以下、各実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰り返さない。
実施の形態1.
[送電系統の構成]
図1は、送電系統の構成例を示す回路図である。なお、送電系統15は三相交流系統として構成されているが、図1では図解を容易にするために各母線および送電線などを1本の線で表している。
図1を参照して、送電系統15は、送電線20と、送電線20の第1端23の側に設けられた第1母線21および第2母線22と、送電線20の第2端26の側に設けられた第3母線24と第4母線25とを含む。第1母線21と第2母線22とは母線連絡線16を介して接続され、第3母線24と第4母線25とは母線連絡線17を介して接続される。
送電系統15は、さらに、第1母線21と第2母線22との間の母線連絡線16上に順に直列に接続された第1遮断器CB1、第2遮断器CB2、および第3遮断器CB3と、第3母線24と第4母線25との間の母線連絡線17上に順に直列に接続された第4遮断器CB4、第5遮断器CB5、および第6遮断器CB6とを含む。送電線20の第1端23は第1遮断器CB1と第2遮断器CB2との間に接続され、送電線20の第2端26は第4遮断器CB4と第5遮断器CB5との間に接続される。
なお、図1では図示していないが、通常、第2遮断器CB2と第3遮断器CB3との間に第2の送電線の一端が接続される。さらに、第5遮断器CB5と第6遮断器CB6との間にこの第2遮断器CB2の他端または別の第3の送電線の一端が接続される。
上記のような母線、遮断器、および送電線の配置を1.5遮断器方式と称する。遮断器CB1~CB6は通常時は閉状態に制御され、故障発生時に故障部位を送電系統15から切り離すように、関係する遮断器が開状態に制御される。
送電系統15は、さらに、第1電流変成器CT1と、第2電流変成器CT2と、第1電圧変成器PT1と、第3電流変成器CT3と、第4電流変成器CT4と、第2電圧変成器PT2とを含む。
第1電流変成器CT1は、第1母線21と第1遮断器CB1との間の母線連絡線16を流れる第1電流I1を検出する。第2電流変成器CT2は、第2遮断器CB2と第3遮断器CB3との間の母線連絡線16を流れる第2電流I2を検出する。第1電圧変成器PT1は、送電線20の第1端23に近接した位置の第1電圧V1を検出する。第3電流変成器CT3は、第3母線24と第4遮断器CB4との間の母線連絡線17を流れる第3電流I3を検出する。第4電流変成器CT4は、第5遮断器CB5と第6遮断器CB6との間の母線連絡線17を流れる第4電流I4を検出する。第2電圧変成器PT2は、送電線20の第2端26に近接した位置の第2電圧V2を検出する。
送電線20を保護する送電線保護リレーとして、送電線20の第1端23の近くに送電線保護リレー30Aが設けられ、送電線20の第2端26の近くに送電線保護リレー30Bが設けられる。
送電線保護リレー30Aは、第1電流変成器CT1から第1電流I1を表す信号を取り込み、第2電流変成器CT2から第2電流I2を表す信号を取り込み、第1電圧変成器PT1から第1電圧V1を表す信号を取り込む。送電線保護リレー30Bは、第3電流変成器CT3から第3電流I3を表す信号を取り込み、第4電流変成器CT4から第4電流I4を表す信号を取り込み、第2電圧変成器PT2から第2電圧V2を表す信号を取り込む。
さらに、送電線保護リレー30Aと送電線保護リレー30Bとは、通信路27を介して相互に接続される。通信路27は、有線であってもよいし、無線であってもよい。また、通信路27は、専用線であってもよいし、ネットワークであってもよい。
送電線保護リレー30Aは、第1電流I1と第2電流I2との合成電流ILを表す信号を、通信路27を介して送電線保護リレー30Bに送信する。送電線保護リレー30Bは、第3電流I3と第4電流I4との合成電流IRを表す信号を、通信路27を介して送電線保護リレー30Aに送信する。なお、送電線保護リレー30Aは、合成電流ILに代えて第1電流I1および第2電流I2を表す信号を送電線保護リレー30Bに送信してもよい。また、送電線保護リレー30Bは、合成電流IRに代えて第3電流I3および第4電流I4を表す信号を送電線保護リレー30Aに送信してもよい。
送電線保護リレー30Aは、第1電流I1、第2電流I2、第1電圧V1、および合成電流IRの各検出値に基づいて、距離リレー方式により送電線20で故障が生じているか否かを判定する。送電線保護リレー30Bは、第3電流I3、第4電流I4、第2電圧V2、および合成電流ILの各検出値に基づいて、距離リレー方式により送電線20で故障が生じているか否かを判定する。送電線保護リレー30A,30Bの動作の詳細は、図3および図4を参照して後述する。
以下の説明において、送電線保護リレー30A,30Bを距離リレー30A,30Bと称する場合がある。また、送電線保護リレー(距離リレー)30A,30Bについて、総称する場合または不特定の一つを示す場合に送電線保護リレー(距離リレー)30と記載する。第1遮断器CB1、第2遮断器CB2、第3遮断器CB3、第4遮断器CB4、第5遮断器CB5、および第6遮断器CB6について、総称する場合に遮断器CBと記載する。第1電流変成器CT1、第2電流変成器CT2、第3電流変成器CT3、および第4電流変成器CT4について総称する場合に電流変成器CTと記載する。
[送電線保護リレーのハードウェア構成]
図2は、図1の送電線保護リレーのハードウェア構成の一例を示すブロック図である。図1の送電線保護リレー30Aと送電線保護リレー30Bとは同様の構成を有しているので、以下では送電線保護リレー30Aを代表的に説明する。
図2を参照して、送電線保護リレー30Aは、いわゆるデジタルリレー装置と同様の構成を有している。具体的に、送電線保護リレー30Aは、入力変換部100と、A/D変換部110と、演算処理部120と、I/O(Input and Output)部130とを備える。
入力変換部100は、各入力チャンネルごとに補助変成器101_1,101_2,…を備える。入力変換部100は、図1の第1電流変成器CT1から出力された第1電流I1を表す信号、第2電流変成器CT2から出力された第2電流I2を表す信号、および第1電圧変成器PT1から出力された第1電圧V1を表す信号を、三相交流の相ごとに取り込む。各補助変成器101は、これらの入力信号をA/D変換部110および演算処理部120での信号処理に適した電圧レベルの信号に変換する。
A/D変換部110は、アナログフィルタ(AF:Analog Filter)111_1,111_2,…と、サンプルホールド回路(S/H:Sample Hold Circuit)112_1,112_2,…と、マルチプレクサ(MPX:Multiplexer)113と、A/D変換器114とを含む。アナログフィルタ111およびサンプルホールド回路112は、入力変換部100のチャンネルごとに設けられる。
各アナログフィルタ111は、A/D変換の際の折返し誤差を除去するために設けられたローパスフィルタである。各サンプルホールド回路112は、対応のアナログフィルタ111を通過した信号を規定のサンプリング周波数でサンプリングして保持する。サンプリング周波数は、たとえば、4800Hzである。マルチプレクサ113は、サンプルホールド回路112_1,112_2,…に保持された電圧信号を順次選択する。A/D変換器114は、マルチプレクサ113によって選択された信号をデジタル値に変換する。
演算処理部120は、CPU(Central Processing Unit)121と、RAM(Random Access Memory)122と、ROM(Read Only Memory)123と、これらを接続するバス124とを含む。CPU121は、プログラムに従って動作することにより、送電線保護リレー30Aの全体の動作を制御する。RAM122およびROM123は、CPU121の主記憶として用いられる。ROM123は、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリを記憶媒体として用いることにより、プログラムおよび信号処理用の設定値などを収納することができる。
I/O部130は、通信回路131と、デジタル入力(D/I:Digital Input)回路134と、デジタル出力(D/O:Digital Output)回路135とを含む。通信回路131は、送電線保護リレー30Bから合成電流IRを受信する受信機132と、送電線保護リレー30Bに合成電流ILを送信する送信機133とを含む。デジタル入力回路134およびデジタル出力回路135は、CPU121と外部装置との間でデジタル信号の入出力を行う際のインターフェース回路である。たとえば、デジタル出力回路135は、CPU121の指令に従ってトリップ信号TRSを、関係する遮断器CBに出力する。
なお、演算処理部120の機能は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)などの電子回路として実現されていてもよいし、CPU、ASIC、およびFPGAのうち2つ以上を組み合わせて実現されてもよい。
[距離リレー要素の機能的構成]
