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もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart23|あにまん掲示板
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もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart23

  • 1二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 23:10:21

    アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの23スレ目です。

    アグネスは、傷の快癒前から公務に駆り出され続け疲労困憊状態です。

    元来、アグネスは自己顕示欲が強く、承認欲求の塊とでも言うべき存在。しかしそんな彼女とてやはり人の子。他者からの評価を生きがいにしている間のある彼女とは言え、程度と言うものがあるのでしょう。

    最新医療とケアのおかげでアグネスの身体はみるみる回復しつつありますが、果たして心はそれに追いついているのでしょうか。

    ファウンデーシ王国の不穏な動向、地球の止まぬ戦火。『治療を優先に』と言う言葉を真に受けても居られません。

    平穏な病院生活の外には戦雲が宙を遮り、彼女達の航路に何時、晴れ間が差すのか知る者はいないのです。それを不安い感じるのは、束の間の休暇を忙しなく過ごすミネルバの同志達も同じこと。彼らの傷付いた翼が癒えるまで世界は待ってくれるわけでもありません。

    再び漕ぎ出そうとするミネルバの行く手に何が立ちはだかるのか。

    おつきあいをいただければ。

  • 2二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 23:20:10

    前スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart22|あにまん掲示板もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart22アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、と…bbs.animanch.com

    1スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たら|あにまん掲示板アグネスが士官学校卒業ザフトアカデミー、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSを書く予定です。お付き合い頂ければ。bbs.animanch.com

    2スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart2|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの2スレ目です。はたして、アグネスは、ルナマ…bbs.animanch.com

    3スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart3|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの2スレ目です。己を取り巻く不可解な状況に四…bbs.animanch.com

    4スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart4|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの4スレ目です。ミネルバとアグネスはその進撃…bbs.animanch.com
  • 3二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 23:23:33

    5スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart5|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの4スレ目です。ミネルバの活躍は起こるはずだ…bbs.animanch.com

    6スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart6|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの6スレ目です。自分の心境の変化や激動する世…bbs.animanch.com

    ※落としてしまった7スレ目です。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart7|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの7スレ目です。出世の点数稼ぎの場として『戦…bbs.animanch.com

    再建てされた7スレ目です。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart7(再立)|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの7スレ目です。※不注意から一度スレを落とし…bbs.animanch.com

    8スレ目です。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart8|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの8スレ目です。戦いに消耗したアグネスとミネ…bbs.animanch.com
  • 4二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 23:27:05

    9スレ目です。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart9|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの9スレ目です。C.E.73年- C.E.7…bbs.animanch.com

    10スレ目です。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart10|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの10スレ目です。遂に開始される『ロゴスとの…bbs.animanch.com

    11スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart11|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの11スレ目です。『対ロゴス戦』は本編とはや…bbs.animanch.com

    12スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart12|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの11スレ目です。対ロゴス戦争が変え行く世界…bbs.animanch.com

    13スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart13|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの13スレ目です。本編を上回るほどの規模とな…bbs.animanch.com
  • 5二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 23:30:43

    14スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart14|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの14スレ目です。激しい戦いの後、戦女神と大…bbs.animanch.com

    15スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart15|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの15スレ目です。アークエンジェル問題を何と…bbs.animanch.com

    16スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart16|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの16スレ目です。アグネスは目の前で次々と発…bbs.animanch.com

    17スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart17|あにまん掲示板北限の海で繰り広げられる戦い。この世界のアークエンジェルを巡る戦いは一つの帰結を迎えようとしています。アーモリーワンから戦い抜いて来たミネルバ、世間は『彼女』を武勲艦と持ち上げ、事実そうなのではありま…bbs.animanch.com

    18スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart18|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの18スレ目です。アグネスはひょんな成り行き…bbs.animanch.com
  • 6二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 23:34:03

    19スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart19|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの19スレ目です。アグネス・ギーベンラートが…bbs.animanch.com

    落としてしまった20スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart20|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの20スレ目です。一夜の間に繰り広げられるプ…bbs.animanch.com

    再建てした20スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart20(再建て)|あにまん掲示板※落ちてしまっていたので建て直しました。書き込んでくださった方、申し訳ありません。もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart20アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、…bbs.animanch.com

    21スレです。

    もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart21|あにまん掲示板もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart21アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、と…bbs.animanch.com
  • 7二次元好きの匿名さん25/06/08(日) 23:40:25

    アグネスどうか死なないで

  • 8二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 00:26:16

    建て乙です!

  • 9二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 00:54:30

    立て乙

  • 10二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 00:56:12

    保守

  • 11二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 06:35:27

    ほsy

  • 12二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 06:35:31

    パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!

    その場の7名から静かだが心のこもった拍手を送ってもらう。アスランとシンとレイも同じ勲章が佩用している。私より先に配って貰ったのだろう。

    彼らの左胸には私と同じく授与されたばかりの勲章が2つ煌めいている。ルナマリアはあの戦いの後で合流したので今日はなにも貰っていない。それでも式典に参列してくれたのだから頭が下がるわ。

    さて、ここでトライン副長から業務連絡が伝えられる。

    アーサー「この後、我々は国立墓地に。ご遺族の皆さんとトラドール国務秘書官もご同行する」

    順当な流れね。トラドール国務秘書官の目的を考えれば勲章をポイっと撒いただけでは不十分だ。もう一工夫して人々の感情に訴えかけなければならない。

    アグネス「承知しました。では私も…」
    アーサー「いや、一緒の大所帯での行動となる。君はリモート参加にした方が良い。体調が戻った時に共に行ってあげた方がきっと皆は喜んでくれる。そうだろう」
    アグネス「お心遣いに感謝いたします。そのようにいたします」
    アーサー「よろしい」

    トライン副長が敬礼して下さるのでそれに丁寧にお答えする。こうして簡易的な授与式が終わり、副長はそのままドアの彼方に出て行く。シンとルナマリアも『また』と目で合図してそれに続くが―アスランは少し迷った後、私の下に歩み寄る。

    アグネス「アスラン先輩、受勲おめでとうございます」
    アスラン「ああ…。それはお互いに。君は…体は…良くはないな。無理をするな」
    アグネス「いえ。かなり順調に回復しています。ご心配をお掛けしました」

    私達二人が話し始めると、空気を読んだ看護師さん二人はさりげなく車椅子から離れて下さる。仕事の話かもしれないからね。

    アスラン「それで…。この叙勲をどう思う?」
    アグネス「レイがトラドール国務秘書官にお答えした通りかと。『世界の平和とプラントとファウンデーシ王国の未来の為。国境を越えて共闘できればこれに如くは有りません』」

    シンが退出して所在無げな表情を浮かべたレイに視線を遣る。私の合図と言葉に気づいた彼はちょっと面白い顔をしている。褒められて照れくさいみたいな?

  • 13二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 06:41:12

    タテ乙
    また気絶してる…

  • 14二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 14:21:05

    気絶=睡眠

  • 15二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 21:30:12

    保守

  • 16二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 22:50:52

    レイは素直に感情を表現できるようになってきてよろしい。さて―アスランもフォローしておかなければ。

    アスラン「…」

    やたらと様になる憂い顔。案の定、受け取った二つの勲章をどう捉えるべきか苦慮している。この件に関してはこの人が正しい。ファウンデーション王国の胡散臭さを思えば無邪気に喜ぶ方が危険だ

    アグネス「叙勲は名誉であり、ファウンデーション王国のますますの繁栄を私も願っています。しかしそれは王国の現政権ひいてはアウラ女帝一代の治世を無批判に全肯定することを意味しません。彼の地に根差した歴史ある王統と全国民の営みこそが我等が払うべき真の敬意の対象なのです」

    そう伝えるとアスランの強張った眉間が少し緩む。

    アスラン「確かに。分かった。ただ勲章を貰った以上はあの国について、俺たちは良く知っておかないといけないな」
    アグネス「勿論。しかし今は戦時。ファウンデーシ王国はあくまで盟邦の中の一つ。どうか優先順位を誤ることの無きよう」

    アスランは割と凝り性と言うか、自身が納得できるか否かを重視する向きがある。貴方は既にパンク寸前なのだから深入りし過ぎるのは得策では無いわ。

    アスラン「済まない。ありがとう」
    アグネス「はい」

    互いに姿勢を正して敬礼を交わし、アスランを控室から送り出す。まあ、これでひと段落だ。

    アグネス「レイはあっちに付いて行かなくて良いの?」
    レイ「今日はお前と一緒に行動する。そう言う予定だっただろう?」
    アグネス「確かにね」

    看護師さんが持ってきて下さったミネラルウォーターをゆっくり飲んでパワーゲージ回復だ。良し!

    看護師「では車に戻りましょう。リモート参加は車内で」
    アグネス、レイ「はい」

    国立墓地に直接参拝する方々が会場から捌けたタイミングを狙って駐車場の病院タクシーに乗り込む。別に出くわして悪いことは何もないのだが、何か気まずいものね。

  • 17二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 22:55:45

    看護師「会場にずっと停まっていると怒られちゃうので、昼食予定の郊外のキャンプ場に向け出発します。リモートの為に車内の仕切りは引きますのでご安心を」

    空いたキャンプ場の場所を押さえてくれていたらしい。

    アグネス「ありがとうございます。運転手さん、お願いします」、レイ「ありがとうございます。お願いします」
    運転手「はい。戦死者に敬意を」

    人が居なくなり物寂しさが漂うホールを私達も足早に立ち去る。

    病院タクシーはアプリリウスの中心市街地を抜けて島と郊外を結ぶ橋に続く道路を進む。人口の空と海、建物がギュッと詰まっている島と対岸の緑の多い郊外のコントラスト。生まれてから何度も飽きるほど見た光景だが、それでも愛おしく感じられる。

    燦燦と輝く人口の太陽光線は私とレイの前に広げたデバイスモニターの先の場所も照らしている。

    美しい芝生で覆われた丘陵、大理石の椅子型墓標が立ち並ぶ。我が国の国立墓地は墓石二つが背中合わせのデザイン。死後に背中を預け合う者が見知った人か否か等、戦友同士どうでも良いだろう。

    彼らがスパルタ人のように整然と隊列を組んでいるものだから少し圧倒されそうになる。でもこのファランクスには親しき者が傍に寄り添う余裕がまだ十分あり、捧げられたピンクの花束が亡き戦士たちの鎧兜に彩りを加えている。

    アグネス「(参列者はミネルバのブリッジクルーと艦内各班班長、パイロット隊メンバー、加えてミネルバの遺族150人ほどにトラドール国務秘書官と随員、更に広報と軍楽隊-)」

    勇士の眠るこの地に翻るのはザフトの軍旗とプラントの国旗、木立を背にして堂々たるものだ。墓参が憂鬱でなければいけないなどと誰が決めたのか!

    タリア「『我々の国旗は風に吹かれて揚がるのではない。国旗を守るために命を落とした兵士一人ひとりの最後の息によって揚がるのだ(Our flag does not fly because the wind moves it. It flies with the last breath of each soldier who died protecting it)』」

    グラディス提督の凛とした言葉が国立墓地に響く。

  • 18二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 23:03:45

    タリア「戦友諸君諸姉、ご無沙汰しておりました。本日あなた方全員に対し盟邦ファウンデーション王国皇帝より相応しい栄典が授けられました。
    ロゴスの悪しき世界支配と地球連合の圧政に苦しむ全ての人民の解放の為、先駆けと成りしあなた方に必ず我等も続きます。ですので、どうかその日まで。戦時では我等の勇戦を、平時では我等の勤勉を、高い所からお見守りください」

    スピーチは簡潔だが心の籠ったものだ。『必ず我等も続きます』で一瞬、背中がヒヤリとしたが、文字通り『戦死して後を追う』と言う意味でないと知り安堵する。今更惜しむ命では無いが。

    スピーチの終わりと同時に敬礼する彼女に合わせ、画面の向こうの皆と一緒に私とレイと看護師さん二人で敬礼する。仕切りの向こうの運転手さんも姿勢を正したのが空気で伝わる。

    グラディス提督に続きトラドール国務秘書官も熱心にスピーチを始めるが、これは死者では無く広報に向けてのものと丸わかりだ。何だか鬱陶しい。

    アグネス「(別に『戦死者を政治利用するな!』とか左翼じみた物言いをしようとは思わない。ご遺族も慰められていらっしゃるようだし。でも、何だかな。あからさまに戦略的行動と理解できてしまう分、少し微妙な気持ち)」

    まあ、そうは言っても。私も今日だけでファウンデーション王国から2つも勲章を受けた。従軍勲章だけならともかく騎士団勲章も受けたのだから彼の地の国民の為にも出来ることはしよう。

    私達の行動が、単なる議長の政治パフォーマンスのショーに過ぎず、あの地域の人民の平和と幸福に何らの寄与もしていない等と言う事に成ったら。もうそれこそ戦死した戦友に合わせる顔が無いから。

    ミーア「Amazing grace!how sweet the sound.That saved a wretch like me!
    (驚くべき恵み、なんと甘美な響きでしょう。私のように惨めな者を救って下さった)
    I once was lost but now I am found.Was blind, but now I see.
    (私はかつて道を見失い、でも今は見つけられ、かつては盲目でしたが、今は見える)」

    軍楽隊の一員としてこの場に来ていたミーアの歌い出しに皆が応じる。私とレイも車内で歌う。

  • 19二次元好きの匿名さん25/06/09(月) 23:29:03

    アグネス、レイ、一同「'Twas grace that taught my heart to fear.And grace my fears relieved(神の恵みが私の心に恐れることを教えて下さいました。そして恐れを和らげて下さったのも神の恵みでした)
    How precious did that grace appear,The hour I first believed.(どれほど尊い恵みが現れたのでしょうか、私が初めて信じた時に)」

    リモート画面の向こうトラドール国務秘書官にも視線を向ける。彼女の唇は軽く緩み唱和しているともそうでないとも見えるライン。一方、グラディス提督はちゃんと歌って下さっている。

    ミーア、アグネス、タリア、レイ、一同
    「Through many dangers, toils and snares.I have already come(多くの危険、苦しみと誘惑を乗り越え、私は既に辿り着きました)
    'Tis grace has brought me safe thus far,And grace will lead me home(この恵みがここまで私を無事に導いてくださいました。そしてこの恵みが私を家に導いて下さるでしょう)」

    最後に皆でもう一度、【And grace will lead me home】の節を歌ってこのお墓参りの締めとする。

    画面から目を離すと、病院タクシーはもう郊外の海岸道路を走っている所だった。行く手にはキャンプ場、あまり人気が無いのは平日だからだろう。

    運転手さんも合わせて5人で車を降りる。レイと運転手さんで敷物を引き看護師さん達がお弁当を広げる。

    私は車椅子で暇なので両腕を大きく動かしてみる。朝の回診でエルスマン博士が今日のお昼ぐらいには左腕の一応の回復が成る、と仰っていたことを確認したい。

    さっき意識を手放して起きた後、身体が何か軽いのだ。

    まず掌を上にして大きく腕を一周-良し!両腕の可動域はほぼ同じ。では―今度は手の甲を上にして両腕を大きく、大きく動かす。後ろに回した時に左腕に引き攣ったような感覚が少し残っているが、痛みはない。電撃は走らなない!ちゃんと左右同じだけ動く!やったわ。

  • 20二次元好きの匿名さん25/06/10(火) 01:33:55

    看護師「おお、良い感じですね」
    アグネス「おかげさまで。リクライニングも起こして下さいますか?」

    様子を見に来てくれた彼女に頼む。

    看護師「はい。そろそろと思いまして。でも調子に乗っては駄目ですよ」

    看護師さんの操作で車椅子の背が上がっていく。100度…まだまだ…90度…おお、90度!

    アグネス「やった!」
    看護師「やりましたね!これで座った作業ができますね。ではトレー持って来ます」

    敷物に座ったレイと運転手さん達に目を遣ると、皆が其々の所作で『good』の反応を返してくれるので嬉しくなってしまう。ああ…こう言うの良いな。
    昼食はサンドイッチと野菜ジュース。正確に言えばサンドイッチの見た目をした高ビタミン高栄養価合成医療食品。野菜とハムは本物でパンに秘密が隠れているのだと言う。

    アグネス「何とも…。食感は普通の美味しいサンドイッチなのに」
    看護師「そこが凄いのです」
    レイ「しかし…。その秘密を俺たちに話しても?」
    レイ付き看護師「それを明かすまで込みで。知ったらモリモリ力が出てきませんか?」

    なるほど、確かに。プラセボ効果とはまた違うのだろうが、良い感じに回復を後押ししてくれている気がする。

    アグネス「(お腹も心も満ちてとても気持ちいい。まだ回りたい所もあったけれど…。もうここまででも良いか…)」

    いや、今日出来ることを明日に伸ばすような贅沢は戦時の軍人には許されない。動乱時代の人間には、と言った方が正確だろうか。

    アグネス「その…。午後からの行動ですが…」
    看護師「そう言えば、確かお墓参りでしたっけ?」
    アグネス「はい。あと2箇所。ただ…」

  • 21二次元好きの匿名さん25/06/10(火) 01:37:42

    不覚、レイが付いて来てしまった。気不味い。病院を出る時、頭が回っていなかった。

    レイ「俺は構わない。何方の所に?」
    アグネス「…司法委員会管轄の墓地の傍に少しだけ寄っていただけますか?近すぎないように。政治的な立場上、中まで私は入れません」

    先の政変には『居ないも同然』に扱われている死者が居る。彼ら彼女らをどう受け止めれば良いか、私はずっと迷っている。

    アグネス「その次はウィラード隊の不運な戦死者の下に。やはり一度国立墓地へ」
    レイ「…分かった。是非、私からもお願いします」

    おずおずと打ち明けた私に帰ってきたのは、短くも力の籠った彼の声だった。目線をちょっと合わせて見る。少し影が差したものの瞳の輝きに曇りはない。

    運転手「そうですか。良し。じゃあ、皆さんが食べ終わりましたら」

    何かを察したような運転手さんのお返事。

    アグネス、レイ「はい」 看護師二人「了解ですー!」

    皆が快諾して下さって良かったわ。各々思う所があるはずなのに。

    これはお昼ご飯を美味しく平らげることで報いねば。サンドイッチのお代わりを所望する。せっかく生きているのだから美味しいものを食べられる時に食べられるだけ食べるのだ。

    レイ「ハムサンドばかりガツガツと…」
    アグネス「肉が食べたい。塊のような肉が…」
    看護師「まあまあ、直に機会がありますよ」

    私にそんなことを言いつつ、レイもちゃんとお代わりを食べている。治療の効果が少しずつ出ているようで何よりだわ。患者二人が怪獣みたいに貪り食ったので弁当籠の中はたちまち空よ。

