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ここだけノエル先生が『一周目の記憶』を引き継いだ世界 11.5|あにまん掲示板
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ここだけノエル先生が『一周目の記憶』を引き継いだ世界 11.5

  • 1スレ主25/06/07(土) 23:29:48
  • 2二次元好きの匿名さん25/06/07(土) 23:30:51

    おかえり

  • 3スレ主25/06/07(土) 23:30:54
  • 4スレ主25/06/07(土) 23:31:22

    このスレのノエル先生
    ・フランス事変後に修道院に隔離されて間もなく『一周目の記憶』を自覚する
    ・隔離後すぐに代行者として就任。この時点でエレイシアに対する報復を決意し復讐者として生きる
    ・エレイシアが目覚めて代行者になるまでの六年半でひたすらに自己研鑽&限界を超えるための代償を払い続ける。その甲斐あって原作とは非にならない強さを得る
    ・人間以上の耐久を得るための一環で左足を聖別化した義足に改造してもらってる
    ・偶然にも手に入れた十四の石を用いて人外と化す。外見の変化は肌が白くなったくらい。完全に適応してからは恐らく瞳孔も十字になってると思われる
    ・幻想種の中で神獣に区分される『白鯨』モビーディックの遺骸を直接的な経口摂取で取り込み、更に肉体の存在規模を拡張させる事に成功している
    ・現時点での強さは少なくともシエルとの連携でなら後継者をも斃せるまでになっている
    ・というよりシエルとの連携の末に二十七祖のクロムクレイに引導を渡すという大快挙を成しえてしまった
    ・↑の功績もあって教会から『焔(ほむら)のノエル』という異名をつけられる
    ・着実に強くなっていってる事と『一周目の記憶』の自分を反面教師にしてる事もあって大分精神が安定している
    ・ただし完全な復讐者として生きているので高い身分だの裕福な生活だのと言った人並みの幸せには全く固執していない。もはや彼女が望んでいるのはロアやシエルに対する復讐のみとなっている
    ・そんなんだからマーリオゥからは『手を焼かせる制御不能の猪』と厄介に思われてる
    ・ここまで復讐鬼に振り切っているものの、無辜の人々が死徒に虐殺されるのを何よりも許せない代行者としての正義感もちゃんとあったりする
    ・実はシエルを誰よりも憎み蔑んでいる一方で、憎んでいる故に誰よりも彼女を気にかけていたりする。シエルの理解者

  • 5スレ主25/06/07(土) 23:32:34
  • 6スレ主25/06/07(土) 23:36:54

    現在の状況
    ・ノエル先生、精神的な拷問と称してシエル先輩をかつての故郷を再現した幻惑の精神世界に閉じ込める
    ・その世界でも嫌がらせのように死徒としての特性が反映されているのでシエル先輩の吸血衝動はじわじわと深刻化している

  • 7スレ主25/06/07(土) 23:40:52

    どうもスレ主です
    何度落ちようとも(少なくとも現在の√が書き終わるまでは)諦めずに書ききるつもりなのでよろしくです
    今度こそはちゃんと完走を目指したい……

  • 8スレ主25/06/07(土) 23:48:07

    それは、そうだ。
    自分でない第三者の記憶を否応無しに植え付けられ、汚染され、侵食され、塗り潰される。
    そんな口にするのも思い出すのも悍ましく思う感覚は、永遠に忘れられないだろう。
    いや、それもまた己の罪として忘れてはならない。我が身可愛さで自分を殺せる内に殺しきれなかった結果が、あの地獄なのだから。
    その罪を自覚し、戒める事を忘れれば、その瞬間に今度こそわたしは真にヒトでなくなってしまう。
    それは死徒に堕ちようが何度も殺されようが、文字通りどんな目に合おうとも決してあってはならない。

    ………けれど、彼女の場合はわたしとは違うらしい。

    「確かに、それは否定のしようがありません。ですが、説明を聞くにあなたは『自分とは全く異なるノエルの記憶』という情報に上書きされるような事もなく、あなたという元来の人格を今もこうして保っている。
    それは、わたしとは違う。わたしもロアという魂と一心同体になってはいましたが、間もなく人格も肉体もロアのそれに上書きされた。結果は言うまでもありません。
    それに対してあなたは………わたしから見れば、少なくとも七年半前に再会したあの時からずっと変わっていない。
    わたしへの憎しみも、吸血鬼そのものへの怒りも、代行者として人々を魔性から守ろうとする意思も、揺らいでなんかいない。
    記憶―――それも誰かの人生ともなれば、その情報量は膨大です。仮にその総量が30年分未満しか無かったとしても、そんなのが短期間で一気になだれ込めば与える影響も少なくないワケがないんです」

    わたしはどこまでも弱かったから、そういった膨大な情報量による変質の影響を受けてしまった。
    言い訳が赦されるのであれば、それは800年以上もの途方もない情報量を蓄えていたロアの記憶と、彼の魂が死徒としてのカタチだった故に身も心も汚染されて然るべしだったのだが。
    彼女の言う『別のノエルの記憶』。これは、その最期がわたしの手で殺されていて終わっているとも口にした。

    ………恐らくだが、わたしの手で殺されているのであれば、そのノエルも今のわたしのように死徒と化していたに違いない。
    あまり断定はしたくないが、それ以外でわたしが彼女を手にかけるような状況が思いつかない。

  • 9スレ主25/06/07(土) 23:50:45

    であるのなら、そのノエルの魂も汚染されていた筈。しかし目の前の彼女は人間を辞めてはいるものの、死徒でも吸血種でもない。
    あくまで記憶だけが、何らかの因果で彼女というノエルに引き込まれたのだろう。

    「――――――ふ。ふ、ふふふふ、うふふふうふうふふふひひっひひひ。
    なるほど、なるほど。何の影響もないワケがないと。私は、私としての人格を保てていると。おまえには、そう見えているの?」
    「…………ええ。わたしは、そう思っています。
    どれほど道を踏み外そうと、代行者として人々を害する吸血鬼を排除するという守護の姿勢は変わっていない。それだけじゃなく、かつての自分を今でもそうして憶えている。
    何より、手段やリスクを選ばずに力を求める一方で、死徒の力に身を委ねる事だけは決してしなかった。それはわたしにはできなかった事です。
    それが……あなたというノエルは今もわたしの知っているノエルだと言える、確かな根拠です」


    「――――――は。はは!あはははははは!!ははっはははははははははハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!
    ひゃはは、アッハハハハハハハハハヒャヒャヒャヒャひゃははははははははっ!!!!!ひィ、いっひひひひひぃははははっっ!!!」


    「え…………?」

    唐突に金切り声に近い勢いで、狂ったように笑い声を響かせる。
    何がそんなにおかしいのか。わたしの答えに、彼女はどうしてそんなにも笑うのか。

    「んぅふふふ、ふふふっふふふ。ちょっと、ちょっと待ってよ。アンタ……あー、おまえさ、わざと言ってんのソレ!?私を笑い殺す気ぃ!?」
    「わざとって……何を、言ってるんですか。そんな筈がないでしょう」
    「へえ、マジで言ってるんだ!まあそれも致し方ない事なのかしら?
    おまえは私に愛しの志貴クン共々に生殺与奪の権利を握られちゃってるからね。私のご機嫌取りに必死になって、そういうクッサイ事をおべっかのようにべらべらと並べたくもなっちゃうか!」
    「――――――違います。ご機嫌取りでも、おべっかでもありません。今の言葉は、わたしの本心です……!」
    「あっそ。じゃあ容赦なく言わせてもらうけどさ。
    本当に私が私のままだと思ってんのなら――――――それは大きな大きなおまえの勝手な思い違いなのよっ!!!」
    「っ!?」

  • 10スレ主25/06/07(土) 23:52:45

    勝手な、思い違い。彼女は怒号を上げてそう吐き捨てる。まるで何も分かっていないわたしに、事実を叩きつけるように。

    「あのさ、私最初にこう言ったわよね?自分に流れ込んできた記憶を観続けた事が切っ掛けで復讐する事を決意したって。
    そもそも、この時点で記憶の中のノエルが抱いていた憎しみや怒りの影響を諸に受けているとは思わないワケ?
    私が私のまま?吸血鬼憎しで動く一方で人々を守護する代行者?なら、どうして私は遠野志貴という一般人を自分の復讐に巻き込んでるのかしら?」
    「……!」
    「それだけじゃない。いくらおまえが憎いからって、裏切られた分も含めての仕返しだからって、わざわざ救いようのない死徒として蘇生させただけに飽き足らずにこうして身も心もずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと甚振って詰って尊厳を徹底して破壊してる始末。
    おまえに復讐する為なら人間から人外にだって躊躇いなくなるし、何年経とうがどれだけ死と隣り合わせだろうが耐えて乗り越えてやるし、考えつく限りのあらゆる方法でおまえを殺し続ける。
    邪魔立てする奴は吸血鬼だろうが人間だろうが真祖だろうが関係なく排除する。私の復讐に立ちはだかるという事は、私の人生を否定するという事なんだから。
    そして、遠野志貴はロアから解放されても私の復讐の道からどいてくれる事はなかった。おまえの味方をするって事は、それだけで私の道を阻むに等しいからね。だから彼を捕らえた。だから私の復讐に巻き込んだ。
    ねぇ、分かるでしょ?私にとって復讐は生き甲斐であって、生きる意味そのもの。その価値観は、その思想は、教会に隔離されて一人寂しく死に果てるしかなかった私の虚無と絶望を上書きしてくれたの。流れ込んできた記憶が一体誰の人生(もの)なのかを自覚した時点で、ハッキリと構築されたのよ。
    要するに、ロアと化して殺戮を愉しんでたおまえと同じように、私もまた頭のネジが外れて狂っちゃったの。ま、別に主導権を握られたりなんかはしてないし、私の復讐は私だけのモノなのはこれまでもこれからも変わらないわ。
    けれどね、とうの昔に正気は消え去ってるしヒトとしての倫理観も悉くが欠け落ちてる。根本的な精神構造自体が変わり果ててるから人間らしさなんてモノは残ってない」

  • 11スレ主25/06/07(土) 23:55:12

    「だって――――――――――――人間らしさが残っていれば、記憶の影響を何も受けていなければ、そもそもとしておまえを死徒にしてまで復讐に拘泥するワケがないでしょう?」

    「…………それ、は」

    何も、反論できない。彼女は、彼女のままであり、わたしの知っているノエル―――それは、真実だ。
    ただそれは、あくまで人格を上書きされてはいないという話であって。
    その心は、完全に復讐の憎悪に染まり上がってしまっている事を失念していた。
    常軌を逸した力の渇望、膨れ上がった報復への妄執と狂気。
    今の彼女は、さっきまでわたしと話していたカフェ店の一人娘なんかじゃない。何処にでもいる普通の人間だった少女は、もうこの世のどこにもいないんだ。

    「第一、本当にマトモだったのならまず憎しみよりも恐怖の方が遥かに上回るでしょ?
    あんな地獄をたった一人生き残ってしまったのなら尚更にそうなるし、記憶が流れ込んできたところで関係なくそのまま死ぬまで籠り続けたでしょうね。
    でも、そうはならなかった。私は、隅でガクガク震えて己の運命を呪いながら死んでいくのを良しとせずに、この命と身体がどうなろうと構わない覚悟で復讐する道を選んだ。
    その決意が、その憎しみが、その葛藤が、その苦しみが、そのどうしようもなさが、おまえに分かる?」
    「……それは…………」
    「答えられない?はは、それもそっか。
    だってそもそもの元凶だもんねおまえは!そんなおまえが私の中で燻るこの感情を分かったような口でベラベラと言えるハズがないもんね!
    まあ、理解を示そうが示せまいがどうでもいいわ。何れにしろ、これまで私を軽視していて中途半端にしか理解できてなかった事実には変わりないんだし。違うかしら?」
    「……そんなコトは、ありませんよ。わたしがあなたを理解できていなかったというのも、否定しようのない事実です」

    もし、本当に理解できていたら。相棒として、同郷の好みとして寄り添えていれば。こんなコトにはなってなかった筈だ。
    ノエルは、代行者でありながらヒト死徒を堕とすという罪を犯した。けれど彼女をそんな非道に走らせたのも、偏にわたしが無自覚に彼女を軽視していたからだろう。
    故にあの日の夜に、裏切った。そうしないと彼を救えなかったとはいえ、彼よりもずっと一緒にいた筈の彼女との誓いを反故にしてしまった。

  • 12スレ主25/06/07(土) 23:55:53

    わたしだって、裏切りたくなんかなかった。可能であるのなら、双方を尊重したかった。
    けど、そんな都合のいい選択肢は存在しない。どちらかの手を取って、どちらかの手を払うしかなかった。彼を救うには、彼女を裏切るしかなかった。
    その果てがここだ。彼女は禁忌を犯し、わたしは彼女の手を払った事のツケを支払わされ、救いたかった彼もまた一方的に彼女の復讐に巻き込まれた。
    …………なんて、愚かしい事をしてしまったのか。なんて、救いようがないんだろう。

    「けれど、それでも。
    あなたが代行者として、弱き人々を力の限り護り抜くというその強い意志は……今もある筈です。
    あるからこそ、あなたは今でも代行者の務めを果し続けている。その意志の根底にあるのは、吸血鬼への憎悪だけではありません。もう二度と自分たちの故郷のような惨劇は引き起こさせないという、揺るぎない使命感(いかり)も含まれています。
    6年間過ごした中で、その思いは憎しみ以上に伝わってきた。
    だから――――――それだけは。それだけは、わたしもハッキリと理解を示せます。あなたのその正義感は、決して偽りなんかじゃない」
    「よく言うわ。その正義感もまた、記憶を観続けた事の影響ありきで生じたものに過ぎないのよ?」
    「でも、同時にそれもあなた自身の意志でしょう?
    あなたも知っての通り、わたしは彼と出逢うまではロアを始めとした吸血鬼を殲滅する事だけを考えて生きていました。そこに正義感など挟める余地はなく、ただどこまでも冷徹に吸血鬼を滅ぼすという殺意しか無かった。それが贖罪にもなると信じて、吸血鬼だけでなく己の感情をも殺し続けた。
    そんなわたしからすれば、正直に言って………あなたのその意志を、羨ましいとさえ思っていたんです」

    無論、彼女を含んだ多くの人間の人生を踏みにじったわたしが誰かを羨む資格などない。だから、今までは決して口にはしなかった。
    ………そういう態度を取っていた事も、彼女を理解しきれていなかった要因の一つになってしまっていたのだろうけど。

  • 13スレ主25/06/07(土) 23:57:22

    とりあえず書き溜めてた分はこれで終わりです
    ここからまたちょくちょく更新していきます

  • 14二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 00:10:27

    たて乙
    また帰ってきてくれて嬉しい
    完走頑張ってください!

  • 15二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 09:10:03

  • 16二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 18:06:42

    保守

  • 17二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 22:46:03

    完走してくれい

  • 18二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 01:31:05

    ほしゅ

  • 19二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 11:06:48

    保守

  • 20二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 11:10:27

    「……そう。本当に殺意しかなかったなら、志貴クンがどれほど優しい人間だったとしても関係なく殺せてると思うんだけど。
    羨ましいと思っていた?私を?随分とまあ機械らしからぬ感情を抱いてたのね。そんなんだから巡り巡って志貴クンの前で人間に戻ってしまったんじゃないのかしら?」
    「………はい、全く以ってその通りです。わたしは結局、機械としても人間としても半端でした。
    自分のそういった感情を殺意で誤魔化し続けて、けれど彼に対してだけはそれすらも出来ずに処刑人ではいられなくなってしまって。
    でも、あなたはそうじゃない。確かにかつての人間だった頃のあなたは、もういないのでしょう。
    しかし、何度も言いますが代行者として人々を護る意志は今も変わらない筈。いえ、変わっていない。
    そうでなければ、代行者の活動など放ってわたしへの復讐に耽っている筈です」
    「ふぅん。なんでそう言い切れるの?」

    「だって、あなたは――――――吸血鬼によってこれから失われていく命より、ロア(わたし)によって失われた命に固執しているように見えるから。
    本当に復讐する為だけに生きているのなら、人々の安寧よりも報復を選択し続けるようにしか見えないからです」

    そうだ。復讐の憎悪に狂っているのは、事実なんだろう。事実だからこそ、いずれ自分の道を阻むからという理由で遠野くんを一方的に巻き込んだ。
    けど、本当に目障りでしかないのなら何処かでとっくに殺していても不思議じゃない。
    でも彼女は彼にはその刃を振り下ろさないどころか、今のところは何も直接的な危害を加えていない。彼を傷つけないでほしいというわたしのお願いを、ちゃんと聞き入れてくれている。
    同じ代行者だったわたしを死徒にしてまで蘇らせたのも、それほどわたしというロアの手で失われた命に報いる事に執着しているからだろう。
    つまり、わたしと彼が例外なだけで、弱き人々の為に刃を向ける事は変わりないし変わっていない。
    例えそれすらも『記憶』の影響によるものだったとしても、事実としてそこにあるのは紛れもない彼女というノエルの感情だ。

    「…………私が、おまえの手で失われた命に固執しているように見える、ね。
    ふぅ――――、そっか。確かにそうよね。おまえというたった一人に責め苦を与える為だけにわざわざこんな幻まで用意してるんですもの。そこは否定のしようが……というよりする必要もないか」

