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JP7694582B2 - 鉛蓄電池 - Google Patents
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Description

本発明は、鉛蓄電池に関する。
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池には、負極板、正極板、セパレータ(またはマット)、および電解液などが含まれる。各極板は、集電体と、電極材料とを備える。
正極集電体について、特許文献1は、チタンまたはチタン合金からなり、少なくとも一方の表面の表面粗さが0.05<Ra<1.0、0.3<Ry<7.0であることを特徴とする鉛蓄電池正極集電体用箔を提案している。
特許文献2は、第一の面および該第一の面に対向する第二の面を有する正極ならびに第一の面および該第一の面に対向する第二の面を有する負極であって、該正極および負極の各々が電解液中に浸漬されている、正極および負極と、該正極および負極の少なくとも一方の、該第一および第二の面の少なくとも一方を、少なくとも部分的に覆っている繊維貼付マットとを含み、該繊維貼付マットは、サイズ組成物(a sizing composition)で被覆された複数の繊維と、バインダ組成物(a binding composition)と、1種以上の添加剤とを含む鉛蓄電池を開示している。特許文献2は、該添加剤が、ゴム添加剤、ゴム誘導体、アルデヒド、アルデヒド誘導体、金属塩、脂肪アルコールエチオキシレート(末端OH基を有するアルコキシル化アルコール)、エチレン-プロピレンオキサイドブロックコポリマー、硫酸エステル(アルキルサルフェートおよびアルキルエーテルサルフェート)、スルホン酸エステル(アルキルおよびオレフィンスルホネート)、リン酸エステル、スルホサクシネート、ポリアクリル酸、ポリアスパラギン酸、パーフルオロアルキルスルホン酸、ポリビニルアルコール、リグニン、リグニン誘導体、フェノールホルムアルデヒド樹脂、セルロース、および木粉のうちの1種以上を含み、該添加剤が、該鉛蓄電池における水分損失を減じる、前記鉛蓄電池を提案している。
特開2003-242983号公報 特表2017-525092号公報
鉛蓄電池が寿命に至る要因として、充放電の繰り返しにより正極活物質が軟化により脱落し、寿命に至る場合が知られている。特に、深放電と充電とが繰り返される場合、軟化により脱落したモス(moss)状の正極活物質がガス発生によって巻き上げられ、極板群上部に堆積することにより生じる短絡(以降において、「モス(moss)短絡」と称する)が発生し、寿命に至る場合がある。鉛蓄電池が深放電状態に至るまで放電される使用形態においても、長寿命の鉛蓄電池を実現するためには、このモス(moss)短絡を効果的に抑制する必要がある。
本発明の一側面に係る鉛蓄電池は、負極板と、正極板と、電解液と、を備え、前記負極板は、負極電極材料を備え、前記正極板は、正極集電体と、正極電極材料と、を備え、前記負極電極材料は、重クロロホルムを溶媒として用いて測定されるH-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有するポリマー化合物を含み、前記負極電極材料に占める前記ポリマー化合物の含有量は、質量基準で、600ppm以下であり、前記正極集電体の表面の算術平均粗さRaが2μm以上である。
本発明の他の側面に係る鉛蓄電池は、負極板と、正極板と、電解液と、を備え、前記負極板は、負極電極材料を備え、前記正極板は、正極集電体と、正極電極材料と、を備え、前記負極電極材料は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物を含み、前記負極電極材料に占める前記ポリマー化合物の含有量は、質量基準で、600ppm以下であり、前記正極集電体の表面の算術平均粗さRaが2μm以上である。
本発明の一側面に係る鉛蓄電池の外観と内部構造を示す、一部を切り欠いた分解斜視図である。 実施例および比較例の鉛蓄電池について、ポリマー化合物の含有量を変化させたときの深放電サイクル数の変化をプロットしたグラフである。 実施例および比較例の鉛蓄電池について、正極集電体の表面粗さRaを変化させたときの深放電サイクル数の変化をプロットしたグラフである。
本発明の一側面は、鉛蓄電池であって、負極板と、正極板と、電解液と、を備える。負極板は、負極電極材料を備える。正極板は、正極集電体と、正極電極材料と、を備える。負極電極材料は、重クロロホルムを溶媒として用いて測定されるH-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有するポリマー化合物を含む。負極電極材料に占めるポリマー化合物の含有量は、質量基準で、600ppm以下である。正極集電体の表面の算術平均粗さRaが2μm以上である。
なお、上記のH-NMRスペクトルにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下のケミカルシフトの範囲に現れるピークは、オキシC2-4アルキレンユニットに由来する。
鉛蓄電池において、正極活物質の軟化および脱落は、充放電により正極活物質粒子間の結合が弱まるとともに、正極活物質と正極集電体間の密着性が低下し、正極電極材料が正極集電体から剥がれ易くなるためと考えられる。そこで、正極集電体の表面粗さを適度に粗くすることで、活物質と集電体間の密着性を向上させて、正極活物質の脱落を抑制することが考えられる。しかしながら、正極集電体の表面粗さを粗くすることで正極活物質の脱落をある程度抑制できるが、ガス発生量は変化しないため、モス(moss)短絡を抑制する効果は小さい。
一方で、モス(moss)短絡は、軟化脱落したモス(moss)状の正極活物質が、過充電状態もしくは満充電に近い状態で発生するガスによって極板群の上部へ巻き上げられることで生じる。このため、例えば負極電極材料にガス発生を抑制する材料を添加しておくなど、ガス発生を抑制することによって、モス(moss)短絡は抑制され得る。しかしながら、負極電極材料にガス発生を抑制する材料を添加しても、正極活物質と集電体間の密着性は変化しないため、モス(moss)短絡を抑制する効果は小さいと考えられた。
しかしながら、本願発明者らは、鋭意研究により、正極集電体の表面を粗面化するとともに、ポリマー化合物を負極電極材料に添加することで、正極集電体の表面粗さRaが2μm以上の場合に、モス(moss)短絡が相乗的に抑制され、深放電サイクル寿命が劇的に改善することを見出した。このような知見は、文献に記載がなく、示唆もされていない。
正極集電体の表面粗さRaは、密着性を向上し、剥がれを抑制する観点から、2μm以上であればよく、4μm以上が好ましい。一方で、正極集電体の表面粗さRaは、正極集電体の表面積が増大することにより電解液との接触面積が大きくなり、正極集電体の腐食が進行し易くなるのを抑制する点で、50μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。上記の上限および下限は任意に組み合わせることができる。なお、正極集電体の表面粗さRaは、鉛蓄電池から正極板を取り出し、後述するように、正極電極材料を除去して正極集電体の表面を露出させた正極板に対して、表面粗さ計を用いて正極集電体の表面の所定の領域における算術平均粗さRaを測定することにより求められる。
本発明の他の一側面は、鉛蓄電池であって、負極板と、正極板と、電解液と、を備える。負極板は、負極電極材料を備える。正極板は、正極集電体と、正極電極材料と、を備える。負極電極材料は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物を含む。負極電極材料に占めるポリマー化合物の含有量は、質量基準で、600ppm以下である。正極集電体の表面の算術平均粗さRaが2μm以上である。この構成においても、ポリマー化合物を負極電極材料に添加することで、モス(moss)短絡が効果的に抑制され、深放電サイクル寿命が劇的に改善する。
本発明の一側面および他の一側面に係る鉛蓄電池において、ポリマー化合物の添加により高い深放電寿命性能が得られるのは、次のような理由によるものと考えられる。
ポリマー化合物が、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有することで線状構造を取り易いことから、負極電極材料内において、鉛の表面をポリマー化合物で薄く広く覆うことができる。鉛表面の広範囲な領域で、ポリマー化合物により鉛の表面が覆われることで水素過電圧が上昇する。これにより充電受入性が向上するとともに、過充電時もしくは充電時に水素が発生する副反応が起こり難くなる。よって、ガス発生が抑制されるため、深放電と充電を繰り返した場合においてもモス(moss)短絡が起こり難くなる。また、ごく僅かな量のポリマー化合物でも、水素発生反応の低減効果が得られることから、ポリマー化合物を負極電極材料中に含有させることで、鉛の近傍に存在させることができ、これにより、オキシC2-4アルキレンユニットの鉛に対する高い吸着作用が発揮され得る。加えて、正極集電体の表面粗さRaを2μm以上とすることにより、モス(moss)短絡が相乗的に抑制され、顕著に高い深放電寿命性能が得られる。
上記のようなポリマー化合物による効果は、鉛の表面をポリマー化合物が覆うことにより発揮される。そのため、ポリマー化合物を鉛の近傍に存在させることが重要であり、これにより、ポリマー化合物の効果を有効に発揮させることができる。よって、負極電極材料以外の鉛蓄電池の構成要素にポリマー化合物が含まれているか否かに拘わらず、負極電極材料がポリマー化合物を含有していることが重要である。
負極電極材料に占めるポリマー化合物の含有量は、600ppm以下が好ましい。この場合、鉛の表面を覆うポリマー化合物の皮膜が厚くなり、充電受入性が逆に低下する虞を低減できる。負極電極材料に占めるポリマー化合物の含有量は、質量基準で、30ppm以上500ppm以下としてもよい。本発明のこれらの側面によれば、ポリマー化合物の含有量がこの範囲であると、深放電サイクル寿命の改善効果がより顕著である。
ここで、本発明のこれらの側面に係る鉛蓄電池では、ポリマー化合物は、末端基に結合した酸素原子と、酸素原子に結合した-CH-基および/または-CH<基とを含んでもよい。H-NMRスペクトルにおいて、3.2ppm~3.8ppmのピークの積分値と、酸素原子に結合した-CH-基の水素原子のピークの積分値と、酸素原子に結合した-CH<基の水素原子のピークの積分値との合計に占める3.2ppm~3.8ppmのピークの積分値の割合は、85%以上であることが好ましい。このようなポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットを分子中に多く含む。そのため、ポリマー化合物が、鉛に吸着し易くなるとともに、さらに線状構造を取り易くなることで、鉛表面を薄く覆い易くなると考えられる。よって、ガス発生量が低減され易く、深放電サイクル寿命の改善効果を高めることができる。
ここで、H-NMRスペクトルにおいて、3.2ppm~3.8ppmのケミカルシフトの範囲にピークを有するポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含んでもよい。本発明のこれらの側面によれば、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物を用いる場合、ポリマー化合物が鉛に対してより吸着し易くなるとともに、線状構造を取り易いことで鉛表面を薄く覆い易くなると考えられる。よって、ガス発生量がより低減され易く、深放電サイクル寿命の改善効果をさらに高めることができる。
ここで、ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物、ヒドロキシ化合物のエーテル化物、およびヒドロキシ化合物のエステル化物からなる群より選択される少なくとも一種を含み、ヒドロキシ化合物は、ポリC2-4アルキレングリコール、オキシC2-4アルキレンの繰り返し構造を含む共重合体、およびポリオールのポリC2-4アルキレンオキサイド付加物からなる群より選択される少なくとも一種であってもよい。本発明のこれらの側面によれば、このようなポリマー化合物を用いる場合に、ガス発生量が一層低減され易く、深放電サイクル寿命の改善効果が高い。
