- 1二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 05:26:12
- 2二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 05:33:03
最近になって子世代ネタを知って次男の可能性に頭を焼かれた者です。
次男の解像度を上げたくて仕方ない。
次男は戦闘用コーディネーター
兄弟の歳の差
一番上の兄を今18歳として dice7d15=13 8 13 12 8 13 13 (80)
- 3二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 05:39:10
わあスレって2時間で落ちるんだ 半日くらいはあるもんかと思ってた
下4人が団子になってしまった もう1回
長男18歳を1として、ダイス目順の歳の差とする
dice7d15=12 9 3 6 12 13 5 (60)
- 4二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 05:46:22
長男18歳時点
次男15歳
長女13歳
次女12歳
三女9歳
四女6歳
五女6歳
三男5歳
四女と五女が双子
3歳差なら飛び級で追いつけるな - 5二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 06:29:53
このレスは削除されています
- 6二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 06:47:36
「お願いしますルナマリア様。この子を俺たちの子として育てさせてください」
玄関先で土下座したシンは、まだパイロットスーツ姿だった。つまり帰投した後、着替えもせずに帰宅してきたらしい。
何やら厳ついカプセルを抱えてきて、それは今シンの頭の前に鎮座している。
「いやアンタ何言ってんの?」
ルナマリアは土下座中の後頭部を見下ろした。自分の足下では、パジャマ姿の長男が不思議そうに父親とゴツいカプセルを見比べている。
帰ってきたシンがバカでかい声で「ルナマリアァァァ!」とか言うから起きちゃったのだ。寝起きご機嫌な子で良かった。
「……ひとまず、おかえりなさい」
「おかえりなさーい」
「はい… ただいま帰りました」
シンが神妙である。
と言うことは、やらかした自覚があると言うことだ。
「ええと……まず、子供?そこに入ってるの?」
「うん……」
パシュと音を立てて、カプセルの上半分がスライドした。中にもう一層透明な素材の蓋があり、その中にシーツに包まった新生児が入っていた。
――小さい。
「月齢が足りてないのに、人工子宮から出されちゃったんだ……」
「大丈夫なの!?」
「ジャンク屋さんが特別に作ってくれた保育器だから、大丈夫」
「あかちゃん!」
長男が目をキラキラさせて赤ん坊を覗き込んだ。 - 7二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 07:33:30
長男坊かわいい
- 8二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 08:39:03
初手からフルネーム絶叫とか何事かと思うよな
- 9二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 10:10:21
CEの便利屋ジャンク屋
- 10二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 10:10:23
議長の遺産ってことはブルコスは拾っただけなんか?
- 11二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 12:12:06
「あかちゃん、おれのおとうと!?いもうと!?」
「……弟、だよ」
一瞬ためらって、でもシンははっきり告げた。この瞬間、うちの子にするのは決定事項となった。
私まだなんにも言ってないんだけどな。
ルナマリアは思うが、実際赤ん坊の姿を見てしまえば無碍には出来ない。
初手で赤ん坊を見せずに土下座しただけ、シンは誠意を示したのだろう。
「とりあえず、お風呂入って着替えてらっしゃい」
「え、でも……」
「見ててあげるわよその間くらい。話はその後。でもまず本部に帰還報告いれてちょうだい。うちにいるのにMIAはごめんよ?」
