、仮想球と浸炭部品とが重なる部分の体積をV、浸炭部品の表面のうち仮想球に含まれる部分の面積をSとする。このとき、V/Sで表わされるパラメーターが小さいほど、エッジ部4の頂角が鋭角である。図1に示す点PcでのV/Sは0.33であり、鋭角ではない。一方、図3に示す頂角40°での点Pdでは、V/Sは0.15となる。本明細書では、V/Sが0.32以下の場合を、鋭角なエッジ部4と定義する。
このような鋭角なエッジ部4を含む浸炭部品100においても、エッジ部4での過剰浸炭を抑制し、優れた曲げ疲労強度が求められる。
そこで、本発明者らはまず、質量%で0.10〜0.30%のCを含有する化学組成を有する真空浸炭用鋼からなる4点曲げ疲労試験片(図1)を用いて、エッジ部の表層領域の炭素濃度CP2と、曲げ疲労強度との関係について調査した。4点曲げ疲労試験片の形状(寸法)は後述の実施例と同じとした。4点曲げ疲労試験には、サーボ型疲労試験機を用いた。4点曲げ疲労試験片の支点間の距離は20mmとした。また、最大負荷応力は1487MPaであり、最大負荷応力と最小負荷応力との応力比は0.1であった。周波数は10Hzであった。そして、応力負荷繰り返し回数が1×104回での破断強度を、4点曲げ疲労強度(MPa)と評価した。各4点曲げ疲労試験片のエッジ部表層領域の炭素濃度CP2は、後述の方法により測定した。
得られた結果を図4に示す。図4を参照して、エッジ部表層領域の炭素濃度CP2が増加するにしたがい、曲げ疲労強度は低下した。そして、炭素濃度CP2が1.20を超えれば、曲げ疲労強度が950MPa以下となり、十分な曲げ疲労強度が得られなかった。
以上の検討結果から、本発明者らは、過剰浸炭が起こりやすいエッジ部表層領域の炭素濃度CP2を1.20%以下とすれば、低サイクルにおいて優れた曲げ疲労強度が得られると考えた。さらに詳細な検討をした結果、浸炭部品において、芯部のビッカース硬さがHV260以上であり、かつ、平坦部の炭素濃度CP1が0.70〜0.89であり、エッジ部の炭素濃度CP2が炭素濃度CP1よりも高く1.20以下であれば、優れた低サイクル曲げ疲労強度が得られることがわかった。このことは、特許文献4にも開示されている。
そこで、本発明者らは、鋭角なエッジ部を含む浸炭部品において、エッジ部表層領域の炭素濃度CP2を1.20%以下に抑制する方法について検討した。その結果、質量%で、C:0.10〜0.30%、Si:1.41〜2.50%、Mn:1.40〜3.00%、P:0.030%以下、S:0.060%以下、Cr:0.01〜0.59%、Al:0.010〜0.100%、N:0.003〜0.030%、Mo:0〜0.20%、Cu:0〜0.20%、Ni:0〜0.40%、Nb:0〜0.10%、Ti:0〜0.100%、及び、B:0〜0.0030%を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有する真空浸炭用鋼において、式(1)で定義されるfn1が0.90以上であれば、後述の式(2)で定義されるfn2が0.50以下になることを条件として、真空浸炭処理後の浸炭部品において、鋭角なエッジ部であっても炭素濃度CP2を1.20以下にできることを見出した。
fn1=Si−Cr (1)
ここで、式(1)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
図5は、fn1と40°の鋭角のエッジ部表層領域での炭素濃度CP2との関係を示す図である。図5は後述の実施例での炭素濃度測定試験と同様の方法により得られた。
図5を参照して、fn1の増加に伴い、40°のエッジ部表層領域での炭素濃度CP2は顕著に低下し、1.20%以下となった。そして、fn1が0.90以上となったとき、炭素濃度CP2は1.20%以下でほぼ一定となった。つまり、40°のエッジ部表層領域での炭素濃度CP2は、fn1=0.90で変曲点を有した。
したがって、fn1が0.90以上であれば、鋭角の角部のエッジ部表層領域においても、炭素濃度CP2を1.20%以下にすることができ、優れた低サイクル曲げ疲労強度が得られる。
[芯部の硬さについて]
低サイクル疲労強度を高めるには、上述のとおり、浸炭部品の芯部の硬さも高める必要がある。具体的には、浸炭部品において、芯部のビッカース硬さがHV260以上であれば、低サイクル疲労強度が高くなる。そこで、本発明者らは、芯部の硬さについて検討した。その結果、上記化学組成を有する真空浸炭用鋼において、式(2)で定義されるfn2が0.50以下であれば、真空浸炭処理後の浸炭部品において、芯部硬さをHV260以上にできることを見出した。
fn2=Si−0.8×Mn (2)
ここで、式(2)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
図6は、fn2と芯部硬さとの関係を示す図である。図6は、質量%で0.10〜0.30%のCを含有する化学組成を有する真空浸炭用鋼の試験片を用いて、後述の芯部硬さ試験と同じ方法により得られた。図6を参照して、fn2が高くなるほど、芯部硬さが低下する。そして、fn2が0.50を超えると、芯部硬さが非連続に急激に低下し、HV260未満となる。つまり、図6の芯部硬さは、fn2=0.50で変曲点を有する。したがって、fn2が0.50以下の場合、芯部硬さがビッカース硬さでHV260以上となる。
