[第1の参考形態]
(1)メッキ部品の製造方法
<成形体の成形>
図1に示すフローチャートに従って、本参考形態のメッキ部品の製造方法について説明する。まず、ポリアミド(PA)とポリオレフィン(PO)とのポリマーアロイ(以下、適宜、単に「PA/POポリマーアロイ」と記載する)を含む成形体を成形する(図1のステップS1)。PA/POポリマーアロイに含まれるポリアミドとしては、特に限定されず、ナイロン6(PA6)、ナイロン66(PA66)、ナイロン12(PA12)、ナイロン11(PA11)、ナイロン6T(PA6T)、ナイロンMXD6(PAMXD6:メタキシレンジアミン(MXDA)を用いたポリアミド)、ナイロン6・66共重合体等を用いることができる。中でも、吸水性が高く膨潤しやすいためメッキ反応性が高いナイロン6(PA6)が好ましい。ポリアミドとしては、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
PA/POポリマーアロイに含まれるポリオレフィンとしては、特に限定されず、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−オクテン共重合体等を用いることができる。中でも、成形体の耐薬品性向上、軽量化及び低コスト化の観点から、ポリプロピレン(PP)が好ましい。ポリオレフィンとしては、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
PA/POポリマーアロイは、ポリアミドを20〜90重量%含み、ポリオレフィンを10〜80重量%含む。更に、ポリアミドを40〜70重量%含み、ポリオレフィンを30〜60重量%含むことが好ましい。本参考形態では、後工程の無電解メッキ工程(図1のステップS3)において、無電解メッキ膜が成形体中のポリアミド領域に選択的に成長する。このため、PA/POポリマーアロイ中のポリアミドの比率を上記範囲とすることで、成形体にメッキ膜が十分に形成され、メッキ膜と成形体との密着性を十分に確保できる。また、PA/POポリマーアロイ中のポリオレフィンの比率を上記範囲とすることで、メッキ反応性の高さや耐熱性といったポリアミドの特性を損ねることなく、ポリオレフィンの柔軟性といった特性を成形体に付与できる。
PA/POポリマーアロイは、は、ミネラルやガラス繊維等のフィラーを含まない非強化樹脂であってもよいし、ミネラル等を含有したミネラル強化樹脂、ガラス繊維(GF)や炭素繊維等の含有した繊維強化樹脂であってもよい。意匠性を高める場合には、粒形が球状でフィラーが目立たないミネラル強化樹脂を用いることが好ましく、剛性を高める必要がある場合には、ガラス繊維強化樹脂を用いることが好ましい。また、成形体の肉厚が厚い場合には、熱衝撃試験において樹脂の動きが大きくなりメッキ膜が割れる虞があるため、繊維強化樹脂を用いることが好ましい。PA/POポリマーアロイに含有させるフィラーの含有量は、メッキ部品の用途及び求められる強度に応じて適宜決定できる。例えば、PA/POポリマーアロイ中にフィラーは、5重量%〜80重量%含まれることが好ましく、10重量%〜60重量%含まれることがより好ましい。
PA/POポリマーアロイは、ポリアミドとポリオレフィンとの相溶性を向上させるため、更に相溶化剤を含んでもよい。相溶化剤は、ポリアミド中に存在する官能基と反応する反応性官能基を含有するポリオレフィン系樹脂であれば、特に限定されない。反応性官能基としては、例えば、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、酸無水物基、エポキシ基、イソシアネート基、メルカプト基、オキサゾリン基、スルホン酸基等が挙げられる。中でも、エポキシ基、酸無水物基、イソシアネート基、オキサゾリン基は反応性が高く、しかも分解、架橋などの副反応が少ないため好ましい。酸無水物基における酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水エンディック酸、無水シトラコン酸、1−ブテン−3,4−ジカルボン酸無水物等を挙げることができる。中でも、無水マレイン酸、無水イタコン酸が好ましい。相溶化剤は、反応性官能基を1種類のみ含んでもよいし、2種類以上含んでもよい。相溶化剤は、ポリアミド及びポリオレフィンの種類に応じて適宜選択でき、具体的な相溶化剤としては、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(PP−MAH)等が挙げられる。PA/POポリマーアロイ中に相溶化剤は、例えば、1重量%〜10重量%含まれ、好ましくは3重量%〜5重量%含まれる。相溶化剤の含有量をこの範囲とすることで、ポリアミドとポリオレフィンとの相溶性を改善し、2材が成形時に分離することがなく、成形体の内部に2材の良好な海−島構造(マトリックス−ドメイン構造)を形成できる。
PA/POポリマーアロイは、市販品を使用してもよいし、上述したポリアミド及びポリオレフィンを用いて製造してもよい。市販品としては、例えば、東レ製、アミラン(登録商標)S133、アミラン(登録商標)U141等のPA/POポリマーアロイ樹脂ペレットが挙げられる。また、PA/POポリマーアロイの製造方法は、特に限定されないが、例えば、ポリアミド、ポリオレフィン、必要に応じて相溶化剤、フィラー等を混合して押出成形し、押出成形物を粉砕してPA/POポリマーアロイ樹脂ペレットを製造してもよい。
本参考形態では、PA/POポリマーアロイのみから成形体を成形してもよいし、PA/POポリマーアロイに加えて、後述する親水性セグメントを有するブロック共重合体や、その他の汎用の添加剤を加えて成形してもよい。成形体中におけるPA/POポリマーアロイの含有量は、任意であり、メッキ部品の用途等に基づき適宜決定できる。例えば、成形体中にPA/POポリマーアロイは、70〜100重量%含まれることが好ましく、85〜100重量%含まれることがより好ましい。
本参考形態では、PA/POポリマーアロイに加えて、親水性セグメントを有するブロック共重合体(以下、適宜「ブロック共重合体」と記載する)を加えて成形体を成形してもよい。ブロック共重合体は、親水性セグメントと、親水性セグメントとは異なる他のセグメント(以下、適宜「他のセグメント」と記載する)を有する。ブロック共重合体は、成形体の成形過程、又は成形後において、成形体の表面近傍に偏析する傾向がある。これにより成形体表面が親水化し、無電解メッキの反応性が向上する。
本参考形態のブロック共重合体の親水性セグメントには、アニオン性セグメント、カチオン性セグメント、ノニオン性セグメントを用いることができる。アニオン性セグメントとしては、ポリスチレンスルホン酸系、カチオン性セグメントとしては、四級アンモニウム塩基含有アクリレート重合体系、ノニオン性セグメントとしては、ポリエーテルエステルアミド系、ポリエチレンオキシド−エピクロルヒドリン系、ポリエーテルエステル系等が挙げられる。
本参考形態のブロック共重合体としては、成形体の耐熱性を確保しやすいことから、親水性セグメントがポリエーテル構造を有するノニオン性セグメントであることが好ましい。ポリエーテル構造としては、例えば、炭素数が2〜4のオキシアルキレン基、ポリエーテルジオール、ポリエーテルジアミン、及びこれらの変性物、並びにポリエーテル含有親水性ポリマーが含まれ、特にポリエチレンオキシドが好ましい。
本参考形態のブロック共重合体の他のセグメントは、親水性セグメントより疎水性のセグメントであれば任意であり、目的にあった種類を選択できる。例えば、ナイロン6、ナイロン12等のポリアミド、ポリオレフィン、ポリ乳酸、ポリエチレン等を用いることができる。
本参考形態において、ブロック共重合体は、市販品を用いてもよい。本参考形態のブロック共重合体は、成形体の表面近傍に偏析する(配向する)という性質から、樹脂練りこみ型の高分子型帯電防止剤として市販されている場合がある。例えば、三洋化成工業製のペレスタット(登録商標)、ペレクトロン(登録商標)等を本参考形態のブロック共重合体として用いることができる。
成形体中におけるブロック共重合体の含有量は、任意であり、PA/POポリマーアロイの種類、ブロック共重合体の種類、メッキ部品の用途等に基づき適宜決定できる。例えば、成形体中にブロック共重合体は、1〜30重量%含まれることが好ましく、1〜20重量%含まれることがより好ましく、3〜15重量%含まれることが更により好ましい。成形体中のブロック共重合体の含有量が1重量%以上であると、メッキ液の浸透性を十分に高められ、30重量%以下であると、成形体の耐熱性や機械強度等の物性を大きく損なうことがない。
本参考形態の成形体の成形方法は、特に限定されない。例えば、PA/POポリマーアロイに、必要に応じてブロック共重合体やその他汎用の添加剤を加えた材料を汎用の射出成形、押出成形等により成形して、成形体を得てもよい。