下を見ると、保育器カプセルは長男が既に確保していた。
自分と同じくらいのカプセルを何とか持ち上げてにっこにこのご満悦だ。
「落としちゃダメよ?ちゃんと持ってね」
「あい!」
気が抜けたのか、シャワーに向かうシンの足取りは疲れが出たみたいで重そうだ。
さて、どんなワケアリなのだろう。
ルナマリアがすんなり受け入れられる話ならいいのだが。
……そう言えば、シンの隠し子かとは全然思わなかったわね、私。
なんとなく、その事に満足したルナマリアだった。 - 12二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 12:22:26
■■■
「この子、レイの『救世主兄弟』なんだ」
その言葉をルナマリアは知らなかった。コーディネーターには必要のない言葉だったので。
困惑の表情を浮かべた彼女に、シンは苦笑する。
「去年くらいだったかなあ。知らない人から俺宛に遺産が送られてきてますって話あったじゃん」
深夜のリビング。コーヒーのマグを片手にシンが話し出す。
少し重い口調は眠そうだ。話の前に本部に連絡させたルナマリアは正しかった。
前だったら。
そういう気を遣うのはきっとレイだったな。久しぶりに音として聞いた名前から、そんな連想をした。
勉強しながら寝ちゃったシンに、寝るなといいながらも自分の上着をかけてやってるアカデミーの姿を思い出す。
そのまま、自分が居眠りをした時に、目を覚ましたら2人分の上着がかかってて、2人は震えてて、悪いと思いつつ笑っちゃった事を思い出して……あ、まずい。
唇を噛んで、考えるのをやめた。
長男は、ソファに寝かせたカプセルに、毛布をかけて添い寝している。さっきまでねんねねんねとカプセルを寝かしつけていたが、その体勢のまま自分が寝落ちしている。
「知らない人だったから断ったって言ってなかった?」
確か、月軌道上にある個人衛星。宇宙ゴミや宇宙空間に漂っている微物から資源を回収したり、有用元素を抽出したりする施設になっていると。
そこに住居と言うか、研究施設が併設されているという話で。 - 13二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 12:44:41
「一回断ったんだけど……あれ、レイだった」
「え?」
「偽名だったからわかんなかったんだ。レイが俺を相続人指定してた。パスワードがアカデミー寮の住所と部屋番号だったから、それで気づいた」
パスワードの意図に気づいたら、偽名にも気づいたらしい。
諜報活動の講義で割り当てられたコードネームだったのだ。
「レイって言うか、元はデュランダル議長が相続人をレイにしてて、それがスライドして俺の所にって形だったけど。だから、受け取るかどうかは別にして、いっぺん見せてくれって、行ってみたんだ」
「一人で!?何で私を連れてかないのよ!?」
「だって、万が一ロドニアみたいだったらルナには見せたくないだろ!」
「脳みそくらいで今更動じやしないわよ!」
叫んだところで長男が「むにゅ〜」かなんかの寝言を言った。2人は咄嗟に口を噤んだ。
……大丈夫そう。
息を吐いた2人は、お互いにクールダウンも兼ねて照れ笑いを浮かべた。 - 14二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 12:53:31
■■■
足を踏み入れた部屋はアンティークデザインな家具でまとめられていたが、その上品な佇まいに反してひどく荒らされていた。
棚という棚は開けられ、そこら中に紙やディスクが散らばっている。
ザフトの調査隊が徹底的に調べたのだろう。
不思議なのは、どうも無くなっているのは日付から見て古い資料ばかりのようだった。最近のデータは散らかされているだけで、紛失は見られない。
開いたそれは、本来の彼の研究テーマから大分逸れていたので、遺されたのはそれが理由かと察する。
生命工学と言うより、これは医学だ。
読み進めるにつれて、シンの胸にわき上がったのは共感だった。今のシンだからこそ、共感できる事だった。
ああ、議長ってホントにレイのお父さんだったんだなぁ。
投薬、手術、レイの体を治す手立てを探して、それでも無理強いしないように、レイが嫌がらない方法を模索して。
息子のイヤイヤ期真っ最中だから、なんか分かってしまって。行間から愛が溢れるようで。
……それでも、治療は上手くいかない。
