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JP6915428B2 - 製造プロセスの制御システム、方法及びプログラム - Google Patents
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Description

本発明は、製品の製造プロセスの挙動を説明する物理モデルを用いた製造プロセスの制御システム、方法及びプログラムに関する。
製品の製造プロセスにおいては、製造プロセスの挙動を物理的見地から説明する物理モデルを構築し、これから製造しようとする製品(以下、対象製品と呼ぶ)が製造条件を満たすように製造プロセスの操作量を求めて、セットアップする制御(以下、セットアップ制御と呼ぶ)が広汎に用いられている。
しかしながら、物理モデルのパラメータの値が不確かで、直接観測もできないことがあり、製造プロセスの挙動を正確に説明する物理モデルの構築が困難である場合が多い。
例えば鋼材の塑性加工では、所望の形状や機械特性を得るため、鋼材の温度を制御する必要がある。しかしながら、鋼材の内部まで含めた温度を測定する手段はなく、計算で推定する場合には材料の変形に伴い発生する熱の単位量が必要であるが、これまでの知見ではこの単位量を導出する方法は確立されていない。
また、例えば鋼板の熱間圧延工程の下流では加速冷却を行い、所定の温度まで鋼板を冷却することで製品に必要な機械特性を得る。この冷却温度の計算に必要な熱伝達率は冷却水の鋼板への接し方や鋼板の表面性状によって異なるが、冷却水の状態を測定する手段はなく、また、鋼板の表面性状が熱伝達率に与える影響の定量的な解明は未だなされていない。
このような点に鑑みて、理論や計測技術でなく、経験・統計的な観点から、物理モデルの不確かさを補償する学習制御が用いられている。
例えば製造プロセスの観測可能な出力実績値を収集し、出力実績値と物理モデルによる計算値である出力予測値とが一致するようにパラメータを同定し、次回以降のセットアップ制御に反映させる学習制御方式が採用される。物理モデルのパラメータを同定する具体的な手法は、例えば非特許文献1に開示されている。
この場合に、製造条件がとりうる範囲(以下、製造条件空間と呼ぶ)の全域にわたって未知のパラメータを一意に同定し、対象製品の制御に反映させても、実際には製造条件空間内の位置によりパラメータの真値が変わるため、誤差が発生し、制御精度が最大化されない場合が多い。
上述した鋼材の塑性加工における温度計算の例では、鋼種によって材料の変形に伴い発生する熱の単位量が変わる。また、上述した加速冷却の例でも、鋼板の厚みによってノズルからの距離が変わるため冷却水の鋼板への接し方が変わり、さらに鋼種によって表面性状も変わるため熱伝達率も変わる。
そこで、製造条件を一定の値毎に区分し、製品が製造された際、パラメータを同定した結果をその製品が属する製造条件の区分もしくはその周りの区分に反映し、製品を製造する際には、その製品が属する区分のパラメータを物理モデルに適用する層別テーブル学習方式が採用されることが多い。
図13に、層別テーブル学習方式を採用した製造プロセスの制御システムの構成例を示す。セットアップ計算部902は、物理モデルを用いて、対象製品の製造条件下での製造プロセス901の操作量を求める。このとき、物理モデルの所定のパラメータには、対象製品の製造条件に従って層別テーブル904から取得した値を適用する。パラメータ学習計算部903は、製造プロセス901の観測可能な出力実績値を収集し、出力実績値と物理モデルによる出力予測値とが一致するように所定のパラメータを学習して、その結果を、層別テーブル904における対象製品が属する製造条件の区分もしくはその周りの区分に反映させる。
層別テーブル学習方式に関連する技術として、例えば特許文献1には、プロセスラインでの処理に係る材料層別に対応する学習係数を修正するに際し、モデル予測値と実績値との誤差が所定の傾向を有する他の層別に係る学習係数についても修正を行うようにすることが記載されている。
なお、製造プロセスの非線形性が強くパラメータの学習が難しい場合には、パラメータ学習計算903によるパラメータの学習を行わず、熟練したオペレータが手動で各区分のパラメータの調整を行う場合もある。
特開平6−259107号公報 特許第3351376号公報
コンピュートロールNo.2、コロナ社、1983、p49−59 図解 伝熱工学の学び方、オーム社、1982
層別テーブル学習方式では、層別テーブルを区分する際に、区分が大きすぎると、上述したように製造条件空間の全域にわたってパラメータを一意に同定する場合と同様、同一区分内でパラメータの真値が変わるため、誤差が発生し、制御精度が最大化されない場合がある。また、区分が小さすぎると、一つ一つの区分に入る製造実績が少なく、あまり製造しない希少材等の区分では学習が進まず、誤差の発生の要因となる。特許文献1では、その対処法として、ある層別の値を修正するときに、他の層別の値にも反映させる手法を提案しているが、反映する範囲を広くとりすぎると、区分が大きすぎる場合と同様、制御精度が低くなる。