  • 21二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 20:20:16

    保守

  • 22二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 20:46:15

    「もういいわ。なんか面倒になっちゃった。
    これ以上問答しても平行線になりそうな気がするし、この辺りで切り上げておくとしましょうか」

    ノエルがそう言い終えると、辺りの雰囲気が一変して元に戻り始める。
    止まっている時間の中にいるような静寂が、先ほどまでの賑やかな喧騒に切り替わっていく。

    「……こう言うのも何ですが、妙にあっさりしてますね。もっと言い返してくると思って身構えていましたが」
    「ええ、意地でも意見を変えないだろうなと思ったからね。おまえはとても意地固いから、自分が心から信じている事を一度でも主張し出したらテコでも動かないでしょう?
    動かないからこそ教会での半年に渡る拷問を耐えきり、動かないからこそ多くの吸血鬼共を殲滅し、動かないからこそ私を裏切ってでも遠野志貴を救おうとした。
    そんなおまえに今更『私は狂ってるんだー!人々よりも復讐を優先するんだー!』とか言っても、同じ答えしか返ってこないと判断した。それだけよ」
    「拷問されていた時は違いますよ。死 ねなかったから結果的にしぶとく生き延びてしまっただけです」
    「死 ねなくとも“あんな目”に延々と晒されてたら普通はとっくに壊れて廃人になってるんだっつの。未だにまともな精神を保ててる時点で異常者だって自覚しなさいよ」

    それは、その通りかもしれない。でも狂いたくても狂えなかったから、拷問に限らずこれまでも死にながら生きてきた。彼はそれを『貴女は最初から心が善(つよ)かった』とも言ったけど、そんな事は決してない。
    ただ死 ねなかったから、死 ねない以上は少しでも頑張ってから死ななければと思ったから、生きていただけに過ぎない。

    「……わたしが拷問されているところも見ていたんですか」
    「そうよ。いやぁあの時は文字通り喉が張り裂けんばかりに泣き喚いて絶叫しまくってたわよね。
    もっともそれを見てた当時の私は全くいい気持ちにならなかったけど!だってさ、おまえを徹底的に甚振っていいのは本当なら私だけが許される権利じゃないの!」
    「…………わたしは、多くの人間から石を投げられても何も言えません。無論、殺されたとしてもです」
    「そうね、それはそうよ!でもね、それとこれとは別なの。この世の誰よりもおまえという化け物の被害者であるこの私だからこそ、おまえに対してどこまでもどこまでも然るべき報復を与えるべきと思うのよ!」

  • 23二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 23:48:28

    「だから――――――これからもせいぜい私の与える責め苦に、拷問に、復讐に苦しんでちょうだい?
    私を、故郷の皆を、一人残らず散々苦しめてくれやがった分だけ……いいえ、それ以上にね?」
    「ええ。覚悟は、できています。
    ……ですが、先も言ったようにわたしはもう、人間の血を絶対に吸いたくない。自分を啜り食らってでも、この衝動に抗い続けます。なので、そこは容赦してくれると幸いです」
    「うんうん、それだけなら別に構わないわよ。寧ろその分、より長くおまえの苦しむ姿を観続けていられるってものよ!
    私としても良い気分を味わえるし、どうぞあの手この手でその悍ましい吸血衝動を抑えようと試みるがいいわ」

    よかった。これすらも否定されてしまったらどうするかと思っていたけど、それは杞憂だったみたいだ。
    もっとも、これからは食事を楽しめないだけでなく吸血衝動の苦痛もじわじわと増大していくだろうが。
    こうしている今でも喉が、身体が小さくない渇きを覚えているのだ。今はまだ精神で我慢できる範囲ではあるけれど。

    「せいぜい、やれるだけやってみますよ。ヒトの血を吸わない為ならどれだけ時間が過ぎようと耐えてみせます。
    それで……今度こそ話は終わりですか?」
    「ええ、まあ、今はここらでいいでしょう。さっさとパン屋の配達員“ごっこ”に戻るといいわ。私も今まで通りにごっこ遊びに興じるから。
    んじゃ、是非私を愉しませてね!エレイシア!」

    屈託のない作り笑顔を向けながら、ノエルは店内のカウンターへと戻っていった。
    今の彼女はわたしを苦しませる事しか考えていない。これからわたしが加速度的に吸血衝動の渇きに蝕まれて、理性を擦り減らしていくのを想像しているのだろう。

    悪趣味にも程がある、だなんて言えた立場じゃないなと自嘲する。彼女をそうさせたのは元を辿ればわたしが元凶であるに加えて、かつてのわたしが仕出かした事と比べればこの程度なんて悪趣味の内にさえ入らない。
    なら、わたしがこれに抗う理由も意味も資格もない。わたしは、彼女に何をされても仕方のない悪魔なのだから。
    彼女の人生も、人柄も、何もかもを狂わせた悪魔への報復としては、これ以上ないぐらいにお誂え向きだろう。

  • 24二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 23:56:08

    「それに……14年前のコトを除いたとしても、わたしは同じ代行者のコンビとして6年以上も共に付き合っていた彼女を一身上の都合で一方的に裏切った。
    それまで何だかんだで一緒に切磋琢磨できていたにも関わらず、結果としてそうした日々で培った筈の相棒(バディ)としての信頼を自分から足蹴にしてしまった。
    それだけでも、このような罰を与えられるにはあまりに十分でしょうね」

    自身の罪、そして彼女への贖罪を信条としてやってきたにも関わらず、最終的には裏切っただけに飽き足らずに一方的に置いていってしまった。
    なんて、哀れで無様なんだろう。何度思い返しても恥知らずにも程がある。そう皮肉に思いながら、わたしは今日も笑顔という仮面を貼り付けて仕事に勤しんだ。














    「フゥ―――、フゥ――――、フゥ――――………っっ!!
    あ、アアアあぁ、ァア――――――ァが、ぐぅ、アア、ァァあああ………っ、っ……!!!!」



    ――――――そして、更に二ヶ月の時が過ぎた。

    鉄の意志で固めていた筈だった理性(こころ)は、こんなにも早く、こんなにもあっさりと溶け始めていた。

  • 25二次元好きの匿名さん25/06/10(火) 08:39:03

    保守

  • 26二次元好きの匿名さん25/06/10(火) 18:03:12

    このレスは削除されています

  • 27二次元好きの匿名さん25/06/10(火) 21:36:22

    いたい、いたい、くるしい。
    のどが、異様に乾いて渇いて仕方がない。カラダの節々が痛い。
    元より何を口にしても味がしなかったけど、今は一口ごとに吐き気さえ感じてしまっている。
    ほしい。あ、あんなモノよりも、■が、ほしい。■さえ飲めば、この苦しみは消えてくれるハズだ。

    「ぐっう、うぅぅァ……ぎ、ぃぃ………!!」

    いや、違う。それは駄目だ。それだけは絶対にしちゃいけない。
    でも苦しい。痛い。身も心もどうにかなってしまいそうだ。
    今まで色んな痛みと苦しみを味わってきたけど、こんなのは体験した事がない。ロアの意識に蝕まれていた時ですら、こんな言い表しようのない痛みは受けた記憶がない。
    内側から崩壊するような、この世のものとは思えない激痛。止まらないどころかじわじわと増していく渇きと欲求。それらに侵され、少しでも意識を緩めたら理性が崩れるという確信。

    これが――――――これが、吸血衝動なのか。

    「―――、―――、―――。
    ………たべ、ないと。食べないと、わたしは……ま、た……!」

    眩暈に苛まれ、まともな呼吸も疎かになる。
    視線を己の腕に向ける。ヒトの■は吸いたくないけど、だからと言ってこのままでは短い内に確実に決壊する。
    なら、代わりになるモノを口にして啜ればいい。少し前まで散々口にしてきたんだ。今更躊躇う事もない。

    「ハァ――――――あぐ、っむ……ん……んっ…………」

    牙を伸ばして手首に齧り付く。少しでも渇きと痛みを潤す為に飲み下していく。
    口から微かに漏れ出る■がベッドを汚していくが、そんなのは今はどうでもよかった。

    だって、久しぶりにハッキリとした『味』を感じる事ができている。これまで三ヶ月以上もずっとガマンしていただけに、悪くはないが微妙と思っていた自分の■ですら上等なワインのように思える。
    ああ。■って、こんなに美味しいんだ。飲み下すほどに、今にも崩れそうだった肉体の痛みが徐々に消えていくのを感じる。今の今まで鬱陶しくて仕方がなかった悍ましい渇きがゆっくりと収まっていくのを感じる。

    「―――っぷは、ぁ………は、はは、は………はぁ……」

  • 28二次元好きの匿名さん25/06/10(火) 23:00:43

    数ヶ月ぶりに口に広がる■の味に、口の中が得も知れない快楽に包まれる。
    すぐにまた喰らいつき、ごくごくと喉を鳴らして吸い上げる。
    たったそれだけで、弱っていた身体に活力が湧いてくるのを感じた。

    「もっと、もっと………もっと――――――!」

    勢いのままに、欲求のままにもう片方の腕にも牙を突き刺す。
    同じ味が口内に広がっていき、渇きが満たされていく。
    ベッドの赤いシミが段々と大きくなっていく事も、もはや気にも留めなかった。
    やがて吸い上げるだけでは満足できず、そのまま肉を喰いちぎる。
    口の中でゆっくりと、丹念に、噛み締めながら味わう。甘い果実のような食感だ。香味が落ちているのは仕方がないが、やはりこれはこれで悪くはない。
    なんで、あんなものをずっと無理して食べていたんだろう。味がしないなら口にしなければいいのに。暗示が使えるんだから都合のいいように意識操作して食事を断ればいい。
    パンも、スープも、サラダも、紅茶も、カレーも、何もかもが今口にしているモノと比べて不味い。粗悪にも程がある。人間の食事なんだから吐き気を催すのも当然だろう。思い出すだけでも食欲が萎えて仕方がない。

    「むぐっ………ん、ん……はむ…………はぁ、はぁ――――――」

    齧る。啜る。ちぎる。咀嚼する。味わう。飲み下す。
    皮膚も、血管も、筋も、爪も、指も、骨も、ただ喰らう。

    ……ふと気づけば、両腕とも二の腕の先が殆ど無くなっていた。
    どろりとした■が滴る肉の断面がとても美味しそうに見える。見えてしまう。
    真っ赤な黒いシミは、ベッドどころか床にまで広がっている。
    半ば無我夢中で食べていたせいか、小さな肉片も幾つか転がっていた。



    「…………………ぁ。
    あ―――ぁ、ああ――――あ、あ」

  • 29二次元好きの匿名さん25/06/10(火) 23:35:57

    おかえりなさい!
    ありがとうございます!
    保守

  • 30二次元好きの匿名さん25/06/10(火) 23:43:54

    ベッドや床に散らばる肉片を見て、“もったいない”と思った。
    同時に、ある程度安定した理性が目の前の惨状を目に写す。

    ちょっと齧るだけのつもりだった。それで理性を繋いでやり過ごすつもりだった。
    でも、美味しいと思ってはいけないモノを美味しいと思ってしまった。もっとほしいと思って、貪ってしまった。

    「わたし、わたし――――――笑いながら、自分の腕を食べちゃってた!お母さんが作ってくれた料理を、お父さんが作ったパンを、不味いとか、粗悪だとか思っちゃった!」

    殺したい。今すぐに自分を殺したい。
    かつての自分を思い出す。汚染していく衝動に抗って、でも結局そんな抵抗も虚しく両親の血を吸って、街の人たちを笑いながら殺し尽くしたロアという悪魔(じぶん)を。

    もう、それと何も変わらないんだ。違うのは、わたしがわたしとしてちゃんと動いているというだけで。
    心もとっくに吸血鬼と化していた。それに目を向けず、自覚しきれずにわたしは愚かにも見て見ぬふりをしていた。
    笑えてくる。滑稽にも程がある。ほんの数ヶ月の我慢の反動で、こんなにも醜くなるのか。

    「………うん。でも、だからこそ、人間の血は尚更に絶対に吸いたくないな」

    本当に、それだけは駄目だと改めて理解する。
    死徒である自分の血肉でこんなにも変わり果てるというのなら、ヒトの血なんて吸ってしまったらどうなるか分からない。
    間違いなく、ヒトの血はこれよりももっともっと美味しいのだろう。故にこそ、それに関心を向けること自体がとても恐ろしくて仕方がない。
    思考するな。興味を持つな。越えてはならない最後の一線を越えようとするな。死んでも踏み止まれ。
    その一線を越えてしまったら、本当に戻れなくなる。
    多分、血を浴びるだけに留まらず、悲鳴もスパイスとして愉しむようになってしまう。
    14年前の自分が、そうしたように。

    「…………この身も心も、死徒に堕ちたとしても。どれほど醜く悍ましい怪物に堕ちようと。
    それでも、ロアにだけは成りたくない。何があっても、あの男には、絶対に………!!」

    わたしは今度こそ、二度と人間を名乗れない。けれど、だからこそ同じ惨劇は何が何でも繰り返さない。
    もうこの世には存在しない一人の吸血鬼を忌まわしく思いながら、尚更にそう強く決意した。

  • 31二次元好きの匿名さん25/06/10(火) 23:57:24

    シエル先輩強いな……
    血を味わう事の快楽を知ってしまって尚もそう決意できるのは並大抵の事じゃないよ
    ノエル先生が同じ立場だったらそれこそ原作と同じように躊躇いなく人間を手をかけまくるだろうし……

  • 32二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 00:07:30

    >>31

    なお前回の√だと人間の肉を食わされて(表面上は)吸血鬼っぽく振る舞うようになってしまったけどそれでも最終的には代行者として再スタートした模様

    というか吸血鬼らしい振る舞いもあくまでノエルに合わせてやってただけだし本質はシエルのままだったんだよね

    マジでロアさえいなけりゃ色々と聖人すぎる

  • 33二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 00:28:03

    ロア化による汚染って言っちゃえば当人の悪性や破壊衝動を全開になってて魔が差したレベル100みたいな状態に等しいけど根が善良すぎるシエル先輩がロアとは全く関係ない死徒化をしたところで恐らくそこまで変わらないよな
    ロアシエルが悪性レベル100とするならシエル先輩はどれだけ吸血衝動に汚染されようがレベル20~30辺りにしかならないと思う
    何なら10行くかも怪しい

  • 34二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 00:33:09

    シエル先輩マジで精神強いからな…………

  • 35二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 08:46:21

    保守

  • 36二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 17:02:04

    保守

  • 37二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 17:44:09

    しばらくして腕が再生しきったところで、わたしは肉片や血痕の処理にかかる。
    といっても手元に処理用の器具などある筈もないので、肉片は直接食べて血痕は魔術で隠した。
    少なくとも、つい先ほどまでのような苦しみは無くなった……というより収まったというべきか。
    しばらくはまた安定はするだろう。

    「もっとも……彼女が満足してくれない限りは、この幻惑の中で延々と苦しみ続ける事に変わりないでしょうけど」

    実を言うと、まだ欲しがっている。滴る朱い血を、果実のように芳醇な生の肉を、もっと味わいたい。
    でも、抑えが利く範囲で常に節制しておかないと、取り返しのつかないコトになってしまうだろう。
    両腕を喰らった“程度”じゃとても足りない。肉体の健常な維持にはそれこそ最低でも人間の一人二人の命を吸い上げないといけない。死徒となっているせいで、そういうのは本能的に分かってしまう。
    だけどそれを犯してしまえば、わたしがわたしでなくなってしまう。されども、死徒に堕ちた時点で人間だったわたしは死んでいるも同然と言えるが。

    「あと……一体、どれだけ続くのでしょうか」

    彼女が満足すれば、この拷問から解放される。そしてわたしの心が限界を迎えた時が、彼女の満足する時だろう。
    それまでにわたしは何回この苦しみに喘ぐんだろう。どれほど自分の肉を喰らうのだろう。
    何が起こってもそれを潔く受け入れる。その覚悟は今も変わらない。
    だからこそ、その覚悟が揺らいで崩れてしまうんじゃないかという恐怖が拭えない。
    わたしは吸血鬼として、血を味わう快楽を知ってしまった。思い出してしまった。
    その快楽をこれから何度も何度も味わう度に、最後の一線を越えないという決意すらもどうでもよくなってしまうんじゃないか―――そんな懸念が胸中に巣くっている。

    「かと言って、そうなる前に自らを殺したくてもできない。彼女はわたしがそれをすれば遠野くんを殺すと言った。彼を人質に取られている以上、わたしは自分の意思で死ぬ事も許されない」

    思えば、ロアと化した自分に乗っ取られた時も似たような状況だった。
    親しかった、優しかった人たちを次から次へと手にかけて、必死に自分を殺そうとした。だけどそんな抵抗は無意味で、結局アルクェイドに殺されるまで止められなかった。

  • 38二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 19:02:08

    そして今、自分は死徒と化して、血の味と快楽を思い出して、死にたくても死 ねない現状にある。
    似たような、というよりは殆ど変わらない。自分の体を自分の意思で制御できているというのが、唯一の救いと言える。

    「その制御さえも、この衝動に蝕まれている限りはほぼ利いていない。本当、自分の意思の弱さには反吐が出ますね」

    死徒の吸血衝動は、言わば人間で言うところの中毒的な禁断症状に近い。
    生物としての本能的欲求。生きる為の捕食衝動であり、それは精神力で我慢できるようなものではない。
    深刻化すればするほど増大し、我慢するという思考さえできなくなる。そうしてヒトの血を啜り喰らって、躊躇いなくそれを必要以上に繰り返すようになる。

    抗える限りは徹底して抗うつもりではあるけど、わたしの意思とは関係なく、その内わたしの肉体が人間の血を本能で求め出すだろう。
    死徒にとって人間の血液は主食であり、同時に肉体を正常に保つ上で最も理想的で効率的な必要食だ。
    他の死徒の血液や動物の血液でも代替はできるものの、人間のそれと比べれば肉体維持の安定性はずっと低い。
    長く生きすぎた一部の死徒には、人間の血液では維持が間に合わないので優れた動物の血で補っている個体もいるらしいが、わたしには関係のない事だ。

    死徒の肉体で感じる価値観は、快楽は、凶暴性は、人間のそれとは全く異なる次元にある。
    人間だった時に培ってきた価値観や道徳など、死徒に変生してしまえばそう間を置かずに死徒のモノへと塗り替わってしまう。
    文字通り、身も心も違うイキモノに成り果ててしまう。だから『ロアと同じに成りたくない』というわたしのヒトとしての決意も、いつ崩れ去っても可笑しくない。
    元々わたしは自分の欲望(こころ)に逆らえない女だ。
    今は自制心がまだまともに機能しているけれど、このままではそう遠くない内に一線を越えてしまうかもしれない。
    とはいえ、できる事は何もない。ただ、彼女が満足してくれるのを祈りながら抗い続けるしかない。

    「もし、このまま耐え続けて……“その時”が来たら、どうすればいいんだろう」

    自分の体を食べ尽くす?それとも犬や猫、家畜や鼠などの動物の血で潤す?
    或いは―――いっそ幻惑だからと割り切って、人間を手にかける?
    分からない。どうすればいいのか分からないが、三つ目が手段として論外だと言うのは理解できる。

  • 39二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 19:53:42

    >>27から>>30までの文章が凄く月姫らしい伝奇ホラーっぽさを感じて好きなんだけど分かる人いる??