レイの体を診る一方で、弟のように思う友人の体調がみるみる悪くなっていく記録。しかもこっちの患者は言うことを聞かない。劇薬のような薬を、指定した倍量もバリバリ喰らう。未来に期待するのをやめた彼の諦観は、レイに感染していく。
友人が亡くなった頃には、もうレイに兆候が出始めていた。 - 15二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 19:27:01
あくまで仮説だが、骨髄移植にウィルス療法を重ねれば、回復の可能性はあるのではないか。
ウィルス療法とは遺伝子治療の一種だ。欠陥のあるDNAに、修復した情報を記憶させたウィルスを感染させ、転写させる。
言ってみれば、健康を感染させるのだ。
そのためには骨髄液のドナーが必要だ。
レイのオリジナルには息子がいた。ドナーとしては1/2の確率だが、先の大戦により行方不明だ。この線は使えない。
オリジナルは友人が殺してしまった。
レイと同ロットのクローン体は複数いるはずだ。だが、その子供たちがレイと同等の医療を受けられたか。そもそも友人が見つけたのはレイ1人だったのだから、最後の1人だった可能性も高いのだ。
実を言えば、確実にドナーを得る方法がある。
クローン技術だ。
オリジナルの遺伝情報だけなら、自分は確保しているのだ。
クローニングの上でコーディネート技術を施して欠陥を除去、その上でウィルスを体内に持つように――
一人の子供を救うために、その子のドナーとするべく生を受ける兄弟。
それを救世主兄弟(Saviour Sibling)と呼ぶ。
けれど、それは当のレイに拒絶される。 - 16二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 22:21:22
レイ本人が拒否ったのか
まぁどんな命でも生きれるなら生きたいなんて
言うやつだから
自分の兄弟を犠牲にするなんて出来るわけないか - 17二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 23:15:25
自分のために新たに命を創り出す事を、レイは激しく拒否した。
いつも大人しく静かにしている子だったが、提案のためにまとめた資料を破り捨ててまで嫌がるので、この案は一度引き下げた。
適合者がいればそれでいいのだ。秘密裏に探したが、結局見つかることはなかった。
だから、ギルバート・デュランダルは黙ってレイの手に渡るであろう場所に遺したのだ。それがレイの意思に反しようとも。
もしかすれば、死に瀕すれば気持ちは変わるかもしれない。その時のために、せめてもの救いを。その可能性の一欠片を。
シンは目を上げる。
棚の中に、番号の振られた冷凍保管庫が大切そうに置かれている。
稼働している保管庫の中には――
■■■
「からっぽだった」
言って、シンはマグを煽る。少し冷めたコーヒーを飲み干す。
あの冷凍庫の中も、こんな風に空っぽだった。
調査員が持っていったのだろう。
そうでないなら、議長がやっぱり自分で処分したのかもしれない。
レイは少しも迷わずに死ぬつもりでいたんだから。
きっと、その子が生まれることはなかった。 - 18二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 23:17:16
シンは手を伸ばして長男の髪を撫でる。
もしも、だ。
もしもこの子が治らない病気になって、自分たちは何もしてやることが出来なくて。
――俺は、クローンだからな
あんな、なんでもないみたいな顔で笑われたら。
親はどうしたらいいんだろう。
結局、シンはその衛星を受け取らなかった。
施設の他の部屋にあった、もしかしたらレイのものかもしれない絵本なんかも持ち帰らなかった。
自分の記憶の中のレイですらうけとめられていないのに、知らないレイまで引き受けられない。そう思う。
そして、今回のことになる。 - 19二次元好きの匿名さん25/10/21(火) 23:26:21
(ご覧くださる方ありがとうございます。スレを落としてしまわないようにちびちび上げるので、読みづらいかと思います。ご容赦くださいませ)
(この後子供が痛い目をみるシーンが出てきます。当該シーンになったら告知しますが、苦手な方ご注意ください) - 20二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 06:57:46
■■■
