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JP7107327B2 - プレス成形品の製造方法およびプレス成形品 - Google Patents
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JP7107327B2 - プレス成形品の製造方法およびプレス成形品 - Google Patents

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Description

本発明は、プレス成形品の製造方法およびその方法により得られるプレス成形品に関し、特に高強度鋼板を用いたプレス成形品の遅れ破壊を効果的に防止しようとするものである。より詳細には、引張り強度が1180MPa以上の高強度鋼板を用いた自動車用の強度部材に適用して好適なものであって、適切に遅れ破壊を抑止しようとするものである。
従来、自動車用鋼板としては、板厚精度や平担度に関する要求から、冷延鋼板や冷延鋼板に亜鉛めっきを施した溶融亜鉛めっき鋼板(GI)、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)、電気亜鉛めっき鋼板(EG)などが用いられてきたが、近年、自動車のCO2排出量の低減および安全性確保の観点から、自動車用鋼板の高強度化が図られている。
しかしながら、鋼材の強度の増加に伴い、遅れ破壊が生じやすくなることが知られており、特に引張り強度が1180MPa以上の高強度鋼ではこの傾向が顕著である。
なお、遅れ破壊とは、高強度鋼材が静的な負荷応力(引張り強さ以下の負荷応力)を受けた状態で、ある時間が経過したとき、外見上はほとんど塑性変形を伴うことなく、突然脆性的な破壊が生じる現象である。
この遅れ破壊は、鋼板の場合についていえば、プレス加工により所定の形状に成形したときの残留引張り応力と、応力集中部における鋼の水素脆性により生じるものであることが知られている。特に、プレス加工前のブランキングやトリミング工程におけるせん断端面等が最も遅れ破壊の起点になりやすい。この水素脆性の原因となる水素は、ほとんどの場合、外部環境から鋼中に侵入、拡散した水素であると考えられており、代表的には、鋼板の腐食の際に発生した水素が鋼中に侵入、拡散したものである。
高強度鋼板におけるこのような遅れ破壊を防止するために、例えば、特許文献1では、鋼板の組織や成分を調整することにより、遅れ破壊感受性を弱める検討がなされている。
また、特許文献2では、遅れ破壊を防止する高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板に関する検討がなされている。
さらに、特許文献3では、冷延鋼板にNiまたはNi基合金めっきを施すことにより、鋼板内部への水素侵入量を抑制することで遅れ破壊を抑制する技術が開示されている。
一方、非特許文献1では、自動車用部材ではないが、S45Cにショットピーニングを施すことで、定荷重試験における遅れ破壊を抑制する技術が開示されている。
その他、特許文献4、5では、遠心式のショットブラスト、圧縮空気式のサンドブラストにより、引張り強度が1180MPa以上の鋼板のせん断端面または全体にショットピーニングすることで、耐遅れ破壊特性を改善する技術を開示している。
特開2004-231992号公報 特開平6-145893号公報 特開平6-346229号公報 特開2017-125229号公報 特開2017-125228号公報
材料,Vol.41,No.465,pp933-938(1992) 渡邉吉弘、長谷川典彦、井上道夫
しかし、特許文献1では、外部環境から鋼板内部に侵入する水素量は変化しないため、遅れ破壊の発生を遅らせることは可能であるが、遅れ破壊自体を防止することはできない。
また、特許文献2では、めっき中のFe濃度は十数%程度であり、耐食性は得られるものの、優れた耐遅れ破壊特性は期待できない。
さらに、特許文献3では、成形品一般面部を起点とする遅れ破壊を抑制する効果を有するが、せん断端面に起因する遅れ破壊を抑止するためには十分ではない。
加えて、非特許文献1ならびに、特許文献4、5では、防錆油またはプレス油が付着している成形品には、油によってショット材が固まってしまうため、適用することができない。また、遠心式のショットブラストでは、全体にショットピーニングすることは可能だが、せん断端面や引張り応力集中部のみに局部的にショットピーニングすることはできない。圧縮空気式のサンドブラストでは粒子がノズルから放射状に噴射するため、せん断端面や引張り応力集中部のみにショットピーニングしようとしても、非端面部や非応力集中部にも粒子が衝突してしまう。このような非目的箇所への粒子の衝突は、自動車用鋼板として重要視される外観品質の低下や、亜鉛系めっき鋼板のめっき層の損傷などを招く。
