認知症の予兆を見抜くにはどうしたらいいのか。介護施設を運営する林直樹さんは「台所に注目してほしい。例えば、砂糖と塩を間違える、鍋を火にかけたことを忘れるといったミスが続くなら要注意だ」という――。(第1回)

※本稿は、林直樹『介護現場から生まれた 認知症の人に伝わるすごいひと言』(日刊現代)の一部を再編集したものです。

料理をする女性の手
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自宅にいるのに「帰りたい」と呟く家族

「ここが家だよ」と伝えても、本人は首を横にふる。

「いや、違う。そろそろ家に帰らなきゃ」

でも、今いるのはまぎれもなく自宅のリビング。昨日もここでご飯を食べて、お気に入りのテレビを見ていたのに……。

今日は「ここじゃない」と、本人はまるで見知らぬ場所のように感じているよう。いったい何が起きているのでしょうか。

認知症の方の言葉には、想像以上に「本音」や「気持ちのサイン」が込められていることがあります。たとえば、「家に帰りたい」という言葉。これは介護施設だけでなく、そもそも「家」にいるはずの在宅介護の現場でも、実はとてもよく聞かれる言葉なのです。

それに対して、「ここが家だよ」といくら説明しても、うまく伝わらないどころか、かえって本人の不安が強くなってしまうことさえあります。

夕方になると、「帰りたい」という言葉がとくに多くなることがあります。これは「夕暮れ症候群」と呼ばれる現象で、認知症の方によく見られる特徴の一つです。夕方になると、不安や焦りが強まり、「家に帰る」と言い出すことが増えるのです。

日中に比べて視界が暗くなり、周囲の様子が分かりづらくなることや、体内時計の乱れ、疲れ、孤独感などが関係していると考えられています。見慣れた場所でもどこか違って見え、急に「ここにいていいのかな」「早く帰らなきゃ」という気持ちになり、心がざわついて落ち着かない時間帯なのです。