※本稿は、勝丸円覚『スパイは日本の「何を」狙っているのか』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
外見上は日本企業に見える「中国資本のフロント企業」
表向きは日本企業に見えるものの、実際には中国資本が背後に存在する「フロント企業」が近年、急増しています。これは、日本国内の水源地や観光地、離島、ウォーターフロントのマンションなどの不動産を買収するための工作の一環であり、土地や企業資産が静かに侵食されているともいえる状況です。
この中国の動きに対しては、一部の政治家やマスコミもようやく警戒を強め始めており、不動産業界にもその影響が及んでいます。中には、中国資本との取引を控える不動産会社も出てきました。
一方で、「中国色」を消した巧妙な取引手法が用いられるようにもなってきました。たとえば、日本に帰化した中国出身者が社長や役員を務める企業であれば、帝国データバンクや東京商工リサーチといった企業情報データベース上では「日本企業」として表示されます。そのため、出資元が中国であったとしても、外見上は完全に日本企業のように見えてしまいます。
さらに巧妙な手口として、日本人を「雇われ社長」として表に立て、中国からの資金を複数の小口出資者名義に分散させる方法もあります。最初は中国資本が40%を保有し、残りを日本人名義にしておいて、買収後に段階的に資本比率や役員構成を変え、最終的に完全な中国資本の企業とするケースも確認されています。
火葬場は「情報が集まる交差点」
こうした“仮面企業”の多くは不動産業に集中しており、土地やホテル、観光施設などの所有権を獲得しています。中には、すでに「火葬場」までもがそのターゲットとなっている事例もあり、これは極めて深刻な問題です。
火葬場がなぜ狙われるのか。理由は明確です。火葬場というのは、故人の戸籍情報や死亡確認に関する重要なデータが集まる場所であり、同時に行政、病院、警察などの各機関と密接に関わる情報の交差点でもあるからです。ここで得た情報は、他のスパイ活動にも容易に転用できる可能性があります。
その象徴ともいえる事例が、複数の火葬場を運営する、ある企業をめぐる一件です。報道によれば、中国資本が関与する企業が、この企業を子会社化している事実が確認されています。
この動きは、ある日本企業との合弁事業という形式を取りながら進められていました。つまり、表面上は日本の企業連携に見せかけつつ、実質的には中国資本の参入を狙うものだったのです。
この件に関して、私が取材した関係者によれば、実際には水面下で火葬場の経営権をめぐる攻防があり、その過程では多くの圧力や工作があったようです。つまり、これは単なる買収ではなく、諜報活動を目的としたであろう「日本の生活インフラの中枢」が標的にされた、極めて深刻な安全保障の問題だったというべきでしょう。