図3は、図1の送電線保護リレーで実現される距離リレー要素の機能を表す機能ブロック図である。図1の送電線保護リレー30Aの動作と送電線保護リレー30Bの動作とは同様であるので、図3では送電線保護リレー30Aで実現される距離リレー要素40Aの機能を代表的に示している。なお、距離リレー要素40Aの機能は、たとえば、図2のCPU121がプログラムに従って動作することによって実現される。
図3に示すように、距離リレー要素40Aは、加算器35と、フィルタ(FIL)36,37と、距離判定部41と、方向判定部42と、同期処理部43と、外部故障判定部50と、論理演算器44,45とを含む。
加算器35は、第1電流I1の検出値と第2電流I2の検出値とを加算することにより、合成電流ILの値を算出する。算出された合成電流ILは、フィルタ37および同期処理部43に入力されるとともに、送信機133を介して送電線保護リレー30Bに向けて出力される。
フィルタ36は、第1電圧V1の検出値から正弦波成分を抽出する。抽出された第1電圧V1の正弦波成分は、距離判定部41および方向判定部42に入力される。また、フィルタ37は、算出された合成電流ILから正弦波成分を抽出する。抽出された合成電流ILの正弦波成分は、距離判定部41および方向判定部42に入力される。
距離判定部41は、第1電圧V1の正弦波成分と合成電流ILの正弦波成分とから、インピーダンスを演算する。距離判定部41は、算出したインピーダンスが整定値以内であるか否かを判定する。
方向判定部42は、第1電圧V1の正弦波成分の位相に対して合成電流ILの正弦波成分の位相が同相側(すなわち、前方)であるか、逆相側(すなわち、後方)であるかを判定する。
また、方向判定部42にはメモリ機能が設けられており、現時点の第1電圧V1の検出値と現時点よりもn周期前(nは2または3程度)の第1電圧V1の検出値を係数倍した値とを加算した加算電圧が判定に用いられる。これによって、故障発生直後に第1電圧V1が急減することによって方向判定が不能にならないようにする。さらに、加算電圧の大きさ(たとえば、振幅または実効値)も小さくなって方向判定ができなくなる前の時点で、方向判定部42の出力がロックされ、その時点の判定結果が維持される。たとえば、現時点と現時点からn周期前との両方の時点での第1電圧V1の大きさが閾値より小さくなった時点で、方向判定部42の出力が固定される。以下、方向判定部42の出力をラッチさせる機能を「出力ロック機能」または「出力ラッチ機能」と称する。また、出力ロック機能を生じさせるか否かを決定するための、第1電圧V1の大きさに関する上記のような判定条件を「ラッチ条件」と称する。
同期処理部43は、合成電流ILの算出値の入力を受けるとともに、送電線保護リレー30Bから合成電流IRの算出値を受信する。同期処理部43は、受信した第2端側の合成電流IRのサンプリング時刻に同期するように、通信路27の伝送遅延分だけ現時点よりも前のサンプリング時刻の合成電流ILの算出値を取り出す。同期処理部43は、同一のサンプリング時刻に検出された第1電流I1、第2電流I2、第3電流I3、および第4電流I4の各検出値に基づく合成電流ILおよび合成電流IRの値を、外部故障判定部50に出力する。
なお、送電線保護リレー30Aにおける電気量のサンプルタイミングと、送電線保護リレー30Bにおける電気量のサンプルタイミングとの同期には種々の方法を用いることができ、特に限定されない。たとえば、通信路27を介して送電線保護リレー30Aと送電線保護リレー30Bとから相互に同期パルスを送信し合う公知の方法を用いてもよい。この方法では、送電線保護リレー30A,30Bの各々における同期パルスの送信時刻と受信時刻の時間差から、通信路27の伝送遅延を計測できる。そして、計測した伝送遅延に基づいて、送電線20の両端における電気量のサンプルタイミングを同期させることができる。
外部故障判定部50は、送電線20の第1端23の側の合成電流ILと第2端26の側の合成電流IRとに基づいて、送電線20の保護区間に対して外部故障が発生しているか否かを判定する。この判定は、各電流変成器CTが飽和するまでの間に実行される。外部故障判定部50は、外部故障が発生している場合に、論理値「真(true)」を出力する。なお、以下の説明において、便宜的に論理値「真(true)」を「1」に対応付け、論理値「偽(false)」を「0」に対応付ける。
具体的には図3に示すように、外部故障判定部50は、電流差動判定部51と、第1故障判定部52と、ワンショットタイマー53と、論理演算器54と、動作タイマー55と、復帰タイマー56とを含む。以下、外部故障判定部50の構成および動作について説明する。
電流差動判定部51は、送電線20の第1端23の側の合成電流ILの瞬時値と第2端26の側の合成電流IRの瞬時値との和の絶対値が閾値K1よりも小さいか否かを判定する。すなわち、サンプリング時刻tにおいて、
IL(t)=I1(t)+I2(t) …(1)
IR(t)=I3(t)+I4(t) …(2)
ID=|(IL(t)+IR(t))|<K1 …(3)
が満たされるとき、電流差動判定部51は、論理値「真(true)」を出力する。キルヒホッフの電流則により、IDは外部故障では零になり、内部故障では故障電流の大きさに相当する値を有する。したがって、上式(3)が満たされる場合は、送電線20に負荷電流または外部故障電流が流れていることを示している。
第1故障判定部52は、第1端23の側の合成電流ILまたは第2端26の側の合成電流IRが急変したか否かを判定する。具体的に図3の例では、Tを定格周波数における周期(サイクルとも称する)として、
ΣΔI=|IL(t)+IL(t-T/2)|+|IR(t)+IR(t-T/2)| …(4)
を計算する。第1故障判定部52は、(4)式の値が閾値K2よりも大きいとき、すなわち、
ΣΔI>K2 …(5)
が満たされるとき、論理値「真(true)」を出力する。
上式(4)の第1項は、サンプリング時刻tにおける合成電流IL(t)の瞬時値と、サンプリング時刻tよりも電気角で180°前の合成電流IL(t-T/2)の瞬時値との和の絶対値を表す。上式(4)の第2項は、サンプリング時刻tにおける合成電流IR(t)の瞬時値と、サンプリング時刻tよりも電気角で180°前の合成電流IR(t-T/2)の瞬時値との和の絶対値を表す。よって、合成電流IL,IRは正弦波であるので、故障のない場合にはΣΔIの値は0になる。一方、内部故障か外部故障かにかかわらず、故障が発生すると電流が急変するためにΣΔIの値は急増する。
したがって、上式(5)が満たされる場合は、送電系統15に内部故障または外部故障が生じていることを示している。上式(3)および(5)が両方満たされている場合は、送電系統15に外部故障が生じていることを示している。
ワンショットタイマー53は、第1故障判定部52の出力が「0」から「1」に変化したとき、パルス間隔T1だけ出力「1」を継続する。一般に、パルス間隔T1は、電流変成器CTの磁気飽和が生じるまでの判定時間として1サイクル程度に設定される。
動作タイマー55は、論理演算器54の出力が「0」から「1」に変化してから動作時間T2が経過したときに、自身の出力を「0」から「1」に切り替える。復帰タイマー56は、動作タイマー55の出力が「1」から「0」に変化してから復帰時間T3が経過したときに、自身の出力を「1」から「0」に切り替える。たとえば、動作時間T2は1/8~1/6サイクル程度に設定され、復帰時間T3は電流変成器CTの磁気飽和の継続時間以上(たとえば、10~20サイクル程度)に設定される。
したがって、外部故障判定部50は、上式(5)が満たされてからT1時間(たとえば、1サイクル)の間に、上式(3)がT2時間(たとえば、1/8~1/6サイクル)以上継続して満たされると、T3時間(たとえば、10~20サイクル)の間、「1」を出力する。
論理演算器45は、外部故障判定部50から出力された論理値の否定と、方向判定部42から出力された論理値との論理積を演算して演算結果を出力する。論理演算器44は、距離判定部41から出力された論理値と、論理演算器45から出力された論理値との論理積を演算して演算結果を出力する。
したがって、外部故障判定部50が外部故障でないと判定した場合(すなわち、外部故障判定部50の出力が「0」の場合)には、距離判定部41と方向判定部42との判定結果によって距離リレー要素40Aの出力が決定される。すなわち、距離判定部41によってインピーダンスが整定値以内であると判定され、方向判定部42によって前方故障であると判定された場合に、距離リレー要素40Aは送電線20の保護範囲内で内部故障が発生していると判定する。この結果、距離リレー要素40Aは、対応する第1遮断器CB1および第2遮断器CB2にトリップ信号TRSを出力する。なお、トリップ信号TRSは、図示しない復帰タイマーによって予め定められた時間、継続されるか、または図示しないラッチ回路によってラッチされる。
一方、外部故障判定部50が外部故障であると判定した場合(すなわち、外部故障判定部50の出力が「1」の場合)には、方向判定部42の判定結果によらず、論理演算器44,45の出力は「0」に固定される。したがって、電流変成器CTの磁気飽和に起因した方向判定部42の誤動作を防止できる。