したがって、真空浸炭用鋼の化学組成が質量%で、C:0.10〜0.30%、Si:1.41〜2.50%、Mn:1.40〜3.00%、P:0.030%以下、S:0.060%以下、Cr:0.01〜0.59%、Al:0.010〜0.100%、N:0.003〜0.030%、Mo:0〜0.20%、Cu:0〜0.20%、Ni:0〜0.40%、Nb:0〜0.10%、Ti:0〜0.100%、及び、B:0〜0.0030%を含有し、残部がFe及び不純物からなり、かつ、fn1が0.90以上であることを前提として、fn2が0.50以下であれば、芯部硬さがHV260以上となる。その結果、優れた低サイクル疲労強度が得られると考えられる。
fn2が0.50以下であれば芯部硬さHV260以上となる理由は、次のとおりと考えられる。fn2が高くなると、鋼中において、Mn含有量に対してSi含有量の割合が高くなる。Siはフェライトを安定化するため、真空浸炭後において、芯部に軟質なフェライトが多く生成する。その結果、Mn及びSiによる焼入れ性向上による強化機構よりも、Siによるフェライト増加による軟化機構が勝ってしまう。fn2が0.50以上となれば、鋼中のフェライトが顕著に増加するために、芯部硬さが顕著に低下し、HV260未満になると考えられる。
以上の知見に基づいて完成した本実施形態による真空浸炭用鋼は、化学組成が、質量%で、C:0.10〜0.30%、Si:1.41〜2.50%、Mn:1.40〜3.00%、P:0.030%以下、S:0.060%以下、Cr:0.01〜0.59%、Al:0.010〜0.100%、N:0.003〜0.030%、Mo:0〜0.20%、Cu:0〜0.20%、Ni:0〜0.40%、Nb:0〜0.10%、Ti:0〜0.100%、及び、B:0〜0.0030%を含有し、残部がFe及び不純物からなり、式(1)で定義されるfn1が0.90以上であり、式(2)で定義されるfn2が0.50以下である。
fn1=Si−Cr (1)
fn2=Si−0.8×Mn (2)
ここで、式(1)及び式(2)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
上記化学組成は、Mo:0.03〜0.20%、Cu:0.05〜0.20%、及び、Ni:0.05〜0.40%からなる群から選ばれる1種以上を含有してもよい。
上記化学組成は、Nb:0.01〜0.10%、及び、Ti:0.005〜0.100%からなる群から選ばれる1種以上を含有してもよい。
上記化学組成は、B:0.0005〜0.0030%を含有してもよい。
本実施形態による浸炭部品は、平坦部及びエッジ部とを含む表面と、表面から深さ2.0mm以上の領域であって、上述の化学組成を有する芯部とを備え、平坦部から深さ0.05mmの位置までの平坦部表層領域の炭素濃度CP1が0.70〜0.89%であり、エッジ部から深さ0.05mmの位置までのエッジ部表層領域の炭素濃度CP2が炭素濃度CP1よりも高く1.20%以下であり、芯部のビッカース硬さはHV260〜500である。
以下、本発明の実施の形態による真空浸炭用鋼及び浸炭部品について詳述する。
[真空浸炭用鋼の化学組成]
本実施形態による真空浸炭用鋼は、真空浸炭処理に適した鋼である。真空浸炭用鋼の化学組成は次の元素を含有する。以下、元素の含有量に関する「%」は、質量%を意味する。
C:0.10〜0.30%
炭素(C)は、浸炭部品の芯部硬度を高め、低サイクル曲げ疲労強度を高める。C含有量が低すぎれば、上記効果が得られない。一方、C含有量が高すぎれば、芯部硬度が高くなりすぎる。この場合、靭性が低下するだけでなく、焼割れが発生しやすくなる。焼割れが発生すると、低サイクル曲げ疲労強度が低くなる。したがって、C含有量は0.10〜0.30%である。C含有量の好ましい下限は0.13%であり、さらに好ましくは0.16%である。C含有量の好ましい上限は0.26%であり、さらに好ましくは0.24%である。
Si:1.41〜2.50%
シリコン(Si)は、本実施形態の化学組成において、浸炭部品のエッジ部の過剰浸炭を抑制する。Si含有量が低すぎれば、上記効果が得られない。一方、Si含有量が高すぎれば、芯部に軟質なフェライトが生成し、低サイクル曲げ疲労強度が低下する。したがって、Si含有量は、1.41〜2.50%である。Si含有量の好ましい下限は1.50%であり、さらに好ましくは1.60%である。Si含有量の好ましい上限は2.10%であり、さらに好ましくは2.00%である。
Mn:1.40〜3.00%
マンガン(Mn)は、鋼の焼入れ性を高める。Mnはさらに、オーステナイトを安定化し、軟質なフェライトの生成を抑制する。その結果、低サイクル曲げ疲労強度が高まる。Mn含有量が低すぎれば、上記効果が得られない。一方、Mn含有量が高すぎれば、熱間加工(熱間圧延、熱間鍛造等)後の強度が高くなりすぎて、熱間加工後の切削加工性が低下する。したがって、Mn含有量は1.40〜3.00%である。Mn含有量の好ましい下限は1.60%であり、さらに好ましくは1.70%である。Mn含有量の好ましい上限は2.70%であり、さらに好ましくは2.50%である。
P:0.030%以下
