「ん、警察を襲う」Part3

「そうすれば屋根のある寝床と暖かい毛布と生ゴミじゃない普通の食べ物が手に入る」

「襲ったところにおしょくじけんがあるとご褒美でご飯が豪華になる」

「ヴァルキューレの施設で寝泊まりしてヴァルキューレの服を着てヴァルキューレのご飯を食べてるから私はヴァルキューレ生」


ここだけアビドスではなくヴァルキューレに拾われたシロコ

初代スレ

「ん、警察を襲う」｜あにまん掲示板「そうすれば屋根のある寝床と暖かい毛布と生ゴミじゃない普通の食べ物が手に入る」「襲ったところにおしょくじけんがあるとご褒美でご飯が豪華になる」「ヴァルキューレの施設で寝泊まりしてヴァルキューレの服を着…bbs.animanch.com

前スレ（Part2）

「ん、警察を襲う」Part2｜あにまん掲示板「そうすれば屋根のある寝床と暖かい毛布と生ゴミじゃない普通の食べ物が手に入る」「襲ったところにおしょくじけんがあるとご褒美でご飯が豪華になる」「ヴァルキューレの施設で寝泊まりしてヴァルキューレの服を着…bbs.animanch.com

アホアホの作者です。スレ立てかんしゃあ～
投降はいつも通り早朝になると思います。ちょっとまだ手が離せないのでこれで

脇腹の鈍い痛みをこらえながら夕食。その後はドローンを磨いていると誰か来た。ジャージ姿のキリノが看守と話してる
キリノと入れ替わるように看守が留置施設を出ていく。消灯時間までは看守が立ち番のはずだけど…

牢屋の鍵を開けてキリノが入ってきた。いらっしゃい。様子の確認に来た？
明日のために怪我の状態を報告する必要がある。なるほど理解した。また熱を出したり体調を崩してないか心配？ …大丈夫だよ？

急にキリノの笑顔が怖くなった。怒ってる。何で？ 無言で何かを私の人耳に当てる。耳式体温計。それは卑怯！ 逃亡を選択！

逃亡に失敗。檻の中に逃げ場なんて無かった。微熱があるけど大丈夫。脇腹が痛むからそれが原因だよ。…多分
ため息をついたキリノが解熱鎮痛剤と水のパックを取り出す。準備いいね。こうなると思ったから医務室で貰ってきた？ 先読みすごい

体調確認の後、遊びに誘われてスマホの対戦ゲームを起動。おまけのゲームとかじゃなくてちゃんとしたソフトをダウンロードした
コミカルなキャラクターを一体選んで相手をポカポカ叩いたり落ちてるアイテムでエリアから突き落としたら勝ち

誰かとゲームするの初めて。たくさん負けたけど楽しかった。ん、次は負けない。CPUと練習しておく

そういえば対戦で思い出した。今日の半ヘル女との戦いで前に教えた技使ってたよね。交番勤務の組み手でやった少林寺拳法
上半身だけ体の軸から左右にずらす受け流しの構え。そして崩しの技。もう自分のモノにしたんだ。キリノは本当にすごいよ

キリノが固まった。変な顔してる…あれ、耳まで赤くなった。キリノの方こそ具合悪いんじゃないの？ ん！ 撫でるなら優しくして！ 痛い！


そろそろ消灯時間。結局、看守は戻ってこないままだ。キリノも帰りなよ。…ここで寝る？
準備してくるとキリノは牢屋の外へ出ていった。わざわざ牢屋に泊まりたいなんて変なの。私は罪人だけどキリノは警察官でしょ

硬くて狭いベッドに二人で寝るの無理じゃない？ そんなことを考えていたらキリノが大荷物で帰って来た。布団とマットレス
マットレスを床に敷いてから布団をセット。牢屋の鍵を閉めてお互いを手錠で繋ぐ。あれよあれよという間に布団の中に連れ込まれた

…よく分かんないけどもういいや。二人で寝た方が寂しくない。キリノに抱き着く。ん、おやすみ

穏やかな寝顔を浮かべるシロコさんですが…首筋を触ると汗で湿っています。やはり熱が出てきましたか

先日の決心の後、私はカンナ局長と話をしました。業務以外の会話を避けていた私からの歩み寄り。目を丸くして驚いていました
でもシロコさんを守り、救うためには必要なことです。私の青臭い夢を粉々に砕いてくれた人ですが今は忘れます

ヴァルキューレの腐敗に関しては見ている高さが…立ち位置が違いすぎることが分かりました
カンナ局長は上から下を見ています。上を掃除しないと永久に終わらない。上がきれいになれば下も自ずと清くなる
私は下から上を見ています。手柄をかすめ取る者、シロコさんを苦しめる者は彼女の目の前に現れるからです

カンナ局長が三年生で時間が無いのは理解できます。元を断つのも正しいです。しかし、その後を自浄作用に任せようというのは甘すぎます
鉈を振るうなら中途半端ではいけません。なのになぜ旧上層部の排除だけで足を止めたのか。そこが知りたいのに言葉を濁されました

シロコさんとヴァルキューレを思う気持ちは本物でしょうが、全面的に信用するのは危険かもしれない…

ですが悠長にしてられません。シロコさんは精神的に追い詰められている。そしてそれが肉体に悪影響を与え始めています
今日も心配して来てみれば案の定、体調を崩していました。せめて不調を隠すことなく口にしてくれれば…

釈放後どうするかも含め、カンナ局長ともっと話し合う必要がありますが、現在抱えている問題が片付かないと時間が取れないそうです
警察官としての務めを後回しにする訳にはいかない。分かりますけど…もどかしい

もういっそ、全てを先生に打ち明けて助けを求めるべきでしょうか。でも下手に動いてシロコさんの将来が完全に閉ざされてしまったら…


着信音。シロコさんのスマホですね。誰かは知りませんが急ぎなら電話するでしょう。熟睡しているので明日にします
雨もいつの間にか止んでいました。…私もそろそろ休みます。おやすみなさい


目が覚めたらジャージのファスナーが降ろされていました。インナーシャツの上からふみふみ…。もしもし？ 狸寝入りなら拳骨ですよ？
…寝てますね。まったくもう！ …起床時間には叩き起こしますから

ん、今日は晴天の警邏日和。キリノに頬を摘ままれて目が覚めた。熱はすっかり下がったし脇腹も痛くない。元気だよ
朝食の前にキリノと一緒に布団とマットレスを片付けてシャワー。寝汗でべとべとしてるからサッパリしたい

シャワールームは夜勤明けの子たちで少し混んでた。挨拶して汗を流す。キリノが脇腹の青あざを心配してるけどすぐに消えるよ
…ぐるぐる目でこっちを見てる変な子がいる。あ、キラキラの子だ。声を掛けようと近寄ったら悲鳴…奇声？ を上げて飛び出してった

あの子に聞きたいことあったのに、残念。シャワーを浴びたらキリノとお別れ。今日は内勤仕事なんだって。またね

朝食と社会貢献作業の準備を済ませて出発。まずは子ウサギ公園に行こう。昨日、私が寝てる間にミユから返信が来てた
大雨でテントが倒れて大変だったらしい。先生の協力で何とか乗り切ったけど状況がより苦しくなったみたい。ウサギたちが心配

自転車を走らせ公園に到着。道中はコンビニに寄っただけで珍しく小物に遭遇しなかった。平和なのはいいこと
テントに行くと銃を分解整備しているウサギたちを発見。おはよう。四人とも元気そうで良かった。ん、差し入れをどうぞ

クラッカーとインスタントコーヒーにココア。それと弾薬を少し。モエの拳銃は専用弾で見つからなかった。ごめんね
どうせ後方担当だから問題無いって言ってくれた。ミヤコ、サキ、ミユからも感謝されて焚火に招かれる。ベンチじゃなくていいの？

サキが、そこまで恩知らずじゃないぞ。と折り畳み椅子を出してくれた。沸したお湯でココアを飲む。甘くて落ち着く…
もっとお話ししたいけど警邏中。ひと息ついたらお暇する。離れる前にミユ以外の三人とも連絡先を交換。また登録が増えた！

子ウサギタウンを離れてD.U.で巡回を開始。午前中に小物が二人。午後に一人。今日は全体的に少ない。警邏の生徒たちも暇そう
コンビニで補給しているとキリノからモモトーク。内勤仕事が片付いたから警邏に出る。合流して休憩しようというお誘い。ん、了解

ヴァルキューレ近場のカフェに到着。お店に入るとフブキとキリノの姿があった。お待たせ
二人はパンケーキやパフェを注文。私は補給したばかりだから飲み物だけでいい。オレンジジュースください

休憩を終えて二人と別れた。フブキたちはこのまま近場を徒歩で警邏。私は大人しくヴァルキューレに帰る
お店を出た後フブキに、医務室に行こうね？ とやんわり指摘された。横腹が少し痛むのバレてたんだ。フブキに隠し事するの難しいな…

キリノが気付けなかったことを悔しそうにしてる。大丈夫、おんぶはいらないから。まっすぐ帰るね。ん、二人とも行ってらっしゃい

自転車を押して徒歩で帰る。…またやってしまった。二人に迷惑を掛けない。甘えすぎない。自分で決めたくせにちっとも守れてない
フブキはもう仕方ないけど、キリノだけは巻き込まないようにしないと駄目。そもそも最近のキリノは…うまく言えないけど過保護な感じだ

きっかけは多分、交番勤務で一緒に寝た時。あれから少しずつキリノが変わっていった。私と距離がある感じだったのが薄れてきた
このままではいけない。カンナみたいに縛り付けてしまう気がする。…キリノとは距離を取ろう。寂しいけど必要なことだから

後でフブキと二人だけでお話しよう。隠してもきっとバレる。だから先に打ち明けて協力してもらう。キリノのためなら分かってくれるはず
最後まで巻き込んでしまうけど、他に良い方法が思いつかないんだ。フブキ…ごめんなさい

太陽が沈みはじめた。もうすぐきれいな夕焼けが見えそうだね。そしたら少しは、気が晴れるかな…


装備と制服を返却してシャワーを浴びる。医務室に寄って新しい消炎鎮痛湿布を貼ってもらった。報告書を作成して食事を済ませる
これで消灯時間までは自由だ。フブキにモモトークを送らなくちゃ。スマホを手にしてベッドに腰掛けた

…なんて送ろう？ キリノにバレないように相談したいけどトークは履歴が残る。直接会った方がいいよね。でもどこで？
ここは看守がいるから駄目。待ち合わせ…フブキって基本キリノとセットだよね。…あ。…考えながら目を見れば伝わるよね？ 楽勝だった

スマホを放り出して畳まれた毛布に体を預ける。…洗濯された清潔な毛布。今日交換だったんだ。…あれ？ 毛布の下に何かある

紙切れが二枚。何だろう？ 一枚は…「お食事券」 待って、何でこんな所にあるの？ フブキが連絡役じゃなかったの？
もう一枚は、手紙だ。折りたたまれた紙を開くと短いメッセージ


『尾刃カンナは不正を働き汚職に手を染めている』―――――うそだ

シロコさんが倒れました。今朝、看守が留置施設の鍵を開けて牢屋を確認すると、部屋の隅に座りこんで意識の無い状態で発見されたんです

高熱で大量の汗をかき、囚人服が濡れていました。直ちに解熱剤が投与され、脱水症状も酷いため点滴で水分補給が行われました
原因は不明。ウイルスや細菌では無く、体内の炎症やアレルギーでも無い。脇腹の怪我もほぼ完治しています

最近の不調続きから疲労とストレスが原因と思われる。というのが医療スタッフの診断結果でした。これ以上は病院で専門医が診るしかない
薬が効いたのか熱は少しずつ下がってきています。一度だけ意識も戻りました。カンナ局長の名を呼んでまた眠ってしまいましたが…

氷枕と脇の保冷剤はまだ冷たいですね。額のタオルだけ交換。後は…頭を撫でてあげるくらいしかできることがありません
発熱に苦しみ息を荒げていても、撫でると落ち着くみたいで…頭頂部の耳を後ろに倒して少しだけ笑顔を浮かべるんです

カンナ局長にはフブキが連絡を取ってくれました。でも今は現場対応中で戻れないそうです。公安局もほとんど人がいません
それだけ大きな事件なのでしょうね。局長である以上、部下たちを指揮するのが役目。当然です…当然ですが！

理解はできても、納得はできませんっ！ こんなに苦しんでるシロコさんが求めているのはカンナさんなのに…！
フブキも苛立っています。カンナ局長とどんな話をしたのか知りませんが、あんな怖い顔を見せたのは初めてです


