概要
……このまま時間が止まっちゃえばいいのに。夏の終わり、先輩は姿を消した
ーー夏休み最終日、先輩は僕の前からいなくなった。
伝えたい事は山程浮かんでくるのに、言葉にしようとすると上手に話せない透真は、廃部寸前の文芸部で一人、変わらない日々を過ごしていた。
ある日、誰もいないはずの部室に行くと、長い黒髪を靡かせた一人の少女が窓際の席に座っていた。
「私、日向 千夏! よろしく。後輩くん!」
いきなり現れた先輩は、どこまでも明るくて自信に溢れていた。
そんな先輩に振り回されて過ごすのにも慣れた頃、口下手であることにコンプレックスを感じていることを打ち明けると、先輩は意外な提案をした。
「小説を書いてみない?」
言葉が出なくて黙ってしまうなら、文章にしてしまえばいい。そう言った先輩に背中を押されて、小説と向き合うことで透真は段々と自身の問題へと向き合って
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!忘れられない夏は、潮騒の窓辺に。
本作を紹介する上で、綺麗という言葉よりも綺麗な表現があるなら教えていただきたいです。
本作の特筆すべきところはその文の秀麗さによって描かれる夏の澄み渡った色彩です。
夏はたくさんの顔を持っていると私は思っています。
宇宙まで広がる真っ青な空、暑くてたまらない体が海水で冷やされる清涼感、盆頃の静けさ、夏の終わりに打ち上がる花火の色、屋台のりんご飴。
そのどれもが、一言では言い表せないほど複雑に絡み合って、ひとえに夏という季節を形作っていると言ってもいいでしょう。
四季の中で唯一夏だけが「終わる」という表現をされると聞きます。終わりがあるからこそ今が輝く。命の息吹や、彷徨える魂の還る場所、それ…続きを読む