鉛蓄電池は、PSOCサイクルで繰り返し充放電されると、負極板の耳部で腐食が進行し、耳痩せが起こる場合がある。PSOCサイクル中は、負極板の耳部の電位が、放電時には鉛から硫酸鉛が生成し易く、充電時には硫酸鉛から鉛への還元が不完全になる範囲となる。この繰り返しによって、徐々に耳部の内部に腐食が進行することで耳痩せが起こると考えられる。
PSOCサイクルにおける負極板の耳部の電位では、Snの酸化反応および還元反応は起こり難い。そのため、負極板の耳部に、Snを含む表面層を設けると、Snの遮蔽効果により、耳部における鉛が関与する酸化反応および還元反応が起こり難くなる。これにより、負極板の耳部にSnを含む表面層を設ける場合には、表面層を設けない場合に比べて、PSOCサイクルにおける耳痩せが低減される。そのため、表面層中のSn含有量が多くなるにつれて、耳痩せが低減されることになる。一方、Sn含有量が多くなると、コスト的に不利であることに加え、過充電時のガス発生量が多くなるため、電解液の減少量が多くなる。低コスト化および過充電時の電解液の減少量を低減する観点からは、表面層のSn含有量を低く抑えることが有利である。しかし、Sn含有量が10質量%未満の場合には、Snを含む表面層によりPSOCサイクルにおける耳痩せを抑制することは実際には困難と考えられていた。
ところが、負極板の耳部の表面層中のSn含有量が10質量%未満の場合でも、負極板の負極電極材料に特定のポリマー化合物を含有させることで、鉛蓄電池をPSOCで充放電したときの耳痩せが顕著に低減されることが明らかとなった。
上記に鑑み、本発明の一側面に係る鉛蓄電池は、極板群および電解液を備える少なくとも1つのセルを備える。極板群は、負極板と、正極板と、負極板および正極板の間に介在するセパレータとを備える。負極板は、耳部を備える集電体と、負極電極材料とを備える。耳部は、Snを含む表面層を備える。表面層におけるSnの含有量は、10質量%未満である。負極電極材料は、重クロロホルムを溶媒として用いて測定される1H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有するポリマー化合物を含む。
なお、上記の1H-NMRスペクトルにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下のケミカルシフトの範囲に現れるピークは、オキシC2-4アルキレンユニットに由来する。
本発明の他の側面に係る鉛蓄電池は、極板群および電解液を備える少なくとも1つのセルを備える。極板群は、負極板と、正極板と、負極板および正極板の間に介在するセパレータとを備える。負極板は、耳部を備える集電体と、負極電極材料とを備える。耳部は、Snを含む表面層を備える。表面層におけるSnの含有量は、10質量%未満である。負極電極材料は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物を含む。
本発明の一側面および他の側面に係る鉛蓄電池では、負極電極材料が、上記のようなポリマー化合物を含む。このような負極電極材料を、耳部にSnを含む表面層を備える負極集電体と組み合わせることで、表面層中のSn含有量が10質量%未満の場合でも、PSOCサイクルにおける耳痩せを低減できる。表面層中のSn含有量が従来に比べて少ないことに加え、負極電極材料がポリマー化合物を含むことで、過充電時のガス発生が抑制されるため、電解液の減少(以下、単に減液と称する場合がある。)を低減できる。換言すると、PSOCサイクルにおける耳痩せの優れた低減効果と過充電時の優れた減液低減効果とを両立することができる。耳痩せが抑制されることで、耳痩せに伴い耳部が破断して充放電ができなくなることを抑制できる。そのため、表面層中のSn含有量が10質量%未満でも、鉛蓄電池の実際の使用が可能となる。従って、鉛蓄電池の長寿命化の点で有利である。また、表面層中のSn含有量を低減することができるため、低コスト化の観点からも有利である。
負極電極材料が上記のポリマー化合物を含むことで、PSOCサイクルでの負極板における耳痩せが低減されるのは、次のような理由によると考えられる。まず、負極電極材料が上記のポリマー化合物を含むことで、負極活物質である鉛の近傍にポリマー化合物が存在することになる。これにより、PSOCサイクルにおいて、負極板の電位が卑な方向にシフトする。負極板の耳部の電位も卑な方向にシフトするため、充電時の硫酸鉛から鉛への還元反応が進行し易くなる。耳部におけるSnの遮蔽効果に加え、硫酸鉛が蓄積し難くなることで、表面層中のSn含有量が10質量%未満と少ないにも拘わらず、耳痩せを低減することができる。
また、表面層中のSn含有量が少ないことで、過充電時のSnが関与するガス発生反応が抑制されると考えられる。加えて、負極板の電位が卑な方向にシフトすることで、水素過電圧が大きくなるため、過充電時の負極板における水素ガスの発生が抑制される。このように、過充電時に、ガス発生が抑制されることで、減液を低減することができる。
PSOCサイクルでの負極板における耳痩せの抑制効果および過充電時の減液抑制効果は、負極電極材料中のポリマー化合物の含有量がごくわずか(例えば、0.01質量%未満)の場合でも得られる。このことから、負極電極材料中に含まれるポリマー化合物のオキシC2-4アルキレンユニットの作用により、鉛に対する高い吸着作用が発揮されると考えられる。また、ポリマー化合物が鉛の表面に薄く広がった状態となることで、耳部を含めて負極板全体の電位が卑な方向へシフトし易くなると考えられる。また、ポリマー化合物が鉛の表面に薄く広がった状態となることで、負極板の鉛表面の広範囲な領域で、水素過電圧が上昇し、過充電時にプロトンの還元により水素が発生する副反応が阻害されると考えられる。ポリマー化合物が鉛の表面に薄く広がった状態となることは、ポリマー化合物が線状構造を取り易いこととも矛盾しない。従って、ポリマー化合物が、負極電極材料以外の鉛蓄電池の構成要素に含まれているか否かに拘わらず、負極電極材料に含まれていることが重要である。
本発明の一側面に係る鉛蓄電池では、ポリマー化合物は、末端基に結合した酸素原子と、酸素原子に結合した-CH2-基および/または-CH<基とを含んでもよい。1H-NMRスペクトルにおいて、3.2ppm~3.8ppmのピークの積分値と、酸素原子に結合した-CH2-基の水素原子のピークの積分値と、酸素原子に結合した-CH<基の水素原子のピークの積分値との合計に占める3.2ppm~3.8ppmのピークの積分値の割合は、85%以上であることが好ましい。このようなポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットを分子中に多く含む。そのため、ポリマー化合物が、鉛に吸着し易くなるとともに、線状構造を取り易いことで鉛表面を薄く覆い易くなると考えられる。よって、PSOCサイクルにおける負極板の耳痩せを低減する効果がさらに高まるとともに、過充電時の減液を抑制する効果をさらに向上することができる。
1H-NMRスペクトルにおいて、3.2ppm~3.8ppmのケミカルシフトの範囲にピークを有するポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むことが好ましい。オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物を用いる場合、ポリマー化合物が、鉛に対してより吸着し易くなるとともに、線状構造を取り易いことで鉛表面を薄く覆い易くなると考えられる。よって、PSOCサイクルにおける負極板の耳痩せおよび過充電時の減液を抑制する効果をさらに高める上で有利である。
ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物、ヒドロキシ化合物のエーテル化物およびヒドロキシ化合物のエステル化物からなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。ここで、ヒドロキシ化合物は、ポリC2-4アルキレングリコール、オキシC2-4アルキレンの繰り返し構造を含む共重合体、およびポリオールのポリC2-4アルキレンオキサイド付加物からなる群より選択される少なくとも一種である。このようなポリマー化合物を用いる場合、PSOCサイクルにおける負極板の耳痩せおよび過充電時の減液をさらに抑制することができる。
オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造は、少なくともオキシプロピレンユニット(-O-CH(-CH3)-CH2-)の繰り返し構造を含んでもよい。このようなポリマー化合物は、鉛に対する高い吸着性を有しながらも、鉛表面に薄く広がり易く、これらのバランスに優れていると考えられる。よって、減液をより効果的に低減できる。また、負極板の耳痩せをさらに低減することもできる。
このようにポリマー化合物は、鉛に対する高い吸着性を有しながらも、鉛表面を薄く覆うことができるため、負極電極材料中のポリマー化合物の含有量がごく少量(より具体的には、400ppm以下)であっても、PSOCサイクルにおける負極板の耳痩せおよび過充電時の減液を低減することができる。より高い耳痩せ抑制効果および減液抑制効果を確保する観点からは、負極電極材料中のポリマー化合物の含有量は、15ppm以上が好ましい。
なお、ポリマー化合物を負極電極材料中に含有させることができればよく、負極電極材料に含まれるポリマー化合物の由来は特に制限されない。ポリマー化合物は、鉛蓄電池を作製する際に、鉛蓄電池の構成要素(例えば、負極板、正極板、電解液、およびセパレータ)のいずれに含有させてもよい。ポリマー化合物は、1つの構成要素に含有させてもよく、2つ以上の構成要素(例えば、負極板および電解液)に含有させてもよい。
耳部の表面層におけるSn含有量は、7質量%以下であることが好ましい。Sn含有量がこのように少ない場合でも、ポリマー化合物の作用により、耳痩せを低減できるとともに、減液を低減することができる。
耳部の表面層におけるSn含有量は、0.01質量%以上であることが好ましい。この場合、Snによる耳痩せを抑制する効果を得ることができる。また、Sn含有量がこのように少ない場合でも、ポリマー化合物の作用により、耳痩せおよび減液の低減において高い効果を確保することができる。
セルの少なくとも1つにおいて、極板群は、複数の正極板と複数の負極板とを備え、かつ正極板と負極板とがセパレータを介して交互に積層された構造を備え、極板群は、9枚以上の負極板を備えることが好ましい。極板群に含まれる極板数が増加すると、極板群の上部の電解液の比重の低下が抑制される。これにより、鉛の溶解が抑制されるため負極板の耳痩せを抑制する効果がさらに高まる。
極板群における正極板と負極板との間の距離(極間距離D)とセパレータの最大厚みTの関係がD-T≦0.15mm以下であることが好ましい。極間距離Dとセパレータ最大厚みTの関係がこのような範囲である場合、極板群の上部の電解液の比重の低下を抑制する効果がさらに高まる。耳部の周囲の電解液の比重低下がさらに抑制されるため、負極板の耳痩せを抑制する効果がさらに高まる。
電解液は、Alイオンを含むことが好ましい。この場合、PSOCサイクル中の硫酸鉛蓄積が抑制されることによって、耳部の周囲の電解液の比重低下を抑制する効果がさらに高まるため、負極板の耳痩せを抑制する効果がさらに高まる。
鉛蓄電池は、制御弁式(密閉式)鉛蓄電池(VRLA型鉛蓄電池)および液式(ベント式)鉛蓄電池のいずれでもよい。
本明細書中、負極板の耳部の表面層におけるSn含有量、負極電極材料中のポリマー化合物の含有量、極間距離D、およびセパレータの最大厚みTは、満充電状態の鉛蓄電池から取り出した負極板、極板群、またはセパレータについて求められる。
(用語の説明)
(鉛蓄電池または鉛蓄電池の構成要素の上下方向)
本明細書中、鉛蓄電池または鉛蓄電池の構成要素(極板、電槽、セパレータなど)の上下方向は、鉛蓄電池が使用される状態において、鉛蓄電池の鉛直方向における上下方向を意味する。正極板および負極板の各極板は、外部端子と接続するための耳部を備えている。横置き型の制御弁式鉛蓄電池など、耳部が、極板の側部に側方に突出するように設けられることもあるが、多くの鉛蓄電池では、耳部は、通常、極板の上部に上方に突出するように設けられている。
(耳部の表面層)