ブルーコスモスと言う組織の実態は、今はもうよくわからない。コーディネーター憎し極まって、もうナチュラルとコーディネーターの区別なんてどうでもいいんじゃないだろうか。
そんな狂っているとしか思えない集団が、何故か今、力を盛り返している。
けれどそこに秩序(コスモス)とやらは存在しない。もはや名前だけ使ったテロ組織だって数え切れないほど増えた。
今回通報が入ったのは、そう言った意味では「古き良きブルーコスモス」と言ったところだろうか。由緒正しきお家柄の男が怪しい連中を集めている、武器商人にやたらとお声がかかる、非合法の奴隷商から何人も奴隷を買い上げている。
そしてとうとう無視できない『武力』にまで手を出した。
赤道に近い砂漠地帯に古びた軍事施設の跡地がある。廃棄が宣言されている場所にもかかわらず、人種も年齢もばらばらな人々であふれている。
武装組織なら当たり前かもだが、やけに包帯の怪我人が多い。
中には手枷をつけられたままの人もいる。奴隷として扱われた人なのだろう。国際倫理に基づいて一刻も早い解放が願われる。
制圧はあっと言う間だった。リーダーとおぼしき由緒正しきお坊ちゃんが不在だからか、一部の暴徒以外は大人しく投降してくれたからだ。 - 21二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 12:50:49
中庭にあたる場所に、問題となる「武力」が並べられている。
10年は前の、旧型のMA。
「……これ、大気圏内で使えるもん?」
バランス悪くガンバレルが積まれたバクゥが何機も、四つ足を揃えていい子にしている。
その隣に整列していると、戦闘機型MAも鳥のように感じるのが不思議だ。
「見た目ガンバレルだけど、どうもガワだけっぽいぞ。中になんかつまってる。手榴弾かなんかかもしれん」
調査中のエンジニアが答えた。
「手榴弾て……うそだろ」
「この辺の紛争地帯だったら、まだまだ現役で使ってる装備だよ。地雷とかもな」
足下気をつけろよ、と指差しながら教えてくれた彼は、現地のナチュラルなのだろう。
地雷か。
基地周辺の、いやに均された地面はそう言う訳か。
怪我人の多さも納得が行く。
対戦車地雷とかなら、MSにもダメージ入るだろうか。よろめくくらいはするかな。
ふと、一人の少年が目についた。
十歳になるかならないかくらいの、灰色のパイロットスーツ少年兵が、ふらふらと人混みを避けながら歩いている。
いや、年齢問わずったっていくらなんでも。見境なさすぎないか。
拘束されてないってことは、テロリストじゃなくて現地協力者の方か。
気になって、シンは声をかけた。 - 22二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 19:20:04
(話がお労しい方向に行きそうだから軌道修正のために戦闘用コーディネーター調べ直してたらクルクルシュピンと言う言葉に行き当たってしまい脳内でレイがずっとクルクルシュピンしている助けて)
- 23二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 19:49:52
本人なら絶対しなさそうなクルクルシュピンやん
ええぞもっとやらせろ - 24二次元好きの匿名さん25/10/22(水) 22:41:10
「おーい、そこの君……」
ちらりと振り返った黒髪の少年はもしゃもしゃ頭で、前髪が鼻まで隠していた。
呼びかけるシンに気づいた途端に、逃げるように走り出す。
「あ、ちょっと……!」
仕方なく、シンもその後を追った。夕刻になりかけの、空がオレンジを帯び始める時間。
なかなか足の速い少年を追って、一つの建物に飛び込んだ。違和感。外からは掘っ立て小屋に見えたのに、やけに重いエンジン音が響いている。
案の定、地下室がある。嫌な予感がする。もう二つ三つ罪状乗せられるかもな。
降りた先は照明に明るく照らされていた。シンがようやく背を伸ばして立てるくらいの天井の低さ。むき出しのコンクリートで固められた部屋は、ある意味予想通りのものが設置され、ある意味予想外のものが並べられていた。
「骨……?」
部屋の中央、上下を機械につながれた人間大サイズの円筒形の水槽。これが予想通りのもの。
予想外のものはその周囲。足の踏み場もないほどに敷き詰められている白い骨だ。目立つのは角つきの、多分牛の頭蓋骨。足の骨。あばら骨。
決して乱雑に放り出されているのではなく、ところどころ積み上げてあったり、何らかの規則に従っている。 - 25二次元好きの匿名さん25/10/23(木) 04:40:22