ポリマー化合物は、オキシプロピレンユニット(-O-CH(-CH)-CH-)の繰り返し構造を含んでもよい。このようなポリマー化合物は、鉛に対する高い吸着性を有しながらも、鉛表面に厚く付着することが抑制され、これらのバランスに優れていると考えられる。よって、ガス発生量をより効果的に低減することができるとともに、深放電サイクル寿命の改善効果をさらに高めることができる。
ポリマー化合物は、1つ以上の疎水性基を有し、疎水性基の少なくとも1つは、炭素数が8以上の長鎖脂肪族炭化水素基であってもよい。このような疎水性基の作用により、鉛表面へのポリマー化合物の過度な被覆が抑制され、充電受入性の低下の抑制とガス発生量の低減とを両立させ易い。
ポリマー化合物は、オキシエチレンユニットの繰り返し構造を含むことが好ましい。ポリマー化合物が高い親水性を有するオキシエチレンユニットの繰り返し構造を含むことにより、鉛に対してポリマー化合物を選択的に吸着させることができる。疎水性基と親水性基とのバランスにより、ガス発生量をより効果的に低減することができるとともに、深放電サイクル寿命の改善効果をさらに高めることができる。このようなポリマー化合物として、オレイン酸ポリエチレングリコール、ジラウリン酸ポリエチレングリコール、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、ジオレイン酸ポリエチレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種を用いてもよい。
なお、鉛蓄電池において、ポリマー化合物を負極電極材料中に含有させることができればよく、負極電極材料に含まれるポリマー化合物の由来は特に制限されない。ポリマー化合物は、鉛蓄電池を作製する際に、鉛蓄電池の構成要素(例えば、負極板、正極板、電解液、およびセパレータ)のいずれに含有させてもよい。ポリマー化合物は、1つの構成要素に含有させてもよく、2つ以上の構成要素(例えば、負極板および電解液)に含有させてもよい。
鉛蓄電池は、制御弁式(密閉式)鉛蓄電池(VRLA型鉛蓄電池)および液式(ベント式)鉛蓄電池のいずれでもよい。
本明細書中、正極集電体の表面粗さ、負極電極材料の平均細孔径、負極電極材料中のポリマー化合物および有機防縮剤のそれぞれの含有量、ならびに負極電極材料のかさ密度は、満充電状態の鉛蓄電池から取り出した負極板について求められる。
(用語の説明)
(電極材料)
負極電極材料および正極電極材料の各電極材料は、通常、集電体に保持されている。電極材料とは、極板から集電体を除いた部分である。極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材(貼付部材とも称する)は極板と一体として使用されるため、極板に含まれるものとする。極板が貼付部材(マット、ペースティングペーパなど)を含む場合には、電極材料は、極板から集電体および貼付部材を除いた部分である。
なお、正極板のうち、クラッド式正極板は、複数の多孔質のチューブと、各チューブ内に挿入される芯金(spine)と、複数の芯金(spine)を連結する集電部と、芯金(spine)が挿入されたチューブ内に充填される正極電極材料と、複数のチューブを連結する連座(spine protector)とを備えている。クラッド式正極板では、正極電極材料は、チューブ、芯金(spine)、集電部、および連座(spine protector)を除いたものである。クラッド式正極板では、芯金(spine)と集電部とを合わせて正極集電体と称する場合がある。
(表面粗さ)
正極集電体の表面粗さRaは、JIS B 0601:2001にて定義される算術平均粗さRaである。算術平均粗さRaは、下記の手順で鉛蓄電池の正極板から正極電極材料を除去し、表面を露出させた正極集電体について、表面粗さ計を用いて測定される。例えば、(株)キーエンス社製「VK-X100 LASER MICROSCOPE」を用いて、算術平均粗さRaを測定することができる。
先ず、鉛蓄電池を解体して正極板を取り出す。取り出した正極板をマンニット処理し、正極板から正極電極材料を除去する。その後、水洗により、正極電極材料が除去された正極集電体を得る。
正極集電体を上下方向および左右方向にそれぞれ3つに分け、合計で9個の領域に区分する(上記9個の領域に分割するために、正極板を必ずしも切断する必要はない)。9個の領域のそれぞれについて、比較的平坦な少なくとも一箇所の測定対象箇所を任意に選択し、測定対象箇所における表面の算術平均粗さRaを測定する。上記の方法で測定された9箇所以上の算術平均粗さRaの平均値を、正極集電体の表面粗さRaとする。測定対象箇所は、集電体の横骨に相当する部分および縦骨に相当する部分も含める。
(ポリマー化合物)
ポリマー化合物は、下記の(i)および(ii)の少なくとも一方の条件を充足する。
条件(i)
ポリマー化合物は、重クロロホルムを溶媒として用いて測定されるH-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有する。
条件(ii)
ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含む。
上記(i)において、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲のピークは、オキシC2-4アルキレンユニットに由来するものである。つまり、条件(ii)を充足するポリマー化合物は、条件(i)を充足するポリマー化合物でもある。条件(i)を充足するポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニット以外のモノマーユニットの繰り返し構造を含んでもよく、ある程度の分子量を有すればよい。上記(i)または(ii)を充足するポリマー化合物の数平均分子量(Mn)は、例えば、300以上であってもよい。
(オキシC2-4アルキレンユニット)
オキシC2-4アルキレンユニットは、-O-R-(RはC2-4アルキレン基を示す。)で表されるユニットである。
(有機防縮剤)
有機防縮剤とは、鉛蓄電池の充放電を繰り返したときに負極活物質である鉛の収縮を抑制する機能を有する化合物のうち、有機化合物を言う。
(数平均分子量)
本明細書中、数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により求められる。Mnを求める際に使用する標準物質は、ポリエチレングリコールとする。
(満充電状態)
液式の鉛蓄電池の満充電状態とは、JIS D 5301:2019の定義によって定められる。より具体的には、25℃±2℃の水槽中で、定格容量として記載の数値(単位をAhとする数値)の0.2倍の電流(A)で、15分ごとに測定した充電中の端子電圧(V)または20℃に温度換算した電解液密度が3回連続して有効数字3桁で一定値を示すまで、鉛蓄電池を充電した状態を満充電状態とする。また、制御弁式の鉛蓄電池の場合、満充電状態とは、25℃±2℃の気槽中で、定格容量に記載の数値(単位をAhとする数値)の0.2倍の電流(A)で、2.23V/セルの定電流定電圧充電を行い、定電圧充電時の充電電流が定格容量に記載の数値(単位をAhとする数値)の0.005倍の値(A)になった時点で充電を終了した状態である。
満充電状態の鉛蓄電池は、既化成の鉛蓄電池を満充電した鉛蓄電池をいう。鉛蓄電池の満充電は、化成後であれば、化成直後でもよく、化成から時間が経過した後に行ってもよい(例えば、化成後で、使用中(好ましくは使用初期)の鉛蓄電池を満充電してもよい)。使用初期の電池とは、使用開始後、それほど時間が経過しておらず、ほとんど劣化していない電池をいう。
(鉛蓄電池または鉛蓄電池の構成要素の上下方向)
本明細書中、鉛蓄電池または鉛蓄電池の構成要素(極板、電槽、セパレータなど)の上下方向は、鉛蓄電池が使用される状態において、鉛蓄電池の鉛直方向における上下方向を意味する。正極板および負極板の各極板は、外部端子と接続するための耳部を備えている。横置き型の制御弁式鉛蓄電池など、耳部が、極板の側部に側方に突出するように設けられることもあるが、多くの鉛蓄電池では、耳部は、通常、極板の上部に上方に突出するように設けられている。
以下、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池について、主要な構成要件ごとに説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されない。
[鉛蓄電池]
(負極板)
負極板は、通常、負極電極材料に加え、負極集電体を備える。
(負極集電体)
負極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工または打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。負極集電体として格子状の集電体を用いると、負極電極材料を担持させ易いため好ましい。
負極集電体に用いる鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金のいずれであってもよい。これらの鉛もしくは鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。負極集電体は、表面層を備えていてもよい。負極集電体の表面層と内側の層とは組成が異なってもよい。表面層は、負極集電体の一部に形成されていてもよい。表面層は、負極集電体の耳部に形成されていてもよい。耳部の表面層は、SnまたはSn合金を含有するものであってもよい。
(負極電極材料)
負極電極材料は、上記のポリマー化合物とを含む。負極電極材料は、さらに、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(具体的には、鉛もしくは硫酸鉛)を含んでいる。負極電極材料は、有機防縮剤をさらに含んでいてもよい。負極電極材料は、炭素質材料および他の添加剤からなる群より選択される少なくとも1つを含んでもよい。添加剤としては、硫酸バリウム、繊維(樹脂繊維など)などが挙げられるが、これらに限定されない。なお、充電状態の負極活物質は、海綿状鉛であるが、未化成の負極板は、通常、鉛粉を用いて作製される。
(ポリマー化合物)
ポリマー化合物は、H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有する。このようなポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットを有する。オキシC2-4アルキレンユニットとしては、オキシエチレンユニット、オキシプロピレンユニット、オキシトリメチレンユニット、オキシ2-メチル-1,3-プロピレンユニット、オキシ1,4-ブチレンユニット、オキシ1,3-ブチレンユニットなどが挙げられる。ポリマー化合物は、このようなオキシC2-4アルキレンユニットを一種有していてもよく、二種以上有していてもよい。
ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むことが好ましい。繰り返し構造は、一種のオキシC2-4アルキレンユニットを含むものであってもよく、二種以上のオキシC2-4アルキレンユニットを含むものであってもよい。ポリマー化合物には、一種の上記繰り返し構造が含まれていてもよく、二種以上の上記繰り返し構造が含まれていてもよい。
オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するポリマー化合物には、界面活性剤(より具体的には、ノニオン界面活性剤)に分類されるポリマー化合物も包含される。
ポリマー化合物としては、例えば、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物(ポリC2-4アルキレングリコール、オキシC2-4アルキレンの繰り返し構造を含む共重合体、ポリオールのポリC2-4アルキレンオキサイド付加物など)、これらのヒドロキシ化合物のエーテル化物またはエステル化物などが挙げられる。
共重合体としては、異なるオキシC2-4アルキレンユニットを含む共重合体などが挙げられる。共重合体は、ブロック共重合体であってもよい。
