【3行要約】
・現在は多様性重視やパワハラ回避の風潮で、上司が部下への指導を躊躇する傾向が増加。
・髙桑由樹氏は、セミナー内で「迎合」「説明不足」「暴走・放置」の3つの空回りパターンを解説。
・チームを機能させるには、部分と全体、表層と本質を多角的に捉える視点が必要です。
管理職の3つの空回り
髙桑由樹氏:本日は「これでイイのか⁈ 『空回りする管理職』チームを機能させる“適切な打ち手”の見つけ方」というテーマで進めます。まず、このセミナーの狙いを共有します。

「空回りする管理職」とは何か。ここでは、管理職の業務で結果につながっていない行動を指すことにします。
もう少し具体化するために、状況を2つの軸で整理します。横軸は経営層との合意形成で、経営層から「それは良い」と認められている状態を○、「何をやっているのか!」と否定される状態を×とします。
縦軸は現場との合意形成で、現場の理解や納得が得られている状態を○、逆に「なぜそれをやるのか」と疑問視されている状態を×とします。
このマトリクスで見ると、左上の経営層からも現場からも合意が取れているのに成果が出ていない取り組みというのは、多くの場合、本質的だからこそ時間がかかっている、と解釈できます。結果がまだ見えないのは、「本質的」テーマに取り組んでいるがゆえ、という位置づけです。
続いて右側です。経営層からは理解を得られていないが、現場からは理解を得られている。この状態は、ある意味で部下に甘い対応をしているとも言えます。ここでは「迎合」と呼びます。
次に左下です。経営層からは合意を取れているのに、現場の理解が得られていない。これは「説明不足」に分類します。管理職がそもそも説明していない場合もあれば、説明しているつもりでも伝わっていない場合もあります。いずれにせよ、理解に至るまで説明を設計し直す必要があります。
最後に右下です。経営層からも現場からも理解を得られていない。管理職が独りよがりで「これをやるんだ」と打ち手を選び、方向がずれているケースです。やり過ぎれば「暴走」になりますし、逆に「今は我慢だ」と必要な支援を差し控えると「放置」になります。どちらも見当違いという点では同根なので、同じ象限に置いています。
ということで、今回のセミナーでは、管理職の空回りについて、この水色の枠で示した3種類の分類に焦点を当てていきます。管理職が空回りしないためにどんな視点を持つべきかを深掘りしていくことが、今回の目的です。
3つの空回りの中身と背景
本日のプログラムは3本立てです。まず1つ目は「空回りする管理職の原因」。2つ目は「空回りしないためには、組織課題を正しく捉えることが必要」というテーマです。ただし、どうやって正しく捉えればいいのかという疑問が出てきますので、そのためのツールとして1つのマトリクスを紹介します。
そして3つ目は「新たな策より足元の問題に注目する」。これは、実際にセミナーに参加いただいた企業の組織課題を整理し、どのように解決していくのか、その打ち手まで一緒に考えていく内容です。
では、1つ目の「空回りする管理職の原因」について見ていきましょう。先ほど紹介した4つの分類のうち、今回は「迎合」「説明不足」「暴走・放置」を中心に取り上げます。これらがなぜ発生するのかを少し掘り下げていきます。

まず「迎合」についてです。近年、「多様性を尊重する」「パワハラを避ける」といった考え方が広がっています。その影響で、上司が部下に対して必要以上に遠慮してしまうケースが増えています。
問題は、上司が部下の顔色をうかがってしまうことです。本来であれば、会社ごとに明確な育成方針があり、それに沿って言うべきことはきちんと伝えるのが筋です。しかし、目の前の関係性や雰囲気を壊さないようにと、短期的な安心を優先してしまう。これが迎合の根本的な問題です。
2つ目の「説明不足」は、実際には説明しているつもりでも伝わっていないというケースも含みます。管理職が話したからといって、必ずしも部下に意図が伝わるわけではありません。
背景には、管理職と部下とで「見えている景色」がまったく異なるという現実があります。視野や視座が違えば、同じ言葉を使っても同じイメージを共有できない。そこに、説明が伝わらない理由があるのです。
管理職もかつては部下だった時代があります。その頃、「上司が言っていることがよくわからない」「なぜこんなことをするんだろう」と感じた経験があるはずです。ところが、管理職として時間が経つうちに、自分がかつて感じていた「わからなかった頃の感覚」を忘れてしまう。
これは人間の傾向のようなもので、部下の理解度や視点を想像しづらくなってしまうのです。こうした“できなかった時代の心境”を忘れることが、説明不足の根本的な問題と言えます。
最後に「暴走・放置」です。これは、ずれた解決策を取ったり、問題を見過ごしたりするケースを指します。背景には、経営視点が欠けている、もしくは現場の実情を十分に理解していないという要因があります。
部下の“できません”をそのまま受け入れると何が起きるか
ここまでが、空回りする管理職の主な原因ですが、今回のセミナー参加者にも「自社で管理職が空回りしている場面」を挙げていただきました。その内容を紹介します。

まず「迎合」では、「ふだん部下に優しくしすぎて、問題が起きた時に指摘できなくなる」「優秀な部下ばかりをひいきしてしまう」といった声がありました。
「説明不足」では、「やるべきことは伝えるが、その目的を説明していない」「大事な方針を説明しても、時間が経つと忘れられてしまう」といった事例が出てきました。伝える内容が一方向的で、定着しないという問題ですね。
最後に「暴走・放置」です。「人手不足で仕事を完遂できない」という部下の声をそのまま受け入れ、未実行や未達成を容認してしまうケースがありました。部下の立場からすれば理解できますが、経営の視点ではそれを許すことが本当に適切なのか。そして育成の観点からも、挑戦の機会を奪うことになりかねません。これは典型的な“放置”です。
また、「何度言ってもできない部下に対して、もう言っても無駄だから自分で気づくまで待つ」という管理職もいます。確かに勘の良い部下は自分で学びますが、多くの場合、初めての仕事では他者からのティーチングが必要です。ですから、「放置」が本当に最適なのかは再考する必要があります。
空回りを生む2つの原因
では、「迎合」「説明不足」「暴走・放置」という3つの空回り行動は、そもそもなぜ生まれるのかをもう少し深掘りします。原因は大きく2つあります。

1つ目は「木を見て森を見ず、森を見て木を見ず」です。部分ばかり見て全体を見ない、あるいは全体ばかり見て部分をないがしろにする、ということです。
「迎合」はこの前者に近い状態です。多様性の尊重やパワハラ回避をその場その場で優先し続けると、長い目で見た時に部下が育たないという副作用が出ます。逆に「説明不足」は後者になりやすい。全体像や方針を語るだけで具体の指示が足りないと、部下は何をどう動けばいいかわからないままです。
2つ目は、表層にとらわれて本質を見ない、思い込みに縛られる、ということです。説明不足の場面では、部下は上司より理解範囲が狭いため、どうしても言われたことの外側だけを捉えがちです。上司は意図や目的といった内側まで伝える必要があります。
他方で、内面ばかりを掘り下げていると自分の考えが凝り固まり、思い込みに陥ることもあります。だからこそ、内面と外面の両方から整合性を確かめることが重要です。
「暴走・放置」でも同じです。例えば若手が「退職したい」と言った時に、「給与が安いからだ」と短絡的に結び付けてしまうのは表層の読み違いかもしれません。背景を丁寧に聞き、内面と外面の両面で実態を確かめる必要があります。
まとめると、空回りする管理職の原因は、部分と全体、内面と外面を多面的に捉え切れていないことにあります。