以下、本発明の一実施形態による応力評価方法および応力評価装置について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の一実施形態の全図においては、同一または対応する部分には同一の符号を付す。また、本発明は以下に説明する実施形態によって限定されるものではない。
まず、本発明による応力評価方法を説明するにあたり、本発明の理解を容易にするために、本発明の原理について説明する。通常、構造物は部材の保護のために、表面が耐環境性に優れた塗料や樹脂などによって被覆される。これらの代表的なものとして、塗装や塗覆装などの、鋼製の構造物が腐食しないように保護する防食層としての非金属層がある。これらの非金属層は通常、部材の表面に密着している。したがって、この非金属層は部材に準じて変形するため、構造物を構成する金属基体としての鋼などにひずみが生じると、表面に密着している非金属層にも同様にひずみが生じる。非特許文献1に基づいた本発明者の知見によれば、金属基体のひずみと表面の非金属層のひずみとはほぼ一致する。したがって、非金属層のひずみを測定することによって、金属基体のひずみを評価することができるので、金属基体の応力状態も評価できる。
従来、樹脂やガラスなどの透明な材料の応力を評価する方法として、光弾性法が知られている。図3は、従来の光弾性法による応力測定方法を説明するための、光弾性応力測定装置の概略構成を示す図である。
図3に示すように、従来の光弾性応力評価装置100は、互いに直線状に配置された、可視光源101、第1偏光板102、λ/4波長板103,104、第2偏光板105、およびカメラ106を有して構成される。なお、必要に応じてさらにレンズなどが設けられる。これらのうちの第1偏光板102と第2偏光板105とは、互いの偏光方向が90°(π/2)異なるように設けられている。一方、λ/4波長板103,104は互いの主軸方向が90°異なるように設けられている。その上で、第1偏光板102の偏光方向とλ/4波長板103の主軸方向とは互いに、45°(π/4)異なるように設けられている。同様に、λ/4波長板104の主軸方向と第2偏光板105の偏光方向とは互いに、45°異なるように設けられている。応力が測定される光弾性体からなる測定対象物110は、可視光に対して透明な例えばエポキシ樹脂などからなる。測定対象物110は、λ/4波長板103,104の間の所定位置に配置される。
光弾性応力評価装置100によって測定対象物110に生じる応力を測定する場合には、まず、可視光源101から可視光を出射させる。可視光源101から出射された可視光は、第1偏光板102によって直線偏光となった後、λ/4波長板103によって円偏光となる。円偏光となった可視光は、測定対象物110に入射して測定対象物110の応力場に起因する複屈折によって位相差δを生じ、楕円偏光となる。なお、楕円偏光は円偏光である場合を含む。ここで、複屈折により生じる位相差δは、以下の(1)式に示すように、測定対象物110の主応力差(σ1−σ2)に比例する。
δ=2πCt(σ1−σ2)/λ …(1)
なお、λは使用する光の波長、Cは測定対象物110の材料の光弾性係数、tは測定対象物110の厚さである。
測定対象物110を透過した光は、λ/4波長板104によって直線偏光になった後、第2偏光板105を通過した偏光成分が、カメラ106によって撮像される。これにより、測定対象物110に生じた位相差に依存した画像が、カメラ106によって撮像可能となって、測定対象物110の応力状態が観察可能になる。カメラ106によって撮像された画像は、測定対象物110における明暗模様の光弾性縞の画像として得られる。得られた明暗模様の光弾性縞は等色線と言われる。撮像された等色線を観察することによって、測定対象物110の厚さtと光弾性係数Cとから光弾性パラメータとしての主応力差(σ1−σ2)を導出することができる。