<メッキ前処理>
次に、成形体に無電解メッキ触媒を付与する(図1のステップS2)。本参考形態では、塩酸に塩化パラジウムを溶解させた無電解メッキ触媒液に成形体を接触させる。尚、本参考形態において、成形体に無電解メッキ触媒液を接触させる工程は、成形体にメッキ膜を形成するためのメッキ前処理に相当する。
本参考形態の無電解メッキ触媒液中の塩酸の濃度は、例えば、0.1〜12Nであり、0.1〜5Nであることが好ましく、1.0〜4.0Nであることがより好ましい。塩化パラジウムは、塩酸の濃度が低下すると析出する虞がある。そのため、塩酸濃度を0.1N以上とすることで塩酸に溶解するパラジウムイオンの状態を安定に維持できる。一方、塩酸の濃度が12Nを超えると、成形体の溶解等により、メッキの外観特性や成形体の機械的強度に影響を与える虞がある。
塩化パラジウムは、後述する無電解メッキ工程(図1のステップS3)において、無電解メッキ触媒として機能する。塩化パラジウムは、無電解メッキ触媒液中に、例えば、1〜100重量ppm、好ましくは、25〜75重量ppm含まれる。塩化パラジウム濃度が1重量ppm未満であると、成形体表面への塩化パラジウムの吸着量にムラができ、メッキ膜の欠陥ができる虞がある。また、塩化パラジウム濃度が100重量ppmを超えると、成形体表面への塩化パラジウムの吸着量が多くなり、成形体の最表面でのメッキ反応が支配的となり、メッキ膜の密着強度が低下する虞がある。
成形体に無電解メッキ触媒液を接触させている時間(メッキ前処理時間)は、5秒〜15分であることが好ましい。5秒未満であると、成形体表面への金属イオンの吸着量にムラができ、無電解メッキ反応を均一に開始できない虞がある。また、15分を超えると、成形体へ浸透した塩酸による成形体の劣化、メッキ膜の腐食の虞がある。
また、成形体に接触させる無電解メッキ触媒液の温度は10℃〜50℃が好ましい。10℃未満であると、成形体表面へのパラジウムイオンの吸着量にムラができ、無電解メッキ反応を均一に開始できない虞がある。また、10℃未満でメッキ前処理を行うと成形体の温度も低温となる。このため、メッキ前処理後の成形体を無電解メッキ液に接触させた際、メッキ液温度が急激に低下してメッキの初期反応が不安定になり、メッキ膜の被覆性の低下、外観不良が生じる虞がある。また、無電解メッキ触媒液の温度が50℃を超えると、成形体表面へのパラジウムイオンの吸着量が多くなり、成形体の最表面でのみメッキ反応が生じる虞がある。また、塩酸からのガスの発生や水の蒸発により、塩酸濃度を安定化することが難しくなる虞もある。
更に、本参考形態の無電解メッキ触媒液は、界面活性剤を含んでも良い。界面活性剤を含有することで無電解メッキ触媒液の表面張力が低下し、成形体表面への濡れ性が向上して、パラジウムイオンが成形体の内部へ浸透し易くなる。界面活性剤は、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、及び両性界面活性剤等、汎用の界面活性剤を使用できる。
成形体に無電解メッキ触媒液を接触させる方法は任意であり、目的に応じて種々の方法を用いることができる。例えば、無電解メッキ触媒液に成形体全体を浸漬させてもよい。また、成形体の一部分のみメッキ処理する場合には、メッキ処理が予定される部分のみを無電解メッキ触媒液と接触させてもよい。
更に、成形体に無電解メッキ触媒液を接触させた後、成形体を水洗してもよい。水洗の温度(水の温度)は、ポリアミドのガラス転移温度の50℃以上が好ましく、ポリプロピレン等のポリオレフィンの熱変形を抑制する観点から、90℃以下が好ましい。水洗することで成形体の最表面に吸着した塩化パラジウムを除去でき、50℃以上の水を用いた場合には、成形体表面を膨潤させることもできる。これにより、成形体の最表面でのメッキ反応が抑制され、且つ無電解メッキ液が成形体に浸透し易くなるため、成形体の内部からのメッキ膜の成長が促進される。この結果、メッキ膜の密着強度が向上する。
以上説明したメッキ前処理によって、無電解メッキ触媒液中の塩酸は成形体表面をエッチングし、塩化パラジウムは成形体表面に吸着する。本発明者らの検討により、塩化パラジウムは、PA/POポリマーアロイ中のポリアミドのアミド基に特異的に吸着し、アミド基を有さないポリオレフィンには吸着し難いことがわかった。更に、塩化パラジウムは成形体の最表面に吸着するだけでなく、成形体の表面近傍(例えば、表面から100μmまでの深さの領域)に存在するポリアミド領域にも浸透する。メッキ前処理後の成形体に含まれるパラジウムの含有量は、成形体の表面近傍において、例えば、0.1重量ppm〜20重量ppmであり、好ましくは、1重量ppm〜10重量ppmである。本参考形態では、後述するように、50℃〜80℃の酸性の無電解ニッケルリンメッキ液を用いて無電解メッキを行う。本参考形態で用いる無電解メッキ液は、ある程度高温であるため、硫酸ニッケルイオンの析出性(メッキ析出性)が高く、また、還元剤である次亜リン酸ナトリウムの濃度が高い。このため、本参考形態で用いる無電解メッキ液は、メッキ反応性が高い。メッキ反応性の高い無電解ニッケルリンメッキ液を用いて無電解メッキを行うため、パラジウムの含有量が0.1重量ppm〜20重量ppmと低くとも、無電解メッキ膜を形成することができる。
<無電解メッキ>
次に、無電解メッキ触媒を付与した成形体に、50℃〜80℃の酸性の無電解ニッケルリンメッキ液を接触させて、成形体表面に無電解メッキ膜を形成する(図1のステップS3)。無電解メッキの処理温度(無電解メッキ液の温度)は、好ましくは、50℃〜70℃である。また、酸性の無電解ニッケルリンメッキ液のpHは、例えば、4.0〜6.0であり、好ましくは、4.5〜5.0である。
従来から、プラスチック基材に対する無電解メッキ用触媒付与の処理としては、主には2種類の手法が用いられてきた。スズコロイドを基材に吸着させた後(センシタイザー)、塩化パラジウム溶液に浸漬して(アクチベーティング)、塩化第一スズで塩化パラジウムを還元および析出させるセンシタイザー−アクチベーティング法と、パラジウムスズコロイドを基材に吸着させた後(キャタリスト)、濃硫酸等で還元する(アクセレータ)キャタリスト−アクセレータ法である。無電解メッキ触媒は、通常、酸化数0(ゼロ)の金属状態において触媒活性を示す。このため、センシタイザー−アクチベーティング法及びキャタリスト−アクセレータ法のどちらの方法においても、パラジウムを基材に吸着させつつ還元する。したがって、従来は、金属状態でない塩化パラジウムを基材に付与しても触媒活性を発現せず、無電解メッキ触媒として使用することは困難であった。また、塩化パラジウムは、プラスチック基材表面に吸着し難いという問題も有していた。しかし、本発明者らは、ポリアミドを含む成形体を基材とし、且つ酸性の無電解ニッケルリンメッキ液を用いることで、塩化パラジウムの還元処理を行わずとも無電解メッキ反応が生じることを見出した。この原因は定かではないが、ポリアミドを基材に用いることで塩化パラジウムが基材に吸着し易くなり、更に無電解メッキ液中に還元剤として含まれる次亜リン酸ナトリウムが塩化パラジウムを還元する作用があるのではないかと推定される。本参考形態では、無電解メッキ触媒の還元処理を省略することが可能となるため、製造コストを削減でき、メッキ部品製造全体のスループットを向上できる。
このように、本参考形態では、酸性の無電解ニッケルリンメッキ液を用いることで、塩化パラジウムの還元処理を行わずとも成形体上に無電解メッキ膜を形成できる。したがって、酸性の無電解ニッケルリンメッキ液に代えて、従来のプラスチックメッキに用いるアルカリ性の無電解ニッケルリンメッキ液を用いた場合には、メッキ膜の形成は困難である。例えば、アルカリ性の無電解ニッケルメッキ液(化学ニッケルメッキ液)を用いた場合、メッキ膜は形成し難い。アルカリ性の無電解ニッケルメッキ液は、次亜リン酸ナトリウム濃度が低く、且つメッキ液の温度が40℃程度と低いため、形成されるメッキ膜中のリン濃度が1〜4重量%程度と低くなるメッキ液である。本参考形態では、次亜リン酸ナトリウムの濃度及びメッキ液の温度が高く、形成されるメッキ膜中のリン濃度が7〜12重量%程度となる中〜高リンタイプの酸性ニッケルリンメッキ液を用いることが好ましい。このようなニッケルリンメッキ液は、ポリアミド中への浸透性も高いため、成形体中の塩化パラジウムの含有量が低い場合であっても、塩化パラジウムを還元しつつ、ポリアミド中で無電解メッキ反応を進行させると推測される。
