COP28、化石燃料からの「脱却」で合意 「フェーズ・アウト」は含まれず

ジョージーナ・ラナード、気候記者(COP28会場

今年は異常気象や記録的な高温が続いた。写真は7月にカナダのブリティッシュコロンビア州で起きた山火事

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画像説明, 今年は異常気象や記録的な高温が続いた。写真は7月にカナダのブリティッシュコロンビア州で起きた山火事

アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開かれていた第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)が13日、閉会した。COPとしては初めて、化石燃料の使用に明確な狙いを定めた合意文書が採択された。

協議は一時、決裂するかと思われたが、劇的な建て直しの結果、石炭と石油、ガスの使用からの「脱却を進める」ことで合意した。

しかし、気候変動の影響を受ける太平洋などの島国は反発。自分たちのいない間に合意が急がれたと指摘している。

合意からは、初期の草案にあった「化石燃料のフェーズ・アウト(段階的な完全排除)」という文言がなくなった。

COP28開幕当初、アメリカやイギリス、欧州連合(EU)などは、フェーズ・アウトを強く求めていた。

異常気象が続いた今年、200カ国近くが参加した今回の会議は2週間にわたり、気候変動対策を進展させようと模索した。

だが、COP28のスルタン・アル・ジャベル議長が、化石燃料に関する力強い合意を取りまとめる見込みは薄かった。同議長は、アブダビ国営石油会社(ADNOC)の最高経営責任者(CEO)でもあるからだ。

先には内部文書が流出し、ジャベル氏は議長の立場を利用してビジネス取引を行うつもりだったと示唆された。オブザーバーらが危ぐしていた、利益相反の懸念が裏付けられたようだった。

しかし13日、ジャベル氏はCOP28は「歴史的な偉業を誇りに思うべきだ」と、喜びに満ちた演説を行った。

この日の合意は、同氏の指導力の勝利とみなされるだろう。

合意文書が採択されたこと自体、多くの代表団を驚かせたが、本会議場では歓声とスタンディングオベーションが沸き起こった。

海の中にいる女性の写真

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画像説明, 海抜の低い島国であるツバルは、海水上昇の深刻なリスクにさらされている

しかし、気候変動の最前線にいる国々を代表する小島嶼(とうしょ)国連合(AOSIS)は、各国のコメントが求められると真っ先にマイクを取った。

「どうやらあなた方は、小島嶼国が議場にいない時に決定を下したようだ」と、AOSIS代表は述べた。

また、AOSISは化石燃料からの脱却に関する重要な文言が「前進するどころか後退する可能性がある」と懸念していると述べた。

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ジャベル議長が称賛した21ページにわたる合意文書には、各国が「公正で秩序ある衡平な方法で、エネルギーシステムにおける化石燃料からの脱却に貢献する」と書かれている。

また、温暖化ガスの排出量は2025年までにピークに達するとみられるが、途上国ではそれ以降になる可能性があることも明記された。

一方で、サウジアラビアを含む産油国の反発が、貢献目標の緩和に成功したようだ。

イラクなど、化石燃料の輸出に頼っている経済力の低い国も、強い文言に反対していた。自分たちは気候変動について限定的な役割しか担っていないが、それを公平に反映していない、というのが理由だった。

そして、多くの途上国がCOP28の他の合意について、環境にやさしいエネルギーへの移行や、化石燃料貿易での収入減を補うのに十分な資金が確保できていないと述べた。

だが、協議に参加したすべての国々は、今回の合意の譲歩を受け入れたようだ。

COP28のスルタン・アル・ジャベル議長

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画像説明, COP28のスルタン・アル・ジャベル議長

アメリカのジョン・ケリー代表は、ウクライナやイスラエル・ガザで紛争が続く中、この合意は「楽観につながるものだ」と述べた。

ケリー氏は、この文書にアメリカの要求がすべて盛り込まれたわけではないと認めた一方、前進であり、各国が合意できる内容だと述べた。

欧州委員会のウォプケ・フークストラ委員(気候担当)は、化石燃料問題で30年間も合意に至らなかったなか、この合意は歴史的な偉業だとたたえた。

イギリスのグレアム・スチュアート気候担当相は、この合意は「化石燃料時代の終わりの始まり」だと述べた半面、「我々が好まない要素もある」と認めた。

活動家や科学者からは厳しい声も

環境活動家や科学者からは、この合意は弱く、大気中に放出され地球温暖化を引き起こしている排出量の増大問題を解決するものではないとの声があがっている。

各国が目標としている温室効果ガス排出量の45%削減までの期限は、あと6年しかない。

ウガンダの若手活動家であるヴァネッサ・カナテ氏は、この決定は「十分とは言えない」とし、この会議を「化石燃料からCOP・アウト」と呼んだ。

太平洋の国ツバルから交渉役として参加したメルヴィナ・パエルリ氏(25)は、「複雑な感情が残った」と話した。また、この合意が自国にほとんど影響を与えないことを懸念していると述べた。

パエルリ氏は、各国が合意している世界の平均気温の上昇を工業発達以前に比べて摂氏1.5度に抑える目標に言及し、「もし全体的な目標が1.5度達成に向けた行動を推し進めることであるなら、私にとっては良い日ではない」と語った。

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)を主導するジム・スキー教授は、ジャベル議長はCOP交渉の間、「科学に気を配っていた」と述べていた。にもかかわらず、多くの科学者はこの合意に懐疑的だ。

英マンチェスター大学のケヴィン・アンダーソン教授は、「歓声と拍手が沸き起こるのは間違いないだろうが(中略)物理学は気にも留めないだろう。新たな合意によって今後何年も高レベルの排出が続くため、気温は上昇し続けるだろう」と指摘した。

国連のアントニオ・グテーレス事務総長も、多くの国が化石燃料のフェーズ・アウトについて明確な言及を望んだが、「薄められてしまった」との見解を示した。

「好むと好まざるとにかかわらず、化石燃料のフェーズ・アウトは避けられない。手遅れにならないことを祈ろう」と、グテーレス氏は語った。

2024年に開催されるCOP29の議長国は、天然ガスの豊富なコーカサス地方にあるアゼルバイジャンに決定した。