一方、図3に示す光弾性応力評価装置100において、λ/4波長板103,104を取り除いた構成にすることによって、さらに主応力方向を測定することができる。すなわち、光弾性応力評価装置100において、可視光源101からカメラ106の間の光軸上から、λ/4波長板103,104を取り外した状態にする。この構成においては、可視光源101から出射した可視光が、第1偏光板102を通過して直線偏光に偏光された後、測定対象物110に入射する。ここで、第1偏光板102の偏光方向、すなわち直線偏光の偏光方向と主応力方向とが一致している場合には、直線偏光は偏光方向が変化することなく測定対象物110を透過する。測定対象物110を透過した光は、第1偏光板102の偏光方向と平行な直線偏光であることから、第2偏光板105をほとんど透過しない。この場合、第2偏光板105を透過した光を観測すると、測定対象物110において等傾線と言われる暗線が発現する。一方、第1偏光板102の偏光方向と主応力方向とが一致していない場合には、測定対象物110を透過する光には複屈折によって位相差δが生じるため、測定対象物110を透過した光は楕円偏光になって、第2偏光板105によって偏光されて透過する。透過する光の強度は、第1偏光板102の偏光方向と主応力方向との角度の差に応じて変化する。これにより、第1偏光板102と第2偏光板105とを、互いの偏光方向が90°異なった状態を維持しながら、測定対象物110に入射する可視光の偏光方向の角度が変化するように回転させると、カメラ106によって撮像される光に明暗が生じて、第1偏光板102の回転角度に対応して光弾性縞が撮像される。カメラ106によって撮像された光弾性縞の画像に基づいて、測定対象物110における主応力方向を導出することができる。
以上のようにして、光弾性応力評価装置100により光弾性パラメータとしての主応力差(σ1−σ2)および主応力方向を検出することができる。主応力差(σ1−σ2)および主応力方向が得られると、例えば、せん断応力差積分法により、測定対象物110における主応力成分σ1,σ2をそれぞれ分離した状態で導出することが可能になる。主応力成分σ1,σ2および主応力方向(最大主応力方向)が得られれば、測定対象物110の状態、すなわち測定対象物110の健全性を詳細に評価可能となる。
ところが、上述した従来の光弾性応力評価装置100を用いた光弾性法による応力の測定においては、可視光源101から出射する可視光を使用しているため、測定対象物110としては、可視光を透過可能な透明材料からなるものに限定されていた。これに対し、実際の構造物などに対して防食のために使用される塗装や塗覆装を構成する樹脂材料は、可視光に対して不透明であることから、可視光を用いた光弾性法を適用することが困難であった。
そこで、本発明者は、可視光に代えて電磁波の一種であるテラヘルツ波を用いることを想到し、テラヘルツ波を用いた光弾性法による応力評価方法について検討を行った。テラヘルツ波は、樹脂などの非金属材料に照射するとほとんどが透過する一方、金属材料に照射するとほとんどが反射する性質を有する。本発明者は、テラヘルツ波が有する性質に着目して、ひずみによって電磁波の複屈折現象が生じる光弾性法の原理と併用することによって、可視光に対して不透明な非金属層である樹脂においてもひずみを測定可能であることを想到した。さらに、本発明者は、非金属層のひずみを評価することによって、その下層の鋼材などの対象物のひずみを評価できることを見いだした。このような方法を、本明細書において「テラヘルツ波光弾性法」と言う。すなわち、本発明者は、テラヘルツ波を用いることによって、構造物の表面に密着した防食層などの樹脂からなる非金属層を、構造物のひずみを測定するためのひずみセンサとして用いることを想到した。上述した本発明者の鋭意検討によるテラヘルツ波光弾性法を用いて、非金属層のひずみを測定することにより、構造物の任意の位置におけるひずみを非接触で測定可能になる。さらに、本発明者は、テラヘルツ波は、金属材料に照射するとほとんどが反射することから、反射を用いたテラヘルツ波光弾性法なども可能であることを想到した。以下に説明する本発明は、以上の鋭意検討により案出されたものである。