本発明は、上記した従来技術の課題を解決するもので、高強度鋼板を用いたプレス成形品で遅れ破壊の発生が懸念される、部材のせん断端面や応力集中部等の目的箇所に効率的にショットピーニング処理を行うことによって、遅れ破壊の発生を効果的に抑止することができる技術およびその成果物であるプレス成形品を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、油が付着した自動車用高強度部材のせん断端面やそれ以外の一般面の応力集中部を起点とする遅れ破壊を防止する手段について、鋭意検討および研究を重ねた。
その結果、プレス成形品のせん断端面および/または一般面の応力集中部に、適正な粒子径および硬度の微粒子を用いたウェットブラスト処理を施すことにより、鋼板の遅れ破壊を効果的に防止できる、との知見を得た。
本発明は、上記の知見に基づき完成されたもので、その要旨構成は次のとおりである。
1.引張り強度が1180MPa以上の鋼板をプレス加工する工程と、該鋼板のせん断端面部または応力集中部の少なくとも一部に、微粒子を用いるウェットブラスト法によりショットピーニング処理する工程とを含むことを特徴とするプレス成形品の製造方法。
2.前記鋼板が、せん断加工により採取したものである前記1に記載のプレス成形品の製造方法。
3.前記プレス加工後の部材に、せん断によりトリムおよび/または穴あけ加工を行った後に、加工後の成形部材のせん断端面部または引張り応力集中部の少なくとも一部に、微粒子を用いるウェットブラスト法によりショットピーニング処理することを特徴とする前記1または2に記載のプレス成形品の製造方法。
4.前記微粒子の材質が、ステンレス鋼、アルミナ、ジルコニア、樹脂およびガラスのうちから選んだ1種または2種以上であることを特徴とする前記1~3のいずれかに記載のプレス成形品の製造方法。
5.前記微粒子の形状が、多角形および/または球形であることを特徴とする前記1~4のいずれかに記載のプレス成形品の製造方法。
6.前記微粒子の粒子径が6~250μmで、かつ硬度が300HV以上であることを特徴とする前記1~5のいずれかに記載のプレス成形品の製造方法。
7.前記ウェットブラスト法によるショットピーニング処理を、プレス加工後の成形部品に適用する場合は、エネルギー密度が7.0×10-5~2.7×10-2J/mm2を満足する条件で実施し、プレス加工前のトリムおよび/または穴あけ加工された鋼板に適用する場合は、エネルギー密度が2.5×10-4~2.7×10-2J/mm2を満足する条件で実施することを特徴とする前記1~6のいずれかに記載のプレス成形品の製造方法。
8.前記ウェットブラスト法によるショットピーニング処理を、エネルギー密度が1.5×10-3~2.7×10-2J/mm2を満足する条件で実施することを特徴とする前記1~7のいずれかに記載のプレス成形品の製造方法。
9.前記微粒子のウェットブラスト法によるショットピーニング処理により、処理前に観察されたミクロ亀裂が50%以上消失することを特徴とする前記1~8のいずれかに記載のプレス成形品の製造方法。
10.前記鋼板に付着した油分を脱脂せずに、微粒子をウェットブラスト法によりショットピーニング処理することを特徴とする前記1~9のいずれかに記載のプレス成形品の製造方法。
11.前記ウェットブラスト法によるショットピーニング処理を、処理時間が0.15s以下を満足する条件で実施することを特徴とする前記1~10のいずれかに記載のプレス成形品の製造方法。
12.引張り強度が1180MPa以上の強度を有し、せん断端面部または応力集中部の少なくとも一部における残留応力が875MPa未満であり、表面および端面にウェットブラスト法によるショットピーニング処理用の微粒子が付着していることを特徴とするプレス成形品。
13.前記微粒子が、アルミナまたはジルコニアであって、該微粒子がアルミナの場合は12.0~63.9mg/m2の範囲で、該微粒子がジルコニアの場合は0.38~4.18mg/m2の範囲でそれぞれ付着していることを特徴とする前記12に記載のプレス成形品。
本発明を、高強度鋼板を用いたプレス成形品、特に好適には自動車用高強度部材に適用することにより得られるプレス成形品は、該部材のせん断端面部やそれ以外の一般面の応力集中部を起点とする遅れ破壊の発生を効果的に抑止することができる。
