高市早苗・自民党総裁、第104代首相に選出 憲政史上初の女性宰相

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日本の衆参両議院は21日午後、本会議で首相指名選挙を行い、自由民主党の高市早苗総裁(64)を第104代首相に指名した。日本で女性の首相が誕生するのは憲政史上初めて。保守派で、イギリス初の女性首相となった故マーガレット・サッチャー氏を「あこがれの人」と呼んできた高市氏は、生活費が高騰し国民の不満が広がる中で、首相を引き継ぐこととなった。
この日夜に皇居で首相任命式を終えた高市氏は、午後10時から首相として初の記者会見に臨み、「強い日本をつくるため絶対にあきらめない」と決意を表明。
「日本の国益を守るため、世界の真ん中で咲き誇る日本外交を取り戻す。内から外から、日本は大きな危機に直面している。立ち止まっている暇はない。全力で変化を恐れず、果敢に働く。初日から全速力、トップスピードで、閣僚の皆さんにはそれぞれの分野で任務を果たしていただく」と述べた。
高市氏は首相指名選挙において、衆院では最初の投票で過半数を獲得し、首相に指名された。参院では1回目の投票で123票と過半数(124票)に1票届かず、最大野党・立憲民主党の野田佳彦氏(44票)との決選投票の末、首相に指名された。
高市氏は、9月に石破茂首相が辞意を表明したことを受け、今月4日に自民党総裁に3度目の挑戦で選出された。「自公連立政権」の枠組みで次期首相となる見通しとなったが、26年間にわたり協力関係にあった公明党が10日に連立離脱を表明。政局は混乱し、自民党総裁と首相が異なる「総総分離」が続いていた。
公明党の連立離脱により、自民党(衆院196議席、参院101議席)単独では、衆院過半数(233議席)まで37議席、参院過半数(124議席)まで23議席足りず、野党がまとまれば首相指名選挙で勝てない情勢となった。
そうした中、自民党は20日、日本維新の会(衆院35議席、参院19議席)と連立政権樹立で正式合意。さらに、無所属議員でつくる衆院会派「有志・改革の会」所属の3衆院議員が、首相指名選挙で高市氏に投票する見通しとも報じられ、衆院では高市氏が1回目の投票で選出される公算が高まっていた。

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女性閣僚は2人のみに

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この日午前には、石破茂内閣が総辞職した。これを受けて臨時国会が召集され、首相指名選挙が行われた。
石破氏の在職日数は386日で、戦後就任した首相36人の中で24番目の長さ。
衆院では午後1時過ぎに投票が開始された。投票総数465票のうち、高市氏は237票を獲得。立憲民主党の野田氏は149票、国民民主党の玉木雄一郎氏は28票、公明党の斉藤鉄夫氏は24票、れいわ新選組の山本太郎氏は9票、日本共産党の田村智子氏は8票などで、高市氏が過半数に達した。
一方、参院では午後1時30分過ぎから始まった1回目の投票で過半数(124票)に達した候補がいなかった。そのため、高市氏(123票)と野田氏(44票)の上位2人による決選投票となった。両氏以外では、玉木氏が25票、斉藤氏が21票などだった。
午後2時15分ごろから行われた決選投票の結果、高市氏が125票、野田氏が46票、2人以外の氏名が書かれた無効票が47 票、白票が28票だった。
この結果、高市氏が両院で指名され、第104代首相に選出された。
高市氏は直ちに組閣に着手した。
女性の積極登用を目指すと報じられていたが、女性閣僚は、財務相に片山さつき元地方創生担当相、経済安全保障担当相に小野田紀美参院議員の2人を起用したにとどまった。
総務相には党総裁選を争った林芳正官房長官、外相には茂木敏充元幹事長、防衛相には小泉進次郎農相をそれぞれ起用した。また、内閣の要となる官房長官には木原稔前防衛相を起用した。
新閣僚らは夜、皇居で認証式に臨み、高市内閣が発足した。
高市氏は午後10時からの首相官邸での記者会見で、女性閣僚が2人だけとなったことについて問われると、「私はあくまでも機会平等を大事にしている」、「適材適所の布陣とした」と説明した。
一方、解散・総選挙に打って出る可能性については、「いま手をつけなければならないことがたくさんある。経済対策を最優先で取り組ませてください。いますぐに解散どうのこうのと言っている暇はありません」と強調。
「高市内閣の最優先事項、これは国民の皆様が直面している物価高への対応だ」と、経済への取り組みを重視する姿勢を示した。