「まじゅつのぎしき」
水槽の陰から顔を出した少年が言った。
「は?まじゅつ……魔術?」
「ごしゅじんさまは まじゅつし」
至極真面目に少年が頷く。
「きみ、何言ってんの」
「なにが?」
最初は何をふざけているのかと思った。が、そう言えば、まだそう言った文化が残っている地域もある。この辺りもそれに該当する。
かつてコーディネーターが台頭した時期に衰退し、その後コーディネーターを危険視する風潮や疫病への恐怖から勢いを取り戻したスピリチュアルな風習は、この所また趨勢を究めている。
実際に魔術師を名乗る人間がいて、この少年はそれを伝えているにすぎないのだ。
にしても、ご主人様ね。
……この子は現地協力者じゃないな。
シンはわずかに目を細めた。
コンパスと協力関係にある組織が、子供に従属を強いるような言葉を使わせるはずがない。
何のために、シンをここへ招き入れたか。少年の腰にはサバイバルナイフの鞘がある。 - 26二次元好きの匿名さん25/10/23(木) 12:03:03
警戒しながら、水槽に目を向ける。
胎児が浮いていた。
もう大体人間に見える。ぎゅっと閉じた瞳、ぎゅっと握った指。
地上ではコーディネーターは生まれない事になっている。ならばこれはナチュラルの子か。
流線を用いた柔らかいデザインの機械。額縁を思わせるようなの装飾は大体ファウンデーション製だ。
メーカーロゴを探していて、ふと小さな液晶画面に目が吸い寄せられた。
表示されているのは水温、胎児の体温、心拍、そして何桁かの数字。
その数列に覚えがある。
心臓が嫌な音を立てた。
数字の一致なんて、よくある偶然ではないのか。
だけど
それがつけられたのが胎児なのが、何故か無視できない。
「なんで、こんな所に……」
ザフトに、プラントに回収されたんじゃなかったのか。
「……ほんとうだった。しっているのか」
感嘆の声を少年がこぼした。
「知っている……って、何を」
「これ」
指差す先は、胎児。 - 27二次元好きの匿名さん25/10/23(木) 19:11:50
「これがなにか、しってるんだな」
口元が嬉しそうにつり上がっていて。
「君はなにを……うわ!」
出し抜けにナイフが突きつけられた。抜くスピードが、異様に速かった。
(戦闘用コーディネーター!?)
ブルーコスモスがそういう者を運用していたのは知っている。
「……こーでぃねーたーはほろぼすべきだ。だからこうげきしていい。よし。あおきせいじょうなうちゅーのために」
「ちょ、ちょっとま」
シンが着ているのはコンパスのパイロットスーツだから、サバイバルナイフくらいで傷がつくことはまずない。だからと言って、無防備に受けてやろうとは思えない。
背丈ギリギリの部屋の高さがまずい。動きが制限されてしまう。
ナイフを取り上げようと手を伸ばせば、上手に躱して一歩二歩下がる。向こうの動きは楽そうだ。
「こーでぃねーたーはこうげきしていい。こーでぃねーたーはこうげきしていい。こーでぃねーたーはこうげきしていい……」
ぶんぶんナイフを振り抜くたびに、呪文の様に口にする。次第にシンも気づいた。彼が狙っているのは、シンではない。
水槽に背中がぶつかる。それを待ち構えていた様に少年がナイフを振りかざした。シンにめがける様に見せかけて。
「こーでぃねーたーがいたからしかたない!」
その切っ先を、水槽にぶち込んだ。 - 28二次元好きの匿名さん25/10/23(木) 23:00:52
激しい破裂音。
水圧に耐えられず広がる亀裂は即座に破片となって、水とともに降り注ぐ。
「うわ」
生暖かい水を背後から浴びて、シンは思わず目を瞑る。ヘルメットは被っていなかった。ダイレクトにびしょ濡れになる。
視界の隅に、水槽の中に手を伸ばす少年が映った。指先には、羊水を失ったうつろの中にコードでぶら下がる赤ん坊。
少年は一度、そっと赤ん坊を優しい手つきで受け止め、そのまま抱きしめた。
思いがけない行動だった。
ぽたぽたと水滴が、彼のずぶ濡れの頭に落ちる。
なのに、次の瞬間。少年が赤ん坊に向けてナイフを振り上げた。
咄嗟にシンは赤ん坊を取り上げた。
ナイフはコードとへその緒を断ち切った。濡れた床と散らばる骨に足を取られ、よろめいて思わず膝をつく。
「何やってんだよお前!」
「こーでぃねーたーはころしていい」
「そうじゃなくて……」
コーディネーターもナチュラルも関係なく。命を、ましてや抵抗も出来ない弱い者の命を奪うなんて駄目だ。
そう言って、この少年に通じるのか?
