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🎲【閲覧注意】学P「初星バトルロワイアル……?」3|あにまん掲示板
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🎲【閲覧注意】学P「初星バトルロワイアル……?」3

  • 1◆YYjiOMVygQ25/10/07(火) 21:37:54
  • 2◆YYjiOMVygQ25/10/07(火) 22:05:21

    戦場は一色触発の空気を醸し出していた。

    射程では投擲武器であるブーメランを扱っていることねの側に分があるため、美鈴は下手に接近ができない。正面衝突では先に動ける方が勝者だ。
    だが、ことねの側も馬鹿正直に武器を投げてしまえば美鈴の金属バットで叩き落とされ、武器を失う結果に終わるだろう。

    互いにその予測ができているからこそ、どちらも動くに動けない。
    その戦局を傍から見ている千奈は、思う――というより、口にする。

    千奈「えっと、これ……どういう状況ですの?」

    無言で睨み合っている両者間で渦巻いている緊張感など、外部には伝わらない。
    第三者から見ればその様相は、見つめ合っている二人そのもの。
    その思惑がどう絡まっているかも――その殺意が、"誰"に向いているのかも、分からない。

  • 3二次元好きの匿名さん25/10/07(火) 22:45:31

    このレスは削除されています

  • 4◆YYjiOMVygQ25/10/07(火) 22:46:55

    美鈴「藤田さん。このまま時間が経てばなあなあになる、なんて思っていませんか?」

    ことね「しょーじき、そうしてくれるとすっげー助かるんだけど。」

    美鈴「いいえ……そもそもわたしの目的は――あなたではありませんよ。」

    千奈「えっ!?」

    突如、美鈴は真正面のことねを無視して、斜め前に位置する千奈へと走り始める。

    元々美鈴が千奈を狙っていた理由は、千奈が徒党のリーダーなり得る存在だからだ。
    彼女の持つ独特な雰囲気は、周囲をふわふわとした空気で包み込むかのように、争いごとを遠ざける。
    そうしてなし崩し的に、このゲームに"乗らない"選択肢を取らされるのだ。

    タイマンでの勝負であれば勝機は充分にあるが、複数人を相手取るとなればそうもいかない。
    ゆえに、ことねの命には興味がない。ここで見逃しても、他の誰かと争ってくれればむしろ自分の優勝に都合がいいとすら言える。

  • 5◆YYjiOMVygQ25/10/07(火) 23:04:06

    ことねには美鈴が千奈を狙っていた理由など知る由もないのだ。
    現在進行形で美鈴を牽制していることねよりも、手負いの千奈を優先して狙うことなど予想できまい。

    それでもことねの武器が長物であれば、距離の差を活かして千奈との間に割って入り、彼女を護ることもできるだろうが、ブーメランではそうはいかない。
    下手に投げれば千奈に当たる可能性もあるため、攻撃に転じることも難しい。

    ――と、そう、思っての特攻だった。

    美鈴「ッ――!?」

    美鈴の眼前を横切る黒い影。
    反射的に身体を仰け反らせ回避しなければ、顔面に直撃していたであろう。

    影は投擲者の元へと舞い戻る。
    その先に視線を向けると、戻ってきたブーメランをキャッチし、再び投げる姿勢を取ったことねが睨みを聞かせていた。

    美鈴「まあ……そのコントロール……あなたは忍者か何かですか。」

    さすがに面食らった表情を浮かべた美鈴が、されど落ち着きをもって発する。
    先に述べた数多の不利な要素を覆して美鈴の動きを止めたのは、針の穴を通すかの如き妙技だ。
    花海姉妹のようにスポーツに身を投じていた者ならいざ知らず、そのような経歴のないはずの藤田ことねが、一体なぜ。

  • 6◆YYjiOMVygQ25/10/07(火) 23:29:55

    ことね「馬鹿言うなって……こっちはギリギリなんだっての……。」

    ――藤田ことねが最も得意とする武器は何なのか?

    誰しも一度は考えたことのある問いだろう。
    そしてその答えは、"ブーメラン"である。

    藤田ことねのアイドルとしての特徴は、そのダンス力も然ることながら、天性のファンサの技術にある。
    おおよそ独学でファンサの基礎を網羅しながら、我流のパフォーマンスをステージ上での武器にまで昇華したためるその才は、数多のアイドルの成長に携わっていたビジュアルトレーナーを驚愕させるレベルである。
    ファンサの極意――それは"視線"を狙った観客のもとに届ける技術だ。
    "いま目が合った"という特別感を、より速く、より多くの観客に味わわせる能力。

    それを可能にしているのは、空間把握能力と言っても差し支えまい。
    XYZの3軸から成る世界を構造的に捉え、そこに干渉する力加減を正確に把握する能力なのだから。

    それに、洗練されたダンス力が裏付ける手首のスナップ。
    されどプロポーションを維持するために控えめに留まっている筋肉量から扱える業物の規模――

    ――ブーメランを上手に扱う条件の何もかもがことねに揃っていることに、異論を唱える者はいないだろう。

  • 7◆YYjiOMVygQ25/10/07(火) 23:41:37

    ことね「千奈ちゃん、急いで逃げて!」

    千奈「は、はいい!!」

    華麗な弧を描くブーメランの軌道と、鈍い煌めきを放つ金属バット。
    それらを手に相対するは、煌びやかな衣装に身を包んだ二人のアイドル。
    自らに迫る命の危機すら忘れて千奈が見惚れてしまったのも、無理はあるまい。

    そんな彼女に発せられた一喝が、彼女を現実に引き戻した。

    美鈴「逃がしませんよ。」

    と、後を追おうとする美鈴の脚を止めたのは一投のブーメラン。
    軽く掠っただけで走る日常から乖離した痛みと共に征く道は、"快適"と呼ぶには程遠く。

  • 8◆YYjiOMVygQ25/10/07(火) 23:50:09

    美鈴(っ……。所詮は一介のアイドルと侮っていましたが……一筋縄ではいきません。)

    既に千奈は自身の射程から離れてしまった。
    認めざるを得ない。
    敵対し得るアイドルたちに、身体能力では引けを取らないと思っていた。
    自身が本気を出せば――否、本気を出さずとも、凌駕できると疑っていなかった。

    美鈴(少しばかり……認識を改めなければなりませんね。)

    この油断は――傲慢は、時に己の首を絞め得ると知っている。
    N.I.A で予想を大きく超えてきたまりちゃんに先を行かれたように、決定的な敗北に繋がり得ると知っている。

  • 9◆YYjiOMVygQ25/10/07(火) 23:56:47

    千奈「す、すぐに助けを呼んで戻ってきますわ!」

    遠くから千奈の声が反響して聴こえてくる。
    千奈が安全な位置まで逃げられたことへの安堵と、未だなお自らに迫る危機への緊張が混ざった表情をしながら、ことねはその手にブーメランを構えた。

    美鈴「あなたはいつも、わたしの邪魔をしますね。藤田ことね。」

    ことね「今回ばっかりは利害が対立してるワケだし。……やっぱ、手毬のため?」

    美鈴「それをあなたに話す必要がありますか?」

    ことね「別にぃ。ってか美鈴ちゃん分かりやすくって、言うまでもないっていうか。」

  • 10二次元好きの匿名さん25/10/08(水) 07:15:55

    スレ立ておつ

  • 11二次元好きの匿名さん25/10/08(水) 08:28:39

    >>6

    “ブーメランを上手に扱う条件の何もかもがことねに揃っていることに、異論を唱える者はいないだろう。”

    そうかな……?そうかも……?

  • 12二次元好きの匿名さん25/10/08(水) 17:18:22

    >美鈴「まあ……そのコントロール……あなたは忍者か何かですか。」

    >美鈴(っ……。所詮は一介のアイドルと侮っていましたが……一筋縄ではいきません。)


    美鈴の強キャラ感すごい

  • 13二次元好きの匿名さん25/10/08(水) 22:07:50

    保守

  • 14◆YYjiOMVygQ25/10/08(水) 23:24:57

    美鈴「……安い挑発ですね。」

    不機嫌そうに顔をしかめつつ言い放つその様相は、言葉よりも饒舌に怒りを物語っている。あくまでも平静を保ったままじりじりと距離を詰める。

    ことね「安いどころか無料(タダ)じゃん? それで短絡的な行動取ってくれるならいくらでもやるって。それに……」

    美鈴「っ……!」

    瞬間、美鈴の眼前に速度を増したブーメランが飛来する。
    咄嗟に金属バットで受ければ、跳ね返った武器をキャッチしながらことねが続ける。

  • 15◆YYjiOMVygQ25/10/08(水) 23:28:55

    ことね「……あたしもさぁ、機嫌よくないからね。」

    手毬を巡っての衝突を避けるために、ことねは美鈴には愛想のいい顔しか見せていなかった。言葉に宿る低音のトーンも、滲み出る負の感情も、美鈴は知らない。

    ことね「最近のあたし絶好調で、N.I.A優勝こそできなかったけど……このまま人生うまくいくって、そう思ってた。」

    ことね「すっごいプロデューサーが付いて……落ちこぼれだったあたしが、このままアイドルで稼ぐことができるんじゃないかって……」

    ことね「そんな夢みたいな将来設計が……現実になろうとしてた。それなのに……殺し合いとかさぁ!」

    美鈴(もう一発……来る!)

