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CA2087 – オープンアクセスリポジトリ連合(COAR)とリポジトリを巡る現状 / 山地一禎

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カレントアウェアネス
No.365 2025年09月20日

 

CA2087

 

オープンアクセスリポジトリ連合(COAR)とリポジトリを巡る現状

オープンアクセスリポジトリ推進協会:山地一禎(やまじかずつな)

 

1. 組織の概略

 オープンアクセスリポジトリ連合(Confederation of Open Access Repositories:COAR)は、オープンアクセスリポジトリの相互運用性や機能強化、コミュニティ間の協力を促進することで、機関や国を超えた世界的なオープンサイエンスインフラの構築を支援しようとする国際的な団体である(1)。設立の経緯については、過去の記事を参照されたい(E992参照)。本稿では、その後の変革や現在の役割、日本のリポジトリコミュニティであるオープンアクセスリポジトリ推進協会(JPCOAR)(2)との関係について紹介する。

 2009年に設立されたCOAR e.V.は、2024年までは、ドイツのゲッティンゲン大学図書館に所在していた。より柔軟な組織運営を目指して、2025年1月1日から移管手続きを開始し、現在は、オランダ国立図書館内に所在する非営利団体Stichting COARとして活動を継続している(3)。COARの参加機関は、図書館、大学、研究機関、政府の助成機関などから構成されている。2025年5月の時点で43か国から131機関が参加しており(4)、これらの機関からの年会費を安定的な収入源としている小さな団体である。それ以外にも、財団や助成機関からの研究開発経費や、年次大会における参加費が、コミュニティ活動の原資となっている。活動の内容は、毎年改訂される活動年次計画書と報告書としてまとめられ、総会にて承認を得る手続きとなる。

 COARの活動の軸は毎年大きく変わるものではないが、オープンアクセスやオープンサイエンスを取り巻く環境の変化に応じて、柔軟に戦略を立案している。2025年の活動の焦点としては、(1)オープンサイエンスや書誌多様性における、オープンリポジトリの国際的な分散ネットワークの重要性の提唱、(2)リポジトリとそのネットワークの強化と発展に向けたサポート、(3)リポジトリ間やそのネットワーク、他のシステムやサービスとの相互運用性の促進、(4)リポジトリと他の付加価値サービスにおける新しい技術や役割の定義と実装の促進、の4つが採用されている(5)。これらの方向性に従って、より具体的な活動が実践されている。以下では、現在のコミュニティ活動の中でも、特に注目を集めている話題について紹介する。

 

2. COAR NotifyとPRCモデル

 ダイヤモンドオープンアクセスとは、ジャーナルやプラットフォームが著者にも読者にも料金を請求しない学術出版モデルのことを指す(6)。COARでは、ダイヤモンドオープンアクセスの実現手段の一つとして、リポジトリに掲載された本文へのリンク集として雑誌を構成するオーバーレイジャーナルの構築に寄与してきた。その際に採用されている技術が、COAR Notifyである。COARは、COAR Notifyの技術開発と普及を目的に、英国に拠点をおくArcadia財団から、2022年より始まった4年間のプロジェクトとして、400万米ドルの助成を受けている(7)

 フランスの国立リポジトリであるHALと、オーバーレイジャーナルをホストするプラットフォームであるEpisciencesとの間では、既にCOAR Notifyの導入が開始されている。HALにプレプリントを登録する著者は、登録フォームからEpisciencesが提供するジャーナルを論文投稿先として選択できる。HALはCOAR Notifyを使って、そのジャーナルへの掲載依頼をEpisciencesに送信する仕組みをもつ(8)。こうした事例以外にも、公開査読システムとの連携も検討され、実システムへの応用が進んでいる。プレプリントサーバーbioRxivとSciELO Preprintsが、プレプリントのピアレビューサービスを提供するPREreviewとの連携のためにCOAR Notifyを採用しているほか(9)、eLife、medRxiv、Kotahi、Scietyといった他のパートナーにおける実装も進んでいる。これらはプレプリント出版が基軸となっているものの、従来型のダイヤモンドオープンアクセスという呼称を超えた、新しい出版モデルの構築に挑戦している。最近では、PRC(Publish Review Curation)モデルと表現されることもあり、既存のサービスを動的に相互運用させエコシステムを形成した、新しい出版モデルと捉えることもできる。その中でCOAR Notifyは、サービス間の相互運用性を実現する中核的な技術として位置づけられている。

 

3. 多言語対応とAIに向けてのリポジトリの役割

 日本のリポジトリでは、紀要に代表されるように、日本語で書かれた文献が公開されることが多い。研究や調査の成果が、国内で市民を含めて活用される場合は、文献が日本語で書かれていた方が流通性がよい。日本だけではなく、他の言語や文化においても、同様のことがいえる。ユネスコのオープンサイエンスの勧告における多言語化の推奨は(10)、そうした学術情報流通の多様性に焦点をおいたものである。