また、本発明は、プレス成形品に防錆油やプレス油などの油や汚れが付着していても、好適に適用することができる。
さらに、本発明は、目的の箇所に効率的にショットピーニング処理を施すことができるため、自動車部材として必要な外観品質等を阻害することがない。
幅広ガンを用いたショットピーニング処理概要の模式図である。 丸型ガンを用いたショットピーニング処理概要の模式図である。 実施例において行った複合サイクル腐食試験の工程を示す説明図である。 実施例で用いた遅れ破壊評価用試験片を模式的に示す図である。
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明の高強度部材(プレス成形品)の基質となる鋼板(素材鋼板)は、引張り強度が1180MPa以上の鋼板であり、1320MPa以上であることがより好ましい。
引張り強度が低い鋼板は、本質的に遅れ破壊が生じにくい。本発明の効果は、引張り強度が低い鋼板でも発現するが、引張り強度が1180MPa以上の鋼板で顕著に発現し、引張強度が1320MPa以上の鋼板でより顕著に発現する。
本発明において、鋼板の化学組成および鋼組織は、特に限定されない。ただし、冷延鋼板またはその表面に亜鉛系めっきを施した亜鉛系めっき鋼板に限定される。
これらのうち、特に自動車分野などにおいて多く用いられる引張り強度が1180MPa以上の高強度冷延鋼板が好ましく、引張り強度が1320MPa以上の高強度冷延鋼板がさらに好ましい。また、かかる鋼板は、せん断加工により採取したものが適用できる。
本発明において好適に用いられる高強度冷延鋼板は、所望の引張り強度を有するものであれば、いかなる組成および組織を有するものでもよいが、以下の処理(改質)を施すことは一層有利である。
冷延鋼板の機械特性などの諸特性を向上させるために、例えば、
(1)C、Nなどの侵入型固溶元素やSi、Mn、P、Crなどの置換型固溶元素の添加による固溶体強化、Ti、Nb、V、Alなどの炭・窒化物による析出強化、W、Zr、Hf、Co、B、Cu、希土類元素などの強化元素の添加による強化、といった化学組成的改質、
(2)再結晶の起こらない温度で回復焼きなましすることによる強化、さらには完全に再結晶させずに未再結晶領域を残す部分再結晶強化、ベイナイトやマルテンサイト単相化あるいはフェライトとこれら変態組織の複合組織化による変態組織の強化、といった組織的改質、
(3)フェライト粒径をdとしたときのHall-Petchの式:σ=σ0+kd-1/2(式中σ:応力、σ0,k:材料定数)で表される細粒化強化、圧延などによる加工強化、といった構造的改質
をそれぞれ単独でまたは複数を組み合わせて行うことができる。
このような高強度冷延鋼板の組成として、例えば、質量%で、C:0.1~0.4%、Si:0~3.0%、Mn:1~10%、P:0~0.05%、S:0~0.005%、残部がFeおよび不可避的不純物であるもの、これにCuや、Ti、V、Al、Cr、Niなどの1種または2種以上を添加したもの、などを例示することができる。
上記の引張強度を有する高強度冷延鋼板として商業的に入手可能なものとしては、例えば、JFE-CA1180、JFE-CA1370、JFE-CA1470、JFE-CA1180SF、JFE-CA1180Y1、JFE-CA1180Y2(以上、JFEスチール株式会社製)などが例示できる。
本発明において基質となる鋼板(素材鋼板)の厚さは、特に限定されるものではないが、0.8~2.5mm程度が好ましく、1.2~2.0mm程度がより好ましい。
また、このような冷延鋼板に亜鉛系めっきを施したものでも良い。亜鉛めっきを施す方法は特に限定されず、溶融亜鉛めっき、電気亜鉛めっき等の一般的な方法を採用可能である。ここに、電気亜鉛めっき、溶融亜鉛めっきの処理条件は、特に限定されず、適宜好ましい条件を採用すればよい。なお、溶融亜鉛めっき処理を行う場合、めっき浴中にAlが添加されていることがドロス対策の点から好ましい。この場合、Al以外のめっき浴中への添加元素成分は特に限定されない。すなわち、Alの他に、Pb、Sb、Si、Sn、Mg、Mn、Ni、Ti、Li、Cuなどが含有または添加されていても、本発明の効果が損なわれるものではない。
さらに、溶融亜鉛めっきを施した後に、合金化処理を施しても良い。
本発明においては、合金化処理の条件は特に限定されず、適宜好ましい条件を採用すればよい。鋼板としては、亜鉛系めっき処理を施したもの、亜鉛系めっき処理の後合金化処理を施したもの、いずれも用いることができる。
またさらに、本発明の高強度部材における加工方法や形状については特に限定されない。一般的に用いられる成形工程で成形され、トリムされたものを用いればよい。