負極板または負極集電体の耳部の断面を金属顕微鏡で観察したとき、内側とは性状(色、金属粒子の状態など)が異なる外側の層状の部分を表面層とする。
(負極電極材料)
負極電極材料は、通常、集電体に保持されている。負極電極材料とは、負極板から集電体を除いた部分である。負極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材(貼付部材とも称する)は負極板と一体として使用されるため、負極板に含まれる。負極板が貼付部材(マット、ペースティングペーパなど)を含む場合には、負極電極材料は、負極板から集電体および貼付部材を除いた部分である。
(ポリマー化合物)
ポリマー化合物は、下記(i)および(ii)の少なくとも一方の条件を充足する。
条件(i)
ポリマー化合物は、重クロロホルムを溶媒として用いて測定される1H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有する。
条件(ii)
ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含む。
条件(i)において、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲のピークは、オキシC2-4アルキレンユニットに由来する。つまり、条件(ii)を充足するポリマー化合物は、条件(i)を充足するポリマー化合物でもある。条件(i)を充足するポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニット以外のモノマーユニットの繰り返し構造を含んでもよく、ある程度の分子量を有すればよい。上記(i)または(ii)を充足するポリマー化合物の数平均分子量(Mn)は、例えば、300以上であってもよい。
(オキシC2-4アルキレンユニット)
オキシC2-4アルキレンユニットは、-O-R1-(R1はC2-4アルキレン基を示す。)で表されるユニットである。
(数平均分子量)
本明細書中、数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により求められる。Mnを求める際に使用する標準物質は、ポリエチレングリコールとする。
(極間距離D)
極間距離Dは、下記式で表される。
極間距離D=(ピッチ-正極板の厚み-負極板の厚み)/2
ここで、ピッチとは、隣接する一対の正極板の耳部の中心間距離の平均値である。より具体的には、ピッチは、極板群に含まれる全ての隣接する正極板の対について求められる耳部の中心間距離の平均値である。複数の直列接続された極板群を具備する鉛蓄電池においては、ピッチは、端部に位置する1つの極板群(セル)と中央付近に位置する1つの極板群(セル)における平均値である。また、正極板の厚みは、極板群に含まれる全ての正極板の厚みの平均値であり、負極板の厚みは、極板群に含まれる全ての負極板の厚みの平均値である。
(セパレータの最大厚みT)
セパレータの最大厚みTは、極板群(セル)に含まれる全てのセパレータの最大厚みtの平均値である。複数の直列接続された極板群を具備する鉛蓄電池においては、セパレータの最大厚みTは、端部に位置する1つの極板群(セル)と中央付近に位置する1つの極板群(セル)における平均値である。
セパレータの周縁部と周縁部より内側の部分とで厚みが異なる場合には、周縁部より内側の部分について、最大厚みtを測定する。セパレータがベース部と、ベース部の少なくとも一方の主面から突出するリブとを備える場合には、セパレータの厚みとは、ベース部とリブとを含む厚みである。例えば、セパレータの両面にリブが形成されている場合、セパレータの厚みは、ベース部の厚みと、一方の主面のリブのベース部からの高さと、他方の主面のリブのベース部からの高さとの合計である。この合計の値が最も大きい部分のセパレータの厚みが最大厚みtである。
(満充電状態)
液式の鉛蓄電池の満充電状態とは、JIS D 5301:2019の定義によって定められる。より具体的には、鉛蓄電池を、定格容量として記載の数値(単位をAhとする数値)の0.2倍の電流(A)で、15分ごとに測定した充電中の端子電圧(V)または20℃に温度換算した電解液密度が3回連続して有効数字3桁で一定値を示すまで、鉛蓄電池を充電した状態を満充電状態とする。また、制御弁式の鉛蓄電池の場合、満充電状態とは、25℃の気槽中で、定格容量に記載の数値(単位をAhとする数値)の0.2倍の電流(A)で、2.23V/セルの定電流定電圧充電を行い、定電圧充電時の充電電流が定格容量に記載の数値(単位をAhとする数値)の0.005倍の値(A)になった時点で充電を終了した状態である。
満充電状態の鉛蓄電池は、既化成の鉛蓄電池を満充電した鉛蓄電池をいう。鉛蓄電池の満充電は、化成後であれば、化成直後でもよく、化成から時間が経過した後に行ってもよい(例えば、化成後で、使用中(好ましくは使用初期)の鉛蓄電池を満充電してもよい)。使用初期の電池とは、使用開始後、それほど時間が経過しておらず、ほとんど劣化していない電池をいう。
以下、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池について、主要な構成要件ごとに説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されない。
[鉛蓄電池]
(負極板)
負極板は、耳部を備える集電体(負極集電体)と、負極電極材料とを備える。
(集電体)
負極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工または打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。負極集電体として格子状の集電体を用いると、負極電極材料を担持させ易いため好ましい。
負極集電体に用いる鉛合金は、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金、Pb-Sn系合金のいずれであってもよい。これらの鉛もしくは鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。
負極集電体は、少なくとも耳部に表面層を備えている。耳部の表面層は、Snを含む。表面層は、例えば、Snを含む鉛合金を含む。このような表面層により、PSOCサイクルにおいて、耳痩せを抑制することができる。
耳部の表面層中のSnの含有量は、10質量%未満であり、7質量%以下であってもよく、6質量%以下または5質量%以下であってもよい。表層中のSn含有量は、例えば、0.01質量%以上であり、0.05質量%以上であってもよく、0.1質量%以上であってもよい。表面層中のSn含有量がこのように少なくても、ポリマー化合物を含む負極電極材料との組み合わせにより、耳痩せを低減できる。また、Sn含有量が少ないことで、減液の低減効果も得られる。
耳部の表面層中のSn含有量は、0.01質量%以上10質量%未満(または7質量%以下)、0.05質量%以上10質量%未満(または7質量%以下)、0.1質量%以上10質量%未満(または7質量%以下)、0.01質量%以上6質量%以下(または5質量%以下)、0.05質量%以上6質量%以下(または5質量%以下)、あるいは0.1質量%以上6質量%以下(または5質量%以下)であってもよい。
耳部の表面層の厚みは、例えば、0.01mm以上であり、0.015mm以上または0.02mm以上であってもよい。表面層の厚みは、例えば、0.1mm以下であり、0.05mm以下であってもよい。
耳部の表面層の厚みは、0.01mm以上0.1mm以下(または0.05mm以下)、0.015mm以上0.1mm以下(または0.05mm以下)あるいは、0.02mm以上0.1mm以下(または0.05mm以下)であってもよい。
(表面層の分析)
以下に、表面層中のSn含有量および表面層の厚みの測定方法について説明する。測定は、鉛蓄電池から取り出した負極板を、水洗し、減圧下で乾燥した負極板について行う。
(1)表面層中のSn含有量の測定
まず、負極板の耳部を厚み方向に沿って切断し、切断面を金属顕微鏡で観察する。そして、内側とは性状が異なる外側の層状の部分を表面層とし、その一部を削り取って試料を得、質量を測定する。金属顕微鏡としては、OLYMPUS社製のGX53Fが使用される。
表層中のSn含有量は、JIS H2105:1955に記載の鉛分離誘導結合プラズマ発光分光法に準拠して分析される。より具体的には、上記で採取した試料を酒石酸および希硝酸と混合することにより、水溶液を得る。水溶液に塩酸を加えて塩化鉛を沈殿させ、濾過し、濾液を採取する。ICP発光分光分析装置を用いて、検量線法により、濾液中のSn濃度を分析し、このSn濃度と採取した試料の質量とから、耳部の表面層中のSn含有量が求められる。ICP発光分光分析装置としては、(株)島津製作所製ICPS-8000が用いられる。
(2)表面層の厚み
負極板の耳部の部分に、エポキシ樹脂を含浸させて、硬化させる。次いで、耳部を、耳部の厚み方向に沿って切断し、切断面を研磨する。研磨した切断面を、金属顕微鏡で観察し、内側とは性状が異なる外側の層状の部分を表面層として、厚みを任意の5箇所について測定し、平均化することにより表面層の厚みが求められる。金属顕微鏡としては、OLYMPUS社製のGX53Fが使用される。
(負極電極材料)
負極電極材料は、上記のポリマー化合物を含む。負極電極材料は、さらに、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(具体的には、鉛もしくは硫酸鉛)を含んでいる。負極電極材料は、有機防縮剤、炭素質材料、および他の添加剤からなる群より選択される少なくとも1つを含んでもよい。添加剤としては、硫酸バリウム、繊維(樹脂繊維など)などが挙げられるが、これらに限定されない。なお、充電状態の負極活物質は、海綿状鉛であるが、未化成の負極板は、通常、鉛粉を用いて作製される。
(ポリマー化合物)
ポリマー化合物は、1H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有する。このようなポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットを有する。オキシC2-4アルキレンユニットとしては、オキシエチレンユニット、オキシプロピレンユニット、オキシトリメチレンユニット、オキシ2-メチル-1,3-プロピレンユニット、オキシ1,4-ブチレンユニット、オキシ1,3-ブチレンユニットなどが挙げられる。ポリマー化合物は、このようなオキシC2-4アルキレンユニットを一種有していてもよく、二種以上有していてもよい。
ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むことが好ましい。繰り返し構造は、一種のオキシC2-4アルキレンユニットを含んでもよく、二種以上のオキシC2-4アルキレンユニットを含んでもよい。ポリマー化合物には、一種の上記繰り返し構造が含まれていてもよく、二種以上の上記繰り返し構造が含まれていてもよい。
オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するポリマー化合物には、界面活性剤(より具体的には、ノニオン界面活性剤)に分類されるポリマー化合物も包含される。
ポリマー化合物としては、例えば、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物(ポリC2-4アルキレングリコール、オキシC2-4アルキレンの繰り返し構造を含む共重合体、ポリオールのポリC2-4アルキレンオキサイド付加物など)、これらのヒドロキシ化合物のエーテル化物またはエステル化物などが挙げられる。
共重合体としては、異なるオキシC2-4アルキレンユニットを含む共重合体などが挙げられる。共重合体は、ブロック共重合体であってもよい。