私は本日の業務をすべてお休みさせてもらいました。その代償は後でちゃんと払います。だから今はシロコさんの側にいさせてください
シロコさんが目を覚ましたとき、ひとりぼっちだったら可哀想じゃないですか。この子はきっと、一人にしては駄目なんです…

シロコさん。貴女を心配して何人もの生徒が見舞いに訪れましたよ。留置施設で私に話を聞きに来た同級生の二人。あの子たちも来ました
公安局の子は留守番役で待機中。警備局の子は連絡要員として本校に残った生徒。後者はシロコさんがキラキラの子と呼んでる生徒です

貴女は弱音を吐いてもいいんです。貴女のためなら何人も立ち上がってくれますよ。もちろん私とフブキもです。友達ですから

だから…早く、起きて下さい。…シロコさん

目が覚めたら医務室だった。キリノが騒いでいて…私、倒れたの？ ん、ごめんなさい。また迷惑掛けちゃったんだね
上半身を全力で抱きしめられて苦しかったけど、フブキが引きはがしてくれた。その後は診察を受けて大きな異常は無し

ただ微熱がまだあるから今日一日、医務室で様子を見ることになった。それが夕方頃の話で…今は夜。部屋には誰もいない
手錠とロープで拘束されてるし隣の部屋に宿直のスタッフもいる。だから問題無し。で、いいのかなあ。囚人の私が言うことじゃないけどね

毛布の下から見つけたお食事券と手紙。あれを見てから…よく覚えてない。何であれが…それにカンナが、汚職なんて…

フブキに二人だけで話したいと考えながら目を見たら察してくれて、キリノに食事と休憩を取れと医務室から追い出してくれた
お食事券のことはフブキも知らなかった。上層部がいなくなってからは指示されたことも無いんだって。じゃああれは誰が置いたの…？

フブキはすぐに牢屋を見に行ってくれたけどお食事券も手紙も見つからなかった。私への嫌がらせなのかな…

無い物は仕方がない。それよりもキリノだ。キリノと距離を取ることと、その後のフォローをお願いする
フブキは私の顔をじっと見つめて、落ち着いてから話そうと会話を打ち切った。直後にキリノが戻ってきたから言葉を飲み込むしかなかった

私から離れるのを嫌がったキリノをフブキが連れて帰った。その後は点滴で水分と栄養を補給。明日は朝から診察の予定
場合によってはD.U.の大きな病院で検査になると聞かされた。早く元気にならなくちゃ…寝よう。おやすみなさい



―――野良犬ちゃん。野良犬ちゃん、起きて？

ん…誰かの声。…野良犬？ 毛布から頭を出して薄暗い周囲をぐるりと見たけど誰もいない。あれ？

―――こっちだよ。ほら、返事して欲しいな

声が聞こえるのはベッド横のテーブル…無線機。私が社会貢献作業で身に付けるのと同型。いや、そのものじゃない？

―――早く返事してくれないと困ったことになるよ。…狂犬がね

警報が鳴りスプリンクラーが起動したヴァルキューレ本館内を走る。そのあちこちに戦闘の跡と倒れ伏す生徒たち
生活安全局前の廊下でフブキとキリノの二人も気絶していた。一瞬迷ったけど…ごめん。今は急がないといけないの

無線機を通じて私を野良犬と呼ぶ正体不明の存在。機械音声で話しかけてくる誰かの話は衝撃だった
ウサギたちと先生がヴァルキューレに忍び込んでいる。目的は公安局の不正の証拠を手に入れるため。最初は信じなかった

でも警報と戦闘音が聞こえてきた時、無線の誰かが言ったんだ。君がお食事券の命令を無視したからこうなったんだよ。って…

拘束用の手錠とロープは外れてた。ベッドから飛び起きて、無線機と一緒に用意されてた制服と制式拳銃を身に付け医務室を飛び出す
無線が、急げば間に合う。間に合わなかったらRABBIT小隊と狂犬がぶつかる。怪我で済めばいいね？ と急かす。癪だけど今は従うしかない

腹が立つけど無線の指示は的確だった。一度も意識のある生徒と遭遇しなかったし防火扉も無視できた。ウサギたちの痕跡を追うように走る

―――残念だけど狂犬がもう来ちゃったよ。場所は屋上。音声を聞かせてあげるね

無線機から聞こえてきたのはウサギたちとカンナの声。公安局の取引記録…カイザーとのリベート…ヴァルキューレの犯罪の証拠…

カンナの声は怒りとか悲しみとか嘆きとか…様々な激しい感情がこめられた叫び。カンナがこんな思いを抱えてるなんて知らなかった
そんなカンナを説得する先生の声も聞こえる。お願い先生、カンナを止めて。どうか私が到着するまで持ちこたえて欲しい。…でも

―――シロコの未来を踏みにじった私が…！ シロコの自由を奪った私が！ シロコを置いて自分だけ先を選べるものか！！

先生の説得にカンナが逆上。そのままカンナとウサギたちの戦闘が始まってしまった

やっぱり私が…私が、カンナを縛り付けて、変えてしまったんだ。カンナは何も悪くない。悪いのは…全部、私だから
私が原因でこうなった。だから私がカンナを止める。せめてそれくらいはしないと…ごめんね。ごめんなさい

屋上を目指して階段を駆け上がる。機械音声の誰かが何か警告するように怒鳴ってるけど聞き流した。もうどうでもいい
後少しの所で屋上に繋がる扉が爆発。飛び散る破片が突き刺さっても無視して屋上へたどり着いた。―――――カンナ！

破壊された扉とバリケードを乗り越えて屋上に到着した私が目にしたのは、互いに傷付いたカンナとウサギたち
私を見て驚いたカンナが片膝をついた。よく見ればカンナの第17号制式拳銃はスライドストップしていて空のマガジンが散乱している

弾切れだ。カンナに駆け寄り銃を奪い捨ててから抱きしめる。もうやめて…お願いだから止まって！ 私の未来なんてどうでもいいから！
口から出た言葉にカンナの表情が凍り付いて…私を突き飛ばし、立ち上がると素手でウサギたちに構えを取った

ウサギたちは困惑した様子で投降を呼びかけるけどカンナは無視。前衛のサキに襲い掛かろうとしたから羽交い絞め。地面に叩きつけた
カンナは前転で衝撃を逃がすと邪魔をするなと吠える。駄目、頭に血が昇っていてカンナは止まらない。だったら…！

制式拳銃を投げ捨てカンナの前に立つ。ウサギたちは手を出さないで。私が止めるから


私の逮捕術はカンナに習った技。訓練では勝てたことが無い。本気でぶつかったのは初対面の一度きり。苦戦して当然、だと思ったのに…
弱い。カンナはウサギたちとの戦いで消耗している。ダメージだって受けている。それにしても、弱すぎる

何でこんなに弱いの。私が強くなった？ 違う。手加減されてる？ ありえない。だったら…カンナが昔より弱くなってる
カンナ、このままじゃ私が勝つよ。止めなくちゃいけないけど、こんな勝ち方はしたくなかった。カンナが弱くなったなんて信じたくない

私は私より強い相手にしか従わない。だから、私よりずっと強かったカンナに憧れたのに。どうしてこんなに弱くなってしまったの…

攻撃をかわして掌底。カンナは回避も出来ずにまともに受け、転落防止フェンスに叩きつけられた。そのまま意識を失い崩れ落ちる

弱くなった理由。そんなの分かり切ってる。私だ。私がカンナを壊してしまった。カンナの人生も生き方も、何もかもおかしくしてしまった
私のためにカンナは…大人になろうとしたんだ。自分だってまだ子供なのに、無理を続けてこうなった

悪いのは…私だ。私がいるから…。ごめんなさいカンナ。私は…もういなくなるから、どうか自由に生きてください


フェンスを乗り越える。誰かに名前を呼ばれたけど放っておいて。この高さなら、終われるよね。……ばいばい

その自己肯定感の低さいい加減にしなさい、シロコ
先日の見舞いにどれだけの生徒が来てくれたと思っている
シロコがいなくなったら皆悲しいよ

1スレ97

子供のシロコは カンナのために 大人になりたかった
子供のカンナは シロコのために 大人になろうとした

頼れるのはもうビルよじ登れるカンナ局長しか……

D.U.の総合病院。そこでシロコさんは治療を受けています。幸いなことに命は無事でした

屋上から飛び降りたシロコさんをRABBIT小隊のサキさんがヘリのワイヤー片手に後を追い、空中で確保してくれたおかげで助かりました
抱きとめた際の胸骨圧迫による骨折と肺挫傷。どちらも軽度で完治にそれほど時間は掛からないとのことです

一日目。私がヴァルキューレで目を覚まし、病院に駆け付けた時はICUに入っていたため顔を見ることもできませんでした
朝日が昇る頃に学校に戻ると…クロノスの生徒が押しかけて騒ぎになっていました。公安局が癒着…？

二日目。公安局の癒着は事実でした。連邦生徒会が調査チームを立ち上げ、カイザーが子ウサギタウンの再開発中止を宣言
…なるほど？ 私企業から報酬を受け取り手先となって暴れることが、病に苦しむシロコさんより優先されることなのですね…
シロコさんがICUから一般病棟に移りました。酸素マスクによる酸素吸入が必要ですが、一歩前進です。意識はまだ戻りません

三日目。自制できずに公安局長を殴りました。五日間の停学処分。ですが自室謹慎などの勧告はありません。どういうつもりですか？
…まあクロノスや連邦生徒会への対応で忙しいのでしょうね。そういうことにしておきます
シロコさんの酸素マスクが外れて鼻カニューレになりました。順調に快方に向かっていると聞いて嬉しいです。意識はまだ戻りません…

四日目。朝からお見舞いに行くとサキさんとモエさんに出会いました。サキさんに心からの感謝を。シロコさんの命の恩人です
襲撃してきた皆さんにお礼を言うのも変ですが、本当にありがとうございました
シロコさんの状態は昨日と変わりありません。順調なはずなんです。なのに…意識が戻りません。フブキたちも心配してますよ…シロコさん

五日目。シロコさんが目覚めました！ お見舞いに来たら目が開いてたんです！ シロコさん！ シロコさん！ …シロコさん？





解離性昏迷。解離性障害の一種で意識はあるが身体を動かしたり言葉を交わしたりできなくなる状態
主に精神的ストレスなどが原因で、強いショックや耐えられないほどの精神的負担により、現実から逃れるために現れる防御反応

診断結果は耳をふさぎたくなるものでした。な、治る…治ります、よね？ 本人次第…？ そんな…シロコさん…

シロコが目を覚ましたという嬉しい報告と共に、深刻な解離性障害により日常生活もままならない可能性があることを聞かされる
電話をくれた医師に感謝を伝えた後、大きくため息を吐いてスマホを机に投げ出した

シロコを開放して自由にしてやる。それが正しいことだと信じていた。だが独善的な行動でしかなかったことに気付いて後悔が募る

子ウサギタウンで浮浪者や不法占拠者の追い出しを行っていたとき、フブキからシロコが高熱で倒れたことを知らされた
しかし、防衛室長からの催促に追われていたことや、警備局長の裏切りを疑っていたためシロコのことを任せて電話を切ってしまった

直後にフブキから届いたモモトーク。局長はシロコちゃんの真意をちゃんと理解しているの？ というメッセージを…私は無視した
恐らくこれが最後のチャンスだった。ここでフブキのメッセージに向き合っていれば、こんな結果にはならなかっただろう

―――シロコさんが求めているのは自由じゃない。貴女だ！ 大好きな貴女に側にいて欲しいと願う、寂しがり屋で泣き虫の子供なんですよ！

キリノが、私を殴ったときの言葉

―――あの子の根底にあるのは奉仕と贖罪。局長のためなら恐怖をこらえて自分の人生を投げ捨てる。そんな覚悟をしてる子だよ？

フブキが、私に投げかけた言葉

―――悪いのは…私だ。私がいるから…。ごめんなさいカンナ。私は…もういなくなるから、どうか自由に生きてください

シロコが、私に言い残した言葉

あの時、もう数秒早く意識が戻っていれば…いや、もう後の祭りだな。キリノとフブキにも完全に失望されただろう

だが今ここで、公安局を放り出すわけにはいかない。薄情と言われようとやるべきことを終えてからだ
部下のためにもまず公安局を立て直す。その後は…副局長？ 何だ、またクロノスか？ 臨時の特別公務だと？ そんな命令は届いてないぞ

