ペルオキシソーム【peroxisome】
ペルオキシソーム
ペルオキシソーム
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/06/16 20:03 UTC 版)
ペルオキシソーム(英: peroxisome)は、膜に囲まれた細胞小器官であり、マイクロボディの一種である。事実上全ての真核細胞の細胞質に存在する[1][2]。ペルオキシソームは酸化反応を行う細胞小器官であり、その反応では多くの場合、分子状酸素が共基質としてはたらいて過酸化水素が形成される。ペルオキシソームという名称は、過酸化水素(hydrogen peroxide)を形成して捕捉剤としての活性を有することに由来する。ペルオキシソームは脂質代謝や活性酸素種の還元に重要な役割を果たしている[3]。
ペルオキシソームは、超長鎖脂肪酸、分枝脂肪酸、胆汁酸中間体(肝臓において)、D-アミノ酸、ポリアミンの異化に関与している。ペルオキシソームは、哺乳類の脳や肺の正常な機能に重要なエーテル脂質であるプラスマローゲンの生合成にも関与している[4]。また、エネルギー代謝に重要なペントースリン酸経路の2つの酵素(グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼとホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼ)の総活性の約10%はペルオキシソーム画分によるものである[4][5]。動物におけるイソプレノイドやコレステロール合成にペルオキシソームが関与しているかどうかについては議論がある[4]。ペルオキシソームの他の機能としては、発芽種子におけるグリオキシル酸回路(こうした機能を担うものは特にグリオキシソームと呼ばれる)、葉における光呼吸[6]、トリパノソーマにおける解糖系(グリコソーム)、一部の酵母におけるメタノールやアミンの酸化と同化などがある。
歴史
ペルオキシソーム(マイクロボディ)はスウェーデン・カロリンスカ研究所の大学院生であったJohannes Rhodinによって1954年に最初に記載され[7]、1966年にクリスチャン・ド・デューブとPierre Baudhuinによって細胞小器官として同定された[8]。ド・デューブらは、ペルオキシソームには過酸化水素の産生に関与するいくつかの酸化酵素、そして過酸化水素から酸素と水への分解に関与するカタラーゼが含まれていることを発見した[9]。ド・デューブは、それまで形態学的特徴に基づいて用いられていた「マイクロボディ」という語に代えて、過酸化物代謝に関与していることに基づいてこの細胞小器官を「ペルオキシソーム」と命名した。その後、哺乳類細胞ではホタルルシフェラーゼがペルオキシソームへ標的化されることが記載され、ペルオキシソームへの標的化シグナルの発見や、ペルオキシソーム生合成分野における多くの進展につながった[10][11]。
構造
ペルオキシソームは細胞質に位置する、一重の膜に囲まれた小さな(直径0.1–1 μm)細胞小器官であり、微細な顆粒状の基質(マトリックス)を伴う[12][13]。膜による区画化は、ペルオキシソーム内のさまざまな代謝反応の促進に最適な環境の形成をもたらし、細胞機能と個体の生存を維持するために必要である。
細胞内のペルオキシソームの数、大きさ、タンパク質組成は多様であり、細胞種や環境条件に依存している。一例として出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeでは、グルコースが良好に供給されている条件下ではペルオキシソームは小さなものがわずかに存在しているに過ぎない。一方、唯一の炭素源として長鎖脂肪酸のみが供給された場合には20個から25個の巨大なペルオキシソームが形成される[14]。
代謝機能
ペルオキシソームの主要な機能は、β酸化による超長鎖脂肪酸の分解である。動物細胞では、長鎖脂肪酸は中鎖脂肪酸へ変換され、その後ミトコンドリアへ送られて最終的には二酸化炭素と水へ分解される。酵母や植物細胞では、この過程は全てペルオキシソームで行われる[15][16]。
動物細胞におけるプラスマローゲン形成の第一反応もペルオキシソームで行われる。プラスマローゲンはミエリンに最も豊富に存在するリン脂質である。プラスマローゲンの欠乏によって神経細胞のミエリン化に重大な異常が引き起こされ、このことはペルオキシソーム病の多くで神経系に影響が生じる原因の1つとなっている[15]。ペルオキシソームは、脂肪や脂溶性ビタミン(ビタミンA、Kなど)の吸収に重要な胆汁酸の産生にも関与している。そのため、これらビタミンの欠乏による皮膚障害もペルオキシソーム機能に影響が及ぶ遺伝疾患の特徴となっている[16]。哺乳類のペルオキシソームでのみ行われる代謝経路には次のようなものがある[4]。
ペルオキシソームには、D-アミノ酸オキシダーゼや尿酸オキシダーゼなどの酸化酵素が含まれている[17]。一方で、ヒトには尿酸オキシダーゼは存在せず、尿酸の蓄積によって痛風が引き起こされる。ペルオキシソーム内の特定の酵素は分子状酸素を用いて、基質となる特定の有機物(下でRと示す)から酸化反応によって過酸化水素(これ自体も有害である)を産生する。
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