また、次亜リン酸塩の還元力は、温度が低いほど低下する。市販の還元剤濃度が高い中〜高リンタイプの無電解ニッケルリンメッキ液の使用温度は85℃〜90℃と高い場合が多い。しかし、85℃〜90℃の処理温度で成形体のメッキを行うと、成形体自身が変形する虞がある。また、成形体が膨張した状態で無電解メッキが行われ、無電解メッキ後に冷却されて成形体が収縮するため、成形体の収縮に対応できないメッキ膜に割れが生じる虞もある。特に、耐熱性の弱いポリプロピレン等のポリオレフィンでは、この問題が顕著である。本参考形態では、上述した無電解メッキ触媒液を用いるメッキ前処理(図1のステップS2)により、成形体の表面だけでなく、表面近傍のポリアミド領域内にも無電解メッキ触媒が浸透している。また、無電解メッキ触媒が浸透しているポリアミド領域は、ポリオレフィン領域と比較して吸水率が高く、無電解メッキ液が浸透し易い。本参考形態では、このようなメッキ反応性が高い成形体に対して、還元力の高い酸性の無電解メッキ液を用いることにより、メッキ処理温度を80℃以下としても、密着強度が高いメッキ膜を形成できる。そして、無電解メッキ液温度を80℃以下にできるため、成形体がポリプロピレン等のポリオレフィンを含むにもかかわらず、成形体の変形及びメッキ膜の割れを防ぎ、外観特性に優れたメッキ膜を形成できる。
無電解ニッケルリンメッキ膜を形成した成形体上には、メッキ部品の用途及び意匠性向上等の目的から、更に異なる種類の無電解メッキ膜を複数層形成してもよいし、電解メッキにより電解メッキ膜を形成してもよい。また、無電解メッキ膜が形成された成形体は、無電解メッキ後にアニール処理を施してもよいし、室温で放置して自然乾燥してもよい。また、アニール処理や自然乾燥を行わず、連続して電解メッキ膜を形成する等の次の工程を行ってもよい。
(2)メッキ部品
次に、以上説明した製造方法により製造されるメッキ部品について説明する。図2(a)に示すように、メッキ部品300は、ポリアミドとポリオレフィンとのPA/POポリマーアロイを含む成形体10と、無電解メッキ膜20とを有し、成形体10の内部には、ポリアミド領域11と、ポリオレフィン領域12とが混在している。即ち、PA/POポリマーアロイは、ポリアミドとポリオレフィンとが完全に相溶した1相の系ではなく、ポリアミド領域11と、ポリオレフィン領域12とが混在している2相系である。また、ポリアミド領域11とポリオレフィン領域12とは、海−島構造(マトリックス−ドメイン構造)を形成している。図2(a)に示すメッキ部品300では、ポリアミド領域11の海(マトリックス)の中に、ポリオレフィン領域12の島(ドメイン)が形成された構造であるが、本参考形態はこれに限られない。図2(a)に示す構造とは反対に、ポリオレフィン領域の海(マトリックス)の中に、ポリアミド領域の島(ドメイン)が形成された構造であってもよい。ポリアミド領域11と、ポリオレフィン領域12とのどちらが、海(マトリックス)になり、どちらが島(ドメイン)になるかは、PA/POポリマーアロイ中の各ポリマーの体積比率に大きく依存する。PA/POポリマーアロイ中の体積比率に大きいポリマーが主に海(マトリックス)となり、体積比率が小さいポリマーが主に島(ドメイン)となる。
図2(a)及び(b)中に、成形体300の成形時に溶融樹脂が流動した方向を「流動方向」として矢印により示す。また、流動方向と並行な方向を「Y方向」、Y方向と垂直で且つ無電解メッキ膜20の表面と並行な方向を「X方向」、X方向及びY方向に垂直な方向を「Z方向」と定義し、図2(a)に示す。また、図2(a)に示される成形体300の流動方向に略垂直な断面を「XZ断面」、流動方向に略平行な断面を「YZ断面」と定義する。
図2(a)のXZ断面及びYZ断面、更に図2(b)に示されるように、島(ドメイン)であるポリオレフィン領域12は、流動方向(Y方向)に引き伸ばされ、その結果、Z方向において潰れた扁平形状となる。特に、成形体の表面近傍、即ち、成形時に金型壁面に隣接する部分では、せん断応力により、ポリオレフィン領域12は、成形体表面に略平行な方向(X方向又はY方向)に引き伸ばされて縞状(スジ状)となる。XZ断面におけるポリオレフィン領域12の形状は、成形体表面近傍では縞状(スジ状)であり、成形体の中心に向うにしたがって円形に近づく。
ポリアミド領域11とポリオレフィン領域12は、理想的には密着しており、その間に空隙(隙間)が発生していないことが望ましい。しかし、図3に示すように、ポリアミド領域11とポリオレフィン領域12との間には、空隙(隙間)13が発生する場合がある。このような空隙13が発生すると、空隙を起点として、2材間の剥離が発生し、メッキ部品の品質が低下する。このような空隙13の発生原因の1つは、無電解メッキ中の成形体の加熱だと推測される。ポリアミド領域11とポリオレフィン領域12との熱収縮差による応力によって、ポリアミド領域11とポリオレフィン領域12の間に空隙13が発生し易くなると推測される。本参考形態では、無電解メッキを比較的低温で行うことにより、ポリアミド領域11とポリオレフィン領域12との間の空隙13の幅Wを例えば、1μm以下とすることができる。空隙13の幅Wが1μm以下であれば、メッキ部品の品質の低下を抑制し、外観特性に優れ、且つ高い密着強度を有するメッキ膜を得られる。
ここで、ポリアミド領域11とポリオレフィン領域12との間の「空隙13の幅W」とは、成形体の断面観察において、成形体表面近傍で観察される空隙13のポリアミド領域11界面とポリオレフィン領域12界面とが最も離れている部分の距離と定義する。観察を行う断面は、特に限定されないが、例えば、メッキ膜が形成されている面に対して60°〜120°の断面であり、好ましくは、80°〜100°の断面であり、より好ましくは略垂直の断面である。ここで、成形体の「表面近傍」とは、例えば、成形体表面から100μmまでの深さの領域を意味する。
また、海−島構造(マトリックス−ドメイン構造)における島(ドメイン)が大きいと、ポリアミド領域11とポリオレフィン領域12との熱収縮差による応力によって、ポリアミド領域11とポリオレフィン領域12との界面に空隙13が発生し易くなると推測される。したがって、海−島構造(マトリックス−ドメイン構造)における島(ドメイン)は小さいことが好ましく、島のサイズ(ドメインサイズ)は、例えば、0.1μm〜30μmであり、好ましくは、0.1μm〜10μmであり、より好ましくは、0.1μm〜5μmである。また、島(ドメイン)のサイズがナノオーダーとなると、無電解メッキ時にポリアミド領域11が膨潤できる自由堆積が増えるためメッキ反応性が向上し、メッキ膜の密着強度が向上する。
ここで、「島のサイズ(ドメインサイズ)」とは、成形体の断面観察において、成形体表面近傍で観察される島(ドメイン)の長径および短径の平均値を算出し、長径と短径の平均値として算出した平均粒子径を意味する。
上述したポリアミド領域11とポリオレフィン領域12の海−島構造(マトリックス−ドメイン構造)の確認、空隙13の幅Wの測定及び、島のサイズ(ドメインサイズ)の測定は、例えば、成形体断面を染色した後、透過型顕微鏡(TEM)による断面観察によって行うことができる。TEM観察のための断面加工法としては、特に限定されないが、例えば、凍結超薄膜切片法(クライオミクロトーム法)、収束イオンビーム法(FIB法)、イオンミリング法、ミクロトーム法等が挙げられる。また、染色の方法としては、断面観察時にポリアミドとポリオレフィンのコントラスト(明暗差)が設けられ、海−島構造(マトリックス−ドメイン構造)を確認できる方法であれば、特に限定はされないが、例えば、四酸化ルテニウム等を用いた重金属染色法等が挙げられる。PA/POポリマーアロイを染色処理せずにTEMで観察すると、ポリアミドもポリオレフィンも共に軽元素で構成されているため、電子線の殆どが透過してしまい2材のコントラストがつかない。重金属染色法等によりPA/POポリマーアロイを重金属と反応させると、ポリアミドとポリオレフィンの重金属との結合度合の差により、2材の電子線の透過状態が異なる。これにより、ポリアミドとポリオレフィンとのコントラストが高くなり、海−島構造(マトリックス−ドメイン構造)を確認できる。
[実施形態]
本実施形態では、部分的にメッキ膜の形成されたメッキ部品及びその製造方法について説明する。図4に示すように、本実施形態で製造する成形体100は、表面に無電解メッキ膜103が形成されている第1の部位101と、表面に無電解メッキ膜が形成されていない第2の部位102とを有し、第1の部位101と第2の部位102とは一体に成形(一体成形)されている。即ち、成形体100は、第1の部位101と第2の部位102との一体成形体である。第1の部位101は、第1の参考形態で製造した成形体10と同様、PA/POポリマーアロイを含む。
(1)メッキ部品の製造方法
<成形体の成形>
本実施形態では、図6(a)に示す汎用の二色成形機200を用いて二色成形方法により、第1の部位101及び第2の部位102を有する成形体を成形する。以下、図5に示すフローチャート及び図6に従って、本実施形態の製造方法について説明する。