また、電流変成器CTの磁気飽和が生じていると、方向判定部42は、外部故障であるにもかかわらず前方と誤判定する。仮に、方向判定部42が前方と誤判定しているときにメモリ機能によって判定結果をラッチしたとする。この時点では外部故障判定部50の出力は「1」であるので論理演算器45の出力は「0」となり、距離リレー要素は誤動作しない。しかし、復帰タイマー56の復帰時間T3が経過すると、外部故障判定部50の出力は「0」に戻る。この時点で方向判定部42の出力が前方方向(すなわち、「1」)でラッチされていると、論理演算器45の出力は「1」となって距離リレー要素が誤動作する。本実施の形態の距離リレー要素40Aでは、このような誤動作を防止するために、外部故障判定部50が「1」を出力したときに、方向判定部42は、判定結果を後方に(すなわち、出力を「0」)にロックする。以上によって、方向判定部42のメモリ機能に起因した誤動作を防止できる。
[距離リレー要素の動作例]
図4は、図3の距離リレー要素の動作例を説明するための概念的なタイミング図である。図4のタイミング図は、上から順に、図3に示す第1電流I1、第2電流I2、合成電流IR、距離判定部41の出力信号A0、方向判定部42の出力信号A1,A2、電流差動判定部51の出力信号B、第1故障判定部52の出力に基づくワンショットタイマー53の出力信号C、外部故障判定部50の出力信号D、論理演算器44の出力信号E(トリップ信号TRS)の各信号波形を示している。なお、方向判定部42の出力信号A2は本実施の形態の場合の波形を示し、出力信号A1は比較例の波形を示す。
以下の説明では、各判定部の出力が「1」(論理値:真)の場合をハイレベルとし、判定部の出力が「0」(論理値:偽)の場合をローレベルとする。なお、図4および後続する図6、図8、図9、図13の各タイミング図に示された信号波形は説明のために誇張したものであり、実際の信号波形をそのまま示したものではなく、正しい縮尺で表示もされていない。
図4のタイミング図では、図1の第2母線22の故障点Fで地絡故障が生じた場合が示されている。この場合、第1母線21から第2母線22の方向に母線連絡線16を通って貫通電流が流れるとともに第3電流I3および第4電流I4の合成電流IRが送電線20を通って第2母線22に流入する。したがって、第2電流変成器CT2で検出される電流は、貫通電流(すなわち、第1電流I1)と合成電流IR(すなわち、I3+I4)との合成電流である。なお、図4では、各電流変成器CTにおいて、各母線から送電線20の方向に電流が流れる場合を正として表示している。
図4を参照して、時刻t11では故障は生じておらず、送電系統15は通常状態である。この場合、各電流変成器CTによって負荷電流が検出される。負荷電流の大きさは故障電流の大きさよりもかなり小さいので、図4では図示を省略している。負荷電流が流れている場合、前述の式(3)の判定式が満たされているので、電流差動判定部51の出力信号Bはハイレベルである。
時刻t12において、図1の故障点Fで地絡故障が発生する。距離判定部41がインピーダンスを計算するのに故障発生から1サイクル程度の時間がかかる。したがって、時刻t20に、距離判定部41は、算出したインピーダンスが整定値以内であり、送電系統15に故障が発生していると判定する。これにより、距離判定部41の出力信号A0はハイレベルに切り替わる。
方向判定部42による位相検出には、故障発生から1/6サイクル程度の時間がかかる。したがって、それまでの期間は方向判定部42の判定結果に故障発生前の影響が含まれるため、方向判定部42の出力は不定である。その後、電流変成器CTの磁気飽和の影響が現れるまでの間は、方向判定部42の出力信号A2はローレベル(すなわち、外部故障)である。
また、外部故障の場合には、電流差動判定部51の出力信号Bはハイレベルのままである。すなわち、前述の式(3)の判定式は満たされている。
故障発生(時刻t12)から2~3ミリ秒(ms)が経過した時刻t13に、第1故障判定部52は、前述の式(5)が満たされていると判定することによって、電流の急変を検出する。これにより、ワンショットタイマー53は、パルス間隔T1の間、ハイレベルの出力信号Cを出力する。
時刻t13から動作タイマー55の動作時間T2が経過する時刻t14までの間、電流差動判定部51の出力信号Bがハイレベルの状態が維持されると、外部故障判定部50は外部故障であると判定する。これにより、外部故障判定部50の出力信号Dは、復帰タイマー56の復帰時間T3の間だけハイレベルに維持される。さらに、外部故障判定部50は、時刻t14に方向判定部42の出力信号A2をローレベル(すなわち、後方判定)にラッチする。
次の時刻t15に、第2電流I2(すなわち、第1電流I1、第3電流I3、および第4電流I4の合成電流)によって生成される磁束密度が、第2電流変成器CT2のコアの最大磁束密度を超えたために第2電流変成器CT2のコアは磁気飽和状態になる。なお、時刻t17において電流変成器CTを流れる電流の方向が逆になるので、第2電流変成器CT2の磁気飽和は解消する。しかし、時刻t18において再び第2電流変成器CT2に磁気飽和が発生し、この磁気飽和は時刻t19まで継続する。以下、第2電流変成器CT2によって検出される第2電流I2は同様の現象を繰り返す。
第2電流変成器CT2の磁気飽和により、電流差動判定部51は、|I1|>|I2|であるために内部故障であると誤判定し、出力信号Bをローレベルに切り替える。しかしながら、外部故障判定部50の出力信号Dは、時刻t14の時点で外部故障に確定しているので第2電流変成器CT2の磁気飽和の影響を受けない。
さらに、方向判定部42の出力信号A2は、時刻t14の時点で外部故障判定部50によってローレベル(すなわち、後方判定)に固定されている。したがって、方向判定部42の出力信号A2は、第2電流変成器CT2の磁気飽和の影響を受けない。
なお、外部故障判定部50によって方向判定部42の出力が後方にロックされない場合、方向判定部42の出力信号波形をA1(A1a,A1b)として示す。図4に示すように、出力信号波形A1は、時刻t16に第2電流変成器CT2の磁気飽和の影響を受けて、ハイレベル(前方判定)に切り替わる。仮にこの状態で方向判定部42自身の出力ロック機能によって方向判定部42の出力がロックされてしまうと、実線の出力信号波形A1aのように、前方判定であると方向判定部42は誤判定する。一方、仮に、故障発生による電圧低下が比較的小さく、方向判定部42自身の出力ロック機能が働かない場合には、破線の出力信号波形A1bのように、磁気飽和が生じていない期間はローレベル(後方判定)の出力信号波形を示し、磁気飽和が生じている期間はハイレベル(前方判定)の出力信号波形を示す。
最終的な距離リレー要素40Aの出力信号(論理演算器44の出力信号E)は、距離判定部41の出力信号A0の論理値と、方向判定部42の出力信号A2の論理値と、外部故障判定部50の出力信号Dの論理値の否定との論理積である。したがって、外部故障の場合には、距離リレー要素40Aの出力信号Eはローレベルであり、トリップ信号は出力されない。
[実施の形態1の効果]
図3の外部故障判定部50が設けられていない場合を比較例1とし、図3の電流差動判定部51に代えて前述の特開2007-20353号公報(特許文献1)に開示された位相検出手段が設けられている場合を比較例2とする。以下、上記の距離リレー要素40Aをこれらの比較例1,2と比較しつつ実施の形態1の効果について説明する。
まず、外部故障判定部50が設けられていない比較例1の場合には、距離判定部41の出力信号A0の論理値と方向判定部42の出力信号A2の論理値との論理積によって、距離リレー要素40Aの出力信号Eが決定される。しかしながら、たとえば、図1の故障点Fで外部故障が生じたために第2電流変成器CT2に磁気飽和が生じた場合には、方向判定部42は前方故障であると誤判定する。この結果、距離リレー要素40Aは誤動作する。
これに対して、本実施の形態の距離リレー要素40Aの場合には、外部故障判定部50によって電流変成器CTの磁気飽和が生じる前に外部故障であるか否かが判定される。そして、外部故障判定部50によって外部故障であると判定された場合には、論理演算器45の出力信号がローレベルに固定され、方向判定部42の出力信号A2もローレベル(後方判定)に固定される。したがって、電流変成器CTの磁気飽和に起因した距離リレー要素40Aの誤動作を防止できる。
一方、比較例2の場合には、位相検出手段は、第1電流変成器CT1によって検出された第1電流I1と第2電流変成器CT2によって検出された第2電流I2とが、同相(すなわち、内部故障)であるか逆相(すなわち、外部故障)であるかを判定する。この判定は、電流変成器CTの磁気飽和が生じる前に実行される。位相検出手段によって第1電流I1の位相と第2電流I2の位相とが逆相(すなわち、外部故障)と判定された場合には、距離リレー要素が動作しないようにロックされる。
しかしながら、位相検出手段で実行される位相演算は定格周波数の正弦波では正しく演算できるが、故障発生時の過渡的な歪波波形では演算誤差が生じる。
さらに、たとえば、図1の故障点Fで外部故障が生じた場合には、第1電流変成器CT1によって検出される第1電流I1は、第1母線21から第2母線22の方向の貫通電流である。第2電流変成器CT2によって検出される第2電流I2は、この貫通電流と送電線20の第2端26の側から流入する電流との合成電流である。すなわち、第2電流I2は、第1電流I1と第3電流I3と第4電流I4との合成電流に等しい。第1電流I1は送電線20の第1端23の側の電源電圧に基づくものであるのに対し、第3電流I3および第4電流I4は送電線20の第2端26の側の電源電圧に基づくものであるため、両者の位相は最大で30°程度ずれている可能性がある。上記した故障発生時の過渡的な歪波波形と、送電線の両端の電源電圧の位相ずれの影響とが組み合わされることにより、位相検出手段は逆相と判定すべきところ同相と誤判定する可能性がある。