ポリオールは、脂肪族ポリオール、脂環式ポリオール、芳香族ポリオール、および複素環式ポリオールなどのいずれであってもよい。ポリマー化合物が鉛表面に薄く広がり易い観点からは、脂肪族ポリオール、脂環式ポリオール(例えば、ポリヒドロキシシクロヘキサン、ポリヒドロキシノルボルナン)などが好ましく、中でも脂肪族ポリオールが好ましい。脂肪族ポリオールとしては、例えば、脂肪族ジオール、トリオール以上のポリオール(例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、糖または糖アルコール)などが挙げられる。脂肪族ジオールとしては、炭素数が5以上のアルキレングリコールなどが挙げられる。アルキレングリコールは、例えば、C5~14アルキレングリコールまたはC5-10アルキレングリコールであってもよい。糖または糖アルコールとしては、例えば、エリスリトール、キシリトール、マンニトール、ソルビトールなどが挙げられる。糖または糖アルコールは、鎖状構造および環状構造のいずれであってもよい。ポリオールのポリアルキレンオキサイド付加物においては、アルキレンオキサイドは、ポリマー化合物のオキシC2-4アルキレンユニットに相当し、少なくともC2-4アルキレンオキサイドを含む。ポリマー化合物が線状構造を取り易い観点からは、ポリオールはジオールであることが好ましい。
エーテル化物は、上記のオキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物の少なくとも一部の末端の-OH基(末端基の水素原子とこの水素原子に結合した酸素原子とで構成される-OH基)がエーテル化された-OR基を有する(式中、Rは有機基である。)。ポリマー化合物の末端のうち、一部の末端がエーテル化されていてもよく、全ての末端がエーテル化されていてもよい。例えば、線状のポリマー化合物の主鎖の一方の末端が-OH基で、他方の末端が-OR基であってもよい。
エステル化物は、上記オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物の少なくとも一部の末端の-OH基(末端基の水素原子とこの水素原子に結合した酸素原子とで構成される-OH基)がエステル化された-O-C(=O)-R基を有する(式中、Rは有機基である。)。ポリマー化合物の末端のうち、一部の末端がエステル化されていてもよく、全ての末端がエステル化されていてもよい。例えば、線状のポリマー化合物の主鎖の一方の末端が-OH基で、他方の末端が-O-C(=O)-R基であってもよい。
有機基RおよびRのそれぞれとしては、炭化水素基が挙げられる。炭化水素基は、置換基(例えば、ヒドロキシ基、アルコキシ基、および/またはカルボキシ基など)を有するものであってもよい。炭化水素基は、脂肪族、脂環族、および芳香族のいずれであってもよい。芳香族炭化水素基および脂環族炭化水素基は、置換基として、脂肪族炭化水素基(例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基など)を有するものであってもよい。置換基としての脂肪族炭化水素基の炭素数は、例えば、1~30であってもよく、1~20であってもよく、1~10であってもよく、1~6または1~4であってもよい。
芳香族炭化水素基としては、例えば、炭素数が24以下(例えば、6~24)の芳香族炭化水素基が挙げられる。芳香族炭化水素基の炭素数は、20以下(例えば、6~20)であってもよく、14以下(例えば、6~14)または12以下(例えば、6~12)であってもよい。芳香族炭化水素基としては、アリール基、ビスアリール基などが挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基が挙げられる。ビスアリール基としては、例えば、ビスアレーンに対応する一価基が挙げられる。ビスアレーンとしては、ビフェニル、ビスアリールアルカン(例えば、ビスC6-10アリールC1-4アルカン(2,2-ビスフェニルプロパンなど))が挙げられる。
脂環族炭化水素基としては、例えば、炭素数が16以下の脂環族炭化水素基が挙げられる。脂環族炭化水素基は、架橋環式炭化水素基であってもよい。脂環族炭化水素基の炭素数は、10以下または8以下であってもよい。脂環族炭化水素基の炭素数は、例えば、5以上であり、6以上であってもよい。
脂環族炭化水素基の炭素数は、5(または6)以上16以下、5(または6)以上10以下、あるいは5(または6)以上8以下であってもよい。
脂環族炭化水素基としては、例えば、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基など)、シクロアルケニル基(シクロヘキセニル基、シクロオクテニル基など)などが挙げられる。脂環族炭化水素基には、上記の芳香族炭化水素基の水素添加物も包含される。
鉛表面にポリマー化合物が薄く付着し易い観点からは、炭化水素基のうち、脂肪族炭化水素基が好ましい。脂肪族炭化水素基は、飽和であってもよく、不飽和であってもよい。脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、炭素炭素二重結合を2つ有するジエニル基、炭素炭素二重結合を3つ有するトリエニル基などが挙げられる。脂肪族炭化水素基は、直鎖状および分岐鎖状のいずれであってもよい。
脂肪族炭化水素基の炭素数は、例えば、30以下であり、26以下または22以下であってもよく、20以下または16以下であってもよく、14以下または10以下であってもよく、8以下または6以下であってもよい。炭素数の下限は、脂肪族炭化水素基の種類に応じて、アルキル基では1以上、アルケニル基およびアルキニル基では2以上、ジエニル基では3以上、トリエニル基では4以上である。鉛表面にポリマー化合物が薄く付着し易い観点からは中でもアルキル基およびアルケニル基が好ましい。
アルキル基の具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、i-ペンチル、s-ペンチル、3-ペンチル、t-ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、i-デシル、ウンデシル、ラウリル(ドデシル)、トリデシル、ミリスチル、ペンタデシル、セチル、ヘプタデシル、ステアリル、イコシル、ヘンイコシル、ベヘニルが挙げられる。
アルケニル基の具体例としては、ビニル、1-プロペニル、アリル、シス-9-ヘプタデセン-1-イル、パルミトレイル、オレイルが挙げられる。アルケニル基は、例えば、C2-30アルケニル基またはC2-26アルケニル基であってもよく、C2-22アルケニル基またはC2-20アルケニル基であってもよく、C10-20アルケニル基であってもよい。
ポリマー化合物のうち、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエーテル化物およびオキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエステル化物からなる群より選択される少なくとも一種を用いると、ガス発生が抑制され、充電受入性の低下抑制効果をさらに高めることができるため好ましい。また、これらのポリマー化合物を用いた場合にもガス発生量を低減することができる。また、このようなポリマー化合物のうち、オキシプロピレンユニットの繰り返し構造を有するポリマー化合物、またはオキシエチレンユニットの繰り返し構造を有するポリマー化合物などが好ましい。
ポリマー化合物は、1つ以上の疎水性基を有してもよい。疎水性基としては、上記の炭化水素基のうち、例えば、芳香族炭化水素基、脂環族炭化水素基、長鎖脂肪族炭化水素基が挙げられる。長鎖脂肪族炭化水素基としては、上記の脂肪族炭化水素基(アルキル基、アルケニル基など)のうち、炭素数が8以上の脂肪族炭化水素基が挙げられる。脂肪族炭化水素基の炭素数は12以上が好ましく、16以上がより好ましい。中でも、長鎖脂肪族炭化水素基を有するポリマー化合物は、鉛に対して過度な吸着を起こし難く、充電受入性の低下抑制効果がさらに高まるため、好ましい。ポリマー化合物は、疎水性基の少なくとも1つが、長鎖脂肪族炭化水素基であるポリマー化合物であってもよい。長鎖脂肪族炭化水素基の炭素数は、30以下、26以下、または22以下であってもよい。
長鎖脂肪族炭化水素基の炭素数は、8以上(または12以上)30以下、8以上(または12以上)26以下、8以上(または12以上)22以下、10以上30以下(または26以下)、あるいは10以上22以下であってもよい。
ポリマー化合物のうち、親水性基と疎水性基とを有するポリマー化合物はノニオン界面活性剤に相当する。オキシエチレンユニットの繰り返し構造は、高い親水性を示し、ノニオン界面活性剤における親水性基となり得る。そのため、上記の疎水性基を有するポリマー化合物は、オキシエチレンユニットの繰り返し構造を含むことが好ましい。このようなポリマー化合物は、疎水性と、オキシエチレンユニットの繰り返し構造による高い親水性とのバランスにより、鉛に対して選択的に吸着しながらも、鉛の表面を過度に覆うことを抑制できるため、ガス発生量を低減しながら、充電受入性の低下抑制効果をさらに高めることができる。このようなポリマー化合物は、比較的低分子量(例えば、Mnが1000以下)であっても、鉛に対する高い吸着性を確保することができる。
上記のポリマー化合物のうち、ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンブロック共重合体、オキシエチレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエーテル化物およびオキシエチレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエステル化物などは、ノニオン界面活性剤に相当する。
ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンブロック共重合体などでは、オキシエチレンユニットの繰り返し構造が親水性基に相当し、オキシプロピレンユニットの繰り返し構造が疎水性基に相当する。このような共重合体も、疎水性基を有するポリマー化合物に包含される。
疎水性基を有し、オキシエチレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物としては、ポリエチレングリコールのエーテル化物(アルキルエーテルなど)、ポリエチレングリコールのエステル化物(カルボン酸エステルなど)、上記ポリオールのポリエチレンオキサイド付加物のエーテル化物(アルキルエーテルなど)、上記ポリオール(トリオール以上のポリオールなど)のポリエチレンオキサイド付加物のエステル化物(カルボン酸エステルなど)などが挙げられる。このようなポリマー化合物の具体例としては、オレイン酸ポリエチレングリコール、ジオレイン酸ポリエチレングリコール、ジラウリン酸ポリエチレングリコール、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸ソルビタン、オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンテトラデシルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテルが挙げられる。しかし、ポリマー化合物は、これらに限定されない。中でも、ポリエチレングリコールのエステル化物、上記ポリオールのポリエチレンオキサイド付加物のエステル化物などを用いると、より高い充電受入性を確保できるとともに、ガス発生量を顕著に低減できるため、好ましい。
ポリマー化合物のうち、界面活性剤に分類されるものについて、電解液の減少量をさらに低減し易い観点からは、ポリマー化合物のHLBは、4以上が好ましく、4.3以上がより好ましい。より高い充電受入性を確保し易い観点からは、ポリマー化合物のHLBは、18以下が好ましく、10以下または9以下がより好ましく、8.5以下がさらに好ましい。
ポリマー化合物のHLBは、4以上(または4.3以上)18以下、4以上(または4.3以上)10以下であってもよい。ガス発生量低減と充電受入性向上とのバランスに優れる観点からは、ポリマー化合物のHLBは、4以上(または4.3以上)9以下、あるいは4以上(または4.3以上)8.5以下が好ましい。
ガス発生を抑制する効果がさらに高まるとともに、より高い充電受入性を確保し易い観点からは、オキシC2-4アルキレンの繰り返し構造が少なくともオキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含む場合も好ましい。この場合、オキシエチレンユニットの繰り返し構造の場合と比べると、充電受入性が低くなる傾向があるが、この場合であっても、ガス発生量を低く抑えながら、高い充電受入性を確保することができる。オキシプロピレンユニットを含むポリマー化合物は、H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm~3.8ppmの範囲に、オキシプロピレンユニットの-CH<および-CH-に由来するピークを有する。これらの基における水素原子の原子核の周囲の電子密度が異なるため、ピークがスプリットした状態となる。このようなポリマー化合物は、H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、例えば、3.2ppm以上3.42ppm以下の範囲と、3.42ppmを超え3.8ppm以下の範囲とのそれぞれにピークを有する。3.2ppm以上3.42ppm以下の範囲のピークは、-CH-に由来し、3.42ppmを超え3.8ppm以下の範囲のピークは、-CH<および-CH-に由来する。
少なくともオキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物としては、ポリプロピレングリコール、オキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含む共重合体、上記ポリオールのポリプロピレンオキサイド付加物、またはこれらのエーテル化物もしくはエステル化物などが挙げられる。共重合体としては、オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体(ただし、オキシアルキレンは、オキシプロピレン以外のC2-4アルキレン)などが挙げられる。オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体としては、オキシプロピレン-オキシエチレン共重合体、オキシプロピレン-オキシトリメチレン共重合体などが例示される。オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体は、ポリオキシプロピレン-ポリオキシアルキレン共重合体(例えば、ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン共重合体)と称することがある。オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体は、ブロック共重合体(例えば、ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンブロック共重合体)であってもよい。エーテル化物としては、ポリプロピレングリコールアルキルエーテル、オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体のアルキルエーテル(ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン共重合体のアルキルエーテルなど)などが挙げられる。エステル化物としては、カルボン酸のポリプロピレングリコールエステル、オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体のカルボン酸エステル(ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン共重合体のカルボン酸エステルなど)などが挙げられる。
少なくともオキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物としては、例えば、ポリプロピレングリコール、ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン共重合体(ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンブロック共重合体など)、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンアルキルエーテル(上記R2が炭素数10以下(あるいは8以下または6以下)のアルキルであるアルキルエーテル(ブチルエーテルなど)など)、カルボン酸ポリプロピレングリコール(上記Rが炭素数10以下(あるいは8以下または6以下)のアルキルであるカルボン酸ポリプロピレングリコール(酢酸ポリプロピレングリコールなど)など)、トリオール以上のポリオールのポリプロピレンオキサイド付加物(グリセリンのポリプロピレンオキサイド付加物など)が挙げられる。しかし、ポリマー化合物は、これらに限定されない。
オキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物において、オキシプロピレンユニットの割合は、例えば、5mol%以上であり、10mol%以上または20mol%以上であってもよい。オキシプロピレンユニットの割合は、例えば、100mol%以下である。上記共重合体においては、オキシプロピレンユニットの割合は、90mol%以下であってもよく、75mol%以下または60mol%以下であってもよい。
オキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物において、オキシプロピレンユニットの割合は、5mol%以上100mol%以下(または90mol%以下)、10mol%以上100mol%以下(または90mol%以下)、20mol%以上100mol%以下(または90mol%以下)、5mol%以上75mol%以下(または60mol%以下)、10mol%以上75mol%以下(または60mol%以下)、あるいは20mol%以上75mol%以下(または60mol%以下)であってもよい。
鉛に対するポリマー化合物の吸着性が高まるとともに、ポリマー化合物が線状構造を取り易くなる観点から、ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットを多く含むことが好ましい。このようなポリマー化合物は、例えば、末端基に結合した酸素原子と、酸素原子に結合した-CH-基および/または-CH<基とを含んでいる。ポリマー化合物のH-NMRスペクトルでは、3.2ppm~3.8ppmのピークの積分値と、-CH-基の水素原子のピークの積分値と、-CH<基の水素原子のピークの積分値との合計に占める3.2ppm~3.8ppmのピークの積分値の割合が大きくなる。この割合は、例えば、50%以上であり、80%以上であってもよい。ガス発生量を低減する効果がさらに高まるとともに、より高い充電受入性を確保し易い観点からは、上記の割合は、85%以上が好ましく、90%以上であることがより好ましい。例えば、ポリマー化合物が末端に-OH基を有するとともに、この-OH基の酸素原子に結合した-CH-基および/または-CH<基を有する場合、H-NMRスペクトルにおいて、-CH-基および-CH<基のそれぞれの水素原子のピークは、ケミカルシフトが3.8ppmを超え4.0ppm以下の範囲にある。
負極電極材料は、ポリマー化合物を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
ポリマー化合物は、例えば、Mnが500万以下の化合物を含んでもよく、300万以下または200万以下の化合物を含んでもよく、50万以下または10万以下の化合物を含んでもよく、50000以下または20000以下の化合物を含んでもよい。鉛および硫酸鉛の表面を覆うポリマー化合物の被膜の厚みを薄くして、より高い充電受入性を確保する観点からは、ポリマー化合物は、Mnが10000以下の化合物を含むことが好ましく、5000以下または4000以下の化合物を含んでもよく、3000以下または2500以下の化合物を含んでもよい。ガス発生量を低減する効果がさらに高まる観点からは、このような化合物のMnは、300以上10000以下が好ましい。ポリマー化合物としては、Mnが異なる2種以上の化合物を用いてもよい。つまり、ポリマー化合物は、分子量の分布において、Mnのピークを複数有するものであってもよい。
負極電極材料中のポリマー化合物の含有量は、質量基準で、例えば、8ppm以上であり、10ppm以上であってもよい。ガス発生量を低減し、深放電サイクル寿命を高める観点からは、負極電極材料中のポリマー化合物の含有量は、質量基準で、20ppm以上であることが好ましく、30ppm以上であることがより好ましい。負極電極材料中のポリマー化合物の含有量は、高い充電受入性を維持する観点から、質量基準で600ppm以下であり、500ppm以下であってもよい。より高い充電受入性を確保し易い観点からは、負極電極材料中のポリマー化合物の含有量は、質量基準で、400ppm以下が好ましく、300ppm以下がより好ましい。
負極電極材料中のポリマー化合物の含有量(質量基準)は、8ppm以上(または10ppm以上)600ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)500ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)400ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)300ppm以下、20ppm以上(または30ppm以上)600ppm以下、20ppm以上(または30ppm以上)500ppm以下、20ppm以上(または30ppm以上)400ppm以下、20ppm以上(または30ppm以上)300ppm以下であってもよい。
(有機防縮剤)
有機防縮剤は、通常、リグニン化合物と合成有機防縮剤とに大別される。合成有機防縮剤は、リグニン化合物以外の有機防縮剤であるとも言える。負極電極材料に含まれる有機防縮剤としては、リグニン化合物および合成有機防縮剤などが挙げられる。負極電極材料は、有機防縮剤を、一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
リグニン化合物としては、リグニン、リグニン誘導体などが挙げられる。リグニン誘導体としては、リグニンスルホン酸またはその塩(アルカリ金属塩(ナトリウム塩など)など)などが挙げられる。
合成有機防縮剤は、硫黄元素を含む有機高分子であり、一般に、分子内に複数の芳香環を含むとともに、硫黄含有基として硫黄元素を含んでいる。硫黄含有基の中では、安定形態であるスルホン酸基もしくはスルホニル基が好ましい。スルホン酸基は、酸型で存在してもよく、Na塩のように塩型で存在してもよい。
有機防縮剤として、少なくともリグニン化合物を用いてもよい。リグニン化合物を用いた場合、合成有機防縮剤を用いた場合と比較すると、充電受入性が低くなり易い。しかしながら、負極電極材料が特定のポリマー化合物を含むことで、有機防縮剤としてリグニン化合物を用いる場合でも、充電受入性の低下が抑制され、高い充電受入性を確保することができる。
有機防縮剤としては、少なくとも芳香族化合物のユニットを含む縮合物を用いる場合も好ましい。このような縮合物としては、例えば、芳香族化合物の、アルデヒド化合物(アルデヒド(例えば、ホルムアルデヒド)およびその縮合物からなる群より選択される少なくとも一種など)による縮合物が挙げられる。有機防縮剤は、一種の芳香族化合物のユニットを含んでもよく、二種以上の芳香族化合物のユニットを含んでいてもよい。
なお、芳香族化合物のユニットとは、縮合物に組み込まれた芳香族化合物に由来するユニットを言う。
芳香族化合物が有する芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環などが挙げられる。芳香族化合物が複数の芳香環を有する場合には、複数の芳香環は直接結合または連結基(例えば、アルキレン基(アルキリデン基を含む)、スルホン基)などで連結していてもよい。このような構造としては、例えば、ビスアレーン構造(ビフェニル、ビスフェニルアルカン、ビスフェニルスルホンなど)が挙げられる。芳香族化合物としては、例えば、上記の芳香環と、ヒドロキシ基およびアミノ基からなる群より選択される少なくとも一種とを有する化合物が挙げられる。ヒドロキシ基またはアミノ基は、芳香環に直接結合していてもよく、ヒドロキシ基またはアミノ基を有するアルキル鎖として結合していてもよい。なお、ヒドロキシ基には、ヒドロキシ基の塩(-OMe)も包含される。アミノ基には、アミノ基の塩(具体的には、アニオンとの塩)も包含される。Meとしては、アルカリ金属(Li、K、Naなど)、周期表第2族金属(Ca、Mgなど)などが挙げられる。
芳香族化合物としては、ビスアレーン化合物[ビスフェノール化合物、ヒドロキシビフェニル化合物、アミノ基を有するビスアレーン化合物(アミノ基を有するビスアリールアルカン化合物、アミノ基を有するビスアリールスルホン化合物、アミノ基を有するビフェニル化合物など)、ヒドロキシアレーン化合物(ヒドロキシナフタレン化合物、フェノール化合物など)、アミノアレーン化合物(アミノナフタレン化合物、アニリン化合物(アミノベンゼンスルホン酸、アルキルアミノベンゼンスルホン酸など)など)など]が好ましい。芳香族化合物は、さらに置換基を有していてもよい。有機防縮剤は、これらの化合物の残基を一種含んでもよく、複数種含んでもよい。ビスフェノール化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなどが好ましい。