ポリオールは、脂肪族ポリオール、脂環式ポリオール、芳香族ポリオール、および複素環式ポリオールなどのいずれであってもよい。ポリマー化合物が鉛表面に薄く広がり易い観点からは、脂肪族ポリオール、脂環式ポリオール(例えば、ポリヒドロキシシクロヘキサン、ポリヒドロキシノルボルナン)などが好ましく、中でも脂肪族ポリオールが好ましい。脂肪族ポリオールとしては、例えば、脂肪族ジオール、トリオール以上のポリオール(例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、糖または糖アルコール)が挙げられる。脂肪族ジオールとしては、炭素数が5以上のアルキレングリコールなどが挙げられる。アルキレングリコールは、例えば、C5~14アルキレングリコールまたはC5-10アルキレングリコールであってもよい。糖または糖アルコールとしては、例えば、ショ糖、エリスリトール、キシリトール、マンニトール、ソルビトールが挙げられる。糖または糖アルコールは、鎖状構造および環状構造のいずれであってもよい。ポリオールのポリアルキレンオキサイド付加物においては、アルキレンオキサイドは、ポリマー化合物のオキシC2-4アルキレンユニットに相当し、少なくともC2-4アルキレンオキサイドを含む。ポリマー化合物が線状構造を取り易い観点からは、ポリオールはジオールであることが好ましい。
エーテル化物は、上記のオキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物の少なくとも一部の末端の-OH基(末端基の水素原子とこの水素原子に結合した酸素原子とで構成される-OH基)がエーテル化された-OR2基を有する(式中、R2は有機基である。)。ポリマー化合物の末端のうち、一部の末端がエーテル化されていてもよく、全ての末端がエーテル化されていてもよい。例えば、線状のポリマー化合物の主鎖の一方の末端が-OH基で、他方の末端が-OR2基であってもよい。
エステル化物は、上記オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物の少なくとも一部の末端の-OH基(末端基の水素原子とこの水素原子に結合した酸素原子とで構成される-OH基)がエステル化された-O-C(=O)-R3基を有する(式中、R3は有機基である。)。ポリマー化合物の末端のうち、一部の末端がエステル化されていてもよく、全ての末端がエステル化されていてもよい。例えば、線状のポリマー化合物の主鎖の一方の末端が-OH基で、他方の末端が-O-C(=O)-R3基であってもよい。
有機基R2およびR3のそれぞれとしては、炭化水素基が挙げられる。炭化水素基は、置換基(例えば、ヒドロキシ基、アルコキシ基、および/またはカルボキシ基など)を有する炭化水素基であってもよい。炭化水素基は、脂肪族、脂環族、および芳香族のいずれであってもよい。芳香族炭化水素基および脂環族炭化水素基は、置換基として、脂肪族炭化水素基(例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基など)を有してもよい。置換基としての脂肪族炭化水素基の炭素数は、例えば、1~30であってもよく、1~20または1~10であってもよく、1~6または1~4であってもよい。
芳香族炭化水素基としては、例えば、炭素数が24以下(例えば、6~24)の芳香族炭化水素基が挙げられる。芳香族炭化水素基の炭素数は、20以下(例えば、6~20)であってもよく、14以下(例えば、6~14)または12以下(例えば、6~12)であってもよい。芳香族炭化水素基としては、アリール基、ビスアリール基などが挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基が挙げられる。ビスアリール基としては、例えば、ビスアレーンに対応する一価基が挙げられる。ビスアレーンとしては、例えば、ビフェニル、ビスアリールアルカン(例えば、ビスC6-10アリールC1-4アルカン(2,2-ビスフェニルプロパンなど))が挙げられる。
脂環族炭化水素基としては、例えば、炭素数が16以下の脂環族炭化水素基が挙げられる。脂環族炭化水素基は、架橋環式炭化水素基であってもよい。脂環族炭化水素基の炭素数は、10以下または8以下であってもよい。脂環族炭化水素基の炭素数は、例えば、5以上であり、6以上であってもよい。
脂環族炭化水素基の炭素数は、5(または6)以上16以下、5(または6)以上10以下、あるいは5(または6)以上8以下であってもよい。
脂環族炭化水素基としては、例えば、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基など)、シクロアルケニル基(シクロヘキセニル基、シクロオクテニル基など)が挙げられる。脂環族炭化水素基には、上記の芳香族炭化水素基の水素添加物も包含される。
鉛表面にポリマー化合物が薄く付着し易い観点からは、炭化水素基のうち、脂肪族炭化水素基が好ましい。脂肪族炭化水素基は、飽和であってもよく、不飽和であってもよい。脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、炭素炭素二重結合を2つ有するジエニル基、炭素炭素二重結合を3つ有するトリエニル基などが挙げられる。脂肪族炭化水素基は、直鎖状および分岐鎖状のいずれであってもよい。
脂肪族炭化水素基の炭素数は、例えば、30以下であり、26以下または22以下であってもよく、20以下または16以下であってもよく、14以下または10以下であってもよく、8以下または6以下であってもよい。炭素数の下限は、脂肪族炭化水素基の種類に応じて、アルキル基では1以上、アルケニル基およびアルキニル基では2以上、ジエニル基では3以上、トリエニル基では4以上である。鉛表面にポリマー化合物が薄く付着し易い観点からは中でもアルキル基およびアルケニル基が好ましい。
アルキル基の具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、i-ペンチル、s-ペンチル、3-ペンチル、t-ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、i-デシル、ウンデシル、ラウリル(ドデシル)、トリデシル、ミリスチル、ペンタデシル、セチル、ヘプタデシル、ステアリル、イコシル、ヘンイコシル、ベヘニルが挙げられる。
アルケニル基の具体例としては、ビニル、1-プロペニル、アリル、シス-9-ヘプタデセン-1-イル、パルミトレイル、オレイルが挙げられる。アルケニル基は、例えば、C2-30アルケニル基またはC2-26アルケニル基であってもよく、C2-22アルケニル基またはC2-20アルケニル基であってもよく、C10-20アルケニル基であってもよい。
ポリマー化合物のうち、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエーテル化物およびオキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエステル化物からなる群より選択される少なくとも一種を用いると、負極板の耳痩せを低減する効果をさらに高めることができるため好ましい。また、これらのポリマー化合物を用いた場合にも高い減液抑制効果を確保することができる。このようなポリマー化合物のうち、オキシプロピレンユニットの繰り返し構造を有するポリマー化合物、またはオキシエチレンユニットの繰り返し構造を有するポリマー化合物などが好ましい。
ポリマー化合物は、1つ以上の疎水性基を有してもよい。疎水性基としては、上記の炭化水素基のうち、例えば、芳香族炭化水素基、脂環族炭化水素基、長鎖脂肪族炭化水素基が挙げられる。長鎖脂肪族炭化水素基としては、上記の脂肪族炭化水素基(アルキル基、アルケニル基など)のうち、炭素数が8以上の脂肪族炭化水素基が挙げられる。脂肪族炭化水素基の炭素数は12以上が好ましく、16以上がより好ましい。中でも、長鎖脂肪族炭化水素基を有するポリマー化合物は、鉛に対して過度な吸着を起こし難く、耳痩せをさらに低減できるため、好ましい。ポリマー化合物は、疎水性基の少なくとも1つが、長鎖脂肪族炭化水素基であるポリマー化合物であってもよい。長鎖脂肪族炭化水素基の炭素数は、30以下、26以下、または22以下であってもよい。
長鎖脂肪族炭化水素基の炭素数は、8以上(または12以上)30以下、8以上(または12以上)26以下、8以上(または12以上)22以下、10以上30以下(または26以下)、あるいは10以上22以下であってもよい。
ポリマー化合物のうち、親水性基と疎水性基とを有するポリマー化合物は、ノニオン界面活性剤に相当する。オキシエチレンユニットの繰り返し構造は、高い親水性を示し、ノニオン界面活性剤における親水性基となり得る。そのため、上記の疎水性基を有するポリマー化合物は、オキシエチレンユニットの繰り返し構造を含むことが好ましい。このようなポリマー化合物は、疎水性と、オキシエチレンユニットの繰り返し構造による高い親水性とのバランスにより、鉛に対して選択的に吸着しながらも、鉛の表面を過度に覆うことを抑制できるため、減液を低減しながら、耳痩せをさらに低減することができる。このようなポリマー化合物は、比較的低分子量(例えば、Mnが1000以下)であっても、鉛に対する高い吸着性を確保することができる。
上記のポリマー化合物のうち、ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンブロック共重合体、オキシエチレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエーテル化物およびオキシエチレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエステル化物などは、ノニオン界面活性剤に相当する。
ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンブロック共重合体などでは、オキシエチレンユニットの繰り返し構造が親水性基に相当し、オキシプロピレンユニットの繰り返し構造が疎水性基に相当する。このような共重合体も、疎水性基を有するポリマー化合物に包含される。
疎水性基を有し、オキシエチレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物としては、ポリエチレングリコールのエーテル化物(アルキルエーテルなど)、ポリエチレングリコールのエステル化物(カルボン酸エステルなど)、上記ポリオールのポリエチレンオキサイド付加物のエーテル化物(アルキルエーテルなど)、上記ポリオール(トリオール以上のポリオールなど)のポリエチレンオキサイド付加物のエステル化物(カルボン酸エステルなど)などが挙げられる。このようなポリマー化合物の具体例としては、オレイン酸ポリエチレングリコール、ジオレイン酸ポリエチレングリコール、ジラウリン酸ポリエチレングリコール、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸ソルビタン、オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンテトラデシルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテルが挙げられる。しかし、ポリマー化合物は、これらに限定されない。中でも、ポリエチレングリコールのエステル化物、上記ポリオールのポリエチレンオキサイド付加物のエステル化物などを用いると、耳痩せをさらに低減できるとともに、減液を顕著に低減できるため、好ましい。
負極板の耳痩せの低減効果をさらに高めることができるとともに、減液を低減する効果をさらに高める観点からは、オキシC2-4アルキレンの繰り返し構造が少なくともオキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含む場合も好ましい。オキシプロピレンユニットを含むポリマー化合物は、1H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm~3.8ppmの範囲に、オキシプロピレンユニットの-CH<および-CH2-に由来するピークを有する。これらの基における水素原子の原子核の周囲の電子密度が異なるため、ピークがスプリットした状態となる。このようなポリマー化合物は、1H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、例えば、3.2ppm以上3.42ppm以下の範囲と、3.42ppmを超え3.8ppm以下の範囲とのそれぞれにピークを有する。3.2ppm以上3.42ppm以下の範囲のピークは、-CH2-に由来し、3.42ppmを超え3.8ppm以下の範囲のピークは、-CH<および-CH2-に由来する。
少なくともオキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物としては、ポリプロピレングリコール、オキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含む共重合体、上記ポリオールのポリプロピレンオキサイド付加物、またはこれらのエーテル化物もしくはエステル化物などが挙げられる。共重合体としては、オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体(ただし、オキシアルキレンは、オキシプロピレン以外のC2-4アルキレン)などが挙げられる。オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体としては、オキシプロピレン-オキシエチレン共重合体、オキシプロピレン-オキシトリメチレン共重合体などが例示される。オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体は、ポリオキシプロピレン-ポリオキシアルキレン共重合体(例えば、ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン共重合体)と称することがある。オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体は、ブロック共重合体(例えば、ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンブロック共重合体)であってもよい。エーテル化物としては、ポリプロピレングリコールアルキルエーテル、オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体のアルキルエーテル(ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン共重合体のアルキルエーテルなど)などが挙げられる。エステル化物としては、カルボン酸のポリプロピレングリコールエステル、オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体のカルボン酸エステル(ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン共重合体のカルボン酸エステルなど)などが挙げられる。
少なくともオキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物としては、例えば、ポリプロピレングリコール、ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン共重合体(ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンブロック共重合体など)、ポリプロピレングリコールアルキルエーテル(上記R2が置換基を有していてもよい炭素数10以下(あるいは8以下または6以下)のアルキルであるアルキルエーテル(メチルエーテル、エチルエーテル、ブチルエーテルなど)など)、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンアルキルエーテル(上記R2が置換基を有していてもよい炭素数10以下(あるいは8以下または6以下)のアルキルであるアルキルエーテル(ブチルエーテル、ヒドロキシヘキシルエーテルなど)など)、カルボン酸ポリプロピレングリコール(上記R3が炭素数10以下(あるいは8以下または6以下)のアルキルであるカルボン酸ポリプロピレングリコール(酢酸ポリプロピレングリコールなど)など)、トリオール以上のポリオールのポリプロピレンオキサイド付加物(グリセリンのポリプロピレンオキサイド付加物など)が挙げられる。しかし、ポリマー化合物は、これらに限定されない。
オキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物において、オキシプロピレンユニットの割合は、例えば、5mol%以上であり、10mol%以上または20mol%以上であってもよい。オキシプロピレンユニットの割合は、例えば、100mol%以下である。上記共重合体においては、オキシプロピレンユニットの割合は、90mol%以下であってもよく、75mol%以下または60mol%以下であってもよく、50mol%以下または43mol%以下であってもよい。
オキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物において、オキシプロピレンユニットの割合は、5mol%以上100mol%以下(または90mol%以下)、10mol%以上100mol%以下(または90mol%以下)、20mol%以上100mol%以下(または90mol%以下)、5mol%以上75mol%以下(または60mol%以下)、10mol%以上75mol%以下(または60mol%以下)、20mol%以上75mol%以下(または60mol%以下)、5mol%以上50mol%以下(または43mol%以下)、10mol%以上50mol%以下(または43mol%以下)、あるいは20mol%以上50mol%以下(または43mol%以下)であってもよい。
鉛に対するポリマー化合物の吸着性が高まるとともに、ポリマー化合物が線状構造を取り易くなる観点から、ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットを多く含むことが好ましい。このようなポリマー化合物は、例えば、末端基に結合した酸素原子と、酸素原子に結合した-CH2-基および/または-CH<基とを含んでいる。ポリマー化合物の1H-NMRスペクトルでは、3.2ppm~3.8ppmのピークの積分値の、このピークの積分値と、-CH2-基の水素原子のピークの積分値と、-CH<基の水素原子のピークの積分値との合計に占める割合が大きくなる。この割合は、例えば、50%以上であり、80%以上であってもよい。負極板の耳痩せを低減する効果がさらに高まるとともに、減液を低減する効果がさらに高まる観点からは、上記の割合は、85%以上が好ましく、90%以上であることがより好ましい。例えば、ポリマー化合物が末端に-OH基を有するとともに、この-OH基の酸素原子に結合した-CH2-基および/または-CH<基を有する場合、1H-NMRスペクトルにおいて、-CH2-基および-CH<基のそれぞれの水素原子のピークは、ケミカルシフトが3.8ppmを超え4.0ppm以下の範囲にある。
負極電極材料は、ポリマー化合物を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
ポリマー化合物は、Mnが300以上または400以上の化合物を含んでもよく、500以上の化合物を含んでもよく、Mnが600以上の化合物を含んでもよく、Mnが1000以上の化合物を含んでもよい。このような化合物のMnは、例えば、500万以下であり、100万以下または10万以下であってもよく、50000以下または20000以下であってもよく、15000以下または10000以下であってもよい。負極電極材料中に化合物を保持させ易く、鉛表面により薄く広がり易い観点からは、上記化合物のMnは、5000以下が好ましく、4000以下または3000以下であってもよい。ポリマー化合物としては、Mnが異なる2種以上の化合物を用いてもよい。つまり、ポリマー化合物は、分子量の分布において、Mnのピークを複数有してもよい。
上記の化合物のMnは、300以上500万以下(または100万以下)、400以上500万以下(または100万以下)、500以上500万以下(または100万以下)、600以上500万以下(または100万以下)、1000以上500万以下(または100万以下)、300以上10万以下(または50000以下)、400以上10万以下(または50000以下)、500以上10万以下(または50000以下)、600以上10万以下(または50000以下)、1000以上10万以下(または50000以下)、300以上20000以下(または15000以下)、300以上10000以下(または5000以下)、300以上4000以下(または3000以下)、400以上20000以下(または15000以下)、400以上10000以下(または5000以下)、400以上4000以下(または3000以下)、500以上(または600以上)20000以下、500以上(または600以上)15000以下、500以上(または600以上)10000以下、500以上(または600以上)5000以下、500以上(または600以上)4000以下、500以上(または600以上)3000以下、1000以上20000以下(または15000以下)、1000以上10000以下(または5000以下)、あるいは1000以上4000以下(または3000以下)であってもよい。
ポリマー化合物は、少なくともMnが1000以上の化合物を含むことが好ましい。このような化合物のMnは、1000以上50000以下であってもよく、1000以上20000以下であってもよく、1000以上15000以下であってもよく、1000以上10000以下であってもよい。負極電極材料中に化合物を保持させ易く、鉛表面により薄く広がり易い観点からは、上記化合物のMnは、1000以上5000以下が好ましく、1000以上4000以下であってもよく、1000以上3000以下であってもよい。このようなMnを有する化合物を用いる場合、減液を低減する効果をさらに高めることができる。また、過充電時のガス発生が低減されることで、水素ガスが負極活物質に衝突することに起因する負極活物質の構造変化も抑制することができる。上記のようなMnを有する化合物は、電解液中に含まれる場合でも負極電極材料中に移動し易いため、負極電極材料中に化合物を補充することができ、このような観点からも負極電極材料中に化合物を保持させ易い。ポリマー化合物としては、Mnが異なる2種以上の化合物を用いてもよい。つまり、ポリマー化合物は、分子量の分布において、Mnのピークを複数有してもよい。
負極電極材料中のポリマー化合物の含有量は、質量基準で、例えば、8ppm以上であり、10ppm以上であってもよい。耳痩せを低減する効果をさらに向上できる観点からは、負極電極材料中のポリマー化合物の含有量は、質量基準で、15ppm以上であることが好ましい。ポリマー化合物の含有量がこのような範囲である場合、水素発生電圧をより高め易く、減液を抑制する効果をさらに高めることができる。負極電極材料中のポリマー化合物の含有量(質量基準)は、例えば、400ppm以下であり、380ppm以下または370ppm以下であってもよい。
ポリマー化合物の含有量(質量基準)は、8ppm以上(または10ppm以上)400ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)380ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)370ppm以下、15ppm以上400ppm以下(または380ppm以下)、あるいは15ppm以上370ppm以下であってもよい。
(有機防縮剤)
負極電極材料は、有機防縮剤を含んでいてもよい。有機防縮剤には、リグニン化合物および合成有機防縮剤からなる群より選択される少なくとも一種を用いてもよい。リグニン化合物としては、リグニン、リグニン誘導体などが挙げられる。リグニン誘導体としては、リグニンスルホン酸またはその塩(アルカリ金属塩(ナトリウム塩など)など)などが挙げられる。有機防縮剤は、通常、リグニン化合物と合成有機防縮剤とに大別される。合成有機防縮剤は、リグニン化合物以外の有機防縮剤であるとも言える。合成有機防縮剤は、硫黄元素を含む有機高分子であり、一般に、分子内に複数の芳香環を含むとともに、硫黄含有基として硫黄元素を含んでいる。硫黄含有基の中では、安定形態であるスルホン酸基もしくはスルホニル基が好ましい。スルホン酸基は、酸型で存在してもよく、Na塩のように塩型で存在してもよい。負極電極材料は、有機防縮剤を、一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
