Vidar
ヴィーザル
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/03/01 15:59 UTC 版)
| ヴィーザル Vidar |
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| 古ノルド語 | Víðarr |
| 親 | オーディン, グリーズ |
| 兄弟 | ヴァーリ(異母兄弟) |
ヴィーザル(古ノルド語: Víðarr 英語: Vidar)は、北欧神話の神の一人。その名は「森」、あるいは「広い場所」を意味している。
父はオーディン、母は巨人族のグリーズで彼女に与えられた強い靴を履いている。沈黙の神とも呼ばれるヴィーザルは、雷神トールと同等の力を持つとされ、アース神族から非常に頼りにされていたといわれるが、彼がその力を振るうことは滅多になかった。住処も変わっており、多くの神々が立派な屋敷を構える中、彼は柴や丈の高い草が生い茂るヴィージと呼ばれる森を住処としていた。
『古エッダ』の『ロキの口論』[1]においては、エーギルの広間で開かれた宴の席にロキが乱入してきた際、オーディンに命じられるままに席を立ち、ロキに黙々と酒をついでいる。間もなくロキが神々と口論を始めたが、ヴィーザルだけはロキの罵詈雑言にさらされることはなかった。
ヴィーザルが単に無口でおとなしい神だったわけではなく、沈黙の誓いを立てることによって力を蓄えているのだという説もある。ラグナロクにおいてはオーディンを飲み込むフェンリルを倒す活躍を見せる。『古エッダ』の『ヴァフスルーズニルの言葉』第53節[2]や『スノッリのエッダ』第一部『ギュルヴィたぶらかし』51章[3]では「強い靴で下顎を踏みつけ、上顎をつかんで引き裂いた」とされている。また『古エッダ』の『巫女の予言』[4]では「剣を心臓に突き刺した」とされている。
彼の「強い靴」は、人間が靴を作る際に捨てた三角形の皮を集めて作られたもので、鉄のように固く、そのおかげでフェンリルの顎を引き裂き、父の敵を討つことができたという。
その後、多くの神々が倒れたラグナロクをヴィーザルは生き残った。一説によれば、世界を焼き尽くしたスルトの炎すら、ヴィーザルを傷つけるには至らなかったという。そして、世界の滅亡と再生を見届けると、復活したバルドルたちと共に新しい世界を見守る神の1柱となった。
なお『スノッリのエッダ』の『詩語法』ではヴィザールを表すケニングとして、「無口のアース」、「鉄靴の所有者」、「フェンリル狼の敵で殺し手」などを紹介している[5]。
ヴィシュヌとの類似性
語源的にインド神話の神ヴィシュヌと関連する、という説もある(ジョルジュ・デュメジルの説)。ヴィシュヌが世界を三歩で踏みつける神ならば、ヴィーザルは世界大のオオカミであるフェンリルの顎を踏みつける、というわけである。
さらに、ヴィシュヌが世界を踏んだ理由は、神々の敵アスラの王マハーバリが天と地と地底を支配したため、神々に頼まれ、これを取り戻すためであった。 つまりアヴァターラ(化身)の一つヴァーマナの姿で、三歩で歩いた面積の土地をくれるようマハーバリに求め、彼が了承すると、直ちに巨大化して天と地を踏み、三歩目はマハーバリの額に下ろした。 これによってヴィシュヌは世界をアスラから取り戻した[6]。
ヴィーザルもまた、ラグナロクという危機に際して初めて世界に介入し、一歩を狼の顎に下ろす。そして悪の力が一時的に勝利した後に現れ、世界の再建にあたるのである[6]。
脚注
参考文献
- 池上 良太『図解 北欧神話 F‐Files』新紀元社、2007年6月27日、No.28頁。
- ジョルジュ・デュメジル「ヴィーザル」『ユリイカ』1980年3月号、松村一男訳、青土社。
- V.G.ネッケル他編 『エッダ 古代北欧歌謡集』谷口幸男訳、新潮社、1973年、ISBN 978-4-10-313701-6。
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