は？ おい、お前たち何のつもりだ。今すぐ手錠を外せ！ 副局長！ コノカ！ 私を抱え上げてどうするつもりだ！
姉御のデリバリーだと？ 意味が分からん！ …病院？ 余計な気を使うな。いいから降ろｓ俵担ぎにするな！ っ、この馬鹿共が…！

行けーっ
コノカーっ！！

ギリギリBAD END世界線に突入する瀬戸際みたいな展開じゃん・・・。
キリノもこの状態のシロコがトラウマになったりしないといいけど、とにかくカンナは本心全部ぶちまけてさしあげろ。

……これ無線でタレコミしてた奴もダメージ受けてない？

PCに押し込められて向かった先はシロコの入院先。運転手がフブキで引き返すことは拒否された
以前、私にシロコのことを聞きに来た一年生の二人に連行され、手錠を外されてから病室に押し込められる

ベッドの上で上半身を起こしたシロコと、シロコの頭を撫でながら話しかけるキリノの姿がそこにあった
キリノは驚いた様子で目を丸くしたが、すぐに怒気をはらんだ鋭い視線をぶつけてきた。…しばしの間、無言で目を合わせる

キリノがため息をついた後、私は外にいますので。と言って出て行った

二人きりになった病室。私はベッドの傍らで立ち尽くす。うつろな瞳のシロコを目の当たりにして、より一層の自責の念に駆られた
これが私の行動の結果だ。シロコのために、良かれと思ってしたことが裏目に出る。過去に何度失敗した？ お前には学習能力がないのか？

自問自答。私は同じ過ちを繰り返した。キリノの夢と正義の心を壊したように、今度はシロコそのものを壊してしまった

何よりも守りたかった存在を、私が。…涙が出てきた。悔やんでも悔やみきれない

シロコの名前を呼ぶ。…反応はない

シロコの頭を撫でる。…反応はない

シロコを抱きしめる。…反応はない

シロコは反応しない。何をしても、どんな話にも、まったく反応を返してくれない。心を閉ざしている
初めて誕生日を祝った時の話も、初めて自転車に乗った時の話も、初めて一緒に寝た時も、訓練した時も、勉強の時も―――勉強？


シロコ？ 今日は勉強を頑張ったからご褒美だ。何が食べたい？ なんでも言ってみろ！

……
……　……
……　……　……　かつどん、たべてみたい

扉の向こうから二人分の泣き声が聞こえてきました。うまくいったみたいですね

シロコさんが返って来てくれて本当に良かった。でも公安局長…カンナ局長の呼びかけにはすぐに応じるのが何となく釈然としません
私がどれだけ話しかけても返事をしてくれなかったのに…ズルいです。はあ、感情を制御するのって難しいですよね

愚痴をこぼした私を挟むように、同級生の二人が静かに寄り添ってくれた。…慰めてくれるんですね

―――カンナ局長とシロコさんは大正義よ。さあ、キリノさんも潔く諦めて同志になりましょう？ それはとてもとても正しいことなのよ
―――諦めないで！ あんたが今ここで諦めたら、私の破壊された脳はどうなっちゃうの？ キリ×シロの可能性はまだ残ってる！

慰めてくれてるんですよね？ お節介焼きの善人なのは知ってますが、二人の発言はたまに理解できないことがあって困ります
警備局の…キラキラさんは脳を怪我されたんですか？ ちょうど病院ですし、看護師を呼びますよ？

脳外科の名医でも治せないから不要とのことです。というか、私を放置して言い争いを始めないでください…

二人から離れて廊下に備え付けのベンチに座る。シロコさんとカンナ局長は泣き止んだ様子ですが、今度は謝罪合戦が始まってますね
もうしばらく二人だけにしてあげようと考えていたらフブキがやってきました。差し入れですか、ありがたく頂きます

同級生二人も合流して休憩タイム。冷たいオレンジジュースが喋り疲れた喉を癒してくれます

…ねえ、警備局主導でシロコちゃんを矯正局行きにする話が進んでるって本当？

フブキが警備局のキラキラさんに世間話でもするかのように問いかける。…矯正局行き？ どういうことですか？

―――本当だよ。先日の侵入者騒ぎに乗じて、装備品の窃盗行為と脱獄、本館内部の破壊工作で容疑が掛かってる
―――警備局長が、砂狼シロコに更生の余地なし。これ以上の温情は不要。直ちに逮捕、収監すべしって騒いでるんだ

その発言に私と公安局の子は驚きましたが、キラキラさんはニヤリと笑って、まあ無理だけどね。と落ち着いた様子。…詳しく話して下さい

はぁぁぁぁ……良かった
一件落着、とはまだいかないけれど、とりあえず二人とも、ゆっくり休みなさい

キラキラちゃんは無事脳破壊されてて草、かわいいねぇ
まぁなんだ、その、ナマモノは丁寧に扱うように

SS形式的に会話部が短く省略されがちだけど、逆に「たぶんめちゃくちゃ言葉を投げたんだろうな」という想像の余地が残ってるのが巧みすぎる。

ん、今日は曇りの入院日和。皆にたくさん迷惑を掛けてしまった。ごめんなさい
カンナとお話をして互いに間違ってたこと、すれ違ってたことが山ほどあるのが分かった。口に出して伝えるって重要。ん、反省

カンナは私のことを重荷になんて全然思ってなかった。釈放後も色々と考えて根回ししていることを教えてもらった
ぬか喜びさせないために詳細はまだ内緒だって言われたけど、もしもの時はまた一緒に暮らそうって。…嬉しいな

でも甘えっぱなしは駄目。私ができることを探して何かしたい。料理とか掃除とか洗濯とか、家事を覚えたら役に立てるかな？
一方的に貰うんじゃなくて、私もカンナに返したい。もちろん、前みたいに無理して怒られそうなことはしない。だから体罰は勘弁して

キリノとフブキには泣かれた。二人に頬を摘ままれておかえりって。ん、ただいま。でもまさかフブキがギャン泣きするとは思わなかった
しっかりしてる大先輩だけどまだ一年生。ん、お姉ちゃんに甘えるべき。…鼻で笑われた。泣いてたくせに！ ムカつく！

キリノは私の頭を胸に抱きしめてたくさん撫でてくれた。ん、気持ちいい。もっと撫でろ。…それはそれとしてお話があります？
距離を取ろうとしたのがバレてた。フブキ、チクった？ おのれぇ…！ あ、待って私怪我人だからやｍアイアンクロー！ んー！

お見舞いにはキラキラの子や警邏で会った子もいた。キリノの同級生だったんだ。わざわざありがとう。…事情聴取？ うん、いいよ
あの晩に起きたこと、見たこと、聞いたこと。質問に答えを返していく。黙って話を聞いてたカンナの顔がどんどん険しくなっていく。怖い

一通り話して聴取は終了。後日、退院してからもう一度話を聞かせてほしいって。ん、了解


皆はお見舞いを切り上げて帰っていた。仕事中にごめん…じゃないね、ありがとう。またね
その後は診察。抱えていた不安が一気に薄れたせいか、私の怪我は驚異的な早さで快方に向かってるらしい。我ながら単純

病室に戻ると…キリノ？ 何か忘れ物？ …停学中だから夜までいる。待って、どういうこと？ もしかしてまた私が――違うの？
カンナと喧嘩したんだ…。それは…ごめん、何て言えばいいか。…えっと、その、私のために怒ってくれて、ありがとう…？

…あのね、皆が帰って本当は寂しかった。キリノがいてくれて嬉しい。ん、もっと撫でて

私は本当に人に恵まれませんねぇ…。公安局の狂犬は部下に慕われているのに、警備局の局長は部下に愛想を尽かされるとは…
警備局が統率不能状態に陥りました。大半の局員が警備局長の命令を拒否。理由は野良犬の排除を狙って失敗したからです

…ところで私、そろそろ野良犬を処分しようと思いまして、FOX小隊に命令を出したんですよ。シンプルに冤罪で矯正局に送る計画です
タイミングを見て実行を…という段階で、監視中のRABBIT小隊と先生が公安局のリベートを嗅ぎつけました。そこで計画を修正

RABBIT小隊の成果に関わらず、FOX小隊の誘導で野良犬が共犯者や窃盗犯だったり、状況に合わせて逮捕されるという筋書きです
装備品はFOX小隊が配置。手錠やロープはFOX小隊が解除。扉の爆薬はFOX小隊が設置。全部、こちらの仕込みです

狂犬が外壁をよじ登って現れたり、野良犬の飛び降りというアクシデントもありましたが、概ね想定通りに進みました。そこまでは良かった
問題は分校にいるはずの警備局長が本館内で襲撃に巻き込まれたことです

警備局長は私の駒です。野良犬を処分するから分校で大人しくしているように命令したのですが…

それがなんですか？ なぜ警備局長は勝手な行動をしているのですか？ おかげで計画が台無しですよ？
砂狼シロコが脱獄し暴れた？ 彼女と戦闘した生徒なんていません。矛盾を突かれるも開き直り、遂には部下から失望されたと。…もう結構

警備局長は懲戒停職の上、役員代行を剥奪。停学処分です。警備副局長を警備局長代行に任命。直ちに事態の収束を図るように
今はやることが山ほどあるので彼女を締めあげるのは後です

ヴァルキューレはしばらく動けそうにありません。野良犬も放置するしかないでしょう
元SRT生徒たちも警備局で隔離し続けるのは不可能です。爆発する前に教育を切り上げ、仕事を振りましょうか…




…ユキノ小隊長ですか。いえ、これはFOX小隊の失態ではありません。皆さんは私の命令をきちんとこなしました。謝罪は不要です
それよりニコはどうなりましたか？ …分かりました。休息を認めますので復調に努めて下さい。RABBIT小隊の勧誘はその後で構いません

無線を担当していた彼女は生中継でしたからね。無理もないですよ…

おはようございます。目を覚ますと私に寄り添って眠るシロコさんの姿。…またしてもふにふにされてますね

昨日、面会の終了時刻で帰ろうとしたのですが…シロコさんに泣かれまして。寂しいから側にいて欲しいと懇願されました
病院に相談すると若干の幼児退行がみられるとの診断。泊まり込みの許可が下りました。精神的に立ち直ったばかり。仕方ありません

シロコさんの静かな寝息と穏やかな寝顔。時折、頭頂部の耳が揺れてるのが平穏を感じられて嬉しいです

なにごとにも無反応で、ぼんやりと虚空を見つめる姿は…本当に悲痛でやるせない思いでした。あんな姿、二度と見たくありません
今日からはまた元気な姿をいっぱい見せて下さいね。…ただその、幼児退行の影響なのか…途轍もなく甘えてくるのがちょっと…

頭を撫でると抱き着いてきますし、おでこを首筋に擦り付けたり…に、匂いを嗅がれたりします。昨日、お風呂入ってないんですよ！？
シロコさんって狼というより犬ですよね。でも猫のように胸を触ってきますし…？


…あ、目が覚めたようですね。はい、おはようございます。…起きたのなら触るの止めませんか？ 怒りますよ？
ええと、そんな泣きそうな顔するのズルいですよ。私が悪者みたいじゃないですか。…ほら、撫でてあげますから。…よしよし

胸に顔をうずめないで下さい。二度寝は許しません！ ちょっと、首筋を嗅がないで！ ひゃっ、舐めっ…～～～！ やっぱり犬ですよ犬！


拳骨一発。頭部を押さえて震えるシロコさんを半目で見下ろしました。痛みが続くなら看護師に相談してください。病院で良かったですね
さて、シロコさんはもうすぐ朝食の時間。その後のスケジュールは入浴と診察ですか。ちゃんとお医者さんの指示に従うように

私はヴァルキューレに帰ります。外泊届を出していないので寮長に反省文を書かされるでしょうが、始末書よりはずっと楽です
反射で謝罪しようとしたであろう、シロコさんの口を指で押さえます。全て自分の判断でやったこと。気にしないでください

それに、謝られるより感謝された方が嬉しいですよ？ シロコさんは耳をピンと立てて、ありがとう。と、ちゃんと言葉で伝えてくれました

はい、受け取りました。それではまた来ます。お大事に

午前中は検査でおしまい。昼食を食べてお昼からは安静に。ん、暇。誰か来てくれないかな…
検査結果は良好。明後日には退院できるって。カンナやフブキたちにモモトークで伝えておく。お返事が続々届いた。スマホが賑やか…！