  • 22二次元好きの匿名さん25/06/10(火) 06:46:19

    国防委員長「アグネス君が仕事ができるようになったって!?」ガタッ

  • 23二次元好きの匿名さん25/06/10(火) 12:24:50

    ほしゅ

  • 24二次元好きの匿名さん25/06/10(火) 18:09:26

    >>22

    担当医「患者をデスクワークで過労死寸前までデスマーチさせんの止めろし!」

  • 25二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 00:02:18

    アグネス…

  • 26二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 00:03:50

    サンドイッチの一欠けらを飲み込み、野菜ジュースを飲み下す。

    天を振り仰ぐと円錐形の青空は30㎞かけて中央エレベーターの軸に集まってやがて一点に結ばれる。中央施設地帯、あそこから降りて来た。これまでもこれからも。

    『偽物の空』とか言う人間が居たら張り倒したい。これが本物で何か不都合があるのか。

    サクラの季節までまだ少しある。ここに再び訪れるまで何度、幾度冷たい夜を越えなければいけないか。考えただけで苦しくなる。

    アグネス「その…。今日皆さんが付いて来て下さったのはお仕事上の事だと分かってはいますが…」

    ついつい弱気な言葉が漏れる。

    看護師「良いですよ!また来ましょう。先生には内緒ですよ」、レイ付き看護師「ええ。私もぜひ。お花見好きですし」

    私に調子を合わせてくれる二人に―いや、運転手さんも振り向いて肯いてくれているから三人に感謝する。これが優しい嘘でも構わない。

    兵士は験を担ぐものだ。私も『約束』が欲しい。

    レイ「そうだな。何時か戦争が終わったら…」
    アグネス「ストップ!あんたの場合は死亡フラグになるわ。あんたには勝手に連れ出してくれる人がいっぱい居るのだから、のんびり待っていれば!」

    不穏な事を言い出すレイには待ったをかける。私に話を打ち切られた形だが、こいつ、何だか少し嬉しそうだ。気持ち悪い。

    そうして5人で病院タクシーへ戻る。

    運転手「では出発します」
    アグネス「お願いします。プラント司法局管轄共同墓地の下へ。近すぎず、遠すぎず」
    運転手「分かりました」、 レイ「…」コクリ

    …出来れば故人に花を手向けたいが、制服姿では。いや、私は顔が割れている。

  • 27二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 00:09:23

    『月光のワルキューレ』がテロリストの墓参りなどしていたとバレれば、ちょっとした騒ぎになる。特務隊や月軌道艦隊に迷惑が掛かるかもしれない。

    運転手「心得ました。それでも直接、相手にして…。モヤモヤが残りますものね」
    アグネス「はい。仰る通りに」

    今度は来た道と逆方向だ。海岸道路をのんびり通って、橋を渡り、アプリリウス中枢部たる中島へ。

    プラント司法委員会と私は実の所、あまり接点がなかった。パーティー等のご挨拶は別として、司法委員と本格的に関わりを持ったのは先の政変が初。

    FAITH(戦術統合即応本部)こと特務隊は国防委員会直属の(個人)組織。任命手続き時に最高行議会が噛まないわけでは無いが、あくまで『他所の役所』。

    逮捕に成功したミーア付きの者達の取り調べと訴追も、自決した30名を超える議長配下(と疑われる)の工作員の法的扱いも、私達には知らされていない。

    アグネス「(彼らを殉教者にしてはいけないし、人道に悖る扱いをする訳にも行かない。テロを容認するのも違う。その辺りも調整中なんだろうと思う)」

    ただ、ミーアを害すべく動いてその場で射殺された者達に関しては目撃者多数で誤魔化しは効かない。被疑者死亡で書類送検済みだ。

    アグネス「(デモ扇動者の大半は雲隠れしてしまったらしい。あの混乱の中、そこまでは手が回らなかった。これらの者と議長に接点があった証拠も、おそらくはまだ掴めていないのだろう)」
    レイ「…」

    整然と整備された市街地を越え、少し曲がりくねった道を進む。司法局本省の敷地内に墓地があるはずもない。

    ニュースを細かく読んでやっと市民共同墓地の一角、死刑囚用墓所スペースの中に彼ら・彼女らが埋葬されたことが判明した。司法解剖とDNE等のデータサンプルの確保は済ませているとのこと。

    アグネス「ここが…」
    看護師「にゅっと出てきましたね」

    看護師さんのご発言は少し不謹慎だが当を得たものだ。午前、グラディス提督やトラドール国務秘書官と(リモートで)共に訪れた名誉ある国立墓地とは空気が異なる。

  • 28二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 00:13:59

    寂しく、じめッとして冷たい雰囲気だ。

    私にとっての墓地はもっと荘厳な場所だった。

    簡素だが敬意をもって葬られた戦士の終の棲家。あるいは国家と社会に大功を立て、その名声に相応しい敬意を家族と市民から餞に受けて葬られし霊廟。

    その様な例しか知らずに生きて来たから、この腹の底からせり上がる震えを他人に表現する言葉がない。

    あの日、私の足元に斃せた女性もここに眠っている。誰にも看取られることも見送られることも無く、永久に晴れることの無い汚名を背負ったまま。

    レイ「大丈夫か?」
    アグネス「…まさか、このシチュエーションであんたに気遣われるとは…」

    停まる訳には行かない車は徐行でゆっくり脇の道路を進んで行く。

    アグネス「私と変わらない歳の女性だった…。兵士の目をしていた。テロリストのものじゃない。私と少し運命が違っただけだったんだ」
    レイ「…」

    黙祷するべきなのだろう。その為に来た。でも今目を瞑ったら負の感情に呑まれてしまいそうで怖い。

    アグネス「あそこであんな風に死なねばならないほど、罪深い人だったとは思えない」

    此れまでも私は戦地で連合将兵を、巻き添えにした民間人を無数に屠って来た。

    でも内地で、私の幼少期に過ごした空間の中で同胞を手に掛けた。人の命の価値に違いは無けれども、やはり肺腑に掛かる重みが違う。

    アグネス「ラクスが『座』を空けなければ…」
    運転手「…!?」 看護師「!!」 レイ付き看護師「?!」

    思わず口走った戯言に車内の空気が凍り付く。自分でも言って後悔した。

  • 29二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 00:20:02

    ラクスが前大戦後にプラントに残っていてどうなったと言うのか。それで議長の暗躍に歯止めがかかったのかなど誰にも分からない。

    レイ「…それは八つ当たりと言うものだろう。罪悪感の。何でもかんでも彼女達に押し付けるのは良くない。俺はもう止める。お前もこの件ではもう言うな」
    アグネス「…分かっているわよ。偉そうに」

    ちょっと涙ぐんでいるとレイが『お前が言うな』な事を言い出すものだから、逆にスッキリする。見開いたまま固まって瞼がやっと降りる。

    アグネス「When 『we』've been there ten thousand years, Bright shining as the sun,(私たちがそこに到りは一万年経っても、太陽のように光り輝きながら)
    『We』've no less days to sing God's praise Than when 『we』've first begun.
    (私たちが神の賛美を歌う日が減ることは無いであろう。私たちが最初に主を信じた時よりも)」
    レイ「…」、 看護師二人「…」、 運転手「…」

    やっとのこと、必死で歌を紡ぐ。彼ら彼女らを…違う!私を許して下さるか否かは神の御業の為す所。ただ今日、私は『私達 we』として、生けるものとして故人と共にこの賛歌(アメイジング・グレイス)を捧げるのみ。

    レイ、一同「『We』've no less days to sing God's praise Than when 『we』've first begun」

    瞼の向こうから皆の歌声が流れ、何だかホッとする。雰囲気的に私の失言も聞き流してくれるみたいだ。

    運転手「うん?」
    アグネス「?」、レイ「どうしました?」
    運転手「いや…。花束が道に手向けられていて。あとで回収に来るのかな」

    彼の言葉を聞き窓側過ごしにチラッと見て見る。

    確かに路傍に白とピンクのバラの花束がそっと置かれている。察するに、私達と同じく墓地に入ることが出来ない身の上の方がせめて外からでも、と置いて行ったのだろう。

    アグネス「…おそらくは。でも今は…私は拾って片付けて差し上げたい」
    看護師「アグネスさんは下りたらだめですって。私が代わりに行きますよ」

    看護師さんは目で運転手さんに合図してドアを開け、花束を拾いに行く。何だか悪いわ。

  • 30二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 06:33:41

    えっなんか…大丈夫それ?

  • 31二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 12:27:55

    保守

  • 32二次元好きの匿名さん25/06/11(水) 19:31:02

    こういうことってやって良いのかな?

  • 33二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 00:08:36

    保守

  • 34二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 02:29:12

    レイ「監視とか大丈夫か?」
    アグネス「今さら?どうかしら。市民共同墓地の傍。遺体泥棒を防ぐ為のカメラはあるけれど」

    もし司法委員から問い質されることがあれば素直に答えるまでの事だわ。

    『相手が犯罪者とは言え、命を間接的にせよ奪ってしまった事実に心が痛み、せめて近くまでも、と立ち寄りました』と正直にお伝えしてその先はお任せしよう。

    もし心配するとしたら…。
    あの花束に爆弾が仕込まれでもしていないかどうか!そうだわ。その可能性もある(?)か!

    アグネス「看護師さん!離れて!爆弾か毒物かも」

    窓の先には身を屈める彼女の後姿、ここからだと少し死角になる。モゾモゾと何かあったのか?これでもし…。

    看護師「?」

    しかし私の不安は空振りに終わったらしい。彼女は一拍後、ケロッとした顔で振り向き花束の包装を解いて掲げて見せる。それを見て車内に一瞬充満した緊張の糸が切れる。セーフ。

    看護師「…。よいしょっと。綺麗にしっかり包まれていました。その場で広げて見ましたが危ないものは何も。置かれて直ぐみたいです」

    そう言って白とピンクのバラを改めて見せてくれる。良い香りだわ。

    アグネス「(white roseか。キリスト教圏の供花としてよく用いられるものではある。それに加えてピンク…)」
    看護師「…」

    さて置き、謝らねば!

    アグネス「申し訳ありません。勝手に言い出して…」
    看護師「いえいえ。それと…さっきの事、別に気にしていませんよ。引きずらないで下さいね」

  • 35二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 02:37:28

    さっきのこととはラクスへの愚痴のことね。彼女は他の皆にも目線を配る。

    レイ付き看護師「ええ。私も実はちょっと思うこともありますし」、運転手「軍人さんはいろいろ大変だと分かっていますから。守秘義務ってやつです」

    患者の精神への配慮ね。ご迷惑を掛けっぱなしだわ。

    アグネス「ありがとうございます。本当に気を付けます」
    運転手「良し。じゃあ、今度は国立墓地ですね」
    アグネス「お願いします」

    この花も、手向けた方にマナーがあれば回収しに来る。アプリリウス市の清掃員や近所の方も片付けて下さるはず。余計な事と言えば余計な事だ。だが、まあ、気持ちだ。街の美化の為、市民の義務を果たしたとでも思っておこう。

    病院タクシーは方向を大きく変えてうらぶれた共同墓地を後にする。共同墓地そのものが悪いわけでは決してないが、今日はもうお腹いっぱいだわ。

    日当たりの良い整った市街地を真直ぐ進むのはやはり気分が良いもの。あの場所も別に日陰では無かったのだが…。

    快調に進む車輪の先はやがて緑の丘陵を駆け上がり、午前にモニターで見た戦士の墓標に我等を誘ってくれる。

    看護師「それで…。そのウィラード隊の方のお墓って何処か分かりますか?」
    アグネス「はい。サイトで検索すれば出てきます。ご遺族や戦友の為に整理されています」
    レイ付き看護師「へぇー。便利ですね」

    便利と言うかお墓が多すぎて分からなくなってしまうのだ。オペレーション・スピットブレイクの傷跡は深い。この大戦で死者の葬列は更に伸びている。

    駐車場に辿り着くとまずレイが降り、二人の看護師さんの補助を受けながら私も地面に下りる。
    供花はレイに持たせる。車椅子に乗った私だと、地面に置きにくいのだ。

    人工の風と殉教者の最期の息吹によって棚引くザフト旗とプラント国旗に見守られ、私達5人は先立ちし仲間の下に向けて歩を進める。

    途中、看護師さんは先ほど回収した花を墓地のゴミ捨て場に捨てて行く。風情も何も有ったものでは無いが、実際、誰かが捨てなければならない物だから止む無し。

  • 36二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 02:45:09

    道中、帽子を被った老紳士とカーディガンを羽織った老婦人のご夫婦と行違う。互いに会釈してすれ違ったとき、彼らの顔が穏やかなものであったことに安堵の息を漏らす。

    左右と後ろからも聞こえたと言う事はレイや看護師さん達も同じ気持ちだったのだろう。

    アグネス「(ご年齢から察するに第一世代コーディネイターのご両親のナチュラル…。お子さんかお孫さんを参りにいらしたのか)」

    亡くなった方に世継ぎはいたのか、と余計な考えが脳裏を過ぎる。

    口に出せば人格が疑われるかもしれない。でもせめて血筋だけでも残って欲しいと願うのは人の本能だ。仮にそれが戦友のものであったとしても。

    そのまま大理石が立ち並ぶ青い芝の丘を踏み越えて行く。その上から覗く訪ね先の標…。

    アグネス「(おや?あれは!)」

    その前にビシッと決めたスーツ姿の女性が佇んでいる。青みがかった豊かな黒髪、斜め上から覗く顔はまるで目前の悲劇から目を伏せているようにも見える。

    レイ「トラドール国務秘書官?」 

    私達の視線に彼女は驚き此方を振り仰ぐ。レイの呟きが聞こえる距離ではない。
    恐ろしく勘が鋭い。ともあれ皆で揃って敬礼する。午前の式典のあと制服を着替えて改めて私人として足を運んで下さったのか。

    彼女がその場で敬礼を返してくれるので、皆で直り、静々とお墓の前まで進んで行く。

    イングリット「こんにちは。お疲れ様です。特務隊アグネス・ギーベンラート、特務隊レイ・ザ・バレル。医療スタッフの皆様。ギーベンラート女史、その後のお加減は?」
    アグネス「もうすっかり、大変ご迷惑をお掛けしました」
    イングリット「ご迷惑などと…。ご回復されて何よりと存じます。お大事になさって下さい」

    などと社交辞令を済ませる。レイは少し怪訝な顔をしているが、まあ、彼女がここにいらした理由は大体予想が付く。

  • 37二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 02:51:33

    アグネス「トラドール国務秘書官閣下。今日は親衛隊グリフィン・アルバレスト殿の代理にいらして下さったのですね」

    ウィラード隊長譫妄事件の折、彼の艦に乗り合わせたのがアルバレスト隊員だった。地上に居て来られない彼の分を―。

    イングリット「そのようなものです」
    アグネス「(おや?)」

    予想とは少し違うお返事だわ。代理なら代理とはっきり言うはずだから…。

    アグネス「(ここに来たのは彼女自身の意思なのかな。そう言えばお一人と言うのも妙ね)」
    イングリット「!?」

    鳩が豆鉄砲を食ったような彼女の顔、この方は意外と表情が豊かで驚かされる。ポーカーフェイスに見せて内面は素直で純粋な人なのかもしれない。

    まあ、変に勘繰るのも無粋と言うものだ。別に両方同時に成り立つのだし。

    レイに目線で合図を送る。ぼうっと立っている訳にも行かない。彼が礼儀を保ってゆっくり花束を供えるのを傍らで見守る。

    アグネス「(故人の死を私とルナマリアは見ていない。全部ノイズの中の出来事だった。彼は見聞きしたことも無いビーム無効化機体に乱入され、訳も分からぬまま…)」

    きっと無念だったろう。対地球連合戦なら本望とも思えただろうに。ご遺族も真相をお知りになりたいはず。私にはどうして上げることもできない。

    アグネス「(同じ脅威と戦った身として先駆けには敬意を払いたい)」
    イングリット「…」

    身を屈めたレイが立ち上がったタイミングで、皆で揃って敬礼する。

  • 38二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 02:59:26

    トラドール国務秘書官も合わせて下さる。動きが少しぎこちないのは二度目になるからかな。墓標に向かって真っすぐ敬礼をしているから彼女の表情は良く分からない。

    ただ、真摯な思いは確かに伝わってくる。心苦しさと懺悔の念?

    イングリット「!」

    微風が私達の間を吹き抜けて舞い上がり、また我等の軍旗を風下に流していく。

    暫し後、私とレイとトラドール国務秘書官、運転手さんは手礼を終えて姿勢を直る。
    看護師さん二人も文民の敬礼を止めて元の姿勢に戻り、少しだけ皆の心の強張りが解れた気がする。

    イングリット「必要な…尊い犠牲だった…と記されるはずです」
    アグネス「…きっとご遺族もそう願っていらっしゃるでしょう。私もそうであって欲しいと思います」

    少し擦れた彼女の声を何とも言えない気持ちで聞く。私が後から受けた報告は少し異なる。

    それによると、正体不明勢力(議長の傭兵?)の狙いはアークエンジェルで、この方はほぼ弾みで亡くなられたとのこと。ようは悪意の事故死。その死に積極的な意味があったとは思えない。

    でも、そんなことをご遺族にお伝えしても何にもならない。祖国の為に勇戦して散華した、嘘では無いのだからそれで良い―はずだと思う。

    アグネス「『民衆の意思の為、私は己の志を捧げる。その為に誰かが死ななければいけないなら、私はその最初の一人でありたい。我が名を最初に刻め、『希望』の顕彰碑よ、その大理石の白い岩肌に』」
    看護師二人、運転手「民衆の意思と進歩に乾杯」 レイ「…乾杯」 イングリット「ッ…」

    祈りの代わりに唱えた歌に医療スタッフは快く唱和してくれる。しかし二人は必ずしもそうではないらしい。

    アグネス「(私は人の死との向き合い方について、あれこれ言えるような立場に居ない。人それぞれだろう)」

    気持ちの整理をした後、私達は故人の下を去る。トラドール国務秘書官は私達の駐車場とは別の方向から帰るらしい。

    イングリット「特務隊アグネス・ギーベンラート、このような時世、何かのご縁と思いお伺いします。この混迷の世界を照らすべき道理。端的に『正義』とは何だとお考えですか?」

  • 39二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 03:15:12

    別れ際に彼女は思いもかけない事を私に問うてくる。

    また『其方、天下をどう思う?』系の質問か。最近多いな。

    でも、彼女の目を見るに真剣な質問のようだわ。気になる点としては、私に聞きながらレイにも視線を投げていることだけれど―。

    アグネス「(そうは言っても。うーん。私は…どう答えたものか。『プラントの国是が正義です』とも言えないし)」

    あんまり国策から離れたことを国賓にお伝えするわけにもいかない。外交官とこういう問答をする際には機知と機転が求められる。頑張るぞ。

    アグネス「私は古い考えの人間です。新奇な事は言えません。
    『強者が弱者を抑圧しないように、孤児と寡婦(寡夫)に正義と福利がもたらされるようにすること』。『虐げられし人々に応報の剣が天から授けられ、彼ら彼女らが仮に隷属民であれ、加害者に対し何らの報いを求めることも出来ぬ等と言った事態を断固として許さぬこと』。『ただし過剰な応酬は歯止めをかけること』。彼の地で太陽神シャマシュが大王にお授けになった法と私の願う正義は概ね大差ありません」

    たかだか17歳の娘が『私は古い人間です』とはこれ如何に、とも思う。でも他に言い様がないのだから仕方ない。今風の話が聞きたいなら野生のクライン派を連れて来て聴いて欲しい。

    案の定、私の話を聞いたトラドール国務秘書官は何だか冷めた目をしている。微妙に傷つくわね。

    それはともかく、こういう問答は相手にも話を振らないと駄目ね。

    アグネス「もしよろしければ、後学の為に閣下のお考えを伺ってもよろしいでしょうか?」
    イングリット「私の…」

    私に聞き返されて国務秘書官は少し考え込む。

    イングリット「私は、正義は『各人に各人のものを』と心得ています」
    アグネス「道理にかなったお言葉です」

    この問答を彼女がどう捉えたのか知る由も無い。ただ車椅子の私を気遣い、腰を屈めながら右手を差し出して下さる彼女には確かな誠意を感じる。

  • 40二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 03:26:39

    その手をそっと握る。剣の鍛錬に余念は無いようだ。常に腰に下げているだけのことはある。

    アグネス「(少し興味が出た)」

    顔を前に倒して彼女に小声で重ねて問う。

    アグネス「その正義の尺度は何に?」
    イングリット「…我等の内に」

    内心の自由。『良心』、『普遍的正義』に基づいてと言う意味か。

    イングリット「…!」

    うーむ。彼女の表情を見るに少しニュアンスは異なるらしい。

    何だか釈然としないが、ここはディベート大会の会場では無い。握った手を静かに解き、暇乞いをした後、今度こそ6人でお別れして駐車場に帰っていく。

    アグネス「あの答えで間違いなかったかな?」

    心配になり後ろを歩くレイに聞く。今更、間違っていたと言われてもどうしようもないのだが。

    レイ「気にするな。お前が言ったことも正しい」
    アグネス「『も』って何よ。私、無暗な価値相対主義は大嫌いなんだけど」
    レイ「そう言う意味じゃない。気にするな。俺は気にしない」
    アグネス「あっそ。どうもありがとうね!」

    少し棘が有り過ぎるか。自分から聞いたのだし、もっと優しく。

    アグネス「どうもありがとう」
    レイ「どういたしまして」

  • 41二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 07:26:38

    死神と呼ばれたG「あれ~花に仕掛けられた爆弾の被害者の迎えって依頼はデマか」

  • 42二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 15:21:56

    保守

  • 43二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 18:12:08

    アグネス、無意識でイングリットの内心を抉りに行っていて苦笑い。

    イングリッド「大変です!ZAFTにアコード能力を持つとおぼしき人間がいます!それもフェイスです!」
    ロリBBA「なんじゃと!? デュランダルめ、我らをたばかりおったか!?」

    こんな情報衝突事故が将来起きそう……って積極的にアグネス狙われるじゃないですかヤダー!