有機防縮剤としては、少なくとも芳香族化合物のユニットを含む縮合物を用いることが好ましい。このような縮合物としては、例えば、芳香族化合物の、アルデヒド化合物(アルデヒド(例えば、ホルムアルデヒド)およびその縮合物からなる群より選択される少なくとも一種など)による縮合物が挙げられる。有機防縮剤は、一種の芳香族化合物のユニットを含んでもよく、二種以上の芳香族化合物のユニットを含んでいてもよい。
なお、芳香族化合物のユニットとは、縮合物に組み込まれた芳香族化合物に由来するユニットを言う。
芳香族化合物が有する芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環などが挙げられる。芳香族化合物が複数の芳香環を有する場合には、複数の芳香環は直接結合や連結基(例えば、アルキレン基(アルキリデン基を含む)、スルホン基)などで連結していてもよい。このような構造としては、例えば、ビスアレーン構造(ビフェニル、ビスフェニルアルカン、ビスフェニルスルホンなど)が挙げられる。芳香族化合物としては、例えば、上記の芳香環と、ヒドロキシ基およびアミノ基からなる群より選択される少なくとも一種とを有する化合物が挙げられる。ヒドロキシ基またはアミノ基は、芳香環に直接結合していてもよく、ヒドロキシ基またはアミノ基を有するアルキル鎖として結合していてもよい。なお、ヒドロキシ基には、ヒドロキシ基の塩(-OMe)も包含される。アミノ基には、アミノ基の塩(具体的には、アニオンとの塩)も包含される。Meとしては、アルカリ金属(Li、K、Naなど)、周期表第2族金属(Ca、Mgなど)などが挙げられる。
芳香族化合物としては、ビスアレーン化合物[ビスフェノール化合物、ヒドロキシビフェニル化合物、アミノ基を有するビスアレーン化合物(アミノ基を有するビスアリールアルカン化合物、アミノ基を有するビスアリールスルホン化合物、アミノ基を有するビフェニル化合物など)、ヒドロキシアレーン化合物(ヒドロキシナフタレン化合物、フェノール化合物など)、アミノアレーン化合物(アミノナフタレン化合物、アニリン化合物(アミノベンゼンスルホン酸、アルキルアミノベンゼンスルホン酸など)など)など]が好ましい。芳香族化合物は、さらに置換基を有していてもよい。有機防縮剤は、これらの化合物の残基を一種含んでもよく、複数種含んでもよい。ビスフェノール化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなどが好ましい。
縮合物は、少なくとも硫黄含有基を有する芳香族化合物のユニットを含むことが好ましい。中でも、硫黄含有基を有するビスフェノール化合物のユニットを少なくとも含む縮合物を用いると、耳痩せを抑制する効果をさらに高めることができる。減液を抑制する効果が高まる観点からは、硫黄含有基を有するとともに、ヒドロキシ基およびアミノ基からなる群より選択される少なくとも一種を有するナフタレン化合物のアルデヒド化合物による縮合物を用いることが好ましい。
硫黄含有基は、化合物に含まれる芳香環に直接結合していてもよく、例えば、硫黄含有基を有するアルキル鎖として芳香環に結合していてもよい。硫黄含有基としては、特に制限されないが、例えば、スルホニル基、スルホン酸基またはその塩などが挙げられる。
また、有機防縮剤として、例えば、上記のビスアレーン化合物のユニットおよび単環式の芳香族化合物(ヒドロキシアレーン化合物、および/またはアミノアレーン化合物など)のユニットからなる群より選択される少なくとも一種を含む縮合物を少なくとも用いてもよい。有機防縮剤は、ビスアレーン化合物のユニットと単環式芳香族化合物(中でも、ヒドロキシアレーン化合物)のユニットとを含む縮合物を少なくとも含んでもよい。このような縮合物としては、ビスアレーン化合物と単環式の芳香族化合物との、アルデヒド化合物による縮合物が挙げられる。ヒドロキシアレーン化合物としては、フェノールスルホン酸化合物(フェノールスルホン酸またはその置換体など)が好ましい。アミノアレーン化合物としては、アミノベンゼンスルホン酸、アルキルアミノベンゼンスルホン酸などが好ましい。単環式の芳香族化合物としては、ヒドロキシアレーン化合物が好ましい。
負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量は、例えば、0.01質量%以上であり、0.05質量%以上であってもよい。有機防縮剤の含有量は、例えば、1.0質量%以下であり、0.5質量%以下であってもよい。
負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量は、0.01質量%以上1.0質量%以下、0.05質量%以上1.0質量%以下、0.01質量%以上0.5質量%以下、または0.05質量%以上0.5質量%以下であってもよい。
(炭素質材料)
負極電極材料に含まれる炭素質材料としては、カーボンブラック、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどを用いることができる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ランプブラックなどが例示される。ファーネスブラックには、ケッチェンブラック(商品名)も含まれる。黒鉛は、黒鉛型の結晶構造を含む炭素質材料であればよく、人造黒鉛および天然黒鉛のいずれであってもよい。負極電極材料は、炭素質材料を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
負極電極材料中の炭素質材料の含有量は、例えば、0.05質量%以上であり、0.10質量%以上であってもよい。炭素質材料の含有量は、例えば、5質量%以下であり、3質量%以下であってもよい。
負極電極材料中の炭素質材料の含有量は、0.05質量%以上5質量%以下、0.05質量%以上3質量%以下、0.10質量%以上5質量%以下、または0.10質量%以上3質量%以下であってもよい。
(硫酸バリウム)
負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、例えば、0.05質量%以上であり、0.10質量%以上であってもよい。負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、例えば、3質量%以下であり、2質量%以下であってもよい。
負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、0.05質量%以上3質量%以下、0.05質量%以上2質量%以下、0.10質量%以上3質量%以下、または0.10質量%以上2質量%以下であってもよい。
(負極電極材料の構成成分の分析)
以下に、負極電極材料またはその構成成分の分析方法について説明する。分析に先立ち、満充電状態の鉛蓄電池を解体して分析対象の負極板を入手する。入手した負極板を水洗し、負極板から硫酸分を除去する。水洗は、水洗した負極板表面にpH試験紙を押し当て、試験紙の色が変化しないことが確認されるまで行う。ただし、水洗を行う時間は、2時間以内とする。水洗した負極板は、減圧環境下、60±5℃で6時間程度乾燥する。乾燥後に負極板に貼付部材が含まれる場合には、剥離により、貼付部材が除去される。次に、負極板から負極電極材料を分離し、粉砕することにより試料(以下、試料Aと称する)を入手する。
(1)ポリマー化合物の分析
(1-1)ポリマー化合物の定性分析
100.0±0.1gの試料Aに150.0±0.1mLのクロロホルムを加え、20±5℃で16時間撹拌し、ポリマー化合物を抽出する。その後、ろ過によって固形分を除く。抽出により得られるポリマー化合物が溶解したクロロホルム溶液またはクロロホルム溶液を乾固することにより得られるポリマー化合物について、例えば、赤外分光スペクトル、紫外可視吸収スペクトル、NMRスペクトル、LC-MSおよび熱分解GC-MSから選択される少なくとも1つから情報を得ることで、ポリマー化合物を特定する。
抽出により得られるポリマー化合物が溶解したクロロホルム溶液から、クロロホルムを減圧下で留去することによりクロロホルム可溶分を回収する。クロロホルム可溶分を重クロロホルムに溶解させて、下記の条件で1H-NMRスペクトルを測定する。この1H-NMRスペクトルから、ケミカルシフトが3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲のピークを確認する。また、この範囲のピークから、オキシC2-4アルキレンユニットの種類を特定する。
装置:日本電子(株)製、AL400型核磁気共鳴装置
観測周波数:395.88MHz
パルス幅:6.30μs
パルス繰り返し時間:74.1411秒
積算回数:32
測定温度:室温(20~35℃)
基準:7.24ppm
試料管直径:5mm
1H-NMRスペクトルから、ケミカルシフトが3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲に存在するピークの積分値(V1)を求める。また、ポリマー化合物の末端基に結合した酸素原子に対して結合した-CH2-基および-CH<基の水素原子のそれぞれについて、1H-NMRスペクトルにおけるピークの積分値の合計(V2)を求める。そして、V1およびV2から、V1がV1およびV2の合計に占める割合(=V1/(V1+V2)×100(%))を求める。
なお、定性分析で、1H-NMRスペクトルにおけるピークの積分値を求める際には、1H-NMRスペクトルにおいて、該当するピークを挟むように有意なシグナルがない2点を決定し、この2点間を結ぶ直線をベースラインとして各積分値を算出する。例えば、ケミカルシフトが3.2ppm~3.8ppmの範囲に存在するピークについては、スペクトルにおける3.2ppmと3.8ppmとの2点間を結ぶ直線をベースラインとする。例えば、ケミカルシフトが3.8ppmを超え4.0ppm以下の範囲に存在するピークについては、スペクトルにおける3.8ppmと4.0ppmとの2点間を結ぶ直線をベースラインとする。
(1-2)ポリマー化合物の定量分析
上記のクロロホルム可溶分の適量を、±0.0001gの精度で測定したmr(g)のテトラクロロエタン(TCE)と共に重クロロホルムに溶解させて、1H-NMRスペクトルを測定する。ケミカルシフトが3.2~3.8ppmの範囲に存在するピークの積分値(Sa)とTCEに由来するピークの積分値(Sr)を求め、以下の式から負極電極材料中のポリマー化合物の質量基準の含有量Cn(ppm)を求める。
Cn=Sa/Sr×Nr/Na×Ma/Mr×mr/m×1000000
(式中、Maはケミカルシフトが3.2~3.8ppmの範囲にピークを示す構造の分子量(より具体的には、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造の分子量)であり、Naは繰り返し構造の主鎖の炭素原子に結合した水素原子の数である。Nr、Mrはそれぞれ基準物質の分子に含まれる水素数、基準物質の分子量であり、m(g)は抽出に使用した負極電極材料の質量である。)
なお、本分析での基準物質はTCEであるため、Nr=2、Mr=168である。また、m=100である。
例えば、ポリマー化合物がポリプロピレングリコールの場合、Maは58であり、Naは3である。ポリマー化合物がポリエチレングリコールの場合、Maは44であり、Naは4である。共重合体の場合には、NaおよびMaは、それぞれ、各モノマー単位のNa値およびMa値を繰り返し構造に含まれる各モノマー単位のモル比率(モル%)を用いて平均化した値である。
なお、定量分析では、1H-NMRスペクトルにおけるピークの積分値は、日本電子(株)製のデータ処理ソフト「ALICE」を用いて求める。
(1-3)ポリマー化合物のMn測定
上記のクロロホルム可溶分を用いて、ポリマー化合物のGPC測定を、下記の装置を用い、下記の条件で行う。別途、標準物質のMnと溶出時間のプロットから校正曲線(検量線)を作成する。この検量線およびポリマー化合物のGPC測定結果に基づき、ポリマー化合物のMnを算出する。ただし、エステル化物またはエーテル化物などは、クロロホルム可溶分中で分解した状態であり得る。
分析システム:20A system((株)島津製作所製)
カラム:GPC KF-805L(Shodex社製)2本を直列接続
カラム温度:30℃
移動相:テトラヒドロフラン
流速:1mL/min.
