ジョージ、ラリー、スティーブという同じ保険会社で働く3人がいます。彼らの働き方にはそれぞれ以下のような特徴があります。
●ジョージ:よく給水機の付近にたむろしてばかりいる。
●ラリー :デスクで座っていても喉の渇きを満たすことができるよう、毎朝一回、水筒に水を入れるために給水機付近に行くだけ。
●スティーブ:だいたい1時間ごとに給水機のところに行き、ちょっとの間、ジョージをからかうか、たまたまそこにいた人間と冗談を言ったりしている。
彼らの上司は、スティーブがちょくちょく給水機のところに行くことに頭を抱えているものの、そのままにしている。なぜならスティーブは他の2人よりもよく仕事をし、ミスも少ないからである。
この3人のうち解雇されるとしたら、誰が一番先か?
この話の出典は、『メンタル・タフネス』。本文では以下のように解説されています。
ジョージは典型的なアンダートレーニングの例だ。できるだけ仕事のストレスを避けているので、彼の仕事の能力は確実に落ちている。同時に、体調をよくしなければ解雇されるとわかっているため、彼の感情ストレスは増大している。
ラリーは典型的なオーバートレーニングの例で、ジョージと反対の問題を抱えている。彼は一日中、できるかぎりハードに仕事をし、まったく休憩しない。その結果、ラリーの頭は絶えずオーバーストレス状態にあり、ミスをする。ミスを直すには時間がかかり、さらにストレスが増大していく。一日の終わるころにはラリーはいつも疲れ切り、近くに来る誰に対しても無愛想になる。
スティーブは短い時間で、大変な集中力をもって仕事をする。そして、スイと席を立つと仕事のことを忘れ、精神をリフレッシュさせて再び席につく。決して長く席を離れていることはない。というのは、仕事を始めて間もなく、2,3分以上席を離れていると逆効果であると学んだからだ。退社時間には、スティーブはいつもリラックスし、元気でエネルギッシュだ。それは、彼が仕事という環境的な限界があるなかでハイストレスとハイリカバリーを繰り返すノウハウを会得したことが報われたに過ぎない。
ということで、予想される3人の今後は以下のようになると書かれています。
●ジョージ:解雇される(答え)
●ラリー :潰瘍になる
●スティーブ:昇進する
ウェーブを作る
7年間、アメリカ・オリンピック委員会のスポーツ医事委員会の創設委員をつとめたアーブ・ダーディック氏によると、感情的になることは「神経科学的で生化学的な変化である」とされているそうです。
長期にわたる過度なストレスあるいは過度の回復の直線的な現われは、病気を防ぐ免疫システムの能力を減少させる。ストレスと休息のバランスがとれていると、ポジティブな形で身体の修復プロセスと免疫化学物質を活性化させ、将来のストレスに対応できる感情と肉体の能力を強化するという。言い換えれば、バランスのとれたストレスと回復のサイクルは、身体の微妙な生化学と神経科学との相互作用を安定させるということである。
ダーディックは断続的な肉体的ストレスのサイクルを作ることを、その後に続くバランスのとれた回復のサイクルとともに「ウェーブを作る」と表現し、免疫機構を再建し、強化する上で非常に重要な要素であると述べている。ダーディックは自分の患者に運動させて、ストレスと回復のウェーブを作る。そして、心拍の上昇と下降を、バランスが取れているか否かのサイクルの尺度として使用している。
スティーブのように、断続的に席を離れてリフレッシュするワークスタイルは、まさにこのウェーブと言えるでしょう。
とはいえ、休憩や気分転換という回復に関わるアクションは、仕事に追われていると思うように取り入れられなかったり、タイミングを逸したりするものです。どうすればスティーブのように程よいタイミングでうまく休憩を組み込むことができるのでしょうか。
たとえば、肉体的刺激と動きの必要性を満たすために運動する場合、実際にはそれがより多いエネルギー消費になっても、基本的な必要性を満たしたという安堵感を与える。
さらに、運動によって肉体的刺激の必要性は満たされるが、さらに運動を続けると肉体的な回復の必要性が次第に増えてくる。いったん運動をやめれば、肉体的な刺激への必要性が再び出はじめる。
つまり、「運動したい!」という欲求に応えるべく運動をすると、その運動によってエネルギーを消費したとしても、当初の欲求には応えることができているので、ストレスにはならず、さらに運動することで疲労し始め、今度は「休憩したい!」という欲求が生じてくるので、この欲求に応えるべく休憩をすると、この欲求が叶えられてやはりストレスにならない、という振り子運動のような構造が見て取れます。そして、休憩が十分に取れれば、再び「運動したい!」という欲求が高じてくる、というように、このウェーブのプロセスは文字通り寄せては返す波のように、えんえんと繰り返されます。
ポイントは、自然の欲求には素直に応じること。ふとシーソーに乗っている時のことを思い出しました。相手が上がる番なのに自分も上がろうとしたり、逆に相手が下がろうとしているのにいつまでも自分が下に体重をかけていれば、シーソーはスムーズに動かないうえに、お互い無駄なエネルギーを浪費するばかりになって、ちっとも楽しくないでしょう。
スティーブが席を離れてフラフラしていても、席に戻れば仕事に集中できるのは、彼が自分の体内にある自然のウェーブに素直に従って行動しているからだと考えられます。集中すれば休憩したくなり、休憩に飽きれば仕事に戻りたくなる、というウェーブです。
食事をとりたい、眠りたい、リラックスしたい、運動したいという衝動は、回復を要求する言葉だ。それはまた、自分の身体の生理機能を垣間見せる窓でもある。この言葉を素直に聞き、理解することを学ぶのは、生命自体のリズムと鼓動を聞くことでもある。
このように欲求や衝動に逆らうことなく、言い換えれば心の赴くまま、気の向くままに、行動するということになると、それはずいぶんと身勝手で奔放な印象を受けます。でも、自然の流れを無視したり逆らったりすれば、身体がストレスにさらされることになるため、結局長続きしなくなります。
ゴールへの道のりがたとえ一直線に描けたとしても、人間は直線的にゴールに向かうのではなく、直線を中心に少しずつ左右に振れながら進んでいくのではないでしょうか。ちょうどバイクが急勾配を登坂する時に似ています。まっすぐに登坂するのではなく、蛇行しながら登る方が少ない負荷で登り切ることができます。
あるいは、餅つきで、杵で餅をつく人と臼の中の餅をひっくり返す人の共同作業を思い浮かべてみると、まず餅をつく人の動きには「杵を振り上げる・振り下ろす」というウェーブがあることに気づきます。勢いに乗って杵を振り上げるからこそ、続いて力強く振り下ろすことができるわけですし、振り下ろしたところで一息つけることから、再び振り上げるエネルギーが充てんされるのも合点がいきます。
また全体として見ても、杵担当と臼担当の2人の間でもウェーブがありそうです。餅をつくからひっくり返す、ひっくり返すからまたそこをつく、というウェーブです(この2人のタイミングが狂うとちょっと痛い惨事になります)。
仕事も、ウェーブを意識して取り組むことで、無理なく無駄なく、そして楽しくできそうですね。