  • 40二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 20:25:20

    「……考えがまとまりませんね。今日はもう、寝ましょう」

    寝たら少しは思考がスッキリするかもしれない。そう思って血に染まったベッドの上に横になる。
    魔術で見てくれは隠せてはいるものの、染みついた匂いまでは誤魔化しようがない。
    そして、その匂いを芳香なものとして心地よく感じている自分の鼻を潰したくなってくる。
    ……潰したところでどうせ再生するから意味がないし、余計にベッドを汚してしまうけれど。

    思えば、こうして意識を落とす形で寝るのは何時ぶりだろうか。
    夜間は自分の部屋でぼんやりと過ごして、日中は店の手伝いや学校に通ったりの繰り返しだったから寝た覚えがない。
    死徒だからとは関係なく不眠には耐性があるけど、そもそもこの空間に引き込まれてからは初めてかもしれない。

    「……いえ、そんなコトはどうでもいいですね。
    今はただ、何も考えずにこのまま静かに寝よう」

    瞼を閉じて、思考する事をやめる。
    頭が少しだけ澄んでいくのを感じる。
    同時に、そう間をおかずに眠気に苛まれる。
    ……死徒に睡眠欲はない筈なので、これは精神的な疲労によるものだろう。
    それほどまでに堪えていたのか、などと思いつつわたしは意識をゆっくりと闇に落とした。






    ――――――そこからは、これまで以上に苦しみに喘ぐ毎日を送る事になった。

    吸血衝動が強まる度に、激痛と渇きが増大する度に、自分の血と肉を喰らって理性を食い繋ぐ日々を繰り返した。

  • 41二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 20:44:29

    >>39

    わかる

    吸血鬼の思考に侵食されつつも必死になって人間のとしての理性を引き戻すシエル先輩の苦悩と恐怖の描写が良いよね……

  • 42二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 21:55:53

    「自分の意思の弱さ」って言うけどここまで耐えられてる時点でとんでもなく強いんだよなシエル先輩は
    その清廉さは美しく見えるけど、このスレのノエルからしたらその卑屈さお綺麗さこそがムカつくんだろうなって……

  • 43二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 00:51:50

    ほしゅ

  • 44二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 07:47:30

    保守

  • 45二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 16:17:42

    衝動は大体一週間前後の間隔で強まっていた。その度にヒトとしての思考がグラついて不安定になる。
    例えばトモダチと遊んでいる時に、そのか細い首に牙を突き立てたくなる。
    道で蹲っている物乞いを見た時に、その栄養失調気味のお腹を見て“内臓も不味そうだ”と当たり前のように不快感を示している。
    いつものようにお父さんとお母さんと一緒に食事をしている時も、目の前に差し出された料理が相も変わらず不味すぎて、2人を“使って”『味付け』したくなる。
    そういう思考になる度にわたしは悲鳴を漏らしたくなって、逃げるように自分の部屋に籠って一心不乱に自分を食べた。
    それを繰り返していく内に自室がじわじわと血で汚れて、最初はベッドと床に大きなシミができただけだったけど、次第に机や壁、ドアや棚と部屋中に広がっていった。

    「……あれから、三週間ですか」

    クローゼットの中の私服も、今は全部が赤いシミに染まっている。
    店の手伝いをする時の仕事着や学生服も、わざわざ魔術で隠さないといけないぐらいに血痕が染みついている。
    洗濯しようかとも考えたが、血痕塗れの服なんて下手に出したら両親に見られるのでそれは出来なかった。

    何より、それ以上に。
    そんな血塗れの服を目にして『綺麗』だと、感じてしまっている自分がいる。
    “こんなにも鮮やかな赤い柄を、煌びやかなアクセサリーを、洗い流すなんて勿体なさすぎる。”
    どこをどう見ても悍ましさと恐怖しかないのに、そんな風に思っている自分がたまらなく恐ろしい。

    「………誰か……わたしを、殺してくれないかな」

    ふと、そんな弱音が漏れ出る。
    勿論、それに応えてくれる者はいない。彼女も、愉しむ為にここに閉じ込めているのであってわたしを殺す為ではない。
    最近、食べても食べても衝動が収まらない。
    否、正確に言えば収まってはくれるが再び強くなるまでの間隔が短くなっている。気のせいなどではない。本能的に理解できる。
    原因は…………分かっている。それを解決する一番手っ取り早い方法が何なのかが、誰に言われずとも察せる。
    けれどそれをやってしまえばこれまでの決意と抵抗が全部無駄になる。
    絶対に、しない。してたまるか。

  • 46二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 17:03:21

    もう壊れてるのに無理やりなんとか頑張って無理して人間であろうとしてるのが苦しいよね悲しいよね辛いよね
    キッツイよねしんどいよね…………と思ってしまう
    どう頑張ってもどんなに頑張ってもシエル先輩は苦しいしそれをずっーと観てるノエル先生からしたら自分の血とか身体で人間であろうとしてる姿は気に入らないだろうし…………どっちも思い通りになってないよね……
    この二人はお互いがお互いを苦しめてる関係性すぎるのては?

  • 47二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 17:15:20

    シエル先輩は加害者(ロアになって自意識あるのに皆殺し)で被害者(ロアになって自意識あるのに皆殺しな上生き返って異端審問されて代行者になって色々あってノエルに拷問される)
    ノエル先生も被害者(ロアになったエレイシアにすべて壊される)で加害者(ロアの憎しみ先輩の憎しみ人生壊されてめちゃくちゃな上二週目記憶ぶっこまれてに現在暴走中(復讐しても良い理由ではある))
    二人とも被害者で加害者でこの関係性でしか取ることのできない栄養ってやばくね?凄くね?
    この関係性ヤバいわなんか上手く言い表せないけど凄い良い意味で素晴らしい設定だと思う
    もう誉めるくらいしか出来ないレベルでなんか好き

  • 48二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 21:11:08

    「………………あ」

    ふと、窓から月が覗いている事に気付く。
    暗い夜空の中天に、たった一つだけ浮かんでいる大きな光。人類という種の誕生より遥か昔から、この星の夜を照らし続けてきた輝ける白の天体。

    「少し、外に出ようかな」

    何も考えず、ただぼうっとそれを観ている内に、何となくもっと近くで目にしたいと思った。
    弱った身体を動かして、部屋を出る。
    ……吸血鬼なんだから夜は寧ろ活性化してる筈だが、これも無理して自分しか食べてこなかったが故だろう。

    「………………?」

    部屋を出て間もなく、妙な違和感を覚える。
    お父さんの気配が、お母さんの気配が、どこにも感じ取れない。
    本来ならこの時間は2人ともとっくに就寝している。パン屋の朝は早いから、こんな夜中に2人してどこかに出かけるなんて考えられない。

    「どういう、こと……? お父さん、お母さん?」

    念の為、死徒としての感覚を更に集中させて2人の部屋を始めとした家中を探し回る。しかし、やはりどこにもいない。
    突然の両親の失踪に、少なくない戸惑いを覚える。
    幻覚なんだから唐突に消える事もあるかもしれない。でもほんの二時間ぐらい前まで確かにいたし、寝室に向かうのもこの目で直接確認した。
    明らかに、何かおかしい。これもまた幻惑の世界の異常―――つまり彼女が仕掛けてきた事なのだろうが、何の意図があってこんな事をしたのだろうか。

    「……外に、出てみよう。彼女のいるカフェ店に行けば、いるかもしれない」

    そう判断して、静まり返った家を歩きながら外へ出る。
    そこから近くのカフェ店を目指して跳躍する。その中で軽く見渡すと、街は今日も夜の明かりに包まれていた。
    ………人間が、至るところで無防備に各々の生活を過ごしていた。

  • 49二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 23:57:59

    なんで、どうしてこうも危機感というものが無いのだろう。
    自分の身には危険が及ばない、及んでも冷静に対処できるという無意識下の傲慢がそうさせるのだろうか。
    実際はそんなコトはあり得ないのに。何もできずに喰われて死ぬのが現実だ。
    現にわたしという吸血鬼が何ヶ月も当たり前のように身近にいるというのに疑いの一つも抱いていない。この生き物は無害なのだと、自分たちにとって友好的な存在だと信じ切っている。
    愚かしい、本当に単純すぎる。しかしわたしにとっては好都合だ。
    何しろ疑ってもいなければ危機感も抱いていない、無抵抗で無防備な食糧がこんなにもそこかしこにいるのだから。
    幻惑の世界というのもあるだろうが、どちらにせよ限界を迎えたら好きに貪ればいい。
    どうせ現実ではないんだから、いくら吸おうが喰らおうが殺そうがこの空間の中だけで完結する事象に過ぎない。だから一人一人ゆっくりと、丹念に味わっていけば愉しむ時間もそれだけ延ばせるというもの。
    これだけいるんだ。全員を平らげるまで一ヶ月は堪能できるだろう。
    そうだ。今もまた渇いて仕方がないから、店に向かうついでにそこいらの人間(えもの)を一人ぐらい適当に見繕って――――。
    見繕って、食べ、て――――――。

    ――――――――――――。

    「――――――あ、ああ。ああああああっ!!!」

    違う。違う。違う違う違う違う違う違う違う違うちがうちがうチガウチガウ!!
    何を考えていた。何を、何を考えてるんだ!

    「考えるな。考えるな。考えるな。考えるな。考えるな。考えるな。考えるな。考えるな。考えるな。考えるな。考えるな。考えるな。考えるな。考えるな。考えるな。考えるな――――――!」

    今、立っている建物の屋根に何度も何度も頭を打ち付ける。
    皮膚が抉れて血がどろどろと流れてしまっているけど関係ない。今はこの思考を頭から消すのが優先だ。
    というより、他人の家の屋根を血で汚してしまったとか、そんなのを気にする余裕がない。
    今すぐに抑えないと、わたしは、本当にすぐにでも、■■を殺してしまうに違いない。

    「ふ――――、ぅ――――、ふっ――――。

    ……………………さっさと、彼女のところへ、いきます、か」

  • 50二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 00:23:35

    ロアはもういないのに結局は二重人格に近い感じで死徒としての本能と人間としての理性の板挟みで苦しんでる……

  • 51二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 00:48:34

    >>50

    本来は死徒の本能って抗いようがないものだからな

    それを4ヶ月近くに渡って呑まれずに抑えつけられてる時点で異常

    でもそれはそれとして人の血を摂取しないと肉体を保てないから今の先輩は幻惑の方も現実の方も文字通りガワだけ綺麗なボロボロ状態なんじゃないか?

  • 52二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 00:56:37

    もう限界越えてるのに…………でも本当に血をすすって肉を食べ快楽に溺れたら終わりだから耐えてる訳で…
    もう一度同じことしたら本当に終わりで壊れちゃうからシエル先輩は耐えるのか…………

  • 53二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 02:05:22

    いやぁ、破滅破滅

  • 54二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 07:40:24

    このレスは削除されています

  • 55二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 08:19:59

    霞んでいた意識を強引に繋ぎ止め、改めてカフェ店の方へと向かう。
    至るところで人間の気配が感じられるが、それらを意識するだけでまた理性がグラつきそうなので関心を持つ事を頭から排除する。
    今、優先すべきはヒトを殺してその生き血を啜る事ではなくノエルと会う事だ。
    それ以外は全て余計な些事だと思え。彼女のいるところへ向かう事だけに集中しろ。
    それだけを目的として動く人形として自身を意識し、肉体を駆動させる。

    「―――着きましたね」

    やがてカフェの前に到着し、目の前の位置に降りる。
    目的以外の思考は全て排除していた事もあって、体感的な時間はほとんどない。しかしそんな事はどうだっていい。
    入り口に手を掛けると、すんなりと開いた。察するに、どうやら誘っているらしい。
    そのまま店内に入る。辺りを見渡すと、そこは不気味なほどに静寂だった。いつもならこの時間でも営業している筈だが、人の気配は全く感じられない。
    ――――――彼女を除いて。

    「そこに、いるんでしょう?………ノエル」
    「あら、こんばんはエレイシア。こんな時間に何の用かしら?
    見ての通り、今日はもう営業してないわ。にも関わらず勝手に不法侵入してくるとか、悪い女ねぇ」

    わざとらしくそう言って、ノエルがカウンターの奥からその姿を曝す。
    正直なところ、彼女がここにいるという確信はこうして店内に入るまで無かったが、結果的には予想が外れる事もなく的中した。

    「白々しいですよ。わたしがこうして来るのも分かっていた筈です。
    わたしの両親が唐突に消えたのも、あなたの意図によるものでしょう?」
    「ええ、そうね。何かしら異常を起こせば、アンタはすぐに私のもとへとやってくる。そう見越してアンタのお母さんとお父さんを家から消したわ。
    ところで、その額はどうしたの?まるで壁か何かに何度もぶつけたように赤くなっているけれど」
    「………ちょっとしたひと悶着があっただけですよ。もう治りますし、気にする事ではありません。
    それより、なぜこんな事を?」

    そう言いつつ、額を触る。今日の月齢は満月だからすぐに自然治癒すると思っていたが、これも自分自身の血肉しか摂取してこなかった故だろうか。

  • 56二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 12:30:11

    ノエルさんは本当にシエル先輩が自分で自分を壊すのをみてて楽しんでるんだろうな

  • 57二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 21:22:18

    「いえね。このまま吸血衝動に苦しむアンタをずっと眺めるのもいいかなとは思っていたけど、それはそれとして想像以上に必死こいて耐えやがるアンタを観ている内にちょっとばかり苛立ってきたの。
    どうして何時までも人間であろうとするんだろうって。私を裏切って恋に逃げた癖に、今更そんな高潔な精神を見せられてもハッキリ言って不愉快なの」
    「………………」
    「だからさ。ここらでそろそろ終いにしよっかなって。
    このままだとアンタは肉体がボロボロになって自壊しきるまで耐え抜いてしまいそうだなって懸念に思ってるのよ。
    普通、吸血衝動の欲求に抗うのは不可能な筈なんだけど、アンタならそれすらも自制できてしまうかもしれない。現に4ヶ月近くも自分の血と肉を喰らうだけでギリギリやり過ごせてしまっているしね。
    そんなワケで、これはもう私の方から仕掛けた方が手っ取り早いと判断したわ」
    「………っ!?」

    そう言うなりノエルが奥から大きな袋を引き摺ってきて、中から何かを取り出す。
    それは――――ほんの先ほど家から不意に消えていた、わたしのお父さんとお母さんだった。見たところ外傷はなく、呼吸もしている。眠ってはいるものの、死んではいないようだ。
    いや、それよりも。

    「何を……するつもり、なんです?」
    「ああ、大丈夫大丈夫。何もアンタの目の前で殺してやるとかじゃないから。
    家族を目の前で理不尽に奪われる事の苦しみと絶望は、他ならないこの私がよーく知ってるんですもの。そんなふざけたコトすんのはアンタだけで十分だからねぇ。
    でね、エレイシア。こうしてアンタの両親を拉致ってまで何がしたいのかって言うと―――」

    言いながらノエルはお父さんたちを抱えてわたしの正面まで移動し、眠っている2人を優しく降ろす。
    彼女はわたしを見て、とても愉快そうに口元を釣り上げながらこの行動の目的を口にした。








    「アンタの大好きだったお父さんとお母さん。そして、アンタと何だかんだで切磋琢磨しながら苦楽を共にした私。
    ――――――どちらの血を吸うか、今ここで選びなさい」

  • 58二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 22:14:06

    うーん、これは……………究極の選択…………
    どちらを取っても辛いし、きっと先輩には選べない…
    選べないのを解っていながら問いを投げつけるノエルさんは鬼畜
    まぁ復讐鬼だからそういう答えられないことするんですわ

  • 59二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 07:05:35

    ほしゅ

  • 60二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 16:30:50

    保守!
    ノエルさんにとってとことん納得行く結末になるのならそれで良いのかな…………?
    シエル先輩が苦しいしノエルさんもぐちゃぐちゃ感情爆発中だからどうなるかな…?
    先輩好き好きな志貴さんを早く見たいしノエシエが報われて欲しいし、でもドロドロぐちゃぐちゃギッタギタになっていて欲しいし…………欲深い…………それほどにこのシリーズ大好きです!