(応力評価装置)
図1は、本発明の一実施形態による応力評価装置の構成を示す図である。図1に示すように、一実施形態による応力評価装置1は、解析制御部10、テラヘルツ波発信器11、およびテラヘルツ波検出器12を備える。一実施形態において測定の対象となる鋼構造物15は、金属基体としての鋼材15aの表面に、塗装や塗覆装などの各種の樹脂からなる非金属層の防食層15bが設けられている。
応力評価装置1は、テラヘルツ波L1を偏光させて鋼構造物15の表面に照射可能に構成されているとともに、鋼構造物15を反射したテラヘルツ波L2を偏光させた後に検出可能に構成された反射型のテラヘルツ波計測装置から構成される。すなわち、応力評価装置1は、テラヘルツ波発信手段とテラヘルツ波検出手段とを兼ね備える。ここで、テラヘルツ波は、1テラヘルツ(1THz=1012Hz)前後、具体的には、100GHz〜10THz(1011〜1013Hz)オーダーの周波数領域である、いわゆるテラヘルツ領域に属する電磁波である。テラヘルツ領域は、光の直進性と電波の透過性を兼ね備えた周波数領域である。なお、一実施形態においてテラヘルツ波の周波数は、防食層15bの材質や厚さなどの条件に応じて選択することが可能であり、防食層15bでのテラヘルツ波の減衰度(透過度)によって選択してもよい。
テラヘルツ波発信手段としてのテラヘルツ波発信器11は、例えば共鳴トンネルダイオード(RTD:Resonant Tunneling Diode)などを備えたテラヘルツ波発生素子11a、半球レンズ11b、コリメートレンズ11c、および対物レンズ11dを有して構成される。なお、共鳴トンネルダイオードの代わりに、光伝導アンテナ(PCA:Photo Conductive Antenna)を用いてもよい。テラヘルツ波発信器11における発信側には、発信側直線偏光手段としての第1偏光板13a、および発信側位相変換手段としてのλ/4波長板14aが設けられている。なお、直線偏光手段は、電磁波に対して位相変換を行う位相変換手段として機能する。第1偏光板13aの偏光方向とλ/4波長板14aの主軸方向とは互いに、45°異なるように設けられている。なお、テラヘルツ波発信器11、第1偏光板13a、およびλ/4波長板14aは、直線状に配置された光学系を構成しているが、必ずしも直線状に配置される場合に限定されず、テラヘルツ波L1を反射する反射ミラーなどをさらに備えて、テラヘルツ波を屈曲させる光学系であってもよい。テラヘルツ波発信器11、第1偏光板13a、およびλ/4波長板14aからなる発信光学系は、テラヘルツ波L1の直線偏光であるテラヘルツ波L1pを、鋼構造物15の面に対して所定角度αで照射可能に構成されている。
テラヘルツ波検出手段としてのテラヘルツ波検出器12は、例えばRTDからなるテラヘルツ波検出素子12a、半球レンズ12b、および集光レンズ12cを有して構成される。テラヘルツ波検出器12は、テラヘルツ波検出素子12aによってテラヘルツ波の反射波(テラヘルツ波L2,L2p)を受信可能な状態で、応力評価装置1に設けられている。テラヘルツ波検出器12における検出側には、検出側直線偏光手段としての第2偏光板13b、および検出側位相変換手段としてのλ/4波長板14bが設けられている。λ/4波長板14bの主軸方向と第2偏光板13bの偏光方向とは互いに、45°異なるように設けられている。
第1偏光板13aと第2偏光板13bとは互いに、偏光方向が90°(π/2)異なるように設けられている。ここで、第1偏光板13aと第2偏光板13bとの偏光方向が90°異なるように設けられているとは、λ/4波長板14a,14bが設けられておらず、かつ複屈折現象が生じる部材が設けられていない状態で、第1偏光板13aによって直線偏光にされた後、偏光状態が変わることなく所定の面を反射したテラヘルツ波が、第2偏光板13bを透過しない状態になることである。また、上述した第1偏光板13aおよび第2偏光板13bとの関係から、λ/4波長板14a,14bは互いの主軸方向が90°異なっている。