また、層別テーブル学習方式では、層別に利用する製造条件を増やすと層別テーブルの区分が細かくなり、上述したように誤差の発生の要因となる。そのため、層別に利用可能な製造条件の数は限られてしまい、物理モデルのパラメータに影響すると考えられる製造条件であっても、層別に利用する製造条件に入れられない場合がある。
本発明は上記のような点に鑑みてなされたものであり、指定された対象製品を製造する際の製造プロセスの挙動を説明する物理モデルの所定のパラメータを精度良く同定できるようにし、物理モデルを用いた製造プロセスの制御の制御精度を向上させることを目的とする。
上記の課題を解決するための本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1] 製品の製造プロセスの挙動を説明する物理モデルを用いて、対象製品の製造条件下での前記製造プロセスを制御する製造プロセスの制御システムであって、
過去に製造した製品の製造条件と前記製造プロセスの出力実績値とを紐付けた製造実績データを保存するデータベースから、前記対象製品の製造条件との製造条件空間内の距離に基づいて製造実績データを抽出する抽出手段と、
前記抽出手段により抽出した製造実績データを用いて、前記物理モデルの所定のパラメータの同定計算を行う同定計算手段と
前記同定計算手段により同定計算した前記所定のパラメータを反映させた前記物理モデルによる出力予測値の誤差を予測した誤差予測値を、回帰モデルにより求める回帰計算手段と、
前記製造プロセスを制御するに際して、前記回帰計算手段により求めた前記誤差予測値を用いて、前記物理モデルによる出力予測値を補正する補正手段とを備えたことを特徴とする製造プロセスの制御システム
[2] 前記同定計算手段は、前記抽出手段により抽出した製造実績データにおける出力実績値と前記物理モデルによる出力予測値との誤差を含む目的関数に基づいて、前記所定のパラメータの値を求めることを特徴とする[1]に記載の製造プロセスの制御システム
[3] 前記所定のパラメータの値が所定の範囲内に含まれるとする制約条件を課すことを特徴とする[2]に記載の製造プロセスの制御システム
[4] 前記目的関数は、前記抽出手段により抽出した製造実績データにおける出力実績値と前記物理モデルによる出力予測値との誤差に加えて、前記所定のパラメータの値と予め設定された前記所定のパラメータの基準値との誤差を更に含むことを特徴とする[2]又は[3]に記載の製造プロセスの制御システム
[5] 前記物理モデルに、前記同定計算手段により同定計算した前記所定のパラメータと、前記対象製品の製造条件とを入力して前記対象製品の出力予測値を求め、該出力予測値が前記対象製品の製造条件下での出力目標値と略一致するように前記製造プロセスの操作量を決定するセットアップ計算手段を備え、
前記セットアップ計算手段が、前記補正手段として機能し、前記対象製品の出力予測値を補正することを特徴とする[1]乃至[4]のいずれか一つに記載の製造プロセスの制御システム。
[6] 前記セットアップ計算手段は、前記出力予測値が前記出力目標値と略一致するまで、前記操作量に修正を加えて前記物理モデルの計算を繰り返す収束計算を行い、前記操作量を決定することを特徴とする[5]に記載の製造プロセスの制御システム。
[7] 前記回帰計算手段は、
前記同定計算手段により同定計算した前記所定のパラメータを反映させた前記物理モデルを用いて、前記抽出手段により抽出した製造実績データにおける製造条件に対する出力予測値を計算し、
前記出力予測値と前記抽出手段により抽出した製造実績データにおける出力実績値との誤差を、製造条件を説明変数として回帰して前記回帰モデルを生成し、
前記回帰モデルに前記対象製品の製造条件を与えて、前記対象製品についての前記誤差予測値を求めことを特徴とする[1]乃至[6]のいずれか一つに記載の製造プロセスの制御システム。
[8] 製品の製造プロセスの挙動を説明する物理モデルを用いて、対象製品の製造条件下での前記製造プロセスを制御する製造プロセスの制御方法であって、
抽出手段が、過去に製造した製品の製造条件と前記製造プロセスの出力実績値とを紐付けた製造実績データを保存するデータベースから、前記対象製品の製造条件との製造条件空間内の距離に基づいて製造実績データを抽出するステップと、
同定計算手段が、前記抽出した製造実績データを用いて、前記物理モデルの所定のパラメータの同定計算を行うステップと
回帰計算手段が、前記同定計算した前記所定のパラメータを反映させた前記物理モデルによる出力予測値の誤差を予測した誤差予測値を、回帰モデルにより求めるステップと、