逡巡する頭の別の所で彼の言葉で確信と落胆をする。
……コーディネーターなのか、この子は。
やっぱり、そうなのか。 - 29二次元好きの匿名さん25/10/24(金) 07:54:16
シンの表情が歪むのを、少年がじっと窺っている。
「でゅらんだるしぼうのほうがでてすぐ、かくちのちょうほういんがかれのけんきゅうじょをしらべたそうだ」
たどたどしい声で、何か書いたものを読み上げるように少年が呟いた。
「とうけつはいをはっけんしててにいれたのはふぁうんでーしょんだった。でゅらんだるがたったひとつのこしたせいたいさんぷるだから、きっとなにかじゅうだいなひみつがかくされているにちがいないと」
それは、 議長の希望で、レイの絶望だ。とても大切な。
けれど、他人には何の意味もない。
「だけどそれは、ただのこーでぃねーたーはいだった。かれらのきたいするとくべつないでんしはいれつなんかふくまれてなかった」
「なんのせいかもなくて、はらをたてて、けんさようにふやしたぶんもまとめて、ぶるーこすもすにうりはらった」
はあ、とひとつ息を吐く少年の前髪が揺れて、雫が落ちた。
くしゃくしゃだった髪が濡れて、まっすぐに落ち、束になって顔にかかる。
隙間から見える吊り目がちの顔つきに、既視感がある。
「かったのは、ここのせんだいりーだーだ。いまよりもうすこしまともだった。たたかえるこーでぃねーたーならなんでもよかったと。でも、いまのごしゅじんさまはちがう。まじゅつしだから、まじゅつをつかうのにいけにえがいる」
ああ、うん。気づいてたよ。議長が死んですぐ解凍されたなら、このくらいの年齢になるよな。
黒髪なのは、コーディネーター処置で変化したのか?
「おれたちはながいきのくすりだから、せいれいがよろこぶ。おれたちをつかえばふろうちょうじゅもかなうそうだ」 - 30二次元好きの匿名さん25/10/24(金) 16:05:16
どこもかしこも人の業!
- 31二次元好きの匿名さん25/10/24(金) 16:26:24
「ちょっと黙れ」
片手を上げて、シンが制する。少年は素直に口を噤んだ。
雰囲気に飲まれていたけれど、今はそれどころではなかった。
「なんで、泣かない……?」
赤ん坊が静かだ。ぴくりともしない。拍動はあっても呼吸がない。気道が閉じたまま。
「おい、泣いてくれよ、頼む」
ドラマとかでは助産師さんが引っ叩いて泣かせているのを観たけれど、まさかそんな事は出来ない。
ゆるく背中を叩いて刺激する。痰を吐かせる時はどうしたっけ?ああ、体温も下げないようにしないと。
少年がきょとんと首をかしげる。
「なんだ、そのままでもしぬのか」
「死なせるか!」
とにかく呼吸。呼吸を確保しないと。
……数分後、ようやく頼りない産声を聞いた時には、シンは汗と涙でぐっちゃぐちゃになっていた。
正直だめかと思った。
一回は拍動も停止したのだ。
怖かった。
本当によかった。
ひいひいと泣く赤ん坊を腕に抱えて頭を撫でる。コードはいつの間にか外れていた。へその緒ってどうするんだろう。縛って切るとかだったような。 - 32二次元好きの匿名さん25/10/24(金) 20:09:33
赤ん坊次男が泣いてないことに気づいてからのシンが父親モードって感じで良いな
- 33二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 00:00:38
少年は黙ってシンを見ている。手助けをしようともしなかったが、邪魔をしようともしなかった。
多少冷静になれば、頭も回る様になる。
「お前が俺をここに連れてきたのは、それを口実にあの人工子宮を壊すため、だな?」
シンが確認のために尋ねれば、ひょいと肩をすくめて見せた。
「おれはなちゅらるにさからえない。なちゅらるのざいさんはそこなえない」