以上のように構成された応力評価装置1において、少なくともテラヘルツ波発信器11、テラヘルツ波検出器12、第1偏光板13a、第2偏光板13b、およびλ/4波長板14a,14bからなるテラヘルツ波光学系は、一体として鋼構造物15に対して相対的に走査可能に構成される。これにより、応力評価装置1は、鋼構造物15の表面の所定範囲を走査しつつ、テラヘルツ波L1を照射可能、かつ反射されたテラヘルツ波を検出可能に構成されている。なお、応力評価装置1のテラヘルツ波光学系を鋼構造物15の表面に対して相対的に走査させる走査機構としては、従来公知の種々の走査機構を採用することができ、さらには手動で走査させることも可能である。
解析手段および制御手段としての解析制御部10は、信号増幅部10a、バイアス生成部10b、ロックイン検出部10c、および解析処理部10dを備える。解析制御部10は、テラヘルツ波発信器11に対する各種制御を行う。また、解析制御部10は、テラヘルツ波検出器12によって検出されたテラヘルツ波の信号に対して、各種処理を行う。信号増幅部10aは、テラヘルツ波検出器12によって検出された信号を増幅し、テラヘルツ波受信データとしてロックイン検出部10cに出力する。バイアス生成部10bは、バイアス電圧を生成してテラヘルツ波発生素子11aおよびテラヘルツ波検出素子12aをバイアスすることによって、発信するテラヘルツ波、または検出されたテラヘルツ波を、バイアス電圧に応じて変化させる。テラヘルツ波発生素子11aおよびテラヘルツ波検出素子12aによって発信または検出されたテラヘルツ波は、微弱な場合もある。この一実施形態においては、発信または検出されたテラヘルツ波が微弱である場合の例を示し、テラヘルツ波の検出にはロックイン検出が用いられる。ロックイン検出の際、テラヘルツ波発信器11においては、テラヘルツ波発生素子11aのバイアス電圧として変調された参照信号が用いられることにより、テラヘルツ波の検出信号のノイズ成分が除去される。これにより、発信または検出されたテラヘルツ波が微弱であっても、検出を精度良く行うことができる。解析処理手段としての解析処理部10dは、検出されたテラヘルツ波受信データを格納する所定の記録部(図示せず)を備えるとともに、テラヘルツ波受信データに対して解析処理を行う。
(応力評価方法)
(主応力差の測定方法)
次に、以上のように構成された応力評価装置1による応力の測定について説明する。上述したように、鋼構造物15は鋼材15aの鋼面15asに防食層15bが設けられている。鋼材15aは、橋梁や配管などの構造物において一般的に用いられる代表的な材料である。なお、鋼構造物15としては、例えば防食層を有する鋼構造物のほか、アルミニウム(Al)やステンレス鋼(SUS)などの金属基体の所定の面を下地として、下地の上層に非金属層が形成された種々の物体とすることができる。
防食層15bは、下地の鋼材15aにおける鋼面15asの防食層として機能し、接着剤なども含む。防食層15bは、鋼材15aの鋼面15asに密着して設けられている。そのため、防食層15bが施された鋼材15aに応力に起因してひずみが生じると、生じたひずみのほとんどが防食層15bに伝播し、防食層15bにも鋼材15aに準じたひずみが発生する。そのため、鋼構造物15においてあらかじめ、従来公知の方法、例えば引きはがし試験等により、防食層15bが鋼材15aの鋼面15asに密着した状態であるか否かの検査を行う。
防食層15bが鋼面15asに密着した状態の鋼構造物15において、応力評価装置1のテラヘルツ波発信器11から防食層15bの表面15bsに向けてテラヘルツ波L1を出射する。具体的には、テラヘルツ波発生素子11aにおいて発生したテラヘルツ波は、半球レンズ11b、コリメートレンズ11c、および対物レンズ11dを介して、テラヘルツ波L1として出射される。ここで、発信されるテラヘルツ波L1は、典型的には連続的に発信されるテラヘルツ連続波であるが、断続的に発信されるテラヘルツパルス波やトーンバースト波であってもよい。