  • 44二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 21:09:23

    根本的にアコード向いてないよイングリッド…

  • 45二次元好きの匿名さん25/06/12(木) 22:29:37

    社交界で鍛えた顔色読みが仕事しまくってるなあ…

  • 46二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 00:07:36

    >>44

    年齢的にイングリットは一番初めに作られたアコードらしいので

    それもあって向いていないというか「アコード」としての完成度が低い個体となってしまったのかもしれない…

  • 47二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 00:29:33

    自分の意思で墓参りに来たかイングリット……

  • 48二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 04:12:46

    ゴロゴロ転がる車椅子の車輪に身を委ねる。気が付けばもう駐車場だ。

    アグネス「(さて、これでお外での用事は済んだわ)」

    運転手さんやレイがタクシーに乗り込むのを待つ。無聊を慰めようとちょっとだけ両足を動かしてみる。結果は言うまでもない。2本の雷が脳髄を焼く。しかし―。

    アグネス「(ッ…、これは!)」

    左足の電撃が朝のそれより大きく和らいでいる。もう少し注意深く動かしてみよう。

    左足の親指に意識を集中させ、エイッと上下に曲げて見る。ジリジリとした痛みが脳幹に駆けるがそれは今、どうだって良い。

    左足の親指が動く!

    では隣、左足第二趾も上下に折り曲げる。五本の趾から腰、脊髄の順で雷撃が突き抜ける。でも覚悟の上だ。隣の第三趾、第四趾、小指も動かしてみる。

    網膜の裏の血管が鮮明に浮き出るほどの痛み。だが構わない。

    今大切なのは一つ、ちゃんと左足の指が動くようになっていると言う事。断裂した神経が癒合していたのだ。

    看護師「むー。アグネスさん、何かしていませんか?」
    アグネス「えーと…。左足の指を少し動かしました」
    看護師「動きましたか?」
    アグネス「はい!」

    少し言葉が弾む。汗が額を濡らしているが、大したことは無い。

  • 49二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 04:16:01

    看護師「もう…。おめでとうございます。でも一声かけて下さい。思い付きでしないように」

    彼女は注意を促しつつ車椅子ごと私を車内に乗せる。続いてご自身も直後に乗り込み、濡れタオルでそっと私の顔を拭いてくれる。

    レイ「どうした?」
    アグネス「左足の指が全部動くわ。痛いけどね」

    私の返事を聞くやレイの仏頂面が綻ぶ。

    レイ「良かったな。その調子だ」
    アグネス「…ありがとう」

    どうも調子が狂うわ。まあ、励まされて悪い気はしない。

    運転手「おやつは何処で食べますか?」
    看護師「そうですね。お昼とは別のキャンプ場に行ってみましょう」
    運転手「了解」

    戦士の塚を離れた我等は再び郊外へ。
    忙しい動きのように見えてプラント居住区の直径は10㎞、内7割が湖面だから割と一足飛びに行けるのだ。

    窓の外を流れて行く景色。穏やかな湖面を目にしてふと思う事が有る。

    アグネス「釣りって楽しいのかな?」
    レイ「釣り?藪から棒に…」
    看護師「良いですね」 レイ付き看護師「あー。でもカヌーの方が好きかも」 

    皆さんの反応はそれぞれ。興味深いのは運転手さんの反応。

    運転手「ああ。休日良くやりますよ。理事国の連中が食糧生産を妨害してきた時代に必死に獲得した自給食品。大事に付き合わないと」

  • 50二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 04:27:30

    往時を思い出した運転手さんの声に僅かな憤りの色が混じる。

    レイ「…」
    アグネス「仰る通り」

    返す返すも理事国は愚かな真似をしたものだと思う。

    『飢える』と言う恐怖は人間の根源的なもの。生殺与奪の権を制度的に剥奪されて者達の怒りが何処に向かうか、その時の地球の為政者は気が付かなかったのか。

    アグネス「(資本主義的な原理で経済を自然に任せれば。大規模農業は地球、高品質・高価格帯の農作物はプラントと住み分けることもできただろうに。彼らがそれを選んだとしてもプラントへの潜在的な影響力は保てたはず)」

    食べ物の恨みは恐ろしい。旧人類共(ナチュラル)が馬鹿者の集まり本当に良かったわ。プラント国籍の方達と友邦国民は別にして。

    アグネス「(お陰で我等は自立の道を歩みだすことが出来た。こうして話題が出るたびに臥薪嘗胆していた時代を思い出すことが出来るのだから)」

    まあ、実の所、私の家庭は良い物を食べていたのだが、それはそれ。これはこれ。

    思いを巡らす内に目的地に。

    常夏の世界に敷物を広げ甘味を楽しむとするわ。
    今日のおやつはアップルパイ―状の合成食品-もりもり力が漲る。

    釣りやカヌーは、怪我が治って戦火が収まった後の楽しみにとっておこう。ヨットやボート遊びをしていた頃が何だか懐かしい。

    アグネス「退院したら魚料理も食べたいわ。お寿司とか」
    レイ「さっきの話題か。肉を食べたいと言ったかと思えば。まあ良い。シンやルナマリア…アスランやハイネ先輩も誘って行ってみよう」

    レイも随分前向きになってくれた。良い傾向ね。

  • 51二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 04:40:15

    アグネス「良いわね。胃もたれに注意しなさいよ。ああ、これフラグに成ったらどうしよう?」
    レイ「気にし過ぎだ。戦時中は何でもそう思えてしまうものだ」
    運転手「違いありません」

    暫し皆で他愛のない話をする。こういう瞬間は大事にしたい。体が治ればそんな余裕は無くなる。

    湖面を吹き抜ける微風を楽しんだ後にタクシーに乗り込み病院へ。お墓参り三連コンボはなかなかに疲れたけれど、悪いものでは無かったように思う。

    アグネス、レイ「今日はありがとうございました」
    運転手「いや、不謹慎と思われるかもしれないが楽しかったよ。是非また」
    アグネス「はい」 レイ「お願いします」

    運転手さんにお礼を言ってお別れする。

    今度は院内での暇乞いを。

    アグネス「じゃあ、また今度。今日はありがとうね。看護師さん、お忙しい中ありがとうございました」
    レイ「こちらこそ。また明日か明後日」 レイ付き看護師「いいえ。次のお出かけもお待ちしていますね」

    レイ達とお別れの挨拶を院内でも済ませ、私と看護師さんはようやく自室に辿り着く。

    アグネス「はぁー。疲れましたぁー」
    看護師「お疲れ様です」

    車椅子を押して入った彼女の背の後ろで自動扉が閉まるのを確認し、長い息を吐く。少し目を瞑り目の周りをマッサージしていると看護師さんの衣擦れの音が聞こえる。

    看護師「あの。アグネスさん。実はこれを」
    アグネス「?」

  • 52二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 09:07:00

    保守

  • 53二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 16:36:55

    保守

  • 54二次元好きの匿名さん25/06/13(金) 23:10:57

    あの花束か…アグネスに先回りできるのは誰なんだ

  • 55二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 01:14:08

    保守

  • 56二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 03:03:00

    彼女は一枚のカードを差し出す。ハガキよりは一回り小さい。

    表面にはごく一般的なお悔やみの言葉が綴られている。贈り主の名前も送り先の個人名も記されていない。お店で買ったカードをそのまま添えたかのように見える。

    なるほど。

    アグネス「あの花束に忍ばされていたものですね?」
    看護師「はい。お気づきでしたか?」
    アグネス「薄々は…」

    軽く引っ掛かりを感じていた。
    看護師さんはあの時に私達の死角で、真っ先に花束を解き始めた。私の警告も聞こえていたはずなのに、

    にも拘らずと言うことは、花束の中に何かを見つけたのではないか。それも一見して危険物でないと分かり、かつ、強いメッセージ性を想起させる何か、例えば手紙とか、と。

    アグネス「レイに伏せたのは彼の体調と微妙な政治的立場を慮って、ですね?」
    看護師「ええ。先日の騒擾にバレルさんも巻き込まれて…。大変だったって聞きましたから。悪い刺激になるかもって思いまして」

    アグネス「正しいご配慮です。レイは本当に今が大事な時。やっと心機一転できたのなら厄ネタに関わるべきではありません」

    そこまで話したところで人の好い彼女は慌て始める。

    看護師「アグネスさんも…悪い刺激は駄目ですからね!」
    アグネス「存じています」

    私もレイも入院患者と言う立場こそ同じ。でも回復の道筋が見えてきた外傷患者と特殊な早老症に直面するレイとでは、配慮するべき天秤の重は当然異なる。

  • 57二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 03:13:37

    話しながらも看護師さんの手をお借りしつつ軍服から病衣に着替える。下半身はともかく上半身の着脱は出来るだけ自分で行う。リハビリ代わりだわ。

    看護師「でも爆弾が仕掛けられていたらと考えたら…本当に背筋が凍りそうですね」
    アグネス「確かにあの場では警告を発しました。しかしあくまで念の為、焦りましたけれど」
    看護師「そうだったのですか?」
    アグネス「はい」

    実の所、議長派がこのタイミングで花束テロを起こす動機はない。
    何しろ肝心のデュランダル議長が住まう官邸は軍と公安に厳重に監視されている。彼の子分からしてみれば親分が人質に取られているようなものだ。勝算無く騒ぎを起こせば、潜伏中の仲間にも迷惑が掛かる。

    場所も悪い。共同墓地の傍、死者の眠りを妨げるような者を世論も許さないだろう。

    アグネス「ですので余程の事がない限りは。しかし不用心でした。返す返すも…」
    看護師「いいえ。お気になさらず。1,2,3、はい!」

    着替えが済みベッドに身体を移される。抱き上げられてコロリ。自分が猫や子犬になったかのような錯覚を覚えるわ。

    看護師「でも良かった。じゃあ、あの花束は真心からお供えされた物だったんですね」
    アグネス「花束自体に関しては、そう思います。それとよろしければカードはお受け取りします」
    看護師「はい。どうぞ。このお悔やみカード、重要なものなんですか?」
    アグネス「いえ。何とも」

    短くお伝えする。看護師さんは私の顔をチラッと覗き込むと此方の意図を察して下さる。

    看護師「分かりました。では、またあとで覗きに来ます。ゆっくり休んでくださいね」
    アグネス「分かりました。本当にご苦労をおかけしました」
    看護師「いえいえ」

    スタスタと退出する彼女を見送ると、どっと疲れが頭を襲ってくる。面倒なものを掴んでしまったわ。

  • 58二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 04:12:29

    ベッドに横たわりながらチラッとカードを見上げる。縦にして目の前に上げ、その薄い厚みを睨む。

    ふむ、予想通り何の変哲もない。そう。何の変哲も無いのが答え。

    人間の心理として、この贈り主が誰にせよ、リスクを背負って来たのなら、普通は何か自分の証を記したくなるもの。贈り主は『敢えてそれをしない』事でカードに何か仕掛けがあることを他者に示している。

    アグネス「(確信したわ。カードの表面は保護シート。下に何かある。葉書かメモか、あるいは写真かな。何れにせよ元本では無いだろう。コビーと見たわ)」

    アグネス「(もっとも素手で剥がすのは無理ね。それ相応の手間を掛けないと復元不能になってしまう)」

    では、カードの贈り主が誰か。

    これについては大体予想は着いている。花束の贈り主は【ラクス・クライン】、私の当て推量だ。

    アグネス「(世間から非難される可能性を物ともせず、己の意思を貫ける立場で、かつ、この政変に伴う流血に強い悲しみを―若しくは悔恨の念を―抱いているであろう人物は限られる)」

    当たりが付けば、後は公開情報で調べられる。

    アグネス「(白い薔薇は『彼女』が初めて歌った劇場、『White Symphony』を想起させる記号でもある。ピンクは『彼女』が元婚約者にして親友のアスランから贈られた大事な一番の相棒ピンクちゃんの色)」

    勿論、ラクス本人がアプリリウスの共同墓地付近に直接来たわけでは無いだろう。

    その意を受けたクライン派の協力者、あるいはターミナルなる組織の者が傍の小道まで赴いた。その彼らも今頃、アプリリウスを発って行方を眩ませているはず…私の予想では。

    アグネス「(予想ついでに考えるならば、このカードは…云わば賭けのようなもの。まず故人に花束を手向けることが彼女にとって第一の願い。カードはおまけだ。市の清掃員に捨てられる可能性の方が高い)」

    そして、この『おまけ』を受け取って欲しかった人間は、きっと私では無かったのだろう。

    アグネス「(大本命はアスランだったのかな?)」

  • 59二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 05:01:11

    勿論、ここまで来れ私の妄想の域だ。確証はない。しかしそう考えると合点の良く面もある。

    アグネス「(アスランはこの情勢下に惰眠を貪れるような人間ではない。彼は正義と真実を重視する愚直な人間、じっとしているはずがない。あの人にとって知りたいこと、考えたいことは山ほどある)」

    世界のことオーブのこと、議長がこれまで手を染めてきたであろう所業、アークエンジェルのこと、生死不明のキラ・ヤマト氏についても。きっと私が入院している間もオフの日は様々な所をほっつき歩いていたはず。かつてベルリンでミリアリアさんと再会した時のように。

    当然、それはそれは人目についた事だろう。私服に着替えたにせよ、あの私服も目立つから。故に、ここ数日のアスランの動きを、もし『誰か』が追っていたなら相当な確度で行動が予想できたはず。

    更に言えば、公開情報のみでも今日のアスランのスケジュールは予想できる。ファウンデーション王国の式典は午前まで、午後に彼の身は空く。市の街路清掃の時間についても事前に調べることは可能だ。

    アグネス「(工作員のお墓参りに関してはどうか?そもそも彼はそんなことをするか?)」

    することもあり得る。あの場に居た人間としては断言できる。軍人の私達にとってさえ30人以上の自決は決して軽くはない。

    アグネス「(通常の戦闘で敵兵を殺傷するのとは全く異なる衝撃があった。立ち会ってしまった人間の一生を台無しにしかねないほどのショックが。上手く表現できないおぞましい感覚がボディーブローのように今でも脳内を駆け回って止まらない)」

    人の痛みに鈍感な私でさえこの有様。ましてアプリリウス中間施設地帯・エレベーター奪還戦を率いたのはアスランだった。

    だから、やはり何処かのタイミングで彼がチラリとでも墓地を訪れると予想は着いたはずだ。そして今日は丁度良さそうな機会ではあった…、と。

    さて名探偵アグネスは一旦終了。

    アグネス「(ここからどうしよう?何処まで報告を上げれば良い?勝手に盛り上がってたけれど、そもそもこの紙切れに本当に中身が有るか否かも不明な段階なのよね)」

    取り合えず、アスランとトライン副長…特務隊長のグラディス提督までか。お知恵を借りよう。

  • 60二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 08:22:35

    >>58の画像を見ると確かにラクスカラーだ、ってなるなあ

    劇場版の着物の黒の印象があって”白?”って思ったけど、上の羽織とか宇宙服も白だった…

  • 61二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 12:26:22

    保守

  • 62二次元好きの匿名さん25/06/14(土) 20:02:55

    保守

  • 63二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 02:03:08

    思い立ったが吉日。

    業務メールをポチポチ打つ。宛先は特務隊として主席に当たるグラディス提督、ミネルバでの上官であるトライン副長、それと特務隊としての自己判断でアスランにも。

    意味深な追悼カードを入手した経緯、自分の軽挙のお詫び、敢えて気に留めている理由をご説明して―。

    ピンポーン!ピンポーン!