これに対して、本実施の形態の距離リレー要素40Aの場合には、電流差動判定部51は、第1端23の側の第1電流I1および第2電流I2の瞬時値に、さらに、同一のサンプリング時刻の第2端26の側の第3電流I3および第4電流I4の瞬時値を加算した加算値に基づいて、内部故障か外部故障かを判定する。キルヒホッフの電流則に基づいて内部故障では加算値は非零になり、外部故障では加算値は零になる。この加算値の絶対値を閾値と比較することによって、第1端23の側の電源位相と第2端26の側の電源位相が大きく異なっている場合でも、確実に外部故障であるか否かを判定することができる。
本実施の形態では、さらに、外部故障判定部50によって外部故障と判定された場合には、方向判定部42の判定結果が後方判定でロックされる。この結果、方向判定部42のメモリ機能に起因した誤判定を回避することができる。
なお、本実施の形態では、各送電線保護リレー30は、送電線20の相手端側の検出電流を利用する。このため、各送電線保護リレー30は、自端側の検出電流の合成電流を相手端側の送電線保護リレー30に送信する送信機133と、相手端側の検出電流の合成電流を相手端側の送電線保護リレー30から受信する受信機132と、自端側の検出電流と相手端側の検出電流とを同期させるための同期処理部43とを含む。さらに、送電線20の両端の送電線保護リレー30A,30Bを接続する通信路27が設けられる。
ここで、図1の通信路27が光ファイバーで構成される場合には信号の伝送遅延時間は2~3ミリ秒程度であるので、外部故障判定部50は、CT飽和発生までの短時間(たとえば、3~5ミリ秒)で外部故障であるか否かの判定が可能である。しかしながら、たとえば、通信路27がメタルケーブルによって構成されている場合には、伝送遅延時間が最大で10数ミリ秒に達する場合がある。この場合には、方向判定部42による方向判定よりも外部故障判定部50による判定が遅れる。この問題点に対する対策については、実施の形態2で説明する。
なお、送電線保護リレー30A,30Bの各々が距離リレー要素とともに電流差動リレー要素を含む場合には、電流差動リレー要素で計算される差動電流を用いて、式(3)のIDを計算してもよい。
実施の形態2.
実施の形態2では、通信路27の伝送遅延時間が大きいために、方向判定部42による方向判定よりも外部故障判定部50による判定が遅れる場合について説明する。以下に詳しく説明するように、方向判定部42の出力信号の経路に動作タイマー63を設けることによって、方向判定部42からの出力変化を遅らせる。動作タイマー63の動作時間T4は、通信路27の伝送遅延時間にほぼ等しく設定される。
[距離リレー要素の機能的構成]
図5は、実施の形態2の送電線保護リレーで実現される距離リレー要素の機能を表す機能ブロック図である。図1の送電線保護リレー30Aの動作と送電線保護リレー30Bの動作とは同様であるので、図5では送電線保護リレー30Aで実現される距離リレー要素40Bの機能を代表的に示している。なお、距離リレー要素40Bの機能は、たとえば、図2のCPU121がプログラムに従って動作することによって実現される。
具体的に、図5の距離リレー要素40Bは、第2故障判定部60と、復帰タイマー61と、論理演算器62と、動作タイマー63とをさらに含む点で、図3の距離リレー要素40Aと異なる。
第2故障判定部60は、第1電流I1の検出値と第2電流I2の検出値とを受ける。第2故障判定部60は、自端側の検出電流、すなわち、第1電流I1または第2電流I2が急変したか否かを判定する。すなわち、第2故障判定部60は、Tを定格周波数での周期として、
ΔI1(t)=|I1(t)+I1(t-T/2)| …(6)
ΔI2(t)=|I2(t)+I2(t-T/2)| …(7)
を計算する。上式(6)の右辺は、サンプリング時刻tにおける第1電流I1(t)の瞬時値と、サンプリング時刻tよりも電気角で180°前の第1電流I1(t-T/2)の瞬時値との和の絶対値を表す。上式(7)の右辺は、サンプリング時刻tにおける第2電流I2(t)の瞬時値と、サンプリング時刻tよりも電気角で180°前の第2電流I2(t-T/2)の瞬時値との和の絶対値を表す。
さらに、故障判定部60は、Istを整定値として、
ΔI1(t)+ΔI2(t)>Ist …(8)
が満たされるとき、論理値「真」を出力する。故障のない場合には、ΔI1(t)およびΔI2(t)の値はほぼ0になる。内部故障か外部故障かにかかわらず、故障が発生すると第1電流I1および第2電流I2が急変するために、ΔI1(t)とΔI2(t)の和は閾値よりも大きくなる。第2故障判定部60は、自端側の電流検出値のみを用いて故障の有無を判定しているので、自端側と相手端側の両方の電流検出値を利用する第1故障判定部52に比べて、通信路27の伝送遅延の影響を受けずに故障の有無を早く判定できる。
復帰タイマー61は、第2故障判定部60の出力が「1」から「0」に変化してから復帰時間T5が経過したときに、自身の出力を「1」から「0」に切り替える。論理演算器62は、方向判定部42の出力信号の論理値と復帰タイマー61の出力信号の論理値との論理積を演算して出力する。
動作タイマー63は、論理演算器62の出力が「0」から「1」に変化してから動作時間T4の経過後に自身の出力を「0」から「1」に変化させる。これにより、外部故障であるにもかかわらず電流変成器CTの磁気飽和によって方向判定部42が内部故障と誤判定した場合に、出力信号が「1」に変化するのを動作時間T4だけ遅らせることができる。動作時間T4は、通信路27の伝送遅延時間にほぼ等しく設定される。
論理演算器45は、動作タイマー63の出力信号の論理値と外部故障判定部50の出力信号の論理値の否定との論理積を演算する。したがって、外部故障が生じた場合に通信路27の伝送遅延時間だけ外部故障判定部50の出力が遅れても、動作タイマー63の動作時間T4だけ方向判定部42の出力変化の影響を遅らせることできる。この結果、電流変成器CTの磁気飽和に起因した距離リレー要素40Bの誤動作を防止できる。
図5のその他の点は図3の場合と同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
[距離リレー要素の動作例]
図6は、図5の距離リレー要素の動作例を説明するための概念的なタイミング図である。図6のタイミング図は、上から順に、図5に示す第1電流I1、第2電流I2、合成電流IR、距離判定部41の出力信号A0、方向判定部42の出力信号A1,A2、第2故障判定部60の出力に基づく復帰タイマー61の出力信号B、方向判定部42の出力に基づく動作タイマー63の出力信号C、電流差動判定部51の出力信号D、第1故障判定部52の出力に基づくワンショットタイマー53の出力信号E、外部故障判定部50の出力信号F、論理演算器44の出力信号G(トリップ信号TRS)の各信号波形を示している。
第1電流I1、第2電流I2、合成電流IR、距離判定部41の出力信号A0、および方向判定部42の出力信号A1,A2は、実施の形態1の図4の場合と同じ信号波形である。具体的に、時刻t31に図1の第2母線22の故障点Fで外部故障が生じる。時刻t33から時刻t35までの間、および時刻t36から時刻t40までの間に、第2電流変成器CT2において磁気飽和が発生する。このために、第2電流変成器CT2で検出される第2電流I2はほぼ0になる。
距離判定部41によるインピーダンスの計算には、故障発生から1サイクル程度の時間がかかる。したがって、時刻t41に、距離判定部41は、算出したインピーダンスが整定値以内であり、送電系統15に故障が発生していると判定する。これにより、距離判定部41の出力信号A0は「0」から「1」に切り替わる。
また、時刻t31の外部故障の発生によって、方向判定部42は、当初は後方故障であると判定し、その出力信号A1,A2は「0」になる。時刻t33に第2電流変成器CT2に磁気飽和が生じると、その影響を受けて方向判定部42が前方故障であると誤判定する。このため、方向判定部42の出力信号は「0」から「1」に切り替わる。その後、基本的に、方向判定部42の出力信号は、図6の破線の波形A1bの変化を示す。ただし、第1電圧V1(ただし、メモリ機能により2、3周期前の電圧値を係数倍した値を加算したもの)の大きさが閾値より小さくなった時点の値に応じて、方向判定部42の出力信号は、ハイレベル(A1a)またはローレベル(A2)に固定される。さらに、後述するように、外部故障判定部50が外部故障と判定すると、方向判定部42の出力信号は、ローレベル(A2)に固定される。
時刻t31の外部故障発生後の時刻t32に、第2故障判定部60は、第1電流I1および第2電流I2の急変を検出する。その後、0.5サイクルの間、第2故障判定部60の出力信号Bは「1」である。さらに、復帰タイマー61は、復帰時間T5の間、出力信号Bを「1」に維持した後、時刻t43に出力信号Bを「0」に切り替える。