補正手段が、前記製造プロセスを制御するに際して、前記誤差予測値を用いて、前記物理モデルによる出力予測値を補正するステップとを有することを特徴とする製造プロセスの制御方法
[9] 製品の製造プロセスの挙動を説明する物理モデルを用いて、対象製品の製造条件下での前記製造プロセスを制御するためのプログラムであって、
過去に製造した製品の製造条件と前記製造プロセスの出力実績値とを紐付けた製造実績データを保存するデータベースから、前記対象製品の製造条件との製造条件空間内の距離に基づいて製造実績データを抽出する処理と、
前記抽出した製造実績データを用いて、前記物理モデルの所定のパラメータの同定計算を行う処理と
前記同定計算した前記所定のパラメータを反映させた前記物理モデルによる出力予測値の誤差を予測した誤差予測値を、回帰モデルにより求める処理と、
前記製造プロセスを制御するに際して、前記誤差予測値を用いて、前記物理モデルによる出力予測値を補正する処理とをコンピュータに実行させるためのプログラム。
本発明によれば、指定された対象製品を製造する際の製造プロセスの挙動を説明する物理モデルの所定のパラメータを精度良く同定することができ、物理モデルを用いた製造プロセスの制御の制御精度を向上させることができる
第1の実施形態に係る製造プロセスの制御システムの構成例を示す図である。 第2の実施形態に係る製造プロセスの制御システムの構成例を示す図である。 第2の実施形態におけるセットアップ計算部による収束計算の例を示すフローチャートである。 ピアサによる鋼管製造プロセスの概要を示す図である。 比較例(1)における加工終了温度予測値と加工終了温度実績値とを示す特性図である。 比較例(2)における加工終了温度予測値と加工終了温度実績値とを示す特性図である。 実施例(1)における加工終了温度予測値と加工終了温度実績値とを示す特性図である。 実施例(2)における加工終了温度予測値と加工終了温度実績値とを示す特性図である。 実施例(1)で求めたパラメータの値を示す特性図である。 実施例(3)、(4)で求めたパラメータの値を示す特性図である。 パラメータの基準値を示す特性図である。 実施例(3)、(4)における加工終了温度予測値と加工終了温度実績値とを示す特性図である。 層別テーブル学習方式を採用した製造プロセスの制御システムの構成例を示す図である。
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
[第1の実施形態]
図1に、第1の実施形態に係る製造プロセスの制御システムの構成例を示す。
製造プロセスの制御システムは、製品の製造プロセス101の挙動を説明する物理モデルを用いて、対象製品の製造条件下での製造プロセス101の操作量を求めるセットアップ制御を行う。製造プロセス101が鋼材の塑性加工や鋼板の加速冷却である場合、製造条件は、例えば鋼材のサイズ、鋼材の成分値、プロセス開始温度等、製造プロセス101の挙動を説明するのに必要と考えられる項目となる。なお、対象製品とは、これから製造しようとする製品のことであり、以下に述べるようにパラメータの同定の対象となる製品である。
セットアップ計算部102は、物理モデルを用いて、対象製品の製造条件下での製造プロセス101の操作量を求める。このとき、物理モデルの所定のパラメータには、パラメータ同定計算部104により求めた値を適用する。製造プロセスの操作量を求める方式としては、物理モデルによる計算値である出力予測値が出力目標値と略一致するまで、操作量に修正を加えて計算を繰り返す収束計算方式が一般的である。なお、ここでいう略一致とは、出力予測値が出力目標値を基準として予め定められた範囲内の値となるという条件を満たすことを意味する。また、収束計算方式に限らず、1回のみ物理モデル計算を行い、その出力予測値と出力目標値との差に応じて操作量を修正する方式等でもよい。
データベース105は、過去に製造した製品の製造条件と、それに対応する製造プロセス101の観測可能な出力実績値とを紐付けた製造実績データを保存、蓄積する。
抽出部103は、データベース105から、対象製品の製造条件との製造条件空間内の距離に基づいて類似データとして製造実績データを抽出する。抽出部103は、対象製品の製造条件が与えられると、対象製品の製造条件とデータベース105に保存されている製造実績データにおける製造条件との製造条件空間内の距離を計算し、この距離が近い順に所定の数だけ製造実績データを類似データとして抽出する。製造条件空間内の距離は、ユークリッド距離やマハラノビス距離等、多次元空間内の距離の定義として公知のものが適用可能である。なお、製造条件空間を定義する製造条件は、製造条件のすべてでなく、製造条件の一部としてもよい。
パラメータ同定計算部104は、抽出部103によりデータベース105から抽出した製造実績データを用いて、物理モデルのパラメータ同定計算を行う。パラメータ同定計算部104により求めた所定のパラメータの値はセットアップ計算部102に与えられる。