りん(P)は、不純物である。Pは粒界に偏析して粒界を脆化する。その結果、Pは低サイクル曲げ疲労強度を低下する。したがって、P含有量は0.030%以下である。P含有量の好ましい上限は0.020%である。P含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、P含有量を極限まで低減しようとすれば、製造コストが高くなる。したがって、製造コストの観点では、P含有量の好ましい下限は0.003%であり、さらに好ましくは0.006%である。
S:0.060%以下
硫黄(S)は不純物である。Sは低サイクル曲げ疲労強度を低下する。したがって、S含有量は0.060%以下である。S含有量の好ましい上限は0.030%である。S含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、S含有量を極限まで低減しようとすれば、製造コストが高くなる。したがって、S含有量の好ましい下限は0.003%である。
Cr:0.01〜0.59%
クロム(Cr)は、鋼の焼入れ性及び焼戻し軟化抵抗を高め、低サイクル曲げ疲労強度を高める。Cr含有量が低すぎれば、上記効果が得られない。一方、Cr含有量が高すぎれば、浸炭部品のエッジ部において過剰浸炭が発生しやすくなる。したがって、Cr含有量は0.01〜0.59%である。Cr含有量の好ましい下限は0.05%であり、さらに好ましくは0.10%である。Cr含有量の好ましい上限は0.29%であり、さらに好ましくは0.20%である。
Al:0.010〜0.100%
アルミニウム(Al)は、鋼を脱酸する。Alはさらに、鋼の焼入れ性及び焼戻し軟化抵抗を高め、低サイクル曲げ疲労強度を高める。Alはさらに、Nと結合してAlNを形成し、結晶粒を微細化することにより低サイクル曲げ疲労強度を高める。Al含有量が低すぎれば上記効果が得られない。一方、Al含有量が高すぎれば、粗大なAl系介在物が生成し、低サイクル曲げ疲労強度が低下する。したがって、Al含有量は0.010〜0.100%である。Al含有量の好ましい下限は0.015%であり、さらに好ましくは0.020%である。Al含有量の好ましい上限は0.060%であり、さらに好ましくは0.050%である。
N:0.003〜0.030%
窒素(N)は、Alと結合してAlNを形成する。AlNは結晶粒を微細化し、低サイクル曲げ疲労強度を高める。N含有量が低すぎれば、上記効果が得られない。一方、N含有量が高すぎれば、上記効果が飽和する。したがって、N含有量は0.003〜0.030%である。N含有量の好ましい下限は0.007%であり、さらに好ましくは0.011%である。N含有量の好ましい上限は0.020%であり、さらに好ましくは0.018%である。
本実施形態の真空浸炭用鋼の化学組成の残部はFe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、真空浸炭用鋼を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境などから混入されるものを意味する。
[任意元素について]
本実施形態における真空浸炭用鋼の化学組成はさらに、Feの一部に替えて、Mo、Cu及びNiからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。これらの元素は任意に含有される元素である。これらの元素はいずれも、鋼の靱性を高める。
Mo:0〜0.20%
モリブデン(Mo)は、鋼の焼入れ性を高め、低サイクル曲げ疲労強度を高める。Moが少しでも含まれていれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Mo含有量が高すぎれば、効果が飽和し、製造コストが高くなる。したがって、Mo含有量は0.20%以下である。上記効果をさらに有効に得るためのMo含有量の好ましい下限は0.03%であり、さらに好ましくは0.06%である。Mo含有量の好ましい上限は0.20%未満であり、さらの好ましくは0.16%である。
Mo以外の他の元素により鋼の焼入れ性を十分確保できる場合、Moは含有されなくてもよい。この場合、Mo含有量は0.01%以下にするのが好ましい。
Cu:0〜0.20%
銅(Cu)は、鋼の過剰浸炭を抑制する。Cuはさらに、鋼の靱性を高め、低サイクル曲げ疲労強度を高める。Cuが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Cu含有量が高すぎれば、上記効果が飽和する。したがって、Cu含有量は0.20%以下である。上記効果をさらに有効に得るためのCu含有量の好ましい下限は0.05%であり、さらに好ましくは0.10%である。Cu含有量の好ましい上限は0.17%であり、さらに好ましくは0.15%である。
Ni:0〜0.40%
ニッケル(Ni)は、鋼の過剰浸炭を抑制する。Niはさらに、鋼の靱性を高め、低サイクル曲げ疲労強度を高める。Niが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Ni含有量が高すぎれば、上記効果が飽和し、製造コストが高くなる。したがって、Ni含有量は、0.40%以下である。上記効果をさらに有効に得るためのNi含有量の好ましい下限は0.05%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.15%である。Ni含有量の好ましい上限は0.30%であり、さらに好ましくは0.15%である。