時刻t31の外部故障発生後、第1故障判定部52は、合成電流IR,ILの急変を検出する。これにより、ワンショットタイマー53はパルス間隔T1の間、出力信号Eとしてワンショットパルスを出力する。ただし、このワンショットパルスの立ち上がりは、通信路27の伝送遅延時間の影響により時刻t37まで遅延する。
次の時刻t33に第2電流変成器CT2が磁気飽和するために、第2電流I2がほぼ0になる。これにより、時刻t34に方向判定部42が前方故障であると誤判定し、その出力信号A1が「0」から「1」に切り替わる。これにより、動作タイマー63の出力信号Cは、動作時間T4の経過後に「1」に切り替わるように徐々に増加する。
また、時刻t33における第2電流変成器CT2の磁気飽和の影響により、電流差動判定部51は、内部故障であると誤判定するためにその出力信号Dが「1」から「0」に切り替わる。ただし、この信号変化は、通信路27の伝送遅延時間の影響により時刻t39まで遅延する。
ワンショットタイマー53の出力信号が「1」に切り替わった時刻t37から、動作タイマー55の動作時間T2が経過する時刻t38まで間、電流差動判定部51の出力信号Dがハイレベルの状態が維持されると、外部故障判定部50は外部故障であると判定する。これにより、外部故障判定部50の出力信号Fは、復帰タイマー56の復帰時間T3の間だけハイレベルに維持される。さらに、外部故障判定部50は、時刻t38に方向判定部42の出力信号A2をローレベル(すなわち、後方判定)にラッチする。この結果、動作タイマー63の出力信号Cはローレベルに固定される。
最終的な距離リレー要素40Bの出力信号(論理演算器44の出力信号G)の論理値は、距離判定部41の出力信号A0の論理値と、方向判定部42の出力に基づく動作タイマー63の出力信号Cの論理値と、外部故障判定部50の出力信号Fの論理値の否定との論理積である。したがって、外部故障の場合には、距離リレー要素40Bの出力信号Gはローレベルであり、トリップ信号は出力されない。
[実施の形態2の効果]
外部故障判定部50が自端電流と相手端電流の両方を利用するため、通信路27の伝送遅延時間だけ外部故障判定部50の判定が遅れる。したがって、通信路27の伝送遅延時間が大きい場合には、電流変成器CTが磁気飽和するまでに外部故障判定部50の判定結果が得られないという不都合が生じる。そこで、実施の形態2の距離リレー要素40Bでは、動作タイマー63を用いることによって、電流変成器CTの磁気飽和による方向判定部42の出力信号の変化を動作時間T4だけ遅らせる。動作時間T4は、通信路27の伝送遅延時間にほぼ等しく設定される。これにより、外部故障が生じている場合に、方向判定の演算タイミングと外部故障判定の演算タイミングとを整合させることができるので、電流変成器CTの磁気飽和による距離リレー要素40Bの誤動作を防止できる。
実施の形態3.
実施の形態2では、動作タイマー63を用いて方向判定部42の出力変化を動作時間T4だけ遅らせることによって、外部故障発生時の電流変成器CTの磁気飽和による方向判定部42の誤出力を防止できる。しかしながら、動作タイマー63は、内部故障発生時の方向判定部42の前方出力も同様に遅延させるために、電流変成器CTの磁気飽和が生じていない場合にも不要に距離リレー要素の動作を遅延させることになる。実施の形態3では、後方故障発生時にのみに方向判定部42の前方判定結果の出力を遅延させるようにする。これによって、不要な距離リレー要素の動作遅延を防止できる。以下、図面を参照して具体的に説明する。
[距離リレー要素の機能的構成]
図7は、実施の形態3の送電線保護リレーで実現される距離リレー要素の機能を表す機能ブロック図である。図1の送電線保護リレー30Aの動作と送電線保護リレー30Bの動作とは同様であるので、図7では送電線保護リレー30Aで実現される距離リレー要素40Cの機能を代表的に示している。なお、距離リレー要素40Cの機能は、たとえば、図2のCPU121がプログラムに従って動作することによって実現される。
具体的に、図7の距離リレー要素40Cは、自端電流による故障方向判定部70と、動作タイマー63とを含む点で、図3の距離リレー要素40Aと異なる。故障方向判定部70は、第2故障判定部60と、復帰タイマー61と、位相判定部71と、論理演算器72とを含む。
図7の第2故障判定部60および復帰タイマー61の動作は、図5の第2故障判定部60および復帰タイマー61の動作と同一である。したがって、これらには同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
位相判定部71における位相判定は、内部故障であれば第1電流I1の波形と第2電流I2の波形とがほぼ同じであり、外部故障であれば第1電流I1の波形と第2電流I2の波形とがほぼ逆転していることを利用したものである。すなわち、2つのサンプリング時刻における第1電流I1の瞬時値の差分をΔ#I1(t)とし、同じ2つのサンプリング時刻における第2電流I2の瞬時値の差分をΔ#I2(t)とすれば、
前方故障の場合、Δ#I1(t)×Δ#I2(t)>0 …(9)
後方故障の場合、Δ#I1(t)×Δ#I2(t)<0 …(10)
が成り立つ。上式(9)は、第1電流I1に対する第2電流I2の位相差が-90°より大きく+90°よりも小さい範囲で成り立つ。位相判定部71は、前方故障と判定した場合に「1」を出力し、前方故障でないと判定した場合に「0」を出力する。
たとえば、リレー演算用のサンプリング周期を電気角で30°とし、現時点tよりも電気角でn・30°前の第1電流I1をI1(t-n)と表記し、現時点tよりも電気角でn・30°後の第1電流I1をI1(t+n)と表記する。ただし、nは正の整数である。第2電流I2についても同様に表記する。上式(9),(10)において、#=1の場合、2つのサンプリング時刻は電気角で30°の時間差がある。#=2の場合、2つのサンプリング時刻は電気角で60°の時間差がある。#=3の場合、2つのサンプリング時刻は電気角で90°の時間差がある。
まず、位相判定部71は、現サンプリング時刻tにおいて、
Δ1I1(t)=I1(t)-I1(t-1) …(11A)
Δ1I2(t)=I2(t)-I2(t-1) …(11A)
を計算し、上式(9)が成立しているか否かを判定する。
現サンプリング時刻tにおいて上式(9)が成立している場合、位相判定部71は、次のサンプリング時刻t+1において、
Δ2I1(t+1)=I1(t+1)-I1(t-1) …(12A)
Δ2I2(t+1)=I2(t+1)-I2(t-1) …(12A)
を計算し、上式(9)が成立しているか否かを判定する。
次のサンプリング時刻t+1において上式(9)が成立している場合、位相判定部71は、さらに次のサンプリング時刻t+2にておいて、
Δ3I1(t+2)=I1(t+2)-I1(t-1) …(13A)
Δ3I2(t+2)=I2(t+2)-I2(t-1) …(13A)
を計算し、上式(9)が成立しているか否かを判定する。このように連続した3つのサンプリング時刻で上式(9)が成立している場合に、位相判定部71は、前方故障であると判定する。
外部故障発生後の短時間で電流変成器CTの磁気飽和が発生する場合には、上記のような3サンプリング時刻の位相判定では時間がかかりすぎ、距離リレー要素40Cが誤動作する可能性がある。この場合には、現サンプリング時刻tと次のサンプリング時刻t+1の2サンプリング時刻において、上式(9)が成立している場合に、位相判定部71は前方故障であると判定してもよい。
自端側の電源電圧と相手端側の電源電圧とに位相差がある場合には、図1の第2母線22の故障点Fで外部故障が生じた場合に、第1電流変成器CT1で検出される第1電流I1と第2電流変成器CT2で検出される第2電流I2とに位相差が生じる場合がある。この場合には、前方判定の位相範囲を狭くする必要がある。たとえば、第1電流I1に対する第2電流I2の位相差が-60°よりも大きく+60°よりも小さい範囲で成立するようにするには、位相判定部71は、
Δ#I1(t)×Δ#I2(t)>0 …(14A)
Δ#I1(t)×Δ#I2(t-1)>0 …(14B)
Δ#I1(t-1)×Δ#I2(t)>0 …(14C)
が全て満たされているか否かを判定する。
前述のように(14A)式は、第1電流I1に対する第2電流I2の位相差が-90°よりも大きく+90°より小さい場合に成立する。(14B)式は、I1に対するI2∠-30°の位相差が-90°~+90°の範囲、すなわち、-120°~+60°の範囲で成立する。(14C)式は、I1∠-30°に対するI2の位相差が-90°~+90°の範囲、すなわち、-60°~+120°の範囲で成立する。したがって、上式(14A)~(14C)が全て成立する場合は、第1電流I1に対する第2電流I2の位相差が-60°より大きく+60°より小さい範囲にある。これにより、第1電流I1の位相と第2電流I2の位相とが30°ずれていても、位相判定部71は前方故障であると正しく判定できる。なお、(14A)~(14C)の各式が成立しているか否かの判定は、上式(9)の場合と同様に、2サンプリング時刻または3サンプリング時刻で実行される。
論理演算器72は、復帰タイマー61の出力信号の論理値と位相判定部71の出力信号の論理値との論理積を演算する。したがって、故障方向判定部70は、前方故障と判定した場合に動作タイマー63に「1」を出力し、そうでない場合に「0」を出力する。