濃度:0.20質量%
注入量:10μL
標準物質:ポリエチレングリコール(Mn=200,0000、20,0000、20,000、2,000、200)
検出器:示差屈折率検出器(Shodex社製、Shodex RI-201H)
(2)有機防縮剤の分析
(2-1)負極電極材料中の有機防縮剤の定性分析
試料Aを1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、有機防縮剤を抽出する。次に、抽出物から、不溶成分を濾過で取り除き、得られた溶液を脱塩した後、濃縮し、乾燥する。脱塩は、脱塩カラムを用いて行うか、溶液をイオン交換膜に通すことにより行うか、もしくは、溶液を透析チューブに入れて蒸留水中に浸すことにより行なう。これを乾燥することにより有機防縮剤の粉末試料(以下、試料Bと称する)が得られる。
このようにして得た有機防縮剤の試料Bを用いて測定した赤外分光スペクトル、試料Bを蒸留水等で希釈し、紫外可視吸光度計で測定した紫外可視吸収スペクトル、試料Bを重水等の所定の溶媒で溶解することにより得られる溶液のNMRスペクトル、または物質を構成している個々の化合物の情報を得ることができる熱分解GC-MSなどから得た情報を組み合わせて、有機防縮剤の種類を特定する。
(2-2)負極電極材料中における有機防縮剤の含有量の定量
上記(2-1)と同様に、抽出物から不溶成分を濾過で取り除いた後の溶液を得る。得られた各溶液について、紫外可視吸収スペクトルを測定する。有機防縮剤に特徴的なピークの強度と、予め作成した検量線とを用いて、負極電極材料中の有機防縮剤の含有量を求める。
なお、有機防縮剤の含有量が未知の鉛蓄電池を入手して有機防縮剤の含有量を測定する際に、有機防縮剤の構造式の厳密な特定ができないために検量線に同一の有機防縮剤が使用できないことがある。この場合には、当該電池の負極から抽出した有機防縮剤と、紫外可視吸収スペクトル、赤外分光スペクトル、およびNMRスペクトルなどが類似の形状を示す、別途入手可能な有機高分子を使用して検量線を作成することで、紫外可視吸収スペクトルを用いて有機防縮剤の含有量を測定する。
(3)炭素質材料と硫酸バリウムの定量
試料A10gに対し、20質量%濃度の硝酸50mlを加え、約20分加熱し、鉛成分を鉛イオンとして溶解させる。得られた溶液を濾過して、炭素質材料、硫酸バリウム等の固形分を濾別する。
得られた固形分を水中に分散させて分散液とした後、篩いを用いて分散液から炭素質材料および硫酸バリウム以外の成分(例えば補強材)を除去する。次に、分散液に対し、予め質量を測定したメンブレンフィルタを用いて吸引ろ過を施し、濾別された試料とともにメンブレンフィルタを110℃±5℃の乾燥器で乾燥する。濾別された試料は、炭素質材料と硫酸バリウムとの混合試料である。乾燥後の混合試料(以下、試料Cと称する)とメンブレンフィルタとの合計質量からメンブレンフィルタの質量を差し引いて、試料Cの質量(Mm)を測定する。その後、試料Cをメンブレンフィルタとともに坩堝に入れ、1300℃以上で灼熱灰化させる。残った残渣は酸化バリウムである。酸化バリウムの質量を硫酸バリウムの質量に変換して硫酸バリウムの質量(MB)を求める。質量Mmから質量MBを差し引いて炭素質材料の質量を算出する。
(その他)
負極板は、負極集電体に負極ペーストを塗布または充填し、熟成および乾燥することにより未化成の負極板を作製し、その後、未化成の負極板を化成することにより形成できる。負極ペーストは、例えば、鉛粉と、ポリマー化合物と、必要に応じて、有機防縮剤、炭素質材料、他の添加剤からなる群より選択される少なくとも一種とに、水および硫酸(または硫酸水溶液)を加えて混練することで作製する。熟成する際には、室温より高温かつ高湿度で、未化成の負極板を熟成させることが好ましい。
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。化成により、海綿状鉛が生成する。
(正極板)
鉛蓄電池の正極板は、ペースト式、クラッド式などに分類できる。ペースト式およびクラッド式のいずれの正極板を用いてもよい。ペースト式正極板は、正極集電体と、正極電極材料とを具備する。正極電極材料は、正極集電体に保持されている。ペースト式正極板では、正極電極材料は、正極板から正極集電体を除いた部分である。正極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工または打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。正極集電体として格子状の集電体を用いると、正極電極材料を担持させ易いため好ましい。クラッド式正極板は、複数の多孔質のチューブと、各チューブ内に挿入される芯金(spine)と、複数の芯金(spine)を連結する集電部と、芯金(spine)が挿入されたチューブ内に充填される正極電極材料と、複数のチューブを連結する連座(spine protector)とを具備する。クラッド式正極板では、正極電極材料は、正極板からチューブ、芯金(spine)、集電部、および連座(spine protector)を除いた部分である。クラッド式正極板では、芯金(spine)と集電部とを合わせて正極集電体と称する場合がある。
正極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材(貼付部材)は正極板と一体として使用されるため、正極板に含まれる。また、正極板が貼付部材(マット、ペースティングペーパなど)を含む場合には、正極電極材料は、ペースト式正極板では、正極板から正極集電体および貼付部材を除いた部分である。
正極集電体に用いる鉛合金としては、耐食性および機械的強度の点で、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金が好ましい。正極集電体は、表面層を備えていてもよい。正極集電体の表面層と内側の層とは組成が異なってもよい。表面層は、正極集電体の一部に形成されていてもよい。表面層は、正極集電体の格子部分のみ、耳部分のみ、または枠骨部分のみに形成されていてもよい。
正極板に含まれる正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質(二酸化鉛もしくは硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
未化成のペースト式正極板は、正極集電体に、正極ペーストを充填し、熟成、乾燥することにより得られる。正極ペーストは、鉛粉、添加剤、水、および硫酸を混練することで調製される。未化成のクラッド式正極板は、集電部で連結された芯金(spine)が挿入された多孔質なチューブに鉛粉またはスラリー状の鉛粉を充填し、複数のチューブを連座(spine protector)で結合することにより形成される。その後、これらの未化成の正極板を化成することにより正極板が得られる。
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の正極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。
(セパレータ)
負極板と正極板との間には、セパレータを配置することができる。セパレータとしては、不織布、および微多孔膜から選択される少なくとも一種などが用いられる。
不織布は、繊維を織らずに絡み合わせたマットであり、繊維を主体とする。不織布は、例えば、不織布の60質量%以上が繊維で形成されている。繊維としては、ガラス繊維、ポリマー繊維(ポリオレフィン繊維、アクリル繊維、ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート繊維など)など)、パルプ繊維などを用いることができる。中でも、ガラス繊維が好ましい。不織布は、繊維以外の成分(例えば、耐酸性の無機粉体、結着剤としてのポリマー)などを含んでもよい。
一方、微多孔膜は、繊維成分以外を主体とする多孔性のシートであり、例えば、造孔剤含む組成物をシート状に押し出し成形した後、造孔剤を除去して細孔を形成することにより得られる。微多孔膜は、耐酸性を有する材料で構成することが好ましく、ポリマー成分を主体とする微多孔膜が好ましい。ポリマー成分としては、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)が好ましい。造孔剤としては、ポリマー粉末およびオイルからなる群より選択される少なくとも一種などが挙げられる。
セパレータは、例えば、不織布のみで構成してもよく、微多孔膜のみで構成してもよい。また、セパレータは、必要に応じて、不織布と微多孔膜との積層物、異種または同種の素材を貼り合わせた物、または異種または同種の素材において凹凸をかみ合わせた物などであってもよい。
セパレータは、シート状であってもよく、袋状に形成されていてもよい。正極板と負極板との間に1枚のシート状のセパレータを挟むように配置してもよい。また、折り曲げた状態の1枚のシート状のセパレータで極板を挟むように配置してもよい。この場合、折り曲げたシート状のセパレータで挟んだ正極板と、折り曲げたシート状のセパレータで挟んだ負極板とを重ねてもよく、正極板および負極板の一方を折り曲げたシート状のセパレータで挟み、他方の極板と重ねてもよい。また、シート状のセパレータを蛇腹状に折り曲げ、正極板および負極板を、これらの間にセパレータが介在するように、蛇腹状のセパレータに挟み込んでもよい。蛇腹状に折り曲げられたセパレータを用いる場合、折り曲げ部が鉛蓄電池の水平方向に沿うように(例えば、折り曲げ部が水平方向と平行になるように)セパレータを配置してもよく、鉛直方向に沿うように(例えば、折り曲げ部が鉛直方向と平行になるように)セパレータを配置してもよい。蛇腹状に折り曲げられたセパレータでは、セパレータの両方の主面側に交互に凹部が形成されることになる。正極板および負極板の上部には通常耳部が形成されているため、折り曲げ部が鉛蓄電池の水平方向に沿うようにセパレータを配置する場合、セパレータの一方の主面側の凹部のみに正極板および負極板が配置される(つまり、隣接する正極板と負極板との間には、二重のセパレータが介在した状態となる)。折り曲げ部が鉛蓄電池の鉛直方向に沿うようにセパレータを配置する場合、一方の主面側の凹部に正極板を収容し、他方の主面側の凹部に負極板を収容することができる(つまり、隣接する正極板と負極板との間には、セパレータが一重に介在した状態とすることができる。)。袋状のセパレータを用いる場合、袋状のセパレータが正極板を収容していてもよいし、負極板を収容してもよい。
セパレータの最大厚みTは、例えば、0.7mm以上である。セパレータの最大厚みTは、例えば、0.95mm以下である。
セパレータの最大厚みTは、満充電状態の鉛蓄電池から取り出したセパレータから、水洗により硫酸を除去し、大気圧下で乾燥したサンプルについて測定される。より具体的には、各セパレータのサンプルの厚み方向の断面写真を撮影し、この断面写真において最大厚みtを計測する。極板群に極板群に含まれる全てのセパレータの最大厚みtを、平均化することにより最大厚みTが求められる。複数の直列接続された極板群を具備する鉛蓄電池においては、セパレータの最大厚みTは、端部に位置する1つの極板群(セル)と中央付近に位置する1つの極板群(セル)における平均値である。
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液であり、必要に応じてゲル化させてもよい。
電解液には、上記のポリマー化合物が含まれていてもよい。
電解液は、必要に応じて、カチオン(例えば、金属カチオン)、および/またはアニオン(例えば、硫酸アニオン以外のアニオン(リン酸イオンなど))を含んでいてもよい。金属カチオンとしては、例えば、Naイオン、Liイオン、Mgイオン、およびAlイオンからなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。電解液がAlイオンを含む場合、PSOCサイクル中の比重低下が抑制されるため、負極板の耳痩せをさらに低減することができる。
満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば、1.20以上であり、1.25以上であってもよい。電解液の20℃における比重は、1.35以下であり、1.32以下であることが好ましい。
電解液の20℃における比重は、1.20以上1.35以下、1.20以上1.32以下、1.25以上1.35以下、または1.25以上1.32以下であってもよい。
(その他)
鉛蓄電池は、電槽のセル室に極板群と電解液とを収容する工程を含む製造方法により得ることができる。鉛蓄電池の各セルは、各セル室に収容された極板群および電解液を備える。極板群は、セル室への収容に先立って、正極板、負極板、およびセパレータを、正極板と負極板との間にセパレータが介在するように積層することにより組み立てられる。正極板、負極板、電解液、およびセパレータは、それぞれ、極板群の組み立てに先立って、準備される。鉛蓄電池の製造方法は、極板群および電解液をセル室に収容する工程の後、必要に応じて、正極板および負極板の少なくとも一方を化成する工程を含んでもよい。