本実施形態による真空浸炭用鋼材はさらに、Feの一部に替えて、Nb及びTiからなる群から選ばれる1種以上を含有してもよい。Nb及びTiは任意元素であり、いずれも、炭窒化物等を形成して結晶粒を微細化する。
Nb:0〜0.10%
ニオブ(Nb)は、鋼中のN及び/又はCと結合して、微細な炭化物、窒化物、又は炭窒化物(以下、炭窒化物等という)を生成する。微細な炭窒化物等は、真空浸炭処理(表面硬化熱処理)において、結晶粒の成長を抑制し、低サイクル曲げ疲労強度を高める。Nbが少しでも含有されていれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Nb含有量が高すぎれば、上記効果は飽和する。したがって、Nb含有量は0.10%以下である。上記効果をさらに有効に得るためのNb含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.02%である。Nb含有量の好ましい上限は0.08%であり、さらに好ましくは0.04%である。
Ti:0〜0.100%
チタン(Ti)は、鋼中のN及び/又はCと結合して、微細な炭化物、窒化物、又は炭窒化物(以下、炭窒化物等という)を生成する。微細な炭窒化物等は、真空浸炭処理(表面硬化熱処理)において、結晶粒の成長を抑制し、低サイクル曲げ疲労強度を高める。Tiはさらに、Bが含有された場合に、BNの生成を抑制して、固溶Bによる焼入れ性作用及び粒界強化作用を確保する。Tiが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしならが、Ti含有量が高すぎれば、粗大なTi窒化物及びTi酸化物が生成し、鋼の靱性が低下する。したがって、Ti含有量は0.100%以下である。上記効果をさらに有効に得るためのTi含有量の好ましい下限は0.005%であり、さらに好ましくは0.010%である。Ti含有量の好ましい上限は0.080%であり、さらに好ましくは0.050%である。
B:0〜0.0030%
ボロン(B)は、鋼の焼入れ性を高め、粒界強度を高める。そのため、低サイクル曲げ疲労強度が高まる。Bが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、B含有量が高すぎれば、上記効果が飽和する。したがって、B含有量は0.0030%以下である。上記効果をさらに有効に得るためのB含有量の好ましい下限は0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%である。B含有量の好ましい上限は0.0025%であり、さらに好ましくは0.0020%である。
[fn1について]
本実施形態による真空浸炭用鋼の化学組成はさらに、式(1)で定義されるfn1が0.90以上である。
fn1=Si−Cr (1)
ここで、式(1)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
fn1は真空浸炭処理時に、特に鋭角なエッジ部での過剰浸炭を抑制する指標である。上記化学組成に含まれる元素のうち、真空浸炭処理時において、Crは鋼中へのCの浸入を促進する。一方、真空浸炭処理時において、Siは鋼中へのCの浸入を抑制する。図5に示すとおり、fn1が増加するに伴い、鋭角なエッジ部での炭素濃度CP2が顕著に低下する。そして、fn1が0.90以上であれば、fn1が増加しても、鋭角なエッジ部での炭素濃度CP2はそれほど変化しない。つまり、鋭角なエッジ部での炭素濃度CP2の曲線は、fn1=0.90付近で変曲点を有する。fn1が0.90以上であれば、真空浸炭処理後のエッジ部での過剰浸炭の発生を抑制でき、低サイクル曲げ疲労強度の低下を抑制できる。fn1の好ましい下限は1.10であり、さらに好ましくは1.30である。
[fn2について]
本実施形態による真空浸炭用鋼の化学組成はさらに、式(2)で定義されるfn2が0.50以下である。
fn2=Si−0.8×Mn (2)
ここで、式(2)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
上述のとおり、低サイクル曲げ疲労特性が要求される浸炭部品においては、芯部の硬さを高めることが、低サイクル曲げ疲労強度の向上に有効である。図6を参照して、上述の化学組成の各元素含有量が上述の範囲内においては、fn2が高くなるほど、芯部硬さが低下する。そして、fn2が0.50を超えると、芯部硬さが非連続に急激に低下する。つまり、図6の芯部硬さは、fn2=0.50で変局点を有する。
fn2が0.50以下の場合、芯部硬さがビッカース硬さでHV260以上となる。その結果、浸炭部品において、優れた低サイクル曲げ疲労特性が得られる。
[真空浸炭用鋼の製造方法]
本実施形態による真空浸炭用鋼の製造方法の一例は次のとおりである。本製造方法は、鋳造工程と、熱間加工工程とを備える。
[鋳造工程]
上述の化学組成を有し、fn1が0.90以上であり、fn2が0.50以下である溶鋼を製造する。製造された溶鋼を用いて、周知の方法により鋳片(スラブ又はブルーム)又は鋼塊(インゴット)を製造する。鋳造方法はたとえば、連続鋳造法や造塊法である。
[熱間加工工程]