    溢れんばかりの感情を乗せて、力いっぱいの投擲。
    教室の中にまた一つ、一陣の風が巻き起こった。

  • 16◆YYjiOMVygQ25/10/08(水) 23:57:35




    千奈「はっ……はっ……。」

    アイドル科教室棟の廊下を、息つく暇もなく駆け抜けた千奈。
    息を切らしながら、ぐるぐると巡り続ける思考が止まない。

    千奈(――どうして、藤田さんは助けてくれたのでしょう。)

    これまで話したこともほとんどないというのに、明らかに自分を助けるために立ち塞がってくれたと分かる。
    その理由の予想はつかない。
    いかなる思考の巡りの果てに美鈴に立ち向かう選択をしたのか、その推理導線など千奈には与えられていない。

    千奈(――きっと、優しい方、なのでしょう。)

    千奈が浮かべた予想は単純で――なればこそ。

    千奈(お友達を裏切ることになるのは心苦しいことですけれども……優しさには……報いなければなりませんわ。)

    導き出した答えもまた、明快なものだった。

  • 17二次元好きの匿名さん25/10/09(木) 08:14:41

    保守

  • 18二次元好きの匿名さん25/10/09(木) 12:43:19

    しゅしゅ

  • 19◆YYjiOMVygQ25/10/09(木) 21:16:03

    千奈「けれど……。」

    だからといって、何ができるのか。
    あの戦場では、明らかに自分だけが不相応だった。
    ブーメランを使いこなすことねに、圧倒的な身体能力を有する美鈴。
    対する自分は、唯一の武器すら落としてしまった始末。
    考えなしに向かったとて、ただ無駄に命を散らす結果に終わるだけだろう。

    それどころか、人質にされて足を引っ張ってしまう可能性も……。

    千奈「待っていてくださいませ、藤田さん――そして、秦谷さんも。」

    千奈「この争いを止められるお方を、すぐに連れてきますわ!」

  • 20◆YYjiOMVygQ25/10/09(木) 21:26:50

    【15:38 アイドル科教室 1年2組】
    ※千奈に支給されたバット(木製)が床に落ちています。

    【藤田ことね】
    状態:無傷
    持ち物:ヌンチャク、ブーメラン、メット
    行動方針:プログラムをボイコットする。

    【秦谷美鈴】
    状態:ほぼ無傷
    持ち物:金属バット、メット、メット
    行動方針:プログラムに優勝し、手毬と共に帰る。


    【15:38 アイドル科教室棟 出口】

    【倉本千奈】
    状態:腕の痺れ
    持ち物:傷薬
    行動方針:争ってほしくない。死にたくもない。

  • 21◆YYjiOMVygQ25/10/09(木) 21:33:15

    次回、咲季広四音です

    書いたら出ました

  • 22二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 02:36:30

    おめで保守!

  • 23二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 12:37:49

    保守

  • 24二次元好きの匿名さん25/10/10(金) 20:50:04

    保守

  • 25二次元好きの匿名さん25/10/11(土) 01:14:33

    寝る前保守

  • 26二次元好きの匿名さん25/10/11(土) 10:24:48

    ほーしゅ

  • 27二次元好きの匿名さん25/10/11(土) 17:57:43

    保守

  • 28二次元好きの匿名さん25/10/11(土) 18:10:03

    >>6

    スポーツとしてのブーメラン経験者だけど「うまくいかない」が基本だから

    辞めたは言わないメンタルのことねは適正あると感じる

  • 29◆YYjiOMVygQ25/10/11(土) 20:34:38

    広「咲季……どうしてわたしを庇ったの。」

    咲季「あなたねぇ……なんて顔をしているの。」

    理屈なんて、わからない。
    ――ただ、心の底から湧き上がってくる叫びが、わたしを突き動かしたんだ。

    あの時。
    広の背後に、きらりと光る殺意を見つけた。

    それが遠隔攻撃を可能とする凶器だと理解した瞬間――わたしは走り出していた。

    佑芽に負けて、とっくに折れたはずの闘志。
    それは今も再燃なんてしていない。
    諦めに近い感情が、死ぬも生きるもどうにでもなれと唾棄している。

    けれど、毎日やるべきことを順当に積み上げてきたわたしの頭はあの瞬間、確かに導き出したのだ。

    ――"みんなで生き残る"ために、"広を生かせ"と。

    横腹に深く突き刺さった一本の矢が、その結果だった。

  • 30◆YYjiOMVygQ25/10/11(土) 20:42:49

    広「ちがう……わたし、そんなことを望んでいたわけじゃない。」

    咲季「そんなことよりも……来るわよ。」

    四音「おや……。狙いをつけやすい方を狙ったつもりだったのですが……図らずも厄介な方を仕留めることができましたね。」

    背中の側から声がする。
    冷笑混じりの荘厳な声色は、その言葉に籠もる悪意をこの上なく伝えていた。

    白草四音――極月学園のアイドルにして、N.I.Aの優勝者。
    醜悪な笑みと共に、弓矢を携えて姿を現した。

    広「このプログラムに乗っているの? わたしたちに争うつもりはない。」

    四音「何ですか? その問いは。」

    まるで異なる言語を聞かされた時のように不思議そうな顔を浮かべたかと思うと、間もなくして腑に落ちたような顔に変わる。

    四音「……ああ。もしかして、皆で協力して生き残ろう、だなんて。そんな甘言で乗り切ろうとしているんですか。」

  • 31◆YYjiOMVygQ25/10/11(土) 20:51:57

    広「そう、乗り切ろうとしてる。この局面も……このプログラム自体も、皆で。だから、この場は引いてほしい。」

    四音「ふうん、乗り切る、ですか。一体どうやって?」

    広「手段は検討中。まだ具体的な方法を話し合うまで至っていない。」

    四音「……詭弁ですね。それが実現するとでも?」

    四音「というかそもそも……あなたたち、誰なんです? N.I.Aの終盤オーディションに出場していないアイドルなんて、いちいち認知していられませんので。」

    四音「ふふっ……そんな初対面の相手をどう信用しろと?」

    四音が弓矢に手をつがえる。
    その瞬間、弾かれたように広はポケットから支給された武器を取り出した。その直後――発せられた破裂音がその場の空気を切り裂く。

    四音「ッ――!?」

    驚きのあまりにつがえた矢から手を離したら、見当違いな方向に飛んでいき、壁に突き刺さった。
    広が手にした"拳銃"は、遠隔武器としての威力も速度も、四音の弓矢のそれを凌駕していた。

    四音「厄介な武器を……。」

    先ほどまで見せていた四音の余裕ある表情が、差し迫る命の危険への焦りへと、一瞬にして変貌を遂げた。
    そして憎まれ口を叩く余裕すらないままに、銃口から逃げるようにその場から走り去る。

  • 32◆YYjiOMVygQ25/10/11(土) 21:03:18

    広「ひとまず……追い払った。でも……。」


    咲季「ええ。きっとどこかに潜んでいるでしょうね。」


    事実のみを追うならば、四音は広の拳銃に恐れをなし逃げたと捉えられる。

    しかし、ここはプロデューサー科教室棟。

    プロデューサーのついていない咲季と広にとっては、馴染みのない建物だ。

    極月学園のアイドルたちへの優位性である地の利がこの建物に限っては存在しない。

    人間が潜めそうな場所の予測も、実際に向かってみないことには立てられない。


    現在地は dice1d4=2 (2) 階。

  • 33◆YYjiOMVygQ25/10/11(土) 23:27:23

    この高さなら窓から飛び降りるという手もあるが、負傷のリスクがある。
    どこから弓矢が飛んでくるかわからない廊下を進むのと、どちらを取るか。

    ……考えるまでもなかった。

    咲季は既に負傷しているし、広は広だ。
    二階から跳んではそれが原因で致命傷になりかねない。

    咲季「わたしが前を進むわ。弓矢を撃つには少なくとも腕だけでも私たちの前に現れる必要があるもの。それを即座に発見するためにも、動体視力に優れたわたしが先に行くべきよ。」