  • 61二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 16:43:51

    「――――――え?」

    何を言われたのか分からない。聞き取れない。
    今の発言の意味が理解できない。理解したくない。血を吸う?何の、誰の血を?
    目の前の人間を、殺せと?わたしに?

    「何で、そんなコトを」
    「何でって、今説明した通りよ。アンタが何時までも耐えてんのがあんまりにもムカつくから、人間を喰わせてヒトとしての残りカスみたいな尊厳も矜持もボロッボロにしてやるの。
    その上でもう一度言うわ。私か両親か、どちらかを選んで血を吸いなさい。
    こうした方が、ただ顔を知ってるだけのそこら辺の人間を手にかけるより、よっぽど堪えてくれるでしょう?」
    「――――――」

    逃げ出したかった。許されるなら、今すぐにでもこの場から去りたかった。
    でもそれは無理だ。逃げ出して彼女の機嫌を損ねようものならば、現実にいる彼がどうなるかが目に見えてる。
    分かってる。彼を人質に取られている以上は、わたしではどうしようもないと。彼女のされるがままになるしかないと。
    けれど、これは、これは。

    「………選べると、思っているんですか?お父さんとお母さんかあなたかを、わたしが?
    やめて………やめてください。それは、それだけは無理です。
    それ以外なら、どんな罰でも受けますから。本当に、お願いです。やめて……!」
    「やぁだ♡ どうしてこの期に及んでアンタのお願いを聞いてやらなきゃいけないんだっつの。
    どっちかを選んで殺して、血を吸ってくれるだけでいいのよ?今のアンタは人の心を持たない吸血鬼なんだからそれぐらいワケないわよね?」
    「ですから、無理だと言ってるんです……っ!
    そ、それは、そんなコトしたら、本当にわたしがわたしでなくなってしまう。わたしが壊れてしまう。だから今日までずっとずっと耐えてきた。
    わたしをもっと苦しめたいなら、他にやりようは幾らでも、あるでしょう……!?」
    「ええ、あるわね。パッと考えるだけでも10通りぐらいは思い浮かぶわ。
    だからこそ、その中でアンタにとって一番拷問になりそうだなと判断したのがコレ。ほら、分かったらさっさと選べ。
    ……ああ、そっか。じゃあ、やっぱりこうすればいいかしら」

    そう言うと、ノエルはポケットから小型のナイフを取り出して――――――自分自身の手首を切り裂いた。

  • 62二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 17:20:59

    確かにぃ…知り合いの血を飲ますよりかは良いんだろうけどぉ…………
    選べないのを解っていながらそれを言うのは流石なんだ
    もうシエル先輩には選ぶ選択肢なんて存在しないのだから…………
    どっちか選ぶしかない…それがどれだけ大好きな相手でも…………

  • 63二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 17:38:48

    「っ……!?」

    そのまま彼女は顔色ひとつ変えずに、手首から噴水のようにどくどくと流れ出る血を2人の首元辺りに垂らし出す。
    流れ落ちる血液は2人の皮膚を、髪を、衣服を赤く赤く染め上げていく。

    「うん。まあこれぐらいでいいでしょう。この人たちの首筋を切ってもよかったけど、それじゃあ一般人は極力傷つけないという私の矜持に反するわ!
    あくまで傷つけるのはアンタの選択だからねぇ、エレイシア?」

    ある程度まき散らしてから、ノエルは手首をそのままにしてわたしの方へと向く。
    切った方の左手首は血色を失いつつも未だに血が流れている。彼女の立っている床も円形の血溜りを広げている。
    …………それらに、わたしは目を放せないでいる。それはショッキングでグロテスクな悍ましさを感じているからではない。
    いや、それも全く無いワケではないが――――――それ以上に、酷く魅力的で、美味しそうに、見えて仕方がないからだ。

    「さ、これでアンタは私たちを見る目が変わり出した筈よ。
    私はね、エレイシア。アンタが無意味に守ってるそのなけなしの下らない一線をあっさり越えて、笑いながら絶望するその瞬間を見たいの。
    アンタの必死の努力とか心底どうでもいいのよ。だってアンタは私をとことん裏切ったでしょう?裏切ったという事は、つまりアンタも私との誓いとか私の努力とか私の感情とかどうでもよかったんでしょ?
    どうでもよかったからこそ、6年間も共にした私よりもたかが一週間ぐらい関わっただけのガキとの恋を優先した。
    だったら私も徹底的にアンタを否定してやるわ。ま、こんな事はこれまでも散々口酸っぱく言ってきたから、あまりベラベラと繰り返さないけど。
    そら、分かったら早く選んで。じゃないと私、出血多量で死んじゃうかも。いつまでも決めあぐねてるアンタにムカついて、志貴クンを殺してしまうかも!」

    「―――、―――、―――」

    どうする。早く、早く選ばないと。彼が死んでしまう。
    でも。でも。どっちを選ぶ?選べない。選べる筈がない。だけど、だからって、悩んでいる余裕なんてない。
    はやく、どちらかを殺さないと。血を吸わないと。けれどもう殺したくない。大切な人を、二度と手にかけたくなんてない。ああでも、殺さないと彼が死ぬ。選べないというわたしの選択が、彼を、遠野くんを、殺してしまう。

  • 64二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 17:40:43

    苦しいな…シエル先輩

  • 65二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 18:07:21

    どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?

    「ぁ―――あ、う"ぅ、っっうう………っ!!!」

    痛い。痛い。痛すぎる。この身に痛覚なんてないのに、幻痛の苦しみが絶え間なく襲いかかってくる。


    いやだ、無理だ。できない。
    / 選ばなきゃ。殺さなきゃ。

    狂いたくない、一線を越えたくない。
    / なんて事はない。ただ殺してしまえばいい。

    ヒトの血を吸いたくない。大切な人を手にかけたくない。
    / ああ、おいしそう。早く味わいたい。


    「ああ。そういえばアンタさ、前に礼拝堂で私を無力化した時にこう言ったわよね。
    『わたしにとって遠野くんが唯一の恋人なら、貴女は唯一の相棒(バディ)なんです。そんな、大切な人を―――殺せる訳が、ないじゃないですか』って。
    あっははは。今でも私の事を本当にそう思ってるのなら、その言葉すらも裏切るワケにはいかないよね?
    自分を産んでくれて、愛娘として最期まで愛情を注いでくれた両親の方が大切だって言うんなら話しは別だけど。
    仮にそっちを選ぶんならどうぞ私をブチ殺して躊躇いなく血を啜るといいわ」
    「う――――ァあ、アア――――がああ、ぁ……!!」

    今、自分がどんな顔をしているのかを想像するのが怖い。
    見たくないのに目が放せない。それどころか益々食い入ってしまう。
    いやだ。いやだ。もう、もうこのカラダはロアのようにダレかの意思で支配されるコトはないのに。
    わたしの意思で動かしているのに、わたしの思い通りに動いているのに、わたしの心に従ってくれない。
    ほしい。ほしい。吸いたい。吸いたくない。飲みたい。食べたい。味わいたい。堪能したい。逃げたい。

  • 66二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 18:53:19

    「……あの、さっさとしてくんない?あんまりそうやってダラダラされると本当に志貴クンを殺すわよ?

    いいじゃないのよ別に。アンタの本質は醜い醜い利己的な怪物なんだからさ。ひとりふたり殺して当たり前でしょ?

    あ、じゃあ10秒数えるからそれまでに決断してちょうだいね。しきれなかったら殺すから。

    はい。じゅーう、きゅーう、はーち、なーな、」

    「あぁ、ああ待って!お願いいたします!せめてもう少しだけ考え、」

    「無理。ごー、よーん、さーん、」


    なんで、なんで待ってくれないの。なんで、こんなコトするの。

    もう、無理だ。抑えきれない。いや、いや。わたしは、何の為に、耐えて。


    「にー、いーち!」

    「――――――アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」


    理性が弾ける。倫理が、道徳が、決意が、覚悟が、衝動に塗り潰される。


    わたしは、焦りと恐怖と渇きと本能のままに飛び出して――――――












    ――――――dice1d2=1 (1) の首筋に、躊躇いなく喰らいついた。

    1.お父さんとお母さん

    2.ノエル

  • 67二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 19:24:43

    これもうノエルのやってることの悪辣さロアと大差ねぇな

  • 68二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 19:27:13

    この問答だけで狂っちゃうよ先輩…………

  • 69二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 20:58:29

    言っちゃなんだが今の型月カテのスレ中で最も酷い目にあってるなここのシエル先輩
    このどうしようもない状況を何とかできそうな助け舟になれる人は……いるのか……?

  • 70二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 06:19:19

    保守

  • 71二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 15:37:00

    『エレイシア』

    ――――どこからか、お父さんとお母さんの声が聞こえてくる。

    『ほら、お食べ。焼きたての新鮮なパンだよ』
    『紅茶も用意しておいたわ。さあ、召し上がれ』

    目の前にあるのは、美味しそうな二つのフランスパンと紅茶。
    とても、とても美味しそうだった。さっそく手に取って、口に入れてみる。
    芳醇な香りとパンの味が口いっぱいに広がって、幸せな気持ちに包まれる。
    もっと、もっとほしい。その欲求のままに紅茶にも手をつけて飲み下すと、こっちもとても美味しくていい香りと味がした。
    そのままパンに手をつけつつ、紅茶もゴクゴクと味わっていく。何故か紅茶はどれだけ飲んでもカップの底が見えないけど、そんな事は気にしても仕方がないので無視して食事を続ける。
    パンの方はというと、一口かじる度に濃厚で厚みのある食感が楽しめる。まるで肉汁たっぷりのステーキでも食べているかのような分厚さで、食べ応え抜群だ。

    『ふふ、いい食べっぷりね。そんなに気に入ったかしら』
    『おいしいかい?エレイシア』
    「うん……うん!とてもおいしい。おいしいよ。お父さん、お母さん!」

    聞こえてくる声に、精一杯の気持ちで答える。
    両親の作ってくれた物を、口いっぱいに頬張って食べる事ができる。そして、こんなにも美味しいと思える。
    なんて幸せな気分だろう。なんて楽しくて、素晴らしい食事なんだろう。
    ふっくらとした生地も、中に詰まってるジャムも、真っ赤な紅茶も、全部が極上のディナーに見える。

    『はは、それはよかった。娘に美味しいと言ってもらえて何よりだよ。ところでだ、エレイシア。一つ尋ねるが』





    『――――なぜ、さっきからずっとお父さんとお母さんをパンや紅茶だと勘違いして食べているんだ?』

  • 72二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 15:39:43

    HFの飴玉思い出す…

  • 73二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 16:06:41

    このレスは削除されています

  • 74二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 16:10:40

    保守

  • 75二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 16:19:21

    「―――――え?」

    唐突に、優しい声が消える。明るかった空間(せかい)から光が失われていく。
    手にしていたパンが赤いナニカに変わっていく。ジャムがどろりとした赤黒いナニカに変わっていく。紅茶のカップが音を立てて崩れていく。

    ……今、お父さんたちに言われたコトがどうしても思い出せない。何を言っていたんだっけ。

    ……わたしは、今まで何を食べていたんだろう。

    何を、パンだと思って口にしていたんだろう。

    何を、紅茶だと思って飲んでいたんだろう。

    何を、何を――――――誰を、嬉々として味わっていたんだろう?










    「ぁ――――――ああああ、ああああああああっ!!!アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア………!!!!」

    目の前に広がるのは、夥しい血溜まりに染まった床と、そこに倒れている二つの肉塊。
    そして、真っ赤に汚れた自分の両腕が、お父さんとお母さんの生首を掴んでいる光景だった。

    二度と手にかけたくないと決意していた筈の、大好きだった筈の、両親を――――――わたしは、また、この手で殺してしまった。

  • 76二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 18:07:45

    「あぁぁぁあああぁぁああ、あぁあああアアアアアアア!!!
    あああ、あは、ははは!ははははは!!はっはははははは、あああ、ああああっっ……!!!」

    殺した。殺しちゃった。
    ああ、わたし今、自分がどういう感情になってるのかよく分かる。どういう顔をしているのかよく分かる。
    笑ってる。おかしくなっちゃってる。叫びながら笑い飛ばしている。
    自分の親をもう一度喰い殺したのに、血を吸って貪ったのに、悲しむどころか笑っちゃってる!

    「あっははは、はははははは!ああ、あああああ、おとうさん、ああ、おかあさんはははははは!
    ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!わたし、食べて、食べて、あは、あははは!!」

    物言わぬ生首に意味のない謝罪を繰り返す。
    自分の中で決定的な何かが塵芥となっていくのが感じる。笑いたくなくても、喉は、心は、それを止めてくれない。
    それもそうだ。あれほど耐えてきたのに、人の血は吸わないと、ロアのようにはならないと、決意を固めていたのに結局はこのザマだ。ただ殺して血を吸っただけに飽き足らず、肉塊になるまで貪って、生首を雑に手にしている。
    なんて滑稽なんだろう。なんて無様なんだろう。なんて、どうしようもなく弱いんだろう。
    結局、結局わたしは14年前から何も変わっていない。何一つとして変われていなかったんだ。

    「――――さて、どうだったかしら?再び口にした両親の味は。
    ま、訊くまでもないわね。さぞ楽しそうに貪っていたわよ、エレイシア?」

    …………彼女が、わたしに話しかけてくる。狂いそうだったわたしの意識が、その声で無理矢理に現実へ引き戻される。

    「へえ、まだまともな意識があるのね。そのまま狂われても困るから良かったけど。
    何はともあれ、これで遠野志貴の命はひとまず助かったんだし、喜んでいこうじゃないの。
    ああ、それともそんな浮かない顔してるってコトはまだ食い足りないのかしら?おまえが望むならもぉっととっておきを与えてあげてもいいわよ?
    とはいえこの汚らしい食事ぶりを見るに、おまえはやはりというべきか相当はしたない女みたいね。今まで殺してきた高位の死徒たちの方がまだ幾らかマナーを弁えていたわよ!あははははははっ!」
    「………し、て」
    「ははは………ん?」

    「―――――ころして、ください。おねがいです。もう、むりです。生きていたく、ないんです」

  • 77二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 18:59:52

    シエル先輩はもう限界越えてどん底よっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!

  • 78二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 20:54:35

    >>77

    つまりまだノエル程じゃ無いんだな!!

    どん底があるだけマシだな!

    もっと沈むのが良いと思うよ!

  • 797725/06/15(日) 21:25:54

    >>78

    ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!

  • 80二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 21:55:09

    底が見えているということは底の下がまだあるって事なんですね!
    大丈夫!神様は悲鳴やら絶望が勇気や希望と同じぐらい大好きのはずだからね!

  • 81二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 06:54:16

    早めの保守

  • 82二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 11:41:11

    げんかいだ。いや、げんかいなんてとっくにこえている。
    たえられない。つらい。くるしい。いたい。しにたい。

    ………何が、なにがどんな目にあっても受け入れる、だ。わらわせる。
    受け入れた結果がコレだ。こうなる事もわからないなんて愚かすぎる。
    幻惑なんだから大丈夫、などと逃げる言い訳にすらならない。
    受け入れる覚悟も折れて、決して越えてはならなかった一線をあっさりと越えて、ずっと耐えてきた日々も無駄で無意味にした。
    そんなわたしにできるのは、もはや、床に頭をつけて死を乞い願う事以外にない。
    もう、むりです。これいじょうは、とてもたえられない。しょうきでいられない。

    「………ああ、なんだか懐かしいわ。あの時も、私を含めてみぃーーんなそうしてたっけ。
    おまえの機嫌を損ねないように、おまえに殺されないように、結局死ぬにしてもせめて少しでもマシな殺され方をしてもらえるように、今のおまえみたいに必死で肉(ゆか)に頭を擦りつけてさ。
    でもそうしたところで何の意味もなく、おまえはそんな風に怯える皆をひとりひとり丹念に、されど何の愛着もなく殺していったわよね」
    「あ、あ……あああ、ぁああ……!」
    「―――――殺してくれだなんて、随分とムシのいい事ほざきやがるじゃない。私がそんなお願いを聞くとでも?
    私がおまえを殺してあげるのはまだまだ先の話。まだまだこんなものじゃあ私の憎悪は到底晴れない。
    おまえがもっと苦しんで、苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんでから殺すわ。
    ああ、ついでに今後もう一度殺してくれなどと言ってきたら問答無用で志貴クンを殺すとも告げておくわ。そんな自分勝手極まる発言は二度と聞きたくないしね!」

    けれど彼女は、聞き入れてくれない。それどころかもっと苦しめようと、わたしを壊そうとしてくる。
    ああ、そうか。今になって、今更になって、やっと心から本当に理解した。
    これが、わたしがかつて殺してきた人たちの気持ちなのか。
    どれほど苦しめられようと、どれほど乞い願おうと、有無を言わさずに地獄を味わされ続ける。
    こわい。ただひたすらにこわくて、くるしい。
    彼女がこわい。ノエルが、たまらなくこわい。

  • 83二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 13:20:37

    『ノエルが怖くてたまらない』そうだね、そうだよね、怖いわこの人……………

  • 84二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 15:17:21

    シエル先輩の行き着く果てが不安しかない…!
    シエル先輩幸せになれますか…?
    ノエルさんは本当にどこまで復讐に堕ちればいいですか?