ウサギたちにも連絡しよう。屋上で巻き込んだし私を追いかけてくれたんだよね。ご迷惑をおかけしました
あそこであのまま…だったら、カンナとすれ違ったまま終わってた。だから、助けてくれてありがとうございます

四人からの返信が届く。ミユは無事を祝う言葉だったけど、モエとサキは幸運が重なっただけ。二度と馬鹿なことするな。とお叱り。ごめん
ただミヤコが…謝罪？ 私が意地を張ったせいで貴女を止められる人がいなかった。…どういうこと？ 意味がよく分からない

疑問を返したら、今度キリノを連れて子ウサギ公園に来て欲しい。だって。社会貢献作業に出る日で都合が合えば行ってみよう


みんなとのモモトークが一息ついたところで先生にも連絡。私が入院してすぐ、一度来てくれたらしいけど意識無かったからね
ん、退院決まった。元気だよ。トークを送るとすぐに返信。先生は今トリニティでお仕事中なんだって。相変わらず忙しそう

お見舞いは遠慮。トリニティからトンボ帰りは大変。ただ、先生が戻ったら一度シャーレに顔を出すように言われた。きっと説教だ


モモトークを一通り終えたらスマホを充電しておく。時刻は午後二時過ぎ。…フブキかキリノ来ないかな。カンナは無理だよね
ヴァルキューレの医務室なら仕事の合間に誰か顔を出してくれるけど、ここは総合病院で皆は学校。ちょっと寂しい

体を動かしたい気分。散歩の許可下りるかな？ 病室を出てエレベーター前の看護師詰所へ。病院内ならOKだって
さっそくエレベーターに乗って…どこに行こう。あ、屋上が広場になってるんだ。そこでいいや

エレベーターが上昇。扉が開くと自動販売機が配置された休憩スペース。その奥に風除室と外へ繋がる扉が見える
重いガラス製の扉を開けて屋上へ出た。そよ風が気持ちいい。今日は天気が良いから遠くまで見渡せそう

景色を眺めるために屋上の縁へ。ヴァルキューレはどっちだけ。見え―――っ！ 即座にその場から下がった。今の、なに…？
警察学校を探そうと、見下ろしたら…。駄目、吐き気がする…。急いで戻りエレベーターのボタンを押す。ここから逃げたい。早く来て

ん、今日は晴天の入院日和。入院して…何日目だっけ？ 忘れたけど明日には退院。早くヴァルキューレに帰りたい
病室は快適だけどいつもの牢屋の方が落ち着く。それと体が鈍って辛い。軽いストレッチの許可は下りたから病室で柔軟体操しよう

昨日の屋上で感じた症状だけど、あれは高所恐怖症とは違うみたい。病室の窓から見下ろすのは全然怖くないし渡り廊下とかも平気
もう一度、屋上に行ってみたらエレベーターから降りれなかった。つまり、屋上恐怖症？

お医者さんに相談したらPTSDだって。すごく限定的なトラウマだし気長に症状緩和を目指すことにした。屋上なんてめったに行かないしね

朝食を済ませてしばらくすると看護師から退院についてのお話。当日の手続きと支払い、それと送迎が必要かどうか
手続きと支払いは事前にカンナから聞かされてたから大丈夫。でもタクシーはいらないかな。荷物も無いし散歩したいから歩きます

お話の次は診察。怪我は完治で問題なし。心療内科から定期受診を勧められたけど断った。囚人で牢屋暮らしだもん

病室に戻るとキリノがお見舞いに来てた。待っててくれたんだ、ごめ…ありがとう。ん、もっと撫でて
場所を病室から院内カフェに移しておしゃべりタイム。味気ない病院食はキャンセルしてきたから大丈夫。味の濃い物や甘い物が食べたい

メニューの種類は少な目。んー…ん、ホットドックとキャラメルラテください。キリノはミルクティーを注文
怪我が完治したこととPTSDについて正直に話した。隠す理由はないしどうせバレる。キリノは驚いてたけど大丈夫だよ。屋上限定だから

他に何か変化がないか？ …一人でいるのがちょっと寂しくなった。周りに迷惑掛けちゃ駄目って強く思ってた頃は我慢できたけど…
今は…誰か来ないかな。とか、お話したいな。っていう考えが時折浮かぶの。後、夜に一人で寝るのが怖い。それくらいかな？

質問に答えていると注文の品が届いた。いただきます。ホットドッグにかぶりつくとソーセージから肉の旨味が溢れる。ん、美味い
向かいに座るキリノはスマホを操作してるしこのまま食べてしまおう。パンも柔らかくて甘い。チェーン店だろうけど当たりのお店だ

食べ終えたら世間話を楽しんでお会計。そしたら変なミニチュアを貰った。ホットドッグバンズに犬が挟んである。なにこれ…？

キャンペーン中のプレゼントだって。ん、得した

カフェでお腹を満たした後はお買い物。病院に許可を取って近くのショッピングモールにやって来た
よく考えたら着替えがヴァルキューレの制服しかない。しかも誰が用意したか不明のやつ。制式拳銃も屋上で投げ捨てたまま。駄目じゃん

キリノと一緒にまずは服屋へ。適当に安いのでいいや。汎用の制服ブラウスにチェックスカート。動きやすい半袖とミニを選択
飾り気？ そういうのよく分からない。派手なのは嫌だし、シンプルでいいよ。…もったいない？ じゃあキリノが選んで

折角だからおしゃれしましょう！ とグイグイくるキリノに任せてみる。変なのが来たら逃亡しよう

戻って来たキリノの手にはライトブルーのリボンタイ。これならブラウスに合うね。ヴァルキューレのカラーなのも好き。ん、買った
制服姿でウロウロするのは目立つし会計したらタグを取ってもらって着替える。制服は貰った紙袋へ

スニーカーはそのままでも大丈夫だよね。じゃあ次は銃を買う。といっても、ヴァルキューレに帰ったら処分するからこれも安物でいい
銃器ショップに入り拳銃コーナーへ。突撃銃や短機関銃とかでも戦えるけど拳銃に慣れたし取り回しが楽。何より安価

キリノが第3号制式拳銃を持ってきた。ヴァルキューレ仕様じゃないノーマル品だけどね。これでいいかな…？
値段を確認するために商品棚を見ると、ほとんど同じ名前でもっと安いのがある。クラシカルな外見でグリップが細身だ

手に取ってみると…こっちの方が少し重い。でも口径は一緒でシリンダーも5発。キリノが第3号制式拳銃の旧式モデルだと教えてくれた
全長もほとんど一緒だね。ん、これに決めた。数発、試射させてもらって購入。ショルダーホルスターも用意してもらった

箱出し状態で地味だからグリップにカフェで貰ったミニチュアのストラップを装着。よし、一日だけの相棒だけどよろしくね

病院に戻ったらキリノとお別れ。停学が明日で終わるから今日は早めに帰って大人しくしてるって。制服はキリノが預かってくれた。またね
看護師に戻ったことを伝えて入院着にお着換え。最後にカンナに退院時刻と帰宅予定時刻を伝えて明日の用意は終わり

迎えを出すって言ってたけど遠慮した。ヴァルキューレは今、すごく大変みたいだもん。寄り道はしないで帰るよ

まだまだ時間があるしスマホの対戦ゲームを練習しよう。次はキリノに勝ちたい。ん、頑張る

キャンペーン中のプレゼント、ホットドッグを着たアロナとかじゃなくて良かったぁ～

>>84

(シロコの胃が拡張される音)

子供返りは歪な育ち方しちゃってるのも影響あるだろうな
俺はヴァルコには幸せでいて欲しいよ

ん、今日は晴天の退院日和。早寝早起きで体調も万全。夜にちょっとだけ寂しくなったけど泣くほどじゃなかった
朝食はキャンセルして売店でパンを購入。アメニティ用品で身だしなみを整えて着替える。準備完了

予定時刻に看護師が来て受付に案内された。手続きを終わらせて退院！ ん、お世話になりました
まずはカンナに退院完了を報告。ちゃんと報連相しないと怒られるからね。返事が来たから出発しよう

D.U.を一人、私服姿で歩く。単独で外に出るときはヴァルキューレの制服だから新鮮。すれ違う誰もが私なんて気にも留めない
スマホを見て歩く獣人、道端で談笑してる生徒、運送屋の機械人…いろんな人々がいるけど、私が囚人なんて思っても無いだろうね

平静な気分でリラックスしながら散歩を続ける。D.U.の中央から離れると近代的な建物が減り始めた。道が狭くなり交通量も少ない
この近くには市場がある。朝早くから夜まで賑わっていて活気がある場所だ。小物も多いけどね。結構歩いたしちょっと休憩しよう

道を折れて市場に入り、いい匂いのする屋台を我慢して通り過ぎる。目当ては自動販売機コーナーだ
冷えた炭酸を選んで購入。缶を手に取ったタイミングで横から話し掛けられた。三人組、黒ずくめの制服、ヘルメットに髑髏マーク

推定、ヘルメット団三名。ショットガンを突き付けて金を貸してくれと要求してきた。ん、お断りだよ
炭酸飲料の缶を振って飲み口を相手に向けて開封。ジュースが勢いよく吹き出しヘルメットのバイザーに振りかかる

連中が驚いて視線を逸らした。すかさず抜き撃ち。向かって左の胴を狙って三発。一人ダウン
そのまま前に出て正面の奴のつま先を踏む。これで逃げられない。相手の右手を力いっぱい握り外向きにひねる。痛みで悲鳴を上げた
横に回り込み、首根っこを掴んで残った一人に向かって叩きつけ。壁に激突しダブルダウン。ん、私の大勝利

転がって呻き声を上げる三人を無視して炭酸飲料を買いなおす。今日は制服を着てないし見逃してあげるよ。バイバイ

ヘルメット団は群れてることが多い。仲間の報復に来るかもしれないからさっさと離れよう
炭酸飲料を飲み歩きしながら地下鉄乗り口をスマホで探す。もっと散歩したかったけど遅れるとカンナたちが心配するから切り上げる

地下鉄を使うことをカンナに連絡してから最寄りの入り口を目指した

ヘルメット団に追われることもなく、無事に地下鉄に到着。数分の待ち時間で乗車できた。一安心
この電車はヴァルキューレの最寄り駅まで直通の路線。十分ちょっとで到着の予定だって

車内は結構混雑してる。席は埋まってるから手すりを握って背を壁に預けた。子供から大人まで、多種多様な乗客が乗り合わせている
地下鉄に乗るのは久しぶり。カンナと一緒に暮らし始めたとき、買い物ついでに社会勉強としてわざわざ利用してくれた

当時はお金を払うのがもったいないと思って、無賃乗車すればタダ。一緒に車体にしがみつこう。って大真面目に答えて拳骨されたっけ
スパルタ教育だったけど感謝してる。それに厳しいだけじゃなくて優しいところも多い。ご褒美を用意してくれたり…ん？

なにか違和感を感じる。なんだろう？ …あ、分かった。スーツ姿の獣人。さっきから不審な行動してる
席を探してる様子でウロウロしてるけどスカートの生徒の側でわずかに足を止めてる。もしや…？ ん、ここは囮捜査

俯いてスマホに夢中、の振りをする。カメラを起動して撮影を開始。少しだけ足を開いて…引っかかるかな？

来た。目の前を通り過ぎて…いや、不自然に寄って来た。正面で立ち止まる。スマホの画面に映るのは獣人の足元。ビンゴ
はいストップ。次の駅で一緒に降りよう。…ん、とぼけても無駄。靴に小型カメラあるよね？ あと私、ヴァルキューレだから


事件解決。スーツ姿の獣人は盗撮犯。スカートの中を撮影してた。変態。ブラックマーケットでお金になるんだって
ちょうど駅に到着したのでカンナに盗撮されたと通報。電波が届く中継器のある駅で助かった。駅員に事情を説明して一時拘束してもらう

盗撮犯が生徒手帳を見せろ！ 不当逮捕だ！ と騒ぐから、手帳は無いけど私は公安局の尾刃カンナの身内。彼女が保証してくれる。と返す
カンナを知ってるのか盗撮犯は震えだした。…私はヴァルキューレ(の囚人)、カンナ(が身元引受人で事実上)の身内。ん、嘘は言ってない