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維新との連立、今後の課題
高市氏は20日、日本維新の会代表の吉村洋文氏(大阪府知事)と国会内で会談し、連立政権を樹立させることで正式に合意した。ただし、維新は閣僚を出さずに、政策協定に基づいて政権運営に協力する「閣外協力」にとどめる。
両氏は社会保障や外交安全保障、政治改革など12の政策テーマに対する方向性を示した合意書に署名した。
合意書には、「自民党および日本維新の会は、わが国が内外ともにかつてなく厳しい状況にある中、国家観を共有し、立場を乗り越えて安定した政権を作り上げ、国難を突破し、『日本再起』を図ることが何よりも重要であるという判断に立ち、『日本の底力』を信じ、全面的に協力し合うことを決断した」とある。
高市氏は合意後の共同会見で、「自民党と日本維新の会の間で1割を目標に衆議院の議員定数を削減するため、令和7(2025)年臨時国会において、議員立法案を提出し、成立を目指す」ことで合意したと説明。「一歩でも前に進める、お約束を守るという思いで合意をさせていただいている」とした。
議員定数をめぐっては、2012年に民主党政権の野田首相(当時)が自民党の安倍晋三総裁(当時)との党首討論で、自民党が定数大幅削減を受け入れるなら衆院を解散すると賛同を迫った。しかし、自民党が衆院選に勝利して政権に復帰すると、衆院の「1票の格差」是正のための小選挙区5議席の削減にとどまった。
吉村氏はこれを念頭に、「約束を守るというのは一つ非常に大切なことだと思う」とし、「やはり政治改革の1丁目1番地である議員定数の削減、そして約束していたこと、こういったことを実行することが私は必要だと思う」と述べた。
ただ、維新が求めた議員定数の削減をめぐっては、野党からは反発の声が上がっている。
立憲民主党の野田氏は、公明党が自民党との連立から離脱したのは「政治資金の問題で自民党の基本姿勢に疑問を感じたから」だと指摘。「その疑問を感じている相手(自民党)と政治資金の問題についてうやむやにして、次のテーマの定数削減(を進める)というのは順番を間違えていると思う」とした。
公明党の斉藤氏は、「企業団体献金の協議が進まないから、これを定数削減の話に持っていくというのは、すり替え」で、「臨時国会でこれを決めるべきだというのはあまりにも乱暴だと思う」と述べた。
高市氏は、党内でも右寄りで保守的と位置づけられている。これから、スキャンダルや内部対立に揺れた激動の数年間で苦境に陥った党の結束実現を含め、多くの課題に向き合うことになる。
それには、低迷する経済や、厳しいインフレ、上昇しない賃金などに苦しむ日本人の家計の問題も含まれる。
女性が結婚後も旧姓を名乗ることを認める法案には、伝統に反するという理由で長年反対してきた。また、同性婚にも反対している。
故安倍晋三元首相の後ろ盾を得ていた高市氏は、積極的な財政出動と金融緩和を伴う経済ビジョン「アベノミクス」の復活を誓っている。
安全保障に関してはタカ派で、日本の平和主義憲法の改正を目指している。
高市氏はまた、第2次世界大戦で戦犯とされた日本人を含む戦没者たちをまつり、物議を醸している靖国神社をたびたび参拝している。
外交面では、難しい日米関係のかじ取りをし、石破政権がトランプ米政権との間で合意した関税協定をまとめ上げる任務を負うことになる。
高市氏は自民党総裁に選出された直後の会見で、取り組む課題については「何としても物価高対策に力を注ぎたい」と強調。外交については、「外交も安全保障も大変難しい時期」なだけに「まずは日米同盟の強化をしっかりと確認し合うことも大事だ」とした上で、他の国々との協力も必要だと話した。
また、衆参両議院で自民党が少数与党のため野党の協力が必要な状況で、連立の枠組みを拡大するのかという質問には、「基本的な考え方の合う政党、特に自民党の党是である憲法の改正や、外交政策、安全保障政策、財政政策などはしっかりと議論した上で、お互いに納得できたらそういう形がつくれるとうれしい」と答えていた。
高市氏は首相就任直後から、立て続けに重要な外交日程に臨む。27~29日にはトランプ氏の来日が調整されている。
トランプ氏は20日、ホワイトハウスで記者団に応じた際、「マレーシアに行くし、日本にも行く。ほかにいくつかの場所にも行く予定だ。ちょっとした外遊だ」と話した。
高市氏の首相として初めての外遊先は、26日からマレーシアで開催される東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会議になるとみられている。
31日からは韓国で、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会談が開かれる。