いま、物理モデルが式(1)で表わされるとする。y´は物理モデルによる出力予測値、xは製造条件、pはパラメータである。
Figure 0006915428
データベース105から抽出した製造実績データ(類似データ)を{xi,yi}(i=1、・・・、N)とする。添え字iは類似データのインデックスであり、Nは類似データの個数である。xiはi番目の類似データの製造条件、yiはそれに対応する製造プロセス101の出力実績値である。
パラメータ同定計算部104は、式(1)の物理モデルを用いて、式(2)によりi番目の類似データの出力予測値yi´を求め、式(3)又は式(4)のように、データベース105から抽出した該類似データの出力実績値yiとの誤差の2乗和又は絶対値の和で表される目的関数Jを最小化するパラメータpの値を求める。
なお、物理モデルのパラメータを同定する具体的な手法は、例えば非特許文献1に開示されており、また、それ以外にも公知のパラメータ同定手法が適用可能である。
Figure 0006915428
以上述べたとおり、層別テーブル学習方式のように製造条件を区分するのではなく、製造条件空間内の距離に基づいて抽出される製造実績データに基づいて、有機的に物理モデルの所定のパラメータを同定するようにしたので、指定された対象製品を製造する際の製造プロセスの挙動を説明する物理モデルの所定のパラメータを精度良く同定することができる。
すなわち、製造条件空間内の距離が近い製造実績データを優先的に採用するとともに、製造条件空間内の距離が遠く、パラメータの真値が変わるような製造実績データはパラメータ同定計算に反映されにくくなるので、層別テーブル学習方式のように区分が大きすぎるときに生じる制御精度の悪化を排除することができる。
また、希少材等については、製造条件空間内の距離が近い製造実績データが多くは存在しないケースとなるが、近くに製造実績データがないときでも、可能な限り製造条件が似通った製造実績データを抽出してパラメータ同定計算に反映させることができるので、層別テーブル学習方式のように学習が進まないことによる誤差の発生を抑えることができる。
さらに、層別テーブル学習方式では、層別に利用可能な製造条件の数は限られてしまうが、本発明を適用したパラメータ同定計算においては、利用可能な製造条件の数は、理論上は無限である。
ところで、出力実績値yiと出力予測値yi´との誤差だけに着目して評価関数Jを最小化するパラメータpの値を求めると、場合によっては、過度にパラメータpの値が調整され、その結果、パラメータpの値が非現実的な値となることがある。これは、出力実績値yiと出力予測値yi´との誤差が、物理モデルのパラメータp以外に因る場合に生じる。このように出力実績値yiと出力予測値yi´との誤差が小さくなるとしても、非現実的なパラメータpの値となる場合には、物理モデルの予測値の信頼性が低くなるおそれがある。
そこで、以下の2つの手法により物理モデルのパラメータpの値を制限するようにしてもよい。なお、以下に述べる第1の手法及び第2の手法は、いずれかを単独で利用してもよいし、その両方を併せて利用してもよい。
第1の手法は、パラメータpの値が所定の範囲内に含まれるとする制約条件を課す手法である。
具体的には、添え字jをパラメータpのインデックスとし、pLjをj番目のパラメータpjの下限値、pUjをj番目のパラメータpjの上限値として、pLj≦pj≦pUjのように範囲を設定する。下限値pLj及び上限値pUjは、対象製造プロセスの物理的考察により予め判っているものとする。
この制約条件の下で、式(3)又は式(4)の目的関数Jを最小化するパラメータpの値を求めれば、パラメータpの値が非現実的な値となることを防ぐことができる。
なお、下限値pLj及び上限値pUjの両方を設定する例を説明したが、いずれか一方だけを設定するようにしてもよい。
第2の手法は、目的関数Jが、出力実績値yiと出力予測値yi´との誤差に加えて、パラメータpの値と予め設定されたパラメータpの基準値との誤差を更に含むようにした手法である。
具体的には、式(3.1)又は式(4.1)のように、評価関数Jを、出力実績値yiと出力予測値yi´との誤差を表わす項に加えて、パラメータpjの値とその基準値p0jとの誤差を表わす項(誤差の2乗和又は絶対値の和で表される項)を含むようにし、この評価関数Jを最小化とするパラメータpの値を求める。p0jはj番目のパラメータpjの基準値、Kjはj番目のパラメータpjの値の基準値からのずれの大きさを調整する重み係数、Mは物理モデルのパラメータの個数である。なお、基準値pj0及び重み係数Kjは、それぞれ一定値であってもよいし、予測対象の製造条件毎に異なる値であってもよい。
Figure 0006915428