    病室のブザーが鳴る。そう言えば午後の回診か。

    アグネス「どうぞ。お入りください」

    インターホンにお応えしながら最後の一文を打ち終える。
    『誰か今日中にカードを受け取りに寄こして下さいませんか?』、良し、送信ポチっと。

    業務メール送信とほぼ同時にエルスマン博士と主治医の先生、さっき別れたばかりの看護師さんが入室して来る。

    タッド・エルスマン「失礼する」 女性主治医、看護師「失礼します」
    アグネス「お待ちしておりました」

    デバイスとカードは業務用鞄に入れて脇の机に、看護師さんが移して下さる。

    エルスマン博士はそれを見守った後に病状説明を始める。午前のデータのより詳細な分析結果と看護師さんから聴取した私の外出中の様子を照らし合わせてのご判断とのこと。

    女性主治医も合わせて私達3人はフンフンと聞き役に回る。

    タッド・エルスマン「…つまり端的に言えば―。総体的に見て、君はすこぶる順調に回復していると言える」
    アグネス「恐れ入ります。皆さんのお助けあればこそ」
    タッド・エルスマン「いや。よく頑張っている、やはり貴女は心も体も強い人のようだ」

  • 64二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 02:09:52

    博士は少し穏やかな表情で私を褒めて下さる。勿論、褒められた後も診察は続く。

    『ここを動かして』とか『このポーズをとって』とか美術のモデルになったかのようだわ。上半身のあちこちに聴診器を当て、小さな金属ハンマーでポコポコ小突いて回る。これは考えようによっては少し恥ずかしい。

    タッド・エルスマン「上半身はもう大丈夫だ。肋骨と鎖骨のリモデリング期は直に終わる。左上腕と肩には突っ張った感覚が残っているね?」
    アグネス「はい」

    博士に促され、左腕をいろいろな方向と角度に曲げたり回したりして見せる。引き攣った感覚は完全には消えていない。

    タッド・エルスマン「筋肉と血管は既に癒合している。ここからは治療と言うよりリハビリになる。日常生活でも普段通り動かしなさい。それが後遺症を残さない近道だ」
    アグネス「はい」

    上出来!機体操作に悪影響が出ない範囲に収まったわ。後は慣らしていくだけのこと。

    上半身が終わると今度は下半身、私の疲労に気を配りつつも、両足を太腿から足先まで隈なく調べる。

    タッド・エルスマン「少し痛いだろうが頑張ってくれ」
    アグネス「はい」

    そうお返事はしたものの…聴診器を当てたり、触診したりポコポコ叩いてものだから―。その度に痛みが電撃となって体中を跳ね飛ぶ。

    看護師「アグネスさん、大丈夫ですよ。もう少し頑張りましょうね」
    アグネス「はい」

    脂汗を拭いて下さる看護師さんの指先が何だか頼もしい。それに悪いことばかりではない。この診察を受けて分かって来たこともある。やはり左足は相当回復していると見た!

    タッド・エルスマン「痛みは有るものの左趾は全部動くのだね?」
    アグネス「はい。先走ってしまって…」
    タッド・エルスマン「いや、前向きな姿勢あってのこの回復だ。ふーむ、左の骨折はリモデリング期、右は修復期か。神経の回復は…このペースだと…」

  • 65二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 02:22:58

    エルスマン博士は少し姿勢を落とし、ベッドに腰かけた状態の私と目線を合わせる。

    タッド・エルスマン「怖いし痛いだろうが…。左下腿を前に持ち上げて見ないか?」
    アグネス「?」
    エルスマン博士が話を切り出すと部屋に軽い緊張が走る。

    タッド・エルスマン「左膝の部位の癒合自体は終わっている。膝関節の筋肉をずっと放置するのも良くない。君はよく足先を動かしているから余り心配はないが…」
    アグネス「分かりました。上げます!」
    タッド・エルスマン「え…」 女性主治医「ゆっくりと!」

    私が即答すると、提案した側のエルスマン博士が驚かれている。隣の女性主治医は一周回って応援モード。

    アグネス「(そう言えば、運び込まれたときの私の両足はクチャクチャだったらしいから。皆、気を使ってくれているのね)」

    ありがたいご配慮だけれど、今は前に進むのみ。エルスマン博士に目線でアイコンタクト、改めて『行きます』。

    博士が肯くと看護師さんが手を差し伸べてサポートの姿勢をとる。一度、肺の中から息を全部吐きだす。

    私の身体は今、ベッドの端に腰かけている。両足はほぼ真下に下りて診察用の足置き台の上だわ。動かすのは左足の方。いざその時となるとやはり膝を動かすのは怖い。

    怖いが、もっと怖い思いを散々して来たででは無いか!こんなことで怖じるとは我ながら情けない。
    努めて自然に呼吸を再開する。

    アグネス「うぉぉォォォォォ!」

    気合で左足を持ち上げると目の奥が一瞬真っ暗になり、次の瞬間に大小の稲妻が5,6本目玉から飛び出しそうになる。

    看護師「ちょぉぉとストップ」 女性主治医「ゆっくり!!」

    視界が戻ったので目線を恐る恐る下に向けて見る…。左足の膝から下、左下腿が約50度持ち上がっているわ!

  • 66二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 09:54:49

    アグネスさぁ…

  • 67二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 15:01:29

    やりすぎは悪化しそうで怖い…!

  • 68二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 17:50:27

    アグネス本人の所感はともかくミーア庇った件でラクスポイントを稼いでそう

  • 69二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 18:35:37

    桑島ボイスで「うぉぉォォォォォ!」と言いながらリハビリしてると思うとなんか笑える

  • 70二次元好きの匿名さん25/06/15(日) 23:51:54

    保守

  • 71二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 02:20:40

    45度より高い。もっと上げられるか?

    タッド・エルスマン「そこまで。自然に下げなさい」
    アグネス「はい」 看護師「そっと、そっとですよ」

    ご指示通り足裏が足置き台に戻るや、どっと脂汗が全身から噴き出す。

    看護師「すごい!頑張りましたね」
    アグネス「ありがとうございます」 女性主治医「良かった…」

    大袈裟なほど褒められて嬉しいやら恥ずかしいやら。重傷者の特権のようなものかしら。

    エルスマン博士も口には出さないものの表情でしっかり褒めて下さる。

    タッド・エルスマン「良し。椅子に座った状態で左下腿を45度程度上げ下げするリハビリを開始しよう。決して無理はせず、医師か看護師か理学療法士のいる前でやること」
    アグネス「はい。一人の時にやっても良いリハビリは何かありますか?」

    私の質問を受け、博士はちょっと考え込むが、直ぐに返事をしてくれる。

    タッド・エルスマン「一人の時は左右足先や趾を無理しない範囲で動かして見ると良い。ただし右足はまだ安静を必要としている。無理を絶対しないこと。悪化の兆候を少しでも感じた時は私達に伝えること」
    アグネス「分かりました」
    タッド・エルスマン「よろしい。それではまた明日。大事に過ごしなさい」

    一通りの話を終え、博士と女性主治医はご退出される。看護師さんは一人残って、着替えを手伝って下さるみたい。

    看護師「脂汗、凄いですよ。あんまり無茶したら駄目です」
    アグネス「ごめんなさい」

    ペコリと頭を下げて謝る。思えばこの所作が出来るのも彼女達のご尽力あればこそ。戦時の軍は無茶ばかり、しかしここは病院なのだ。ボスの言うことを聞かねば。

  • 72二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 02:27:25

    看護師「よろしい。はい、服を脱いで」
    アグネス「はい」

    病衣をはだけ下着を脱ぎ、温かいタオルで身体を拭ってもらう。気持ちいい。猛烈な眠気が頭蓋骨の中に充満してきたわ。

    アグネス「寝落ちしそう…」
    看護師「是非そうしてください。体がエネルギー切れしそうなんです」
    アグネス「いえ…。仕事で…ミネルバのクルーが来院して来るかも…」

    私から呼んでおきながら申し訳が立たない。何とか、力を…。

    看護師「では…。こうしましょう。ミネルバの方がいらしたら一旦、待合室に。直ぐに私達がアグネスさんを起こします。はい、これで解決。ぐっすりお昼寝してください」
    アグネス「あ…ありがとう…ございます」
    看護師「はい!」

    手元が覚束無くなり彼女に病衣を着せてもらう。さっきの回診で全精力を使い果たしていたらしい。気が付けば瞼が下がり、毛布を掛けられた感覚を最後に私の意識は白い霧に包まれてしまう。

    靄の中で身を落ち着けてどれくらい経っただろうか。

    ピンポーン!ピンポーン!ピンポーン!

    インターホンの音に意識が揺り起こされる。瞼を開けずとも、扉が開かれスタスタと看護師さんが入室したのが分かる。衣擦れと足音で大体誰か判別できるようになって来たわ。

    アグネス「おはようございます?私、どれぐらい寝ていましたか」
    看護師「おはようございます。大体、1時間半とちょっと。お休み出来ましたか?」
    アグネス「はい。少しボーッとしていますが…」

    オラッ!と左の全趾を曲げ伸ばし、右足先をチョコチョコ揺さぶる。競り上がる電撃が脳天を貫き、頭頂部を突き破って外に飛び出したかのよう。

  • 73二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 02:30:06

    アグネス「覚醒しました!」
    看護師「無理しないで下さいね。私が怒られます」
    アグネス「ごめんなさい…」
    看護師「いえいえ。それで、ミネルバから特務隊アスラン・ザラさんとルナマリア・ホークさん、ルームメイトのメイリン・ホークさんがいらしています」

    アスランは此方のお願い通り、ルナマリアは特務隊としてのお目付け役。メイリンは情報班として来てくれたのね。

    アグネス「お呼びくださいますか?」
    看護師「分かりました。でもくれぐれも無理は駄目ですよ?」
    アグネス「はい」

    看護師さんは私の返事に頷き返すとパタパタ3人を待合室に呼びに行く。私はリモコンでベッドを起こし業務用鞄を手繰り寄せてスタンバイ。カード一枚手渡すのに何とも大袈裟なものだ。

    ほんの少し後、インターホンが鳴り3人の来訪を告げる。

    アグネス「どうぞお入りください」
    アスラン「ああ…。失礼する」

    自動扉を潜って現れたアスランに敬礼する。3人も揃って私に敬礼を返してくれる。

    アグネス「ご足労いただき感謝します。どうかお掛け下さい。よろしければルナマリアとメイリンも」
    アスラン「ありがとう。二人も、さあ」
    ルナマリア「ありがとう」 メイリン「ありがとうございます」

    彼らが腰を下ろすのを確認して鞄を開き、件のお悔やみカードをアスランに差し出す。

    アグネス「どうぞ。グラディス特務隊長からは何と?」
    アスラン「ああ、済まない。特務隊長からは『負傷中にもかかわらず、良く報告してくれた』と。受け取って彼女に提出するように指示を受けている。艦内で調べるそうだ」

    アスランは何とも言えない表情で私からカードを受け取る。メイリンは興味深そうにカードをしげしげと眺め、ルナマリアは一連の流れを見届ける。

  • 74二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 02:44:53

    アスラン「それで…これをラクスが?」
    アグネス「私の想像です。市民が同情心から献花しただけかもしれません。そのカードも、ただの追悼カードで下に何もないのかも」

    こういう時のアスランの表情はどうも読み辛い。いや、アスランがどう思っているかを知りたいなら先に私がどう思っているかを伝えるべきね。

    アグネス「自分で大ごとにした上で恐縮ですが、私としては後者であって欲しいと思います。現プラント政府と一種の冷戦状態のラクス様或いはターミナルから物品を受け取るのは、特務隊・月軌道艦隊として政治的リスクですし…」
    アスラン「…」

    この場では正直かつ率直に思いを伝えるのが正解と見る。ただ、ラクス本人はともかくターミナルの立ち位置は私の知りようのない所ではある。

    アグネス「それに…。もしアプリリウス市民の中に悲しみを共有して下さる方がいらっしゃるなら少しだけ心が慰められますから。しかし前者の可能性を排除するべき理由は有りません」
    アスラン「…その通りだ。俺が拾うべきだった。立ち寄ろうとは思ったんだ。あんな事が有ったから…」

    やはりか。でもそれなら私で良かったわ。アスランに変な方向で反復横跳びされても困る。

    アグネス「いえ。供えた方のご意思が私達に伝わった事を以て良しとするべきかと思います」
    アスラン「…そうだな」

    アスランは一つ肯いた後、隣に座るルナマリアにカードを預ける。どうやら彼女がグラディス提督に届けるらしい。クリアファイルに入れて業務鞄にしまっている。

    ルナマリア「他に気が付いた点はある?」
    アグネス「特に無いわ。カードについて知らされたのも病院に着いてからだし」
    ルナマリア「そう。分かったわ」

    ルナマリアの確認が終わって一息つく。はぁー、やれやれ、これで今日の任務も終了だわ。3人もほっと一息をつき、部屋の空気が緩む。

    メイリン「あっ!お茶入れます!」
    アグネス「ああ…、ごめん、メイリン。気が利かなくて」
    メイリン「いえいえ」 ルナマリア「そもそもあんた自力でベッドから移れないでしょ。大人しく、私とメイリンで」 アスラン「いや、自分の分は自分で入れるから」

  • 75二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 02:51:01

    お仕事モードが終わった瞬間からその場が賑やかになる。うむ、やはりこの方が落ち着くわね。

    アグネス「それで…。ミネルバの方では何か動きはありますか?」
    アスラン「…いや」  ルナマリア「あんた傷病休暇中でしょ。仕事の話は控えろってグラディス提督と病院の看護師さんから釘を刺されているわ。」
    アグネス「あっ!そう言えば…」

    メイリンが入れてくれた紅茶を飲みながら、しょうもないことを言ってしまう。自分の傷病休暇を積極的に台無しにするものでは無いわ。

    さはさりながら、全く知らないのも考え物。職場復帰に支障が出る。

    ルナマリア「うーん、じゃあ、あくまで自分事についてね。私は今、インパルスの訓練をしているわ。ガイアから乗り換えるかは本決まりしていないけれど」
    アグネス「へー。そう言えばシンにはデスティニーが有るものね。ジブラルタルに。じゃあガイアは?」
    ルナマリア「私とバクゥハウンド隊の小隊長が交互に訓練中よ。それとデスティニー2機とレジェンドはアプリリウスに上がっているわ。重力下訓練はディセンベル市で」

    なるほど。紛失せずに残った3機のデスティニーの内、2機は元々、シンとハイネ先輩専用機に決定していた。レジェンドはアスランに内定。だから、ミネルバがアプリリウスに在るのなら艦と合流させておくのが当然の処置と言える。

    ルナマリア「インパルスは…やっぱりすごい。シンみたいに扱えるかな…」

    ルナマリアは私の前で珍しく弱音を吐いている。私達の前で、と言うべきか。まあ、何でも良い。友をフォローしなければ!

    アグネス「そうでもないでしょ。組み上がった状態で着発艦すれば。シルエット換装はちゃんと訓練しなきゃだけれど。それも最悪、一度艦に戻って付け替えても良いのだし」

    『気楽に行け』の意味だが、半分本気でそう思っている。身も蓋も無い話だが、シルエット換装機能はともかく本体のドッキング機構は完全に無用だ。上層部もそれを理解しているからデスティニーには取り入れなかったのだろうし。

    ルナマリア「まあ、そうなんだけれどね。戦闘中のシルエット換装はあの機体の最大の長所、しっかり訓練して身に着けるようトライン副長からもお達しが。本体機構に関しても時間がある内に一通りは出来るようにって」

    まあ、確かに。コアスプレンダーに関しては非常時の脱出機構にもなり得るのだ。扱えて損をすることは無い。

  • 76二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 08:00:54

    保守

  • 77二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 14:42:33

    保守

  • 78二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 20:55:31

    ルナマリア大変だな
    インパルスに加えてガイアも続投か

  • 79二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 21:34:15

    >>78

    可変機+全身換装機という

  • 80二次元好きの匿名さん25/06/16(月) 23:48:41

    アグネス「ご苦労さま。頑張って。一騎当千とはいかずとも1機当10出る機体。あんたなら当20も当30もできるはず」
    ルナマリア「ちょっと上から目線?」 メイリン「まあまあ」

    軽く聞き咎めるルナマリアに、宥めに入るメイリン。私、何やらルナマリアから誤解されている?!

    アグネス「まさか!本当にそう思っているわ。武運長久をってね。怪我に注意よ」
    ルナマリア「うん…ありがとう。本当に変わったわね、あんた」

    それは皆がそうだろう。

    アグネス「まあ、いろいろ有り過ぎたからね。お互いに」
    ルナマリア「うん…」

    その場の空気がしんみりしそうになる。しかし時は限られている。アスランにも話を振ってみよう。

    アグネス「アスラン先輩は今、どんな訓練を為されていますか?機密に関わることなら無理には聞きません」
    アスラン「いや…。俺はデスティニーとレジェンドで訓練中だ。ただ、セイバーの修理も済んでミネルバに戻って来たから―」
    アグネス「…お察しします」

    半ば戦略兵器とも言える核動力機を半外国人であるアスランに任せて良いものか、国防委員会も頭を悩ませていることだろう。政変中は緊急時故に、その場の流れでアスランをデスティニーに搭乗させた。

    では、これからは?

    デュランダル議長の決定に沿って彼をレジェンドに乗せるのが妥当か否か。彼を根拠なく疑うのも、漫然と戦略兵器を手渡すのも両方違う…。

    アスラン「大丈夫だ。心配をかけてすまない。君を困らせるつもりじゃなかった」
    アグネス「いえ。質問したのは私です」
    アスラン「そんなことは…。実は…いや…」

  • 81二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 00:01:53

    一周年おめでとう!🎊
    これからも楽しく読ませていただくよん

  • 82二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 00:03:20

    アスランは何か喉元まで言葉を上げるが、寸で思いとどまって飲み込む。仕事の話題を控えようという配慮ね。

    アグネス「(推し量るに2機のパイロット選出についてかな。私も候補に入っているのか。負傷中だけど今は戦時、回復を見越して)」

    ただ違っていたらガックリしてしまう。果報は寝て待て、今はリハビリを頑張るだけだわ。

    ルナマリア「明日の午前に式典が入ったわ。西ユーラシア政変・冬季攻勢撃退時の功績に関して。叙勲されるって、私達。いろいろあって急遽。これ伝達事項ね」

    アスランとの話の後、ルナマリアからは業務連絡が入る。タイミングを見計らっていたらしい。

    アグネス「また式典?この前のにまとめてよ!」
    ルナマリア「それを私に言われても…」
    アグネス「あぁぁ。そうね。ごめん!」

    確かにその通り。上には上の事情があるのだろう。

    その後は本当に普通のお喋りを楽しむ。艦内の人間模様、流石にゴシップまでは話さない。でも話を聞く限り、皆元気そうで何よりだわ。女3人話す中、アスランは完全に聞き役となっている。

    ルナマリア「-でもシンに元気が戻って良かったわ」
    アグネス「フェブラリウス市の病院の短期集中治療が効いたのね」
    ルナマリア「それも有るけれど…」

    ルナマリアの声のトーンが変わる。

    ルナマリア「ステラって子とまた会えたんだって…」
    アグネス「ああ。なるほど」

    ダイダロス戦以降に保護したエクステンデッドはフェブラリウス市の医療施設にて治療とリハビリが行われている。シンは気にして立ち寄ったのね。

    ルナマリア「ステラさんはシンのことも思い出して、身体と心も一時よりは大分落ち着いたそうよ。まだ数日おきに揺り籠に乗る必要があるそうだけれど…」

  • 83二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 00:04:30

    >>81

    ありがとうございます。とても嬉しいです。励みにします。

  • 84二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 00:13:07

    アグネス「それでも生きてこそ…と願うわ。あの機械と研究資料、それに研究員が確保できて本当に良かったわ」

    ファントムペイン・ブルーコスモス研究員は司法取引の見返りに情報をペラペラ吐き、その見返りに刑務所よりマシな施設に収容されている。強化人間の治療は彼らの刑務作業みたいなものだ。手を抜けば刑務所送り、これから裁判が開かれた場合は証言台にも立ってもらう。

    アグネス「(甘すぎる。何百人もの子供達を残酷な実験で責め殺して来たのに。生き残っても使い捨ての武器扱い…。彼らが居ないと真相究明も被害者の治療も行えないとは言え…)」

