ザベルの杏～アルメニア悲劇の女王～

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アルメニア女王として、その一生を生き抜いたザベル。この物語は悲劇とも言えるその生涯を、心情豊かに描いた至極の歴史小説です。

彼女の苦しみや哀しみ――そして、支えとなった温もりの記憶。きっと彼女の生涯を通し、あなたは多くのことを受け取ることでしょう。

その想いは、今も杏の花の中に生きているに違いありません―――。

このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む（192文字）

13世紀のキリキアを舞台にした物語です。

物語全体を通してですが、歴史的背景の描写が緻密です。昔そういえば習ったなぁ、みたいな記憶が、きっと誰の脳裏にも浮かぶはずです。

それでありながら、人物の感情が鮮やかに浮かび上がります。それが、時に幸せで、時には非常に残酷です。まるで人生そのものです。

「杏は、木から遠くに落ちない」

という象徴的な言葉が、ザベルの一生を貫く軸となります。

幸せな日々から一転し、愛する夫フィリップの死、摂政コンスタンティンの謀略、そして修道院での葛藤、望まぬ結婚へと続く展開は痛ましく、歴史の渦に巻かれていく1人の女性の物語として時には酷で、読んでいて辛くなる瞬…続きを読む

悲劇の女王ザベルの生涯を追う物語。

歴史なんて言ってみれば勝者が繋げていくものなんて印象もありますが、そこはむしろ綺麗なものなんて、実質はほぼないんだろうと思います。

悲劇という言葉で括っていますが、その瞬間瞬間の全てが悪いなんてこともない。そう信じたいところです。

良いか悪いかというわけでなく、こういったこともあったのかもしれないと想起させる、説得力があります。

愛と言う名を借りれば何をしてもいいわけでもないですが、わからなくはない。その感覚って、大事なんだと思いました。

アルメニアの悲劇の女王、ザベル。こちらの作品でその名を初めて知りました。

陰謀と欲望に巻き込まれ、愛する人と切り裂かれた若きザベル。この物語が史実をベースに書かれているというその重さが、ずんと胸にのしかかってきます。

最後に登場する花言葉が、なんともなんともやるせなくて……

今までちっとも知らなかったアルメニア史を、もっと知りたくなりました。