本発明では、トリムされた鋼板のせん断端面部にウェットブラスト法によりショットピーニング処理(以下、単にウェットブラスト処理ともいう)を施すことで、遅れ破壊を抑止することが可能となる。プレス加工前の処理でも、遅れ破壊を抑制することが可能であるが、特にプレス加工され、部材となった後に、せん断端面およびその他一般面の応力集中部にウェットブラスト処理を施すことで、顕著に遅れ破壊を抑止することが可能となる。
そのメカニズムは、表層に引張りの残留応力を有する成形品に、粒子を衝突させることで、圧縮の残留応力を生じさせることができるため、引張り残留応力が緩和することによるものと考えられる。遅れ破壊は、環境から侵入する水素に引張り応力が加わることで生じるため、圧縮残留応力の場合は遅れ破壊が生じることは無い。むしろ、圧縮残留応力により残留引張り応力を緩和することで、遅れ破壊が生じなくなる。
本発明に従うウェットブラスト処理は、本発明に規定する項目以外は常法に従うことができ、例えば装置についていえば、マコー(株)製のウェットブラスト装置を用いて行うことができる。
このウェットブラスト処理用の微粒子(本発明においてブラスト粒子ともいう)の材質としては、ステンレス鋼、アルミナ、ジルコニア、樹脂およびガラスのうちから選んだ1種または2種以上であることが望ましい。
また、微粒子の形状は、一般的にブラスト法に用いられる多角形粒子や球形粒子を用いることができる。高強度部材が使用される環境や、導入したい圧縮応力に従い粒子種を適宜選定することができる。
ここで、多角形粒子とは一般的にグリッドとも呼ばれる、鋭角な角を有する粒子のことである。
微粒子のサイズは、6~250μmを用いることが望ましい。というのは、微粒子の粒子径が6μmに満たないと、微粒子の衝突する際のエネルギーが小さいため、圧縮応力が導入されにくくまたは引張り応力が緩和されにくい。一方、粒子径が250μmを超えると、処理にムラが生じ、均一に圧縮応力を導入または引張り応力を緩和することが難しくなるからである。
また、使用する微粒子としては、比較的硬い粒子のほうが、残留応力を導入するのに有効であり、同時に耐摩耗性に優れるため、循環して使用する際の粒子寿命の観点で有効である。ここに、かかる微粒子の好適硬さは、残留応力の導入および粒子寿命の観点から300HV以上が好適である。
本発明において、ウェットブラスト法によるショットピーニング処理の条件は、プレス加工後の成形部品に適用する場合は、エネルギー密度が7.0×10-5~2.7×10-2J/mm2の範囲とするのが好適である。エネルギー密度が7.0×10-5J/mm2に満たないと、鋼板の表面に、防錆油や洗浄油、プレス油などが付着している場合、十分な圧縮残留応力を付与することができない。一方、エネルギー密度が2.7×10-2J/mm2を超えると鋼板や装置の摩耗を招く可能性がある。
プレス加工前のトリムおよび/または穴あけ加工された鋼板に本発明を適用する場合は、エネルギー密度を2.5×10-4~2.7×10-2J/mm2の範囲とするのが好適である。エネルギー密度が2.5×10-4J/mm2に満たないと、鋼板の表面に、防錆油や洗浄油、プレス油などが付着している場合、十分な圧縮残留応力を付与することができない可能性がある。一方、エネルギー密度が2.7×10-2J/mm2を超えると鋼板や装置の摩耗を招く可能性がある。
なお、プレス加工後の成形部品に適用する場合、プレス加工前のトリムおよび/または穴あけ加工された鋼板に適用する場合のいずれにおいても、ウェットブラスト法によるショットピーニング処理の条件は、エネルギー密度が1.5×10-3~2.7×10-2J/mm2の範囲とすることがより好ましい。
エネルギー密度が1.5×10-3J/mm2以上になると、鋼板の表面に防錆油や洗浄油、プレス油などが付着している場合でも、より安定して十分なショットピーニング力を与えることができるようになる。一方2.7×10-2J/mm2を超えると鋼板・装置の摩耗を招く可能性がある。
ブラスト粒子の運動エネルギーK(J)は次式で算出することができる。
K=mv2/2
ここで、mは粒子の質量(kg)、vは粒子の速度(m/s)である。
鋼板が受ける単位面積当たりのエネルギー:エネルギー密度E(J/mm2)は、次式によって算出することができる。
E=m'v'2/2A
ここで、m'は鋼板に衝突する粒子の合計質量(kg)、v'は衝突時の粒子の平均速度(m/s)、Aは粒子が照射される面積(mm2)である。しかしながら、v'とAは厳密な測定が困難であることから、本発明では、v'を粒子の初速(m/s):v”、Aを粒子の噴射ノズル面積(mm2):A'と同じと仮定した。