来月22日からは、南アフリカで20カ国・地域(G20)首脳会議も控えている。
中国や韓国の反応は
中国外務省の郭家坤報道官は定例記者会見で、日本の首相指名選挙結果を「注視している」と述べた一方、「それは日本の内政問題だ」と語った。
また、「中国と日本は近隣国だ」としたうえで、同省としては「歴史問題と台湾問題に関する政治的約束を、日本が順守することを望む」と述べた。
中国は、自治を維持している台湾を自国の領土と主張しており、武力行使による統一の可能性も排除していない。
タカ派として知られる高市氏は今年、台湾を訪問した際に、台湾を「極めて重要なパートナーであり、大切な友人」と呼んでいる。
高市氏はまた、一部の前任者と同様、靖国神社を参拝しており、中国を怒らせてきた。
靖国神社は日本の戦没者をまつる神社だが、一部の戦犯も合祀(ごうし)されている。過去には、日本の有力政治家による同神社への参拝が大きな論争を呼び、中国や韓国などの国々からは、日本が軍国主義的過去に対する反省を欠いていることを示す行動だと見なされてきた。
高市氏はこれまで、同神社をたびたび訪れてきた。しかし先週の秋の例大祭では、高市氏は私費で玉串料を納めたものの、参拝は見送った。首相就任が見込まれる中で、近隣諸国への配慮を意図した動きと見られている。
ただし中国外務省はこの動きについても、「厳重な抗議を申し入れた」と発表している。
一方、ソウルで取材するジェイク・ウォン記者によると、韓国のメディアは現在、新首相となった高市氏が再び韓国の感情を逆なでする可能性があるとして、警戒感を示している。
韓国では、昨年の石破氏の首相指名は楽観的に受け止められていた。靖国神社への参拝や、戦時中の日本の行いに対して批判的な姿勢を示してきた石破氏は、韓国に対して融和的な人物と見なされていたという。
<解説> 日本の少女たちに可能性示す
大井真理子、「アジア・スペシフィック」司会者
日本初の女性首相の政策を、日本の多くのフェミニストが祝福していない可能性がある。一方で、高市氏は依然として、若い日本の少女たちが憧れることのできるロールモデルになり得ると、私は考えている。国の指導者になるのに、高齢の男性である必要はないということを示したからだ。
「ウィメノミクス」という言葉を生み出したキャシー・松井氏が述べているように、「見えないものにはなれない」。
多くの首相や国会議員が政治家の息子、孫、さらにはひ孫である日本において、高市氏が家系のつながりなしに政治の階段を上り詰めた努力には、一定の敬意が払われている。
高市氏の両親が、彼女が女性だという理由で大学に進学させたくなかったこと、そして若き高市氏が自分で学費を稼がなければならなかったことは広く知られている。
また、高市氏は自身が血のつながった子どもを持つことに苦労した経験について率直に語っている。夫の前の結婚で生まれた3人の子どもを育てる手助けもしてきた。
最近では、脳梗塞を患った夫を介護している。
これらの個人的な経験は、これまでも、そして今後も確実に、高市氏の政策形成に影響を与えることになるだろう。
女性からは権利推進が確信できないとの声も
シャイマ・ハリル東京特派員
高市氏が日本初の女性指導者となっても、国内の若い女性の一部は、高市氏が自分の権利を推進するとは確信していないと述べている。
高市氏は過去に、男性のみの皇位継承を支持する発言をしている。また、婚姻後も女性が旧姓を保持することに反対し、同性婚にも反対している。
小倉愛那氏(21)は、高市氏の首相就任に対する外国の反応を見ることが「興味深かった」と語った。
「みんな『おお、日本の歴史上初めての女性首相だ、女性の権利強化やジェンダー平等にとって素晴らしい機会だ』と言っている。でも、それはこの状況全体をとても単純に解釈していると思う」と、小倉氏は話した。
「高市さんの政治的信条や何を支持しているかを調べれば、いくつかの点が非常に伝統的だとわかる。構造的な変化を生み出すというよりは、むしろ家父長制的を維持している」
オードリー・ヒル=上川氏(20)は、高市氏が日本初の女性首相となったことを称賛していると話した一方で、「彼女は本当に流れに逆らっているわけではない。(中略)男性たちと同じことを言っている」と付け加えた。
「高市さんが女性だからという理由だけで持ち上げるのは良くない。彼女の政策について語ることが大事だ。彼女を他の人と同じように批判できることが大事だ」
小西美慶氏(21)は、「他の、女性の権利についてもっと積極的に発言しているかもしれない政治家と比べれば、高市さんの選出は、若い女性たちにとってそれほど励みになるものではないかもしれない」と語った。











