第11代将軍徳川家斉の実父で、幕府政治に関与した一橋治済とはどんな人物だったのか。歴史評論家の香原斗志さんは「NHK大河ドラマで描かれた展開とは異なり、史実では力を持ち続けた。彼による幕府乗っ取り計画は順調に進んだが、思わぬところに綻びが生じた」という――。
皇居の桜田門
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「水戸黄門」みたいになってきたNHK大河「べらぼう」

NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」も終盤にいたって、なにやら途轍もない展開になってきた。老中から失脚した松平定信(井上祐貴)を中心に、元大奥総取締の高岳(冨永愛)、田沼意次の側近だった三浦庄司(原田泰造)、火付盗賊改方の長谷川平蔵(中村隼人)らが集まり、一人の敵に立ち向かうことになった。

4人はそれぞれ、かつて平賀源内(安田顕)が戯作に書き、命をねらわれるきっかけになった「傀儡くぐつ好きの大名」を敵にしていたことに気づき、蔦重こと蔦屋重三郎(横浜流星)も仲間に誘い込んだ。第44回「空飛ぶ源内」(11月16日放送)と第45回「その名は写楽」(11月23日放送)。

たしかに、これまで「べらぼう」では、10代将軍家治の後継に決まっていた家基(奥智哉)や、老中首座の松平武元(石坂浩二)が急死するときなどに、一橋治済(生田斗真)が傀儡を操る映像が重ねられ、背後で治済が暗躍していたことが示されてきた。

つまり、定信らは協力し合って、悪事の黒幕たる治済を亡き者にしようというのだ。東洲斎写楽の役者絵も、その文脈のなかで製作された。つまり、寛政の改革で活気を失っていた芝居町で曽我祭が開かれ、役者たちが通りで踊るので、それに合わせて人気の役者を絵にして、平賀源内が書いた噂を立て、治済をおびき寄せる――。

あまりに壮大なたくらみで、「水戸黄門」や「暴れん坊将軍」のような仕掛けだと感じられてしまうが、話はその程度では終わらない。