また、Q:処理液の流量(m3/s)、C:粒子濃度(vol%)、ρ:粒子密度(g/cm3)、t:処理時間(s)とすると、m' (kg)は次式で示すことができる。
m'=Q×C×ρ×t×10
さらに、A':ノズル面積(mm2)とすると、v”は以下の式で示すことができる。
v”=106×Q/A'
ここで、v'= v”、A=A'と仮定するので、エネルギー密度Eは以下の式で算出できる。
E=Q3×C×ρ×t×1013/2A3
しかしながら、厳密には、鋼板との衝突時は空気抵抗等によって粒子速度がやや低下し、照射される面積もノズル面積と必ずしも一致しないため、衝突エネルギーは計算値よりも低いと考えられるが、上記式で概算することが可能である。
ウェットブラスト処理時の圧縮エア圧は0.05~1.0MPaが望ましい。圧縮エア圧の増加によって単位面積当たりの流量が増加するため、0.05MPa未満では、微粒子が有するエネルギーが十分でなく、鋼板に対し十分に圧縮応力を導入できないまたは引張り応力を緩和できないことがある。一方、1.0MPa超では、装置が摩耗し易くなる。また、鋼板側の摩耗量も増加してしまう。
ウェットブラスト処理における処理液の微粒子の粒子濃度は1~30vol%が望ましい。1vol%未満であると、十分なエネルギーを得ることができず、30vol%を超えると、ノズル詰まり等の原因となる。
また、処理液の微粒子の粒子密度は、1.0~15.0g/cm3とするのが好適である。1.0g/cm3に満たないと十分なショットピーニング処理をするのに必要な時間が大きくなり過ぎる。一方15.0g/cm3を超えると水溶液中に微粒子をうまく分散させることが難しくなる。
ウェットブラスト処理時の投射距離は3~500mmが望ましい。3mm未満であると、鋼板とノズルが接触してしまう可能性がある。一方、500mm超であると、粒子初速から空気抵抗等による粒子速度の低下が著しく、十分に圧縮応力を導入できないまたは引張り応力を緩和できないことがある。また、照射される面積もノズル面積と比較して大きくなり過ぎる。
ウェットブラスト処理の角度は、圧縮残留応力を導入したい表面に対して30~90°の範囲であることが望ましい。90°が最も効率的に残留圧縮応力を導入または引張り応力を緩和できるが、何らかの理由で傾きを持っても構わない。ただし、30°を下回ると、圧縮残留応力の導入効率が低下する。
ウェットブラスト処理時間は0.15s以下の範囲であることが望ましい。0.15s超であると、ブラスト粒子が鋼板端面または表面に残渣として過剰に付着するため、自動車用鋼板の塗装前処理である化成処理性が劣化し、その後の耐食性等に悪影響を及ぼす可能性がある。また、ウェットブラスト処理時間は0.01s以上の範囲であることがより望ましい。0.01s未満であると十分なピーニングを鋼板のせん断端面部または応力集中部に導入することができず、安定的で十分な耐遅れ破壊特性を得られない可能性がある。
本発明で得られるプレス成形品は、本発明の方法により得ることができるが、表面および端面にウェットブラスト法によるショットピーニング処理時の微粒子(ブラスト粒子)が付着していることが重要である。適正な付着量によって、安定的で十分な耐遅れ破壊特性が得られるからである。
なお、ブラスト粒子がアルミナ、ジルコニアまたはステンレス鋼である場合には、引張り強度が1180MPa以上の強度を有し、せん断端面部または応力集中部の少なくとも一部における残留応力が875MPa未満であり、表面および端面に、ブラスト粒子であるアルミナ、ジルコニアまたはステンレス鋼等が付着しているプレス成形品となる。
そして、ブラスト粒子がアルミナまたはジルコニアである場合には、ブラスト粒子組成が既知であるため、処理後のサンプルを蛍光X線分析法(XRF)でAlとZrの蛍光X線強度を測定することで、鋼板端面または表面に残渣として付着した付着量を算出することができる。ブラスト粒子としてアルミナを用いる場合、鋼板端面および表面に合計でアルミナが12.0~63.9mg/m2の範囲で付着していることがより望ましく、ブラスト粒子としてジルコニアを用いる場合は鋼板端面および表面に合計でジルコニアが0.38~4.18mg/m2の範囲で付着していることがより望ましい。なお、ブラスト粒子としてアルミナとジルコニアを併せて用いる場合は、それぞれの微粒子が上記それぞれの範囲で付着していれば良い。
各々の付着量範囲を超えると自動車用鋼板の塗装前処理である化成処理性が劣化し、その後の耐食性等に悪影響を及ぼす可能性がある。また、各々の付着量範囲未満であると、十分なピーニングを鋼板のせん断端面部または応力集中部に導入することができず、安定的で十分な耐遅れ破壊特性を得られない可能性がある。