縮合物は、少なくとも硫黄含有基を有する芳香族化合物のユニットを含むことが好ましい。中でも、硫黄含有基を有するビスフェノール化合物のユニットを少なくとも含む縮合物を用いると、より高い充電受入性を確保する上で有利である。過充電電気量を低減する効果が高まる観点からは、硫黄含有基を有するとともに、ヒドロキシ基およびアミノ基からなる群より選択される少なくとも一種を有するナフタレン化合物のアルデヒド化合物による縮合物を用いることも好ましい。
硫黄含有基は、化合物に含まれる芳香環に直接結合していてもよく、例えば、硫黄含有基を有するアルキル鎖として芳香環に結合していてもよい。硫黄含有基としては、特に制限されず、例えば、スルホニル基、スルホン酸基またはその塩などが挙げられる。
また、有機防縮剤として、例えば、上記のビスアレーン化合物のユニットおよび単環式の芳香族化合物(ヒドロキシアレーン化合物、および/またはアミノアレーン化合物など)のユニットからなる群より選択される少なくとも一種を含む縮合物を用いてもよい。有機防縮剤は、ビスアレーン化合物のユニットと単環式芳香族化合物(中でも、ヒドロキシアレーン化合物)のユニットとを含む縮合物を少なくとも含んでもよい。このような縮合物としては、ビスアレーン化合物と単環式の芳香族化合物との、アルデヒド化合物による縮合物が挙げられる。ヒドロキシアレーン化合物としては、フェノールスルホン酸化合物(フェノールスルホン酸またはその置換体など)が好ましい。アミノアレーン化合物としては、アミノベンゼンスルホン酸、アルキルアミノベンゼンスルホン酸などが好ましい。単環式の芳香族化合物としては、ヒドロキシアレーン化合物が好ましい。
負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量は、例えば、0.005質量%以上であり、0.01質量%以上であってもよい。有機防縮剤の含有量がこのような範囲である場合、高い低温ハイレート放電容量を確保することができる。有機防縮剤の含有量は、例えば、1.0質量%以下であり、0.5質量%以下であってもよい。充電受入性の低下を抑制する効果がさらに高まる観点からは、有機防縮剤の含有量は、0.3質量%以下が好ましく、0.25質量%以下がより好ましく、0.2質量%以下または0.15質量%以下がさらに好ましく、0.12質量%以下であってもよい。
負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量は、0.005質量%以上(または0.01質量%以上)1.0質量%以下、0.005質量%以上(または0.01質量%以上)0.5質量%以下、0.005質量%以上(または0.01質量%以上)0.3質量%以下、0.005質量%以上(または0.01質量%以上)0.25質量%以下、0.005質量%以上(または0.01質量%以上)0.2質量%以下、0.005質量%以上(または0.01質量%以上)0.15質量%以下、あるいは0.005質量%以上(または0.01質量%以上)0.12質量%以下であってもよい。
(炭素質材料)
負極電極材料に含まれる炭素質材料としては、カーボンブラック、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどを用いることができる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ランプブラックなどが例示される。ファーネスブラックには、ケッチェンブラック(商品名)も含まれる。黒鉛は、黒鉛型の結晶構造を含む炭素質材料であればよく、人造黒鉛および天然黒鉛のいずれであってもよい。負極電極材料は、炭素質材料を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
負極電極材料中の炭素質材料の含有量は、例えば、0.05質量%以上であり、0.10質量%以上であってもよい。炭素質材料の含有量は、例えば、5質量%以下であり、3質量%以下であってもよい。
負極電極材料中の炭素質材料の含有量は、0.05質量%以上5質量%以下、0.05質量%以上3質量%以下、0.10質量%以上5質量%以下、または0.10質量%以上3質量%以下であってもよい。
(硫酸バリウム)
負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、例えば、0.05質量%以上であり、0.10質量%以上であってもよい。負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、例えば、3質量%以下であり、2質量%以下であってもよい。
負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、0.05質量%以上3質量%以下、0.05質量%以上2質量%以下、0.10質量%以上3質量%以下、または0.10質量%以上2質量%以下であってもよい。
(負極電極材料または構成成分の分析)
以下に、負極電極材料またはその構成成分の分析方法について説明する。測定または分析に先立ち、満充電状態の鉛蓄電池を解体して分析対象の負極板を入手する。入手した負極板を水洗し、負極板から硫酸分を除去する。水洗は、水洗した負極板表面にpH試験紙を押し当て、試験紙の色が変化しないことが確認されるまで行う。ただし、水洗を行う時間は、2時間以内とする。水洗した負極板は、減圧環境下、60±5℃で6時間程度乾燥する。乾燥後に負極板に貼付部材が含まれている場合には、剥離により貼付部材が除去される。次に、負極板から負極電極材料を分離することにより試料(以下、試料Aと称する)を入手する。試料Aは、必要に応じて粉砕され、分析に供される。
(1)ポリマー化合物の分析
(1-1)ポリマー化合物の定性分析
(a)オキシC2-4アルキレンユニットの分析
粉砕した試料Aを用いる。100.0±0.1gの試料Aに150.0±0.1mLのクロロホルムを加え、20±5℃で16時間撹拌し、ポリマー化合物を抽出する。その後、濾過によって固形分を除く。抽出により得られるポリマー化合物が溶解したクロロホルム溶液またはクロロホルム溶液を乾固することにより得られるポリマー化合物について、例えば、赤外分光スペクトル、紫外可視吸収スペクトル、NMRスペクトル、LC-MSおよび熱分解GC-MSから選択される少なくとも1つから情報を得ることで、ポリマー化合物を特定する。
抽出により得られるポリマー化合物が溶解したクロロホルム溶液から、クロロホルムを減圧下で留去することによりクロロホルム可溶分を回収する。クロロホルム可溶分を重クロロホルムに溶解させて、下記の条件でH-NMRスペクトルを測定する。このH-NMRスペクトルから、ケミカルシフトが3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲のピークを確認する。また、この範囲のピークから、オキシC2-4アルキレンユニットの種類を特定する。
装置:日本電子(株)製、AL400型核磁気共鳴装置
観測周波数:395.88MHz
パルス幅:6.30μs
パルス繰り返し時間:74.1411秒
積算回数:32
測定温度:室温(20~35℃)
基準:7.24ppm
試料管直径:5mm
H-NMRスペクトルから、ケミカルシフトが3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲に存在するピークの積分値(V)を求める。また、ポリマー化合物の末端基に結合した酸素原子に対して結合した-CH-基および-CH<基の水素原子のそれぞれについて、H-NMRスペクトルにおけるピークの積分値の合計(V)を求める。そして、VおよびVから、VがVおよびVの合計に占める割合(=V/(V+V)×100(%))を求める。
なお、定性分析で、H-NMRスペクトルにおけるピークの積分値を求める際には、H-NMRスペクトルにおいて、該当するピークを挟むように有意なシグナルがない2点を決定し、この2点間を結ぶ直線をベースラインとして各積分値を算出する。例えば、ケミカルシフトが3.2ppm~3.8ppmの範囲に存在するピークについては、スペクトルにおける3.2ppmと3.8ppmとの2点間を結ぶ直線をベースラインとする。例えば、ケミカルシフトが3.8ppmを超え4.0ppm以下の範囲に存在するピークについては、スペクトルにおける3.8ppmと4.0ppmとの2点間を結ぶ直線をベースラインとする。
(b)エステル化物における疎水性基の分析
ポリマー化合物がヒドロキシ化合物のエステル化物である場合、上記(a)において、抽出により得られるポリマー化合物が溶解したクロロホルム溶液を乾固することにより得られるポリマー化合物を、所定量採取し、水酸化カリウム水溶液を添加する。これにより、エステル化物がケン化され、脂肪酸カリウム塩とヒドロキシ化合物とが生成する。上記の水溶性カリウム水溶液は、ケン化が完了するまで添加される。得られる混合物に、メタノールおよび三フッ化ホウ素の溶液を加えて混合することにより、脂肪酸カリウム塩を脂肪酸メチルエステルに変換する。得られる混合物を、熱分解GC-MSにより下記の条件で分析することにより、エステル化物に含まれる疎水性基が同定される。
分析装置:(株)島津製作所製、高性能汎用ガスクロマトグラムGC-2014
カラム:DEGS(ジエチレングリコールコハク酸エステル) 2.1m
オーブン温度:180~120℃
注入口温度:240℃
検出器温度:240℃
キャリアガス:He(流量:50mL/分)
注入量:1μL~2μL
(c)エーテル化物における疎水性基の分析
ポリマー化合物がヒドロキシ化合物のエーテル化物である場合、上記(a)において、抽出により得られるポリマー化合物が溶解したクロロホルム溶液を乾固することにより得られるポリマー化合物を、所定量採取し、ヨウ化水素を添加する。これにより、ポリマー化合物のエーテル部分の有機基(上述のR)に対応するヨウ化物(RI)が生成するとともに、オキシC2-4アルキレンユニットに対応するジヨードC2-4アルカンが生成する。上記のヨウ化水素は、エーテル化物のヨウ化物およびジヨードC2-4アルカンへの変換が完了するのに十分な量を添加する。得られる混合物を、熱分解GC-MSにより上記(b)と同じ条件で分析することにより、エーテル化物に含まれる疎水性基が同定される。
(1-2)ポリマー化合物の定量分析
上記のクロロホルム可溶分の適量を、±0.0001gの精度で測定したm(g)のテトラクロロエタン(TCE)と共に重クロロホルムに溶解させて、H-NMRスペクトルを測定する。ケミカルシフトが3.2~3.8ppmの範囲に存在するピークの積分値(S)とTCEに由来するピークの積分値(S)を求め、以下の式から負極電極材料中のポリマー化合物の質量基準の含有量C(ppm)を求める。
=S/S×N/N×M/M×m/m×1000000
(式中、Mはケミカルシフトが3.2~3.8ppmの範囲にピークを示す構造の分子量(より具体的には、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造の分子量)であり、Nは繰り返し構造の主鎖の炭素原子に結合した水素原子の数である。Nr、はそれぞれ基準物質の分子に含まれる水素数、基準物質の分子量であり、m(g)は抽出に使用した負極電極材料の質量である。)
なお、本分析での基準物質はTCEであるため、N=2、M=168である。また、m=100である。
例えば、ポリマー化合物がポリプロピレングリコールの場合、Mは58であり、Nは3である。ポリマー化合物がポリエチレングリコールの場合、Mは44であり、Nは4である。共重合体の場合には、NおよびMは、それぞれ、各モノマー単位のN値およびM値を繰り返し構造に含まれる各モノマー単位のモル比率(モル%)を用いて平均化した値である。
なお、定量分析では、H-NMRスペクトルにおけるピークの積分値は、日本電子(株)製のデータ処理ソフト「ALICE」を用いて求める。
(1-3)ポリマー化合物のMn測定
上記のクロロホルム可溶分を用いて、ポリマー化合物のGPC測定を、下記の装置を用い、下記の条件で行う。別途、標準物質のMnと溶出時間のプロットから校正曲線(検量線)を作成する。この検量線およびポリマー化合物のGPC測定結果に基づき、ポリマー化合物のMnを算出する。ただし、エステル化物またはエーテル化物などは、クロロホルム可溶分中で分解した状態であり得る。
分析システム:20A system((株)島津製作所製)
カラム:GPC KF-805L(Shodex社製)2本を直列接続
カラム温度:30℃±1℃
移動相:テトラヒドロフラン
流速:1mL/min.