  • 85二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 15:44:54

    最近ちょっとアンチ・ヘイト創作に足突っ込みかけてる気がするなぁ…
    まぁ作者がそうでないと言うのならそうではないと思うけども

  • 86スレ主25/06/16(月) 20:06:14

    >>85

    このSSを見てくれているスレ民にもこの際なので言っておきますがスレ主の考えに『ノエル先生の復讐をノエル先生“だけ”の都合のいいハッピーエンドには絶対にしない』というのがあるんですよね

    なのでちょっとネタバレ言うとこのままシエル先輩も志貴クンも一方的に殺してハイ完全勝利だ……なんて結末は書きませんし、必ずどこかのタイミングで調子に乗りすぎたツケが回ってくるようにプロットを立ててます

    そのツケというのが一体なんなのか、どのタイミングでやってくるのかはこれからの展開でご想像ください


    それはそれとしてアンチ・ヘイトに突っ込みかけてるってのは……まあ正直スレ主も思うけど拷問パートももうすぐで終わらせる予定だからシエル先輩には申し訳ないけどあとちょっとだけ耐えてください

    (ぶっちゃけスレ主としても前回の√以上にダラダラ長引いてしまってる事に思うところがあるし上手く区切りつけて終わらせたい)

  • 87二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 20:07:16

    >>86

    そうでなくては

  • 88二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 21:36:57

    >>86

    良かった!!!!!!このままノエルさんが復讐完遂!なんてことはなくシエル先輩が絶望でどん底でもうヤバいのにまだ拷問なんてことも無いのか、良かった…!

    どんな感じになるのかとても楽しみです!お待ちしております!

  • 89二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 21:41:03

    全員等しく不幸にならないとな

  • 90二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 23:55:34

    シエル先輩ももう戻れないところまで堕とされてしまったけどせめて生き残れる事を願って保守

  • 91二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 02:24:30

    調子乗りまくったノエルさんがどうなるのか楽しみ(結構言ってることヤバい)どうかこの物語が良き終わりでありますように…………

  • 92二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 08:17:10

    保守

  • 93二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 17:34:28

    保守

  • 94二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 17:49:46

    「ところでエレイシア、話は変わるけど―――――さっきから厭に外が騒がしい事には気づいてる?」
    「……え………?」

    言われて初めて、外から聞こえてくる騒音を察知する。
    音だけじゃない。窓からうっすらと見える景色もおかしい。
    なぜかぼやけていてよく視認できないが、何かが明るく揺らめいている。ごうごうと、何かが勢い付いているような音を立てている。
    加えて、間延びしたような音も聞こえてくる。……いや、これは、音というよりは誰かが叫んでいるような感じだ。
    それも一つじゃない。二つ、三つ…………数え切れないほど耳に入ってきている。

    「あ、ぁ……え……?」

    今、とてもよくない光景が頭に浮かんだ。外の異常を悟ったわたしはノエルの方へと顔を向ける。
    彼女は笑顔のまま、何も言わずに外の方へ顔を動かす。明らかに『行け』と、その目で確認してみろと、わたしを促していた。
    不安と恐怖に襲われながらも、ゆっくりと立ち上がり、自分が入ってきた入店口へ一歩ずつ向かう。

    恐る恐るドアノブに手をかけ、そのまま徐に開ける。
    お願いだから、わたしの想像とは違ってほしい。実は明るく揺らめいているのはクリスマスの飾り付けの蛍光灯か何かで、悲鳴のような喧騒は単にお祭り騒ぎに燥いでいるだけだったりとか。

    そうだ、きっとそうに違いな、い―――――

    「――――――あ。あ、あ………あああああ……っ!」
    「おーおー、見事なまでに阿鼻叫喚になっちゃってるねぇ」

    燃えている。ほんさっきまで夜の静けさに包まれていた筈の平和な街が、跡形もなく燃えさかっている。
    目につくのは街並みだけじゃない。全身が燃えていて声も上げられずに悶えているヒト、怪物と化してヒトを喰らっているヒト、怪物から逃げ惑っているヒト、雑に積み上げられている焼け爛れた死体(ヒト)たち。
    色んな人間が、目まぐるしく視界に入ってくる。ただの地獄が、広がっていた。

  • 95二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 20:05:13

    頑張ってあともう少しだ先輩…………

  • 96二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 20:46:32

    「どう?エレイシア。今、この地獄絵図を目の当たりにしてどんな気持ち?
    目を背けたい?受け入れたくない?悍ましい?怖ろしい?絶望しか感じられない?
    それとも、もっと見ていたい?自分からより一層悪辣に掻き回してやりたい?素晴らしい?面白い?愉快に感じられる?」
    「―――、―――、―――」
    「まあ、何れにしろ目の前に広がるこの世のものとは思えない地獄が実際に起こった過去があるのは事実よね。
    だって、私はこの地獄を味わされた被害者で―――――おまえは他ならない当事者だったでしょう?」
    「…………やめ、て……やめて、やめてやめてやめて………!」

    彼女の言葉一つ一つが、わたしの心を深く抉ってくる。
    これを作り出したのは、この地獄を生み出したのはおまえだと。どれほどヒトとして抗おうが、贖罪をしようが、その事実は永遠に変わらないと。
    愉しそうに見える筈がない。一瞬たりとも視界に入れたくない。お願いだからもうやめてほしい。

    「あら、やめてほしいの?やめてほしいとは、つまりこの地獄を見せつける事?故郷が壊れ行く様を見せつけて、おまえがやったんだと詰って追い詰めて壊そうとしてくる事?
    ふふ、ふっふふふふふ、うふふふふふふふふふふ。そっか。そっかそっかそっかぁ。てことは今のおまえにとってこの光景はこの上なく不愉快にしか見えないってワケね。まだその程度には人間の思考が残ってる、と。
    いいわ。やめてあげる!もう十分おまえの尊厳やら努力やらを粉々に踏み躙れたし、絶望に叫ぶ姿も見れたしね!そろそろ現実に帰りましょっか!」
    「……え?」

    一瞬、間の抜けた声が零れる。彼女はあまりにもあっさりと、この地獄をこれ以上見せるのはやめると口にした。
    ようやく現実に戻れるのか、という安堵よりも先に不穏な気持ちが浮かんでくる。
    ノエルがこんなにもあっけなく受け入れてくれる筈がない。最後に何かを仕掛けてくる気がしてならない。

    「現実に、帰るって……どうやって、帰るんですか?」
    「んー?ああ、そんなの単純よ。やろうと思えば誰でも簡単(シンプル)にできる方法よ。
    ――――――はい、どーん★」

    瞬間、不意に胸から激痛が走った。状況が理解できなかったが、視線を下に降ろした途端にその疑問は解決した。

    「――――――、ぁ」

    彼女の腕が、わたしの左胸――――――心臓を、貫いていた。

  • 97二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 22:45:15

    現実に帰れるのは嬉しいけど、激痛とともに帰還は苦しいな…辛いし、悲しいし

  • 98二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 23:58:50

    「――――ぅぶ、っ……かは、ぁ………ァ、あ……!」

    いたい、痛い痛い痛い痛い。痛くて、熱くて、苦しい。
    反射的に口から血が飛び出る。立っていられなくて、そのまま地面に成す術なく倒れ落ちる。
    呼吸がしにくい。というよりできない。掠り声をひり出すのが精一杯だ。

    「あの時のおまえもさ。こんな風に白い真祖から心臓を貫(ぬ)かれて、そうしてボロクズ同然に放り落とされたよね。
    思えばそれがキッカケでおまえとアイツの因縁と確執が出来たワケだけど、私からすれば正直そんな因縁なんざどうでも良かったわ。
    おまえはアイツの事を死徒より危険で悍ましいバケモノと口酸っぱく何度も言ってたわね。
    でもね。私にとっては故郷を滅ぼし、家族や知人を目の前で殺し尽くし、悪逆非道の限りを尽くしたおまえの方がよっぽどのバケモノなの。わかる?」

    倒れて何もできず、意識も朦朧とし始めたわたしに、ノエルは淡々と語りかける。

    「『記憶の中のノエル』がどう思っていたのかは知った事じゃないけど、私はおまえ以上のバケモノは見たことがない。無論、私もあの金髪真祖とやり合ってる経験があるからその脅威が如何に凄まじいかはよーく理解しているわ。
    けれど……これは、あくまで私の予想なんだけどさ。おまえ、ロアだった時にアルクェイド・ブリュンスタッドをあと一歩のところまで追い詰めていたんじゃないの?」
    「………………!」
    「よくよく考えたらおかしいとは思うのよ。いくら元ロアの転生体にして異端狩りの代行者だからって、それでも本来なら取るに足らない筈の人間だったおまえという一個体をあそこまで意識してる事が。
    そこまで個として意識してるって事は、つまりそれだけ自分が追い詰められた過去があるんじゃないかなって。
    そういう単純な考えのもとに今こうして訪ねてるんだけど、どうなの実際は?」
    「――――――」

    そんなコトまで、分かるのか。
    などと驚く間もなく、加速度的に意識が消失していく。

  • 99二次元好きの匿名さん25/06/18(水) 08:53:08

    保守

  • 100二次元好きの匿名さん25/06/18(水) 16:59:41

    保守

  • 101二次元好きの匿名さん25/06/18(水) 17:59:05

    やっと現実だ━━━━━━━!!!!!!!!!
    志貴シエルのイチャイチャかノエルシエルのドロドロか…?どっちだっ!?

  • 102二次元好きの匿名さん25/06/18(水) 17:59:53

    「あ、もうまともに喋れないか。でもまあ、その反応を見るに当たってる感じかしら?
    ほら、やっぱりおまえの方がバケモノじゃない。真祖と比較した場合はともかく、死徒の中じゃあおまえ以上に強大なヤツなんていないんじゃないかしら?
    ……いいえ、いる筈がないわね。当時でさえ真祖を追い詰めるほどの手合いだったんだし、原理血戒を幾つも内包している今のおまえに敵う死徒なんざ世界のどこにも存在しないでしょう。
    まさに、おまえという吸血鬼は最強にして最悪の厄災ね」

    穴の空いた胸から流れ出る命の水と共に、カラダの感覚が急速に失われていくのが分かる。
    段々と、ノエルの言葉も聞こえなくなる。意識が途切れ出して、自分の状態すら分からなくなってくる。
    ああ、ようやく死 ねる。この地獄から解放される。そういう安堵と同時に、現実に戻ってもまだ拷問は続くという事実を思い出す。

    ………この先わたしは、最期まで彼を庇い続けていられるだろうか。
    彼を殺させないように、彼女の機嫌を損ねないように上手く庇いきれるだろうか。
    衝動に負けて、二度も大切なヒトを殺して食べたわたしが口にできたものではないが―――――彼女は、狂っている。
    狂っているが故に、わたしが上手くやれていても気まぐれに彼を殺すかもしれない。そうでなくとも、いっそ殺す方がマシなコトさえするかもしれない。

    それが、こわい。ヒトとしての理性も、覚悟も、尊厳も、何もかもを再び失ってしまったが、それでも彼だけは守り抜きたい。
    守り抜きたいが故に、そうしてあっさりと彼を殺されてしまうような未来の可能性が、とてつもなく怖くて仕方がない。

    「じゃあ、このまま切り上げましょうか。
    ふふふふふふふ。この数ヶ月間じっっっっくりと観させてもらったけど、結果としてはちゃんと精神を甚振る拷問として成立してたわね。
    無駄だってのに無様に耐えしのいでいたのは見苦しかったけど、それを観るのもまあ暇つぶしにはなってたわ」
    「……ぃ……で……」
    「?」
    「……と、ぉ……くん……は……こ………ぉ……さ………な……で…………」
    「ああ、大丈夫。彼は殺さないしこれと言った危害も決して加えないわ。おまえが身の程を弁えてる限りは、これからもそこは約束するわよ」

  • 103二次元好きの匿名さん25/06/18(水) 18:02:18

    一応部分部分のルールは守るのか…律儀というか変に真っ直ぐというか…まぁ約束してくれるのは嬉しいけどね

  • 104二次元好きの匿名さん25/06/18(水) 18:57:43

    「――――――そぅ、です……か…………」

    よかった。彼女の言葉を信用するなら、彼は殺さないでいてくれるらしい。
    微かな安堵を覚える。途端に、霞がかっていた意識が今度こそ消えていく。
    取り敢えず、もう彼女にほんの少しでも抗うのはやめよう。
    どんなに理不尽な拷問でも、それが自分という罪人に課せられた当然の罰だと考えよう。
    ただ……ただひたすらに、本当の意味で殺されるその時まで、彼女の憎悪を受け続けよう。
    何れにせよわたしには、最早それしか彼を守れる手段がないのだから。


    『―――――それでは、今宵の追憶の一時はこの辺りで終幕とさせていただきます』

    『懐かしく、輝かしい。そんなかつて故郷の記憶を存分に堪能された事でしょう。アナタにとって、この体験が善き思い出になれたのなら幸いにございます』

    『さぞ、楽しかったでしょう。さぞ、充実した気分だったでしょう。さぞ、苦しかったでしょう。さぞ、辛かったでしょう。さぞ、悲鳴を上げたかったでしょう。さぞ、誰かを殺してその血(いのち)を吸い尽くしたかったでしょう』

    『私としてはもっともっと怪物としての性(さが)を剥き出しにしてほしかったと残念に思っていますが、それは“これから”に期待しておくとします』

    『さあ、夢幻から覚める時間です。アナタの目覚めが、どうか善きものでありますように――――――』


    わたしという意識が暗闇に落ちる。世界が終わる音を聞きながら、不明瞭な境界線に沈んでいく。

    今わの際に垣間見えた天蓋の月は、真っ赤な果実のようにどこまでも朱かった――――――。

  • 105二次元好きの匿名さん25/06/18(水) 19:03:28

    これは良きTYPE-MOONの表現文章すぎる…神だわ…

  • 106スレ主25/06/18(水) 19:55:55

    ――――Note.終わりの始まり――――
    眠っていた先輩が目を覚ます。
    しかし、現状は何も変わらない。
    俺も彼女も、依然として何もできない。

  • 107二次元好きの匿名さん25/06/18(水) 20:46:55

    「…………………」

    言葉を発する事もなく、ただ黙ってその成り行きを観続ける。
    先輩がノエルの幻惑の魔術で眠らされてから、もう1時間近く経った気がする。
    以前に礼拝堂で俺も一緒に食らった時は、恐らく現実では数分程度の時間しか経っていなかったろう。
    しかし、今度は全然違った。体感で10分経とうが30分経とうが、二人とも目覚める気配がない。
    彼女らは今、幻惑の魔術が見せる幻の中でどれだけの時を過ごしているんだ?
    ノエルは一体、何をしている。先輩は一体、この女に何をさせられている?
    半年以上に渡って先輩が痛めつけられる様を延々と見せつけられ、自分でも分かるぐらいに精神も肉体も摩耗してきている。
    それでも、気にならずにはいられなかった。同時に、何をされているのかを下手に想像するのが怖かった。
    もしかして、このまま永遠に目覚めないんじゃないのか。
    ノエルの事だ。復讐に全てを捧げてきただろうこの狂人なら、自分の精神ごと先輩を幻惑の中に閉じ込めて心中したりてもおかしくない。
    お願いだから、そんな事だけはやめてほしい。だが、椅子に固定されて身動きの自由を奪われている俺にできる事は、ただこうして無力に見つめる事しかない。
    悔しい。口惜しい。悲しい。最悪の形とはいえ、やっと、やっと先輩と再会できたのに。
    俺は、自分の無力さにまたしても絶望しながら事の成り行きを見守る事しかできないのか。

    「――――――っ、ん……ふぅ、ちゃんと戻ってこれたわね。
    つっても、流石に一時間も同じ体勢とってたからちょっとキッツイわぁ……」
    「――――――っ……………ぁ………ここ、は………」

    「――――――!」

    などと思っていると、今まで何度も耳にしてきた声が聞こえた。
    戻って来た。戻ってきて、くれた。

    「せん、ぱい。せんぱい……!」
    「あ……遠野、くん……」

    思わずあの人に声を掛ける。よかった、ちゃんと返事も返してくれている。
    戻ってきてくれた。その事実だけで、とっくに枯れ果てている筈だった涙腺が緩んでくるの感じた。

  • 108二次元好きの匿名さん25/06/18(水) 21:10:52

    志貴も幻惑魔術に引き込まれたりしなかったのは不幸中の幸いだったな…
    ノエルがその気になれば志貴もまとめて取り込めただろうし

  • 109二次元好きの匿名さん25/06/18(水) 23:13:02

    「あらあら志貴クンったら、もしかして泣きそうなの?
    たかが一時間ちょっと眠ってただけなのにどうしてそんなに安心しているのかしら?
    あ!もしかして私がこのままコイツを幻惑の中で殺したりとか想像しちゃったぁ?」
    「……………」