ノズル形状としては、一回の処理で広い面積を処理可能な幅広ガンや、円形のノズルなどが使用できる。ノズル形状や、処理速度、処理回数は、高強度部材が使用される環境や、高強度部材に生じている残留応力量に従って、適宜決定すれば良い。
特に、部材のせん断端面や応力集中部等の目的箇所のみに効率的にショットピーニング処理を行うには、使用するノズルとしては円形状のものを用いるのが好適である。
また、処理に使用する溶媒は液体であれば良く、ウェットブラスト処理に通常用いられるものを用いることができる。主には水を用いるが、エタノールなどの有機系溶媒を使用することもできる。
上記したようにして、適切な微粒子を用いて本発明に従うショットピーニング処理を施すことにより、処理前に観察されたミクロ亀裂を50%以上消失させることができる。
この理由については、まだ明確に解明されたわけではないが、発明者らは次のように推察している。
せん断端面にウェットブラスト処理を行うことにより、端面が削られる効果と微粒子との衝突により亀裂周囲が亀裂に押し込まれる効果、の二つの効果により、亀裂が消失していると考えられる。特に多角形粒子を用いるとより前者の効果が大きくなり、球形粒子を用いると後者の影響が大きくなる。
ウェットブラスト処理は、手動で行っても構わないが、ロボットアーム等を用いた自動で行うことが有利である。ロボットアームを用いた自動機を用いることで、より効率的に、ムラやばらつきを抑えた工業的な生産が可能となる。
また、ウェットブラスト処理は全面に施す必要は無く、遅れ破壊による割れが懸念される部位のみ処理すればよい。たとえば、CAE解析などを使うことで、残留引張り応力が集中している箇所が予測することができ、その部分を効率的に処理することで、遅れ破壊の発生を抑止することができる。
また、ウェットブラスト処理は、成形品に一般的に用いられる油(防錆油、洗浄油およびプレス油のうち少なくとも1つを含む油分)や汚れが付着していてもその効果を失うことなく、処理することができる。また、水を媒体として微粒子をデリバリーしているため、油分が水溶液中に含有していても、その効果を失わない点で、サンドブラストやショットブラストと比較すると利点がある。さらに、最適なノズルを選定することで目的の箇所のみを処理することが可能となり、自動車の外観品質や、めっき層への損傷を回避することができる。
以下、実施例により本発明を説明する。本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
供試材として、表1に示す成分組成および機械特性を有する板厚1.6mmの冷延鋼板(引張り強度1499MPa)を下地とするめっき付着量55g/m2の合金化溶融亜鉛めっき鋼板を用いた。この供試材を30×100サイズにレーキ角0.8°、クリアランス5%でせん断し、曲げRが6mmになるように荷重15tで90°V曲げした。この際、破断面が外側になるように曲げ方向を統一した。曲げ試験後の供試材に対し、以下の2種の方法でウェットブラストによりショットピーニング処理(以下、単にピーニング処理という)を施した。
すなわち、(A)幅広ガンを用いた自動処理(ウエットブラスト処理No.1~4)および(B)
9.5mmφの丸型ガンによる手動処理(ウエットブラスト処理No.5、6)によりピーニング処理を施した。
詳細条件を表2に示す。
幅広ガンの場合は、図1に示すように、曲げサンプルを重ねて並べ、複数のサンプルの両端面を同時に処理した。一方、丸型ガンの場合は、図2に示すように、サンプルを一枚ずつ、個別に両端面を処理した。微粒子の材質は、アルミナ、ステンレス鋼(SUS)、ジルコニアの多角形および球状の計6種とした。
処理後の供試材を水洗・乾燥した。
以上のようにして得られた試験片について、以下の評価を行った。
(1)耐遅れ破壊性の評価
所定の応力が曲げ先端に生じるようにボルトで締め込み、温度10℃、塩分付着量10000mg/m2の条件で40日間にわたる乾湿繰り返し工程(図3参照、相対湿度30%と90%を各2時間繰り返す、1サイクル8時間の条件、塩水付与は2回/週)における割れ発生の有無により耐遅れ破壊特性を評価した。評価はサイクル数から、以下の基準により評価し、40日間割れ無しを良好とした。
○:40日間割れ無し
×:割れあり
なお、図4に、評価に使用した遅れ破壊評価用試験片を模式的に示す。
(2)残留応力の評価