    広「わかった。じゃあ……この拳銃を使ってほしい。」

    広「わたしは狙いを定めるのがうまくない。さっきの反動ひとつで腕が痺れているからなおさら、ね。だから……」

    咲季「……いいえ、受け取れないわ。」

    広「え?」

  • 34二次元好きの匿名さん25/10/11(土) 23:59:15

    このレスは削除されています

  • 35二次元好きの匿名さん25/10/12(日) 09:03:31

    保守

  • 36◆YYjiOMVygQ25/10/12(日) 13:57:56

    咲季「それは非力なあなたでも扱える唯一の身を守る手段でしょ? わたしの方が扱うのが上手いからといってそれを横取りするつもりはないわ。」

    広「脱出後で返してくれればそれでいい。これは脱出成功の可能性を上げるための合理的選択、だよ?」

    咲季「……じゃあ、言い方を変えるわね。」

    咲季「前に立つわたしが不意打ちへの見切りに失敗して殺されたら、わたしの懐から拳銃を取り出している間にあなたが死ぬわ。」

    咲季「そうなれば二人とも殺されて白草四音の手に拳銃が渡ってしまう。それがわたしたちだけじゃなく他のみんなの死にも繋がる最悪のルートでしょ?」

    咲季「だから、その拳銃はあなたが持ちなさい。そして、あなたの技量で応戦しなくていい。もしわたしが死んだらそのまま一目散に逃げるの。白草四音も弓をつがえなおす隙があるから、あなたが全力で逃げれば逃げられるはずよ。」

  • 37◆YYjiOMVygQ25/10/12(日) 14:01:05

    広「……咲季は、ずるい。」

    広「わたしとあんまり話したこともないはずなのに……わたしがいちばん断れない言い方をしってる。」

    咲季「佑芽がいつも話しているのよ。責任感がとっても強いお友達のことをね。」

    広「……うん。佑芽はわたしの、大切なともだち。」

    広「わたしたちは似ている。咲季も佑芽が大好きだから……負けたときあんなにも、くやしい。」

    咲季「……別にそれを呑み込めたわけじゃないから、あんまり言わないでくれるかしら?」

    広「うん。だから、生きて……いっしょにリベンジしよう、ね。」

    咲季「リベンジの約束はしないわ。今でもまだ、立ち直れる気なんてしないもの。」

    咲季「……でも、今この瞬間。一緒に生き残るのには協力してあげる。」

    咲季「――この胸を駆け巡る鼓動の熱さに、気づいたから。」

    きっとここは、地の底。
    どうしようもない挫折に翼をもがれ、叩きのめされ、落ちてきた。
    釜の底であっても――されど運命が逃がさない。
    醜悪な催しが、灯火のごとく儚い命すらも取り立てにやってくる。

    けれど、そのような逆境の中でこそ。
    地に伏し倒れ、泥に塗れたとて――懸命に足掻くその勇姿は、綺麗だ。
    仮に、彼女たちに魅入られ、惚れ込んだプロデューサーがいたとするならば、その者はこう語ることだろう。
    花海咲季/篠澤広は――逆境でこそ輝きを増すアイドルなのだ、と。

  • 38二次元好きの匿名さん25/10/12(日) 20:41:37

    >>33

    >広は広だ。

    ここほんま草

  • 39◆YYjiOMVygQ25/10/12(日) 22:26:13

    さて、プロデューサー教室棟の脱出のためには開け放されたままの教室のドアを潜り、廊下に出なければならない。

    とはいえ、教室の中から廊下は死角だ。
    凝った隠れ場所なんて必要ない。一歩外に出た瞬間に撃たれてもおかしくないのだ。
    敵が"見えない"恐怖に心を蝕まれるような心地がじれったい。

    咲季「こういう時は――」

    広「しめちゃうの?」

    咲季「盾を用意するわ。わたしの後ろについてきなさい。」

    広「まって。まさか……」

    咲季は横スライド式のドアを一度閉め、数歩後ろに下がる。
    そして両の手を床に置く。いわゆるクラウチングスタートの構えだ。

    咲季「位置について……用意……」

  • 40◆YYjiOMVygQ25/10/12(日) 22:31:14

    床を蹴る鋭い音が心地よく広の耳に響く。
    それと同時に咲季の掛け声。

    咲季「――どんっ!」

    音を置きざりに駆ける少女は一瞬の間にドアの前に到達すると、その速度のまま脚を突き出した。
    鳴り響くは、破壊音。
    大きく凹んだドアを廊下の壁へと叩きつける。

    咲季「広っ!」

    広「……すぐいく。」

    脚をドアから引っこ抜くと、両腕を広げて両端を掴むと、それを目の前に携えて走る。
    咲季の背丈よりも高い盾を突き出しながら、二階廊下を駆けていく。

    広(怪我してるのに……ばけもの……。)

    背後から突き刺さる広の冷ややかな視線に気付かないまま、ばけものたちは廊下を突き進んでいった。

  • 41◆YYjiOMVygQ25/10/13(月) 02:51:57

    保守

  • 42◆YYjiOMVygQ25/10/13(月) 12:05:48

    2階廊下は難なく突破できた。
    待ち伏せなどはされておらず、罠なども特に見つからなかった。
    拳銃に恐れをなして逃げたのかもしれないが、だからといって警戒を緩めるわけにもいかない。

    咲季「さすがにこれを持って階段は降りられないわ。怪我してるもの。」

    咲季「つまりここからは身ひとつ。気を引き締めましょう。」

    広「うん。」

    四音が弓矢以外の武器を持っている可能性もある。
    咲季が刀とヌンチャクのふたつの武器を持っているように。

    広(可能性を追ってもキリがない。だけど……その対応に追いつけないこの身体が、もどかしい。)

    階段を下りる。
    足元がおぼつかず、たったそれだけの動作がスムーズに行えない。
    不安でも不調でもなく、ただ虚弱さゆえに真っすぐ歩けないから階段をうまく降りられないというだけだ。

    そうしてなんとか辿り着いた廊下を見渡しても、そこには誰の姿も見えなかった。

  • 43◆YYjiOMVygQ25/10/13(月) 12:22:39

    咲季「全部の教室のドアが開いているわ。」

    咲季「矢の射線を確保するためだったら……教室のどれかに潜んでいる可能性があるわね。」

    広「……なんとなく、わかってきた。四音のやろうとしていること。」

    咲季「あら、本当?」

    広「きっと、わたしたちを精神的に消耗させるのが狙い。」

    広「この廊下を一歩進めば矢が飛んでくるかも――そんな危機感を抱きながら進むのは、つかれる。」

    広「ただ外に出るだけでも、きっとへとへとになる。」

    広「メンタルの不調は肉体の不調と直結する。……絶対に四音の仕業だって確証はないけれど、清夏の悪い噂を広げたのと同じやり口。」

  • 44◆YYjiOMVygQ25/10/13(月) 14:42:24

    咲季「……なるほどね。逆に言うと、向こうからしたら教室の中で待ち伏せする意味はないというわけね。」

    咲季「わたしたちとの対峙を遅らせれば遅らせるほど、それは向こうへのアドバンテージになる。建物の外で待ち伏せするのがいちばん効果的だわ。」

    広「うん。だけど……この作戦の嫌なところは、看破したからといって何もできないところ。」

    広「現実的な話……精神を消耗せず、無警戒にこの廊下を闊歩することはわたしたちにはできない。」

    咲季「そうね……潜んでいる可能性は充分にある。まったく気を抜くわけにはいかないもの。」

    分かっていながらも、警戒を緩めずに進む。
    教室の入り口、ロッカーの影、柱の後ろ、そして靴箱の裏。
    あらゆる死角に差し掛かる度、ちらつくもしもに精神を侵食されながら、何も起こらない。

    緊張感で細くなる呼吸。
    建物の出口へと辿り着いた頃には、心なしか息苦しさすら覚え始めていた。

  • 45◆YYjiOMVygQ25/10/13(月) 14:58:32

    咲季「ここを出た瞬間、狙撃されることもあり得る。フェイントを織り交ぜていくわよ。」

    広「わかった。」

    透明なガラス製の扉越しに四音の姿は見えない。
    意を決して、その扉を開く。

    一歩、前へ。
    その瞬間にバックステップ――そんなフェイントのつもりだった。
    されどその瞬間、足元に感じる違和感。
    ぬるり、と。
    扉のフレームで死角になっていた地面に、謎の感触を覚える。

  • 46◆YYjiOMVygQ25/10/13(月) 14:59:51

    刹那、咲季の脳裏に思考が巡る。

    床が水浸しになっている。
    それも、ただの水ではない。着色がなされた痕跡が見える。
    赤系統の色であることから、血液だろうか。
    だとすれば、誰の?

    否――血液にしては色が薄い。
    これは、ジュース?

    待て、そうではない。
    意識を、"逸らされた"。
    フェイントのバックステップが一瞬、遅れている。
    今、意識を回すべきは――

    ――扉の死角、真横に彼女はいた。
    咲季の視線がそれを捉えた瞬間、つがえた矢から手を離し――

    その風切り音は、響く靴音に搔き消された。

  • 47二次元好きの匿名さん25/10/13(月) 22:00:01

    保守

  • 48◆YYjiOMVygQ25/10/13(月) 23:50:31

    四音「っ……。」

    あんぐりと口を開け、四音は眼前の光景にくぎ付けになっていた。
    そこに佇むは――意識の外から放った矢を、まるで真剣白刃取りとでも言わんばかりに掴んでいる、少女の姿。

    咲季「逃げなさい、広。あなたが死ぬのが最悪のパターンよ。四音は他にどんな奥の手を隠しているか分からないわ。」

    広「咲季は?」

    咲季「わたしはこいつをぶっ倒して、一緒に向かう!」

    それは、戦力外通告だ。
    自分の身体の弱さ――"アイドル"を"趣味"たらしめる唯一の要素が、咲季の足を引っ張っている。
    高い次元の身のこなしの両者に向けて拳銃を下手に撃てば、咲季の背中を撃ちかねない。

    それも、生き死にを分ける状況で。
    いちばん考えたくなかったことが最悪の形で発露していた。

    広(……"悔しい"。)

    広の脳内を、そんな感情ばかりが埋め尽くす。
    最近はずっと、こんな想いばかりだ。
    悔しくて、苦しい。

    ――篠澤広のバトル・ロワイアルは、地の底から始まりを告げた。

  • 49二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 07:45:30

    保守

  • 50二次元好きの匿名さん25/10/14(火) 15:27:57

    おねえちゃんかっこよすぎる!!!!