濃度:0.20質量%
注入量:10μL
標準物質:ポリエチレングリコール(Mn=2,000,000、200,000、20,000、2,000、200)
検出器:示差屈折率検出器(Shodex社製、Shodex RI-201H)
(2)有機防縮剤の分析
(2-1)負極電極材料中の有機防縮剤の定性分析
粉砕した試料Aを1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、有機防縮剤を抽出する。次に、抽出物から不溶成分を濾過で取り除き、得られた溶液を脱塩した後、濃縮し、乾燥する。脱塩は、脱塩カラムを用いて行うか、溶液をイオン交換膜に通すことにより行うか、もしくは、溶液を透析チューブに入れて蒸留水中に浸すことにより行なう。これを乾燥することにより有機防縮剤の粉末試料(以下、試料Bと称する)が得られる。
このようにして得た有機防縮剤の試料Bを用いて測定した赤外分光スペクトル、試料Bを蒸留水等で希釈し、紫外可視吸光度計で測定した紫外可視吸収スペクトル、試料Bを重水等の所定の溶媒で溶解することにより得られる溶液のNMRスペクトル、または物質を構成している個々の化合物の情報を得ることができる熱分解GC-MSなどから得た情報を組み合わせて、有機防縮剤の種類を特定する。
(2-2)負極電極材料中における有機防縮剤の含有量の定量
上記(2-1)と同様に、有機防縮剤を含む分離物のそれぞれについて不溶成分を濾過で取り除いた後の溶液を得る。得られた各溶液について、紫外可視吸収スペクトルを測定する。各有機防縮剤に特徴的なピークの強度と、予め作成した検量線とを用いて、負極電極材料中の各有機防縮剤の含有量を求める。
なお、有機防縮剤の含有量が未知の鉛蓄電池を入手して有機防縮剤の含有量を測定する際に、有機防縮剤の構造式の厳密な特定ができないために検量線に同一の有機防縮剤が使用できないことがある。この場合には、当該電池の負極から抽出した有機防縮剤と、紫外可視吸収スペクトル、赤外分光スペクトル、およびNMRスペクトルなどが類似の形状を示す、別途入手可能な有機高分子を使用して検量線を作成することで、紫外可視吸収スペクトルを用いて有機防縮剤の含有量を測定する。
(2-3)有機防縮剤中の硫黄元素の含有量
上記(2-1)と同様に、有機防縮剤の試料Bを得た後、酸素燃焼フラスコ法によって、0.1gの有機防縮剤中の硫黄元素を硫酸に変換する。このとき、吸着液を入れたフラスコ内で試料Bを燃焼させることで、硫酸イオンが吸着液に溶け込んだ溶出液を得る。次に、トリン(thorin)を指示薬として、溶出液を過塩素酸バリウムで滴定することにより、0.1gの有機防縮剤中の硫黄元素の含有量(c1)を求める。次に、c1を10倍して1g当たりの有機防縮剤中の硫黄元素の含有量(μmol/g)を算出する。
(その他)
負極板は、負極集電体に負極ペーストを塗布または充填し、熟成および乾燥することにより未化成の負極板を作製し、その後、未化成の負極板を化成することにより形成できる。負極ペーストは、例えば、鉛粉と、ポリマー化合物と、必要に応じて、有機防縮剤、炭素質材料、他の添加剤からなる群より選択される少なくとも一種とに、水および硫酸(または硫酸水溶液)を加えて混練することで作製する。熟成する際には、室温より高温かつ高湿度で、未化成の負極板を熟成させることが好ましい。
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。化成により、海綿状鉛が生成する。
(正極板)
鉛蓄電池の正極板は、ペースト式、クラッド式などに分類できる。ペースト式およびクラッド式のいずれの正極板を用いてもよい。ペースト式正極板は、正極集電体と、正極電極材料とを具備する。クラッド式の正極板の構成は前述の通りである。
正極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工および打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。正極集電体として格子状の集電体を用いると、正極電極材料を担持させ易いため好ましい。
正極集電体に用いる鉛合金としては、耐食性および機械的強度の点で、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金が好ましい。正極集電体は、表面層を備えていてもよい。正極集電体の表面層と内側の層とは組成が異なってもよい。表面層は、正極集電体の一部に形成されていてもよい。表面層は、正極集電体の格子部分のみ、耳部分のみ、または枠骨部分のみに形成されていてもよい。正極電極材料と正極集電体との間の密着性を高め、正極電極材料が正極集電体から剥がれ正極板から脱落するのを抑制するために、正極集電体の表面はその算術平均粗さRaが2μm以上となるように粗面化されている。エキスパンド格子あるいは打ち抜き集電体の場合には、例えば、加工前の鉛または鉛合金シートまたは加工後の集電体の表面に微細な凹凸状部を有する板を押し付けることにより、または集電体の表面をブラスト加工することにより、粗面化を行うことができる。この場合、粗面化は、加工前のシート状の集電体に行ってもよいし、集電体加工の途中または後で行ってもよい。鋳造の集電体の場合には、鋳造で用いる金型の表面に微細な凹凸をつけておくことにより、効率的に粗面化を行うことができる。
正極板に含まれる正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質(二酸化鉛もしくは硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
未化成のペースト式正極板は、正極集電体に、正極ペーストを充填し、熟成、乾燥することにより得られる。正極ペーストは、鉛粉、添加剤、水、および硫酸を混練することで調製される。未化成のクラッド式正極板は、集電部で連結された芯金(spine)が挿入された多孔質なチューブに鉛粉またはスラリー状の鉛粉を充填し、複数のチューブを連座(spine protector)で結合することにより形成される。その後、これらの未化成の正極板を化成することにより正極板が得られる。
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の正極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。
(セパレータ)
負極板と正極板との間には、セパレータを配置することができる。セパレータとしては、不織布、および微多孔膜から選択される少なくとも一種などが用いられる。
不織布は、繊維を織らずに絡み合わせたマットであり、繊維を主体とする。不織布は、例えば、不織布の60質量%以上が繊維で形成されている。繊維としては、ガラス繊維、ポリマー繊維(ポリオレフィン繊維、アクリル繊維、ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート繊維など)など)、パルプ繊維などを用いることができる。中でも、ガラス繊維が好ましい。不織布は、繊維以外の成分、例えば耐酸性の無機粉体、結着剤としてのポリマーなどを含んでもよい。
一方、微多孔膜は、繊維成分以外を主体とする多孔性のシートであり、例えば、造孔剤含む組成物をシート状に押し出し成形した後、造孔剤を除去して細孔を形成することにより得られる。微多孔膜は、耐酸性を有する材料で構成することが好ましく、ポリマー成分を主体とする微多孔膜が好ましい。ポリマー成分としては、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)が好ましい。造孔剤としては、ポリマー粉末およびオイルからなる群より選択される少なくとも一種などが挙げられる。
セパレータは、例えば、不織布のみで構成してもよく、微多孔膜のみで構成してもよい。また、セパレータは、必要に応じて、不織布と微多孔膜との積層物、異種または同種の素材を貼り合わせた物、または異種または同種の素材において凹凸をかみ合わせた物などであってもよい。
セパレータは、シート状であってもよく、袋状に形成されていてもよい。正極板と負極板との間に1枚のシート状のセパレータを挟むように配置してもよい。また、折り曲げた状態の1枚のシート状のセパレータで極板を挟むように配置してもよい。この場合、折り曲げたシート状のセパレータで挟んだ正極板と、折り曲げたシート状のセパレータで挟んだ負極板とを重ねてもよく、正極板および負極板の一方を折り曲げたシート状のセパレータで挟み、他方の極板と重ねてもよい。また、シート状のセパレータを蛇腹状に折り曲げ、正極板および負極板を、これらの間にセパレータが介在するように、蛇腹状のセパレータに挟み込んでもよい。蛇腹状に折り曲げられたセパレータを用いる場合、折り曲げ部が鉛蓄電池の水平方向に沿うように(例えば、折り曲げ部が水平方向と平行になるように)セパレータを配置してもよく、鉛直方向に沿うように(例えば、折り曲げ部が鉛直方向と平行になるように)セパレータを配置してもよい。蛇腹状に折り曲げられたセパレータでは、セパレータの両方の主面側に交互に凹部が形成されることになる。正極板や負極板の上部には通常耳部が形成されているため、折り曲げ部が鉛蓄電池の水平方向に沿うようにセパレータを配置する場合、セパレータの一方の主面側の凹部のみに正極板および負極板が配置される(つまり、隣接する正極板と負極板との間には、二重のセパレータが介在した状態となる)。折り曲げ部が鉛蓄電池の鉛直方向に沿うようにセパレータを配置する場合、一方の主面側の凹部に正極板を収容し、他方の主面側の凹部に負極板を収容することができる(つまり、隣接する正極板と負極板との間には、セパレータが一重に介在した状態とすることができる。)。袋状のセパレータを用いる場合、袋状のセパレータが正極板を収容していてもよいし、負極板を収容してもよい。
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液であり、必要に応じてゲル化させてもよい。
電解液には、上記のポリマー化合物が含まれていてもよい。
電解液は、必要に応じて、カチオン(例えば、金属カチオン)、および/またはアニオン(例えば、硫酸アニオン以外のアニオン(リン酸イオンなど))を含んでいてもよい。金属カチオンとしては、例えば、Naイオン、Liイオン、Mgイオン、およびAlイオンからなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。
満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば、1.20以上であり、1.25以上であってもよい。電解液の20℃における比重は、1.35以下であり、1.32以下であることが好ましい。
電解液の20℃における比重は、1.20以上1.35以下、1.20以上1.32以下、1.25以上1.35以下、または1.25以上1.32以下であってもよい。