    研究員たちにはその過程のどこかで反省や悔恨の念を抱いて欲しい、そう願わずにはいられない。

    メイリン「シンの話だとステラさん達は治療と一緒に義務教育課程を修学中とのこと。戸惑いながらも頑張っているそうです」
    アグネス「良いことね。治療が一段落してからが本番だもの。彼女たちの人生これから長いから」
    『彼女達は』では無く『私達は』と言うべきか。

    ルナマリア「…スティング・オークレーさんともお会いしたって。ほら、私とあんたで捕虜にした―」
    アグネス「覚えているわよ…。カオスを強奪して乗り回していた方ね。きっと恨んでいるでしょうね。あの戦いでミネルバ・パイロット隊はラウル・ニーダ氏を死なせてしまったから」

    喉から苦い感触がせり上がってくるが如何ともしがたい。『戦争とは、戦闘とはそう言うもの』何て人道犯罪の被害者には言い辛い。ルナマリアもサッと目を伏せる。

    しかし直ぐに目を上げると私の目を見詰めて言葉を続ける。

    ルナマリア「シンから聞いて、直接、彼とリモートで話したわ。
    『ラウルのことは戦闘中の出来事と理解している』、『ステラと自分を助けてくれて感謝している』、『許されるものならステラと一緒に兄妹で人生をやり直して行きたい』と。あんたにもそのことを伝えて欲しいって」

    ステラの話を切り出した段階で伝えると決めていたのだろう。私の目を見るルナマリアの瞳に迷いはない。

    アグネス「建前よ…。人間そんなに簡単に割り切れるものじゃない」

  • 85二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 00:26:39

    私の言葉にルナマリアも一つ肯く。

    ルナマリア「そう思う。でも彼の本心でもあると感じたわ。『ファントムペインに負けは許されないと思っていた。けれども、もし叶うなら…』って。スティングさんは通信で高校卒業を目指しているのだそう。先ずは中学からみたい」
    アグネス「…」

    『過ぎた事は水に流せ』、もし彼がそう自分に言い聞かせて前に進もうとしているなら―。

    アグネス「それが本当なら…凄く嬉しい」

    頭の真がぼうっと熱くなる。ずっと気掛かりには感じていたのだ。彼らの事を。忙し過ぎた。

    アスラン「俺も本当にそう思う。良かったな」

    ずっと聞き役に徹していたアスランもポツリと溢す。

    そうだわ。本当に良かった。今の世界は悲惨そのものだし、私達は数えきれないほどの敵を斃してきた。でも、それはそれ、これはこれ。あの兄妹の幸せを遠くから祈る分には問題ないはず。

    アグネス「でも中学?高校?」
    メイリン「エクステンデッドの人達はナチュラル居住区の学校カリキュラムとリンクさせているそうです」
    アグネス「ああ。なるほど。成人年齢と教育制度的にはそれが良いわね」

    それでも教育の遅れを取り戻すのは大変なこと。一度瞼を閉じて、もう一度、ルナマリアと視線を交わす。

    アグネス「伝えてくれてありがとう」
    ルナマリア「ううん。お礼ならシンに」
    アグネス「分かったわ。今度会ったときに」

    もっと話したいが、そろそろ良い時間だ。

  • 86二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 07:18:18

    保守

  • 87二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 09:55:06

    保守

  • 88二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 17:28:34

    教育課程が違い過ぎるオーブからの難民の少年少女達の教育にも役立つれそうなカリキュラム

  • 89二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 19:02:37

    アグネス「アスラン先輩、ルナマリア、メイリン。今日はありがとうございます」
    アスラン「こちらこそ。カードのこと良く知らせてくれた」 
    ルナマリア「ちゃんと博士や先生、看護師さん達の言うことを聞くのよ」 メイリン「お大事に」
    アグネス「はい」

    戦友達を挨拶と敬礼で見送る。

    3人が扉を出て暫く、またまた入った公務の件が頭を過ぎる。はぁー、もう何かしんどい。

    アグネス「(別の勲功だから纏められないのは分かるけれど…。でも『急遽?』)」

    ひょっとしてミネルバの出港が近いのか?任務が迫っているからそれまでに叙勲を、と。

    アグネス「(もしそうなら今回、私はお留守番になるのかな。うーん、どうかな。手柄を上げる機会を逃しちゃうけれど、タイミングしだいでは仕方ない)」

    それはそれとして早く体を治したい。無力な自分に甘んじたくはない!

    ナースコールを鳴らして看護師さんをお呼びする。

    看護師「ああ。アグネスさんお疲れでしたね。協議は無事に済みましたか?」
    アグネス「はい。これで夕食まで時間が空きます。出来れば左足のリハビリをしたいのですが…」
    看護師「おお…。前向きですね。分かりました。私は今、ちょっと手が離せないので30分ぐらい待っていてください」
    アグネス「…ご迷惑をお掛けします」

    何も病院は私中心に回っているのではない。もしかしたら彼女に残業をさせてしまうかもしれない。私、モンスターペイシェントになっているのかも。

    看護師「大丈夫、大丈夫。もともと入院に際して国防委員会から直々にお達しがありましたし、私個人としても出来る限りのことはしたいです。じゃあ、待っていてくださいね」
    アグネス「本当にありがとうございます」

    看護師さんにお礼をお伝えして気合を入れ直す。良し、やるぞ!

  • 90二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 19:04:16

    ベッドの中をモゾモゾ、芋虫のように端まで動いて腰掛ける。刺激があるたびに背骨を電気がビキン!ビキン!と駆け上がるが、それはどうでも良いことだ。

    アグネス「(もうここまで来られるようになっているとは!凄い回復だわ。エルスマン博士、先生、看護師さん、運転手さん達のおかげね)」

    さて、では早速。まず引き攣った感覚がある左肩のリハビリをしよう。

    座った状態でラジオ体操開始だ。

    ストレッチ、1,2,3,4-5,6,7,8。
    腕をしっかり伸ばして!1,2,3,4-5,6,7,8
    大きく回して!1,2,3,4-5,6,7,8

    やっている内に息が上がって来たわ。
    やはり一朝一夕という訳にはいかない。身体も少し強張っているし。でも、やらないよりやった方が100倍良いに決まっている。

    上半身が終われば下半身。こちらは動かすと痛いから、ちょっと億劫に思う自分も確かに心の中にいる。そんな自分は許せない!

    アグネス「とう!とう!」

    掛け声と同時に左足は全趾の屈曲、伸展運動。同時に右足先は横と縦に小刻みに動かす。

    最初は被ったヘルメットの上からハンマーで殴られたような衝撃を感じ、目が眩み、耳鳴りがしたのだけれど、続けている内に慣れたわ。

    アグネス「(特に左足の回復が早い。骨折に加えて膝と足首の関節がズタズタになっていたはずなのに。万能細胞と電気絆創膏の力は偉大ね)」

    右足に関してはまだこれから。千切れて吹き飛んだ事を考えれば上出来だ。

    看護師「お待たせしました!って、頑張っていますね」
    アグネス「はい!ここが踏ん張りどころ。皆、頑張っていますし」
    看護師「ええ。さあ―」

  • 91二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 19:12:17

    仕事の合間を縫って病室に顔を出してくれた看護師さんの前で左足を前後に動かす。普通に下げた状態から前と後ろに45度ずつ。前後ろでワンセット。

    漏れなくワンセットに毎に電撃二回。先程と同じかそれ以上の衝撃、痛みが頭をフルスイングする。

    アグネス「(止まるわけには行かないわ)」

    はらはら見守る看護師さんの前で10セット、20セット、25セットとやって見せる。

    アグネス「(回数を重ねるうちに痛みを感じなくなってきたわ。これは50も100も行けるかも…)」

    私の中で気持ちが大きくなりだしたタイミングでストップがかかる。

    看護師「はいッ!止め。頑張りましたね」
    アグネス「へぇ…。まだ32回ですが」
    看護師「十分です!悪化したら…班長か…最悪、看護師長から私が絞られちゃいます」

    看護師さんは一瞬、顔色を変えてブルブルし始める。そこは医師(先生)では無いのね。兵士が士官より下士官を怖がるみたいなものかな。

    アグネス「申し訳ありません。調子に乗り過ぎました」
    看護師「いえいえ。前向きが一番です。どうしても辛くて、向き合うのに時間が掛かる方もいます。アグネスさんはすごいです」
    アグネス「まあ、戦時下ですし」

    戦時下でなくとも私はこうしていただろうけれど。

    人の適性は遺伝子で定められ、努力では容易に覆し難い。優れた素質を持つ者は自らの道を弛まず進み、応分な働きを以て社会に貢献しなければいけない。幼い頃からそう聞かされて育てられてきた。惰眠を貪るのは性に合わない。

    アグネス「(それが運命であり義務であるとも)」

    しかし何事にも限度と言うものがある。今回のケースで言えば、私はもっとゆっくりしたい。休暇はどうした!?ちっとも休んだ気がしない。

  • 92二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 19:53:26

    >>91

    アグネスはDP成立してた方が良かった気もする

  • 93二次元好きの匿名さん25/06/17(火) 20:52:40

    「トウ!トウ!」!?
    まさかアスラン係が長すぎて無意識下で影響を…?

  • 94二次元好きの匿名さん25/06/18(水) 00:12:02

    >>92

    今でもアグネスは社会に貢献する為に半ば火が付いた自走式の薪と化しながら職務に打ち込んでるようなものだから

    DPが成立した世界では弛まず進んだ果てに真っ白に燃え尽きた灰となった末路を遂げてそうで...

  • 95二次元好きの匿名さん25/06/18(水) 06:54:46

    保守

  • 96二次元好きの匿名さん25/06/18(水) 11:40:55

    保守

  • 97二次元好きの匿名さん25/06/18(水) 15:22:20

    保守

  • 98二次元好きの匿名さん25/06/18(水) 20:17:48

    >>93

    アスラン語録は感染する…

  • 99二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 01:58:06

    アグネス「(無理なんだと分かっているけれどね。この情勢では…。はぁー)」

    溜息をついた私を見て、看護師さんは慌てて励ましの言葉を下さる。

    看護師「さーって。お身体を拭いて…。夕食を楽しみに待っていてくださいね」
    アグネス「はい。楽しみにします」

    私の身体をサッパリさせた後、看護師さんは一旦退出する。彼女を見送るまでは気を張っていたものの、扉が閉まるやベッドに体が沈み込む。脳内麻薬が引き、ベッドの上で溺れているような感覚だ。本当に動けない。

    アグネス「(パパ…ママ…、助け…何てね…。何でもないわよ…)」

    そのままウツラウツラ時を過ごす。駄目人間になったみたいで嫌だけれど…。

    ピンポーン!ピンポーン!
    喧しいインターホンが救命信号の代わりになってくれる。良し、目覚めたわ。覚醒!

    アグネス「はい!」
    タッド・エルスマン「起こしてしまったか…。済まない、悪いが入って良いかな」

    インターホンの画面にエルスマン博士が一人佇んでいる。女性主治医や看護師を伴っていないのは珍しい。この時間、回診では無いだろう。何か急用か?

    アグネス「どうぞ」
    タッド・エルスマン「失礼する」

    自動扉が音も無く開閉する。

    タッド・エルスマン「国防委員会から君にご連絡があるそうだ。デバイスを使ってリモートで、先ずは国防委員会からだと思う。私も立ち会おう。既に許可を貰った」
    アグネス「了解しました。ご配慮に感謝します」
    タッド・エルスマン「いや…。何と言うことは無い。私にも少々関係がある」
    アグネス「?」

  • 100二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 02:11:13

    私が知らない所で大掛かりな事が動いているらしい。当たり前か、言って私は一人の特務隊に過ぎない訳だし。

    早速、業務用デバイスをオープン。国防委員会直通回線を繋ぐ。

    コールが1回、2回、3回、4回。

    5回目になって画面にシュライバー国防委員長とクラーゼク国防委員のお二人が顔を覗かせる。

    即、敬礼し、お二人からも敬礼を受ける。

    アグネス「ご連絡を賜り光栄に思います。今晩はどのようなご用向きでしょうか?」
    シュライバー「おお。早速…。特務隊アグネス・ギーベンラート、先日の件は誠にご苦労だった。エルスマン博士もお忙しい所、ありがとうございます。ご無理をお聞きくださり感謝します」

    私には気の良い、エルスマン博士には少々遠慮がちなご挨拶をして下さる。

    アグネス「恐縮です」  タッド・エルスマン「そのような…。お気遣いなく」
    シュライバー「いやいや」

    方や現国防委員長、方や前最高評議会議員にしてプラントの医学の権威、距離感が取り辛いのだろう。しかしそこは大人同士。上手く流して話を先に進めるようだ。

    シュライバー「特務隊ギーベンラート、身体の調子はどうかな―」

    国防委員長は途中で表情を改めて私に問う。

    シュライバー「これは実は社交辞令では無いのだ…。急な事で戸惑うかもしれないが、今、君はモビルスーツの操縦は可能か?正直に答えて欲しい」
    アグネス「…」

    軍事に預かる者は端的かつ明朗に話さなければいけない。シュライバー国防委員長のお言葉は道理に適ってはいる。でも、物事には程度と言うものがあろう。

    アグネス「(信じられん。それ今聞くことか?見て分からないか?)

  • 101二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 02:17:59

    などとザフト軍のトップに言える筈が無い。

    アグネス「上半身は回復しました。操縦自体は可能です。しかし満足なパフォーマンスを発揮できる状態ではありません。足はともかく体力の回復が追い付いていません。せめて後、2、3日と感じます」
    シュライバー「あと2、3日と言うと…。明後日の朝には?」

    そんなもの私に分かる訳無かろう。問われたらこう答えるしかない。

    アグネス「それが祖国プラントとザフトの為ならば、万難を排して、その任に当たりたいと思います」

    エルスマン博士がやり取りに危うさを感じ、後ろからフォローを入れて下さる。

    タッド・エルスマン「彼女は順調に、想定より早く回復しています。しかし、その日その時間帯にどうなっているか。私にも確実な事は言えません。今日よりは回復しているであろうとしか。人間は生き物です、ロボットの修理とは異なります」
    シュライバー「ふむ」 クラーゼク「なるほど」

    頷く画面の国防委員会組二人。どういう心境なのだろう。コップの水の半分を見て『行ける!』とか思わないで欲しいものだけれど―。

    シュライバー「よろしい。では明日の昼の状態を診て、問題なければ―。特務隊アグネス・ギーベンラート、君はミネルバと共にカスピ海―ファウンデーション王国首都イシュタリアとガルナハン市―に向かってほしい」

    イシュタリアと言うと大規模軍事援助の件か…。しかし何故、ガルナハンにも寄るのだろう?

    クラーゼク「ミネルバは明日の夕刻に出港予定だ。艦にはカナーバ前議長とファウンデーション王国国務秘書官イングリット・トラドール女史も乗り合わせる予定だ。私、アラン・クラーゼク国防委員も乗り込む。この航海はプラントにとって非常に重要なものとなる」

    国防委員は良いとして―カナーバ前議長まで出てくるとなると大ごとだわ。思った以上ね。

    アグネス「詳しくお話しを伺ってもよろしいでしょうか?」
    シュライバー「勿論、その積もりだ」

  • 102二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 07:48:40

    何があった

  • 103二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 15:47:29

    保守

  • 104二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 19:11:31

    流石にドクターストップだろ

  • 105二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 22:17:40

    >>104

    国防委員長「…と思わせてぇ」

  • 106二次元好きの匿名さん25/06/19(木) 23:28:23

    >>105

    いい加減国防委員長

    看護師さん諸々からわったり雷を落とされそう

  • 107二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 01:51:39

    シュライバー国防委員長は鷹揚に返事を為された後、クラーゼク国防委員に目線で説明を促す。

    クラーゼク「この件はプラント訪問中のトラドール国務秘書官との協議、及び本日、夕刻を以て閉会したイスタンブール会議の結果を受けてのものだ。会議のことは?」
    アグネス「初耳です。申し訳ありません」
    クラーゼク「いや、責めたいわけでは無い。君が治療中の身と理解している」

    エルスマン博士の注意するような視線を受けて、クラーゼク国防委員は釈明する。別に誰が悪いという問題でもない。

    アグネス「ご配慮に感謝します。しかしイスタンブールで会議とは剛毅な!まだ、あの地は最前線と言っても過言ではないはずですが…」

    クリミアの連合軍だけではない。東トラキア・アナトリアには地球連合(実質的にユーラシア連邦軍)の部隊が一部残留していたはず。残留と言うより孤立が近いかも知れないが―。

    クラーゼク「3日前に地球連合軍東トラキア・アナトリア方面司令部と現地停戦が結ばれた。会議が開かれたのは停戦後で非武装地帯の内側だ」

    クラーゼク国防委員は停戦合意の内容の概略が書かれたメモを画面に映して下さる。

    内容としては、連合軍の武装の引き渡し、黒海に72時間設定された人道航路からの平穏な撤兵、戦争犯罪者の引き渡し、除隊を希望する西ユーラシア連邦加盟国出身者の安全な帰国等。

    シュライバー「先刻、残務を処理していた最後の司令部要員がアナトリア半島黒海地方中部から完全退去した。ザフト軍と汎ムスリム会議軍が解放地域に入城中だ」

    何やら寝ている間に勝っていたようだ。

    アグネス「おめでとうございます」
    シュライバー「何を言う。君も当事者だぞ。いや、本当に目出度い!」

    私がお祝いを述べるとシュライバー国防委員長閣下は胸を大きく逸らせて、労をねぎらって下さる。

    アグネス「(旧トルコ領はC.E.において、いや、より正確には人類史において非常に難しい地域だわ。ヨーロッパとアジアに跨る地勢上、否応なく)」

    今日ではイスラム教徒多数派地域だが、ユーラシア連邦の影響も強い。

  • 108二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 02:14:46

    一方、本大戦ではミネルバが旧国境に面したディオキア市を解放し、別部隊がマルマラ地方ポート・タルキウスにも進出した。これにより黒海東部とボスポラス・ダーダネルス海峡周辺(マルマラ地方)はプラントの勢力下に入った。

    その後もユーラシア連邦軍の不幸は続き、ガルナハン・ファウンデーション・ショックによって高揚した独立運動の余波を受けアナトリアの大部分から撤退を余儀なくされた。入れ替わりに汎ムスリム会議が影響力を拡大、当地に進駐を進めていた。

    止めに西ユーラシア政変の勃発、彼らにとって自業自得だが、東欧諸国は西ユーラシア連邦に加盟しクレタ艦隊はザフトと停戦した。東トラキア・アナトリアの地球連合軍は、最早、バルカン半島を通過できず、スエズ行きの選択肢も潰えアナトリア半島の黒海南岸中部に追い詰められつつあった。

    アグネス「それにしても対岸のクリミア半島と黒海北東部つまりセヴァストポリ、ヤルタ、ノヴォロシースク等の諸都市はユーラシア連邦軍の牙城。もう少し時間が掛かるものと覚悟していたのですが…」