    ノエルが喧しく、わざとらしく横から口を挟んでくる。うっとおしい事この上ない。
    どうせ、これからまた先輩を拷問という名の虐殺にかける癖に。
    俺がどんな気持ちで先輩を案じているのかも知らない癖に。

    「ふん、まあどうでもいっか。キミは引き続きそこでこの女が死ぬまで観てればいいんだし。
    ね、そうでしょうエレイシア!」
    「……ええ、そうですね。何もできない遠野くんはそこでわたしが滑稽に苦しむ姿を延々と見ていてください」
    「―――――え?」

    今、先輩が何か違和感のある発言をした気がする。
    『自分が滑稽に苦しむ姿を延々と見ていろ』………?
    違う。先輩は、そんな言い方はしない。俺の知ってる先輩とは、何かが違っている。言葉遣いがおかしい。

    「……………せん、ぱい……?」

    俺のそんな違和感を察したのか、或いは分かっていた反応なのか。
    先輩は、ほんの一瞬だけ憂いているような、とても申し訳なさそうな顔を浮かべた。
    どうしてそんな表情をするのか。そう言いかけて、

    「―――――聞こえなかったんですか?二度も言わせないでください。いよいよ聴覚まで鈍くなりました?
    貴方なんてその気になればこの状態でも十分に殺せるんですよ。ああ全く、そんな誰でも理解できるような事も分からないなんて、これだから取るに足らないバカな人間は始末に負えない。
    本来であれば、貴方のような矮小な血袋如きにこんな醜態を見せつけるのは堪えられたものではありませんけど……このわたしでさえ、ノエルの前ではこの通り一方的に弄ばれるだけです。
    その様をこれまで散々見てきているんですから、自分の置かれている立場も自ずと分からせられている筈でしょう?
    要は身の程を弁えろ、と言いたいんですよ。この状況において、貴方はその辺に転がる小さな石ころと何も変わらないんですからね?」

  • 110二次元好きの匿名さん25/06/18(水) 23:49:24

    「――――――――――」

    意味が分からない。道理が理解できない。何も、何も言葉が浮かんでこない。
    この人は、誰だ。本当に先輩か?
    なんであんな事を言うんだろう。血袋如きって、小さな石ころって。
    そんな、そんな言い方って―――――まるで、吸血鬼そのものじゃないか。

    「……へえ。どういう風の吹き回し?急に態度を変えてくるじゃない。ロアの人格汚染が再発でもした?」
    「まさか。アレは知っての通りとっくに滅んでますよ。これはシラフですよ、シラフ。
    死徒になって、思い出したんですよ。なんて人間は脆くて儚いんだろうって。他愛もない命の癖して、無駄に数を増やしては身に余る欲望と傲慢を剥き出しにして生きているのが大半だって悟ったんです。
    ですから、今まで人間に合わせながら品行方正を取り繕って振る舞うのも馬鹿馬鹿しくなっちゃって。この際だから、思っている事を素直に吐き出そうと思っただけですよ」

    どうやらノエルにとっても予想外だったみたいだが、そんな事はどうでもいい。
    どうしてそんな酷い事を当たり前のように言い始めるのか。分からない。俺には分からない。
    お願いだから、さっきまでの先輩に戻ってほしい。そんな先輩を見るのはたまらなく嫌だ。見ていられない。

    「せんぱい。………せんぱい!」
    「………なんですか。軽々しく声をかけないでくれませんか」
    「なんで……どうして……そんな風に、なるんですか。何か事情があって、それで、そうせざるを得ないんですか?」

    そうだ。そうに違いない。でないとこんな事をこの人が口にする筈がない。
    誰よりも吸血鬼を憎み、多くの人を守ってきたこの人が、吸血鬼みたいな言動をする筈が。

    「――――――事情なんて、特にありませんよ。単に素に戻っただけです。
    いえ、正確に言うと死徒としての価値観になっただけ、でしょうか。要するに、人間に対する見方が自然と変わったという事です。
    はあ……全く、こんな事もわざわざ言われなければ分からないなんて。人間だった頃のわたしに夢を見すぎていて見苦しいですよ、遠野くん」

    「――――――、は」

    変な、笑いがこみ上げてくる。そんなのウソだ。あの時のように、俺を吸血鬼として殺そうとした時のように、自分の感情を殺して騙しているだけなんだろう。そうでないと、おかしい。

  • 111二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 08:14:03

    このレスは削除されています

  • 112二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 08:49:05

    うーんシエル先輩の演技か、それともこうすることで何かしらノエルさんの気を削ごうとしてるのか…………
    もしくはこういう態度をすることで志貴くんもノエルも騙そうとしてるか
    マジで演技とかじゃなくてこういう態度取ってるのかのどれか…?

  • 113二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 17:07:54

    保守

  • 114二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 17:44:51

    ヤバい面白すぎますわ……
    月姫もう一周してこよ……

  • 115二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 19:06:18

    だって、この人が狂う筈がない。この人は、俺やノエルなんかよりずっと逞しくて、最初から心身が善(つよ)い人間だ。
    復讐に全てを捧げて、吸血鬼を憎むあまりに正気を保てなかったノエルとは違う。
    どんなに凄絶な地獄を味わされようが、それでも性根が捻じ曲がる事はなかった。なかったからこそ、地下の礼拝堂でノエルに幻惑の魔術を仕掛けられても自力で立ち直れていた。
    誰かを守る為に戦う意思を決して手離さず、骨身を惜しまずに貫き通す。それが、シエル先輩をシエル先輩たらしめる在り方なんだ。
    それは、悪辣が過ぎるノエルの奸計によって吸血鬼に堕とされても錆び付く事はなかった。少なくとも、ほんの1時間以上前まではそうだった。

    「はっ、自分にとって受け入れがたい事実を言われた途端にそうやってまた笑うんですね。
    見てくださいよ、ノエル。実に滑稽で、それでいてつまらないとは思いませんか?
    どうしてあんな情けない男なんかに一度は惚れたのか、過去の自分に本気で問い質したいものです」
    「……本当に、随分な変わりようね。素直になったとは言うけど、いきなり吸血鬼らしくなりすぎじゃない?」
    「おや、何か問題でも?こういうのも我ながら癪ですが、貴女にとっても怪物らしくなったわたしを甚振れるのは本望でしょう。
    やれやれ……こんな鎖で拘束されていなければ、こんな対死徒用の聖堂(けっかい)に囚われてさえなければ、今頃は貴女も八つ裂きにして食べ尽くしていたでしょうに。
    あ、或いは貴女の父親と同じように踏み潰していたかもしれませんね!」

    じゃあ、なんで。
    どうして、何があって。
    この人は、こんなコトを言っている?
    本当に、この1時間の中で彼女に何があった。
    何が彼女をこうも変えてしまった。

    「―――ふーん。それは随分と恐ろしいコト言うじゃない。ここに来てそんな露骨に煽られるなんて思ってなかったわ。
    じゃあ、そこまで醜悪に堕ちたおまえにはますます遠慮する必要なんざないか。魂胆はどうあれ、いよいよ言動までロアと変わらなくなっちゃったね」

    そんな俺の動揺は、ノエルから凄まじい殺意を感じ取った事で鳴りを潜める。
    彼女が先輩に向けて発しているそれは、仮に死者や屍鬼程度が同じように向けられれば一歩も動けずに死ぬんじゃないかと思わせるほどに暴力的で常軌を逸していた。

  • 116二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 20:14:23

    >あ、或いは貴女の父親と同じように踏み潰していたかもしれませんね!


    ヤバいヤバいノエル先生ブチギレてる

    仮に自分にヘイト向けさせる為の演技だとしてもここを口にするのはマズすぎるよシエル先輩

  • 117二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 22:25:15

    あの『残虐無慈悲なふるさとに戻り吸血鬼になりながらも必死に人間のふりをしながら大好きな家族や友人や近所の人に囲まれながら仕事をしていた』空間も時間すらたったの一時間だったとか言ってるんすか…?
    えげつなッッ……………精度上がりすぎでしょ?
    そろそろこれはシエル先輩我慢の限界通り越して反逆するか━━━━━━━━━━━━━━─────!?

  • 118二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 23:52:32

    実際に今のノエルなら比喩なしで殺気を飛ばすだけで不死者辺りまでなら殺せそうだな……そういった攻撃的な意思波形にも神秘を重ねて攻撃や威圧による強制硬直とかに転用できそうだし
    まあ流石にシエル先輩のようなレベルには全然通用しないだろうが

  • 119二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 08:53:29

    保守

  • 120二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 09:30:01

    あさ保守

  • 121二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 18:15:25

    ほしゅ

  • 122二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 22:37:22

    「そっちがそういうつもりなら、私にも考えがあるわ。
    本当はこうするつもりなんてなかったけど、今の発言で気が変わっちゃった」
    「へえ、それは一体どんな?もっとも、何をされようがわたしの振る舞いが変わる事がありませんけど」

    ノエルは淡々と話しているが、ゾッとするほどに憤怒の混じった低い声で先輩に告げている。それが自分に向けられているワケでもないのに、俺の手は気がつけば微かに震えていた。
    先輩は先輩で吹っ切れているのか、それとも本当に慣れ切っているのか、吸血鬼のような悪辣な笑みと余裕を崩していない。

    「いやいや、そんなんじゃなくて。何かするっていうより――――――“何もしない”。
    しばらくはそのように徹する事にしたわ。具体的に言うとほんの数ヶ月ね」
    「……は?」

    だが、その余裕もすぐに困惑へと変わる。
    俺もノエルの発言の意図が分からない。何もしない?これまで散々、俺に地獄を見せつけておいて?先輩を、地獄に晒しておいて?
    間違いなく、ノエルは先の先輩の発言で激昂しているし、今もその殺意は収まっていない。想像したくはないが、今まで以上に目を背けたくなるような凄惨極まる手段を取る筈だ。なのに、“何もしない”とはどういうつもりだ?それも、数ヶ月だって?
    それともそれが、この女の考える凄惨な拷問だとでも言うのか?何もしない事のどこが凄惨だって言うんだ?

    「どういう事です?いつも通りに好き勝手に拷問して、わたしの悲鳴を愉しむんじゃないんですか?」
    「ええ。だから悲鳴を愉しむ為に何もしないの。それ自体がおまえへの拷問だからねえ」
    「……意味が分かりません。何もしない事が、わたしへの拷問?何を言っているんです?」
    「やだなぁ。分からない?まあ確かにいきなりそんな事言われちゃ困惑もするか。
    でも、どういうつもりかは教えてあげない。私いま、サイッコーにブチギレてるからさ。態度までロアだった頃と変わらなくなったおまえなんかに教えてやる道理も必要もないんだわ。
    ま、そのうち自ずと分かるわよ。自ずと、ね?」

    ……分からない。俺もノエルの言っている事を一言一句聞き漏らさずに聞いたが、その上でこの女の意図が理解できない。

  • 123二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 08:23:02

    保守

  • 124二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 08:29:17

    怖い。この女がこの瞬間、どういう思考で何を企んでいるのか。それが全く読めないのが、怖ろしい。

    「貴女……本当に、何を考えているんですか?」
    「だから教えないっつーの。同じコト訊かないでくれる?
    とまあ、そういうワケで今日からしばらくはおまえを観察するだけに留めるわ。よろしくね?」

    そう言い終わるなり、ノエルは踵を返してさっさと教会を出ていってしまった。
    半ば蚊帳の外扱いだった俺は、ひとまずはノエルという狂人が去ってくれた事の安堵と、あの女が何を企てているのか分からない事の恐怖でいっぱいだった。

    「……想定していた状況と大きく異なりましたが、まあいいでしょう。どのみち、わたしも貴女も何もできませんしね」
    「………!」

    そんな相反する感情でぐちゃぐちゃになってた俺の思考は、目の前から聞こえた声でハッとなる。
    彼女の方へ意識と目線を向けると、冷たい視線と表情を俺に向けていた。

    「相変わらず見ているだけで不快にさせられますね。『あの時』と同じように、随分とボロボロじゃないですか。
    ノエルも残酷ですね。いっその事殺してしまった方が、貴方にとってもこれ以上につまらない地獄を見せつけられずに済むというのに」
    「……せんぱい。見ての通り、ノエルは出ていったんだ。だから、もう……そんな演技なんか、しなくていいじゃないか。
    ノエルの気を引く為、あくまで彼女を俺から逸らす為に、無理してそうしていただけ……なんです、よね?」

    そうだ。きっとそうに違いない。冷静に考えればそうじゃないか。
    さっき、この人は一瞬だけ申し訳なさそうな顔を俺には向けた。という事は、今の今まで吸血鬼みたいに振る舞っていたのも俺をノエルから守る為のやむない手段だったんだろう。
    優しいこの人の事だ。心を痛めつつも、それでも自分の感情を押し殺してノエルの注意をわざと自分に向けたに違いない。
    何もしないと言われたのは流石に予想外だったみたいだが、それは結果的に言えば目論見通りに行ったと見ていいだろう。
    だから、ノエルがこの場から消えた以上は演技を続ける必要も意味もない。ほんの1時間前の先輩に戻ってくれる筈で、

    「―――――五月蠅いですよ。この期に及んでまだ演技だと思っているなんて、遠野くんはお人好しだけでなく愚かさと滑稽ぶりも国宝級のバカですね。本当に殺してあげましょうか?」

  • 125二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 10:29:14

    うーん、演技かと思ってたんだけど…………違うのか?
    ノエル氏居なくなっても続けてるし…………うーん?
    何かしら策があると思いたいし信じたいな━━━━
    でも内心怖いって思ってるから普通にいつも通りの先輩ではあるんだよね…………………………………

  • 126二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 11:04:07

    こっからシエル先輩がどうするのか
    ノエル氏が、どうするのか楽しみ
    だけどさ『何もしない』って文字通りなにもしないって事なのか?
    きっと先輩の巻き返しがあると信じる
    ノエル氏のツケが多分きっと、どこかで回ってくるとも

  • 127二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 12:34:05

    二人の食事はどうすんだ?

  • 128二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 15:58:18

    「貴方の知っているシエルはもういない。今こうして貴方の前にいるのは、人間を殺してその血を啜る事に何の躊躇いもない、エレイシアというただ一人の吸血鬼なんです。
    だから貴方がどれほど戻ってくれと願おうが、わたしがシエルに戻る事はありません。だって、今のコレがわたしにとってありのままの姿なんですから。
    吸血鬼として心から自覚した以上、貴方の事も今はただの非常食………いえ、それにすら値しない“カビの生えたパン”に等しいんですよ。それ以外の価値なんてわざわざ挙げるのも下らない。
    それが理解できたら、そんな見苦しい一縷の望みを押しつけるのはやめなさい。
    仮にこれが演技の振る舞いだったとしても、わたしが吸血鬼――――人類とは相容れない死徒である事に、変わりはないんですからね。そうでしょう、遠野くん?」

    ……ああ、駄目だ。考えがまとまらない。というより、言葉が出てこない。
    目の前にいるこの人は、間違いなくシエル先輩だ。いつかの礼拝堂でノエルの幻惑で見せられた、ロアだった時の少女でもない。
    けど、俺は今、この人を“違うモノ”として認識しかけてしまっている。だって、あまりにも言動が乖離しすぎてる。本当にロアか何かに乗っ取られたんじゃないか。

    「じゃあ………じゃあ、何で。どうして今まで、俺を庇ってくれたんだ。
    せんぱいは、言ったじゃないか。あの時に、ノエルに対して……俺を復讐の道具として使おうとしないでって、自分は何をされてもいいからって………そう、言ってたじゃないか………っ!」

    そうだ。俺がノエルに利用されて先輩を襲ってしまった後に、この人はそうしてあの女の手から俺を守ろうとしてくれた。心から吸血鬼として自覚しただとか言っているが、ならアレは嘘だったのか?

    「ああ、アレは単に貴方をこれ以上“品のない粗悪な味”にさせない為の口実に過ぎませんよ。
    ねえ遠野くん。あの時にわたしと交わってから、貴方の中で死徒化への変態が更に進行した事には気づいてます?
    死徒の肉体は決して上等な味ではないんですよ。これまで何度も食べさせられてきた事による経験則ですけどね。
    今はまだ4割以上といった具合ですが、ここに連れて来られたばかりの貴方と比べて明らかに香味が抜け落ちてるんですよ」

  • 129二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 16:28:21

    おーう、死徒の変態が上がってる………………
    どゆこと?

  • 130二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 19:18:59

    シエル先輩言ってること嘘だらけ……ってこと?