物理モデルでは、対象製造プロセスの物理的知見(物性値の場合には理科年表等から基準値を取得できる)やオペレータの過去の経験により、パラメータpのおおよその値が判っていることがあり、その値を基準値として、そこから大きくずれない範囲でパラメータpの値を決定したい場合がある。このような場合に、式(3.1)又は式(4.1)のように、パラメータpの値とその基準値との誤差を含む評価関数に基づいて、パラメータpの値を決定すれば、パラメータpの値が非現実的な値となることを防ぐことができる。
式(3.1)では右辺第1項及び第2項がいずれも2次式となっており、式(4.1)では右辺第1項及び第2項がいずれも1次式となっているが、特に次数を同じにする必要はなく、問題の特徴に応じて選択すればよい。例えば右辺第1項を2次式で、第2項を1次式としたり、その逆としたりしてもよい。例えば出力実績値にノイズが含まれ、外れ値が存在する場合、右辺第1項は1次式にした方が、ノイズの影響を受けにくいロバストな同定結果になる。一方、右辺第2項を1次式にすると、基準値から変化するパラメータの数が少なくなる効果があり、多数のパラメータがある場合に、出力予測値を出力実績値に合わせ込むために、どのパラメータを調整しなければならないかが判り易くなる。
[第2の実施形態]
第2の実施形態では、第1の実施形態に係る製造プロセスの制御システムをベースに、回帰計算部106により誤差予測値を求め、この誤差予測値を用いて、セットアップ計算部102において計算する対象製品についての物理モデルによる出力予測値を補正する構成を追加した例を説明する。
図2に、第2の実施形態に係る製造プロセスの制御システムの構成例を示す。なお、第1の実施形態と共通の要素には同一の符号を付してその説明を省略し、第1の実施形態との相違点を中心に説明する。
回帰計算部106には、対象製品の製造条件と、抽出部103によりデータベース105から近傍教師データとして抽出した製造実績データと、パラメータ同定計算部104により求めた所定のパラメータの値とが与えられる。
回帰計算部106は、パラメータ同定計算部104により同定した所定のパラメータと、抽出部103によりデータベース105から抽出した製造実績データにおける製造条件を式(2)に入力し、製造実績データにおける製造条件に対する出力予測値を計算する。そして、この出力予測値と、抽出部103によりデータベース105から抽出した製造実績データにおける出力実績値との誤差を目的変数とし、製造条件を説明変数とする回帰モデルを生成する。回帰手法は、線形重回帰、PLS(Partial Least Squares)回帰、Ridge回帰等、公知の回帰手法が適用可能である。そして、生成した回帰モデルに対象製品の製造条件を与えて、対象製品についての誤差予測値を求める。なお、説明変数とする製造条件は、製造条件のすべてでなく、製造条件の一部(例えば鋼材のサイズ、鋼材の成分値)としてもよい。
ここで、パラメータ同定計算部104で用いる類似データとしての製造実績データと、回帰計算部106で用いる近傍教師データとしての製造実績データとは同じでもよいし、異なるものでもよい。回帰計算とパラメータ同定計算とは異なる値を予測するものであるので、製造実績データを同じにする必要はなく、それぞれの予測する値と相関の高い製造条件を用いて製造実績データを抽出した方が、精度の高い係数(回帰係数やパラメータの値)を計算できるからである。例えばパラメータ同定計算部104で用いる製造実績データ(類似データ)としては、製造条件A(例えば鋼材のサイズ、プロセス開始温度)の製造条件空間において定義される距離が近い製造実績データを抽出する一方、回帰計算部106で用いる製造実績データ(近傍教師データ)としては、製造条件B(例えば鋼材のサイズ、鋼材の成分値)の製造条件空間において定義される距離が近い製造実績データを抽出するようにしてもよい。なお、図2では一の抽出部103として図示したが、例えば類似データを抽出する抽出部と、近傍教師データを抽出する抽出部とに分けて構成してもよい。
第1の実施形態でも述べたように、セットアップ計算部102において製造プロセス101の操作量を求めるとき、物理モデルによる出力予測値が出力目標値と略一致するまで、操作量に修正を加えて計算を繰り返す収束計算方式が一般的である。
図3に、第2の実施形態におけるセットアップ計算部102による収束計算の例を示す。図3の処理は、製造プロセスの仮の操作量を設定した状態で実行される。
ステップS301で、セットアップ計算部102は、物理モデルを用いて、対象製品の製造条件下での出力予測値を求める。このとき、物理モデルの所定のパラメータには、パラメータ同定計算部104により求めた値を適用する。