まず、図6(a)に示す二色成形機200の第1の可塑化シリンダ204内で、PA/POポリマーアロイを含む第1の熱可塑性樹脂を可塑化溶融して第1の溶融樹脂とする(図5のステップS11)。PA/POポリマーアロイは、第1の参考形態で用いたものと同様のものを用いることができる。
第2の可塑化シリンダ205内では、第2の熱可塑性樹脂を可塑化溶融して第2の溶融樹脂とする(同、ステップS12)。第2の熱可塑性樹脂は特に限定されず、成形体の用途に応じて選択できるが、ポリアミド以外の樹脂が好ましい。第2の熱可塑性樹脂は、無電解メッキが形成されない第2の部位102を構成するが、ポリアミドは無電解メッキ膜が形成され易いためである。メッキ膜の形成されない第2の部位に艶消しの落ち着いた加飾を加えたい場合には、第2の熱可塑性樹脂は、結晶性樹脂であることが好ましい。結晶性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、ポリアセタール、ポリフタルアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂を用いることができる。また、成形体の耐薬品性向上、軽量化及び低コスト化の観点からは、第2の熱可塑性樹脂は、ポリプロピレンを含むことが好ましい。ポリプロピレンは、比重が低く、耐薬品性が高く、低コストであるという利点を有しているため、従来から自動車部品として広く採用されているが、化学的に安定であるため、密着性の高いメッキ膜を形成することは困難であった。本実施形態では、メッキ膜を形成する部分(第1の部位)にポリアミド等を用いることで、ポリプロピレンの成形体の一部にメッキ膜を形成できる。
第2の熱可塑性樹脂は、第1の熱可塑性樹脂と同様に、非強化樹脂であってもよいし、強化樹脂であってもよい。また、第1の部位と第2の部位との接着性を高めるため、各種相溶化剤や接着材料を混合してもよい。
第2の熱可塑性樹脂は、1種類の樹脂を単独で用いてもよいし、2種類以上の樹脂を混合して用いてもよい。また、第1の部位と第2の部位の密着性の向上の観点から、第2の熱可塑性樹脂は、第1の熱可塑性樹脂と共通の樹脂成分を含むことが好ましい。例えば、第2の熱可塑性樹脂は、第1の熱可塑性樹脂のPA/POポリマーアロイのポリオレフィンと同様のオレフィンを含むことが好ましい。例えば、第1の熱可塑性樹脂のPA/POポリマーアロイのポリオレフィンがポリプロピレンであり、第2の熱可塑性樹脂がポリプロピレンを含むことが好ましい。
次に、図6(a)に示す金型201内に形成されたキャビティ202内へ、図6(b)に示すように第1の可塑化シリンダ204から第1の溶融樹脂を射出して第1の部位101を成形する。
図示しない油圧駆動機構にて金型201においてコアバックを行い、図6(c)に示すように、金型201内のキャビティ202を広げ、新たなスペース203を形成する。そして、図6(d)に示すように、キャビティ202内に第1の部位101を保持した状態で、第2の可塑化シリンダ205から、キャビティ202内の新たなスペース203へ第2の溶融樹脂を射出する。これにより、金型201内で、第1の部位に接続する第2の部位102が成形され、本実施形態の成形体が得られる(図5のステップS13)。図6(e)に示すように、金型201を開放することにより、第1の部位101と第2の部位102から形成される成形体を外部に取り出せる。
尚、本実施形態の二色成形方法では、キャビティ201においてコアバックを行う方法(コアバック法)を用いたが、他の公知の方法、例えば、第1の溶融樹脂をキャビティ内に射出成形した後、キャビティを反転させて第2の溶融樹脂をキャビティ内に射出充填する方法を用いてもよい(反転法)。更に、異材質の部品を一体化する成形方法(一体成形)であれば、二色成形以外の他の公知の成形方法、例えば、インサート成形を用いてもよい。尚、本願明細書において、「一体成形」とは、二次接着や機械的接合を用いないで、部材の接合と同時に製品を一体で成形することを意味する。
<メッキ前処理及び無電解メッキ>
以上の成形方法により得られた成形体の第1の部材101の表面のみにメッキ膜103を形成し、図4に示す成形体100が得られる。
メッキ前処理及び無電解メッキは、第1の参考形態と同様に行う。まず、成形体に、塩酸と塩化パラジウムとを含む無電解メッキ触媒液を接触させるメッキ前処理を行い(図5のステップS2)、次に、50℃〜80℃の酸性の無電解ニッケルリンメッキ液を接触させる(同、ステップS3)。
メッキ前処理を行うことで、ポリアミドを含む第1の部材101には無電解メッキ触媒として機能する塩化パラジウムが選択的に吸着及び浸透する。これにより、メッキ前処理後、例えば、成形体全体を無電解メッキ液に浸漬しても、第1の部材の表面のみにメッキ膜が形成され、第2の部位102にはメッキ膜は形成されない。本実施形態では、マスキング工程を用いずに低コストで、成形体100の表面に、メッキ膜の有無のコントラストが明確な部分的なメッキ膜103を形成できる。このため、メッキ部品の製造コストを低く抑えられる。尚、第1の参考形態と同様に、成形体の用途及び意匠性向上等の目的から、無電解メッキにより形成したメッキ膜上に、更に、電解銅メッキ、電解ニッケルメッキ及び電解三価クロムメッキ等のメッキ膜を積層してもよい。
(2)メッキ部品
図4に示すように、本実施形態で製造するメッキ部品100は、表面に無電解メッキ膜103が形成されている第1の部位101と、表面に無電解メッキ膜が形成されていない第2の部位102とを有し、第1の部位101と第2の部位102とは一体に成形(一体成形)されている。
メッキ部品100の第1の部位101の内部には、図2(a)に示す第1の参考形態のメッキ部品300と同様に、ポリアミド領域11と、ポリオレフィン領域12とが混在し、海−島構造(マトリックス−ドメイン構造)が形成されている。本実施形態では、無電解メッキを低温で行うことにより、ポリアミド領域11とポリオレフィン領域12との界面の空隙13の幅Wを例えば、1μm以下とすることができる。これにより、メッキ部品の品質の低下を抑制し、外観特性に優れ、且つ高い密着強度を有するメッキ膜を得られる。
本実施形態において、23℃の水に24時間浸漬させたときの第1の部位の吸水率は、0.5重量%以上3.0重量%以下であり、第2の部位の前記吸水率は、2.0重量%以下であることが好ましい。第1の部位及び第2の部位の前記吸水率は、例えば、後述する実施例に記載した方法で測定できる。第1の部位は、23℃の水に24時間浸漬させたときの吸水率が0.5重量%未満であると、メッキ反応性が低下し、前記吸水率が3.0重量%を超えると、メッキ時の樹脂の膨潤とメッキ後の樹脂の収縮との差が大きくなり、メッキ膜の割れ等の問題が生じる虞がある。また、第1の部位の前記吸水率が3.0重量%を超えると、無電解メッキ時に第1の部位と第2の部位の界面にメッキ液が溜まり、両樹脂の界面で剥離が生じる虞もある。一方、第2の部位は、23℃の水に24時間浸漬させたときの吸水率が2.0重量%を超えると、第2の部位から第1の部位に水分が浸漬し、メッキ膜界面の剥離が生じる虞がある。また、第2の部位の吸水率が大きいと、吸水により成形体の寸法精度も低下する。このように、本発明者らが鋭意検討した結果、第1の部位と、第2の部位から構成される成形体に無電解メッキを行う場合、両部位の吸水率をそれぞれ最適化しないと、成形体を用いた部品等の信頼性に問題が生じることがわかった。23℃の水に24時間浸漬させたときの第1の部位の吸水率を0.5重量%以上3.0重量%以下とし、第2の部位の前記吸水率を2.0重量%以下とすることで、メッキ部品を用いた部品等の長期に亘る信頼性を確保できる。
更に、23℃の水に24時間浸漬させたときの第1の部位の吸水率は、0.5重量%以上2.0重量%以下であることが好ましい。また、第2の部位の前記吸水率の下限値は、特に制限されず、低い程好ましいが、第1の樹脂との吸水率差による剥離を抑制する観点からは、0.1重量%以上が好ましい。
本実施形態のメッキ部品は、第1の部位及び第2の部位が上述した特定の範囲の前記吸水率を有し、更に、両部位の前記吸水率の差は、2.9重量%以下であることが好ましく、2.5重量%以下であることがより好ましい。両部位の前記吸水率の差が2.9重量%以下であると、吸水による両部位の膨張率の差も小さくなるため、メッキ膜の剥離や、第1の部位と第2の部位の分離を抑制できる。第1の部位及び第2の部位の前記吸水率は、それぞれ、上述した特定の範囲内であれば、第1の部位より第2の部位の前記吸水率の方が大きくてもよいし、その反対に、第2の部位より第1の部位の前記吸水率の方が大きくてもよい。「両部位の前記吸水率の差」とは、第1の部位の前記吸水率及び第2の部位の前記吸水率のうち、大きい値から小さい値を引いた差である。