  • 51◆YYjiOMVygQ25/10/14(火) 22:49:56




    四音の弓矢は厄介だ。
    射程の差は簡単には埋まらない。

    一度目は、横腹に突き刺さった。
    栓の役割を果たしているそれを引き抜くと血が溢れんばかりに流れ出ることだろう。その矢は今も突き刺さっている。

    二度目は、火事場の馬鹿力とばかりに掴むことができた。
    意地と気合いが引き起こした、奇跡の上の神業だ。

    咲季(広はちゃんと逃げてくれたわ。それなら――)

    だが、奇跡には代償がある。
    "怪我した場所が痛まぬよう庇う"という無意識のリミッターすら外した咄嗟の動きにより、矢による傷は筋肉の運動に合わせて抉られ、今や大きく広がっていた。

    咲季(――"嘘"を吐き通した甲斐もあるってものよね。)

    もはや、矢一本では栓の役割を果たせない。
    もしもそれに広が気付いていたならば、彼女は意地でもこの戦場に残ったことだろう。
    咲季が横腹に刺さった矢から手を離せば、それは容易く地面に落ちた。必然、決壊したダムから水が溢れ出るように、咲季の身体は多量の血液を吐き出す。

  • 52◆YYjiOMVygQ25/10/14(火) 22:52:46

    咲季「あとはこの嘘を、本当にするだけ。」

    四音「その怪我で立ち向かってくるおつもりですか? 無駄なあがきは……がっ!?」

    そう言いかけた四音の前で、瞬時に加速する咲季。
    気付けば、渾身のアッパーをその顎に受けていた。

    四音「お、おのれ……ぐあっ!」

    三度目はない。
    故に、連続攻撃によって矢を準備する暇を与えない。
    それが咲季の打ち立てた方針である。

    自らの血に染まりゆくその手に新たに握られていたのは、支給されたヌンチャクだ。
    咲季の運動神経から放たれる殴打の一撃一撃が、着実に四音の体力を――命を削っている。
    また一発胴体に入った一撃に、四音は口から血を吐き出した。

    四音(このっ……見るからに痛々しいほどの傷を残しながらこの動き……!)

    本格的な武道を相手取るのは、四音にとって初めての経験だった。
    こちらの一手先の行動が、当然のように見透かされる。
    その原理など分からない。ただ、身長が頭一つ小さい相手を振りほどく、ただそれだけのことが成せない。

  • 53◆YYjiOMVygQ25/10/14(火) 22:54:39

    咲季「ッ……!」

    くらり、と咲季の視界が歪む。
    既に常人なら気絶していてもおかしくないほどの出血量。
    意識が一瞬飛んだその隙を、四音は見逃さない。

    四音「そこだっ!」

    動きは素人だが、ダンスの要領で素早く放たれたキックが脇腹へと突き刺さる。
    既に矢が抉った箇所に深々と通った一撃は、悶絶では足りないだけの痛みを走らせる。

    咲季「――捕まえた。」

    四音「――なっ……」

    景色が大きく揺らぐ。
    蹴りを入れていたはずの脚を掴まれ、ぶん回されているのだと理解した時には既に天地が反転していた。

    見上げれば満身創痍の少女は膝を付き、全身、泥に塗れながらも――燃えるような瞳で、ただじっとこちらを見据えている。

  • 54◆YYjiOMVygQ25/10/14(火) 22:55:51

    四音「なんなんだ、お前は。」

    その表情がひどく不気味で、叫ばずにはいられない。

    四音「どうせボクに勝ったってそのケガじゃあ未来なんてないのに、何がお前をそんなにっ……!」

    咲季「それは、わたし、が――」

    息も絶え絶えにようやく紡ぎ出した言葉に脈絡なんてない。
    不完全な言葉では、その意味なんて伝わらない。

    だがその一言は呪いのように、四音の耳へと残響を落とした。

    咲季「――お姉ちゃんだから。」

    かつてわたしを世界一だと言ってくれた妹を、嘘つきにしないため。
    きっかけはあまりにも些細な、ひと言だった。

    あの日からずっとみていた夢は、もうとっくに覚めたのに。
    佑芽に負けて、剥がれためっきが本当のわたしを曝け出したのに。

    ――まだ、心は走っている。

    潰えた未来に"花海咲季"を刻まんと、悪あがきを続けている。
    諦めが悪いことなんて、百も承知。
    今やるべきことをやるために、足を止めるな。

    その奮起だけが、咲季が立っている理由であった。

  • 55◆YYjiOMVygQ25/10/14(火) 22:57:04

    四音「ふっ……ふふっ……。随分と妹さんと仲がよろしいようで……。」

    四音「そんなあなたにひとつ、教えてさしあげますよ。」

    それを曲がりなりにも理解したからこそ――

    四音「知りたいでしょう? 花海佑芽が、私に敗れた本当の理由。」

    咲季「あなた、一体何を……。」

    ――へし折ってやろう、と。
    そう思うのが、白草四音であった。

  • 56◆YYjiOMVygQ25/10/14(火) 22:58:05

    四音「FINALEでぶつかる相手ですから、調べたんですよ。佑芽さんのこと。」

    四音「アイドル以外の競技での過去のインタビューでは、花海咲季さん……あなたの名前はよく出てきました。」

    四音「花海佑芽があなたに憧れて同じ競技に進出していることも、随分と分かりやすかった。」

    四音「だから、本番直前の楽屋で、ちょっと囁いてあげたのですよ。」

    四音「『花海咲季さんはあなたに負けたせいでアイドルを続けられなくなった……』ってね。」

    咲季「なっ――!」

    四音「ふっ……ふふふっ……その顔が、その顔が見たかった。」

    四音「あなたがなぜしばらくオーディションから姿を消していたのかは分かりませんが、その設定を仕立てるのにとても都合がよかったのですよ。」

    四音「ですから、あなたには感謝しているんです。それを聞いた時の、彼女の動揺といったら……ふふっ。」

    四音「ねえ、姉を――圧倒的強者の称号を自称しながら、その実最愛の妹の足を引っ張っていた気分はどうです?」

  • 57◆YYjiOMVygQ25/10/14(火) 22:59:11

    咲季が立っていた理由をあえて言語化するのならば、それは"意地"というものだろう。
    吐いた"嘘"を現実にするため。
    たったそれだけの理由で長きに渡ってポテンシャルの怪物である妹を超え続けてきた。
    それを可能にしてきた数値で表せない力は、この場でも遺憾なく発揮されていた。

    けれど――その根底にあった理由を、四音の言葉ははっきりとへし折るに足るものであった。

    まるで夢から覚めるように――理屈を超越して動き続けてきた足が、ぴたりと止まる。
    咲季はもはや立ち上がることもできなくなっていた。

    咲季「……あなたはわたしを、随分と評価してくれているのね。」

    咲季「佑芽に負けてアイドルを続けられなくなった……それを"設定"だと。佑芽を貶めるための作り話だったと、そう思っている。」

    咲季「何も違わないわ。わたしは……アイドルを一度、諦めた。」

    咲季「それでも――数多の競技を渡り歩いた一人のアスリートとして、わたしはあなたをこう評するわ。」

  • 58◆YYjiOMVygQ25/10/14(火) 23:00:14

    咲季「――あなたは、アイドルじゃない。」

    咲季「ライバルへのリスペクトを欠いた競技者に……勝利の女神は微笑まない。」

    四音「負け惜しみを……。」

    咲季「それを――覚えておきなさい。」

    そんなひと言だけを残して、咲季はその場に崩れ落ちた。
    もはや直接手をくだすまでもない。
    放っておけば際限なく流れ出る血液が、彼女の命を奪うだろう。

    四音「あなたは私に負けた。」

    四音「ルールの整備されたこの場において、あなたには私を殺せるだけの力がなかった。」

    四音「ただ、それだけでしょう? そこにライバルへのリスペクトなんて関係ないでしょうに。」

    そう言って、動かなくなった咲季の持ち物袋へと手を伸ばす。
    その中身を検めたその時――四音の額に一筋の汗が伝った。

    四音「……は?」

  • 59◆YYjiOMVygQ25/10/14(火) 23:01:15

    そこには、一本の刀が入っていた。

    彼女が自分の制圧にヌンチャクではなくこれを用いていたら、死んでいたのはどちらであったのか――その先は想像するまでもない。
    命に危険が迫っているあの状況で――花海咲季は敵であるボクに情けをかけていたとでもいうのか。
    自分が今ここに立っている理由が、花海咲季がライバルへのリスペクトを欠かさなかった"アイドル"だったからとでも、いうのか。