動作タイマー63は、方向判定部42の出力信号の立ち上がりを動作時間T4だけ遅延させる。ここで、動作タイマー63は、故障方向判定部70が前方故障と判定した場合に動作時間T4が0ミリ秒に設定され、故障方向判定部70が後方故障と判定した場合に動作時間T4が通信路27の伝送遅延時間にほぼ等しい値に設定される。
図7のその他の点は図3および図5で説明したものと同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
[距離リレー要素の動作例]
図8および図9は、図7の距離リレー要素の動作例を説明するための概念的なタイミング図である。図8のタイミング図は後方故障(図1の故障点Fの外部故障)が生じている場合を示し、図9のタイミング図は前方故障が生じている場合を示す。
図8および図9のタイミング図は、上から順に、図7に示す距離判定部41の出力信号A0、方向判定部42の出力に基づく動作タイマー63の出力信号A1,A2、第2故障判定部60の出力に基づく復帰タイマー61の出力信号B、位相判定部71の出力信号C、故障方向判定部70(論理演算器72)の出力信号D、電流差動判定部51の出力信号E、第1故障判定部52の出力に基づくワンショットタイマー53の出力信号F、外部故障判定部50の出力信号G、論理演算器44の出力信号H(トリップ信号TRS)の各信号波形を示している。なお、方向判定部42の出力に基づく動作タイマー63の出力信号A2は本実施の形態の場合の波形であり、出力信号A1は比較例の波形である。
図8を参照して、時刻t51に図1の第2母線22の故障点Fで外部故障が発生する。距離判定部41によるインピーダンスの計算には、故障発生から1サイクル程度の時間がかかる。したがって、時刻t55に、距離判定部41は、算出したインピーダンスが整定値以内であり、送電系統15に故障が発生していると判定する。これにより、距離判定部41の出力信号A0は「0」から「1」に切り替わる。
時刻t51の外部故障発生後、第2故障判定部60は、時刻t52に第1電流I1および第2電流I2の急変を検出する。その後、時刻t53までの0.5サイクルの間、第2故障判定部60の出力信号Bは「1」である。さらに、復帰タイマー61は、復帰時間T5の間、出力信号Bを「1」に維持した後、時刻t61に出力信号Bを「0」に切り替える。位相判定部71は、時刻t52に前方故障でないと判定し、出力信号Cを「0」のまま維持する。したがって、故障方向判定部70の出力信号Dは「0」を示す。これにより、動作タイマー63の動作時間T4は、通信路27の伝送遅延時間にほぼ等しい値に設定される。
時刻t51の外部故障発生後、方向判定部42は、当初は後方故障であると判定し、その出力信号は「0」になる。第2電流変成器CT2の磁気飽和が発生すると、方向判定部42は前方故障であると誤判定するために、時刻t54に方向判定部42の出力信号は「0」から「1」に切り替わる(信号波形A1を参照)。これにより、動作タイマー63の出力信号A2は、動作時間T4の経過後の時刻t60に「1」に切り替わるように徐々に増加する。
時刻t51の外部故障の発生により、第1故障判定部52は、合成電流IR,ILの急変を検出する。これにより、ワンショットタイマー53はパルス間隔T1の間、出力信号Fとしてワンショットパルスを出力する。ただし、このワンショットパルスの立ち上がりは、通信路27の伝送遅延時間の影響により時刻t57まで遅延する。
電流差動判定部51の出力信号Eは、外部故障発生当初には「1」を示す。しかし、第2電流変成器CT2が磁気飽和を生じると、その影響により、電流差動判定部51は、内部故障であると誤判定する。この結果、電流差動判定部51の出力信号Eは、「1」から「0」に切り替わる。ただし、この出力信号Eの変化は、通信路27の伝送遅延時間の影響により時刻t56まで遅延する。その後、交流の故障電流の極性が変わることによって、第2電流変成器CT2の磁気飽和が解消すると、時刻t58に電流差動判定部51の出力信号Eは、「0」から「1」に切り替わる。
時刻t58に、電流差動判定部51の出力信号Eと、ワンショットタイマー53の出力信号Fとが共にハイレベルになる。そして、動作タイマー55の動作時間T2が経過する時刻t59までの間、両信号が共にハイレベルの状態で維持されると、外部故障判定部50は外部故障であると判定する。これにより、外部故障判定部50の出力信号Gは、復帰タイマー56の復帰時間T3の間だけハイレベルに維持される。さらに、外部故障判定部50は、時刻t59に方向判定部42の出力信号をローレベル(すなわち、後方判定)にラッチする。この結果、動作タイマー63の出力信号A2はローレベルに固定される。
最終的な距離リレー要素40Cの出力信号(論理演算器44の出力信号H)の論理値は、距離判定部41の出力信号A0の論理値と、方向判定部42の出力に基づく動作タイマー63の出力信号A2の論理値と、外部故障判定部50の出力信号Gの論理値の否定との論理積である。したがって、外部故障の場合には、距離リレー要素40Cの出力信号Hはローレベルであり、トリップ信号は出力されない。
次に、図9を参照して、時刻t51に図1の送電線20で内部故障が生じる。距離判定部41によるインピーダンスの計算には故障発生から1サイクル程度の時間がかかるので、時刻t55に、距離判定部41の出力信号A0は「0」から「1」に切り替わる。
時刻t51の内部故障発生後、第2故障判定部60は、時刻t52に第1電流I1および第2電流I2の急変を検出する。その後、時刻t53までの0.5サイクルの間、第2故障判定部60の出力信号Bは「1」である。さらに、復帰タイマー61は、復帰時間T5の間、出力信号Bを「1」に維持した後、時刻t61に出力信号Bを「0」に切り替える。位相判定部71は、時刻t52に前方故障であると判定し、出力信号Cを「0」から「1」に切り替える。したがって、故障方向判定部70の出力信号Dは、時刻t52に「0」から「1」に切り替わる。これにより、動作タイマー63の動作時間T4は、0ミリ秒に設定される。
時刻t51の内部故障発生後、方向判定部42は、前方故障であると判定する。これにより、時刻t54に方向判定部42の出力信号は、「0」から「1」に切り替わる。なお、動作タイマー63の動作時間T4は0ミリ秒に設定されているので、動作タイマー63の出力信号A2も時刻t54に「0」から「1」に切り替わる。なお、内部故障の場合には、電流変成器CTの磁気飽和は生じないので、動作タイマー63の出力信号A2はハイレベルのまま維持される。
時刻t51の内部故障の発生により、電流差動判定部51は内部故障を検出する。これにより、電流差動判定部51の出力信号Eは、「1」から「0」に切り替わる。ただし、この出力信号Eの変化は、通信路27の伝送遅延時間の影響により時刻t56まで遅延する。
時刻t51の内部故障の発生により、第1故障判定部52は、合成電流IR,ILの急変を検出する。これにより、ワンショットタイマー53はパルス間隔T1の間、出力信号Fとしてワンショットパルスを出力する。ただし、このワンショットパルスの立ち上がりは、通信路27の伝送遅延時間の影響により時刻t57まで遅延する。ワンショットタイマー53の出力信号Fが「1」を示す間、電流差動判定部51の出力信号Eは「0」を示しているで、外部故障判定部50の出力信号Gは、ローレベルのまま維持される。
最終的な距離リレー要素40Cの出力信号(論理演算器44の出力信号H)の論理値は、距離判定部41の出力信号A0の論理値と、方向判定部42の出力に基づく動作タイマー63の出力信号A2の論理値と、外部故障判定部50の出力信号Gの論理値の否定との論理積である。したがって、外部故障の場合には、距離リレー要素40Cの出力信号Hは、時刻t55においてローレベルからハイレベルに変化し、トリップ信号が出力される。
[実施の形態3の効果]
実施の形態3によれば、距離リレー要素40Cの故障方向判定部70は、自端側の電流変成器CT1,CT2で検出される第1電流I1および第2電流I2の各変化分が同極性の場合に前方故障であると判定する。そして、前方故障の場合に、方向判定部42の出力信号を遅延させるための動作タイマー63の動作時間を0に設定する。これにより、前方故障判定の判定時間に遅れがないようにできる。また、故障方向判定部70は、前方故障でないと判定した場合に、動作タイマー63の動作時間を、通信路27の伝送遅延時間に基づいた値に設定する。これにより、電流変成器CTの磁気飽和による距離リレー要素40Cの誤動作を防止できる。
なお、上記の故障方向判定部70の位相判定では、第1電流I1および第2電流I2の各変化分が用いられる。故障電流に含まれる直流成分を除去することができ、より精度の高い判定が可能である。
また、送電線20の第1端23の側の電源電圧の位相と送電線20の第2端26の側の電源電圧の位相とが異なる場合には、第1電流I1の交流分の位相に対する第2電流I2の交流分の位相の範囲をより狭く設定する。たとえば、送電線20の両端の電源電圧の位相が最大でα°異なっている場合には、故障方向判定部70は、第1電流I1の交流分に対する第2電流I2の交流分の位相差が-(90-α)度より大きく、+(90-α)度より小さい場合に、前方故障であると判定する。これにより、送電線20の両端の電源電圧に位相差がある場合でも正しい判定が可能である。
実施の形態4.