テラヘルツ波発信器11から発信されたテラヘルツ波L1は、第1偏光板13aによって直線偏光にされる。第1偏光板13aを通過した直線偏光のテラヘルツ波は、λ/4波長板14aを透過して円偏光となる。円偏光となったテラヘルツ波L1pは、所定角度αの入射角で鋼構造物15の防食層15bに入射する。上述したように、防食層15bには下層の鋼材15aのひずみに準じたひずみが生じている。そのため、防食層15bに入射したテラヘルツ波L1pは、防食層15b内においてひずみに応じた複屈折が生じつつ鋼面15asによって完全反射される。鋼面15asにおいて完全反射したテラヘルツ波L2は、防食層15b内においてひずみに応じた複屈折が生じつつ、表面15bsから出射される。
表面15bsから出射したテラヘルツ波L2は、複屈折により位相差δを生じて楕円偏光または円偏光になっており、λ/4波長板14bを透過して直線偏光となった後、第2偏光板13bを通過した偏光成分であるテラヘルツ波L2pが、テラヘルツ波検出器12によって検出される。これにより、防食層15bを透過したテラヘルツ波の楕円率であって、防食層15bにおける複屈折によって生じた位相差に依存したテラヘルツ波の強度が、テラヘルツ波検出器12によって検出される。
以上のように、テラヘルツ波検出器12によって検出されたテラヘルツ波L2pの強度は、防食層15bの主応力差(σ1−σ2)に比例した物理量になる。他方で、防食層15bの光弾性係数および厚さをあらかじめ計測しておく。その上で、テラヘルツ波L2pの強度を検出すると、テラヘルツ波L2pの強度、光弾性係数、および厚さから、防食層15bの主応力差(σ1−σ2)を導出できる。上述したように、防食層15bのひずみは下層の鋼材15aのひずみに準じている。そのため、防食層15bの主応力差(σ1−σ2)が求まると、この主応力差から防食層15bの主ひずみ差(ε1−ε2)を導出できる。防食層15bの主ひずみ差(ε1−ε2)は、鋼面15asの主ひずみ差と等価になるので、鋼材15aの各種パラメータに基づいて、鋼面15asの主応力差(σ1′−σ2′)を導出できる。すなわち、導出された防食層15bの主応力差(σ1−σ2)から、鋼材15aの主応力差(σ1′−σ2′)を導出できる。これらの導出は、解析制御部10の解析処理部10dなどにより実行される。
さらに、上述した走査機構によって、上述したテラヘルツ波光学系を鋼構造物15の表面に沿って所定範囲を走査させる。これにより、鋼構造物15の表面15bsの所定範囲において、防食層15bのひずみに応じたテラヘルツ波の強度分布が、テラヘルツ波検出器12によって検出される。テラヘルツ波検出器12によって検出されたテラヘルツ波の強度分布は、防食層15bにおけるテラヘルツ波の光弾性縞の等色線の分布として得られる。上述したように、得られた防食層15bにおける光弾性縞の等色線の分布は、鋼材15aにおける等色線の分布になる。すなわち、防食層15bは、鋼材15aのひずみの主応力差(σ1−σ2)の検出に関するひずみセンサとして機能する。このひずみセンサとしての防食層15bにおけるひずみの状態を、テラヘルツ波を用いて検出することによって、鋼材15aのひずみの状態を測定することが可能となる。
ここで、上述した鋼構造物15の鋼材15aに生じる主応力方向が、形状や設計などによって明確である場合がある。この場合、上述のように得られた主応力差(σ1−σ2)と、形状や設計などによって明確である主応力方向とに基づいて、従来公知のせん断応力差積分法によって、主応力成分σ1,σ2を互いに分離した形で求めることが可能になる。これらの導出は、解析制御部10の解析処理部10dなどにより実行される。主応力成分σ1,σ2および主応力方向が導出されることによって、鋼構造物15の状態、すなわち測定対象物である鋼材15aの健全性を詳細に評価することが可能となる。
さらに、鋼材15aにおいて生じる応力が一軸応力場の場合、または一軸応力場に近い状態の応力場である場合、主応力差(σ1−σ2)は、ほぼ最大主応力成分σ1とみなすことができる。この場合、せん断応力差積分法によって主応力差(σ1−σ2)から主応力成分σ1,σ2を分離させる導出処理が省略可能になる。すなわち、主応力差(σ1−σ2)を測定するのみで、鋼材15aの健全性を詳細に評価することが可能となる。