    黒海艦隊も生き残っている。軍港に籠らざるを得ないわけだから実質無力化出来ているとも言えるが油断はできない。

    クラーゼク「確かに。それだけ反ロゴスの風潮が強まったと言うことだな。特に西ユーラシア地域の将兵の厭戦感情は無視し得ぬほどだったと聞く。プラント政変が早期に収束した事も大きい」
    シュライバー「実際、あの政変を受けて連合将校共は吹き上がっていたらしいぞ。まあ、奴らの希望的観測は一夜で潰えたがな。おかげで諦めもついた事だろう」

    国防委員お二人の解説は熱を帯びている。正直、私も嬉しい。ディオキアを解放した甲斐が有ったと言うものよ!勝利の美酒に酔いしれるのも偶には良いものだわ。

    シュライバー「旧トルコ領の帰属は住民投票しだいだが、おそらく独立と同時に汎ムスリム会議に加盟だろう。ザフト軍は基地を設置して維持出来れば良い」

    国防委員長の口ぶりを見るに汎ムスリム会議とも現地独立政府とも話は着いているらしい。

    アグネス「ザフトの為に。この解放が地域住民の権利向上と福祉の増進に繋がらんことを切に願います」
    シュライバー「その通り!プラント最高評議会も必要な支援を惜しみはしない」

    良かったわ。プラント国民の支援疲れは問題だけれど、それはそれ、これはこれ。さて、『寄り道』はここまでだ。

  • 109二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 08:17:42

    現地の協力組織もあるとは言え流石に少ない人数で連戦した結果なのでそろそろ戦線維持がキツイなんてこと起こらないといいけど

  • 110二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 08:19:17

    まぁ、ブルーコスモスでなくても反コーディ組織は雨のようにいるから
    うまくいくわけがないと、ましてやアコードが居るから

  • 111二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 15:25:06

    >>110

    闇に堕ちろとかもあり何処まで自分達の意思でザフトと戦っているのか曖昧な領域に

  • 112二次元好きの匿名さん25/06/20(金) 22:01:04

    保守

  • 113二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 05:17:19

    アグネス「詳しくお知らせいただきありがとうございます。では改めましてイスタンブール会議について、お話しを伺ってもよろしいでしょうか?」
    クラーゼク「無論その積もりだ。会議にはプラント含め14の国と地域が参加した。プラント、大洋州連合、汎ムスリム会議、アフリカ共同体、西ユーラシア連邦、南アフリカ共和国、ファウンデーション王国、オルドリン自治区、ウクライナ独立政府、ジョージア政府、アゼルバイジャン政府、アルメニア政府、ガルナハン市行政府、ディオキア市行政府」

    これは―。私が最初の受けた印象よりも大規模な会議だ。小規模勢力を除けば、現時点の親プラント国・地域のフルメンバーに近い。

    アグネス「(戦時下でよくぞ集めたものだわ。戦局がややプラント有利に膠着している今だからこそ、と言う訳ね)」

    クラーゼク国防委員は手元に引き寄せたレポートを捲りながら話を続ける。

    クラーゼク「我が国の代表はノイ・カザエフスキー最高評議会議員、各国・各地域からは特命全権大使が派遣された。なお、この会議前にも各エリアで実務者協議が持たれていた。この会議は一つの決算と言った所だ」

    お話しをお聞きして密かに驚く自分がいる。

    特務隊アグネス・ギーベンラートから見て時折、頼りなく見えたカザエフスキー最高評議員。しかし、その実地球における最高評議会の名代として相応しいお仕事を果たしていらしたのだ。

    アグネス「(FAIHTとして特権と権限が付与されているとは言え、私は国防委員会所属の一ザフト軍人。井の中の蛙となっていたことは本気で反省しなければいけないわ)」

    アグネス「カザエフスキー最高評議会議員と外交部の努力に敬意と感謝を表します。この難局でよくぞ」
    クラーゼク「ああ、それは本当に―」 
    シュライバー「我々としては…少し不本意だが、デュランダル議長の外交政策の遺産を生かしたという面もある。それはそれとして大切なのは中身だ」

    国防委員長と国防委員は私に同意を返した後、お話しを続けられる。

    シュライバー「この14の国家と地域は会議の同意事項をイスタンブール共同宣言にまとめ全世界に対して公表した。プラント国家としては共同宣言のみで十分な拘束力を持つとの立場だ」

  • 114二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 05:30:09

    シュライバー「だが、後日、より拘束力の強い正式文章による条約を改めて取り交わすことにした。外交部によると各国大使を交えて文面調整をギリギリまで行っているとのこと」

    シュライバー国防委員長は一気に話し切ってほっと一息をつく。

    アグネス「(なるほど。今回のカスピ海行きはその条約調印のためのものと見たわ。カナーバ前議長は特命全権大使、ミネルバはその護衛兼デモンストレーション役を仰せつけられた、と)」

    イスタンブールで条約締結まで至らず、明日ミネルバが出港予定と言うことは、本当にギリギリまで内容を詰めるのだろう。

    私が当たりを付けている間に、シュライバー国防委員長とクラーゼク国防委員は私の後ろに立つエルスマン博士に視線を遣る。目線で一応同意を得るとデバイス画面に会議報告の概要が映し出される。

    どれどれ…。

    クラーゼク「議題は多岐にわたる。先ずはユニウスセブン落下テロの後始末について。この戦争のそもそもの始まりだな。アーモリーワンからとも定義できるが…」
    アグネス「はい。大西洋連邦を盟主とする地球連合は一旦は受け入れたテロ事件の事情説明を反故にして、テログループの逮捕引き渡し、賠償金、武装解除、現政権の解体、連合理事国の最高評議会監視員派遣をプラントに要求。回答時間内に十分な回答が無かったとして、我が国に先制攻撃を仕掛けてきました」

    今思い返しても連合は無理筋な事をしたと強く思う。もっともプラントはプラントでデュランダル議長のテロ幇助疑惑が密かに存在するのだが…。

    クラーゼク「そこでこの会議に参加した14の国家、地域は以下事項について合意した。
    【一つ、プラントの独立と自衛権は不可侵であり、連合理事国は開戦によるユニウス条約の失効を以て、かつて理事国としてプラントに主張し得た全権限、権益を自動的に喪失したこと】
    【二つ、プラントはユニウスセブン落下テロに対し、将来にわたって国家賠償責任及び民事賠償責任を負わないこと。この同意は不可逆的かつ最終的なものであること】
    【三つ、この同意に参加した国家及び地域は、プラントが以前、地上国家に行ったユニウスセブン落下テロの説明に異議を唱えないこと。ただしプラントは将来、仮にテログループの幇助犯の存在が明らかになった場合は逮捕し、公正な国際法廷に出廷させること】―」

  • 115二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 05:49:11

    シュライバー「―【四つ、プラントは人道的見地から、現に地上国家に提供されている復興支援を、本合意に参加した諸国家・地域に対し、個別協定に基づいて当面の間(最低5年)継続すること】
    【五つ、共同宣言に加わった国家・地域は、以後、国際外交の場で本テロ事件を以てプラント国家について非難・批判することは控えること】」

    クラーゼク国防委員のお話しを傾聴しつつ自分でも資料に目を通す。幾つか細目や付帯事項も記されているが、概ねは今、読み上げていただいた通りの内容が記されている。

    おそらく地上国家にとって大事なのは4項目。最低5年なら交渉次第では引き延ばせる。逆に一項はあくまで確認条項。自国が理事国でもない以上、『まあ、それで良いんじゃない?』と言った程度だろう。

    アグネス「ユニウスセブンの件、承知しました。『多岐にわたる』と仰いますと他にも?」
    クラーゼク「ああ。コーカサス問題についても話し合われた。ユーラシア連邦から事実上の独立を達成したは良いものの…。紛争を生じていただろう?」
    アグネス「はい。有史以来、複雑な地域ゆえ、プラントは深入りするべきでは無いと愚考しますが…」

    そうだな、とクラーゼク国防委員も肯く。しかし今更、私が何を言っても仕方がない。会議は終了した。何が話し合われたかが問題だ。

    彼は資料のページを捲って私に指し示す。コーカサス問題に関する合意、ね。

    クラーゼク「私達としても現地の民族紛争には関わりたくはない。だが、会議にお呼びした以上、ノータッチではいられない。コーカサスについては以下の4点で合意した。
    【一つ、ユーラシア連邦から分離独立したジョージア国、アゼルバイジャン国、アルメニア国の主権をこの会議に参加した15か国が改めて承認し、友好親善に努めること】
    【二つ目、ディオキア市とガルナハン市に国際自由都市としての地位を付与すること】
    【三つ、コーカサスに位置する全ての紛争当事者は、現在生じている武力衝突を即時に停止し、国際平和維持軍の駐留を受け入れること。平和維持軍はプラントと汎ムスリム会議、大洋州連合、アフリカ共同体より構成されること】
    【四つ、プラントと汎ムスリム会議はコーカサス諸国、諸都市と個別ないし包括的な安全保障条約を締結し、各国の独立と領土を現地政府軍と共に防衛すること】」

  • 116二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 06:00:08

    クラーゼク「そして【五つ、前項の目的を達成する為、コーカサスにおけるザフト軍の駐留と基地の開設、領内の軍事通行権を認めること】、国防委員会として最も大事なのはこれだな」

    これは…。どうなんだろう?
    『有史以来』、流血が尽きぬ地域なのだ。『停戦しなさい』『分かりました』で済む筈が無い。

    アグネス「三項の交渉は相当難儀したと思いますが…。合意できたのですか?」

    クラーゼク「実際、大いに揉めたらしい。この項は心得程度だ。国際平和維持軍に関してもアフリカ共同体に余力はない。大洋州は赤道連合が邪魔で兵を送れない。実質、プラントと地域大国の汎ムスリム会議軍主体となる。平和維持と言っても監視役がせいぜいだな」

    脇からシュライバー国防委員長も口を出す。

    シュライバー「正直、ザフトとしては、三項は抜きでも構わない。コーカサスで宇宙から無視し得ぬほどの大規模な絶滅戦争や国家の完全併呑が起こらぬ限りは。条約にコーカサスの合意も組み込むつもりだが…。無理なら見送っても良い、と言うのが国防委員会の意思だ。ただ二と五は最低入れるよう外交委員会に申し伝えてある」

    シュライバー国防委員長は身も蓋も無いこと言う。ただ、これには正直、私も同意だ。プラントの生存権に関係がない現地紛争に巻き込まれたくない。

    クラーゼク「他の重要な議題として、ユニウス条約失効に伴う諸問題の整理をがある。先ず国境線についてだが…。ユニウス条約では、地上の国境線をコズミック・イラ70年2月10日以前へ戻す事とされた。しかし、実態として大洋州連合とアフリカ共同体の領土は回復されなかった」
    アグネス「はい」

    あれは今考えても酷いものだった。カナーバ前議長もデュランダル議長も何とも云わなかったのか。

    クラーゼク「共同宣言では両国固有の領土が【コズミック・イラ70年2月10日以前】のものであるとの主張を各国が尊重する旨、盛り込まれた。もう大洋州にはニュージーランドを取り返した後だから、こっちは問題ない」
    シュライバー「問題はアフリカだが…。これは何とも。スエズは落としたいが…」

  • 117二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 06:23:04

    まあ、そこはそう言ってあげないと筋が通らないだろう。現実に出来るかどうかは置いて置いて。

    アグネス「(ザフトが相当頑張って、アフリカ共同体が地上軍の主力を担うという前提で―。それでも地中海沿いとギニア湾まで奪還できれば奇跡、という所だろう)」

    シュライバー「国境線に関してはもう一点。ユーラシア大陸における国境線は民族自立の原則に基づき再決定されるべきである旨、宣言に盛り込んだ」

    なるほど、『汎ムスリム会議はユニウス条約の締結国では無い』、『ユニウス条約締結国のユーラシア連邦は自らの悪政で勝手に解体しただけのこと』。

    アグネス「つまり中央アジアは住民投票により、ユーラシア連邦残留、単独独立、汎ムスリム会議加盟の中から帰属を確定させる、との意ですね。共同宣言の言外に」
    シュライバー「そう言うことだ」

    そう言う建付けか。

    要はこれまで行っていたザフト軍の軍事行動をキッチリと条約や合意と言う形で国際的に合法なものとして位置付けたい訳だ。『積極的自衛権の為の戦い』が『同盟国民の安全保障の為の戦い』にバージョンアップ、対ロゴス戦の要素も加わって戦争はまだ続く―。

    アグネス「『プラントはユーラシアに領土拡大を求めない。しかし現地の人々が民族自決の原理に基づいて各々独立して地域機構に加盟する分には自由。ザフト軍は『あくまで現地の民の求めに応じて』、連合の甚だしい戦争犯罪や弾圧行為に対して人道介入を行う。そして当該地域の安全を保障するため、場合によっては軍の駐留も行う』。つまり現状を条約として追認するのが目的ですね」

    確かに、なし崩し的に行ってきたザフトの軍事行動を再度、定義づける必要性は感じてはいた。

    シュライバー「そうだ。そして当該地域が独立を果たし、他の地域機構に加わった以後も、その地の安全保障に我等は携わるにやぶさかではない」
    クラーゼク「今後は正式な合意や正式な安全保障条約を現地政府と締結して軍を駐留させ、基地を設置し、軍事通行権を認めてもらう。駐留費に関しては当面は我が国が、ゆくゆくは応分負担を求めるつもりだ。まあ、費用の話は連合と休戦条約が結ばれて以後の話だ」

    そして各地で現在遂行中の『自衛戦争』には、現地軍もより積極的に参戦してもらう。勿論、対テロ戦も含めて。
    少数精鋭のザフト軍には『面の制圧』や『占領』は不向きだ。

  • 118二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 10:25:58

    カナーバ前議長は途中で辞任になったからまだ仕方が無かった部分があると思うけど
    デュランダル議長はな…議長になってからやってた事が(神の目線では)全部DP導入への前フリだから…
    あの人導入に寄与しないか逆に不都合な案件や前任者のやり残しは知ってて放置するだろうし…

  • 119二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 17:08:42

    保守

  • 120二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 17:29:07

    >>118

    火種を放置して油を注ぐのが仕事ですしね

  • 121二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 21:44:59

    このレスは削除されています

  • 122二次元好きの匿名さん25/06/21(土) 21:46:55

    こうもガッツリファウンデーションの件にカナーバさんまで巻き込まれた上でだと世界征服プロジェクトが判明したとき混乱が凄い

  • 123二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 01:22:30

    そもそも大多数のプラント国民は、自国の権益拡大は望んでも地上領土の拡大までは求めていない。だからこそ建前は大切だ。

    アグネス「(この戦争は終わりが見えない。敵が負けを認めるまで―)」

    『敵って誰だよ…』、脳裏を過ぎるアスランの顔を振り払う。哲学問答をしている暇は我等にはない。我々は実務家だ。誰が敵で、誰が味方なのか。はっきりさせなければ、戦うことも守ることもできない。

    デバイスに映る報告書の行を下に読み進める。どうやら10程度の複数の軍事同盟案が話し合われたらしい。

    一、大洋州連合とプラント間の攻守同盟条約。
    二、西ユーラシア連邦とプラント間の攻守防衛同盟条約。
    三、汎ムスリム会議とプラント間の攻守同盟条約。
    四、アフリカ共同体とプラント間の相互防衛同盟条約。
    五、南アフリカ共和国、オルドリン自治区とプラント間の相互防衛同盟条約。
    六、ディオキア自由市とガルナハン自由市とプラント間の安全保障協力協定。

    目で行を追う私にシュライバー国防委員長から得意げな声が届く。

    シュライバー「六つ目までの軍事条約と協定は各国と話が纏まり閉会前に調印が済んだぞ!」
    アグネス「何と!それは朗報。既に締結済みとは…」
    シュライバー「そうだろう!いや、目出度い」

    考えて見れば地上の友邦にとっても同盟は渡りに船。むしろプラントに『切られる』リスクの方が彼らにとって差し迫った問題だったのだろう。軍事協力のリストは未だ下に続く。

    七、コーカサス3国+2都市の独立と自治をプラントと汎ムスリム会議が保障する合意。
    八、ウクライナ独立政府に対する軍事援助をプラントと西ユーラシア連邦が継続する合意。
    九、ファウンデーション王国の独立をプラント・汎ムスリム会議・大洋州連合・西ユーラシア連邦・アフリカ共同体が改めて保障し、同国に対しプラントは軍事援助を拡大・継続する旨の覚書。
    十、将来的にこれらの条約等を結合した集団安全保障体制の構築を目指すこと。

    クラーゼク「六から十は会議期間内での条約・協定締結は見送り個別に世界に公表し、全体としても共同宣言に盛り込むことで対応した」
    アグネス「良きご判断かと」

  • 124二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 01:30:18

    全体で見れば、要は『現状を条約で追認しよう』と言うことに尽きる。
    ファウンデーション王国周りについては何とも言えない。せっかくの会議を壊す訳にはいかなかったと言うことか。

    シュライバー「当委員会としては、将来的にプラントと大洋州と汎ムスリム会議、西ユーラシア連邦よりなる四国同盟の締結を目指したい。もし南アメリカ合衆国が解放されれば五国同盟を…」

    国防委員長は壮大な構想をご披露なさる。聞いた感じ最高評議会を通していない内容らしいわ。まあ、私は国防委員会側の人間だし特に反対する理由はない。

    しかし、ふーむ。南アメリカ合衆国はプラントのかつての友好国。確かシホ先輩も独立戦争に参加していたはず。何とかしてあげたい気持ちは無きにしも非ずだが…。今の戦況を思うに難しいと思うわ。

    クラーゼク「他、経済問題も重要なテーマだった。共同宣言ではロゴスの政治経済支配に対する断固とした非難と批判、自由貿易促進、その為の国際機関の設立準備が盛り込まれた。合わせて各国の民族資本の形成を促し、自由貿易体制下でも一定の配慮をすべきことも」

    ペラペラと報告書を捲って見せて下さる。なるほど。
    先行して二国間の自由貿易協定や経済連携協定、有志国を募っての関税同盟の締結も進めるようだ。

    シュライバー「ただ今は戦時。ある程度の統制経済は止むを得ない旨も合意済みだ。本格的に自由貿易を進めるのは戦後になるな」
    アグネス「仰る通り」

    ロゴスの経済独占体制と民主的政治プロセスへの干渉を非難するなら、我々は自由主義経済と自由民主主義、法の支配の擁護者で在らねばならない。

    しかし、それらは戦時体制での足かせにもなり得る。と言うか既になっている。この辺りバランスが難しい。国内的には最高評議会の議論に寄って、国際的には友好国との外交で調整していくしかない。

    クラーゼク「なお経済分野でもユニウス条約の条項が議題に上がった。条約では旧プラント理事国への関税優遇措置が残置されただろう?非理事国との差は以前ほどではないとは言え」
    アグネス「はい」

  • 125二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 01:47:24

    思い出すとムカムカしてきたわ。まったく好ましからざること。

    カナーバ前議長め、理事国の強いた搾取構造を漫然と後世に引き継がせるとは…。

    『なぜ旧世界の住民にそうまでして阿らなければいけない!』
    『このままでは何も変わらんのだ!一部の者が富み、理不尽や非道が専横する世界は!』

    アグネス「(私の家は裕福だけれど、そうした声が一般のプラント国民やザフト軍人から出てくるのは仕方ないことだと思う)」

    そうした感情的な面を差し引くとしても、あの条項にはもう一つ欠陥がある。

    ユニウス条約―リンデマン・プランーの肝は『お互いの国力に応じた軍事制限』。そして【国力】の基準は人口、国民総生産、失業率等。特に人口が問題視されたが、それのみが問題なのではない。

    ユニウス条約の仕組み上、経済問題は自国の軍備に文字通り直結しているのだ。

    アグネス「(人口の少ないプラントの経済は輸出に大きく依存している。関税障壁の存在は景気動向や失業率にもろに響く)」

    そうしてみるとどうだろう!