そこでにやりと、悪い顔をする。
「でもさいゆうせんは、ぶるーこすもすのしんじょうだ。めっせよこーでぃねーたー。あおきせいじょうなうちゅーのために」
いやそんな事をコーディネーターにコーディネーターが言われても。
「ブルーコスモスの思考制御ってそんな、自分でどうにかしようとしたら出来るもんなのか?」
「どうにかしようとすればな」
「ええ……」
「どうにかしたいとおもうことが、ふつうはないんだ」 - 34二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 07:22:23
「せいれいはいけにえのひめいをこのむらしい。だからなるべくながくくるしめてころす。それよりうまれるまえにしぬほうがくるしくない」
少年は、それが最善で当然だと言う表情だ。
その顔でそんなこと言うんじゃねえよとシンは腹立たしく思う。
「生贄なんて最初からさせなければいいだけだろ。逃げるとか、逃がすとか、あるだろ」
「……おもわないな。なるほど、とうそうぼうしのしこうせいぎょか。おれはそっちをかんがえられないようになってる」
少し考えてから答える少年の声は驚いている。
逃がすためには、殺すしか思いつかなかったのか。
「ちょっとまってくれ。へりくつでもいいからりくつをつけてなっとくしないとあんじがはずれない」
「逆暗示で解除してるのか」
「いちじてきだけどな」 - 35二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 12:04:41
「……いらないよ、理屈なんて」
ぶつぶつと口の中で何か呟き始めた少年に、立ち上がりながらシンが言う。
「うん?」
「誘拐される方に理屈なんて関係ないだろ」
パイロットスーツを胸まで開けて、すっぽり収まるように赤ん坊を入れる。少しは保温になるだろう。
「この子は襲撃してきた敵対勢力に誘拐されました。おしまい」
スーツの上からぽんぽんと叩く。
「お前じゃ俺を止められないだろ?仕方ないことだ」
「たしかに。ふかこうりょくだな。そうか、つれていくのか」
子どもにしては恐ろしく強い、けど、子どもにしては、だ。
エースパイロットと勝負になるか。
「それで、どうするんだ。どこかにうるのか。たいしたかねにはならないだろうが、なるべくこどもにやさしいところにたのむ。そだつまではいちにちいっかいでもたべさせてくれるところだとありがたい」
「それ虐待ですよね???」
「このへんではふつうだな」
経済的に苦しい地域だと、そうなってしまうのだろうか。しまうのだろうな。オーブ生まれオーブ育ちプラント在住のシンにはなかなか理解しにくい。 - 36二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 13:27:17
「うちは三食食べられるから安心しろよ」
「おまえがやとうのか。かせげるまでだいぶかかるぞ。いいのか」
「稼がせねえよ。俺が稼ぎをがんばって増やすだけだよ」
「?」
怪訝そうな顔で見上げてくる少年。
「うちの子にします」
「は」
少年は目を見開いて固まった。いたずらが成功した心持ちでシンは笑った。
「うち、子どもいるし。でも俺たち夫婦が第2世代だからさ、多分これ以上は望めない。兄弟ほしがってるから、丁度いいや……ルナ、奥さんには土下座で頼むから大丈夫!……多分!」
「おひとよしか」 - 37二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 18:55:02
「なんのめりっとがある。おまえになんのたしにもならないぞ」
だからやめておけ。シンは少年に本気で止められた。
彼が心配しているのは偏にシンの懐具合である。これでもけっこう高給取りなんだけどな?