(主応力方向の測定装置)
一方、上述した構造物である鋼材15aに生じる主応力方向が不明である場合、主応力差(σ1−σ2)の測定に加えて、主応力方向を測定する必要がある。図2は、主応力方向を測定するための、一実施形態による応力評価装置の他の構成を示す図である。
図2に示すように、応力評価装置2は、応力評価装置1において、λ/4波長板14a,14bが設けられていない構成を有する。また、応力評価装置2は、応力評価装置1における第1偏光板13aおよび第2偏光板13bに対応して、第1偏光板21aおよび第2偏光板21bがそれぞれ設けられている。第1偏光板21aおよび第2偏光板21bはそれぞれ、互いに同径の円盤状の偏光板から構成されているとともに、円盤状の外周部分に互いに同じピッチの外歯が形成された円盤ギヤ形状を有する。
応力評価装置2において、第1偏光板21aと第2偏光板21bとの間には、偏光板同期回転機構22が設けられている。偏光板同期回転機構22は、旋回ヘッド22a、ギヤボックス22b、および偏光板同期回転ギヤ22cを有して構成される。旋回ヘッド22aは、従来公知のギヤボックス22bを介して偏光板同期回転ギヤ22cに接続されている。旋回ヘッド22aを回転軸Oの回りで回転させることにより、ギヤボックス22b内の複数のギヤを介して、偏光板同期回転ギヤ22cが回転される。偏光板同期回転ギヤ22cの外周部分には、第1偏光板21aおよび第2偏光板21bの外周部分の外歯と噛み合う外歯が形成されている。偏光板同期回転ギヤ22cの外歯と、第1偏光板21aおよび第2偏光板21bの外歯とが噛み合うことにより、偏光板同期回転ギヤ22cの回転に伴って、第1偏光板21aおよび第2偏光板21bが同じ回転方向に回転する。ここで、第1偏光板21aの外径と第2偏光板21bの外径とは互いに同径である。そのため、旋回ヘッド22aを回転させて偏光板同期回転ギヤ22cを回転させると、第1偏光板21aと第2偏光板21bとは、偏光方向が所定の偏光方向、ここでは90°の角度だけ異なった状態を維持しながら、同じ回転方向に回転する。その他の構成は、応力評価装置1と同様である。
(主応力方向の測定方法)
次に、上述した応力評価装置2を用いた主応力方向の測定方法について説明する。すなわち、図2に示すように、テラヘルツ波発信器11から出射したテラヘルツ波L1は、第1偏光板21aを通過して直線偏光に偏光された後、鋼構造物15の防食層15bに入射される。防食層15bに入射したテラヘルツ波L1pは、鋼材15aの鋼面15asによって完全反射されて防食層15bを透過して出射される。この状態で、偏光板同期回転ギヤ22cを回転させて、第1偏光板21aと第2偏光板21bとを、互いの偏光方向が90°異なった状態を維持しながら回転させる。
第1偏光板21aと第2偏光板21bとの回転に伴って、第1偏光板21aの偏光方向、すなわち直線偏光のテラヘルツ波L1pの偏光方向と防食層15bの主応力方向とが一致する状態が生じる。この状態においてテラヘルツ波L1pは、直線偏光が変化することなく防食層15bを透過する。テラヘルツ波L1pはさらに、鋼面15asで反射されて防食層15bを透過する。防食層15bを透過したテラヘルツ波L2は、第1偏光板21aの偏光方向に沿った直線偏光である。そのため、テラヘルツ波L2は、第1偏光板21aの偏光方向に対して90°異なる偏光方向の第2偏光板21bをほとんど透過せず、第2偏光板21bを透過したテラヘルツ波L2pの強度は極小になる。この場合、第2偏光板21bを透過したテラヘルツ波L2pを観測すると、防食層15bにおいてテラヘルツ波L2pの強度が極小となる等傾線と言われる暗線が発現する。