通信路27の伝送不良または同期処理部43の同期不良がある場合には、外部故障判定部50は正常に動作しない。したがって、外部故障発生時に動作タイマー63の動作時間T4を通信路27の伝送遅延時間に設定したとしても、距離リレー要素は誤動作する可能性がある。実施の形態4は、この問題点に対する解決手段を提示する。
[距離リレー要素の機能的構成]
図10は、実施の形態4の送電線保護リレーで実現される距離リレー要素の機能を表す機能ブロック図である。図1の送電線保護リレー30Aの動作と送電線保護リレー30Bの動作とは同様であるので、図10では送電線保護リレー30Aで実現される距離リレー要素40Dの機能を代表的に示している。なお、距離リレー要素40Dの機能は、たとえば、図2のCPU121がプログラムに従って動作することによって実現される。
具体的に、図10の距離リレー要素40Dは、故障方向判定部70の構成が図7の故障方向判定部70と異なる。図10に示すように、故障方向判定部70は、第2故障判定部60と、復帰タイマー61と、第1位相判定部71Aと、第2位相判定部71Bと、論理演算器72,73,75,76とを含む。第1位相判定部71Aと第2位相判定部71Bとによって位相判定部71が構成される。
図10の第2故障判定部60および復帰タイマー61の動作は、図5および図7の第2故障判定部60および復帰タイマー61の動作と同一である。したがって、これらには同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
第1位相判定部71Aは、送電線20の両端で電源電圧の位相がずれていることを考慮した上で、前方故障が発生しているか否かを判定する。たとえば、第1位相判定部71Aは、前述の(14A)~(14C)式に基づいて、第1電流I1に対する第2電流I2の位相差が-60°よりも大きく+60°よりも小さい範囲にあるか否かを判定する。
第2位相判定部71Bは、送電線20の両端で電源電圧の位相がずれていることを考慮した上で、後方故障が発生しているか否かを判定する。たとえば、第2位相判定部71Bは、
Δ#I1(t)×Δ#I2(t)<0 …(15A)
Δ#I1(t)×Δ#I2(t-1)<0 …(15B)
Δ#I1(t-1)×Δ#I2(t)<0 …(15C)
が全て満たされているか否かを判定する。上式(15A)~(15C)が全て満たされる場合には、第1電流I1に対する第2電流I2の位相差が+120°より大きく+240°より小さい範囲にある。(15A)~(15C)の各式が満たされているかの判定は、(11A),(11B)~(13A),(13C)式で説明したように、2サンプリング時刻または3サンプリング時刻で実行される。
論理演算器72は、復帰タイマー61の出力信号の論理値と第1位相判定部71Aの出力信号の論理値との論理積を演算する。論理演算器72の演算結果は、動作タイマー63に出力される。
論理演算器73は、復帰タイマー61の出力信号の論理値と第2位相判定部71Bの出力信号の論理値との論理積を演算する。論理演算器72の演算結果は、動作タイマー63および方向判定部42に出力される。
論理演算器75は、論理演算器72の出力信号の論理値の否定と論理演算器73の出力信号の論理値との論理積を演算する。したがって、第2故障判定部60が故障発生と判定することにより復帰タイマー61の出力が「1」となっている間で、第2位相判定部71Bが後方と判定している場合に、論理演算器75の出力は「1」になる。その他の場合に、論理演算器75の出力は「0」になる。論理演算器75の出力信号は方向判定部42に入力される。
論理演算器76は、論理演算器72の出力信号の論理値の否定と、論理演算器73の出力信号の論理値の否定と、復帰タイマー61の出力信号の論理値との論理積を演算する。したがって、第2故障判定部60が故障発生と判定することにより復帰タイマー61の出力が「1」となっている間で、第1位相判定部71Aが前方と判定せずかつ第2位相判定部71Bが後方と判定していない場合に(以下、この状態を「不定」という)、論理演算器76の出力は「1」になる。その他の場合に、論理演算器76の出力は「0」になる。論理演算器76の出力信号は方向判定部42に入力される。
距離リレー要素40Dは、さらに論理和を演算する論理演算器74を含む。実施の形態4の送電線保護リレー30Aでは、同期処理部43は、同期不良であるか否かを表す信号を論理演算器74に出力する。また、受信機132は、伝送不良であるか否かを表す信号を論理演算器74に出力する。論理演算器74は、同期不良または伝送不良である場合に「1」を出力し、同期不良でも伝送不良でもない場合に「0」を出力する。論理演算器74の論理和演算の結果は、第1位相判定部71A、第2位相判定部71B、および動作タイマー63に入力される。したがって、第1位相判定部71A、第2位相判定部71B、および動作タイマー63は、伝送不良または同期不良が生じているか否かを検知できる。
故障方向判定部70および論理演算器74の出力に基づく、方向判定部42および動作タイマー63の動作については、図12および図13を参照して後述する。図10のその他の点は図3、図5、図7で説明したものと同様であるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
[第1電流I1と第2電流I2との位相関係について]
図11は、第1電流と第2電流との位相関係について説明するための図である。図11では、第1電流I1の位相に対する第2電流I2の位相の関係が示されている。位相判定部71は、第1電流I1の位相に対する第2電流I2の位相が同相側(前方領域91)であるか、逆相側(後方領域92)であるか、または同相側と逆相側との間の中間領域(不定領域93)であるかを判定する。
具体的に、図11を参照して、前述の(14A)~(14C)式が満たされる場合、第1電流I1に対する第2電流I2の位相差は前方領域91にあると判定できる。したがって、第2故障判定部60によって故障が生じていると判定された場合には、前方故障が生じていると結論できる。
一方、前述の(15A)~(15C)式が満たされる場合、第1電流I1に対する第2電流I2の位相差は後方領域92にあると判定できる。したがって、第2故障判定部60によって故障が生じていると判定された場合には、後方故障が生じていると結論できる。
前方領域91でも後方領域92でもない場合を不定領域93と称する。送電線20の両端での電源電圧に位相差がある場合であり、かつ第1電流I1に対する第2電流I2の位相差が不定領域93にある場合、前方故障か後方故障かを確実に判定することができない。
[距離リレー要素の動作]
図12は、図10の距離リレー要素の動作を示すフローチャートである。以下、図10および図12を参照して距離リレー要素40Dの動作、特に、動作タイマー63の動作時間T4の設定および方向判定部42の制御について説明する。
図12のステップS100において、故障方向判定部70の判定結果が前方故障の場合(ステップS100でYES)、故障方向判定部70は、動作タイマー63の動作時間T4を0ミリ秒に設定する(ステップS150)。これにより、電流変成器CTの磁気飽和の影響のない前方故障の場合に、距離リレー要素40Dは、距離判定部41の出力信号と方向判定部42の出力信号とに基づいて直ちにトリップ信号を出力することができる。ステップS100でNOの場合には、処理はステップS110に進む。
次のステップS110において、故障方向判定部70の判定結果が後方故障の場合(ステップS110でYES)について説明する。この場合、故障方向判定部70は、方向判定部42のラッチ条件が成立している場合に(ステップS160でYES)、方向判定部42の判定結果を後方判定でラッチする(ステップS170)。たとえば、ラッチ条件として、現時点の第1電圧V1と現時点よりもn周期前(nは2または3程度の整数値に設定される)の第1電圧V1の係数倍との合成電圧の大きさが閾値以下になる条件が採用される。一方、ラッチ条件が成立していない場合には(ステップS160でYES)、故障方向判定部70は、方向判定部42の出力を後方判定に設定する(ロックはしない)(ステップS180)。ステップS110でNOの場合、すなわち、第1電流I1に対する第2電流I2の位相差が不定領域93にある場合には、処理はステップS120に進む。