空は大分暗くなっていた。
建物を出て、並んで歩いている。コンパスの艦船とは別方向に。
シンのトラウマのせいだ。
どうしてももう、敵の捕虜とかの事では、自軍を頼る気になれない。
「メリット……メリットねぇ。利益って考えたら、そりゃないかもしれないけど、デメリットになることは、山程ある」
数えるために上げた手を少年が横目で追った。
「この子を他に預けたとして、相手がどんないい人でも、この子の事が心配で何も手につかなくなる。俺はどうしてもそばで守りたいタイプだからな。デメリットだろ」
「……???」
「ああ、同じ事みたいだけど、守るものが増えるのは俺にはメリットだな。頑張る理由が増えたらそれだけ頑張れる」
「りかいふのうだ、けつえんでもなし」
「懐いてくれたら可愛いぞー」
「あかんぼうなんてくしゃくしゃじゃないか。かわいくはない」
くしゃくしゃなのはさっき生まれたばかりの赤ん坊だからで、何日かして目が開いたらめちゃくちゃ可愛くなるだろう。ていうか赤ん坊の可愛さ補正抜きにしても、お前ら顔の良さは保証されてるぞ羨ましいくらいだね! - 38二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 20:00:34
- 39二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 21:58:20
「お前、自分が薬だって言われて、嫌だったか?」
「べつに」
抑揚のない答えからは、それが本心かどうかはわからない。
風が強くなってきた。少年の乾きかけの前髪を、跳ね上げて過ぎていく。
瞳の色も、記憶の薄青とは違う。
「俺の友達が前に言ったことなんだけどさ」
感傷につられて、口を開いた。記憶の中の言葉はまだ重くて、いつもは話せやしないのに。
「どんな命でも、生きられるなら生きたいだろうって」
ああそうか。似たようなことの繰り返しを、今しているのか。
逃がしたい子供と逃がされる子供。受け取る大人。時代は繰り返す。
あっそう思ったらぶり返しで腹たってきた。帰ったらフラガさん殴ろうそうしよう絶対に。
「俺は言われた時嬉しかったんだけど、この言葉にはとんだケチがついてた。言った本人が、自分を勘定にいれてなかったんだよなあ」
これに限らず、レイの言葉には最後にみんな「まあ、俺には関係ないけどね」が付くのだ。
「明日があるということだから」にも「祈って明日を待つだけだ」にも「俺には関係ないことだけど、みんなにはそうだよね」だったのだ。
ちくしょう。
「そいつが、お前を薬にするやつだった」
ぴたりと少年が足を止めた。一歩進んだシンが振り向くと、穴が空くほどにこちらを見つめている。 - 40二次元好きの匿名さん25/10/25(土) 22:04:28
(早くサランラップの芯を腰に当てて「ぶらすとしるえっと!けるべろしゅ!」とかやって遊ぶ兄弟のターンにたどり着きたいですね…)
- 41二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 05:35:34
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- 42二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 09:27:40
やっぱり、アイデンティティではあるよな。
何のために生まれたのか。
買われた戦闘用よりは、誰かのために生まれたのだと思う方が嬉しかったか。
シンの口元に浮かんだ笑みは苦い。
「だけど、望まなかったんだってさ。自分のために命を作るなんて。そいつは、自分が作られた命だってことで、すごく苦しんでたから」
精神的にも、肉体的にも。
俯いた少年の口元が、ぎゅっと引き結ばれた。少しだけ寂しそうな声で、ぽとりと呟く。
「いらなかったか、おれは」
「そうだなあ……。お前がこの子を殺してでも逃がそうとしたことが、いらないって事ならそうかもな」
分かっていて、シンはわざといじわるを言った。レイが彼を望まなかったことを、不要だからなんて思われたくないので。
ぱっと頭を上げた少年は、わたわたと慌てて首を振る。
「いらな、かった、わけでは」
「わかってるよ。そもそも誰かが要るとか誰に要らないとか、生まれる方には関係ないもんな。お前は何も背負わなくていい」 - 43二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 10:55:10
- 44二次元好きの匿名さん25/10/26(日) 17:05:26
11歳の次男に突如として降りかかる存在しない(する)記憶────