    四音「ふっ……ふふっ……だとしたら本当に……どうしようもない。」

    そこに込めたは怒りか、憎しみか。
    物言わぬ少女の背に、思い切り刀を突き立てた。

    そんなもので鬱屈が晴れることは無い。
    近接戦闘に有利な殺傷力を持つアイテムを手に入れたというのに、気分が晴れない。
    地の底を這い回る怨霊に、同じ土俵へと引き摺り込まれたような――そんな感覚がひどく、胸の奥につっかえてしかたなかった。

  • 60◆YYjiOMVygQ25/10/14(火) 23:02:16

    【花海咲季 死亡】

    【残り 13人】

  • 61◆YYjiOMVygQ25/10/14(火) 23:03:18

    【15:47 中庭(教室棟エリア)】

    【篠澤広】
    状態:無傷
    持ち物:拳銃(装弾数16)、メット、初星ブーストエナジー
    行動方針:プログラムを誰も死なずに乗り越えるため、仲間を集める。

    【白草四音】
    状態:全身に打撲痕
    持ち物:弓矢(矢の本数7)、メット、刀、ヌンチャク、厳選初星チャイ
    行動方針:プログラムに優勝する。

  • 62◆YYjiOMVygQ25/10/14(火) 23:07:08

    次回、dice1d2=2 (2)

    1 千奈+莉波

    2 星南+撫子

  • 63二次元好きの匿名さん25/10/15(水) 07:42:28

    咲季お姉ちゃん、かっこよすぎる。

  • 64二次元好きの匿名さん25/10/15(水) 08:17:14

    お姉ちゃんが強すぎて読んでて震えが……
    某鬼狩りの世界観だったら痣発現してそうな戦いぶりだ

  • 65二次元好きの匿名さん25/10/15(水) 10:05:29

    その気になれば刀で瞬殺できたであろうお姉ちゃんが最後まで矜持を見せてくれたの悲しいけど好き…
    でもこうなると佑芽がバーサーカーになりそうだな

  • 66二次元好きの匿名さん25/10/15(水) 12:23:12

    16:00の校内放送が気がかりになってきた
    燐羽の死亡を知った手毬美鈴と、咲季の死亡を知った佑芽はどうなるのか……

  • 67二次元好きの匿名さん25/10/15(水) 20:37:58

    >>66

    しかもその手毬佑芽が一緒にいる上に、あわよくば漁夫の利狙ってる清夏までいるのあまりにも絶望

  • 68◆YYjiOMVygQ25/10/15(水) 23:22:24

    保守

  • 69二次元好きの匿名さん25/10/16(木) 07:31:13

    保守

  • 70二次元好きの匿名さん25/10/16(木) 16:17:46

    ほっほっほ

  • 71二次元好きの匿名さん25/10/16(木) 20:00:57

    手毬美鈴はどうするんだろう
    生き残れるのはよくて2人だけだし

  • 72◆YYjiOMVygQ25/10/16(木) 23:09:43

    プログラムをボイコットすることに決めた撫子。
    目先の目標は、志を同じくする者との合流であった。

    独りで行うボイコットなど、殺し合いを恐れてのただの現実逃避に過ぎない。
    そこにリスクがあろうとも、誰かと手を組まねば成立しないのだ。

    撫子(うう……とはいえ、次に出会うお方がわたくしを殺そうと向かってきたらどうしましょう……。)

    殺し合いを強制させられている状況下での、他者との接触。
    当然、恐ろしいに決まっている。
    震える両腕を抑え込んでいるのは、未だ誰とも出会っていないが故に生まれる非現実感じみた想いのみ。

    撫子(野外ステージが見えてきましたわ。)

    学内ライブに用いる場所だと、莉波お姉さまの学園案内の時に聞いている。
    講堂でのライブが叶うまでの実績がないアイドルは、最初にまず野外ライブでデビューするらしい。
    必然、多くの新人アイドルにとって、最初に観客の前で歌う舞台なのだと。

    初星のアイドルにとっては、感慨深い者も多いだろう。
    撫子にとっても、極月学園にある野外ライブ用のステージで歌い踊った経験は、何物にも代えがたい思い出として記憶の片隅に残っている。

  • 73二次元好きの匿名さん25/10/16(木) 23:43:23

    このレスは削除されています

  • 74◆YYjiOMVygQ25/10/16(木) 23:44:32

    撫子(もしかしたら……誰かいるんじゃありませんの?)

    撫子(現実逃避気味に思い出の場所にやってくる、殺し合う勇気の出ない弱小アイドルが……。)

    撫子(そんなお方がいたら、わたくしと利害が一致しますわ。そしたら、配下としてこき使って差し上げますわ……。)

    と、思考にふけながら歩いていると、次第に人影が見えてくる。
    撫子の顔が期待に染まる。
    悪だくみ通りに進んだに思えた展開に胸を膨らませ――

    星南「あら。」

    撫子「……ぴぇ。」

    "出会った"のではなく、”出くわした"のだと気付いた時には、既に手遅れであった。

  • 75二次元好きの匿名さん25/10/17(金) 06:00:08

    朝保守

  • 76二次元好きの匿名さん25/10/17(金) 15:05:37

    保守

  • 77二次元好きの匿名さん25/10/17(金) 22:23:56

    保守

  • 78二次元好きの匿名さん25/10/18(土) 03:04:23

    撫子(現実逃避気味に思い出の場所にやってくる、殺し合う勇気の出ない弱小アイドルが……。)
    撫子(そんなお方がいたら、わたくしと利害が一致しますわ。そしたら、配下としてこき使って差し上げますわ……。)

    ここお可愛いこと

  • 79二次元好きの匿名さん25/10/18(土) 11:35:27

    保守

  • 80二次元好きの匿名さん25/10/18(土) 19:05:57

    保守

  • 81◆YYjiOMVygQ25/10/18(土) 19:12:15

    最初に目に着いた異常は、その姿だ。
    ステージ衣装をはだけさせ、上半身を露出している。

    だが、そんな淑女にあるまじき姿を晒していることすらも些細と吐き捨ててしまえるだろう。
    彼女の足元に転がる顔の潰れた死体と、その死体が出処であろう赤い液体を滴らせる武器を傍らに置いている事実を、前にしたならば。

    しゃがみ込んだ星南は、ステージ上に転がる死体を貪っているかのように見えた。
    それは比喩であるが、実際に死肉を食べているわけでなくとも、貪ると評するのは相応しいのだろう。
    支給袋から持ち物を漁り、彼女のために作られたであろうステージ衣装すらも、血の染み込んでいない箇所を片っ端から破っている。
    ハイエナのように、彼女が持っていたあらゆるものを奪っては己がものにしている。
    そこに尊厳だとか遠慮だとか、そんなものは見受けられなかった。

    星南「ご覧の通り、取り込み中なの。後にしてくれるかしら。」

    昼休みに憧れの一番星を訪ねてくる不調法者にも、このような冷たい対応はしないだろう。
    何者も受け付けないような冷徹さを宿した言葉が、撫子へと降りかかる。
    どうやら見逃してもらえるようだ。
    それならば言う通りに逃げろと、生存本能が警鐘を鳴らす。

  • 82◆YYjiOMVygQ25/10/18(土) 23:27:34

    撫子「そっ……そちらの方は、あなたが?」

    ――声を出した。
    分かりきっている質問だが、聞かずにはいられなかった。
    震えて掠れた声。恐怖の色が自分でも分かるほどに強くにじみ出ている。

    だけど――死体の髪色に、見覚えがあったから。
    四音お姉さまに酷いことを言うし、元初星学園のアイドルだし、何よりいけすかない女だったけれど――それでも一度は、同じ学び舎で過ごす相手として接した仲の相手だ。
    許せないと怒るほどの間柄でなくとも、その死の過程を知りたいと思ってしまった。