上述したように、第1偏光板21aの偏光方向と防食層15bの主応力方向とが一致した場合、テラヘルツ波L2は第2偏光板21bをほとんど透過しない。すなわち、図2に示すX軸およびY軸と第2偏光板21bとにおいて、第2偏光板21bを透過したテラヘルツ波L2pが極小になった場合に、第2偏光板21bの偏光方向、および第2偏光板21bの偏光方向に対して直交する方向が主応力方向になる。これにより、防食層15bの主応力方向を導出することができる。
一方、第1偏光板21aの偏光方向と主応力方向とが不一致の状態の場合、防食層15bに入射したテラヘルツ波L1pは、防食層15bで生じる複屈折によって位相差が生じる。そのため、防食層15bから出射したテラヘルツ波L2は楕円偏光または円偏光になっている。楕円偏光のテラヘルツ波L2は第2偏光板21bを透過して直線偏光に偏光される。直線偏光のテラヘルツ波L2pは、テラヘルツ波検出器12によって検出される。この状態におけるテラヘルツ波L2pの強度は、上述した第1偏光板21aの偏光方向と防食層15bの主応力方向とが一致した場合のテラヘルツ波L2pの強度に比して大きくなる。
以上の状態の変化に基づいて、テラヘルツ波検出器12によって検出されるテラヘルツ波L2pの強度は、第1偏光板21aおよび第2偏光板21bが90°回転する間に、極大と極小が交互に発現する。これにより、主応力方向が導出されると、従来公知の方法によって、鋼材15aの形状や外力の作用条件などに基づいて、最大主応力成分σ1の主応力方向を導出することができる。
さらに、上述した走査機構(図示せず)によって、少なくともテラヘルツ波発信器11、テラヘルツ波検出器12、第1偏光板21a、および第2偏光板21bを一体とした第2テラヘルツ波光学系を、鋼構造物15の表面に沿って所定範囲を走査させる。これにより、テラヘルツ波検出器12によって、鋼構造物15の所定範囲において防食層15bの主応力方向に沿ったテラヘルツ波L2pの強度分布が検出される。テラヘルツ波検出器12によって検出されたテラヘルツ波L2pの強度分布は、防食層15bにおけるテラヘルツ波の等傾線として得られる。防食層15bは鋼材15aの鋼面15asに密着しているので、得られた光弾性縞の等傾線は、鋼材15aにおける等傾線になる。すなわち、防食層15bは、鋼材15aのひずみの主応力方向の検出に関するひずみセンサとして機能する。
以上の方法に基づいて、主応力差(σ1−σ2)および主応力方向が導出される。導出された主応力差(σ1−σ2)と主応力方向とに基づいて、従来公知のせん断応力差積分法によって、主応力成分σ1,σ2を互いに分離した形で導出可能である。これらの導出は、解析制御部10の解析処理部10dなどにより実行される。防食層15bにおける主応力成分σ1,σ2や主応力方向など光弾性パラメータが判明すると、防食層15bの弾性定数などに基づいて、防食層15bのひずみを導出できる。上述したように、通常、防食層15bと下層の構造物を構成する鋼材15aとは密着状態であり、防食層15bのひずみは鋼材15aのひずみに準じている。したがって、防食層15bのひずみとして得られた鋼材15aのひずみと鋼材15aの弾性係数とに基づいて、鋼材15aに生じる応力を導出できる。
すなわち、応力評価装置1,2によって、テラヘルツ波を用いてひずみセンサとなる防食層15bのひずみの状態を検出することによって、鋼材15aのひずみの状態を測定可能となる。これにより、主応力成分σ1,σ2および主応力方向が導出されると、鋼構造物15の応力状態、すなわち測定対象物である鋼材15aの応力状態を測定できる。換言すると、テラヘルツ波光弾性法によって防食層15bの応力状態を導出することによって、最終的に下層の鋼材15aの応力状態を導出して健全性を詳細に評価可能になる。
(変形例)
次に、上述した一実施形態による主応力差の測定方法および主応力方向の測定方法の変形例について説明する。すなわち、図2に示す応力評価装置2において、第1偏光板21aおよび第2偏光板21bは、偏光方向が90°異なった状態を維持しながら同じ回転方向に回転する。この場合、任意の偏光方向の位置での検出強度と,その位置から第1偏光板21aおよび第2偏光板21bを偏光方向が90°異なった状態を維持しながら45°回転させた位置でのテラヘルツ波L2pの強度を検出し、検出された2つのテラヘルツ波L2pの強度を加算することによって、主応力差(σ1−σ2)を求めることも可能である。
