本発明の赤外線透過ガラスは、モル%で、Ge 0超~50%、Ga 0超~50%、Ag 0~50%、Te 30~90%、Si+Al+Ti+Cu+In+Sn+Bi+Cr+Sb+Zn+Mn+Cs 0~40%、及び、F+Cl+Br+I 0~40%を含有する。このようにガラス組成を規定した理由を以下に説明する。なお、以下の各成分の含有量の説明において、特に断りのない限り、「%」は「モル%」を意味する。
Geは、ガラス骨格を形成するための必須成分である。Geの含有量は0超~50%であり、2~40%、4~35%、5~30%、7~25%、特に10~20%であることが好ましい。Geの含有量が少なすぎると、ガラス化しにくくなる。一方、Geの含有量が多すぎると、Ge系結晶が析出して赤外線が透過しにくくなるとともに、原料コストが高くなる傾向がある。
Gaは、ガラスの熱的安定性(ガラス化の安定性)を高める必須成分である。Gaの含有量は0超~50%であり、1~45%、2~40%、4~30%、5~25%、特に5~20%であることが好ましい。Gaの含有量が少なすぎると、ガラス化しにくくなる。一方、Gaの含有量が多すぎると、Ga系結晶が析出して赤外線が透過しにくくなるとともに、原料コストが高くなる傾向がある。
Agは、ガラスの熱的安定性(ガラス化の安定性)を高める必須成分である。また、後述するTeブツの発生を抑制する効果が高い成分でもある。Agの含有量は0~50%であり、1~45%、2~40%、2~30%、3~20%、特に3~10%であることが好ましい。Agの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。
カルコゲン元素であるTeはガラス骨格を形成する必須成分である。Teの含有量は30~90%であり、40~89%、50~88%、60~86%、特に70~85%であることが好ましい。Teの含有量が少なすぎると、ガラス化しにくくなる。一方、Teの含有量が多すぎるとTe系結晶が析出して赤外線が透過しにくくなる。
なお、ガラス化の安定性を高める観点からは、Ge、Ga及びTeの含有量の合量が多いことが好ましい。具体的には、Ge+Ga+Teが50%以上であることが好ましく、60%以上、70%以上、特に80%以上であることが好ましい。ただし、他成分を導入するために、Ge+Ga+Teの上限値については98%以下、96%以下、特に95%以下としてもよい。
Si、Al、Ti、Cu、In、Sn、Bi、Cr、Sb、Zn、Mn、Csは赤外線透過特性を低下させることなく、ガラスの熱的安定性を高める成分である。Si+Al+Ti+Cu+In+Sn+Bi+Cr+Sb+Zn+Mn+Csの含有量は0~40%であり、0~30%、0~20%、特に0.1~10%であることが好ましい。Si+Al+Ti+Cu+In+Sn+Bi+Cr+Sb+Zn+Mn+Csの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。なお、Si、Al、Ti、Cu、In、Sn、Bi、Cr、Sb、Zn、Mn、Csの各成分の含有量は、各々0~40%、0~30%、0~20%、特に0.1~10%であることが好ましい。なかでもガラスの熱的安定性を高める効果が特に大きいという点でSnを使用することが好ましい。Snの含有量は0~40%、0~30%、0~20%、0.1~15%、特に0.1~10%であることが好ましい。一方で、これらの成分に起因する不純物(例えば、SiO2、Al2O3)が混入すると、赤外域における光透過性が低下する恐れがある。そのため、不純物の混入を避けるという観点からは、Si、Al、Ti、Cu、In、Sn、Bi、Cr、Sb、Zn、Mn、Csの各成分の含有量は、各々5%以下、3%以下、1%以下であることが好ましく、実質的に含有しないことが好ましい。ここで、「実質的に含有しない」とは、意図的に原料中に含有させないという意味であり、不純物レベルの混入を排除するものではない。客観的には、各成分の含有量が0.1%未満であることが好ましい。