上記鋳造工程で製造された鋳片又は鋼塊に対して、熱間加工を実施して、棒鋼又は線材を製造する。熱間加工工程は周知の方法により実施される。熱間加工工程はたとえば、粗圧延工程と、仕上げ圧延工程とを含む。粗圧延工程はたとえば、分塊圧延である。仕上げ圧延工程はたとえば、連続圧延機を用いた圧延である。連続圧延機では、一対の水平ロールを有する水平スタンドと、一対の垂直ロールを有する垂直スタンドとが交互に一列に配列される。粗圧延工程及び仕上げ圧延工程での加熱温度はたとえば、1000〜1300℃である。熱間加工工程は、上述の熱間圧延に限定されない。熱間鍛造により真空浸炭用鋼材を製造してもよい。以上の工程により、真空浸炭用鋼が製造される。
[浸炭部品]
本実施形態による浸炭部品は、上述の真空浸炭用鋼を用いて製造される。
[浸炭部品の構成]
本実施形態の浸炭部品は、上述のとおり、表面と、芯部とを含む。芯部は、浸炭部品の表面からの深さが2.0mm以上の領域である。図1及び図2及び上述のとおり、浸炭部品100における平坦部3とエッジ部4とが定義される。
図7は図1及び図3と異なる他の浸炭部品の一例を示す斜視図である。図7に示す浸炭部品100ははすば歯車である。浸炭部品100の歯において、歯先には頂点Paがあり、頂点Paから歯底に向かって辺2が延びている。図7においても、図1と同様に、辺2の任意の点Pcを含み、辺2と垂直な断面CSを定義できる。したがって、いずれの形状の浸炭部品100においても、平坦部3とエッジ部4とを特定できる。
[浸炭部品の表層領域の炭素濃度CP1、CP2]
上述の浸炭部品において、平坦部からの深さ(最短深さ。つまり、表面と垂直方向の深さ)が0.05mmまでの領域を、平坦部表層領域と定義する。さらに、エッジ部からの深さ(最短深さ。つまり、表面と垂直方向の深さ)が0.05mmまでの領域をエッジ部表層領域と定義する。本実施形態の浸炭部品では、平坦部表層領域での炭素濃度CP1が質量5で0.70〜0.89%である。また、エッジ部表層領域での炭素濃度CP2がCP1よりも高く、質量%で1.20%以下である。
平坦部表層領域及びエッジ部表層領域の表面からの深さ範囲を深さ0.05mmまでとしたのは、浸炭部品の表層領域での浸炭度合いを高精度で評価するためである。具体的には、真空浸炭処理により生成する粗大炭化物は、旧オーステナイト粒界に析出する。そのため、浸炭部品の表層領域では、結晶粒内と結晶粒界とで炭素濃度が異なる。表面(平坦部又はエッジ部)から深さ0.05mmまでの範囲であれば、通常、0.01mm程度の粒径を有するオーステナイト結晶粒が、深さ方向に3つ以上含まれる。そのため、表面から深さ0.05mm位置までの範囲の炭素濃度は、結晶粒内での炭素濃度と結晶粒界での炭素濃度が平均された値となる。そのため、浸炭部品の表層領域での浸炭度合いを高精度に評価できる。
平坦部表層領域の炭素濃度CP1が0.70%未満であれば、浸炭部品の平坦部の硬さが低くなり、曲げ疲労強度が低下する。一方、炭素濃度CP1が0.89%を超えれば、平坦部表層領域において残留オーステナイト量が多くなりすぎ、曲げ疲労強度が低下する。したがって、平坦部表層領域の炭素濃度CP1は0.70〜0.89である。平坦部表層領域の炭素濃度CP1の好ましい下限は0.75%である。炭素濃度CP1の好ましい上限は0.85%である。
エッジ部表層領域の炭素濃度CP2は、平坦部表層領域の炭素濃度CP1よりも高くなる。したがって、平坦部表層領域の炭素濃度CP1が0.70%以上であれば、エッジ部表層領域の炭素濃度CP2も高くなり、エッジ部の表面硬さは十分に高くなる。その結果、低サイクル曲げ疲労強度が高まる。一方、炭素濃度CP2が1.20%を超えれば、エッジ部表層領域において残留オーステナイト量が多くなりすぎ、低サイクル曲げ疲労強度が低下する。したがって、エッジ部表層領域の炭素濃度CP2は炭素濃度CP1よりも高く、1.20%以下である。エッジ部表層領域の炭素濃度CP2の好ましい上限は1.16%である。
[平坦部表層領域の炭素濃度CP1の測定方法]
平坦部表層領域の炭素濃度CP1は次の方法で測定する。浸炭部品の任意の平坦部の場所から、平坦部に垂直な断面を観察面とするサンプルを5つ採取する。各サンプルの観察面の炭素濃度を電子線マイクロアナライザ(EPMA)により分析し、表面(平坦部)から深さ0.05mm位置までの炭素濃度の平均値を求める。求めた炭素濃度(5箇所)の平均を、平坦部表層領域の炭素濃度CP1(質量%)と定義する。
[エッジ部表層領域の炭素濃度CP2の測定方法]
エッジ部表層領域の炭素濃度CP2は次の方法で測定する。図8は、図1に示す断面CSのコーナの点Pc周辺の拡大図である。図8を参照して、エッジを形成する2つの面11及び面12から深さ方向に5μm離れた箇所を起点P2とする。起点P2から点Pcとは逆の方向に2つの面11及び面12と等距離で離間して伸びる長さ50μmの線分MP上を測定位置とし、線分MP上の炭素濃度の平均値を求める。エッジ部表層領域においても、任意の5点において炭素濃度を求め、その平均値を、エッジ部表層領域の炭素濃度CP2(質量%)と定義する。
なお、本実施形態において、起点P2を2つの面11、12から5μm離れた箇所としたのは、起点P2よりも2つの面11、12に近い領域の炭素濃度は、表面に析出した黒鉛や、表面の汚れの影響を受けるためである。