また、第2の部位は、発泡成形体であってもよい。第2の部位を発泡させることで断熱性と強度、寸法精度を兼ね備えたメッキ部品が得られる。第2の部位を発泡させたメッキ部品は、例えば、樹脂サッシ等の建材部品、ドアノブ、シフトレバー、パドルシフト、エアコンブレード等の高剛性自動車部品、フロントグリルやガーニッシュ、インナードアハンドル等の自動車用意匠メッキ部品、カメラ筐体や交換レンズの鏡筒又はその一部、薄型テレビやパソコン、エアコン、冷蔵庫等の家電部品として用いることができる。
[第2の参考形態]
本参考形態では、成形体がPA/POポリマーアロイに加えて、更に親水性セグメントを有するブロック共重合体と、金属微粒子とを含むメッキ部品の製造方法について説明する。
(1)メッキ部品の製造方法
以下、図1に示すフローチャートに従って、本参考形態の製造方法について説明する。本参考形態では、まず、ブロック共重合体及び金属微粒子を含む樹脂ペレットを製造し、製造した樹脂ペレットとPA/POポリマーアロイから成形体を成形する(図1のステップS1)。
<ブロック共重合体及び金属微粒子を含む樹脂ペレットの製造>
本明細書において、「樹脂ペレット」とは、樹脂を加工し易いように小さな塊(ペレット)としたものを意味し、サイズ及び形状はペレットの用途により様々であるが、例えば、3〜5mm程度の粒子状、円柱状の樹脂の小片である。また、本参考形態において、ブロック共重合体及び金属微粒子を含む樹脂ペレットは、マスターバッチに相当し、PA/POポリマーアロイは、マスターバッチが配合されるベース樹脂に相当する。マスターバッチとは、染料、顔料、その他の添加剤等の機能性材料を高濃度に含有した樹脂ペレットであり、機能性材料を含有しないベース樹脂に混合され、ベース樹脂と共に成形される。マスターバッチを用いると、機能性材料である金属微粒子を直接ベース樹脂に添加して成形することと比較して、材料の取り扱い性が容易で秤量精度も向上する。また、マスターバッチを用いると、汎用の成形機を用いて、金属微粒子を含有する成形体を製造できるという利点も有する。以下、本願明細書において、ブロック共重合体及び金属微粒子を含む樹脂ペレットを「マスターバッチペレット」と記載する。
本参考形態のマスターバッチペレットに含まれるブロック共重合体は、第1の参考形態で用いるブロック共重合体と同様のものを用いることができる。また、マスターバッチペレットに含まれる金属微粒子は、無電解メッキ用金属触媒として機能するものであれば特に限定されず、例えば、Pd、Ni、Pt、Cu等の微粒子が好ましく、無電解メッキの触媒安定性の観点から、パラジウム(Pd)の微粒子がより好ましい。また後述するように、マスターバッチペレットの製造に加圧二酸化炭素を使用する場合、本参考形態に用いる金属微粒子は、加圧二酸化炭素に溶解することが好ましく、例えば、加圧二酸化炭素への溶解性が高い、ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)金属錯体、白金ジメチル(シクロオクタジエン)、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル、ビス(アセチルアセトネート)パラジウム等の金属錯体が好ましい。
マスターバッチペレットを製造する方法は任意であり、例えば、国際公開第2013/129659号に開示されている製造方法により製造できるが、金属微粒子が溶解又は分散した加圧二酸化炭素(以下、必要により「混合加圧流体」と記載する)をブロック共重合体に接触させることにより、ブロック共重合体に金属微粒子を浸透させる工程を含むことが好ましい。加圧二酸化炭素を用いる方法は、有機溶媒を必要としないため環境負荷が低い。また、加圧二酸化炭素は、金属微粒子のブロック共重合体への均一な分散を促進し、金属微粒子の粒径を著しく小さくできる。金属微粒子が凝集せず均一に分散することで、金属微粒子はブロック共重合体に伴って成形体表面へ移動し易くなると考えられる。この結果、加圧二酸化炭素を用いて製造されたマスターバッチペレットを用いて、メッキ膜を有する成形体を製造すると、均一で高品質なメッキ膜を得られる。加圧二酸化炭素を用いずに、ブロック共重合体と金属微粒子のみを混合することでマスターバッチペレットを製造することも可能であるが、以上の理由から加圧二酸化炭素を用いることが好ましい。
本参考形態では、高圧容器を用いたバッチ処理によりマスターバッチペレットを製造する。まず、高圧容器の内部にペレット状のブロック共重合体(原料ペレット)と、金属錯体とを収容し、そこへ加圧二酸化炭素を導入する。加圧二酸化炭素の導入後、高圧容器内部を一定時間、加圧状態に保持する。金属微粒子は加圧二酸化炭素に溶解し、金属微粒子が溶解した加圧二酸化炭素がブロック共重合体に接触して、金属微粒子は加圧二酸化炭素と共にブロック共重合体に浸透する。これにより、ブロック共重合体に金属微粒子が分散したマスターバッチペレットが得られる。一定時間経過後、高圧容器内部の加圧二酸化炭素を容器外に排気して、マスターバッチペレットを高圧容器から取り出す。尚、バッチ処理の諸条件にも依存するが、本参考形態において、金属容器内に収容された金属微粒子のうち、ブロック共重合体(原料ペレット)へ浸透する量は、仕込み量の20〜80%であり、全ての金属微粒子がブロック共重合体へ浸透するわけではない。しかし、ブロック共重合体へ浸透しない金属微粒子は、加圧二酸化炭素と共に高圧容器外に排気され、加圧二酸化炭素と分離することで回収が可能である。
マスターバッチペレットの製造に用いる加圧二酸化炭素としては、液体状態、ガス状態、又は超臨界状態の加圧二酸化炭素を用いることができる。これらの加圧二酸化炭素は、人体に無害であり、またブロック共重合体への拡散性に優れ、しかもブロック共重合体から容易に除去可能である。高圧容器へ導入する加圧二酸化炭素の圧力、温度は任意であるが、密度が高く安定であることから液体二酸化炭素又は超臨界二酸化炭素を用いることが好ましい。加圧二酸化炭素の温度は5℃〜50℃の範囲が好ましい。加圧二酸化炭素の温度は、低いほど高密度となり溶媒効果が高くなるので好ましいが、冷却制御が容易であるという観点から5℃以上が好ましい。また、加圧二酸化炭素の温度が高くなると密度が低くなり液送が不安定になる虞があるので、安定に液送するという観点から、50℃以下が好ましい。加圧二酸化炭素の圧力は、4〜25MPaの範囲が望ましい。圧力が低いと溶媒効果が発現しにくくなるので、適度な溶媒効果を得るという観点から、4MPa以上が好ましく、また、圧力が高いと高圧設備の維持にコストが係るので、コストを抑えるという観点から、25MPa以下が好ましい。尚、金属微粒子を溶解又は分散させた加圧二酸化炭素は、温度及び圧力が変動し易い。よって、上述の加圧二酸化炭素の状態、温度及び圧力は、高圧容器に導入する前の安定な状態の加圧二酸化炭素の状態、圧力及び温度の値である。
本参考形態において、加圧流体の導入後、高圧容器内部を加圧状態に保持する時間は、ブロック共重合体の種類、金属微粒子の種類等を考慮して任意に決定できるが、例えば、10分〜120分が好ましい。
マスターバッチペレット中の金属微粒子の含有量は任意であり、金属微粒子の種類、ブロック共重合体の種類、樹脂部品の使用用途等を考慮して適宜決定できるが、コストとメッキ反応性の観点から、例えば、10〜2000重量ppmが好ましいく、50〜500重量ppmがより好ましい。
以上説明したように、本参考形態では、加圧容器を用いたバッチ処理によりマスターバッチペレットを製造するが、マスターバッチペレットは、加圧二酸化炭素を用いる他の方法により製造されてもよい。加圧二酸化炭素を用いる他の方法としては、例えば、次のような方法がある。まず、押出成形機の可塑化シリンダ内でブロック共重合体を可塑化溶融し、その可塑化シリンダへ金属微粒子が溶解した加圧二酸化炭素(混合加圧流体)を導入し、可塑化シリンダ内でブロック共重合体と、混合加圧流体とを接触させる。そして、金属微粒子を混合したブロック共重合体を押出成形した後、粉砕し、金属微粒子の混合したブロック共重合体から形成されるマスターバッチペレットを得る。
<成形体の成形>
次に、製造したマスターバッチペレットとPA/POポリマーアロイから成形体を成形する。PA/POポリマーアロイは、第1の参考形態で用いたものと同様のものを用いることができる。
PA/POポリマーアロイ(ベース樹脂)とマスターバッチペレットの混合割合は、マスターバッチペレット中の金属微粒子の含有量を考慮して、適宜決定できる。例えば、マスターバッチペレットの割合が、マスターバッチペレットとPA/POポリマーアロイ(ベース樹脂)との総量に対して、即ち、成形体の全重量に対して、1〜30重量%となることが好ましく、1〜15重量%となることがより好ましい。マスターバッチペレットの割合が、1重量%以上であると、メッキ液の浸透性やメッキ反応性を十分に高められ、30重量%以下であれば、成形体の耐熱性や機械強度等の物性を大きく損なうことがない。