PCのサイレンが聞こえてきた。…多くない？ バタバタ走る足音がたくさん。…嫌な予感してきた

階段を下りてきた集団の先頭はカンナ。ヴァルキューレの生徒たちも続々と現れた。カンナがマジギレしてる


後でアイアンクローされる未来を想像して耳がしょんぼり。でも私のために怒ってるのが嬉しくて耳がそわそわ。ん、勝手に動いて困る

>>スカートの中を撮影

脚舐めやわんわんプレイに比べて何と悪質な…恥を知れ

シロコ「カンナ、盗撮された。早く来て。」
カンナ「！！？」

おそらく、こう。

ヴァルキューレの取調室でカンナとお話…いや、事情聴取とお説教。社会貢献作業以外で勝手なことをするなと怒られた。ごめんなさい
でも予想してた体罰がない…？ 最後によくやったって褒めてくれた。ん、もっと撫でて。退院祝いはあんかけカツ丼だった！ 美味かった

ご馳走様してカンナとお別れ。この後、盗撮犯の余罪を追及するんだって。狂犬の苛烈な尋問！ ん、犯人はおしまい

取調室を出たら倉庫に向かう。ここは落とし物や古い装備とかが保管されている
私が購入した拳銃を預けてきた。これで期限が切れたときに自動で処分される。さすがに銃を牢屋には持ち込めないからね

ドローン？ あれは撮影とかの娯楽品だから。ヴァルキューレがフブキを通して私にくれた物。きっとセーフ

今日は奉仕作業もしなくていいって言われたから半日空いてる。フブキは外回りで不在。キリノの復学は明日から。何しよう…
ん、決めた。ヴァルキューレの施設を借りて体を動かそう


体操服を借りてトレーニングルームへ。体を解してから運動開始。まずはベンチプレスとスクワット。負担は軽めにする
一週間も大人しくしてたからやっぱり衰えてる。本当はもっと負担を重くしたいけど我慢。無理しすぎない

次はエアロバイクで有酸素運動。自転車乗りとしてここは譲れない。自主練に来てる生徒たちと雑談しながら楽しく鍛えられた
やっぱり一人じゃないっていいね。顔見知りに会うと安心する。寂しくない

シャワーで汗を流したらスクール水着に着替えて屋外水泳訓練所に出る。これも軽く…40往復でいいや
公安局の水泳実習だと200往復するって聞いたから全然楽だ。クロール、背泳ぎ、平泳ぎ、バタフライ。泳法を変えながらノルマ達成

体に程よい疲労を感じたので今日はここまで。もう一度シャワーを浴びに行くとフブキを発見。まだ気が付いてないからこっそり忍び寄る
シャワーブースに突撃して背中からハグ。外回りお疲れ様。あれ？ あんまり驚いてないね。…あ、鏡に映ってたんだ。残念

せっかくだから洗ってあげるよ。大先輩にご奉仕。…あのね、私を心配して泣いてくれてありがとう。嬉しかった
礼を伝えたら、堅苦しい話よりドーナッツ食べたいな～。だってさ。妖怪ドーナッツ娘は相変わらずだね

洗いっこしてブースを出たらキラキラの子が白目向いてた。大丈夫？ また飛び出してった…しょんぼり

フブキと別れて牢屋に戻って来た。馴染みの看守にも挨拶。拳骨とお小言。その後、おかえりって言ってくれた。ん、ただいま

さて、まずやることはお食事券と手紙の捜索。すでにフブキが確認してくれたけど私も探してみる

ベッドのシーツを外してみたりマットレスを動かしたり、看守に不思議がられたけど掃除みたいなものだから気にしないで
机の周りも調べたけどやっぱり見つからない。そもそもこの部屋の中で紙切れを隠せそうな場所なんてそんなに無い

考えられるのは私がどうにか処分して忘れてるか、誰かが持ち去ったか。前者は…目が覚めたら医務室だったから正直に言って分からない
でも後者も考えにくい。留置施設は出入り口と牢屋の鍵の二重ロックだ。消灯時間になると看守が外から施錠をする。簡単には侵入できない

監視カメラだってあるし現実的じゃない。…ウサギたちが本館に忍び込んでるから絶対とは言えないけどね

部屋を散らかしたついでに私物をチェック。ん、ちゃんと全部ある。無くなったり触られた形跡もない
元通りに片付けて捜索終了。煮え切らない結果だったけど私を誘導した存在を含め、カンナが調査してくれるから後は任せよう


その後は特に何事もなく時間が過ぎて、後一時間もすれば消灯。フブキとキリノからおやすみのメッセージが届いたので返信を送る
キリノに一人が寂しい、一人で寝るのが怖いって話したから心配してくれたんだろうね。スタンプもたくさん届くからこっちもお返し

爆撃に使えそうな無料スタンプを見ていると足音。カンナだ。こんな時間にどうしたの？ …待って、怒ってない？
退院した当日に訓練なんてするな？ いや、あれは訓練なんかじゃないｙアイアンクロー！ ん！ 許して！ ごめんなさい！

軽く運動したつもりだったけど駄目らしい。本当に軽くなんだけど…何でもないよ？ えっと、用事はそれだけ？

ん…カンナからのハグ。私が一番安心できる匂いと温もり。抱き返して額を擦り付ける。今日は引きはがされなかった
お互いに無言。一度は言葉足らずですれ違って間違えたけど、さすがに分かるよ。ありがとうカンナ。側にいてくれて嬉しい

牢屋の硬いベッド。清潔な枕とシーツと毛布。大切な宝物の数々。そして大好きな人。幸せが溢れるここが…私の居場所

定期的に脳をボコボコにされるキラキラちゃんで草
うーむ、ここにきてダークホースのシロフブとは……

ん、今日は晴天の警邏日和。何だかすごく久しぶりな気がする。…いや、一週間以上行ってないから正しいよね
ぐっすり眠って体調も万全。朝食を食べて準備を整えたら社会貢献作業に出発しよう。でもその前に生活安全局へ行かなくちゃ

安全局を訪ねると朝礼が終わって動きだしたところだった。警邏に出かける生徒たちに挨拶してお邪魔します
用事があるのはキリノ。装備品の拳銃二丁とスモークグレネードをデスクに並べてチェックしてた。おはよう、ちょっといい？

ミヤコが私とキリノを呼んでいることを伝えて警邏に誘う。OKだって。フブキにも声を掛けたけど今日は留守番。サボっちゃ駄目だよ
お土産を頼まれた。マスタードーナツのボックスセットでしょ？　ん、了解。行ってきます


小型PCで子ウサギタウンを目指す。道中、小物を二人捕まえて警邏にパス。それと買い物に寄った。ウサギたちの差し入れ
カップ麺や缶詰。ビスケットにキャンディー、キャラメル、チョコレート。栄養不足を補うサプリメント。それと衛生用品を一通り

全部で段ボール五箱分。小型PCに詰め込めるだけ買った。ウサギたちは命の恩人。喜んでくれるかな

子ウサギ公園に到着。小型PCで乗り入れて舗装路を徐行する。広場を抜けてウサギたちのテントが見えた。ここに来るのも久しぶり
四人の姿を確認。安心した。早速だけど差し入れを渡す。キリノに手伝ってもらってダンボールを降ろすとウサギたちが寄って来た

私を助けてくれてありがとう。頭を下げて感謝を伝える。皆への気持ちだから受け取って

サキは、人助けはSRTなら当たり前のことだ。二度とするなよ！ と叱り、モエは、知人の破滅見せられても気持ちよくなーい。って…んん？
ミユは、た、助けてくれたから。でも、私は特に何も…。と控えめに。そしてミヤコが…ごめんなさい。と謝罪。だからなんで？


先生から聞いたんです。キリノさんが病院で、肝心な時に何もできなかったと己を激しく責めていたことを…
私は名誉挽回のために、執拗にキリノさんを攻撃し気絶させました。それは自己満足でしかなかったんです。だから、ごめんなさい


ミヤコの言葉を聞いてキリノの方を向くと、渋い顔をしてため息をついてた

予想はついていましたが、やはりそのことでしたか。ミヤコさんがおっしゃる通り、私は病院で先生に会いました
RABBIT小隊による襲撃の後、気絶している間にシロコさんが飛び降りたと聞いて、我を忘れて一人病院に向かったんです

でもシロコさんはICUに運び込まれていて面会謝絶。途方に暮れてロビーのベンチに座っていると、先生がやって来ました
シロコさんが精神的に追い詰められていたことを知っていたのに、目を離してはいけないことを理解していたのに、分かっていたのに…

私は胸の内から込み上げるものが我慢できず、涙と共に感情をはき出しました。それを先生は受け止めてくれたんです

あの時、もし私がシロコさんを追いかけることができたら…結果は変わっていたかもしれません。でもそれは可能性に過ぎないんです
全ては終わったことで、シロコさん本人が乗り越えて元気な姿で帰って来てくれました。だから、私はもう気にしません！

ですので、ミヤコさんも切り替えましょう！ 引きずり続けてもシロコさんが困るだけですよ

もう一つ。私が気絶…本官が負けたのは、弱点を突かれて対応できなかったから！ つまり本官が弱かっただけです！
ミヤコさんは恐らく、本官が射撃下手というのを調べたのでしょう？ だから直線の廊下に誘い出し、射撃戦で圧倒してきた。お見事です！

ですが、本官も弱点を放置するつもりはありません！ 今はお互いに一勝一敗。次は…私から勝負を申し込みますので、待っていて下さいね？


言い切った後、私はミヤコさんの目をじっと見つめます。するとミヤコさんも見つめ返し、次も負けません。とのことです。楽しみですね


ちなみにですが、実は先生からミヤコさんに話してしまったと謝罪の連絡があったんです。事後承諾ですが許しました！
これも本官が許して終わった話ですので、皆さんも掘り返さないで下さいね。話は以上です。さあシロコさんの差し入れを開封しましょう！


…皆には内緒ですが、ミヤコさんは早い段階で私がいれば引き留められた可能性に思い至り、自分を責め始めていたそうです

それを察した先生は、泥を被る覚悟でわざと口を滑らせたと包み隠さず教えてくれました。結果は…うまくいったと思います
でも先生が無神経な大人と誤解されたままは嫌ですし、少し時間を置いて折を見てミヤコさんにバラします。これでお相子ですよ、先生？

アホアホの作者です。文字数にギリギリで引っかかって修正したらミスしてたので再投稿します
ごめんなさい。ではでは

差し入れは全部受け取ってもらえた。特に甘い物と衛生用品は大歓迎された。女の子だもんね
もっとお話ししたいけど警邏の途中だから長居はしない。用事は済んだから今日は帰るね。また来ます。ばいばい

子ウサギ公園を後にして今日はどこをパトロールするかキリノと話し合い…の前に、車を停めて助手席のキリノに横からハグ
キリノとミヤコの話を聞いて、キリノが私にどれだけ心を砕いたかを実感した。だから改めて、ありがとうキリノ

キリノは、どういたしまして。って笑いながら撫でてくれた。ん、気持ちいい。もっと…ん？―――小型PCの警察無線が受信。応援要請だ


警光灯とサイレンを鳴らし緊急走行。現着まであと少し。場所はD.U.ウェストパークの黒猫市場。…昨日立ち寄った場所だ
ヘルメット団とスケバンの抗争が発生。すでに近隣の警邏担当が駆け付けてるけど、数が多くて手こずってるらしい。ん、お手伝いする

警備局が出動済みでもうすぐ到着するの？ 良いことなんだけど珍しいね。キリノも口には出さないけど苦笑いしてる
キリノが無線を通じて現場指揮官に指示を仰ぎ、私たちは細い路地の一つを任された。小型PCを降りて制式拳銃とシールドを用意

ドローンも起動。今回は場所が狭いから私じゃなくてキリノに追従させる。状態良好、行くよ
ポジションは私が前衛。キリノとドローンが後衛。路地を進むと前方から戦闘音が聞こえてきた。市場のメインロードが見えた所で接敵

ヴァルキューレの生徒と撃ち合ってるヘルメット団四名の真横をついた。強襲を選択。キリノに支援を頼んでシールドを構えて突貫
こっちに気付いたけどもう遅いよ。一人を体当たりで転ばせて至近距離で発砲。一人ダウン。直後にキリノのスモークグレネード

私とヘルメット団が煙に包まれた。これで下手に撃てば同士撃ち。私は…さっさと後退。煙から全力で逃げだした
後は煙から出てきたヘルメット団をキリノやドローン、生徒たちが集中攻撃して制圧。私が全部一人でやる必要は無い。仲間に任せよう

その後も連携しながらヘルメット団やスケバンを制圧していると、警備局からヘルメット団の幹部を撃破したと連絡。おお、凄い
残っていた連中も逃げ出し始めた。残党を何人か捕まえて戦闘終了。ん、お疲れ様

