何も無ければそう呼ばれることもない。「何かがある」から、そう呼ばれる。ただそれだけのこと。ただそれだけのことですよね。
人生に疲れ、森の中を彷徨う。湿った土の上の朽葉そして苔や羊歯の類。木々は葉を茂らせて尚、天と地の双方に意識を向ける。開闢以来の事だ。深い深い森の中に独り、分け入る。もう全てが、どうでも良い。怠惰こそが最期の引鉄を弾く。諦念が退路を断つ。木々の騒めきが子守唄の様に。 迷子のこ や 迷子の こ や風の音か。哀しき呼び声は何処からか聞こえて来る。 月夜茸か 虎鶫か それとも 鬼火か青白く光る女の様なものが。 迷子のこ や嘗て、夢の中で見た女が近づいてくる。
樹海の中で出会った女性。その人物が呼びかける。きっと、主人公をお迎えに来たんだ。そのお迎えが来たらもう、逃れられないんだ。
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