[粒界酸化層深さ]
本実施形態の浸炭部品は、上記化学組成の鋼材に対して真空浸炭処理を実施して製造される。そのため、ガス浸炭処理を実施する場合と比較して、浸炭部品に粒界酸化層が形成されにくい。粒界酸化層は、不完全焼入れ組織を形成しやすい。不完全焼入れ組織は、曲げ疲労強度を低下する。したがって、粒界酸化層は少ない方が好ましい。
本実施形態の浸炭部品は、真空浸炭処理により製造される。そのため、好ましくは、粒界酸化層が少ない、又は存在しない。具体的には、本実施形態の浸炭部品において、好ましくは、粒界酸化層深さは1μm以下である。
本実施形態において、浸炭部品の粒界酸化層深さとは、浸炭部品の表面から内部に向かって連続して伸びる黒色の酸化物が到達している表面からの最大深さを意味する。浸炭部品の粒界酸化層深さが1μm以下とは、浸炭部品の表面のどこであっても、粒界酸化層深さが1μm以下であることを意味する。
粒界酸化層深さは次の方法で測定できる。浸炭部品の表面の任意の位置で深さ方向に切断する。表面近傍の断面(以下、観察面という)を鏡面研磨する。鏡面研磨された観察面を1000倍の光学顕微鏡で観察して写真画像(視野:浸炭窒化部品の表面に平行な幅150μm×深さ110μm)を生成する。写真画像において、粒界酸化層が形成された部分のコントラストは、マトリクス(母材)とは異なる。そのため、コントラストに基づいて、粒界酸化層を特定できる。具体的には、表面から内部に向かって筋状に伸びる黒色の酸化物を、粒界酸化層と特定する。上記視野のうち、特定された粒界酸化層の深さを最大のものから上位10個特定する。特定された10個の深さの平均を、粒界酸化層深さと定義する。ただし、特定された粒界酸化層が10個に満たない場合は、特定された粒界酸化層の平均を、粒界酸化層深さと定義する。
[芯部でのビッカース硬さ]
本実施形態の浸炭部品の芯部でのビッカース硬さはHV260以上である。芯部でのビッカース硬さが低すぎれば、曲げ荷重が負荷されたときに浸炭部品が塑性変形する。この場合、表面における応力が増大し、低サイクル曲げ疲労強度が低くなる。芯部でのビッカース硬さがHV260以上であれば、浸炭部品として十分な低サイクル曲げ疲労強度が得られる。芯部でのビッカース硬さの好ましい下限はHV280である。なお、ビッカース硬さが高すぎても、低サイクル曲げ疲労強度が低下する。したがって、芯部のビッカース硬さの上限はHV500である。
芯部でのビッカース硬さは次の方法で測定できる。芯部での任意の3箇所にて、JIS Z 2244(2009)に準拠したビッカース硬さ試験を実施する。試験力は300gfとする。任意の3箇所で得られた値の平均を、芯部でのビッカース硬さと定義する。
[浸炭部品の製造方法]
浸炭部品は、上述の真空浸炭用鋼を用いて製造される。以下、浸炭部品の製造方法の一例を説明する。浸炭部品の製造方法は、中間品を成形する成形工程と、中間品に対して真空浸炭処理を実施する真空浸炭工程とを含む。
[成形工程]
上述の真空浸炭用鋼(棒鋼又は線材)に対して、冷間鍛造及び/又は機械加工を実施して、平坦部とエッジ部とを含む表面を有する所定の形状の中間品を製造する。機械加工はたとえば、切削加工、穿孔加工等である。中間品の形状は、最終製品である浸炭部品の用途に応じて決定されるものであり、公知の方法により形成される。
[表面硬化熱処理]
上記中間品に対して、表面硬化熱処理(真空浸炭処理及び焼入れ処理)を実施する。
本実施形態において、真空浸炭処理及び焼入れ処理における諸条件(均熱時間、浸炭ガスの種類、浸炭ガス圧、浸炭温度、浸炭工程での処理時間、拡散工程での処理時間、冷却工程での冷却速度、焼入れ温度等)は、特に限定されるものではない。これらの各条件は、中間品(鋼材)の化学組成、目標とする平坦部表層領域での炭素濃度CP1及びエッジ部表層領域での炭素濃度CP2、及び、芯部での硬さに応じて適宜調整可能である。
具体的には、周知のシミュレーションを用いて、真空浸炭処理及び焼入れ処理における上記諸条件を決定してもよい。また、サンプルの中間品を用いて真空浸炭処理試験及び焼入れ処理試験を実施して、平坦部表層領域の炭素濃度CP1が0.70〜0.89%となり、エッジ部表層領域の炭素濃度CP2が炭素濃度CP1よりも高く1.20%以下となり、粒界酸化層深さが1μm以下となり、芯部のビッカース硬さ(HV)が260以上となるように、諸条件を決定してもよい。以下、本実施形態における真空浸炭処理及び焼入れ処理での諸条件の一例を説明する。
[真空浸炭熱処理]
真空浸炭処理は、加熱工程と、均熱工程と、浸炭工程と、拡散工程と、冷却工程とを含む。加熱工程では、たとえば、10Pa以下に減圧した炉内で中間品を浸炭温度まで加熱する。均熱工程では、加熱工程後、浸炭温度で中間品を均熱する。浸炭工程では、均熱工程後、炉内に浸炭ガスを導入し、所定の浸炭ガス圧及び浸炭温度で中間品に対して浸炭処理を実施する。拡散工程では、浸炭工程後、中間品を浸炭温度に維持した状態で均熱し、中間品内に侵入した炭素を鋼材中に拡散させる。冷却工程では、拡散工程後の中間品を冷却する。
均熱工程における好ましい均熱時間は、5〜120分であり、さらに好ましくは30〜60分である。均熱工程における炉内圧力は、100Pa以下であってもよいし、窒素ガスの導入と真空ポンプによる真空排気とを同時に実施して、1000Pa以下の窒素雰囲気としてもよい。
