公明党「選挙協力も白紙」

初の女性首相を目前に、突如、落とし穴に転落した高市早苗自民党新総裁。公明党の連立離脱で国会での首班指名選挙での確実な勝利が見通せなくなってしまった。

自民党内には「どうせ野党の一本化は出来ず、国民民主を引き付けておけば単独政権でも乗り切れるだろう」という声もあるが、選挙協力も白紙に戻すと言う公明党の姿勢に不信感と不安感が広がっている。

自公連立の解消という26年ぶりの大変動に、野党の間でも新たな政権の枠組みを模索する動きも急速に出始めた。

「誰も先が読めない政局の嵐に突入した」
政界最長老の小沢一郎議員は、これが政界再編の始まりになると断言した。

党首会談に臨む自民党の高市早苗総裁(右)と公明党の斉藤鉄夫代表
写真=時事通信フォト
党首会談に臨む自民党の高市早苗総裁(右)と公明党の斉藤鉄夫代表=10日午後、国会内

一寸先は闇

「政界は一寸先は闇」

自民党の副総裁をつとめた川島正次郎のこの言葉を高市新総裁は噛みしめているに違いない。麻生太郎元首相を味方につけて、番狂わせの総裁選に勝利してからわずか6日、公明党から連立離脱を突き付けられて、首班指名へのシナリオが大きく狂ってしまった。

「詰めが甘いというのか慢心と言うのか、高市も麻生も、危機感がなかったのではないか。参院選の敗北後、公明党の側も内部からの突き上げで追い詰められていた。今回、公明党は簡単には引けない状態だったようだ」

10日、自民党の高市新総裁と公明党の斉藤鉄夫代表の党首会談が決裂し、26年ぶりに公明党が連立離脱することが決まった後、公明党を良く知る閣僚経験者は突き放すようにそう言った。

確かに、党首会談の前には高市氏の周辺からはそう強い危機感は感じられなかった。前日9日の夜にテレビ番組を梯子した高市氏は、「自民党と公明党の連立は基本中の基本です。政治資金規正法の改正問題で幾つか懸念材料があるということでしたけど、これは誠実に前向きに検討していますから、(連立離脱などは)心配していません」などと述べていた。

高市氏から笑顔が消えた

笑顔を絶やさず、余裕さえ感じさせるその表情からは、翌日に政権の命運が暗転するという緊張感は微塵も感じられなかった。

しかし、ちょうどその頃、東京・信濃町の公明党本部では、まさに26年続く自民党との連立を離脱するかどうか、緊迫した会議が続けられていた。すでに自民党側に伝えていた歴史認識や外国人問題、そして政治とカネの問題に関する三つの懸念のうち、公明党が最も重視している政治とカネの問題が事実上ゼロ回答の見通しだった。

それでも連立に留まるべきだという意見は、すでにほとんどなくなっていた。特に旧安倍派の幹部で、自身の秘書も政治資金規正法違反で略式命令を受けた萩生田光一氏を幹事長代行の要職に就けた人事は、到底支持者の理解は得られないからだ。

高市氏は党首会談前日の9日、慌てて岸田文雄前首相と菅義偉元首相のもとを訪れていた。岸田氏は公明党の斉藤氏と同じ広島県の選出で二人は親しい間柄。菅氏は、創価学会中枢に人脈がありこれまで自公関係に強い影響力を持っていた。

しかし時すでに遅し、だった。国会内の常任委員長室で冒頭撮影に応じた両党首のうち、斉藤氏の表情はこれまで見た事が無い程険しく緊張していたが、それでも高市氏は、落ち着いた表情で、時折笑みも浮かべていた。

余裕なのか焦りなのか。その表情からは判然としなかった。

しかし、2時間後その表情は一変した。