極板群における各極板は、1枚であってもよく、2枚以上であってもよい。より高容量を確保する観点からは、極板群に含まれる負極板は、2枚以上であることが好ましく、4枚以上または6枚以上であってもよい。また、極板群に含まれる負極板を9枚以上とすると、PSOCサイクルにおける極板群の上部における電解液の比重の低下が抑制されることで、耳部において鉛が溶解し難くなるため、耳痩せを低減する効果がさらに高まる。なお、極板群に含まれる負極板の枚数をnとすると、正極板の枚数は、n≧2のときは、(n-1)以上(n+1)以下であり、n=1のときは、1または2である。
極間距離Dは、上述のように、満充電状態の鉛蓄電池から取り出した極板群について、隣接する一対の正極板間のピッチと、正極板および負極板のそれぞれの厚みから求められる。ピッチは、複数の正極板の耳部を並列接続する棚部の断面の下部で測定される。例えば、極板群が正極板6枚と負極板7枚とを含む場合、耳部の中心間距離は5箇所で測定され、平均化することによりピッチが求められる。また、極板群が正極板7枚と負極板7枚とで構成される場合、耳部の中心間距離は6箇所で測定され、平均化することによりピッチが求められる。複数の直列接続された極板群を具備する鉛蓄電池においては、ピッチは、任意の2つの極板群(セル)について求められる平均値である。例えば、6個の極板群を含む12Vの鉛蓄電池の場合、正極端子側から数えて1セル目と4セル目の極板群において耳部の中心間距離を測定し、平均化することによりピッチが求められる。
各極板の厚みは、例えば、極板の周縁に沿って、1辺当たり両端付近および中心付近の3箇所(合計8箇所:図6中数字1~8で示す位置)をマイクロメータで測定し、平均化する。正極板は、水洗により硫酸を除去し、大気圧下で乾燥してから厚みを測定し、負極板は、水洗により硫酸を除去し、真空乾燥(大気圧より低い圧力下で乾燥)してから厚みを測定する。
極板群にセパレータとマットとが併用される場合、ならびに極板に不織布を主体とするマットが貼り付けられている場合は、極板の厚みはマットを含む厚みとする。マットは極板と一体として使用されるためである。ただし、セパレータにマットが貼り付けられている場合は、マットの厚みはセパレータの厚みに含まれる。
極板群における極間距離Dとセパレータの最大厚みTとの差(=D-T)は、例えば、0.20mm以下であり、0.15mm以下が好ましく、0.10mm以下がより好ましい。D-Tがこのような範囲である場合、PSOCサイクルにおける極板群の上部における電解液の比重の低下が抑制されることで、耳部において鉛が溶け難くなるため、耳痩せを低減する効果がさらに高まる。D-Tは、例えば、-1.5mm以上である。
図1に、本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池の一例の外観を示す。
鉛蓄電池1は、極板群11と電解液(図示せず)とを収容する電槽12を具備する。電槽12内は、隔壁13により、複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。電槽12の開口部は、負極端子16および正極端子17を具備する蓋15で閉じられる。蓋15には、セル室毎に液口栓18が設けられている。補水の際には、液口栓18を外して補水液が補給される。液口栓18は、セル室14内で発生したガスを電池外に排出する機能を有してもよい。
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2を収容する袋状のセパレータ4を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2を並列接続する負極棚部6が貫通接続体8に接続され、複数の正極板3を並列接続する正極棚部5が正極柱7に接続されている。正極柱7は蓋15の外部の正極端子17に接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、負極棚部6に負極柱9が接続され、正極棚部5に貫通接続体8が接続される。負極柱9は蓋15の外部の負極端子16と接続されている。各々の貫通接続体8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の極板群11同士を直列に接続している。
正極棚部5は、各正極板3の上部に設けられた耳部同士をキャストオンストラップ方式またはバーニング方式で溶接することにより形成される。負極棚部6も、正極棚部5の場合に準じて各負極板2の上部に設けられた耳部同士を溶接することにより形成される。
なお、鉛蓄電池の蓋15は、一重構造(単蓋)であるが、図示例の場合に限らない。蓋15は、例えば、中蓋と外蓋(または上蓋)とを備える二重構造を有してもよい。二重構造を有する蓋は、中蓋と外蓋との間に、中蓋に設けられた還流口から電解液を電池内(中蓋の内側)に戻すための還流構造を備えてもよい。
本明細書中、耳痩せ量、減液性能、およびPSOC寿命性能のそれぞれは、以下の手順で評価される。評価に用いられる試験電池の定格電圧は、12V、定格5時間率容量は48Ahである。
(a)評価1:耳痩せ量
試験電池から負極板を取り出して、水洗、乾燥し、耳部の厚み(初期厚み:t0)を測定する。
試験電池について、電池工業会規格SBA S 0101(アイドリングストップ車用鉛蓄電池)のPSOC充放電パターン(具体的には、表1に示すパターン)で、充放電を行なう。充放電後の鉛蓄電池から負極板を取り出して、水洗、乾燥する。次いで、負極板に、エポキシ樹脂を含浸させて、硬化させる。耳部を厚み方向に切断し、切断面について、金属顕微鏡を用いて耳部の厚みt1を測定する。そして、充放電サイクルによる耳部の厚みの減少量(=t0-t1(mm))を耳痩せ量として求める。金属顕微鏡としては、OLYMPUS社製のGX53Fが使用される。
なお、耳部の厚みは、耳部の任意の5点の厚みをノギスで測定し、平均化することにより求める。
(b)評価2:減液性能
試験電池を用いて、高温耐久性試験の前後の試験電池の質量変化より電解液の減少量を求める。
より具体的に説明すると、高温耐久性試験の前に試験電池の質量(M0)を測定する。試験電池について、75℃±3℃の水槽中で、下記の放電および充電のサイクルを5000回繰り返すことで、高温耐久性試験を行う。高温耐久試験後の試験電池の質量(M1)を測定する。M0からM1を差し引くことにより、電解液の減少量を求める。
放電:25A、2分
充電:14.8V、25A、10分
(c)評価3:PSOC寿命性能
試験電池を用いて、表1に示す充放電パターンのうち、工程1~3を、端子電圧が7Vに到達するか、または12万回まで繰り返す。これ以外は、表1の充放電パターンに従って、充放電を行い、このときの放電末電圧(V)の変化を測定する。
(d)評価4:負極板の耳部の電位変化
試験電池を用いて、上記評価3と同じ条件で、充放電を行い、このときの負極板の耳部の電位の変化を測定する。各負極板の耳部の電位は、鉛参照極(Pb/PbSO4)を用いて測定する。
(e)評価5:極板群上部の電解液比重の変化
試験電池を用いて、上記評価3と同じ条件で、充放電を行い、このときの、極板群の上部の電解液を少量抜き取って、比重の変化を、比重計を用いて測定する。電解液を抜き取る位置は、電解液の液面から1cmの位置とする。比重計としては、Anton Paar社製のDMA35Ampereを用いる。
本発明の一側面に係る鉛蓄電池を以下にまとめて記載する。
(1)鉛蓄電池であって、
前記鉛蓄電池は、極板群および電解液を備える少なくとも1つのセルを備え、
前記極板群は、負極板と、正極板と、前記負極板および前記正極板の間に介在するセパレータとを備え、
前記負極板は、耳部を備える集電体と、負極電極材料とを備え、
前記耳部は、Snを含む表面層を備え、
前記表面層におけるSnの含有量は、10質量%未満であり、
前記負極電極材料は、重クロロホルムを溶媒として用いて測定される1H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有するポリマー化合物を含む、鉛蓄電池。
(2)上記(1)において、前記ポリマー化合物は、末端基に結合した酸素原子と、前記酸素原子に結合した-CH2-基および/または-CH<基とを含み、
前記1H-NMRスペクトルにおいて、前記ピークの積分値と前記-CH2-基の水素原子のピークの積分値と前記-CH<基の水素原子のピークの積分値との合計に占める前記ピークの積分値の割合は、85%以上であってもよい。
(3)上記(1)または(2)において、前記ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含んでもよい。
(4)鉛蓄電池であって、
前記鉛蓄電池は、極板群および電解液を備える少なくとも1つのセルを備え、
前記極板群は、負極板と、正極板と、前記負極板および前記正極板の間に介在するセパレータとを備え、
前記負極板は、耳部を備える集電体と、負極電極材料とを備え、
前記耳部は、Snを含む表面層を備え、
前記表面層におけるSnの含有量は、10質量%未満であり、
前記負極電極材料は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物を含む、鉛蓄電池。
(5)上記(1)~(4)のいずれか1つにおいて、前記表面層におけるSn含有量は、7質量%以下、6質量%以下または5質量%以下であってもよい。
(6)上記(1)~(5)のいずれか1つにおいて、前記表面層におけるSn含有量は、0.01質量%以上、0.05質量%以上、または0.1質量%以上であってもよい。
(7)上記(1)~(6)のいずれか1つにおいて、表面層の厚みは、0.01mm以上、0.015mm以上、または0.02mm以上であってもよい。
(8)上記(1)~(7)のいずれか1つにおいて、表面層の厚みは、0.1mm以下、または0.05mm以下であってもよい。
(9)上記(1)~(8)のいずれか1つにおいて、ポリマー化合物は、Mnが300以上、400以上、500以上、600以上、または1000以上の化合物を含んでもよい。
(10)上記(1)~(9)のいずれか1つにおいて、ポリマー化合物は、Mnが500万以下、100万以下、10万以下、50000以下、20000以下、15000以下、10000以下、5000以下、4000以下または3000以下の化合物を含んでもよい。
(11)上記(1)~(10)のいずれか1つにおいて、前記ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物、前記ヒドロキシ化合物のエーテル化物および前記ヒドロキシ化合物のエステル化物からなる群より選択される少なくとも一種を含み、
前記ヒドロキシ化合物は、ポリC2-4アルキレングリコール、オキシC2-4アルキレンの繰り返し構造を含む共重合体、およびポリオールのポリC2-4アルキレンオキサイド付加物からなる群より選択される少なくとも一種であってもよい。
(12)上記(1)~(11)のいずれか1つにおいて、前記ポリマー化合物は、少なくともオキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含んでもよい。
(13)上記(12)において、前記ポリマー化合物は、ポリプロピレングリコール、ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン共重合体(ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンブロック共重合体など)、ポリプロピレングリコールアルキルエーテル(上記R2が炭素数10以下(あるいは8以下または6以下)のアルキルであるアルキルエーテル(メチルエーテル、エチルエーテル、ブチルエーテルなど)など)、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンアルキルエーテル(上記R2が炭素数10以下(あるいは8以下または6以下)のアルキルであるアルキルエーテル(ブチルエーテル、ヒドロキシヘキシルエーテルなど)など)、カルボン酸ポリプロピレングリコール(上記R3が炭素数10以下(あるいは8以下または6以下)のアルキルであるカルボン酸ポリプロピレングリコール(酢酸ポリプロピレングリコールなど)など)、およびトリオール以上のポリオールのポリプロピレンオキサイド付加物(グリセリンのポリプロピレンオキサイド付加物など)からなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。
(14)上記(12)または(13)において、前記ポリマー化合物における前記オキシプロピレンユニットの割合は、5mol%以上、10mol%以上または20mol%以上であってもよい。
(15)上記(12)~(14)のいずれか1つにおいて、前記ポリマー化合物における前記オキシプロピレンユニットの割合は、100mol%以下、90mol%以下、75mol%以下、60mol%以下、50mol%以下、または43mol%以下であってもよい。
(16)上記(1)~(15)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中の前記ポリマー化合物の含有量は、質量基準で、8ppm以上、10ppm以上、または15ppm以上であってもよい。
(17)上記(1)~(16)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中の前記ポリマー化合物の含有量は、質量基準で、400ppm以下、380ppm以下、または370ppm以下であってもよい。