本参考形態の成形体の成形方法は、特に限定されない。例えば、PA/POポリマーアロイ及びマスターバッチペレットに、必要に応じてその他汎用の添加剤を加えた材料を汎用の射出成形、押出成形等により成形して、成形体を得てもよい。
得られた成形体中の金属微粒子は、粒子径が10nm以下のナノ粒子が好ましい。粒子径が10nm以下のナノ粒子は、表面積が大きく触媒活性が高いため、低濃度の触媒で安定にメッキ膜が形成でき、低コスト化が可能となる。また成形体中に金属微粒子は、1〜50重量ppm含まれることが好ましく、5〜20重量ppm含まれることが更に好ましい。成形体中の金属微粒子の含有量は、成形体の一部を有機溶媒に溶解し、ICP(誘導結合プラズマ、Inductively Coupled Plasma)発光分析法を用いてPt等の金属量を測定することで求められる。金属微粒子の含有量が少ない場合には、ICP−MS(誘導結合プラズマ質量分析計)を用いてPt等の金属量を測定できる。
<メッキ前処理及び無電解メッキ>
無電解メッキは、第1の参考形態と同様に行う。まず、成形体に、塩酸と塩化パラジウムとを含む無電解メッキ触媒液を接触させるメッキ前処理を行い(図1のステップS2)、次に、50℃〜80℃の酸性の無電解ニッケルリンメッキ液を接触させる(同、ステップS3)。更に、第1の参考形態と同様に、成形体の用途及び意匠性向上等の目的から、無電解メッキにより形成したメッキ膜上に、更に、電解銅メッキ、電解ニッケルメッキ及び電解三価クロムメッキ等のメッキ膜を積層してもよい。
本参考形態の成形体中に含まれるブロック共重合体は、成形体の成形過程、又は成形後において成形体表面に向って金属微粒子を伴って移動し、金属微粒子と共に成形体の表面近傍に偏析する傾向がある。本参考形態では、成形体の外側から無電解メッキ触媒である塩化パラジウムの付与を行うが、成形体の表面近傍に無電解メッキ触媒として機能する金属微粒子を含有することで、成形体のメッキ反応性が更に向上し、より密着強度が高く且つ外観特性に優れたメッキ膜を得られる。特に、成形体の形状が複雑な場合、外部から吸着する塩化パラジウムの量にムラができる虞もある。このような場合であっても、本参考形態では、成形体の表面近傍に金属微粒子が存在するために、メッキ反応にムラが生じずに均一はメッキ膜を形成できる。
尚、本参考形態で用いるマスターバッチペレットは、上述の実施形態の部分的にメッキ膜の形成されたメッキ部品の製造にも用いることができる。即ち、PA/POポリマーアロイ及びマスターバッチペレットを含む第1の熱可塑性樹脂を可塑化溶融して第1の溶融樹脂とし、第1の溶融樹脂により、図4に示すメッキ部品100の第1の部分101を形成する。マスターバッチペレットを含む第1部位101のメッキ反応性は更に高まり、より外観特性に優れた、高い密着強度を有するメッキ膜を得られる。
(2)メッキ部品
本参考形態で製造するメッキ部品の内部には、図2(a)に示す第1の参考形態のメッキ部品300と同様に、ポリアミド領域11と、ポリオレフィン領域12とが混在し、海−島構造(マトリックス−ドメイン構造)が形成されている。本参考形態では、無電解メッキを低温で行うことにより、ポリアミド領域11とポリオレフィン領域12との界面の空隙13の幅Wを例えば、1μm以下とすることができる。これにより、メッキ部品の品質の低下を抑制し、外観特性に優れ、且つ高い密着強度を有するメッキ膜を得られる。
以下、実施例、比較例及び参考例により本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例、比較例及び参考例により制限されない。
[参考例1]
本参考例では、まず、ナイロン、ポリオレフィン及び相溶化剤を含むPA/POポリマーアロイのペレットを製造し、PA/POポリマーアロイのペレットのみを用いて成形体を成形し、該成形体に無電解メッキ膜を形成した。
(1)成形体の成形
ポリアミドとして、非強化ナイロン6(宇部興産製、UBEナイロン 1013B)75重量部、ポリオレフィンとして、非強化ポリプロピレン(プライムポリマー製、プライムポリプロ J105G)20重量部、相溶化剤として、酸変性ポリプロピレン(三洋化成製、ユーメックス1001)5重量部を混合し、二軸混練押出機(井本製作所製)を用いて押出成形した後、粉砕してPA/POポリマーアロイのペレットを得た。得られたPA/POポリマーアロイのペレットを射出成形し、6cm×4cm×0.2mmの平板状の成形体を得た。
(2)メッキ前処理及び無電解メッキ
まず、メッキ前処理として、成形体を30℃の無電解メッキ触媒液に1分浸漬し、その後、70℃の純水に5分間浸漬させた。本参考例で用いた無電解メッキ触媒液は、2.7Nの塩酸中に塩化パラジウムが50重量ppm含まれた液であった。また、メッキ前処理後の成形体中のパラジウムの濃度をICP−MSにて測定したところ、パラジウム濃度は10重量ppm以下であった。
メッキ前処理後、70℃の酸性の無電解ニッケルリンメッキ液(奥野製薬製、トップニコロンHMB)に、成形体を12分間浸漬し、無電解ニッケルリンメッキ膜を形成して本参考例のメッキ部品を得た。
[参考例2]
本参考例では、参考例1で製造したPA/POポリマーアロイのペレットにブロック共重合体を混合して成形体を成形し、該成形体に無電解メッキ膜を形成した。
(1)成形体の成形
参考例1で製造したPA/POポリマーアロイのペレット95重量部と、親水性セグメントを含むブロック共重合体(三洋化成製、ペレスタット PL1251)5重量部とを混合して射出成形し、参考例1と同様の大きさの成形体を成形した。
(2)メッキ前処理及び無電解メッキ
参考例1と同様の方法により、メッキ前処理及び無電解メッキを行い、本参考例のメッキ部品を得た。尚、メッキ前処理後の成形体中のパラジウムの濃度をICP−MSにて測定したところ、パラジウム濃度は10重量ppm以下であった。
[参考例3]
本参考例では、まず、ブロック共重合体及び金属微粒子を含む樹脂ペレット(マスターバッチペレット)を製造し、製造した樹脂ペレットと参考例1で製造したPA/POポリマーアロイから成形体を成形し、該成形体に無電解メッキ膜を形成した。
(1)マスターバッチペレットの製造方法
本参考例では、高圧容器を用いたバッチ処理によりマスターバッチペレットを製造した。まず、40℃に温調した高圧容器の内部に、ペレット状のブロック共重合体(原料ペレット)として三洋化成工業製、ペレスタット(登録商標)PL1251と、金属錯体としてヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)錯体を収容した。ブロック共重合体(原料ペレット)に対する、金属錯体の割合は、2000重量ppmとした。ブロック共重合体(原料ペレット)に対する、金属錯体中のパラジウムの割合(濃度)は、約400重量ppmであった。
ブロック共重合体及び金属錯体が収容された高圧容器内へ加圧二酸化炭素として15MPaの圧力の液体二酸化炭素を導入し、導入後、高圧容器内部を1時間、加圧状態に保持した。その後、高圧容器内部の加圧二酸化炭素を容器外に排気して減圧し、樹脂ペレット(マスターバッチ)を高圧容器から取り出した。樹脂ペレットは、原料ペレットの白色から、金属錯体の色である黄色に変色していた。
マイクロ波溶解装置を用いて、得られた樹脂ペレットを濃塩酸中溶解し、樹脂ペレット中のパラジウム量をICP発光分析装置にて測定した。樹脂ペレット中のパラジウムの含有量は、190重量ppmであった。この結果から、高圧容器内へ導入した金属錯体に含まれるパラジウムのうち、50重量%弱のパラジウムが原料ペレットに浸透したことがわかった。次に、樹脂ペレットの断面をTEMを用いて観察した。TEMでは、樹脂ペレットの断面にパラジウムを検出できなかった。この結果から、樹脂ペレット中のパラジウムは、TEMの検出限界以下の原子レベル大きさで存在していると推定される。
(2)成形体の成形
参考例1で製造したPA/POポリマーアロイのペレット95重量部と、本参考例で製造したマスターバッチペレット5重量部とを混合して射出成形し、参考例1と同様の大きさの成形体を成形した。
(3)メッキ前処理及び無電解メッキ
参考例1と同様の方法により、メッキ前処理及び無電解メッキを行い、本参考例のメッキ部品を得た。尚、メッキ前処理後の成形体中のパラジウムの濃度をICP−MSにて測定したところ、パラジウム濃度は20重量ppm以下であった。
[参考例4]
本参考例では、市販のPA/POポリマーアロイのみを用いて成形体を成形し、該成形体に無電解メッキ膜を形成した。
(1)成形体の成形