(その他)
鉛蓄電池は、電槽のセル室に極板群と電解液とを収容する工程を含む製造方法により得ることができる。鉛蓄電池の各セルは、各セル室に収容された極板群および電解液を備える。極板群は、セル室への収容に先立って、正極板、負極板、およびセパレータを、正極板と負極板との間にセパレータが介在するように積層することにより組み立てられる。正極板、負極板、電解液、およびセパレータは、それぞれ、極板群の組み立てに先立って、準備される。鉛蓄電池の製造方法は、極板群および電解液をセル室に収容する工程の後、必要に応じて、正極板および負極板の少なくとも一方を化成する工程を含んでもよい。
極板群における各極板は、1枚であってもよく、2枚以上であってもよい。極板群が2枚以上の正極板および2枚以上の負極板を備える場合、少なくとも1枚の正極板において、正極集電体の表面の算術平均粗さRaが2μm以上であり、少なくとも1枚の負極板において、負極電極材料が上記のポリマー化合物を600質量ppm以下の含有量で含むという条件を充足していれば、この極板群を有するセルについてガス発生が抑制され、モス(moss)短絡を抑制する効果が得られるとともに、このような負極板および正極板の枚数に応じて、モス(moss)短絡の抑制効果が高まる。ガス発生をさらに抑制し、高いモス(moss)短絡の抑制効果を確保する観点からは、極板群に含まれる正極板の枚数の50%以上(より好ましくは80%以上または90%以上)において、正極集電体の表面の算術平均粗さRaが2μm以上であり、且つ、極板群に含まれる負極板の枚数の50%以上(より好ましくは80%以上または90%以上)において、負極電極材料がポリマー化合物を上記含有量で含むことが好ましい。極板群に含まれる正極板のうち、上記の条件を充足する正極板の比率は、100%以下である。極板群に含まれる負極板のうち、上記の条件を充足する負極板の比率は、100%以下である。極板群に含まれる正極板および負極板の全てが、上記の条件を充足してもよい。
鉛蓄電池が、2つ以上のセルを有する場合には、少なくとも一部のセルの極板群が上記のような条件を充足する正極板および負極板を備えていればよい。ガス発生をさらに抑制し、高いモス(moss)短絡の抑制効果を確保する観点からは、鉛蓄電池に含まれるセルの個数の50%以上(より好ましくは80%以上または90%以上)が、上記の条件を充足する正極板および負極板を含む極板群を備えることが好ましい。鉛蓄電池に含まれるセルのうち、上記の条件を充足する正極板および負極板を含む極板群を備えるセルの比率は、100%以下である。鉛蓄電池に含まれる極板群の全てが、上記の条件を充足する負極板を備えることが好ましい。
図1に、本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池の一例の外観を示す。
鉛蓄電池1は、極板群11と電解液(図示せず)とを収容する電槽12を具備する。電槽12内は、隔壁13により、複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。電槽12の開口部は、負極端子16および正極端子17を具備する蓋15で閉じられる。蓋15には、セル室毎に液口栓18が設けられている。補水の際には、液口栓18を外して補水液が補給される。液口栓18は、セル室14内で発生したガスを電池外に排出する機能を有してもよい。
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2を収容する袋状のセパレータ4を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2を並列接続する負極棚部6が貫通接続体8に接続され、複数の正極板3を並列接続する正極棚部5が正極柱7に接続されている。正極柱7は蓋15の外部の正極端子17に接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、負極棚部6に負極柱9が接続され、正極棚部5に貫通接続体8が接続される。負極柱9は蓋15の外部の負極端子16と接続されている。各々の貫通接続体8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の極板群11同士を直列に接続している。
正極棚部5は、各正極板3の上部に設けられた耳部同士をキャストオンストラップ方式またはバーニング方式で溶接することにより形成される。負極棚部6も、正極棚部5の場合に準じて各負極板2の上部に設けられた耳部同士を溶接することにより形成される。
なお、鉛蓄電池の蓋15は、一重構造(単蓋)であるが、図示例の場合に限らない。蓋15は、例えば、中蓋と外蓋(または上蓋)とを備える二重構造を有してもよい。二重構造を有する蓋は、中蓋と外蓋との間に、中蓋に設けられた還流口から電解液を電池内(中蓋の内側)に戻すための還流構造を備えてもよい。
本明細書中、深放電サイクル寿命は、以下の手順で評価される。評価に用いられる試験電池の定格電圧は、2V/セル、定格20時間率容量は60Ahである。
(a)深放電サイクル寿命
試験電池を用いて、以下の条件で実施する。
EN 50432-6:2015に規定されるEndurance in cycle test with 50% depth of discharge at 40℃ and preceded deep discharge試験に準じ、40℃±2℃の水
槽中で、下記の放電1と充電1とを繰り返し行う。
(放電1)
定格容量に記載の数値(単位をAhとする数値)の0.05倍の電流(A)を20時間率電流I20とする。I20の5倍での定電流での放電を2時間行う。
(充電1)
充電電流をI20の5倍以下に制限した状態で、2.6V/セルの電圧で5時間充電する。ただし、充電電気量が定格20時間容量の0.54倍となった時点で充電を終了する。5時間の充電後においても充電電気量が定格20時間容量の0.54倍に至らない場合、充電電気量が定格20時間容量の0.54倍になるまで、I20の定電流での充電を最長で1時間行う。
充電1後の電圧が1.67V/セル以下となった時点で試験を終了する。このときまでの放電1と充電1の繰り返し回数を深放電サイクル数とし、このサイクル数に基づいて深放電サイクル寿命を評価する。
本発明の一側面に係る鉛蓄電池を以下にまとめて記載する。
(1)鉛蓄電池であって、
前記鉛蓄電池は、負極板と、正極板と、電解液と、を備え、
前記負極板は、負極電極材料を備え、
前記正極板は、正極集電体と、正極電極材料と、を備え、
前記負極電極材料は、重クロロホルムを溶媒として用いて測定されるH-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有するポリマー化合物を含み、
前記負極電極材料に占める前記ポリマー化合物の含有量は、質量基準で、600ppm以下であり、
前記正極集電体の表面の算術平均粗さRaが2μm以上である、鉛蓄電池。
(2)上記(1)において、前記ポリマー化合物は、末端基に結合した酸素原子と、前記酸素原子に結合した-CH-基および/または-CH<基とを含み、
前記H-NMRスペクトルにおいて、前記ピークの積分値と前記-CH-基の水素原子のピークの積分値と前記-CH<基の水素原子のピークの積分値との合計に占める前記ピークの積分値の割合は、50%以上、80%以上、85%以上、または90%以上であってもよい。
(3)上記(1)または(2)において、前記ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含んでもよい。
(4)鉛蓄電池であって、
前記鉛蓄電池は、負極板と、正極板と、電解液と、を備え、
前記負極板は、負極電極材料を備え、
前記正極板は、正極集電体と、正極電極材料と、を備え、
前記負極電極材料は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物を含み、
前記負極電極材料に占める前記ポリマー化合物の含有量は、質量基準で、600ppm以下であり、
前記正極集電体の表面の算術平均粗さRaが2μm以上である、鉛蓄電池。
(5)上記(1)~(4)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料に占める前記ポリマー化合物の含有量は、質量基準で、30ppm以上500ppm以下であってもよい。
(6)上記(1)~(5)のいずれか1つにおいて、前記正極集電体の表面の算術平均粗さRaは、50μm以下または10μm以下であってもよい。
(7)上記(1)~(6)のいずれか1つにおいて、前記正極集電体の表面の算術平均粗さRaは、4μm以上であってもよい。
(8)上記(1)~(7)のいずれか1つにおいて、前記ポリマー化合物は、Mnが500万以下、300万以下、200万以下、50万以下、10万以下、50000以下、20000以下、10000以下、5000以下、4000以下、3000以下、または2500以下の化合物を含んでもよい。
(9)上記(1)~(8)のいずれか1つにおいて、前記ポリマー化合物は、Mnが、300以上、400以上、500以上、1000以上、1500以上、または1800以上の化合物を含んでもよい。
(10)上記(1)~(9)のいずれか1つにおいて、前記ポリマー化合物は、前記オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物、前記ヒドロキシ化合物のエーテル化物、および前記ヒドロキシ化合物のエステル化物からなる群より選択される少なくとも一種を含み、
前記ヒドロキシ化合物は、ポリC2-4アルキレングリコール、オキシC2-4アルキレンの繰り返し構造を含む共重合体、およびポリオールのポリC2-4アルキレンオキサイド付加物からなる群より選択される少なくとも一種であってもよい。
(11)上記(10)において、前記ポリマー化合物は、オレイン酸ポリエチレングリコール、ジラウリン酸ポリエチレングリコール、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、ジオレイン酸ポリエチレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
《鉛蓄電池A1~A20》
(1)鉛蓄電池の準備
(a)負極板の作製
原料の鉛粉と、硫酸バリウムと、カーボンブラックと、ポリマー化合物としてオレイン酸ポリエチレングリコール(Mn500)と、有機防縮剤としてリグニンスルホン酸ナトリウムとを、適量の硫酸水溶液と混合して、負極ペーストを得る。このとき、いずれも既述の手順で求められる、負極電極材料中のポリマー化合物の含有量が表1に示す値となるとともに、有機防縮剤の含有量が0.1質量%、硫酸バリウムの含有量が0.4質量%、カーボンブラックの含有量が0.2質量%となるように各成分を混合する。負極ペーストを、Pb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成乾燥し、未化成の負極板を得る。