(18)上記(1)~(17)のいずれか1つにおいて、負極電極材料は、さらに有機防縮剤を含んでもよい。
(19)上記(18)において、負極電極材料中の有機防縮剤の含有量は、0.01質量%以上、または0.05質量%以上であってもよい。
(20)上記(18)または(19)において、負極電極材料中の有機防縮剤の含有量は、1.0質量%以下、または0.5質量%以下であってもよい。
(21)上記(1)~(20)のいずれか1つにおいて、負極電極材料は、さらに炭素質材料を含んでもよい。
(22)上記(21)において、負極電極材料中の炭素質材料の含有量は、0.05質量%以上、または0.10質量%以上であってもよい。
(23)上記(21)または(22)において、負極電極材料中の炭素質材料の含有量は、5質量%以下、または3質量%以下であってもよい。
(24)上記(1)~(23)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料は、さらに硫酸バリウムを含んでもよい。
(25)上記(24)において、前記負極電極材料中の前記硫酸バリウムの含有量は、0.05質量%以上、または0.10質量%以上であってもよい。
(26)上記(24)または(25)において、前記負極電極材料中の前記硫酸バリウムの含有量は、3質量%以下、または2質量%以下であってもよい。
(27)上記(1)~(26)のいずれか1つにおいて、前記極板群における前記正極板と前記負極板との間の距離とセパレータ最大厚みの差(=D-T)は、0.20mm以下、0.15mm以下、または0.10mm以下であってもよい。
(28)上記(1)~(27)のいずれか1つにおいて、前記極板群における前記正極板と前記負極板との間の距離とセパレータ最大厚みの差(=D-T)は、-1.5mm以上であってもよい。
(29)上記(1)~(28)のいずれか1つにおいて、セパレータの最大厚みTは、0.7mm以上であってもよい。
(30)上記(1)~(29)のいずれか1つにおいて、セパレータの最大厚みTは、0.95mm以下であってもよい。
(31)上記(1)~(30)のいずれか1つにおいて、極板群における負極板は、1枚以上、2枚以上、4枚以上、6枚以上、または9枚以上であってもよい。
(32)上記(1)~(30)のいずれか1つにおいて、前記セルの少なくとも1つにおいて、前記極板群は、2枚以上の前記正極板と2枚以上の前記負極板とを備え、かつ前記正極板と前記負極板とが前記セパレータを介して交互に積層された構造を備え、
前記極板群は、9枚以上の前記負極板を備えてもよい。
(33)上記(31)または(32)において、極板群に含まれる負極板の枚数をnとすると、正極板の枚数は、n≧2のときは、(n-1)以上(n+1)以下であり、n=1のときは、1または2であってもよい。
(34)上記(1)~(33)のいずれか1つにおいて、前記電解液は、Alイオンを含んでもよい。
(35)上記(1)~(34)のいずれか1つにおいて 満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、1.20以上または1.25以上であってもよい。
(36)上記(1)~(35)のいずれか1つにおいて、満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、1.35以下または1.32以下であってもよい。
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
《鉛蓄電池E1~E16およびC1~C4》
(1)負極板の作製
Pb-Ca-Sn系合金製のシートに、Pb-Sn合金シートを重ね、この状態で圧延した後に、エキスパンド加工する。これにより、Pb-Ca-Sn系合金製のエキスパンド格子の耳部に、Snを含む鉛合金の表面層を設ける。Pb-Sn合金シートとしては、既述の手順で求められる表面層のSn含有量が表2~表4に示す値となるような組成のPb-Sn合金シートを用いる。既述の手順で測定される表面層の厚みは0.02mmである。このようにして形成される表面層を耳部に有する格子を、負極集電体として用いる。
なお、鉛蓄電池C4では、耳部に表面層を設けない状態のPb-Ca-Sn系合金製のエキスパンド格子を用いる。
鉛粉、水、希硫酸、カーボンブラック、ポリマー化合物、有機防縮剤としてのリグニンスルホン酸ナトリウム、硫酸バリウムを混合して、負極ペーストを得る。このとき、いずれも既述の手順で求められる負極電極材料中の有機防縮剤、カーボンブラック、および硫酸バリウムの含有量が、それぞれ、0.1質量%、0.2質量%、および0.4質量%となるように各成分を混合する。ポリマー化合物は、表2~表4に示すポリマー化合物を、既述の手順で求められる負極電極材料中のポリマー化合物の含有量が表2~表4に示す値となるように各成分とともに混合する。負極ペーストを、負極集電体の網目部に充填し、熟成、乾燥し、未化成の負極板を得る。
(2)正極板の作製
原料の鉛粉を硫酸水溶液と混合して、正極ペーストを得る。正極ペーストを、正極集電体としてのPb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成乾燥し、未化成の正極板を得る。
(3)鉛蓄電池の作製
未化成の負極板を、ポリエチレン製の微多孔膜で形成された袋状セパレータに収容し、未化成の負極板8枚と未化成の正極板7枚とで極板群を形成する。
極板群を電槽内に挿入し、電解液としての硫酸水溶液の所定量を注液して、電槽内で化成を施して、鉛電池の定格電圧は12Vで、定格容量が48Ah(5時間率)の液式の鉛蓄電池を作製する。満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、1.28である。なお、上記の化成により鉛蓄電池は満充電状態となる。
なお、ポリマー化合物がオキシエチレンユニットの繰り返し構造を有する場合、既述の手順で測定されるポリマー化合物の1H-NMRスペクトルでは、3.2ppm以上3.8ppm以下のケミカルシフトの範囲にオキシエチレンユニットの-CH2-に由来するピークが観察される。ポリマー化合物がオキシプロピレンユニットの繰り返し構造を有する場合、既述の手順で測定されるポリマー化合物の1H-NMRスペクトルでは、3.2ppm以上3.42ppm以下のケミカルシフトの範囲にオキシプロピレンユニットの-CH2-に由来するピークが観察され、3.42ppmを超え3.8ppm以下のケミカルシフトの範囲にオキシプロピレンユニットの-CH<および-CH2-に由来するピークが観察される。また、1H-NMRスペクトルにおいて、3.2ppm~3.8ppmのピークの積分値の、このピークの積分値と、酸素原子に結合した-CH2-基の水素原子のピークの積分値と、酸素原子に結合した-CH<基の水素原子のピークの積分値との合計に占める割合は、85~100%である。
(4)評価
(a)評価1:耳痩せ量
上記で作製した鉛蓄電池から負極板を取り出して、既述の手順で耳痩せ量を求める。鉛蓄電池C1の耳痩せ量を1としたときの相対比で、各鉛蓄電池における耳痩せ量を評価する。
(b)評価2:減液性能
上記鉛蓄電池を用いて、既述の手順で減液量を求める。鉛蓄電池C1の減液量を1としたときの相対比で減液性能を評価する。
結果を表2~表4に示す。なお、表2~表4中に示されるポリマー化合物のMnは、既述の手順で求められるMnである。E1~E16は実施例であり、C1~C4は比較例である。
表2に示されるように、負極電極材料がポリマー化合物を含まない場合、負極板の耳部の表面層中のSn含有量が10質量%または30質量%の場合には、表面層を設けない場合に比べて、耳痩せ量を10.5から1.2または1にまで大きく低減できる(C4とC2およびC1との比較)。これに対して、表面層中のSn含有量が10質量%未満の場合には、耳痩せを低減する効果は低い(C4とC3との比較、C3とC2およびC1との比較)。ところが、表面層中のSn含有量が10質量%未満の場合でも、負極電極材料がポリマー化合物を含む場合には、耳痩せ量を低減できる(C3とE1~E3との比較)。また、E1~E3では、減液量も低減されている。
表3に示されるように、表面層中のSn含有量が0.1質量%と少ない場合でも、負極電極材料がポリマー化合物を含むことで、耳痩せ量を大幅に低減できる(E4)。E4の耳痩せ量の結果から、表面層中のSn含有量が0.01質量%以上または0.05質量%以上といったごく少量である場合にも、ポリマー化合物との組み合わせにより、耳痩せ量を低減できると類推される。表面層中のSn含有量は、10質量%未満であればよく、7質量%以下または5質量%以下である場合でも、ポリマー化合物との組み合わせにより、耳痩せを顕著に低減できる。
表2および表3に示されるように、耳痩せ量の低減効果がさらに高まる観点からは、負極電極材料中のポリマー含有量は15ppm以上が好ましい。負極電極材料中のポリマー含有量の上限は特に制限されないが、400ppm以下でも耳痩せ量の優れた低減効果が得られる。
また、表4に示されるように、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエーテル化物またはエステル化物を用いる場合にも、負極板の耳痩せを低減できるとともに、減液が低減されている。
《鉛蓄電池E17~E19》
(1)負極板および正極板の作製
1セル当たりの負極電極材料中の鉛の総量が同じになるように、負極板1枚当たりの鉛の量および負極板の厚みを調節して、1セル当たり、7枚、8枚または9枚の未化成の負極板を作製する。同様にして、1セル当たりの正極電極材料中の鉛の総量が同じになるように、正極板1枚当たりの鉛の量および正極板の厚みを調節して、1セル当たり、6枚、7枚または8枚の未化成の正極板を作製する。これら以外の負極板および正極板の作製については、鉛蓄電池E1の場合と同じである。
(2)鉛蓄電池の作製
未化成の負極板を、ポリエチレン製の微多孔膜で形成された袋状セパレータに収容し、未化成の負極板と未化成の正極板とを重ねて極板群を形成する。このとき、鉛蓄電池E17では、未化成の負極板7枚と未化成の正極板6枚とを用いる。鉛蓄電池E18では、未化成の負極板8枚と未化成の正極板7枚とを用いる。鉛蓄電池E19では、未化成の負極板9枚と未化成の正極板8枚とを用いる。電解液としては、Alイオンを17g/Lの濃度で含む硫酸水溶液を用いる。満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、1.285である。これら以外は、鉛蓄電池E1の場合と同様にして、鉛蓄電池E17~E19を作製する。E17~E19は、実施例である。
(3)評価
(c)評価3:PSOC寿命性能
得られた鉛蓄電池を用いて、既述の手順でPSOC寿命性能を評価する。
結果を図2に示す。
(d)評価4:負極板の耳部の電位変化
得られた鉛蓄電池を用いて既述の手順で負極板の耳部の電位(参照電極に対する電圧)の変化を測定する。
結果を図3に示す。
(e)評価5:極板群上部の電解液比重の変化
得られた鉛蓄電池を用いて既述の手順で極板群の上部の電解液の比重の変化を測定する。
結果を図4に示す。
図2に示されるように、極板群が7枚または8枚の負極板を備える場合、PSOCサイクルが5万回または6万回を超えたあたりから、端子電圧が急激に低下する。この端子電圧の急激な低下とともに、負極板の耳痩せも顕著になり、耳痩せにより寿命となる。それに対し、極板群が9枚の負極板を備える場合、PSOCサイクルが10万回を超えても、端子電圧の急激な低下は見られず、負極板の耳痩せも抑制されている。
PSOCサイクル中の負極板の耳部の電位の変化は、図3に示されるように、極板群における負極板の枚数によらずほぼ同等である。一方、極板群の上部の電解液の比重は、負極板の枚数が7枚または8枚の場合には、図2で端子電圧の急激な低下が見られたサイクル数あたりから低下する(図4)。それに対し、負極板が9枚の場合には、電解液の比重の急激な低下は見られない(図4)。図3および図4から、図2において負極板が9枚の場合に負極板の耳痩せが抑制されたのは、極板群の上部の電解液の比重の低下が抑制されたためと考えられる。このような結果から、9枚を超える負極板を備える極板群の場合にも、9枚の場合と同様の効果が得られると考えられる。よって、耳痩せをさらに抑制する観点からは、極板群が9枚以上の負極板を備えることが好ましい。
《鉛蓄電池E20~E23およびE24~E27》
硫酸濃度を調節することにより、満充電状態の鉛蓄電池における20℃における比重が、1.20、1.22、1.24、1.28である電解液を調製する。調製した電解液を用いる以外は、鉛蓄電池E19と同様にして、鉛蓄電池E20、E21、E22、およびE23をそれぞれ作製する。
Alイオンに代えて、Naイオンを7g/Lの濃度で含む硫酸水溶液を電解液として用いる。硫酸濃度を調節することにより、満充電状態の鉛蓄電池における20℃における比重が、1.20、1.22、1.24または1.28である電解液を調製する。調製した電解液を用いる以外は、鉛蓄電池E19と同様にして、鉛蓄電池E24、E25、E26およびE27をそれぞれ作製する。E20~E23およびE24~E27は実施例である。
各鉛蓄電池を用いて、評価1の場合と同様に、負極板の耳痩せ量を測定する。電解液の比重と耳痩せ量との関係を図5に示す。
図5に示されるように、電解液がAlイオンを含む場合には、Naイオンを含む場合に比べて、負極板の耳痩せ量を大きく低減することができる。