ポリアミドとして、ナイロン6を、ポリオレフィンとして、反応性ポリオレフィンを含む市販のPA/POポリマーアロイ(東レ製、アミラン S133)を射出成形し、参考例1と同様の大きさの成形体を成形した。本参考例で用いた市販のPA/POポリマーアロイは、ポリアミド領域の海(マトリックス)の中に、ナノオーダーのドメインサイズを有する、微細化されたポリオレフィン領域の島(ドメイン)が形成された構造を有し、衝撃吸収特性が高い材料であることが知られている。
(2)メッキ前処理及び無電解メッキ
参考例1と同様の方法により、メッキ前処理及び無電解メッキを行い、本参考例のメッキ部品を得た。尚、メッキ前処理後の成形体中のパラジウムの濃度をICP−MSにて測定したところ、パラジウム濃度は10重量ppm以下であった。
[参考例5]
本参考例では、参考例4で用いたものとは別の市販のPA/POポリマーアロイのみを用いて成形体を成形し、該成形体に無電解メッキ膜を形成した。
(1)成形体の成形
ポリアミドとして、ナイロン6を、ポリオレフィンとして、ポリオレフィン系のエラストマーを含む市販のPA/POポリマーアロイ(東レ製、アミラン U141)を射出成形し、参考例1と同様の大きさの成形体を成形した。本参考例で用いた市販のPA/POポリマーアロイは、ポリアミド領域の海(マトリックス)の中に、ポリオレフィン領域の島(ドメイン)が形成された構造を有し、参考例4で用いた市販のPA/POポリマーアロイとは異なりドメインサイズはナノオーダーではないが、柔軟性を有する材料である。
(2)メッキ前処理及び無電解メッキ
参考例1と同様の方法により、メッキ前処理及び無電解メッキを行い、本参考例のメッキ部品を得た。尚、メッキ前処理後の成形体中のパラジウムの濃度をICP−MSにて測定したところ、パラジウム濃度は10重量ppm以下であった。
[実施例1]
本実施例では、図4に示す第1の部位101及び第2の部位102を有する成形体を成形し、該成形体の第1の部位101に無電解メッキ膜103を形成した。第1の部位101を形成する第1の熱可塑性樹脂としては、参考例1で製造したPA/POポリマーアロイを用い、第2の部位を形成する第2の熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレンを用いた。
(1)成形体の成形
日本製鋼所製の二色成形機、J180AD−2Mを用いて、先に説明した図6(a)〜(e)に示すコアバック法の二色成形方法により、第1の部位101及び第2の部位102を有する成形体を成形した。第1の部位101を形成する第1の熱可塑性樹脂としては、参考例1で製造したPA/POポリマーアロイを用いた。第2の部位を形成する第2の熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン(プライムポリマー製、プライムポリプロ J105G)80重量部と、タルクを80重量%含むポリプロピレン用マスターバッチ(出光ライオンコンポジット製、MP480-2)20重量部を混合して用いた。
(2)メッキ前処理及び無電解メッキ
参考例1と同様の方法により、メッキ前処理及び無電解メッキを行い、本実施例のメッキ部品を得た。尚、メッキ前処理後の成形体の第1の部位中のパラジウムの濃度をICP−MSにて測定したところ、パラジウム濃度は10重量ppm以下であった。
[比較例1]
本比較例では、アルカリ性の無電解ニッケルメッキ液を用いて無電解メッキを行った以外は参考例1と同様の方法により、メッキ部品を形成した。
まず、参考例1と同様の方法により成形体を成形し、メッキ前処理を行った。メッキ前処理を行った成形体を35℃のアルカリ性(pH=9.0)の無電解ニッケルメッキ液(奥野製薬製、製品名:化学ニッケル)に10分間浸漬させた。しかし、本比較例では、10分間浸漬後もメッキ反応が起こらず、表面にメッキ膜が形成されなかった。即ち、本比較例ではメッキ部品を得られなかった。
[比較例2]
本比較例では、参考例1とは異なる組成比のPA/POポリマーアロイのペレットを製造し、PA/POポリマーアロイのペレットのみを用いて成形体を成形し、該成形体に無電解メッキ膜を形成した。
(1)成形体の成形
PA/POポリマーアロイの材料として参考例1と同様の材料を用い、混合比を以下のように代えて参考例1と同様の方法によりPA/POポリマーアロイの樹脂ペレットを製造した。ポリアミド95重量部、ポリオレフィン4.5重量部、相溶化剤0.5重量部。得られたPA/POポリマーアロイのペレットを射出成形し、参考例1と同様の大きさの成形体を得た。
(2)メッキ前処理及び無電解メッキ
まず、メッキ前処理として、成形体を30℃の無電解メッキ触媒液に1分浸漬し、その後、95℃の純水に5分間浸漬させた。本比較例で用いた無電解メッキ触媒液は、5.0Nの塩酸中に塩化パラジウムが150重量ppm含まれた液であった。
メッキ前処理後、85℃の酸性の無電解ニッケルリンメッキ液(奥野製薬製、トップニコロンHMA)に、成形体を3分間浸漬し、無電解ニッケルリンメッキ膜を形成して本比較例のメッキ部品を得た。
[比較例3]
本比較例では、図4に示す第1の部位101及び第2の部位102を有する成形体を成形し、該成形体の第1の部位101に無電解メッキ膜103を形成した。第1の部位101を形成する第1の熱可塑性樹脂としては、参考例1とは異なる組成比のPA/POポリマーアロイを用い、第2の部位を形成する第2の熱可塑性樹脂としては、ナイロン6(PA6)を用いた。
(1)成形体の成形
まず、PA/POポリマーアロイの材料として参考例1と同様の材料を用い、混合比を以下のように代えて参考例1と同様の方法によりPA/POポリマーアロイのペレットを製造した。ポリアミド19重量部、ポリオレフィン70重量部、相溶化剤11重量部。得られたPA/POポリマーアロイのペレットを第1の部位を形成する第1の熱可塑性樹脂として用いた。第2の部位を形成する第2の熱可塑性樹脂としては、非強化PA6樹脂(東洋紡製 グラマイド T−802)を用いた。以上説明した第1及び第2の熱可塑性樹脂を用いて、実施例1と同様の方法により、第1の部位101及び第2の部位102を有する成形体を成形した。
(2)メッキ前処理及び無電解メッキ
まず、メッキ前処理として、成形体を30℃の無電解メッキ触媒液に1分浸漬し、その後、95℃の純水に5分間浸漬させた。本比較例で用いた無電解メッキ触媒液は、5.0Nの塩酸中に塩化パラジウムが0.5重量ppm含まれた液であった。
メッキ前処理後、90℃の酸性の無電解ニッケルリンメッキ液(奥野製薬製、トップニコロンHMA)に、成形体を20分間浸漬し、無電解ニッケルリンメッキ膜を形成して本比較例のメッキ部品を得た。
[メッキ部品の評価]
参考例1〜5、実施例1及び比較例1〜3で製造したメッキ部品について、以下の評価(1)〜(5)を行った。参考例1〜5、実施例1及び比較例1〜3で用いた成形体材料及び無電解メッキ液を表1に、評価(1)〜(3)及び(5)の結果を表2に示す。尚、表1において、実施例1及び比較例3に関しては、成形体材料として、成形体の第1の部位を構成する材料を記載した。
(1)メッキ膜の外観の評価
メッキ部品のメッキ膜の外観を目視にて観察し、以下の評価基準に従って評価した。
メッキ膜の外観の評価基準:
○:無電解メッキ膜の膨れ、ひび割れ及び膜抜けのいずれも発生しなかった。
×:無電解メッキ膜の膨れ、ひび割れ又は膜抜けのいずれかが発生した。
(2)メッキ膜の密着強度
無電解ニッケルリンメッキ膜上に、汎用の方法により電解銅メッキ膜を40μm形成して測定用試料を作製し、該測定用試料を用いてメッキ膜の密着強度を測定した。
(3)メッキ膜形成時間
無電解ニッケルリンメッキ液に成形体を浸漬させてから、無電解ニッケルリンメッキ膜が成形体全面を被覆するまでの時間を測定した。メッキ膜が成形体全面を被覆したかどうかは、目視により判断した。尚、実施例1及び比較例3においては、無電解ニッケルリンメッキ膜が第1の部位全面を被覆するまでの時間を測定した。
(4)メッキ部品の断面観察
メッキ膜が形成される面に対して約90°(略垂直)の断面が得られるように、ダイヤモンドナイフを用いて、成形体の表面近傍(成形体表面から100μmまでの深さの領域)を含む5mm×5mm×2mmの立法体の断面観察用試料を成形体から切り出した。断面観察用試料を凍結超薄切片法にて加工し、四酸化ルテニウムを用いた重金属染色法にて染色した後、TEM(日立ハイテク製、H−7650)にて断面観察を行った。
(5)空隙(隙間)の幅の評価
メッキ部品の断面観察において、成形体の表面近傍(成形体表面から100μmまでの深さの領域)における10μm×10μmの領域内において、任意の10ヵ所のポリアミド領域とポリオレフィン領域との間の空隙の幅を測定して平均値を求め、以下の評価基準に従って評価した。
空隙(隙間)の幅の評価基準:
○:空隙(隙間)の幅の平均値が0〜1μm