 2022年にCOARは、リポジトリにおける多言語仕様と非英語コンテンツを支援するためのタスクフォース(TF)を設立した。JPCOARは、当初からこのTFに参画している。2023年には、リポジトリの管理者およびリポジトリソフトウェア開発者向けに推奨される、15項目の要件を取りまとめた。メタデータ、多言語キーワード、ユーザーインターフェース、フォーマット、ライセンスといったテーマに沿って、多様な言語におけるリポジトリコンテンツの可視性、発見可能性、再利用性の向上を目的とした具体的な実践内容が取りまとめられている(11)

 その後、同TFでの議論は機械翻訳へと変遷していったが(12)、そうした従来からの議論と並行して急速に深まってきたのが、大規模言語モデル(LLM)を対象とした議論である。Sentence BERTのような自然言語処理モデルを使えば(13)、言語を意識することなく、意味的に近しいテキストを多言語LLMから抽出することができる。リポジトリはAIに対して母国語のコンテンツを提供すれば、多言語LLMはそれを糧として知識を構築する。その多言語LLMの利用者も、母国語を用いて多言語LLMから知識を抽出することが自然とできる。学術情報の検索や調査におけるAIへの依存度が高まりつつある昨今、より多角的な観点から将来を予測し、サービスのあり方を検討していく必要がある。同TFでは、そのことを体感できる活動が展開されている。

 

4. 国際リポジトリディレクトリサービス

 リポジトリのレジストリサービスであるOpenDOAR(14)は、世界的なリポジトリの普及状況や運用状況を把握したり、各リポジトリの基本情報を取得するために有用である。OpenAIREなどの学術検索サービスが、リポジトリに登録されたコンテンツのメタデータを取得する場合のみならず、科学技術政策を策定する際の根拠として利用されることもある。そうした重要な情報源となっているにも関わらず、OpenDOARに掲載されている情報は、必ずしも現状を正確に反映できていない。その状況を改善するために、COARとしても積極的に、情報の登録や更新を参加機関等に呼びかけてきた(15)。COARは並行して、国際的なリポジトリのディレクトリサービスが備えるべき要件を取りまとめ、望まれる機能開発と運用方法について、関係各所との調整を進めてきた(16)。数年間にわたり議論を重ねた結果、OpenDOARとは別にCOARとして、現在の国際リポジトリディレクトリサービス(International Repository Directory:IRD)を開発・運用することとなった(17)。それぞれの組織や団体が注力しなければならない事案は、その時の内政的な戦略や経済状況にも左右されるため、全ての調整が円満にまとまる訳ではない。

 COARが提供するIRDにおいて、最も重要視しているのは、その情報の正確性と包括性である(18)。それをできるだけ低コストに実現するために、情報のキュレーションに関しては、分散型の仕組みを採用している(19)。IRDのサービス自体はCOARが提供するが、国や地域のリポジトリコミュニティなどが責任組織(Responsible Organization)となり、情報の信頼性や更新に関する責任をもつ。日本の場合はJPCOARがResponsible Organizationの役割を担っている。国立情報学研究所(NII)が運用する学術機関リポジトリデータベース(IRDB)の情報を活用し(20)、機械的な情報提供を計画しているため、定常的な運用では、JPCOARがIRDの運用のために特別な作業をする必要はない。COARでは、こうした運用モデルの普及を、世界的に広げようとしている。このIRDの情報を活用して、今後、どのような付加価値サービスが提供されていくかが注目される。

 

5. まとめ

 リポジトリを取り巻く環境は、急激に変化を遂げようとしている。2で紹介したような新しい出版モデルへの模索が展開している中で、3で紹介したようなリポジトリコンテンツのAIによる活用が始まりだした。より学術分野に特化したLLMやそれを活用した学術知識グラフの構築も、これから急速に展開されるものと考えられる(21)。そのAIに対して、品質の高い学術情報を提供できるのがリポジトリである。4で紹介した国際リポジトリディレクトリサービスは、この双方で活用されうる貴重なメタ情報源となる。

 JPCOARは、コンソーシアムとしてCOARに参加しており、リポジトリに関連する新鮮な情報を、国内のリポジトリ関係者の誰もが獲得できる状況にある。2025年5月にはCOAR年次大会が東京で開催され(E2807参照)、国際的な活動に視野を広げることの重要性を、改めて認識するよい機会となった。AIの急速な展開が、リポジトリにまつわる状況にも影響してくるのは必至である。その潮流に乗り遅れてしまえば、リポジトリとしての価値を示す機会を失うことにもなる。日本にはJPCOARがあり、JAIRO Cloudがあるというアドバンテージの中で、世界に同調していくだけではなく、日本からの発信を強化しコミュニティ活動の核となっていくことが世界からも期待されている。

 

(1)“Bridging the Digital Divide: How Repository Networks Are Shaping the Future of Open Science”. COAR. 2024-12-11.
https://coar-repositories.org/bridging-the-digital-divide-how-repository-networks-are-shaping-the-future-of-open-science/, (accessed 2025-05-24).