    極論すれば、旧プラント理事国は関税障壁を利用してプラント経済に打撃を与え、国民総生産と失業率を低迷させ得る。人工的な不況に見舞われたプラントは『国力に応じて』軍備を縮小せざるを得ない。

    そうして我等の抵抗力が弱まり切った所を狙って―と言うこともあり得なくはない。実際の軍事侵攻までは至らずともザフト軍の縮小を利用して、旧理事国は強引な外交攻勢を仕掛けられたかもしれない。

    アグネス「(国家の防衛のためにもあの条項は絶対に入れるべきでは無かったし、せっかく奴等が卓袱台返しをしてくれた以上、永久に撤廃するべきだわ)」

    私の表情の動きを目で追っていたシュライバー国防委員長は少し勿体ぶって話の続きを引き継ぐ。

    シュライバー「ユニウス条約は既に効力を喪失していること、西ユーラシア連邦を初めとした旧理事国からの離脱国はその地位を引き継がないこと。また【プラントに課された旧理事国に対する関税優遇措置を代表例とする】片務的関税障壁は国際貿易体制において排除されるべきこと、以上の点で同意し宣言に盛り込まれた」
    アグネス「当然のことです。しかし容易くはなかったのではありませんか?」

  • 126二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 02:54:24

    会議に参加した国はプラントのことが好きだから顔を出したわけでもあるまい。自由貿易は弱小国にとってメリットばかりもたらすとは限らないのだ。

    クラーゼク「そうだな。実際、文言調整は難航したらしい」

    国防委員お二人は余りタッチしていないから何処か他人事だ。まあ、それは私も同じか。

    クラーゼク「現在、我が国が友好国に提供している『ロゴス排除に伴う経済激変緩和支援』。共同宣言に加わった諸国家・地域に対しては個別協定に基づいて、これを当面の間―最低5年―は継続することになった」
    アグネス「…」

    看護師さんのウンザリした顔が脳裏を過ぎる。そう、経済援助。私としても勘弁して欲しい。

    アグネス「(ブレイク・ザ・ワールドの支援と合わせてダブルパンチだわ。対ロゴス戦は此方の議長がぶち上げたものだから...。お付き合いして貰っている立場だから仕方ないとは言え―)」

    あくまで『支援』だからプラントの面子は経つ。けれども、これでは賠償や保証と中身は変わらないのではと思う。

    しかし現実問題として、あの規模の政治経済の混乱が数年で収まるとは考え難い。最低5年と定めたなら、もう5年は諦めるしかないだろう。

    クラーゼク「それから―。戦争裁判とは別建てに、各国・各地域に真実和解委員会を設置する方針を宣言に盛り込んだ。これはニウス条約締結以降のナチュラル・コーディネイター間のテロリズムや暴力の応酬、特にユニウスセブン落下テロ後に多発した憎悪犯罪と人権侵害に関して、その過誤の発見と公表を目的にしてのものだ。無論、我が国にも設置される予定、とのこと」

    ふむ。真実和解委員会か。問題も指摘される方式ではあるけれど…、起こったことが大規模すぎるから仕方ないかな。

    アグネス「英断です。しかし設置と運用に課題も少なくないのではありませんか?」
    クラーゼク「ああ。だから取り合えず『設置する方針』のみを取り合えず宣言した形だな」

    ではこれから次第か。プラントにとって幸いなのはデュランダル議長執政期、少なくとも国内ではナチュラル・コーディネイター間の重大な憎悪犯罪が生じなかった事か。ナチュラルの国民が少ないことも要因かも知れないが。

  • 127二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 07:30:48

    国内の憎悪犯罪か
    議長はその辺は上手くやってたんだな

  • 128二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 15:12:25

    >>127

    本編でもやたらヘイトコントロールは上手かったからね議長...

    ロゴス壊滅とレクイエム奪取でハッちゃけた最後はともかく

  • 129二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 21:44:42

    保守

  • 130二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 22:24:15

    お偉いさんに話してもらってばかりも悪い。自分でも読み進める。

    アグネス「(どれどれ…)」

    共同宣言では国際法廷についても言及されている。共同声明著名国・地域より派遣された法曹資格者を中心に組織し、ロゴスメンバー、本大戦の戦争犯罪人、ブルーコスモス武装組織等による大規模重大テロ事犯を対象とすること。

    アグネス「(国際法廷…。プラントにはギルバート・デュランダル氏という特大の爆弾が有る。慎重かつ迅速に事を運ばないと大火傷を負うわ)」

    彼の証拠隠滅能力の高さに助けられている形だ。不愉快ね。

    アグネス「(助けられてはいないわ…。迷惑かけられっぱなしよ。最初から変な陰謀を企みさえしなければ(疑惑)、良かっただけのこと)」

    もう一々言うまい。さて、共同宣言の概要報告書もようやく終わりが見えてきた。
    最後は―

    【西暦1965年12月21日に国連で採択された『あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(人種差別撤廃条約)』を基礎とした新たな人種差別撤廃条約を目指すこと。
    【新条約では『あらゆる形態の人種差別』に『コーディナイター・ナチュラル間の差別』も含む旨を明確化すること】

    『国連』、古代に滅んだ国の名前を聞いたような気分だ。人間の意識とは恐ろしい、ほんの数年まで存在した国際機関だというのに。

    アグネス「C.E.70年2月のコペルニクスの悲劇は人類史にとってあまりに大きな痛手でした」

    ポツリと溢した私の呟きにクラーゼク国防委員は激昂交じりに応じる。

    クラーゼク「ああ、そうだとも!役立たずな組織でも在るのと無いのとでは全く異なるからな。ロゴスめ!」
    アグネス「…」

    議長の暴露以後に進められた情報公開と押収資料の分析により、ロゴスが先大戦の開戦前からテロを行い、地球国家の開戦ムードを扇動していた事実が明らかとなった。

    月面会議を狙ったテロの詳細は分からない。しかし世情的に『犯人はロゴス、ブルーコスモス』と言った風潮、私もそのこと自体に殊更、異を唱えるつもりはない。

  • 131二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 22:58:40

    アグネス「(新たな人種差別撤廃条約、良いアイデアかも知れない―)」

    【イスタンブール共同宣言の著名国・地域は自己の統治権が及ぶ領域内において、ナチュラル・コーディネイター間の差別を含む人種的優劣、又は憎悪に基づく思想のあらゆる流布、人種差別の扇動、いかなる人種若しくは皮膚の色若しくは種族的出身を異にする人の集団に対するものであるかを問わず、全ての暴力行為又はその行為の扇動、及び人種主義に基づく活動に対する資金援助の提供も『法律で処罰すべき犯罪』であることを宣言すること】

    【イスタンブール共同宣言著名国・地域はナチュラル・コーディネイター間の差別を含む全ての人種差別を助長し及び扇動するその他のすべての宣言・活動を『違法である』として禁止するものとし、このような団体又は活動への参加が、『法律で処罰すべき犯罪』であることを認めること。そして罰則を伴う反ヘイト法を会議終了後、自国において遅滞なく制定し施行すること】

    共同宣言の主な内容は以上のようだ。細々とした細目や付帯条項は時間が出来た時に確認すれば良い。

    しかし―。

    アグネス「確かに理想的ですが…。参加国・地域から異論は出ませんでしたか?」
    クラーゼク「表向きは出なかったそうだ」

    この意味深な言葉の意味は意味する所は明らかだ。やはり力こそ正義…。違う!正義を為すのに力が要る。力を振るうにも正義(建前)が要る、と言うこと。

    実力で見れば、会議に参加した国・地域内に単独でプラントに勝てる国は存在しない。
    建前で考えても、仮にも国際会議の場で『差別OK』などと言い出せばその国はならず者扱いを免れない。少なくとも当事国にプラントが座っている限りは。

    『思いだけでも力だけでも駄目なのです』―つまり―『建前と実力を揃えてぶん殴るのが正義』ね。

    クラーゼク「ただ…新たな人種差別撤廃条約を目指す動きに、どういう訳かファウンデーション王国が後ろ向きな反応を示していたらしい」
    アグネス「王制国家ゆえ、国内の身分制度を維持する都合上、『人種差別の定義』には敏感に成らざるを得ないのかも知れません」
    クラーゼク「そうだな。相変わらず困った国だよ」

    とは言え、こうして共同宣言が纏まっている以上、最終的には折れたのだろう。シュライバー国防委員長は、私が報告書の終わりまで目を通したのを察して所感を述べられる。

  • 132二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 23:31:55

    シュライバー「人種差別撤廃条約、我ら国防委員会としては大いに結構に思う。これでブルーコスモスや類似組織の非合法化が達成される。今後、『現地のテロ対策支援』としてザフト軍が討伐に赴く大義名分にもなろうと言うものだ」

    アグネス「仰る通り…。このような大事を直接お伝え下さり誠に恐縮に存じます」
    シュライバー「いや、そう畏まらなくてもよろしい。それで…」

    国防委員長は目線をクラーゼク国防委員にお振りになる。

    クラーゼク「ゴホン!さて先に伝えたようにプラントはミネルバをカスピ海に派遣する。出発は明日夕刻。この遠征の目的は4つ。要人の護送、対ファウンデーション王国軍事支援物資の輸送、民生支援物資の輸送、帰路はイシュタリアからプラント行きを希望する難民の護送任務となる」

    随分、盛り沢山だ。忙しい日程になりそう。

    クラーゼク「行きはトラドール国務秘書官とカナーバ前議長、私、アラン・クラーゼクが乗艦する。
    トラドール国務秘書官はファウンデーション王国にご帰国、私は同行してプラント・王国間の軍事協力等について協議する。カナーバ前議長は特命全権大使として新条約締結の為、ご足労願うこととなった。調印予定地は大戦の転機となったガルナハン自由市だ」

    なるほど、プラントは条約調印に重みが欲しい。カザエフスキー評議員が軽いという訳では無いが、今のプラントは代行政権。『前議長』の称号は安くはない。

    クラーゼク「君はパイロット兼国防委員会側の要員として、道中もし指名があれば、カナーバ前議長の話し相手になって欲しい。意味は分かるかな?」
    アグネス「はい」

    お目付け役、と言う表現は強すぎるか。

    或いは名と顔が売れている私をミネルバに同乗させることで、カナーバ前議長にアレルギー反応を抱くザフト軍人に安心材料を提供したいのかも知れない。乗っていることだけでも意味があると。流石に思い上がり過ぎかな。

    しかし気になる点はまだある。

    アグネス「移動手段にミネルバが選択された理由は船足を買われてのことですか?文民の方は外交シャトルで降りるという手も」
    クラーゼク「ああ。だが例の正体不明勢力の件もある。それに…」

    一段、声のトーンを落として国防委員が事情を打ち明けて下さる。

  • 133二次元好きの匿名さん25/06/22(日) 23:55:44

    クラーゼク「パナマ基地から宙に軍事物資が打ち上がっているとの情報が届いた。軍艦も。一部がザフトの上宙哨戒網を抜けデブリ帯の中に辿り着き潜伏しているとも。これはまだ一般国民には公表していない」
    アグネス「!?」

    なんてこと!自分を張り倒したい。マスドライバーを敵の手中に残せば何が起こるか、火を見るより明らかだったのに。アルザッヘルに残敵を押し込んで安心していたわ…。

    アグネス「(連合の国力は侮るべからざるもの。なかんずく大西洋連邦は自国が戦場になっていない分、国力に余裕がある。ブレイク・ザ・ワールドで国土は傷んだとしても…)」

    人類の歴史を振り返れば、カブラの冬に直面してもドイツ帝国は第一次大戦を止めはしなかった。第二次大戦中、世界各地で大規模災害は生じていたが連合・枢軸双方、矛を収めはしなかった。今回も同じと言うことなのだろう。

    アグネス「(或いは国内外が動揺している今であるからこそ。大西洋連邦は地上国家の盟主として、無理を承知で威信を示す必要に駆られているのかも知れない)」

    ただ、その辺りコープランド大統領の真意は読めない。
    あの小心者は結局の所、どうしたいのか?ロゴスと断交する気が有るのか否か。

    逆にロゴスは現段階でどの程度、地球連合の政財界への影響力を保持しているのだろう?彼らの力が激減していること自体は分かる。でもその程度を知る術がない。

    シュライバー「いずれにせよ。プラントは核攻撃にも備えて警戒を強めている。故に本件では外交シャトルを用いない。連合も今回ばかりは容赦する気は無いだろう」
    アグネス「承知しました」

    いざと言う時は押し通っていけ、と言う訳ね。

    クラーゼク「艦載機はデスティニー3機、レジェンド1機、セカンドステージシリーズ4機(インパルス、セイバー、カオス、ガイア、アビス)、AWACSディン2機、ファウンデーション王国に下げ渡すゲイツR14機となる予定だ。
    艦には工業部品も乗せて行く。これは現地支援の一環、ガルナハン火力プラント増設事業の為のもの。必要な政治的パフォーマンスと理解して欲しい。
    帰路はファウンデーション王国に一時避難中のコーディネイター難民と同行を希望するナチュラルの親族をプラントまで移送する。これが任務の大枠だ」

  • 134二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 06:49:09

    保守

  • 135二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 14:37:43

    保守

  • 136二次元好きの匿名さん25/06/23(月) 21:50:23

    さて、額面通りのミッションになるかどうか…
    花束のカードもどうだったんだろう

  • 137二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 02:49:22

    クラーゼク国防委員はそこで話を一度区切り、私に視線を投げ掛ける。

    どう反応したものだろう?

    いや、国防委員会からここまで懇切丁寧にご説明を受けた以上、返答は決まっている。戦争犯罪を命令されたわけでもない。

    アグネス「了解。ご命令とあらば、我が身を惜しみません」
    シュライバー「おお。よくぞ!君の現主治医と看護師も君が乗るならミネルバ医師団に志願すると言ってくれている。気楽に構えてくれ。エルスマン博士、お頼みしますぞ?」

    既に外堀は埋まっていたみたいだわ。
    シュライバー国防委員長の視線が私を飛び越え、後ろにじっとお立になっているエルスマン博士に注がれる。

    タッド・エルスマン「明日の午後の検診しだいです。それまで最善は尽くします」
    シュライバー「うむ…。感謝します」

    なるほど、ミネルバは難民輸送任務の為、医療班を増員して出港するのか。それにしても―お世話になっているお二人を巻き込んでしまうとは…。

    タッド・エルスマン「二人の希望は君の為だけではない。乗艦予定の難民の為にも頑張りたいと言ってくれている。変に気負わないように」
    アグネス「はい…」
    タッド・エルスマン「君が乗艦できない場合も安心して良い。その際は二人も残る。我々は責任を以て君の身体の治療に当たる」

    エルスマン博士のお言葉は半分、シュライバー国防委員長に向けてのものだ。国防委員長は彼の視線を受けて、少し気まずそうに口を閉ざす。代わりにクラーゼク国防委員が話を先に進める。

    クラーゼク「カナーバ前議長のことくれぐれも頼む。私から直接は言い辛いこともあるだろうし、特務隊長のグラディス提督にも立場があるから」
    アグネス「はい。心得ています」

    ミネルバのFAITHメンバーで政治的役回りをさせるなら私かハイネ先輩、そう言うことなのだろう。勲章授与で直接面識が出来たことも相まってのことと思う。仕方ない。
    ハイネ先輩には国防委員会から別に命令が下っているかもしれない。

  • 138二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 03:09:48

    アグネス「(余程、カナーバ前議長のことが気掛かりなのね。彼女の存在感と見識を当てにしつつ、腫れ物に触れるが如しだわ。ちょっと可哀想に感じてしまう)」

    ユニウス条約締結とそれに対する国民の反発、僅か2年で破られた休戦、明らかにそれらがトラウマになっている。

    アグネス「(あるいは『別枠』の話も控えているのかも、彼女を気にするのもそのせいとか?)」

    お二人は今晩そのことについて触れる積もりはないらしい。私の思い過ごしかもしれない。
    話はよく分かった。でも一点、いや二点尋ねておきたい。お答えいただけるかはさて置き、聞く分には自由だわ。

    アグネス「ゲイツRの供与、これはデュランダル議長の約した対ファウンデーション王国大規模軍事援助を最高評議会が追認したと理解すればよいのでしょうか?」

    私が知っている限りだと最高評議会、国防委員会共に議長の大風呂敷を引き継ぐ事を嫌がっていたはず。まさかトラドール国務秘書官に最高評議会丸ごと遣り込められた、等と言うことは無いと信じたいが…。

    クラーゼク「そうだ。ミネルバには往復してもらうことになるだろう」

    クラーゼク国防委員の短いお返事には苦々しさが籠っている。私に向けられたものでは無い。ファウンデーション王国に対してのものかとも考えたが、それも違う様子…。

    その意味を掴みかねていると、シュライバー国防委員長は息を潜めて数枚の写真を取り出し、画面にチラッと見せて引っ込める。

    映り込んでいた物は地球連合軍のミサイル高射部隊、部隊の配置はおそらくユーラシアの内陸部、ミサイルに描かれた黄色と黒の禍々しいマークは―。

    アグネス「(GLCMマーク70巡行戦術核ミサイル!これはまいったわね…)」

    シュライバー「ファウンデーション王国軍からだ。分析したところ、フェイクでは無い。これは由々しきことだ」
    タッド・エルスマン「核ですか」
    シュライバー「ええ」

    ユニウス条約では、ニュートロンジャマー影響下においても核兵器の使用を可能とする『ニュートロンジャマーキャンセラー』の軍事利用禁止条項があった。

  • 139二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 03:55:32

    宣戦布告と共にユニウス条約は失効した、と解せばこれは違反とはならないだろう。

    けれども、破った側の連合が、核動力機どころか核爆弾を、大気圏下に、保管に止まらず実戦配備、と言うのはイエローラインとレッドラインを何本も踏み越えているように解される。

    加えて連合は開戦と同時に核でジェノサイドを企図した前科があるから猶印象が悪い。

    アグネス「(ザフトはザフトでハイパーデュートリオンエンジン搭載機の製造を進めていた訳だけれど、軍事転用したのは一応、開戦後。何れにせよ…)」

    シュライバー「ファウンデーション王国からはザフトに核兵器の地上配備を要請された。『王国から基地用地を提供する。あくまで抑止力として、『核攻撃には核攻撃の原則』で核シェアリングを』と」

    一考に値する提案だと思う。しかし、この話の流れを聞くに拒否したのだろう。

    クラーゼク「そうだ。カナーバ前議長を初めとした旧クライン派議員の強い懸念を受けてな。『ではその代わり十分な量の通常兵器』を、と言うことだ。ぐうの音を出なかったよ」

    カナーバ前議長め…。ニュートロンジャマー影響下でのミサイル防衛は困難を極める。地上への核配備の方が余程安上がりだろうに余計な事を―。

    アグネス「(お二人が先程から彼女に警戒している理由の一端が見えたわ)」

    しかし、だからと言って、あれもこれもと他国に引き渡すのも違うと思うのだが…。

    シュライバー「付言しておこう。この決定は決して片務的なものではない。L3宙域の王国領からバルドル級惑星間航宙戦艦がダイダロス基地に派遣される手筈となった。何でも陽電子砲を3つも積んでいるとか。制宙権確保の助けになるだろう」

    惑星間航宙戦艦? 3連装電子砲?

