【解説】 5年で4人目の首相、日本で選出へ 自民党の総裁選の行方は

青いカーテンの前に立つダークスーツ姿の石破茂首相

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画像説明, 辞任を表明した石破茂首相(7日)

イヴェット・タン記者(BBCニュース)

石破茂首相は7日、就任から1年足らずで辞任を表明した。自らが総裁を務める与党・自民党が、選挙で2度にわたり大敗を喫したことを受けたものだ。

石破氏の辞任の意向は、党内の「反石破派」が同氏を党総裁の座から降ろそうとする動きがある中で、総裁選挙の前倒し要求をめぐる意思確認が予定されていた前日に発表された。

これにより、過去5年で3度目となる自民党総裁選が行われることになった。直近の2度の勝者はいずれも任期を全うしていない。

日本の次期首相には、日米関係の緊張、インフレの加速と生活費危機、そして与党の衆参両院での過半数割れなど、困難な課題が待ち受けている。そうした状況で、自民党総裁選は開かれる。

なぜ石破氏は辞意を表明したのか

2020年、当時の菅義偉官房長官が、健康上の理由で突然辞任した安倍晋三首相(2022年死去)の後任として首相に就任した。

そのわずか1年後、菅氏は支持率の急落を受けて辞任。岸田文雄氏が後任として選出され、総選挙に勝利した。

しかし、岸田政権も長くは続かなかった。自民党をめぐる裏金疑惑、生活費の高騰、円安の進行などを背景に、支持率は急落した。

そして2024年、岸田氏の後任として石破氏が首相に就任した。石破氏は就任から数日後、「新政権が速やかに国民の審判を受けることが重要だ」と述べ、総選挙の実施を表明した。

そして、国民はその審判を下した。

有権者の多くは、自民党の幹部が関与した汚職疑惑に対して依然として強い怒りを抱いていた。インフレの加速や生活費危機への対応にも苦慮していた。そうした状況の中、自民党は15年ぶりに衆院の過半数を失った

さらに、今年7月の参院選でも、同院で過半数を割り込む結果となった

石破氏は当初、辞任を求める声に抵抗。「自民党の敗北に対して責任を取る必要がある」と述べるとともに、アメリカとの貿易協定への対応を続投の理由に挙げていた。

しかし7日、党総裁選の前倒しをめぐる党議員らの意思確認を前に、辞任を表明した。前倒しとなれば、事実上のリコールを意味した。

筑波大学の特命教授で、安倍政権で内閣官房参与を務めた谷口智彦氏は、首相は責任を取るべきだという声が党内で高まり、先は見えていたと説明。石破氏は公の場での屈辱に耐えるより、辞任する道を選んだと述べた。

日本の次期首相候補は?

小泉進次郎氏、林芳正氏、高市早苗氏の写真が並んでいる

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画像説明, (左から)小泉進次郎氏、林芳正氏、高市早苗氏

自民党の総裁選は、10月初旬に予定されており、勝者が次期首相に就任する可能性が大きい。

現時点で正式な立候補表明はないが、有力候補として小泉進次郎農林水産相(44)、林芳正内閣官房長官(64)、高市早苗前経済安全保障担当相(64)などの名前が挙がっている。高市氏は、当選すれば日本初の女性首相となる。

この3人は、昨年の前回総裁選で石破茂氏と争った。特に安倍派の高市氏は、1回目の投票でトップだったが、決戦投票で石破氏に逆転された。

高市氏は保守強硬派として知られ、同性婚に反対する姿勢を示している。女性政策についても、女性が伝統的な役割を担うべきだとする自民党の方針に沿った立場を取っている。

小泉氏は、2001年から2006年まで首相を務め、人気の高かった小泉純一郎氏の息子であり、若々しい印象とメディア対応力に優れている。ソーシャルメディアでは猫の写真を投稿するなどして人気を集めている。

林氏は現在、内閣官房長官として政府の報道官を務めている。外交・経済政策に精通した実務型の政治家とされている。

前出の谷口氏は、候補者の顔ぶれが極端だと指摘。非常に保守的な人物、まだ真価が問われたことのない若手政治家、そして派手さはないが経験豊富な人物が並び立っているとした。