×:空隙(隙間)の幅の平均値が1μmを超える
表2に示すように、参考例1〜5及び実施例1で製造したメッキ部品には、無電解メッキ膜の膨れ、ひび割れ及び膜抜けのいずれも観察されず、メッキ膜の密着強度も10N/m以上と高かった。図7のTEM写真に示すように、参考例1〜5、実施例1で製造したメッキ部品の表面近傍には、ポリアミド領域の海(マトリックス)の中に、縞状(スジ状)のポリオレフィン領域の島(ドメイン)が形成された海−島構造(マトリックス−ドメイン構造)が確認された。図7のTEM写真において、高輝度(白色)領域がポリオレフィン領域であり、低輝度(灰色)領域がポリアミドである。空隙(隙間)の幅の平均値は1μm以下であり、空隙(隙間)の幅の評価結果は良好であった。また、成形体表面近傍において、無電解メッキ膜は、主にポリアミド領域に成長していた。
参考例1〜3のメッキ膜形成時間を比較すると、参考例3(7分)、参考例2(10分)、参考例1(12分)の順にメッキ膜形成時間が短かった。この理由は以下のように推測される。参考例2及び3は、ブロック共重合体を含有するため、参考例1より成形体の親水性が高くなりメッキ反応性が向上した。参考例3は、ブロック共重合体に加えて無電解メッキ触媒として機能する金属微粒子を含むため、更にメッキ反応性が向上した。これにより、参考例3、参考例2、参考例1の順に成形体のメッキ反応性が高くなり、メッキ膜形成時間が短くなったと推測される。
参考例4では、参考例1〜3と比較してメッキ膜の密着強度が高く、メッキ膜形成時間も参考例1より短く、参考例2と同程度であった。参考例4では、成形体の海−島構造(マトリックス−ドメイン構造)における島のサイズ(ドメインサイズ)がナノオーダーと非常に小さいため、ポリアミド領域とポリオレフィン領域との界面で生じる応力が小さくなり、メッキ膜の密着強度が向上したと推定される。また、無電解メッキ時にポリアミド領域が膨潤できる自由堆積が増えたためメッキ反応性が向上し、メッキ膜形成時間が短縮されたと推測される。参考例4で製造したメッキ部品は、金属の性能と樹脂の柔軟性、耐衝撃吸収性を合わせ持つので、落下時の耐衝撃性が必要な家電、ウェアラブル機器、自動車等、様々な分野に応用することが期待できる。
参考例5では、メッキ膜の密着強度及びメッキ膜形成時間が参考例1と同様であったが、参考例4と比較すると、メッキ膜の密着強度は低く、メッキ膜形成時間は長かった。これは、参考例4と比較して参考例5の島のサイズ(ドメインサイズ)が大きかったためと推測される。
一方、アルカリ性の無電解ニッケルメッキ液を用いて無電解メッキを行った比較例1では、無電解メッキ反応が生じなかった。比較例1ではメッキ部品が得られなかったため、メッキ部品の評価は行なっていない。比較例1で用いたアルカリ性の無電解ニッケルメッキ液は、無電解メッキの処理温度(無電解メッキ液の温度)及び還元剤の濃度が低いため、酸性の無電解ニッケルリンメッキ液と比較してメッキ析出性が低い。このため、メッキ前処理により成形体に付与した塩化パラジウムが触媒能を発揮できず、無電解メッキ反応が生じなかったと推測される。
PA/POポリマーアロイ中のポリアミドの比率が高い(95重量部)比較例2で製造したメッキ部品には、無電解メッキ膜の膨れ及びひび割れが観察された。参考例1と比較して、メッキ膜形成時間は短かったが、メッキ膜の密着強度が2N/mと低かった。メッキ部品の断面観察の結果、成形体の表面領域には、ポリアミド領域の海(マトリックス)の中に、縞状(スジ状)のポリオレフィン領域の島(ドメイン)が形成された海−島構造(マトリックス−ドメイン構造)が確認された。しかし、ポリオレフィン領域は、ドメインサイズが非常に大きく、成形体表面と略平行の方向に延びて層状となっていた。また、図8のTEM写真に示すように、ポリアミド領域とポリオレフィン領域の界面で大きな剥離14が生じている箇所も観察された。図8のTEM写真において、高輝度(白色)領域がポリオレフィン領域であり、低輝度(灰色)領域がポリアミドである。空隙(隙間)の幅の評価結果は不良であった。比較例2では、PA/POポリマーアロイにおけるポリアミドの比率が高く、更に相溶化剤の比率も低いために、ポリアミド領域とポリオレフィン領域とか相分離し易くなり、ポリオレフィン領域が肥大化したと推測される。また、比較例2では、無電解メッキ液の温度が高く(85℃)、更にメッキ前処理における水洗に用いた水の温度も高かったため(95℃)、ポリアミド領域とポリオレフィン領域との界面で生じる応力が大きくなったと推測される。更に、比較例2では、無電解メッキ触媒液中の塩酸の濃度が高かったため(5N)、メッキ前処理時にポリアミド領域が過度に浸食され脆弱化したと推測される。これらにより、ポリアミド領域とポリオレフィン領域の間に剥離が発生し易くなり、メッキ膜の膨れひび割れ、密着強度の低下等のメッキ膜の品質が低下したと推測される。
PA/POポリマーアロイ中のポリアミドの比率が低い(19重量部)比較例3で製造したメッキ部品では、成形体を20分以上無電解メッキ液に浸漬してもメッキ膜が第1の部位全面を覆うことが無く、膜抜けが生じた。このため、比較例3では、メッキ膜の密着強度は測定しなかった。この原因は、PA/POポリマーアロイにおけるポリアミドの比率が低く(19重量部)、更に、無電解メッキ触媒液中の塩化パラジウムの濃度が低いため(0.5重量ppm)、十分な量の塩化パラジウムが成形体の第1の部位に吸着できず、成形体のメッキ反応性が低かったためと推測される。また、メッキ部品の断面観察の結果、成形体の第1の部位の表面領域には、ポリアミド領域の海(マトリックス)の中に、縞状(スジ状)のポリオレフィン領域の島(ドメイン)が形成された海−島構造(マトリックス−ドメイン構造)が確認された。しかし、上述した参考例2と同様に、空隙(隙間)の幅の平均値は5μm以上であり、空隙(隙間)の幅の評価結果は不良であった。
更に、実施例1及び比較例3について、以下の評価(6)〜(8)を行った。評価(6)〜(8)の結果を表3に示す。
(6)第1及び第2の部位の吸水率
第1の部位101と同組成の第1の評価用成形体、第2の部位102と同組成の第2の評価用成形体を成形した。第1及び第2の評価用成形体の大きさは、8cm×8cm×0.2cmであった。次に、第1及び第2の評価用成形体を23℃の水中に24時間浸漬して、浸漬後の重量増加率を求め、これらをそれぞれ、23℃の水に24時間浸漬させたときの第1及び第2の部位の吸水率とした。
(7)温水試験
製造した成形体100を40℃の水に200時間浸漬させた。浸漬後の成形体100を目視で観察し、以下の評価基準に基づき評価した。
温水試験評価基準:
○:第1の部位101と第2の部位102の間で剥離なし。
×:第1の部位101と第2の部位102の間で剥離あり。
(8)熱衝撃試験(ヒートショック試験)
製造した成形体100を−40℃の雰囲気と80℃の雰囲気に交互に曝すヒートショック試験を50サイクル実施した。熱衝撃試験の後の成形体100を目視で観察し、以下の評価基準に基づき評価した。
熱衝撃試験評価基準:
○:メッキ膜103に、膨れ、割れ及び剥離等がいずれも生じていない。
×:メッキ膜103に、膨れ、割れ又は剥離等がいずれか生じている。
実施例1のメッキ部品は、第1の部位101のみにメッキ膜が形成され、第2の部位102にメッキ膜の析出は見られなかった。メッキ膜の有無のコントラストが明確であり意匠性に優れていた。上述したように、本発明者らの検討により、塩化パラジウムは、PA/POポリマーアロイ中のポリアミドに特異的に吸着し、アミド基を有さないポリオレフィンには吸着しないことがわかっている。
実施例1では、ポリアミドを含む第1の部位のみに無電解メッキ触媒である塩化パラジウムが吸着したため、第1の部位のみにメッキ膜が形成されたと推測される。温水試験及び熱衝撃試験の評価結果も良好であった。
一方、比較例3のメッキ部品は、第1の部位101のメッキ膜には膜抜けが生じ、且つ、第2の部位102にはメッキ膜が析出し、メッキ膜の有無のコントラストが不明確であり意匠性が劣っていた。第1の部位にメッキ膜には膜抜けが生じた原因は、上述のようにPA/POポリマーアロイ中のポリアミドの比率が低いためと推測される。ポリアミドの比率が低いため、第1の部位101の吸水率も低かった(0.4重量%)。また、第2の部位102にポリアミドを用いたため、メッキ前処理において塩化パラジウムが第2の部位102にも吸着し、メッキ膜が析出したと推測される。また、本比較例では、温水試験及び熱衝撃試験の評価結果が不良であった。本比較例では、第2の部位102の吸水率が2.6重量%と高いため、第1の部位101と第2の部位102の間に水が溜まり易く、そのため、温水試験において第1の部位101と第2の部位102の間で剥離が生じ、熱衝撃試験においてメッキ膜103に、膨れ等が発生したと推測される。