ステップS302で、セットアップ計算部102は、ステップS301において求めた出力予測値を、回帰計算部106により求めた誤差予測値を用いて補正した上で、目標値と略一致するか否かを判定する。その結果、出力予測値が出力目標値と略一致すれば(ステップS302:Y)、現在設定している仮の操作量を採用して、操作量として出力する。それに対して、出力予測値が出力目標値と略一致しなければ(ステップS302:N)、ステップS303に進み、現在設定している仮の操作量を修正して、ステップS301に戻る。
[実施例A]
本発明を適用することによる制御精度の向上の効果を数値実験にて検証した。以下では、実施例(1)は第1の実施形態、実施例(2)は第2の実施形態に対応する。なお、実施例Aでは、第1の実施形態で説明した手法のうち、パラメータの値を制限しない手法を適用している。
実施例Aで対象とする製造プロセスはピアサによる鋼管製造プロセスとし、ピアサによる加工終了温度を予測すべき出力とした。図4に、ピアサによる鋼管製造プロセスの概要を示す。ビレット402は加工対象の材料であり、工具であるロール401を回転させながらビレッド402を挟み、バー404でプラグ403を支えて回転させながらビレット402に押し込むことで、ビレット402に孔を開け所定の径の管に加工する。ピアサによる鋼管製造の際の加工終了温度は、非特許文献2や特許文献2を参照すれば計算可能である。
鋼管を半径方向の微小要素に分割すると、半径方向位置rにおける要素の熱収支方程式は式(5)式のように表わされる。
Figure 0006915428
式(5)において、cは比熱、ρは密度、vrは要素の体積、Trは要素の温度である。
nextは隣接要素からの伝熱による入熱であり、式(6)で表わされる。λは熱伝導率、Arは隣接要素との接触面積である。
fricは工具(ロール)401との摩擦熱であり、式(7)で表わされる。ηは仕事から熱への変換係数、μは摩擦係数、Pは工具と鋼管の接触面圧、ΔVsは工具と鋼管の速度差である。
formは鋼の変形に伴って発生する熱であり、式(8)で表わされる。αは変形から熱への変換係数、εはひずみ、Kfは変形抵抗である。
Figure 0006915428
式(5)〜式(8)の物理モデルにおいて、ほとんどの係数や変数は測定可能であったり、理論式や実験式が与えられたりするが、変換係数αは先行知見では定式化されておらず、製造プロセス毎、製造条件毎に異なるため経験的に決めるしかないパラメータであり、今回同定すべき所定のパラメータとした。
数値実験は、計算機内で、図1、図2に示したセットアップ計算部102、抽出部103、パラメータ同定計算部104、データベース105、回帰計算部106を再現して実施した。数値実験用のデータは、鋼管製造工場の操業実績を蓄積しているデータベース(工場データベースと呼ばれる)のものを用いた。
ただし、数値実験であるため、図1、図2のように製造プロセスの操作量を計算しても、実際の操業に反映させて、制御精度を比較することはできない。そこで、本発明を適用して同定したパラメータと、工場データベースに保存されている操作量の実績とを用いて、図3に示した物理モデル計算を行い、加工終了温度を予測した。この加工終了温度予測値(出力予測値)と、該操作量の実績を用いて実プロセスを操業した結果である加工終了温度実績値(工場データベースに保存している)とを比較した。この温度予測精度が向上していれば、実際に操業に反映した際の制御精度も向上すると考えられる。なお、実施例(2)における回帰計算では、パラメータ同定計算と同じ製造条件及び製造実績データを用いた。
比較例(1)として、非特許文献1にあるように、製造条件空間の全域にわたって一意に同定したパラメータを用いた加工終了温度予測値と加工終了温度実績値とを比較した。その結果を図5に示す。また、比較例(2)として、オペレータが手動で調整した層別テーブルのパラメータを用いた加工終了温度予測値と加工終了温度実績値とを比較した。その結果を図6に示す。
それに対して、実施例(1)の数値実験により、加工終了温度予測値と加工終了温度実績値とを比較した結果を図7に示す。また、実施例(2)の数値実験により、加工終了温度予測値と加工終了温度実績値とを比較した結果を図8に示す。
図5〜図8に示すように、比較例(1)及び比較例(2)と比較して、実施例(1)では誤差平均、誤差σともに低減しており、実施例(2)ではさらに誤差平均、誤差σともに低減しており、温度予測精度が向上していることが確認できる。
[実施例B]
実施例Bとして、実施例Aと同じピアサによる加工終了温度を予測する問題に対して、第1の実施形態で説明した手法のうち、パラメータの値を制限する手法を適用した結果を示す。
図9は、パラメータの値を制限しない手法、すなわち実施例Aの実施例(1)で求めたパラメータの値を示す。横軸はピアサによる圧延番号、縦軸はパラメータの値を示す。
ここで、物理モデルのパラメータとしては、実施例Aで述べたように変形から熱への変換係数(加工発熱係数とも呼ばれる)αと、式(9)に示す加熱炉温度による変形抵抗の補正係数βを同定する。実施例Aでは説明を省略したが、実施例Aでも補正係数βを同定対象のパラメータとしている。