    ――その好奇心が猫を殺すと、知っていながらも。

    星南「……ええ、そうよ。」

    尻尾を巻いて逃げなかった撫子に少しだけ目を丸くしながら、星南は答える。

    撫子「一体どうしてですの! 一番星にして生徒会長、十王星南といえば……生徒想いでご高名のはず……!」

    撫子「十王という名家の名も、初星学園代表の名を背負いながら、何故あなたは、躊躇いなく手を汚すことができますの!?」

  • 83二次元好きの匿名さん25/10/19(日) 09:10:24

    保守

  • 84◆YYjiOMVygQ25/10/19(日) 11:20:40

    少しだけ、逡巡したように顔の筋肉が動いた気がした。
    けれど気のせいだったのか、すぐに元の表情に戻る。

    星南「……何も語ることはないわ。何せ私たちは、殺し合っているのよ?」

    撫子「そういうことを言っているのではございませんわ!」

    撫子「いけ好かない蝙蝠のようなお方でしたが……それでもあなた方初星にとっては、かつてのお仲間なのではありませんの!?」

    星南「間違いないわね。そしてもちろん、あなたもよ、藍井撫子さん。」

    星南「極月学園生のあなたも、わたしたちの愛すべきライバルにして……今は一時的であっても、同じ学び舎で夢を追う同志。」

    星南「――かけがえのない仲間。」

    撫子「ッ――! だったら、どうして。」

    会話にならない。筋が通っていない。
    言葉では到底届かない相互理解を半ば諦めて、サバイバルナイフを手に取る。

  • 85◆YYjiOMVygQ25/10/19(日) 11:31:07

    星南「悪いけれど……今は間が悪いの。」

    対する星南が取り出したのは、燐羽を殺すのに用いた武器ではなく、一本の剣であった。
    元々は賀陽燐羽に支給された武器。彼女を殺したことで、今は星南の手に渡っている。
    手への馴染みを確認するかのように片手でくるりと一周、身体の周りを巡らせると、それは星南と一体化したかのような自然な軌道を描いて舞い戻る。
    まるで元から星南の武器であったかのように、手慣れた仕草だ。
    間もなくして真っすぐに撫子に向けて突き付けられたそれは、言葉よりも雄弁に撫子の運命を伝えているようだった。

    撫子「……あうあうあう。」

    射程の差は一目瞭然。
    扱う者の体格差も語るまでもない。

    星南「正直なところを言うわね。」

    星南「私としてはあなたをここでひと思いに殺してもいいのだけれど、その先を考えるなら、賀陽燐羽との交戦で負った傷の止血を優先したいの。」

    星南「そして、これ以上あなたとの会話に興じるつもりもないわ。」

    星南「選びなさい。素直に引き下がるか……今ここで死ぬか。」

  • 86◆YYjiOMVygQ25/10/19(日) 11:37:52

    撫子「ッ……! 何を言い出すかと思えば……。」

    星南がプログラムに乗った本心は見えないが、止血を優先したいというのは嘘ではないのだろう。
    つまりここで食い下がれば、星南にとっては都合が悪いということ。
    その代償に命を落とすとしても――少なくとも開いた傷口は、このプログラムに乗った一番星のその後に大きく影響を与えられるということ。

    撫子(取るべき行動は――たったひとつですわね。)

    準備運動をする暇なんてない。
    恐怖で硬直する身体に鞭打って、動けと命じる。
    その後に発生するであろう、激しい運動量に耐えるために。

    撫子「あんまりわたくしを舐めないでいただきたいですわ。わたくし、と~~~っても賢いんですのよ? このようなお言葉を知っていまして?」

    大言壮語に乗せられて大局を見失うわけにはいかない。
    サバイバルナイフを教鞭のごとく高々と掲げて、宣言する。




    撫子「――三十六計逃げるに如かず! お邪魔しましたわぁ~~~!!!」




    進行方向をくるりと180°回転。
    全力疾走――生じるは、激しい運動量。
    それはもう、かつてない速度で逃げ出した。
    そして彼女の言葉通り、星南は特にその後ろ姿を追うようなことはなかった。

  • 87◆YYjiOMVygQ25/10/19(日) 12:01:49



    星南「……彼女が素直で助かった。」

    燐羽のステージ衣装の血のついていない箇所を破り、簡易的な包帯を作り出すと、傷を負った身体に巻き付けた。
    その上から改めて、自身の衣装を着直した。

    星南「それにしても……血は落ちないわね。」

    白を基調としている分どうしても、浴びた返り血が目立っている。
    一度汚れてしまえばもう、後戻りはできないと言われているような心地だ。
    それを面白くないとは、思わない。
    この罪悪感を背負っていくと決めたのだから。

  • 88◆YYjiOMVygQ25/10/19(日) 12:06:16

    星南「わたしのこの目は知っている。」

    ――死地へと送られていく"あの子"たちは、どうしようもなく、アイドルだった。

    だというのに、殺し合わされる"あの子"たちと、ステージの上で輝く"それ以外"を分けたのは――
    ただ、生まれた星のもとが違う。
    強いて言えば、それだけだった。
    それだけのために、輝きがくすんでは散ってしまう。

    星南「あなたたちは、"アイドル"。」

    最後の仕上げに、着崩れを直し、剣を装備する。
    殺し合いの象徴たる凶器すらも、そのステージ衣装を構成する一要素であった。

    星南「その輝きを、曇らせはしない。あなたたちが"アイドル"である内に……あなたたちを終わらせる。」

    ――その衣装が示す楽曲の名は、"小さな野望"。

    プロデューサーに注文した、一番星の再誕を祝う曲。
    そしてそれは――十王星南にとって最後のアイドル活動への、手向けの歌。

  • 89◆YYjiOMVygQ25/10/19(日) 12:09:35

    【15:51 野外ステージ】
     
    【十王星南】
    状態:胸元に裂傷(止血済み)
    持ち物:金属バット、メイス(亀裂アリ)、盾、剣、防弾チョッキ
    行動方針:参加者たちが"アイドル"である内に全部終わらせる。

    【藍井撫子】
    状態:ほぼ無傷(指に切り傷)
    持ち物:サバイバルナイフ、防弾チョッキ、防刃チョッキ
    行動方針:プログラムのボイコットをする。

  • 90◆YYjiOMVygQ25/10/19(日) 12:13:43

    次回、莉波+千奈です。
    その後16:00の校内放送で全参加者に対し死亡者の告知があります。

  • 91二次元好きの匿名さん25/10/19(日) 19:17:25

    ちょい早め保守

  • 92◆YYjiOMVygQ25/10/19(日) 22:45:17

    保守

  • 93◆YYjiOMVygQ25/10/20(月) 08:01:23

    保守

  • 94二次元好きの匿名さん25/10/20(月) 17:09:41

    保守

  • 95◆YYjiOMVygQ25/10/20(月) 21:40:08

    麻央『ダメ、だったか。』

    電光掲示板に、N.I.Aの優勝者の名前が表示される。
    その名前を目にした瞬間、隣で見上げていた麻央は分かっていたと言わんばかりにくしゃりと笑った。
    明らかに無理をした笑顔だが、それを指摘するのは野暮というものだ。
    私にできるのは――してもいいのは、ちょっとお高めの寿司にでも誘って、敗北の色で塗りたくられたメモリーを少しでも上書きしようと試みることくらいだ。

    私、姫崎莉波は、FINALEを待たずして麻央に敗北した。
    アイドルとしての実力に大きな差があったとは思わない。
    清夏ちゃんとリーリヤちゃんの助言通り、キャラを演じるのを辞めて、素に近い状態で挑んでみた。
    それが存外自分には合っていたようで、新規ファンを中心に多くのファンを獲得していた。
    星南会長にも、アイドル力が上がっていると褒められた。

    であれば、私と麻央を分けたのは、戦術の差――プロデューサーの有無だったのだろう。
    プロデューサーが付いてから麻央は、大きく路線変更をしていた。
    かっこいい王子様じゃなくて、一般的なアイドルのような、可愛さに特化したパフォーマンス。

  • 96◆YYjiOMVygQ25/10/20(月) 21:42:48

    私は知っている。
    麻央は、可愛い。
    心理的ハードルを乗り越えてしまえば、人気に火が付くのも当然というものだ。

    でも、どこか寂しいと――そんな気持ちが無かったと言えば嘘になる。
    華奢な身体で背伸びをするように、自分の中の理想の"かっこいい"を演じる麻央に会えなくなったのだと思うと、古くからの麻央を知っている身としては、どんよりとした気持ちになるというものだ。

    麻央の古くからのファンも、新しい麻央のカタチを歓迎しつつも、同じような想いを抱いていたのだろう。
    そんな心の隙を、"王子様"は見逃さなかった。

    麻央『――みんな、お待たせ。』

    N.I.Aに入ってから鳴りを潜めていた、本来の麻央が目指していたカタチ。
    待ちわびていた王子様の登場に、観客席は大会中で見てもいちばんの大盛り上がりを見せた。
    自分を受け入れてから改めて踏み出した一歩は確かに、これまで進めなかった夢への道を踏みしめていたのだ。

  • 97◆YYjiOMVygQ25/10/20(月) 21:45:37

    でも――ねえ、麻央。
    あれは、切り札じゃなかったの?
    私を超えた先――FINALEのために"温存"していたんじゃないの?