浸炭工程において用いられる浸炭ガスの種類は、真空浸炭処理に用いられている公知のものを用いることができる。浸炭ガスはたとえば、アセチレン、プロパン、エチレン等の炭化水素ガスである。
浸炭工程において、ガスの種類によってスーティングのし易さと浸炭むらの起こり易さとが異なる。そのため、浸炭工程における炉内の浸炭ガス圧は、浸炭ガスの種類に応じて適宜設定するのが好ましい。たとえば、浸炭ガスがアセチレンである場合、好ましい浸炭ガス圧は10〜1000Paである。浸炭ガスがプロパンである場合、好ましい浸炭ガス圧は200〜3000Paである。
好ましい浸炭温度は、900〜1100℃であり、さらに好ましくは920〜1050℃である。浸炭温度が900℃以上であれば、短時間で所定の炭素濃度の浸炭部品が得られる。浸炭温度が1100℃以下であれば、結晶粒が粗大化しにくい。
浸炭工程及び拡散工程における処理時間は、中間品(鋼材)の化学組成と、目標とする平坦部表層領域及びエッジ部表層領域の浸炭濃度CP1、CP2と、芯部の硬さに応じて適宜決定される。
拡散工程における炉内の圧力は、浸炭工程における残留ガスを取り除くため、100Pa以下であってもよいし、窒素ガスの導入と真空ポンプによる真空排気を同時に行なって、1000Pa以下の窒素雰囲気としてもよい。
冷却工程では、公知の冷却方法を用いることができる。冷却方法は、真空下での放冷であってもよいし、ガス冷却であってもよいし、その他の冷却方法であってもよい。真空下での放冷を実施する場合、好ましい炉内圧力は100Pa以下である。ガス冷却を実施する場合、冷却ガスとして不活性ガスを用いることが好ましい。好ましい不活性ガスはたとえば、窒素ガス及び/又はヘリウムガスである。さらに好ましい不活性ガスは、安価で入手が容易な窒素ガスである。冷却ガスとして不活性ガスを用いれば、中間品の酸化が抑制される。
[焼入れ処理]
真空浸炭処理後の中間品に対して、焼入れ処理を実施する。焼入れ処理では、真空浸炭処理後の中間品を急冷する。本実施形態では、たとえば、真空浸炭処理の冷却工程において焼入れ温度で冷却を停止し、所定の時間均熱した後、焼入れ処理(急冷)を実施してもよい。また、真空浸炭処理の冷却工程において焼入れ温度未満(たとえば、室温(25℃)程度)の温度まで冷却し、その後、焼入れ処理において焼入れ温度まで再加熱して所定の時間均熱し、急冷してもよい。
好ましい焼入れ温度は、800〜880℃であり、さらに好ましくは、820〜860℃である。焼入れ温度での好ましい保持時間は、3〜80分である。均熱(保持)するときの炉内雰囲気は、窒素ガス雰囲気であってもよい。好ましい炉内ガス圧は、大気圧以下であり、さらに好ましくは、400hPa以下である。
焼入れ処理における冷却方法はたとえば、公知の方法を用いることができる。冷却方法はたとえば、油冷、水冷等である。冷却方法として油冷を用いる場合、焼入れ油の好ましい温度は60〜160℃である。
以上の工程により、本実施形態による浸炭部品が製造される。なお、焼入れ処理後に周知の方法で焼戻し処理を実施してもよい。
表1に示す化学組成を有する鋼A〜鋼AFを有する溶鋼を製造した。製造された溶鋼を用いて、インゴッ卜を製造した。インゴッ卜を熱間鍛造して、直径35mmの丸棒を製造した。製造された丸棒を用いて、次の評価試験を実施した。
[4点曲げ疲労試験片及び40°角柱試験片の作製]
製造された各丸棒から、図1に示す平坦部及びエッジ部を含む表面を有する試験片として、図1に示す形状の4点曲げ疲労試験片と、図3に示す断面が40°の角部を持つ台形である角棒(以下、「40°角棒」という場合がある。)試験片とを複数個採取した。4点曲げ疲労試験片は、高さ及び幅が共に13mmであり、長さが100mmであった。4点曲げ疲労試験片の長さ方向中央位置には、断面形状が半円である切り欠き部を形成した。半円の切り欠き部の半径は2mmであった。40°角棒試験片の高さD1は16mmであり、幅D2は8mmであり、長さはD3は30mmであった。
各鋼A〜鋼AFの4点曲げ疲労試験片及び40°角棒試験片に対して、真空浸炭処理及び焼入れ処理を実施して、試験番号1〜32の浸炭部品を製造した。
具体的には、各試験番号の4点曲げ疲労試験片に対して、10Pa以下に減圧した炉内で試験片を950℃の浸炭温度まで加熱した。そして、浸炭温度で60分間試験片を均熱した。続いて、炉内にアセチレンガスを導入し、950℃の浸炭温度、及び、表2に示す処理時間で試験片を浸炭処理する浸炭工程を実施した。浸炭工程における浸炭ガス圧は100Pa以下であった。
次に、浸炭温度を維持した状態で10Pa以下の炉内の圧力で、表2に示す処理時間で、試験片に侵入した炭素を鋼材中に拡散させる拡散工程を行った。その後、試験片を冷却し、焼入れ温度である860℃で冷却を停止した。焼入れ温度(860℃)で10分間均熱した後、120℃の焼入れ油を用いて油焼入れを行った。その後、焼戻し温度を170℃、焼戻し温度での保持時間を120分とする焼戻しを実施した。
[浸炭部品の平坦部表層領域及びエッジ部表層領域の炭素濃度]