Figure 0006915428
パラメータの値を制限しない手法では、出力実績値と出力予測値との誤差の原因が全てパラメータの値にあるという前提でパラメータを同定することになる。そのため、誤差の原因がパラメータ以外の未知な要因の場合に、パラメータの値が材料毎に大きく変わることがある。補正係数βは物理的に負の値を取らないが、図9の例では、多くの材料で負の値となってしまっている。
図10は、パラメータの値を制限する手法で求めたパラメータの値を示す。図9と同じく、横軸はピアサによる圧延番号、縦軸はパラメータの値を示す。
図10(a)は、上述した第1の手法を利用した結果を示し、パラメータの上下限値を設定する(実施例(3)とする)。上下限値は、物理現象として正しいと想定される範囲に設定し、変換係数αは0.5〜1.5、補正係数βは0〜0.5に制限した。このような制約条件を課すことにより、補正係数βが負の値となることもなく、同定結果は所定の範囲内となっている。
図10(b)は、上述した第2の手法を利用した結果を示し、パラメータの値とその基準値との誤差を含む評価関数を用いる(実施例(4)とする)。変換係数αの基準値及び補正係数βの基準値は、オペレータが過去の経験からおおよそ正しいと考えている値とした。図11に、変換係数αの基準値及び補正係数βの基準値を示す。実施例(4)では、変換係数αに上下限値を設定しないが、補正係数βには下限値をゼロに設定した。評価関数は、式(3.1)を使用し、重み係数Kj=1とした。重み係数Kjの大きさにより効果は異なるが、基準値から大きくずれない範囲で、物理モデルが高精度となるようパラメータを調整している。
図9の結果と比べると、パラメータの変動は小さくなった。変換係数α及び補正係数βについて、図9の場合、基準値とのRMSEはそれぞれ0.186及び0.086であったのに対して、図10(b)の場合、基準値とのRMSEはそれぞれ0.181及び0.030となり、基準値とのRMSEが小さくなるようにパラメータの値が求められた。特に補正係数βでは、基準値との差が大幅に小さくなり、実績データに合せるためのパラメータの過度な変動が抑制された。
図7は、既述したとおり、実施例(1)により、加工終了温度予測値と加工終了温度実績値とを比較した結果を示す。この場合の誤差は6.81℃であった。
それに対して、図12(a)は、図10(a)に対応し、実施例(3)により、加工終了温度予測値と加工終了温度実績値とを比較した結果を示す。この場合の誤差は6.99℃であり、パラメータの値を制限しない実施例(1)と比べて物理モデルの予測精度は同等であり、良好な予測精度となった。
また、図12(b)は、図10(b)に対応し、実施例(4)により、加工終了温度予測値と加工終了温度実績値とを比較した結果を示す。この場合の誤差は6.76℃であり、パラメータの値を制限しない実施例(1)と比べて物理モデルの予測精度は同等であり、良好な予測精度となった。
このように、物理モデルのパラメータに上下限値を設定したり、基準値との誤差評価を行ったりすることで、パラメータの過度な変動が抑制され、信頼性の優れた同定結果が得られた。
以上、本発明を一実施形態と共に説明したが、上記実施形態は本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
例えばセットアップ計算部102、抽出部103、パラメータ同定計算部104、回帰計算部106は、例えばCPU、ROM、RAM等を備えたコンピュータ装置により実現される。この場合に、一つのハードウェアで各部を構成してもよいし、複数のハードウェアで各部を構成してもよい。
また、上記実施形態では、抽出部103が本発明でいう抽出手段として機能し、パラメータ同定計算部104が本発明でいう計算手段として機能して、パラメータ同定装置を構成する。この場合、抽出部103及びパラメータ同定計算部104は一つのハードウェアで構成されることに限らず、複数のハードウェアで構成されてもよい。
また、本発明は、ソフトウェア(プログラム)をネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータがプログラムを読み出して実行することによっても実現可能である。
101:製造プロセス
102:セットアップ計算部
103:抽出部
104:パラメータ同定計算部
105:データベース
106:回帰計算部

Claims (9)

  1. 製品の製造プロセスの挙動を説明する物理モデルを用いて、対象製品の製造条件下での前記製造プロセスを制御する製造プロセスの制御システムであって、
    過去に製造した製品の製造条件と前記製造プロセスの出力実績値とを紐付けた製造実績データを保存するデータベースから、前記対象製品の製造条件との製造条件空間内の距離に基づいて製造実績データを抽出する抽出手段と、