ボルトを用いた締込により曲げ先端に応力を負荷した後、株式会社リガク製PSPC付微小応力測定装置(AutoMATE)を用いて残留応力測定を実施した。Cr-Kα線を使用したX線回折法(並傾法)により、管電圧40kV、管電流40mA、コリメータ0.15mmφの条件で、試料面法線とα―Fe(211)面法線とのなす角ψを測定し、応力定数を-318.0MPaとして、曲げ加工部のせん断端面における残留応力を測定した。正数を引張り応力、負数を圧縮応力として結果を表記した。なお、本実施例では、残留応力につき、曲げの度合いに比べ、ブラスト条件による影響の方が遥かに支配的であるため、代表(数値記載の実施例を示す(実施例2および3も同様))だけ評価した。
(3)ミクロ亀裂のカウント
曲げ加工後にウェットブラストによりピーニング処理を施した供試材について、曲げ先端部を断面方向からSEMで観察した。100倍で数箇所観察し、表面から板厚中央方向へ進展した5~1000μmの範囲の大きさの亀裂の数をカウントした。同様に、ウェットブラスト処理後の亀裂もカウントし、亀裂消失率を以下の式から算出した。なお、上記範囲よりも小さい亀裂は、鋼板の破断現象に影響を与えない。一方、上記範囲よりも大きい亀裂は、製品検査で除かれるので、好ましくない。また、本実施例では、亀裂消失率につき、曲げの度合いに比べ、ブラスト条件による影響の方が遥かに支配的であるため、代表(数値記載の実施例(実施例2および3も同様))だけ評価した。
{(初期亀裂数-ウェットブラスト後の亀裂数)/(初期亀裂数)}×100(%)
得られた結果を表3に示す。
Figure 0007107327000001
Figure 0007107327000002
Figure 0007107327000003
表3において、No.1~6の鋼板は、ウェットブラストによるピーニング処理を施していない比較例であるが、790MPa程度の負荷応力であれば、遅れ破壊は発生しないものの、1024MPa以上の負荷応力状態において遅れ破壊が発生していることがわかる。No.7~42の鋼板は、曲げ加工後にウェットブラストによるピーニング処理を施した発明例である。全ての鋼板で割れが発生しておらず、優れた耐遅れ破壊性が得られていることがわかる。
(実施例2)
せん断端面への粒子付着を模擬するために、供試材として、表1に示す成分組成および機械特性を有する板厚1.6mmの冷延鋼板(引張り強度1499MPa)を70×150サイズにせん断し、その表面に幅広ガンを用いた自動処理でウェットブラスト処理を施した。
詳細条件を表4に示す。
微粒子の材質は、異なる粒子サイズを有するアルミナ、ステンレス鋼(SUS)、ジルコニアの球状の計6種とした。
処理後の供試材を水洗・乾燥した。
以上のようにして得られた試験片について、以下の評価を行った。
(1)化成処理性の評価
処理後のサンプルを日本パーカライジング(株)製の脱脂剤「FC-E2001」で脱脂し、水洗した後、同社製の表面調整剤「PL-X」で30秒間表面調整を行い、次いで、同社製の化成処理液「PB-SX35」に浸漬して温度38℃で90秒の化成処理を行い、水洗、乾燥した。
◎:冷延鋼板ままより結晶が緻密であり良好
○:冷延鋼板と同等の結晶サイズでスケ(リン酸塩処理時に生じるリン酸塩結晶の未形成部)無し
△:冷延鋼板ままより劣る
(2)アルミナ粒子とジルコニア粒子の付着量測定
処理後のサンプルを蛍光X線分析法(XRF)でAlとZrの蛍光X線強度を測定した。
アルミナ粒子の付着量は、得られたAlのネット強度を、鋼板に単位面積あたり所定量のAlを蒸着したサンプルをリファレンスとしてAl付着量に換算し、付着したアルミ成分をAl2O3と仮定して、その分子量に換算して付着量とした。
また、ジルコニア粒子の付着量は、得られたZrのネット強度を、鋼板に単位面積あたり所定量のジルコニア形成したサンプルをリファレンスとし、ジルコニア付着量に換算して求めた。
Figure 0007107327000004
表5に示すとおり、本発明例の鋼板は、いずれも化成処理性(リン酸亜鉛処理性)に問題はない。なお、表5には示していないが、微粒子としてステンレス鋼を用いた場合は、ステンレスの成分が、鋼板の表面および端面に適量付着していることを確認している。
Figure 0007107327000005
(実施例3)
表1に示す成分組成および機械特性を有する板厚1.6mmの冷延鋼板(引張り強度1499MPa)を下地とするめっき付着量55g/m2の合金化溶融亜鉛めっき鋼板を用いた。この供試材を30×100サイズにレーキ角0.8°、クリアランス5%でせん断した。せん断した供試材に対し、曲げ加工前にウェットブラストによりピーニング処理を施したものと、曲げ加工後にウェットブラストによりピーニング処理を施したものの2種類を作成した。曲げ加工は、曲げRが6mmになるように荷重15tで90°V曲げした。この際、破断面が外側になるように曲げ方向を統一した。供試材に対し、以下の方法で(A)幅広ガンを用いた自動処理によりによりピーニング処理を施した。詳細条件を表6に示す。