(b)正極板の作製
原料の鉛粉を硫酸水溶液と混合して、正極ペーストを得る。Pb-Ca-Sn合金製の打ち抜き集電体を準備し、集電体の縦骨および横骨の表面を所定の型に押し付け、正極集電体の表面の粗さが表1に示す算術平均表面粗さRaとなる正極集電体を得る。正極ペーストを、正極集電体の網目部に充填し、熟成乾燥し、未化成の正極板を得る。
(c)試験電池の作製
試験電池の定格電圧は2V/セル、定格20時間率容量は60Ahである。試験電池の極板群は、正極板7枚と負極板7枚で構成する。負極板はポリエチレン製の微多孔膜で形成された袋状セパレータに収容し、正極板と交互に積層し、極板群を形成する。極板群をポリプロピレン製の電槽に電解液(硫酸水溶液)とともに収容して、電槽内で化成を施し、液式の鉛蓄電池を作製する。満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、1.28である。
なお、ポリマー化合物がオキシエチレンユニットの繰り返し構造を有する場合、既述の手順で測定されるポリマー化合物のH-NMRスペクトルでは、3.2ppm以上3.8ppm以下のケミカルシフトの範囲にオキシエチレンユニットの-CH-に由来するピークが観察される。ポリマー化合物がオキシプロピレンユニットの繰り返し構造を有する場合、既述の手順で測定されるポリマー化合物のH-NMRスペクトルでは、3.2ppm以上3.42ppm以下のケミカルシフトの範囲にオキシプロピレンユニットの-CH-に由来するピークが観察され、3.42ppmを超え3.8ppm以下のケミカルシフトの範囲にオキシプロピレンユニットの-CH<および-CH-に由来するピークが観察される。また、H-NMRスペクトルにおいて、3.2ppm~3.8ppmのピークの積分値と、酸素原子に結合した-CH-基の水素原子のピークの積分値と、酸素原子に結合した-CH<基の水素原子のピークの積分値との合計に占める3.2ppm~3.8ppmのピークの積分値の割合は、96~100%である。
このようにして、負極電極材料中のポリマー化合物の含有量、および/または、正極集電体の表面の算術平均表面粗さRaの組み合わせが異なる電池A1~A20を作製し、後述の通り評価する。なお、電池A2~A4、A6~A8、A10~A12、A14~A16は実施例であり、電池A1、A5、A9、A13、A17~A20は比較例である。
《鉛蓄電池B1~B4》
負極板の作製において、ポリマー化合物として、オレイン酸ポリエチレングリコールに代えて、ジラウリン酸ポリエチレングリコール(Mn630)、ジステアリン酸ポリエチレングリコール(Mn810)、ジオレイン酸ポリエチレングリコール(Mn880)、または、ポリプロピレングリコールのいずれかを用い、負極ペーストを得る。ポリマー化合物は、負極電極材料中のポリマー化合物の含有量が0.0265質量%(265ppm)となるように負極ペーストに混合される。他は電池A1~A20と同様にして、負極板を作製し、試験電池を作製する。このようにして、負極電極材料中のポリマー化合物が異なる電池B1~B4(実施例)を作製し、後述の通り評価する。
《鉛蓄電池C1~C4》
負極板の作製において、ポリマー化合物を添加しない負極ペーストを得る。他は電池A1~A20と同様にして、負極板を作製し、試験電池を作製する。このようにして、負極電極材料中にポリマー化合物を含まず、正極集電体の表面粗さRaが異なる電池C1~C4(比較例)を作製し、後述の通り評価する。
(2)評価
(a)深放電サイクル寿命
上記試験電池を用いて、既述の手順で深放電サイクル数を測定する。鉛蓄電池C1の深放電サイクル数を100としたときの比率で各鉛蓄電池の深放電サイクル数を評価する。
結果を表1に示す。表1に示されるように、負極電極材料にポリマー化合物を質量基準で600ppm(0.06質量%)以下の含有量で添加し、正極集電体の表面粗さRaを2μm以上とした電池A2~A4、A6~A8、A10~A12、A14~A16、およびB1~B4では、ポリマー化合物を添加せず、且つ正極集電体の表面粗さRaを2μm未満とした電池C1と比べて、深放電サイクル数が大きく改善している。
表1より、深放電サイクル数は、正極集電体の表面粗さRaを増加させるとともに増大する傾向がある。また、深放電サイクル数は、正極集電体の表面粗さRaが2μm付近で急激に増加し、2μm~4μmでは増加幅が減少して一定値に漸近する傾向がみられる。しかしながら、電池A1~A20を、ポリマー化合物を添加しない電池C1~C4と比較すると、ポリマー化合物を600ppm(0.06質量%)以下の含有量で添加した場合に、Raの増加に伴い深放電サイクル数が顕著に増大している。
表1より、ポリマー化合物を添加していない場合、正極集電体の表面粗さRaを2μm以上とした電池C2~C4において、表面粗さRaが2μm未満の電池C1に対して7%程度、深放電サイクル数が向上した。また、ポリマー化合物を600ppm(0.06質量%)以下の含有量で添加し、且つ、正極集電体の表面粗さRaを2μm未満とした場合、例えば電池A5およびA9では、深放電サイクル数の向上量は、電池C1に対して7%程度であった。
これに対し、ポリマー化合物を600ppm(0.06質量%)以下の含有量で添加し、且つ、正極集電体の表面粗さRaを2μm以上とした場合、例えば電池A6~A8、A11~12において電池C1に対して4割程度の深放電サイクル数の向上が見られ、深放電サイクル数が予想以上に向上した。
Figure 0007694582000001
図2Aは、電池A1~A20および電池C1~C4について、ポリマー化合物の含有量を変化させたときの深放電サイクル数の変化をプロットしたグラフである。図2Bは、電池A1~A16および電池C1~C4について、正極集電体の表面粗さRaを変化させたときの深放電サイクル数の変化をプロットしたグラフである。図2Aに示されるように、正極集電体の表面粗さRaが2μm以上の場合、ポリマー化合物の含有量が質量基準で30ppm付近を境に深放電サイクル数が急激に増加している。特にポリマー化合物の含有量が質量基準で30ppm~500ppmの範囲において、深放電サイクル数の増加が顕著である。また、図2Bに示されるように、ポリマー化合物の含有量が質量基準で600ppm以下の場合、正極集電体の表面粗さRaが2μm以上で、深放電サイクル数が急激に増加している。
本発明の一側面および他の側面に係る鉛蓄電池は、例えば、PSOC条件下で充放電されるIS用鉛蓄電池としてアイドリングストップ車に用いるのに適している。また、鉛蓄電池は、例えば、車両(自動車、バイクなど)の始動用電源、産業用蓄電装置(例えば、電動車両(フォークリフトなど)などの電源)として好適に利用できる。なお、これらは単なる例示であり、鉛蓄電池の用途はこれらに限定されない。
1:鉛蓄電池
2:負極板
3:正極板
4:セパレータ
5:正極棚部
6:負極棚部
7:正極柱
8:貫通接続体
9:負極柱
11:極板群
12:電槽
13:隔壁
14:セル室
15:蓋
16:負極端子
17:正極端子
18:液口栓

Claims (9)

  1. 鉛蓄電池であって、
    前記鉛蓄電池は、負極板と、正極板と、電解液と、を備え、
    前記負極板は、負極電極材料を備え、
    前記正極板は、正極集電体と、正極電極材料と、を備え、
    前記負極電極材料は、重クロロホルムを溶媒として用いて測定されるH-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有するポリマー化合物を含み、
    前記負極電極材料に占める前記ポリマー化合物の含有量は、質量基準で、600ppm以下であり、
    前記正極集電体の表面の算術平均粗さRaが2μm以上である、鉛蓄電池。
  2. 前記ポリマー化合物は、末端基に結合した酸素原子と、前記酸素原子に結合した-CH-基および/または-CH<基とを含み、
    前記H-NMRスペクトルにおいて、前記ピークの積分値と前記-CH-基の水素原子のピークの積分値と前記-CH<基の水素原子のピークの積分値との合計に占める前記ピークの積分値の割合は、85%以上である、請求項1に記載の鉛蓄電池。
  3. 前記ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含む、請求項1または2に記載の鉛蓄電池。
  4. 鉛蓄電池であって、
    前記鉛蓄電池は、負極板と、正極板と、電解液と、を備え、
    前記負極板は、負極電極材料を備え、
    前記正極板は、正極集電体と、正極電極材料と、を備え、
    前記負極電極材料は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物を含み、
    前記負極電極材料に占める前記ポリマー化合物の含有量は、質量基準で、600ppm以下であり、
    前記正極集電体の表面の算術平均粗さRaが2μm以上である、鉛蓄電池。
  5. 前記負極電極材料に占める前記ポリマー化合物の含有量は、質量基準で、30ppm以上500ppm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
  6. 前記正極集電体の表面の算術平均粗さRaが50μm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
  7. 前記ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物、前記ヒドロキシ化合物のエーテル化物および前記ヒドロキシ化合物のエステル化物からなる群より選択される少なくとも一種を含み、
    前記ヒドロキシ化合物は、ポリC2-4アルキレングリコール、オキシC2-4アルキレンの繰り返し構造を含む共重合体、およびポリオールのポリC2-4アルキレンオキサイド付加物からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1~6のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
  8. 前記ポリマー化合物は、オレイン酸ポリエチレングリコール、ジラウリン酸ポリエチレングリコール、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、ジオレイン酸ポリエチレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項7に記載の鉛蓄電池。
  9. 前記正極集電体の表面の算術平均粗さRaが10μm以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
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