F、Cl、Br、Iもガラスの熱的安定性を高める成分である。F+Cl+Br+Iの含有量は0~40%であり、0~20%、特に0.1~10%であることが好ましい。F+Cl+Br+Iの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなるとともに、耐候性が低下しやすくなる。なお、F、Cl、Br、Iの各成分の含有量は、各々0~40%、0~20%、特に0.1~10%であることが好ましい。なかでもIは、元素原料を使用可能であり、ガラスの熱的安定性を高める効果が特に大きいという点で好ましい。Iの含有量は0~40%、0~20%、0.1~15%、特に0.1~10%であることが好ましい。一方で、特に耐候性の高いガラスを得るという観点からは、F+Cl+Br+Iの含有量は、各々5%以下、3%以下、1%以下であることが好ましく、実質的に含有しないことが好ましい。
本発明の赤外線透過ガラスには、上記成分以外にも下記の成分を含有させることができる。
Se、Asはガラス化範囲を広げ、ガラスの熱安定性を高める成分である。その含有量は各々0~10%、特に0~5%であることが好ましい。ただし、これらの物質は毒性を有するため、環境や人体への影響を低減する観点からは実質的に含有しないことが好ましい。
なお、本発明の赤外線透過ガラスは有毒物質であるCd、Tl及びPbを実質的に含有しないことが好ましい。このようにすれば、環境面への影響を最小限に抑えることができる。
本発明の赤外線透過ガラスは、長径500μm以上のブツが存在しない。赤外線透過ガラス中にブツが存在するとしても、その長さは500μm未満であり、200μm以下、100μm以下、50μm以下、特に10μm以下であることが好ましい。このようにすれば、赤外線透過特性の低下を抑制することができる。なお、原料表面に付着した酸素に起因してGaが酸化されて発生するGa2O3がブツになりやすいため、後述する方法により当該ブツの発生を抑制することが好ましい。
本発明の赤外線透過ガラスは、多重散乱を引き起すGa2O3のブツが存在しないため、内部透過率が高くなりやすい。具体的には、波長12μmにおける内部透過率が90%以上であり、92%以上、95%以上、97%以上、特に99%以上であることが好ましい。内部透過率が低すぎると、赤外線に対する感度に劣り、赤外線センサーが十分に機能しないおそれがある。
また、ガラス中でTeは0価(Te0)又は-2価(Te2-)のいずれかの形態をとり得るが、ガラス中にTeがTe0の状態で存在する場合、長径1μm程度の微小なTeブツが発生しやすくなる。そのため、内部透過率をより高めるためには、ガラス中のTeがTe2-の状態で存在することが好ましい。具体的には、全Teに対するTe2-の存在比率が、モル%で、0%超であることが好ましく、1%以上、5%以上、10%以上、15%以上、特に30%以上であることが好ましい。このようにすれば、微小なTeブツの発生を抑制しやすくなり、内部透過率を更に向上させやすくなる。なお、全Teに対するTe2-の存在比率の上限値は、現実的には、90%以下、80%以下、70%以下、特に60%以下である。
本発明の赤外線透過ガラスは波長約8~18μmにおける赤外線透過率に優れる。赤外線透過率を評価するための指標として、赤外吸収端波長が挙げられる。赤外吸収端波長が大きいほど、赤外線に対する感度に優れると判断できる。本発明の赤外透過ガラスは、厚み2mmでの赤外吸収端波長が20μm以上、特に21μm以上であることが好ましい。
本発明の赤外線透過ガラスは、例えば以下のようにして作製することができる。上記のガラス組成となるように、原料を混合し、原料バッチを得る。次に、石英ガラスアンプルを加熱しながら真空排気した後、原料バッチを入れ、酸素バーナーで石英ガラスアンプルを封管する。次に、封管された石英ガラスアンプルを溶融炉内で10~40℃/時間の速度で650~1000℃まで昇温後、6~12時間保持する。保持時間中、必要に応じて、石英ガラスアンプルの上下を反転し、溶融物を攪拌する。また、原料をあらかじめ還元ガス中で焼成するなど製法過程で還元処理を行うことで、赤外線透過特性を低下させるGa2O3のブツが発生しにくくなる。ここで、還元ガスとしては、N2-H2混合ガス、CO、H2S、N2O、SO2、NH3等を用いることができるが、安価で安全性が高いという理由から、N2-H2混合ガスを用いることが好ましい。