より詳細には、任意の偏光方向で検出される光の強度I1は、以下の(2)式に示すように、複屈折により生じる位相差δと主応力方向と偏光方向とのなす角度φに依存する。
I1=A2sin22φ・sin2(δ/2) …(2)
なお、Aは入射光の振幅である。
さらに、光の強度I1が検出された位置から、第1偏光板21aおよび第2偏光板21bを、互いの偏光方向が90°異なった状態を維持しながら、45°回転させた位置において検出される光の強度I2は、(3)式に示すようになる。
I2=A2sin22(φ+π/4)・sin2(δ/2) …(3)
以上のように検出された光の強度I1,I2を合成すると、合成された光の強度Iは、以下の(4)式に示すように、主応力方向と偏光方向とのなす角度φに依存しない。
I=I1+I2=A2sin2(δ/2) …(4)
これは、光弾性法において、円偏光を用いた場合と同じ結果が得られることを意味する。これにより、応力評価装置2によって、防食層15bの主応力方向と主応力差(σ1−σ2)とをともに導出可能になる。その他の構成は、上述した一実施形態と同様である。
以上説明した一実施形態による応力評価方法によれば、テラヘルツ波を鋼構造物15に照射し、鋼材15aの鋼面15asで反射したテラヘルツ波の強度に基づいて、防食層15bの主応力差(σ1−σ2)と主応力方向とをともに導出することができる。したがって、防食層15bを鋼材15aに対するひずみ検出手段として用いることができ、簡易な構成によって、鋼材15aの応力状態を測定して評価することが可能となる。
以上、本発明の一実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述した一実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の一実施形態において挙げた応力評価装置1,2の構成はあくまでも例に過ぎず、テラヘルツ波を用いて構造物の表面に密着した非金属層の主応力差および主応力方向を測定可能な構成であれば、必要に応じてこれと異なる構成の装置を用いてもよい。また、本発明は、上述した実施形態による本発明の開示の一部をなす記述および図面により限定されない。
例えば、上述した一実施形態においては、鋼構造物15に対してテラヘルツ波をスポット的に照射して、鋼材15aの鋼面15asによってスポット的に反射させているが、必ずしもスポット的に照射および反射に限定されない。例えば、テラヘルツ波発信器11の代わりに、テラヘルツ波を面状に出射可能なテラヘルツ波光源を用いるとともに、テラヘルツ波検出器12の代わりに、テラヘルツ波L2pを面状の分布として検出可能なテラヘルツ波検出アレイなどを用いることも可能である。この構成によれば、測定対象物としての鋼構造物15における鋼材15aの応力分布、すなわち主応力差(σ1−σ2)と主応力方向とを導出して、評価することが可能になる。
例えば、上述した一実施形態においては、応力評価装置2において、第1偏光板21aと第2偏光板21bとを互いの偏光方向が90°異なった状態を維持しながら回転させるための機構として、偏光板同期回転機構22を用いているが、必ずしもこの機構に限定されるものではない。第1偏光板21aと第2偏光板21bとを互いの偏光方向が90°異なった状態を維持しながら回転させることが可能であれば、従来公知の種々の回転機構を採用することが可能である。
例えば、上述した一実施形態においては、応力評価装置1,2において、テラヘルツ波を鋼構造物15に向けて出射するための光学系と、鋼面15asで反射されたテラヘルツ波を検出するための光学系とを光軸が異なる非同軸とした構成にしているが、必ずしも非同軸に限定されない。具体的には、ハーフミラーなどを用いることによって、テラヘルツ波を出射する光学系と反射されたテラヘルツ波を検出する光学系とを、光軸が重なる同軸とした構成にすることも可能である。