(2)“JPCOAR について”. JPCOAR.
https://jpcoar.org/aboutjpcoar/, (参照 2025-07-30).

(3)“Legal information”. COAR.
https://coar-repositories.org/impressum/, (accessed 2025-05-24).

(4)“A global repository network”. COAR.
https://coar-repositories.org/members/, (accessed 2025-05-24).

(5)Strategy and Action Plan 2025. COAR, 2024, 6p.
https://coar-repositories.org/wp-content/uploads/2025/01/COAR-Activities-2025-1.pdf, (accessed 2025-05-24).

(6)Ancion, Z. et al. Action Plan for Diamond Open Access. Zenodo, 2022, 6p.
https://doi.org/10.5281/zenodo.6282403, (accessed 2025-05-24).

(7)“Grants awarded”. ARCADIA.
https://arcadiafund.org.uk/grants-awarded?sort-by=&sort-direction=ASC&type=&funding-area=&recipient=&keywords=coar#grant-list, (accessed 2025-05-24).

(8)“What’s new with COAR Notify?”. COAR. 2023-12-19.
https://coar-repositories.org/news-updates/whats-new-with-coar-notify/, (accessed 2025-05-24).

(9)“Request your next PREreview on bioRxiv and SciELO Preprints via the COAR Notify Protocol”. PREreview. 2023-12-06.
https://content.prereview.org/request-a-review/, (accessed 2025-05-24).

(10)UNESCO. UNESCO Recommendation on Open Science. 2021, 34p.
https://doi.org/10.54677/MNMH8546, (accessed 2025-05-24).

(11)COAR Task Force on Supporting Multilingualism and non-English Content in Repositories. Good Practice Advice for Managing Multilingual and non-English Language Content in Repositories. Zenodo, 2023, 44p.
https://doi.org/10.5281/zenodo.10053918, (accessed 2025-05-24).

(12)Dony, Christophe et al. “Is there a case for accepting machine translated scholarly content in repositories?”. COAR. 2023-05-08.
https://coar-repositories.org/news-updates/is-there-a-case-for-accepting-machine-translated-scholarly-content-in-repositories/, (accessed 2025-05-24).

(13)Reimers, N. et al. Sentence-BERT: Sentence Embeddings using Siamese BERT-Networks. arXiv, 2019, arXiv:1908.10084.
https://doi.org/10.48550/arXiv.1908.10084, (accessed 2025-05-24).

(14)OpenDOAR.
https://v2.sherpa.ac.uk/opendoar/, (accessed 2025-05-24).

(15)“A global call for OpenDOAR updates!”. COAR. 2021-10-25.
https://coar-repositories.org/news-updates/a-global-call-for-opendoar-updates/, (accessed 2025-05-24).

(16)“OpenDOAR and COAR collaboration”. OpenDOAR.
https://v2.sherpa.ac.uk/opendoar/ourwork.html, (accessed 2025-05-24).

(17)COAR IRD.
https://ird.coar-repositories.org/, (accessed 2025-05-24).

(18)“COAR Recommendations for Operations, Funding and Governance of an International Repository Directory”. COAR. 2020-05-23.
https://coar-repositories.org/news-updates/coar-recommendations-for-operations-funding-and-governance-of-an-international-repository-directory/, (accessed 2025-05-24).

(19)Walk, P. International Repositories Directory(IRD).
https://coar-repositories.org/wp-content/uploads/2024/06/International-Repositories-Directory-June-6-3.pdf, (accessed 2025-05-24).

(20)IRDB.
https://irdb.nii.ac.jp/, (参照 2025-05-24).

(21)“About SciLake”. Scilake.
https://scilake.eu/, (accessed 2025-05-24).

[受理:2025-07-18]

 


山地一禎. オープンアクセスリポジトリ連合(COAR)とリポジトリを巡る現状. カレントアウェアネス. 2025, (365), CA2087, p. 2-4.
https://current.ndl.go.jp/ca2087
DOI:
https://doi.org/10.11501/14491362


Yamaji Kazutsuna
Introduction to the Coalition for Open Access Repositories (COAR) and Related Repository Activities