続いて、石英ガラスアンプルを溶融炉から取り出し、室温まで急冷することにより本発明の赤外線透過ガラスを得る。
このようにして得られた赤外線透過ガラスを所定形状(円盤状、レンズ状等)に加工することにより、光学素子を作製することができる。
透過率の向上を目的として、光学素子の片面又は両面に、反射防止膜を形成しても構わない。反射防止膜の形成方法としては、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等が挙げられる。
なお、赤外線透過ガラスに反射防止膜を形成した後、所定形状に加工しても構わない。ただし、加工工程において反射防止膜の剥離が生じやすくなるため、特段の事情がない限り、赤外線透過ガラスを所定形状に加工した後に、反射防止膜を形成することが好ましい。
本発明の赤外線透過ガラスは、赤外線透過率に優れるため、赤外線センサーのセンサー部を保護するためのカバー部材や、赤外線センサー部に赤外光を集光させるためのレンズ等の光学素子として好適である。
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1~3は本発明の実施例及び比較例をそれぞれ示している。
実施例1~28、比較例1の試料は次のようにして作製した。石英ガラスアンプルを加熱しながら真空排気した後、還元ガス中で焼成後、表に示すガラス組成となるように調合した原料バッチを入れた。次に、石英ガラスアンプルを酸素バーナーで封管した。次いで、封管された石英ガラスアンプルを溶融炉内で10~40℃/時間の速度で650~1000℃まで昇温後、6~12時間保持した。保持時間中、石英ガラスアンプルの上下を反転し、溶融物を攪拌した。続いて、石英ガラスアンプルを溶融炉から取り出し、室温まで急冷することにより試料を得た。
比較例2の試料は、原料を還元ガス中で焼成する工程を省いたこと以外は、上記と同様にして試料を得た。
得られた試料についてX線回折を行い、その回折スペクトルからガラス化しているかどうかを確認した。表中には、ガラス化しているものは「○」、ガラス化していないものは「×」として表記した。また、各試料について、赤外吸収端波長、内部透過率、及びブツを測定、又は評価した。
赤外吸収端波長は、厚み2mm±0.1mmの研磨された各試料について、光透過率を測定し、赤外吸収端波長を求めた。
内部透過率は、厚さ2mm±0.1mmおよび10mm±0.1mmの研磨された各試料について、表面反射損失を含む透過率を測定し、得られた測定値から波長12μmにおける内部透過率を算出した。
ブツは次のようにして評価した。得られた試料を波長1μmの赤外光を用いたシャドウグラフ法にて内部観察を行った。長径500μm以上のブツが観察されなかったものを「○」、500μm以上のブツが観察されたものを「×」とした。
また、ガラス中に存在するTe2-の存在比率は、XANESスペクトルを測定し、線形フィッティングを行うことにより推定した。
表に示すように、実施例1~28の試料はガラス化していることが確認され、長径500μm以上のブツが観察されなかった。また、赤外吸収端波長が24.1~24.4μmであり、波長12μmにおける内部透過率が95%以上と高く良好な赤外透過特性を示した。なお、実施例1、2では、TeがTe2-の状態で48~50モル%と多くガラス中に存在しており、Te2-の存在比率が0%である実施例6と比較して内部透過率に優れていることが分かる。
一方、比較例1の試料はガラス化しておらず、波長2~24μmの範囲で透過率がほぼ0%であった。比較例2の試料は、長径500μm以上のブツが観察され、波長12μmにおける内部透過率が88%と低かった。