その場の対応をキリノに任せて私は小型PCを回収しに向かった

怪我の手当てと弾の補給をしたら小型PCのエンジンを始動。キリノに待ち合わせの場所を指定して移動する
市場の通りは複数のPCや護送車でちょっと混雑気味。…ヘルメット団の一人が私を指差して騒いでる。昨日の奴かな？ 見逃してあげたのに…

情けを無駄にしたお馬鹿は放置。自動販売機から缶コーヒーを二つ購入。車内で休憩しているとキリノが戻って来た
現場処理は任せていいとのことなので離れよう。時刻はもうすぐお昼。お腹空いた


食べ歩きが趣味のキリノの案内で定食屋に入った。肉と野菜たっぷりの黒酢あん定食。程よい酸味が具材に合う。んまい！ ん、ご飯お代わり
お腹一杯で大満足。食休みを兼ねて近くの公園で一休みする

そういえばさっきの戦闘で警備局が撃破したヘルメット団幹部だけどどうなったの？ 結局取り逃がした？ 見直したと思ったのに…
でも以前よりは活発に動いてるよね。…警備局長が停学？ トップがいない方が素早いってどういうことなの

停学理由は…馬鹿やったそうですよ？ としかキリノは教えてくれなかった。笑顔が怖いから深く聞かない方がよさそう。触らぬ神になんとか

休憩の後、二時間ほど警邏して小物を一人。フブキのお土産のドーナッツを購入してヴァルキューレに戻った
差し入れ前にシャワーで汗を流そう。昨日はフブキを洗ってあげたから今日はキリノを洗う。ブースに突撃して洗いっこ。遠慮しなくていい

くすぐったいのかキリノが騒いで大変だった。ブースを出るとキラキラの子と遭遇。今日は逃げられなかったけど…鼻血出てるよ？
具合悪いの？ 医務室行く？ …鍛え始めたから平気？ よく分からないけど元気そうだからブースを譲った。ごゆっくり

生活安全局に行くとフブキがお昼寝中。やっぱりサボってた。キリノに任せて私はコーヒーの準備。悲鳴と怒声。ん、お約束
ドーナッツでおやつタイムを楽しんだら二人とお別れ。またね。囚人服に着替えて報告書を作成…してたらスマホが着信

カンナからモモトーク。夕食のお誘いだ。忙しいのに時間を作ってくれて嬉しい。でも無理してない？ 昨日も来てくれたよね？
大丈夫だ。と、シンプルな返信が来た。…なら甘えさせてもらうね。返事を送って看守に夕飯のキャンセルを伝える

報告書を仕上げて送信。タブレットの電源を落とす。ベッドに座ってそわそわ。早く時間過ぎないかな。ん、楽しみ

ん、朝焼けがきれいな警邏日和。今日は早起き。昨日、カンナと食事中に賞金首が出たことを教えてもらった
お金をたくさん使って財布が少し寂しい。ぜひとも捕まえたい。お出かけ準備を整えたら自転車で出発。この子も久しぶり。ん、よろしく

捜しているのは二人組の強盗。元々は数件のひったくりで手配の掛かった窃盗犯だった。それが昨日、暴力行為を行ったため強盗罪が成立
抵抗されてひったくりに失敗。腹を立て被害者を銃撃して荷物を持ち逃げしてる。短絡的犯行の大馬鹿者。許すまじ

ただ情報があんまりなくて居場所が絞りにくい。犯人は推定スケバン。顔を隠しているけど犯行に使われてるスクーターが共通の物
D.U.は広い。スクーター一台を探すのは相当に骨が折れる。朝食代わりのプロテインバーを齧りながらどうしたものかと悩んだ

結局、良い案が思い浮かばなかったので地道に探すしかない。あちこちの交番や警邏の生徒に聞き込み
複数のエリアを走り回って午前中の成果は小物が二人だけ。これは困った

お腹も空いたし一度休憩を取ろう。スマホのナビを起動して一番近いコンビニを探す。ルートを確認していると誰かに話し掛けられた

セーラー服姿の生徒。大きな獣耳が目立つ女性。…街中でエプロンにお弁当のパックが乗ったお盆を両手に持つ姿が凄くシュール

―――ヴァルキューレのお巡りさん。美味しい美味しい、おいなりさんはいかがですか？ 出来立てですよー

チリンチリンと鈴の音を鳴らしながら話し掛けてきたのは弁当の売り子さん。アルバイトしてるんだって
おいなりさん…。ベーシックな酢飯だけの物や、混ぜご飯のもある。ん、美味しそう。電子マネーカード使えます？

大丈夫ですよー。と、モバイル型の支払い端末をポケットから取り出した。五目いなり下さい
売り子さんは元気に返事をしてビニール袋に商品を包みながら話し掛けてくる。おしゃべりが好きなのか世間話が止まらない

―――治安が落ち着かなくて嫌になります。お客さんも少なくて…。さっきも喧嘩してる人たち見ましたよ。怖いですねー

喧嘩？ 分け前が少ないと叫んでもめていた…？　売り子さんもうちょっと詳しく聞かせてもらえますか。…ひじきいなりも下さい

路地を抜けた先。小さな広場にスケバンを見つけた。すぐ側にスクーター。ナンバーにガムテープが貼ってある
ひったくり犯のスクーターと車種や色が一致。ナンバーが隠蔽されているのも被害者たちの証言と同じだ

問題はスケバンが三人いること。売り子さんも喧嘩してたのは三人組と言ってたから間違いないはず
武装は短機関銃が一人、拳銃が二人。三人とも薄汚れててちょっと臭う。賞金首にしてはとてもショボい

奇襲を選択。空き缶を拾って高めに投擲。広場の奥に落下し音を立てる。三人組の意識がそれた
制式拳銃で短機持ちをヘッドショット。二連射で確実に意識を奪う。残った二人の遠い方に三発撃ち込んでダウン。これで弾切れ

シールドを構えて突貫。最後の一人が喚き散らしながら拳銃で反撃…してきたけど全然当たってない。どこ狙ってるの？
体当たりで転ばせて顔面に踏み下ろしでトドメ。賞金首にしては弱かった

捕まえた賞金首を自転車で引きずりながら帰宅。立ち番に預けてスクーターの回収もお願いした
フブキを訪ねて賞金をゲット。…金額もショボかった。食べる暇がなかったおいなりさんを一緒に食べる。美味い。お茶が欲しくなるね

遅い昼食を食べているとフブキに内線。賞金首たちの報告が届いた。三人とも学校を退学になりスケバンデビューしたての家なき子
ひったくりは生活費に困っての犯行。スクーターはスケバンの一人の個人所有。燃料代を寄こせと仲間割れしてたんだって

私もカンナに拾われなかったらあの子たちみたいに…いやもっと悪ガキになってたと思う。カンナには本当に足を向けて寝れない。ん、感謝

シャワーを浴びて囚人服に着替えたら報告書の作成と提出。終わったら自由時間
ちょっと気になることがあるからスマホで検索。今日出会った売り子さん。お礼を言いたくて探したけど見つからなかった

だからあのエリアでおいなりさんを販売している飲食店を調べてみたけど…コンビニ以外で該当する店舗無し
検索条件や検索サイトを変更してもヒットしない。登録されてないお店か、他所のエリアからわざわざ来たのかな…？

アルバイトって言ってたし、出来立てのおいなりさんを徒歩で販売してるなら近場に店があるはずだけど…見つからないならしょうがない

でもあのおいなりさん、美味しかったな。ん、また食べたい

ん、今日は小雨の監獄日和。天気予報は終日雨。いつもなら奉仕作業なんだけど予定が入った。カンナからの呼び出し
モモトークで準備が出来たら迎えに行くから牢屋で待機するようにって。多分、病院で言ってた事情聴取の二回目かな？

朝食を食べてドローンの点検をしているとカンナが来た。連れて行かれた先は取調室。やっぱり聴取だ
…違うの？ 聴取はもうする必要がなくなった？ …停学中の警備局長が逮捕されて矯正局送り。待って待ってちゃんと説明してよ

ウサギたちの襲撃があった日、無線を通じて私を誘導したのは警備局長とその部下の犯行だったことが判明
私を冤罪で矯正局送りにする計画を立て実行に移したけど、ちょうど同じタイミングでウサギたちが潜入し騒ぎを起こしてしまった

そこで本来の計画を破棄し、私にウサギたちの後を追わせることで共犯者にしようとアドリブで対応
ところが司令塔の警備局長がウサギに偶然遭遇し気絶させられたことで大混乱。屋上にカンナが本当に現れてしまったことも拍車をかけた

部下たちは局長を見捨てて逃亡。その結果、分校にいるはずの警備局長が本館内で倒れていたことを防衛室が追及。計画を自供して逮捕
砂狼シロコは他人の悪意に誘導されていた被害者であり、脱走などの罪は認められず。お咎めはなし…以上

…つまり、偶然が重なって警備局長の目論見が外れたってこと？ じゃあ屋上前の爆弾は？ …私を監視してた局長の部下が設置した物なんだ
あれは私を爆弾に誘導し負傷させることが狙いで、逮捕した後で私が盗んだ爆弾で自爆したと捏造する予定だったみたい

でも私が指示を無視して動いたことで爆破のタイミングを誤り、大したダメージにならなかったんだね

動機は…手柄が手に入らなくなったことへの八つ当たり。そしてカンナへの嫌がらせ。なにそれ…？
あの警備局長、カンナの前ではずっと猫被ってたんだって。協力的で仲良くやれてると思った同級生に実は嫌われてたとかカンナも複雑だ…


それと公安局の癒着に関する罰だけど、関わった全ての生徒に始末書と反省文。カンナはさらに役員代行の剥奪処分となった
でももうすぐ新体制の上層部がスタートする。つまりカンナの罰も他の生徒たちとほぼ変わらないということ

なんだか罰が軽すぎる気がする。カンナも上の考えは分からんとウンザリした様子だった。ん、お疲れ様

警備局長が暴走した理由が、野良犬を自分の手で逮捕して狂犬に見せつけたかった。とは、お粗末すぎて開いた口が塞がりません…
彼女には新体制の要として上層部を率いてもらい、狂犬に代わる存在になってもらうつもりでした。期待してた分、失望が大きいですねぇ

せめて失敗した計画の後始末くらいしてもらいましょう。全てを被って矯正局で大人しくしていなさい。気が向いたら出してあげますよ

新たな上層部も周りの視線が邪魔で無難な集まりにしかできませんでした。おまけに元SRT生まで食い込んでいます
…はぁ。まあいいでしょう。私の計画が実現した暁には、ヴァルキューレなんて後からどうとでもなります。焦る必要はありません

公安局も形だけの罰で済ませます。罰はきちんと与えたという口実作りですが、締め付けすぎて不満を溜められる方が今は困りますからねぇ
狂犬も野良犬との家族ごっこで腑抜けていればいい。まあ、最後はまとめて処分しますよ。余計なことを嗅ぎ付けるのが得意ですしね

懸念事項の先生もトリニティから戻るなり、今度はまたミレニアムですか。キヴォトスは問題を起こす生徒が多すぎるんですよ…
まあ、今はそうやって走り回っててください。どうぞご自由に…ふふっ





それにしても元SRT生からの嘆願…低下した練度を補うための野外行動を主とする訓練ですか。いささか拍子抜けですね
てっきり、ヴァルキューレをSRT色に染め上げようと過激な行動に出ると予想していましたが…まあ良いでしょう。許可します

SRT生徒だけで引きこもってくれるなら好都合ですよ。ヴァルキューレの装備で出来ることなんて、たかが知れていると思いますが…
場所は分校の裏山。ああ、名ばかりの屋外訓練場として平地化作業と水道工事だけ済ませた空き地でしたね。構いません

申請された予算も微々たるもの。ええ、出してあげますとも。好きなだけ泥にまみれていて下さい


…このことは念のため、FOX小隊には黙っておきましょう。帰巣本能とまでは言いませんが、下手に刺激を受けても困りますからねぇ

ん、今日は晴天の警邏日和。雲一つない青空。社会貢献作業に出ようか。朝食と手続き、準備を整えて駐輪場へ
賞金首の情報は無し。フブキは交番当番でキリノは内勤。先生はミレニアムでお仕事中。特に目標の無い単独行動だ。さあ行こう