ほかにも、茂木敏充元外相(69)や、の小林鷹之元経済安全保障担当相(50の名前が挙がっている。

次のリーダーが直面する課題

新たな総裁には、弱体化した自民党を再び結束させ、有権者の支持を取り戻すという課題が突きつけられている。

現在、日本では極右への傾斜が進んでおり、最近の参院選挙ではナショナリズム的な「参政党」が最大の勝者の一つとして台頭した。

参政党の支持層の多くは、自民党から離れた保守的な有権者たちだった。

「石破首相は、安倍氏の支持者の多くから『保守色が足りない』と見なされていた」と、神田外語大学講師のジェフリー・ホール氏は以前、BBCに語っている。

ホール氏はさらに、「石破氏は歴史に対してナショナリスト的な見解を持っておらず、中国への強硬姿勢も、安倍氏ほどではないと考えられている」と述べた。

その結果、多くの有権者が参政党のような新興政党に流れている。

谷口氏は、参政党が多くの票を獲得した事実は、有権者の不満を示していると説明。通常であれば自民党を支持していた人たちが、自民党を離れ、未知数の新党に移ったとした。

そのうえで、次期自民党総裁にとって最大の課題は、こうした有権者を呼び戻すことだと指摘した。

白い帽子をかぶり黒っぽい服を着た年配の女性が、日本のスーパーマーケットで買い物をカートに乗せ、陳列棚を見ている

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画像説明, 日本ではインフレが根強く続き、日用品の価格が高止まりしている

この政権交代はまた、円安の進行とともに生活費危機が深刻化する中で起きている。

「日本人はインフレに慣れていないため、わずかな物価上昇でも衝撃を受ける。多くの一般有権者にとって、日本は貧しくなっているように感じられる。物価は上がっているのに賃金は上がらない。また、円が非常に弱いため、海外に行けばすべてが高く感じられる」と、英テンプル大学ジャパンキャンパスのジェイムズ・ブラウン教授は語った。

次期首相には、日本と近隣諸国との複雑な外交関係のかじ取りをするという課題も待ち受けている。

「核保有国を含む脅威的な隣国が三つも存在し、中国では日本への勝利を祝う式典が行われた」と、ブラウン教授は語った。

「次期首相が高市氏のような国粋主義的な人物であれ、小泉氏のような次世代志向の人物であれ、日米韓の3国協力が今後も持続されるかどうかは注視されるだろう。習氏、プーチン氏、金氏が北京で明確に連帯を示したからだ」と、韓国・ソウルの梨花女子大学のリーフ=エリック・イーズリー教授は述べた。

そして、日本が長年同盟関係を築いてきたアメリカとの関係も、緊張しかねない。

アメリカのドナルド・トランプ大統領は今年初め、日本に対して在日米軍の駐留費用の負担増を要求した。

「こうした状況の中で、国民の間にはある種の絶望感が広がっている。リーダーが新しくなっても、大きな変化が起きるとは誰も期待していない。多くの人々にとっては、自民党総裁が変わっただけで、結局は同じ話の繰り返しだと感じている」と、ブラウン教授は語った。

なぜ日本の首相は変わり続けるのか

日本では、過去20年間で10人以上の首相が交代してきた。

この背景には、日本の「一党制民主主義」の構造があると、ブラウン教授は指摘する。

「政権運営の面では、実質的に自民党しか存在していない。つまり、主要な政治的競争は外部政党ではなく、党内で起きているということだ」とブラウン教授は語った。

「自民党の内部では、各派閥が自らの代表を首相にしようと激しい争いを繰り広げている。たとえ総裁に選ばれたとしても、就任直後から数十人がその座を奪おうと動き始める」

ブラウン教授はさらに、次期総裁の座に就くことは、まるで「毒杯を飲む」ようなものだと述べた。

石破氏の後任が誰になるのか注目される中、多くの人々が、次の首相は日本の短命政権の連鎖を断ち切ることができるかどうかを見守っている。