    莉波(私は麻央に負けた。その結果が変わらないのなら……)

    莉波(……私が麻央とぶつかり合わずに棄権していれば、麻央はFINALEに勝てたのかな。)

    なんて――過ぎった気持ちには、蓋をしよう。
    それを口にしてしまえば、私を切り札を使うに足るライバルだと認めてくれた麻央に、失礼だ。

    だけど、やはり思わずにはいられなかった。
    私のN.I.Aは、大切な親友の足を引っ張ってしまっただけだったのだ、と。

    そんな歯痒さは――負けた悔しさをも、上回っていて。

  • 98◆YYjiOMVygQ25/10/20(月) 22:33:22

    プログラムに乗るのか、それとも反抗するのか。
    その答えを保留し続けていられたのは、周りに誰もいなかったからだ。

    千奈「莉波お姉さまぁ~~~!」

    その前提が、崩れ去った。
    莉波一人のビジュアルレッスン室に突如としてやって来た来訪者が、莉波の思考を奪った。

    莉波「ち、千奈ちゃん!? どうしたの、落ち着いて!?」

    千奈「ふぐっ……えぐっ……お助けくださいまし~っ。」

    莉波「えっと……ど、どうしよう。……そうだ。」

    ハンカチは支給されていなかったが、その場がビジュアルレッスン室なのも幸いし、洗顔クロスを見つけ出すことができた。
    それで涙を拭いて、千奈の興奮を少しだけ落ち着けることができた。

  • 99◆YYjiOMVygQ25/10/20(月) 22:45:31

    莉波「ゆっくり深呼吸して。」

    千奈「ごめんなさい、取り乱してしまいましたわ……。」

    莉波「ううん、大丈夫。それで……一体何があったのか、教えてちょうだい。」

    つい先ほどまで、殺し合いに乗るかどうかなんて血生臭いことを考えていたというのに、いつの間にか空気が抜けた風船のように暗い気持ちが落ち着いていく。
    これも、彼女が纏う独特の雰囲気のなせる業だろうか。
    むしろ、心の底ではまだ迷っているという事実が申し訳なくなるくらいだ。

    千奈「わたくし、秦谷さんを止めたいのです。」

    莉波「美鈴ちゃんを?」

    千奈「……はい。わたくしの、大切なお友達なのです。」

    千奈は続けて話した。
    美鈴に殺されかけていたところをことねが助けてくれたということ。
    そして力及ばず単独で逃げる羽目になって、今は二人の戦いを止められる人を探しているということを。

  • 100◆YYjiOMVygQ25/10/20(月) 22:54:22

    千奈「わたくしのことで莉波お姉さまを危険に巻き込んでしまうのは本当に心苦しいのですがっ……。それでも……どうしても、助けたいのです。」

    千奈「何の恩義もなくとも助けてくださった藤田さんのその優しさに、報いなければなりませんの。」

    莉波「そっか……。千奈ちゃんもとっても、優しいんだね。」

    莉波「うん、わかった。どこまでできるかわからないけれど……私でよければ手を貸すね。」

    まだ心は決まり切っていない。
    だけど……ううん、だからこそ。今はどうするべきかよりも、どうしたいかを、優先で。
    ここは千奈ちゃんのお願いを聞いてみることにしよう。

    今は何よりも、目の前で泣いている千奈ちゃんを、助けたいって思ったから。

  • 101◆YYjiOMVygQ25/10/20(月) 22:58:55

    ボーカル、ダンス、ビジュアル、それぞれのレッスン室を備えた特別教育棟。
    それがたった今、千奈と莉波が出てきた建物だ。
    そこからことねと美鈴が戦っているアイドル科教室は、右手に見える。
    急ぎ足で向かう二人だが、ふと、左――プロデューサー科教室の方から、気配を感じたような気がした。

    莉波「……あそこ、誰か倒れてる?」

    遠くてぼんやりとした輪郭であるが、人影が地に伏しているのが分かる。
    熱中症かレッスン疲れか――普段の学内であればそのような思考に至るかもしれないが、今日の初星学園でそのような心配が真っ先に浮かんでくることなどありえない。

    千奈「わ、わたくし傷薬を持っていますわ!」

    莉波「もしかしたら助けられるかも……向かってみよう!」

    千奈「はいっ!」

    ことねと美鈴の戦いを止めるという目的も、もちろん一刻を争う話だ。
    だが、目の前で散りゆくかもしれない命を無視できるはずもなく。
    向かうはずだった進路を曲げて、寄り道をすることとなった。

  • 102◆YYjiOMVygQ25/10/20(月) 23:19:17

    莉波「そんな……この傷じゃあ、もう……。」

    千奈「うっ……えぐっ……咲季お姉さまぁ~~~っ!!!」

    向かった先で、花海咲季は血だまりの中に横たわって絶命していた。
    小さい身体ながらに備えていた学年主席の風格は、もはや伺えない。
    いずれスポットライトの下で輝くはずだった身体も、テレビに映そうものなら何重ものモザイクによって覆い隠されてしまうことだろう。
    それくらいに、ひと目見て死体だと分かる有様だった。

    二度と開くことのない目は屈辱に歪んでいるようにも見える。
    少なくとも、大往生と呼べるものでなかったであろうことは容易に想像できる風体だ。

    一目見て最も致命傷になったであろうと予測できるのは背中の刀傷か。
    それとは別に、横腹が大きく抉れている。
    ふたつの傷の前後関係も定かではなかった。

    私が代わってあげられたら良かったのに、なんて――そんな気持ちも沸かないくらい。
    目の前にある死は、自分から切り離したくて仕方なかった。

  • 103◆YYjiOMVygQ25/10/20(月) 23:22:57

    莉波「……。」

    だというのに、まるで愛しいものを撫でるように――私は、咲季ちゃんの亡きがらを抱き締めていた。
    まだ微かに温かい体温が、身体の表面から伝ってくる。
    損傷がなく綺麗なままの頭を撫でれば、柔らかい髪の毛が手の中で溶けていくような心地がした。

    だが、決してそれは慈しみなどではなかった。
    眠れない夜に、ぬいぐるみを抱くように。
    怖いお化け屋敷で、一緒にいる人の裾を掴むように。
    そうしていないと、荒ぶる心を鎮めることができないのだ。

    けれど縋るように始めたその行動は、想像以上に効果があったようで――世界が透き通ったように、穏やかな心地が広がる。
    手の先から伝わる温度が全身の血を巡らせ、時が止まったかのように感じた。
    それを"お姉さんスイッチ"と呼称する者こそいないものの、高まった"集中"は一周回って思考をクリアにした気がする。

    莉波(咲季ちゃんは、頑張ったんだね。)

    莉波(佑芽ちゃんからいつも聞いてたよ。自慢のお姉ちゃんだ――って。)

    莉波(私にも、妹がいるからわかるよ。いいとこ見せないとって気持ちも……それができない、歯がゆさも。)

    莉波(ねえ、咲季ちゃん。私は一体、どうすれば――)

  • 104◆YYjiOMVygQ25/10/20(月) 23:37:07

    千奈「ごめんなさい、莉波お姉さま。」

    莉波「え?」

    千奈「わたくし……少しだけ、嘘をつきましたわ。」

    千奈「ずっと、思っていたのです。このプログラムに初星学園が選ばれたのは……倉本家の地位や名誉、そういったものを巡った大人たちの政争の結果なのだと。」

    莉波「それは……そうかもしれないね。私はまだ子どもだから、そんな大人の世界は分からないけれど……。」

    千奈「だから最初は、わたくしが殺されるのなら本望と感じていましたの。」

    莉波「えっ!?」

    千奈「ですが……秦谷さんの攻撃を受け止めた時の痛みも、咲季お姉さまの惨たらしい様子も……。」

    千奈「目の当たりにする度、わたくしの心が、まだ生きたいと叫んでいますの。」

    千奈「ごめんなさい、自分勝手ですわよね。これだけ多くの皆さまを巻き込んでおきながら……」

    千奈「……ですが、それを言ってしまえば、莉波お姉さまに助けていただけないのではないかと思い……黙っておりましたの。」

  • 105◆YYjiOMVygQ25/10/20(月) 23:41:11

    そっか。
    って、声に出したつもりが、出せなかった。
    ショックだったからだ。
    自分の果たすべき責任とか、知る由もない大人たちの世界とかに目を向けながら、プログラムのボイコットを心に決めている千奈ちゃんが、眩しくて。
    未だこのプログラムに対しはっきりとした答えも出せていない自分自身が、酷く浅ましく感じられて。