D.U.の外郭地区を三時間ほど巡回して小物が二人。今日は少な目だね。ちょっと早いけど昼食にしよう
シャーレが近いしエンジェル24に向かう。ソラとは顔見知り。挨拶ついでにちょっと雑談。相変わらず暇なんだって

昼食を選んでいるとソラがパンをいくつかカゴに入れ始めた。…そんなに食べるの？ ああ、期限切れで廃棄するんだ
ウサギたちに渡す分なら持って行こうか？ どうせ様子見に行くし構わない。ん、じゃあサイクルトレーラーを準備するね

シャーレに預けておいたトレーラーを自転車に連結。廃棄品を運び込んだら自分のご飯と弾を購入してソラとお別れ。またね


子ウサギ公園は相変わらず寂れていて人がいない。キッチンカーも見かけなくなった。ウサギたちは買い物なんてしないもんね
広場を抜けてテントが見えてきた。…あれ、五人いる？ ウサギが四人と…ヴァルキューレの生徒が一人。こんにちは。お邪魔していい？

ウサギたちはすっかり慣れた様子で挨拶を返してくれた。ヴァルキューレの生徒は…警備局の三年生。元SRTの人だって。初めまして
昔は隊員を率いていた小隊長のエリートさん。頭にタヌキ耳があるからタヌキ先輩だ。ん…ウサギたちが青い顔してる。え、何かした？

タヌキ先輩でいいよって笑いながら頭を撫でられる。ん、もっと撫でろ。ちょっと強めだけど嫌な触り方じゃない。気持ちいい
先輩はすぐに帰って行った。警邏を抜け出して後輩たちの様子を見に来たんだって。ばいばい

私も警邏の途中。ソラからの預かり物をウサギに渡してご飯にしよう。テントの椅子を一つ借りていただきます
ウサギたちは廃棄弁当とパンの奪い合い。お肉食べたいもんね。気持ちは分かる。…本日の敗者はミユ。ジャンケンで負けてもやし弁当だ

泣きべそをかくミユが可哀想だから私のカツ丼弁当から一切れどうぞ。あーん。ん、美味しい？ 良かった
他のウサギたちがミユだけズルいと騒ぐけど皆はお弁当に肉入ってるでしょ。はいもう一切れ。あーん

ミユは小動物っぽくて可愛い。私の周りにいないタイプ。ん、お姉ちゃんに甘えるべき。遠慮する？ そう…残念

昼食を終えて子ウサギ公園を後にした。ウサギたちは前よりも仲良くやれてるみたいで一安心
タヌキ先輩について食事中に聞いてみたけど内緒だって。許可なく、勝手に他人のことを喋るのは良くない。ん、確かに

シャーレにサイクルトレーラーを預けてから午後の警邏を開始。D.U.を巡回して小物が六人。午前とは打って変わって忙しい
つい先日、ヘルメット団やスケバンをあんなにたくさん捕まえたのに…不良や犯罪者たちって縄張りが空くとすぐに寄ってくるから困る

疲れたから三時頃には警邏を切り上げた。寄り道をしてからヴァルキューレに帰宅。向かうのは公安局だ
今日はカンナが一日内勤の予定。たまには差し入れを持って行こう。顔も見たいしね。もちろん局員の皆へもお土産は忘れない

お邪魔します。顔見知りの生徒が歓迎してくれたので個包装の大入りチョコレートを渡す。お茶請けにどうぞ
カンナのデスクに向かうと…いた。しかめ面で書類に向き合っている。私が近付くとすぐに気が付いて顔を上げた。ん、お疲れ様

部下たちの手前、何をしに来たと素っ気ないけどいつものこと。差し入れのビタミンゼリーを渡す
カンナはベタベタに甘い物より果物系の自然な甘さを好む。多少は加糖されてるだろうけど、この商品は昔から食べてたから覚えてるよ

驚いた様子のカンナの顔が見れて満足。じゃあまたね。踵を返すと呼び止められる。カンナは速足で給湯室に向かい、紙袋を手に戻ってきた
牢屋に着いたら開けろ？ …ん、分かった。紙袋を私に押し付けるとカンナは仕事を再開。邪魔になる前に帰ろう

安全局のキリノにも差し入れをしてから装備と制服を返却。シャワーを浴びて牢屋に戻った
紙袋を早速開けてみると…インスタントのスティックカフェオレが数本とメモが一枚。カンナの文字だ

…たまには使ってやってくれ。お湯は看守に頼めば沸してくれる

ベッドの下の私物入れから宝物を取り出す。カンナがくれたマグカップ。交番勤務で使ったけど牢屋では水を飲むくらいしかできなかった
ワクワクしながらカフェオレの封を切ってマグカップへ。そしたら馴染みの看守に呼びかける。ん、熱々のお湯下さい

タブレットで報告書を作成しながらカフェオレを一口。牢屋でこんな贅沢ができるなんて私は幸せ者だ。明日もまた頑張ろう

ん、今日は曇りの警邏日和。でも日中は晴れの予報。それを信じて準備をしているとカンナが来た
ヴァルキューレ支所での奉仕作業？ 別にいいけど…そんな苦虫を噛み潰したような顔だと、何かあったってバレバレだよ？

まあいいや。カンナが言わないってことは知らない方がいいことだよね。何をしたらいい？ 一泊二日で支所の開業準備。初めての仕事だ
夏季限定で開業する海辺の交番の清掃と設備機器の確認ね。キリノが同行するんだ。ん、了解

カンナにお願いしてハグしてもらってからお泊り準備。一泊だから荷造りに時間は掛からない
駐車場に行くとヴァルキューレカラーの軽貨物車に掃除道具を積み込んでいるキリノを発見。遅れてごめん。手伝うね


準備を済ませた私たちは車に乗り込みヴァルキューレを出発。ここからハイウェイを利用して海を目指す
片道二時間ほど掛かる辺鄙な場所で…ごめん、また名前忘れた。前に行った山間の交番みたいな田舎で特に目立ったものは無いんだって

それでも小さな港や浜辺はある。夏になると釣りや海水浴の穴場として人は来るらしい。今はまだ時期外れで期待しない方がいいだろうね

運転はキリノ。今日は珍しく私とお揃いの半袖制服だ。海辺で潮風を浴びるから普段の制服は止めたんだって
ところでキリノは何か聞いてる？ …ウサギと警備局が騒ぎを起こす。私がウサギと仲良しだから念のため離れていて欲しい、とだけ？

んー…情報が足りなくてよく分かんない。でもウサギたちに連絡するのはやめておこう。多分、私に余計なことをして欲しくないんだろう
もしもウサギたちが危険な目に合う可能性があるのなら、カンナは最初からキリノにも情報を与えない。全てが終わってから言うはずだ

それに公安局じゃなくて警備局が一緒ってことは元SRTの生徒たち…？ もしかして、お食事券なんじゃ―――

ん！ 考え事してたらキリノに頬を摘ままれた。…不安そうな顔してた？ ごめん、何でもないよ。突飛もない妄想してただけだから

それよりも今日はキリノと一緒に海に行く！ 奉仕作業がメインで遊ぶわけじゃないけど楽しみだ
夜がやっぱり寂しい。眠れるけど何度か目を覚ます。モモトークだけで誤魔化すのが辛くなってきてた。だからキリノとお泊り、嬉しいな

…そういえば海に行くの初めて。キリノはまた私の初めての人になった。わっ！ 前見て運転して！ ん、怖い！

サービスエリアで小休止。なぜかキリノにアイアンクローされた。痛かった
理由は分からないけど頬を膨らませるキリノにアイスを貢いで怒りを鎮めてもらう。運転を交代して出発

ナビに従いハイウェイを降りる。空の様子が変わり始め、晴れ間が増えてきた。天気予報が正確ならこのまま晴天になってくれるはず
下道を走り続けると海が見えてきた。窓を開けると少し湿った空気と独特の香り。ん、これが海の匂いなんだ

海に近付くにつれ、民家や施設が増え始めたけど雰囲気は田舎だ。背の高い建物は見かけない。静かな漁村という感じ

目的地に到着。港と砂浜の中間地点。コンクリート製の四角いお豆腐みたいな交番だ。山の交番よりずっと大きい
入り口や窓が木製合板で塞がれていて見えない。無人の間の強風対策なんだって。キリノが鍵と閂を外してくれた

全ての合板を取り外して敷地の隅にある倉庫に運び入れる。水道の元栓と分電盤はキリノに任せ、私は全ての窓を開閉して内鍵の確認
この交番は四つのエリアに区切られていて、生徒が待機する正面ロビー、隣接する休憩所、裏の宿直室、生徒用の生活スペースだ

休憩所は迷子の一時預かり、病人などの受け入れで使用する。ビニール製の畳敷きで八畳ほどの広さ。海水浴の時期に使うんだって
室内に侵入者や荒らされた形跡は無し。キリノに報告をしたら清掃を開始。掃除機をかけて床をモップで拭く。テーブルとか家具も水拭き

キリノは私が触れない生徒用の無線機やパソコン周りを確認してる。役割分担は大事
とはいえ、去年も最後に大掃除して戸締りしたらしいから掃除も大変じゃない。室内清掃は一人で終わった

後は外掃除だけどもうすぐお昼。汚れた制服を洗濯機に放り込み、ボイラーの試運転を兼ねてシャワー。ん、問題なし
烏の行水で済ませてお着換え。先日購入した半袖のブラウスとミニスカを着用。リボンタイも付けた

交番の戸締りをしてキリノとお買い物へ。スーパーとコンビニ。どちらもあるけどスーパーが近い。徒歩で行こうか

穏やかな潮風を感じながら海岸線道路を二人で歩く。今日は開業準備だけで交番勤務はない。だから少しくらいのんびりしても大丈夫だよね
散歩を楽しんだり、初めて見る景色に驚いたり、自撮りをフブキに送ったり…

交番当番二日目のフブキから、ズルい！ 代わってよ～！ ってトークが届いてキリノと笑いながらスーパーを目指した

海辺だけあって海の幸が安い。スーパーにワンコインの海鮮丼が売れてた。イートインで食べよう
アジとイカの切り身にネギトロと漬物。ご飯も上げ底とかじゃなくてしっかり入ってる。カップの味噌汁を追加していただきます。んまい！

キリノも十分な質と量でご満悦。昼食を食べ終えたら腹ごなしに他の買い物をする
まずは交番勤務中に生徒が飲むインスタントコーヒーや紅茶のパック。衛生用品も幾つか足りてなかった

私たちが飲むペットボトルのお茶とジュース。もちろんおやつも忘れない。甘い焼き菓子と塩辛いポテチ。ん、完璧
調味料コーナーから帰って来たキリノの手にはマヨネーズ。…まあ1本ならいいよ。お会計をして二人でレジ袋を両手に抱えて出発


帰り道もおしゃべりを楽しみながら歩いて交番に到着。買ってきた物を戸棚や冷蔵庫に片付けたら小休止
午後からの行動を話し合う。キリノは交番の外掃除を担当。私は布団と洗濯物を干してから交番回りのゴミ拾い

開業準備でやることはそれでお終い。残りの時間は自由時間でいいの？ ちょっとは遊べそう。まあ遊ぶ施設とかは無いんだけどね…

休んだら午後の行動を開始。キリノは車から高圧洗浄機を降ろして外壁洗浄の準備。私は裏口から休憩所と宿直室の布団を全部出す
敷地を囲うフェンスを利用して天日干し。次は洗濯機の制服を…あれ？ 乾燥機が動かない。スイッチを押してもすぐに停止する

表示パネルを見ると何らかのエラーコード。キリノに伝えて報告をお願いした。洗濯物は…太陽に任せようか
敷地内を見渡すと屋根の上に物干し台を発見。正面からだと見えない造りだったんだ。交番裏の外階段で上れそう

そういえば洗濯バサミを交番内で見なかった。上にあるかな？ そんなことを考えながら階段を上り、物干し場に足を踏み入れた


眩暈。視界がぐるぐる回る。吐き気も襲ってきた。…え？ あ……うそ、こんな、低い…お、屋上じゃ…

反射で後ずさり。そこに足を掛ける床は無い。だって、階段―――――しまった

現在、私とサキはヴァルキューレ警備局の車両で目標を目指して移動中。運転席には三年生のラ…失礼、タヌキ先輩ですね
先輩はSRTの生徒でしたが、今はヴァルキューレに編入し警備局の生徒になってしまいました