  • 131二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 22:02:14

    >>129

    >>5のDAY16を見たら分かるけどシエル先輩は直前にノエル先生の嫌がらせで左目を抉り取られて右足も切り落とされた状態で志貴とヤったんだ

    当然そんな状態で行為に及べば志貴の方にも血が大量にかかるから、それで汚染と侵食を受けた肉体が死徒に変質しつつある……という感じなんだ

  • 132二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 23:52:12

    「ですから、せめてそれ以上味を落とさない為に結果としては庇った。非常食未満のカビの生えたパンに等しいと言いましたが、それでもいつかここを脱け出す時に血袋(エサ)が全くないよりはマシというだけです。
    決して、本気で貴方をノエルの殺意と悪意から守りたいが故に庇ったのではありません」

    “あの時。ロアと共に死んだ貴方をそのまま眠らせてあげていれば、こうはならなかった。でも、わたしにはそんな事……できる筈が、なかった。
    ごめんなさい。わたしの自分勝手な我儘のせいで、貴方を……こんな、苦しい思いをさせて、しまいました”

    あの時。先輩は俺を優しく抱きしめて、涙に頬を濡らして、心から悔やんでいる声で言っていた。
    他の誰でもない、俺に向けて、俺の為にそう言ってくれた。

    …………今のこの人は、問われればそれもまたウソだと答えるのだろう。
    耐え難く、受け入れ難い事だが、どうやら今の先輩はそういう姿勢を崩さないらしい。
    ただ、俺にはあの後悔からの言葉がどう考えてもウソだとは到底思えない。本当に打算で庇っているに過ぎないのなら、そんな言葉なんて一々かけてやる必要もない筈だ。

    これは、あの日の夜と同じだ。代行者として俺を殺そうと追い詰めて、その上で自分を憎ませようとして俺に冷たく接した。
    あの時、俺はショックで一度は失意の底に叩き落とされた。最後の最後に先輩が無理して感情を殺している事に気づけたから良かったものの、何か一つ選択を間違えば、俺たちは互いにすれ違ったまま死んでいただろう。

    そして、ショックを受けているのは今だってそうだ。唐突で、それでいて俺の知っているシエル先輩なら絶対に言わないようなコトを当たり前のように口にしている。今の彼女は、振る舞いだけならば吸血鬼そのものだ。

    でも―――――いや、だからこそ。俺はもう、この人を疑いたくない。

    「それでも、せんぱいが………シエル先輩が、俺を助けようと動いてくれた事実は変わらない。
    例え、俺が何を言ったところで貴女がそれを否定して一蹴したとしても、俺は貴女を信じます。
    だって、貴女が本当は善(つよ)い人だっていうのは、他の誰よりも俺が一番知っているから。
    貴女という人を、俺の方がノエルなんかよりもずっと理解している。そう、胸を張って断言できます」

  • 133二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 07:35:45

    保守

  • 13412925/06/22(日) 08:27:48

    >>131

    わざわざ教えてくれてありがとう!

    前回のスレの時見たのに時間経ってて忘れてた…ありがとう

    なるほど前回のやつのも合わさってヤバイのか先輩…

  • 135二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 08:37:09

    このどうにかして罵倒で自分をしゃんとしよう…なんて言い方は変だけどこのシエル先輩に罵倒されたい…って人もしかしたら居るのかもしれない…………
    なんとなくだけどそう思った

  • 136二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 11:58:50

    >>135

    ハイ……居ます……ここに……

  • 137二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 19:28:26

    先輩………まじでどんな気持ちでセリフ言ってるの…

  • 138二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 23:56:25

    あの雨の中でこの人に救われた時。俺はこの人の事を本当に上辺だけしか理解できていなかった。
    代行者として吸血鬼を相手取る姿。アルクェイドと闘っていた姿。ロアと化しつつあった俺を殺そうとしていた姿。
    ロアの転生体として生まれて、決して赦されない罪を犯した過去。教会で凄絶な審問を半年も強いられた後に、代行者として只管に吸血鬼を殺し続けてきた人生。
    それらを経て尚も善(つよ)い意志を決して失わずに、自分から放棄せずに戦ってきた。
    たった二週間にも満たない出会いだった。だけど俺は、この人の全てを知った上で、この人への想いは決して曲げなかった。その想いは今も露ほども変わっていない。

    だから俺は信じる。この人が何度否定しようと、この人を信じる心を絶対に捨ててやるもんか。
    誰かを信じる心を完全に失ってしまったら、もう取り戻せないと思い込んで手離してしまったら、それこそ今の狂ったノエルと何も変わらなくなる。
    俺は、例え死んでもそうはなりたくない。

    「………そうですか。本当に煩わしくて鬱陶しい事この上ないですが、そこまで意地を張るというのなら勝手になさい。
    信じるだけなら、貴方の自由ですからね。せいぜい、もう二度と戻ってこない愛しのシエル先輩を夢見ながら無意味な信頼を寄せるだけ寄せていなさい。この際です。わたしもその滑稽で哀れな様を見て、暇つぶし代わりに愉しむとしますよ」

    これは抵抗だ。椅子に縛り付けられ、ナイフという武器を取り上げられ、何もできなくなった俺が唯一できる抵抗だ。
    俺はアンタと違って、最期まで人を信じる心を決して見失わない。誰かを傷つける事でしか自分を保てないような狂人なんかにはならない。そういったノエルへの意思表示だ。
    勿論、俺も先輩もこうして閉じ込められている以上、自力で助かる可能性は低い。
    先輩なら鎖を壊して拘束から抜け出すぐらいはできるかもしれないが、そんな俺でも思いつく事をあの女が想定していない筈がない。
    故にここから俺たちが生きて出るには、誰かの助けを待つか、或いはノエル自身が下手をやらかしてくれるかの二つしかない。
    だが、ノエルは用心深さと慎重さにおいては先輩よりも徹底している。後者に期待しても、それが実現してくれる可能性は限りなく薄いだろう。

  • 139二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 08:38:00

    保守

  • 140二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 08:47:01

    といかバックドアぐらいならノエルも仕掛けてそうではあるから逃げ出した所でよね

  • 141二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 09:37:21

    というかアルクの血を使ってる以上今のエレイシアってかつてのロアと同じ状態でもあるのか
    力を吸われてる状態でもあるから来る可能性はゼロではない?

  • 142二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 11:51:13

    シエル先輩色々されすぎで結構ヤバイな……………

  • 143二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 21:44:30

    じゃあ、前者に――――誰かの助けが来てくれる可能性に懸けるか?

    ………ゼロではないだろうが、それもまた望み薄と言わざるを得ない。
    そもそも俺たちが監禁されているここは、かつてロアと吸血鬼たちに滅ぼされた先輩たちの故郷の跡形。
    吸血鬼の汚染で呪われたゴーストタウンにわざわざ近寄る物好きなんかまずいないだろう。
    第一、そんな経緯がある街を教会が立ち入り禁止区域に指定していない筈がない。関われるとすればそれこそ教会の代行者――――或いは埋葬機関の連中ぐらいのものだろう。
    しかし、その教会の関係者たちもここに来る気配は全くない。当たり前と言えば当たり前だ。今のノエルは死徒の頂点である二十七祖を単独で討ち斃せてしまうほどの怪物なのだから、仮にあの女の暴走を抑える為に下手な代行者を何人寄越したところで焼け石に水だ。
    一人一人が天変地異と評される埋葬機関なら何とかしてノエルを抑えてくれるかもしれないが、存在自体が治外法権である故に『主の代行でありながら教えに背いた異端者一人を何とかして除きたい』、という教会の意向にわざわざ従ってくれるかは非常に怪しい。
    いや、実際に聞く耳を持っていないからこそ、今日まで誰一人としてここに訪れていないと言える。
    そもそもだ。仮に誰かがここに来てノエルを鎮圧できたとしても、次は俺と先輩がそのまま殺されるだけだ。経緯はどうあれ吸血鬼になった者とその汚染を受けて変質しつつある者など、教会側からすれば生かす理由は何一つとしてない。況してや助けるなんて論外だろう。
    つまるところ、教会による助けも全く期待できない。
    ………マーリオゥも、この件に関しては恐らく見捨てざるを得ない。下手に俺たちを助けようとしても自分の立場が危うくなるだけだ。彼の立場になって思えば、損得など考えるまでもない。

    「……急に黙り込みましたが、何か考え事でも?まあ、遠野くんの単純さを思えば何を考えてるかなど大体察せますけど。
    大方、助けが来る可能性を必死になって熟考していたんじゃないんですか?」
    「………先輩って、結構人の心を読んできますよね。でも、その可能性だって完全にゼロというワケじゃないでしょう?」

  • 144二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 22:17:05

    「否定はしませんよ。ですがそれはゼロではないというだけで、万に一つもないとも言えます。
    誰かの助けが来るなど、希望を抱いて祈るだけ無駄です。貴方は何も考えずに、ただわたしが死ぬまで目の前の地獄を見続けていなさい」
    「……先輩。それは、イヤだ。俺はもう、考える事を放棄したくない。
    ただ考えて、祈るだけしかできなくても、俺は思考という機能を棄てた『人形』にはなりたくないんだ。
    例え無駄で無意味だろうが、胸に生じた希望を最後まで棄てずに抱いていたい。そう思う事さえ、駄目なのか?」

    確かに俺はこの半年間、心身ともに疲弊と摩耗が積もりに積もって何も考えられずにいた。
    それは今だってそうだ。こうしてまともに思考し始めたはいいが、暗雲は一切晴れていない。考えても考えても、光が一向に差してこない。

    でも、それがどうした。今まではそれこそ人形同然だったが、ようやく遠野志貴としての自我を少しだけ取り戻せたんだ。
    折角回り始めた知性をここでまた投げ捨ててしまえば、俺はもう人間ではなくなる。ノエルに抵抗するという意思が無になってしまう。

    「駄目とは言っていませんが、いっそ貴方の言う『人形』になった方が楽だと奨めているだけです。
    しかし………ああ、それならそれも勝手に考えるといいでしょう。それでわたしがノエルの手で殺される時に、『結局、助けなんて来る訳が無かったんだ』と絶望に歪むだろう貴方の顔と絶叫を楽しみにするのも一興というものです」
    「………うん。せいぜい、そんな未来が来ないように希望を抱きながら毎日祈りを捧げておくよ」

    ここに来てからノエルが最初に告げたように、今の俺たちには思考し、祈るぐらいしかできる事は無い。

    だが、色々と考えを積み重ねていく内に、何かしらの希望が見えてくる筈。可能性がゼロという事象ではない以上、それだけで頭を回す余地が十二分にある。

    決して無意味ではないし、無意味にさせない。目の前で何よりも大切な人をこれ以上理不尽な暴力と狂気に晒させてたまるか。

    俺は、絶対に諦めない。必ず、先輩と一緒に生きてここから脱け出してやる。

  • 145二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 22:24:43

    シエル先輩の言葉にすぐ返すの流石志貴くんだわ
    どうなるか分からないけど多分きっといつかマーリオゥ司祭代行が来てくれると信じる

  • 146スレ主25/06/23(月) 22:45:21

    ――――Note.監獄の底に来たれ、断罪の花――――
    決意を胸に、考えられる可能性を頭の中で模索する。
    祈る限り、きっと誰かが助けに来てくれる。
    俺は、死んでも諦めない。

  • 147二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 22:54:41

    埋葬機関は寧ろノエルにスカウトかけてる可能性の方があるしなぁ…
    シエルが抜けた影響で空いた戦力の穴を埋めるにはノエルが最適だろうし

  • 148二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 23:54:22

    俺が再び考える事を始めてから、早くも一ヶ月の時が過ぎた。
    先輩はともかく、俺は肉体的にはまだ人間なので、定期的にノエルから食事をさせられたりシャワー室で洗浄させられたりした。
    洗浄させられたといっても、そもそものシャワー室があの女のかつての自宅のモノだから水道は当然死んでいるので、ノエルが事前に用意した水桶を使って洗っているが。
    向こうの任務が長引く間は、直前に一週間規模で身体が持ってくれる秘蹟が付与されている栄養剤を投与されるが、無論その間は何も食べられないし水も飲めないので2日~3日過ぎた辺りで飢餓感と喉の渇きが半端じゃなくなってくる。
    何も考えられなかった時はまだ何とかやり過ごせたが、冷静な思考を取り戻してからの苦痛は思い出したくもない。

    だが、そんな俺個人の苦しみなど目の前の恋人が味わされている地獄に比べれば、全て真顔で済ませられるレベルだ。
    だから俺は考えるのをやめなかった。ここから助かる方法を、誰かが助けに来てくれる可能性をひたすらに模索し続けた。
    その中で、一人だけ。そう、たった一人だけ、可能性が見出せる人物が思い浮かんだ。
    けれど、そいつはここには恐らく来ない。だって、俺とそいつはとっくに袂を別った。だから、本音を言えば来てほしいけど、来る筈がない。

    秋葉はどうなんだとも考えた。けど、記憶を辿ってみればそもそもあいつとは最後に遠野邸で縁を切っていた。
    俺が教会の方へ行く旨を伝えると、あいつは残念そうに『遠野邸に貢献する気のない者にはそのまま出ていってもらう』と告げた。
    実質的な出家に近いが、あいつからすれば出奔に近かったかもしれない。
    ……もし、ここから無事に生きて逃げ出す事ができて、それでいつか総耶に戻ってこれる日が来れば、その時は真っ先に顔を合わせにいこう。

    「………相変わらず、まだありもしない希望を考えてるようですね。よくもまあ諦めない事ですよ」
    「……先輩………」

    心底呆れた様子で話しかけるシエル先輩を見て、ふと、ある違和感を思い出す。
    ここ最近の変化だが、先輩が何故か息を荒げて蹲ったり腕や足を齧る事が多くなった。

  • 149二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 00:08:48

    これノエルにしっぺ返しが来ようとも本人へのダメージは死徒ノエルの時の失意より遥かにマシ上に覚悟決まった状態だから割とすんなり受け入れそうだし
    シエルと志貴に関してはどう足掻いても碌な結末にならないので全員詰みです

  • 150二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 02:19:51

    >仮に私がどこかで死んで復讐を完遂できずに終わってしまったとしても、こうして死徒という悪魔(いきもの)に堕ちた時点でどれほど高潔に生きようと最期は必ず凄惨な末路になるだろう。

    そこを考慮した上で前向きに捉えるなら、ある意味ではどう転ぼうと私の勝ちと言えなくもないかもね。

    【※DAY16まとめより一部抜粋】


    >>149

    ノエル先生自身も↑の地の分でこう言ってるけどシエル先輩を死徒にした時点で結果的に見れば実質的な“勝ち”なんだよな

    それはそれとして散々調子に乗ったツケをこれからイヤってほど支払わされるだろうけど

  • 151二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 10:58:08

    「そりゃあ、助かる可能性がゼロじゃない以上は諦めきれませんよ。俺の往生際の悪さは、先輩もよく知ってるでしょう?」
    「ええ、それはもうウンザリするほどに。もっとも、そこに関してはわたしも貴方の事をあまりどうこうと言えませんけど」
    「はは……そこはもう、お互い様ってコトで」

    特にハッキリと目についたのは、数日前に指先にヒビが入ってボロボロと崩れ落ちた事だ。すぐにその指はゆっくりと再生したものの、あの光景はとにかく不気味だった。
    今は割と普通に話しているが、とにかくそういう妙な変化が如実に表れている。先輩に何かしらの不吉な異常が起き始めているのは、目に見えて明らかだった。

    そして、ノエル。あの女は事前に言ったように、この一ヶ月間で俺の体調管理をしている事を除けば本当に何もしていなかった。
    “仕事のストレス発散”とか“日々の日課”とか適当な理由をつけて不意に拷問してくるかと身構えていたが、そんな事をするような気配もなく、ただ俺たちの監視しかしていない。
    依然としてどういう意図なのかが未だに全く推察できない。本当に何がしたいんだあの女は。
    自分からは何もしないように徹する事で俺たちの不安と恐怖を募らせようとでもするつもりか?
    確かに俺は不気味に思えて仕方がないが、先輩は……肉体的な異常が起こってこそいるけど恐怖の感情は殆ど見受けられない、気がする。

    ……何れにしろ、ここ一ヶ月での変化はこんなところか。
    未だにただ祈りを捧げる事しかできない現状を呪いたくなるが、それでも他に何もできない以上は堪えるしかない。
    ノエル自身が下手をやらかしてくれる可能性にも目を向けたものの、やはりというか付け入る隙がなかった。結界の維持も、鎖や枷の拘束を強化している秘蹟のかけ直しも抜かりなく行なっている。
    あの女の事だ。恐らく、自分以外の誰かが許可なく外に出ようとした瞬間に作動するような対策も仕組んでいるに違いない。
    これほどまでの異常な慎重さと周到さと油断の無さは、正直に言って俺も見倣いたい。俺にもこれぐらいの慎重さがもう少し備わってさえいたら、ノエルに騙されてここへ拉致監禁される事もなかった。
    その一方で、もしあの時にノエルからの電話を断っていたら、俺はシエル先輩がどういう目に合わされてるかを一生知らずに無意味に虚しく頑張っていたに違いない。そう思うと飛んだ皮肉も皮肉だ。

  • 152二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 14:59:21

    ヘルプ!だれか!ヘルプ!

  • 153二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 21:46:54

    夜★保守

    1人だけ可能性のある人物ってだれだろ


    お助け~!


    全員等しく不幸になってからのツケがやってきてのエンディングなのかな

  • 154二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 21:49:00

    >>153

    おそらくアルク

    エレイシアの死徒化させた薬にアルクェイドの血を混ぜてる以上かつてのロアと同じような状況になってる可能性がある

  • 15515325/06/24(火) 21:54:11

    >>154

    アルク!アルクかぁ~~全然思い付かなかった……

    そうか唯一派閥とか入ってなければ組織に入ってる訳でも無いよね………

    シエルと恋仲な状態で助けてくれると思えないけど

    志貴くん大好きだからありえるの……かな?

  • 156スレ主25/06/24(火) 23:54:44

    今日は色々と忙しかったから1レスしか更新できなかったけど明日は幾らか書ける余裕ができるかもです
    もしこのあとに深夜規制されなければちょっとだけ書いて投下します

    志貴クンの祈りは果たして誰に届くのか、ノエル先生はどんなツケを支払わされるのか、間もなくその瞬間が訪れるので乞うご期待を

  • 157二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 07:22:34

    がんば

  • 158二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 09:36:59

    朝★保守
    ついにラストスパートですね!?