Figure 0007107327000006
微粒子の材質は、粒径の異なる球状のアルミナ、ステンレス鋼(SUS)、ジルコニアの計6種とした。処理後の供試材を水洗・乾燥した後、耐遅れ破壊性の評価、残留応力の評価およびミクロ亀裂のカウントを実施した。得られた結果を表7および表8に示す。
Figure 0007107327000007
Figure 0007107327000008
表7は、曲げ加工後にウェットブラストによりピーニング処理を施した場合の評価結果であるが、どの条件においても、残留応力が緩和され、ミクロ亀裂消失率が50%以上であり、全ての鋼板で割れが発生しておらず、優れた耐遅れ破壊性が得られていることがわかる。
表8は、曲げ加工前にウェットブラストによりピーニング処理を施した場合の評価結果であるが、本発明に従うと、残留応力が875MPa未満まで緩和されており、割れが発生しておらず、優れた耐遅れ破壊性が得られていることがわかる。

Claims (10)

  1. 引張り強度が1180MPa以上の鋼板をプレス加工する工程と、該鋼板のせん断端面部または応力集中部の少なくとも一部に、微粒子を用いるウェットブラスト法によりショットピーニング処理する工程とを含み、前記ウェットブラスト法によるショットピーニング処理を、処理時間が0.15s以下を満足する条件で実施し、前記鋼板が冷延鋼板、または冷延鋼板の表面に亜鉛系めっきを施した亜鉛系めっき鋼板からなることを特徴とするプレス成形品の製造方法。
  2. 前記鋼板が、せん断加工により採取したものである請求項1に記載のプレス成形品の製造方法。
  3. 前記プレス加工前の部材に、せん断によりトリムおよび/または穴あけ加工を行った後に、加工後の成形部材のせん断端面部または引張り応力集中部の少なくとも一部に、微粒子を用いるウェットブラスト法によりショットピーニング処理することを特徴とする請求項1または2に記載のプレス成形品の製造方法。
  4. 前記微粒子の材質が、ステンレス鋼、アルミナ、ジルコニア、樹脂およびガラスのうちから選んだ1種または2種以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のプレス成形品の製造方法。
  5. 前記微粒子の形状が、多角形および/または球形であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のプレス成形品の製造方法。
  6. 前記微粒子の粒子径が6~250μmで、かつ硬度が300HV以上であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のプレス成形品の製造方法。
  7. 前記ウェットブラスト法によるショットピーニング処理を、プレス加工後の成形部品に適用する場合は、エネルギー密度が7.0×10-5~2.7×10-2J/mm2を満足する条件で実施し、プレス加工前のトリムおよび/または穴あけ加工された鋼板に適用する場合は、エネルギー密度が2.5×10-4~2.7×10-2J/mm2を満足する条件で実施することを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のプレス成形品の製造方法。
  8. 前記ウェットブラスト法によるショットピーニング処理を、エネルギー密度が1.5×10-3~2.7×10-2J/mm2を満足する条件で実施することを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載のプレス成形品の製造方法。
  9. 前記微粒子のウェットブラスト法によるショットピーニング処理により、処理前に観察されたミクロ亀裂が50%以上消失することを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載のプレス成形品の製造方法。
  10. 前記鋼板に付着した油分を脱脂せずに、微粒子をウェットブラスト法によりショットピーニング処理することを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載のプレス成形品の製造方法。
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