    だから今は思った通りに、千奈ちゃんのことを手伝おう――なんて。
    先ほどと全く代わり映えのない思考に、辟易する。

    一体いつから、私は――誰かの物語の脇役に徹して満足してしまっていたのだろう。

  • 106◆YYjiOMVygQ25/10/20(月) 23:43:35

    莉波「千奈ちゃん。私は、大丈夫。」

    涙の混ざった掠れた声で、私は謳った。

    莉波「たとえ倉本家が原因だったとしても、それは千奈ちゃんとは違う。」

    莉波「悪いのは全部、人の命を何とも思っていない大人たち。それは……忘れちゃだめだよ。」

    千奈「莉波お姉さま……。」

    莉波「だから……今は、お祈りしよう。咲季ちゃんが向こうでも、幸せに暮らしていけることを。」

    千奈「は、はい……!」

    間もなくして千奈ちゃんは亡骸の前に膝を付き、目を閉じて祈っていた。

    千奈「咲季お姉さま……。」

    私はなるべく音を立てないように支給袋を漁り、中から"それ"を取り出して。

    千奈「どうか、安らかに……。」

    ――思い切り、振り下ろした。



    千奈「――ふぇっ?」

  • 107◆YYjiOMVygQ25/10/20(月) 23:45:12

    【倉本千奈 死亡】

    【残り 12人】

  • 108◆YYjiOMVygQ25/10/20(月) 23:54:05

    莉波「はぁ……はぁ……。」

    咲季を抱き締めた時と、千奈の返り血。
    二人分の鮮血に染まった衣装を着て、莉波は走る。

    賽は投げられた。
    二度と戻れない選択をしてしまった。
    血に汚れた衣装を着た私を、プログラムに乗っていないと信じてくれる者は誰もいないだろう。

    莉波「私……また、考えてた。」

    ――星南会長に挑むなんて、私には荷が重いよ。

    ――頑張ってる後輩とオーディションでぶつかりたくないな。

    ――どうせ負けるのなら、麻央に勝ちを譲ればよかった。

    莉波「……ちがう。全部、ちがう!」

    私には、アイドルを夢みるだけの"理由"がないからって、一体いくつの夢を、譲ってきただろう。
    今だって、自信がない。
    この殺し合いに勝ち抜いてでも貫き通したい夢なんて、ひとつも持っていない。

    それでも――否、だからこそ。
    いちばん単純にして簡単な理由を、忘れていたのだ。
    咲季の死体を目の前にして、"代わってあげたい"よりももっと強く、強く湧き上がってきた衝動を。
    千奈がこのプログラムで経験してきた出来事と共に、はっきりと抱き、言葉にしてきた想いを。

    莉波「私は……生きていたい……! こんなところで、死にたくないよっ……!」

  • 109◆YYjiOMVygQ25/10/20(月) 23:55:14

    【15:59 プロデューサー科教室前】
    ※咲季と千奈の死体が重なって放置されています。

    【姫崎莉波】
    状態:健康
    持ち物:メイス、防刃チョッキ、拡声器、傷薬
    行動方針:生き残るため、戦う。

  • 110◆YYjiOMVygQ25/10/20(月) 23:56:14

    次回、16:00の校内放送です。

  • 111二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 00:48:00

    保守

  • 112二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 08:03:22

    保守

  • 113二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 12:17:25

    開幕1時間で姉二人と親友を失った佑芽の明日はどっちだ……

  • 114二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 17:10:58

    体を張ってまで助けて逃がした千奈が死んでる上美鈴と対峙してることねもヤバい

  • 115二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 22:57:24

    これからどうなるか期待

  • 116二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 23:51:18

    莉波の内心の揺らぎと千奈の純真さが最悪の形でかみ合ってしまいましたね……

  • 117二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 08:12:14

    保守

  • 118二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 12:30:06

    広もなかなかにやばい。
    逃してくれた咲季と親友の千奈が逝ったの辛すぎるし、最悪銃で自分を……とかなりかねん

  • 119二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 12:39:50

    実装発表よりギリギリ前にスレ立ってたから燕は殺し合わずに済んでるね
    幸か不幸か…

  • 120二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 19:53:45

    保守

  • 121◆YYjiOMVygQ25/10/22(水) 23:45:39

    時計の針が16:00を指した時、それは唐突に始まった。
    学内の野外イベントに対応するため、初星学園には校内にも屋外にも多くの音響装置が設置されている。この瞬間は、その全てが同じ内容を斉唱し始めた。

    この学園に、放送が聴こえない場所など存在しない。
    そして現在、初星学園の周囲はバトル・ロワイアル法案の国家直々の実行部隊によって閉鎖されているため、この放送が外部に漏れることもない。
    そのため、参加者だけに確実に死亡者を知らしめることができるのだ。

    「現段階の死亡者を発表する。」

    放送を担当しているのは、知らない男だ。
    感情を押し殺しているのか、元々冷徹な性格なのか。
    低いトーンで、淡々とその名前を読み上げていく。

  • 122◆YYjiOMVygQ25/10/22(水) 23:47:29

    「賀陽燐羽」



    「倉本千奈」



    「花海咲季」



    「……以上、3名。読み上げた順序は五十音順だ。」



    無機質な声はそのまま聞こえなくなった。
    プログラムはまだ、始まったばかりだ。

  • 123◆YYjiOMVygQ25/10/22(水) 23:57:25

    次回

    dice1d5=3 (3)


    1 ことね+美鈴

    2 手毬+清夏+莉波+佑芽

    3 麻央+リーリヤ+広

    4 撫子+四音

    5 星南

  • 124二次元好きの匿名さん25/10/23(木) 07:28:29

    保守

  • 125二次元好きの匿名さん25/10/23(木) 15:59:27

    しゅ

  • 126二次元好きの匿名さん25/10/24(金) 00:03:28

    保守

  • 127二次元好きの匿名さん25/10/24(金) 07:59:50

    保守

  • 128二次元好きの匿名さん25/10/24(金) 17:50:16

    ギリギリ間に合ったわ保守

  • 129◆YYjiOMVygQ25/10/24(金) 22:47:57

    保守 & 作者の怒り

  • 130二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 05:46:17

    保守

  • 131二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 12:42:17

    保守

  • 132◆YYjiOMVygQ25/10/25(土) 16:56:26

    初めて歩いた通学路。
    おいしいと呼べる味をしていないアイドル用の食事。
    ピッチを合わせようとする度に掠れる歌声。
    要求がわたしの可動域を平気で超えてくるダンスレッスン。
    あこがれだった、かわいい自分。

    飛び込んだ"趣味"の中は、初めての"ままならない"で溢れていて――

    たとえその中にひとつまみ、想定外の"悔しい"という感情があったとしても、わたしはこう言える。
    あの日々は、しあわせだったと。

    ――だから、ね。

    ぜんぶ、いらない。
    わたしのしあわせ、ぜんぶを、あげるから。


    『倉本千奈』


    『花海咲季』


    どうか――初めての"友達"だけは、うばわないで。

  • 133◆YYjiOMVygQ25/10/25(土) 17:03:48



    広(咲季が、しんでる。)

    広(……わたしが、置いてきた。佑芽に合わせる顔がない。)

    広(そして……千奈も呼ばれた。)

    広(この学園でできたたくさんのおもいでが……)

    広(――ぬりつぶされていく。)

    それはまるで、世界から色が抜け落ちていくかのような感覚だった。
    元の日常に帰りたいと思える理由は多々あれど、友達の存在はその中でも最たるものだ。

  • 134◆YYjiOMVygQ25/10/25(土) 17:14:22

    自分を含め二人までしか一緒に帰れないこのプログラムの中に二人以上の友達がいるからこそ、殺し合いをボイコットする選択肢が生まれる。
    だけど、ボイコットをすることで、その友達と一緒に帰れなくなることが確定してしまった。
    それならば、このプログラムに乗る選択肢だって――

    なんて、取れるはずもない選択肢が浮かんでは、すぐに捨てた。
    勝てる勝てないの話ではない。
    当の千奈が、そんな選択で生き返ることを望まないことを知っているから。

    広(迷走してる。おちつこう。)

    我ながら合理的じゃないな、と思う。
    1時間ごとに放送があると知らされていたのだから、心の準備をしておくべきだった。

    咲季は元々怪我をしていたし、四音は武器を持っていた。
    勝てる確率が低いことは想像に難くなかった。

    動向を把握できていない千奈だって、そうだ。
    殺し合いとなれば体格が大きい方が有利に決まってる。
    ただでさえ争いごとを好まない千奈が、最初に淘汰される対象であることも、何ら不思議はない。

    それなのに、胸を満たす想いがその事実を否定したがっている。
    蓋然性の高さに反して、それが嘘だと信じたがっている。

  • 135◆YYjiOMVygQ25/10/25(土) 17:20:18

    広(こんなにも、胸が、くるしい。)


    この時のわたしは本当に、合理的じゃなかった。

    締め付けるような胸痛を――友達を失ったことに由来すると、思い込んでしまっていたのだから。


    白草四音から逃げるための全力疾走。

    精神的に参っておらずとも、肉体が悲鳴を上げるには充分だ。

    だというのに、メンタル由来のものだと見なして、そのまま走り続けた。


    広(……いやちがう、これは。)


    その結果――身に降りかかる災厄に気付いた時には、手遅れだった。


    広(やばい――とぎれる。)


    アイドルのレッスンを始めてから、幾度となく経験してきた感覚。

    最近は、その感覚にも制御を覚え、事前に予測して運動を緩めることができるようになっていた。

    だが――この意識消失が死に直結し得る現状で、それを忘れてしまった。

    いつものように、保健室の天井の景色を見ながら目覚められる保証はないというのに。


    広「きゅう……。」


    広が倒れた場所 dice1d4=3 (3)

    1、2 体育館付近の草むら(無傷)

    3 体育館前のコンクリート(頭を打つ)

    4 体育館付近の荒れた草むら(顔に傷を負う)

  • 136二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 23:14:19

    保守

  • 137二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 04:47:08

    保守

  • 138二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 11:18:17

    保守

  • 139◆YYjiOMVygQ25/10/26(日) 18:36:07

    保守

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