各試験番号の4点曲げ疲労試験片の平坦部表層領域の炭素濃度CP1、90°の頂角を有するエッジ部(以下、90°エッジ部という)表層領域の炭素濃度CP2、及び、40°角棒試験片の40°の頂角を有するエッジ部(以下、40°エッジ部という)表層領域の炭素濃度CP2を、上述の方法により求めた。炭素濃度CP1が0.70〜0.89%であり、炭素濃度CP2が炭素濃度CP1よりも高く1.20%以下である場合、優れた低サイクル曲げ疲労強度が得られると判断した。結果を表2に示す。
[芯部の硬さ]
各試験番号の4点曲げ疲労試験片(浸炭部品)を長さ方向に直交する方向に切断した。そして、切断面を測定面とする試験片を採取した。そして、浸炭部品の表面から深さ方向(断面の中心方向)に2mm以上離れた位置における切断面の硬さを、ビッカース硬度計を用いて、試験力を300gfとし、JIS Z 2244(2009)に準拠して測定した。ビッカース硬さがHV260〜500である場合、優れた低サイクル曲げ疲労強度が得られると判断した。結果を表2に示す。
[評価結果]
表2に評価結果を示す。表2を参照して、試験番号1〜21では、いずれの試験番号においても、炭素濃度CP1が0.70〜0.89%であり、さらに、40°エッジ部表層領域及び90°エッジ部表層領域での炭素濃度CP2が炭素濃度CP1よりも高く1.20%以下であった。さらに、芯部硬さがHV260以上であった。
一方、試験番号22では、C含有量が低すぎた。そのため、芯部硬さがHV260未満と低かった。
試験番号23では、C含有量が高すぎた。そのため、芯部硬さがHV500を超えた。
試験番号24では、Si含有量が高すぎた。そのため、芯部硬さがHV260未満と低かった。
試験番号25では、Si含有量が低すぎた。そのため、40°エッジ部表層領域での炭素濃度CP2が1.20%を超えた。
試験番号26では、Mn含有量が低すぎた。そのため、芯部硬さがHV260未満と低かった。
試験番号27では、Cr含有量が高すぎた。そのため、40°エッジ部表層領域での炭素濃度CP2が1.20%を超えた。
試験番号28では、fn1が0.90未満であった。そのため、40°エッジ部表層領域での炭素濃度CP2が1.20%を超えた。
試験番号29及び30では、fn2が0.50を超えた。そのため、芯部の硬さがHV260未満と低かった。
試験番号31では、Si含有量が低く、Mn含有量が低く、Cr含有量が高かった。そのため、エッジ部表層領域の炭素濃度CP2が1.20%を超えた。
試験番号32では、Si含有量が低く、Mn含有量が低かった。そのため、40°エッジ部表層領域での炭素濃度CP2が1.20%を超えた。さらに、芯部の硬さがHV260未満であった。
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
100 浸炭部品
2 辺
3 平坦部
4 エッジ部
CS 断面

Claims (5)

  1. 化学組成が、質量%で、
    C:0.10〜0.30%、
    Si:1.41〜2.50%、
    Mn:1.40〜3.00%、
    P:0.030%以下、
    S:0.060%以下、
    Cr:0.01〜0.9%、
    Al:0.010〜0.100%、
    N:0.003〜0.030%、
    Mo:0〜0.20%、
    Cu:0〜0.20%、
    Ni:0〜0.40%、
    Nb:0〜0.10%、
    Ti:0〜0.100%、及び、
    B:0〜0.0030%を含有し、残部がFe及び不純物からなり、
    式(1)で定義されるfn1が0.90以上であり、
    式(2)で定義されるfn2が0.50以下である、真空浸炭用鋼。
    fn1=Si−Cr (1)
    fn2=Si−0.8×Mn (2)
    ここで、式(1)及び式(2)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
  2. 請求項1に記載の真空浸炭用鋼であって、
    前記化学組成は、
    Mo:0.03〜0.20%、
    Cu:0.05〜0.20%、及び、
    Ni:0.05〜0.40%からなる群から選ばれる1種以上を含有する、
    真空浸炭用鋼。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の真空浸炭用鋼であって、
    前記化学組成は、
    Nb:0.01〜0.10%、及び、
    Ti:0.005〜0.100%からなる群から選ばれる1種以上を含有する、
    真空浸炭用鋼。
  4. 請求項3に記載の真空浸炭用鋼であって、
    前記化学組成は、
    B:0.0005〜0.0030%を含有する、
    真空浸炭用鋼。
  5. 平坦部及びエッジ部とを含む表面と、
    前記表面から深さ2.0mm以上の領域であって、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の化学組成を有する芯部とを備え、
    前記平坦部から深さ0.05mmの位置までの平坦部表層領域の炭素濃度CP1が0.70〜0.89%であり、
    前記エッジ部から深さ0.05mmの位置までのエッジ部表層領域の炭素濃度CP2が、前記炭素濃度CP1よりも高く1.20%以下であり、
    前記芯部のビッカース硬さはHV260〜500である、
    浸炭部品。
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