    アグネス「(俄かに信じがたい。それ作れるなら自国でゲイツRぐらい造れば良いじゃない!支援欲しさのハッタリだと思う)」

    まあ、明らかな嘘は直ぐに露見するもの。一応、其れっぽいものは積んでいるのだろう。

  • 140二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 04:11:20

    アグネス「お知らせ下さりありがとうございます。最後に、私の主任教官任務はどうなったのでしょうか?」

    カリーニングラード戦で一緒に戦ったきり、生徒達には会えていない。こんな不誠実な対応をするぐらいならシホ先輩と交代するべきだと思う。彼女自身もジュール隊から国防委員会の命で出向中なのではあるが…。

    クラーゼク「そのことだが…。教導団内の成績優秀者達をザフト本部に上げて訓練中だ。治療が一段落したら君に向かってもらう積もりだった。しかし事情は聞いての通り。暫くは担当教官に代行して貰う。
    これまでの訓練レポートを君のデバイスに送っておくから、目を通して意見を付けて返してくれ。急かさないが上位成績者3名と下位5名の分は出航までに、出来れば頼む」
    アグネス「はい…」

    事も無げに言われるから参ってしまう。信じられない!
    ここで私が倒れたら、この人たちはどうするつもりなのだろう?私には『はい』以外に返事のしようがない…。

    タッド・エルスマン「よろしいか!患者を今、休ませられないなら。明日からの『一時外出』は認められない。業務量を調整していただきたい!」

    強い声が越えて画面の向こうの二人を仰け反らせる。医師の存在を今日この時ほど嬉しく思ったことは無かったわ。やはりOB(最高評議会議員として)パワーは偉大ね。

    クラーゼク「むむ…。確かに。では…何人までなら?」

    エルスマン博士の剣幕に圧され、クラーゼク国防委員は弱気になって問いかける。全然懲りていない…。しかし―。

    アグネス「上位3名と下位3名までなら、戦況が切迫していることは承知しています。明日の午前の式典、大変名誉に存じますが、途中入退出可能でしょうか?」

    案外、悪くない話かも知れないわ。式典より普通の仕事の方が心身の疲労が少なく済む。

    クラーゼク「ああ。分かった。人生の晴れ舞台に済まない」
    シュライバー「君のプラントとザフト、国防委員会に対する貢献は歴史に長く刻まれることだろう。あっ、この言葉、ちゃんと記録しておく。安心したまえ」
    アグネス「この上なく光栄に存じます」

    国防委員長のフォローを受けて一安心する。記録に残してくれるなら軍歴に加点されるはず。それを励みに頑張ろう。連絡を終え、敬礼を交わしてデバイスの画面を落とすと一気に体の力が抜けてしまう。

  • 141二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 05:31:21

    おい大丈夫か?無茶してない?

  • 142二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 11:22:57

    >>131

    たぶんアコードはコーディネーターではなくより上位種だという見解にして形式的に飲んだ(いざDP施行すればコーディが有利なデファクトにどうせできる)のかな

  • 143二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 19:00:40

    保守

  • 144二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 20:43:45

    つい2、3日前まで足が欠損してたやつにやらせる業務量じゃねぇよ…

  • 145二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 20:52:24

    コーディネイター万能論極まりすぎ

  • 146二次元好きの匿名さん25/06/24(火) 22:18:17

    コーディネイターだから無茶していいんだよ

  • 147二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 00:19:04

    消えた画面をじっと見つめる。脳内麻薬が引いたのか心の中は虚無感と後悔でいっぱいだ。

    アグネス「(引き受けてしまった…。泣きそう)」

    右足が吹き飛んでから明日で六日、このタイミングで遠征に参加させられるとは思わなかったわ。地球に着く頃には7日目か。だから何だという話ではあるが…。

    タッド・エルスマン「大丈夫か?」
    アグネス「いえ…。戦況は逼迫していますので…」

    本当に便利な言葉だ。自分で自分に言い聞かせるにも。

    タッド・エルスマン「私は戦況の話はしていない。君の今の心と体の具合を聞いている。話せる範囲で感じていることを打ち明けてくれ」

    エルスマン博士はご自分で立ち位置を変え、私に目を合わせて質問して下さる。彼の蒼い眼差しが捨て鉢になりなり掛けている私を諫めている。

    嘘偽りを言っても意味はない。率直にお答えしよう。

    アグネス「正直、ぐっと疲れました。引き受けた任務を達成できるか…。自分の身体が持つか、自身が持てません…」
    タッド・エルスマン「ありがとう。よく話してくれた。どうか続きを」

    続きか…。どうなんだろう?

    アグネス「過去の大戦において。例えば第二次世界大戦において、負傷や障害を押して任務を続けたパイロットや指揮官の逸話は多く伝わっています。片目や片腕、片足、複数本の指を失い、傷の回復を待つことすら無く、空を駆け或いは陣頭指揮を続けた先人達。彼らを思えばずっと後輩の自分が泣き言を漏らすのは情けない事、そのように感じます」

    ナチュラルのご先祖様達は己の義務を果たした。それならコーディネイターの子孫たる自分も手を抜くわけには行かない。ずっとそう思って頑張ってきた。

    タッド・エルスマン「それは時と場合による。君の言う事例は当時としても好ましいものでは無かったはずだ。そこは分かっているね」
    アグネス「はい…」

    優しく窘められると目が潤み、少し声が震えてしまう。とても苦しい、本当に。

  • 148二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 00:23:11

    アグネス「(でも、もし自分がベッドで寝ている間にミネルバが沈んでしまったら?そんなことが起きれば…)」

    きっと私は一生立ち直ることが出来ないだろう。そもそも『ミネルバ轟沈=プラントの危機』、本国が核攻撃を受ければ、自分の一生の残りがあるかも分からない。

    私の思いを言葉と表情から汲み取った博士は、もう一度、静かに告げる。

    タッド・エルスマン「国防委員長にもお伝えした通り、全ては明日の午後の検診しだいだ。余計な忖度はしない。夕食を食べた後は夜更かしせず、ぐっすり眠りなさい。薬剤入りの点滴も準備しよう。就寝中に体内に入れる」

    温かいご配慮だわ。すごく嬉しい。ご厚意に甘えさせて貰おう…あ…!

    アグネス「下位の生徒3人のレポートを確認してから寝ます!」
    タッド・エルスマン「おいおい…。程々にしたまえ。明日の検診は本当に忖度無しだぞ!」
    アグネス「はい!」

    エルスマン博士から注意を受けてしまう。

    しかし、私が受け持っている教導航空団は対陽電子リフレクター装備モビルアーマー戦を想定したもの。
    訓練が捗らないままデストロイやザムザザーが海岸に来襲し、生徒・部下が戦死することになれば―やはり私は立ち直れないだろう。

    アグネス「どうか可能な限り。無理なら自分で国防委員会にお伝えしますので…。どうか…」
    タッド・エルスマン「その時は私に言いなさい!此方からストップをかける。くれぐれも程々にするように」
    アグネス「ありがとうございます」

    私のお礼を聞くと博士の表情が微かに揺れる。

    タッド・エルスマン「こちらこそありがとう。また顔を出す。一先ずデスクワークを許可する。良い夜を」
    アグネス「はい」

    自動扉の先に博士をお見送りして、業務用デバイスを先起動する。

  • 149二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 04:11:45

    ルーデルを目指していたのか⋯

  • 150二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 11:34:54

    保守

  • 151二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 16:09:14

    >>149

    いけると思ってたら、いざその身になってみると想像以上にキツかったと。

    そりゃ10代でする体験じゃねえよ…

  • 152二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 22:14:18

    次は腕が吹き飛ぶのかな

  • 153二次元好きの匿名さん25/06/25(水) 22:49:33

    成人とはいえ少し前まで足すっ飛んで危篤だった10代の子が休まる事ができないのは

    少数精鋭故の弊害か、それだけザフトの人材不足がやばいのか

    そういえば政変前にあった大連勤でグラディス特務隊長を含めミネルバ隊そのものが過労死寸前だった所にいずれこうなる予兆はあったのか...?


    >>152

    腕が飛んだらいよいよドクターストップで一年は病院から出してもらえなくなりそうだ...

  • 154二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 03:05:00

    メールボックスには受け持っているグフ隊生徒48機48人分と共同訓練中のAWACSディンやディン、バビ隊のレポートがずらり。シホ先輩と担当教官の分も付いている。

    アグネス「(多いけれど…ダンバー数の内には収まっているから良しとするか)」

    ありがたいことに生徒達のレポートはシホ先輩達が一度二度チェック、フィードバックして下さっている。私は『採点の採点』をすれば良いらしい。

    教導航空団の今の訓練内容はAWACSディンの哨戒のもと、12機程度の飛行中隊で陽電子リフレクター装備モビルアーマーを相手取ると言うもの。

    アグネス「(シミュレーターのみならず鹵獲後に修復が済んだザムザザー、ゲルズゲー、ユークリッド、そしてデストロイを用いてトレーニング中、武装は模擬光線と模擬弾。デストロイは複座に改装した訓練用機)」

    敵随伴機の有無と規模は毎回、切り替えているとの由。飛行中隊の構成はディン4機とバビ4機、グフ4機の計3個小隊程度。ディンはチャフを撒き必要ならフレア弾を、バビは支援砲火、グフは斬り込み―。

    アグネス「(ざっと目を通した限り、中々にさまになってきているわ)」

    既にゲルズゲー単機相手なら下位成績者のグフ4機小隊でも支援砲火無しで撃破判定を取れるまでになっている。成績上位者は2機でも撃破成功判定を出している。偉い!

    対ユークリッド・ザムザザーも生徒たちは味方の援護と支援の下に肉迫して陽電子シールド発生機を破壊し本体撃破と、基本を忠実に身に着けつつある。
    あくまで訓練上ではあるが成績下位グループよりなる中隊でも総がかりならザムザザーの撃破判定を捥ぎ取れている。

    しかし―。

    アグネス「(ちょくちょく僚機に撃墜判定を受けているみたい。下位グループは損耗し敗退することも)

    敵モビルアーマーに随伴機が加わった想定の訓練結果は芳しくない。ぐっと生還率が下がり敗退判定も激増する。

    アグネス「(これは問題ね。実戦ではまず間違いなく随伴機が存在する。自分の体験だと重要拠点を守備するゲルズゲーには2個飛行中隊程度、機動戦時のユークリッド1機にはダガーLないしウィンダムが最低3機)」

  • 155二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 03:14:30

    対デストロイ戦の訓練は順調とは言い難い。成績上位者からなる飛行中隊は撃破判定を出せる。でも繰り出した飛行隊の生還率は精々6~7割…。

    全機全員で生還しないと意味は無い。

    アグネス「(デストロイはともかく、ちゃんと訓練すればザムザザーは2機で墜とせる。バビとグフないしグフ2機。ユークリッドはグフ1機で斃せる。現にミネルバ・月軌道艦隊やジュール隊はそうして来た)」

    あの機体の攻略法はドラウプニル4連装ビームガンを連射し陽電子リフレクター『シュナイドシュッツSX1021』の起動を強制する。攻撃手段を封じ機動を牽制し、そのまま擦れ違い様にテンペスト・ビームソードで機体を切り裂くのだ。

    アグネス「(これを当面の目標にするべきかな。グフ1機でユークリッド1機)」

    全体のことはそれで良いとして、下位3名の躓きは何に起因する物なのか。シミュレーターの映像記録、訓練用モビルアーマーとの対戦模様を再確認してみる。

    アグネス「(ザムザザーの『複列位相エネルギー・ガムザートフ』、ユークリッドの『M464高エネルギービーム砲・デグチャレフ』を躱せない、潜り抜けられないのね。それを補うはずの対ビームシールドも上手く扱えていない…)」

    共同訓練中のディン隊、バビ隊にも似たような人達がいるわ。うーん、なるほど。

    アグネス「(技量が無いのに無理に射線を読んで躱そうとするせいだわ。他には大火力砲にたいする怯え。この二つはコインの裏表みたいなもの)」

    恐れ自体は悪いものでは無い。しかしそれにより己と戦友を危険にさらすのは愚かな事だ。自信過剰は言うに及ばず。

    今、思いつく対策は3点。

    一つ、偵察機は勿論のこと僚機、母艦、基地と密に連携し敵に不意を突かれないこと。
    二つ、会敵時は絶対に棒立ちにならないこと。こまめに回避飛行をすること。
    三つ、此方から接近するときは馬鹿正直に直進しないこと。攻撃時はフェイントをかけて肉迫すること。

    これだけ心得れば敵主砲に焼かれるリスクを大幅に低減できる。シミュレーターや模擬光線、模擬弾を相手にしている内に癖を治させないと…。

  • 156二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 03:43:38

    カタカタとひたすらデバイスのキーを叩いている内に時間は過ぎる。

    ピンポーン!ピンポーン!ピンポーン!ピンポーン!

    看護師「アグネスさん、もう!夕食ですよ」

    気が付けばインターホンが連打されているわ。
    はい!アグネス・ギーベンラート機撃墜。冗談抜きで戦場なら死んでいたわ。

    アグネス「どうぞ。お待たせしました」
    看護師「はい。入ります!」

    少し語気を強めて看護師さんが入室して来る。手に持っているのは…おお!

    アグネス「ステーキ!塊のような肉」
    看護師「そうですよ。それ風の合成食品ですけれど、『楽しみに』って言いましたよね。まさか博士が心配した通りになっているとは!」

    少しお冠な彼女に思わず身を縮める。

    アグネス「ごめんなさい」
    看護師「よろしい!はい、お仕事モードは終了。ゆっくり食べて下さいね」
    アグネス「はい」

    私がしゅんと頭を下げると看護師さんも機嫌を直し、食事トレーを差し出して下さる。合成医療食品とは言え香りも見た目もしっかりした肉だわ。焼き加減は中ね。

    アグネス「いただきます」 看護師「はい。召し上がれ」

    もしゃもしゃ、しっかりした歯応えが何とも懐かしい。入院以来、柔らかめなものばかり食べてきた。ようやく体が治って来たと実感するわ。

    ナイフを握ってから夕食が胃袋に収まるまではあっという間だった。少し名残惜しい。

  • 157二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 03:49:09

    アグネス「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」
    看護師「ありがとうございます。食堂スタッフの皆さんと薬剤師さんにお伝えしますね」
    アグネス「はい。その…看護師さん」
    看護師「はい?」

    少し姿勢を正して彼女を見上げる。夕食前に国防委員会からお伝えされたことが確かなら、私は彼女に言わなければいけない事が有る。

    アグネス「明日からの遠征…。その…ご迷惑をお掛けします!貴女にも病院にも…」
    看護師「いえいえ。帰路は難民支援も兼ねて、DMATみたいなもの。お気になさらず。勿論、どっちも手を抜いたりしませんよ」

    彼女は当然のことのように応じて下さる。

    看護師「ああ、でも遠征参加の可否を決める検診は忖度無し、って先生言っていましたよ。今日はゆっくり休んでくださいね」
    アグネス「はい。先程は失礼しました」
    看護師「よろしい」

    えへん、とした後、看護師さんは食器を片付ける。訓練された動作に優しい心が籠っているのが見て取れる。

    それを前にふと思う。私は自分の為に、立身出世の為に軍に入った。それは今も変わらない、でも―。必死にこなしている任務が真に銃後の人々の日々の暮らしの為になっているなら、これほど嬉しいことは無い。

    そんなことを建前でなく本心から思えたのは初めてかも知れない。これまでも少しは思っていたけれどね。

    アグネス「(真面で綺麗な事を考えるのは、アスランやルナマリア、シン達の役回りだと思っていたのに…)」

    明日、私の調子が良ければこの方はミネルバに乗る。仮に何かあって彼女が乗らなくても、今回の航海は大勢の軍属や文民が乗艦する。なんと五体を投げ打つのに足るお役目ではないか!

    さて、そう思い定めたならぱっぱとお仕事を済ませてお休みしよう。テンポよく。

  • 158二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 04:15:00

    彼女を見送りキーボードを叩く作業に逆戻り。ビリ生徒3人のレポートチャックを我武者羅に進める。

    その途中、メールボックスに紛れた別件の通達に気が付く。何だ、これ?

    アグネス「(今遠征の搭乗機の知らせだわ。私はレジェンド、ショーンとデイルは修理済みのセイバーとカオス)」

    トライン副長の補足説明も添えられている。航行中はミネルバの分離可能砲台及び追加装甲、ガルナハンとイシュタリア上陸時は『飛べる対空砲』として現地の守備を期待されている。要はディフェンス役ね。

    アグネス「(せっかくの最新鋭機にどうかとも思うけれど、今遠征に限ってはそれが正解だわ)」

    機動力を活かした役回りはデスティニー3機とフォースインパルス、セイバーに担ってもらえば良いのだ。単機で戦う訳ではない。連携と役割分担が大事だ。

    アグネス「(では今後の通常時任務はどうか。思うにレジェンドは重力下においては『接近戦もできる攻撃機、爆撃機』として運用するべきと見た。ちょうどカオスの上位互換。ファイヤー・フライミサイルが無いのは残念)」

    何にせよ、地球に着くまでシミュレーターに籠らないと。カナーバ前議長にも目を配りつつ…。

    はぁー。頑張れ、私。指を止めるな。
    ―悪戦苦闘の末、何とか『チェックのチェック』を終える。国防委員会と教導航空団本部に送信、ああ…やっと。

    送信のボタンを押すと同時にナースコールで看護師さんをお呼びする。

    看護師「お疲れさまでした」
    アグネス「はい。もう疲れました」

    もう今日のことは知らない。明日のことは明日考える。薬液入り点滴を差してもらい寝る準備はバッチリだわ。

    アグネス「そう言えばこの点滴は?」  看護師「身体に良いドーピングです」
    アグネス「善いドーピングなら問題ありませんね」  看護師「はい」

    安心、安心。お休みなさい。

  • 159二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 09:25:18

    本当に大丈夫かな?というか今すぐにでもドクターストップ掛けとかないとまた怪我しそうで怖い

  • 160二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 12:55:33

    色々と心配なのは脳内麻薬が出る頻度とか引くとベッドから動けなくなっていたりとか...
    これって多分、禁断症...

  • 161二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 19:17:50

    ????「ドーピングは人を傷つけるためのものではない、自分を高めるためのものだ!」

  • 162二次元好きの匿名さん25/06/26(木) 23:27:56

    保守

スレッドは6/27 09:27頃に落ちます

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