子ウサギ公園で再開した時は嬉しさや懐かしさより、不安と恐怖を感じました。SRTでも特に癖が強い人だったからです。でも…

―――お前たちがSRTを思って行動に出たことは嬉しく思う。入学して日も浅い一年生が、そこまでの覚悟を見せてくれたからな

―――でもな？ 自分たちの主張を振りかざし、受け入れてくれないからって暴力に走るのは客観的に見てテロリズム。駄目なことなんだよ

―――それをお前たちより先にFOX小隊がやってしまった。だったらRABBIT小隊が後に続いてしまったのはアタシら上級生の不手際と言える

―――すまん。お前たち一年生が不安に駆られていたことに、焦っていたことに気付いてやれなかった。本当に申し訳ない

そう言って先輩が土下座をしたんです。経験を積んだ兵士である上級生が、経験もろくにない新兵の下級生を相手に
非と過ちを認め、謝罪する。問題児と呼ばれた先輩の神妙な姿を見たら、自分が癇癪を起して暴れる幼稚な存在に思えてしまいました

いかなる状況でも揺らがない正義に憧れた。では、私が今日までやってきたことは？ その全てに、胸を張って正義の行いだと言えるか？
答えは…簡単には出せません。今まで信じてきたものがバラバラに砕けてしまいそうで…。ごめんなさい、もう少しだけ考える時間を下さい

先輩はそんな私に、謝りに行くときは一緒に着いて行ってやる。土下座は慣れてるからな。と笑顔で言ってくれたんです

―――話は変わるが、お前たちの力を貸して欲しい。今のアタシじゃ太刀打ちできない相手なんだ。頼む

頭を下げる先輩のお願いを私たちは引き受けました。SRTとして市民の平穏を守るのは当然ですから。それが、昨日のことで…


―――やいやい、ブラックストーン！ お前らのマッチポンプはお見通しなんだよ！ …ヴァルキューレなんざ怖くないって？ ああそうかい
―――こちらのお二人をよーく見ろ！ SRT特殊学園のエリート様だ！ グチグチ吠えてないでさっさと責任者出しな！

先輩、相変わらず“悪ガキ”なんですね。…こちらRABBIT1。施設出入口で歩哨とコンタクト。鎮圧を開始します

囚人のシロコが頑張ってるからヴァルキューレ全体の士気や意識が高まって
ヴァルキューレの意識が高いから、編入の元SRTも軋轢なく馴染めるし
馴染めるから心の余裕が出来て、自主訓練や後輩（ウサギ）に話に行くことも出来たり

シロコがあの電車に飛び乗ったことで、こうも世界が変わるのちょっと趣深い。

そういう意味ではFOX小隊のやってることはほぼほぼ空回りにしかならないしカヤの目論見もご破算の未来しか見えないよね、原作関係なく
元SRT組はFOX小隊の行いを明確にテロと認識してるし、続いちゃったRABBITにも申し訳なく思ってるのが分かったの、彼女らの目指した正義というか、遵法精神が秩序の番人らしいものだったって見えて良い

仮にウルトラCでFOX達がSRT復活させてもヴァルキューレ移籍組からテロ行為を突っ込まれてSRTに帰ってこないだろうから積みですね……

外壁を高圧洗浄していると、水音とは別に何かの物音と微かな声を聞きました。何事かと辺りを見回しても特に異常は見られません
死角になっている交番裏にはシロコさんがいるはず。そちらでなにかありましたか？ …呼びかけに応答がない

作業を中断してもう一度名前を呼ぶ。…返答が帰ってこない。胸騒ぎを感じた私は交番の裏手を覗き込みました

シロコさんが地面に横たわっていました。手足をガタガタと震わせていて―――シロコさん！
抱え起こすと全身が強張り呼吸のテンポが乱れている。瞼が小刻みに上下し眼球運動も激しい。痙攣状態だ！

これは…っ！ 大丈夫。対処法は聞いています。危険な場所でなければ下手に動かさず、名前を読んだり刺激を与えすぎないこと
リボンタイを外し首元を緩める。後は…シロコさんが落ち着く行為。頭にそっと手を乗せて待ちます。焦らないことが重要…大丈夫

一分も経つ頃には痙攣が収まってきました。よく見るとシロコさんの顔や手足に擦過傷や打ち身の痕があります
状況から推測するに、外階段から落ちたんですね。屋根の上の物干し台に上がろうとして…

以前、PTSDと診断されたと聞いたとき、カンナ局長を介して担当医と話をしました
フラッシュバックで痙攣などの症状が発生する可能性があること。その対処法など。もしもに備えておいて、本当に良かった…

意識がはっきりしてきたのかシロコさんに名前を呼ばれました。大丈夫、すぐ側にいますよ
落ち着かせるために頭を撫でてあげると、顔がくしゃりと歪んで泣き出し、抱き着いてきました。力が強くて苦しいけど我慢します

恐らく、飛び降りた瞬間が脳裏に浮かんでしまったのでしょう。だったら怖くて当然です、泣いたって仕方ないんです
死ぬのは怖い。生きていたい。それを示すように、シロコさんは普段とは比較にならない大声で泣き叫び続けています

シロコさんはまだ救われていない。心に負った傷跡は癒えるどころか、今回のことでまた傷付いてしまった

つい先日、ミヤコさんにシロコさんが乗り越えて終わったことだと偉そうに言いました…。でも終わってない。終わってなかった！

ごめんなさいシロコさん。せめて少しでも恐怖と不安が紛れるように、抱きしめて撫でてあげることしか私には出来ないんです…

休憩室の窓から外を見ると空の色が変わり始めていた。もう少し経てば、夕焼けに照らされたきれいな海が見えるでしょうね…

あの後、シロコさんが少し落ち着いたので交番内に移動。休憩室で怪我の治療を行いました
キヴォトス人は頑丈です。階段から落ちた程度では物理的なダメージはさほどありません。…でも精神面は別です

シロコさんは再び幼児退行を起こしました。入院時のように私から離れるのを嫌がり、とても甘えてきます
僅かな時間でも離れるものかと抱き着いて来るので、外仕事は全て放り出したままです。干した布団や交番裏に落ちている制服も…

今は泣き疲れたのか眠っています。でも私が休憩室から出ると目を覚まして泣くので離れられません。仕事は諦めるしかありませんね

―――コンコンッ

ノック音。大きな獣耳が目立つ女性が窓を叩いていた。立ち上がって窓を開ける。…何か御用ですか？ ちょっと今、手が離せなくて

―――いえ、ずっと閉まってた交番が開いていて布団が干しっぱなしでしょう？ 何かあったのかと思いまして

人当たりの良さそうな笑みを浮かべて心配してくれている女性は、大変そうだからお手伝いしますね。と、私が何か言う前に動きだした
フェンスに干してある布団や交番裏の制服を運んでくれたり、高圧洗浄機まで片付けてくれました。すみません、本当に助かりました

―――サービスですから気にしないで下さい。そこで寝てる子、実は前に私のお弁当を買ってくれたんですよー

そう言いながら彼女の物らしい三輪自転車に向かうと、荷台からなにかを取り出し持ってきた。おいなりさんのパックが二つ。…これは？

―――売れ残りです。差し上げますので良かったらどうぞ。では仲間が待ってるのでさようなら

あ、ちょっと！ せめてお名前を！ チリンと鈴の音を残して行ってしまいました。シロコさんの知り合いの方なのでしょうか？
お話できそうなら後で聞いてみるとして…一先ず、布団を畳んで片付けませんとね

そうだ。シロコさんも布団に移しましょう。畳の上では床ずれしてしまいます。…シロコさん、動かしますよ？

ニコ、お前……
心配だから念のため張り付いてたら、こんな現場に出くわしちゃったってこと？
もう大丈夫かな、って安心してたら、現実突き付けられたってこと？
つれぇ……

それなりに楽しい思い出となる開所準備だったろうに、こんなところで心の傷が開いて、こんな形になるとは…
帰った時にカンナとフブキが知るのがちょっと不安っすね…

三輪自転車を全力で走らせ交番から離れる。向かったのは近くの公園。そこの公衆トイレに駆け込んだ
喉の奥からせり上がる物を便器に吐き出す。胃の中なんてとうに空っぽで、出せるものなんて胃液くらいなのに、吐き気が止まらない

あの日からずっとだ。私が誘導して、追い込んで、あの子が最悪の選択肢を選んでしまってから…違う！
いいえ違うでしょ？ あの子が選んだんじゃない。私が選ばせたんだ。砂狼シロコの背中を押したのは―――私だよ


SRTの復活。そのためにFOX小隊は防衛室長の手先となって働いた。傷付けた人たちには…悪いことをしたと思う
でも学校を取り戻すにはそれしかなかった。ユキノちゃんも、クルミちゃんも、オトギちゃんも。皆、我慢して受け入れた

あの子にも悪いとは思った。だけど、必要なことだからと自分に言い訳をして利用した。その結果が…自殺未遂
すぐ目の前で、人が生きることを諦め、自死を選択した瞬間を見た。それをやったのが私。私は、間接的に人を殺し―――

堪らずまた吐き出した。便器には私の胃液と血液が付着している。胃が苦しい。でもこんなの、あの子の苦しみには遠く及ばないものだよ

あの子が入院してからずっと…私はあの子を見ている。FOX小隊の仕事も放り出したままだ。ユキノちゃんは今は休めと言ってくれたけど…
私がいないから、三人が分担して仕事を片付けているはずだ。すぐにでも復帰しないといけない。頭では分かってる

だけど、目が離せない。砂狼シロコから目を離して、もしも私の知らない内に死んでしまったらと考えたら…怖くて仕方がない

接触なんて当然許されない。それなのに姿を見せて話かけた。あの子が困ってる姿を見て、何とかしてあげたいと勝手に動いてしまった
今日だってそうだ。階段から落ちたとき、飛び出しそうになるのを必死で堪えた。中務キリノが助け起こした時は安堵した

けれど…あの泣き声が耳を離れない。中務キリノに必死にしがみついて泣く姿を見て、私はその場を逃げ出した

次に意識がはっきりしたのは、誰の物かも知らない三輪自転車で交番から離れた時だった。私は、何をやっているの？
通りすがりの善人の振りをして、偶然を装って中務キリノを助けて、たまたま売れ残ったという言い訳で差し入れして…

私は、きっとどこか壊れてしまったんだろうね…

緊急の報告ですか？ せっかくコーヒーを楽しんでいたというのに…。まあいいです。聞きましょう
セキュリティー業者のブラックストーンを警備局が逮捕？ あそこは防衛室と仲良くしているのですよ？ 誰が逮捕を許可したのですか？

…SRTが踏み込んで戦闘になり癒着の件を暴露。RABBIT小隊ですか。余計なことを…。は？ 警備局員が同行していた？
その局員は誰です？ 三年生の――――。その名前は…問題児のラスカルですか。ラクーン小隊の小隊長だった女

SRTの閉鎖が決定されて以降、ずっと大人しくしていたから油断しました。よりによってこんなタイミングで…

ヴァルキューレの騒動で防衛室にも目が向けられているというのに。…っ、はぁ。無理ですね、ブラックストーンは切り捨てます
直ちに隠蔽工作を図るように。それとRABBIT小隊の監視も増やしなさい。これ以上、勝手な真似は許しません

警備局からは何と？ …局長代行では押さえられませんでしたか。副局長を代行にして凌ぎましたから強くは言えませんねぇ
局長代行は今回は見逃します。吊し上げても局員の反感を買うだけです。ここはあえて許すことで、SRTへの反感を誘導しましょう


ところで、屋外訓練場の様子は？ ラスカルが動いた以上、他の生徒たちが何もしてないはずがないでしょう。報告を

…訓練場が野営陣地と化している？ 何ですかこれは？ 子ウサギ公園の比じゃないです！ 丸太の壁や土嚢で覆われていますよ！
ヴァルキューレのテントや土嚢は分かります。災害時に使いますから備蓄品があって当然です。でも丸太は何なんですか？

…体力トレーニングで敷地内の倒木を運搬していた？ いつからSRTはゴリラの集団になったんですか！
一年生のRABBIT小隊四人だけで、公園をあそこまで陣地化できるなら不可能じゃない？ それは…そうなんですが…

…待ちなさい。この入り口に設置された機関銃は？ こんな装備、ヴァルキューレにはありませんし彼女らに購入する余裕もないでしょう
存在する？ どこに？ …装甲車やヘリから降ろした廃棄品のリペアですか。書面をもって正式に譲渡手続きしたなら文句は言えませんね

そこらのスケバンがミニガンで武装しているのに何をいまさら？ まあ、確かに…ええい、これだからキヴォトスは！