概要
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!辞書から始まる独白が刺さる。雨と将棋の比喩が胸に深い余韻を残す作品です
かげき派さん、執筆と公開をありがとうございます。『【代表作】尋常じゃない』拝読しました。辞書項目の「尋常」から入る導入で読者の足場をわざと揺らし、そこから一人称独白へ滑り込む構成が巧みです。定義→反問→告白という三段のリズムが、作品全体の呼吸を決めています。
本作の強みは、飾らず「問い」を投げ続ける正直さ。「幸せ」「ノーマル」といった古典的テーマを高邁な論証でなく、壊れかけた心の温度で差し出す率直さが、読者の防御をほどきます。病室の蛍光灯や雨の〈定点の視線〉が語りの熱を冷ます舞台装置として機能し、モノローグの温度差を際立たせているのも見事。
「将棋」の章では、駒の序列ではなく『歩のままの自画…続きを読む - ★★★ Excellent!!!普通と価値のダブルスタンダード。
「普通」であることを意識している人は、いったいどの程度いるのだろうか。
「普通」であることを盾に誰かを責める権利は、いったいどこから生まれたのか。
「普通」でないことは、いったい何の罪にあたるのか。
俗世の二枚舌を断じる作品。
・
普通に生きればいい。だが価値のない者は食うべからず。
そういう正論が世間を取り巻いてから、どれくらいの時間が経っただろう。
普通とはつまり大衆である。大衆の枠からそれた者、そして、大衆の期待を裏切った者は尋常ではなくなる。
そういったはぐれ者への好奇と侮蔑の視線は強く「オモチャ」にされる。
実際、ダブルスタンダードは随所にある。
犠…続きを読む - ★★★ Excellent!!!苦しみを語ることが、救いになるとき
あなたは“普通”という言葉に息苦しさを感じたことはありませんか?
この作品は、そんな“常識”の重さに疑問を抱きながら生きる、一人の語り手の痛切な心の声を、そっとすくい上げてくれます。日常という名の檻の中で、問い続け、もがき続ける彼。その問いかけは、幸せや正義といった言葉さえ、どこか遠く空虚に響かせます。
淡々とした語りの奥には、社会や信仰、そして自分自身への深い絶望と怒りが秘められています。それでも、不思議と彼の孤独や弱さに、そっと手を差し伸べたくなるのです。
やがて、どんなに意味を見失っても、空腹という小さな命の衝動に引き戻される瞬間が訪れます。不条理な現実を抱きしめるしかない、…続きを読む