次のステップS120において、故障方向判定部70は、伝送不良も同期不良もない場合には(ステップS120でNO)、動作タイマー63の動作時間T4を通信路27の伝送遅延時間にほぼ等しい値に設定する(ステップS190)。一方、伝送不良または同期不良がある場合には(ステップS120でYES)、故障方向判定部70は処理をステップS130に進める。
次のステップS130において、第1電流I1に対する第2電流I2の位相差が不定領域93にあって、ラッチ条件が成立している場合には(ステップS130でYES)、故障方向判定部70は、方向判定部42の判定結果を後方判定でラッチする(ステップS170)。
一方、第1電流I1に対する第2電流I2の位相差が不定領域93にあって、ラッチ条件が成立していない場合には(ステップS130でNO)、故障方向判定部70は、動作タイマー63の動作時間T4を電流変成器CTの飽和時間に設定する(ステップS140)。
図13は、図10の距離リレー要素の動作例を説明するための概念的なタイミング図である。図13のタイミング図は、後方故障(図1の故障点Fの外部故障)が生じており、かつ伝送不良または同期不良が生じている場合を示している。
図13のタイミング図は、上から順に、図10に示す距離判定部41の出力信号A0、方向判定部42の出力に基づく動作タイマー63の出力信号A1,A2、第2故障判定部60の出力に基づく復帰タイマー61の出力信号B、第1位相判定部71Aの出力信号C1、第2位相判定部71Bの出力信号C2、論理演算器74の出力信号D、論理演算器72の出力信号E1、論理演算器73の出力信号E2、電流差動判定部51の出力信号F、第1故障判定部52の出力に基づくワンショットタイマー53の出力信号G、外部故障判定部50の出力信号H、論理演算器44の出力信号I(トリップ信号TRS)の各信号波形を示している。なお、方向判定部42の出力に基づく動作タイマー63の出力信号A2は本実施の形態の場合の波形であり、出力信号A1は比較例の波形である。
図13を参照して、時刻t71に伝送不良が発生する。伝送不良中の電流差動判定部51の出力信号Fおよび第1故障判定部52の出力信号Gはいずれも「0」を示す。したがって、外部故障判定部50の出力信号Hも「0」を示す。
次の時刻t72に、図1の第2母線22の故障点Fで外部故障が発生する。これにより、距離判定部41は、算出したインピーダンスが整定値以内であることによって、送電系統15に故障が発生していると判定する。この結果、時刻t77に、距離判定部41の出力信号A0は「0」から「1」に切り替わる。
時刻t72の外部故障の発生により、第2故障判定部60は、時刻t73に第1電流I1および第2電流I2の急変を検出する。その後、時刻t75までの0.5サイクルの間、第2故障判定部60の出力信号Bは「1」である。さらに、復帰タイマー61は、復帰時間T5の間、出力信号Bを「1」に維持した後、時刻t61に出力信号Bを「0」に切り替える。
また、時刻t73に、第1位相判定部71Aは時刻t73に前方故障でないと判定し、第2位相判定部71Bは後方故障であると判定する。これにより、第1位相判定部71Aの出力信号C1および論理演算器72の出力信号E1は「0」のままであるが、第2位相判定部71Bの出力信号C2および論理演算器73の出力信号E2は「0」から「1」に切り替わる。ただし、この時点で方向判定部42のラッチ条件は成立していないので、故障方向判定部70は方向判定部42の出力信号A2を「0」(後方判定)にするが、ロックはしない(図12のステップS180)。
次の時刻t74に、第2電流変成器CT2に磁気飽和が発生し、第1電流I1と第2電流I2との位相差が不定領域93領域まで進む。これにより、第2位相判定部71Bの出力信号C2および論理演算器73の出力信号E2は「1」から「0」に切り替わる。さららに、故障方向判定部70は、動作タイマー63の動作時間T4を電流変成器CTの磁気飽和の減衰時間(すなわち、CT飽和時間)に設定する(図12のステップS140)。
時刻t72の外部故障の発生により、方向判定部42は、当初は後方故障であると判定し、その出力信号は「0」になる。第2電流変成器CT2の磁気飽和が発生すると、方向判定部42は前方故障であると誤判定するために、時刻t76に方向判定部42の出力信号は「0」から「1」に切り替わる(信号波形A1を参照)。これにより、動作タイマー63の出力信号A2は、動作時間T4の経過後の時刻t79に「1」に切り替わるように徐々に増加する。ここで、動作時間T4は、CT飽和時間に設定されている。
時刻t78に、交流の故障電流の極性が切り替わるために、第2電流変成器CT2の磁気飽和は一旦解消する。これにより、方向判定部42の出力に基づく動作タイマー63の出力信号A2は「0」に戻る。このように、動作タイマー63の動作時間T4をCT飽和時間に設定することによって、CT飽和による距離リレー要素40Dの誤動作を防止できる。
時刻t80に、第2電流変成器CT2の磁気飽和の発生により、方向判定部42の出力信号は「0」から「1」に切り替わる(信号波形A1を参照)。これにより、動作タイマー63の出力信号A2は、動作時間T4の経過後に「1」に切り替わるように徐々に増加する。
時刻t81に、方向判定部42においてラッチ条件が成立する。この時刻t81において、位相判定部71の判定結果は不定状態であるので(すなわち、出力信号E1,E2は共に「0」かつ復帰タイマー61の出力信号Bは「1」)、方向判定部42の出力信号は「0」(後方判定)にロックされる(図12のステップS170)。
最終的な距離リレー要素40Dの出力信号(論理演算器44の出力信号I)の論理値は、距離判定部41の出力信号A0の論理値と、方向判定部42の出力に基づく動作タイマー63の出力信号A2の論理値と、外部故障判定部50の出力信号Hの論理値の否定との論理積である。伝送不良が発生しているために、外部故障判定部50の出力信号Hは「0」に固定されている。また、上述のように、故障方向判定部70は、第2電流変成器CT2の磁気飽和によって方向判定部42が誤動作しないように制御している。したがって、距離リレー要素40Dの出力信号Hはローレベルに維持され、トリップ信号は出力されない。
[実施の形態4の効果]
上記の実施の形態4によれば、送電線20の両端の電源電圧の位相差のために、自端の電流のみでは、前方とも後方とも判断できない場合は、不定と判断する。そして、通信路27の伝送不良および同期処理部43の同期不良が生じていない場合であり、かつ第1電流I1および第2電流I2の位相関係が不定の場合には、動作タイマー63の動作時間T4が伝送遅延時間に設定される。これにより、距離リレー要素40Dの不要動作を防止できる。
一方、通信路27の伝送不良または同期処理部43の同期不良が生じている場合であり、かつ第1電流I1および第2電流I2の位相関係が不定の場合には、外部故障判定部50が正常動作しないので、動作タイマー63の動作時間T4を通信路27の伝送遅延時間に設定しても誤動作する可能性がある。そこで、この場合において、ラッチ条件が成立していない場合には、動作タイマー63の動作時間T4がCT飽和時間に設定される。これにより、電流変成器CTの磁気飽和している間には、方向判定部42の出力が「0」から「1」に切り替わることはないので、距離リレー要素40Dの誤動作を防止できる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。