    前記抽出手段により抽出した製造実績データを用いて、前記物理モデルの所定のパラメータの同定計算を行う同定計算手段と
    前記同定計算手段により同定計算した前記所定のパラメータを反映させた前記物理モデルによる出力予測値の誤差を予測した誤差予測値を、回帰モデルにより求める回帰計算手段と、
    前記製造プロセスを制御するに際して、前記回帰計算手段により求めた前記誤差予測値を用いて、前記物理モデルによる出力予測値を補正する補正手段とを備えたことを特徴とする製造プロセスの制御システム
  2. 前記同定計算手段は、前記抽出手段により抽出した製造実績データにおける出力実績値と前記物理モデルによる出力予測値との誤差を含む目的関数に基づいて、前記所定のパラメータの値を求めることを特徴とする請求項1に記載の製造プロセスの制御システム
  3. 前記所定のパラメータの値が所定の範囲内に含まれるとする制約条件を課すことを特徴とする請求項2に記載の製造プロセスの制御システム
  4. 前記目的関数は、前記抽出手段により抽出した製造実績データにおける出力実績値と前記物理モデルによる出力予測値との誤差に加えて、前記所定のパラメータの値と予め設定された前記所定のパラメータの基準値との誤差を更に含むことを特徴とする請求項2又は3に記載の製造プロセスの制御システム
  5. 前記物理モデルに、前記同定計算手段により同定計算した前記所定のパラメータと、前記対象製品の製造条件とを入力して前記対象製品の出力予測値を求め、該出力予測値が前記対象製品の製造条件下での出力目標値と略一致するように前記製造プロセスの操作量を決定するセットアップ計算手段を備え、
    前記セットアップ計算手段が、前記補正手段として機能し、前記対象製品の出力予測値を補正することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の製造プロセスの制御システム。
  6. 前記セットアップ計算手段は、前記出力予測値が前記出力目標値と略一致するまで、前記操作量に修正を加えて前記物理モデルの計算を繰り返す収束計算を行い、前記操作量を決定することを特徴とする請求項5に記載の製造プロセスの制御システム。
  7. 前記回帰計算手段は、
    前記同定計算手段により同定計算した前記所定のパラメータを反映させた前記物理モデルを用いて、前記抽出手段により抽出した製造実績データにおける製造条件に対する出力予測値を計算し、
    前記出力予測値と前記抽出手段により抽出した製造実績データにおける出力実績値との誤差を、製造条件を説明変数として回帰して前記回帰モデルを生成し、
    前記回帰モデルに前記対象製品の製造条件を与えて、前記対象製品についての前記誤差予測値を求めことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の製造プロセスの制御システム。
  8. 製品の製造プロセスの挙動を説明する物理モデルを用いて、対象製品の製造条件下での前記製造プロセスを制御する製造プロセスの制御方法であって、
    抽出手段が、過去に製造した製品の製造条件と前記製造プロセスの出力実績値とを紐付けた製造実績データを保存するデータベースから、前記対象製品の製造条件との製造条件空間内の距離に基づいて製造実績データを抽出するステップと、
    同定計算手段が、前記抽出した製造実績データを用いて、前記物理モデルの所定のパラメータの同定計算を行うステップと
    回帰計算手段が、前記同定計算した前記所定のパラメータを反映させた前記物理モデルによる出力予測値の誤差を予測した誤差予測値を、回帰モデルにより求めるステップと、
    補正手段が、前記製造プロセスを制御するに際して、前記誤差予測値を用いて、前記物理モデルによる出力予測値を補正するステップとを有することを特徴とする製造プロセスの制御方法
  9. 製品の製造プロセスの挙動を説明する物理モデルを用いて、対象製品の製造条件下での前記製造プロセスを制御するためのプログラムであって、
    過去に製造した製品の製造条件と前記製造プロセスの出力実績値とを紐付けた製造実績データを保存するデータベースから、前記対象製品の製造条件との製造条件空間内の距離に基づいて製造実績データを抽出する処理と、
    前記抽出した製造実績データを用いて、前記物理モデルの所定のパラメータの同定計算を行う処理と
    前記同定計算した前記所定のパラメータを反映させた前記物理モデルによる出力予測値の誤差を予測した誤差予測値を、回帰モデルにより求める処理と、
    前記製造プロセスを制御するに際して、前記誤差予測値を用いて、前記物理モデルによる出力予測値を補正する処理とをコンピュータに実行させるためのプログラム。
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