  • 159二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 11:07:03

    あとは、このままなるようになれだ。
    先輩やノエルの言うように結局助けなんて来ずに終わるのか、それとも俺の祈りが届くのか。
    未来がどうなるか分からない以上、俺は希望をそこに懸ける。定まっている末路なんかじゃないんだ。だったら運に任せるだけ任せればいい。

    「―――――やっほー!ただいまエレイシア、志貴クン!今日も大人しくしていた?していたわね!」
    「っ!」

    すると、後ろの方から教会の扉が開く音に混じって、何度も何度も耳にした声が響いてくる。
    声の張本人は、相も変わらず厭にテンションの高い態度で先輩に近づいていく。

    「………大人しくも何も、こんな手足を鎖で拘束されていて動き自体も結界で鈍くさせられていれば、嫌でも大人しくせざるを得ませんよ」
    「ははは、でしょうね!今更ながらガッチガチに動きを封じておいて大正解よ。下手な拘束なんてアンタには通用しないからねえ。
    ま そんなのは今はどうでもいいとして……ねえエレイシア。ここ一ヶ月の間、なぁんにも口にしてないわよね。大丈夫?」
    「……いきなりなんですか。確かに血の一滴も飲めていませんが、貴女に心配されるほどヤワじゃないですよ」
    「――――――本当に?」
    「………!」

    ノエルの、それまでの小馬鹿にして揶揄っていた口調が瞬時に切り替わる。先輩もほんの一瞬、動揺を見せる。

    「アンタも知ってる通り、死徒ってのは人間の血を摂取しないと何れは肉体が崩壊する。
    言ってしまえば知性があろうとなかろうと肉体的にはとっくに死んでるゾンビだからね。人間を始めとした他の生き物から血液という燃料を常に補充しておかないと、自己の生存を維持できない。
    アンタはこれまで魔術を駆使して少しでも長持ちできるように工夫していたでしょうけど、それももう限界間近に迫ってきているんじゃないの?
    いいえ、実際に肉体と理性の維持が難しくなっている段階まで来ているのでしょう?」
    「それは……貴女の勝手な憶測でしょう。わたしはこの通り、まだどこも崩れてなどいませんし、吸血衝動だって十分に抑制できる範囲です。自分の肉体の現状ぐらい、しっかりと把握しています」

  • 160二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 17:22:58

    これからどうなるかな

  • 161二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 18:51:54

    動揺してるからピンチっぽいな先輩

  • 162二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 19:42:13

    まじで月姫リメイクの文なのさすがだなあ
    素晴らしすぎて尊敬する

  • 163二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 20:06:56

    「ウソ。ウソウソウソ、嘘だわ嘘くさすぎるわ!それってあくまでガワだけ小綺麗に取り繕ってるだけでしょ?
    私の目から見ても、実際には内側はもうボロッボロだっつー事は手に取るように分かるから。こちとらさ、吸血鬼と対峙して、そいつらを徹底して観察し、調査して研究してる年数(じかん)はアンタよりも長いんだわ。
    今のアンタがどういう状態かなんて、お見通しもお見通しなのよ」

    それを聞いて、言われてみればとハッとする。
    考えてみれば当たり前の事だ。ここしばらく続いている先輩の異常は、すべて人間の血を摂取していない事による肉体的影響の兆候だったんだ。
    なぜすぐに思い当たらなかったのか。先輩は今まで自分自身のと動物の血肉をノエルから与えられていたから肉体を保っていられたが、それが長期間絶たれてしまったらどうなるかなんて否応にも理解できた事なのに。

    「それだけじゃないわ。アンタの場合は、ただ肉体が崩壊するだけじゃない。
    ねぇ、今はどこまで制御できてるの?自分の中で蠢動しているだろう原理血戒をさ?」
    「……!」
    「ふふふふ。二十七祖がそこいらの死徒なんかよりも遥かに尋常じゃない量の血液を貪って取り込んでるのって、要するに原理血戒の制御の為でしょ?
    原理血戒とは、即ちそれを保有する死徒が抱える独自の世界観そのもの。自らにとっての魂であり、言い換えると自分自身の根幹を成す呪いの源泉。そして、それは年月を重ねれば重ねるほどに強大になっていく。
    原理血戒の制御を維持する事は、つまるところ己の存在維持と同義。そして、人間の血を取り込むほどにその呪いは増幅していく。
    長く生きてる祖ほど肉体維持に大量の血を摂取しなくちゃいけないって、要するにそういうコトよね?
    じゃあここで質問なんだけど、アンタが取り込んでいる原理血戒の数は幾つだったかしら?」
    「……薄々、思ってはいたのですが。何もしないという事が、わたしへの拷問になると言ったのは」
    「ええ、アンタをそこまで追い詰める事が目的だったワケ。考えてみれば簡単に思いつくでしょ?
    いやあ、どうなっちゃうんでしょうねぇ?このままどんどん制御が利かなくなっていって、その身に抱えてる幾つもの呪いが一斉に暴発しちゃったら。
    少なくともこんな寂れたゴーストタウンなんて一瞬で吞まれて、跡形もなく地上から消え去ってしまうでしょうね」

  • 164二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 20:21:31

    先輩バリピンチ…………

  • 165二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 20:41:03

    ……いつかのアルクェイドとの会話を思い出す。
    ホテルを襲撃しようとして、しかしノエルの奮闘で一時退却を余儀なくされて、そのあと間もなく地下の礼拝堂で人知れず先輩とノエルの手で始末されたという祖の吸血鬼。
    その時は地下で、かつ日中の時に早々に決着がついたから良かったものの、もし地上への侵攻を許してしまえば甚大な被害を被っていたと言っていた。

    『アイツの事だから、向こうが顔を出した瞬間に大聖堂で閉じ込めたりするんでしょうけど、それじゃあ結局時間経過で不利になって破壊されていたと思うわ』
    『も……もしそうなったら、どうなってたんだ?』
    『結界(ハコ)の中で強制的に抑圧されていた分、一気に呪いが広範囲に弾け飛んでいたでしょうね。具体的に言うと半径10キロぐらい。こんな小さな街なんてあっという間に氷漬けだったわよ』
    『―――――――――――』

    その吸血鬼……後から閲覧した教会の記録によるとヴローヴ・アルハンゲリだったか。
    そいつの原理血戒一つでそれだけの被害が生じるとアイツをして言わしめるのに、先輩の中にある原理血戒が同じように解き放たれればどうなるかなど想像もつかない。
    というより、今更ながらに思うが先輩はどうしてそんな危険極まるモノを幾つも抱えてるんだ。
    ノエルの話から察するに、この女から蘇生の為の触媒として埋め込まれた二つ以外にも内包していると思われるが、この人の中には一体何個あるんだ?

    「貴女は、何がしたいんですか。まさか、この街と遠野くんを事実上の人質にして、わたしが自分から人間の血を欲するようになるまで追い詰めたいんですか?」
    「いやあ、別にそんな躊躇う事のほどでもないでしょう?
    アンタはここに来て態度まで吸血鬼のそれに堕ちきった。それが演技なのか、本当に根底の価値観が変わったが故の変質なのか、そこはどうでもいいの。
    吸血鬼として心身ともに自覚したのであれば、人間の血を啜るぐらい寧ろ進んでやるわよね?嫌だ、なんて拒まない筈よね?」

    追い立てるように、まくし立てるように、ノエルは先輩に答えを強制する。
    自分の抱える呪いで全てを消し飛ばしたくなくば、人間の血と肉を自分の意思で喰らえ、と。

    「…………分かり、ました。ええ、別に、躊躇いなんてしませんよ。
    吸血鬼として、人間の血を啜る。ええ、当たり前です。至極当然の欲求と行いです。拒絶とか、する訳がありません」

  • 166二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 21:25:18

    先輩の口調は、その言葉に反してとても重々しい様子だった。
    他人の意思で怪物にさせられて、その上でソイツに怪物らしく血を貪れと言われて、それを無理やりに受け入れる。
    その気持ちは、俺には分からない。分かってあげられないし、分かりたくもない。
    けどこの人は、そうせざるを得ない状況に追い込まれている。そしてたった今、自分の意思で受け入れると口にした。
    もし俺がこの人の立場なら、こんな事は言えない。そんな覚悟は発揮できない。必死こいて、見苦しく言い訳しながら拒絶しているだろう。

    「うんうん。それでこそよね。これで未だに何か言い訳しやがろうものならどうしてやろうかと考えていたわ!具体的に挙げると20通りぐらい!」
    「それは、恐ろしいですね。もっとも、その必要はもう無くなった訳ですが。
    ところで、肝心の人間の血の調達ですけど……どうやって、誰の血を集めるんです?魔術師とか、一般的な犯罪者とかからですか?」
    「ええ、まあそんなところよ。特に、自らの利己目的の為に罪なき人々を平気で犠牲にしているような奴は抵抗なく殺しやすいわ。つまるところ、私にとって非常に気に食わない奴ね」
    「そうですか。まあ、誰であろうと血さえ飲めればわたしは構いませんが。それじゃあ、楽しみにしていますよ。
    まだ余裕はありますが、流石にずっと堪えられるワケじゃないですからね」

    「―――――え?なに言ってんのアンタ。血なら今すぐにでも飲めるじゃないの」

    「…………は?」

    そう言って、ノエルは呆ける先輩をよそに明後日の方向を指差す。
    この女は、今、何をしている。何を、言っている。

    その指は、一体どこを――――――ダレを、指し示しているんだ?

    「――――今すぐって………何が、今すぐ、飲めるんですか」
    「いやいや、こうして指しているんだから一目瞭然でしょう?」





    「――――――そこの目の前で椅子に拘束されている、無抵抗で無防備な恋人(たべもの)があるでしょっつってんのよ」

  • 167二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 22:23:24

    ノエルは、なぜか、なぜか俺に向けてそう口にした。
    たべもの、とは何だ。なんでこの女は俺を指差してそう言っている。

    「何を……何を、言っているんですか?わたしに、彼の血を、啜れと?」
    「いや、だって今のアンタは人の心が分からない吸血鬼なんでしょう?かつてのロアと何ら変わらない、邪悪で醜悪で極悪な死徒そのものなんでしょう?
    だったら“元”恋人だろうと目の前に食料があったら食べるのが道理じゃない。シエルだった時はゾッコンしてた志貴クンへの愛情も、今となってはどうでもいいだとか抜かしてたわよね?
    どうでもいいんなら躊躇いなく吸えるでしょ?迷いなく殺せるでしょ?彼を可哀想と思いながらもそれを嘲笑って貪れるでしょ?」
    「だと、しても…………それは、違う。約束が、違う……っ!
    そんなの、わたしを苦しめる代わりに彼を復讐に巻き込まないという約束と、明らかに違うじゃないですか。
    ええ。それに、彼は……わたしという死徒の汚染を受けている故に、血の性質も味も死徒のそれに近くなっている。
    つまり、彼は、肉体的にはもう、純粋な人間とは言えない。純粋な人間でない以上、血も人間のそれではないんです。
    だから、飲むに値しない。それは、貴女も分かっている筈でしょう……!」
    「いいえ、分かってないわね。それは言い方を変えればもう半分は人間の血、即ち『生きている血』でしょう。
    それに、約束は破ってなんかないわ。だって手にかけるのは他ならないアンタ自身の意思なんだからさ。そして、吸血鬼らしく目の前の人間(えさ)を当たり前のように食べる。たったそれだけの事よ。
    ほら、何も矛盾していないでしょう?」
    「なっ―――――、ぁ……」

    まずいな。2人が勝手に話をどんどん進めていくから内容がよく分からない。
    彼女らは今、何を話している。俺はこれからどうなるんだ。俺は、先輩は、生きてここから出られるのか。

    「……なんて、愚かな。そんなの、屁理屈にもほどがある。言葉の揚げ足取りでしかない。
    彼の血なんて、要りませんし、吸いません。わたしが吸いたいのは、香味が抜けた血じゃなくて、新鮮なヒトの血です。
    だから、そんなものは、いらない。他の人間で、十分です……!」

    心なしか―――――いや、先輩は明らかに動揺している。言葉を選んでいる感じで喋りながら、目の前のニンゲンの血は吸わないと、必死になって訴えている。

  • 168二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 22:28:32

    やっぱりノエルが1番シエルの扱い方を分かってるんだなぁ…

  • 169二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 23:46:00

    「ふーん………そっかぁ。あくまでこの子の血は吸わないと。いや、吸いたくないという抵抗が正しいのかな。
    まあ、それならそれで別にいいわ。アンタの意思で吸いたくなるまで待てばいいんだしね」
    「え……?」

    ノエルはいつも使っている椅子に座るなり、この一ヶ月間繰り返していたように監視の姿勢を取り出す。

    「え?じゃなくて。アンタが自分から志貴クンを欲しがるまでこうしてのんびり待ってやると言ってんの。
    今日に限らず、何時間、何日、何週間、何ヶ月と待ってあげる。勿論、その間は他の人間の血は一切与えないわ。
    なぁに、食わず嫌いせずにガマンしてこの子の血を吸えばいいだけのコト。その気になるだけでいいのよ?」
    「……なぜ?どうして、他の人間の血なら吸うと言っているのに、彼を吸わせようとしてくるんです?
    貴女は、わたしと違って嘘は付かないんじゃなかったんですか?」
    「ええ、だから嘘は付いてないわよ。ほら、今この瞬間も私は彼になーんにもしてないでしょう?その上でアンタを追い詰めて吸血衝動の苦しみに陥らせてるでしょう?
    私、約束はちゃんと守ってるから。ただ、そうね。なんでアンタに彼の血を吸わせようとする事に拘っているかと言われたなら、その方がアンタをより苦しめられるかなって。
    他人の恋路やら人生やらをめちゃくちゃに壊した分際で自分は恋という幸せを掴んでいる。それが溜まらなく口惜しくて気に食わない。だからそれもまた同じようにめちゃくちゃにしてブっ壊す。
    理由を挙げるとすればそんなもんよ。分かる?てか、分かるでしょ?」
    「――――――」

    抑揚のない、淡々とした口調。されどその節々に、憎悪と憤怒と愉悦と狂気が滲み出ていた。
    もうとうに分かってはいたが、この女は先輩は言うに及ばず俺も生かすつもりはないらしい。
    2人の会話には付いていけてないが、それだけはハッキリと理解した。

    「あ。これも一応言っとくけど、もし自壊してしまう前に自殺しようとしたら彼を殺すから。私がいない時にこっそり拘束を破いて脱け出そうとしても勿論同じよ。それも分かってるわよね!」
    「………ノエ、ル」

    柔和な笑顔を浮かべながらも、先輩の退路の悉くを言葉で絶つ。
    俺自身、正直に思えばノエルの事を狂人として恐れを抱いてはいるものの、心から憎む事はできないとも考えている。

  • 170二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 00:19:52

    あんな凄惨な地獄を目の前で味わい続ければ、普通は誰だっておかしくなる。狂って、壊れても何ら不思議じゃない。
    ただ、その上で今はこうも思う。この女――――――どこまで性根が腐っているんだ、と。
    例え一生を懸けても赦せない、家族と故郷の仇だったとしても。
    己の罪と所業を自覚し、永遠に償う覚悟を示し、心から反省して悔いている者に、ここまで悪辣な仕打ちをやるのか。

    「じゃあ、このままずぅぅぅーっと待ってやるわ。どうせ今は何言ってもアンタは意地固になって吸いたがらないでしょうし。
    もっとも、今はまだ日中だから衝動が収まってるだけかもしんないし、夜になったらまた気が変わってくる事に期待しておくわ!ふふ、ふふふふ、ふふふふっふふふふ!」

    これからの事を想像しているのか、ノエルはニタニタと笑いながら俺たちを見つめてくる。
    多分、この女は俺がまだ諦めないでいる事すら察している上で無視しているのだろう。
    仮に自分の手から逃れられたところで、俺たちに待っているのはどのみち悲惨な末路であり、その運命はどう足掻いても避けようがない。それを見据えている故の無視に違いない。
    ああ。認めたくなんかないが、確かにそうなる可能性が大きいだろうよ。
    吸血鬼とその成りかけ。普通に生きようとしたところでそんなものは無理だし、死ぬまで教会に追われる事になる。
    だが、それがどうした。そんな暗雲漂う未来の事なんか、まずはここを生きて出られた後で幾らでも考えればいい。
    この女がどんな悪辣な事をしてきようが、俺は絶対に諦めないし屈しない。その果てで、結局殺されたとしてもだ。






    ―――――そして、外を照らす日は沈み、ステンドグラスの光に照らされる夜になった。

    肉体が死徒に変質しつつある影響で、日中の時よりも感覚がそれなりに鋭敏になっているのを実感する。

    そして鋭敏になっているからこそ、先輩が今までにないほど内側で苦しんでいるのも察知できてしまった。

  • 171二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 00:33:51

    どう転んでもろくでもないバッドエンドが待ってると頭じゃ分かっててもそれで何もかも諦める理由にはならないしな
    況してや当人も言ってるけど諦めの悪さにも定評のある志貴なら尚更だろう

  • 172二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 07:50:32

    このノエルさん最後にはシエルみたいになってそう

  • 173二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 16:26:52

    保守

  • 174二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 22:42:20

    保守

  • 175二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 22:49:27

    怖いけどしゅき…

  • 176二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 23:20:55

    保守です

スレッドは6/27 09:20頃に落ちます

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